WO2019106810A1 - コンパウンド粉 - Google Patents
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Abstract
流動性、保存安定性及び成形性に優れたコンパウンド粉が提供される。コンパウンド粉は、金属元素含有粉、エポキシ樹脂、及び硬化剤を含むコンパウンド粉であって、コンパウンド粉をケトン系溶媒へ溶解した後に残る固形分残渣の含有量が、98.5質量%以上99.5質量%以下である。
Description
本発明は、コンパウンド粉に関する。
金属粉末及び熱硬化性樹脂を含むコンパウンド粉は、金属粉末の諸物性に応じて、例えば、インダクタ、電磁波シールド、又はボンド磁石等の多様な工業製品の原材料として利用される(下記特許文献1及び2参照。)
コンパウンド粉から工業製品を製造する場合、コンパウンド粉を型内へ供給及び充填したり、コイル等の部品を型内のコンパウンド粉中に埋め込んだりする。これらの工程ではコンパウンド粉の流動性が要求される。ここで流動性とは、加熱されたコンパウンド粉中の熱硬化性樹脂の少なくとも一部が軟化又は液化して、コンパウンド粉全体が流動し易くなる性質である。コンパウンド粉に含まれる熱硬化性樹脂の硬化温度が高いほど、熱硬化性樹脂の硬化を抑制しながら熱硬化性樹脂を加熱によって軟化又は液化させ易く、コンパウンド粉の流動性が向上し易い。しかし、流動性に優れたコンパウンド粉から形成された成形体は軟らかい。つまり、コンパウンド粉の流動性が高いほど、コンパウンド粉から形成された未硬化の成形体の硬さ(成形性)は不十分である。コンパウンド粉を用いた工業製品の製造過程では、成形体中の熱硬化性樹脂を完全に硬化させる前に、成形体を加工又は搬送しなければならない場合があるが、軟らかい成形体は加工又は搬送に伴って容易に破損してしまう。以上の理由から、従来のコンパウンド粉では、流動性と成形性とを両立することが困難であった。また従来のコンパウンド粉の流動性は、コンパウンド粉が長時間保存されることによって低下し易かった。したがって、保存中に流動性が劣化し難い性質(保存安定性)も、コンパウンド粉に要求される。
本発明は、流動性、保存安定性及び成形性に優れたコンパウンド粉を提供することを目的とする。
本発明の一側面に係るコンパウンド粉は、金属元素含有粉、エポキシ樹脂、及び硬化剤を含むコンパウンド粉であって、コンパウンド粉がケトン系溶媒へ溶解した後に残る固形分残渣の含有量が、98.5質量%以上99.5質量%以下である。
固形分残渣が、エポキシ樹脂の半硬化物と金属元素含有粉とを含んでよい。
本発明の一側面に係るコンパウンド粉は、硬化促進剤を含んでよい。
本発明の一側面においては、硬化促進剤が、ボレート塩及びボラン化合物のうちの少なくとも一種であってよい。
本発明の他の側面に係るコンパウンド粉は、金属元素含有粉、エポキシ樹脂、硬化剤及び硬化促進剤を含み、硬化促進剤が、ボレート塩及びボラン化合物のうちの少なくとも一種である。
上記のボレート塩が、下記一般式(1)で表されてよい。
X+B-(R)4 (1)
一般式(1)中、Xは、アルキルホスホニウム塩、アリールホスホニウム塩、イミダゾール塩、イミダゾール誘導体の塩、3級アミン塩及び4級アンモニウム塩からなる群より選ばれる少なくとも一種であり、Bはホウ素であり、Rは、アルキル基、アリール基及びフルオロ基からなる群より選ばれる少なくとも一種である。
X+B-(R)4 (1)
一般式(1)中、Xは、アルキルホスホニウム塩、アリールホスホニウム塩、イミダゾール塩、イミダゾール誘導体の塩、3級アミン塩及び4級アンモニウム塩からなる群より選ばれる少なくとも一種であり、Bはホウ素であり、Rは、アルキル基、アリール基及びフルオロ基からなる群より選ばれる少なくとも一種である。
上記のボラン化合物が、下記一般式(2)で表されてよい。
Y・B(R)3 (2)
一般式(2)中、Yはアルキルホスフィン、アリールホスフィン、イミダゾール、イミダゾール誘導体及び3級アミンからなる群より選ばれる少なくも一種であり、Bはホウ素であり、Rはアルキル基、アリール基及びフルオロ基からなる群より選ばれる少なくとも一種である。
Y・B(R)3 (2)
一般式(2)中、Yはアルキルホスフィン、アリールホスフィン、イミダゾール、イミダゾール誘導体及び3級アミンからなる群より選ばれる少なくも一種であり、Bはホウ素であり、Rはアルキル基、アリール基及びフルオロ基からなる群より選ばれる少なくとも一種である。
コンパウンド粉は、ワックスを含んでよい。
金属元素含有粉が、Sm‐Co系合金粉、Fe‐Co系合金粉、Sm‐Fe‐N系合金粉、フェライト粉、アモルファス系鉄粉及びカルボニル鉄粉からなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。
金属元素含有粉の含有量が、92.0質量%以上99.0質量%以下であってよい。
エポキシ樹脂が、ビフェニル型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、サリチルアルデヒドノボラック型エポキシ樹脂及びナフトールノボラック型エポキシ樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。
コンパウンド粉は、磁芯に用いられてよい。
コンパウンド粉は、トランスファー成形に用いられてよい。
本発明によれば、流動性、保存安定性及び成形性に優れたコンパウンド粉が提供される。
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。ただし、本発明は下記実施形態に何ら限定されるものではない。
本実施形態に係るコンパウンド粉は、金属元素含有粉、エポキシ樹脂、及び硬化剤を含む。コンパウンド粉がケトン系溶媒へ溶解した後に残る固形分残渣の含有量は、コンパウンド粉の全質量に対して98.5質量%以上99.5質量%以下である。換言すれば、コンパウンド粉をケトン系溶媒へ加えた後、ケトン系溶媒中において溶解せずに残る固形分残渣の含有量が、コンパウンド粉の全質量に対して98.5質量%以上99.5質量%以下である。固形分残渣の含有量が98.5質量%以上99.5質量%以下であることより、コンパウンド粉の流動性、保存安定性及び成形性が向上する。固形分残渣の含有量が98.5質量%未満である場合、コンパウンド粉から形成された未硬化の成形体は軟ら過ぎる。つまり、固形分残渣の含有量が小さい過ぎるコンパウンド粉は、本実施形態に比べて成形性に劣る。また、固形分残渣の含有量が98.5質量%未満であるコンパウンド粉の流動性は、保存に伴って低下し易い。一方、固形分残渣の含有量が99.5質量%よりも大きいコンパウンド粉は、加熱によって軟化又は液化する成分(例えば、未硬化のエポキシ樹脂)を殆ど含まないため、本実施形態に比べて流動性に劣る。つまり、固形分残渣の含有量が大きいほど、コンパウンド粉が固まり易く、コンパウンド粉の流動性は低い。コンパウンド粉の流動性、保存安定性及び成形性を向上させる観点において、固形分残渣の含有量は、99.0質量%以上99.5質量%以下であってもよい。
固形分残渣は、エポキシ樹脂の半硬化物(Bステージのエポキシ樹脂)と金属元素含有粉とを含んでよい。固形分残渣の主成分が、エポキシ樹脂の半硬化物及び金属元素含有粉であってよい。固形分残渣は、エポキシ樹脂の半硬化物及び金属元素含有粉に加えて、硬化剤(エポキシ樹脂と反応した硬化剤)、硬化促進剤、カップリング剤、及び難燃剤からなる群より選ばれる少なくとも一種を更に含んでもよい。コンパウンド粉に含まれる成分のうち、ケトン系溶媒へ溶解し易い成分(固形分残渣に含まれ難い成分)は、例えば、未硬化のエポキシ樹脂であってよい。コンパウンド粉に含まれる成分のうち、ケトン系溶媒へ溶解する可能性がある成分は、例えば、硬化剤(未反応の硬化剤)、硬化促進剤、カップリング剤、及び難燃剤からなる群より選ばれる少なくとも一種と未硬化のエポキシ樹脂であってもよい。
コンパウンド粉を溶解するケトン系溶媒は、未硬化のエポキシ樹脂が溶解するケトンであれば特に限定されないが、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、及びジアセトンアルコールからなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。
コンパウンド粉は、硬化促進剤を含んでよい。コンパウンド粉は、一種又は複数種の硬化促進剤を含んでよい。硬化促進剤は、例えば、エポキシ樹脂と反応してエポキシ樹脂の硬化を促進させる組成物であれば限定されない。コンパウンド粉が硬化促進剤を含むことにより、コンパウンド粉の成形性及び離型性が向上し易い。またコンパウンド粉が硬化促進剤を含むことにより、コンパウンド粉を用いて製造された成形体(例えば、インダクタ等の電子部品)の機械的強度が向上したり、高温・高湿な環境下におけるコンパウンド粉の保存安定性が向上したりする。
