業務用が中心であった光ファイバ通信が、家庭用にも幅広く普及してきている。それに伴い、高性能な光通信デバイスが求められている。家庭用光ファイバおよびローカル・エリア・ネットワーク(LAN)などの様々な光通信システム用の光通信デバイスとして、1330nmおよび1500nmの光信号の波長で機能するシリコン・ベースの光通信デバイスがある。このシリコン・ベースの光通信デバイスは、非常に有望なデバイスであり、具体的には、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)技術を利用することで、光機能素子および電子回路をシリコンプラットフォーム上に集積化することが可能となる。
シリコン・ベースの光通信デバイスとして、導波路、光結合器、および波長フィルタなどの受動デバイスが幅広く研究されている。また、前述した光通信システム用の、光信号を操作する手段の重要な要素として、シリコン・ベースの光変調器や光スイッチなどの能動デバイスが挙げられ、非常に注目されている。シリコンの熱光学効果を利用して屈折率を変化させる光変調器や光スイッチは光変調速度が低速であるため、光変調周波数が1Mb/秒以下の装置にしか使用できない。それよりも大きい光変調周波数の装置に対しては、電気光学効果を利用した光変調器が必要である。
純シリコンは、Pockels効果による屈折率の変化を示さず、またFranz-Keldysh効果やKerr効果による屈折率の変化も非常に小さい。そのため、現在提案されている電気光学効果を利用した光変調器の多くは、キャリアプラズマ効果を利用する。つまり、シリコン層中の自由キャリア密度を変化させることで、屈折率の実数部と虚数部を変化させて、光の位相や強度を変化させる。
光変調器における自由キャリア密度は、自由キャリアの注入、蓄積、除去、または反転によって変えることが出来る。現在までに検討されたこのような光変調器の多くは、光変調効率が悪く、光位相変調に必要な長さが1mm以上であり、1kA/cm3より高い注入電流密度を要していた。光変調器の小型化、高集積化、および低消費電力化を実現するためには、高い光変調効率が得られるデバイス構造が必要である。高い光変調効率が得られることで、光位相変調に必要な長さを短くすることが可能である。また、光通信デバイスのサイズが大きい場合、シリコン基板上での温度の影響を受け易くなり、熱光学効果に起因するシリコン層の屈折率変化により、本来なら得られるはずであった電気光学効果を打ち消してしまうことも考えられる。
図1は、SOI(Silicon on Insulator)基板に形成されたリブ導波路を利用した、シリコン・ベースの光変調器の関連技術の一例である。基板3の上に、埋め込み酸化層2と、リブ形状をした部分を含む真性半導体1が順番に積層されている。真性半導体1のリブ形状の部分の両側に間隔をおいて、p+ドープ半導体4とn+ドープ半導体5がそれぞれ形成されている。p+ドープ半導体4とn+ドープ半導体5は、真性半導体1に部分的に高濃度にドープ処理することによって形成されたものである。図1に示した光変調器の構造は、PIN(P-intrinsic-N)ダイオードである。PINダイオードに順方向および逆方向バイアス電圧が印加されると、真性半導体1内の自由キャリア密度が変化し、キャリアプラズマ効果によって、屈折率が変化する。この例では、真性半導体1のリブ形状の部分の一方の側方に、電極コンタクト層6が配置され、その電極コンタクト層6と対向する位置に、前記したp+ドープ半導体4が形成されている。同様に、真性半導体1のリブ形状の部分の他方の側方にも電極コンタクト層6が配置され、その電極コンタクト層6と対向する位置にn+ドープ半導体5が形成されている。また、リブ形状の部分を含む導波路は酸化物クラッド7により、覆われている。上記したPINダイオードの構造においては、半導体4、5のキャリア密度が1020/cm3程度になるように高濃度にドープ処理することが可能である。
