JP2000103740A - 魚介類用薬剤及び飼料 - Google Patents

魚介類用薬剤及び飼料

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Abstract

(57)【要約】 【課題】 狭い環境で密殖飼育される養殖魚類や甲殻類
が受けるストレスを緩和し、これらの魚介類が本来備え
ている免疫機能を活性化して疾病を予防し、健康且つ安
全な魚類及び甲殻類を育成するための物質を提供する。 【解決手段】 Bacillus属に属するバチルス・ツリンゲ
ンシスとバチルス・プミラスを混合培養して、ペプチド
その他の代謝物や生成物を得、この代謝物や生成物、或
いは代謝物や生成物を含む発酵混合体を有効成分とす
る、免疫賦活、感染症予防及び抗ストレスに効果の有る
薬剤を得る。また、この薬剤を添加した飼料を得る。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、魚介類用の薬剤及び該
薬剤を添加した飼料に係わり、殊に、免疫賦活、感染症
予防、抗ストレスに著効を示す薬剤とこの薬剤を適宜の
割合で添加した飼料に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、魚介類殊に魚類や甲殻類の増養殖
産業が発展するに伴って、ウイルス性並びに細菌性疾病
が多発し、甚大な被害をもたらしている。ウイルス病に
ついては、特にマダイ、ブリ、カンパチなどのイリドウ
イルス感染症及びエビ類の急性ウイルス血症(PVA)
による経済的被害が大きいが、治療薬は未だ開発されて
いない。細菌性疾病については、ブリの腸球菌症、類結
節症、ブリ・マダイ・ニジマス・アユ・エビ類のビブリ
オ病、ヒラメのエドワジエラ感染症による経済的被害が
大きい。これらの細菌性疾病の治療薬として、多数の抗
生物質及び合成抗菌剤が用いられているが、近年、抗菌
性物質に対して耐性菌が出現し、充分な治療効果が得ら
れない状況にある。また、使用した薬剤の魚類及び甲殻
類への残留による公衆衛生上の問題が生じていることか
ら、化学療法に依存しない防疫対策が強く望まれてい
る。また、真珠母貝や牡蠣などの養殖貝類においても、
近年ウイルス性疾病が多発して養殖業者は莫大な被害を
被っているが、斃死した貝を廃棄処分する以外に手立て
がないのが現状である。
【0003】一方、魚類や甲殻類の免疫機能を増強する
目的で、ビィフィズス菌由来のペプチドグリカンやキノ
コ由来のβ−1,3−グルカンなどの多糖類を利用する
ことは、既に知られている。しかし、本発明のように、
バチルス・ツリンゲンシスとバチルス・プミラスの混合
培養によって得られるペプチド等の代謝物、及び異なる
種類のペプチドの相乗作用によって、魚類や甲殻類の免
疫機能をより活性化する方法は知られていない。また、
魚類や甲殻類にこれらの代謝物を投与することによっ
て、抗ストレス作用が発揮されることも知られていな
い。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】前述したように、養殖
魚介類には多くの疾病が発生し、それによる年間被害額
は250億円にも及んでいる。この背景には、養殖魚介
類が狭い環境で飼育されることによるストレスの負荷、
及び免疫機能の低下が挙げられる。このような現状に鑑
み、本発明は養殖魚介類のストレスを緩和するととも
に、これらの魚介類が本来備えている免疫機能を活性化
して疾病を予防し、健康且つ安全な魚類、甲殻類、及び
貝類を育成するための物質を提供しようとするものであ
る。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明は、上記の課題を
解決するために、バチルス・ツリンゲンシス(Bacillus
thuringiensis)とバチルス・プミラス(Bacillus pum
ilus)の混合培養の結果得られたペプチド等の代謝物や
混合培養に使用した発酵副原料の発酵中間物質や発酵残
