JP2000327460A - 耐摩耗性セラミックスおよびその製造方法 - Google Patents

耐摩耗性セラミックスおよびその製造方法

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JP2000327460A
JP2000327460A JP14052199A JP14052199A JP2000327460A JP 2000327460 A JP2000327460 A JP 2000327460A JP 14052199 A JP14052199 A JP 14052199A JP 14052199 A JP14052199 A JP 14052199A JP 2000327460 A JP2000327460 A JP 2000327460A
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ceramic
wear
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ceramics
fracture toughness
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JP14052199A
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Akira Okada
田 明 岡
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Nissan Motor Co Ltd
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 優れた耐摩耗性と偶発的な衝撃力にも耐え得
る十分な強度を有し、マイルド摩耗およびシビア摩耗の
いずれの条件下でも優れた耐摩耗性と耐久性を備えた耐
摩耗性セラミックスと、このような耐摩耗性セラミック
スの製造方法を提供する。 【解決手段】 8.0MPa・m1/2以上の破壊靭性を
備え、気孔率が30%以下の緻密な基材セラミックス2
の表面に、その60重量%以上を占める部分が互いに共
通の相を備え、破壊靭性が3.0〜6.0MPa・m
1/2の範囲で耐摩耗性に優れた表層セラミックス3を被
覆する。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、2種類のセラミッ
クスからなる積層構造を備え、耐摩耗性材料として、例
えば内燃機関のカムシャフトとバルブとの間に介在して
カムシャフトの回転をバルブの上下運動に変換するタペ
ットにおけるカムとの摺動面に適用されるシムなどに好
適な耐摩耗性セラミックスと、このような耐摩耗性セラ
ミックスの製造方法に関するものである。
【0002】
【発明が解決しようとする課題】例えば、自動車用エン
ジンにおける動弁系の部品の小型軽量化を押し進める
と、エンジンの高回転領域での追従性が増して、出力向
上や燃費の改善に効果がある。しかし、シム,タペッ
ト,ロッカーアームチップなどの動弁系の部品の小型軽
量化を進めると、その結果として接触部の面圧が高くな
り、面圧が高くなると摩耗量が大きくなり、耐摩耗性に
優れた材料の適用が必要となる。
【0003】一般に、セラミックスは硬度が高く本質的
に耐摩耗性に優れる。
【0004】すなわち、金属では硬い突起によって接触
部表面に塑性変形が起こり、これによる掘り起こし型な
どのアブレッシブ摩耗が生じる。また金属同士では、擦
れ合う材質が異なるときに接触部の凝着が起こりやす
く、この凝着部が引っ張られるときに凝着部から破断す
るという機構によって、凝着摩耗が生じる。
【0005】これに対し、セラミックスでは、塑性変形
や凝着が起こりにくいため、このような機構による摩耗
がほとんど生じることがない。したがって、金属では著
しい摩耗が生じる条件下においても、比較的摩耗量が少
なく、滑らかな摩耗面を形成するマイルドな摩耗が発生
することが多い。
【0006】しかしながら、セラミックスといえども接
触部の面圧が高くなるとシビア摩耗領域に入り、チッピ
ングなどの表面損傷が起こって摩耗面が荒れ、摩耗量が
増大することになる。とくに動弁系では、エンジン回転
数が上昇するとバウンシングなどによって衝撃的な力が
繰り返し加わる場合があり、偶発的にシビア摩耗が生
じ、さらにこれが甚だしい場合には、セラミックス部品
の破壊が生じる場合がある。つまり、セラミックスの激
しい摩耗は、接触部表面に亀裂が発生し、この亀裂発生
をトリガーとして表面層が脱落するために生じるのであ
るから、激しい摩耗が起こるということはセラミックス
の表面において接触応力による微視的破壊が起こったこ
とを意味し、これが著しい場合にはセラミックス部品全
体の破壊に至ることになる。
【0007】このような破壊を避けるための方法とし
て、例えば特開平05−065809号公報には、1.
0GPaを超える曲げ強さの大きいセラミックスを使用
することが記載されている。
【0008】一般的に、摩耗量を小さくするためには、
部材の表面粗さを小さくすることが有効であり、例えば
Rmaxが1μm以下になったときには、相手部材への
攻撃性も低下して摩擦係数が低下すると共に、当該部材
と相手部材の双方の摩耗が少なくなる効果が顕著に現れ
る。また、接触する部材間に、空気や油、固体潤滑剤な
どの柔らかい層を介在させて潤滑性を改善することも摩
耗量の低減に有効である。しかし、セラミックスのよう
な脆性材料においては、局所的な接触によって接触応力
が極めて高くなるために起こる偶発的なシビア摩耗やチ
ッピングなどによる表面部の粒子脱落を抑制するため
に、材料の破壊靭性を高める必要がある一方、破壊靭性
を高めると、マイクロクラックの発生を伴う永久変形が
接触部に起こり、このようなマイクロクラックをトリガ
ーに粒子の脱落も生じることから、かえって摩耗が進み
がちとなる。
【0009】この対策としては、下地に破壊靭性の高い
材料を用い、その表面に耐摩耗性に優れる硬質材料を被
覆して用いることが考えられる。これは、耐摩耗性コー
ティングとして既に応用されており、切削工具において
はこのような発想によるコーテッドチップが製造されて
いる。しかし、この方法では表面被覆層が摩耗すると交
換が必要になるため耐久性を十分に得ることが難しく、
耐久性を確保するために表面被覆層を十分に厚くする
と、両層の熱膨張係数や弾性率などの物理的性質の相違
および化学結合性の不一致によって両層の界面において
剥離が起こりやすくなる。したがって、下地基材にこれ
とは異なる硬質層を被覆する耐摩耗性コーティングで
は、表面被覆層の厚さが1〜10μm程度に止められて
いる。
【0010】例えば、特開平07−062540号公報
には、窒化けい素の表面にダイヤモンドあるいは硬質炭
素を被覆した部材が提案されているが、被覆層の厚さは
1〜20μmと規定されている。また、特開平07−0
40105号公報において提案されている窒化けい素に
アルミナを被覆した切削工具では、被覆層の厚さとして
0.1〜10μmが好ましいとされ、0.1μm未満で
は被覆効果が得られず、10μmを超えると欠損しやす
