JP2000169927A - 耐部分腐食性に優れ疲労強度が高いアルミニウム合金塑性加工品及びその製造方法 - Google Patents
耐部分腐食性に優れ疲労強度が高いアルミニウム合金塑性加工品及びその製造方法Info
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Abstract
進行を抑え、耐部分腐食性,疲労強度に優れたアルミニ
ウム合金塑性加工品を提供する。 【構成】 このアルミニウム合金塑性加工品は、Si:
0.2〜1.2%,Mg:0.35〜1.5%と、Ti
+V=0.05〜0.40重量%の条件でTi:0.2
0重量%以下及び/又はV:0.3重量%を含み、残部
が実質的にAlの組成をもち、塑性加工方向と平行な断
面において塑性加工方向に延びたTi及び/又はV高濃
度部及びTi及び/又はV低濃度部が層状に重なり合っ
ている。Ti及び/又はV高濃度部は、塑性加工方向に
平行な断面において45〜95%の面積率をもつことが
好ましい。合金溶湯を5℃/秒以上の溶湯冷却速度で鋳
造し、得られた鋳塊を520〜580℃×1〜8時間で
均質化処理し、冷却後に塑性加工して鋳造結晶粒を層状
に変形させ、更に機械的強度を向上させる熱処理を施す
ことにより製造される。
Description
が発達して先鋭なノッチ状先端部をもつ腐食形態(以
下、部分腐食という)を抑え、耐部分腐食性及び疲労強
度を改善したアルミニウム合金塑性加工品及びその製造
方法に関する。
処理によってMg2Siを析出させることにより強度が
向上する。また、押出加工性も優れているため大量生産
に適した材料として、非常に広範な分野で使用されてい
る。
される船舶構造材,部品等の用途では、再結晶粒界腐食
が生じ易い。再結晶粒界腐食が進行すると、その腐食の
一部が材料内部の深部まで達し、部分腐食となる。発生
した部分腐食が深いと、部分腐食部分の先端部がノッチ
効果によって疲労クラックの発生起点となり、アルミニ
ウム材料の疲労強度を著しく低下させる。部分腐食が材
料を貫通するまで成長すると、浸水等のトラブル発生原
因にもなる。
題を解消すべく案出されたものであり、Ti及び/又は
V高濃度部及びTi及び/又はV低濃度部が相互に重な
り合った多数の層状分布にすることにより、耐部分腐食
性が大幅に改善され、本来の機械強度が確保されたアル
ミニウム合金塑性加工品を提供することを目的とする。
本発明のアルミニウム合金塑性加工品は、その目的を達
成するため、Si:0.2〜1.2重量%,Mg:0.
35〜1.5重量%と、Ti+V=0.05〜0.40
重量%の条件でTi:0.20重量%以下及び/又は
V:0.3重量%を含み、残部が実質的にAlの組成を
もち、塑性加工方向と平行な断面において塑性加工方向
に延びたTi高濃度部及びTi低濃度部が層状に重なり
合っていることを特徴とする。
又はV高濃度部及びTi及び/又はV低濃度部が層状に
分布している塑性加工方向に平行な断面において45〜
95%の面積率をもつことが好ましい。使用するアルミ
ニウム合金は、更にCu:0.002〜0.5重量%,
Zn:0.05〜0.3重量%,Cr:0.01〜0.
3重量%,Mn:0.01〜0.4重量%,Zr:0.