光変調動作時に、電極コンタクト層6に接続された電源から、PINダイオードに対して順方向バイアス電圧が印加され、導波路内に自由キャリアが注入される。この時、自由キャリアの増加により、真性半導体1の屈折率が変化し、導波路を通して伝播される光の位相変調が行われる。しかし、この光変調動作の速度は、真性半導体1のリブ形状の内部の自由キャリア寿命と、順方向バイアス電圧が取り除かれた場合のキャリア拡散によって制限される。このような関連技術のPINダイオード構造を有する光変調器は、通常、順方向バイアス電圧の印加時に10~50Mb/秒の範囲内の動作速度を有する。これに対し、キャリア寿命を短くするために、真性半導体1内に不純物を導入することによって、切換速度を増加させることが可能であるが、導入された不純物は光変調効率を低下させるという問題がある。また、動作速度に影響する最も大きな因子は、RC時定数であり、順方向バイアス電圧印加時の静電容量が、PN接合部のキャリア空乏層の減少により非常に大きくなる。理論的には、PN接合部の高速動作は逆バイアス電圧を印加することにより達成可能であるが、比較的大きな駆動電圧あるいは大きな素子サイズを必要とする。
関連技術の他の一例として、基板3上に埋め込み酸化層2と、第1導電型の本体領域が順番に積層されており、この本体領域と、本体領域と部分的に重なるように積層された第2導電型のゲート領域とからなり、この積層界面に薄い誘電体層11が形成されたキャパシタ構造のシリコン・ベースの光変調器が特表2006-515082号公報(以下、特許文献1と記す)に開示されている。なお、これ以降「薄い」とは、サブミクロンオーダー(1μm未満)を意図している。
図2には関連技術によるSIS(silicon-insulator-silicon)構造からなるシリコン・ベースの光変調器を示す。光変調器は、基板3と埋め込み酸化層2と本体領域とで構成されたSOI基板に形成される。本体領域は、SOI基板のシリコン層にドープ処理して形成したpドープ半導体8と、高濃度にドープ処理して形成したp+ドープ半導体4と、電極コンタクト層6とで構成されている。ゲート領域はSOI基板上に積層された薄いシリコン層にドープ処理して形成したnドープ半導体9と、高濃度にドープ処理して形成したn+ドープ半導体5と、電極コンタクト層6とで構成されている。そして、埋め込み酸化層2と本体領域とゲート領域との隙間、および本体領域とゲート領域の上方は、酸化物クラッド7を有している。
ドープ処理された領域は、キャリア密度変化が外部信号電圧により制御されるようになっている。また、電圧を電極コンタクト層6に印加すると、誘電体層11の両側で、自由キャリアが蓄積、除去、または反転される。このことにより、光位相変調がなされる。そのため、光信号電界の領域とキャリア密度が動的に外部制御される領域は一致させることが望ましい。
以下に、添付の図面に基づき、本発明の実施の形態を説明する。なお、同一の機能を有する構成には添付図面中、同一の番号を付与し、その説明を省略することがある。
本発明の光変調器の例示的な構造を説明する前に、本発明の動作の基となっているシリコン層内のキャリア密度の変調メカニズムについて説明する。本発明のシリコン・ベースの光変調器は、以下に説明するキャリアプラズマ効果を利用するものである。
前述したように、純シリコンはPockels効果による屈折率の変化を示さず、またFranz-Keldysh効果やKerr効果による屈折率の変化も非常に小さい。そのため、キャリアプラズマ効果と熱光学効果だけが光変調動作に利用できる。しかし、熱光学効果を利用して屈折率を変化させる光変調器は、変調速度が低速である。したがって、本発明が目的とする高速動作(1Gb/秒以上)のためには、キャリアプラズマ効果によるキャリア拡散だけが効果的である。キャリアプラズマ効果による屈折率の変化は、クラマース・クローニッヒの関係式とDrudeの式から導かれる以下の関係式の一次近似値で説明される。