硬化促進剤は、例えば、ボレート塩及びボラン化合物のうちの少なくとも一種であってよい。つまり、本実施形態の他の側面に係るコンパウンド粉は、金属元素含有粉、エポキシ樹脂、硬化剤及び硬化促進剤を含み、硬化促進剤が、ボレート塩及びボラン化合物のうちの少なくとも一種であってよい。ボレート塩及びボラン化合物のうちの少なくとも一種を含むコンパウンド粉は、他の硬化促進剤(例えば、イミダゾール類)を含むコンパウンド粉に比べて、流動性、保存安定性及び成形性に優れている。
硬化促進剤の活性化温度よりも低い温度でコンパウンド粉を加熱することにより、コンパウンド粉中のエポキシ樹脂の硬化を抑制しながら、エポキシ樹脂を軟化又は液化してコンパウンド粉全体の流動性を高めることができる。換言すれば、硬化促進剤の活性化温度が高いほど、コンパウンド粉の流動化に伴うエポキシ樹脂の硬化を抑制し易い。しながら、流動性の高いコンパウンド粉から形成された成形体は軟らかい。つまり、硬化促進剤の活性化温度が高く、コンパウンド粉の流動性が高いほど、コンパウンド粉から形成された未硬化の成形体の硬さ(成形性)が不十分である傾向がある。したがって、従来のコンパウンド粉の場合、ボレート塩又はボラン化合物のように、活性化温度が比較的高い硬化促進剤を利用することが困難であった。一方、本実施形態に係るコンパウンド粉は、固形分残渣(エポキシ樹脂の半硬化物等)を上述の含有量で含むため、コンパウンド粉の流動性が適度に抑制され、コンパウンド粉から形成された未硬化の成形体の硬さ(成形性)が向上する。換言すれば、コンパウンド粉がボレート塩又はボラン化合物のように活性化温度が高い硬化促進剤を含む場合であっても、コンパウンド粉中のエポキシ樹脂の少なくとも一部(好ましくは大部分)が半硬化物であることにより、未硬化の成形体の硬さ(成形性)を向上させることができる。以上の理由から、本実施形態によれば、従来はコンパウンド粉に添加することが困難であった、活性化温度が高い硬化促進剤を利用することができる。換言すれば、本実施形態によれば、硬化促進剤の選択枝がその活性化温度によって制限され難いため、硬化促進剤の選択の自由度が増加し、コンパウンド粉の設計の自由度が増加する。
硬化促進剤として用いられるボレート塩は、下記一般式(1)で表されてよい。
X+B-(R)4 (1)
一般式(1)中、Xは、アルキルホスホニウム塩、アリールホスホニウム塩、イミダゾール塩、イミダゾール誘導体の塩、3級アミン塩及び4級アンモニウム塩からなる群より選ばれる少なくとも一種であり、Bはホウ素であり、Rは、アルキル基、アリール基及びフルオロ基からなる群より選ばれる少なくとも一種である。
X+B-(R)4 (1)
一般式(1)中、Xは、アルキルホスホニウム塩、アリールホスホニウム塩、イミダゾール塩、イミダゾール誘導体の塩、3級アミン塩及び4級アンモニウム塩からなる群より選ばれる少なくとも一種であり、Bはホウ素であり、Rは、アルキル基、アリール基及びフルオロ基からなる群より選ばれる少なくとも一種である。
一般式(1)で表されるボレート塩は、例えば、テトラブチルホスフォニウムテトラフェニルボレート、テトラフェニルホスホニウム・テトラキス(4‐メチルフェニル)ボレート、テトラフェニルホスホニウム・テトラフェニルボレートテトラフェニルホスホニウム・テトラ‐p‐トリルボレート、及びトリ‐tert‐ブチルホスホニウム・テトラフェニルボレートから選ばれる少なくとも一種であってよい。
硬化促進剤として用いられるボラン化合物は、下記一般式(2)で表されてよい。
Y・B(R)3 (2)
一般式(2)中、Yはアルキルホスフィン、アリールホスフィン、イミダゾール、イミダゾール誘導体及び3級アミンからなる群より選ばれる少なくも一種であり、Bはホウ素であり、Rはアルキル基、アリール基及びフルオロ基からなる群より選ばれる少なくとも一種である。
Y・B(R)3 (2)
一般式(2)中、Yはアルキルホスフィン、アリールホスフィン、イミダゾール、イミダゾール誘導体及び3級アミンからなる群より選ばれる少なくも一種であり、Bはホウ素であり、Rはアルキル基、アリール基及びフルオロ基からなる群より選ばれる少なくとも一種である。
一般式(2)で表されるボラン化合物は、例えば、トリフェニルホスフィントリフェニルボラン、2‐メチルイミダゾールトリフェニルボラン、及びトリエタノールアミントリフェニルホスフィンから選ばれる少なくとも一種であってよい。
硬化促進剤は、例えば、アルキル基置換イミダゾール、又はベンゾイミダゾール等のイミダゾール類であってよい。イミダゾール類の活性化温度は、上述のボレート塩及びボラン化合物其々の活性化温度に比べて低い傾向がある。したがって、イミダゾール類を含むコンパウンド粉は、ボレート塩又はボラン化合物を含むコンパウンド粉に比べて、より低温度において短時間で硬化し易い。換言すれば、イミダゾール類を含むコンパウンド粉では、固形分残渣であるエポキシ樹脂の半硬化物の硬化が、コンパウンド粉の成形又は保存に伴って進行し易い。したがって、成形体を短時間で硬化させる場合、イミダゾール類は硬化促進剤に適している。コンパウンド粉は、イミダゾール系硬化促進剤として、例えば、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾール、2‐ウンデシルイミダゾール、2‐ヘプタデシルイミダゾール、2‐エチル‐4‐メチルイミダゾール、及び1‐シアノエチル‐2‐フェニルイミダゾールから選ばれる少なくとも一種を含んでよい。イミダゾール系硬化促進剤の市販品としては、例えば、2MZ-H、C11Z、C17Z、1,2DMZ、2E4MZ、2PZ-PW、2P4MZ、1B2MZ、1B2PZ、2MZ-CN、C11Z-CN、2E4MZ-CN、2PZ-CN、C11Z-CNS、2P4MHZ、TPZ、及びSFZ(以上、四国化成工業株式会社製の商品名)からなる群より選ばれる少なくとも一種を用いてよい。
硬化促進剤の配合量は、硬化促進効果が得られる量であればよく、特に限定されない。ただし、エポキシ樹脂の吸湿時の硬化性及び流動性を改善する観点からは、硬化促進剤の配合量は、100質量部のエポキシ樹脂に対して、好ましくは0.1~30質量部、より好ましくは1~15質量部であってよい。硬化促進剤の含有量は、エポキシ樹脂及び硬化剤(例えばフェノール樹脂)の質量の合計に対して0.001質量部以上5質量部以下であることが好ましい。硬化促進剤の配合量が0.1質量部未満である場合、十分な硬化促進効果が得られ難い。硬化促進剤の配合量が30質量部以下である場合、コンパウンド粉の保存安定性が向上し易い。ただし、硬化促進剤の配合量及び含有量が上記範囲外である場合であっても、本発明に係る効果は得られる。
コンパウンド粉は、ワックスを含んでよい。コンパウンド粉は、固形分残渣の一部としてワックスを含んでよい。
コンパウンド粉における固形分残渣の含有量が大きいほど、加熱によって軟化又は液化するエポキシ樹脂(未硬化のエポキシ樹脂)の割合が小さく、コンパウンド粉が流動化し難い傾向がある。しかし、コンパウンド粉がワックスを含む場合、コンパウンド粉を、ワックスの融点程度の温度で加熱することにより、ワックスが液状化して、コンパウンド粉の全体が、ワックスに由来する優れた流動性を有することができる。コンパウンド粉におけるワックスの体積の割合は、例えば、1体積%以上10体積%以下であってよい。コンパウンド粉におけるワックスの体積の割合が上記の数値範囲内であることにより、金属元素含有粉及びエポキシ樹脂に由来する諸物性(例えば、絶縁性、透磁率、電界シールド値、又は残留磁束密度等)と、コンパウンド粉の優れた流動性とが両立し易い。コンパウンド粉に含まれるワックスは、例えば、粉末(ワックス粉)であってよい。
硬化促進剤の一部又は全部がワックスに溶解していてよい。コンパウンド粉が加熱されることにより、コンパウンド粉中のワックスが液化して、ワックス中に溶解していた硬化促進剤が樹脂組成物の硬化を促進する。硬化促進剤がワックスに溶解していることにより、コンパウンド粉及びコンパウンド粉から形成されたタブレットが時間の経過に伴って熱的に劣化することが抑制され易い。
ワックスは、高級脂肪酸等の脂肪酸、及び脂肪酸エステルのうち少なくともいずれか一つであってよい。コンパウンド粉は複数種のワックスを含んでよい。
