WO2019078086A1

WO2019078086A1 - シートスライド機構

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Publication number: WO2019078086A1
Application number: PCT/JP2018/037953
Authority: WO
Inventors: 亮澤井; 晃司野々脇
Original assignee: マツダ株式会社
Priority date: 2017-10-17
Filing date: 2018-10-11
Publication date: 2019-04-25
Also published as: CN111225822A; JP6842398B2; JP2019073183A; EP3683092A4; US20210162889A1; EP3683092A1

Abstract

シートスライド機構（１５）は、車両の車体の一部を構成するフロアパネル（１）に固定されかつ車両前後方向に延びるロアレール（１６）と、ロアレール（１６）内を摺動すると共に上方にシート（１０）が取り付けられるスライダ（１７）と、ロアレール（１６）とスライダ（１７）との間に配置され、スライダ（１７）のロアレール（１６）に沿った摺動を許容する摺動許容部材（３０）とを備え、摺動許容部材（３０）のバネ定数は、ロアレール（１６）又はスライダ（１７）のバネ定数に対して小さく設定されている。

Description

シートスライド機構

　本発明は、車両に設けられるシートスライド機構に関する。

　従来、車両のシートは、乗員の着座面を形成するシートクッションと、乗員の背もたれ面を形成するシートバックと、乗員の頭部を保持するヘッドレストと、シートに着座する着座乗員の体格に応じて当該シートを車両前後方向に位置調整可能とするためのシートスライド機構とを備えている。

　具体的には、特許文献１に開示されているように、上記シートスライド機構は、車両の車体のフロアパネルに固定されて車両前後方向に延びるロアレールと、該ロアレール内を摺動すると共に上方にシートが取付けられるスライダと、上記ロアレールと上記スライダとの間に配置され、該スライダの上記ロアレールに沿った摺動を許容する複数のボール（鋼球）とを備えている。

特開２０１６－１９６２６２号公報

　ところで、車両のシートは、該車両の乗員が着座するものであって、快適性向上のために、当該シートに入力される振動を吸収及び減衰させる性能が求められている。

　詳しくは、車両外部から入力される振動のうち、路面からタイヤを介して車体としてのフロアパネルに入力された振動は、上述のシートスライド機構を介してシートに伝達され、この振動を乗員が感じることになる。そのため、このような車両外部から入力される振動を吸収及び減衰させて、車両のＮＶＨ（ｎｏｉｓｅ、ｖｉｂｒａｔｉｏｎ、ｈａｒｓｈｎｅｓｓ）性能の向上を図ることが要請される。

　本発明は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、車両のシートに着座した乗員が感じる振動を効果的に低減でき、延いては、車両のＮＶＨ性能の向上を図ることができるシートスライド機構を提供することを目的とする。

　上記の目的を達成するために、本発明では、車両に設けられるシートスライド機構を対象として、上記車両の車体の一部を構成するフロアパネルに固定されかつ車両前後方向に延びるロアレールと、上記ロアレール内を摺動すると共に上方にシートが取り付けられるスライダと、上記ロアレールと上記スライダとの間に配置され、該スライダの上記ロアレールに沿った摺動を許容する摺動許容部材とを備え、上記摺動許容部材のバネ定数は、上記ロアレール又は上記スライダのバネ定数に対して小さく設定されている、という構成とした。

　上記の構成により、ロアレールまたはスライダのバネ定数に対して摺動許容部材のバネ定数を小さく（換言すれば、たわみ度合いを大きく）設定したので、次の如き効果が得られる。

　すなわち、振動入力点（フロアパネル）から乗員への振動伝達経路において振動入力点に近くかつ質量が大きいシートスライド機構にて、摺動許容部材のバネ定数を小さくすることで、該摺動許容部材により振動を効果的に減衰することができる。この結果、シートに着座した乗員が感じる振動を効果的に低減することができ、延いては、車両のＮＶＨ性能の向上を図ることができる。

　このことは、車両のＮＶＨ性能向上のためには、振動の吸収は、振動入力点であるフロアパネルから乗員への振動伝達経路において振動入力点に極力近くかつ質量が大きいシートスライド機構の改善が振動低減に最も効果的であるという新たなる知見に基づくものである。

　また、上記構成によれば、既存のシートスライド機構に対して、基本的に摺動許容部材を変更するという簡単な変更により、上述の振動低減効果が得られる。

　上記シートスライド機構の一実施形態では、上記摺動許容部材は、筒状の中空部材又は柱状の中実部材で構成されていると共に、上記ロアレール及び上記スライダに沿って延びるように、上記ロアレール及び上記スライダ間に配置されている。