渣物質、更にはバチルス胞子からなる混合体(以下、発
酵混合体と言う)、または、それらから分離・精製した
ペプチド(peptide )等の代謝物を飼料に添加して、魚
類及び甲殻類に投与したところ、魚類・甲殻類が本来的
に持っている様々な免疫機能が活性化されるとともにス
トレスが緩和され、ウイルスや細菌による感染を防御す
ることを確認し、本発明を完成した。また、貝類の場
合、これらの菌体等を溶解分散した水に適時浸漬するこ
とによりウイルスや細菌による感染を防御することを確
認した。
【0006】使用法としては、バチルス・ツリンゲンシ
スとバチルス・プミラスの発酵混合体を、魚類や甲殻類
の体重1kgあたり1日量として、0.5〜100mgを
飼料等に混合して投与することが望ましい。より効果が
高いのは1〜50mgであり、10mg前後が最も効果
が高い。また、上記の培養菌体から分離・精製したペプ
チド等の代謝物の場合、魚類、エビ類の体重1kg当た
り1日量として0.05〜2.0mg、殊に0.2mg〜1.0
mgを飼料に混合して投与することが最も望ましい。
【0007】尚、本発明で言う発酵混合体とは、前記し
たようにバチルス・ツリンゲンシスとバチルス・プミラ
スの混合培養の結果得られた、ペプチドなどの代謝物や
生成物を含む、発酵中間物質や発酵残渣物質、バチルス
胞子などからなる混合物のことを言う。ここに代謝物と
は、菌体の活動や胞子化、殊に胞子化に伴い分泌される
ものを言い、これには抗生作用を有する環状ペプチドや
いちべのポリペプチドなどが含まれる。また生成物と
は、栄養源の分解物や該分解物同志の反応生成物例えば
アンモニア、硫化水素、アミノ酸、アミノ酸とカルボシ
ル基を有する物質との反応により生じるポリペプチドな
どが含まれる。そして、発酵混合体中に含まれているポ
リペプチドや環状ペプチド等の代謝物や生成物質は、希
エタノールや水等の溶媒に溶出させ、それらのみを回収
して薬剤として利用できる。更に、発酵混合物には、籾
殻炭等の発酵副原料やその消化物も含まれる。そして、
その特徴は極めて高濃度の代謝物を含有していることに
ある。即ち、バチルス・ツリンゲンシスとバチルス・プ
ミラスは、胞子の発芽、増殖、解体、胞子化と言う増殖
サイクルを繰り返し行なって優先化し、その活動や胞子
化に伴い分泌される代謝物の濃度を増大させるものであ
る。
【0008】バチルス・プミラスが、抗菌物質や抗生物
質、生理活性物質を産生することは知られている(特公
昭57−6913、特公昭61−12914、特許25
6479)。また、バチルス・ツリンゲンシスが線虫類
毒素を産生することも知られている(特開昭64−67
192)。しかし、バチルス・ツリンゲンシスとバチル
ス・プミラスを混合培養すること、及び混合培養の結
果、魚介類の免疫賦活、感染予防、抗ストレスに著効の
ある物質を高濃度に産生すること、更に代謝物が相乗的
に作用することは知られていない。また、バチルス・ツ
リンゲンシスが免疫賦活物質を産生することも知られて
いない。
【0009】一般に、バチルスは好気性ないし通性嫌気
性条件と適度の温度と湿度のもとで、蛋白質、糖質、脂
質、尿素・尿酸等の栄養分を、菌種に応じて分解資化し
て成長し、増殖条件の欠如とともに内胞子を形成し、や
がて解体して胞子となる。胞子は悪環境条件にも強く、
生命を維持して増殖条件の出現とともに発芽して、同様
の過程を繰り返して菌密度(胞子密度)を高める。そし
て、菌が代謝して増殖するに際して、代謝物を産出す
る。
【0010】中でも、バチルス・ツリンゲンシスは殊に
多糖類の分解性能に優れ、バチルス・プミラスは単糖類
や蛋白質の分解性能に優れる。従って、この両者を混合
培養した場合、栄養分解の分担が行なわれ、相互に助長
し合って増殖する。そして、貧栄養状態を出現させた場
合、桿菌状態や糸状体にあるバチルスは死滅するが、残
存していたバチルス・ツリンゲンシスとバチルス・プミ
ラスの胞子が生命を維持しており、バチルス死細胞壁や
細胞質、胞子の脱け殻等に含まれる多糖類はバチルス・
ツリンゲンシスが分解・資化し、分解により得られた単
