WO2023038077A1

WO2023038077A1 - インクジェット捺染方法

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Publication number: WO2023038077A1
Application number: PCT/JP2022/033657
Authority: WO
Inventors: 諒寺西; 比呂子樋口; 隆太郎伊藤; 隼人黒岩
Original assignee: 日本化薬株式会社
Priority date: 2021-09-13
Filing date: 2022-09-08
Publication date: 2023-03-16
Also published as: JPWO2023038077A1

Abstract

前処理組成物と、少なくとも１種の水系インク組成物とを用い、布帛に対して画像を形成するインクジェット捺染方法であって、水系インク組成物が、水、顔料、樹脂エマルション、水溶性有機溶剤、及び界面活性剤を含有し、布帛に前処理組成物を付与する前処理工程と、前処理工程にて前処理組成物を付与した領域の一部又は全部に、少なくとも１種の水系インク組成物をインクジェット方式により付与する記録工程と、記録工程にて水系インク組成物を付与した領域の一部又は全部に圧力を加えた後、布帛を加熱乾燥する乾燥工程とを有するインクジェット捺染方法を提供する。

Description

インクジェット捺染方法

　本発明は、インクジェット捺染方法に関する。

　従来、布帛の捺染方法においては、手描きやスクリーン印刷が主流であった。しかし、最近ではインクジェットプリンタを用いる布帛の捺染（インクジェット捺染）方法が増加している。

　インクジェット捺染方法は、スクリーン印刷やグラビア印刷等のアナログ印刷方法よりも少量多品種の印刷物に適しており、インクジェット捺染方法による布帛の適用範囲の拡大が望まれている。このような適用範囲の拡大に伴い、ガーメント印刷やホームテキスタイル印刷において、様々な布帛（例えば、綿布帛、ポリエステル布帛、ナイロン布帛、２種以上の繊維を含む混紡布帛等）や様々な生地の種類（例えば、ニット、シーチング、ブロード、オックスフォード、シャンブレー、メッシュ等）に対して、濃度及び堅牢性（例えば、摩擦堅牢度、洗濯堅牢度、耐光性等）のさらなる向上が求められている。

　インクジェット捺染に用いる着色剤としては、水溶性の染料が挙げられる。そのような染料は、色相が鮮明で、再現できる色域も広い。その反面、水溶性の染料は耐光性が低く、また、布帛に染料を付着させた後の定着、水洗等の工程、さらには水洗等により生じる染料廃液の処理等が煩雑であるという欠点を有する。このため、水溶性の染料の代わりに水不溶性の着色剤（顔料、分散染料等）を使用することが注目されている。

　水不溶性の着色剤を用いるインクジェット捺染では、布帛上での「滲み」が問題とされてきた。この問題を解決するため、布帛に対して前処理を行うことが提案されている。例えば、下記の特許文献１、２等では、そのような前処理に使用する前処理液（前処理組成物）が提案されている。

　一方、ポリエステル布帛（スポーツウェア等に使用されるメッシュ生地）、又は生地の薄い布帛や編み目の粗い布帛等の片面に捺染を行うと、その布帛の捺染を行っていない反対側の面にまで着色剤が浸透してしまう「裏抜け」が生じることがあり、これが濃度低下の大きな問題の１つとなっている。

　この裏抜けを防止する目的で、布帛に前処理を行うことも提案されている。しかし、裏抜けの防止を重視するあまり高濃度の前処理液や多量の前処理液を布帛に付着させると、前処理液が付与された領域に、その前処理液を付与した「痕跡」が残ってしまう問題も生じ、これも問題の１つとなっている。「痕跡」とは、例えば黒色等の濃色の布帛においては、白っぽく見える状態として観察される。また、例えば水色等の淡色の布帛においては、水に濡れたように色が濃く見える状態として観察される。そのような痕跡が残ると、捺染物の見た目が著しく悪化し、捺染物の商品としての価値の低下又は消失にもつながる。このため、裏抜けの防止とともに、「痕跡」が残らない前処理液が強く望まれている。

　また、黒色を含む濃色の布帛に対して白色以外のカラーインクを直接捺染すると、目視ではカラーインクの色を認識できないことがある。このため、濃色の布帛にカラーインクで捺染を行うとき、通常は白色の下地を設置し、この下地に対してカラーインクで捺染を行う。この下地の白色度が低いと、カラーインクで捺染した画像の発色が低下する。この理由から、下地の白色度及び隠蔽性は高い方が望ましい。しかし、前処理液の種類によっては、この白色度及び隠蔽性が低下してしまうことが知られている。また、濃色の布帛に白色インクで下地を設置するときも、布帛（生地）の種類によっては、上記の「裏抜け」が生じることがあり、これが白色度及び隠蔽性の低下の大きな問題の１つとなっている。また、裏抜け以外にも、前処理された領域の繊維が毛羽立ってしまうことにより、白色の下地にムラが観察されることがある。このムラによっても捺染物としての品質が大きく低下する。

　また、一般的に、着色剤として顔料を用いたインクを布帛に付与して捺染する場合、顔料は繊維内部に浸透して染着するのではなく、繊維上に吸着する形で布帛表面に留まる。このため、顔料定着にはバインダー成分が必要であり、通常はインク中に樹脂エマルションが添加される。しかし、インクジェット用のインクでは、インクジェットプリンタの吐出安定性や開放放置後の吐出性、ヘッドの目詰まり防止等の観点から、樹脂エマルションを多量に添加することができず、摩擦堅牢性が劣る問題があり、その改善が強く求められている。

特開平０７－１１９０４７号公報特開２０００－２２６７８１号公報

　本発明は、白色を含むカラーインク等を使用した際に、捺染物の摩擦堅牢性を高くすることが可能なインクジェット捺染方法を提供することを課題とする。

　上記課題を解決するための具体的な手段には、以下の実施態様が含まれる。
１）
　前処理組成物と、少なくとも１種の水系インク組成物とを用い、布帛に対して画像を形成するインクジェット捺染方法であって、
　前記水系インク組成物が、水、顔料、樹脂エマルション、水溶性有機溶剤、及び界面活性剤を含有し、
　前記布帛に前記前処理組成物を付与する前処理工程と、
　前記前処理工程にて前記前処理組成物を付与した領域の一部又は全部に、少なくとも１種の前記水系インク組成物をインクジェット方式により付与する記録工程と、
　前記記録工程にて前記水系インク組成物を付与した領域の一部又は全部に圧力を加えた後、前記布帛を加熱乾燥する乾燥工程と
を有する、インクジェット捺染方法。

２）
　前記前処理工程では、前記布帛に前記前処理組成物を付与して湿潤したプレコート層を形成し、
　前記記録工程では、前記前処理工程後の前記布帛を乾燥することなく、前記湿潤したプレコート層の一部又は全部に少なくとも１種の前記水系インク組成物を付与する、１）に記載のインクジェット捺染方法。

３）
　前記前処理組成物が、水、カチオン性ポリマー、及び架橋剤を含有する、１）又は２）に記載のインクジェット捺染方法。

４）
　前記カチオン性ポリマーが、アリルアミン構造単位、ジアリルアミン構造単位、ジアリルアンモニウム構造単位、及びエピハロヒドリン構造単位からなる群より選択される少なくとも１種の構造単位を含むポリマーである、３）に記載のインクジェット捺染方法。

５）
　前記架橋剤が、ブロック型イソシアネート基含有化合物、カルボジイミド基含有化合物、及びオキサゾリン基含有化合物からなる群より選択される少なくとも１種を含む、３）又は４）に記載のインクジェット捺染方法。

６）
　前記ブロック型イソシアネート基含有化合物の解離温度が１２０℃以上である、５）に記載のインクジェット捺染方法。

７）
　前記前処理組成物の２５℃における表面張力が３５～６０ｍＮ／ｍである、１）～６）のいずれか１項に記載のインクジェット捺染方法。

８）
　前記前処理組成物の前記布帛における単位面積当たりの付与量が０．０３５ｇ／ｃｍ^２を超え、かつ、０．０７０ｇ／ｃｍ^２未満である、１）～７）のいずれか１項に記載のインクジェット捺染方法。

９）
　前記樹脂エマルションが、スチレン－ブタジエン樹脂、（メタ）アクリル樹脂、（メタ）アクリル共重合体樹脂、及びウレタン樹脂からなる群より選択される少なくとも１種の樹脂を含む、１）～８）のいずれか１項に記載のインクジェット捺染方法。

１０）
　前記布帛が、ポリエステル布帛、又はポリエステルを含む混紡布帛である、１）～９）のいずれか１項に記載のインクジェット捺染方法。

１１）
　前記乾燥工程における加熱乾燥温度が１４０℃未満である、１０）に記載のインクジェット捺染方法。

１２）
　前記布帛が、綿布帛、又は綿を含む混紡布帛である、１）～９）のいずれか１項に記載のインクジェット捺染方法。

１３）
　前記前処理工程と前記記録工程との間に、前記前処理組成物を付与した領域の一部又は全部に圧力を加える加圧工程を有する、１）～１２）のいずれか１項に記載のインクジェット捺染方法。

１４）
　前記乾燥工程における圧力が０．０３Ｎ／ｃｍ^２以上である、１）～１３）のいずれか１項に記載のインクジェット捺染方法。

１５）
　前記水系インク組成物が、さらに高分子分散剤を含有する、１）～１４）のいずれか１項に記載のインクジェット捺染方法。

１６）
　前記高分子分散剤が、下記モノマーＡ、モノマーＢ、及びモノマーＣからなる群より選択される２種以上のモノマーを構成モノマーとして含むポリマーである、１５）に記載のインクジェット捺染方法。
　モノマーＡ：下記式（１）中、Ｒが水素原子であるモノマー。
　モノマーＢ：下記式（１）中、ＲがＣ１－Ｃ４アルキル基であるモノマー。
　モノマーＣ：下記式（１）中、Ｒがアリール基、アリールＣ１－Ｃ４アルキル基、又はＣ１－Ｃ４アルキルアリール基であるモノマー。

　本発明によれば、白色を含むカラーインク等を使用した際に、捺染物の摩擦堅牢性を高くすることが可能なインクジェット捺染方法を提供することができる。

　本実施形態に係るインクジェット捺染方法（以下、単に「捺染方法」ともいう。）は、前処理組成物と、少なくとも１種の水系インク組成物とを用い、布帛に対して画像を形成するインクジェット捺染方法であって、水系インク組成物が、水、顔料、樹脂エマルション、水溶性有機溶剤、及び界面活性剤を含有し、布帛に前処理組成物を付与する前処理工程と、前処理工程にて前処理組成物を付与した領域の一部又は全部に、少なくとも１種の水系インク組成物をインクジェット方式により付与する記録工程と、記録工程にて水系インク組成物を付与した領域の一部又は全部に圧力を加えた後、布帛を加熱乾燥する乾燥工程とを有する。

　以下では、まず、本実施形態に係る捺染方法で使用する前処理組成物及び水系インク組成物について説明し、次いで、本実施形態に係る捺染方法の各工程について説明し、最後に、布帛について説明する。

＜前処理組成物＞
　前処理組成物としては、布帛の捺染の前処理に用いることができるものであれば特に制限されず、例えば、水、カチオン性ポリマー、及び架橋剤を含有するものが好ましい。以下、このような好ましい前処理組成物に含有される各成分について説明する。なお、以下に説明する各成分は、そのうちの１種類を単独で使用してもよく、２種類以上を併用してもよい。

［水］
　水としては、特に制限されることなく、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水、又は超純水を用いることができる。

　水の含有率は、特に制限されることなく必要に応じて適宜決定すればよいが、前処理組成物の固形分濃度を好適な範囲に調整するため、前処理組成物の総質量に対して、７０～９９質量％であることが好ましく、８０～９８質量％であることがより好ましい。

［カチオン性ポリマー］
　カチオン性ポリマーは、アリルアミン構造単位、ジアリルアミン構造単位、ジアリルアンモニウム構造単位、及びエピハロヒドリン構造単位からなる群より選択される少なくとも１種の構造単位を含むポリマーが好ましく、アリルアミン構造単位及びエピハロヒドリン構造単位から選択される少なくとも１種の構造単位を含むポリマーがより好ましい。上記のカチオン性ポリマーはいずれも強電解質であり、前処理組成物中における溶解安定性が良好であるとともに、水系インク組成物中の顔料の分散低下能力に優れている。

　カチオン性ポリマーは、公知の合成方法により合成品したものを用いてもよいし、市販品を用いてもよい。

　アリルアミン構造単位を含むカチオン性ポリマーとしては、公知のものを適宜選択して用いることができ、その具体例としては、例えば、ポリアリルアミン塩酸塩、ポリアリルアミンアミド硫酸塩、アリルアミン塩酸塩・ジアリルアミン塩酸塩コポリマー、アリルアミン酢酸塩・ジアリルアミン酢酸塩コポリマー、アリルアミン酢酸塩・ジアリルアミン酢酸塩コポリマー、アリルアミン塩酸塩・ジメチルアリルアミン塩酸塩コポリマー、アリルアミン・ジメチルアリルアミンコポリマー、ポリジアリルアミン塩酸塩、ポリメチルジアリルアミン塩酸塩、ポリメチルジアリルアミンアミド硫酸塩、ポリメチルジアリルアミン酢酸塩、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド、ジアリルアミン酢酸塩・二酸化硫黄コポリマー、ジアリルメチルエチルアンモニウムエチルサルフェイト・二酸化硫黄コポリマー、メチルジアリルアミン塩酸塩・二酸化硫黄コポリマー、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド・二酸化硫黄コポリマー、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド・アクリルアミドコポリマー等が挙げられる。