　このことにより、筒状の中空部材または柱状の中実部材の長さ等を変更することで、摺動許容部材のバネ定数のコントロールを簡単に行なうことができる。なお、中空部材は円筒状または角筒状の何れであってもよく、中実部材は円柱状または角柱状の何れであってもよい。

　上記シートスライド機構の別の実施形態では、上記摺動許容部材は、球体で構成され、上記球体は、その内部が中空に形成された中空球体であるか、又は、外殻と、バネ定数が該外殻のバネ定数に対して小さく設定された内側部材とで形成された中実球体である。

　このことで、球体で形成された摺動許容部材のバネ定数を容易に小さくすることができる。また、摺動許容部材が球体で構成されているので、スライダのロアレールに沿った摺動を許容する複数のボールを備えた既存の一般的なシートスライド機構に対して大幅な変更を伴うことなく、上述の振動低減効果を得ることができる。

　以上説明したように、本発明のシートスライド機構によると、振動入力点（フロアパネル）から乗員への振動伝達経路において振動入力点に近くかつ質量が大きいシートスライド機構における摺動許容部材により振動を減衰するようにしたことにより、シートに着座した乗員が感じる振動を効果的に低減することができ、延いては、車両のＮＶＨ性能の向上を図ることができる。

例示的な実施形態に係る左右一対のシートスライド機構を介して車両のフロアパネルに取り付けられかつ該車両の乗員が着座する車両用シートの斜視図である。左右一対のシートスライド機構のうちの一方のシートスライド機構の要部を拡大して示す、車両前側から見た断面図である。一方のシートスライド機構に設けられた左右一対のユニットにおける摺動許容部材及びリテーナを示す斜視図である。実施形態１における、円筒状の中空部材で構成された摺動許容部材の断面図である。車両用シートの振動モデルを示す説明図である。実施形態２における、円柱状の中実部材で構成された摺動許容部材の断面図である。実施形態３における、円柱状の中実部材で構成された摺動許容部材の断面図である。実施形態４における左右一対のユニット（摺動許容部材及びリテーナ）を示す図３相当図である。実施形態４における、内部が中空に形成された球体で構成された摺動許容部材の断面図である。実施形態５における、外殻と内側部材とで形成された球体で構成された摺動許容部材の断面図である。

　以下、例示的な実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。

　（実施形態１）
　図１は、例示的な実施形態１に係る左右一対のシートスライド機構１５を介して車両のフロアパネル１に取り付けられかつ該車両の乗員が着座する車両用シート（以下、シートという）１０を示す。図２は、左右一対のシートスライド機構１５のうちの一方のシートスライド機構１５の要部を拡大して示す。以下のシート１０及びシートスライド機構１５の説明においては、シート１０及びシートスライド機構１５が車両に搭載された状態にあるものとする。車両の前、後、左、右、上及び下は、車両に搭載されたシート１０の前、後、左、右、上及び下とそれぞれ同じになる。以下、車両の前、後、左、右、上及び下を、それぞれ単に前、後、左、右、上及び下という。

　図１において、シート１０は、シート１０に着座する乗員の着座面を形成するシートクッション１１と、該乗員の背もたれ面を形成するリクライニング可能なシートバック１２と、該乗員の頭部を保持する高さ調整可能なヘッドレスト１３とを備えている。

　シートクッション１１は、左右方向の中央部に位置する着座部１１ａと、この着座部１１ａの左右両サイド部から上方へ突出しかつ前後方向に延びる左右一対のサイドサポート部１１ｂ（いわゆる張出し部）と、を一体形成したものである。シートクッション１１は、シートクッションフレーム１４とシートクッションスプリング（図示省略）とウレタン部材（図示省略）とを有している。シートクッションフレーム１４は、後述の左右一対のシートスライド機構１５の上側にそれぞれ位置する左側端部及び右側端部（図１では、左側端部しか見えていない）と、これら左側端部及び右側端部を互いに連結する連結部とを有している。

　シートバック１２は、左右方向の中央部に位置する背もたれ部１２ａと、この背もたれ部１２ａの左右両サイド部から前方へ突出しかつ上下方向に延びる左右一対のサイドサポート部１２ｂ（いわゆる張出し部）と、を一体形成したものである。シートバック１２は、図示は省略するが、シートバックフレームとシートバックスプリングとウレタン部材とを有している。