糖類や蛋白質はバチルス・プミラスが分解・資化し、バ
チルス・ツリンゲンシスとバチルス・プミラスが相互に
助長し合って優先化していく。そして、増殖過程を繰り
返した結果、これらバチルス・ツリンゲンシスとバチル
ス・プミラスの菌体や胞子密度は1010〜1012個/g
にも及ぶが、貧栄養状態(消化発酵、貧栄養下での発
酵)を繰り返し出現させた場合には、休眠胞子としてそ
の密度が102 〜104 個/gと自然分布状態にまで減
少している。
【0011】本発明の特徴は、このように両バチルスの
性質を利用して、魚介類の免疫賦活、感染予防、抗スト
レス効果のある代謝物を高濃度に含む薬剤を提供するこ
と、及び該薬剤を添加した魚介類用飼料を提供すること
にある。尚、動物体内においてバチルス・ツリンゲンシ
スやバチルス・プミラスが発芽して活動したり、動物に
有害な影響を及ぼすことは皆無である(EPA報告、W
HO報告等)。また、バチルス胞子はその状態で動物体
内を通過するに過ぎないことも実験で確かめられてい
る。一方、本発明における代謝物の分離・精製は、本発
明の発酵混合体から水とアルコールを用いて抽出すると
か、イオン交換クロマトグラフィー及びアフィニテイク
ロマトグラフィーによって得られた免疫活性化画分をス
ーパーロースでゲル濾過する方法などにより行なわれ
る。
【0012】本発明の対象となる魚類とは、ブリ、マダ
イ、トラフグ、ヒラメ、ニジマス、ウナギ等、全ての海
産魚類、淡水魚類を含む。甲殻類とは、全てのエビ類、
カニ類を含む。また貝類とは、真珠母貝(アコヤ貝)、
牡蠣、帆立貝等全ての貝を含む。感染症とは、イリドウ
イルス感染症、ラブドウイルス病、神経壊死症、赤血球
封入体症候群、伝染性造血器壊死症、エビ類の急性ウイ
ルス血症、連鎖球菌症、腸球菌症、類結節症、ビブリオ
病、エドワジエラ症、シュードモナス感染症、滑走細菌
症、水カビ病、白点病などのほか、全てのウイルス、細
菌、真菌及び寄生虫感染症を言う。尚、本発明の飼料は
特に限定されるものではなく、粉末飼料、固型飼料、モ
イストペレット飼料、ドライペレット飼料、EP飼料、
生餌など、魚介類の種類に応じて使用される飼料であれ
ば、どのような飼料でも構わない。貝類の場合、一般に
飼料は使用されないので、本発明の薬剤を懸濁した海水
に貝類を浸漬するのも一方法である。
【0013】本発明の薬剤や飼料は、各種の養殖魚介類
以外に、水族館その他で飼育されている魚介類、家庭で
飼育されている鑑賞魚等にも使用できることはいうまで
もない。
【0014】
【実施例】(実施例 1) 魚類の免疫機能に対する増
強作用 試験方法:平均体重340gのブリを10尾ずつの4群
に分け、本発明の1、2、3区にはバチルス・ツリンゲ
ンシスとバチルス・プミラスの発酵混合体をブリの体重
1kg当たり1日量として、それぞれ1、10、50m
gとなるようにモイストペレットに混合して7日間投与
した。4区の対照区には、発酵混合体を含まないモイス
トペレットを与えた。発酵混合体の投与開始後3日目及
び7日目に各区5尾ずつのブリから頭腎を摘出し、0.2
5%Nacl添加RPM1−1640−HAH培地を入
れたプラスチックシャーレ内で血球細胞を分離し、細胞
濾過器に通して細胞懸濁液を得た。この液をpercoll 不
連続密度勾配上に重層した後、1,600rpm 、20分間
(4℃)の遠心分離を行って、白血球層を得た。この層
を採取後、遠心洗浄して10%FBSを含む0.25%N
acl添加RPM1−1640−H培地に懸濁し白血球
の細胞数を1.0×107 細胞/mlに調整した。この白
血球懸濁液500μlと、ブリ血清でオプソニン化して
おいた酵母の懸濁液(1.0×108 細胞/ml)500
μlをシリコン処理したガラス試験管に入れ、10分お
きに攪拌しながら25℃で60分間インキュベートし
た。インキュベート終了後、ブリ1個体当たり5枚の塗
抹標本を作成し、ライト染色を施してオイキットで封入
した。更に、光学顕微鏡によって1標本あたり200細
胞の血球を無作為に観察し、白血球の酵母貪食数を調
