WO2020213441A1 - チェーンの継手ピン及びその製造方法 - Google Patents

Abstract

０．５～０．６％Ｃ、５５０～７５０ＨＶのピン素材の全体に銅メッキ（Ｄ）を施す。ピン素材の先端部（Ｂ）の外周面を切削して銅メッキを除去すると共にカシメ用のザグリ穴（１９）を形成する。脱炭処理して先端部の外周面から炭素を発散し、熱処理により先端部（Ｂ）の全体に炭素を分散して、先端部（Ｂ）の硬度を低減する（５００～６５０ＨＶ）。研削により継手ピン１３の銅メッキを剥離する。

Description

チェーンの継手ピン及びその製造方法

　本発明は、ローラチェーン等のチェーンを接続する継手ピン並びにその製造方法に関する。

　一般に、二輪車の走行駆動用ローラチェーンは、使用によりローラチェーンが伸びてリンク数を調整する際、使用しているチェーンを切断してリンク数を調整した後そのチェーンを駆動スプロケット及び従動スプロケットに巻掛けた状態で、継手リンクにより無端状に連結される。又は、ローラチェーンは、使用していたローラチェーンが消耗して使用不能になった場合、新たなローラチェーンに交換して、駆動スプロケット及び従動スプロケットに巻掛けた状態で、継手リンクにより無端状に連結される。

　該継手リンク１は、図３に示すように、継手プレート２の両端部に継手ピン３，３を立設した足立プレート４と１枚の外プレート５とを有する。足立プレート４の継手ピン３は、有端のローラチェーン６の両端のブシュ７，７に嵌挿されて、上記ローラチェーン６の端部を連接するように配置した上記外プレート５のピン孔から突出する。そして、該突出した継手ピン３，３の先端部がカシメられることによりローラチェーン６が無端状に連結される。

　従来、該継手ピン３は、チェーン本体と同系の浸炭鋼を用い、被カシメ部分はカシメ時の変形を容易にするため穴を形成すると共に、ピンの熱処理において、チェーン本体のピンと同様の浸炭焼入れを施される。このことから、継手ピンの被カシメ部分近傍には予め銅メッキ等の浸炭防止のための前処理、即ち表面硬化防止処理を施してから、浸炭焼入れを行い、被カシメ部近傍を他の部分に比して低硬度レベルとし、変形し易く構成している。

　該継手ピン３には、端面が山型の一文字型パンチでハンチングして、該継手ピン３の被カシメ部分端面をカシメ付けするが、該カシメ付け部分（被カシメ部）は、硬度を低く設定しているため、容易に変形してカシメ付けることができる。

　しかし、上記継手ピンの被カシメ部分は、浸炭処理を行っていないため、チェーン本体及び継手ピンの被カシメ部以外の部分に対して硬度が低い。このため、継手リンクのピンのカシメ付け部分のみの強度が低下し、継手ピンの耐久性が低下してしまう。

　なお、上記継手ピン３に高炭素鋼を用いた場合、被カシメ部分に銅メッキを処理して浸炭焼入れを防止しても、継手ピン自体が高い炭素量を含有した高い硬度からなり、カシメ処理に際してピン先端部に割れ等の不具合を発生することがある。

　そこで、継手リンクの継手ピンの構造材料をチェーン本体に用いられるピンと同等な高張力鋼、即ち０．３％以上の炭素と種々の合金元素を添加した鋼で構成し、該高張力鋼からなる継手ピン素材の被カシメ部分に所定の穴を形成し、該被カシメ部分を含めた継手ピン素材全体を、表面硬化処理以外の焼入れ、例えばオーステンパーを施すことによって、ピンの内外面が均一なＨＲＣ４５以上の硬度からなる継手ピンを得ることが提案されている（特許文献１参照）。