ワックスは、例えば、モンタン酸、ステアリン酸、12-オキシステアリン酸、ラウリン酸等の脂肪酸類又はこれらのエステル;ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアエン酸バリウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸マグネシウム、ラウリン酸カルシウム、リノール酸亜鉛、リシノール酸カルシウム、2-エチルヘキソイン酸亜鉛等の脂肪酸塩;ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、ベヘン酸アミド、パルミチン酸アミド、ラウリン酸アミド、ヒドロキシステアリン酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、ジステアリルアジピン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、ジオレイルアジピン酸アミド、N-ステアリルステアリン酸アミド、N-オレイルステアリン酸アミド、N-ステアリルエルカ酸アミド、メチロールステアリン酸アミド、メチロールベヘン酸アミド等の脂肪酸アミド;ステアリン酸ブチル等の脂肪酸エステル;エチレングリコール、ステアリルアルコール等のアルコール類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール及びこれらの変性物からなるポリエーテル類;シリコーンオイル、シリコングリース等のポリシロキサン類;フッ素系オイル、フッ素系グリース、含フッ素樹脂粉末等のフッ素化合物;並びに、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス、アマイドワックス、ポリプロピレンワックス、エステルワックス、カルナウバ、マイクロワックス等のワックス類;からなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。
モンタン酸ワックスの市販品としては、リコワックスE、リコワックスOP、リコルブE及びリコルブWE40(以上、クラリアントケミカルズ株式会社製の商品名)からなる群より選ばれる少なくとも一種を用いてもよい。ステアリン酸ワックスの市販品としては、花王株式会社製のルナックS‐50V(タイター:56℃)及びルナックS‐90V(融点:68℃)のうち少なくともいずれかを用いてもよい。ポリエチレンワックスの市販品としては、リコルブH12、リコワックスPE520、及びリコワックスPED191(以上、クラリアントケミカルズ株式会社製の商品名)からなる群より選ばれる少なくとも一種を用いてよい。アマイドワックスの市販品としては、リコルブFA1(クラリアントケミカルズ株式会社製の商品名)、及びDISPARLON6650(楠本化成株式会社製の商品名)のうち少なくともいずれかを用いてよい。コンパウンド粉の流動性、離型性、成形時の温度及び圧力、並びにワックスの融点、滴点及び溶融粘度等、コンパウンド粉の設計において要求される事項に応じて、ワックスが適宜選択されてよい。コンパウンド粉の流動性、離型性、成形時の温度及び圧力、並びにワックスの融点の観点において、ルナックS‐50V及びルナックS‐90Vのうち少なくともいずれかがコンパウンド粉に含まれることが特に好ましい。
コンパウンド粉の平均粒径は、特に限定されないが、例えば、100μm以上2000μm以下であってよい。コンパウンド粉に含まれる金属元素含有粉の平均粒子径は、特に限定されないが、例えば、1μm以上300μm以下であってよい。ワックス粉の平均粒径は、特に限定されないが、例えば、10μm以上2000μm以下であってよい。各平均粒子径は、例えば粒度分布計によって測定されてよい。コンパウンド粉を構成する個々の粒子の形状は限定されないが、例えば、球状、扁平形状、角柱状又は針状であってよい。
本実施形態に係るコンパウンド粉は、優れた流動性を有することができるため、所望の形状に成形され易い。またコンパウンド粉がワックス粉を含む場合、ワックスは離型剤としても機能するため、コンパウンド粉から形成された成形体を破損させることなく型から分離し易い。さらに本実施形態に係るコンパウンド粉から成形体を形成する場合、バリが形成され難い。これらの理由から、本実施形態に係るコンパウンド粉は、トランスファー成形(移送成形)に用いられ易い。トランスファー成形とは、熱硬化性樹脂の射出成形法の一種である。トランスファー成形は、圧送成形と言い換えられてよい。トランスファー成形は、コンパウンド粉を加熱室内で加熱して流動化させるステップと、流動化したコンパウンド粉を、湯道(casting runner)を通じて加熱室から金型内へ供給(圧入)するステップとを備えてよい。トランスファー成形は、コンパウンド粉を加熱室内で加熱して流動化させるステップと、流動化したコンパウンド粉を、加熱室からプランジャー内へ供給し、コンパウンド粉を、湯道を通じてプランジャーから金型内へ供給(圧入)するステップとを備えてよい。本実施形態に係るコンパウンド粉は、加熱によって優れた流動性を示すため、細い湯道内を途切れることなく(気泡を内包することなく)流れ易く、また金型内の空間(キャビティ)へ斑なく充填され易い。その結果、空隙又はバリ等の欠陥の少ない成形体をコンパウンド粉から形成することが可能になる。したがって、本発明によれば成形体の生産性が向上する。コンパウンド粉の成形方法は、トランスファー成形に限定されず、例えば押出成形であってよい。コンパウンド粉から形成されたタブレットを、上記のトランスファー成形の出発材料として用いてもよい。
以下のように、本実施形態に係るコンパウンド粉は、磁芯に用いられてよい。例えば、トランスファー成形によってインダクタを製造する場合、トランスファー成形は、流動化したコンパウンド粉を金型内へ供給するステップと、空芯コイルの一部又は全体を型内のコンパウンド粉中に埋め込むステップと、空芯コイルが埋め込まれたコンパウンド粉を硬化するステップと、を備えてよい。本実施形態に係るコンパウンド粉は、流動性に優れているため、空芯コイルの内部に斑なく充填され易く、空芯コイルの表面の一部又は全体が斑なくコンパウンド粉で覆われ易い。空芯コイルの内部に充填されたコンパウンド粉は、硬化されることによって、インダクタの磁芯になり、空芯コイルと強固に密着する。その結果、高い機械的強度を有するインダクタが得られる。
本実施形態に係るコンパウンド粉の用途は、インダクタの磁芯に限定されない。コンパウンド粉に含まれる金属元素含有粉の組成又は組合せに応じて、コンパウンド粉の電磁気的特性又は熱伝導性等の諸物性を自在に制御し、コンパウンド粉を様々な工業製品又はそれらの原材料に利用することができる。コンパウンド粉を用いて製造される工業製品は、例えば、自動車、医療機器、電子機器、電気機器、情報通信機器、家電製品、音響機器、及び一般産業機器であってよい。例えば、コンパウンド粉が金属元素含有粉としてFe‐Si‐Cr系合金又はフェライト等の軟磁性粉を含む場合、コンパウンド粉は、上述のインダクタ(例えばEMIフィルタ)又はトランスの材料(例えば磁心)として利用されてよい。コンパウンド粉が金属元素含有粉として永久磁石を含む場合、コンパウンド粉はボンド磁石の原材料として利用されてよい。コンパウンド粉が金属元素含有粉として鉄と銅とを含む場合、コンパウンド粉から形成された成形体(例えばシート)は、電磁波シールドとして利用されてよい。
以下に記載の「樹脂組成物」は、少なくともエポキシ樹脂及び硬化剤を含む成分であり、必要に応じて他の樹脂、硬化促進剤及び添加剤を含み得る成分であり、コンパウンド粉から有機溶媒と金属元素含有粉とを除いた残りの成分(不揮発性成分)と定義される。添加剤とは、樹脂組成物のうち、樹脂、硬化剤及び硬化促進剤を除く残部の成分である。添加剤とは、例えば、カップリング剤又は難燃剤等である。樹脂組成物が添加剤としてワックスを含んでいてもよい。以下の通り、コンパウンド粉は、金属元素含有粉と樹脂組成物とを含んでいる。金属元素含有粉を構成する個々の粒子(金属元素含有粒子)の表面の一部又は全体は、樹脂組成物で覆われていてよい。金属元素含有粒子の表面の一部又は全体が、樹脂組成物及びワックス粉で覆われてよい。
樹脂組成物は金属元素含有粉の結合剤(バインダー)としての機能を有し、コンパウンド粉から形成される成形体に機械的強度を付与する。例えば、コンパウンド粉に含まれる樹脂組成物は、金型を用いてコンパウンド粉が高圧で成形される際に、金属元素含有粉の間に充填され、金属元素含有粉を互いに結着する。成形体中の樹脂組成物を硬化させることにより、樹脂組成物の硬化物が金属元素含有粉を構成する個々の粒子同士をより強固に結着して、成形体の機械的強度が向上する。
樹脂組成物は、熱硬化性樹脂として、少なくともエポキシ樹脂を含有する。コンパウンド粉が、熱硬化性樹脂の中でも比較的に流動性に優れたエポキシ樹脂を含むことにより、コンパウンド粉の流動性、保存安定性、及び成形性が向上する。ただし、本発明の効果が阻害されない限りにおいて、コンパウンド粉はエポキシ樹脂に加えて他の樹脂を含んでもよい。例えば、樹脂組成物は、熱硬化性樹脂として、フェノール樹脂及びポリアミドイミド樹脂のうち少なくも一種を含んでもよい。樹脂組成物がエポキシ樹脂及びフェノール樹脂の両方を含む場合、フェノール樹脂はエポキシ樹脂の硬化剤として機能してもよい。コンパウンド粉に含まれる樹脂が、熱硬化性樹脂のみであってよく、熱硬化性樹脂が、エポキシ樹脂のみ、又はエポキシ樹脂及びフェノール樹脂のみであってもよい。樹脂組成物は、熱可塑性樹脂を含んでもよい。熱可塑性樹脂は、例えば、アクリル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、及びポリエチレンテレフタレートからなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。樹脂組成物は、熱硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂の両方を含んでよい。樹脂組成物は、シリコーン樹脂を含んでもよい。