くなると記載されている。
【0011】このように、破壊靭性の高い下地基材の表
面に耐摩耗性に優れる硬質材料を被覆してなる2層構造
を備えた耐摩耗性材料や切削工具においては、界面剥離
が起こりやすくなるために被覆層を十分に厚くすること
ができず、十分な耐久性を得ることができないという問
題点があり、耐摩耗性と強度を確保した上で耐久性をも
向上させることがこのような積層構造を備えた耐摩耗性
セラミックスにおける課題となっていた。
【0012】
【発明の目的】本発明は、積層構造を備えた従来の耐摩
耗性セラミックスにおける上記課題に着目してなされた
ものであって、優れた耐摩耗性と偶発的な衝撃力にも耐
え得る十分な強度を有し、しかも耐久性に優れた耐摩耗
性セラミックスと、このような耐摩耗性セラミックスの
製造方法を提供することを目的としている。
【0013】
【課題を解決するための手段】本発明の請求項1に係わ
る耐摩耗性セラミックスは、8.0MPa・m1/2 以上
の破壊靭性を備えた基材セラミックスの表面に、3.0
〜6.0MPa・m1/ 2 の範囲の破壊靭性を備えた表層
セラミックスが被覆してあると共に、基材セラミックス
および表層セラミックスの60重量%以上が同じ相によ
り構成されている構成としたことを特徴としており、耐
摩耗性セラミックスにおけるこのような構成を前述した
従来の課題を解決するための手段としている。
【0014】本発明に係わる耐摩耗性セラミックスにお
いては、請求項2に記載しているように、基材セラミッ
クスの厚さを1mm以上とすると共に、表層セラミック
スの被覆厚さを0.1〜100μmの範囲とすることが
できる。さらに、請求項3に記載しているように、基材
セラミックスおよび表層セラミックスの主体となる相、
すなわち基材セラミックスおよび表層セラミックス中の
60重量%以上を占める相を窒化けい素とすることがで
き、請求項4に記載しているように、基材セラミックス
中に5μm以上の長さを有する粒子を15%以上含んで
いる構成とすることができる。
【0015】そして、このような耐摩耗性セラミックス
は、例えば請求項5に記載しているように、内燃機関の
タペット用シムに適用することができる。
【0016】本発明の請求項6に係わる耐摩耗性セラミ
ックスの製造方法は、30%以下の気孔率に焼結した基
材セラミックスの表面を研磨すると共に、当該基材セラ
ミックスの研磨面に焼結後の厚さが200μm以上とな
るように表層セラミックスを形成する粉末材料を載置し
てホットプレスにより一体化焼結したのち、得られた表
層セラミックスの表面をさらに研磨する構成とし、請求
項7に係わる耐摩耗性セラミックスの製造方法において
は、表層セラミックスを形成する粉末材料を基材セラミ
ックスの研磨面に載置するに際して、粉末材料の懸濁液
を基材セラミックスの研磨面に塗布する構成とし、本発
明の請求項8に係わる耐摩耗性セラミックスの製造方法
は、30%以下の気孔率に焼結した基材セラミックスの
上に、気相を経由する被膜合成法により表層セラミック
スを被覆する構成とし、耐摩耗性セラミックスの製造方
法におけるこのような構成を前述した従来の課題を解決
するための手段としたことを特徴としている。
【0017】
【発明の実施の形態】本発明は、破壊靭性に優れた基材
セラミックスの表面に、マイルド摩耗領域において耐摩
耗性に優れる表層セラミックスを被覆してなる積層構造
の耐摩耗性セラミックスにおいて、表層セラミックスの
被覆厚さを厚くしても界面剥離を起こし難い材料を組み
合わることにより、マイルド摩耗からシビア摩耗に至る
広範囲な領域で耐摩耗性に優れた耐摩耗性セラミックス
を提供するものである。
【0018】すなわち、本発明に係わる耐摩耗性セラミ
ックス1は、図1(a)に示すような構造を有し、8.
0MPa・m1/2以上の破壊靭性を備えた基材セラミッ
クス2と、3.0〜6.0MPa・m1/2の範囲の破壊
靭性を有する表層セラミックス3からなり、基材セラミ
ックス2の表面に表層セラミックス3が被覆してある。
【0019】基材セラミックス2に被覆される表層セラ
ミックス3としては、摩耗に対して基本的に優れる材料
を採用するが、このような材料は偶発的な衝撃力による
表面損傷に対する耐性を有しない。これは、高い耐摩耗
性を維持するために変形に対する高い抵抗性を与えた材
料であるために、衝撃力によって局部的に高い応力が発
生したときに変形によってその応力を緩和することがで
きず、亀裂の発生を抑えることができないことによる。
したがって、仮に、このような表層セラミックス3に用
いるような材料のみで部品を構成したとすると、その表
面を十分に滑らかに保ち、かつマイルドな摩擦条件で用
いる限りは優れた耐摩耗性を示すものの、偶発的に衝撃
的荷重をうけて、図2(a)に示すような亀裂Cが一旦
導入されると、それを契機にシビア摩耗が生ずる。すな
わち、この亀裂Cを起点として表面層の一部が脱落する
ことによって表面粗さが増し、相手材への攻撃性が高ま
り、摩耗量が急激に増加することになる。
【0020】このような偶発的な亀裂発生にもとづく表
面損傷に対する耐性を付与するのが基材セラミックス2
であり、この基材セラミックス2には破壊靭性が大きい
ことが要求される。すなわち、基材セラミックス2は、
表層セラミックス3に偶発的に亀裂Cが発生したとき、
その高い破壊靭性によって、図1(b)に示すように亀
裂Cの伝播を停止させ、表面損傷が顕在化するのを防止
する作用を有する。
【0021】しかし、セラミックスの破壊靭性を高める
方法は、組織制御によって応力緩和機構を導入すること
であるから、このような組織を有する基材セラミックス
2は圧縮荷重とせん断荷重の組み合わせによって生じた
マイクロクラックが連結することによって剥離を起こし
やすいという問題点がある。したがって、仮に、このよ
うな基材セラミックス2として用いるような破壊靭性の
高い材料のみで部品を構成したとすると、高い荷重が加
えられたときに、図2(b)に示すように、その部分が
崩壊して永久変形を伴うくぼみを生じ、しかもこの永久
変形部にはマイクロクラックが発生しているので、これ
を起点にして剥離破壊が起こり、摩耗量が増大すること
になるが、本発明に係わる耐摩耗性セラミックス1にお
いては、基材セラミックス2に変形によるマイクロクラ
ックが発生したとしても、その表面に形成された表層セ
ラミックス3によって剥離が妨げられる。
【0022】このように、均質で微細な組織を有する表
層セラミックス3のみを単独で用いた場合には、荷重が
低いマイルド摩耗においては耐摩耗性が優れる反面、シ
ビア摩耗の生じるような高荷重においては、接触部に微
小亀裂が形成され、これによる表面粒子の脱落によって
摩耗量が大きくなるが、これを破壊靭性の高い基材セラ
ミックス2の上に形成させると、高荷重によって表層セ
ラミックス3の接触部に発生した亀裂が生じたとして
も、基材セラミックス2内に伝播することなく停止して
表面剥離が防止され、粒子の脱落が押えられることか
ら、高荷重のときにも摩耗量が減少することになる。
【0023】このような基材セラミックス2としては、
上記したように基材内部に亀裂の導入および伝播が起こ
りにくいことが必要であるため、その破壊靭性値を8.