　本実施形態では、シート１０は、バケットシート（セパレートシートと同意）である。シート１０は、乗員の体格に対応して位置調整可能に構成されている。

　すなわち、シート１０のシートクッション１１におけるシートクッションフレーム１４と車両の車体の一部を構成する上記フロアパネル１との間には、左右一対のシートスライド機構１５が設けられている。これら左右一対のシートスライド機構１５は同一構造に形成されている。シート１０は、左右一対のシートスライド機構１５によって、フロアパネル１に対して前後方向に相対移動可能に取り付けられている。

　各シートスライド機構１５は、フロアパネル１に固定されかつ前後方向に延びるロアレール１６と、該ロアレール１６内を摺動すると共に上方にシート１０（詳しくは、シートクッション１１）が取付けられるスライダ１７と、ロアレール１６とスライダ１７との間に配置され、スライダ１７のロアレール１６に沿った摺動を許容する複数の摺動許容部材３０（図２及び図３参照）とを備えている。

　図１に示すように、各シートスライド機構１５を構成するスライダ１７の上部（後述の上辺部１７ａ（図２参照））とシートクッションフレーム１４の左側端部又は右側端部との間は、前後２箇所で互いに連結されている。前側の連結箇所は、ロアブラケット１８及びアッパブラケット１９により連結されている。後側の連結箇所は、ロアブラケット２０及びアッパブラケット２１により連結されている。

　図２に示すように、各シートスライド機構１５の複数の摺動許容部材３０は、複数のリテーナ２２に支持された状態で、ロアレール１６とスライダ１７との間に配置されている。

　図２及び図３に示すように、各リテーナ２２は、その上端部と下端部とにおいてそれぞれ摺動許容部材３０を支持する。各リテーナ２２の上端部には、相対的に小形状の摺動許容部材３０（この摺動許容部材３０を上側摺動許容部材３０Ｕともいう）が支持され、各リテーナ２２の下端部には、相対的に大形状の摺動許容部材３０（この摺動許容部材３０を下側摺動許容部材３０Ｌともいう）が支持されている。これら上側及び下側摺動許容部材３０Ｕ，３０Ｌが、各リテーナ２２によってユニット化されており、各シートスライド機構１５において複数のユニットＵ１，Ｕ２が設けられることになる。

　ユニットＵ１は、各シートスライド機構１５の左側に配置され、ユニットＵ２は、各シートスライド機構１５の右側に配置されている。左側のユニットＵ１と右側のユニットＵ２とは、ロアレール１６の左右方向の中央に対して左右略対称に配置されていると共に、該中央に対して左右略対称構造に形成されている。これら左右略対称構造のユニットＵ１，Ｕ２を一対として、本実施形態では、複数対のユニットＵ１，Ｕ２が、ロアレール１６とスライダ１７との間において、ロアレール１６及びスライダ１７の長手方向（前後方向）に並んで設けられている。

　図２に示すように、ロアレール１６は、フロアパネル１に固定される底辺部１６ａと、この底辺部１６ａの車幅方向（左右方向）の両端部からそれぞれコーナアール部１６ｂを介して上方に立上がる２つの縦辺部１６ｃと、２つの縦辺部１６ｃの上端部からそれぞれ円弧状のコーナ部１６ｄを介して斜め上方に延びる２つの連結部１６ｅと、２つの連結部１６ｅの上端部からそれぞれ円弧状のコーナ部１６ｆを介して下方に延びる２つの内辺部１６ｇと、を一体に折曲げ形成したものである。ロアレール１６は、概略、上側に開口する溝状に形成されていると言える。

　図２に示すように、スライダ１７は、ブラケット１８～２１（図１参照）を介して上方にシート１０が取付けられる上辺部１７ａと、この上辺部１７ａの車幅方向（左右方向）の両端部からそれぞれコーナ部１７ｂを介して下方に延びる２つの縦辺部１７ｃと、２つの縦辺部１７ｃの下端からそれぞれコーナ部１７ｄを介して外方かつ上方に斜めに延びる２つの連結部１７ｅと、２つの連結部１７ｅの外端（上端）からそれぞれ上方に延びる２つの下部外辺部１７ｆと、２つの下部外辺部１７ｆの上端からそれぞれ円弧状のコーナ部１７ｈを介して上方に延びる２つの上部外辺部１７ｇと、を一体に折曲げ形成したものである。スライダ１７は、上辺部１７ａを除いてロアレール１６の上記溝内に位置し、上辺部１７ａが上記溝の開口から上側に突出していることになる。