コンパウンド粉における樹脂組成物の含有量は、コンパウンド粉全体の質量(例えば、金属元素含有粉及び樹脂組成物の質量の合計)に対して、0.2~10質量%であってよく、より好ましくは4~6質量%であってよい。樹脂組成物の含有量が上記の範囲内である場合、でコンパウンド粉及びタブレット其々の成形性が両立し易い。
エポキシ樹脂は熱硬化性樹脂の中でも流動性に優れているので、樹脂組成物はエポキシ樹脂を含有することが好ましい。エポキシ樹脂は、例えば、1分子中に2個以上のエポキシ基を有する樹脂であってよい。
エポキシ樹脂は、例えば、スチルベン型エポキシ樹脂、ジフェニルメタン型エポキシ樹脂、硫黄原子含有型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、サリチルアルデヒド型エポキシ樹脂、ナフトール類とフェノール類との共重合型エポキシ樹脂、アラルキル型フェノール樹脂のエポキシ化物、ビスフェノール型エポキシ樹脂、アルコール類のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、パラキシリレン及び/又はメタキシリレン変性フェノール樹脂のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、テルペン変性フェノール樹脂のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、シクロペンタジエン型エポキシ樹脂、多環芳香環変性フェノール樹脂のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、ナフタレン環含有フェノール樹脂のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジル型又はメチルグリシジル型のエポキシ樹脂、脂環型エポキシ樹脂、ハロゲン化フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ハイドロキノン型エポキシ樹脂、トリメチロールプロパン型エポキシ樹脂、及びオレフィン結合を過酢酸等の過酸で酸化して得られる線状脂肪族エポキシ樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。
流動性に優れている観点において、エポキシ樹脂は、ビフェニル型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、サリチルアルデヒドノボラック型エポキシ樹脂、及びナフトールノボラック型エポキシ樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。
エポキシ樹脂は、結晶性のエポキシ樹脂であってよい。結晶性のエポキシ樹脂の分子量は比較的低いにもかかわらず、結晶性のエポキシ樹脂は比較的高い融点を有し、且つ流動性に優れる。結晶性のエポキシ樹脂(結晶性の高いエポキシ樹脂)は、例えば、ハイドロキノン型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、チオエーテル型エポキシ樹脂、及びビフェニル型エポキシ樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。結晶性のエポキシ樹脂の市販品は、例えば、エピクロン860、エピクロン1050、エピクロン1055、エピクロン2050、エピクロン3050、エピクロン4050、エピクロン7050、エピクロンHM-091、エピクロンHM-101、エピクロンN-730A、エピクロンN-740、エピクロンN-770、エピクロンN-775、エピクロンN-865、エピクロンHP-4032D、エピクロンHP-7200L、エピクロンHP-7200、エピクロンHP-7200H、エピクロンHP-7200HH、エピクロンHP-7200HHH、エピクロンHP-4700、エピクロンHP-4710、エピクロンHP-4770、エピクロンHP-5000、エピクロンHP-6000、及びN500P-2(以上、DIC株式会社製の商品名)、NC-3000、NC-3000-L、NC-3000-H、NC-3100、CER-3000-L、NC-2000-L、XD-1000、NC-7000-L、NC-7300-L、EPPN-501H、EPPN-501HY、EPPN-502H、EOCN-1020、EOCN-102S、EOCN-103S、EOCN-104S、CER-1020、EPPN-201、BREN-S、BREN-10S(以上、日本化薬株式会社製の商品名)、YX-4000、YX-4000H、YL4121H、及びYX-8800(以上、三菱ケミカル株式会社製の商品名)からなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。
樹脂組成物は、上記のうち一種のエポキシ樹脂を含有してよい。樹脂組成物は、上記のうち複数種のエポキシ樹脂を含有してもよい。
硬化剤は、低温から室温の範囲でエポキシ樹脂を硬化させる硬化剤と、加熱に伴ってエポキシ樹脂を硬化させる加熱硬化型硬化剤と、に分類される。低温から室温の範囲でエポキシ樹脂を硬化させる硬化剤は、例えば、脂肪族ポリアミン、ポリアミノアミド、及びポリメルカプタン等である。加熱硬化型硬化剤は、例えば、芳香族ポリアミン、酸無水物、フェノールノボラック樹脂、及びジシアンジアミド(DICY)等である。
低温から室温の範囲でエポキシ樹脂を硬化させる硬化剤を用いた場合、エポキシ樹脂の硬化物のガラス転移点は低く、エポキシ樹脂の硬化物は軟らかい傾向がある。その結果、コンパウンド粉から形成された成形体も軟らかくなり易い。一方、成形体の耐熱性を向上させる観点から、硬化剤は、好ましくは加熱硬化型の硬化剤、より好ましくはフェノール樹脂、さらに好ましくはフェノールノボラック樹脂であってよい。特に硬化剤としてフェノールノボラック樹脂を用いることで、ガラス転移点が高いエポキシ樹脂の硬化物が得られ易い。その結果、成形体の耐熱性及び機械強度が向上し易い。
フェノール樹脂は、例えば、アラルキル型フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン型フェノール樹脂、サリチルアルデヒド型フェノール樹脂、ノボラック型フェノール樹脂、ベンズアルデヒド型フェノールとアラルキル型フェノールとの共重合型フェノール樹脂、パラキシリレン及び/又はメタキシリレン変性フェノール樹脂、メラミン変性フェノール樹脂、テルペン変性フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン型ナフトール樹脂、シクロペンタジエン変性フェノール樹脂、多環芳香環変性フェノール樹脂、ビフェニル型フェノール樹脂、及びトリフェニルメタン型フェノール樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。フェノール樹脂は、上記のうちの2種以上から構成される共重合体であってもよい。フェノール樹脂の市販品としては、例えば、荒川化学工業株式会社製のタマノル758、又は日立化成株式会社製のHP-850N等を用いてもよい。
フェノールノボラック樹脂は、例えば、フェノール類及び/又はナフトール類と、アルデヒド類と、を酸性触媒下で縮合又は共縮合させて得られる樹脂であってよい。フェノールノボラック樹脂を構成するフェノール類は、例えば、フェノール、クレゾール、キシレノール、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、フェニルフェノール及びアミノフェノールからなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。フェノールノボラック樹脂を構成するナフトール類は、例えば、α‐ナフトール、β‐ナフトール及びジヒドロキシナフタレンからなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。フェノールノボラック樹脂を構成するアルデヒド類は、例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ベンズアルデヒド及びサリチルアルデヒドからなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。