0MPa・m1/2以上とする必要がある。また、被覆層
を形成する表層セラミックス3としては、その破壊靭性
値が3.0MPa・m1/2に満たない場合には表層セラ
ミックスとして緻密化が不十分であり、6.0MPa・
1/2を超えると接触部の損傷が次第に顕著になり表層
セラミックスとしての耐摩耗性が不足することから、
3.0〜6.0MPa・m1/2の範囲内とする必要があ
る。
【0024】さらに、本発明に係わる耐摩耗性セラミッ
クス1においては、基材セラミックス2および表層セラ
ミックス3の主な相、すなわち基材セラミックス2およ
び表層セラミックス3の60重量%以上を占める相がそ
れぞれ同じ相から構成されていることから、下地基材層
と被覆層とが実質的に同じ化学成分を有することにな
り、界面での化学結合がバルクのものと基本的に同一で
あることによって、互いに良好な接着力が確保され、せ
ん断型の界面剥離破壊の発生が防止されることになる。
また、構成層の界面における物理定数の不連続性が解消
され、これによる応力集中が起こらないことから、表層
セラミックス3の被覆厚さを増したとしても表層セラミ
ックス3が下地層である基材セラミックス2から剥離し
にくく、耐摩耗性セラミックスとしての耐久性が向上す
ることになる。このとき、同じ相から構成されている部
分を基材セラミックス2および表層セラミックス3それ
ぞれの60重量%以上に限定したのは、60重量%に満
たない場合には、両層界面における耐剥離性を十分に確
保することができず、耐久性を十分に向上させることが
できないことによる。
【0025】本発明に係わる耐摩耗性セラミックス1に
おける表層セラミックス3の厚さについては、請求項2
に記載しているように0.1〜100μmの範囲とする
ことが望ましい。すなわち、これは表層セラミックス3
の厚さが0.1μmより薄いときには、摩耗によって被
覆層が早期に消滅してしまうために耐久性に乏しく、1
00μmよりも厚い場合には、過大な荷重によって表面
割れが発生したときに被覆層に発生した亀裂による強度
低下が大きくなり、被覆層の剥離摩耗が顕著になりやす
いことによる。また、基材セラミックス2の厚さとして
は、とくに限定されないが、被覆層に対する下地基材と
しての十分な厚さと耐摩耗性材料として取扱いに耐える
機械的強度を確保する観点から、同じく請求項2に記載
しているように1mm以上とすることが望ましい。
【0026】なお、表層セラミックス3の厚さについて
は、さらに十分な耐久性を得ると共に、被覆層に割れが
発生したときの低下をほとんど無視できる程度に抑える
観点から、10〜50μmの範囲とすることがより一層
好ましい。
【0027】そして、上記のような破壊靭性および耐摩
耗性を備えた基材セラミックス2および表層セラミック
ス3を得るためには、請求項3に記載しているように基
材セラミックス2および表層セラミックス3の主要相、
すなわち基材セラミックス2および表層セラミックス3
の60%以上を占める相を窒化けい素とすることが望ま
しい。
【0028】また、基材セラミックス2については、上
記のような高い破壊靭性を付与するために、請求項4に
記載しているように基材セラミックス中に5μm以上の
長さを有する粒子を15%以上、さらに好適には20%
以上含んでいることが望ましい。すなわち、基材セラミ
ックス2として適用することができる破壊靭性の大きな
セラミックスを製造する方法としては基本的に細長い粒
子が分散した組織とすることが好ましい。例えば窒化け
い素の粒子の一部を粒成長させてこのような高靭性の組
織を得るためには、少なくとも1850℃以上、好まし
くは1900℃以上の高温で焼結することが必要であ
る。
【0029】この一例として、「最新技術Si3 4
今…Si3 4の基礎から応用まで」(1996年 社
団法人日本ファインセラミックス協会発行)の26〜2
9頁には、高温長時間の焼成によって破壊靭性が10.
3MPa・m1/2の値を有する窒化けい素材料が得られ
たことが記載されており、高温短時間の焼成では破壊靭
性が8.5MPa・m1/2の値であったことが報告され
ている。
【0030】このような破壊靭性の大きな窒化けい素の
特徴は、長さ5μm以下の微細な多数の粒子の中に長さ
数十μm以上の柱状粒子が分散した組織を有することで
ある。破壊靭性が8.0MPa・m1/2以上の値を持つ
窒化けい素はこのような長さ数十μm以上の柱状粒子が
比較的微細な粒子の中に分散した組織であることが必要
であって、窒化けい素の破壊靭性はこのように焼結体の
中に占める長さが数十μm程度の柱状粒子の割合に強く
依存する。
【0031】破壊靭性を高めた窒化けい素焼結体の組織
の解析結果によると、粒径分布については5μm以下の
粒径領域と、これを超える粒径の2つの領域に分布が集
中した領域が現れる。破壊靭性が8.0MPa・m1/2
以上の値を持つためには、この5μm以上の長さを有す
る粒径の割合が少なくとも15%、さらに望ましくは2
0%以上とすることが必要である。
【0032】このような組織を備え、破壊靭性の高い基
材セラミックス2は、例えば、窒化けい素に重量%で2
〜30%の焼結助剤を含む混合物を上記のような190
0℃あるいは2000℃以上の高温で焼結することによ
ってを得ることができる。
【0033】また、原料中にあらかじめ細長い粒子を配
合しておくことによって、より低い温度で高い破壊靭性
を備えた基材セラミックス2を得ることができる。
【0034】窒化けい素焼結体の場合、このような細長
い粒子として窒化けい素ウィスカーを配合することが本
質的に望ましいが、同じけい素の材料である炭化けい素
ウィスカーを用いても差支えない。この場合、上記の窒
化けい素に重量%で2〜30%の焼結助剤を含む混合物
に炭化けい素ウィスカーを15〜35%の範囲で配合し
(但し、窒化けい素が60重量%を下回ってはならな
い)、例えばホットプレスによって焼結することができ
る。このとき、炭化けい素ウィスカーが15%に満たな
いと、高靭性化の効果が少なく、35%を超えると、ウ
ィスカーによって焼成収縮が阻害され緻密な焼結体を得
ることが難しくなる。なお、炭化けい素ウィスカーの配
合量としては、過不足による上記弊害を確実に避ける意
味において20〜30%の範囲がより好ましい。
【0035】細長い粒子として窒化けい素ウィスカーや
針状の形態を有する窒化けい素粒子を添加することもも
ちろん可能であり、この場合には、添加したウィスカー
や針状窒化けい素粒子が焼結過程において成長すること
により、焼結後の組織における粒子寸法が大きくなるこ
