WO2010041337A1

WO2010041337A1 - 中空ポペットバルブおよびその製造方法

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Publication number: WO2010041337A1
Application number: PCT/JP2008/068498
Authority: WO
Inventors: 浩光遠藤
Original assignee: 日鍛バルブ株式会社
Priority date: 2008-10-10
Filing date: 2008-10-10
Publication date: 2010-04-15
Also published as: US8230834B2; US20110186000A1; JPWO2010041337A1; JP5148609B2; KR20100062970A; EP2357326B1; EP2357326A1; EP2357326A4; HK1159718A1; KR101123658B1

Abstract

【課題】フィレット領域とキャップ部分を薄肉に形成しても、シート当接部に溶接熱の影響が及ばず、低コストで高強度対重量特性に優れた中空ポペットバルブを提供。　【解決手段】　一端側にチップ部分14を形成したステム部分12と、キャップ部分16と、ステム部分12とキャップ部分16間のフレア形のフィレット部分18とを有し、フィレット部分18を含む少なくともステム部分12の一部を一体の薄肉円筒形部材11で構成し、フィレット部分18にキャップ部材17を溶接した中空ポペットバルブで、薄肉の縦断面円弧形のキャップ部材17を、フィレット部分18開口側のシート当接部19にレーザビーム溶接して、両部材17,19の接合界面Ｆ内周に溶接ビード部分20を形成した。レーザビーム径が小さく、瞬時に溶接が行われて、シート当接部19への溶接熱の影響が少ない。溶接ビード部分20は、溶接深さを拡大してキャップ部材17の取付け強度を高め、断面係数を増加させて、中空バルブ10全体の剛性強度を高める。

Description

中空ポペットバルブおよびその製造方法

　本発明は、一端側にチップ部分が形成されたステム部分と、燃焼圧力が作用するキャップ部分と、ステム部分とキャップ部分の間の遷移領域を形成するフレア形のフィレット部分とを有した軽量化を目的とする内燃機関用中空ポペットバルブおよびその製造方法に係り、特に、フィレット部分と、ステム部分の少なくともフィレット部分に臨む側とが一体の薄肉円筒形部材で構成されるとともに、フィレット部分にキャップ部分を構成するキャップ部材が溶接により取り付けられた中空ポペットバルブおよびその製造方法に関する。

　下記特許文献１，２には、一枚の金属板を絞り加工することで、下端のチップ部分が閉塞された円筒形状のステム部分の上端部に、フレア状に開口するフィレット領域が一体に形成された薄肉円筒形部材を成形し、該円筒形部材のフィレット領域の開口縁部に円盤状のキャップを溶接により取り付けた構造の中空ポペットバルブおよびその製造方法が記載されている。特許文献１，２のいずれのバルブにおいても、ステム部分，チップ部分，フィレット部分が一体に形成された薄肉円筒形部材で構成されているので、バルプを軽量化できる。
特開平６－２９９８１６号（図２，図７，図８，図１０～図１２）再公表特許ＷＯ００／４７８７６号（図２，図１３）

　しかし、特許文献1では、キャップ溶接部の近傍にシート当接部が形成されているため、シート当接部が溶接熱の影響を受けてその表面硬度が低下するという問題があった。また、特許文献1の図２，図７，図８，図１０に示す実施例では、キャップが厚肉で、重量軽減効果に劣るという問題もある。
　そこで、特許文献２では、キャップを薄肉に形成するとともに、外周にシート当接部が形成されているフィレット部分の開口縁部だけを厚肉に形成することで、高強度対重量特性に優れるとともに、シート当接部表面に溶接熱の影響が及ばない（溶接熱によりシート当接部の表面硬度が低下しない）構造となっている。

　ところが、前記した特許文献２（図２，図１３の構造）では、フィレット部分の開口縁部を厚肉に形成しているため、それだけ重量軽減効果が劣る。また、特許文献２の図２の構造では、フィレット部分の開口縁部にキャップ係合用の段差部を形成する工程が必要で、バルブの製造コストがかさむという問題もある。

　本発明は前記従来技術の問題点に鑑みなされたもので、その目的は、シート当接部が形成されているフィレット部分の開口縁部を含むフィレット部分全体と、シート当接部に溶接するキャップ部分とを薄肉に形成したとしても、シート当接部表層部に溶接熱の影響が及ばず、かつキャップ部分からフィレット部分にかけての剛性が高く、低コストで高強度対重量特性に優れた中空ポペットバルブおよびその製造方法を提供することにある。

