WO2020009005A1

WO2020009005A1 - 密封装置

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Publication number: WO2020009005A1
Application number: PCT/JP2019/025714
Authority: WO
Inventors: 雄一樽川
Original assignee: Nok株式会社
Priority date: 2018-07-03
Filing date: 2019-06-27
Publication date: 2020-01-09
Also published as: JP6899456B2; EP3819526B1; EP3819526A4; EP3819526A1; JPWO2020009005A1

Abstract

トルクの低減とシール性の向上の両立を図ることのできる密封装置を提供する。　密封装置本体１２０は、異物の侵入を抑制するための異物用リップ１２１と、潤滑剤の漏出を抑制するための潤滑剤用リップ１２２と、中間リップ１２３と、を備え、中間リップ１２３における摺動面には梨地状の凹凸１２３ａが形成されており、異物用リップ１２１における摺動面と潤滑剤用リップ１２２における摺動面のうちの少なくともいずれか一方の摺動面には梨地状の凹凸は形成されていないことを特徴とする。

Description

密封装置

　本発明は、ハブベアリングなどに備えられる密封装置に関する。

　自動車に備えられるハブベアリングには、車体側とタイヤ側にそれぞれ密封装置が設けられている。これらの密封装置は、ハブベアリングに備えられる内輪と外輪との間の環状隙間を封止する機能を備えている。そして、これらの密封装置は、外部からの異物の侵入を抑制するための異物用リップと、グリスの漏出を抑制するためのグリス用リップと、これら２つのリップの間に設けられる中間リップとを備えている。また、これらのリップは、内輪または内輪に固定されるスリンガーに対して摺動自在に設けられている。

　以上のように構成される密封装置においては、摺動により発生するトルクを低減させる要求が高まっている。そこで、各リップの摺動面に梨地状の凹凸を形成させることで、トルクを低減させる対策が検討されている。しかしながら、梨地状の凹凸による表面粗さを大きくすると、シール性が低減してしまう。従って、トルクの低減とシール性の向上とは相反する関係にあり、これらを両立させることは難しかった。

特開２０１０－１８５４９１号公報

　本発明の目的は、トルクの低減とシール性の向上の両立を図ることのできる密封装置を提供することにある。

　本発明は、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。

　すなわち、本発明の密封装置は、
　相対的に回転可能に設けられる軸とハウジングとの間の環状隙間を封止する密封装置において、
　前記ハウジングに対して固定される補強環と、
　前記補強環に一体的に設けられる弾性体製の密封装置本体と、
を備える密封装置であって、
　前記密封装置本体は、
　径方向外側に向かって伸び、前記軸または該軸に固定される環状部材に対して摺動自在に設けられ、異物の侵入を抑制するための異物用リップと、
　径方向内側に向かって伸び、前記軸または該軸に固定される環状部材に対して摺動自在に設けられ、潤滑剤の漏出を抑制するための潤滑剤用リップと、
　前記異物用リップと潤滑剤用リップとの間に設けられ、かつ前記軸または該軸に固定される環状部材に対して摺動自在に設けられる中間リップと、
　を備え、
　前記中間リップにおける摺動面には梨地状の凹凸が形成されており、前記異物用リップにおける摺動面と前記潤滑剤用リップにおける摺動面のうちの少なくともいずれか一方の摺動面には梨地状の凹凸は形成されていないことを特徴とする。

　本発明によれば、異物用リップにおける摺動面と潤滑剤用リップにおける摺動面のうちの少なくともいずれか一方の摺動面には梨地状の凹凸は形成されていない。従って、梨地状の凹凸が形成されていないリップのシール性を高めることができる。そして、中間リップにおける摺動面には梨地状の凹凸が形成されているため、摺動により発生するトルクを低減させることができる。なお、「梨地状の凹凸」とは、リップの摺動面に積極的に形成する凹凸を意味するものであり、リップを構成する弾性体（ゴムなど）の材料の固有の凹凸や、密封装置本体を成形する金型の固有の粗さにより生じる凹凸は含まれない。以下、同様である。