01〜0.2重量%,Fe:0.1〜0.2重量%,
B:0.002〜0.01重量%の1種又は2種以上を
含むことができる。
組成に調整された合金溶湯を5℃/秒以上の溶湯冷却速
度で鋳造し、得られた鋳塊を520〜580℃×1〜8
時間で均質化処理し、冷却後に塑性加工して鋳造結晶粒
を層状に変形させ、更に機械的強度を向上させる熱処理
を施すことにより製造される。塑性加工としては、たと
えば均質化処理後の鋳塊を450〜520℃に加熱した
後、押出し直後の形材表面温度を510〜560℃に制
御した押出加工が採用される。押出加工された形材は、
450〜200℃の温度域で表面の冷却速度が80℃/
分以上となる条件下で冷却される。塑性加工後の熱処理
としては、170〜200℃×1〜10時間の時効処理
(T5処理)や、520〜560℃×2〜6時間の溶体
化処理後に水焼入れし、次いで170〜200℃×1〜
10時間加熱する時効処理(T6処理)が採用される。
ニウム合金にみられる再結晶粒界腐食の発生メカニズム
を調査検討した結果、次のメカニズムで部分腐食が進行
するものと推察した。塑性加工後に再結晶させたアルミ
ニウム合金材料は、図1に模式的に示す断面ミクロ組織
をもっている。部分腐食が発生した材料を観察すると、
部分腐食PCは、再結晶粒界GBに沿って材料表面Sか
ら材料内部に深く進行している。再結晶粒界GBに沿っ
た部分腐食PCの優先的な進行は、アルミニウム合金材
料に含まれている再結晶粒界近傍の合金成分が再結晶粒
界GBに濃化しやすいことが原因である。
出,熱間鍛造等の熱間塑性変形を受けると、加工直後に
再結晶粒RCが生成する。再結晶粒RCは、塑性加工工
程に後続する熱処理工程で溶体化処理するときにも生成
する。再結晶した材料が後続するT5処理,T6処理等
で時効処理されると、マトリックスに固溶していたM
g,Siが粒径10〜100nm程度の微細なMg2S
iとなって析出し(図2)、合金材料の強度を向上させ
る。Mg,Siは、微細析出物PFとしてマトリックス
Mに析出する外に、エネルギの高い再結晶粒界GBにも
拡散する。なかでも、熱間加工直後の冷却段階において
350〜400℃の温度領域で再結晶粒界GBに粒径が
数百nm〜10μm程度の粗大Mg2Siが析出してい
ると、粗大析出物PBへのMg,Siの拡散が促進され
る。再結晶粒界GBや粗大析出物PBにMg,Siが拡
散するため、再結晶粒界GBの近傍にあるマトリックス
Mは、微細析出物PFのない無析出帯PFZになる。無
析出帯PFZは、本発明者等による調査では0.1〜5
μmの幅で再結晶粒界GBに沿って延びていた。
して固溶Si,固溶Mgが少ないため電位的に卑な部分
になる。そのため、無析出帯PFZのある合金材料が腐
食環境に曝されると、無析出帯PFZが優先的に腐食さ
れる(図3)。材料表面にある無析出帯PFZの腐食が
部分的に激しく進行し、腐食領域CZが材料内部に進行
すると部分腐食になる。本発明者等は、このような部分
腐食発生のメカニズムを前提にし、電位的に卑な無析出
帯PFZが材料表面Sから材料内部に直線的に繋がらな
い組織にすることが部分腐食の抑制に有効であると考え
た。そして、無析出帯PFZの直線的な繋がりを阻止す
る層を形成する手段を検討した結果、Ti及び/又はV
の作用を活用して有効な組織が作り出せることを見出し
た。
鋳造結晶粒内に固溶する合金成分である。鋳造結晶粒C
Gの内部では、固溶Ti及び/又はV濃度が高いTi及
び/又はVの高濃度部L10(以下、単に高濃度部L10と
いう)と鋳造結晶粒界GBCA ST近傍の固溶Ti及び/又
はV濃度が低いTi及び/又はVの低濃度部L20(以
下、単に低濃度部L20という)が存在する(図4)。こ
のようなTi及び/又はV濃度分布をもつ材料が塑性加
工されると、鋳造結晶粒CGが塑性変形して引き伸ばさ
れ、高濃度部L10が塑性加工方向WDに長いTi及び/
又はV高濃度層L1(以下、単に高濃度層L1という)と
なる。鋳造結晶粒界GBCAST近傍にある低濃度部L20も
同様に塑性変形を受けて引き伸ばされ、Ti及び/又は
Vの低濃度層L2(以下、単に低濃度層L2という)が生
じる。したがって、塑性加工された組織は、塑性加工方
向WDに沿って多数の高濃度層L1及び低濃度層L2が長
い層状に積み重ねられたラメラー状態になる(図5)。
応力除去,強度向上のために熱処理される。熱処理時、
Mg,Siに比較して材料内部における拡散速度が著し
