JP2000069914A - 風味及びゲル物性に優れた大豆蛋白の製造法 - Google Patents

風味及びゲル物性に優れた大豆蛋白の製造法

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慶子 山瀬
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 風味が良く、ゲル強度が向上した分離大豆蛋
白の製造方法を提供すること。 【解決手段】 大豆蛋白質の酸沈澱カードを脱泡機で脱
気し、それに中和に要する量のアルカリを、密閉下連続
的に加え、高エネルギー処理(高圧ホモゲナイザー,超
音波,高速攪拌機)することにより、一気に水和・中和
させ、直ちに加熱殺菌して大豆蛋白質を製造する。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、風味が良く、ゲ
ル物性に優れた大豆蛋白質の製造法に関するものであ
る。
【0002】
【従来の技術】一般的に、高分子の水和の場合、例えば
多糖類あるいはゼラチンの水和にみられるように、水温
が室温乃至それより少し高い温度域では、水和速度が遅
いことが知られている。大豆蛋白質も高分子であり、水
和・中和に、時間がかかるのが通常である。大豆蛋白質
の中和液は、酸性凝集物(カード)にアルカリ液を添加
して調製される。その際、カード中の大豆蛋白質は不溶
化しており、アルカリ添加により、大豆蛋白質が水和溶
解しつつ、pHが中性に徐々におちついていくと考えら
れる。この操作で、加熱して水和を促進させようとする
と大豆蛋白質は変性し、不溶化が起こるので高温処理は
避けなければならない。大豆蛋白の変性温度以下の温度
で時間をかけて、水和・中和を行う必要があった。
【0003】本発明者らの知見では、上記のように中和
で時間がかかることによって、以下のような欠点が生じ
ると考えられる。即ち、菌の増殖と酸化による風味の劣
化である。菌は、原料とする大豆に付着する土壌菌が多
く存在し、工程中で低く抑えているが中和工程で増加す
る傾向がある。また酸化についても中和液中に存在する
残存脂質が攪拌により空気と混ざる等して、さらに酸化
され、悪風味の生成を促進する傾向がある。このことか
ら、中和時間を短くすることで風味の悪化が防げると考
えられた。実際、中和時間を短くするとこれらは改善さ
れる。しかし蛋白質の水和が不十分な場合、中和液の溶
解度が低くなり、その中和液で調製した分離大豆蛋白質
のゲル物性が著しく低下する問題が生じた。
【0004】しかしながら、本発明者らは種々検討の結
果、カードを予備攪拌してカードスラリーにした後、中
和に要する量のアルカリ溶液を密閉下で注入しながら一
気に高エネルギー処理を施すことにより、溶解度の高い
中和液を瞬時に連続的に調製することが可能であること
を見いだした。さらに難しいと思われる高濃度での短時
間中和も可能であることを見いだして、この発明に到達
した。
【0005】本発明者らはまた、該処理の際、カードス
ラリーを予め脱気しておくことで、風味及びゲル強度が
さらに改善されることも見い出した。
【0006】
【本発明が解決しようとする課題】この発明は、効率よ
く大豆蛋白質のカードを水和・中和及び加熱殺菌するこ
とで、風味・ゲル物性に優れた大豆蛋白を製造方法を提
供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記のよ
うに、大豆蛋白質の酸性凝集物を予備攪拌したカードス
ラリーに、中和に要する量のアルカリを密閉下で注入し
ながら、一気に高エネルギー処理し、短時間で連続的に
大豆蛋白質の水和・中和を完了させる。さらに、この中
和液を直ちに加熱殺菌後噴霧乾燥することを特徴とする
大豆蛋白の製造法である。
【0008】
【発明の実施の形態】本発明にいう大豆蛋白質の酸性凝
集物とは、大豆蛋白質が酸添加により凝集沈澱したもの
ならどのような態様でもよいが、具体的には、大豆蛋白
質の水性抽出液から酸性沈降性画分を生じさせるもので
あるか、または大豆あるいは脱脂大豆に酸を添加して酸
沈澱大豆蛋白からホエー画分を除去したもの、といった
態様が挙げられる。
【0009】また、本発明にいう「一気に高エネルギー
処理」でないと短時間中和処理であっても大豆蛋白質の
水和・中和が不十分であり、加熱殺菌後噴霧乾燥して調
製した大豆蛋白質のゲル物性に悪影響を及ぼす。