　アリルアミン構造単位を含むカチオン性ポリマーの市販品としては、例えば、ＰＡＡ－ＨＣＬ－０１、ＰＡＡ－ＨＣＬ－０３、ＰＡＡ－ＨＣＬ－０５、ＰＡＡ－ＨＣＬ－３Ｌ、ＰＡＡ－ＨＣＬ－１０Ｌ、ＰＡＡ－Ｈ－ＨＣＬ、ＰＡＡ－ＳＡ、ＰＡＡ－０１、ＰＡＡ－０３、ＰＡＡ－０５、ＰＡＡ－０８、ＰＡＡ－１５、ＰＡＡ－１５Ｃ、ＰＡＡ－２５、ＰＡＡ－Ｈ－１０Ｃ、ＰＡＡ－Ｄ１１－ＨＣＬ、ＰＡＡ－Ｄ４１－ＨＣＬ、ＰＡＡ－Ｄ１９－ＨＣＬ、ＰＡＳ－２１ＣＬ、ＰＡＳ－Ｍ－１Ｌ、ＰＡＳ－Ｍ－１、ＰＡＳ－２２ＳＡ、ＰＡＳ－Ｍ－１Ａ、ＰＡＳ－Ｈ－１Ｌ、ＰＡＳ－Ｈ－５Ｌ、ＰＡＳ－Ｈ－１０Ｌ、ＰＡＳ－９２、ＰＡＳ－９２Ａ、ＰＡＳ－Ｊ－８１Ｌ、ＰＡＳ－Ｊ－８１（以上、ニットーボーメディカル（株）製）；ハイモ　Ｎｅｏ－６００、ハイモロック　Ｑ－１０１、Ｑ－３１１、Ｑ－５０１、ハイマックス　ＳＣ－５０５（以上、ハイモ（株）製）；等が挙げられる。

　ジアリルアミン構造単位を含むカチオン性ポリマーとしては、公知のものを適宜選択して用いることができる。ジアリルアミン構造単位を含むカチオン性ポリマーの市販品としては、例えば、ＰＡＳ－２１ＣＬ、ＰＡＳ－２１、ＰＡＳ－Ｍ－１Ｌ、ＰＡＳ－Ｍ－１、ＰＡＳ－Ｍ－１Ａ、ＰＡＳ－９２、ＰＡＳ－９２Ａ（以上、ニットーボーメディカル（株）製）；ユニセンスＫＣＡ１００Ｌ、ＫＣＡ１０１Ｌ（以上、センカ（株）製）；等が挙げられる。

　ジアリルアンモニウム構造単位を含むカチオン性ポリマーとしては、公知のものを適宜選択して用いることができ、その具体例としては、例えば、ジアリルジメチルアンモニウム又はジアリルメチルエチルアンモニウムの、塩酸塩又は硫酸エチル塩等が挙げられる。ジアリルアンモニウム構造単位を含むカチオン性ポリマーは、特に優れた凝集性を発揮し、混色滲みや色ムラが少なく、発色性に優れた捺染物を得ることが可能であるため好ましい。

　ジアリルアンモニウム構造単位を含むカチオン性ポリマーの市販品としては、例えば、ＰＡＳ－Ｈ－１Ｌ、ＰＡＳ－Ｈ－５Ｌ、ＰＡＳ－Ｈ－１０Ｌ、ＰＡＳ－２４、ＰＡＳ－Ｊ－８１Ｌ、ＰＡＳ－Ｊ－８１、ＰＡＳ－Ｊ－４１（以上、ニットーボーメディカル（株）製）；ユニセンスＦＰＡ１００Ｌ、ＦＰＡ１０１Ｌ、ＦＰＡ１０２Ｌ、ＦＰＡ１０００Ｌ、ＦＰＡ１００１Ｌ、ＦＰＡ１００２Ｌ、ＦＣＡ１０００Ｌ、ＦＣＡ１００１Ｌ、ＦＣＡ５０００Ｌ（以上、センカ（株）製）；等が挙げられる。また、ジアリルアミン構造単位及びジアリルアンモニウム構造単位をともに含むカチオン性ポリマーの市販品としては、例えば、ＰＡＳ－８８０（ニットーボーメディカル（株）製）等が挙げられる。

　エピハロヒドリン構造単位を含むカチオン性ポリマーとしては、公知のものを適宜選択して用いることができ、その具体例としては、例えば、エピハロヒドリン変性ポリアミン化合物、エピハロヒドリン変性ポリアミド化合物、エピハロヒドリン変性ポリアミドポリアミン化合物、エピハロヒドリン－アミン共重合体等が挙げられる。エピハロヒドリンとしては、入手容易性等の点から、エピクロロヒドリン又はメチルエピクロロヒドリンが好適に選択される。このようなエピハロヒドリン構造単位を含むカチオン性ポリマーを使用した捺染物は耐水性に優れており、この点からも好適に選択される。

　エピハロヒドリン構造単位を含むカチオン性ポリマーの市販品としては、例えば、ＦＬ－１４（（株）ＳＮＦ製）；アラフィックス１００、２５１Ｓ、２５５、２５５ＬＯＸ（以上、荒川化学工業（株）製）；ＤＫ－６８１０、６８０４、６８５０、６８５４、６８８５、ＷＳ－４０１０、４０１１、４０２０、４０２４、４０２７、４０３０（以上、星光ＰＭＣ（株）製）；ユニセンスＫＨＥ１００Ｌ、パピオゲンＰ－１０５（以上、センカ（株）製）；スミレーズレジン６５０（３０）、６７５Ａ、６６１５、ＳＬＸ－１（以上、田岡化学工業（株）製）；カチオマスターＰＤ－７、３０、Ａ、ＰＤＴ－２、ＰＥ－１０、ＰＥ－３０、ＤＴ－ＥＨ、ＥＰＡ－ＳＫ０１、ＴＭＨＭＤＡ－Ｅ（以上、四日市合成（株）製）；ジェットフィックス３６Ｎ、３８Ａ、５０５２（以上、里田化工（株）製）；等が挙げられる。

　カチオン性ポリマーの１０質量％水溶液の２５℃における粘度は、１．０～５．０ｍＰａ・ｓであることが好ましく、１．０～２．５ｍＰａ・ｓであることがより好ましく、１．０～２．０ｍＰａ・ｓであることがさらに好ましく、１．０～１．５ｍＰａ・ｓであることが特に好ましい。１０質量％水溶液の粘度が１．０～５．０ｍＰａ・ｓとなるカチオン性ポリマーを選択することにより、前処理組成物の流動性及び捺染時の発色性が向上する傾向にある。

　カチオン性ポリマーの質量平均分子量は、前処理組成物に含有される他の成分との混和性、前処理後の布帛の耐水性、及び洗濯堅牢性や密着性等を考慮すると、通常３００～６００００であり、５００～４００００であることが好ましく、７５０～３００００であることがより好ましく、１０００～２００００であることがさらに好ましい。カチオン性ポリマーの質量平均分子量が３００以上であれば、効果的な凝集能が得られ、インクの裏抜けが抑えられるとともに、白色インクで下地を設置したときの白色度が向上する傾向にある。また、カチオン性ポリマーの質量平均分子量が６００００以下であれば、水溶液として用いることができ、前処理組成物の保存安定性が向上する傾向にある。

　カチオン性ポリマーの含有率は、前処理組成物の全質量に対して、１．４質量％を超え、かつ、１０．５質量％未満であることが好ましく、１．７～８．０質量％であることがより好ましく、２．０～７．０質量％であることがさらに好ましく、２．５～６．０質量％であることが特に好ましい。カチオン性ポリマーの含有率が１．４質量％超であると、効果的な凝集能が得られ、インクの裏抜けが抑えられるとともに、白色インクで下地を設置したときの白色度が向上する傾向にある。また、カチオン性ポリマーの含有率が１０．５質量％未満であると、前処理組成物の保存安定性が向上するとともに、前処理組成物を付与した痕跡が残り難くなる傾向にある。

［架橋剤］
　架橋剤としては、例えば、ブロック型イソシアネート基含有化合物、カルボジイミド基含有化合物、及びオキサゾリン基含有化合物からなる群より選択される少なくとも１種を含むことが好ましく、ブロック型イソシアネート基含有化合物及びカルボジイミド基含有化合物から選択される少なくとも１種を含むことがより好ましい。

　ブロック型イソシアネート基含有化合物は、ポリイソシアネート化合物中のイソシアネート基がブロック剤でブロックされている化合物を表す。反応性の高いイソシアネート基がブロックされていることにより、前処理組成物の保存安定性を向上させながら、架橋反応後に強固な被膜を形成することが可能となる。ポリイソシアネート化合物は、１分子中に２つ以上のイソシアネート基を有する化合物であり、例えば、脂肪族イソシアネート、脂環式イソシアネート、芳香脂肪族イソシアネート、芳香族イソシアネート、及びこれらの変性体等が挙げられる。ポリイソシアネート化合物の変性体としては、イソシアヌレート体等の多量体；ビューレット体；トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の多価アルコールとのアダクト体；等が挙げられる。

　脂肪族イソシアネートとしては、例えば、２つのイソシアネート基間に直鎖状又は分岐鎖状の脂肪族炭化水素基を有するジイソシアネートが好ましい。脂肪族炭化水素基の炭素数の下限は、好ましくは２以上、より好ましくは３以上であり、上限は、好ましくは１０以下、より好ましくは９以下、さらに好ましくは８以下である。具体的には、テトラメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート（ＨＤＩ）、ヘプタメチレンジイソシアネート、オクタメチレンジイソシアネート、デカメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、２，２，４－又は２，４，４－トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等が挙げられる。脂環式イソシアネートとしては、例えば、水添キシリレンジイソシアネート（Ｈ６ＸＤＩ）、１，４－シクロヘキサンジイソシアネート、４，４’－ジシクロへキシルメタンジイソシアネート（Ｈ１２ＭＤＩ）、イソホロンジイソシアネート（ＩＰＤＩ）、２，５－又は２，６－ノルボルナンジイソシアネート等が挙げられる。芳香脂肪族イソシアネートとしては、例えば、ｍ－又はｐ－キシリレンジイソシアネート（ＸＤＩ）、テトラメチルキシリレンジイソシアネート（ＴＭＸＤＩ）等が挙げられる。芳香族イソシアネートとしては、例えば、１，３－又は１，４－フェニレンジイソシアネート、２，４－又は２，６－トリレンジイソシアネート（ＴＤＩ）、４，４’－又は２，４’－ジフェニルメタンジイソシアネート（ＭＤＩ）、ｍ－又はｐ－イソシアナトフェニルスルホニルイソシアネート、４，４’－ジイソシアナトビフェニル、４，４’－ジイソシアネート－３，３’－ジメチルビフェニル、１，５－ナフチレンジイソシアネート、２，６－ジメチルベンゼン－１，４－ジイソシアネート等が挙げられる。

　ブロック剤としては、例えば、３，５－ジメチルピラゾール（ＤＭＰ）、１，２，４－トリアゾール、ジイソプロピルアミン等のアミン類；フェノール、クレゾール等のフェノール類；メチルエチルケトキシム等のオキシム類；ε－カプロラクタム等のラクタム類；マロン酸ジエチル、アセト酢酸エチル等の活性メチレン化合物；などの活性水素を有する化合物が挙げられる。

　ブロック型イソシアネート基含有化合物の解離温度は、保存安定性、耐擦過性、密着性等の観点から、好ましくは１２０℃以上、より好ましくは１２５℃以上である。ブロック型イソシアネート基含有化合物の解離温度が１２０℃以上であると、前処理組成物の保存安定性が良好になる傾向にある。また、布帛のダメージを抑制する観点から、ブロック型イソシアネート基含有化合物の解離温度は、好ましくは２００℃以下、より好ましくは１８０℃以下である。特に、布帛として、ポリエステル布帛又はポリエステルを含む混紡布帛を用いる場合は、顔料のマイグレーション（以下、「移染」ともいう。）を防止するために捺染後の乾燥を１４０℃未満で行う必要があるため、解離温度が１４０℃未満であることが好ましい。なお、解離温度とは、ブロック剤がイソシアネート基から解離する温度を示す。

　ブロック型イソシアネート基含有化合物の市販品としては、例えば、Ｔｒｉｘｅｎｅ　ｂｌｏｃｋｅｄ　ｉｓｏｃ　ｙａｎａｔｅｓ　Ａｑｕａ　ＢＩ２００、Ａｑｕａ　ＢＩ２２０、７９５０、７９５１、７９６０、７９６１、７９８２、７９９０、７９９１、７９９２（以上、Ｂａｘｅｎｄｅｎ社製）；ＤＭ－６４００、メイカネートＤＭ－３０３１ＣＯＮＣ、メイカネートＤＭ－３５ＨＣ、メイカネートＴＰ－１０、メイカネートＳＴ、メイカネートＰＲＯ、ＮＢＰ－８７３Ｄ（以上、明成化学工業（株）製）；エラストロンＢＮ－６９、ＢＮ－７７、ＢＮ－２７、ＢＮ－１１（以上、第一工業製薬（株）製）；タケネートＷＢ－７００、ＷＢ－７７０、ＷＢ－９２０（以上、三井化学ポリウレタン（株）製）；デュラネートＭＦ－Ｋ６０Ｂ、ＳＢＮ－７０Ｄ、ＭＦ－Ｂ６０Ｂ、ＭＦ－Ｂ９０Ｂ、１７Ｂ－６０Ｐ、ＴＰＡ－Ｂ８０Ｂ、ＴＰＡ－Ｂ８０Ｅ、Ｅ４０２－Ｂ８０Ｂ（以上、旭化成（株）製）；フィクサーＮ（（株）松井色素化学研究所製）；等が挙げられる。