　図２に示すように、ロアレール１６及びスライダ１７はスチールによりそれぞれ形成されている。ロアレール１６は、その左右方向の中央に対して左右対称又は左右略対称に形成されている。スライダ１７も、その左右方向の中央に対して左右対称又は左右略対称に形成されている。スライダ１７の左右方向の中央は、ロアレール１６の左右方向の中央と略一致している。

　図３に示すように、各リテーナ２２は、リテーナ本体２２ａを有し、リテーナ本体２２ａの上端部に前後一対の支持部２２ｂ，２２ｃが形成されており、リテーナ本体２２ａの上端部における前後一対の支持部２２ｂ，２２ｃ間に、下方に窪む凹部２２ｄが形成されている。上側摺動許容部材３０Ｕは、凹部２２ｄ内に位置して、支持部２２ｂ，２２ｃにより支持されている。

　また、各リテーナ２２のリテーナ本体２２ａの下端部にも、上端部と同様に、前後一対の支持部２２ｅ，２２ｆが形成されており、リテーナ本体２２ａの下端部における前後一対の支持部２２ｅ，２２ｆ間に、上方に窪む凹部２２ｇが形成されている。下側摺動許容部材３０Ｌは、凹部２２ｇ内に位置して、支持部２２ｅ，２２ｆにより支持されている。

　なお、図３において、矢印Ｆは前方を示し、矢印Ｒは後方を示し、矢印ＵＰは上方を示す。

　各シートスライド機構１５において、各摺動許容部材３０のバネ定数は、スチール製のロアレール１６又はスチール製のスライダ１７のバネ定数に対して小さく設定されている。

　本実施形態では、図４に示すように、各摺動許容部材３０は、そのバネ定数を小さくするために、筒状（本実施形態では、円筒状）の中空部材３１で構成されていて、ロアレール１６及びスライダ１７に沿って延びる（つまり前後方向に延びる）ように、ロアレール１６及びスライダ１７間に配置されている。

　詳しくは、中空部材３１は、金属製（例えば、ステンレス鋼製）の円筒状のパイプ部材３２と外殻３３とで構成されている。具体的に、中空部材３１は、パイプ部材３２の外周面に合成樹脂（例えば、超低摩擦フッ素樹脂）をコーティングすることで、樹脂製かつ円筒状の外殻３３をパイプ部材３２に一体的に形成したものである。パイプ部材３２の内側には、内部空間３２ａが設けられている。

　本実施形態では、中空部材３１の長手方向両端（前後方向両端）には、当該中空部材３１の支持を目的として略半球状部３３ａ，３３ｂが一体形成されている。

　図３及び図４に示すように、中空部材３１で構成された摺動許容部材３０のうち上側に位置する上側摺動許容部材３０Ｕは、その長さが約１０ｍｍでかつ直径が約５ｍｍの大きさに形成されている。

　また、中空部材３１で構成された摺動許容部材３０のうち下側に位置する下側摺動許容部材３０Ｌは、その長さが約１４ｍｍでかつ直径が約７ｍｍの大きさに形成されている。但し、上記長さ及び直径の数値は一例であって、これに限定されるものではない。

　図４に示した中空部材３１（いわゆる中空ローラ）で構成された摺動許容部材３０（上側及び下側摺動許容部材３０Ｕ，３０Ｌ）を、図３に示すリテーナ２２に支持させる場合、上側摺動許容部材３０Ｕは、その前後の略半球状部３３ａ，３３ｂがリテーナ２２の上端部における前後一対の支持部２２ｂ，２２ｃに支持され、下側摺動許容部材３０Ｌは、その前後の略半球状部３３ａ，３３ｂがリテーナ２２の下端部における前後一対の支持部２２ｅ，２２ｆに支持される。

　ここで、各リテーナ２２における支持部２２ｂと支持部２２ｃとの両対向面部には、上側摺動許容部材３０Ｕの略半球状部３３ａ，３３ｂを支持するために、当該略半球状部３３ａ，３３ｂに対応して略半球状に凹む凹部（図示せず）がそれぞれ形成されている。また、各リテーナ２２における支持部２２ｅと支持部２２ｆとの両対向面部には、下側摺動許容部材３０Ｌの略半球状部３３ａ，３３ｂを支持するために、当該略半球状部３３ａ，３３ｂに対応して略半球状に凹む凹部（図示せず）がそれぞれ形成されている。

　ユニットＵ１，Ｕ２がロアレール１６及びスライダ１７間に配置された場合、図２に示すように、ユニットＵ１，Ｕ２の上側摺動許容部材３０Ｕは、ロアレール１６のコーナ部１６ｄとスライダ１７のコーナ部１７ｈとの間に介設され、下側摺動許容部材３０Ｌは、ロアレール１６のコーナアール部１６ｂとスライダ１７の連結部１７ｅとの間に介設される。