【0010】用いる高エネルギー処理というのは、ライ
ン中で強攪拌する装置や超音波処理、高速度循環装置等
が考えられるが、最も適切なのは高圧ホモゲナイザーで
ある。この圧力を50kg/cm2 以上,好ましくは1
50kg/cm2 以上の圧力で1パスすることで目的と
する中和液の作製が可能である。また、インライン高速
攪拌機処理でも1パスで可能である。
【0011】この発明において、目的とする水和・中和
の程度の目安は、後述する蛋白質の溶解度で決める。即
ち、中和液固形分10重量%,大豆蛋白質濃度9重量%
に中和液濃度を調整し、1万G,10分間遠心分離し、
沈澱しない液重量の全体の重量に対する割合を%に換算
した値を溶解度とした。その尺度で中和液の溶解度を求
め、中和液を加熱殺菌(130℃,15秒)後噴霧乾燥
した粉末状分離大豆蛋白質のゲル物性と中和液の溶解度
との関係を調べると、中和液の溶解度が80を越えると
著しくゲル値が向上し、溶解度が90をこえるとさらに
ゲル値が向上する。通常の攪拌装置(インラインホモミ
キサー)では、繰り返しを行わないで1パスした場合中
和液の溶解度は71で、ゲル値は極端に低く30であっ
た。それに対してライン中にインライン高速攪拌機(荏
原製作所製、「マイルダー」)を装備し、1パスで処理
した場合の中和液の溶解度は88であり、高圧ホモゲナ
イザー(150kg/cm2 )で1パス処理した場合で
は中和液の溶解度が95であった。
【0012】特に、密閉下で短時間にインライン高速攪
拌機、高圧ホモゲナイザーで水和・中和を行うことによ
り、カード調製から中和、殺菌、乾燥までの間の時間を
大幅に短縮してもゲル値の高い中和液を調製できる。ま
た、カードを脱気処理し、ライン中で、即ち密閉下連続
的に水和・中和処理することで、中和処理中の酸素濃度
も抑えられる。これらの結果、菌の増殖が抑えられ、酵
素的な酸化も抑制された風味の良い中和液が調製可能と
なる。
【0013】この様な処理をした中和液のpHは、好まし
くは6.5 以上、さらに好ましくは7.0 以上の中性乃至微
アルカリ性であるが、目的に応じて調整出来る。
【0014】更に、水和・中和後直ちに加熱殺菌、噴霧
乾燥することにより、工程中での酸化を抑制し、風味が
良好な大豆蛋白質を得ることができる。
【0015】
【実施例】以下、実施例により本発明の実施様態を具体
的に説明するが、本発明がこれらによってその技術範囲
が限定されるものではない。
【0016】実施例1 不二製油(株)製の低変性脱脂大豆フレーク(NSI 9
0)10kgに15倍の40℃の温水を加え、1NのNa
OH溶液でpH7.5 に調整した。これを3時間攪拌抽出を行
ったのち、遠心分離機によりオカラ成分を除去し、脱脂
豆乳を得た。これに1Nの塩酸を加え、pHを4.5に
調整し、大豆蛋白質成分を沈澱させ、遠心分離機にて回
収し、分離大豆蛋白カード(以下「カード」という。)
を得た。このカードの固形分は約40重量%であり、こ
の固形分中における粗蛋白質純度は95重量%であっ
た。
【0017】カードに水を加えて予備攪拌し、固形分1
5重量%のカードスラリーを調整した。このカードスラ
リーに、中和に要するアルカリ量を算出し、1NのNaOH
溶液を密閉下(空気に触れること無く)連続的に注入し
ながら高圧ホモゲナイザーに送液した。高圧ホモゲナイ
ザーの圧力は150kg/cm2 で1パス処理を行っ
た。この中和液を直ちに加熱殺菌(130℃,15秒)
し、噴霧乾燥して粉末状分離大豆蛋白質を得た。
【0018】
【実施例2】実施例1と同様に調製したカードスラリー
を、実施例1と同じ方法でアルカリを密閉下連続的に注
入しながらインライン高速攪拌機(荏原製作所製、「マ
イルダー」)に送液し、1パス処理を行った。この中和
液を直ちに加熱殺菌(130℃,15秒)し、噴霧乾燥
して粉末状分離大豆蛋白質を得た。
【0019】
【実施例3】実施例1と同様に調製したカードスラリー
を、脱気装置にかけ、脱気処理を行った。この脱気カー
ドスラリーを、実施例1と同じ方法でアルカリを密閉下
連続的に注入しなが高圧ホモゲナイザーに送液し、1パ
ス処理を行った。この中和液を直ちに加熱殺菌(130
℃,15秒)し、噴霧乾燥して粉末状分離大豆蛋白質を
得た。
【0020】
【比較例1】実施例1と同様に調製したカードスラリー
を、タンクに入れ、中和に要するアルカリ量を添加後、
