両親媒性分子、 それを含む分子集合体及びその用途 技術分野
本発明は、 P H変化に応答して分子集合体に保持される物質の放出挙動を制御 することが可能な分子集合体の構成成分として用いられる両親媒性分子、 それを 含む分子集合体及びその用途に関する。
明 背景技術 田
従来、 リボソームなどの分子集合体に保持させた目的物質の放出を制御する方 法として、 p H応答性が汎用されている。 ここ書で 「p H応答性」 とは、 分子集合 体が p H変化に応答して分子充填状態や保持物質の放出特性などを変化させる性 質をいう。 特にホスファチジルエタノールアミン型リン脂質を用いた p H応答性 のリ ボソームがよく 知られている (例えば、 D. Papahadjopoulos ら Biochemistry, 24 (1985) 3091-3098、 D. H. Thompsonら Langmuir, 19 (2003) 6408-6415 参照) 。 これは、 ホスファチジルエタノールアミン型リン脂質が p Hに応答して構造転移し、 リボソーム二分子膜の分子充填状態が変化する性質を 利用したものであるが、 血清存在下ではそのような構造転移が起きにくく、 in vivoでの実用性は低い。
さらに、 p H応答性リボソームとしては、 ァニオン性脂質とカチオン性脂質と を混合したリボソームが知られている ( G. Shi ら、 Journal of Controlled Release 80 (2002) 309-319参照) 。 しかし、 ァニオン性脂質とカチオン性脂質 とを組み合わせる必要があることから、 目的に応じた p H応答性の調整が困難で ある。 また、 カチオン性脂質自体は血中滞留性が低く、 細胞毒性も高い。 さらに、 低 p Hでァニオン性生体膜との融合が可能であるのはカチオン性脂質のみである ことから、 リボソームの融合度が低いという問題があった。 発明の開示
上記のような状況において、 薬剤または核酸などを保持することができ、 かつ、 簡便な方法でその放出挙動を制御することができる P H応答性分子集合体の開発 が望まれている。 特に、 血中投与可能な p H応答性分子集合体が求められている。 本発明者らは、 上記の課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、 親水部に 両イオン性官能基を複数有する両親媒性分子を構成成分として含む分子集合体が、 生理的な p H環境下で小胞体構造を形成して目的物質を保持し、 酸性 P H環境下 でゼ一タ電位がプラスとなりァニオン性膜 (ァニオン性生体膜) との相互作用に より小胞体構造が変化して目的物質を小胞体の外側に放出させることを見出し、 本発明を完成させるに至った。 この性質を利用することにより、 生体内において、 エンドサイトーシスによって細胞内に取り込まれた p H応答性分子集合体がェン ドソーム内の低 p H環境下でェンドソーム膜と相互作用し、 その保持する目的物 質を細胞質に放出させることも可能である。
すなわち、 本発明は、 下記の両親媒性分子、 分子集合体、 薬剤、 試薬及びキッ ト等を提供する。
[ 1 ] 式 ( I ) :
または、 式 (I I )
[式中、 X1、 X2、 X3及び X4は、 それぞれ独立して、 両イオン性官能基であ り、 A。、 A1, A2、 A3、 A4、 A11, A12、 A21及び A22は、 それぞれ独立 して、 一 COO—、 一 OC〇一、 一 CONH—または一 NHCO—であり、 Rc 及び Rdは、 それぞれ独立して、 炭素数 8〜22の鎖状炭化水素基であり、 m、 n、 p及び qは、 それぞれ独立して、 1〜4の整数である。 ]
で表される両親媒性分子。
[2] 式 ( I a) :
[式中、 R aは、 一つがカチオン性官能基であり、 R aが複数ある場合、 その他 の R aは水素原子であり、 R a' は、 一つがカチオン性官能基であり、 R a' 力
複数ある場合、 その他の Ra, は水素原子であり、 13及び1^13' は、 それぞれ 独立して、 ァニオン性官能基であり、 0;及び1^(1は、 それぞれ独立して、 炭素 数 8〜 22の鎖状炭化水素基であり、 AQ、 A1, A2、 A3及び A4は、 それぞ れ独立して、 一COO—、 —OCO—、 — CONH—または一 NHCO—であり、 k、 1、 m及び nは、 それぞれ独立して、 1〜4の整数である。 ]
で表される両親媒性分子。 AQ、 A1及び A2は、 それぞれ独立して、 一 CONH —または一 NHCO—であることが好ましく、 一CONH—がより好ましい。 ま た、 A3及び A4は、 それぞれ独立して、 一 COO—または一〇C〇—であるこ とが好ましく、 一 CO〇一がより好ましい。
[3] 水溶液中、 生理的な pH環境下でカチオン性官能基及びァニオン性官能基 がそれぞれイオン化してカチオンまたはァニオンになり、 酸性 pH環境下でァニ ォン性官能基のィォン化傾向が減少し、 塩基性 P H環境下で力チォン性官能基の イオン化傾向が減少する、 [2] 記載の両親媒性分子。
[4] カチオン性官能基は、 第 1級ァミノ基、 第 2級ァミノ基、 第 3級ァミノ基 及び第 4級アンモニゥム塩からなる群より選ばれるものである、 [2] または
[3] 記載の両親媒性分子。
[5] ァニオン性官能基は、 力ルポキシル基である、 [2] 〜 [4] のいずれか 1項に記載の両親媒性分子。
[6 ] kが 3であり、 1が 3であり、 mが 4であり、 nが 2である、 [2] 〜 [5] のいずれか 1項に記載の両親媒性分子。
[7] kが 2であり、 1が 2であり、 mが 4であり、 nが 2である、 [2] 〜 [5] のいずれか 1項に記載の両親媒性分子。
[8] kが 3であり、 1が 2であり、 mが 4であり、 nが 2である、 [2] 〜 [5] のいずれか 1項に記載の両親媒性分子。
[ 9 ] kが 2であり、 1が 3であり、 mが 4であり、 nが 2である、 [2] 〜 [5] のいずれか 1項に記載の両親媒性分子。
[10] kが 3であり、 1が 3であり、 mが 4であり、 nが 1である、 [2] 〜 [5] のいずれか 1項に記載の両親媒性分子。
[1 1] kが 2であり、 1が 2であり、 mが 4であり、 nが 1である、 [2] 〜
[5] のいずれか 1項に記載の両親媒性分子。
[12] kが 3であり、 1が 2であり、 mが 4であり、 nが 1である、 [2] 〜 [5] のいずれか 1項に記載の両親媒性分子。
[1 3] kが 2であり、 1が 3であり、 mが 4であり、 nが 1である、 [2] 〜 [5] のいずれか 1項に記載の両親媒性分子。
[14] 鎖状炭化水素基がミリスチル、 パルミチル、 ステアリル及びォレイル基 からなる群から選ばれるものである、 [1] 〜 [13] のいずれか 1項に記載の 両親媒性分子。
[1 5] 式 (I a— 1) 〜 ( I a— 8) :
[式中、 0及び1 01は、 それぞれ独立して、 炭素数 8〜 22の鎖状炭化水素基 である。 ]
のいずれかで表される両親媒性分子。
[16] 水溶液中、 生理的な pH環境下で— NH2がー NH3 +になり、 かつ、 一
C O O Hが— C O〇—になつて両ィオン性を示すが、 酸性 P H環境下で— C O O Hのイオン化傾向が減少し、 塩基性 pH環境下で一 NH2のイオン化傾向が減少 する、 [1 5] 記載の両親媒性分子。
[17] 生理的な pH環境下でゼ一タ電位が中性あるいはマイナスの小胞体構造 を形成して目的物質を保持し、 酸性 pH環境下でゼ一夕電位がプラスとなり、 ァ 二オン性生体膜との相互作用により小胞体構造が変化して目的物質を小胞体の外 側に放出させる分子集合体を構成する、 両親媒性分子。
[1 8] [1] 〜 [1 6] のいずれか 1項に記載の両親媒性分子である、 [1 7] 記載の両親媒性分子。
[19] [1] 〜 [18] のいずれか 1項に記載の両親媒性分子を含む分子集合 体。 前記分子集合体は、 薬物、 プローブ、 核酸、 タンパク質、 ペプチド、 金属ィ オン及び金属錯体からなる群から選択される少なくとも 1種を保持するものであ ることが好ましい。
