JP2000119799A - 耐食性を兼備した被削性および靱性に優れた高強度鋼材 - Google Patents

耐食性を兼備した被削性および靱性に優れた高強度鋼材

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JP2000119799A
JP2000119799A JP10284839A JP28483998A JP2000119799A JP 2000119799 A JP2000119799 A JP 2000119799A JP 10284839 A JP10284839 A JP 10284839A JP 28483998 A JP28483998 A JP 28483998A JP 2000119799 A JP2000119799 A JP 2000119799A
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martensite
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Eiji Nakatsu
英司 中津
Yoshiyuki Murakawa
義行 村川
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Hitachi Metals Ltd
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 マルテンサイト組織を主体とする鋼材の特徴
である強度・延性バランスに優れる利点を害することな
く、被削性を改善した鋼、特にプラスチック成型用金型
用鋼として使用できる高強度プリハードン鋼材を提供す
る。 【解決手段】 重量比でC:0.2%以下、Mn:2.
0%以下、Cr:3.0〜8.0%未満、Co:1%以
下を含有し、組織の60%以上がマルテンサイトである
耐食性を兼備した被削性および靱性に優れた高強度鋼材
である。この鋼は、更にMoを1%以下含有することが
好ましい。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、マルテンサイト組
織による高強度と被削性および靭性さらに耐食性を兼備
した高強度鋼材に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来プラスチック製品を成形するための
金型で被削性にすぐれた金型としては、炭素鋼系、SC
M系やさらにこれらにS、Pbなどの快削性元素を含む
材質が使用されている。
【0003】また、金型材料としては上記の炭素鋼系、
SCM系のほかに、適量のNiおよびAlを添加してそ
れらの金属間化合物を析出させて硬さを確保したものが
提案されている(特開平2- 179845号)。この組
織は、60%以上のフェライトと残りのパーライトとか
らなる2相で、被削性は十分とはいえない。
【0004】とくに大型の金型の材料に適するものとし
て、特定量のCr、MoおよびCuを必須成分として比
較的多量に含有するプリハードン鋼も提案されている
(特開平2- 263953号)。この材料は硬さがHR
C34程度まで高められ、組織は上部ベイナイトに調整
されている。これはSなどの快削元素を添加しなくても
比較的良好な被削性を実現しているが、広範囲な硬さ領
域での被削性は十分ではない。
【0005】さらに、上記のような材料では耐食性が劣
るため長期保管中あるいは水溶性切削油が付着した状態
で放置された場合には発錆などの問題を生じることがあ
る。
【0006】一方、従来から耐食性のすぐれた金型とし
ては、SUS420系、SUS630系などのステンレ
ス系の材料が使用されたり、特開平3- 75333号に
も類似金型鋼が開示されている。これらは難燃性樹脂な
ど腐食性の強い樹脂を成形するための金型材であり、耐
食性に優れ当然保管中の発錆などの問題は無いものの、
被削性が劣るため金型加工工数の増加、納期、価格など
の面で不具合を生じている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】上述した上部ベイナイ
ト組織を主体とするプリハードン鋼材は比較的良好な被
削性を実現しているが、この分野で特に要求される生産
コスト低減、リードタイム短縮の観点からの金型の切削
加工工数の低減にとって十分な被削性を有しているとは
いえない。また安定した被削性を実現する上部ベイナイ
ト組織を得るためには、製造時の熱処理工程で冷却速度
のコントロールが不可欠であり、多大な熱処理工数がか
かるという欠点も有している。
【0008】一方、マルテンサイト組織を主体とする鉄
鋼材料は、初析フェライト、パーライトやベイナイトな
どの組織が出現しないように、ある程度速い速度で冷却
してオーステナイトからマルテンサイト変態させること
で、強度が大きく上昇するにもかかわらず延性・靭性が
ほとんど低下しないという特徴を最大限に利用して種々
の用途に用いられている。しかし、マルテンサイトは被
削性に問題があると考えられており、マルテンサイト組
織に調整した後での機械加工は通常行われていない。
【0009】本発明の目的は、以上のような問題点を解
決するためのものであって、マルテンサイト組織を主体
とする鋼材の特徴である強度・延性バランスに優れる利
点を害することなく、被削性を改善した鋼、特にはプラ
スチック成型金型用鋼として使用できる高強度プリハー
ドン鋼材を提供することである。
【0010】
【課題を解決するための手段】本発明者は、ミクロ組織
と被削性ならびに靭性との関係、さらに耐食性について
も検討し、最適な化学組成に調整することによって焼入
れ時にオーステナイトから生じるマルテンサイト組織
や、焼入れさらに焼戻し過程での金属間化合物や炭化物
の析出挙動を制御して、靭性を害することなく被削性が
大きく改善されることを見出し本発明に到達した。
【0011】すなわち本発明は、重量比でC:0.2%
以下、Mn:2.0%以下、Cr:3.0〜8.0%未
満、Co:1%以下を含有し、組織の60%以上がマル
テンサイトでなる組織を有する鋼であることを特徴とす
る耐食性を兼備した被削性および靱性に優れた高強度鋼
材に関するものである。本発明において、上記組成に更
にMoを重量比で1%以下含有することが好ましい。ま
た、本発明において、上述した特徴を有し被削性をさら
に向上し、さらに例えばプラスチック成形金型用鋼材と
してのシボ加工性、磨き性に優れ、さらには切削加工、
放電加工などの加工後そのまま放置しても錆び発生等の
問題を生じないためには重量比でC:0.1%以下、S
i:1.5%以下、Mn:2.0%以下、Cr:3.0
〜8.0%未満、Ni:1.0〜4.0%、Al:0.