特開昭５２－６８６０号公報

　上記特許文献１の継手ピンは、該ピン全体が所定の硬度を有するため、継手ピンの強度を保持し得るとしても、被カシメ部分も同じ硬度を有するため、例え截頭円錐形のパンチを用いてピン先端をカシメても、ピンのカシメ部分に亀裂等を生じることがあり、継手リンクの耐久性に課題を生じる場合がある。

　本発明は、高炭素鋼による継手ピンを用いて高い硬度を得ることができるものでありながら、被カシメ部分を脱炭することによりカシメ割れの発生を防止したチェーンの継手ピン及びその製造方法を提供する。

　本発明は、チェーンの両端部を接続して無端状とするチェーンの継手ピン（１３）において、
　前記継手ピン（１３）の軸方向における先端面（３０）と、前記先端面（３０）に形成されるカシメ用の穴（１９）と、を有する先端部（Ｂ）と、
　前記先端部（Ｂ）以外の胴体部（Ａ）と、を有し、
　前記先端部（Ｂ）の硬度は、５００～６５０［ＨＶ］であり、
　前記胴体部（Ａ）は、炭素量０．５～０．６［％］の炭素鋼から構成されると共に硬さ５５０～７５０［ＨＶ］である、
　チェーンの継手ピンにある。

　前記胴体部（Ａ）は、第１の外径（Ｌ１）を有し、
　前記先端部（Ｂ）は、前記第１の外径（Ｌ１）よりも小さい第２の外径（Ｌ２）を有する小径部（２０ａ）を有する。

　前記小径部（２０ａ）は、切削加工によって形成される。

　前記胴体部（Ａ）の径方向における中心部分は、炭素量０．５～０．６［％］を含有する。

　チェーンの両端部を接続して無端状とするチェーンの継手ピンの製造方法であって、
　炭素量０．５～０．６［％］の高炭素鋼からなるピン素材の全体にメッキ（Ｄ）を施すメッキ工程と、
　前記メッキされた前記ピン素材の軸方向（ＡＤ）における先端部（Ｂ）の外周面を、切削により前記メッキを除去すると共に、前記ピン素材の軸方向（ＡＤ）における先端面（３０）に穴（１９）を形成する切削工程と、
　前記ピン素材を脱炭処理して、前記メッキが除去された前記ピン素材の前記先端部（Ｂ）の前記外周面から炭素を発散し、かつ熱処理を行って、前記ピン素材の前記先端部（Ｂ）の炭素量を低減して硬度を低下する脱炭工程と、
　前記ピン素材の前記先端部（Ｂ）以外の部分（Ａ）の外周面を研削して、前記ピン素材のメッキを剥離する研削工程と、
　を備えることを特徴とするチェーンの継手ピンの製造方法にある。

　前記メッキ工程は、銅メッキを施す。

　前記切削工程は、前記ピン素材の前記先端部の前記外周面に凹溝又は小径部（２０ａ）を形成する。

　なお、上記カッコ内の符号は、図面と対照するためのものであるが、これにより特許請求の範囲の記載に何等影響を及ぼすものではない。

　請求項１に係る本発明によると、継手ピンの先端部は、硬度が５００～６５０［ＨＶ］であり、胴体部に比較して低く、カシメ用の穴に治具を差込んでカシメても、カシメ割れを生じることなく適正にカシメることができる。継手ピンの胴体部は、０．５～０．６［％］の炭素量を含有する硬さ５５０～７５０［ＨＶ］の高炭素鋼からなり、強度及び耐摩耗性が高く、該継手ピンで繋いだチェーンのカシメ不良による継手ピンの脱落及び変形を防止すると共に、チェーンの引張り強度及び耐久性を向上することができる。

　請求項２に係る本発明によると、継手ピンの先端部が小径部を有するので、継手ピンを外プレートのピン孔へ挿入することが容易になり、かつカシメによるピン孔への嵌合を確実に行うことができる。

　請求項３に係る本発明によると、小径部が切削処理によって形成されるため、例えば継手ピンの先端部に施されたメッキが除去され、後の表面処理のために母材を露出させることができる。