く遅いTiやVは、鋳塊の均熱処理,T5処理,T6処
理等の熱処理時に再結晶粒界GBに集まる傾向が低い。
そのため、再結晶粒界GBの生成に伴って時効処理時に
Mg2Siの析出に起因して無析出帯PFZが発生して
も、無析出帯PFZ中の高濃度部L1とマトリックスM
中の高濃度部L1との間では、Ti及び/又はV濃度に
実質的な差が生じない。他方、高濃度層L1と低濃度層
L2との間ではTi及び/又はV固溶量に差があるた
め、高濃度層L1が電位的に貴になり、低濃度層L2が電
位的に卑になる。
ー状分布になった合金材料を腐食環境に曝すと、電位的
に卑な低濃度層L2が優先的に腐食される。この場合の
腐食は、図1で説明した再結晶粒界GBに沿った経路を
採ることができず、図5に示すように低濃度部L2及び
無析出帯PFZの中にある低濃度部L2を求めて材料内
部に進行する。なお、図5は、塑性加工方向WDに平行
な方向の断面組織に腐食進行経路DCを投影した模式図
であり、腐食進行経路DCは紙面に垂直な方向にも前後
する。腐食進行経路DCが塑性加工方向WD及び直交方
向に紆余曲折するため、材料の深さ方向に腐食が進行す
ることが遅延する。また、材料内部の深部に直線的に延
びる部分腐食が進行しないため、疲労クラックの発生起
点となるノッチ効果が弱まる。
金に含まれる合金成分,含有量,製造条件等を説明す
る。Si:0.2〜1.2重量%,Mg:0.35〜1.5
重量% T5処理,T6処理での時効処理によってMg2Siと
して析出し、合金材料の強度を向上させる。強度確保の
ためには、0.2重量%以上のSi,0.35重量%以
上のMgが必要である。しかし、1.2重量%を超える
多量のSiが含まれると、Al−Fe−Si系化合物の
析出量が増加する。析出した多量のAl−Fe−Si系
化合物は、マトリックスとの間に電位差があるため局部
電池を増加させ、耐食性が低下する原因になる。また、
1.5重量%を超えるMg含有量では、合金材料が硬質
化し、押出加工性が劣化する。
重要な合金成分である。一般に、TiをBと共に鋳造結
晶粒微細化剤としてTi:0.01〜0.02重量%,
B:0.002〜0.01重量%添加するとき、鋳造結
晶粒が10〜数百μmのサイズに微細化される。本発明
では、鋳造結晶粒微細化作用の外に、通常の6000系
アルミニウム合金に比較して遥かに多量、すなわち合計
量で0.05〜0.20重量%のTi及び/又はVを添
加し、鋳造結晶粒内に多量のTi及び/又はVを固溶さ
せている。
l−Ti及びAl−Vが包晶系であるため、図4で模式
的に示すように鋳造結晶粒CGの内部に高濃度部L10を
形成する。他方、比較的遅れて凝固する鋳造結晶粒界G
Bcast及びその近傍ではTi及び/又はV濃度が低くな
っているので、鋳造結晶粒界GBcastに沿って低濃度部
L20が形成される。高濃度部L10及び低濃度部L20をも
つ鋳造結晶粒CGからなる鋳造組織が塑性加工される
と、多数の高濃度層L1及び低濃度層L2が層状に重なり
合ったラメラー状態(図6)になる。しかも、Ti及び
/又はV添加により鋳造結晶粒が微細化されているた
め、高濃度層L1及び低濃度層L2が密に重なり合ってい
る。
び/又はV含有量では、鋳造組織の微細化作用は得られ
るものの、高濃度部L10と低濃度部L20との固溶量差が
小さくなり、塑性加工後に高濃度層L1及び低濃度層L2
が重なり合った明瞭なラメラー状態が得られ難くなる。
その結果、材料内部の深部まで直線的に進行する部分腐
食を抑制する作用が小さくなる。しかし、0.40重量
%を超える過剰量のTi及び/又はVを添加すると、T
iAl3や粗大なTiB2,Al11V等が生成する傾向が
強くなる。TiAl3や粗大なTiB2,Al11V等は、
局部電池による腐食発生の起点になり耐食性を劣化さ
せ、また加工時に表面欠陥を発生させる原因になる。こ
の傾向は、Tiの単独添加では0.20重量%を超える
とき、Vの単独添加では0.30重量%を超えるとき顕
著になる。
量%以上のCu含有量でマトリックスの強度向上が顕著
になる。しかし、再結晶粒界GBの近傍にあるCuは、
時効処理時に再結晶粒界GBに拡散し、Cu濃度の低い
無析出帯PFZを再結晶粒界GBに沿って生成させる傾
向を示す。そのため、0.5重量%を超える多量のCu
が添加されると、マトリックスMと再結晶粒界GBの無
析出帯PFZとの間の電位差が大きくなり、再結晶粒界