5〜2.0%、Cu:0.3〜3.5%、Co:1%以
下を含有し、残部実質的にFeの化学組成に調整するこ
とが好ましい。さらに上述した作用を有し十分な強度を
確保するためには重量比でC:0.01〜0.1%であ
ることがより好ましい。本発明において、上記組成に更
にMoを重量比で1%以下含有することが好ましい。
【0012】本発明で、Co、Moは重量比で0.1%
以上含有していることがより好適である。
【0013】本発明においては、上述した組織と化学組
成による基本的な作用を損なわない範囲において靱性改
善元素あるいはさらに被削性改善元素を添加することが
できる。
【0014】例えば、靱性改善元素としては、重量比で
V:0.5%以下、被削性改善元素としては、S:0.
20%以下を含有させることができる。
【0015】また、本発明において、さらに基地の硬さ
を向上するためには重量比で0.05%<Si≦1.5
%を満足させることが好ましい。
【0016】
【発明の実施の形態】上述したように、本発明の最も重
要な特徴の1つは、最適な化学組成に調整することによ
って、焼入れ過程での冷却速度が遅くても速くてもマル
テンサイト組織が安定して得られるようにし、かつ、焼
入れ時にオーステナイトから生じるマルテンサイト組織
や、焼入れさらに焼戻し過程での金属間化合物や炭化物
の析出挙動を制御したことで、マルテンサイト組織を主
体とする鋼材の特徴である強度・延性バランスに優れる
利点を害することなく、耐食性を兼備し焼入れ・焼戻し
後の被削性が大きく改善されることを実現したことであ
る。即ち、被削性および靭性の優れたプリハードン用鋼
として使用できるマルテンサイト組織を見いだしたので
ある。
【0017】鋼のマルテンサイトは非常に硬く、高強度
であるが、それは大きな正方歪みを発現し拡散速度の大
きな炭素(C)を含むからである。つまりマルテンサイ
トにおける強化因子は、炭素による大きな正方歪みに起
因する大きな固溶強化や歪み時効と、炭素の大きな拡散
速度に起因するオートテンパーによるコットレル雰囲気
や炭素クラスターの形成さらには室温での動的歪み時効
である。したがって、より高炭素を含有する場合には、
炭素含有量の増加にともなってマルテンサイトの硬さが
急激に増大する反面、靭性が低下する。
【0018】また、鋼のマルテンサイトには種々の形態
のものがあるが、大半の実用熱処理用鋼に現れるマルテ
ンサイトはラス状を呈する。ラスマルテンサイトは極め
て細かい(幅が約0.2μm程度)組織であるが、個々
のラス晶はフェライト組織のような1つの結晶粒として
の作用をもたない。
【0019】それは、ラスマルテンサイトはほとんど同
じ結晶方位(同じバリアント)のものが多数隣接して生
成する傾向があり、これらのラスが合体した境界は小傾
角粒界になるからである。
【0020】光学顕微鏡では、1つのオーステナイト粒
は数個のパケットに分割され、各パケットはさらにいく
つかのほぼ平行な帯状のブロックに分割されている。
【0021】パケットは平行に並んだ(つまり同じ晶へ
き面の)多くのラスの集団からなる領域であり、ブロッ
クは平行でかつ同じ結晶方位をもつラスの集団からなる
領域である。
【0022】このようにパケットあるいはブロックはマ
ルテンサイトの強靱性を支配する基本的組織単位とな
る。炭素鋼や低合金鋼の場合にはブロックの発達が不十
分なため、強靱性は主としてパケットによって支配され
ると考えて良い。具体的には図1 に示す組織を有するこ
とになる。
【0023】以上のように、ラスマルテンサイト組織で