　請求項４に係る本発明によると、胴体部の中心部分まで炭素量０．５～０．６［％］を含有するので、継手ピンの強度及び耐摩耗性を向上することができる。

　請求項５に係る本発明によると、メッキ工程、切削工程、脱炭工程、研削工程を備える継手ピンの製造方法により、高炭素鋼からなる硬度の高い鋼材を用いるものでありながら、継手ピンの先端部のみを脱炭して、均一な比較的硬度の低い被カシメ部を形成して、カシメ処理をカシメ割れ等を生じることなく、適正かつ確実に行うことができる。

　請求項６に係る本発明によると、メッキ処理を銅メッキとすると、ピン素材に、比較的容易にピンホール等のない正確な被覆を行うことができ、脱炭処理が先端部以外に影響することを防止できる。

　請求項７に係る本発明によると、切削工程において、ピン素材の先端部の外周面に凹溝又は小径部を、メッキ除去作業時に容易に形成することができる。

　本発明のその他の特徴及び利点は、添付図面を参照とした以下の説明により明らかになるであろう。なお、添付図面においては、同じ若しくは同様の構成には、同じ参照番号を付す。

本発明に係る継手リンクを示す平面図。 継手ピンを示す平面図。 本発明に係る継手ピンの製造方法のメッキ工程を示す図。 継手ピンの製造方法の切削工程を示す図。 継手ピンの製造方法の脱炭工程を示す図。 継手ピンの製造方法の研削工程を示す図。 継手リンクによるローラチェーンの接続を示す平面図。

　以下、図面に沿って本発明の実施の形態について説明する。継手リンク１１は、図１ＡＢに示すように、立上プレート１４と１枚の外プレート１５とを有する。立上プレート１４は、１枚の外プレートからなる継手プレート１２の両端部に継手ピン１３，１３を抜止め圧入して固定して形成されている。上記継手ピン１３の軸方向ＡＤにおける先端面３０には、カシメ用のザグリ穴１９が形成されており、かつ該継手ピン１３の先端部Ｂの外周面は、切削された切削部２０を有している。該切削部２０には、浅い凹溝２０ａが形成されると好ましい。小径部としての凹溝２０ａは、継手ピン１３の内、先端部Ｂ以外の部分である胴体部Ａの外径よりも小さい。言い換えれば、胴体部Ａは、第１の外径Ｌ１を有し、先端部Ｂの凹溝２０ａは、第１の外径Ｌ１よりも小さい第２の外径Ｌ２を有している。胴体部Ａは、特に軸方向ＡＤにおける中央部分にて、第１の外径Ｌ１を有している。また、先端部Ｂの切削部２０は、先端部Ｂの軸方向ＡＤにおける全域に亘って、第１の外径Ｌ１よりも小さい外径を有する小径部を有していてもよい。該継手リンク１１は、上記外プレート１５が、有端のローラチェーンの両端に連結するように配置された状態で、以下の工程によりローラチェーンを無端状に連結する。すなわち、上記立上プレート１４の両継手ピン１３，１３を上記ローラチェーン両端のブシュに挿入して、上記外プレート１５のピン孔から突出させる。そして、該突出したピン先端のザグリ穴１９に、截頭円錐形のパンチが差込まれることで、カシメ２２としてカシメられる。上記カシメ２２は、硬度が比較的低くなっており、ザグリ穴１９があることが相俟って、クラック等の損傷を生ずることなく正確に行われる。なお、上記継手リンク１１には継手ピン１３を囲むように上記継手プレート１２及び外プレート１５に隣接してシールリング２１が被嵌されている。

