JP2001007381A - 光電変換膜とその作製方法 - Google Patents

光電変換膜とその作製方法

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JP2001007381A JP11178413A JP17841399A JP2001007381A JP 2001007381 A JP2001007381 A JP 2001007381A JP 11178413 A JP11178413 A JP 11178413A JP 17841399 A JP17841399 A JP 17841399A JP 2001007381 A JP2001007381 A JP 2001007381A
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 非晶質材料からなる利点と結晶材料からなる
利点とを併せ備えた特徴を有する光電変換膜を提供す
る。 【解決手段】 薄い絶縁膜付きのシリコンナノ結晶を集
積化したナノシリコン層(i層)を含み、例えばこの層
をp層(p型a−SiCz :O)と正孔阻止層(n型a
−SiCz :O)およびn層(n+ 型のc−Siまたは
n型のa−Si:H)とで挟む構成とする。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、光電変換膜とそ
の作製方法に関するもので、シリコン薄膜堆積技術、シ
リコン酸化膜作製技術、アニール技術、陽極酸化やエッ
チングなどの表面処理技術、リソグラフィなど、シリコ
ンデバイスプロセス技術を用いて作製し、撮像素子や太
陽電池などへ応用するものである。
【0002】
【従来の技術】撮像素子用光電変換膜には、1)量子効
率が良い、2)量子雑音が小さい、3)暗電流が小さい
(暗抵抗が高い)、4)高解像度、5)一様性が良好、
6)構造安定性が高いことなどが求められている。これ
まで、光電変換膜として撮像管には非晶質(amorphous)
セレン(a−Se)などが、CCDやMOSセンサには
結晶(crystal)シリコン(c−Si)や水素化非晶質シ
リコン(a−Si:H)によるフォトダイオードが用い
られている。
【0003】まず、結晶材料と非晶質材料について特徴
を比較すれば、それらは相補的で、前者で量子効率が高
く構造的にも安定であるが、暗電流も大きく、また通常
の光電変換膜構造では均一性のよい単結晶を作製するこ
とは困難である。すなわち、多結晶化による結晶粒界の
発生や格子欠陥の導入のために良好な一様性を確保する
ことが難しい。また、解像度も現状のリソグラフィによ
る加工技術の精度で決まってしまう。
【0004】これに対して後者では、高解像度特性、低
暗電流、一様性良好などの長所があるが、一般的には量
子効率が小さく、構造が熱的に不安定であるなどの短所
がある。但し、撮像管ではa−Se光電変換膜に高電界
を印加して光生成した信号電荷を増倍させることにより
1を超える量子効率を達成しているので、熱的不安定性
の点が主に問題となっている。すなわち、a−Seでは
50−70℃に達すると結晶化が起こり、暗電流が増大
して光電変換特性が著しく劣化する。このため、結晶化
抑制の目的でa−Seに砒素(As)などの不純物を添
加することが行なわれているが、これら不純物は逆に信
号電荷の移動度や寿命特性の劣化を招くので、多量に添
加することはできない。
【0005】一方、a−Si:Hでは、特性の著しく劣
化を招く原因は含有する水素の離脱であるが、これは3
00℃以上の温度でしか起こらない。また、結晶化温度
も600℃程度であるのでa−Seに比べれば熱的には
はるかに安定である。また、a−Si:Hではシリコン
のデバイスプロセスとの整合性が良いなどのメリットも
ある。しかし、a−Seのような光生成信号電荷の顕著
な増倍現象は未だはっきりとは確認されていない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】a−Seとc−Siお
よびa−Si:Hの材料特性を表1に比較して示す。電
子のイオン化率はa−Seの2×10cm-1に対してc−
Siは2×105 cm -1、正孔についてはa−Seの2×
103 cm-1に対してc−Siは1.5×10 5 cm-1であ
る。また、電子の移動度はa−Seでは5×10-3cm2