　図５は、加振源２４（車両の車輪）から、振動入力点２５（フロアパネル１）を介して、シート１０に着座した乗員Ｐに至る、シート１０の振動モデルを示す。

　シート１０の振動モデルは、シートフレーム２６と、シートスプリング２７と、シートクッション部材を構成するウレタン部材２８と、の３要素に大別される。

　シートフレーム２６は、シートクッションフレーム１４と、上記シートバックフレームと、シートスライド機構１５とを含む。シートフレーム２６は、質量ｍ１、バネ定数ｋ１、及び、減衰項ｃ１（減衰係数と同意）を有している。

　シートスプリング２７は、上記シートクッションスプリングと、上記シートバックスプリングとを含む。シートスプリング２７は、質量ｍ２、バネ定数ｋ２、及び減衰項ｃ２（減衰係数と同意）を有している。

　ウレタン部材２８は、シートクッション１１のウレタン部材と、シートバック１２のウレタン部材とを含む。ウレタン部材２８は、質量ｍ３、バネ定数ｋ３、及び、減衰項ｃ３（減衰係数と同意）を有している。

　シートフレーム２６、シートスプリング２７及びウレタン部材２８から成る系全体の加速度Ａは、運動の第二法則（いわゆる運動の方程式）により以下の式（１）で近似することができる。

　Ａ≒α＋［（ｃ１・Ｖ＋ｋ１・ｘ）／Ｍ］
　式（１）中、
　　Ａは、系全体の加速度であり、
　　αは、シートフレーム２６、シートスプリング２７及びウレタン部材２８を一体とみなしたときの加速度であり、
　　ｃ１・Ｖは、シートフレーム２６（摺動許容部材３０を有するシートスライド機構１５を要素として含む）の減衰項ｃ１と、シートフレーム２６、シートスプリング２７及びウレタン部材２８を一体とみなしたときの振動入力点２５に対する速度Ｖとの積であり、
　　ｋ１・ｘは、シートフレーム２６（摺動許容部材３０を有するシートスライド機構１５を要素として含む）のバネ定数ｋ１と、シートフレーム２６、シートスプリング２７及びウレタン部材２８を一体とみなしたときの振動入力点２５に対する変位量ｘとの積であり、
　　Ｍは、系全体の質量、つまりｍ１＋ｍ２＋ｍ３である。

　式（１）より、系全体の質量Ｍ（＝ｍ１＋ｍ２＋ｍ３）が大きい程、系全体の加速度Ａが小さくなる。また、バネ定数ｋ１が小さい程、系全体の加速度Ａが小さくなる。系全体の加速度Ａを小さくすることにより、系全体（シートフレーム２６、シートスプリング２７、ウレタン部材２８）が振動しないことになる。

　車両のＮＶＨ性能向上のためには、振動入力点２５となるフロアパネル１から乗員Ｐへの振動伝達経路において振動入力点２５に近くかつ質量が大きいシートフレーム２６（特に振動入力点２５に極力近いシートスライド機構１５）の改善が振動低減及び振動吸収に最も効果的である。

　そこで、本実施形態では、このような知見に基づいて、振動入力点２５（フロアパネル１）から乗員Ｐへの振動伝達経路において振動入力点２５に極力近くかつ質量が大きい部位であるシートスライド機構１５において振動低減の対策を行う。

　本実施形態では、シートフレーム２６のバネ定数ｋ１を小さくするべく、シートスライド機構１５において各摺動許容部材３０のバネ定数を小さくすることで、シート１０の振動低減を効果的に行なうようにする。

　本実施形態では、各摺動許容部材３０のバネ定数が、ロアレール１６又はスライダ１７のバネ定数に対して小さく設定されている。すなわち、各摺動許容部材３０が、ステンレス鋼製のパイプ部材３２と樹脂製の外殻３３とで構成された中空部材３１で構成されているので、各摺動許容部材３０のバネ定数が、スチール製のロアレール１６又はスチール製のスライダ１７のバネ定数に対して小さくされる。

　このように振動入力点２５（フロアパネル１）から乗員Ｐへの振動伝達経路において振動入力点２５に極力近くかつ質量が大きいシートスライド機構１５にて、バネ定数が小さくされた（たわみ度合いが大きくされた）摺動許容部材３０により振動を減衰することができるので、シート１０に着座した乗員Ｐが感じる振動（特に、上下方向の振動）を効果的に低減することができる。