硬化剤は、例えば、1分子中に2個のフェノール性水酸基を有する化合物であってもよい。1分子中に2個のフェノール性水酸基を有する化合物は、例えば、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、及び置換又は非置換のビフェノールからなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。
樹脂組成物は、上記のうち一種のフェノール樹脂を含有してよい。樹脂組成物は、上記のうち複数種のフェノール樹脂を備えてもよい。樹脂組成物は、上記のうち一種の硬化剤を含有してよい。樹脂組成物は、上記のうち複数種の硬化剤を含有してもよい。
エポキシ樹脂中のエポキシ基と反応する硬化剤中の活性基(フェノール性OH基)の比率は、エポキシ樹脂中のエポキシ基1当量に対して、好ましくは0.5~1.5当量、より好ましくは0.9~1.4当量、さらに好ましくは1.0~1.2当量であってよい。硬化剤中の活性基の比率が0.5当量未満である場合、硬化後のエポキシ樹脂の単位重量当たりのOH量が少なくなり、樹脂組成物(エポキシ樹脂)の硬化速度が低下する。また硬化剤中の活性基の比率が0.5当量未満である場合、得られる硬化物のガラス転移温度が低くなったり、硬化物の充分な弾性率が得られなかったりする。一方、硬化剤中の活性基の比率が1.5当量を超える場合、コンパウンド粉から形成された成形体の硬化後の機械的強度が低下する傾向がある。ただし、硬化剤中の活性基の比率が上記範囲外である場合であっても、本発明に係る効果は得られる。
カップリング剤は、樹脂組成物と金属元素含有粉との密着性を向上させ、コンパウンド粉から形成される成形体の可撓性及び機械的強度を向上させる。金属元素含有粉に含まれる個々の金属元素含有粒子の表面がカップリング剤によって処理されていてよい。カップリング剤は、例えば、シラン系化合物(シランカップリング剤)、チタン系化合物、アルミニウム化合物(アルミニウムキレート類)、及びアルミニウム/ジルコニウム系化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。シランカップリング剤は、例えば、エポキシシラン、メルカプトシラン、アミノシラン、アルキルシラン、ウレイドシラン、酸無水物系シラン及びビニルシランからなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。特に、アミノフェニル系のシランカップリング剤が好ましい。コンパウンド粉は、上記のうち一種のカップリング剤を備えてよく、上記のうち複数種のカップリング剤を備えてもよい。
コンパウンド粉の環境安全性、リサイクル性、成形加工性及び低コストのために、コンパウンド粉は難燃剤を含んでよい。難燃剤は、例えば、臭素系難燃剤、鱗茎難燃剤、水和金属化合物系難燃剤、シリコーン系難燃剤、窒素含有化合物、ヒンダードアミン化合物、有機金属化合物及び芳香族エンプラからなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。コンパウンド粉は、上記のうち一種の難燃剤を備えてよく、上記のうち複数種の難燃剤を備えてもよい。
金属元素含有粉は、例えば、金属単体、合金及び金属化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種を含有してよい。金属元素含有粉は、例えば、金属単体、合金及び金属化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種からなっていてよい。合金は、固溶体、共晶及び金属間化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種を含んでよい。合金とは、例えば、ステンレス鋼(Fe‐Cr系合金、Fe‐Ni‐Cr系合金等)であってよい。金属化合物とは、例えば、フェライト等の酸化物であってよい。金属元素含有粉は、一種の金属元素又は複数種の金属元素を含んでよい。金属元素含有粉に含まれる金属元素は、例えば、卑金属元素、貴金属元素、遷移金属元素、又は希土類元素であってよい。コンパウンド粉は、一種の金属元素含有粉を含んでよく、複数種の金属元素含有粒粉を含んでもよい。
金属元素含有粉は上記の組成物に限定されない。金属元素含有粉に含まれる金属元素は、例えば、鉄(Fe)、銅(Cu)、チタン(Ti)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、スズ(Sn)、クロム(Cr)、バリウム(Ba)、ストロンチウム(Sr)、鉛(Pb)、銀(Ag)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)及びジスプロシウム(Dy)からなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。金属元素含有粉は、金属元素以外の元素を含んでもよい。金属元素含有粉は、例えば、酸素(О)、ベリリウム(Be)、リン(P)、ホウ素(B)、又はケイ素(Si)を含んでもよい。金属元素含有粉は、磁性粉であってよい。金属元素含有粉は、軟磁性合金、又は強磁性合金であってよい。金属元素含有粉は、例えば、Fe‐Si系合金、Fe‐Si‐Al系合金(センダスト)、Fe‐Ni系合金(パーマロイ)、Fe‐Cu‐Ni系合金(パーマロイ)、Fe‐Co系合金(パーメンジュール)、Fe‐Cr‐Si系合金(電磁ステンレス鋼)、Nd‐Fe‐B系合金(希土類磁石)、Sm‐Co系合金(希土類磁石)、Sm‐Fe‐N系合金(希土類磁石)、Al‐Ni‐Co系合金(アルニコ磁石)及びフェライトからなる群より選ばれる少なくとも一種からなる磁性粉であってよい。フェライトは、例えば、スピネルフェライト、六方晶フェライト、又はガーネットフェライトであってよい。金属元素含有粉は、Cu‐Sn系合金、Cu‐Sn‐P系合金、Cu-Ni系合金、又はCu‐Be系合金等の銅合金であってもよい。金属元素含有粉は、上記の元素及び組成物のうち一種を含んでよく、上記の元素及び組成物のうち複数種を含んでもよい。
金属元素含有粉は、Fe単体であってもよい。金属元素含有粉は、鉄を含む合金(Fe系合金)であってもよい。Fe系合金は、例えば、Fe‐Si‐Cr系合金、又はNd‐Fe‐B系合金であってよい。金属元素含有粉は、アモルファス系鉄粉及びカルボニル鉄粉のうち少なくともいずれかであってもよい。第一粉が、金属元素含有粉としてFe単体及びFe系合金のうち少なくともいずれかを含む場合、高い占積率を有し、且つ磁気特性に優れる成形体をコンパウンド粉から作製し易い。金属元素含有粉は、Feアモルファス合金であってもよい。Feアモルファス合金粉の市販品としては、例えば、AW2‐08、KUAMET‐6B2(以上、エプソンアトミックス株式会社製の商品名)、DAP MS3、DAP MS7、DAP MSA10、DAP PB、DAP PC、DAP MKV49、DAP 410L、DAP 430L、DAP HYBシリーズ(以上、大同特殊鋼株式会社製の商品名)、MH45D、MH28D、MH25D、及びMH20D(以上、神戸製鋼株式会社製の商品名)からなる群より選ばれる少なくとも一種が用いられてよい。
コンパウンド粉における金属元素含有粉の含有量は、92.0質量%以上99.0質量%以下であってよい。金属元素含有粉の含有量が上記の範囲内である場合、コンパウンド粉の流動性、保存安定性及び成形性が向上し易い。
金属元素含有粉の粒子径は、以下の条件1~5を満たしてよい。ただし、条件1~5を満たされない場合であっても、本発明の効果は得られる。
<条件1>金属元素含有粉の粒度分布が第1ピークと第2ピークの二つのピークを有し、且つ、第1ピークの粒子径が第2ピークの粒子径よりも大きい。
<条件2>第2ピークの粒子径が第1ピークの粒子径の1/2以下、好ましくは1/3以下である。ただし、第2ピークの粒子径が第1ピークの粒子径の1/10以上である。第2ピークの粒子径の減少に伴って第2ピークの粒子径を有する粒子の表面積が増加し、TI値(チクソトロピックインデクス)が増加する。TI値の増加に伴って、コンパウンド粉全体の流動性が低減する場合がある。
<条件3>第2ピークの強度I2と第1ピークの強度I1の比I2/I1(存在率)が0.2以上0.6以下、好ましくは0.25以上0.4以下である。例えば、I2/I1は略0.3である。
<条件4>第1ピークの粒子径がほぼ22μmを中心に分散している。
<条件5>粒度分布のD90%がほぼ60μm以下である。
<条件1>金属元素含有粉の粒度分布が第1ピークと第2ピークの二つのピークを有し、且つ、第1ピークの粒子径が第2ピークの粒子径よりも大きい。