　カルボジイミド基含有化合物は、前処理組成物の保存安定性、耐擦過性、耐溶剤性、密着性等の観点から、１分子中に２つ以上のカルボジイミド基を含有するポリカルボジイミド化合物が好ましい。カルボジイミド基含有化合物としては、例えば、ジイソシアネート類のカルボジイミド化触媒存在下の脱炭酸縮合反応により得られる縮合反応物の末端イソシアネート基を親水性基で封止して得られるものが好ましい。

　ジイソシアネート類としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート（ＨＤＩ）、デカメチレンジイソシアネート、２，４，４－トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート；４，４’－ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート（Ｈ１２ＭＤＩ）、イソホロンジイソシアネート（ＩＰＤＩ）、２，５－又は２，６－ノルボルナンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート（Ｈ６ＸＤＩ）、水添トリレンジイソシアネート、２，４－ビス－（８－イソシアネートオクチル）－１，３－ジオクチルシクロブタン（ＯＣＤＩ）等の脂環式ジイソシアネート；ｍ－又はｐ－キシリレンジイソシアネート（ＸＤＩ）、テトラメチルキシリレンジイソシアネート（ＴＭＸＤＩ）等の芳香脂肪族ジイソシアネート；２，４，６－トリイソプロピルフェニルジイソシアネート（ＴＩＤＩ）、４，４’－又は２’，４－ジフェニルメタンジイソシアネート（ＭＤＩ）、２，４－又は２，６－トリレンジイソシアネート（ＴＤＩ）等の芳香族ジイソシアネート；などが挙げられる。

　縮合反応物の末端イソシアネート基を親水性基で封止するための化合物は、イソシアネート基と反応し得る官能基を有する化合物であり、例えば、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリプロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。中でも、カルボジイミド基含有化合物の前処理組成物への配合性及び前処理組成物の保存安定性の観点から、ポリエチレングリコールモノメチルエーテルが好ましい。ポリエチレングリコールモノメチルエーテルのエチレンオキシドの付加モル数を調整し、得られるカルボジイミド基含有ポリマーの形態をエマルション又は水溶液として水性組成物に配合することできる。

　カルボジイミド基含有化合物は、前処理組成物の保存安定性、耐擦過性、耐溶剤性、密着性等の観点から、水溶液又はエマルションとして前処理組成物に配合されることが好ましく、前処理組成物の保存安定性の観点から、水溶液として前処理組成物に配合されることが好ましい。

　カルボジイミド基含有化合物の市販品としては、例えば、カルボジライトＥ－０２、カルボジライトＥ－０３Ａ、カルボジライトＥ－０５、カルボジライトＶ－０２、カルボジライトＶ－０２－Ｌ２、カルボジライトＶ－０４（以上、日清紡ケミカル（株）製）等が挙げられる。

　オキサゾリン基含有化合物としては、前処理組成物の保存安定性、耐擦過性、耐溶剤性、密着性等の観点から、１分子中に２つ以上のオキサゾリン基を有するポリオキサゾリン化合物が好ましい。

　オキサゾリン基含有化合物の市販品としては、例えば、エポクロスＷＳ－３００、エポクロスＷＳ－５００、エポクロスＷＳ－７００等のエポクロスＷＳシリーズ（（株）日本触媒製、水溶性タイプ）；エポクロスＫ－２０１０Ｅ、エポクロスＫ－２０２０Ｅ等のエポクロスＫシリーズ（（株）日本触媒製、エマルションタイプ）；等が挙げられる。

　架橋剤の含有率は、前処理組成物の全質量に対して、０．１質量％以上、かつ、２．７質量％未満であることが好ましく、０．２～２．０質量％であることがより好ましく、０．４～１．５質量％であることがさらに好ましく、０．６～１．０質量％であることが特に好ましい。架橋剤の含有率が０．１質量％以上であると、効果的な密着性が得られる傾向にある。また、架橋剤の含有率が２．７質量％未満であると、前処理組成物の保存安定性が向上するとともに、前処理組成物を付与した際に痕跡が残り難くなる傾向にある。

［その他の成分］
　前処理組成物は、上記各成分以外に、樹脂エマルション、水溶性有機溶剤、表面張力調整剤、防黴剤、防腐剤、ｐＨ調整剤、キレート試薬、防錆剤、水溶性紫外線吸収剤、酸化防止剤、糊剤等の調製剤をさらに含有していてもよい。

　樹脂エマルションとしては、例えば、（メタ）アクリル樹脂、（メタ）アクリル共重合体樹脂、スチレン－無水マレイン酸共重合体樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリアミド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、ポリビニル樹脂（塩化ビニル、酢酸ビニル、ポリビニルアルコール等）、酢酸ビニル－エチレン共重合体樹脂、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂、アミノ樹脂（メラニン樹脂、ユリア樹脂、尿素樹脂、メラニンホルムアルデヒド樹脂等）等から形成されたエマルションが挙げられる。樹脂エマルションは、２種類以上の樹脂を含んでいてもよい。また、２種類以上の樹脂がコア／シェル構造を形成していてもよい。樹脂エマルションの中でも、透明な塗膜を形成する樹脂を用いることが好ましく、前処理組成物の保存安定性、耐擦過性、密着性等の観点から、（メタ）アクリル樹脂、（メタ）アクリル共重合体樹脂、又はウレタン樹脂のエマルションが好ましい。なお、本明細書において「（メタ）アクリル」は、「アクリル」及び「メタクリル」を含む意味として用いる。

　（メタ）アクリル樹脂又は（メタ）アクリル共重合体樹脂のエマルションは、市販品として入手することができ、その多くは固形分濃度３０～６０質量％の乳化液である。（メタ）アクリル樹脂又は（メタ）アクリル共重合体樹脂のエマルションの市販品としては、例えば、日本合成化学工業（株）製のモビニール９６６Ａ、６９６３、６９６０（以上、アクリル樹脂エマルション）、６９６９Ｄ、ＲＡ－０３３Ａ４（以上、スチレン／アクリル樹脂エマルション）；ＢＡＳＦ社製のジョンクリル７１００、ＰＤＸ－７３７０、ＰＤＸ－７３４１（以上、スチレン／アクリル樹脂エマルション）；ＤＩＣ（株）製のボンコートＥＣ－９０５ＥＦ、５４００ＥＦ、ＣＧ－８４００（以上、アクリル／スチレン系エマルション）；等が挙げられる。

　ウレタン樹脂エマルションは、市販品として入手することができ、その多くは固形分濃度３０～６０質量％の乳化液である。ウレタン樹脂エマルションの市販品としては、例えば、三洋化成（株）製のパーマリンＵＡ－１５０、２００、３１０、３６８、３９４５、ユーコートＵＸ－３２０、３４０；ＤＩＣ（株）製のハイドランＷＬＳ－２０１、２１０、ＨＷ－３１２Ｂのラテックス；第一工業製薬（株）製のスーパーフレックス１５０、１７０、４７０；等が挙げられる。これらのうち、ポリカーボネート系ウレタン樹脂としては、例えば、パーマリンＵＡ－３１０、３９４５；ユーコートＵＸ－３２０；ハイドランＷＬＳ－２１０、２１３、２５０；等が挙げられる。また、ポリエーテル系ウレタン樹脂としては、例えば、パーマリンＵＡ－１５０、２００；ユーコートＵＸ－３４０；ハイドランＷＬＳ－２０１、２０２、２３０；等が挙げられる。

　ウレタン樹脂エマルション中のウレタン樹脂がカルボキシ基、スルホ基、ヒドロキシ基等の酸性基を有する場合、酸性基がアルカリ塩化されていてもよい。例えば、酸性基を有するウレタン樹脂を水に投入して撹拌して水溶液を調製し、そこへアルカリ性化合物を投入してｐＨを６．０～１２．０に調整することにより、酸性基をアルカリ塩化することができる。アルカリ性化合物としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物；水酸化ベリリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム等のアルカリ土類金属の水酸化物；などが挙げられる。アルカリ性化合物は、１種類を単独で使用してもよく、２種類以上を併用してもよい。

　水溶性有機溶剤としては、例えば、グリコール系溶剤、多価アルコール類、多価アルコールアルキルエーテル類等を挙げることができる。グリコール系溶剤としては、グリセリン、ポリグリセリン（＃３１０、＃７５０、＃８００）、ジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン、ペンタグリセリン、ヘキサグリセリン、ヘプタグリセリン、オクタグリセリン、ノナグリセリン、デカグリセリン、ウンデカグリセリン、ドデカグリセリン、トリデカグリセリン、テトラデカグリセリン等が挙げられる。多価アルコール類としては、アルコール性水酸基を２～３個有するＣ２－Ｃ６多価アルコール、ジ又はトリＣ２－Ｃ３アルキレングリコール、繰り返し単位が４以上で分子量２００００程度以下のポリＣ２－Ｃ３アルキレングリコール（好ましくは液状のポリアルキレングリコール）等が挙げられる。多価アルコール類の具体例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、１，３－プロパンジオール、１，２－ブタンジオール、チオジグリコール、１，３－ブタンジオール、１，４－ブタンジオール、２，３－ブタンジオール、３－メチル－１，３－ブタンジオール、１，２－ペンタンジオール、１，５－ペンタンジオール、２－メチル－２，４－ペンタンジオール、３－メチル－１，５－ペンタンジオール、１，２－ヘキサンジオール、１，６－ヘキサンジオール、トリメチロールプロパン、１，３－ペンタンジオール、１，５－ペンタンジオール等が挙げられる。多価アルコールアルキルエーテル類としては、アルキレングリコールモノアルキルエーテル、ジアルキレングリコールモノアルキルエーテル、トリアルキレングリコールモノアルキルエーテル等が挙げられる。具体的には、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノイソブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル等が挙げられる。また、水に溶解して湿潤剤としての役割をする化合物等も、便宜上、水溶性有機溶剤に含めるものとする。そのような化合物としては、例えば、尿素、エチレン尿素、糖類等が挙げられる。

　これらの中でも、水溶性有機溶剤としては、グリセリン、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、１，２－ヘキサンジオール、１，６－ヘキサンジオール、１，５－ペンタンジオール、及びジエチレングリコールモノブチルエーテルからなる群より選択される少なくとも１種を含むことが好ましい。

　水溶性有機溶剤の含有率は、前処理組成物の総質量に対して、０．５～２０質量％であることが好ましく、１～１５質量％であることがより好ましく、２～１０質量％であることがさらに好ましい。水溶性有機溶剤の含有率を上記範囲内にすることにより、前処理組成物の保存安定性が向上するとともに、インクの裏抜けが抑えられ、かつ、白インクで下地を設置したときの白色度が向上する傾向にある。

　表面張力調整剤としては、例えば、アセチレングリコール及びポリアルキレングリコールから選択される界面活性剤が好ましい。このような界面活性剤を含有することにより、前処理組成物の粘度の増加、成分の凝集等が抑制され、保存安定性が良好となる傾向にある。また、界面活性剤として少なくともポリアルキレングリコールを含有する前処理組成物は、さらにインクの裏抜けが抑えられるとともに、白インクで下地を設置したときの白色度が向上する傾向にある。

　アセチレングリコール界面活性剤としては、例えば、２，４，７，９－テトラメチル－５－デシン－４，７－ジオール、２，４，７，９－テトラメチル－５－デシン－４，７－ジオール、２，４－ジメチル－５－デシン－４－オール、２，４－ジメチル－５－デシン－４－オール、及びこれらのアルキレンオキサイド付加物から選択される界面活性剤が好ましく、上記のアルキレンオキサイド付加物から選択される界面活性剤がより好ましい。アルキレンオキサイドとしては、Ｃ２－Ｃ４の直鎖状、分岐鎖状、又は環状のアルキレンオキサイドが挙げられる。これらの中では、直鎖状又は分岐鎖状のアルキレンオキサイドが好ましい。上記のアルキレンオキサイド付加物から選択される界面活性剤としては、例えば、日信化学工業（株）製のサーフィノールシリーズ（サーフィノール４２０、４４０、４６５、６１等）、オルフィンシリーズ（オルフィンＥ１００４、Ｅ１０１０、ＥＸＰ－４００１等）等が挙げられる。

　ポリアルキレングリコール界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、脂肪酸エチレンオキシド付加物、高級アルキルアミンエチレンオキシド付加物、及びポリオキシＣ２－Ｃ４アルキレングリコールから選択される界面活性剤が好ましく、ポリオキシＣ２－Ｃ４アルキレングリコールがより好ましい。

　ポリオキシエチレンアルキルエーテルとしては、ポリオキシアルキレン分岐デシルエーテル、ポリオキシアルキレントリデシルエーテル、ポリオキシエチレンイソデシルエーテル、ポリオキシアルキレンラウリルエーテル等が挙げられる。その市販品としては、例えば、第一工業製薬（株）製のノイゲン　ＸＬ－４０、５０、６０、７０、８０、１００、１４０、１６０、ノイゲンＴＤＳ－３０、５０、７０、８０、９０、１００、１２０等が挙げられる。

　脂肪酸エチレンオキシド付加物としては、ステアリン酸エチレンオキシド付加物、ポリエチレングリコールラウリン酸エステル等が挙げられる。その市販品としては、例えば、花王（株）製のエマノーン　１１１２、３１９９Ｖ、３２９９Ｖ、３２９９ＶＲ、３２０１Ｍ－Ｖ等が挙げられる。