べ、下式によって貪食率、1細胞当たりの酵母取り込み
数及び貪食指数を求めた。 貪食率 :酵母を取り込んだ白血球数/観察白 血球総数×100 平均取り込み数:白血球に取り込まれた酵母数/酵母 を取り込んだ白血球数 貪食指数 :(酵母を取り込んだ白血球数/観察 白血球総数)×(白血球に取り込ま れた酵母数/観察白血球総数)×100
【0015】試験結果:本発明区及び対照区におけるブ
リ白血球の貪食率、平均取り込み数及び貪食指数を、表
1に示した。表1から明らかなように、発酵混合体を3
日間投与したブリに於ける白血球の酵母貪食率、平均取
り込み数、貪食指数は、いずれも10mg区、50mg
区、1mg区、対照区の順で高く、10mg区の貪食
率、平均取り込み数及び貪食指数、及び50mg区の貪
食率、貪食指数には、対照区のそれらとの間に明らかに
有意の差が見られた。また、発酵混合体を7日間投与し
た場合、1mg区の貪食率、平均取り込み数及び貪食指
数も、対照区のそれらとの間に明らかに有意の差が見ら
れた。以上のことから、魚類に本発明の発酵混合体を投
与することにより、白血球の貪食活性が高まることが明
らかになった。
【表1】
【0016】(実験例 2) 魚類の免疫機能に対する
相乗的増強作用 試験方法: 平均体重275gのブリを5尾ずつの6群
に分け、本実験の1、2、3、4、5区には、バチルス
・ツリンゲンシスの培養によって得られたポリペプチド
等代謝物(以下、B.T.と略す)と、バチルス・プミ
ラスの培養によって得られた環状ペプチド等の代謝物
(以下、B.P.と略す)を、表2の割合でモイストペ
レットに混合して、7日間投与した。また、6区の対照
区には代謝物を含まない(無添加)モイストペレットを
与えた。7日間投与後、各区5尾ずつのブリから頭腎を
摘出し、実施例1と同じ方法によって白血球の酵母貪食
数を調べ、貪食率、1細胞当たりの酵母取り込み数及び
貪食指数を求めた。
【0017】試験結果: 本実験区及び対照区に於ける
ブリ白血球の貪食率、平均取り込み数及び貪食指数を表
2に示した。代謝物B.T.及びB.P.をブリの体重
1kg当たりの1日量として0.2mgずつの合計0.4m
gを7日間投与したブリにおける白血球の酵母貪食率、
平均取り込み数及び貪食指数は、対照区と比べて有意に
高かった。また、B.T.0.2mgとB.P.0.2mg
を併用した区のこれらの値は、B.T.のみ又はB.
P.のみを投与した全ての区に比べて高かった。代謝物
の0.4mg(B.T.0.2mg+B.P.0.2mg)
は、発酵混合体約10mgから精製される量であること
から、実施例1の発酵混合体10mg投与区において、
ブリの免疫機能が著しく活性化された原因は、発酵混合
体に含まれる異なるペプチド等の代謝物の相乗作用によ
るものであることが、示唆された。
【表2】
【0018】(実施例 3) 魚類の免疫機能に対する
相乗的増強作用 試験方法: 平均体重275gのブリを5尾ずつの6群
に分け、本発明の1区、2区にはバチルス・ツリンゲン
シスとバチルス・プミラスの発酵混合体から分離・精製
したペプチド等の代謝物を、表3の割合でモイストペレ
ットに混合して、7日間投与した。また、3区の対照区
には代謝物を含まないモイストペレットを与えた。7日
間投与後、各区5尾ずつのブリから頭腎を摘出し、実施
例1と同じ方法によって白血球の酵母貪食数を調べ、貪
食率、1細胞当たりの酵母取り込み数及び貪食指数を求
めた。尚、代謝物の分離・精製は、発酵混合体からイオ
ン交換クロマトグラフィー及びアフィニテイクロマトグ
ラフィーによって得られた免疫活性化画分をスーパーロ
ースでゲル濾過する方法によった。
【0019】試験結果: 本発明区及び対照区に於ける
ブリ白血球の貪食率、平均取り込み数及び貪食指数を表
3に示した。代謝物をブリの体重1kg当たりの1日量
として、0.2mg及び0.4mgを7日間投与したブリに
おける白血球の酵母貪食率、平均取り込み数及び貪食指
数は、対照区と比べて有意に高かった。代謝物の0.4m