[20] 生理的 pH環境下でゼ一夕電位が中性あるいはマイナスの小胞体構造を 形成して目的物質を保持し、 酸性 pH環境下でゼ一タ電位がプラスとなりァニォ ン性生体膜との相互作用により小胞体構造が変化して目的物質を小胞体の外側に 放出させるものである、 [1 9] 記載の分子集合体。
[21] 分子集合体が細胞内にエンドサイトーシスによって取り込まれたときに 目的物質をエンドゾームの外側に放出させるものである、 [1 9] または [2 0] に記載の分子集合体。
[22] 目的物質が、 薬物、 プローブ、 核酸、 タンパク質、 ペプチド、 金属ィォ ン及び金属錯体からなる群から選択される少なくとも 1種である、 [20] また は [21] 記載の分子集合体。
[23] [22] 記載の分子集合体を含む薬剤。
[24] 静脈内投与用薬剤である [23]'記載の薬剤。
[25] 局所投与用薬剤である [23] 記載の薬剤。
[26] プローブまたは核酸を保持する [1 9] 〜 [2 1] のいずれか 1項に記 載の分子集合体を含む試薬。
[27] 細胞内の遣伝子発現を制御するものである、 [26] 記載の試薬。
[ 2 8 ] [ 2 6 ] または [ 2 7 ] 記載の試薬を含むキット。
[ 2 9 ] タンパク質を保持する [ 1 9 ] 〜 [ 2 1 ] のいずれか 1項に記載の分子 集合体を含む酵素補充治療用タンパク質製剤。
本発明によれば、 p H応答性を有する分子集合体及び両親媒性分子を提供する ことができる。
本発明の好ましい態様によれば、 本発明の分子集合体は、 p Hが生理的な値よ りも低くなると分子集合体に保持させた目的物質を放出する放出制御機能を有す る。 これにより、 血中あるいは培地中に滞留していた分子集合体が、 細胞内にェ ンドサイト一シスによって取り込まれたときにのみ、 効率良く、 薬物、 蛋白質ま たは核酸などをェンドソームから細胞質に放出させることが可能となる。
本発明の好ましい態様によれば、 本発明の分子集合体は、 血中滞留時に血管壁 などに吸着されやすレ N-[l-(2,3-Dioleoyloxy)propyl]-N, N, N-trimethylammonium methyl- sulfate( D O T A P )、 l,2-Dimyristyloxypropyl-3-dimethyl-hydroxyethyl ammonium bromide(D M R I E )などのカチオン性脂質を用いることなく、 目的物 質を小胞体及びエンドゾームの外側に送達することができる。 このため、 本発明 の好ましい態様によれば、 本発明の分子集合体は、 ァニオン性の生体膜との融合 度が高く、 生体適合性に優れており、 血中滞留性も示すことから、 in vivo 製剤 としての実用性に優れている。
本発明の好ましい態様によれば、 本発明の両親媒性分子は、 アミノ酸と長鎖ァ ルコールとから合成することができるので、 血液適合性が高く、 細胞毒性も低い と考えられる。 また、 p H応答性分子集合体の調製を低コストかつ簡便な方法で 行うことができるといつた利点もある。
本発明を利用することにより、 高機能の薬物運搬体あるいは核酸運搬体の創製 に道筋を付けることができる。 図面の簡単な説明
図 1は、 本発明の分子集合体が、 生体内に投与された後に、 血中を滞留して目 的の細胞内に取り込まれ、 その保持していた目的物質を放出する挙動を示した概 念図である。
図 2は、 化合物 3を膜成分とするリボソームのゼ一夕電位測定結果を示したグ ラフである。
図 3は、 pH応答性リボソームとァニオン性リボソームの凝集虔の pHによる変 化を示したグラフである。
図 4は、 pH応答性リボソームとァニオン性リボソームの各 pH における相対 的な膜融合度を示したグラフである。
図 5は、 (化合物 3 )/cholesterol/PEG-Glu2Ci8を膜成分とするローダミン標識 アルブミン内包リボソームの COS-7 及び CCD-32SK における細胞内動態を観 察した共焦点顕微鏡写真である。
図 6は、 siRNAを内包した (化合物 3 )/cholesterol/PEG-Glu2Ci8を膜成分とす るリボソームによる、 ルシフェラ一ゼ夕ンパク発現 CHO細胞の遺伝子発現抑制 評価の結果を示したグラフである。
図 7は、 (化合物 3 )/cholesterol/PEG-Glu2Ci8を膜成分とするリポソ一ムの細 胞毒性評価の結果を示したグラフである。
図 8は、 (化合物 3 )/cholesterol/PEG-Glu2Ci8を膜成分とするリポソ一ム投与 後の化合物 3の LC/MS/MS 測定による血漿中濃度の時間変化の測定結果を示し たグラフである。
図 9は、 (化合物 3 )/cholesterol/PEG-Glu2C18を膜成分とするリポソ一ム投与 後の化合物 3の LC/MS/MS 測定による臓器分布の測定結果を示したグラフであ る。
図 1 0は、 ( )化合物 7/cholesterol/PEG_Glu2C18(5/5/0.03 (モル比))また は (〇) 化合物 8/cholesterol/PEG- Glu2C18(5/5/0.03 (モル比))を膜成分とする リボソームのゼ一夕電位測定結果を示したグラフである。
図 1 1は、 (像)化合物 3/cliolesterol/PEG-Glu2C18(5/5/0.03(モル比))または (〇) 化合物 12/cholesterol/PEG- Glu2C18(5/5/0.03(モル比))を膜成分とする リボソームのゼ一夕電位測定結果を示したグラフである。
図 1 2は、 化合物 3または 12を膜成分とするリボソームと、 ァニオン性リポ ゾームの各 pHにおける相対的な膜融合度を示したグラフである。
図 1 3は、 siRNA内包リボソーム 1 (DPPC/diolesterol/DHSG/PEG-Glu2C18)、 si
RNA内包リボソーム 2 (otGluGIu2C16/cholesterol/PEG- Glu2C18)及び si A内包 リボソーム 3 (化合物 3/cholesterol/PEG-Glu2C18)による、 ルシフェラ一ゼ夕 ンパク発現 C H O細胞の遺伝子発現抑制評価の結果を示したグラフである。 発明を実施するための最良の形態
以下、 本発明を詳細に説明する。
本発明は、 両親媒性分子、 分子集合体、 薬剤、 試薬及びそのキット等を含むも のである。 以下、 それぞれについて詳しく説明する。
[1] 両親媒性分子
まず、 本発明の両親媒性分子について述べる。
本発明の両親媒性分子は、 式 ( I) :
[式中、 X1、 X2、 X3及び X4は、 それぞれ独立して、 両イオン性官能基であ り、 AQ、 A A2、 A3、 A4、 A11, A12、 A21及び A22は、 それぞれ独立 して、 一 COO—、 一〇CO—、 一 CONH—または一 NHCO—であり、 Rc 及び Rdは、 それぞれ独立して、 炭素数 8〜22の鎖状炭化水素基であり、 m、 n、 p及び qは、 それぞれ独立して、 1〜4の整数である。 ] で表される構造を 有している。
本発明の両親媒性分子は、 式 ( I) または (I I) で示されるように、 親水部 に両イオン性官能基を複数有している。 ここで 「両イオン性官能基」 とは、 生理 的な ρΗ環境下及び酸性 ρΗ環境下でカチオン性を示す 「カチオン性官能基」 と、 生理的な ρΗ環境下でァニオン性を示す 「ァニオン性官能基」 とを併有する官能 基をいう。
本発明の両親媒性分子は、 このように両イオン性官能基を複数有し、 ΡΗ変化 によるカチオン性またはァニオン性の電荷密度が大きいために、 両イオン性置換 基を一つしか持たない場合に比べて、 ρΗ応答性がより鋭敏になる。
なお、 本発明の技術思想に基づいて、 両イオン性置換基の数をさらに増加させ ることもできる。 例えば、 式 (I ) における結合基 Α
11に、 さらに下式:
[式中、 X5及び X6は、 それぞれ独立して、 両イオン性官能基であり、 A11 A112及び A112は、 それぞれ独立して、 — COO—、 — OCO—、 -CONH —または—NHCO—であり、 rは、 1〜4の整数である。 ]