　また、他の発明は、
　相対的に回転可能に設けられる軸とハウジングとの間の環状隙間を封止する密封装置において、
　前記ハウジングに対して固定される補強環と、
　前記補強環に一体的に設けられる弾性体製の密封装置本体と、
を備える密封装置であって、
　前記密封装置本体は、
　径方向外側に向かって伸び、前記軸または該軸に固定される環状部材に対して摺動自在に設けられ、異物の侵入を抑制するための異物用リップと、
　径方向内側に向かって伸び、前記軸または該軸に固定される環状部材に対して摺動自在に設けられ、潤滑剤の漏出を抑制するための潤滑剤用リップと、
　前記異物用リップと潤滑剤用リップとの間に設けられ、かつ前記軸または該軸に固定される環状部材に対して摺動自在に設けられる中間リップと、
　を備え、
　前記異物用リップと潤滑剤用リップと中間リップの各摺動面には、いずれも梨地状の凹凸が形成されており、前記中間リップの摺動面に形成される梨地状の凹凸は、前記異物用リップの摺動面に形成される梨地状の凹凸、及び潤滑剤用リップの摺動面に形成される梨地状の凹凸のうちの少なくともいずれか一方よりも表面粗さが大きいことを特徴とする。

　本発明によれば、中間リップの摺動面に形成される梨地状の凹凸は、異物用リップの摺動面に形成される梨地状の凹凸、及び潤滑剤用リップの摺動面に形成される梨地状の凹凸のうちの少なくともいずれか一方よりも表面粗さが大きくなるように構成されている。これにより、中間リップによる摺動抵抗を低減させつつ、異物用リップ及び潤滑剤用リップのうちの少なくともいずれか一方によるシール性の低下を抑制させることができる。

　以上説明したように、本発明によれば、トルクの低減とシール性の向上の両立を図ることができる。

図１は本発明の実施例に係るハブベアリングの模式的断面図である。図２は本発明の実施例１に係る密封装置の模式的断面図である。図３は本発明の実施例１に係る密封装置が適用されたハブベアリングの模式的断面図の一部である。図４は本発明の実施例２に係る密封装置の模式的断面図である。図５は本発明の実施例２の変形例に係る密封装置の模式的断面図である。

　以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を、実施例に基づいて例示的に詳しく説明する。ただし、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。

　（ハブベアリング）
　本実施例に係る密封装置が適用されるハブベアリングについて、図１を参照して説明する。図１は本発明の実施例に係るハブベアリングの模式的断面図である。図１においては、内輪の回転中心軸線を含む面でハブベアリングを切断した断面図を示している。

　自動車にはハブベアリング１０が備えられている。ハブベアリング１０は、相対的に回転可能に設けられる内輪（軸）２０と、外輪（ハウジング）３０と、これらの間に設けられる複数のボール４０とを備えている。そして、内輪２０側にタイヤ（不図示）が固定され、外輪３０は車体側に取付けられる。以下、説明の便宜上、図１中右側をタイヤ側（Ａ）と称し、左側を車体側（Ｂ）と称する。内輪２０のタイヤ側（Ａ）には、タイヤを取り付けるために外向きフランジ部２１が設けられている。そして、外部からハブベアリング１０内への異物（泥水やごみなど）の侵入を抑制し、かつ内部から潤滑剤としてのグリス（Ｇ）が漏出することを抑制させるために、内輪２０と外輪３０との間の環状隙間を封止する密封装置１００，２００が設けられている。タイヤ側（Ａ）の密封装置１００はアウターシール、車体側（Ｂ）の密封装置２００はインナーシールと呼ばれることもある。

　タイヤ側（Ａ）の密封装置１００と車体側（Ｂ）の密封装置２００は、基本的には同様の構成を採用し得る。ただし、ハブベアリング１０に備えられる密封装置１００，２００の場合、内輪２０の回転に伴って、遠心力により異物等が外部に排出し易いように、内輪２０と共に回転する部材の端面に対して摺動するシールリップが設けられる。タイヤ側（Ａ）の密封装置１００の場合には、上述した外向きフランジ部２１に対して摺動するシールリップを設けることができるのに対して、車体側（Ｂ）の密封装置２００の場合には、外向きフランジ部２１に相当する部分を設けるために、スリンガー（環状部材）２５が設けられるのが一般的である。このように、車体側（Ｂ）の密封装置２００の場合には、スリンガー２５が必要となるのが一般的であるのに対して、タイヤ側（Ａ）の密封装置１００の場合には、必ずしもスリンガー２５を必要としない点で、両者は異なっている。