　高級アルキルアミンエチレンオキシド付加物の市販品としては、例えば、花王（株）製のアミート１０２、１０５、１０５Ａ、３０２、３２０等が挙げられる。

　ポリオキシＣ２－Ｃ４アルキレングリコールの市販品としては、例えば、花王（株）製のエマルゲンＰＰ－２９０（ポリエチレングリコール／ポリプロピレングリコールが１６０／３０のコポリマー）；三洋化成工業（株）製のニューポール　ＰＥ－６１、ＰＥ－６２、ＰＥ－６４、ＰＥ－６８、ＰＥ－７１、ＰＥ－７４、ＰＥ－７５、ＰＥ－７　８、ＰＥ－１０８（ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー）；第一工業製薬（株）製のエパン４１０、４２０、４５０、４８５、６８０、７１０、７２０、７４０、７５０、７８５、Ｕ－１０３、Ｕ－１０５、Ｕ－１０８（ポリプロピレングリコールの質量平均分子量が約９５０～４０００、ポリオキシエチレンの含有率が５～９５％程度のポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール）；等が挙げられる。

　ポリオキシＣ２－Ｃ４アルキレングリコールとしては、ポリオキシＣ２－Ｃ３アルキレングリコールが好ましく、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールがより好ましい。また、ポリオキシＣ２－Ｃ４アルキレングリコール中のオキシＣ２－Ｃ４アルキレン基の総数におけるオキシＣ２アルキレン基の割合は、通常５０％よりも小さく、好ましくは１５～４５％、より好ましくは２０～４０％である。オキシＣ２アルキレン基の割合が５０％よりも小さいとは、例えば、オキシＣ２アルキレン基、オキシＣ３アルキレン基、及びオキシＣ４アルキレン基の結合数の合計が１０のとき、オキシＣ２アルキレン基の結合数が５未満であることを意味する。なお、オキシＣ２－Ｃ４アルキレン基の結合数は、いずれも平均値である。また、ポリオキシアルキレングリコールのうち、ポリオキシＣ３－Ｃ４アルキレン基を疎水基とし、ポリオキシＣ２アルキレン基を親水基としたとき、疎水基の質量平均分子量は、通常２２５０～４０００、好ましくは２７５０～３６００である。オキシＣ２アルキレン基の割合、及び疎水基の質量平均分子量の両方を満たすものとしては、例えば、エパンＵ－１０３が挙げられる。カチオン性ポリマーを含有する前処理組成物がこのような界面活性剤を含有することにより、保存安定性が向上する傾向にある。

　界面活性剤の含有率は、前処理組成物の総質量に対して、０．０５～５質量％であることが好ましく、０．０５～３質量％であることがより好ましく、０．０５～１質量％であることがさらに好ましく、０．１～０．５質量％であることが特に好ましい。界面活性剤の含有率を上記範囲内にすることにより、前処理組成物の保存安定性が向上する傾向にあり、また、捺染物の洗濯堅牢性及び耐擦性が向上する傾向にある。

　防黴剤としては、例えば、デヒドロ酢酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、ナトリウムピリジンチオン－１－オキシド、ｐ－ヒドロキシ安息香酸エチルエステル、１，２－ベンズイソチアゾリン－３－オン及びその塩等が挙げられる。

　防腐剤としては、例えば、有機硫黄系、有機窒素硫黄系、有機ハロゲン系、ハロアリルスルホン系、ヨードプロパギル系、Ｎ－ハロアルキルチオ系、ニトリル系、ピリジン系、８－オキシキノリン系、ベンゾチアゾール系、イソチアゾリン系、ジチオール系、ピリジンオキシド系、ニトロプロパン系、有機スズ系、フェノール系、第４アンモニウム塩系、トリアジン系、チアジン系、アニリド系、アダマンタン系、ジチオカーバメイト系、ブロム化インダノン系、ベンジルブロムアセテート系、無機塩系等の化合物が挙げられる。有機ハロゲン系化合物の具体例としては、ペンタクロロフェノールナトリウム等が挙げられる。ピリジンオキシド系化合物の具体例としては、２－ピリジンチオール－１－オキサイドナトリウム等が挙げられる。イソチアゾリン系化合物の具体例としては、１，２－ベンズイソチアゾリン－３－オン、２－ｎ－オクチル－４－イソチアゾリン－３－オン、５－クロロ－２－メチル－４－イソチアゾリン－３－オン、５－クロロ－２－メチル－４－イソチアゾリン－３－オンマグネシウムクロライド、５－クロロ－２－メチル－４－イソチアゾリン－３－オンカルシウムクロライド、２－メチル－４－イソチアゾリン－３－オンカルシウムクロライド等が挙げられる。その他の防腐防黴剤の具体例としては、無水酢酸ソーダ、ソルビン酸ソーダ、安息香酸ナトリウム、アーチケミカル社製の商品名プロクセルＧＸＬ（Ｓ）、プロクセルＸＬ－２（Ｓ）等が挙げられる。

　前処理組成物は、本実施形態に係る捺染方法において、前処理組成物と接触する後述の水系インク組成物のｐＨを例えば３．０～９．０の範囲に制御すること等を目的として、ｐＨ調整剤を含有していてもよい。ｐＨ調整剤としては、例えば、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、脂肪族アミン化合物、アルコールアミン化合物等が挙げられる。アルカリ金属の水酸化物としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。アルカリ土類金属の水酸化物としては、例えば、水酸化ベリリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム等が挙げられる。これらの中でも、アルカリ土類金属の水酸化物が好ましく、水酸化リチウム及び水酸化ナトリウムがより好ましい。脂肪族アミン化合物としては、例えば、アンモニア、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン等が挙げられ、好ましくはアンモニア又はトリエチルアミンである。アルコールアミン化合物としては、例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノプロパノールアミン、ジプロパノールアミン、トリプロパノールアミン、メチルエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、Ｎ－メチルジエタノールアミン等が挙げられ、好ましくは３級アミン類であり、さらに好ましくはトリエタノールアミンである。他の具体例としては、例えば、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属の炭酸塩；ケイ酸ナトリウム、酢酸カリウム等の有機酸のアルカリ金属塩；リン酸二ナトリウム等のリン酸塩；などが挙げられる。

　キレート試薬としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム、ウラシル二酢酸ナトリウム等が挙げられる。

　防錆剤としては、例えば、酸性亜硫酸塩、チオ硫酸ナトリウム、チオグリコール酸アンモニウム、ジイソプロピルアンモニウムナイトライト、四硝酸ペンタエリスリトール、ジシクロヘキシルアンモニウムナイトライト等が挙げられる。

　水溶性紫外線吸収剤としては、例えば、スルホン化したベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾ－ル系化合物、サリチル酸系化合物、桂皮酸系化合物、トリアジン系化合物等が挙げられる。

　酸化防止剤としては、例えば、各種の有機系及び金属錯体系の褪色防止剤を使用することができる。有機系の褪色防止剤としては、例えば、ハイドロキノン類、アルコキシフェノール類、ジアルコキシフェノール類、フェノール類、アニリン類、アミン類、インダン類、クロマン類、アルコキシアニリン類、複素環類等が挙げられる。

　糊剤としては、例えば、トウモロコシ、小麦などのデンプン；カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース等のセルロース化合物；アルギン酸ナトリウム、アラビヤゴム、ローカストビーンガム、トラントガム、グアーガム、タマリンド種子等の多糖類；ゼラチン、カゼイン等のタンパク質；タンニン、リグニン等の天然水溶性高分子；ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、アクリル酸、無水マレイン酸等を含む合成の水溶性高分子化合物；等が挙げられる。

　糊剤の含有率は、前処理組成物の総質量に対して、０～２０質量％程度であることが好ましい。

［前処理組成物の表面張力］
　前処理組成物の２５℃における表面張力は、様々な布帛に対して十分な濡れ性が発現できる観点から、３５～６０ｍＮ／ｍであることが好ましく、３６～５８ｍＮ／ｍであることがより好ましく、３７～５６ｍＮ／ｍであることがさらに好ましく、３８～５４ｍＮ／ｍであることが特に好ましい。

　前処理組成物の２５℃における表面張力は、捺染物の滲みを防ぐ観点から、後述する水系インク組成物の２５℃における表面張力よりも大きくなるように設定することが好ましい。前処理組成物の表面張力を水系インク組成物の表面張力よりも大きくすることによって、前処理組成物を布帛に付与して形成したプレコート層の表面に配向する界面活性剤の量を減らすことができ、プレコート層の表面エネルギーが過剰に低下することがなくなるため、後から付与される水系インク組成物の濡れ性が好適なものとなり、滲みがなくドット真円性の高い高画質の捺染物を得ることができる。

　前処理組成物の表面張力は、例えば、表面張力計（協和界面科学（株）製、ＣＢＶＰＺ）を用い、２５℃の環境下で白金プレート法によって測定することができる。

［前処理組成物の粘度］
　前処理組成物の２５℃における粘度は、０．５～４．０ｍＰａ・ｓであることが好ましく、０．７～３．５ｍＰａ・ｓであることがより好ましく、０．８～３．０ｍＰａ・ｓであることがさらに好ましい。上記粘度範囲を満たす前処理組成物であれば、前処理組成物の付与方法や布帛の種類によらず、前処理組成物をムラなく付与することができ、ドット形状のムラや画像の不均質化を抑制できる傾向にある。また、布帛への濡れ性や乾燥時のムラ抑制の観点からも、優れた捺染物が得られる傾向にある。

　前処理組成物の粘度は、例えば、Ｅ型粘度計（東機産業（株）製、ＴＶＥ２５Ｌ型粘度計）を用いて測定することができる。

［前処理組成物のｐＨ］
　前処理組成物の２５℃におけるｐＨは、３．０～１０．０であることが好ましく、３．５～８．０であることがより好ましく、４．０～６．０であることがさらに好ましい。上記ｐＨ範囲を満たす前処理組成物であれば、布帛の脆化を防ぐことができ、また、混色滲みや色ムラが少なく、発色性に優れた捺染物が得られる傾向にある。

　前処理組成物のｐＨは、例えば、ｐＨメーター（（株）堀場製作所製、卓上型ｐＨメーターＦ－７２）を用いて、スタンダードＴｏｕｐＨ電極又はスリーブＴｏｕｐＨ電極を使用して測定することができる。

［前処理組成物の調製方法］
　前処理組成物の調製方法としては、例えば、水、カチオン性ポリマー、架橋剤、及び必要に応じて上記で挙げたような調製剤をさらに加え、撹拌及び混合した後、必要に応じて濾過する方法が挙げられる。但し、前処理組成物の調製方法は上記に限定されるものではない。

＜水系インク組成物＞
　水系インク組成物は、水、顔料、樹脂エマルション、水溶性有機溶剤、及び界面活性剤を含有する。以下、水系インク組成物に含有される各成分について説明する。なお、以下に説明する各成分は、そのうちの１種類を単独で使用してもよく、２種類以上を併用してもよい。

　水の含有率は、特に制限されることなく必要に応じて適宜決定すればよいが、水系インク組成物の粘度を好適な範囲に調整するため、水系インク組成物の総質量に対して、２０～８０質量％であることが好ましく、４０～８０質量％であることがより好ましく、４５～７５質量％であることがさらに好ましく、５０～７０質量％であることが特に好ましい。

［顔料］
　顔料としては、無機顔料、有機顔料、体質顔料等の公知の顔料を使用することができる。

　無機顔料としては、例えば、カーボンブラック、金属酸化物、金属水酸化物、金属硫化物、金属フェロシアン化物、金属塩化物等が挙げられる。

　これらの中でも、黒色の顔料としては、カーボンブラックが好ましい。カーボンブラックには複数の種類があり、例えば、熱分解法により得られるサーマルブラック、アセチレンブラック；不完全燃焼法により得られるオイルファーネスブラック、ガスファーネスブラック、ランプブラック、ガスブラック、チャンネルブラック；等が挙げられる。

　上記のうち、カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、オイルファーネスブラック、ガスファーネスブラック、ランプブラック、チャンネルブラック等が好ましい。カーボンブラックの具体例としては、例えば、Ｒａｖｅｎ７６０ＵＬＴＲＡ、Ｒａｖｅｎ７８０ＵＬＴＲＡ、Ｒａｖｅｎ７９０ＵＬＴＲＡ、Ｒａｖｅｎ１０６０ＵＬＴＲＡ、Ｒａｖｅｎ１０８０ＵＬＴＲＡ、Ｒａｖｅｎ１１７０、Ｒａｖｅｎ１１９０ＵＬＴＲＡ　ＩＩ、Ｒａｖｅｎ１２００、Ｒａｖｅｎ１２５０、Ｒａｖｅｎ１２５５、Ｒａｖｅｎ１５００、Ｒａｖｅｎ２０００、Ｒａｖｅｎ２５００ＵＬＴＲＡ、Ｒａｖｅｎ３５００、Ｒａｖｅｎ５０００ＵＬＴＲＡ　ＩＩ、Ｒａｖｅｎ５２５０、Ｒａｖｅｎ５７５０、Ｒａｖｅｎ７０００（以上、コロンビア・カーボン社製）；Ｍｏｎａｒｃｈ７００、Ｍｏｎａｒｃｈ８００、Ｍｏｎａｒｃｈ８８０、Ｍｏｎａｒｃｈ９００、Ｍｏｎａｒｃｈ１０００、Ｍｏｎａｒｃｈ１１００、Ｍｏｎａｒｃｈ１３００、Ｍｏｎａｒｃｈ１４００、Ｒｅｇａｌ１３３０Ｒ、Ｒｅｇａｌ１４００Ｒ、Ｒｅｇａｌ１６６０Ｒ、Ｍｏｇｕｌ　Ｌ（以上、キャボット社製）；Ｃｏｌｏｒ　Ｂｌａｃｋ　ＦＷ１、Ｃｏｌｏｒ　Ｂｌａｃｋ　ＦＷ２、Ｃｏｌｏｒ　Ｂｌａｃｋ　ＦＷ２Ｖ、Ｃｏｌｏｒ　Ｂｌａｃｋ　ＦＷ２００、Ｃｏｌｏｒ　Ｂｌａｃｋ　Ｓ１５０、Ｃｏｌｏｒ　Ｂｌａｃｋ　Ｓ１６０、Ｃｏｌｏｒ　Ｂｌａｃｋ　Ｓ１７０、Ｐｒｉｎｔｅｘ　３５、Ｐｒｉｎｔｅｘ　Ｕ、Ｐｒｉｎｔｅｘ　Ｖ、Ｐｒｉｎｔｅｘ　１４０Ｕ、Ｐｒｉｎｔｅｘ　１４０Ｖ、ＳｐｅｃＩａｌ　Ｂｌａｃｋ　４、ＳｐｅｃＩａｌ　Ｂｌａｃｋ　４Ａ、ＳｐｅｃＩａｌ　Ｂｌａｃｋ　５、Ｓｐｅｃｉａｌ　Ｂｌａｃｋ　６（以上、デグサ社製）；ＭＡ７、ＭＡ８、ＭＡ１００、ＭＡ６００、ＭＣＦ－８８、Ｎｏ．２５、Ｎｏ．３３、Ｎｏ．４０、Ｎｏ．４７、Ｎｏ．５２、Ｎｏ．９００、Ｎｏ．２３００（以上、三菱ケミカル（株）製）；等が挙げられる。