で示されるような両イオン性置換基 X5及び X6を持つ置換基を導入することに よって、 両イオン性官能基を親水部に樹岐状に形成していくことも可能である。 本発明の好ましい態様によれば、 本発明の両親媒性分子は、 このように親水部 に両イオン性官能基を有するものであるので、 生理的な pH環境下で中性を示し、 酸性 pH環境下でカチオン性を示し、 さらには塩基性 pH環境下でァニオン性を 示すことができる。
本発明において、 「生理的な pH環境下」 とは、 水溶液の pHが中性域である こと、 好ましくは pH 6. 0以上 8. 0未満、 より好ましくは 7. 0以上 7. 6 以下、 さらに好ましくは 7. 2以上 7. 5以下であることをいう。
また、 「酸性 pH環境下」 とは、 水溶液の pHが中性域より低いこと、 好まし くは pH7. 2未満、 より好ましくは pHマ. 0未満、 さらに好ましくは pH6. 5未満、 特に好ましくは pH 6. 0未満、 とりわけ好ましくは pH 5. 5以下で あることをいう。
さらに、 「塩基性 pH環境下」 とは、 水溶液の pHが中性域より高いこと、 好 ましくは pH8. 0超 1 2以下であることをいう。
本発明において、 「カチオン性官能基」 は、 水溶液中、 生理的な pH環境下及 び酸性 pH環境下でカチオン性を示すものであれば特に制限されない。 このよう なカチオン性官能基としては、 アミノ基、 アンモニゥム塩、 グァニジノ基、 イミ ダゾール基及びこれらの誘導体などが挙げられる。 ここで 「誘導体」 とは、 アミ ノ基、 アンモニゥム塩、 グァニジノ基、 イミダゾール基のもつ水素原子が、 低級
アルキル基 (メチル、 ェチル、 プロピル、 イソプロピル、 n—プチル、 i s o— プチル、 t e r t—プチル、 ペンチル、 へキシルなど) 、 アミノアルキル基 (ァ ミノメチル、 アミノエチル、 ァミノプロピル、 アミノブチルなど) 、 これに対応 するオリゴ糖のアルキル基、 水酸基、 ヒドロキシルアルキル基 (ヒドロキシメチ ル、 ヒドロキシェチル、 ヒドロキシプロピルなど) 、 オリゴォキシアルキル基 (オリゴォキシメチル、 オリゴォキシェチル、 オリゴォキシプロピルなど) など の置換基で置換された化合物をいう。 これらの中でも、 好ましいカチオン性官能 基としては、 1級ァミノ基 (— N H 2 ) 、 2級ァミノ基 (一 N H R ) 、 3級アミ ノ基 (— N R 2 ) または 4級アンモニゥム塩 (― N R 3 + X _) などが挙げられる。 ここで、 Rは、 それぞれ独立して、 低級アルキル基 (メチル、 エヂル、 プロピル、 イソプロピル、 n—ブチル、 i s o—ブチル、 t e r tーブチル、 ペンチル、 へ キシルなど) を示し、 Xはハロゲン原子又は炭素数 1〜2のアルキル硫酸あるい はパラトルエンスルホン酸を示す。 中でも、 1級ァミノ基が特に好ましい。
本発明において、 「ァニオン性官能基」 は、 水溶液中、 生理的 p H環境下及び 塩基性 p H環境下でァニオン性を示すものであれば特に制限されない。 例えば、 このようなァニオン性官能基としては、 力ルポキシル基が好ましい。
本発明において、 両イオン性官能基の構造は特に制限されないが、 分子集合体 を形成したときにより表面側にァニォン性官能基が位置する構造であることが好 ましい。 より具体的には、 カチオン性官能基とァニオン性官能基とがメチレンス ぺーサ一を介して結合していることが好ましく、 特にメチレン基が 1または 2の メチレンスべ一サーを介して結合していることがより好ましく、 とりわけカチォ ン性官能基側は疎水部を構成する側に結合している構造であることが好ましい。 本発明の一実施形態において、 本発明の両親媒性分子は、 式 (I a ) で表され るものであることが好ましい。
[式中、 R aは、 一つがカチオン性官能基であり、 R aが複数ある場合、 その他 の R aは水素原子であり、 R a' は、 一つがカチオン性官能基であり、 R a' が 複数ある場合、 その他の R a ' は水素原子であり、 尺13及び1 13' は、 それぞれ 独立して、 ァニオン性官能基であり、 じ及び!^ は、 それぞれ独立して、 炭素 数 8〜22の鎖状炭化水素基であり、 AQ、 A1, A2、 A3及び A4は、 それぞ れ独立して、 一 COO—、 —OCO—、 —CONH—または一 NHCO—であり、 k、 し m及び nは、 それぞれ独立して、 1〜4の整数である。 ]
本発明の好ましい態様によれば、 本発明の両親媒性分子は、 水溶液中、 生理的 な pH環境下でカチオン性官能基及びァニオン性官能基がそれぞれイオン化して カチオン性官能基はカチオンになり、 ァニオン性官能基はァニオンになるが、 酸 性 pH環境下ではァニオン性官能基のイオン化傾向が減少し、 塩基性 pH環境下 ではカチオン性官能基のイオン化傾向が減少する。 ここで、 「イオン化傾向が減 少する」 とは、 生理的な pH環境下において示したイオン化比率よりもイオン化 比率が減少することをいう。
本発明において、 A。、 A1, A2、 A3、 A4、 A1 A12、 A21及び A22は、 それぞれ独立して、 —COO—、 —OCO—、 —CONH—または— NHCO— である。 A0、 A1, A2、 A11, A12、 A21及び A22は、 それぞれ独立して、 —CONH—または一NHCO—が好ましく、 特に一 C ONH—が好ましい。 A 。、 A1, A2、 A11, A12、 A21または A22がー CONH—であると、 天然の アミノ酸またはその誘導体を原料に用いることができるため、 低毒性かつ低価格
であるという利点がある。 なお、 本明細書において 「一結合基一」 のように表記 した場合、 結合位置は、 紙面左側が親水部、 右側が疎水部である。 A 3及び A 4 は、 それぞれ独立して、 一 C O〇一または—O C O—が好ましく、 特に一 C O O 一が好ましい。 A 3または A 4がー C O O—であると、 天然のアミノ酸またはそ の誘導体を原料に用いることができるため、 低毒性かつ低価格であるという利点 がある。
本発明において、 (:及び1^ (1は、 それぞれ独立して、 炭素数 8〜2 2の鎖状 炭化水素基である。 鎖状炭化水素基は、 共有結合にて導入できる疎水性の基であ れば特に限定されない。 鎖状炭化水素基は、 直鎖または分岐鎖のいずれであって もよく、 直鎖であることが好ましい。 また、 鎖状炭化水素基は、 アルキル鎖、 ァ ルケニル鎖、 アルキニル鎖、 イソプレノイド鎖、 ビニル基、 カルボキシル基、 水 酸基、 アミノ基、 およびメルカプト基からなる群から選択される置換基を有して いてもよい。 鎖状炭化水素基の炭素数は、 1 2〜2 0が好ましく、 1 4〜1 8が より好ましい。 また、 鎖状炭化水素基は二重結合や三重結合などの不飽和結合を 有していてもよく、 その場合にその数は 1〜4が好ましい。 炭化水素鎖は分岐鎖 であってもよく、 分岐鎖としては、 例えば、 長鎖にイソプレノイド構造を持つも のが挙げられる。 本発明において、 鎖状炭化水素基は、 ミリスチル、 パルミチル、 ステアリル、 及びォレイル基からなる群から選ばれる基であることが好ましく、 特にパルミチル基であることが好ましい。 鎖状炭化水素基で構成される疎水部と 親水部との組み合わせによって分子集合体を形成した際のゼ一夕電位挙動ゃァニ オン性生体膜に対する融合度を調整することが可能である。 鎖状炭化水素基は、 親一疎水バランスを考慮しながら、 両親媒性分子の親水部との組み合わせ、 分子 集合体の組成、 目的及び用途等に応じて適宜選択すればよい。
本発明において、 k、 し m、 η、 ρ及び qは、 それぞれ独立して、 1〜4の 整数である。 kは 3であることが好ましく、 1は 3であることが好ましい。 k及 び 1が 3であると、 グルタミン酸やその誘導体を原料に用いることができるため、 低毒性かつ低価格であるという利点がある。 また、 kまたは 1が 2であると、 ァ スパラギン酸やその誘導体を原料に用いることができるため、 低毒性かつ低価格 である。 伹し、 k及び 1の両方が 2であると分子集合体を形成するときに小胞体