　（実施例１）
　図２及び図３を参照して、本発明の実施例１に係る密封装置について説明する。図２は本発明の実施例１に係る密封装置の模式的断面図である。図３は本発明の実施例１に係る密封装置が適用されたハブベアリングの模式的断面図の一部拡大図である。図２及び図３においては、内輪の回転中心軸線を含む面で密封装置等を切断した断面図を示している。

　本実施例においては、タイヤ側（Ａ）の密封装置１００の場合を例にして説明する。本実施例に係る密封装置１００は、外輪３０に対して固定される補強環１１０と、補強環１１０に一体的に設けられる弾性体（例えば、ゴム）製の密封装置本体１２０とから構成される。補強環１１０は、外輪３０の内周面に嵌合により固定される略円筒部１１１と、略円筒部１１１の端部から伸びる内向きフランジ部１１２とを備えている（図３参照）。密封装置本体１２０は、内向きフランジ部１１２に一体的に設けられている。

　密封装置本体１２０は、異物用リップ１２１と、潤滑剤用リップ１２２と、中間リップ１２３とを備えている。異物用リップ１２１は、異物の侵入を抑制するために設けられている。この異物用リップ１２１は、径方向外側に向かって伸び、内輪２０に対して摺動自在に設けられている。より具体的には、この異物用リップ１２１は、内輪２０における外向きフランジ部２１の端面に対して摺動自在に設けられている。潤滑剤用リップ１２２は、潤滑剤（グリス（Ｇ））の漏出を抑制するために設けられている。この潤滑剤用リップ１２２は、径方向内側に向かって伸び、内輪２０の外周表面２２に対して摺動自在に設けられている。中間リップ１２３は、異物用リップ１２１と同様に、異物の侵入を抑制するために設けられており、異物用リップ１２１では阻止できずに侵入してしまった異物が、ボール４０側に侵入してしまうことを抑制する役割を担っている。この中間リップ１２３は、異物用リップ１２１と潤滑剤用リップ１２２との間に設けられ、かつ径方向外側に向かって伸び、内輪２０に対して摺動自在に設けられている。より具体的には、この中間リップ１２３は、内輪２０の外周表面２２と外向きフランジ部２１との間の湾曲面２３に対して摺動自在に設けられている。

　そして、本実施例に係る密封装置本体１２０においては、中間リップ１２３における摺動面には梨地状の凹凸１２３ａが形成されており、異物用リップ１２１における摺動面と潤滑剤用リップ１２２における摺動面には梨地状の凹凸は形成されていない。梨地状の凹凸１２３ａは、ランダムに配置された凹凸であり、放電加工やブラスト加工などにより得られる。密封装置本体１２０に対して直接加工を行うことで凹凸を形成させることもできるが、密封装置本体１２０を成形する金型の表面に梨地状の凹凸を設けることにより、生産性を高めることができる。また、梨地状の凹凸１２３ａの十点平均粗さＲｚＪＩＳ（ＪＩＳ　Ｂ０６０１：２００１）は、２μｍ以上４０μｍ以下となるように設定されている。なお、中間リップ１２３における摺動面に設ける梨地状の凹凸１２３ａの範囲については、中間リップ１２３において、内輪２０に対して摺動し得る範囲全体に設けるのが望ましい。図示の例においては、中間リップ１２３の内周面の全体に梨地状の凹凸１２３ａが設けられている。ただし、必ずしも、中間リップ１２３の内周面の全体に梨地状の凹凸１２３ａを設ける必要はない。例えば、梨地状の凹凸１２３ａが形成される範囲と、形成されない範囲が、周方向に交互に設けられる構成を採用することもできる。なお、「梨地状の凹凸」とは、リップの摺動面に積極的に形成する凹凸を意味するものであり、リップを構成する弾性体（ゴムなど）の材料の固有の凹凸や、密封装置本体を成形する金型の固有の粗さにより生じる凹凸は含まれない。以下、同様である。