　また、本実施形態では、既存のシートスライド機構に対して、基本的に摺動許容部材（又は、摺動許容部材及びリテーナ）を変更するという簡単な変更により、振動低減効果を得ることができる。

　また、本実施形態では、各摺動許容部材３０が筒状の中空部材３１で構成されていて、ロアレール１６及びスライダ１７に沿って延びるように、ロアレール１６及びスライダ１７間に配置されているので、筒状の中空部材３１の長さ等を変更することで、各摺動許容部材３０のバネ定数のコントロールを簡単に行なうことができる。

　（実施形態２）
　図６は、例示的な実施形態２を示し、各摺動許容部材３０の構成を上記実施形態１とは異ならせたものであり、その他の構成は上記実施形態１と同様である。

　すなわち、本実施形態では、各摺動許容部材３０は、柱状（本実施形態では、円柱状）の中実部材３４（いわゆる中実ローラ）で構成されていて、ロアレール１６及びスライダ１７に沿って延びる（つまり前後方向に延びる）ように、ロアレール１６及びスライダ１７間に配置されている。

　本実施形態においても、上記実施形態１と同様に、各摺動許容部材３０のバネ定数は、スチール製のロアレール１６又はスチール製のスライダ１７のバネ定数に対して小さく設定される。このようにするために、本実施形態では、中実部材３４は樹脂により形成されている。

　この樹脂としては、耐衝撃性に優れ、摩擦係数が小さく、かつ、自己潤滑性を有するポリアミドを採用することができる。

　また、本実施形態においても、中実部材３４の円柱状中実部３４ａの長手方向両端（前後方向両端）には、当該中実部材３４をリテーナ２２（図３参照）で支持させることを目的として半球状部３４ｂ，３４ｃが一体形成されている。

　このように、図６で示した実施形態２においては、各摺動許容部材３０は、柱状（本実施形態では、円柱状）の中実部材３４で構成されていて、上記実施形態１と同様に、ロアレール１６及びスライダ１７に沿って延びるように、ロアレール１６及びスライダ１７間に配置される（図２参照）。

　この構成によれば、柱状の中実部材３４の長さ等を変更することで、各摺動許容部材３０のバネ定数のコントロールを簡単に行なうことができる。

　（実施形態３）
　図７は、例示的な実施形態３を示し、各摺動許容部材３０の構成を上記実施形態１及び２とは異ならせたものであり、その他の構成は上記実施形態１及び２と同様である。

　すなわち、本実施形態では、各摺動許容部材３０は、図６で示した上記実施形態２の中実部材３４の外面全体を外殻部材３５で囲繞した、内外二層構造の中実部材３６で構成されている。

　本実施形態では、中実部材３４が、樹脂（例えば、ポリアミド）により形成され、外殻部材３５が、金属（例えば、ステンレス鋼）で形成される。

　本実施形態においても、上記実施形態１及び２と同様に、各摺動許容部材３０が、ロアレール１６及びスライダ１７に沿って延びるように、ロアレール１６及びスライダ１７に配置される（図２参照）。また、上記実施形態１及び２と同様に、各摺動許容部材３０のバネ定数は、ロアレール１６又はスライダ１７のバネ定数よりも小さく設定される。

　このように、図７で示した実施形態３においても、各摺動許容部材３０は、上記実施形態２と同様に、柱状（本実施形態では、円柱状）の中実部材３６で構成されていて、ロアレール１６及び上記スライダ１７に沿って延びるように、ロアレール１６及びスライダ１７間に配置される（図２参照）。

　この構成によれば、柱状の中実部材３６の長さ等を変更することで、各摺動許容部材３０のバネ定数のコントロールを簡単に行なうことができる。また、本実施形態においては、各摺動許容部材３０が、内外二層構造の中実部材３６で構成され、外側の層がステンレス鋼製の外殻部材３５で構成されているので、各摺動許容部材３０の耐久性及び防錆効果の向上を図ることができる。

　（実施形態４）
　図８及び図９は、例示的な実施形態４を示し、各摺動許容部材３０及び各リテーナ２２の構成を上記実施形態１～３とは異ならせたものであり、その他の構成は上記実施形態１～３と同様である。

　すなわち、本実施形態では、各摺動許容部材３０は、球体４１で構成されている。本実施形態においても、上記実施形態１～３と同様に、各シートスライド機構１５の複数の摺動許容部材３０が、複数のリテーナ２２に支持された状態で、ロアレール１６とスライダ１７との間に配置されている。