　また、白色の顔料としては、金属酸化物が好ましい。金属酸化物としては、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化ジルコニア等が挙げられ、酸化チタンが好ましい。酸化チタンの種類としては、ルチル型、アナターゼ型等が挙げられる。酸化チタンは粉体としてそのまま使用してもよいし、二酸化ケイ素、酸化アルミ、酸化ジルコニア、酸化亜鉛、又は水酸基を有する有機物等で表面を処理したものを使用してもよい。これらの中では、表面処理した酸化チタンが好ましく挙げられる。

　酸化チタンの具体例としては、例えば、ＤＵＡＷＨＩＴＥ　ＴＣＲ－５２、ＴＩＴＯＮＥ　Ｒ－３２、ＴＩＴＯＮＥ　Ｒ－７Ｅ、ＴＩＴＯＮＥ　Ｒ－２１、ＴＩＴＯＮＥ　Ｒ－６２Ｎ、ＴＩＴＯＮＥ　Ｒ－４２（以上、堺化学工業（株）製）；ＴＩＰＡＱＵＥ　ＣＲ－５０、ＴＩＰＡＱＵＥ　ＣＲ－５０－２、ＴＩＰＡＱＵＥ　ＣＲ－５８、ＴＩＰＡＱＵＥ　ＣＲ－６０、ＴＩＰＡＱＵＥ　ＣＲ－８０、ＴＩＰＡＱＵＥ　ＣＲ－９０（以上、石原産業（株）製）；ＴＩＴＡＮＩＸ　ＪＡ－６００Ａ、ＴＩＴＡＮＩＸ　ＪＲ－６０５（以上、テイカ（株）製）；ＳＴ－４５５、ＳＴ－４５５ＷＢ、ＳＴ－４５７ＳＡ、ＳＴ－４５７ＥＣ（以上、チタン工業（株）製）；等が挙げられる。

　有機顔料としては、例えば、少なくとも１つのアゾ基を分子内に有するアゾ顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、イソインドリノン顔料、ジオキサジン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、チオインジゴ顔料、アンソラキノン顔料、キノフタロン顔料等が挙げられる。

　有機顔料の具体例としては、例えば、Ｃ．Ｉ．Ｐｉｇｍｅｎｔ　Ｙｅｌｌｏｗ　１、２、３、１２、１３、１４、１６、１７、２４、５５、７３、７４、７５、８３、９３、９４、９５、９７、９８、１０８、１１４、１２８、１２９、１３８、１３９、１５０、１５１、１５４、１５５、１８０、１８５、１９３、１９９、２０２等のイエロー色の顔料；Ｃ．Ｉ．Ｐｉｇｍｅｎｔ　Ｒｅｄ　５、７、１２、４８、４８：１、５７、８８、１１２、１２２、１２３、１４６、１４９、１６６、１６８、１７７、１７８、１７９、１８４、１８５、２０２、２０６、２０７、２５４、２５５、２５７、２６０、２６４、２７２等のレッド色の顔料；Ｃ．Ｉ．Ｐｉｇｍｅｎｔ　Ｂｌｕｅ　１、２、３、１５、１５：１、１５：２、１５：３、１５：４、１５：６、１６、２２、２５、６０、６６、８０等のブルー色の顔料；Ｃ．Ｉ．Ｐｉｇｍｅｎｔ　Ｖｉｏｌｅｔ　１９、２３、２９、３７、３８、５０等のバイオレット色の顔料；Ｃ．Ｉ．Ｐｉｇｍｅｎｔ　Ｏｒａｎｇｅ　１３、１６、３６、３４、４３、６８、６９、７１、７３等のオレンジ～ブラウン色の顔料；Ｃ．Ｉ．Ｐｉｇｍｅｎｔ　Ｇｒｅｅｎ　７、３６、５４等のグリーン色の顔料；Ｃ．Ｉ．Ｐｉｇｍｅｎｔ　Ｂｌａｃｋ　１等のブラック色の顔料；等が挙げられる。

　体質顔料としては、例えば、シリカ、炭酸カルシウム、タルク、クレー、硫酸バリウム、ホワイトカーボン等が挙げられる。これらの体質顔料は、単独で使用してもよいが、通常は無機顔料又は有機顔料と併用して使用される。

　顔料としては、通常は単一の顔料が用いられるが、必要に応じて２種以上の顔料を併用してもよい。一例としては、有機顔料と体質顔料との併用；有機顔料と無機顔料との併用；等を挙げられる。また、流動性改良のため、有機顔料及び無機顔料に加えて、体質顔料を併用することもできる。さらに、染色物の色相調整のため、無機顔料及び有機顔料から選択される２種以上の顔料を併用することもできる。ここでいう色相調整は、濃淡をつけた捺染物を得ること；染色の色域を広げること；等を目的として行われる。このような目的のためには、数種類の有機顔料を併用し、所望の色相に調整することができる。

　顔料の含有率は、水系インク組成物の総質量に対して、１．５～１５．０質量％であることが好ましく、２．０～１４．０質量％であることがより好ましく、２．５～１３．０質量％であることがさらに好ましい。

［樹脂エマルション］
　樹脂エマルションとしては、例えば、スチレン－ブタジエン樹脂、ウレタン樹脂、（メタ）アクリル樹脂、（メタ）アクリル共重合体樹脂、スチレン－無水マレイン酸共重合体樹脂、エポキシ樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリアミド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、ポリビニル樹脂（塩化ビニル、酢酸ビニル、ポリビニルアルコール等）、酢酸ビニル－エチレン共重合体樹脂、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂、アミノ樹脂（メラニン樹脂、ユリア樹脂、尿素樹脂、メラニンホルムアルデヒド樹脂等）等から形成されたエマルションを挙げることができる。樹脂エマルションは、２種類以上の樹脂を含んでいてもよい。また、２種類以上の樹脂がコア／シェル構造を形成していてもよい。樹脂エマルションの中でも、インク性能の観点から、スチレン－ブタジエン樹脂、（メタ）アクリル樹脂、（メタ）アクリル共重合体樹脂、又はウレタン樹脂のエマルションが好ましい。

　スチレン－ブタジエン樹脂エマルションは、市販品として入手することができき、その多くは固形分濃度３０～６０質量％の乳化液である。スチレン－ブタジエン樹脂エマルションの市販品としては、例えば、日本ゼオン（株）製のＮｉｐｏｌ　ＬＸ４１５Ｍ、Ｎｉｐｏｌ　ＬＸ４３２Ｍ、Ｎｉｐｏｌ　ＬＸ４３３Ｃ、Ｎｉｐｏｌ　ＬＸ４２１、Ｎｉｐｏｌ　２５０７Ｈ、Ｎｉｐｏｌ　ＬＸ３０３Ａ；ＪＳＲ（株）製の０６９５、０６９６、０５６１、０５８９、０６０２、２１０８、０５３３、０５４５、０５４８、０５６８、０５６９、０５７３、０５９７Ｃ、０８５０Ｚ；等が挙げられる。スチレン－ブタジエン樹脂の中でも、カルボキシ変性スチレン－ブタジエン樹脂が好ましい。カルボキシ変性スチレン－ブタジエン樹脂を含む市販品としては、例えば、日本ゼオン（株）製のＮｉｐｏｌ　ＬＸ４１５Ｍ、Ｎｉｐｏｌ　ＬＸ４３２Ｍ、Ｎｉｐｏｌ　ＬＸ４３３Ｃ、Ｎｉｐｏｌ　ＬＸ４２１、ＪＳＲ（株）製の０６９５、０６９６、０５３３、０５４５、０５４８、０５６８、０５６９、０５７３、０５９７Ｃ、０８５０Ｚ等が挙げられ、ＪＳＲ（株）製の０６９５、０５３３、０５６８、０５９７Ｃ、０８５０Ｚが好ましく、０５６８がより好ましい。

　（メタ）アクリル樹脂又は（メタ）アクリル共重合体樹脂のエマルションは、市販品として入手することができ、その多くは固形分濃度３０～６０質量％の乳化液である。（メタ）アクリル樹脂又は（メタ）アクリル共重合体樹脂のエマルションの市販品としては、例えば、日本合成化学工業（株）製のモビニール９６６Ａ、６９６３、６９６０（以上、アクリル樹脂エマルション）、６９６９Ｄ、ＲＡ－０３３Ａ４（以上、スチレン／アクリル樹脂エマルション）；ＢＡＳＦ社製のジョンクリル７１００、ＰＤＸ－７３７０、ＰＤＸ－７３４１（以上、スチレン／アクリル樹脂エマルション）、ＤＩＣ（株）製のボンコートＥＣ－９０５ＥＦ、５４００ＥＦ、ＣＧ－８４００（以上、アクリル／スチレン系エマルション）；等が挙げられる。

　ウレタン樹脂エマルションとしては、例えば、ポリエーテル系ウレタン樹脂、ポリカーボネート系ウレタン樹脂、ポリエステル系ウレタン樹脂等のポリウレタン樹脂のエマルションが挙げられ、ポリエーテル系ウレタン樹脂又はポリカーボネート系ウレタン樹脂のエマルションであることが好ましい。ウレタン樹脂エマルションは、市販品として入手することができ、その多くは固形分濃度３０～６０質量％の乳化液である。ウレタン樹脂エマルションの市販品としては、例えば、三洋化成（株）製のパーマリンＵＡ－１５０、２００、３１０、３６８、３９４５、ユーコートＵＸ－３２０、３４０；ＤＩＣ（株）製のハイドランＷＬＳ－２０１、２１０、ＨＷ－３１２Ｂのラテックス；第一工業製薬（株）製のスーパーフレックス１５０、１７０、４７０；等が挙げられる。これらのうち、ポリカーボネート系ウレタン樹脂としては、例えば、パーマリンＵＡ－３１０、３９４５；ユーコートＵＸ－３２０；ハイドランＷＬＳ－２１０、２１３、２５０；等が挙げられる。また、ポリエーテル系ウレタン樹脂としては、例えば、パーマリンＵＡ－１５０、２００；ユーコートＵＸ－３４０；ハイドランＷＬＳ－２０１、２０２、２３０；等が挙げられる。

　ウレタン樹脂は、凍結点が－８℃以下のウレタン樹脂が好ましい。凍結点が－８℃以下であるとは、－８℃以下において凍結又は固体化するものであり、ゲル化等のいわゆる変性は起こらず、常温に戻した際にエマルション状態へ戻ることを表す。凍結点が－８℃以下のウレタン樹脂を用いることで、低温保存安定性に優れた水系インク組成物を得ることができる。ウレタン樹脂の凍結点は－１１℃以下であることがより好ましい。なお、上記凍結点は、例えば、５０ｃｃの瓶にウレタン樹脂エマルションを３０ｃｃ入れ、これを所定の温度の恒温槽にて２０時間静置した後の凍結の有無を確認することにより測定することができる。

　樹脂エマルションの含有率は、水系インク組成物の総質量に対して、１～３０質量％であることが好ましく、２～２０質量％であることがより好ましく、３～１７質量％であることがさらに好ましい。