/Vsであるのに対して、c−Siでは約1.5×10
3 cm2 /Vsと極めて高い。一方、a−Si:Hの電子
移動度は約1cm2 /Vs、正孔移動度は約10-2cm2
Vsであるので、a−Si:Hのイオン化率をc−Si
のキャリア移動度とa−Si:Hのそれとの比較から推
定すると、電子のイオン化率は100以下、正孔のイオ
ン化率は3以下となる。以上から、電荷増倍に必要なキ
ャリアの動特性はc−Siが最も優れていることがわか
る。
【0007】
【表1】
【0008】光学バンドギャップはa−Seの約2.0
eVに対して、c−Siは1.12ev、a−Si:H
は約1.7eVである。撮像素子用光電変換膜では電極
からのキャリアの流入を防ぐ必要があるため阻止型構造
をとる。一方、電荷増倍には高電界を印加する必要があ
るが、この場合、阻止型構造あるいはpin接合の絶縁
破壊のほかに材料内部での絶縁破壊も抑制する必要があ
る。そのため光学バンドギャップの大きいa−Seは高
電界印加という観点では有利であると言える。
【0009】a−Si:Hでは顕著な増倍が確認されて
いないのは、c−Siと比べ移動度が小さく、且つ膜中
に多量の欠陥が含まれていることによると考えられる。
通常、a−Seではダングリングボンドは観測されない
が、a−Si:Hでは4配位3次元構造のひずみを緩和
するために1015〜1016cm-3も導入されるだけでな
く、構造の乱れに起因したバンドテイル準位も多い。こ
れらがキャリアの寿命や移動度を低下させていると考え
られる。a−Seに結晶化抑制用の不純物を添加すると
増倍特性が劣化するのはこうした欠陥が導入されること
によると考えられている。
【0010】a−Si:Hではっきりした信号電荷の増
倍は確認されていないが、c−Siでは電荷増倍が起こ
り、アバランシェフォトダイオードとして実用化されて
いる。このアバランシェ増倍に必要な電界は105 V/
cm程度でa−Seのそれよりも1桁程度小さい。この値
は、a−Seとのバンドギャップの違い(約0.9e
V)を考慮しても十分良好なものである。このことは、
前述のc−Siにおけるキャリアの良好な動特性を裏付
けているものと考えられる。
【0011】
【課題を解決するための手段】以上の考察から、ここに
提案する本発明の光電変換膜は、図1に示すように表面
をキャリアのトンネル伝導が可能な厚さの絶縁膜2で覆
われた直径数ナノメートルのシリコン結晶粒1を基本構
造とするものである。
【0012】すなわち本発明に係る光電変換膜は、光電
変換膜において、当該変換膜が、表面をキャリアのトン
ネル伝導が可能な厚さの絶縁膜で覆われた、直径数ナノ
メートルのシリコン結晶粒であるシリコンナノ結晶を集
積化したナノシリコン層を含むことを特徴とする。
【0013】ここで前記絶縁膜は酸化シリコン(SiO
x :0<x≦2)膜または窒化シリコン(SiNy :0
<y≦4/3)膜であってもよく、またこの絶縁膜の代
わりに水素化非晶質シリコン(a−Si:H)膜が使用
されてもよい。
【0014】また、本発明光電変換膜は好適には、電気
的に活性な不純物を含まない前記ナノシリコン層を光吸
収および信号電荷の走行・増倍層(i層)とし、この層
をp層と正孔阻止層およびn層とで挟む構成としたこと
を特徴とする。
【0015】ここで前記p層として、p型不純物を添加
した非晶質シリコンカーバイト(a−SiCz :O,0
<z≦1)、または前記直径数ナノメートルのシリコン
結晶粒にp型不純物を添加してp型とした前記ナノシリ
コン層を用いてもよく、前記n層としてn型不純物を添
加した非晶質シリコンカーバイトまたはシリコン結晶、
または前記直径数ナノメートルのシリコン結晶粒にn型
不純物を添加してn型とした前記ナノシリコン層を用い
てもよい。
【0016】さらに前記正孔阻止層としてn型不純物を
添加した非晶質シリコンカーバイト(a−SiCz
O)、シリコンオキシナイトライド(SiOx y :0
<x≦2,0<y≦4/3,0<(1/2)x+(3/
4)y<1)またはSiO2 を用いてもよい(この時、
n型不純物の添加されるのはa−SiCz :Oのみであ
ることに注意されたい)。またさらに、本発明光電変換
膜は好適には、前記シリコン結晶粒の大きさを信号電荷
の走行方向に変化させてバンドギャップを調節し、光生
成した信号電荷がシリコン結晶粒間を伝導する際に付加
的なポテンシャルエネルギを獲得して増倍され易くする