構造を形成しにくい場合があるため、 kまたは 1のいずれか一方は 3であること が好ましい。 尚、 カチオン性官能基とァニオン性官能基とはメチレンスべ一サー を介して結合していてもよく、 カチオン性官能基とァニオン性官能基とが同一の 炭素原子に結合していてもよいが、 既に述べたとおり、 カチオン性官能基とァニ オン性官能基とはメチレンスべ一サ一を介して結合していることが好ましく、 特 にメチレン基が 1または 2のメチレンスぺ一サーを介して結合していることがよ り好ましい。
また、 m、 p及び qは、 それぞれ独立して、 1〜4の整数であるが、 4である ことが好ましい。 m、 p及び qが 4であるとリジンを原料に用いることができる ため、 低毒性かつ低価格である。
nは 1〜4の整数であるが、 2〜4であることが好ましい。 nが 2〜 4である と、 二分子膜中で本発明の両親媒性分子の鎖状炭化水素基を膜平面に対して略垂 直に配向させることが期待できる。 また、 nが 2〜4であると、 水溶液中で両親 媒性分子が集合して形成する二分子膜の親一疎水界面が安定であり小胞体構造を 形成しやすい。 さらに、 nが 2であると、 グルタミン酸及びその誘導体を原料に 用いることができるため、 低毒性かつ低価格であるという利点もある。 nが 1で あると、 ァスパラギン酸またはその誘導体を原料に用いることができるため、 低 毒性かつ低価格であるが、 nが 2の場合に比べて分子集合体の小胞体構造を形成 しにくい場合がある。
式 ( l a) における好ましい k、 1、 m及び nの組み合わせ (k, 1 , m, n) は、 (3, 3, 4, 2) 、 (2, 2, 4, 2) 、 (3, 2, 4, 2) 、 (2, 3, 4, 2 ) 、 (3, 3, 4, 1) 、 (2 , 2, 4, 1) 、 (3, 2, 4, 1) 、 (2, 3, 4, 1) などである。
本発明の両親媒性分子の好ましい実施態様を以下に示す。
[式中、 1¾ (及び (1は、 前記で定義したとおりである。 ] これらの中でも、 本発明においては、 上記式 ( I a— 1) 、 (I a— 2) 及び (I a-4) で示される化合物が好ましく、 特に上記式 (I a— 1) で示される
化合物が好ましい。 式中の R c及ぴ R dの好適例は、 前記したとおりである。 本発明の好ましい態様によれば、 式 (l a— l) 〜 (I a— 8) で表される本 発明の両親媒性分子は、 水溶液中では、 生理的な pH環境下で一 NH2が—NH
3 +になり、 かつ、 — COOHが—COO—になって両イオン性を示すが、 酸性 p
H環境下で一 CO OHのイオン化傾向が減少し、 塩基性 pH環境下で— NH2の イオン化傾向が減少する。
本発明の両親媒性分子は、 公知の反応を組み合わせることによって極めて簡便 な方法で製造することができる。 例えば、 本発明の両親媒性分子は三官能性化合 物を順次反応させ、 例えば、 下記式 (I) :
[式中、 X
1、 X
2、 X
3及び X
4は、 それぞれ独立して、 両イオン性官能基であ り、 A。、 A
1, A
2、 A
3、 A
4、 A
11, A
12、 A
21及び A
22は、 それぞれ独立 して、 一COO—、 一〇CO—、 一CONH—または一 NHCO—であり、 m、 n、 p及び Qは、 それぞれ独立して、 1〜4の整数である。 ]
で表されるようなコア構造を作製する。 鎖状炭化水素基は、 予め鎖状炭化水素基 の供給源を三官能性化合物の一つと反応させて導入し、 それを他の三官能性化合 物と順次反応させてもよいし、 2つ以上の三官能性化合物からなる複合体に導入 してもよい。
本発明に用いられる三官能性化合物は、 アミノ基、 力ルポキシル基、 水酸基等 の反応性官能基を少なくとも 3つ有するものであれば特に制限されない。 例えば、 ァスパラギン酸、 グルタミン酸、 リジン、 アルギニン、 ヒスチジンなどの各種ァ ミノ酸またはその誘導体、 グリセロール、 オリゴ糖類、 オリゴペプチド類、 ポリ エステル類、 ビニル系オリゴマーまたはこれらから構成される多分岐構造、 例え ばデンドロン構造などが挙げられる。
ここで、 「アミノ酸の誘導体」 とは、 アミノ酸に含まれる水素原子が、 低級ァ ルキル基 (メチル、 ェチル、 プロピル、 イソプロピル、 n—ブチル、 i s o—ブ チル等) 、 アミノアルキル基 (ァミノメチル、 アミノエチル、 ァミノプロピル、 アミノブチルなど) や対応するオリゴァミノアルキル基、 水酸基、 ヒドロキシァ ルキル基 (ヒドロキシメチル、 ヒドロキシェチル、 ヒドロキシプロピルなど) 、 オリゴォキシアルキル基 (オリゴォキシメチル基、 オリゴォキシェチル基、 オリ ゴォキシプロピルなど) などの置換基で置換された化合物が含まれる。
例えば、 リジンの繰り返しからなるオリゴペプチド鎖は、 側鎖にアミノ基を任 意の数だけ有しており、 そこに両イオン性官能基をアミド結合にて任意の数だけ 導入することができる。 疎水部はオリゴペプチド鎖の N末端の力ルポキシル基に 結合することができる。 リジンからなるモノデンドロンでは、 末端の官能基の数 を世代数にて制御することができる。 すなわち、 第一世代では 2個、 第二世代で は 4個、 第三世代では 8個となる。
本発明に用いられる鎖状炭化水素基の供給源は、 三官能性化合物あるいはそれ らからなるコア構造と共有結合しうる反応性官能基、 例えばアミノ基、 水酸基ま
たは力ルポキシル基などを有する鎖状炭化水素基であれば特に制限されない。 本発明に用いられる力ルポキシル基を有する鎖状炭化水素基の供給源としては、 脂肪酸が挙げられる。 例えば、 酢酸、 プロピオン酸、 酪酸、 吉草酸、 イソ吉草酸、 カブロン酸、 ェナント酸、 力プリル酸、 ゥンデカン酸、 ラウリル酸、 トリデカン 酸、 ミリスチン酸、 ペン夕デカン酸、 パルミチン酸、 マーガリン酸、 ステアリン 酸、 ノナデカン酸、 ァラキン酸、 ベヘン酸、 パルミトレイン酸、 ォレイン酸、 リ ノール酸、 リノレン酸、 ァラキドン酸等であり、 それぞれ分岐鎖体も含まれる。 また、 それらの酸無水物、 または酸クロライドも含まれる。
また、 アミノ基を有する鎖状炭化水素基の供給源としては、 直鎖第一ァミンと して、 ドデシルァミン、 トリデシルァミン、 テトラデシルァミン、 ペン夕デシル ァミン、 へキサデシルァミン、 ヘプ夕デシルァミン、 ォクタデシルァミン、 ドコ シルァミン、 ォレイルァミン等が挙げられ、 それらの分岐鎖体も含まれる。 さら に分岐状のイソプレノイド等のアミンも使用できる。 また、 アミノ基を有する脂 肪族炭化水素基の供給源には、 N—メチルードデシルァミン、 N—メチルーテト ラデシルァミン、 N—メチルーへキサデシルァミン、 N—ェチルードデシルアミ ン、 N—ェチルーテトラデシルァミン、 N—ェチルーへキサデシルァミン、 N— プロピル—ドデシルァミン、 N—プロピルーテトラデシルァミン、 N—プロピル 一へキサデシルァミン、 ジォレイルァミン等の第二アミンも含まれ、 それらの分 岐鎖体も用いられる。
水酸基を有する鎖状炭化水素基の供給源としては、 直鎖第一飽和アルコールと してラウリルアルコール、 セチルアルコール、 ステアリルアルコール、 ベへニル アルコール等が挙げられる。 その他、 1, 1 一ドデセノール、 1一才レイルアル コール、 リノレニルアルコール等の直鎖第一飽和アルコール、 分岐第一飽和アル コール、 分岐第一不飽和アルコール、 第二飽和アルコールあるいは第二不飽和ァ ルコールが挙げられる。 また、 これらアルコール類をグリセリンの 1, 3—位あ るいは 1 , 2—位に結合したジアルキルグリセ口一ル、 第一飽和アルコール及び 第一不飽和アルコールで構成されたジアルキルグリセロールが挙げられる。
その他、 本発明に用いられる鎖状炭化水素基の供給源としては、 ステロール類 が挙げられる。 例えば、 コレステロール、 コレス夕ノール、 シトステロール及び
エルゴステロール等である。
おりである,
O
まず、 化合物 (a) に、 鎖状炭化水素基の供給源 (例えば、 Rc— OHまたは Rd-OH) を反応させ、 化合物 (b) を得る。 反応は、 酸触媒による脱水縮合 反応、 活性エステル化法、 酸無水物法、 混合酸無水物法、 カルボン酸ハロゲン化 法、 カルボン酸アジド法等を用いて行うことができる。 中でも、 酸触媒による脱 水縮合が最も簡便であり、 精製も容易であるので好ましい。 脱水縮合反応は常法