<条件2>第2ピークの粒子径が第1ピークの粒子径の1/2以下、好ましくは1/3以下である。ただし、第2ピークの粒子径が第1ピークの粒子径の1/10以上である。第2ピークの粒子径の減少に伴って第2ピークの粒子径を有する粒子の表面積が増加し、TI値(チクソトロピックインデクス)が増加する。TI値の増加に伴って、コンパウンド粉全体の流動性が低減する場合がある。
<条件3>第2ピークの強度I2と第1ピークの強度I1の比I2/I1(存在率)が0.2以上0.6以下、好ましくは0.25以上0.4以下である。例えば、I2/I1は略0.3である。
<条件4>第1ピークの粒子径がほぼ22μmを中心に分散している。
<条件5>粒度分布のD90%がほぼ60μm以下である。
コンパウンド粉の製造では、金属元素含有粉と樹脂組成物とを加熱しながら混合する。例えば、金属元素含有粉と樹脂組成物とを加熱しながらニーダー又は攪拌機で混練してよい。金属元素含有粉及び樹脂組成物の加熱及び混合により、樹脂組成物が金属元素含有粒子の表面の一部又は全体に付着して金属元素含有粒子を被覆し、樹脂組成物中のエポキシ樹脂の一部又は全部が半硬化物になる。その結果、コンパウンド粉が得られる。金属元素含有粉及び樹脂組成物の加熱及び混合によって得られた粉末に、さらにワックス粉を加えることによって、コンパウンド粉を得てもよい。予め樹脂組成物とワックス粉とが混合されていてもよい。コンパウンド粉における固形分残渣の含有量は、樹脂組成物と混合される金属元素含有粒子の質量と、金属元素含有粉との加熱及び混合の過程で生成させるエポキシ樹脂の半硬化物の質量によって制御されてよい。エポキシ樹脂の半硬化物の質量は、加熱及び混合における温度、加熱時間、硬化剤及び硬化促進剤其々の選択によって制御されてよい。
混練では、金属元素含有粉、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等の硬化剤、硬化促進剤、及びカップリング剤を槽内で混練してよい。金属元素含有粉及びカップリング剤を槽内に投入して混合した後、エポキシ樹脂、硬化剤、及び硬化促進剤を槽内へ投入して、槽内の原料を混練してもよい。エポキシ樹脂、硬化剤、カップリング剤を槽内で混練した後、硬化促進剤を槽内入れて、更に槽内の原料を混練してもよい。予めエポキシ樹脂、硬化剤、及び硬化促進剤の混合粉(樹脂混合粉)を作製して、続いて、金属元素含有粉とカップリング剤とを混練して金属混合粉を作製して、続いて、金属混合粉と上記の樹脂混合粉とを混練してもよい。
ニーダーによる混練時間は、槽の容積、コンパウンド粉の製造量にもよるが、例えば、5分以上であることが好ましく、10分以上であることがより好ましく、20分以上であることがさらに好ましい。またニーダーによる混練時間は、120分以下であることが好ましく、60分以下であることがより好ましく、40分以下であることがさらに好ましい。混練時間が5分未満である場合、混練が不十分であり、コンパウンド粉の成形性が損なわれ、コンパウンド粉の硬化度にばらつきが生じる。混練時間が120分を超える場合、例えば、槽内で樹脂組成物(例えばエポキシ樹脂及びフェノール樹脂)の硬化が進み、コンパウンド粉の流動性及び成形性が損なわれ易い。槽内の原料を加熱しながらニーダーで混練する場合、加熱温度は、例えば、エポキシ樹脂の半硬化物(Bステージのエポキシ樹脂)が生成し、且つエポキシ樹脂の硬化物(Cステージのエポキシ樹脂)の生成が抑制される温度であればよい。加熱温度は、硬化促進剤の活性化温度よりも低い温度であってよい。加熱温度は、例えば、50℃以上であることが好ましく、60℃以上であることがより好ましく、80℃以上であることがさらに好ましい。加熱温度は、150℃以下であることが好ましく、120℃以下であることがより好ましく、110℃以下であることがさらに好ましい。加熱温度が上記の範囲内である場合、槽内の樹脂組成物が軟化して金属元素含有粒子の表面を被覆し易く、エポキシ樹脂の半硬化物が生成し易く、混練中のエポキシ樹脂の完全な硬化が抑制され易い。
コンパウンド粉を所定の金型に充填して加圧により成形することで、タブレットを形成してもよい。タブレットの形状及び寸法は、特に制限はない。例えば、タブレットが円柱状である場合、タブレットの直径は5mm以上であってよく、タブレットの高さ(長さ)は5mm以上であってよい。タブレットの成形圧力は、例えば、500MPa以上であることが好ましく、1000MPa以上であることがより好ましく、2000MPa以上であるとさらに好ましい。
コンパウンド粉のトランスファー成形によって成形体を製造する場合、成形圧力は、500~2500MPaであってよい。成形圧力が高いほど、成形体の機械的強度が高まる。成形体の量産性、及び金型の寿命の観点において、成形体の1400~2000MPaであってもよい。トランスファー成形によって製造される成形体の密度は、コンパウンド粉の真密度に対して、好ましくは75%以上86%以下、より好ましくは80%以上86%以下であってよい。成形体の密度が75%以上86%以下であることにより、磁気特性に優れ、機械的強度が高いインダクタを製造することができる。
コンパウンド粉のトランスファー成形によってインダクタを製造する場合、成形体中の樹脂組成物が硬化して形成される樹脂硬化物のガラス転移温度は、好ましくは150℃以上、より好ましくは160℃以上であってよい。樹脂硬化物のガラス転移温度が150℃以上であることにより、高温で過酷な環境下においても機械的強度が低下し難いインダクタを製造することが可能である。なお、ガラス転移温度は、樹脂組成物の動的粘弾性測定において、tanδ(損失正接)がピーク(極大)になる温度である。
トランスファー成形によって作製されたインダクタの150℃の温度における圧壊強度は、好ましくは100MPa以上、より好ましくは150MPa、さらに好ましくは200MPa以上であってよい。圧壊強度が100MPa以上であることにより、高温においても機械的強度の高いインダクタを製造することができる。
以下では実施例及び比較例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
(実施例1)
[コンパウンド粉の調製]
65.6質量部のビフェニル型エポキシ樹脂、24.4質量部のフェノールノボラック樹脂(硬化剤)、0.66質量部のテトラ-n-ブチルホスホニウムテトラフェニルボレート(ボレート塩系の硬化促進剤)、及び4.8質量部のモンタン酸エステル(ワックス粉)を、ポリ容器に投入した。これらの原料をポリ容器内で10分間混合することにより、樹脂混合物を調製した。
ビフェニル型エポキシ樹脂としては、日本化薬株式会社製のNC‐3000H(エポキシ当量291、融点70℃)を用いた。
フェノールノボラック樹脂としては、日立化成株式会社製のHP‐850N(水酸基当量108、融点83℃)を用いた。
テトラ‐n‐ブチルホスホニウムテトラフェニルボレートとしては、日本化学工業株式会社製のPX‐4PB(分子量579、融点230℃)を用いた。
モンタン酸エステルとしては、CLARIANT株式会社製のリコワックスE(離型剤、融点82℃)を用いた。
[コンパウンド粉の調製]
65.6質量部のビフェニル型エポキシ樹脂、24.4質量部のフェノールノボラック樹脂(硬化剤)、0.66質量部のテトラ-n-ブチルホスホニウムテトラフェニルボレート(ボレート塩系の硬化促進剤)、及び4.8質量部のモンタン酸エステル(ワックス粉)を、ポリ容器に投入した。これらの原料をポリ容器内で10分間混合することにより、樹脂混合物を調製した。
ビフェニル型エポキシ樹脂としては、日本化薬株式会社製のNC‐3000H(エポキシ当量291、融点70℃)を用いた。
フェノールノボラック樹脂としては、日立化成株式会社製のHP‐850N(水酸基当量108、融点83℃)を用いた。
テトラ‐n‐ブチルホスホニウムテトラフェニルボレートとしては、日本化学工業株式会社製のPX‐4PB(分子量579、融点230℃)を用いた。
モンタン酸エステルとしては、CLARIANT株式会社製のリコワックスE(離型剤、融点82℃)を用いた。
992.2質量部のアモルファス系鉄粉と、811.8質量部のカルボニル系鉄粉とを、加圧式2軸ニーダー(日本スピンドル製造株式会社製、容量5L)で5分間均一に混合して、金属元素含有粉を調製した。9.5部の3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(シラン系のカップリング剤)を2軸ニーダー内の金属元素含有粉へ添加した。続いて、2軸ニーダーの内容物を90℃になるまで加熱し、その温度を保持しながら、2軸ニーダーの内容物を10分間混合した。続いて、上記の樹脂混合物を2軸ニーダーの内容物へ添加して、内容物の温度を120℃に保持しながら、内容物を15分間溶融・混練した。「120℃」とは、下記表中の「溶融混練温度」に相当する。「15分」とは、下記表中の「溶融混練時間」に相当する。以上の溶融・混練によって得られた混練物を室温まで冷却した後、混練物が所定の粒度を有するようになるまで混練物をハンマーで粉砕した。なお、上記の「溶融」とは、2軸ニーダーの内容物のうち樹脂組成物の少なくとも一部の溶融を意味する。コンパウンド粉中の金属元素含有粉は、コンパウンド粉の調製過程において溶融しない。