　各リテーナ２２は、その上端部と下端部とにおいてそれぞれ複数（本実施形態では、２つ）の摺動許容部材３０を支持する。各リテーナ２２の上端部には、相対的に小径の摺動許容部材３０（上側摺動許容部材３０Ｕ）が支持され、各リテーナ２２の下端部には、相対的に大径の摺動許容部材３０（下側摺動許容部材３０Ｌ）が支持されている。これら上側及び下側摺動許容部材３０Ｕ，３０Ｌが、各リテーナ２２によってユニット化されており、各シートスライド機構１５において複数のユニットＵ１，Ｕ２が設けられることになる。

　本実施形態においても、ユニットＵ１は、各シートスライド機構１５の左側に配置され、ユニットＵ２は、各シートスライド機構１５の右側に配置されている。左側のユニットＵ１と右側のユニットＵ２とは、ロアレール１６の左右方向の中央に対して左右略対称に配置されていると共に、該中央に対して左右略対称構造に形成されている。これら左右略対称構造のユニットＵ１，Ｕ２を一対として、複数対のユニットＵ１，Ｕ２が、ロアレール１６とスライダ１７との間において、ロアレール１６及びスライダ１７の長手方向（前後方向）に並んで設けられている。

　図８に示すように、各リテーナ２２のリテーナ本体２２ａの上端部には、複数の支持部２２ｈ，２２ｉ，２２ｊが互いに前後方向に離間して形成されており、リテーナ本体２２ａの上端部における支持部２２ｈ，２２ｉ間、及び、支持部２２ｉ，２２ｊ間に、下方に窪む凹部２２ｋ，２２ｌがそれぞれ形成されている。２つの上側摺動許容部材３０Ｕは、凹部２２ｋ，２２ｌ内にそれぞれ位置して、支持部２２ｈ，２２ｉ、及び、支持部２２ｉ，２２ｊによりそれぞれ支持されている。

　また、各リテーナ２２のリテーナ本体２２ａの下端部にも、上端部と同様に、複数の支持部２２ｍ，２２ｎ，２２ｏが互いに前後方向に離間して形成されており、リテーナ本体２２ａの下端部における支持部２２ｍ，２２ｎ間、及び、支持部２２ｎ，２２ｏ間に、上方に窪む凹部２２ｐ，２２ｑがそれぞれ形成されている。２つの下側摺動許容部材３０Ｌは、凹部２２ｐ，２２ｑ内にそれぞれ位置して、支持部２２ｍ，２２ｎ、及び、支持部２２ｎ，２２ｏによりそれぞれ支持されている。

　各リテーナ２２における支持部２２ｈと支持部２２ｉとの両対向面部、及び、支持部２２ｉと支持部２２ｊとの両対向面部には、２つの球状の上側摺動許容部材３０Ｕを支持するために、球状に凹む凹部（図示せず）がそれぞれ形成されている。また、各リテーナ２２における支持部２２ｍと支持部２２ｎとの両対向面部、及び、支持部２２ｎと支持部２２ｏとの両対向面部には、２つの球状の下側摺動許容部材３０Ｌを支持するために、球状に凹む凹部（図示せず）がそれぞれ形成されている。
本実施形態においても、ユニットＵ１，Ｕ２がロアレール１６及びスライダ１７間に配置された場合、ユニットＵ１，Ｕ２の上側摺動許容部材３０Ｕは、ロアレール１６のコーナ部１６ｄとスライダ１７のコーナ部１７ｈとの間に介設され、下側摺動許容部材３０Ｌは、ロアレール１６のコーナアール部１６ｂとスライダ１７の連結部１７ｅとの間に介設される。

　図９に示すように、本実施形態では、各摺動許容部材３０を構成する球体４１は、その内部が中空に形成された（内部に中空部４２が設けられた）中空球体である。

　各摺動許容部材３０のバネ定数は、スチール製のロアレール１６又はスチール製のスライダ１７のバネ定数に対して小さく設定される。そのために、本実施形態では、球体４１は、樹脂により形成される。

　ここで、図８において、球体４１で構成された摺動許容部材３０のうち上側に位置する上側摺動許容部材３０Ｕの直径は約５ｍｍに設定され、下側に位置する下側摺動許容部材３０Ｌの直径は約７ｍｍに設定されている。但し、この直径の数値は、一例であって、これに限定されるものではない。