に従い行うことができる。 但し、 酸触媒による脱水縮合の場合、 加熱を必要とす るため、 原料が熱に対して不安定な場合は他の方法を選択するのが好ましい。 な お、 目的の部位で目的の反応を生じさせるために、 必要に応じて、 化合物 (a ) の反応性官能基を t e r t 一ブトキシ基、 t e r t —ブトキシカルポニル基、 ベ ンジルォキシカルボニル基等の保護基で保護しておくことが好ましい。
次に、 上記で得られた化合物 (b ) に、 化合物 (c ) を反応させ、 化合物 ( d ) を得る。 化合物 (c ) は、 予めアミノ基を t e r t—ブトキシ基、 t e r t—ブトキシカルボ二ル基、 ベンジルォキシカルポニル基などにより保護し、 力 ルポキシル基は V-ヒドロキシスクシンイミドなどにより活性化しておくことが 望ましい。 次の工程で、 化合物 (e ) 及び (e ' ) が異なる化合物である場合、 化合物 (c ) の 2つのアミノ基は、 それぞれ反応性の異なる保護基で保護してお くことが好ましい。 例えば、 一方を t e r t 一ブトキシカルボニル基で保護し、 他方をベンジルォキシカルポニル基で保護しておくと、 次の工程で化合物 ( e ) または (e ' ) を化合物 (c ) のそれぞれのァミノ基と選択的に反応させること ができる。 反応は、 活性エステル法、 酸無水物法、 混合酸無水物法等を用いるこ とができる。 また、 通常のペプチド合成と同様の方法で固相合成を行うこともで きる。 なお、 反応は、 第三級ァミンなどの触媒の存在下で行うことが好ましい。 反応終了後は、 トリフルォロ酢酸などの酸で処理して脱保護し、 常法により精 製して化合物 (d ) を得ることができる。 なお、 反応の終点は、 ガスクロマトグ ラフィー、 高速液体クロマトグラフィー、 薄層クロマトグラフィー、 核磁気共鳴 スぺクトル及び赤外吸収スぺクトル等によって確認することができる。
次いで、 得られた化合物 (d ) のァミノ基に化合物 (e ) 及び (e ' ) を反応 させる。 化合物 (e ) 及び (e ' ) は、 予め、 アミノ基を t e r t —ブトキシ基 などにより保護し、 力ルポキシル基は一方を t e r t—ブトキシ基で保護し、 他 方を N- tドロキシスクシンイミドなどにより活性化しておくことが望ましい。 反応は、 活性エステル法、 酸無水物法、 混合酸無水物法等を用いることができる。 また、 通常のペプチド合成と同様の方法で固相合成を行うこともできる。 反応は、 第三級アミンなどの触媒の存在下で行うことが好ましい。
反応終了後は、 上記と同様にして脱保護し、 常法に従い精製して化合物 (ί )
を得ることができる。 反応の終点は、 上記と同様にして確認することができる。 なお、 上記反応は、 いずれも室温で行うことができる。 また、 反応は、 加圧、 減圧または大気圧のいずれの圧力下でも行うことができるが、 操作が簡便である ことから、 大気圧雰囲気下で行うことが望ましい。
本発明の両親媒性分子は、 上記のようにして製造することができる。 本発明の 好ましい態様によれば、 本発明の両親媒性分子を分子集合体の構成成分として用 いることにより、 生理的条件下でゼ一夕電位が中性あるいはマイナスの小胞体構 造を形成して目的物質を保持し、 酸性条件下でゼ一夕電位がプラスとなりァニォ ン性生体膜との相互作用により小胞体構造が変化して目的物質を小胞体の外側に 放出させることができる。
本発明の両親媒性分子は、 親水部にカチオン性官能基とァニオン性官能基とを 有することにより上記のような特性を有する分子集合体を構成することができる ものであれば、 その構造は前記したものに限られない。 本発明の技術思想に基づ き、 設計変更等された化合物であって、 上記のような機能を奏するものであれば すべて、 本発明の範囲内に含まれることが理解されるべきである。
[ 2 ] 分子集合体
本発明の分子集合体は、 その構成成分として、 前述した本発明の両親媒性分子 を含む。 ここで 「分子集合体」 とは、 本発明の両親媒性分子を、 必要に応じてス テロイド類及び他の両親媒性分子と共に水系媒体に分散させたときに形成される 特定の形態をもつ分子の集合物をいう。
本発明の好ましい態様によれば、 本発明の分子集合体は、 その構成成分として 本発明の両親媒性分子を含むものであるので、 p H応答性を示すことができる。 すなわち、 水溶液中、 生理的な p H環境下ではゼ一夕電位が中性あるいはマイナ スの小胞体構造を形成するが、 酸性 p H環境下では本発明の両親媒性分子におい てァニオン性官能基のイオン化傾向が減少し、 分子集合体の正味の電荷がカチォ ン性になるため、 ゼ一夕電位がプラスとなり、 ァニオン性生体膜と相互作用しゃ すくなる。 より好ましくは、 本発明の分子集合体は、 生理的な p H環境下でゼー 夕電位が中性あるいはマイナスの小胞体構造を形成して目的物質を保持し、 酸性
p H環境下でゼ一夕電位がプラスとなりァニオン性生体膜との相互作用により小 胞体構造が変化して目的物質を小胞体の外側に放出させることができる。
本発明の分子集合体のゼ一夕電位がマイナスからプラスに変化する p H範囲は 特に限定されるものではない。 本発明の分子集合体のゼ一夕電位がマイナスから プラスに変化する p H範囲は、 用いる両親媒性分子の種類や他の構成成分との組 み合わせ及びその配合比等によって調整可能であり、 目的や用途等に応じて適宜 選択することができる。 本発明の分子集合体のゼ一夕電位がマイナスからプラス に変化する好ましい p H範囲は 4 . 0以上、 より好ましくは 4 . 5以上、 さらに 好ましくは 5 . 0以上、 特に好ましくは 5 . 5以上である。 また、 該 p Hは、 好 ましくは 7 . 2未満、 より好ましくは 7 . 0未満、 さらに好ましくは 6 . 5未満、 特に好ましくは 6 . 0未満、 とりわけ好ましくは p H 5 . 5以下である。 本明細 書では、 これらの上限と下限を自由に組み合わせた範囲が開示されているものと する。
本発明の一実施形態において、 本発明の分子集合体は、 エンドソ一ム内環境の 代表的な p H 4 . 0〜6 . 0にてゼ一夕電位がマイナスからプラスに変化するこ とができるため、 標的細胞に取り込まれた際にエンドソ一ム膜融合して保持して いる目的物質を細胞質側に放出する能力が高いと考えられる。
本発明の分子集合体が示すこのような挙動は、 水溶液の; p Hに応答して、 両親 媒性分子の親水部の電荷バランスが変化し、 それが分子集合体の分子充填状態に 影響して分子集合体の構造が変化することによって生じるものと考えられる。 本 発明の好ましい態様によれば、 本発明の分子集合体の上記性質を利用することに より、 目的物質を目的患部に効率よく送達させることができる。 また、 本発明の 好ましい態様によれば、 本発明の分子集合体は、 細胞内のァニオン性生体膜であ るエンドゾームに取り込まれたときに目的物質をェンドソームの外側の細胞質に 放出させることができる。
以下、 図面を参照しながら本発明の分子集合体の放出挙動について説明する。 図 1は、 本発明の分子集合体が、 目的の細胞内に取り込まれ、 その保持していた 目的物質を放出する挙動を示した概念図である。
まず、 本発明の分子集合体は、 細胞内に取り込まれる前は、 生理的な p H環境
下で分子集合体の小胞体構造を保持し、 内包物を安定に保持している (図 1 ( a ) ) 。 生理的な p H環境下では、 分子集合体のゼ一夕電位は中性またはマイ ナスであることから、 例えば血中に投与した際には、 血中滞留時の表面電位がマ ィナスである血管壁などへの吸着は回避され、 良好な血中滞留性を示す。 この分 子集合体は、 生体内を循環しながら細胞膜に近づき、 そこでエンドサイト一シス によって細胞内に取り込まれる (図 1 ( b ) ) 。