GBの腐食性が高まり、部分腐食が生じ易くなる。Zn:0.05〜0.3重量% 必要に応じて添加される合金成分であり、マトリックス
の腐食電位を低下させて腐食形態を全面腐食に変える作
用を呈する。そのため、再結晶粒界GBの局部的な腐食
が防止され、部分腐食の進行が抑えられる。このような
効果は、0.05重量%以上の添加量で顕著になる。し
かし、Zn含有量が0.3重量%を超えると、腐食電位
が著しく低下し、材料自体の耐食性が低下する。
粒RCの粗大化防止,機械的性質の改善,材料内部への
部分腐食進行抑制に有効な合金成分である。このような
効果は、0.01重量%以上のCr,0.01重量%以
上のMn,0.01重量%以上のZrで顕著になる。し
かし、0.3重量%を超えるCr,0.4重量%を超え
るMn,0.2重量%を超えるZrは、金属間化合物の
生成に起因する機械的性質の劣化,局部電池形成による
耐食性の劣化,材質の硬質化に起因する押出加工性の劣
化を招きやすい。
と反応し、再結晶粒RCの微細化に有効な化合物を生成
する。Al−Si−Fe系の化合物は、塑性加工時に分
散し、再結晶粒界GBをピンニングする効果を呈する。
そのため、再結晶粒RCが微細化され、機械的性質が改
善されると共に、材料内部への部分腐食進行も抑制され
る。このような効果は、0.1重量%以上のFe含有量
で顕著になる。しかし、0.2重量%を超える多量のF
eが含まれると、粗大なAl−Fe−Si系化合物が多
量に生成し、局部電池に起因した耐食性が劣化する。B:0.002〜0.01重量% Tiと同様に鋳造組織を微細化する作用を呈する合金成
分である。微細化された鋳造結晶粒は、塑性加工により
生じる高濃度部L1と低濃度部L2とを密な分布状態にす
る。その結果、材料内部に腐食が進行して部分腐食とな
ることが防止される。
L10及び低濃度部L20を有する鋳造結晶粒CGは、塑性
加工されると塑性加工方向WDに沿って伸ばされ、多数
の高濃度層L1及び低濃度層L2が重なり合ったラメラー
状態(図6)になる。高濃度層L1及び低濃度層L2は、
具体的には次のようにして特定される。Si:0.5重
量%,Mg:0.7重量%,Cu:0.2重量%,F
e:0.15重量%,Mn:0.15重量%,B:0.
003重量%を含み、Ti含有量を0.01重量%,
0.05重量%,0.1重量%,0.15重量%,0.
20重量%と変えた5種のアルミニウム合金を塑性加工
し、塑性加工後の表層部断面をEPMAで観察してTi
濃度分布を求めた。得られたTi濃度分布は、図7の
(a)〜(c)に一例を示すようにTi含有量に応じて
異なっていた。EPMAの観察結果は、次の条件で広領
域マッピング分析することにより得られた。 加速電圧:15kV 試料電流:20nA ビーム径:1μm ステップサイズ:X方向,Y方向共に1μm ステップ数:512点×512点 分析時間:0.06秒/点 分析X線:Ti−Kα線
量%以上のときにTiの層状分布が認識できる。そこ
で、Ti−Kα線のビーム径1μmが占める面積におけ
る0.06秒間のカウント数を解析し、カウント数と試
料(a)〜(c)の耐部分腐食性との関係を調査した結
果、Tiの層状分布を確認できる限度である7カウント
以上の部分をTi高濃度層L1として判定して良いこと
が判った。図7では、7カウント以上の部分を白色で表
示している。Ti:0.1重量%を含む試料(a)で
は、最大カウント数が79カウント,最少カウント数が
0カウントであった。図7に白色で表示されているTi
高濃度部の面積率を画像解析により求め、面積率(%)
とEPMA強度との関係を調査したところ、両者の間に
図8に示す関係が成立していた。なお、図8の横軸EP
MA強度は所定カウント数以上を示し、たとえば横軸7
の位置では7カウント以上の部分の面積率がTi高濃度
部の面積率として表示されている。したがって、カウン
ト数を上げると、当然のこととしてTi高濃度部の面積
率が低下する。
高濃度部の面積率が上昇していることが判る。Ti含有
量0.05重量%で7カウント以上が層状を認識できる
限界であるので、本発明では、図8からTi高濃度部を
7カウント以上と定義する。このように定義したTi高
濃度部は、Ti含有量0.05重量%で面積率が45%
以上になっている。Ti高濃度部の面積率はTi含有量
に応じて変わり、Ti:0.20重量%で面積率95
%,Ti:0.15重量%で面積率90%,Ti:0.