　＜本実施例に係る密封装置の優れた点＞
　本実施例に係る密封装置１００によれば、異物用リップ１２１における摺動面と潤滑剤用リップ１２２における摺動面には梨地状の凹凸は形成されていないため、これらのシール性を高めることができる。従って、異物用リップ１２１によるシール性を高くすることができることで、外部からの泥水やダストなどの異物の侵入を十分抑制することができる。また、潤滑剤用リップ１２２によるシール性を高くすることができることで、潤滑剤（グリス（Ｇ））の漏出を十分抑制することができ、かつベアリング側（ボール４０が設けられている側）の気密性を高めることができる。

　そして、中間リップ１２３における摺動面には梨地状の凹凸１２３ａが形成されているため、摺動により発生するトルクを低減させることができる。なお、中間リップ１２３については、凹凸１２３ａが形成されているため、異物用リップ１２１及び潤滑剤用リップ１２２に比べてシール性は低い。しかしながら、異物用リップ１２１により異物の侵入を十分抑制することができ、かつ潤滑剤用リップ１２２により潤滑剤の漏出を十分抑制することができため、中間リップ１２３によるシール性が低くても、密封装置１００全体でのシール性は十分高くすることができる。

　以上のように、本実施例に係る密封装置１００によれば、トルクの低減とシール性の向上の両立を図ることができる。なお、ハブベアリングに設けられる密封装置においては、一般的に、異物用リップと中間リップとの間の密閉空間内の気圧が大気圧に比べて極端に低くなることがある。このような現象は、例えば、内輪の表面に、研磨の際に形成される螺旋状の加工目が存在する場合に発生し得る。すなわち、外輪に対して内輪が回転するに伴って、異物用リップと内輪等との摺動により、いわゆるポンピング効果が発揮され、リップの摺動部内の流体は回転方向に応じた方向に移動する。従って、螺旋状の加工目は、外輪に対して内輪が正方向に回転する際に、異物が外部に排出される方向となるように形成されるのが一般的である。そのため、外輪に対して内輪が正方向に回転すると、異物用リップと中間リップとの間の密閉空間内の気体が外部に排出され得る。これにより、異物用リップと中間リップとの間の密閉空間内の気圧が大気圧に比べて極端に低くなってしまうと、これらのリップが内輪に強く押し付けられてしまい、トルクが上昇する原因になる。しかしながら、本実施例に係る密封装置１００の場合には、上記の通り、中間リップ１２３の摺動面には梨地状の凹凸１２３ａが設けられているため、シール性は低下されている。これにより、異物用リップ１２１と中間リップ１２３との間の密閉空間内の気圧が低下した場合には、中間リップ１２３と潤滑剤用リップ１２２との間の密閉空間内の気体が供給されることにより、異物用リップ１２１と中間リップ１２３との間の密閉空間内の気圧の低下を低減できる効果もある。

　なお、本実施例では、中間リップ１２３の摺動面にのみ梨地状の凹凸１２３ａを設けて、異物用リップ１２１における摺動面と潤滑剤用リップ１２２における摺動面には梨地状の凹凸は形成されていない構成を示した。しかしながら、特に、異物用リップ１２１によるシール性を高めて、潤滑剤用リップ１２２によるシール性は高める必要がない場合には、潤滑剤用リップ１２２の摺動面にも中間リップ１２３の場合と同様に梨地状の凹凸を設けることもできる。この場合、潤滑剤用リップ１２２の摺動面に設ける梨地状の凹凸は、中間リップ１２３の摺動面に設ける梨地状の凹凸よりも表面粗さを小さくしてもよい。例えば、前者の凹凸の十点平均粗さＲｚＪＩＳは２μｍ以上３０μｍ以下（より好ましくは５μｍ以上２０μｍ以下）の範囲で設定し、後者の凹凸の十点平均粗さＲｚＪＩＳは１０μｍ以上４０μｍ以下の範囲で設定し、かつ、前者の十点平均粗さの方が小さくなるように設定することができる。