よう構成したことを特徴とする。
【0017】また、好適には、前記シリコン結晶粒の大
きさを信号電荷の走行方向に変化させてバンドギャップ
を調節し、膜厚方向に光吸収の中心波長の異なる領域を
複合するよう構成したことを特徴とする。
【0018】さらにまた好適には、前記シリコン結晶粒
のサイズを基板上で空間的に変化させてバンドギャップ
を調節し、基板面内で光吸収の中心波長の異なる領域を
複合するよう構成したことを特徴とする。
【0019】また、本発明光電変換膜作製方法は、前記
光電変換膜を作製するにあたり、まず、低圧化学気相成
長法によりシリコン膜を短時間堆積させ直径数ナノメー
トルの結晶粒を自己組織的に形成させた後表面を酸化
し、その後この堆積、酸化を繰り返すことを特徴とす
る。
【0020】また、本発明光電変換膜製作方法は、前記
光電変換膜を作製するにあたり、まず、化学気相法また
は真空蒸着法により堆積させた非晶質シリコンを電気炉
アニールまたはレーザ照射で結晶化させ、その後、エッ
チングにより多孔質化させて直径数ナノメートルの結晶
粒とすることを特徴とする。
【0021】さらにまた、本発明光電変換膜作製方法
は、前記光電変換膜を作製するにあたり、まず、化学気
相法または真空蒸着法により堆積させた非晶質シリコン
を電気炉アニールまたはレーザ照射で結晶化させ、その
後、陽極酸化法により多孔質化させて直径数ナノメート
ルの結晶粒とすることを特徴とする。
【0022】さらに、本発明光電変換膜作製方法は、前
記光電変換膜を作製するにあたり、まず、化学気相法ま
たは真空蒸着法により堆積させた非晶質シリコンを電気
炉アニールまたはレーザ照射で結晶化させ、その後、陽
極酸化法により多孔質化させて直径数ナノメートルの結
晶粒とすることを特徴とする。
【0023】
【発明の実施の形態】以下添加図面を参照し、本発明の
実施の形態を詳細に説明する。まず、図2のバンド構造
図に基づいて、本発明の光電変換膜の高感度特性を説明
する。直径数ナノメートルのシリコン結晶粒(以下では
この結晶粒をナノ結晶1、絶縁膜2付きのナノ結晶を集
積化した層をナノシリコン層と略記する)のバンドギャ
ップは表面を覆う酸化シリコン(SiOx :0<x≦
2)などの絶縁膜のそれより小さく、絶縁膜の厚さはキ
ャリアのトンネル伝導が可能となるように十分薄いもの
とする。
【0024】ナノ結晶内で吸収されたフォトン3は同結
晶内で電子・正孔4,5を形成する。光励起された電子
4は図2に示すようにナノシリコン層に印加された電界
により走行する。この時、電子はこのナノ結晶内を弾道
的に走行することが、多孔質シリコンでの実験でわかっ
ている。ナノ結晶内を弾道的に走行した電子は絶縁層内
をトンネル6し、隣接のナノ結晶に突入する。走行電子
のエネルギがバンドギャップエネルギよりも十分大きく
なった場合にはナノ結晶内で衝撃イオン化7が起こる。
前述のようにa−Seと比べるとc−Siのイオン化率
は大きいので、この衝撃イオン化は比較的容易に起こる
ことが予想される。
【0025】ちなみに、c−Siでは3.6eV(光学
バンドギャップの約3倍)以上のエネルギで電子の衝撃
イオン化が起こることが報告されている。衝撃イオン化
のためのエネルギを増強するためにナノ結晶のバンドギ
ャップを前段のナノ結晶のバンドギャップより小さくし
ておくことはさらに有効である。この衝撃イオン化をナ
ノ結晶内で次々と繰り返せば、a−Seに見られるよう
な信号電荷増倍となり撮像素子の高感度化が期待でき
る。なお、電子の衝撃イオン化で発生した正孔について
も、電界により電子と反対方向に移動しナノ結晶内で衝
撃イオン化を起こすことが考えられる(複雑になるので
この過程は図には示していない)。
【0026】ナノ結晶のサイズを考えると、ナノシリコ
ン層は撮像素子の画素サイズ(例えばCCDの画素サイ
ズは3−5μm 角)内では一様な膜とみなすことができ
る。したがって、結晶で作製されるフォトダイオードな
どで問題になるような結晶粒界や結晶欠陥による不均一
性はない。また、結晶基板上に結晶をエピタキシャル成
長するのとは異なり、基板との格子定数の相違に基づく
歪みや欠陥導入の心配がない。すなわち、配線などによ
り下地基板に凹凸があっても、一様な膜が堆積できる。
【0027】ナノ結晶はそのサイズによって光学的バン
ドギャップを可変できるという特徴をもつ。表2はナノ