ΔnおよびΔkは、シリコン層の屈折率変化の実部および虚部を表しており、eは電荷、λは光波長、ε
0は真空中の誘電率、nは真性シリコンの屈折率、m
eは電子キャリアの有効質量、m
hはホールキャリアの有効質量、μ
eは電子キャリアの移動度、μ
hはホールキャリアの移動度、ΔN
eは電子キャリアの濃度変化、ΔN
hはホールキャリアの濃度変化である。シリコン中のキャリアプラズマ効果の実験的な評価が行われており、光通信システムで使用する1330nmおよび1500nmの光通信波長でのキャリア密度に対する屈折率変化は、上記の式で求めた結果とよく一致することが分かった。また、キャリアプラズマ効果を利用した光変調器においては、位相変化量は以下の式で定義される。
Lは光変調器の光伝播方向に沿ったアクティブ層の長さである。
キャリアプラズマ効果による位相変化量は電界吸収効果による位相変化量に比べて大いため、以下に述べる光変調器は基本的に位相変調器としての特徴を示すことが出来る。
本発明のSOI(Silicon on Insulator)基板上にシリコン-誘電体層-シリコンのキャパシタ構造をしている自由キャリアプラズマ効果を用いた光変調器を以下に説明する。
図3は本発明に係る光変調器の一実施形態における概略断面図である。この光変調器の基本構成を説明すると、基板3上に埋め込み酸化層2が形成され、さらにその上にリブ構造を有する第1導電型の半導体8と、誘電体層11と、第2導電型の半導体層9とが順番に積層されている。基板3と、埋め込み酸化層2と、第1導電型の半導体8とによってSOI基板が構成されている。なお、図中において、矢印が光の伝播方向を示している。SOI基板に形成されたリブ導波路を構成する第1導電型の半導体(以降「pドープ半導体」とする)8の表面は、光の伝播方向に対して直交する方向に窪み(窪みの長手方向が光の伝播方向に平行になっている)が掘られ、凹凸形状が形成されている。そしてこの凹凸形状が形成されているすべての部分を、薄い(以後「薄い」とはサブミクロンオーダー(1μm未満)を指す)誘電体層11が覆っている。薄い誘電体層11上には第2導電型の半導体(以後「nドープ半導体」とする)9がさらに堆積することで、リブ形状が形成されている。リブ形状の両側のスラブ領域には、高濃度にドープ処理されたドープ領域(以後「p+ドープ半導体」とする)4が形成され、第2導電型の半導体9上にも、高濃度にドープ処理されたドープ領域(以後「n+ドープ半導体」とする)5が形成されている。また、p+ドープ半導体4とn+ドープ半導体5の上には、電極コンタクト層6がそれぞれ設けられている。また、導波路全体を酸化物クラッド7で覆っている。
図3に示す本発明の構造では、キャパシタ構造の接合界面に凹凸形状を設けることにより、光フィールドとキャリア密度変調領域のオーバーラップが大きくなり、光変調長さが短くても光の変調が十分可能である。そのため、光変調器の寸法を小さくすることができる。また、キャパシタ構造の接合界面に隣接した第1導電型を呈するようにドープされた領域および第2の導電型を呈するようにドープされた領域のドーピング密度をさらに上昇させることにより、直列抵抗成分を小さくし、RC時定数を小さくすることも可能である。
このドーピング密度を上昇させた領域と光フィールドとのオーバーラップによる光吸収損失を低減するために、本発明の光変調器は図3に示すようなリブ導波路とした。また、スラブ領域のドーピング密度を上昇させた構造とすることにより、光損失が小さく、またRC時定数の小さい、高速動作する光変調器を得ることも可能となる。
キャパシタ構造の接合界面付近の領域で、キャリア変調が生じる部分の厚みをWとすると、最大空乏層厚(キャリア変調が引き起こされる厚み)Wは、熱平衡状態では下記数式で与えられる。
ε