　なお、図８において、矢印Ｆは前方を示し、矢印Ｒは後方を示し、矢印ＵＰは上方を示す。

　したがって、本実施形態では、各摺動許容部材３０のバネ定数が、ロアレール１６又はスライダ１７のバネ定数に対して小さく設定されているので、次の如き効果がある。

　すなわち、振動入力点（フロアパネル１）から乗員への振動伝達経路において振動入力点に近くかつ質量が大きいシートスライド機構１５にて、バネ定数が小さい摺動許容部材４０により振動を減衰することができるので、シート１０に着座した乗員が感じる振動を効果的に低減することができ、延いては、車両のＮＶＨ性能の向上を図ることができる。

　また、本実施形態では、各摺動許容部材３０が、中空部４２を有する球体４１（中空球体）で構成されているので、スライダのロアレールに沿った摺動を許容する複数のボールを備えた既存の一般的なシートスライド機構に対して大幅な変更を伴うことなく、ボールを球体４１に変更することにより、上述の振動低減効果を得ることができる。

　（実施形態５）
　図１０は、例示的な実施形態５を示し、各摺動許容部材３０の構成を上記実施形態４とは異ならせたものであり、その他の構成は上記実施形態４と同様である。

　すなわち、本実施形態では、各摺動許容部材３０は、球体４３で構成されている。球体４３は、外殻４４と内側部材４５とで形成された中実球体である。

　本実施形態においても、各摺動許容部材３０のバネ定数は、ロアレール１６又はスライダ１７のバネ定数に対して小さく設定される。このようにするために、内側部材４５のバネ定数は、外殻４４のバネ定数に対して小さく設定される。具体的に、本実施形態では、外殻４４は金属（例えばステンレス鋼）により形成され、内側部材４５は樹脂（例えばポリアミド）により形成される。

　したがって、本実施形態では、各摺動許容部材３０が球体４３で構成されているので、上記実施形態４と同様に、スライダのロアレールに沿った摺動を許容する複数のボールを備えた既存の一般的なシートスライド機構に対して大幅な変更を伴うことなく、上述の振動低減効果を得ることができる。

　また、各摺動許容部材３０（球体４３）は、例えばステンレス鋼製の外殻４４を備えているので、摺動許容部材４０の耐久性及び防錆効果の向上を図ることができる。

　本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、請求の範囲の主旨を逸脱しない範囲で代用が可能である。

　例えば、上記実施形態１では、各摺動許容部材３０が、円筒状の中空部材３１で構成され、上記実施形態２及び３では、各摺動許容部材３０が、円柱状の中実部材３４，３６で構成されているが、各摺動許容部材３０は、角筒状の中空部材又は角柱状の中実部材で構成されていてもよい。

　上述の実施形態は単なる例示に過ぎず、本発明の範囲を限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は請求の範囲によって定義され、請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。

　本発明は、車両の車体の一部を構成するフロアパネルに固定されかつ車両前後方向に延びるロアレールと、上記ロアレール内を摺動すると共に上方にシートが取り付けられるスライダと、上記ロアレールと上記スライダとの間に配置され、該スライダの上記ロアレールに沿った摺動を許容する摺動許容部材とを備えたシートスライド機構に有用である。

　　１　　　フロアパネル
　　１０　　車両用シート
　　１５　　シートスライド機構
　　１６　　ロアレール
　　１７　　スライダ
　　３０　　摺動許容部材
　　３１　　中空部材
　　３４　　中実部材
　　３５　　中実部材
　　４１　　球体（中空球体）
　　４３　　球体（中実球体）
　　４４　　外殻
　　４５　　内側部材

Claims

　車両に設けられるシートスライド機構であって、
　上記車両の車体の一部を構成するフロアパネルに固定されかつ車両前後方向に延びるロアレールと、
　上記ロアレール内を摺動すると共に上方にシートが取り付けられるスライダと、
　上記ロアレールと上記スライダとの間に配置され、該スライダの上記ロアレールに沿った摺動を許容する摺動許容部材とを備え、
　上記摺動許容部材のバネ定数は、上記ロアレール又は上記スライダのバネ定数に対して小さく設定されている、シートスライド機構。
　上記摺動許容部材は、筒状の中空部材又は柱状の中実部材で構成されていると共に、上記ロアレール及び上記スライダに沿って延びるように、上記ロアレール及び上記スライダ間に配置されている、請求項１に記載のシートスライド機構。
　上記摺動許容部材は、球体で構成され、
　上記球体は、その内部が中空に形成された中空球体であるか、又は、外殻と、バネ定数が該外殻のバネ定数に対して小さく設定された内側部材とで形成された中実球体である、請求項１に記載のシートスライド機構。