はパケットが、フェライト組織における結晶粒に対応す
る組織単位であり、これらは母相オーステナイトが微細
になるほど細かくなる。つまり、超強力鋼に代表される
これまでの開発では、延性・靭性を害せずさらなる高強
度化をめざすためにラスマルテンサイト組織の微細化に
精力を費やしていたが、反面被削性の劣化が助長されて
いた。
【0024】本発明では、最適な化学組成に調整するこ
と、とくにオーステナイトからマルテンサイトへの変態
時に大きな正方歪みを発現し拡散速度の大きな炭素
(C)を極力低減することによって、強度と被削性とを
バランスよく制御することができ、かつ機械的性質の基
本的組織単位であるマルテンサイトのパケットサイズを
オーステナイト結晶粒度番号で評価して8番と同等かそ
れより大きく調整しやすくなり、マルテンサイト組織を
主体とする鋼材の特徴である強度・延性バランスに優れ
る利点を害することなく、焼入れ・焼戻し後の被削性が
大きく改善できることを見いだした。さらに上記の効果
をより安定して出現させるため、ミクロ組織の60%以
上をマルテンサイトで構成することが好ましいことがわ
かった。
【0025】さらに本発明者の検討によれば、上記のよ
うな低Cマルテンサイトを主体組織としているものの、
焼入れおよび焼戻し過程で旧オーステナイト結晶粒界や
マルテンサイトのパケット境界に析出する炭化物(M7C
3)が靭性に悪影響を及ぼすことがわかり、この改善方
法としてCoあるいはCoとMoを含有することによっ
て、上述の炭化物を基地中に微細な複合炭化物として析
出させることが靱性の改善に非常に有効であることがわ
かった。
【0026】さらに硬さを高め、かつ被削性を向上させ
るためには、上記の焼入れされた低Cマルテンサイト組
織を主体とする基地、旧オーステナイト結晶粒界やマル
テンサイトのパケット境界に、焼戻し時に金属間化合物
(Ni-Al )を析出させることがより好ましいが、やはり
上述の炭化物と同様に旧オーステナイト結晶粒界やマル
テンサイトのパケット境界に析出した金属間化合物は靭
性に悪影響を及ぼし、この改善策としてCoあるいはC
oとMoを含有させることが靭性改善に非常に有効であ
ることもわかった。
【0027】実用上は、35〜45HRCの硬さにおけ
る優れた被削性および耐食性、靭性を兼備させることが
可能である。
【0028】本発明における好ましい成分範囲の基本と
するところは、被削性を害さないで優れた耐食性を付与
するためにCrあるいはさらにMoなどを固溶し、焼入
れされた低Cマルテンサイト組織を主体とする基地を、
焼戻し時に金属間化合物や炭化物を析出させて硬さを高
め、とくにCoあるいはCoとMoを含有することによ
り上述の金属間化合物や炭化物の析出挙動を制御して優
れた靭性を得ようとするものである。
【0029】本発明の高強度鋼材の好ましい成分範囲の
限定理由(上述以外)について説明する。 C:0.2%以下、好ましくは0.1%以下、より好ま
しくは0.01〜0.1% Cは、フェライトの生成を防ぎ、硬さ、強度向上に有効
な元素である。0.2%を超えると、炭化物を形成し切
削時の工具摩耗を増長する原因となったり、基地中のC
r量が減じるため耐食性を劣化するので、0.2%以下
とする。 さらに望ましくは、上述の作用を害さず被削性
をさらに向上させるために0.1%以下とする。なお、
含有量が0.01%未満では十分な強度を確保すること
ができない場合があるのでより好ましくは0.01%以
上とする。 Si:1.5%以下、好ましくは0.05<Si≦1.