アモルファス系鉄粉としては、エプソンアトミックス社製の6B2(平均粒子径25μm)を用いた。
カルボニル系鉄粉としては、BASFジャパン株式会社製のSQ-I(平均粒子径5μm)を用いた。
3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランとしては、信越化学工業株式会社製のKBM-403(分子量236)を用いた。
アモルファス系鉄粉としては、エプソンアトミックス社製の6B2(平均粒子径25μm)を用いた。
カルボニル系鉄粉としては、BASFジャパン株式会社製のSQ-I(平均粒子径5μm)を用いた。
3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランとしては、信越化学工業株式会社製のKBM-403(分子量236)を用いた。
以上の方法により、実施例1のコンパウンド粉を調製した。コンパウンド粉中の金属元素含有粉の含有量は94.0質量%であった。
[固形分残渣の含有量の測定]
50mlのメチルエチルケトン(MEK)を、容量が100mlであるポリ容器へ入れた。続いて、10gのコンパウンド粉を、ポリ容器中のMEKへ加えて、ポリ容器の内容物を室温で60分間攪拌した。攪拌には、アズワン株式会社製のミックスローター(VMR-5R)を用いた。ミックスローターの回転数は80rpmに設定した。攪拌後、MEK中の固形分残渣をポリ容器から取り出して、固形分残渣の減圧乾燥を室温で1.0時間行った。減圧乾燥にはアズワン株式会社製の真空乾燥機(AV-310)を用いた。以上の手順により、実施例1の固形分残渣を得た。乾燥後の固形分残渣の質量を測定した。下記数式(a)に基づき、実施例1のコンパウンド粉における固形分残渣の含有量(単位:質量%)を算出した。実施例1の固形分残渣の含有量は、下記表1に示される。
CSR=(MSR/MC)×100 (a)
数式(a)中のCSRは、コンパウンド粉における固形分残渣の含有量である。MSRは、乾燥後の固形分残渣の質量(単位:g)である。MCは、MEKへ加える前のコンパウンド粉の質量(単位:g)である。実施例1のMCは、上記の通り10gである。
50mlのメチルエチルケトン(MEK)を、容量が100mlであるポリ容器へ入れた。続いて、10gのコンパウンド粉を、ポリ容器中のMEKへ加えて、ポリ容器の内容物を室温で60分間攪拌した。攪拌には、アズワン株式会社製のミックスローター(VMR-5R)を用いた。ミックスローターの回転数は80rpmに設定した。攪拌後、MEK中の固形分残渣をポリ容器から取り出して、固形分残渣の減圧乾燥を室温で1.0時間行った。減圧乾燥にはアズワン株式会社製の真空乾燥機(AV-310)を用いた。以上の手順により、実施例1の固形分残渣を得た。乾燥後の固形分残渣の質量を測定した。下記数式(a)に基づき、実施例1のコンパウンド粉における固形分残渣の含有量(単位:質量%)を算出した。実施例1の固形分残渣の含有量は、下記表1に示される。
CSR=(MSR/MC)×100 (a)
数式(a)中のCSRは、コンパウンド粉における固形分残渣の含有量である。MSRは、乾燥後の固形分残渣の質量(単位:g)である。MCは、MEKへ加える前のコンパウンド粉の質量(単位:g)である。実施例1のMCは、上記の通り10gである。
[流動性の評価]
50gのコンパウンド粉をトランスファー試験機に仕込み、金型温度(成形温度)165℃、注入圧力6.9MPa、成形時間180秒で、コンパウンド粉のスパイラルフロー量(単位:mm)を測定した。スパイラルフロー量とは、上記金型に形成された渦巻き曲線(アルキメデスのスパイラル)状の溝内において、軟化又は液化したコンパウンド粉が流れる長さである。つまりスパイラルフロー量とは、軟化又は液化したコンパウンド粉の流動距離である。加熱により軟化又は液化したコンパウンド粉が流動し易いほど、スパイラルフロー量は大きい。つまり、流動性に優れたコンパウンド粉のスパイラルフロー量は大きい。トランスファー試験機としては、株式会社テクノマルシチ製のトランスファー成型機を用いた。金型としては、ASTM D3123に準じたスパイラルフロー測定用の金型を用いた。実施例1のスパイラルフロー量(初期スパイラルフロー量)は、下記表1に示される。
50gのコンパウンド粉をトランスファー試験機に仕込み、金型温度(成形温度)165℃、注入圧力6.9MPa、成形時間180秒で、コンパウンド粉のスパイラルフロー量(単位:mm)を測定した。スパイラルフロー量とは、上記金型に形成された渦巻き曲線(アルキメデスのスパイラル)状の溝内において、軟化又は液化したコンパウンド粉が流れる長さである。つまりスパイラルフロー量とは、軟化又は液化したコンパウンド粉の流動距離である。加熱により軟化又は液化したコンパウンド粉が流動し易いほど、スパイラルフロー量は大きい。つまり、流動性に優れたコンパウンド粉のスパイラルフロー量は大きい。トランスファー試験機としては、株式会社テクノマルシチ製のトランスファー成型機を用いた。金型としては、ASTM D3123に準じたスパイラルフロー測定用の金型を用いた。実施例1のスパイラルフロー量(初期スパイラルフロー量)は、下記表1に示される。
[保存安定性の評価]
コンパウンド粉を5℃で3か月間冷蔵庫内に保存した。保存後のコンパウンド粉のスパイラルフロー量(単位:mm)を、上記の方法で測定した。実施例1の保存後のスパイラルフロー量は、下記表1に示される。下記数式(b)に基づき、実施例1のスパイラルフロー量の低下率(単位:%)を算出した。実施例1のスパイラルフロー量の低下率は、下記表1に示される。スパイラルフロー量の低下率が小さいほど、コンパウンド粉は保存安定性に優れている。
Rs={(L1-L2)/L1}×100 (b)
数式(b)中のL1は、上述の初期スパイラルフロー量である。L2は、上述の保存後のスパイラルフロー量である。
コンパウンド粉を5℃で3か月間冷蔵庫内に保存した。保存後のコンパウンド粉のスパイラルフロー量(単位:mm)を、上記の方法で測定した。実施例1の保存後のスパイラルフロー量は、下記表1に示される。下記数式(b)に基づき、実施例1のスパイラルフロー量の低下率(単位:%)を算出した。実施例1のスパイラルフロー量の低下率は、下記表1に示される。スパイラルフロー量の低下率が小さいほど、コンパウンド粉は保存安定性に優れている。
Rs={(L1-L2)/L1}×100 (b)
数式(b)中のL1は、上述の初期スパイラルフロー量である。L2は、上述の保存後のスパイラルフロー量である。
[硬化状態の評価]
初期スパイラルフロー量の測定の際に作製された渦巻き曲線状の成形体を手で触って、成形体の硬化状態を評価した。実施例1の成形体の硬化状態は、下記表1に示される。下記表中に記載のA、B、C及びDは、成形体の硬さを意味する。硬さA、B、C及びDの大小関係は以下の通りである。硬さがAである成形体は、成形性に優れている。
A>B>C>D
初期スパイラルフロー量の測定の際に作製された渦巻き曲線状の成形体を手で触って、成形体の硬化状態を評価した。実施例1の成形体の硬化状態は、下記表1に示される。下記表中に記載のA、B、C及びDは、成形体の硬さを意味する。硬さA、B、C及びDの大小関係は以下の通りである。硬さがAである成形体は、成形性に優れている。
A>B>C>D
(実施例2~12)
実施例2~12では、下記表1に示される組成物をコンパウンド粉の原料として用いた。実施例2~12で用いられた各組成物の質量比(単位:質量部)は、下記表1に示される値であった。実施例2~12其々の溶融混練温度及び溶融混練時間は、下記表1に示される値であった。これらの事項を除いて実施例1と同様の方法で、実施例2~12其々のコンパウンド粉を個別に作製した。実施例1と同様の方法で、実施例2~12其々のコンパウンド粉に関する測定及び評価を行った。実施例2~12其々の測定及び評価の結果は、下記表1に示される。
実施例2~12では、下記表1に示される組成物をコンパウンド粉の原料として用いた。実施例2~12で用いられた各組成物の質量比(単位:質量部)は、下記表1に示される値であった。実施例2~12其々の溶融混練温度及び溶融混練時間は、下記表1に示される値であった。これらの事項を除いて実施例1と同様の方法で、実施例2~12其々のコンパウンド粉を個別に作製した。実施例1と同様の方法で、実施例2~12其々のコンパウンド粉に関する測定及び評価を行った。実施例2~12其々の測定及び評価の結果は、下記表1に示される。
(比較例1~6)