とがある。そしてこの場合、上記のような窒化けい素に
重量%で2〜30%の焼結助剤を含む混合物に窒化けい
素ウィスカーあるいは針状窒化けい素粒子を5〜30%
の範囲で配合して焼結することができる。ウィスカーや
針状窒化けい素の下限値が炭化けい素ウィスカーに較べ
て低いのは、焼結過程での粒成長が見込まれることによ
る。
【0036】窒化けい素の焼結助剤としては、窒化けい
素の液相焼結が起こるような高温において窒化けい素が
溶解する液相を形成するアルカリ土類酸化物,希土類酸
化物,酸化アルミニウム,二酸化けい素,VIA族元素の
酸化物から選択することができる。焼結助剤としてはこ
れら酸化物を単独で使用するよりは、一般に、イオンの
価数やイオン半径の相違が大きい複数の酸化物を混合し
て用いることが焼結温度の低温化が可能になることから
都合がよい。これは窒化けい素粉末の表面に存在する酸
化けい素との反応によって共融組成を形成するときに生
成する液相生成温度を低下させる効果があることによ
る。
【0037】これら焼結助剤の配合量としては、前述の
ように2〜30%の範囲とすることが望ましい。これ
は、焼結助剤が2%に満たない場合には、緻密化が難し
くなり、30%を超えた場合には、ホットプレスの際に
溶融した液相が成形した混合粉末からにじみ出るために
ホットプレスによる焼結体の製造が困難になることによ
る。
【0038】このようにして焼結された基材セラミック
ス2の表面に被覆される表層セラミックス3は、例えば
窒化けい素粉末、さらに好ましくはβ型窒化けい素に、
上記のように2〜30重量%の焼結助剤を含む混合物を
出発原料として、1750℃以下の温度で焼結すること
によって得ることができる。
【0039】すなわち、1750℃以下の焼結温度を採
用することによって焼結過程における粒成長を抑制する
ことができる。また、β型窒化けい素の使用が好ましい
のは、米国窯業協会誌(Journal of American Ceramic
Society, pp518-522, Vol.56, No.10, 1973 )に記載さ
れているように、アモルファスあるいはα型の窒化けい
素を出発原料として用いたときには、焼結の際に窒化け
い素がβ型に相転移し、このときに粒が細長く成長する
ために破壊靭性が大きくなるのに対し、β型の窒化けい
素を原料に用いると成長した粒が等軸的な形態を有する
ことによって破壊靭性が低く抑えられることによる。な
お、上記協会誌には、5重量%の酸化マグネシウムを添
加して1750℃で2時間ホットプレスした結果が紹介
されており、α窒化けい素を26%含む窒化けい素(残
りはβ型の窒化けい素と見なせる)から製造した窒化け
い素の焼結体の破壊靭性が4.16MPa・m1/2
あるのに対し、α窒化けい素を70%含む窒化けい素か
ら製造した焼結体の破壊靭性は6.0MPa・m1/2
あると報告されている。
【0040】本発明に係わる耐摩耗性セラミックスを製
造するための方法、すなわち上記したような手法により
焼結された基材セラミックス2の表面に表層セラミック
ス3を被覆するための具体的方法としては、通常のセラ
ミックス分体のプロセスを応用した方法、あるいは気相
合成による方法を採用することができる。
【0041】第1の方法として、請求項6に記載してい
るように、基材セラミックス2の上に表層セラミックス
3の材料粉末を載置して焼結することによって一体化
し、所定の厚さに形成された表層セラミックス3を所望
の厚さまで研磨することによって本発明に係わる耐摩耗
性セラミックスを得ることができる。
【0042】すなわち、まず、例えば上記したように配
合した材料粉末を乾式プレスによって成形した成形体を
焼結によって気孔率が30%以下となるまで素焼きある
いは緻密化させて基材セラミックス2を得たのち、この
基材セラミックス2の表面を平滑に研磨し、表層セラミ
ックス3を形成するための粉末材料を焼結後の厚みが2
00μm以上、好ましくは500μm以上となる厚さに
載置する。これをホットプレスによって焼結したのち、
表層セラミックス3の厚さが、例えば請求項2に記載し
ているように0.1〜100μm、好ましくは10〜5
0μmとなるまで研磨加工を行う。
【0043】このとき、基材セラミックス2の表面を平
滑に研磨するのは、焼き上がりの焼結体の表面を十分に
平滑に保持するためであり、基材セラミックス2の気孔
率を30%以下とする理由は、気孔率が30%を超える
と機械的強度の低下が著しく、表面を平滑化するための
機械加工に耐えられなくなると共に、これに続くホット
プレスに際して発生する収縮が大きくなって、焼結後の
接合面の平滑性が十分に確保できなくなることによる。
また、粉末材料を焼結後の厚みが200μm以上となる
ように載置するのは、この方法では表層セラミックス3
の焼き上がり厚さが100μm以下となるような量の粉
末材料を基材セラミックス2の上に載置することはほと
んど不可能であって、基材セラミックス2の上に表層セ
ラミックス3を均一に形成させるためには、表層セラミ
ックス3の焼き上がり厚さを少なくとも200μm、さ
らに望ましくは500μm以上とする必要があることに
よる。なお、このような量の粉末を基材セラミックス2
の上において加圧プレスする方法も考えられるが、この
ような方法では焼結後の界面に生ずるうねりが大きくな
って、被覆した表層セラミックス3を平滑に研磨したと
きに部位による被覆層の厚みの変動幅が大きくなる問題
点がある。
【0044】また、基材セラミックス2の上に表層セラ
ミックス3の材料粉末を載置する方法として、請求項7
に記載しているように粉末材料の懸濁液を塗布する方法
を採用することも可能である。塗布する方法としては、
例えば懸濁液をスプレーする方法、研磨後の基材セラミ
ックス2を懸濁液に浸漬する方法、スクリーン印刷によ
る方法などを用いることができる。
【0045】このように粉末材料を懸濁液にして塗布す
るようになすことによって、目的とする材料粉末の量が
比較的少ない場合でも、基材セラミックス2の表面に材
料粉末を薄い厚さに均一に置くことができるようにな
る。なお、このような懸濁液の濃度や粘度については、
スクリーン印刷では濃度を高くしてやや粘調質なものを
適用することが好ましく、基材セラミックス2を浸漬す
るための懸濁液については、これよりも粘性の低いもの
とし、スプレー塗装する場合にはさらに粘性の低いもの
を使用すると作業がしやすくなる。また、懸濁液は重力
によって固体分が沈降し溶媒との分離が生じやすいの