エンドサイトーシスによって細胞内に取り込まれた分子集合体は、 エンドソ一 ム内の酸性 P H環境下でゼ一タ電位が中性またはマイナスからプラスに変化し、 負電荷脂質が豊富なェンドソーム膜はゼ一夕電位がマイナスであるためにエンド ゾーム膜への吸着が促進される。 そして、 エンドゾーム膜との相互作用 (好まし くは融合) により分子集合体の小胞体構造が変化する。 これによつて、 保持して いた目的物質をエンドゾームの外側に放出させることができる (図 1 ( c ) ) 。 本発明の好ましい態様によれば、 本発明の分子集合体は、 エンドゾームの環境 に近い p H環境下で目的物質を送達させることができるため、 より多くの目的物 質を短時間で細胞質内に送達させることができる。
通常、 異物は、 細胞内にエンドサイト一シスによって取り込まれた後、 分解酵 素を含むライソソ一ムにおいて消化されてしまう。 これに対し、 本発明の分子集 合体は目的物質を分子集合体に保持させたものであるので、 ライソソームにおけ る分解を受ける前に目的物質を細胞内あるいは核内に効率よく送達させることが 可能である。 なお、 図 1は一例であり、 分子集合体の形状、 目的物質の保持方法、 目的物質の放出挙動などは図 1に何ら制限されない。
本発明の分子集合体において、 使用する本発明の両親媒性分子は 1種であって も、 2種以上の組み合わせであってもよい。 本発明の分子集合体における両親媒 性分子の含有量は、 分子集合体の構成成分の合計モル数に対して、 1 0〜1 0 0 モル%が好ましく、 2 0〜8 0モル%がより好ましく、 3 0〜6 0モル%がさら に好ましい。 本発明の両親媒性分子の含有量が高いほど、 目的物質の放出速度ま たは放出率を高めることができる。 本発明の両親媒性分子の含有量は、 目的物質 を導入したい体内の部位、 所望の放出率または所望の放出速度などによって適宜 調整することができる。
本発明の分子集合体はまた、 本発明の両親媒性分子に加えて、 他の構成成分を 含むことができる。 例えば、 本発明の分子集合体はステロイド類を含むことがで きる。 ステロイド類としては、 ステロール類、 胆汁酸、 プロビタミン D、 ステロ ィドホルモンなど、 ペルヒドロシクロペンタノフエナントレンを有する全てのス テロイドが挙げられる。 中でもステロ一ル類を用いることが好ましい。 ステロー ル類としては、 例えば、 エルゴステロール、 コレステロール等が挙げられる。 中 でもコレステロールを用いることが好ましい。
本発明の分子集合体に用いられるステロイド類の含有量に特に制限はないが、 分子集合体の構成成分の合計モル数に対して、 1 0〜6 0モル%が好ましく、 2 0〜5 0モル%がより好ましい。 ステロイド類は、 分子集合体の安定化剤として 作用することができるので、 所望の放出速度及び放出率などに応じて適宜調整す ればよい。 これらのステロイド類は 1種でも 2種以上を組み合わせて使用しても よい。
さらに、 本発明の分子集合体は、 本発明の目的を損なわない範囲、 特に、 本発 明の分子集合体を血中投与する場合は血中滞留性に悪影響を及ぼさない範囲であ れば、 本発明の両親媒性分子以外の両イオン性脂質、 カチオン性脂質及びァニォ ン性脂質からなる群から選ばれる少なくとも 1種のイオン性の脂質成分を含んで もよい。
これらのイオン性脂質は 1種単独でも 2種以上を組み合わせて使用することも できる。 これらの脂質の含有量は特に制限されるものではないが、 分子集合体の 構成成分の合計モル数に対して、 0〜9 0モル%が好ましく、 0〜5 0モル%が より好ましい。 但し、 これらのカチオン性脂質は、 血中滞留時の血管壁などに吸 着されやすいことから、 分子集合体の血中滞留性を低下させる場合があるので、 カチオン性脂質の使用量は、 分子集合体の構成成分の合計モル数に対して、 0〜 5 0モル%程度であることが好ましい。
さらに本発明の分子集合体には、 ポリエチレングリコ一ル型脂質を含有するこ ともできる。 ポリエチレングリコール型脂質を構成成分として用いることにより、 分子集合体の凝集が抑制され、 生体内に投与された後の血中滞留時間を延長させ ることができる。 ポリエチレングリコール型脂質は 1種単独でも 2種以上を組み
合わせて使用することもできる。 これらのポリエチレングリコール型脂質の含有 量は特に制限されるものではないが、 分子集合体の構成成分の合計モル数に対し て、 0〜3 0モル%が好ましく、 0 . 1〜0 . 5モル%がより好ましい。 本発明 に用いることができるポリエチレングリコ一ル型脂質のポリエチレングリコール 部の分子量は特に制限されないが、 2 0 0〜5万程度であることが好ましく、 5 0 0 0〜 2万程度であることがより好ましい。
その他、 本発明の分子集合体は、 卵黄レシチン、 大豆レシチン、 水添卵黄レシ チン、 水添大豆レシチン、 ホスファチジルコリン類、 ホスファチジルグリセ口一 ル類、 ホスファチジルェタノ一ルァミン類、 スフインゴミエリン、 多種の糖脂質 など分子集合体の構成成分として知られているリン脂質を 1種または 2種以上含 有することができる。 これらの脂質の含有量は特に制限されるものではないが、 分子集合体の構成成分の合計モル数に対して、 0〜8 0モル%が好ましく、 4 0 〜7 0モル%がより好ましい。
本発明の好ましい態様によれば、 本発明の分子集合体は目的物質を保持してい る。 ここで 「分子集合体が目的物質を保持している」 とは、 分子集合体内部の親 水領域 (水相) あるいは脂質二分子膜内または分子膜の外側表面に目的物質が相 互作用している状態のことをいう。 例えば、 ( i ) 水溶性もしくは疎水性の目的 物質が分子集合体内部の水相に局在する状態、 ( i i ) 水溶性もしくは疎水性の 目的物質が親水性高分子により包括されている複合体が、 分子集合体内部の水相 に局在する状態、 あるいは ( i i i ) 疎水性の目的物質が二分子膜内の疎水領域 または二分子膜の外側表面に局在する状態などが挙げられる。
本発明の分子集合体に用いられる目的物質は、 本発明の分子集合体に保持する ことができるものであれば特に限定されない。 目的物質は、 標的となる臓器また は組織、 細胞の少なくとも一つに作用するものであることが好ましい。 例えば、 薬物、 プローブ、 核酸 (任意の D N A、 R NA、 s i R N Aなどを含む) 、 タン パク質、 ペプチド、 金属イオン (任意のリチウムイオン、 ナトリウムイオン、 マ グネシゥムイオン、 カルシウムイオン、 鉄イオン、 銅イオン等を含む) 及び金属 錯体 (任意の鉄錯体、 銅錯体、 白金錯体、 ガドリニウム錯体、 バナジウム錯体、 亜鉛錯体、 マンガン錯体を含む) からなる群から選択される少なくとも 1種であ
ることが好ましい。 本発明の好ましい態様によれば、 本発明の分子集合体に保持 されたこれらの物質は、 エンドサイトーシスによって細胞内のエンドソーム内に 取り込まれた後、 細胞質内に放出されることにより、 効率良く細胞内に送達する ことができる。 本発明の分子集合体に保持させる目的物質の分子量は、 通常 5〜 1 0 0 0 0 0 0、 好ましくは 3 0〜: L 0 0 0 0 0 0、 より好ましくは 2 0 0〜 5 0 0 0 0 0、 さらに好ましくは 3 0 0〜 1 0 0 0 0 0である。
本発明に用いられる目的物質は、 例えば、 酵素、 ペプチドまたはタンパク質、 抗体 (単鎖抗体含む) 、 受容体、 リガンド、 各種抗生物質、 各種ペプチド性ホル モン、 D N A、 R N A、 s i R N A、 プラスミド、 プローブ、 各種杭がん剤、 中 枢神経系用薬、 末梢神経用剤、 感覚器官用薬、 循環器官用薬、 呼吸器官用薬、 消 化器官用薬、 ホルモン剤、 泌尿生殖器官及び肛門用薬、 外皮用薬、 歯科口腔用剤、 ビタミン剤、 滋養強壮薬、 血液および体液用薬、 人工透析用薬、 その他の代謝性 医薬品、 細胞賦活用剤、 腫瘍用薬、 放射性医薬品、 アレルギー用薬、 生薬および 漢方処方に基づく医薬品、 抗生物質製剤、 化学療法剤、 生物学的製剤、 診断用薬 などが挙げられる。 ペプチドまたはタンパク質の一例としては、 抗体、 受容体、 リガンド、 イン夕一ロイキン等の各種サイト力イン、 細胞伝達因子、 細胞成長因 子、 フイブリノ一ゲン、 コラーゲン、 ケラチン、 プロテオダリカン等細胞外マト リックス剤としてのポリペプチドまたはその構造の一部としてのオリゴ体、 ある いはォキシトシン、 ブラジキニン、 チロトロビン放出因子、 エンケファリン等の 機能性ポリペプチドが挙げられる。 酵素としては、 力タラ一せ、 キモトリブシン、 チトクローム、 アミラーゼなどが挙げられるが、 これらに何ら限定されるもので はない。 プローブの一例としては、 抗体、 抗原、 色素、 あるいは蛍光色素など諸 種の標識体や活性物質などが挙げられる。 これらの物質は、 1種単独で用いても よく、 2種以上を組み合わせて用いることもできる。