［水溶性有機溶剤］
　水溶性有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、ｎ－プロパノール、イソプロパノール、ｎ－ブタノール、イソブタノール、第二ブタノール、第三ブタノール等のＣ１－Ｃ４モノオール；エチレングリコール、１，２－又は１，３－プロピレングリコール、１，２－又は１，４－ブチレングリコール、１，３－ペンタンジオール、１，５－ペンタンジオール、１，２－ヘキサンジオール、１，６－ヘキサンジオール等のＣ２－Ｃ６ジオール；グリセリン、ヘキサン－１，２，６－トリオール、トリメチロールプロパン等のＣ３－Ｃ６トリオール；Ｎ，Ｎ－ジメチルホルムアミド、Ｎ，Ｎ－ジメチルアセトアミド等のカルボン酸アミド；２－ピロリドン、Ｎ－メチル－２－ピロリドン、１，３－ジメチルイミダゾリジン－２－オン、１，３－ジメチルヘキサヒドロピリミド－２－オン等の複素環式尿素類；アセトン、メチルエチルケトン、２－メチル－２－ヒドロキシペンタン－４－オン等のケトン又はケトアルコール；１，２－ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジオキサン等の直鎖状又は環状エーテル；ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、チオジグリコール等のジ若しくはトリＣ２－Ｃ３アルキレングリコール又はチオグリコール；テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール（好ましくは分子量４００、８００、１５４０等の分子量が２０００以下のもの）、ポリプロピレングリコール等の、繰り返し単位が４以上で分子量が約２００００以下程度のポリＣ２－Ｃ３アルキレングリコール（好ましくは液状のもの）；ジグリセリン、トリグリセリン、ポリグリセリン等のポリグリセリルエーテル；ポリオキシエチレンポリグリセリルエーテル、ポリオキシプロピレンポリグリセリルエーテル等のポリオキシＣ２－Ｃ３アルキレンポリグリセリルエーテル；エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル（ブチルカルビトール）、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル等の多価アルコールのＣ１－Ｃ４アルキルエーテル；γ－ブチロラクトン、エチレンカーボネート等の環状エステル又はカーボネート；ジメチルスルホキシド；酢酸；等が挙げられる。これらの中でも、Ｃ２－Ｃ６ジオール（特に１，２－プロピレングリコール）、Ｃ３－Ｃ６トリオール（特にグリセリン）、ポリグリセリルエーテル（特にジグリセリン）、及び多価アルコールのＣ１－Ｃ４アルキルエーテル（特にブチルカルビトール）が好ましく、グリセリン及び／又はジグリセリンがより好ましい。

　水溶性有機溶剤の含有率は、水系インク組成物の総質量に対して、１０～５０質量％であることが好ましく、１４～４５質量％であることがより好ましく、１６～３５質量％であることがさらに好ましい。水溶性有機溶剤の含有率が上記範囲内であることにより、水系インク組成物の吐出不良が低減される傾向にある。

［界面活性剤］
　界面活性剤としては、アニオン系、カチオン系、ノニオン系、両性、シリコーン系、フッ素系等の公知の界面活性剤が挙げられる。

　アニオン界面活性剤としては、例えば、アルキルスルホン酸塩、アルキルカルボン酸塩、α－オレフィンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、Ｎ－アシルアミノ酸及びその塩、Ｎ－アシルメチルタウリン塩、アルキル硫酸塩ポリオキシアルキルエーテル硫酸塩、アルキル硫酸塩ポリオキシエチレンアルキルエーテル燐酸塩、ロジン酸石鹸、ヒマシ油硫酸エステル塩、ラウリルアルコール硫酸エステル塩、アルキルフェノール型燐酸エステル、アルキル型燐酸エステル、アルキルアリールスルホン酸塩、ジエチルスルホ琥珀酸塩、ジエチルヘキルシルスルホ琥珀酸塩、ジオクチルスルホ琥珀酸塩等が挙げられる。市販品の具体例としては、例えば、第一工業製薬（株）製のハイテノールＬＡ－１０、ＬＡ－１２、ＬＡ－１６、ネオハイテノールＥＣＬ－３０Ｓ、ＥＣＬ－４５等が挙げられる。

　カチオン界面活性剤としては、例えば、２－ビニルピリジン誘導体、ポリ４－ビニルピリジン誘導体等が挙げられる。

　ノニオン界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等のエーテル系；ポリオキシエチレンオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンジステアリン酸エステル、ソルビタンラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンセスキオレエート、ポリオキシエチレンモノオレエート、ポリオキシエチレンステアレート等のエステル系；２，４，７，９－テトラメチル－５－デシン－４，７－ジオール、３，６－ジメチル－４－オクチン－３，６－ジオール、３，５－ジメチル－１－ヘキシン－３－オール等のアセチレングリコール（アルコール）系；日信化学（株）製のサーフィノール１０４、１０５、８２、４６５、オルフィンＳＴＧ等；ポリグリコールエーテル系（例えば、ＳＩＧＭＡ－ＡＬＤＲＩＣＨ社製のＴｅｒｇｉｔｏｌ　１５－Ｓ－７等）；等が挙げられる。

　両性界面活性剤としては、例えば、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、２－アルキル－Ｎ－カルボキシメチル－Ｎ－ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ポリオクチルポリアミノエチルグリシン、イミダゾリン誘導体等が挙げられる。

　シリコーン系界面活性剤としては、例えば、ポリエーテル変性シロキサン、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン等が挙げられる。市販品の具体例としては、例えば、ビックケミー社製のＢＹＫ－３４７（ポリエーテル変性シロキサン）、ＢＹＫ－３４５、ＢＹＫ－３４８（以上、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン）等が挙げられる。

　フッ素系界面活性剤としては、例えば、パーフルオロアルキルスルホン酸化合物、パーフルオロアルキルカルボン酸系化合物、パーフルオロアルキルリン酸エステル化合物、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物、及びパーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマー化合物等が挙げられる。市販品の具体例としては、例えば、Ｚｏｎｙｌ　ＴＢＳ、ＦＳＰ、ＦＳＡ、ＦＳＮ－１００、ＦＳＮ、ＦＳＯ－１００、ＦＳＯ、ＦＳ－３００、Ｃａｐｓｔｏｎｅ　ＦＳ－３０、ＦＳ－３１（以上、ＤｕＰｏｎｔ社製）；ＰＦ－１５１Ｎ、ＰＦ－１５４Ｎ（以上、オムノバ社製）；等が挙げられる。

［添加剤］
　水系インク組成物は、上記各成分以外に、さらに添加剤を含有していてもよい。添加剤としては、例えば、防腐剤、キレート試薬、防錆剤、水溶性紫外線吸収剤、水溶性高分子化合物、粘度調整剤、色素溶解剤、褪色防止剤、酸化防止剤等が挙げられる。

　キレート試薬としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム、ウラシル二酢酸ナトリウム等が挙げられる。

　防錆剤としては、例えば、酸性亜硫酸塩、チオ硫酸ナトリウム、チオグルコール酸アンモニウム、ジイソプロピルアンモニウムナイトライト、四硝酸ペンタエリスリトール、ジシクロヘキシルアンモニウムナイトライト等が挙げられる。

　水溶性高分子化合物としては、例えば、ポリビニルアルコール、セルロース誘導体、ポリアミン、ポリイミン等が挙げられる。

　粘度調整剤としては、水溶性有機溶剤の他に水溶性高分子化合物が挙げられ、例えば、ポリビニルアルコール、セルロース誘導体、ポリアミン、ポリイミン等が挙げられる。

　色素溶解剤としては、例えば、尿素、ε－カプロラクタム、エチレンカーボネート等が挙げられる。

　褪色防止剤としては、各種の有機系及び金属錯体系の褪色防止剤を使用することができる。有機系の褪色防止剤としては、例えば、ハイドロキノン類、アルコキシフェノール類、ジアルコキシフェノール類、フェノール類、アニリン類、アミン類、インダン類、クロマン類、アルコキシアニリン類、ヘテロ環類等が挙げられる。金属錯体系の褪色防止剤としては、例えば、ニッケル錯体、亜鉛錯体等が挙げられる。

　酸化防止剤としては、例えば、各種の有機系及び金属錯体系の褪色防止剤を使用することができる。

［高分子分散剤］
　水系インク組成物は、さらに高分子分散剤を含有していてもよい。一般に水性媒体中で顔料分散物を安定化させる方法としては、樹脂等の分散剤を用いてエントロピー的に、或いはイオン反発力、立体反発力等によって顔料分散物を安定化する方法が用いられる。ここで、分散剤は、親水性部分と疎水性部分とを有し、疎水性部分が顔料表面に吸着し、親水性部分で水性媒体に分散する性質を有すると考えられる。さらに、顔料表面への吸着状態によっては、顔料を水性媒体に溶解させることも可能である。上記の高分子分散剤は、このような性質を有する分散剤として使用できる。

　高分子分散剤は、下記モノマーＡ、モノマーＢ、及びモノマーＣからなる群より選択される２種以上のモノマーを構成モノマーとして含むポリマーであることが好ましい。
　モノマーＡ：下記式（１）中、Ｒが水素原子であるモノマー。
　モノマーＢ：下記式（１）中、ＲがＣ１－Ｃ４アルキル基であるモノマー。
　モノマーＣ：下記式（１）中、Ｒがアリール基、アリールＣ１－Ｃ４アルキル基、又はＣ１－Ｃ４アルキルアリール基であるモノマー。

　モノマーＢの具体例としては、例えば、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ｎ－プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、ｎ－ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート等が挙げられる。

　モノマーＣは、上記式（１）中、Ｒがアリール基、アリールＣ１－Ｃ４アルキル基、又はＣ１－Ｃ４アルキルアリール基であるモノマーであり、ＲがアリールＣ１－Ｃ４アルキル基であるモノマーが好ましい。アリール基としては、Ｃ６－Ｃ１０アリール基が好ましく、中でもフェニル基又はナフチル基が好ましい。

　アリールＣ１－Ｃ４アルキル基としては、例えば、フェニルメチル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、フェニルブチル基等のアルキル部分が直鎖状又は分岐鎖状、好ましくは直鎖状のフェニルＣ１－Ｃ４アルキル基；１－ナフチルメチル基、２－ナフチルメチル基、２－（１－ナフチル）エチル基、２－（２－ナフチル）エチル基、３－（１－ナフチル）プロピル基、４－（１－ナフチル）ブチル基等のアルキル部分が直鎖状又は分岐鎖状、好ましくは直鎖状のナフチルＣ１－Ｃ４アルキル基；等が挙げられる。これらの中でもフェニルＣ１－Ｃ４アルキル基が好ましい。

　Ｃ１－Ｃ４アルキルアリール基としては、アリール基の環上にＣ１－Ｃ４アルキル基が結合したものであればよく、Ｃ１－Ｃ４アルキル基の置換位置や置換数は特に制限されない。Ｃ１－Ｃ４アルキルアリール基としては、例えば、２－メチルフェニル基、３－メチルフェニル基、４－メチルフェニル基、４－エチルフェニル基、４－プロピルフェニル基、４－ブチルフェニル基、２，４－ジメチルフェニル基、２，４，６－トリメチルフェニル基等のアルキル部分が直鎖状又は分岐鎖状、好ましくは直鎖状のＣ１－Ｃ４アルキルフェニル基；２－メチル－１－ナフチル基、３－メチル－１－ナフチル基、４－メチル－１－ナフチル基、１－メチル－２－ナフチル基、３－メチル－２－ナフチル基、４－メチル－２－ナフチル基、４－エチル－１－ナフチル基、４－プロピル－１－ナフチル基、４－ブチル－１－ナフチル基等のアルキル部分が直鎖状又は分岐鎖状、好ましくは直鎖状のＣ１－Ｃ４アルキルナフチル基；等が挙げられる。これらの中でもＣ１－Ｃ４アルキルフェニル基が好ましい。

　モノマーＣの具体例としては、例えば、フェニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、フェネチルメタクリレートが挙げられる。

　高分子分散剤は、上記のモノマーのランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体等のいずれであってもよい。

　高分子分散剤の質量平均分子量は、通常１００００～６００００であり、好ましくは１００００～４００００、より好ましくは１００００～３００００である。高分子分散剤の質量平均分子量を１００００～６００００とすることにより、顔料分散液の安定性が良好となる傾向にある。

　高分子分散剤の酸価は、通常５０～３００ｍｇＫＯＨ／ｇであり、好ましくは９０～２００ｍｇＫＯＨ／ｇ、より好ましくは１００～１５０ｍｇＫＯＨ／ｇである。高分子分散剤の酸価を５０～３００ｍｇＫＯＨ／ｇとすることにより、高分子分散剤の水又は水性媒体に対する溶解性と高い発色性との両立が可能になる傾向にある。なお、上記水性媒体とは、水と、アルキルエーテル溶剤以外の水溶性有機溶剤及びアルキルエーテル溶剤との混合溶媒を指す。

　高分子分散剤の市販品としては、例えば、星光ＰＭＣ（株）製のハイロスＸ　ＶＳ－１２０２（メチルメタクリレート・ブチルメタクリレート・メタクリル酸からなる、酸価１４０ｍｇＫＯＨ／ｇ、質量平均分子量１１０００のランダムポリマー）等が挙げられる。

　高分子分散剤は、必要に応じて酸価を中和して用いてもよい。高分子分散剤の酸価の理論当量で中和したときが１００％中和度である。高分子分散剤の中和度は、水系インク組成物中において、通常５０～２００％であり、好ましくは８０～１５０％、より好ましくは１００～１２０％程度である。

　高分子分散剤の中和に用いる中和剤としては、例えば、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、アンモニア等の無機塩基；脂肪族アミン化合物、アルカノールアミン化合物等の有機塩基；などが挙げられる。これらの中和剤は、１種類を使用してもよく、２種類以上を併用してもよい。

　アルカリ金属の水酸化物としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。アルカリ土類金属の水酸化物としては、例えば、水酸化ベリリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム等が挙げられる。無機塩基の中では、アルカリ金属の水酸化物及びアンモニアが好ましく、中でも水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、及びアンモニアが好ましい。

　脂肪族アミン化合物としては、例えば、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン等のモノ、ジ、又はトリＣ１－Ｃ３アミン化合物が挙げられる。これらの中ではトリエチルアミンが好ましい。

　アルカノールアミン化合物としては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノプロパノールアミン、ジプロパノールアミン、トリプロパノールアミン、メチルエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、Ｎ－メチルジエタノールアミン等のモノ、ジ、又はトリＣ１－Ｃ３アルカノールアミン化合物が挙げられる。これらの中では３級アミン類が好ましく、中でもトリエタノールアミンが好ましい。