1重量%で面積率78%,Ti:0.05重量%で面積
率47%,Ti:0.01重量%で面積率20%であ
る。したがって、EPMA強度で7カウント以上のTi
高濃度部は、Ti含有量が0.05〜0.20重量%の
範囲において45〜95%の面積率を占めるといえる。
性を確保する上からTi含有量の下限が0.05重量%
に定められるので、本発明においては、前掲した測定条
件下における7カウント以上の部分をTi高濃度部と定
義する。Ti高濃度部を定義するEPMA強度のカウン
ト数を8以上とすると、当然のこととしてTi高濃度部
の面積率は低下する。たとえば、8カウント以上をTi
高濃度部と定義する場合には、耐部分腐食性に有効なT
i高濃度部の面積率は、20〜80%になる。何れにし
ろ、組織の定義付けにおいて、何カウント以上をTi高
濃度部とするかは、発明の本質を何ら変更するものでは
ない。Vを単独添加したアルミニウム合金及びTi,V
を複合添加したアルミニウム合金についても、同様に高
濃度部と低濃度部が生成しており、塑性加工方向に平行
な断面における面積率で45〜95%の高濃度部がある
とき優れた耐部分腐食性が発現する。
の工程で作られる。鋳造:溶湯冷却速度5℃/秒以上 所定組成に調整されたアルミニウム合金溶湯に通常の脱
ガス処理を施した後、Ti−B系,V等の微細化剤を添
加し、脱滓・沈静化を経て鋳造する。DC鋳造,水冷金
型鋳造等により溶湯冷却速度5℃/以上で鋳造すること
により、鋳造結晶粒のセル内部にTi及び/又はVがよ
り高濃度で固溶する。これに対し、溶湯冷却速度が5℃
/秒に達しない砂型鋳造では、高濃度部と低濃度部の差
が小さくなる。その結果、後続する塑性加工工程でラメ
ラー状態が生成し難く、また高濃度部と低濃度部との電
位差が小さいため、材料内部への部分腐食進行を有効に
抑制できなくなる。この場合に生じる部分腐食は、横に
走る腐食経路(図5)ではなく、材料内部の深部に直線
的に向かった経路(図1)をとり、疲労クラック等の原
因になる。
間 鋳造で得られた鋳塊は、Si,Mg,Cu等をマトリッ
クスに均一に固溶させるため均質化処理される。均質化
処理を温度520〜580℃,1〜8時間の範囲で実施
すると、TiやVがほとんど拡散せず、析出もしない。
そのため、鋳造結晶粒のセル内部にTi及び/又はVが
高濃度で分布する状態(図4)が均質化処理後にも維持
される。塑性加工 均質化処理された鋳塊に、圧延,押出し,鍛造等の熱間
加工、或いは鍛造,引抜き等の冷間加工が施される。セ
ル内部でTi及び/又はV濃度に差を付けた鋳造組織
(図4)は、塑性加工によって鋳造結晶粒が層状に引き
伸ばされ、多数の高濃度層L1及び低濃度層L2が層状に
重なり合ったラメラー状態(図6)となる。
方向WDと平行な断面(図5,6)では相互に重なり合
っており、塑性加工方向WDに垂直な断面(図9)でも
元の鋳造結晶粒界GBOLDを境にした分布になってい
る。塑性加工後に熱処理した材料においては、再結晶粒
界GBを境として再結晶粒RCを成長させた組織になっ
ている。腐食は、一般に材料表面Sに再結晶粒界GBが
露出した部分を起点として生じ、再結晶粒界GBを含む
無析出帯PFZに沿って材料内部に進行する。しかし、
多数の高濃度層L1及び低濃度層L2が層状に重なり合っ
たラメラー状態をもつ材料では、材料内部に直線的に延
びる腐食の進行がラメラー状態によって抑えられ、高濃
度層L1及び低濃度層L2の間を三次元的に紆余曲折する
腐食進行経路DCを採る。なお、図5,図9共に、塑性
加工方向WDと平行及び垂直な断面でみた結晶組織に腐
食進行経路DCを投影させて示したものであり、腐食
は、紙面と垂直な方向に沿っても進行する。
紆余曲折する経路DCに沿って腐食が進行するため、材
料内部の深部まで腐食が到達するまでには相当な時間が
かかることになる。また、材料内部に直線的に延びる腐
食がなくなるので、疲労クラックの発生起点になる鋭角
的なノッチ状先端をもつ部分腐食に至りにくい。これに
対し、Ti及び/又はV濃度に差をつけていない従来の
材料では、隣接再結晶粒RC間の無析出帯PFZに沿っ
て腐食が進行し、材料内部の深さ方向に鋭く入り込んだ
部分腐食PCとなる(図1)。部分腐食PCのノッチ状
先端は、応力が集中しやすく、疲労クラックの発生起点
になる。
Mg,Siの十分な固溶及び必要な押出し速度を確保す
るため、均質化処理後の鋳塊を450〜520℃に加熱
し、押出し直後の形材表面温度を510〜560℃に制
御する。押出し直後の形材表面温度は、Mg,Siの固
溶を図る有効な指標である。510℃に満たない形材表
面温度では、Mg,Siが十分に固溶しないので、後続
する時効処理工程における析出強化が効果的でなくな
る。逆に、560℃を超える形材表面温度では、押出し
後の再結晶粒組織が粗大化しやすく、機械的性質の低