本発明の分子集合体に保持される目的物質の含有量は、 目的物質の種類または 目的等によって大きく異なるものではあるが、 分子集合体の構成成分の全重量 (但し、 目的物質の重量を除く) に対して、 0 . 0 0 1〜1 0 0 0重量%が好ま しく、 0 . 0 1〜2 0 0重量%がより好ましく、 0 . 1〜5 0重量%がさらに好 ましい。
本発明の分子集合体の形状は特に制限されないが、 例えば、 高分子集合体 (ポ リマ一コンプレックス、 高分子ミセル、 高分子化リボソーム等) 、 ェマルジヨン、 リピドマイクロスフィァ、 二分子膜小胞体 (リボソーム) 、 その他の分子集合体 (チューブ、 ファイバ一、 リボン、 シート等) などが挙げられる。 中でも、 リポ ゾームであることが好ましい。
本発明の分子集合体がリボソームである場合、 リボソームを水性媒体中に分散 させると、 リボソームは内水相を含むことができる。 このとき、 分子集合体に保 持されている目的物質は、 リボソーム内水相に溶解または分散しているものであ ることが好ましい。 あるいは、 リポソ一ムニ分子膜の疎水性領域内に目的物質を 保持させるなど、 目的物質が二分子膜内に局在したものであってもよい。
なお、 本明細書において、 分子集合体の構成成分の含有量をいう場合、 内水相 は考慮しないこととする。
本発明の分子集合体の粒径は、 2 5〜1 0 0 0 0 n mが好ましく、 1 0 0〜5 0 0 n mがより好ましく、 1 5 0〜3 0 0 n mがさらに好ましい。
本発明の分子集合体の製造方法は特に限定されるものではなく、 公知の方法に 準じて製造することができる。 例えば、 リボソームの製造の手法としては、 単独 または混合脂質の粉末もしくは薄膜を水和させ分散させた後、 高圧押出し (ェク ストル一ジョン) 法、 超音波照射法、 撹拌 (ポルテックスミキシング、 ホモジナ ィザ一) 法、 高速攪拌法、 フレンチプレス法、 凍結融解法、 マイクロフルイダィ ザ一法などを用いて製造する方法、 単独または混合脂質を有機溶媒に溶解させた 溶液を水相に注入した後、 エタノールまたはエーテルなどの有機溶媒を減圧また は透析で除去して形成する方法、 あるいは、 単独または混合脂質をコール酸ナト リウム、 ドデシル硫酸ナトリウム、 T r i t o n X— 1 0 0、 ォクチルダリコ シドまたはラウリルエーテルなどの非イオン性界面活性剤と共に水相に分散させ てェマルジヨンを形成させ、 透析によって除去して形成する方法、 その他、 逆相 蒸発法、 インキュベーション法などを採用することができる。
本発明の分子集合体に目的物質を保持させる方法は、 目的物質の種類等に応じ て適宜選択すればよい。 例えば目的物質が水溶性薬物である場合は、 分子集合体 の製造時に該薬物を水相に溶解し、 前述した方法で分子集合体を形成する際に、
分子集合体 (例えばリボソームの内水相) に内包させることができる。 あるいは 膜透過性のある水溶性薬物の場合には、 分子集合体 (リボソーム) を形成させて から、 外水相に薬物を溶解して、 膜透過性を利用して内水相に内包させることが できる。 内包されなかった水溶性物質はゲルろ過、 超遠心分離または限外ろ過膜 処理などにより内包小胞体と分離できる。
あるいは、 目的物質が脂溶性や両親媒性の薬物である場合は、 単独または混合 脂質が有機溶媒に溶けている状態で当該薬物を混合して、 前述した方法で分子集 合体を形成することにより、 分子集合体の疎水部 (例えばリボソームの二分子膜 内) に薬物を保持させることができる。 あるいは前述した方法で分子集合体の分 散液を調製してからエタノールや D M S Oなど水と混ざる溶媒に薬物を溶解した 溶液を添加して薬物を疎水部に保持させることができる。
目的物質がプローブ、 核酸またはタンパク質などの場合は、 上記と同様の方法 で分子集合体に目的物質を保持させるか、 あるいは分子集合体の外側表面に目的 物質を局在させることにより目的物質を保持することができる。
[ 3 ] 分子集合体の用途
( 1 ) 薬剤
例えば、 本発明の分子集合体に薬物を保持させた場合、 本発明の分子集合体は 薬剤として使用することができる。 薬物の含有量は、 薬物の種類または目的に応 じて適宜決定することができるが、 分子集合体の構成成分の全重量 (但し、 目的 物質の重量を除く) に対して 0 . 0 0 1〜 1 0 0 0重量%が好ましく、 0 . 0 1 〜1 0 0重量%がより好ましく、 0 . 1〜 1 0重量%がさらに好ましい。 本発明 の薬剤の投与方法は特に限定されない。 本発明の薬剤は、 例えば、 経口、 非経口、 静脈、 口内、 直腸、 膣、 経皮、 鼻腔経路経由または吸入経由、 さらには疾患部位 に対して直接投与 (局所投与) することができる。 本発明の薬剤の投与量は、 有 効量の範囲内であれば良く、 対象疾患、 投与対象、 投与方法、 症状などによって も異なる力、 通常、 体重 1 k g当たり、 1日につき、 約 0 . 0 0 1〜約 1 4 0 0 m g (分子集合体の構成成分 (脂質) 重量) である。
本発明の分子集合体に保持する薬物としては、 各種杭がん剤、 中枢神経系用薬、
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末梢神経用剤、 感覚器官用薬、 循環器官用薬、 呼吸器官用薬、 消化器官用薬、 ホ ルモン剤、 泌尿生殖器官及び肛門用薬、 外皮用薬、 歯科口腔用剤、 ビタミン剤、 滋養強壮薬、 血液および体液用薬、 人工透析用薬、 その他の代謝性医薬品、 細胞 賦活用剤、 腫瘍用薬、 放射性医薬品、 アレルギー用薬、 生薬および漢方処方に基 づく医薬品、 抗生物質製剤、 化学療法剤、 生物学的製剤などが含まれる。 ( 2 ) 試薬、 診断薬及びキット
また、 本発明の分子集合体にプローブ、 抗体または核酸を保持させた場合、 本 発明の分子集合体は試薬または診断薬として使用することができる。 例えば、 本 発明の分子集合体にプローブを保持させた場合、 本発明の分子集合体は遺伝子等 の生体物質検出用試薬 ·診断薬に、 または細胞内物質の局在または機能を診断す るための試薬として有用である。
本発明に用いられるプローブは、 遺伝子、 遺伝子産物等の特定の物質、 部位、 状態などを検出するための分子であれば特に制限されない。 プローブの一例とし ては、 抗体、 抗原、 色素あるいは蛍光色素など諸種の標識体または活性物質が挙 げられる。 このうち、 生理活性物質 (生体に対して作用する物質) として、 例え ば核酸、 タンパク質、 その他小分子を含む。 例えば、 プローブとして蛍光色素を 保持させた場合、 本発明の試薬は、 生体内でのリボソームの局在部位を検出する 際などに使用することができる。
本発明の分子集合体に保持させるプローブの含有量は、 その種類または目的に 応じて適宜決定することができるが、 分子集合体の構成成分の全重量 (但し、 目 的物質の重量を除く) に対して 0 . 0 0 1〜1 0 0 0重量%が好ましく、 0 . 0 1〜1 0 0重量%がより好ましく、 0 . 1〜 1 0重量%がさらに好ましい。 また、 例えば、 本発明の分子集合体に核酸を保持させた場合、 本発明の分子集 合体は核酸導入剤として有用である。 本発明の分子集合体を含む核酸導入剤は、 ライソゾームによって消化されることなく、 細胞質内あるいは細胞核内に効率良 く目的遺伝子を送達することができるので遺伝子治療等に有用である。
例えば、 本発明の分子集合体に、 デコイ D N A、 s i R N Aまたはアンチセン ス D N Aなどの遺伝子発現を制御する核酸を保持させることにより、 特定遺伝子
のノックダウンを促す試薬等として有用である。
本発明の試薬を遺伝子治療に用いるときは、 例えば、 経口、 非経口、 静脈、 口 内、 直腸、 膣、 経皮、 鼻腔経路経由または吸入経由さらには疾患部位に対して直 接生体内に投与することができる。