［水系インク組成物の表面張力］
　水系インク組成物の２５℃における表面張力は、様々な布帛に対して十分な濡れ性を発現できる観点から、２０～４８ｍＮ／ｍであることが好ましく、２５～４６ｍＮ／ｍであることがより好ましく、３０～４４ｍＮ／ｍであることがさらに好ましく、３２～４２ｍＮ／ｍであることが特に好ましい。

　水系インク組成物の表面張力は、例えば、表面張力計（協和界面科学（株）製、ＣＢＶＰＺ）を用い、２５℃の環境下で白金プレート法によって測定することができる。

［水系インク組成物の粘度］
　水系インク組成物の２５℃における粘度は、２～２０ｍＰａ・ｓであることが好ましく、３～１８ｍＰａ・ｓであることがより好ましい。上記粘度範囲を満たす水系インク組成物であれば、高速印刷において吐出応答性が良好になる傾向にある。

［水系インク組成物の調製方法］
　水系インク組成物の調製方法としては、例えば、上記各成分を含有する水性分散液を調製し、必要に応じて、上記の添加剤をさらに加える方法が挙げられる。

　水性分散液を調製する方法としては、例えば、顔料、分散剤、及び水又は水性溶媒を混合し、サンドミル（ビーズミル）、ロールミル、ボールミル、ペイントシェーカー、超音波分散機、マイクロフルイダイザー等を用いて分散する方法が挙げられる。これらの中では、サンドミル（ビーズミル）を用いて分散する方法が好ましい。サンドミル（ビーズミル）を用いて水性分散液を調製する際には、径の小さいビーズ（約０．０１～１ｍｍ径）を使用し、ビーズの充填率を大きくすること等により分散効率を高めた条件で処理することが好ましい。このような条件で分散を行うことにより、顔料の粒子サイズを小さくすることができ、分散性が良好な水性分散液を得ることができる。また、水性分散液の調製後に、濾過、遠心分離等により、粒子サイズの大きい成分を除去することも好ましく行われる。また、水性分散液の調製時に激しく泡立ち等が生じるときは、これを抑える目的で、シリコーン系、アセチレングリコール系等の消泡剤を極微量添加してもよい。但し、消泡剤には、顔料の分散や微粒子化を阻害するものがあるため、そのような悪影響を及ぼさないものを適宜選択して使用するのが好ましい。

　分散剤は顔料表面の一部に吸着した状態であってもよいし、顔料表面の全てを被覆した状態（マイクロカプセル化顔料等と称される）であってもよい。好ましくは後者である。

　分散剤により顔料表面の全てを被覆した状態とする（顔料をマイクロカプセル化する）場合は、公知のマイクロカプセル化方法のいずれをも使用することができる。その方法としては、大別して、物理的・機械的方法と、化学的方法との２つがある。後者の化学的方法としては、表面析出法、混錬法、界面重合法（表面重合法ともいう）等が提案されている。このうち表面析出法には、酸析法、転相乳化法等が含まれる。マイクロカプセル化する際には、いずれの手法を用いてもよいが、表面析出法が好ましく、中でも転相乳化法が好ましい。

　転相乳化法としては、例えば、分散剤を溶解した疎水性有機溶剤の溶液と、中和剤及び水を含有する液体とを混合して乳化（エマルション又はマイクロエマルション）液とし、さらに顔料を加えて混合及び分散した後、溶剤を除去して水性分散液を得る方法が挙げられる。上記のようにして調製される水性分散液中における顔料の平均粒径は、通常２００ｎｍ以下、好ましくは５０～１５０ｎｍ、より好ましくは６０～１２０ｎｍである。平均粒径をこの範囲とすることによって、分散安定性及び吐出安定性が優れるとともに、染色濃度が高くなる。なお、平均粒径は、レーザ光散乱法を用いて測定できる。

　水系インク組成物は、メンブランフィルター等を用いて精密濾過を行ってもよい。特に、インクジェット捺染用インクとして使用するときは、ノズルの目詰まり等を防止する目的で、精密濾過を行うことが好ましい。精密濾過に使用するフィルターの孔径は、通常０．１～１μｍであり、好ましくは０．１～０．８μｍである。

＜捺染方法＞
　本実施形態に係る捺染方法は、布帛に前処理組成物を付与する前処理工程と、前処理工程にて前処理組成物を付与した領域の一部又は全部に、少なくとも１種の水系インク組成物をインクジェット方式により付与する記録工程と、記録工程にて水系インク組成物を付与した領域の一部又は全部に圧力を加えた後、布帛を加熱乾燥する乾燥工程とを有する。以下、捺染方法の各工程について説明する。

［前処理工程］
　前処理工程は、布帛に前処理組成物を付与する工程である。前処理組成物を付与する手段としては特に制限されず、例えば、ローラー塗布、スプレー塗布、インクジェット塗布等を採用することができる。中でも、前処理組成物を布帛へ非接触式で付与することが好ましく、スプレー塗布又はインクジェット塗布により付与することがより好ましい。前処理組成物を非接触式で付与することにより、前処理組成物の付与量を制御しやすく、得られる画質がより向上する傾向にある。

　布帛の単位面積当たりの前処理組成物の付与量は、様々な布帛に対して高い発色性及び隠蔽性を発現できる観点から、０．０３５ｇ／ｃｍ^２を超え、かつ、０．０７０ｇ／ｃｍ^２未満であることが好ましく、０．０３９～０．０６３ｇ／ｃｍ^２であることがより好ましく、０．０４０～０．０６０ｇ／ｃｍ^２であることがさらに好ましい。前処理組成物の付与量を０．０３５ｇ／ｃｍ^２超とすることで、ポリエステル布帛（スポーツウェア等に使用されるメッシュ生地）、又は生地の薄い布帛や編み目の粗い布帛等を用いる場合においても、インクの裏抜けを抑制することができ、また、白色インクで下地を設置したときの白色度及び隠蔽性を高くできる傾向にある。また、白色下地の設置を行わずにカラーインクを印刷したときも同様に、インクの裏抜けを抑制することができ、発色性の高いカラー画像が得られる傾向にある。また、前処理組成物の付与量を０．０７０ｇ／ｃｍ^２未満とすることで、前処理組成物を付与した痕跡が残り難くなる傾向にある。

　本実施形態に係る捺染方法は、前処理組成物を付与した後に、布帛を乾燥させる前処理乾燥工程を有していても有していなくてもよいが、後者の方が好ましい。後者の場合、前処理工程では、布帛に前処理組成物を付与して湿潤したプレコート層を形成し、記録工程では、前処理工程後の布帛を乾燥することなく、湿潤したプレコート層の一部又は全部に少なくとも１種の水系インク組成物を付与する。このように、前処理乾燥工程を省略することで、印捺時間を短縮することができる。また、ポリエステル布帛、又は生地の薄い布帛や編み目の粗い布帛等を用いる場合においても、インクの裏抜けを抑制することができ、高濃度かつ密着性の高い捺染物が得られる傾向にある。

［加圧工程］
　本実施形態に係る捺染方法は、前処理工程と記録工程との間に、前処理組成物を付与した領域の一部又は全部に圧力を加える加圧工程を有することが好ましい。このような加圧工程を有することにより、特に毛羽立ちの大きい綿素材や裏毛ニット素材等を用いる場合に、毛羽立ちの少ない均一な前処理組成物を付与した層を形成でき、白色の下地にムラが発生することが抑制されるともに、白色度、隠蔽性、耐擦性、及び密着性が向上する傾向にある。また、カラーインクで捺染した画像のムラや発色性の低下が抑制されるとともに、摩擦堅牢性や洗濯堅牢性が向上する傾向にある。

　加圧工程における加圧方法は特に制限されず、例えば、市販のローラー、ヘラ等を用いる方法や、平板型プレス機、ローラー型プレス機等を用いる方法が挙げられる。

［記録工程］
　記録工程は、前処理工程にて前処理組成物を付与した領域の一部又は全部に、少なくとも１種の水系インク組成物をヘッドから吐出して付着させ、画像領域を形成する工程である。

　前処理乾燥工程を有しない場合は、前処理工程後の布帛を乾燥することなく、湿潤したプレコート層の一部又は全部に対し、少なくとも１種の水系インク組成物をヘッドから吐出して付着させることが好ましい。

　前処理乾燥工程を有しない場合は、布帛に付与した前処理組成物の揮発成分が２０質量％以上残存する状態で記録工程を行うことが好ましい。前処理乾燥工程を有しない場合は、前処理組成物を乾燥させるための、加熱、送風、放置を省略することができる。そのため、前処理工程から記録工程までインライン化する場合には、間に乾燥工程を設けなくともよく、装置の簡略化及び生産効率の向上を図ることができる。通常の水系インク組成物であれば、前処理組成物が残存するほど、水系インク組成物中の凝集性樹脂の密着性が低下する傾向にある。しかし、上記の前処理組成物を用いた場合には、前処理組成物の揮発成分が２０質量％以上残存する状態で記録工程を行ったとしても、密着性の低下を抑制することができる。なお、前処理組成物の揮発成分の残存率は、布帛に付与した前処理組成物に含まれていた揮発成分の量（質量）のうち、記録工程を行う際に布帛に残存している量（質量）の割合である。前処理組成物の揮発成分量は、実施例に記載の方法により測定することができる。揮発成分は前処理組成物の乾燥後に布帛に残らない成分であり、水や水溶性有機溶剤等である。

［乾燥工程］
　乾燥工程は、記録工程にて水系インク組成物を付与した領域の一部又は全部に圧力を加えた後、布帛を加熱乾燥する工程である。

　記録工程にて水系インク組成物を付与した領域の一部又は全部に圧力を加えることにより、捺染物の表面平滑性が向上し、結果として動摩擦係数が減少し、摩擦堅牢度が向上する傾向にある。圧力を加える方法としては、プレス処理が好ましく、加熱しながらプレス処理を行う加熱プレス処理がより好ましい。

　プレス処理の方法としては特に制限されず、例えば、市販のローラー、ヘラ等を用いる方法や、平板型プレス機、ローラー型プレス機等を用いる方法が挙げられる。また、加熱プレス処理の方法としては特に制限されず、例えば、ヒートプレス機を用いる方法が挙げられる。

　水系インク組成物を付与した領域の一部又は全部に圧力を加える際の圧力は、０．０３Ｎ／ｃｍ^２以上であることが好ましく、０．０６Ｎ／ｃｍ^２以上であることがより好ましく、１．０Ｎ／ｃｍ^２以上であることがさらに好ましく、４．０Ｎ／ｃｍ^２以上であることが特に好ましい。また、圧力を加える時間は、６秒以上であることが好ましく、１０秒以上であることがより好ましく、６０秒以上であることがさらに好ましい。

　また、加熱プレス処理を行う際の加熱温度は特に制限されず、常温（２５℃）以上であることが好ましく、４０℃以上であることがより好ましく、１００℃以上であることがさらに好ましく、１２０℃以上であることが特に好ましい。また、加熱プレス処理を行う際の加熱温度は、１３０℃以下であることが好ましく、１２５℃以下であることがより好ましい。

　水系インク組成物を付与した領域の一部又は全部に圧力を加えた後、布帛を加熱乾燥することにより、前処理組成物又は水系インク組成物に含まれ得る樹脂エマルションを布帛の表面に融着させ、かつ、上記の架橋剤と樹脂エマルションとの架橋反応を促進させ、同時に水分を蒸発させることができる。また、乾燥工程を行うことにより、得られる画像の摩擦堅牢性、密着性、及び洗濯堅牢性が向上する傾向にある。

　水系インク組成物を付与した領域の一部又は全部に圧力を加えた後の加熱乾燥においては、布帛上の水系インク組成物の付着面を加圧処理しない、非接触式の加熱方法を採用することが好ましい。非接触式の加熱方法としては、オーブン乾燥（コンベアオーブン、バッチオーブン等のプレス処理を行わない方法）が挙げられる。このような乾燥工程を有することにより、生産効率がより向上する傾向にある。また、黒色を含む濃色のポリエステル布帛やポリエステルを含む混紡布帛に対して白色インクで下地を設置する場合には、白色インクの付着面を非接触式の加熱方法で乾燥することにより、移染による白色度の低下を抑制することができる。

　加熱の熱源としては、例えば、赤外線（ランプ）が挙げられる。布帛の加熱乾燥温度は、水系インク組成物に含まれる樹脂エマルションを融着し、かつ、上記の架橋剤と樹脂エマルションとの架橋反応を促進させ、水分を蒸発させることができればよいが、黒色を含む濃色のポリエステル布帛やポリエステルを含む混紡布帛を用いる場合には、移染を防止する観点から、１４０℃未満であることが好ましく、１３５℃以下であることがより好ましく、１１０～１３０℃であることがさらに好ましい。布帛の加熱乾燥温度が上記範囲であることにより、移染による白色度の低下を抑制でき、かつ、耐擦性及び密着性が向上する傾向にある。また、ポリエステル以外の布帛（例えば、綿布帛、ナイロン布帛等）を用いる場合は、布帛の加熱乾燥温度は、１５０℃以上であることが好ましく、１５０～１９０℃であることがより好ましく、１５０～１８０℃であることがさらに好ましい。布帛の加熱乾燥温度が上記範囲であることにより、耐擦性及び密着性が向上する傾向にある。また、加熱乾燥温度を１９０℃以下とすることにより、布帛及び前処理組成物が含有する成分の熱による劣化を防止することができる。

　加熱乾燥の時間は、３～２０分であることが好ましく、５～１６分であることがより好ましい。黒色を含む濃色のポリエステル布帛やポリエステルを含む混紡布帛を用いる場合には、移染を防止する観点から、３～１０分であることが好ましく、４～８分であることがより好ましく、５～７分であることがさらに好ましい。