5% Siは、通常脱酸剤として使用されるが、一方、靭性を
低下させる反面被削性を改善する。したがって両者の作
用バランスを考慮して1.5%以下が好ましい。さらに
望ましくは、上述の両者の作用バランスを害せず基地の
硬さを向上させるために0.05<Si≦1.5%とす
る。 Mn:2.0%以下 Mnは、Siと同様に脱酸剤として使用されるほか、焼
入れ性を高めてフェライトの生成を阻止する作用がある
が、多すぎると組織に延性を増し被削性を低下するので
2.0%以下とした。 Cr:3.0〜8.0%未満 Crは、耐食性を付与するのに有効な元素であり、明ら
かな効果を示すには3.0%以上の含有が必要である。
しかし、8.0%以上含有すると、耐食性は一層向上す
るがフェライトの形成が増長され必要硬さが確保できな
くなったり、過剰の靭性により被削性が劣化することと
なるので3.0〜8.0%未満と規定した。 Co :1.0%以下 Co は、基地中に固溶して2次硬化性と耐食性を向上さ
せるとともに、Crが主体となって形成されるM7C3
型の炭化物の粗大化を抑制し、この炭化物および金属間
化合物(Ni- Al)を基地中に微細に析出させて、靱
性を改善する。しかし、多すぎると靭性の低下、被削性
の劣化および焼入れ性の低下をまねくこと、また、経済
性も考慮して上限は1.0%とした。より好ましくは、
上述の効果を有効に出現させるため0.1%を下限とし
た。 Mo:1.0%以下 Moは、基地中に固溶して不動態皮膜を強化し耐食性を
向上させるのに極めて有効である。また、Moは、Cと結
合して微細な複合炭化物を形成することによって、Cr
が主体となって形成されるM7C3型の炭化物の粗大化
を抑制する効果があり、上記Coの働きとあいまって靭
性向上やピンホールの生成要因が軽減される。しかし、
過剰に含有すると多量の炭化物を形成して工具摩耗を増
加させるので、上限を1.0%とする。より好ましく
は、上述の効果を有効に出現させるため0.1%を下限
とした。 Ni:1.0〜4.0% Niは、変態点を下げ、冷却時に主体組織であるマルテ
ンサイト組織を均一に生成させる作用と、Alとの金属
間化合物を形成して析出させて硬さを高める作用があ
り、1.0%未満ではこの作用が認められなく、4.0
%を超えてもその効果は添加量の割りには顕著になら
ず、また、オーステナイトを生成し必要以上に粘くなり
被削性を劣化させるので1.0%〜4.0%とする。 Al:0.5〜2.0% Alは、Niと結合し金属間化合物NiAlを形成して
析出させ、硬さを高める作用があり、その効果のために
は0.5%以上を必要とするが、2.0%を越えてもN
iとのバランスの点から析出硬化に効果が期待出来ない
こと、酸化物系の硬い介在物を形成し工具摩耗の原因と
なったり、鏡面研摩性、シボ加工性なども害するので
0.5〜2.0%とした。 Cu:0.3〜3.5% Cuは、少量のFeを固溶した固溶体(ε相)を生成す
るとされ、Niと同様に析出硬化に寄与する。その効果
のためには0.3%以上が必要である。しかし、Cu
は、反面靭性を低下させたり、高温で母材の結晶粒界に
浸潤して、熱間加工性を害する作用をするため3.5%
以下とした。 V:0.5%以下 Vは、結晶粒の細粒化に有効で材料の靭性改善作用を有
し、本発明鋼の特性をさらに改善する効果を示すので、
必要により添加するが、多量に含有すると炭化物を形成
して、工具摩耗を増加させるので上限値は、0.5%と
した。 S:0.20%以下 Sは、Mnと結合してMnS介在物を形成し被削性を向
上させる。しかし、MnSは孔食の起点となり易く耐食
性を劣化させるので必要に応じて添加する。しかし、
0.20%を越えても耐食性の低下に見合う被削性向上
は望めないので上限は0.20%とした。
【0030】
【実施例】つぎに実施例により、本発明を詳細に説明す
る。
【0031】表1に実施例に用いた、本発明鋼、比較
鋼、従来鋼(SUS420、SUS630)の化学成分を示す。表1
に示す成分を有する供試鋼は、30kg高周波真空溶解
炉にて溶解し、40mm×40mmの角棒に鍛伸後、熱
処理を施し実験に供した。
【0032】熱処理は硬さ40HRC±5を得るよう
に、焼入れは1 000℃で1 時間加熱してから空冷し、
その後焼戻しとして520℃から580℃の20℃刻み
の適正温度で1時間加熱後空冷するものである。
【0033】実際の測定評価におけるマルテンサイトの