　また、特に、潤滑剤用リップ１２２によるシール性を高めて、異物用リップ１２１によるシール性は高める必要がない場合には、異物用リップ１２１の摺動面にも中間リップ１２３の場合と同様に梨地状の凹凸を設けることもできる。この場合、異物用リップ１２１の摺動面に設ける梨地状の凹凸は、中間リップ１２３の摺動面に設ける梨地状の凹凸よりも表面粗さを小さくしてもよい。例えば、前者の凹凸の十点平均粗さＲｚＪＩＳは２μｍ以上３０μｍ以下（より好ましくは５μｍ以上２０μｍ以下）の範囲で設定し、後者の凹凸の十点平均粗さＲｚＪＩＳは１０μｍ以上４０μｍ以下の範囲で設定し、かつ、前者の十点平均粗さの方が小さくなるように設定することができる。

　（実施例２）
　図４及び図５には、本発明の実施例２が示されている。上記実施例１では、中間リップにおける摺動面には梨地状の凹凸が形成されており、異物用リップにおける摺動面と潤滑剤用リップにおける摺動面には梨地状の凹凸は形成されていない場合の構成を示した。これに対して、実施例２においては、全てのリップにおける摺動面に梨地状の凹凸が形成される場合の構成を示す。梨地状の凹凸に関する構成以外の構成および作用については実施例１と同一なので、同一の構成部分については同一の符号を付して、その説明は適宜省略する。

　図４は本発明の実施例２に係る密封装置の模式的断面図である。図４においては、内輪の回転中心軸線を含む面で密封装置を切断した断面図を示している。

　本実施例においても、タイヤ側（Ａ）の密封装置１００Ｘの場合を例にして説明する。本実施例に係る密封装置１００Ｘにおいても、上記実施例１の場合と同様に、外輪に対して固定される補強環１１０と、補強環１１０に一体的に設けられる弾性体（例えば、ゴム）製の密封装置本体１２０とから構成される。

　密封装置本体１２０は、実施例１の場合と同様に、異物用リップ１２１と、潤滑剤用リップ１２２と、中間リップ１２３とを備えている。これらのリップについては、梨地状の凹凸に関する構成以外については、上記実施例１で説明した通りである。

　そして、本実施例に係る密封装置本体１２０においては、異物用リップ１２１と潤滑剤用リップ１２２と中間リップ１２３の各摺動面には、いずれも梨地状の凹凸１２１ａ，１２２ａ，１２３ａが形成されている。また、中間リップ１２３の摺動面に形成される梨地状の凹凸１２３ａは、異物用リップ１２１と潤滑剤用リップ１２２の各摺動面に形成される梨地状の凹凸１２１ａ，１２２ａよりも表面粗さが大きくなるように構成されている。より具体的には、前者の凹凸１２３ａの十点平均粗さＲｚＪＩＳは１０μｍ以上４０μｍ以下の範囲で設定され、後者の凹凸１２１ａ，１２２ａの十点平均粗さＲｚＪＩＳは２μｍ以上３０μｍ以下（より好ましくは５μｍ以上２０μｍ以下）の範囲で設定され、かつ、前者の十点平均粗さの方が大きくなるように設定されている。なお、梨地状の凹凸１２１ａ，１２２ａ，１２３ａがランダムに配置された凹凸であること、及びその加工方法等については、実施例１で説明した通りである。

　＜本実施例に係る密封装置の優れた点＞
　本実施例に係る密封装置１００Ｘによれば、中間リップ１２３の摺動面に形成される梨地状の凹凸１２３ａは、異物用リップ１２１と潤滑剤用リップ１２２の各摺動面に形成される梨地状の凹凸１２１ａ，１２２ａよりも表面粗さが大きくなるように構成されている。これにより、中間リップ１２３による摺動抵抗を低減させつつ、異物用リップ１２１と潤滑剤用リップ１２２によるシール性の低下を抑制させることができる。つまり、異物用リップ１２１の摺動面に形成される梨地状の凹凸１２１ａについては、表面粗さを小さくすることで、シール性を高くすることができる。そのため、外部からの泥水やダストなどの異物の侵入を十分抑制することができる。また、潤滑剤用リップ１２２の摺動面に形成される梨地状の凹凸１２２ａについても、表面粗さを小さくすることで、潤滑剤用リップ１２２によるシール性を高くすることができる。そのため、潤滑剤（グリス（Ｇ））の漏出を十分抑制することができ、かつベアリング側（ボール４０が設けられている側）の気密性を高めることができる。