下,再結晶粒界腐食等の原因になり易い。そして、押出
し後にそのまま冷却する場合と、450〜200℃の温
度域で形材表面の冷却速度が80℃/分以上となる条件
下で冷却する場合がある。冷却速度80℃/分以上で押
出し形材を冷却すると、Mg,Siの押出し材中での析
出が防止され、後続するT5処理の時効処理で必要な量
の固溶Mg,固溶Siが確保される。
理 塑性加工された合金材料を時効処理すると、マトリック
スに固溶しているMg,SiがMg2Siとして微細に
析出し、合金材料の機械的強度が向上する。T5処理で
は、塑性加工後に450〜200℃の温度域で材料表面
の冷却速度が80℃/分以上で冷却した合金材料を17
0〜200℃×1〜10時間で加熱する。T6処理で
は、塑性加工後にそのまま空冷された合金材料が520
〜560℃×2〜6時間の溶体化処理→水焼入れ→17
0〜200℃×1〜10時間加熱の工程を経る。規定す
る条件を外れると、必要な強度の向上が図れず、或いは
経済的に不利になる。
理の溶体化処理時に生成・成長する。時効処理時、再結
晶粒界GB及びMg2Si系粗大析出物PBにSi,M
g,Cu等が拡散するため、部分腐食の原因になる無析
出帯PFZが再結晶粒RCの粒界GBに沿って形成され
る。無析出帯PFZは、微細なMg2Si系析出物PF
が析出しているマトリックスMに比較して電位的に卑な
部分である。他方、拡散速度が著しく遅いTiやVは、
塑性加工によって生じた高濃度層L1及び低濃度層L2の
ままの分布状態に維持される。高濃度部L1が電位的に
貴,低濃度部L 2が電位的に卑な部分であるため、無析
出帯PFZに沿って材料内部の深部まで進行しようとす
る腐食は、無析出帯PFZの中にある高濃度部L1によ
って阻止され、三次元的に紆余曲折した腐食経路DCを
採ることになる。その結果、材料内部に深く直線状に延
びた部分腐食が防止され、腐食が発生した場合にあって
も腐食部先端が応力の集中しやすいノッチ状にならない
ので耐疲労クラック性も改善される。
金溶湯を溶製し、脱ガス,微細化処理,脱滓の工程を経
て直径273mm,長さ1500mmのビレットにDC
鋳造した。鋳造時、溶湯冷却速度を約10℃/秒に維持
した。得られたビレットの組成を表1に示す。
した後、強制空冷し、押出し用サイズに切断した。切断
されたビレットを490℃に加熱した後、幅200m
m,高さ5mmの形材に押出した。押出し形材は、ダイ
スから出た直後の表面温度が540℃であった。押出し
形材は、そのまま空冷された。次いで、530℃×1時
間の溶体化処理を押出し形材に施した後、40℃で水焼
入れし、190℃で4時間時効処理するT6処理を施し
た。
ロ組織を観察した。溶体化処理前の試料では、押出し方
向に平行な断面において10〜500μm(平均約10
0μm)の再結晶粒RCが観察された。溶体化処理後の
再結晶粒RCもほぼ同じサイズをもっており、溶体化処
理による再結晶粒RCの粗大化は生じていなかった。時
効処理された各材料から切り出された試験片を、JIS
H8711に準拠する腐食試験に供した。腐食試験で
は、30℃の3.5%NaCl水溶液に試験片を10分
間浸漬した後、50分乾燥させるサイクルを14日間続
行した。試験後の試験片表面を観察し、試験片表面に発
生した部分腐食の深さを焦点深度法で測定した。
食の最大深さは、Ti含有量の増加に従って小さくなっ
ていた。なお、表2では、試料番号4のビレットを塑性
加工することなくT6処理し、同じ腐食試験に供した結
果を参考例として併記した。部分腐食が発生した試験片
の断面ミクロ組織を観察したところ、試料番号1では部
分腐食PCが再結晶粒界GBに沿って材料内部の深部に
まで直線的に延びていた(図1)。他方、試料番号2〜
5では、Ti含有量の増加に応じて層状の腐食形態(図
5,9)が強まり、材料内部への部分腐食の進展が抑制
されていた。成分的には試料番号4と同じ材料であって
も、塑性加工を受けない試料番号4−Cの参考例では、
腐食の直線的な成長を阻止するラメラー状態がないた
め、鋳造結晶粒界GBcastに沿ってほぼ直線的に材料内
部に達した部分腐食PCが観察され、最大部分腐食深さ
も220μmと深いものであった。この対比から、試料
番号1では再結晶粒界GBの近傍にある無析出帯PFZ
に沿って部分腐食PCが直線的に成長するのに対し、ラ
メラー状態をもつ試料番号2〜5では、腐食進行経路D
Cを材料表面Sと平行な方向に曲げる傾向が強く、結果
として材料内部に延びる部分腐食PCが抑制されること
が判る。
Dと平行な断面におけるTiの濃度分布をEPMA分析
した。図7の分析結果にみられるように、Ti含有量が
0.01重量%と少ない試料番号1(c)では、マトリ
ックス中でTiがほぼ均一に分布しており、濃度分布に
差のある層状組織は検出されなかった。他方、Ti含有
量0.05重量%の試料番号2(b),Ti含有量0.