　前記目的を達成するために、本発明（請求項１）に係る中空ポペットバルブにおいては、
　一端側に閉じたチップ部分が形成されたステム部分と、燃焼圧力が作用するキャップ部分と、前記ステム部分と前記キャップ部分の間の遷移領域を形成するフレア形のフィレット部分とを有し、
　前記フィレット部分と、前記ステム部分の少なくともフィレット部分に臨む側とが一体の薄肉円筒形部材で構成され、前記キャップ部分は、前記フィレット部分に溶接されたディスク形のキャップ部材で構成された内燃機関用中空ポペットバルブであって、
　前記薄肉円筒形部材を、前記ポペットバルブを絞り成形する最初の金属板の厚さ以下の厚さ（例えば、０．５～２mm）に形成し、前記キャップ部材を、前記フィレット部分の最大厚さにほぼ等しい厚さの縦断面円弧形に形成するとともに、前記キャップ部材のテーパ形状の外周端面を前記フィレット部分の開口端部に形成したシート当接部のテーパ形状の内周面にレーザビーム溶接または電子ビーム溶接して、前記両部材の接合界面の内周に沿って溶接ビード部分を形成するように構成した。

　また、本発明（請求項８）に係る中空ポペットバルブの製造方法においては、
　一端側にチップ部分が形成されたステム部分と、燃焼圧力が作用するキャップ部分と、前記ステム部分と前記キャップ部分の間の遷移領域を形成するフレア形のフィレット部分とを有し、
　前記フィレット部分と、前記ステム部分の少なくともフィレット部分に臨む側とが一体の薄肉円筒形部材で構成され、前記キャップ部分は、前記フィレット部分に溶接されたディスク形のキャップ部材で構成された内燃機関用中空ポペットバルブの製造方法であって、
　金属板を少なくとも絞り成形加工することで、前記フィレット部分の開口端部にシート当接部を形成した、前記金属板の厚さ以下の厚さ（例えば、０．５～２ｍｍ）の前記薄肉円筒形部材を形成する薄肉円筒形部材形成工程と、前記フィレット部分の最大肉厚にほぼ等しい薄肉の縦断面円弧形に形成した前記キャップ部材のテーパ形状の外周端面を、前記フィレット部分の開口端部に形成されたシート当按部のテーパ形状の内周面に係合し、該係合部の内側に沿って溶接ビード部分が形成されるように該係合部をレーザビーム溶接または電子ビーム溶接する溶接工程とを備えるように構成した。

　（作用）レーザビーム溶接または電子ビーム溶接では、ビーム径が小さい（例えば０．１～０．２ｍｍ）ため、溶接巾（溶着部の接合界面と直交する方向の巾）が狭く、しかも、高エネルギーで瞬時に溶接が行われるので、シート当接部表面への溶接熱の影響（溶接熱の影響でシート当接部の表面硬度が低下すること）がない。

　中空ポペットバルブの少なくともフィレット部分からステム部分にかけての領域が、例えば厚さ０．５～２ｍｍの薄肉に形成されるとともに、キャップ部分も薄肉（フィレット部分の最大厚さにほぼ等しい肉厚）に形成されているので、中空ポペットバルブの重さは軽量となる。また、キャップ部材（フィレット部分）には、従来技術（特許文献１や特許文献２に示す構造）に見られるような、フィレット部分（キャップ部材）係合用の段差部がなく、段差部を形成する工程が不要で、それだけ製造工程が簡潔となってバルブの製造コストがかからない。

　また、縦断面円弧状に形成されたキャップ部分は、燃焼圧力に対する剛性強度が高い。

　また、キャップ部材の外周縁部およびシート当接部の外周縁部には、両部材の接合界面（キャップ部材の外周端面とシート当接部の内周面間の係合部）を外側に拡径（拡大）する余肉部（図３の符号１７ａ，１９ａ参照）がそれぞれ形成されており、請求項３に示すように、両部材の接合界面に沿って外周側から内周側にレーザビームまたは電子ビームが照射されると、両部材の接合界面を含む領域が溶融して、両部材（キャップ部材とシート当接部）間の係合部が溶接（溶着）されるが、溶融領域全体がビーム照射方向（接合界面に沿った方向）に流動（移動）し、図３（ｂ）に示すように、両部材（キャップ部材とシート当接部）間の係合部の外周縁部（レーザビームＬが入射する余肉部１７a，１９ａ側）が凹むとともに、両部材間の係合部の内側が膨出（外周縁部が凹んだ量相当だけ内側に膨出）して、溶接ビード部分を構成する。

　そして、キャップ部材（キャップ部分）とフィレット部分（のシート当接部）の係合部（接合界面）の内側（内周）に沿って形成された溶接ビード部分は、溶接深さ（溶着部の深さ）を拡大してキャップ部材（キャップ部分）の取付け強度を高めるとともに、縦断面円弧状のキャップ部分と協働してバルブのキャップ部分からフィレット部分にかけての領域の断面係数を増加させて、中空バルブ全体の剛性強度を高めるべく作用する。