パケットサイズは、まず光学顕微鏡組織をASTMで規定さ
れている100 倍での標準粒度図と比較して粒度を決定
し、各試料において6 枚の写真についてこれらの測定を
行い平均パケットサイズを求めた。
【0034】被削性の評価は、エンドミル切削試験を実
施し、切削長6m時での工具逃げ面の最大摩耗巾(Vbm
ax)を測定した。切削条件は、2枚刃φ10ハイス・エ
ンドミル、切削速度23m/min 、送り速度0.06mm
/刃、湿式で行った。
【0035】靭性の評価は、2mmU ノッチ試験片(JIS
3号試験片)を用いてシャルピー衝撃試験を実施し、室
温でのシャルピー衝撃値を測定した。
【0036】耐食試験として、 塩水噴霧試験(5%N
aCl、35℃、1hr) 水道水浸せき試験(室温、
1時間浸せき後大気中放置)を実施し、外観観察により
発錆状況を比較しその程度により◎(良好:発錆ゼ
ロ)、○(良:発錆面積率10%未満)、×(不良:発
錆面積率30%以上)、△(中間:発錆面積率10〜3
0%未満)で評価した。
【0037】
【表1】 図2に、本発明鋼の典型的な金属ミクロ組織写真とその
模式図を示す。なお、ここでは代表的な試料1を用い、
模式図は金属ミクロ組織写真中の旧オーステナイト結晶
粒界とマルテンサイトのパケット境界をトレースしたも
のである。これより、本発明鋼は焼戻し低Cマルテンサ
イトを主体組織としていることが確認できる。また、模
式図より、本発明鋼のマルテンサイトのパケットサイズ
が、オーステナイト結晶粒度番号で評価して8番と同等
かそれより大きいこともわかる。大半の実用熱処理用鋼
に現れるマルテンサイトのパケットサイズは、5〜10
μm程度であると言われており、オーステナイト結晶粒
度番号で評価して10番と同等かそれより小さいことに
なる。したがって、本発明ではマルテンサイトのパケッ
トサイズを大きく調整できたことになる。
【0038】図3に、比較鋼の典型的な金属ミクロ組織
写真を示す。なお、ここでは代表的な試料19を用い
た。これより、比較鋼の試料19は初析フェライト、ベ
イナイトおよびマルテンサイトの混合組織であり、面積
率で評価すると初析フェライト:40%、ベイナイト:
10%となりマルテンサイトが組織の50%以下になっ
ていることがわかる。
【0039】図4に、本発明での重要なポイントの1つ
である金属ミクロ組織に及ぼすMo、Co添加の影響を示
す。なお、(a) は比較鋼の試料12(Mo、Co無添加)、
(b) は本発明鋼の試料3( Co 添加)、(c) は本発明鋼
の試料1(Co、Mo複合添加)の金属ミクロ組織写真であ
る。これより、(a) のMo、Co無添加材では低C含有鋼に
もかかわらず旧オーステナイト結晶粒界やマルテンサイ
トのパケット境界に炭化物(M7C3)が多量に析出してい
るのがわかる。また、(b) 、(c) のあるいはCoとMoを添
加した本発明鋼では、旧オーステナイト結晶粒界やマル
テンサイトのパケット境界に析出する炭化物(M7C3)が
かなり減少しているのが確認できる。つまり、本発明に
おけるCo、CoとMoの添加は、靭性の劣化をまねく、
旧オーステナイト結晶粒界やマルテンサイトのパケット
境界に析出する炭化物(M7C3)の抑制に非常に効果的で
ある。
【0040】上記の結果も含めて、表1の試料で、マル
テンサイト量・パケットサイズ、硬さ、耐食性(水道水
浸漬、塩水噴霧試験)、被削性、靭性について検討した
結果を整理したものが表2である。ここで表2では、マ
ルテンサイト量が60%以上を○、それ未満を×として
示した。
【0041】
【表2】 本発明の好ましい組成範囲である試料1〜7は、いずれ
もマルテンサイト組織がミクロ組織の60%以上を占
め、そのパケットサイズが8番より大きく、熱処理によ
り硬さ40±5HRCを満たす硬さが得られ、靭性を兼
備し被削性に優れたものであった。また、試料1〜7の
どの鋼種においても長期保管中あるいは水溶性切削油が
付着した状態で放置された場合にも発錆などの問題が生
じない程度の耐食性を有していることがわかる。
【0042】一方、従来鋼である試料23、24は、パ
ケットサイズが8番より細粒であり、被削性が非常に悪
く、試料24では欠けが生じた。
【0043】また、比較鋼である試料11〜14、22
はいずれも熱処理により硬さ40±5HRCを満たし、
パケットサイズは8番より大きいサイズで良好な被削性
を有しているが、靭性が低いのがわかる。比較鋼である