gは、発酵混合体約10mgから精製される量であるこ
とから、実施例1の発酵混合体10mg投与区におい
て、ブリの免疫機能が著しく活性化された原因は、発酵
混合体に含まれる異なるペプチド等の代謝物の相乗作用
によるものであることが、示唆された。
【表3】
【0020】(実施例 4) ブリの腸球菌症に対する
予防効果 試験方法:平均体重130gのブリを20尾ずつの6群
に分け、本発明の1、2、3区にはバチルス・ツリンゲ
ンシスとバチルス・プミラスの発酵混合体(表では、混
合体と表記)、をブリの体重1kg当たり1日量とし
て、それぞれ1、10、50mgを、また対照1区には
バチルス・ツリンゲンシス(BT)のみの発酵混合体を
ブリの体重1kg当たり1日量として10mg、対照2
区にはバチルス・プミラス(BP)のみの発酵混合体を
同じく10mgとなるようにモイストペレットに混合し
て毎日投与した。対照3区には、これらの物質を含まな
い(無添加)モイストペレットを与えた。投与開始後7
日目にブリの腸球菌症の原因菌であるEn-terococcus se
riolicidaをブリ1尾当たり7×106 細胞となるよう
に腹腔内接種し、接種後15日間の斃死率を求めた。
【0021】試験結果:本発明区及び対照区における病
原菌接種後のブリの累積斃死尾数と斃死率を表3に示し
た。また、図1は経過日数とブリの腸球菌症に対する生
存数及び生存率の関係を示すグラフである。病原菌接種
後15日間の斃死率は、対照3区が75%であったのに
対して、本発明区のそれは10〜30%と何れも低く、
対照3区と各発明区との間には有意の差が認められた。
特に、発酵混合体10mg区は、発酵混合体1mg区及
び50mg区よりも斃死率が著しく低率であったことか
ら、本発酵混合体の最適投与量は、魚体重1kg当たり
10mg付近であると考えられる。また、本発明の発酵
混合体10mg区の斃死率は、単一菌種BT又はBP1
0mg区のそれよりも有意に低かった。この原因につい
ては、BTとBPを混合培養することによる相互作用に
より得られるペプチド等の代謝物が、魚類の免疫機能を
相乗的に活性化するための適正量に達した結果であると
推察される。このように、本発明の物質は、魚類の免疫
機能を高めることによって、病原体による感染を有効に
防御することが明らかになった。
【表4】
【0022】(実施例 5) 魚類に対する抗ストレス
作用 試験方法:平均体重240gのマゴイを10尾ずつの3
群に分け、本発明区の1区にはバチルス・ツリンゲンシ
スとバチルス・プミラスの発酵混合体をマゴイの体重1
kg当たり1日量として10mgとなるように混合した
飼料を20日間投与した。2区及び3区には発酵混合体
を含まない飼料を与えた。そして、1区及び2区に対し
ては水温変化ストレスを20日間負荷させ、3区は常時
25℃の水温下で飼育した。即ち、1区及び2区には、
25℃から30℃、30℃から25℃、25℃から20
℃、20℃から25℃、25℃から30℃へと、それぞ
れ12時間かけて水温の上昇と下降ストレスを20日間
負荷させた。20日間のストレス負荷後、マゴイの心臓
から採血し、赤血球数、ヘマトクリット値及びヘモグロ
ビン量を測定して水温変化ストレスによる生理的影響を
調べた。
【0023】試験結果:本発明区及び対照区における水
温変化ストレス負荷後の赤血球数、ヘマトクリット値及
びヘモグロビン量を表4に示す。魚類に水温変化ストレ
スを負荷させると、血液性状が変化することが知られて
いる。マゴイに、20日間にわたって激しい水温変化ス
トレスを負荷させたところ、2区のストレス負荷対照区
の赤血球数、ヘマトクリット値及びヘモグロビン量は著
しく低下し貧血状態を呈したのに対し、本発明区はスト
レスを負荷させない3区と同様の血液性状を示した。こ
のように、本発明の発酵混合体は魚類の免疫機能を高め
るだけでなく、抗ストレス作用を有することが明らかに
なった。
【表5】
【0024】(実施例 6) エビ類の生体防御機能に
対する増強作用 試験方法:平均体重25gのクルマエビを10尾ずつの