比較例1~6では、下記表2に示される組成物をコンパウンド粉の原料として用いた。比較例1~6で用いられた各組成物の質量比(単位:質量部)は、下記表2に示される値であった。比較例1~6其々の溶融混練温度及び溶融混練時間は、下記表2に示される値であった。これらの事項を除いて実施例1と同様の方法で、比較例1~6其々のコンパウンド粉を個別に作製した。実施例1と同様の方法で、比較例1~6其々のコンパウンド粉に関する測定及び評価を行った。比較例1~6其々の測定及び評価の結果は、下記表2に示される。ただし、後述の通り、比較例4~6其々のスパイラルフロー量を測定することはできなかった。
比較例1~6では、下記表2に示される組成物をコンパウンド粉の原料として用いた。比較例1~6で用いられた各組成物の質量比(単位:質量部)は、下記表2に示される値であった。比較例1~6其々の溶融混練温度及び溶融混練時間は、下記表2に示される値であった。これらの事項を除いて実施例1と同様の方法で、比較例1~6其々のコンパウンド粉を個別に作製した。実施例1と同様の方法で、比較例1~6其々のコンパウンド粉に関する測定及び評価を行った。比較例1~6其々の測定及び評価の結果は、下記表2に示される。ただし、後述の通り、比較例4~6其々のスパイラルフロー量を測定することはできなかった。
下記表に記載のYX4000Hは、三菱ケミカル株式会社製のビフェニル型エポキシ樹脂(エポキシ当量192、融点105℃)である。
下記表に記載のEPPN‐502Hは、日本化薬株式会社製のサリチルアルデヒドノボラック樹脂(エポキシ当量171、融点66℃)である。
下記表に記載のKA1165は、DIC株式会社製のクレゾールノボラック樹脂(水酸基当量119、融点122℃)である。
下記表に記載のC11Z-CNは、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾールであり、四国化成工業株式会社製のイミダゾール系の硬化促進剤(分子量275、融点50℃)である。
下記表に記載のEPPN‐502Hは、日本化薬株式会社製のサリチルアルデヒドノボラック樹脂(エポキシ当量171、融点66℃)である。
下記表に記載のKA1165は、DIC株式会社製のクレゾールノボラック樹脂(水酸基当量119、融点122℃)である。
下記表に記載のC11Z-CNは、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾールであり、四国化成工業株式会社製のイミダゾール系の硬化促進剤(分子量275、融点50℃)である。
<固形分残渣の測定結果>
実施例1~12のいずれにおいても、ボレート塩系の硬化促進剤が用いられ、溶融混練温度/時間が120℃/15分又は90℃/35分であった。実施例1~12のいずれにおいても、固形分残渣の含有量は、98.5質量%以上99.5質量%以下であった。一方、比較例1~3では、イミダゾール系硬化促進剤が用いられ、溶融混練温度/時間が90℃/15分であった。比較例1~3のいずれにおいても、固形分残渣の含有量は目標値(98.5質量%)未満であった。比較例4~6では、ボレート塩系の硬化促進剤が用いられ、溶融混練温度/時間が90℃/15分であった。比較例4~6其々の固形分残渣の含有量は、目標値(98.5質量%)未満であり、実施例1~12及び比較例1~3のいずれよりも小さかった。比較例4~6では、コンパウンド粉に含まれる約6.0質量%の樹脂組成物の殆どが、MEKに溶解したことが分かった。
実施例1~12のいずれにおいても、ボレート塩系の硬化促進剤が用いられ、溶融混練温度/時間が120℃/15分又は90℃/35分であった。実施例1~12のいずれにおいても、固形分残渣の含有量は、98.5質量%以上99.5質量%以下であった。一方、比較例1~3では、イミダゾール系硬化促進剤が用いられ、溶融混練温度/時間が90℃/15分であった。比較例1~3のいずれにおいても、固形分残渣の含有量は目標値(98.5質量%)未満であった。比較例4~6では、ボレート塩系の硬化促進剤が用いられ、溶融混練温度/時間が90℃/15分であった。比較例4~6其々の固形分残渣の含有量は、目標値(98.5質量%)未満であり、実施例1~12及び比較例1~3のいずれよりも小さかった。比較例4~6では、コンパウンド粉に含まれる約6.0質量%の樹脂組成物の殆どが、MEKに溶解したことが分かった。
<成形体の硬化状態の評価結果>
実施例1~12の成形体のいずれも、十分に硬いことが確認された。一方、比較例1~3の成形体のいずれも、実施例1~12に比べて軟らかく、硬化が不足していることが分かった。また比較例4~6の成形体のいずれも、実施例1~12及び比較例1~3に比べて非常に軟らかく、硬化が非常に不足していることが分かった。
実施例1~12の成形体のいずれも、十分に硬いことが確認された。一方、比較例1~3の成形体のいずれも、実施例1~12に比べて軟らかく、硬化が不足していることが分かった。また比較例4~6の成形体のいずれも、実施例1~12及び比較例1~3に比べて非常に軟らかく、硬化が非常に不足していることが分かった。
<保存安定性の評価結果>
実施例1~12のスパイラルフロー量の低下率のいずれも、目標値(10%)以下であることが確認された。一方、比較例1~3のスパイラルフロー量の低下率は、目標値よりも非常に高いことが確認された。また比較例4~6のいずれにおいても、トランスファー成形におけるコンパウンド粉が軟ら過ぎたため、初期スパイラルフロー量、及び保存後のスパイラルフロー量のいずれも測定することができなかった。
実施例1~12のスパイラルフロー量の低下率のいずれも、目標値(10%)以下であることが確認された。一方、比較例1~3のスパイラルフロー量の低下率は、目標値よりも非常に高いことが確認された。また比較例4~6のいずれにおいても、トランスファー成形におけるコンパウンド粉が軟ら過ぎたため、初期スパイラルフロー量、及び保存後のスパイラルフロー量のいずれも測定することができなかった。
本発明に係るコンパウンド粉及びコンパウン粉は、流動性及び保存安定性に優れており、高い工業的な価値を有している。
Claims (13)
- 金属元素含有粉、エポキシ樹脂、及び硬化剤を含むコンパウンド粉であって、
前記コンパウンド粉がケトン系溶媒へ溶解した後に残る固形分残渣の含有量が、98.5質量%以上99.5質量%以下である、
コンパウンド粉。 - 前記固形分残渣が、前記エポキシ樹脂の半硬化物と前記金属元素含有粉とを含む、
請求項1に記載のコンパウンド粉。 - 硬化促進剤を含む、
請求項1又は2に記載のコンパウンド粉。 - 前記硬化促進剤が、ボレート塩及びボラン化合物のうちの少なくとも一種である、
請求項3に記載のコンパウンド粉。 - 金属元素含有粉、エポキシ樹脂、硬化剤及び硬化促進剤を含み、
前記硬化促進剤が、ボレート塩及びボラン化合物のうちの少なくとも一種である、
コンパウンド粉。 - 前記ボレート塩が、下記一般式(1)で表される、
請求項4又は5に記載のコンパウンド粉。
X+B-(R)4 (1)
[前記一般式(1)中、Xは、アルキルホスホニウム塩、アリールホスホニウム塩、イミダゾール塩、イミダゾール誘導体の塩、3級アミン塩及び4級アンモニウム塩からなる群より選ばれる少なくとも一種であり、Bはホウ素であり、Rは、アルキル基、アリール基及びフルオロ基からなる群より選ばれる少なくとも一種である。] - 前記ボラン化合物が、下記一般式(2)で表される、
請求項4又は5に記載のコンパウンド粉。
Y・B(R)3 (2)
[前記一般式(2)中、Yはアルキルホスフィン、アリールホスフィン、イミダゾール、イミダゾール誘導体及び3級アミンからなる群より選ばれる少なくも一種であり、Bはホウ素であり、Rはアルキル基、アリール基及びフルオロ基からなる群より選ばれる少なくとも一種である。] - ワックスを含む、
請求項1~7のいずれか一項に記載のコンパウンド粉。 - 前記金属元素含有粉が、Sm‐Co系合金粉、Fe‐Co系合金粉、Sm‐Fe‐N系合金粉、フェライト粉、アモルファス系鉄粉及びカルボニル鉄粉からなる群より選ばれる少なくとも一種である、
請求項1~8のいずれか一項に記載のコンパウンド粉。 - 前記金属元素含有粉の含有量が、92.0質量%以上99.0質量%以下である、
請求項1~9のいずれか一項に記載のコンパウンド粉。 - 前記エポキシ樹脂が、ビフェニル型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、サリチルアルデヒドノボラック型エポキシ樹脂及びナフトールノボラック型エポキシ樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種である、
請求項1~10のいずれか一項に記載のコンパウンド粉。 - 磁芯に用いられる、
請求項1~11のいずれか一項に記載のコンパウンド粉。 - トランスファー成形に用いられる、
請求項1~12のいずれか一項に記載のコンパウンド粉。
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