　なお、前記薄肉円筒形部材としては、請求項５に示すように、フィレット部分，ステム部分およびチップ部分が一体に形成された構成の場合、あるいは請求項６に示すように、フィレット部分およびステム部分が一体に形成されされた構成で、薄肉円筒形部材のステム部分の開口端部にチップ部分を構成する円盤状のチップ部材を溶接により取り付け一体化できる構成の場合、あるいは請求項７に示すように、フィレット部分およびステム部分の一部を構成する領域が一体に形成された構成で、薄肉円筒形部材のステム部分の一部を構成する領域の開口端部に、ステム部分の残りの領域およびチップ部分を構成する中実体部材を接合により取り付け一体化できる構成の場合がある。

　請求項２においては、請求項１に記載の中空ポペットバルブにおいて、前記キャップ部材の肉厚を、半径方向外側に行くほど徐々に大きくなるように構成した。
（作用）キャップ部材を半径方向外側に行くほど厚肉に形成することで、キャップ部分の燃焼圧力に対する剛性強度がいっそう高くなるとともに、キャップ部材とフィレット部分（のシート当接部）間の係合部（接合界面）の軸方向長さが拡大され、溶接深さ（溶着部の深さ）が拡大されてキャップ部材の取付け強度が高められる。また、バルブのキャップ部分からフィレット部分にかけての領域の断面係数がさらに増加して、中空バルブ全体の剛性強度がさらに高められる。

　請求項３においては、請求項１または２に記載の中空ポペットバルブにおいて、前記シート当接部と前記キャップ部材とを、両者の接合界面からキャップ部材側に僅かにオフセットした位置に電子ビームまたはレーザビームを該接合界面に沿った方向に照射することで溶接するように構成した。
（作用）レーザビームまたは電子ビームが照射されると、キャップ部材とシート当接部間の接合界面（キャップ部材の外周端面とシート当接部の内周面の係合する面）を含む所定領域が溶融して、キャップ部材とシート当接部が溶接（溶着）されるが、レーザビームまたは電子ビームが照射されて溶融する領域は、ビーム照射位置のオフセット量だけキャップ部材側（シート当接部表層部から離間する側）にずれ、シート当接部側の溶融領域がキャップ部材側の溶融領域よりも幅狭となって、それだけシート当接部表層部への溶接熱の影響が少ない。

　請求項４においては、請求項１～３のいずれかに記載の中空ポペットバルブにおいて、前記キャップ部材裏側の外周縁に、前記ステム部分の軸方向と直交するリング状の平面部分を形成するように構成した。
（作用）キャップ部材裏側の外周縁に平面部分を形成することで、キャップ部材のリング状の外周端面の巾（軸方向長さ）がシート当接部の内周面の巾（軸方向長さ）よりも短くなって、以下の作用が奏される。

　第１には、キャップ部材とシート当接部間の接合界面の巾（軸方向長さ）が狭められて、レーザビームまたは電子ビームが照射される領域の熱容量が低下し、接合界面を含む領域が溶融し易くなるため、レーザビームまたは電子ビームの照射時間が短縮される。

　第２には、キャップ部材裏側外周縁の平面部分とシート当接部の内周面間に縦断面鋭角三角形状スペースが形成され、レーザビームまたは電子ビームが照射された溶融領域の一部がこのスペースに押し出されて溶接ビード部分を構成するが、このスペースに充填された溶接ビード部分が溶接深さ（溶着部の深さ）を拡大するように機能し、キャップ部材裏側外周縁に平面部分を形成することでキャップ部材とシート当接部間の接合界面の巾が狭められることに伴う溶接深さ（溶着部の深さ）の減少を補う。

　第３には、キャップ部材をシート当接部の内側に係合させる際に、シート当接部付け根側（縦断面曲線状のフィレット部分）との干渉を回避できる。即ち、ステム部分の軸に対して９０度に近い角度で傾斜（ほぼ水平に延在）するフィレット部分の開口側に対し、シート当接部はステム部分の軸に対してほぼ４５度で傾斜するため、キャップ部材の外周端面の巾（軸方向長さ）がシート当接部の内周面の巾（軸方向長さ）と同じであると、これらの巾に製造上の寸法誤差がある場合には、キャップ部材（の外周端面）をシート当接部（の内周面）に係合させる際に、キャップ部材裏側の外周縁とシート当接部付け根側（縦断面曲線状のフィレット部分）とが干渉して、キャップ部材をシート当接部に対し適正な位置に係合させることができないおそれがあるが、キャップ部材の外周端面の巾（軸方向長さ）がシート当接部の内周面の巾（軸方向長さ）よりも短くなるため、両者が干渉することがない。

　本発明に係る中空ポペットバルブによれば、所望の表面硬度が確保されたシート当接部を有する、従来構造よりも低コストにして高強度対重量特性に優れた中空ポペットバルブが得られる。

　本発明に係る中空ポペットバルブの製造方法によれば、所望の表面硬度が確保されたシート当接部を有する、従来構造よりも低コストにして高強度対重量特性に優れた中空ポペットバルブを簡単に製造できる。