　上記継手ピン１３は、炭素（Ｃ）を０．５～０．６％含有した高炭素鋼からなり、ビッカース硬さが５５０～７５０［ＨＶ］からなる。該継手ピン１３の、カシメされる先端部Ｂ以外の部分である胴体部Ａの硬さは、継手ピン素材の硬度である５５０～７５０［ＨＶ］であるが、上記切削部２０がある先端部Ｂの硬さは、後述する脱炭処理により５００～６５０［ＨＶ］に低下されている。なお、胴体部Ａは、脱炭処理が行われないため、母材の外周部が炭素（Ｃ）を０．５～０．６％含有するのはもちろんのこと、径方向における中心部分も炭素（Ｃ）を０．５～０．６％含有する。このため、例えば表面のみを浸炭焼入れ処理等の表面硬化熱処理した場合に比して、胴体部Ａ全体の強度及び耐摩耗性が高く、耐久性を向上できる。また、表面硬化熱処理による歪みが発生せず、高精度の継手ピンを得ることができる。

　ついで、図２Ａ～Ｄに沿って上記継手ピンの製造方法について説明する。上述したように、継手ピン１３の素材は、炭素量０．５～０．６％からなる５５０～７５０［ＨＶ］の鋼材からなるが、図２Ａに示すように、該ピン素材全体に銅メッキＤを施すメッキ処理が行われる（メッキ工程）。なお、該メッキ工程は、後述する脱炭処理を阻止するものであり、比較的容易にピンホール等のない正確な被覆を行うことができる銅メッキが好ましいが、他のメッキでもよい。該銅メッキされたピン素材の先端部に、図２Ｂに示すように、切削処理が行われる（切削工程）。該切削工程は、ピン先端部外周面の銅メッキＤがバイト２４により切削されて除去され、先端部Ｂのピン素材表面が露出する切削部２０になる。この際、該切削部２０に浅い凹溝２０ａ又は僅かな小径部を切削により形成してもよい。更に、ピン先端面からドリル２３により所定深さ及び所定広がりのザグリ穴１９を形成する。なお、該切削工程において、後の表面処理のためにピン先端面も銅メッキ除去を行うことが好ましい。また、上記銅メッキＤが除去されたピン先端部外周面の切削部２０の底部とザグリ穴１９部分は、継手ピン１３の軸方向ＡＤにおいて略同じ位置に設けられる。

　この状態で、図２Ｃに示すように、酸素環境による熱処理等の脱炭処理が行われる（脱炭工程）。該脱炭工程は、上記銅メッキＤが除去されたピン先端部外周面の切削部２０のみで行われ、更に焼入れ、焼なまし等の通常の熱処理が行われる。これにより、上記切削部２０から、炭素が酸素に結合されて発散され、更に上記通常の熱処理により、先端部Ｂにおいて脱炭されなかった炭素が拡散され、先端部Ｂは、肉厚方向全体で炭素量が均一に減少して、硬度が所定量低下する（５００～６５０［ＨＶ］）。なお、ピン先端以外の銅メッキＤがある部分（図１ＢのＡ参照）は、表面での脱炭処理が行われていないため、炭素量は、そのまま保持（０．５～０．６％Ｃ）された状態で熱処理され、全体に均一な硬度が維持される（５５０～７５０［ＨＶ］）。

　そして、図２Ｄに示すように、ピン素材の表面全体が砥石２５により研削される研削処理が行われ（研削工程）、銅メッキＤがピン全体で剥離され、継手ピン１３の製造が完了する。

　上記継手ピン１３は、先端部Ｂが、上記脱炭処理により炭素量が低減され、硬さが、カシメ加工されない胴体部Ａより低くなっている。ローラチェーンを接続する際、継手ピン１３は、ピン先端のザグリ穴１９にパンチが差込まれてフレアカシメされるが、該カシメられる部分は、硬度が低くなっており（５００～６５０［ＨＶ］）、クラック等を生じることなく適正かつ確実にカシメされる。この際、切削部２０は、外プレート１５のピン孔よりも僅かに小径に形成され、外プレート１５のピン孔への挿入が容易となっている。そして、切削部２０がカシメられることにより、切削部２０の条痕がピン孔の内周面に喰込んで、継手ピン１３が外プレート１５に対して確実に嵌合・固定される。更に、上記切削部２０に凹溝２０ａ又は小径部が切削により形成されると、更にカシメを正確かつ容易に行うことができる。継手ピン１３として左右の立上プレート１４及び外プレート１５を接続する胴体部Ａは、脱炭処理されない高炭素鋼からなり、均一な高い硬度（５５０～７５０［ＨＶ］）を有しており、高い強度と耐久性を有する。これにより、該継手ピンで接続されたローラチェーンの引張り強度を向上することができ、高排気量の二輪車等に対応可能となる。