1重量%の試料番号3(a),Ti含有量0.15重量
%の試料番号4(写真省略)及びTi含有量0.20重
量%の試料番号5(写真省略)では、Ti濃度の高い部
分とTi濃度の低い部分が層状に重なり合ったラメラー
状態が観察された。ラメラー状態は、Ti含有量の増加
に伴って(b)→(a)にみられるように明確になって
いた。
10に示す形状の試験片を切り出し、引張圧縮疲労試験
に供した。引張圧縮疲労試験では、応力比R=−1の繰
返し応力で107回の疲労強度を測定した。表3の測定
結果にみられるように、腐食試験前の疲労強度は、試料
番号1〜5の何れにおいても80MPaと同じ値であっ
た。ところが、試料番号1では、腐食試験後に疲労強度
が55MPaまで大幅に低下した。これに対し、ラメラ
ー状態をもつ試料番号2〜5では、腐食試験後の疲労強
度も高レベルに維持されていた。また、腐食試験後の疲
労強度は、Ti含有量が高いものほど高くなる傾向を示
した。この結果からも、Ti濃度に差を付けたラメラー
状態とすることにより、材料内部に達する腐食の進行が
抑えられ、耐部分腐食性に優れた材料となることが判
る。
微細化処理,脱滓の工程を経て直径203mm,長さ1
500mmのビレットにDC鋳造した。鋳造時、溶湯冷
却速度を約10℃/秒に維持した。得られた各ビレット
の組成を表4に示す。
し、押出し用サイズに切断した。切断されたビレットを
予熱した後、所定形状の形材に押し出し、冷却後にT5
処理を施した。このときの操業諸元を表5に示す。
ロ組織を観察した。溶体化処理前の試料では、押出し方
向に平行な断面において10〜500μm(平均約10
0μm)の再結晶粒RCが観察された。溶体化処理後の
再結晶粒RCもほぼ同じサイズをもっており、溶体化処
理による再結晶粒RCの粗大化は生じていなかった。時
効処理後の押出材では、図7で示した場合と同様にVや
Ti+Vの高濃度部がラメラー状になった組織を呈して
いた。時効処理された各材料から切り出された試験片を
実施例1と同じ腐食試験に供し、30日の試験期間後、
試験片表面に発生した部分腐食の深さを焦点深度法で測
定した。表6の測定結果にみられるように、部分腐食の
最大深さは、V及びTi+Vの含有量増加に従って小さ
くなっていた。部分腐食が発生した試験片の断面ミクロ
組織を観察したところ、試料番号1では部分腐食PCが
再結晶粒界GBに沿って材料内部の深部にまで直線的に
延びていた。他方、試料番号2〜5では、V及びTi+
Vの含有量増加に応じて層状の腐食形態が強まり、材料
内部への部分腐食の進展が抑制されていた。
10に示す形状の試験片を切り出し、引張圧縮疲労試験
に供した。引張圧縮疲労試験では、応力比R=−1の繰
返し応力で107回の疲労強度を測定した。表7の測定
結果にみられるように、腐食試験前の疲労強度は、試料
番号1〜5の何れにおいても80MPaと同じ値であっ
た。ところが、試料番号1では、腐食試験後に疲労強度
が55MPaまで大幅に低下した。これに対し、ラメラ
ー状態をもつ試料番号2〜5では、腐食試験後の疲労強
度も高レベルに維持されていた。また、腐食試験後の疲
労強度は、V含有量又はTi+V含有量が高いものほど
高くなる傾向を示した。この結果からも、V濃度又はT
i+V濃度に差を付けたラメラー状態とすることによ
り、材料内部に達する腐食の進行が抑えられ、耐部分腐
食性に優れた材料となることが判る。
工品は、塑性加工方向に延びた多数のTi及び/又はV
高濃度層及びTi及び/又はV低濃度層が相互に重なり
合ったラメラー状態をもっている。ラメラー状態は、熱
処理後に生成する再結晶粒の粒界に沿って材料内部に達
する部分腐食の進行を抑え、腐食進行経路を材料表面と
平行な方向に曲げる作用を呈する。そのため、再結晶粒
界腐食が発生した場合にあっても、疲労クラックの発生
起点となる鋭いノッチ状先端をもつ部分腐食がなく、長
期間にわたって優れた疲労強度を維持する材料として、
船舶や腐食環境が悪い海岸地帯等の構造材として広範な
分野で使用される。
腐食を示す模式図
の模式図
り合ったラメラー状態を塑性加工方向と平行な断面で観
察し、同じ断面に腐食進行方向を投影させた模式図
ばした状態の模式図
影響を表わしたグラフ
り合ったラメラー状態を塑性加工方向に垂直な断面で観
察し、同じ断面に腐食進行方向を投影させた模式図
Claims (8)
- 【請求項1】 Si:0.2〜1.2重量%,Mg:
0.35〜1.5重量%と、Ti+V=0.05〜0.