　そして、中間リップ１２３における摺動面に形成される梨地状の凹凸１２３ａについては、表面粗さを大きくすることで、摺動により発生するトルクを低減させることができる。なお、中間リップ１２３については、表面粗さが大きい凹凸１２３ａが形成されているため、異物用リップ１２１及び潤滑剤用リップ１２２に比べてシール性は低い。しかしながら、異物用リップ１２１により異物の侵入を十分抑制することができ、かつ潤滑剤用リップ１２２により潤滑剤の漏出を十分抑制することができため、中間リップ１２３によるシール性が低くても、密封装置１００Ｘ全体でのシール性は十分高くすることができる。

　なお、各リップにおける摺動面に設ける梨地状の凹凸の範囲については、各リップにおいて、内輪２０に対して摺動し得る範囲全体に設けるのが望ましい。本実施例においては、潤滑剤用リップ１２２における梨地状の凹凸１２２ａが設けられる範囲と、中間リップ１２３における梨地状の凹凸１２３ａが設けられる範囲との間に、凹凸が設けられない領域Ｓが存在している。これに対して、図５に示す変形例に係る密封装置１００Ｙにおいては、本実施例のように、凹凸が設けられない領域は存在していない。また、各リップの摺動面において、梨地状の凹凸が形成される範囲と、形成されない範囲が、周方向に交互に設けられる構成を採用することもできる。

　以上のように、本実施例に係る密封装置１００Ｘによれば、トルクの低減とシール性の向上の両立を図ることができる。また、本実施例においても、上記実施例１の場合と同様に、異物用リップ１２１と中間リップ１２３との間の密閉空間内の気圧の低下を低減できる効果もある。なお、本実施例の場合には、異物用リップ１２１と潤滑剤用リップ１２２の各摺動面に梨地状の凹凸１２１ａ，１２２ａが形成されているため、上記実施例１に比べるとシール性は低下するものの、トルクはより一層低減させることができる。従って、トルクの低減とシール性の向上のうち、前者を優先する場合には、本実施例に係る密封装置１００Ｘの構成を採用し、後者を優先する場合には、上記実施例１に係る密封装置１００の構成を採用すると好適である。なお、本実施例に係る密封装置１００Ｘの場合には、中間リップ１２３の摺動面に形成される梨地状の凹凸１２３ａは、異物用リップ１２１と潤滑剤用リップ１２２の各摺動面に形成される梨地状の凹凸１２１ａ，１２２ａよりも表面粗さが大きくなるように構成される場合を示した。しかしながら、特に、異物用リップ１２１によるシール性を高めて、潤滑剤用リップ１２２によるシール性は高める必要がない場合には、中間リップ１２３の摺動面に形成される梨地状の凹凸１２３ａは、異物用リップ１２１の摺動面に形成される梨地状の凹凸１２１ａよりも表面粗さが大きくなるようにしさえすればよい。つまり、中間リップ１２３の摺動面に形成される梨地状の凹凸１２３ａは、潤滑剤用リップ１２２の摺動面に形成される梨地状の凹凸１２２ａよりも表面粗さが大きくなくてもよい。また、特に、潤滑剤用リップ１２２によるシール性を高めて、異物用リップ１２１によるシール性は高める必要がない場合には、中間リップ１２３の摺動面に形成される梨地状の凹凸１２３ａは、潤滑剤用リップ１２２の摺動面に形成される梨地状の凹凸１２２ａよりも表面粗さが大きくなるようにしさえすればよい。つまり、中間リップ１２３の摺動面に形成される梨地状の凹凸１２３ａは、異物用リップ１２１の摺動面に形成される梨地状の凹凸１２１ａよりも表面粗さが大きくなくてもよい。