　なお、継手ピン１３は、一般には立上プレート１４のピンとして用いられるが、ピン単体で継手ピンとして用いることも可能である。この場合、継手ピンの両端がカシメされるので、継手ピンの両端部の銅メッキを切削、除去して、脱炭処理により低硬度化を図る。また、本継手ピンは、ローラチェーンの継手ピンとして好適であるが、これに限らず、ブシュチェーン、サイレントチェーン等の他のチェーンにも同様に適用可能である。

　本発明は、例えばローラチェーン等のチェーンの継手ピンに適用可能である。特に、カシメられることでチェーンの外プレートに対して固定される継手ピンに適用可能である。

　本発明は上記実施の形態に制限されるものではなく、本発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、本発明の範囲を公にするために、以下の請求項を添付する。

１１　　　継手リンク
１３　　　継手ピン
１４　　　立上プレート
１９　　　穴（ザグリ穴）
２０　　　切削部
２０ａ　　小径部（凹溝）
３０　　　先端面
Ａ　　　　胴体部
ＡＤ　　　軸方向
Ｂ　　　　先端部
Ｄ　　　　銅メッキ
Ｌ１　　　第１の外径
Ｌ２　　　第２の外径

Claims (7)

1. 　チェーンの両端部を接続して無端状とするチェーンの継手ピンにおいて、
   　前記継手ピンの軸方向における先端面と、前記先端面に形成されるカシメ用の穴と、を有する先端部と、
   　前記先端部以外の胴体部と、を有し、
   　前記先端部の硬度は、５００～６５０［ＨＶ］であり、
   　前記胴体部は、炭素量０．５～０．６［％］の炭素鋼から構成されると共に硬さ５５０～７５０［ＨＶ］である、
   　チェーンの継手ピン。
2. 　前記胴体部は、第１の外径を有し、
   　前記先端部は、前記第１の外径よりも小さい第２の外径を有する小径部を有する、
   　請求項１記載のチェーンの継手ピン。
3. 　前記小径部は、切削処理によって形成される、
   　請求項２記載のチェーンの継手ピン。
4. 　前記胴体部の径方向における中心部分は、炭素量０．５～０．６［％］を含有する、
   　請求項１乃至３のいずれか１項に記載のチェーンの継手ピン。
5. 　チェーンの両端部を接続して無端状とするチェーンの継手ピンの製造方法であって、
   　炭素量０．５～０．６［％］の高炭素鋼からなるピン素材の全体にメッキを施すメッキ工程と、
   　前記メッキされた前記ピン素材の軸方向における先端部の外周面を、切削により前記メッキを除去すると共に、前記ピン素材の軸方向における先端面に穴を形成する切削工程と、
   　前記ピン素材を脱炭処理して、前記メッキが除去された前記ピン素材の前記先端部の前記外周面から炭素を発散し、かつ熱処理を行って、前記ピン素材の前記先端部の炭素量を低減して硬度を低下する脱炭工程と、
   　前記ピン素材の前記先端部以外の部分の外周面を研削して、前記ピン素材のメッキを剥離する研削工程と、
   　を備えることを特徴とするチェーンの継手ピンの製造方法。
6. 　前記メッキ工程は、銅メッキを施す、
   　請求項５記載のチェーンの継手ピンの製造方法。
7. 　前記切削工程は、前記ピン素材の前記先端部の前記外周面に凹溝又は小径部を形成する、
   　請求項５又は６記載のチェーンの継手ピンの製造方法。

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