結晶サイズとバンドギャップ(1) 、価電子帯・伝導帯端
のエネルギシフト量(対c−Si)(2),(3) との関係を
示している。電荷増倍のためには膜に高電界を印加する
必要があるが、バンドギャップが小さいと欠陥などを介
して材料内部で絶縁破壊しやすく、高電界が印加できな
い場合がある。これに対して上述のようにバンドギャッ
プをa−Si:Hなどより大きく設計できることは電荷
増倍に有利である。また、比誘電率の違いからナノ結晶
に加わる電界は絶縁膜(SiO2 )の約1/3であるの
で、さらに絶縁破壊の心配は少なくなる。
【0028】
【表2】
【0029】光導電膜の暗導電率は低いことが望ましい
が、a−Si:Hとc−Siの暗導電率はそれぞれ約1
-10 S/cmと約5×10-6S/cmで、a−Seの約1
-1 5 S/cmに比べればかなり高い。これに対してバン
ドギャップの広いナノ結晶では熱励起電子の数は非常に
少ないうえに薄い絶縁膜で囲まれているので暗電流は低
く押さえることができる。また、ナノ結晶のサイズを調
整することで、光導電膜の分光感度特性を制御できる。
したがって、膜厚方向や基板面内で結晶サイズを変化さ
せれば、空間的に吸収波長領域の異なる光電変換膜を作
製することができる。
【0030】前述したように、a−Se光導電膜では熱
的安定性が問題となっているが、本発明の光電変換膜は
結晶粒から成るので非晶質材料と比べて熱的に安定であ
る。また、ナノシリコン層にはa−Si:Hに含まれる
ような水素結合は無いので、温度が上昇しても水素の離
脱による欠陥の増加は起こらない。さらに、ナノ結晶は
化学的に安定且つ無欠陥のSiO2 等で覆われているた
め、湿度などに対する耐環境性能において優れている。
【0031】次に本発明のナノシリコン層の作製方法に
ついて説明する。これまで、ナノシリコン層の作製につ
いては、いくつかの方法が提案されている。最も一般的
な方法としては、陽極酸化または化学エッチングを利用
した方法がある。この方法では、CVD法や電子ビーム
蒸着法などにより低温でa−Siを堆積する。その後、
この膜を低温でアニールして結晶化を行う。このように
して作製したシリコン多結晶膜は、陽極酸化あるいは適
当な腐食液を用いてエッチングを行なうことにより多孔
質化する。このようにして得られる多孔質シリコンは、
図1で示したナノシリコン層と類似の構造をとることが
わかっている。この方法では厚いナノシリコン層を作製
することは容易だが、均一なナノ結晶を得ることができ
ず、また、精密な構造制御も難しい。
【0032】上記問題を解決するのが、低圧化学気相法
(LPCVD : Low Pressure ChemicalVapor Deposition)
を利用した方法である。この方法では、シリコン膜堆積
の初期に原料の供給を止めることで自己組織的にナノ結
晶を形成する。この後、非常に低速度で表面を酸化させ
る。さらに、ナノ結晶堆積、表面酸化を繰り返すことで
ナノシリコン層を形成する。本方法のメリットは、堆積
・酸化条件を調整することで、ナノ結晶サイズ・密度お
よび酸化膜厚の制御を比較的容易に行なうことができる
ことである。さらに、他の方法と比べてナノ結晶の均一
性も高い。但し、LPCVD 法では、堆積温度が560 〜600
℃と高温であるため、低融点ガラス基板上への堆積には
多少の困難を伴う。
【0033】なお、低温でナノシリコン層を作製する方
法としては、a−Siを堆積後、シンクロトロン放射光
などからの強力なX線を照射してナノ結晶を非熱的に形
成する方法がある。これにより、ナノシリコン層作製の
低温化、選択的作製ができる。
【0034】図3(a)にナノシリコン層を用いた光電
変換膜の具体的構造例を示す。まず、高濃度ドープn型
c−Si基板(n+ 層)上に、正孔阻止層としてn型不
純物を添加したワイドバンドギャップのシリコンカーバ
イト(a−SiCz :O)、またはシリコンオキシナト
ライド(SiOX Y )またはSiO2 を作製する。次
に、光吸収・信号電荷増倍層として無添加のナノシリコ
ン層を作製する。さらにその上に、電子阻止層としてp
型不純物を添加したワイドギャップa−SiC z :O
(組成比zはバンドギャップが2.5eV程度になるよ
うに調節)を堆積する。最後に透明電極としてITO
(酸化インジウム・錫)膜を堆積する。
【0035】またガラス基板上に光電変換膜を作製する