で、これを防止するために適当な分散剤や解膠剤を添加
することも必要に応じて望ましい。
【0046】懸濁液は下地である基材セラミックス2の
中に染み込むと共に、焼結過程においては下地層と被覆
層との相互拡散が生じることから、その界面部には連続
的に組成が変化する領域が現れ、この領域では傾斜的な
組成変化が生じて、その物性が連続的に変化しているた
め界面剥離型の破壊が起こり難くなる効果が得られる。
これによって、下地層と被覆層との境界を明確に区分す
ることが難しくなって傾斜組成の境界層を備えたものと
なるが、このような構造のものも本発明に係わる耐摩耗
性セラミックスに含まれることは言うまでもない。
【0047】本発明に係わる耐摩耗性セラミックスを製
造するための第2の方法として、請求項8に記載してい
るように、同様に気孔率が30%以下となるように焼結
したのち表面を平滑に研磨した基材セラミックス2の上
に、化学気相反応法(CVD)や物理気相反応法(PV
D)などの気相を経由した被膜合成法によって表層セラ
ミックス3を被覆する方法を応用することができる。
【0048】例えば、気相から形成される窒化けい素
は、細かい結晶粒からなる結晶相、あるいはアモルファ
ス相となる。このような組織は、窒化けい素としては破
壊靭性が比較的低いことから、3.0〜6.0MPa・
1/2の破壊靭性値を備えた表層セラミックス3が基材
セラミックス2の上に形成される。
【0049】具体的には、例えばシランガス(Si
4),四ふっ化けい素(SiF4),四塩化けい素(S
iCl4)などのような気体状けい素化合物と、例えば
アンモニアガス(NH3)のような気体状窒素化合物を
供給し、1000〜1500℃に加熱された基板の上で
これらを反応させて窒化けい素を主体とする膜を合成す
るCVD法あるいは気体反応をプラズマ化した基板上で
行うプラズマCVD法、スパッタリング法に代表される
PVD法を用いることができる。
【0050】そして、このような方法によって製造さ
れ、上記のような構造を備えた耐摩耗性セラミックス1
は、例えば、請求項5に記載しているように、内燃機関
のカムシャフトとバルブとの間に介在してカムシャフト
の回転をバルブの上下運動に変換するタペットにおける
カムとの摺動面に適用されるシムとして好適に使用され
る。
【0051】シムは、タペットの表面に貼り付けて使用
される耐摩耗部品であり、図3に示すように、タペット
本体(11)に接着された状態でカム(12)と接し、
シム(10)はカム(12)の回転によってカム面と摺
動し、カムの回転によってタペットが上下動し、この上
下動が図示しない吸排気バルブに伝えられ、バルブの開
閉動作に変換されるようになっている。
【0052】このようなシムに、窒化けい素材料を適用
することは、例えば前記特開平05−065809号公
報に既に開示されているが、このような従来のセラミッ
クシムでは、エンジンの回転数の上昇によって衝撃的な
力が動弁系に繰り返し加わると、前述したように偶発的
にシビア摩耗が生じ、破壊に至ることがあったが、この
ような破壊はシビア摩耗による表面欠陥を起点にして起
こることから、破壊靭性に優れた基材セラミックス2と
耐摩耗性に優れた表層セラミックス3からなる積層構造
を備えた本発明に係わる耐摩耗性セラミックス1を適用
することにより、表面欠陥が発生しにくくなり、耐久性
が大幅に向上することになる。
【0053】
【発明の効果】本発明の請求項1に係わる耐摩耗性セラ
ミックスは、上記のように、破壊靭性に優れた基材セラ
ミックスの表面に、耐摩耗性に優れた表層セラミックス
が被覆してあり、しかも基材セラミックスおよび表層セ
ラミックスの60重量%以上の部分が同じ相から構成さ
れているので、マイルドな摩耗に対して表層セラミック
スが良好な耐摩耗性を示すと共に、シビア摩耗の生じる
ような高い荷重によって表層セラミックスの表面に亀裂
が発生したとしても、この亀裂の伝播が破壊靭性の高い
基材セラミックスによって阻止され、表面剥離が防止さ
れるので高荷重時の摩耗をも少なくすることができる。
さらに、基材セラミックスと表層セラミックスの大部分
が同じ相からなっているので、表層セラミックスの被覆
厚さを大きくしても界面剥離を防止することができ、優
れた耐久性を得ることができるという極めて優れた効果
をもたらすものである。
【0054】本発明の請求項2に係わる耐摩耗性セラミ
ックスにおいては、基材セラミックスの厚さが1mm以
上であって、表層セラミックスの被覆厚さが0.1〜1
00μmのものであるから、耐摩耗性材料としての十分
な強度と耐久性を発揮することができ、請求項3に係わ
る耐摩耗性セラミックスにおいては、基材セラミックス
および表層セラミックスの60重量%以上を占める相が
窒化けい素のものであるから、高い破壊靭性と優れた耐
摩耗性を無理なく得ることができ、請求項4に係わる耐
摩耗性セラミックスにおいては、基材セラミックス中に
5μm以上の長さを有する粒子を15%以上含んでいる
ので、基材セラミックスの破壊靭性を無理なく向上させ
ることができるというさらに優れた効果がもたらされ
る。
【0055】さらに、本発明の請求項5に係わる耐摩耗
性セラミックスは、内燃機関のタペット用シムとして使
用されるものであって上記構成を備えた耐摩耗性セラミ
ックスであるから、マイルド摩耗およびシビア摩耗とな
るいずれの条件下においても優れた耐摩耗性と耐久性を
発揮し、エンジンの高出力化に大きく貢献することがで
きる。
【0056】本発明の請求項6に係わる耐摩耗性セラミ
ックスの製造方法においては、基材セラミックスをその
気孔率が30%以下となるように緻密に焼結して、その
表面を平滑に研磨すると共に、この研磨面に焼結後の厚
さが200μm以上となるように表層セラミックスの粉
末材料を載置し、ホットプレスにより一体化焼結したの
ち、200μm以上の厚さに形成された表層セラミック
スを所望の厚さになるまで研磨するようにしているの
で、基材セラミックスの表面を平滑で均一な厚さの表層
セラミックスで被覆することができ、本発明に係わる耐
摩耗性セラミックスを容易に得ることができ、請求項7
に係わる耐摩耗性セラミックスの製造方法においては、
表層セラミックスを形成する粉末材料を基材セラミック
スに載置するの際して、粉末材料を懸濁液にして塗布す
るようにしているので、粉末材料の比較的少ない場合で
も均一に載置することができ、本発明の請求項8に係わ
る耐摩耗性セラミックスの製造方法においては、CVD
法やPVD法などの気相を経由する被膜合成法によって
表層セラミックスを被覆するようにしているので、基材