　請求項２によれば、キャップ部分からフィレット部分にかけての剛性強度がさらに高められているので、高強度対重量特性によりいっそう優れた中空ポペットバルブが得られる。

　請求項３によれば、シート当按部表層部への溶接熱の影響がよりいっそう少ないので、所望の表面硬度がいっそう確保された中空ポペットバルブが得られる。

　請求項４によれば、キャップ部材とシート当接部の接合界面を含む領域の熱容量が低下する分、電子ビームまたはレーザビームの照射時間が短縮されて、溶接工程に要す時間が短縮される。

　また、キャップ部材をシート当接部の内側所定位置にスムーズに係合させることができるので、キャップ部材をフィレット部分の所定位置に正確かつ迅速に溶接することができる。

　次に、本発明の実施の形態を実施例に基づいて説明する。
図１～図３は、本発明の第１の実施例である内燃機関用の中空ポペットバルブを示し、図1は本発明の第１の実施例である中空ポペットバルブの一部を断面で示す側面図、図２（ａ）～（ｄ）は同ポペットバルブを構成する薄肉円筒形部材を形成する工程説明図、図３は同薄肉円筒形部材のフィレット部分の開口端部（シート当接部）内側にキャップ部材を溶接する工程を説明する説明図で、（ａ）はフィレット部分の開口端部（シート当接部）とキャップ部材間係合部のレーザビーム照射位置および同係合部の溶融領域を示す断面図、（ｂ）はシート当接部とキャップ部材間係合部の溶接が終了した状態の断面図である。

　これらの図において、符号１０は、一端側（図１の下側）に閉じたチップ部分１４が形成されたステム部分１２と、燃焼圧力が作用するキャップ部分１６と、ステム部分１２とキャップ部分１６の間の遷移領域を形成するフレア形のフィレット部分１８とを有する中空のポペットバルブで、フィレット部分１８とステム部分１２とチップ部分１４は一体の薄肉円筒形部材１１で構成され、キャップ部分１６は、薄肉円筒形部材１１のフィレット部分１８の内側に溶接されたディスク形の薄肉のキャップ部材１７で構成されている。

　フィレット部分１８の開口端部側には、ステム部分１２の軸方向に対し４５度の傾斜をもつシート当接部１９が形成され、ステム部分１２の下端側には、コッタ溝１３が形成されている。

　薄肉円筒形部材１１は、後に詳しく説明するが、例えば、厚さ１．２ｍｍの一枚の金属板Ｗ１を、図２のＷ１→Ｗ２→Ｗ３→Ｗ４のように、順次絞り成形，プレス成形することで、一端側にチップ部分１４を形成したステム部分１２の他端側にフィレット部分１８を一体的に形成した厚さ０．６５～１．２ｍｍの成形体Ｗ４として構成されている。
具体的には、ステム部分１２の厚さｔｌは、軸方向に一定の０．６５ｍｍに形成され、チップ部分１４の厚さｔ２は、半径方向に一定の０．８ｍｍに形成され、フィレット部分１８の厚さは、ステム部分１２側から開口端側に行くほど厚肉で、最大厚さｔ３が１．２ｍｍに形成され、フィレット部分１８の開口側端部に形成されているシート当接部１９の厚さｔ４は、開口方向（軸方向）に一定の厚さ（１．０ｍｍ）に形成されている。

　一方、キャップ部分１６（キャップ部材１７）は、例えば、プレス成形によって、燃焼圧力に対する剛性強度が高い縦断面円弧状に形成されるとともに、キャップ部材１７の外周端面は、シート当接部１９のテーパ形状の内周面に整合するテーパ形状に形成され、シート当接部１９の内周面とキャップ部材１７の外周端面との係合部がレーザビーム溶接されることで、キャップ部材１７とシート当接部１９間の溶接部の内側に溶接ビード部分２０が形成されている。

　キャップ部分１６（キャップ部材１７）は、薄肉円筒形部材１１と同様に薄肉に形成されているが、中央部の厚さがフィレット部分１８の最大厚さに等しい１．２ｍｍに形成され、半径方向外側に行くほど徐々に肉厚（外周縁部では約３ｍｍ）に形成されて、燃焼圧力に対するキャップ部分１６の剛性強度がさらに高められている。

　また、キャップ部材１７が半径方向外側に行くほど徐々に肉厚に形成されることで、キャップ部材１７とフィレット部分１８（のシート当接部１９）間の係合部（接合界面Ｆ、図３（ａ）参照）の軸方向長さが拡大されて、溶接深さ（溶着部の深さ）が拡大されることとなって、キャップ部材１７の取付け強度が高められるとともに、バルブ１０のキャップ部分１６からフィレット部分１８にかけての領域の断面係数が増加することとなって、中空バルブ１０全体の剛性強度が高められている。

　また、キャップ部材１７が溶接されるシート当接部１９の厚さｔ４は、フィレット部分１８の最大肉厚ｔ３（１．２ｍｍ）より薄い１．０ｍｍであるが、レーザビーム溶接で使用されるビーム径は０．１～０．２ｍｍと非常に小さいため、図３（ｂ）に示すように、溶接巾（接合界面Ｆを含む溶着部の巾）ｄが約０．５ｍｍと狭く、しかも、高エネルギーで瞬時に溶接が行われるので、シート当接部１９表面への溶接熱の影響が少ない。