場合は、図3(b)のごとくまず、熱的に安定な石英ガ
ラス基板上に高融点金属で半透明電極を作製し、その上
に電子阻止層としてp型の不純物を添加したa−SiC
z :Oを堆積する。次に、i層として無添加のナノシリ
コン層を作製する。さらに、正孔阻止層としてn型不純
物を添加したワイドギャップa−SiCz :OまたはS
iOx Y またはSiO2 を作製する。さらに、n層と
してn型a−Si:Hを作製する。最後に、Al電極を
設ける。
【0036】上記構造では、熱的に安定な基板を使用し
ているのでLP−CVD法によりナノシリコン層を作製
することができる。ナノシリコン層の作製は次の手順で
行う。まず、n型c−Si基板あるいはp型a−SiC
z :Oを表面酸化後、LP−CVD法により自己組織的
にSiナノ結晶を形成する。ナノ結晶粒のサイズは堆積
基板温度、堆積時間、原料ガスの圧力で制御する。次
に、ナノ結晶表面を酸素雰囲気中で酸化しSiO2 を作
製する。SiO2 の膜厚は酸化温度と時間により制御す
る。さらに、その上に2層目のナノ結晶を堆積し表面酸
化する。このプロセスを繰り返すことで、光吸収・電気
増倍層として必要な厚さのナノシリコン層を作製する。
【0037】熱的に不安定な基板上にナノシリコン層を
作製する場合には、まず、CVD法や電子ビーム蒸着法
によりa−Siを堆積する。その後、堆積膜を電気炉に
よる低温アニールやレーザー照射などにより固相成長を
おこない結晶化する。この結晶膜を陽極酸化、あるいは
適当な腐食液を用いてエッチングしてナノシリコン層と
する。
【0038】図4に光導電膜のエネルギバンド構造例
((a)はバイアスなし、(b)はバイアスあり)を示
す。p層は電極からの電子を、n層は正孔をブロッキン
グする働きを持つ。この構造では、p層およびn層とし
て、それぞれの不純物を添加したナノシリコン層を用い
ても良い。また、c−Si基板で光吸収が起こると正孔
が発生し、これがナノシリコン層内で増倍されるため、
分光感度がナノシリコン層で決まらないという問題が生
じる。そこで、本構造では、この光励起正孔をブロッキ
ングする目的でワイドギャップのa−SiCz :O(n
型)をc−Si基板とナノシリコン層との間に挿入して
いる。また、可視光領域で感度を持つためには、ナノ結
晶の光学的バンドギャップはアモルファスシリコンと同
じ1.7eV程度、その結晶サイズは10nm以下が望ま
しい。
【0039】次に、ナノ結晶中の増倍率を考える。c−
Siとナノ結晶の衝撃イオン化率は同じと仮定(実際に
はナノ結晶のバンドギャップはc−Siのそれよりも大
きいので衝撃イオン化率は若干小さくなる)すると、ナ
ノ結晶での電子の衝撃イオン化率(αn )と電界(E)
との関係は、 αn =3.8 ×106 exp(−1.75×106 /E) で与えられる。また、イオン化衝突距離(Lion )は衝
撃イオン化率の逆数で与えられる。 Lion =1/αn ナノ結晶1個で1回以上の電荷増倍を起こすためには、
ion がナノ結晶のサイズ(dsi)以下になれば良い。
【0040】例えば、10nmのナノ結晶の場合では、
1.3×106 V/cm以上の電界でナノ結晶中において
1回以上の増倍が起こる。SiO2 の比誘電率はc−S
iの約1/3なので、この場合、SiO2 には約3倍の
電界が加わることになるが、その値は十分に絶縁破壊電
界以下である。また、ナノシリコン層の積層数をno
とすると、イオン化衝突回数(Nion )は、 Nion =no ×dsi/Lion となる。したがって、ナノシリコン層の積層数あるいは
電界を増やせば、増倍率は向上する。実際には、ナノ結
晶間の酸化膜で電子はトンネル効果で減衰するので、N
ion はもう少し小さな値となる。
【0041】図3の構造では、ナノシリコン層で光電変
換および電荷増倍を行っているが、a−Si:H層とナ
ノシリコン層の積層構造(図5)も考えられる。この場
合、光電変換は可視光領域において高い光電変換効率を
持つa−Si:H層で行い、電荷増倍は高い衝撃イオン
化率が期待できるナノシリコン層で行う。この構造で
は、ナノシリコン層の積層数を減らすことができるため
作製しやすい。
【0042】図4ではナノ結晶サイズを一定にしたが、
結晶サイズを可変させることで、段階的に傾斜したエネ
ルギバンド構造をもつ信号電荷増倍層(図6)を作製す
ることができる。この構造では、光入射側よりナノ結晶