sは、半導体層の誘電率、kはボルツマン定数、N
cはキャリア密度、n
iは真性キャリア濃度、eは電荷量である。例えば、N
cが10
17/cm
3の時、最大空乏層厚は0.1μm程度であり、キャリア密度が上昇するに従い、空乏層厚、すなわちキャリア密度の変調が生じる領域の厚みは薄くなる。
図4に図3のAA’断面図を示す。pドープ半導体8上に設けられた凹部と凸部の間隔をXとすると、Xは2W以下であることが望ましい。凹部と凸部の間隔を2W以下とすると、隣接する凹凸間のキャリア変調領域がオーバーラップするので、より高い光変調効果が得られる。ただし、隣接する凹凸形状の凹部と凸部の間隔を2W以上にした場合でも光変調効率を改善する効果を得ることは可能である。
光信号電界が感じる実効的な屈折率をneff、光信号波長をλとした時、光のフィールドサイズはλ/neffである。そのため、図3で示した光変調器において、pドープ半導体8表面に設けられた凹部から凸部までの高さは、λ/neff以下であることが望ましい。そうすることで、光フィールドとキャリア密度変調が行われる領域との重なりが最大となり、効率的な光位相変調を実現することができる。
図5は本発明の光変調器の他の実施形態における概略図である。本実施形態においては、SOI層の表面は、光の伝送方向に対して直交する方向に凹凸形状が形成されている。この光変調器はスラブ導波路形状をしているが、スラブ導波路の内部に図3の構造とは逆の向きのリブ構造を有している。凹凸形状を有するpドープ半導体8上に薄い誘電体層11が堆積し、さらに、nドープ半導体9が堆積している。光信号電界の大きさを小さくするために、電極引出しのための左右に広がるpおよびnドープ半導体8、9層の厚みを100nm以下としている。これにより、高濃度にドープ処理したp+ドープ半導体4およびn+ドープ半導体5の領域を光変調領域に隣接して配置することが可能となる。そのため、直列抵抗成分を低減するとともに、キャリアの蓄積および除去が高速に行われることとなり、光変調器のサイズが小さくなると共に、高速化および低電力化が実現されることとなる。p+ドープ半導体4およびn+ドープ半導体5上に電極コンタクト層6が設けられ、ている。pドープ半導体8、誘電体層11、nドープ半導体9、p+ドープ半導体4、n+半導体5、電極コンタクト層6、基板3および埋め込み酸化層2以外の部分は酸化物クラッド7で覆われている。
図6A~図6Cは本発明の光変調器のさらに他の実施形態における概略図である。図6Aは、光の伝送方向から見た図であり、図6Bは、図6AのBB’断面を示した図であり、図6Cは、図6AのCC’断面を示した図である。なお、矢印の方向が光の伝播方向である(図6Aにおいては、手前から奥方向)。
SOI基板上に形成されたリブ導波路内のpドープ半導体8の表面には、光の伝播方向に対して平行に窪み(窪みの長手方向が光の伝播方向に直交している)が掘られ、凹凸形状が形成されており、その凹凸形状上のすべての部分が、薄い誘電体層11で覆われている。この薄い誘電体層11上にはnドープ半導体9が堆積されている。さらにこのnドープ半導体9の上には高濃度にドープ処理されたn+ドープ半導体5が堆積されている。リブ形状をした領域の両側のスラブ領域には、高濃度にドープ処理されたp+ドープ半導体4が形成されている。また、p+ドープ半導体4と、n+ドープ半導体5には、電極コンタクト層6が設けられており、さらに導波路全体が酸化物クラッド7で覆われている。
pドープ半導体8に形成された凹凸形状の凹部と凸部の間隔をYとし、キャリア密度が変調される領域の厚みをWとすると、前述の理由からYは2W以下が好ましい。また、凹凸形状の周期が、光信号の群速度を遅くするように形成されるか、あるいは光信号の反射を抑制するために、非周期的に光信号電界が感じる実効的な屈折率をneff、光信号波長をλとすると、λ/neff以下の間隔となるように形成されてもよい。