4群に分け、本発明区の1、2、3区にはバチルス・ツ
リンゲンシスとバチルス・プミラスの発酵混合体をエビ
の体重1kg当たり1日量として、それぞれ1、10、
50mgとなるように飼料に混合して7日間投与した。
4区の対照区には、発酵混合体を含まない飼料を与え
た。7日間投与後、抗凝固剤としてのL−システインを
含むK−199培地を入れた注射器を用いてエビの胸洞
から採血し、遠心分離によって血球を得た。懸濁液1m
l当たり5×105 細胞の血球と1×108 個のラテッ
クスビーズ(直径1.986μm)を混合し、25℃で3
0分間反応させたのち、グルタールアルデヒドで固定
後、洗浄風乾した。風乾後、ギムザ液で染色し、オイキ
ットを用いてスライドガラス上に固定した。この標本を
エビ1尾当たり5枚作製し、落射蛍光顕微鏡を用いて標
本1枚当たり200個の血球を無作為に観察し、血球の
ラテックスビーズ貪食数を調べ、実施例1と同様の計算
式によって貪食率、1細胞当たりのビーズ取り込み数及
び貪食指数を求めた。
【0025】試験結果:本発明区及び対照区におけるエ
ビ血球の貪食率、平均取り込み数及び貪食指数を表5に
示した。発酵混合体を7日間投与したクルマエビにおけ
る血球のラテックスビーズ貪食率、平均取り込み数及び
貪食指数は、何れの本発明区も対照区に比べて高く、有
意な差が見られた(P<0.05)。また、発明区の中で
は10mg区の貪食活性が最も高く、次いで50mg
区、1mg区の順であり、魚類の白血球に対する作用と
同じ傾向が見られた。以上のことから、クルマエビに本
発明の発酵混合体を投与することによって血球の貪食活
性が高まることが明らかになった。
【表6】
【0026】(実施例 7) クルマエビの急性ウイル
ス血症に対する予防効果 試験方法:平均体重8.5gのクルマエビを20尾ずつの
4群に分け、本発明区の1、2、3区にはバチルス・ツ
リンゲンシスとバチルス・プミラスの発酵混合体をエビ
の体重1kg当たり1日量として、それぞれ1、10、
50mgとなるように飼料に混合して17日間投与し
た。4区の対照区には、発酵混合体を含まない飼料を投
与した。
【0027】発酵混合体投与開始後8日目に、クルマエ
ビ急性ウイルス血症の原因ウイルスであるPRDV(Pe
naeid rod-shaped DNA virus)によって攻撃試験を行な
った。攻撃方法は、本病によって斃死した体重約10g
のクルマエビ3尾の頭胸部の甲皮を剥がしたのち、40
mlの滅菌海水中でホモジナイズし、遠心分離(10,0
00×g、10分間、4℃)によって得られた上清1m
lを2リットルの海水に加えた。この中に、発酵混合体
投与後8日目のエビを2時間浸漬することによって攻撃
した。攻撃後10日間の斃死状況を観察し、斃死エビに
ついてはPCR法及び病理学的検査を行なってPRDV
による斃死であることを確認した。
【0028】試験結果:本発明区及び対照区におけるP
RDVによる攻撃後のクルマエビの累積斃死尾数と斃死
率を表6に示した。また、図2はクルマエビのPRDV
に対する感染後生存数と生存率の関係を示すグラフであ
る。PRDVによる攻撃後、対照区は10日以内に10
0%が斃死したのに対し、本発明区の斃死率は発酵混合
体10mg区が15%、発酵混合体50mg区が30
%、発酵混合体1mg区が35%であり、対照区と各発
明区との間には有意な差が見られた(P<0.05)。特
に、発酵混合体10mg区は発酵混合体1mg及び発酵
混合体50mg区よりも斃死率が低かったことから、本
発酵混合体のエビ類に対する最適投与量は、魚類と同様
に、体重1kg当たり10mg付近であると考えられ
る。このように、本発明の物質はエビ類の生体防御機能
を高めることによって、ウイルスによる感染を防御する
ことが明らかになった。
【表7】
【0029】(実施例 8) エビ類に対する抗ストレ
ス作用 試験方法:容積が60×40×30(高さ)cm3 の水
槽3個に、砂を5cmの厚さに敷きつめ、底面濾過装置
を取付てエアレーションを施した。この水槽に、平均体