のサイズを順次小さくして(約10nm→6nm→3nm→1
nm)バンドギャップを傾斜的に大きくした後、再びナノ
結晶を大きくしてバンドギャップを小さくすることによ
り、隣接するナノ結晶間の伝導帯端エネルギに大きなオ
フセットを形成する。走行してきた電子は、バンドギャ
ップが急に小さくなる個所で伝導帯オフセットに相当す
る付加的なエネルギを獲得することができる。この付加
的なエネルギのためにオフセット部での衝撃イオン化確
率が向上する。また、増倍個所がある程度決まることか
ら面内での増倍回数のばらつきが減り、増倍に起因する
ノイズを減少させることができる。
【0043】図7は膜厚方向で吸収波長の異なる領域を
有する光電変換膜の構造例(a)とエネルギバンド構造
例(b)を示している。光入射側から深部に向かって順
にバンドギャップを小さくする。例えば、p層の下に青
色に感度を持つバンドギャップのナノシリコン層を作製
しておく。その下に緑色に感度をもつバンドギャップの
ナノシリコン層を、さらにその下に赤色に感度を持つバ
ンドギャップのナノシリコン層を堆積しておく。この構
造では、光の青色成分は最初のナノシリコン層で吸収さ
れるが、緑色成分は最初のナノシリコン層を透過して第
2のナノシリコン層で吸収され、赤色成分は第1、第2
の層を透過して第3の層で吸収される。この構造では、
可視光領域全域において良好な光電変換特性を得ること
ができる他、それぞれの層の信号を個別に取り出すこと
ができれば、1素子でカラーフィルタを使わずに赤、
緑、青の三原色の撮像が可能になる。
【0044】一般的に、バンドギャツプ(格子定数)の
ことなる半導体結晶を基板にエピタキシャル成長させた
り、あるいは空間的に隣接して作製するのは、格子定数
差に基づく歪みにより困難である。しかし、ナノシリコ
ン層の堆積はエピタキシャル成長ではないので格子整合
の制限が無く、さらにはほぼ完全なナノ結晶ができるメ
リットがある。
【0045】図8は基板面内で吸収波長の異なる領域を
有する光電変換膜の構造例を示している。本構造の作製
は、例えば次のような方法で行う。LP−CVDでナノ
結晶を作製する場合、下地酸化膜の表面終端状態を変え
ることでナノ結晶のサイズ・密度を変化させることがで
きることが知られている。そこでまず、図9のようにナ
ノ結晶作製前にAFM(tomic orce icroscope
)カンチレバー8などの極めて微小な針を基板表面に
近づけて電圧を加える。すると電圧を加えた部分の表面
終端状態を変化させるため、結晶核を形成するサイトが
増加する。結晶核形成サイトの増加の割合は印加電圧や
カンチレバーの走査速度によって制御できる。次に、こ
の上にLP−CVDでナノ結晶を作製すると、核形成サ
イトが増加した表面ではナノ結晶の密度が増加するのと
同時に結晶サイズは減少する。したがって、画素内の表
面処理条件を制御しながらナノ結晶を積層すれば、面内
で結晶サイズの異なるナノシリコン層を作製できる。
【0046】また、図8の構造はフォトリソグラフィ技
術を用いて空間的に選択的な陽極酸化などナノシリコン
層とするための処理を施して作製してもよい。以上いく
つかの実施例により本願発明を詳細に説明してきたが、
本願発明はこれらに限定されることなく、特許請求の範
囲に規定された発明の要旨内で各種の変形、変更の可能
なこと自明であろう。
【0047】
【発明の効果】以上述べてきたように、本発明ナノリシ
コン層を含む光電変換膜は、非晶質材料からなる光電変
換膜と同等の高解像度特性、一様性、また下地基板に対
する堆積の容易性を有しながら、結晶材料と同等の熱的
安定性、キャリア動特性、アバランシェ増倍の可能性を
併せ持ち、さらに、吸収波長を膜厚方向にも基板面内方
向にも調節できる利点がある。またさらに、バンドギャ
ップを大きく変えるために、シリコンナノ結晶に類似し
たゲルマニウムやシリコンゲルマニウムやSiCなどそ
の他の半導体のナノ結晶を用いることも可能である。
【0048】(参考文献) (1)K. Shiba, et al., Jpn J. Appl. Phys., Vol. 3
6 (1977), pp. L1279 −L1282 (2)S. A. Ding他、, 第45回応用物理学関係連合講
演会予稿集,No. 2,pp. 801 29p −H−13 (3)S. A. Ding, et al., Appl. Phys. Lett., Vol.