セラミックスの表面に所望の耐摩耗性および破壊靭性を
有する表層セラミックスを容易に形成することができる
という極めて優れた効果がもたらされる。
【0057】
【実施例】以下、本発明を実施例に基づいて、さらに具
体的に説明する。
【0058】実施例1 β型窒化けい素粉末92重量%に、焼成助剤として酸化
イットリウム粉末3重量%と酸化ネオジム粉末5重量%
を混合し、これを成形したのち、2200℃にて16時
間焼成した。なお、この焼結体の密度は3.45g/c
3であり、理論密度3.46g/cm3にほぼ一致して
いるのでほとんど気孔が存在しないレベルまで緻密化が
進んでいるものと推定される。また、画像解析によって
組織を調査し、5μm以上の長さを有する粒子の割合を
算出した結果、約25%であった。さらに、得られた焼
結体の破壊靭性値をJIS R1607に規定されてい
るIF法によって測定した結果、9.5MPa・m1/2
であった。
【0059】このような焼結体の表面を平らに研磨する
ことによって、厚さ約8mmの基材セラミックス2と
し、この上にβ型窒化けい素粉末90重量%、酸化イッ
トリウム粉末5重量%、アルミナ粉末5重量%の混合物
を均一に載置すると共に黒鉛型を用いて加圧成形したの
ち、窒素気流中で30MPaの圧力を加えながら170
0℃に加熱し、1時間保持してホットプレス焼結による
一体化を行った。このようにして得られた表層セラミッ
クス3の焼結後の厚さは約4mmであった。この表層セ
ラミックス3の密度については明らかではないが、同一
材料を用いて同一条件のもとに表層セラミックス材料の
みを焼結した結果によれば、3.25g/cm3の密度
を呈し、これは理論密度の99%に相当することから、
気孔率1%程度の十分に緻密化された表層セラミックス
3が得られているものと推定される。また、この破壊靭
性値を上記同様にIF法によって測定すると、4.5M
Pa・m1/2であり、粒径についてはほとんどすべてが
3μm以下のものとなっていることが確認された。な
お、ホットプレスによる一体化焼成処理温度は、前述の
ように1700℃であって、基材セラミックス2の製造
時の焼成温度2200℃に較べて十分に低いことから、
基材セラミックス2の組織および機械的特性の変化は認
められない。
【0060】このようにして形成された表層セラミック
ス3からなる被覆層を約30μmの厚みになるまで研削
加工により削り取ることによって、破壊靭性が9.5M
Pa・m1/2の高靭性窒化けい素からなる厚さ6mmの
基材セラミックス2の上に、4.5MPa・m1/2の破
壊靭性を備えた厚さ30μmの耐摩耗性表層セラミック
ス3を設けた耐摩耗性セラミックス1を得ることができ
た。なお、基材セラミックス2の厚さをホットプレス前
の8mmから6mmに減じた理由は、黒鉛ダイスに接し
た部分を研削によって削除し、寸法を整えたことによ
る。
【0061】このようにして得られた耐摩耗性セラミッ
クス1を用いて、ピンオンディスク式の摩耗試験を後述
する条件で実施すると共に、曲げ試験片に加工して耐衝
撃摩耗性の評価試験を行った。これらの結果を表1に示
す。
【0062】実施例2 β型窒化けい素粉末92重量%に、焼成助剤として酸化
イットリウム粉末3重量%と酸化サマリウム粉末5重量
%を混合し、混合粉末を成形して2200℃にて16時
間焼成した。なお、この焼結体の密度は3.45g/c
3であり、理論密度3.46g/cm3にほぼ一致して
いるのでほとんど気孔が存在しないレベルまで緻密化が
進んでいるものと推定される。また、画像解析によって
5μm以上の長さを有する粒子の割合を算出した結果、
約25%であり、得られた焼結体の破壊靭性値をIF法
によって同様に測定した結果、9.1MPa・m1/2
あった。
【0063】この焼結体の表面を平らに研磨することに
よって、約8mmの厚さの基材セラミックス2とし、こ
の上にβ型窒化けい素粉末90重量%、酸化イットリウ
ム粉末5重量%、アルミナ粉末5重量%の混合物を均一
に載置すると共に黒鉛型を用いて加圧成形し、窒素気流
中で30MPaの圧力を加えながら1700℃に加熱す
ると共に1時間保持してホットプレス焼結による一体化
を行った。このようにして得られた表層セラミックス3
の密度については、同様に3.25g/cm3と考えら
れ、気孔率1%程度の十分に緻密化された表層セラミッ
クス3が得られているものと推定される。また、この破
壊靭性値についても同様に4.5MPa・m1/2であ
り、粒径についてもほとんどすべてが3μm以下のもの
となっている。
【0064】このようにして形成された表層セラミック
ス3からなる被覆層を約25μmの厚みになるまで同様
に削り取ることによって、破壊靭性が9.1MPa・m
1/2の高靭性窒化けい素からなる厚さ6mmの基材セラ
ミックス2の上に、破壊靭性が4.5MPa・m1/2
厚さ25μmの耐摩耗性表層セラミックス3を設けた耐
摩耗性セラミックス1を得ることができた。これを用い
て、ピンオンディスク式の摩耗試験と、曲げ試験片によ
る耐衝撃摩耗性の評価試験を同様に行った。これらの結
果を表1に併せて示す。
【0065】実施例3 β型窒化けい素粉末92重量%に、酸化イットリウム粉
末3重量%と酸化ランタン粉末5重量%を混合し、これ
を成形して2200℃にて16時間焼成した。この焼結
体の密度は3.43g/cm3であり、理論密度3.4
6g/cm3の99%に相当しているので、気孔率が1
%程度のレベルまで緻密化が進んでいるものと推定され
る。また、画像解析によって5μm以上の長さを有する
粒子の割合を調査した結果、約23%であった。さら
に、IF法によって同様に測定した結果、9.0MPa
・m1/2であった。
【0066】このような焼結体の表面を平らに研磨する
ことによって基材セラミックス2とし、この上にβ型窒
化けい素粉末90重量%、酸化イットリウム粉末5重量
%、アルミナ粉末5重量%の混合物を均一に載置し、黒
鉛型を用いて加圧成形したのち、窒素気流中で30MP
aの圧力を加えながら1700℃に1時間加熱保持して
ホットプレス焼結による一体化を同様に行った。このよ
うにして得られた表層セラミックス3の密度は、同様に
3.25g/cm3と推定され、気孔率1%程度の十分
に緻密化されているものと考えられる。また、この破壊
靭性値を上記同様にIF法によって測定すると、4.3
MPa・m1/2であり、粒径についてはほとんどすべて
が3μm以下のものとなっていることが確認された。
【0067】上記実施例と同様に、表層セラミックス3