重15gのクルマエビを1区及び2区には40尾、3区
には20尾収容した。本発明区の1区には、バチルス・
ツリンゲンシスとバチルス・プミラスの発酵混合体をエ
ビの体重1kg当たり1日量として10mgとなるよう
に混合した飼料を毎日与え、1ケ月間飼育した。2区及
び3区には、発酵混合体を含まない飼料を投与した。飼
育期間中の水温は、1、2、3区とも23±1℃であっ
た。1ケ月間飼育した後に、各区10尾ずつのエビの胸
洞から採血し、血リンパ液中のMgイオン濃度をXylidy
l Blue法(マグネシウムBキット、和光純薬製)によっ
て測定した。
【0030】試験結果:本発明区及び対照区における過
密ストレス負荷前後の血リンパ液中のMgイオン濃度を
表7に示した。ストレスを受けたエビ類では、血リンパ
液中のMgイオン濃度が増加することが知られている。
クルマエビに、過密ストレスを負荷させたところ、2区
のストレス負荷対照区はMgイオン濃度の著しい上昇が
見られたのに対し、本発明区(発酵混合体10mg区)
は、ストレスを負荷させない3区と同様に、低いMgイ
オン濃度を維持した。このように、本発明の発酵混合体
はエビ類の生体防御能を高めるだけでなく、抗ストレス
作用を有することが明らかになった。
【表8】
【0031】(実施例 9) 抽出物によるクルマエビ
の生体防御作用 実施例6及び実施例7で示したように、本発明の発酵混
合体には、クルマエビの生体防御機能を高めまた急性ウ
ィルス血症を予防する作用を有することが明らかであ
る。そこで、発酵混合体のどの物質がクルマエビの生体
防御能を増強しているのかを知るために、発酵混合体、
水とアルコールで抽出した蛋白質、及び水に不溶の芽胞
を含む残渣、の3者を別々にクルマエビに注射して、生
体防御能の指標としてのフェノールオキシダーゼ活性を
調べた。
【0032】試験方法:(検体の内訳)バチルス・ツリ
ンゲンシスとバチルス・プミラスの混合培養区(A区)
1,000mgから水とエチルアルコールを用いた抽出に
よって、蛋白質(B区)65mg(6.5%)を得た後、
水に不溶の芽胞及び残渣(C区)935mg(93.5
5)を回収し、各検体を試験に供した。(クルマエビに
対する検体接種方法)平均体重20gのクルマエビを各
区5尾ずつの合計20尾用い、滅菌50%海水に懸濁又
は溶解した検体を、エビの体重1kg当たり発酵混合体
(A区)を10mg、蛋白質(B区)を0.65mg、芽
胞を含む残渣(C区)を9.35mgとなるように、第3
腹節筋肉内に接種した。また、対象区には、検体を含ま
ない滅菌50%海水を接種した。(生体防御能の測定)
各検体を接種したのち24時間後に、エビの胸洞から採
血し、血球を分離した。血球数を1.0×106 細胞/m
lに調整後、超音波によって血球を破壊し、この血球破
壊液900μlに、基質溶液としてL−DOPA液(L
−DOPA2.9mg/ml含有)100μlを加え、6
0℃で1時間反応させたのち、分光光度計を用いて49
0nmに於ける吸光度を測定し、フェノールオキシダー
ゼ活性とした。
【0033】試験結果:各検体を接種したクルマエビに
おけるフェノールオキシダーゼ活性を表9に示した。エ
ビの生体防御能が活性化されているか否かは、フェノー
ルオキシダーゼ活性を測定することによって明確になる
ことが知られている。本実施例において、3種類の検体
をクルマエビに接種したところ、A及びB区のフェノー
ルオキシダーゼ活性が有意(P<0.01)に上昇したこ
とから、発酵混合体(A区)中の生体防御能促進物質
は、ペプチド等の蛋白質であることが明らかになった。
【0034】(実施例 10) マガキのウイルス性疾
病に体する予防効果 試験方法及び結果:バチルス・ツリンゲンシスとバチル
ス・プミラスの発酵混合体を2%濃度で海水に分散・溶
解した。この海水に、2年生のマガキ10個を入れたカ
ゴ5組(計50個)を、60分間浸漬した後、試験養殖
イカダに戻す。この操作を、1回/週で3ケ月繰り返し
た。この試験養殖イカダを装着する海水槽中にウイルス