73 (1998), pp. 3881 −3883
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明光電変換膜の基本構造をなす、絶縁膜
付きシリコンナノ結晶を集積化したナノシリコン層の構
造例を示す図。
【図2】 ナノシリコン層のエネルギバンド構造と電荷
増倍の原理を説明するための図。
【図3】 ナノシリコン層を含む光電変換膜の構造例を
示し、(a)はc−Si基板、(b)はガラス基板の例
を示す図。
【図4】 ナノシリコン層を含む光電変換膜のエネルギ
バンド構造例を示し、(a)はバイアスなし、(b)は
バイアスありの時の例を示す図(c−Si基板上)。
【図5】 a−Si:H/ナノシリコン層を含む光電変
換膜の構造例を示す図。
【図6】 膜厚方向に傾斜したエネルギバンド構造を有
するナノシリコン層の例を示す図。
【図7】 膜厚方向で吸収波長の異なる領域を有する光
電変換膜の構造例(a)とその時のナノシリコン層のエ
ネルギバンド構造例(b)を示す図。
【図8】 面内で吸収波長の異なる領域を有する光電変
換膜の構造例を示す図。
【図9】 ナノ結晶の大きさ、密度制御の方法例を説明
するための図。
【符号の説明】
1 ナノ結晶 2 薄い絶縁膜 3 光 4 光励起電子 5 光励起正孔 6 電子のトンネル走行 7 衝撃イオン化 8 AFMカンチレバー c−Si 結晶シリコン Al アルミニウム a−SiCz :O 非晶質シリコンカーバイト a−Si:H 水素化非晶質シリコン ITO 酸化インジウム・錫
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 斎藤 信雄 東京都世田谷区砧1丁目10番11号 日本放 送協会 放送技術研究所内 (72)発明者 廣瀬 全孝 広島県広島市中区白島九軒町24−3−504 (72)発明者 宮▲崎▼誠一 広島県広島市中区住吉町15−3−902 Fターム(参考) 4M118 AA01 AA05 AB01 BA05 BA10 BA14 CA05 CA15 CB05 CB06 CB14 EA01 5F049 MA02 MA07 MB05 NB05 PA04 PA05 PA14 QA01 QA07 QA11 SS03 WA03 WA09

Claims (19)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 光電変換膜において、当該変換膜が、表
    面をキャリアのトンネル伝導が可能な厚さの絶縁膜で覆
    われた、直径数ナノメートルのシリコン結晶粒であるシ
    リコンナノ結晶を集積化したナノシリコン層を含むこと
    を特徴とする光電変換膜。
  2. 【請求項2】 請求項1記載の変換膜において、前記絶
    縁膜として酸化シリコン(SiOx :0<x≦2)膜を
    用いたことを特徴とする光電変換膜。
  3. 【請求項3】 請求項1記載の変換膜において、前記絶
    縁膜として窒化シリコン(SiNy :0<y≦4/3)
    膜を用いたことを特徴とする光電変換膜。
  4. 【請求項4】 請求項1記載の変換膜において、前記絶
    縁膜の代わりに水素化非晶質シリコン(a−Si:H)
    膜を用いたことを特徴とする光電変換膜。
  5. 【請求項5】 電気的に活性な不純物を含まない請求項
    1から4いずれか記載のナノシリコン層を光吸収および
    信号電荷の走行・増倍層(i層)とし、この層をp層と
    正孔阻止層およびn層とで挟む構成としたことを特徴と
    する光電変換膜。
  6. 【請求項6】 請求項5記載の変換膜において、前記p
    層としてp型不純物を添加した非晶質シリコンカーバイ
    ト(a−SiCz :O,0<z≦1)を用いたことを特
    徴とする光電変換膜。
  7. 【請求項7】 請求項5記載の変換膜において、前記n
    層としてn型不純物を添加した非晶質シリコンカーバイ
    ト(a−SiCz :O,0<z≦1)またはシリコン結
    晶を用いたことを特徴とする光電変換膜。
  8. 【請求項8】 請求項5記載の変換膜において、前記p
    層として前記シリコン結晶粒にp型不純物を添加してp