　（その他）
　上記実施例１及び実施例２においては、ハブベアリング１０において、タイヤ側（Ａ）に設けられる密封装置１００，１００Ｘ，１００Ｙの場合を例にして説明した。しかしながら、本発明に係る密封装置は、ハブベアリング１０において、車体側（Ｂ）に設けられる密封装置２００にも適用可能である。この場合には、異物用リップ１２１と、潤滑剤用リップ１２２と、中間リップ１２３が、内輪２０ではなく、内輪２０に固定される環状部材（スリンガー２５）に対して摺動する点のみが異なっている。

　また、上記実施例１及び実施例２では、ハブベアリング１０に適用される密封装置を例にして説明した。しかしながら、ハブベアリング以外の用途においても、本発明の密封装置は適用され得る。すなわち、上述した各実施例で説明した密封装置と同様の密封装置を他の用途にも適用し得る。例えば、デファレンシャル装置や変速機に用いられる密封装置においても、本発明に係る密封装置を好適に適用することができる。

　１０　ハブベアリング
　２０　内輪
　２１　外向きフランジ部
　２２　外周表面
　２３　湾曲面
　２５　スリンガー
　３０　外輪
　４０　ボール
　１００，１００Ｘ，１００Ｙ　密封装置
　２００　密封装置
　１１０　補強環
　１１１　略円筒部
　１１２　内向きフランジ部
　１２０　密封装置本体
　１２１　異物用リップ
　１２１ａ　凹凸
　１２２　潤滑剤用リップ
　１２２ａ　凹凸
　１２３　中間リップ
　１２３ａ　凹凸

Claims

　相対的に回転可能に設けられる軸とハウジングとの間の環状隙間を封止する密封装置において、
　前記ハウジングに対して固定される補強環と、
　前記補強環に一体的に設けられる弾性体製の密封装置本体と、
を備える密封装置であって、
　前記密封装置本体は、
　径方向外側に向かって伸び、前記軸または該軸に固定される環状部材に対して摺動自在に設けられ、異物の侵入を抑制するための異物用リップと、
　径方向内側に向かって伸び、前記軸または該軸に固定される環状部材に対して摺動自在に設けられ、潤滑剤の漏出を抑制するための潤滑剤用リップと、
　前記異物用リップと潤滑剤用リップとの間に設けられ、かつ前記軸または該軸に固定される環状部材に対して摺動自在に設けられる中間リップと、
　を備え、
　前記中間リップにおける摺動面には梨地状の凹凸が形成されており、前記異物用リップにおける摺動面と前記潤滑剤用リップにおける摺動面のうちの少なくともいずれか一方の摺動面には梨地状の凹凸は形成されていないことを特徴とする密封装置。
　相対的に回転可能に設けられる軸とハウジングとの間の環状隙間を封止する密封装置において、
　前記ハウジングに対して固定される補強環と、
　前記補強環に一体的に設けられる弾性体製の密封装置本体と、
を備える密封装置であって、
　前記密封装置本体は、
　径方向外側に向かって伸び、前記軸または該軸に固定される環状部材に対して摺動自在に設けられ、異物の侵入を抑制するための異物用リップと、
　径方向内側に向かって伸び、前記軸または該軸に固定される環状部材に対して摺動自在に設けられ、潤滑剤の漏出を抑制するための潤滑剤用リップと、
　前記異物用リップと潤滑剤用リップとの間に設けられ、かつ前記軸または該軸に固定される環状部材に対して摺動自在に設けられる中間リップと、
　を備え、
　前記異物用リップと潤滑剤用リップと中間リップの各摺動面には、いずれも梨地状の凹凸が形成されており、前記中間リップの摺動面に形成される梨地状の凹凸は、前記異物用リップの摺動面に形成される梨地状の凹凸、及び潤滑剤用リップの摺動面に形成される梨地状の凹凸のうちの少なくともいずれか一方よりも表面粗さが大きいことを特徴とする密封装置。