性疾病で斃死したマガキ2個を投入しておく。しかし、
カゴ中のマガキにはウイルス性疾病が殆ど発生せず、斃
死率は2%(1個)であった。これに対し、同様に2年
生のマガキ10個を入れたカゴ5組(計50個)を対象
区として無処理のまま海水槽中に浸漬しておいたとこ
ろ、14個が斃死(斃死率28%)した。
【0035】
【発明の効果】以上詳述したように、本発明はバチルス
・ツリンゲンシスとバチルス・プミラスの混合培養によ
って得られたペプチド等の代謝物を有効成分として含有
する魚介類用薬剤、及び該薬剤を添加した魚介類用飼料
に関するものである。
【0036】そしてこの薬剤は、バチルス・ツリンゲン
シスとバチルス・プミラスの混合培養の結果得られた発
酵混合体中に含まれる異なる種類のペプチド等の代謝物
が示す相乗作用の結果、魚類、甲殻類及び貝類に対し
て、免疫賦活、感染症予防、抗ストレスに極めて優れた
効果をもたらす。そのため、養殖魚介類の疾病や斃死が
確実に防止され、養殖業界に多大な貢献をなすものであ
る。
【0037】また本発明の薬剤は、ごく少量の投与量で
免疫賦活、感染症予防、抗ストレスに優れた効果を示す
ため低コストであり、従来の高価な抗生物質を不要にす
る大きな効果がある。しかも、本発明の薬剤は添加する
飼料の種類を選ばず、しかも魚類・甲殻類の飼料に単に
添加するだけでよいため手間もかからず、魚類・甲殻類
に対して効率良く供与することができるなど、種々優れ
た効果を有するものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】経過日数とブリの腸球菌症に対する生存数及び
生存率の関係を示すグラフである。
【図2】経過日数とクルマエビのPRVDに対する感染
後生存数と生存率の関係を示すグラフである。
【表9】
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.7 識別記号 FI テーマコート゛(参考) A61P 31/04 A61K 31/00 631D (72)発明者 高城 澄子 鹿児島県加世田市唐仁原836番地 Fターム(参考) 2B005 GA01 GA02 GA04 GA06 GA07 MA08 2B150 AA07 AA08 AB10 DD12 DD26 DD61 4C087 AA01 AA02 BC64 CA10 CA16 MA01 MA17 MA43 NA05 ZC65 ZC75

Claims (6)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 バチルス・ツリンゲンシス(Bacillus t
    huringiensis)とバチルス・プミラス(Bacillus pumil
    us)の混合培養によって得られたペプチド等の代謝物や
    生成物を有効成分として含有し、魚介類の免疫賦活、感
    染予防、抗ストレス効果を発現することを特徴とする、
    魚介類用薬剤。
  2. 【請求項2】 請求項1記載の薬剤を添加したものであ
    る魚介類用飼料。
  3. 【請求項3】 バチルス・ツリンゲンシスとバチルス・
    プミラスの混合培養によって得られた異なる種類のペプ
    チドによる相乗的免疫賦活、相乗的感染予防、相乗的抗
    ストレス効果を発現することを特徴とする、魚介類用薬
    剤。
  4. 【請求項4】 請求項3記載の薬剤を添加したものであ
    る魚介類用飼料。
  5. 【請求項5】 バチルス・ツリンゲンシスとバチルス・
    プミラスの混合培養によって得られたペプチド等の代謝
    物や生成物を有効成分として含有する発酵混合体から、
    水や希アルコールなどの溶媒を用いて代謝物や生成物を
    溶出させて液状とするか、或いは溶媒を除去して粉末状
    とした魚介類用薬剤。
  6. 【請求項6】 請求項5記載の薬剤を添加したものであ
    る魚介類用飼料。
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