試料15、17、21は、パケットサイズが8番より細
粒で被削性が非常に悪く、靭性も低い。
【0044】比較鋼である試料8は、Mo、Co添加効果で
靭性は良好であるが極低Cであるため硬さがやや低めと
なった。また、試料9、10は、MoおよびCoが好ましい
組成範囲を越えているため靭性は良好なものの被削性が
劣化した。
【0045】比較鋼である試料19、20は、マルテン
サイト組織が組織の60%未満となって硬さが低く、さ
らに硬さが低いわりには被削性が悪いことがわかった。
【0046】一方、試料16はCが低く、18、19、
20は、Ni、Cu、Alなどの析出硬化元素が不足の
ため硬さを高めることができなかった。
【0047】また、Crの低い試料19や、S量の多い
試料22は錆び易く、Cが高くCrが低い試料18、2
0もやや錆び易い。
【0048】
【発明の効果】本発明によればマルテンサイト組織を主
体とする鋼材の熱処理後の加工性を飛躍的に高めるた
め、生産コスト低減、リードタイム短縮の観点からの金
型の切削加工工数の低減にとって欠くことのできない高
強度プリハードン鋼材となる。
【0049】特に本発明の好ましい組成範囲を満たすこ
とにより、強度・延性バランスに優れる利点を害するこ
となく、35〜45HRCの硬さを有し、耐食性に優
れ、かつ被削性を飛躍的に改善することができるという
プラスチック成形用金型用鋼材として極めて有用であ
る。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の鋼材の有する金属ミクロ組織の模式図
である。
【図2】本発明の鋼材の典型的なミクロ組織の金属ミク
ロ組織写真と模式図である。
【図3】比較鋼材の代表的なミクロ組織の金属ミクロ組
織写真である。
【図4】本発明の効果を明確に示した典型的なミクロ組
織の金属ミクロ組織写真である。

Claims (8)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 重量比でC:0.2%以下、Mn:2.
    0%以下、Cr:3.0〜8.0%未満、Co:1%以
    下を含有し、組織の60%以上がマルテンサイトでなる
    組織を有する鋼であることを特徴とする耐食性を兼備し
    た被削性および靱性に優れた高強度鋼材。
  2. 【請求項2】 更に重量比でMoを1%以下含有するこ
    とを特徴とする請求項1記載の耐食性を兼備した被削性
    および靱性に優れた高強度鋼材。
  3. 【請求項3】 重量比でC:0.1%以下、Si:1.
    5%以下、Mn:2.0%以下、Cr:3.0〜8.0
    %未満、Ni:1.0〜4.0%、Al:0.5〜2.
    0%、Cu:0.3〜3.5%、Co:1%以下を含有
    し、残部実質的にFeよりなることを特徴とする請求項
    1に記載の耐食性を兼備した被削性および靱性に優れた
    高強度鋼材。
  4. 【請求項4】 更に重量比でMoを1%以下含有するこ
    とを特徴とする請求項3記載の耐食性を兼備した被削性
    および靱性に優れた高強度鋼材。
  5. 【請求項5】 Cは重量比で0.01〜0.1%である
    ことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の
    耐食性を兼備した被削性および靭性に優れた高強度プリ
    ハードン鋼材。
  6. 【請求項6】 重量比でV:0.5%以下を含有するこ
    とを特徴とする請求項3ないし5のいずれかに記載の耐
    食性を兼備した被削性および靭性に優れた高強度プリハ
    ードン鋼材。
  7. 【請求項7】 重量比でS:0.20%以下を含有する
    ことを特徴とする請求項3ないし6のいずれかに記載の
    耐食性を兼備した被削性および靭性に優れた高強度プリ
    ハードン鋼材。
  8. 【請求項8】 重量比で0.05%<Si≦1.5%を
    満たすことを特徴とする請求項3ないし7のいずれかに
    記載の耐食性を兼備した被削性および靭性に優れた高強
    度プリハードン鋼材。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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