インラインホモミキサーで液をタンクの底面から液面へ
循環させることにより、徐々に水和・中和を行い2時間
かけて中和した。これを加熱殺菌(130℃,15秒)
し、噴霧乾燥して粉末状分離大豆蛋白質を得た。
【0021】
【比較例2】実施例1と同様に調製したカードスラリー
を、比較例1と同じ方法でアルカリを添加後、20分間
循環させ、中和した液をさらに、高圧ホモゲナイザーに
送液した。高圧ホモゲナイザーの圧力は150kg/c
m2 で1パス処理を行った。この液を加熱殺菌(130
℃,15秒)し、噴霧乾燥して粉末状分離大豆蛋白質を
得た。
【0022】
【比較例3】実施例1と同様に調製したカードスラリー
を、実施例1と同じ方法でアルカリを密閉下連続的に注
入しながらインラインホモミキサーに送液し、1パス処
理を行った。この中和液を直ちに加熱殺菌(130℃,
15秒)し、噴霧乾燥して粉末状分離大豆蛋白質を得
た。
【0023】各種調製粉末状大豆蛋白質の官能評価によ
る風味(5%溶液)と溶解度、ゲル値(20%溶液を9
0℃で20分加熱後、カードメータで測定)を以下の表
に示す。風味の官能評価は10点満点で点数が多い方が
風味が良いとし、24人のパネラーの平均値である。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− カ−ド 短時間 中 和 溶解度 ゲル値 官 能 脱 気 中 和 機 械 評 価 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 実施例 1 × ○ 高圧ホモ 95 80 6.2 実施例 2 × ○ 高速攪拌機 88 75 6.0 実施例 3 ○ ○ 高圧ホモ 95 82 7.5 比較例 1 × × インライン ミキサー 92 80 3.0 比較例 2 × × インライン ミキサー+高圧ホモ 95 80 4.6 比較例 3 × ○ インライン ミキサー 71 30 5.8 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
【0024】ここで示すように風味に関しては、密閉下
短時間で連続的に中和すると風味が良い。また、カード
で脱気する方がさらに良い。また、例え高圧ホモゲナイ
ザー処理をしても、中和時に開放系で数十分の時間をか
けて水和・中和したものは風味が良くない(比較例
2)。ゲル物性は高圧ホモゲナイザー処理、インライン
高速攪拌機処理及び長時間をかけて中和したものが良
い。従って、風味が良く、ゲル物性の優れた大豆蛋白質
を得る為には、密閉下短時間で攪拌能力が高い高圧ホモ
ゲナイザー処理、インライン高速攪拌機処理して中和液
を調製したものが有効であることがわかる。
【0025】
【発明の効果】以上説明したとおり、本願発明によって
風味がよく且つゲル物性に優れた大豆蛋白質が調製可能
であり、さらに中和機が高圧ホモゲナイザー、インライ
ン高速攪拌機である場合は高濃度の中和液を短時間で連
続的に調製できる利点がある。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 山瀬 慶子 大阪府泉佐野市住吉町1番地 不二製油株 式会社阪南事業所内 (72)発明者 澤村 紀夫 大阪府泉佐野市住吉町1番地 不二製油株 式会社阪南事業所内 (72)発明者 足立 朋彦 兵庫県神戸市兵庫区浜中町2丁目18番24号 不二製油株式会社神戸工場内

Claims (4)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】大豆蛋白質のカードスラリーに、中和に要
    する量のアルカリを密閉下で注入しながら、一気に高エ
    ネルギー処理し、短時間で連続的に大豆蛋白質の水和・
    中和を完了させ、さらにこの中和液を直ちに加熱殺菌、
    噴霧乾燥することを特徴とする大豆蛋白の製造法。
  2. 【請求項2】中和する際の高エネルギー処理が、高圧ホ
    モゲナイザー処理である請求項1記載の製造法。
  3. 【請求項3】中和する際の高エネルギー処理が、インラ
    イン高速攪拌機処理である請求項1記載の製造法。
  4. 【請求項4】中和処理する前の酸性凝集物(カード)を
    脱気処理する請求項2および3記載の製造法。
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