40重量%の条件でTi:0.20重量%以下及び/又
はV:0.3重量%を含み、残部が実質的にAlの組成
をもち、塑性加工方向と平行な断面において塑性加工方
向に延びたTi及び/又はV高濃度部及びTi及び/又
はV低濃度部が層状に重なり合っている耐部分腐食性に
優れ疲労強度が高いアルミニウム合金塑性加工品。 - 【請求項2】 Ti及び/又はV高濃度部及びTi及び
/又はV低濃度部が層状に重なり合って分布している塑
性加工方向に平行な断面においてTi高濃度部の面積率
が45〜95%である請求項1記載のアルミニウム合金
塑性加工品。 - 【請求項3】 Cu:0.002〜0.5重量%,Z
n:0.05〜0.3重量%,Cr:0.01〜0.3
重量%,Mn:0.01〜0.4重量%,Zr:0.0
1〜0.2重量%,Fe:0.1〜0.2重量%,B:
0.002〜0.01重量%の1種又は2種以上を含む
請求項1又は2記載のアルミニウム合金塑性加工品。 - 【請求項4】 請求項1又は3記載の組成に調整された
合金溶湯を5℃/秒以上の溶湯冷却速度で鋳造し、得ら
れた鋳塊を520〜580℃×1〜8時間で均質化処理
し、冷却後に塑性加工して鋳造結晶粒を層状に変形さ
せ、更に熱処理することを特徴とする耐部分腐食性に優
れ疲労強度が高いアルミニウム合金塑性加工品の製造方
法。 - 【請求項5】 請求項4記載の塑性加工が、均質化処理
後の鋳塊を450〜520℃に加熱した後、押出し直後
の形材表面温度を510〜560℃に制御した押出加工
であり、そのまま冷却するアルミニウム合金塑性加工品
の製造方法。 - 【請求項6】 請求項4記載の塑性加工が、均質化処理
後の鋳塊を450〜520℃に加熱した後、押出し直後
の形材表面温度を510〜560℃に制御した押出加工
であり、次いで450〜200℃の温度域で押出し形材
の表面を80℃/分以上の冷却速度で冷却するアルミニ
ウム合金塑性加工品の製造方法。 - 【請求項7】 請求項4記載の熱処理が、170〜20
0℃×1〜10時間の時効処理であるアルミニウム合金
塑性加工品の製造方法。 - 【請求項8】 請求項4記載の熱処理が、520〜56
0℃×2〜6時間の溶体化処理後に水焼入れし、次いで
170〜200℃×1〜10時間加熱する時効処理であ
るアルミニウム合金塑性加工品の製造方法。
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JP26661999A JP3552608B2 (ja) | 1998-09-30 | 1999-09-21 | 耐部分腐食性に優れ疲労強度が高いアルミニウム合金押出加工品の製造方法 |
Applications Claiming Priority (3)
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JP27715398 | 1998-09-30 | ||
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CN115717206A (zh) * | 2022-10-28 | 2023-02-28 | 北京科技大学 | 一种高强高耐蚀Al-Mg-Si合金及其制备方法 |
NO20211429A1 (en) * | 2021-11-24 | 2023-05-25 | Norsk Hydro As | A 6xxx aluminium alloy with improved properties and a process for manufacturing extruded products |
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1999
- 1999-09-21 JP JP26661999A patent/JP3552608B2/ja not_active Expired - Fee Related
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CN115717206B (zh) * | 2022-10-28 | 2024-02-13 | 北京科技大学 | 一种高强高耐蚀Al-Mg-Si合金及其制备方法 |
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