　さらに、レーザビーム溶接の際のビームは、図３（ａ）の符号Ｌで示すように、シート当接部１９とキャップ部材１７間の接合界面Ｆからキャップ部材１７側に僅かな量δ（例えば、０．０５～０．３ｍｍ）だけオフセットした位置であって接合界面Ｆに沿った方向に照射されるため、それだけシート当接部１９表面への溶接熱の影響が少ない。

　即ち、図３（ａ）に示すように、レーザビームＬが照射されると、レーザビームＬの照射された接合界面Ｆを含む巾ｄの所定領域が溶融して、キャップ部材１７とシート当接部１９が溶接（溶着）されるが、溶融領域Ａは、レーザビームＬの照射位置の接合界面Ｆからのオフセット量δだけ、キャップ部材１７側（シート当接部１９の外側表層部１９ｂから離間する側）にずれているため、シート当接部１９側の溶融領域の巾ｄ１がキャップ部材１７側の溶融領域の巾ｄ２がよりも幅狭（ｄ１＜ｄ２）となって、それだけシート当接部１９の外側表層部１９ｂへの溶接熱の影響が少ない。この結果、シート当接部１９の外側表層部１９ａには、所要の表面硬度が確保されている。

　また、図３（ａ）に示すように、キャップ部材１７表面側の外周縁部およびシート当接部１９の外周縁部には、両部材１７，１９の接合界面Ｆ（キャップ部材１７の外周端面とシート当接部１９の内周面間の係合部）を外側に拡径する余肉部１７ａ，１９ａがそれぞれ形成されており、両部材１７，１９の接合界面Ｆに沿った方向にレーザビームＬが照射されると、接合界面Ｆを含む領域Ａが溶融して、キャップ部材１７とシート当接部１９間の係合部が溶接（溶着）されるが、接合界面Ｆを含む溶融領域Ａ全体がビームＬ照射方向（接合界面Ｆに沿った内側）に流動（移動）し、図３（ｂ）符号１７ｃ，１９ｃに示すように、溶融領域Ａの外側（余肉部１７a，１９ａのレーザビーム入射側）が凹むとともに、溶融領域Ａの内側が外側の凹んだ量相当だけ膨出して、キャップ部材１７とシート当接部１９間の係合部の内側に溶接ビード部分２０を構成する。

　なお、溶接が終了した段階で、キャップ部材１７とシート当接部１９間の係合部の余肉部１７ａ，１９ａを含む外周縁領域は、符号Ｃで示すように切削除去されて、キャップ部材１７の表面が滑らかな所定の曲面形状に加工される。

　そして、キャップ部材１７とフィレット部分１８（のシート当接部１９）の係合部（接合界面Ｆ）の内側に沿って形成された溶接ビード部分２０は、溶接深さ（溶着部の深さ）を拡大してキャップ部材１７の取付け強度を高めるとともに、縦断面円弧状のキャップ部分１６（キャップ部材１７）と協働してキャップ部分１６からフィレット部分１８にかけての領域の断面係数を増加させて、中空バルブ１０全体の剛性強度を高めるべく作用する。

　また、キャップ部材１７裏側の外周縁には、図３（ａ）に示すように、平面部分１７ｂがリング状に形成されて、キャップ部材１７の外周端面の巾（軸方向長さ）がシート当接部１９の内周面の巾（軸方向長さ）よりも短くなることで、以下の効果が奏される。

　第１には、キャップ部材１７とシート当接部１９間の接合界面Ｆの巾が狭められて、レーザビームＬが照射される領域の熱容量が低下し、接合界面Ｆを含む領域が溶融し易くなるため、レーザビームＬの照射時間が短縮される。

　第２には、キャップ部材１７裏側外周縁の平面部分１７bとシート当接部１９の内周面間に縦断面鋭角三角形状スペースＳ（図３（ａ）参照）が形成され、レーザビームＬが照射された溶融領域Ａの一部がこのスペースＳに押し出されて溶接ビード部分２０を構成するが、このスペースＳに充填形成された溶接ビード部分２０が溶接深さ（溶着部の深さ）を拡大するように機能し、平面部分１７ｂを形成することでキャップ部材１７とシート当接部１９間の接合界面Ｓの巾（軸方向長さ）が狭められることに伴う溶接深さ（溶着部の深さ）の減少を補う。