図7Aから図9に、本発明の凹凸形状を有するキャリア変調領域を形成する方法の一例を示す。
図7Aは、本発明の光変調器を形成するために用いるSOI基板の断面図である。このSOI基板は、基板3上に埋め込み酸化層2が積層され、さらにその上に100から1000nm(1μm)程度のシリコン層8が積層された構造からなる。光損失を低減するために、埋め込み酸化層2の厚さは1000nm(1μm)以上とした。この埋め込み酸化層2上のシリコン層8は、第1導電型を呈するように予めドーピング処理された基板を用いるか、あるいはイオン注入などで、リンまたはホウ素をシリコン表面層にドープ処理をした後、熱処理をしてもよい。図7Aではホウ素をドープしたと仮定し、シリコン層8をpドープ半導体とする。
次に図7Bに示すように、pドープ半導体8上に熱処理により10から30nm程度の熱酸化層12が形成され、さらに熱酸化層12上に低圧CVD(Chemical Vapor Deposition)法などの製膜法によりSiNx層13を形成する。
次に図7Cに示すように、SiNx層13をpドープ半導体8上に形成する凹凸形状の凹部と凸部の間隔に相当する間隔になるように、パターニングする。
次に図7Dに示すように、図7CでパターニングされたSiNx層をマスクとして熱酸化処理を行い、マスクされていない部分のpドープ半導体8層にも熱酸化層14を形成させる。これらのプロセスは、LOCOS(local oxidation of semiconductor)プロセスと呼ばれ、CMOS加工プロセスでは一般的なプロセスであるが、100nm以下の微細加工時には、形状の制御が十分でない場合もある。したがって、LOCOSプロセスの代わりに、フォトレジストをマスクとして、反応性イオンエッチングなどの方法により、所望の表面の凹凸形状を形成することも有効である。
次にSOI基板をリン酸溶液に浸してSiNx層13と熱酸化層12、14を除去した後、図8Aに示すように、熱処理を行い、pドープ半導体8の表面層に誘電体層11であるシリコン酸化層を形成する。誘電体層11は、シリコン酸化層、窒化シリコン層や、他のHigh-k絶縁層からなる少なくとも一層で良い。
次に図8Bに示すように、多結晶シリコン9をCVD法あるいはスパッタリング法により、誘電体層11上の表面の凹凸形状が十分に被覆するように製膜する。この時、誘電体層11の凹凸形状に起因して、同様の凹凸形状が多結晶シリコン9上にも形成される。このような多結晶シリコン9上の凹凸形状は、光信号を伝送した時の光散乱損失の原因となるため、CMP(chemical-mechanical polishing process)により平滑化することが望ましい。また、多結晶シリコン9は、第2導電型を呈するように、製膜中にドーピング処理するか、あるいは製膜後にイオン注入法などにより、ホウ素またはリンでドープ処理する(第1導電型の半導体層とは逆のものでドープ処理する)。図8Bではリンでドープ処理したと仮定し、多結晶シリコン9をnドープ半導体とする。
次に図8Cに示すように、光導波路構造の幅(リブの幅)が0.3μmから2μm以下となるように、反応性プラズマエッチング法などにより、図8Bに示した積層体をリブ形状に加工する。さらに、図8(d)に示すように、pドープ半導体8およびnドープ半導体9に隣接する領域に高濃度にドープ処理したp+ドープ半導体4およびn+ドープ半導体5を形成する。
最後に、図9に示すように、TaN/Al(Cu)などからなる電極コンタクト層6を形成して、駆動回路との接続を行う。そして、酸化物クラッド層7を形成する。
なお本発明では、第1導電型の半導体および第2導電型の半導体は、多結晶シリコン、アモルファスシリコン、歪シリコン、単結晶Si、SixGe(1-x)からなる群から選択される少なくとも一層から構成されている。