    型とした請求項1から4いずれか記載のナノシリコン層
    を用いたことを特徴とする光電変換膜。
  9. 【請求項9】 請求項5記載の変換膜において、前記n
    層として前記シリコン結晶粒にn型不純物を添加してn
    型とした請求項1から4いずれか記載のナノシリコン層
    を用いたことを特徴とする光電変換膜。
  10. 【請求項10】 請求項5記載の変換膜において、前記
    正孔阻止層としてn型不純物を添加した非晶質シリコン
    カーバイト(a−SiCz :O,0<z≦1)、または
    シリコンオキシナイトライド(SiOx y :0<x≦
    2,0<y≦4/3,0<(1/2)x+(3/4)y
    <1)またはSiO2 を用いたことを特徴とする光電変
    換膜。
  11. 【請求項11】 請求項1から10いずれか記載の変換
    膜において、前記シリコン結晶粒の大きさを信号電荷の
    走行方向に変化させてバンドギャップを調節し、光生成
    した信号電荷がシリコン結晶粒間を伝導する際に付加的
    なポテンシャルエネルギを獲得して増倍され易くするよ
    う構成したことを特徴とする光電変換膜。
  12. 【請求項12】 請求項1から11いずれか記載の変換
    膜において、前記シリコン結晶粒の大きさを信号電荷の
    走行方向に変化させてバンドギャップを調節し、膜厚方
    向に光吸収の中心波長の異なる領域を複合するよう構成
    したことを特徴とする光電変換膜。
  13. 【請求項13】 請求項1から12いずれか記載の変換
    膜において、前記シリコン結晶粒のサイズを基板上で空
    間的に変化させてバンドギャップを調節し、基板面内で
    光吸収の中心波長の異なる領域を複合するよう構成した
    ことを特徴とする光電変換膜。
  14. 【請求項14】 請求項1から13いずれか記載の光電
    変換膜を作製するにあたり、まず、低圧化学気相成長法
    によりシリコン膜を短時間堆積させ直径数ナノメートル
    の結晶粒を自己組織的に形成させた後表面を酸化し、そ
    の後この堆積、酸化を繰り返すことを特徴とする光電変
    換膜作製方法。
  15. 【請求項15】 請求項1から13いずれか記載の光電
    変換膜を作製するにあたり、まず、化学気相法または真
    空蒸着法により堆積させた非晶質シリコンを電気炉アニ
    ールまたはレーザ照射で結晶化させ、その後、エッチン
    グにより多孔質化させて直径数ナノメートルの結晶粒と
    することを特徴とする光電変換膜作製方法。
  16. 【請求項16】 請求項1から13いずれか記載の光電
    変換膜を作製するにあたり、まず、化学気相法または真
    空蒸着法により堆積させた非晶質シリコンを電気炉アニ
    ールまたはレーザ照射で結晶化させ、その後、陽極酸化
    法により多孔質化させて直径数ナノメートルの結晶粒と
    することを特徴とする光電変換膜作製方法。
  17. 【請求項17】 請求項1から13いずれか記載の光電
    変換膜を作製するにあたり、まず、化学気相法または真
    空蒸着法により非晶質シリコン膜を堆積させ、この堆積
    させた膜に対して高輝度X線を照射して直径数ナノメー
    トルのシリコン結晶粒成長のための結晶核を作製するこ
    とを特徴とする光電変換膜作製方法。
  18. 【請求項18】 請求項1から13いずれか記載の変換
    膜において、前記直径数ナノメートルのシリコン結晶粒
    の代りに直径数ナノメートルのゲルマニウム結晶粒、ま
    たはシリコンゲルマニウム結晶粒、またはこのゲルマニ
    ウム結晶粒とシリコン結晶粒の複合結晶粒を用いたこと
    を特徴とする光電変換膜。
  19. 【請求項19】 請求項1から13いずれか記載の変換
    膜において、前記直径数ナノメートルのシリコン結晶粒
    の代りに直径数ナノメートルのシリコンカーバイト結晶
    粒、またはこのシリコンカーバイト結晶粒とシリコン結
    晶粒の複合結晶粒を用いたことを特徴とする光電変換
    膜。
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