　第３には、キャップ部材１７をシート当接部１９の内側に係合させる際に、シート当接部１９付け根側（縦断面が曲線状のフィレット部分１８）との干渉を回避できる。即ち、ステム部分１２の軸に対してほぼ直交するように開口するフィレット部分１８の開口側に対し、シート当接部１９はほぼ４５度で傾斜するため、キャップ部材１７の外周端面の巾（軸方向長さ）がシート当接部１９の内周面の巾（軸方向長さ）と同じ寸法に設計されていると、これらの巾に製造上の寸法誤差がある場合（例えば、キャップ部材１７の外径寸法がシート当接部１９の外径寸法より小さい場合）には、キャップ部材１７（の外周端面）をシート当接部１９（の内周面）に係合させる際に、キャップ部材１７裏側の外周縁とシート当接部１９付け根側（縦断面曲線状のフィレット部分１８）とが干渉して、キャップ部材１７をシート当接部１９に対し適正な位置に係合させることができないおそれがあるが、キャップ部材１７の外周端面の巾（軸方向長さ）がシート当接部１９の内周面の巾（軸方向長さ）よりも確実に短いため、両者１７，１８が干渉することがない。

　次に、この実施例に示す中空ポペットバルブ１０の製造工程を、図２に基づいて説明する。

　まず、図２（ａ），（ｂ）に示すように、素材である金属板Ｗｌを冷間プレスによりカップ型Ｗ２に成形し、必要に応じて焼鈍を行った後、図２（ｃ），（ｄ）に示すように、カップ型成形品Ｗ２をトランスファープレスを使った冷間絞り成形工程により、フィレット部分１８およびステム部分１２を絞り成形するとともに、フィレット部分１８の開口縁部側をプレス成形することで、フィレット部分１８の開口端にシート当接部１９が形成された所定の大きさの成形品Ｗ２→Ｗ３→Ｗ４を成形する。なお、図２（ｃ），（ｄ）に示す冷間絞り成形工程では、必要に応じてマンドレルを使用する場合がある。また、原則としては焼鈍をしないが、材料が硬い等、成形困難な場合には、中間焼鈍を行う場合もある。

　次に、成形品Ｗ４のステム部分１２の下端部外周にロール成形等によりコッタ溝１３を成形することで、薄肉円筒形部材１１が出来上がる。そして最後に、円筒形部材１１とは別に金属板をプレス成形することで予め製造しておいたキャップ部材１７を、円筒形部材１１のフィレット部分１８のシート当接部１９内周面にレーザビーム溶接によって取り付けた後、余肉部１７ａ，１９ａを切削して、キャップ部分１６の表面を所定の曲面に仕上げる。

　図４は、本発明の第２の実施例である中空ポペットバルブの縦断面図である。

　前記した第１の実施例の中空ポペットバルブ１０では、フィレット部分１８，ステム部分１２およびチップ部分１４が薄肉円筒形部材１１として一体的に形成されているが、この第２の実施例の中空ポペットバルブ１０Ａでは、チップ部分１４を除いたステム部分１２にフィレット部分１８が一体的に形成されて、薄肉円筒形部材１１Ａを構成している。
この薄肉円筒形部材１１Ａは、前記した第１の実施例における薄肉円筒形部材１１のステム部分１２をチップ部分１４近傍で切断することで、薄肉円筒形部材１１Ａの全長が所定の長さに形成されている。

　そして、円筒形部材１１Ａのステム部分１２の下端側に、チップ部分１４を構成するチップ部材１５を溶接により取付けるとともに、フィレット部分１８の開口側にキャップ部分１６を構成するキャップ部材１７がレーザビーム溶接により取り付けられて、中空ポペットバルブ１０Ａが構成されている。

　その他は、前記第１の実施例と同一であり、同一の符号を付すことで、重複した説明は省略する。

　この第２の実施例では、薄肉円筒形部材１１Ａの全長を高精度に管理できることから、製造される中空ポペットバルブ１０Ａの全長がばらつくことなく揃うので、製造上の歩留まりが高い。
図５は、本発明の第３の実施例である中空ポペットバルブの縦断面図である。

　この第３の実施例の中空ポペットバルブ１０Ｂでは、フィレット部分１８とステム部分１２の上半分１２ａによって薄肉円筒形部材１１Ｂが構成され、円筒形部材１１Ｂのステム部分１２ａに、ステム部分１２の下半分１２ｂとチップ部分１４を構成する中実丸棒１５Ａが接合（例えば、摩擦圧接）一体化されるとともに、フィレット部分１８の開口側にキャップ部分１６を構成するキャップ部材１７がレーザビーム溶接により取り付けられている。

　図６は、本発明の第４の実施例である中空ポペットバルブの縦断面図である。

　この第４の実施例の中空ポペットバルブ１０Ｃでは、フィレット部分１８だけによって薄肉円筒形部材１１Ｃが構成され、円筒形部材１１Ｂ（フィレット部分１８）の基端部側（図６下側）に、ステム部分１２とチップ部分１４を形成する中実丸棒１５Ｂが接合（例えば、摩擦圧接）一体化されるとともに、フィレット部分１８の開口側にキャップ部分１６を構成するキャップ部材１７がレーザビーム溶接により取り付けられている。