本発明の光変調器における位相シフト量の光信号伝播方向の長さ依存を、第1導電型の半導体層8の表面に凹凸形状がある場合とない場合とについて調べた。凹凸形状の凹部と凸部の間隔は160nm以下とした。試験結果の一例を図10に示す。
凹部と凸部の間隔がキャリア変調される厚みと同程度の160nm程度以下の凹凸形状を形成することにより、位相シフト量が大きくなっていることから、光変調効率が改善されることが分かる。また、試験結果を示していないが、凹部から凸部までの高さに関しても、高さを大きくすることにより、光変調効率が改善された。
また、第1導電型の半導体8層表面に凹凸形状がある場合とない場合とについて、キャリア密度と光変調器の光変調の動作周波数帯域との関係を調べた。光変調の動作周波数帯域は、変調効率改善によるサイズ低減の効果と凹凸形状を設けることによる電気容量増加の影響とのトレードオフがある。凹凸形状の凹部と凸部の間隔を160nm以下、光信号電界が感じる実効的な屈折率をneff、光信号波長をλとした時、凹部から凸部までの高さがλ/neff以下である場合には光変調の動作周波数帯域は広くなる。
図11に示す試験結果の一例からわかるように、キャリア密度を1018/cm3程度とすることにより、光変調の動作周波数帯域が10GHz以上となり、高速動作が可能である。
また、上記に加えて、周波数帯域を改善するためには、キャリアの移動度や寿命が非常に重要である。特に、多結晶シリコン層におけるキャリアの移動度は、高速動作する上で課題として挙げられる。したがって、アニール処理による再結晶化により粒子径を大きくし、キャリア移動度を改善するか、あるいは第2導電型の半導体9層に関して、エピタキシャル横方向成長(ELO)法などを用いて結晶品質を改善することが有効である。
さらに、本発明の光変調器を応用した例を説明する。
図12に本発明の光変調器を利用した、マッハ・ツェンダー干渉計型の光強度変調器の構造を示す。マッハ・ツェンダー干渉計を利用し、マッハ・ツェンダー干渉計の二本のアームにおける光位相差を干渉させることで、光強度変調信号を得ることが可能である。
光変調器が平行に配置された第1のアーム16および第2のアーム17を有し、各アーム16、17は、入力側では第1のアーム16と第2のアーム17とに分岐する光分岐構造19と接続され、出力側では第1のアーム16と第2のアーム17とが結合する光結合構造20とに接続されている。光分岐構造19で分岐した光が、第1のアーム16および第2のアーム17において位相変調が行われ、光結合構造20により位相干渉が行われることにより、光強度変調信号に変換される。
本実施例においては、入力側に配置された光分岐構造19により、入力光が第1のアーム16と第2のアーム17とに等しく分配される。また、電極パッド18で第1のアーム16にプラスの電圧を印加することにより、光変調器の薄い誘電体層の両側でキャリア蓄積が生じ、第2のアーム17にマイナスの電圧を印加することにより、光変調器の薄い誘電体層の両側のキャリアが除去されることになる。これにより、キャリア蓄積モードでは、光変調器における光信号電界が感じる屈折率が小さくなり、キャリア除去(空乏化)モードでは、光信号電界が感じる屈折率が大きくなり、両アームでの光信号位相差が最大となる。この両アームを伝送する光信号を出力側の光結合構造により合波することにより、光強度変調が生じる。本発明の光変調器を利用したマッハ・ツェンダー干渉計型の光強度変調器においては、20Gbps以上の光信号の送信が可能であることを確認した。
また、光変調器を利用した複数のマッハ・ツェンダー干渉計構造の光強度変調器を、並列あるいは直列に配置させることにより、より高い転送レートを有する光変調器やマトリックス光スイッチなどへ応用することも可能である。
この出願は、2008年11月13日に出願された日本出願特願2008-290903を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。