からなる被覆層を約30μmの厚みになるまで研削加工
することによって、破壊靭性が9.0MPa・m1/2
高靭性窒化けい素からなる厚さ6mmの基材セラミック
ス2の上に、4.3MPa・m1/2の破壊靭性を備えた
厚さ30μmの耐摩耗性表層セラミックス3を設けた耐
摩耗性セラミックス1が得られた。
【0068】このようにして得られた耐摩耗性セラミッ
クス1を用いて、ピンオンディスク式の摩耗試験と、曲
げ試験片による耐衝撃摩耗性の評価試験を同様に行っ
た。これらの結果を表1に併せて示す。
【0069】実施例4 α型窒化けい素粉末90重量%に、焼成助剤として酸化
イットリウム粉末6重量%とアルミナ粉末4重量%を混
合したものに、外割りで窒化けい素ウィスカーを10重
量%添加することによって得られた原料粉末を用いて、
9.6気圧の窒素ガス中において30MPaの圧力で加
圧しながら1900℃で4時間ホットプレスすることに
よって焼結体を得た。この焼結体の密度は3.25g/
cm3であり、理論密度3.28g/cm3の99%にほ
ぼ相当しているので、1%程度の気孔率のレベルまで緻
密化が進んでいるものと推定される。また、画像解析に
よって組織を調査した結果、5μm以上の長さを有する
粒子の割合は約23%であった。さらに、この焼結体の
破壊靭性値をJIS R1607に規定されたIF法に
よって測定した結果、8.3MPa・m1/2であった。
【0070】この焼結体の表面を平らに研磨して基材セ
ラミックス2とし、この上にβ型窒化けい素粉末90重
量%、酸化イットリウム粉末5重量%、アルミナ粉末5
重量%を混合した粉末を載置したのち、1気圧の窒素中
で1700℃で1時間、30MPaの圧力を加えながら
ホットプレス焼結した。このようにして得られた表層セ
ラミックス3の密度については明らかではないが、同一
材料を用いて同一条件で表層セラミックス材料のみを焼
結した結果によれば、3.25g/cm3の密度を呈
し、これは理論密度の99%に相当することから、気孔
率1%程度の十分に緻密化された表層セラミックス3が
得られているものと推定される。また、この破壊靭性値
を上記同様にIF法によって測定すると、4.6MPa
・m1/2であり、粒径についてはほとんどすべてが3μ
m以下のものとなっていた。
【0071】このようにして形成された表層セラミック
ス3からなる被覆層を約30μmの厚みになるまで研削
加工により削り取ることによって、破壊靭性が8.3M
Pa・m1/2の高靭性窒化けい素からなる厚さ6mmの
基材セラミックス2の上に、破壊靭性が4.6MPa・
1/2であって、厚さ30μmの耐摩耗性表層セラミッ
クス3を設けた耐摩耗性セラミックス1が得られた。な
お、基材セラミックス2には10μmを超える長さの窒
化けい素粒子が多数認められた。
【0072】このようにして得られた耐摩耗性セラミッ
クス1を用いて、ピンオンディスク式の摩耗試験と、曲
げ試験片による耐衝撃摩耗性の評価試験を同様に行っ
た。これらの結果を表1に併せて示す。
【0073】実施例5 α型窒化けい素粉末90重量%、酸化イットリウム粉末
6重量%、アルミナ粉末4重量%を混合したのち、これ
に炭化けい素ウィスカーを30重量%配合したものを直
径30mmの黒鉛型に均一に装填し、押し棒に圧力を加
えて成形することにより基材セラミックスの成形体を得
た。この成形体に30MPaの圧力を加えながら、9.
6気圧の窒素ガス中で1950℃に加熱し、4時間保持
した後に冷却して取り出し、焼結体を得た。この焼結体
の密度は3.24g/cm3であり、理論密度3.28
g/cm3の99%に相当しているので、気孔率が1%
程度のレベルまで緻密化が進んでいるものと推定され
る。また、画像解析によって組織を調査すると、5μm
以上の長さを有する粒子の割合は約28%であった。さ
らに、この焼結体の破壊靭性値を同様にIF法によって
測定した結果、8.7MPa・m1/2であった。
【0074】この焼結体の表面を平らに研磨することに
よって得た基材セラミックス2の上に、β型窒化けい素
粉末90重量%、酸化イットリウム粉末5重量%、アル
ミナ粉末5重量%の混合物を均一に載置したのち、黒鉛
型を用いて加圧成形したのち、30MPaの圧力を加え
ながら窒素気流中で1700℃に1時間加熱保持してホ
ットプレス焼結を行った。このようにして得られた表層
セラミックス3の密度は、3.23g/cm3と推定さ
れ、理論密度3.23g/cm3の98%に相当してい
ることから、気孔率2%程度に緻密化された表層セラミ
ックス3が得られている。また、破壊靭性値については
4.5MPa・m1/2であり、粒径についてはほとんど
すべてが3μm以下のものとなっていた。
【0075】このようにして形成された被覆層、すなわ
ち表層セラミックス3を約20μmの厚みになるまで研
削加工により削り取ることにより、破壊靭性が8.7M
Pa・m1/2の高靭性窒化けい素からなる厚さ6mmの
基材セラミックス2の上に、4.5MPa・m1/2の破
壊靭性を有し、厚さ20μmの耐摩耗性表層セラミック
ス3を設けた耐摩耗性セラミックス1を得た。
【0076】このようにして得られた耐摩耗性セラミッ
クス1を用いて、同様に、ピンオンディスク式の摩耗試
験と、曲げ試験片による耐衝撃摩耗性の評価試験を行っ
た。これらの結果を表1に併せて示す。
【0077】実施例6 実施例1と同様の材料を用いて、同様の方法により得ら
れた焼結体を基材セラミックス2として用い、この基材
セラミックス2を1300℃に加熱した上で、水素ガス
をキャリアガスとして四塩化けい素とアンモニアガスと
を導入して、CVD法により当該基材セラミックス2の
上に緻密な窒化けい素被覆層(表層セラミックス3)を
形成して耐摩耗性セラミックス1とした。
【0078】このようにして形成された窒化けい素被覆
層は、アモルファス相とα型窒化けい素相とが混在し、
滑らかで硬く、耐摩耗性に優れた特性を備えている。ま
た、その粒径については、基材セラミックス2における
5μm以上の長さの粒子の割合が約25%であるのに対
し、被覆層の粒径のほとんどすべてが1μm以下の微細
なものであった。なお、基材セラミックス2の厚みは6
mm、これに被覆された表層セラミックス3の厚みは約
15μmであった。なお、表層セラミックス3の破壊靭
性値については直接測定することができないが、同様の
製造法による素材について、3.5〜4.0MPa・m
1/2の測定値が得られており、この程度のものと推定さ
れる。
【0079】このようにして得られた耐摩耗性セラミッ