　また、図５，６に示す第３，第４の実施例の中空ポペットバルブ１０Ｂ，１０Ｃでは、第２の実施例の中空ポペットバルブ１０Ａよりも重くなるものの、第２の実施例の中空ポペットバルブ１０Ａと同様、製造される中空ポペットバルブ１０Ａの全長がばらつくことなく揃うので、製造上の歩留まりが高い。

　そして、図７に示す仕様の薄肉円筒形状部材１１およびキャップ部材１７を、ＳＵＳ３０５，ＳＵＳ４３６またはＳＵＳ４３０製の金属板からそれぞれ成形し、薄肉円筒形状部材１１とキャップ部材１７をレーザビーム溶接により一体化して、第１の実施例のポペットバルブ１０を試作した。そして、ＦＥＭ解析を行った結果を図８に示す。
図８は、ポペットバルブ１０のＦＥＭ解析結果を特許文献１，２のポペットバルブのＦＥＭ解析結果と比較して示す図で、（ａ）は第１の実施例のポペットバルブ１０，（ｂ）は特許文献１のポペットバルブ，（ｃ）は特許文献２のポペットバルブのＦＥＭ解析結果をそれぞれ示す。

　特許文献１のポペットバルブでは、図８（ｂ）に示すように、キャップ部分１６が平坦な形状ということもあって、燃焼圧作用時に、キャップ部分１６におけるフィレット部分１８との溶接部Ｂの近傍に５４５ＭＰａという大きな応力が作用し、溶接部Ｂで疲労破壊するおそれがある。また、キャップ部分１６の中央部に５６０ＭＰａという大きな応力が作用することから、キャップ部分１６自体の強度も不足する。

　特許文献２のポペットバルブでは、図８（ｃ）に示すように、燃焼圧作用時に、キャップ部分１６におけるフィレット部分１８との溶接部Ｂ近傍に１１７ＭＰａ、フィレット部分１８のシート当接部１９近傍に１００ＭＰａというそれぞれ比較的に大きな応力が作用する。フィレット部分１８については、加工硬化処理により対応できるが、キャップ部分１６とフィレット部分１８との溶接部Ｂは、近傍に作用する応力（１１７ＭＰａ）によって疲労破壊するおそれがある。

　一方、第１の実施例のポペットバルブ１０では、キャップ部分１６からフィレット部分１８にかけた領域全体の剛性強度が高いことから、燃焼圧作用時に、キャップ部分１６とフィレット部分１８との溶接部Ｂの近傍には、４ＭＰａという非常に小さい応力しか作用しない。また、シリンダ側のバルブ当接面（バルブシート）に当接するシート当接部１９近くには、１５７ＭＰａという比較的高い応力が作用するが、フィレット部分１８を加工硬化処理することで対応できる。
なお、前記した第１～第４の実施例では、フィレット部分１８の開口端部（シート当接部１９）に、キャップ部材１７がレーザビーム溶接によって取り付けられているが、電子ビーム溶接を採用してもよい。
溶接熱の影響（組織の軟化）が小さいという点では、レーザビーム溶接よりも電子ビーム溶接の方が優れている。しかし、電子ビーム溶接は、溶接環境を真空雰囲気とする必要があるため、生産性の点ではこのような制約のないレーザビーム溶接の方が優れている。従って、信頼性を重視する場合や大きな負荷が作用するバルブに対しては、電子ビーム溶接を採用し、生産性を重視する場合には、レーザビーム溶接を採用することが好ましい。

　また、前記した第１～第４の実施例の中空バルブ１０，１０Ａ，１０Ｂ，１０Ｃでは、シート当接部１９がステム部分１２の軸に対しほぼ４５度で傾斜する構造として説明したが、シート当接部１９の傾斜は、４５度に限るものではなく、エンジンのシリンダに形成されているバルブ当接面（バルブシート）の傾斜に対応する２５度～４５度の範囲であればよい。

　また、前記した第１～第４の実施例の中空バルブ１０，１０Ａ，１０Ｂ，１０Ｃ内には冷却材が充填されていないが、中空バルブ内にナトリウム・カリウムや水のような冷却材を所定量だけ充填して、中空バルブの冷却効果を高めることもできる。

本発明の第１の実施例である中空ポペットバルブの一部を断面で示す側面図である。（ａ）～（ｄ）は同ポペットバルブを構成する薄肉円筒形部材を形成する工程説明図である。同薄肉円筒形部材のフィレット部分の開口端部（シート当接部）内側にキャップ部材を溶接する工程を説明する説明図で、（ａ）はフィレット部分の開口端部（シート当接部）とキャップ部材間係合部のレーザビーム照射位置および同係合部の溶融領域を示す断面図、（ｂ）はシート当接部とキャップ部材間係合部の溶接が終了した状態の断面図である。本発明の第２の実施例である中空ポペットバルブの縦断面図である。本発明の第３の実施例である中空ポペットバルブの縦断面図である。本発明の第４の実施例である中空ポペットバルブの縦断面図である。第１の実施例のポペットバルブの仕様を示す図である。第１の実施例のポペットバルブのＦＥＭ解析結果を特許文献１，２のポペットバルブのＦＥＭ解析結果と比較して示す図である。