　乾燥工程後は、布帛を水洗し、乾燥してもよい。このとき、必要に応じてソーピング処理、すなわち未固着の顔料を熱石鹸液等で洗い落とす処理を行ってもよい。

＜布帛＞
　本実施形態に係る捺染方法で用いる布帛としては特に制限されず、例えば、絹、綿、羊毛、セルロース、ナイロン、ポリエステル、レーヨン等の天然繊維又は合成繊維を用いた布帛が挙げられる。布帛は、２種以上の繊維を含む混紡布帛であってもよい。その中でも、ポリエステル布帛又はポリエステルを含む混紡布帛や、綿布帛又は綿を含む混紡布帛が好ましい。

　本実施形態に係る捺染方法によれば、白色インクの下地の上にカラーインクを印刷した画像表面の動摩擦係数を低くする結果、捺染物の摩擦堅牢性を高くすることができ、高い発色性と高い堅牢性とを両立した高品質な捺染物を得ることができる。また、得られた捺染物は、洗濯堅牢性、隠蔽性、追従性等にも優れる。

　以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、実施例により限定されるものではない。実施例において特に断りがない限り、「部」は質量部を、「％」は質量％をそれぞれ意味する。前処理組成物及び水系インク組成物の調製は、特に断りがない限り、いずれも撹拌下に行った。また、実施例中で使用した「水」は、イオン交換水である。

＜調製例１：分散液１の調製＞
　星光ＰＭＣ（株）製のハイロスＸＶＳ－１２０２（９部）を２－ブタノン（３０部）に溶解した。この溶液に、水酸化ナトリウム（０．９部）をイオン交換水（７６部）に溶解した液を加え、１時間撹拌することにより乳化液を得た。得られた乳化液に、Ｃ．Ｉ．Ｐｉｇｍｅｎｔ　Ｒｅｄ　１２２（Ｈｉｇｈ　Ｐｅｒｆｏｒ　ｍａｎｃｅ　Ｃｏｌｏｕｒｓ　Ｌｔｄ社製、ＨＰＣ　Ｒｅｄ　１２２０）（３０部）を加え、サンドグラインダーで１５００ｒｐｍの条件下、１５時間分散処理を行った。得られた液にイオン交換水（１５０部）を滴下した後、分散用ビーズを濾別した。得られた濾液中の２－ブタノン及び水の一部をエバポレータで減圧留去して濃縮することにより、固形分濃度１２．２％の分散液を得た。これを「分散液１」とする。なお、分散液の固形分濃度は、（株）エイ・アンド・デイ製のＭＳ－７０を用いて乾燥重量法により求めた。分散液１に含まれる顔料の平均粒子径は１８１ｎｍ、分散液１の２５℃における粘度は６．７ｍＰａ・ｓであった。

＜調製例２：分散液２の調製＞
　Ｃ．Ｉ．Ｐｉｇｍｅｎｔ　Ｒｅｄ　１２２の代わりにＣ．Ｉ．Ｐｉｇｍｅｎｔ　Ｂｌａｃｋ　７を用いる以外は調製例１と同様にして、固形分濃度１１．９％の分散液を得た。これを「分散液２」とする。分散液２に含まれる顔料の平均粒子径は８８ｎｍ、分散液２の２５℃における粘度は４．６ｍＰａ・ｓであった。

＜調製例３：分散液３の調製＞
　Ｃ．Ｉ．Ｐｉｇｍｅｎｔ　Ｒｅｄ　１２２の代わりにＣ．Ｉ．Ｐｉｇｍｅｎｔ　Ｂｌｕｅ　１５：３を用いる以外は調製例１と同様にして、固形分濃度１２．１％の分散液を得た。これを「分散液３」とする。分散液３に含まれる顔料の平均粒子径は１０２ｎｍ、分散液３の２５℃における粘度は６．２ｍＰａ・ｓであった。

＜調製例４：分散液４の調製＞
　Ｃ．Ｉ．Ｐｉｇｍｅｎｔ　Ｒｅｄ　１２２の代わりにＣ．Ｉ．Ｐｉｇｍｅｎｔ　Ｙｅｌｌｏｗ　１５５を用いる以外は調製例１と同様にして、固形分濃度１２．２％の分散液を得た。これを「分散液４」とする。分散液４に含まれる顔料の平均粒子径は８２ｎｍ、分散液４の２５℃における粘度は２．４ｍＰａ・ｓであった。

＜調製例５～９：水系インク組成物１～５の調製＞
　下記表１に記載の成分を十分に撹拌して混合した後、孔径５μｍのミックスセルロースエステルのフィルターで濾過した後、真空ポンプを用いて脱気処理することにより、試験用の水系インク組成物１～５を得た。

　下記表１中の各記載は、それぞれ以下を表す。また、表１中の数値は「部」を示す。空欄はその成分を添加していないことを示す。
　ＦＵＪＩ　ＳＰ　ＳＡＭＰＬＥ　１３８（白顔料分散液、固形分濃度５０％、冨士色素（株）製）
　ハイドランＷＬＳ－２０１（ウレタン樹脂エマルション、固形分濃度３５％、ＤＩＣ（株）製）
　ハイドランＷＬＳ－２１０（ウレタン樹脂エマルション、固形分濃度３５％、ＤＩＣ（株）製）
　オルフィンＥＸＰ－４００１（界面活性剤、日信化学工業（株）製）
　サーフィノール４２０（界面活性剤、日信化学工業（株）製）
　サーフィノールＤＦ－１１０Ｄ（界面活性剤、日信化学工業（株）製）
　ＰＲＯＸＥＬ　ＧＸＬ（Ｓ）（防腐剤、ロンザ（株）製）
　ＴＥＡ：トリエタノールアミン（純正化学（株）製）

＜調製例１０：前処理組成物１の調製＞
　下記表２に記載の各成分を混合した後、平均孔径３μｍのメンブランフィルターで濾過することにより、評価試験用の前処理組成物１を得た。

　下記表２中の各記載は、それぞれ以下を表す。また、表２中の数値は「部」を示す。
　ＤＫ６８５０：エピハロヒドリン変性ポリアミン樹脂（星光ＰＭＣ（株）製）
　メイカネートＳＴ：ブロックイソシアネート系架橋剤（明成化学工業（株）製、カチオン性、解離温度１２０℃以上、有効成分３０％）

＜実施例１～１１、比較例１～４：捺染物の作製＞
［前処理工程］
　ポリエステル布帛（ｇｌｉｍｍｅｒ社製ドライＴシャツ、黒色の００３００－ＡＣＴ、４．４ｏｚ）に対し、前処理組成物１を０．０５ｇ／ｃｍ^２の塗布量でＡ４サイズに塗布し、湿潤したプレコート層を形成した。その際、市販の霧吹き（（株）ミツギロン製、ファインスプレー）を用いて前処理組成物１をスプレー塗布した。前処理組成物１の塗布後、直ちに下記記録工程を行った。なお、前処理工程及び下記記録工程は室温（２５℃）で行った。

（前処理組成物の残存量）
　記録工程前の前処理組成物の残存量は、下記式により算出した。実施例及び比較例における残存量はいずれも９５％以上であった。
　前処理組成物の残存量（％）＝１００×（記録工程前の布帛重量－前処理工程前の布帛重量）／（前処理工程における前処理組成物の塗布直後の布帛重量－前処理工程前の布帛重量）

［記録工程］
　上記のようにして調製した白色の水系インク組成物１及び各色の水系インク組成物２～５を、産業用インクジェット評価装置（リコー（株）製、拡張型塗布装置ＥＶ２５００）にそれぞれ充填した。そして、インク液滴量２９ｐｌ／ｄｏｔ、ヘッド温度２５℃、解像度６００×１２００ｄｐｉ、６回重ね印刷の条件で、白色の水系インク組成物１を、前処理工程にて得た湿潤したプレコート層の領域の一部に対して付着させて、白色のベタパターン画像を形成した。続けて、各色の水系インク組成物２～５を、インク液滴量２７ｐｌ／ｄｏｔ、ヘッド温度２５℃、解像度６００×１２００ｄｐｉの条件で、白色の水系インク組成物１を付与した領域にそれぞれ付着させ、各色のベタパターン画像を形成した。

［乾燥工程］
　記録工程にて水系インク組成物を付着させた布帛について、卓上自動平プレス機（アサヒ繊維機械（株）製、ＡＦ－６５ＴＥＮ）を用いて、下記表３に記載の各条件（温度及び時間）でプレス乾燥を行った後、引き出し式電気乾燥機（ＡＤＥＬＣＯ社製、ＤＤＣ－６Ａ）を用いて、下記表３に記載の各条件（温度及び時間）で加熱乾燥を行い、実施例１～１１、比較例１～４の捺染物を得た。なお、比較例１～４はプレス乾燥を行っていないことから、表３中のプレス乾燥の温度及び時間の欄は空欄とした。

＜評価＞
［摩擦堅牢度試験］
　上記のようにして得られた各捺染物に対して、ＪＩＳ　Ｌ０８４９に規定の方法に従い、ＩＩ型（学振型）試験機を用いて、摩擦に対する染色堅牢度試験を実施した。乾燥摩擦はＪＩＳ　Ｌ０８４９に規定される乾燥試験、湿潤摩擦はＪＩＳ　Ｌ０８４９に規定される湿潤試験に則って試験し、汚染グレースケールを用いて評価した。摩擦堅牢度は、級の数値が大きい方が優れる。結果を表３に示す。

　表３の結果から明らかなように、実施例１～１１の捺染方法で得られた捺染物は、比較例１～４の捺染方法で得られた捺染物に比べて、乾燥摩擦堅牢度及び湿潤摩擦堅牢度の両者において優れていた。

Claims

　前処理組成物と、少なくとも１種の水系インク組成物とを用い、布帛に対して画像を形成するインクジェット捺染方法であって、
　前記水系インク組成物が、水、顔料、樹脂エマルション、水溶性有機溶剤、及び界面活性剤を含有し、
　前記布帛に前記前処理組成物を付与する前処理工程と、
　前記前処理工程にて前記前処理組成物を付与した領域の一部又は全部に、少なくとも１種の前記水系インク組成物をインクジェット方式により付与する記録工程と、
　前記記録工程にて前記水系インク組成物を付与した領域の一部又は全部に圧力を加えた後、前記布帛を加熱乾燥する乾燥工程と
を有する、インクジェット捺染方法。
　前記前処理工程では、前記布帛に前記前処理組成物を付与して湿潤したプレコート層を形成し、
　前記記録工程では、前記前処理工程後の前記布帛を乾燥することなく、前記湿潤したプレコート層の一部又は全部に少なくとも１種の前記水系インク組成物を付与する、請求項１に記載のインクジェット捺染方法。
　前記前処理組成物が、水、カチオン性ポリマー、及び架橋剤を含有する、請求項１又は２に記載のインクジェット捺染方法。
　前記カチオン性ポリマーが、アリルアミン構造単位、ジアリルアミン構造単位、ジアリルアンモニウム構造単位、及びエピハロヒドリン構造単位からなる群より選択される少なくとも１種の構造単位を含むポリマーである、請求項３に記載のインクジェット捺染方法。
　前記架橋剤が、ブロック型イソシアネート基含有化合物、カルボジイミド基含有化合物、及びオキサゾリン基含有化合物からなる群より選択される少なくとも１種を含む、請求項３に記載のインクジェット捺染方法。
　前記ブロック型イソシアネート基含有化合物の解離温度が１２０℃以上である、請求項５に記載のインクジェット捺染方法。
　前記前処理組成物の２５℃における表面張力が３５～６０ｍＮ／ｍである、請求項１又は２に記載のインクジェット捺染方法。
　前記前処理組成物の前記布帛における単位面積当たりの付与量が０．０３５ｇ／ｃｍ^２を超え、かつ、０．０７０ｇ／ｃｍ^２未満である、請求項１又は２に記載のインクジェット捺染方法。
　前記樹脂エマルションが、スチレン－ブタジエン樹脂、（メタ）アクリル樹脂、（メタ）アクリル共重合体樹脂、及びウレタン樹脂からなる群より選択される少なくとも１種の樹脂を含む、請求項１又は２に記載のインクジェット捺染方法。
　前記布帛が、ポリエステル布帛、又はポリエステルを含む混紡布帛である、請求項１又は２に記載のインクジェット捺染方法。
　前記乾燥工程における加熱乾燥温度が１４０℃未満である、請求項１０に記載のインクジェット捺染方法。
　前記布帛が、綿布帛、又は綿を含む混紡布帛である、請求項１又は２に記載のインクジェット捺染方法。
　前記前処理工程と前記記録工程との間に、前記前処理組成物を付与した領域の一部又は全部に圧力を加える加圧工程を有する、請求項１又は２に記載のインクジェット捺染方法。
　前記乾燥工程における圧力が０．０３Ｎ／ｃｍ^２以上である、請求項１又は２に記載のインクジェット捺染方法。
　前記水系インク組成物が、さらに高分子分散剤を含有する、請求項１又は２に記載のインクジェット捺染方法。
　前記高分子分散剤が、下記モノマーＡ、モノマーＢ、及びモノマーＣからなる群より選択される２種以上のモノマーを構成モノマーとして含むポリマーである、請求項１５に記載のインクジェット捺染方法。
　モノマーＡ：下記式（１）中、Ｒが水素原子であるモノマー。
　モノマーＢ：下記式（１）中、ＲがＣ１－Ｃ４アルキル基であるモノマー。
　モノマーＣ：下記式（１）中、Ｒがアリール基、アリールＣ１－Ｃ４アルキル基、又はＣ１－Ｃ４アルキルアリール基であるモノマー。