クス1を用いて、ピンオンディスク式の摩耗試験と、曲
げ試験片による耐衝撃摩耗性の評価試験を行った。これ
らの結果を表1に併せて示す。
【0080】比較例1〜比較例5 実施例1ないし実施例5においてそれぞれ作製した基材
セラミックス2を用いて、その表面を表層セラミックス
によって被覆することなくそのままピンオンディスク式
摩耗試験および曲げ試験片による耐衝撃摩耗性評価試験
に供した。これらの結果を表1に併せて示す。
【0081】比較例6 上記各実施例において基材セラミックスの表面に形成し
た表層セラミックスのみを単独で(基材セラミックスな
しで)ピンオンディスク式摩耗試験および曲げ試験片に
よる耐衝撃摩耗性評価試験に供した。これらの結果を表
1に併せて示す。
【0082】評価試験方法 1.ピンオンディスク式摩耗試験 各供試材セラミックスから採取したディスク試験片につ
いては、表面粗さ(Rmax)が約0.1μmとなるま
で研磨仕上げした。相手材としてのピンについては、上
記各実施例における表層セラミックスのみを別途焼成し
たものを直径3mmに加工して使用し、ディスク試験片
の表面に前記ピンを荷重2kgで100m摺動させたと
きの摩耗量によって耐摩耗性を評価した。摩耗量は摩耗
痕の寸法を測定して算出した。 2.耐衝撃摩耗性試験 高面圧下における衝撃摩耗特性を評価するため、局所的
に高い荷重を負荷したときの損傷を比較した。
【0083】すなわち、各供試材セラミックスから採取
した試験片の中央部に、超硬合金からなる直径3mmの
球を荷重200kgで押し込んだときに生じた損傷の大
きさを残留曲げ強さによって評価した。曲げ試験は3点
曲げとし、幅8mm,長さ約40mm,厚さ約6mmの
矩形試験片をスパン30mmで試験を行った。
【0084】
【表1】
【0085】表1から明らかなように、破壊靭性値が高
いセラミックスの単層からなる比較例1〜5においては
一般的な摩耗(マイルド摩耗)における耐摩耗性が劣
り、破壊靭性値が低くて耐摩耗性に優れたセラミックス
の単層からなる比較例6においては高面圧下(シビア摩
耗)における耐衝撃摩耗特性が劣るのに対し、破壊靭性
値の高い基材セラミックスの表面に破壊靭性値が低くて
耐摩耗性に優れた表層セラミックスを被覆した積層構造
を備えた実施例セラミックスにおいては、前記いずれの
摩耗に対しても高い耐性を有していることが確認され
た。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a) 本発明に係わる耐摩耗性セラミックス
の構造を示す斜視図である。 (b) 図1(a)に示した耐摩耗性セラミックスの表
面に過大な荷重が加えられた時の表面損傷の状態を模式
的に示す概略図である。
【図2】(a) 図1(a)に示した耐摩耗性セラミッ
クスにおける表層セラミックスのみで構成されたセラミ
ックスに過大な荷重が加えられた時の表面損傷を示す模
式図である。 (b) 図1(a)に示した基材セラミックスのみで構
成されたセラミックスに過大な荷重が加えられた時の表
面損傷を示す模式図である。
【図3】内燃機関のタペットの構造を示す概略断面図で
ある。
【符号の説明】
1 耐摩耗性セラミックス 2 基材セラミックス 3 表層セラミックス 10 シム(耐摩耗性セラミックス)

Claims (8)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 8.0MPa・m1/2 以上の破壊靭性を
    備えた基材セラミックスの表面に、3.0〜6.0MP
    a・m1/2 の範囲の破壊靭性を備えた表層セラミックス
    が被覆してあると共に、基材セラミックスおよび表層セ
    ラミックスの60重量%以上が同じ相により構成されて
    いることを特徴とする耐摩耗性セラミックス。
  2. 【請求項2】 基材セラミックスが1mm以上の厚さを
    有すると共に、表層セラミックスの被覆厚さが0.1〜
    100μmの範囲であることを特徴とする請求項1記載
    の耐摩耗性セラミックス。
  3. 【請求項3】 基材セラミックスおよび表層セラミック
    ス中の60重量%以上を占める相が窒化けい素であるこ
    とを特徴とする請求項1または請求項2記載の耐摩耗性
    セラミックス。
  4. 【請求項4】 基材セラミックス中に5μm以上の長さ
    を有する粒子を15%以上含んでいることを特徴とする
    請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の耐摩耗性セ
    ラミックス。
  5. 【請求項5】 内燃機関のタペット用シムであることを
    特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の
    耐摩耗性セラミックス。
  6. 【請求項6】 30%以下の気孔率に焼結した基材セラ
    ミックスの表面を研磨すると共に、当該基材セラミック
    スの研磨面に焼結後の厚さが200μm以上となるよう
    に表層セラミックスを形成する粉末材料を載置してホッ
    トプレスにより一体化焼結したのち、得られた表層セラ
    ミックスの表面をさらに研磨することを特徴とする請求
    項1ないし請求項5のいずれかに記載された耐摩耗性セ
    ラミックスの製造方法。
  7. 【請求項7】 表層セラミックスを形成する粉末材料を
    基材セラミックスの研磨面に載置するに際して、粉末材
    料の懸濁液を基材セラミックスの研磨面に塗布すること
    を特徴とする請求項6記載の耐摩耗性セラミックスの製
    造方法。
  8. 【請求項8】 30%以下の気孔率に焼結した基材セラ
    ミックスの上に、気相を経由する被膜合成法により表層
    セラミックスを被覆することを特徴とする請求項1ない
    し請求項5のいずれかに記載された耐摩耗性セラミック
    スの製造方法。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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JP2020180346A (ja) * 2019-04-25 2020-11-05 日本製鉄株式会社 セラミックス積層体の製造方法およびそれによって製造されたセラミックス積層体

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