符号の説明

１０，１０Ａ，１０Ｂ，１０Ｃ　中空ポペットバルブ
１１，１１Ａ，１１Ｂ，１１Ｃ　薄肉円筒形部材
１２　ステム部分
１３　コッタ溝
１４　チップ部分
１５　チップ部分を構成する円盤状のチップ部材
１６　キャップ部分
１７　キャップ部材
１７ａ　キャップ部材の余肉部
１７ｂ　リング状の平面部分
１８　フィレット部分
１９　シート当接部
１９ａ　シート当接部の余肉部
１９ｂ　シート当接部の外側表層部
２０　溶接ビード部分
Ｗ１　金属板
Ｌ　　レーザビーム
Ｆ　シート当接部とキャップ部材間の接合界面
δ　レーザビーム照射位置のシート当接部とキャップ部材間の接合界面からのオフセット量
Ａ　シート当接部とキャップ部材間の溶融領域

Claims

　一端側に閉じたチップ部分が形成されたステム部分と、燃焼圧力が作用するキャップ部分と、前記ステム部分と前記キャップ部分の間の遷移領域を形成するフレア形のフィレット部分とを有し、
　前記フィレット部分と、前記ステム部分の少なくともフィレット部分に臨む側とが一体の薄肉円筒形部材で構成され、前記キャップ部分は、前記フィレット部分に溶接されたディスク形のキャップ部材で構成された内燃機関用中空ポペットバルブであって、
　前記薄肉円筒形部材は、前記ポペットバルブを絞り成形する最初の金属板の厚さ以下の厚さに形成され、前記キャップ部材は、前記フィレット部分の最大肉厚にほぼ等しい薄肉の縦断面円弧形に形成されるとともに、そのテーパ形状の外周端面が前記フィレット部分の開口端部に形成されたシート当接部のテーパ形状の内周面にレーザビーム溶接または電子ビーム溶接されて、前記両部材の接合界面の内周に沿って溶接ビード部分が形成されたことを特徴とする中空ポペットバルブ。
　前記キャップ部材の肉厚は、半径方向外側に行くほど徐々に大きくなるように構成されたことを特徴とする請求項１に記載の中空ポペットバルブ。
　前記シート当接部と前記キャップ部材とは、両者の接合界面からキャップ部材側に僅かにオフセットした位置にレーザビームまたは電子ビームが該接合界面に沿った方向に照射されることで溶接されたことを特徴とする請求項１または２に記載の中空ポペットバルブ。
　前記キャップ部材裏側の外周縁には、前記ステム部分の軸方向と直交するリング状の平面部分が形成されたことを特徴とする請求項１～３のいずれかに記載の中空ポペットバルブ。
　前記薄肉円筒形部材には、前記フィレット部分，前記ステム部分および前記チップ部分が一体的に形成されていることを特徴とする請求項１～４のいずれかに記載の中空ポペットバルブ。
　前記薄肉円筒形部材には、前記フィレット部分および前記ステム部分が一体的に形成されるとともに、前記ステム部分の開口端部にチップ部分を構成する円盤状のチップ部材が溶接により取り付けられたことを特徴とする請求項１～４のいずれかに記載の中空ポペットバルブ。
　前記薄肉円筒形部材には、前記フィレット部分および前記ステム部分の一部を構成する領域が一体的に形成されるとともに、前記ステム部分の一部を構成する領域の開口端部に、前記ステム部分の残りの領域および前記ステップ部分を構成する中実体部材が接合により取り付けられたことを特徴とする請求項１～４のいずれかに記載の中空ポペットバルブ。
　一端側にチップ部分が形成されたステム部分と、燃焼圧力が作用するキャップ部分と、前記ステム部分と前記キャップ部分の間の遷移領域を形成するフレア形のフィレット部分とを有し、
　前記フィレット部分と、前記ステム部分の少なくともフィレット部分に臨む側が一体の薄肉円筒形部材で構成され、前記キャップ部分は、前記フィレット部分に溶接されたディスク形のキャップ部材で構成された内燃機関用中空ポペットバルブの製造方法であって、
　金属板を少なくとも絞り成形加工することで、前記フィレット部分の開口端部にシート当接部を形成した、前記金属板の厚さ以下の厚さの前記薄肉円筒形部材を形成する薄肉円筒形部材形成工程と、
　前記フィレット部分の最大肉厚にほぼ等しい薄肉の縦断面円弧形に形成した前記キャップ部材のテーパ形状の外周端面を前記フィレット部分の開口端部に形成されたシート当接部のテーパ形状の内周面に係合し、該係合部の内側に沿って溶接ビード部分が形成されるように該係合部をレーザビーム溶接または電子ビーム溶接する溶接工程とを備えたことを特徴とする中空ポペットバルブの製造方法。