本発明の試薬を核酸導入に用いるときは、 その使用量は、 細胞 1 X 1 04個あ たり 0. 00 1〜 1 00 pmo 1、 好ましくは 0. 1〜: L O pmo l程度の量 (分子集合体の構成成分 (脂質) モル数) であるが、 従来の遺伝子導入試薬とし て用いられてきたリポフエクトァミン、 トランソーム、 DOTAPおよび DMR I Eなどのカチオン性脂質を構成脂質にしたリボソーム試薬等の使用量を参考に して適宜設定することができる。 この用量により、 従来の遺伝子導入試薬 (リポ フエクトァミン) に比べて細胞毒性を伴うことなく同程度の導入効率が得られる。 また、 本発明は、 上記試薬または診断薬を含む、 生体物質検出用、 細胞内物質 の局在または機能診断用あるいは遺伝子治療用キットを提供する。 本発明のキッ トには、 緩衝液、 pH調整剤、 細胞保護液などを単独で、 または適宜組み合わせ て含めることができる。 必要に応じて、 トランスフエクシヨンの対照として用い られる標準核酸を含んでもよい。 このような核酸としては、 レポーター又はマー 力一タンパク質 (例えばルシフェラーゼ、 3—ガラクトシダーゼ、 GFP等) を コードする核酸が挙げられる。 核酸は、 プラスミドベクタ一の形態であってもよ レ^ さらに、 本発明のキットには、 必要に応じて例えば DEAEデキストラン等 のトランスフエクシヨン増強試薬及び他の添加剤を含めることが可能である。 さ らに、 本発明のキットには、 遺伝子、 遺伝子産物等の特定の物質、 部位、 状態な どを検出するための使用説明書あるいは核酸を導入するための使用説明書を含め ることができる。 キットに含まれる各成分は、 例えば、 各成分を容器中に封入し た包装形態としてもよい。
(3) 酵素補充治療用タンパク質製剤
本発明の分子集合体にタンパク質を保持させた場合、 本発明の分子集合体は酵 素補充治療用製剤として使用することができる。 タンパク質としては、 アデノシ ンデァミナ一ゼ、 一酸化窒素合成酵素、 スーパーォキシドデイスムターゼ、 アル
ギノコハク酸合成酵素、 フエ二ルァラニン水酸化酵素、 α -ガラクトシダーゼ、 )6 -ダルコシダーゼなどが挙げられる。 本発明の酵素補充治療用製剤は、 例えば、 特定酵素の発現が全くあるいは十分に行われない患者に対して用いることができ る。 タンパク質の含有量は、 種類または目的に応じて適宜決定することができる が、 分子集合体の構成成分の全重量 (但し、 '目的物質の重量を除く) に対して 0 0 1〜; L 0 0 0重量%が好ましく、 0 . 0 1〜2 0 0重量%がより好ましく、 0 . 1〜 5 0重量%がさらに好ましい。 本製剤の投与方法は、 特に限定されない。 本製剤は、 例えば、 経口、 非経口、 静脈、 口内、 直腸、 膣、 経皮、 鼻腔経路経由 または吸入経由で投与することができる。 製剤の使用量は、 有効量の範囲内であ れば良く、 対象疾患、 投与対象、 投与方法、 症状などによっても異なるが、 通常、 体重 l k g当たり、 1日につき、 約 0 . 0 0 1〜約1 4 0 0 01 8 (分子集合体の 構成成分 (脂質) 重量) である。 実施例
以下、 実施例を用いて本発明をより具体的に説明するが、 本発明はこれらの実 施例に何ら制限されない。
〔実施例 1〕
p H応答性両親媒性分子 (GGLG: la- 1)の合成
工程 (A) : P-トルエンスルホン酸一水和物 (4.56 g、 24 mmol)のベンゼン溶 液 (100 mL)を 85 Cにて沸点還流し、 Dean-Stark を用いて反応前に水を除去し た。 反応液にグルタミン酸 (2.96 g、 20 mmol)とへキサデシルアルコール (10.7 g、 44 mmol)を添加し、 10 時間かけて生成水を除去しながら沸点還流した。 反 応の進行に伴い、 懸濁液は徐々に溶解し透明に変化した。
反応終了後、 溶媒を減圧除去し、 クロ口ホルムに溶解して、 炭酸ナトリウム飽 和水溶液で 3 回洗浄した。 クロ口ホルム層を硫酸マグネシウムで脱水し、 ろ過 後、 溶媒を減圧除去した。 残留物はメタノールから 4°Cにて再結晶し、 化合物 1 (収率 83%)を白色粉末で得た。
(1)化合物 1の分析結果は以下のとおりであつた。
薄層クロマトグラフィー (シリカゲルプレート、 クロ口ホルム/メタノール (4 /1) (容量 Z容量) : R 0.83 (モノスポット) ) 。
赤外吸収スぺクトル (cm 1): 1737 ( v c=o,ester).
1H-NMR (CDCla , 500 MHz , δ ppm) : 0.88 (t,6H,- CH3) ; 1.25 (br, 52H, alkyl); 1.62 (m,4H,-CO-0-C-CH2-); 1.84 (m,lH,glu β -CH2-); 2.08 (m,lH, glu j6 -CH2-); 2.45 (t,2H, glu r -CH2-); 3.45 (t,lH, glu α -CH-); 4.06,4.12 (t,4H, -CO-0-CH2-)
MS(ESI) Calcd: 595.9 ; Found: 597.3 (MH)+. 工程 (B ) :工程 (A) で得られた化合物 1 (1.0 g、 1.67 mmol) と、 トリエ チルァミン (202 mg、 2.0 mmol)をジクロロメタン 30 mLに溶解し、 1時間室温 で撹拌した。 その後、 アミノ基を t-ブトキシ基で保護し、 力ルポキシル基を N- ヒドロキシスクシンイミドにより活性化させたリジン (617 mg、 1.4 mmol)を添 加し、 さらに 6時間室温で撹拌した。
反応終了後、 溶媒を減圧除去し、 クロ口ホルムに溶解して、 炭酸ナトリウム飽 和水溶液で 3 回洗浄した。 クロ口ホルム層を硫酸マグネシウムで脱水し、 ろ過 後、 溶媒を減圧除去した。 残留物はメタノールから 4°Cで再結晶し、 グラスフィ ルター (G6)ろ過して、 ァミノ基が保護されたリジン誘導体を得た。
得られた誘導体にトリフルォロ酢酸 (20 mL)を加え、 4 °Cで、 2 時間撹拌した。 反応終了後、 溶媒を減圧除去し、 クロ口ホルムに溶解して、 炭酸ナトリウム飽和 水溶液で 4 回洗浄した。 クロ口ホルム層を硫酸マグネシウムで脱水し、 ろ過後、 溶媒を減圧除去した。 残留物はメタノールから 4 で再結晶し、 ろ過し、 乾燥 して、 化合物 2 (80%)を白色粉末として得た。
化合物 2 化合物 2の分析結果は以下のとおりであつた。
(2): 薄層クロマトグラフィー(シリカゲル、 クロ口ホルム/メタノ一ル (4/1) (容量 /容量) :Rf: 0.63(モノスポット))
赤外吸収スぺクトル (cm 1): 1737 ( V c=o,ester); 1673 ( v c=o, amide)
iH-NMR(CDCl3, 500 MHz, δ (ppm)): 0.83 (t, 6H, -CH3); 1.19 (br, 52H, -CH2- ); 4.33 (d, 1H, glu -CH-); 4.50 (br, 1H, lys -CH-); 7.8, 8.2 (br, 2H, -NH2) 工程 (C ) :工程 (B ) で得られた化合物 2 (500 mg, 691 mmol)とトリェチ ルァミン(107 1, 829 mmol) をジクロロメタン 30 mLに溶解し、 1時間室温で 撹拌した。 その後、 ァミノ基が t-ブトキシ基、 r -力ルポキシル基が プチルェ ステル基で保護され、 ひ-力ルポキシル基が ヒドロキシスクシンイミドにより 活性化されたグルタミン酸 (639 mg、 1.45 mmol)を添加し、 さらに 6時間室温で 撹拌した。
反応終了後、 溶媒を減圧除去し、 クロ口ホルムに溶解して、 炭酸ナトリウム飽 和水溶液で 3 回洗浄した。 クロ口ホルム層を硫酸マグネシウムで脱水し、 ろ過 後、 溶媒を減圧除去した。 残留物はメタノールから 4 °Cで再結晶し、 グラスフ ィル夕一 (G6)ろ過して、 アミノ基を保護したリジン誘導体を得た。
得られたリジン誘導体にトリフルォロ酢酸 (20 mL)を加え、 4 で、 2 時間撹 拌した。 反応終了後、 溶媒を減圧除去し、 クロ口ホルムに溶解して、 炭酸ナトリ ゥム飽和水溶液で 2 回洗浄した。 クロ口ホルム層を硫酸マグネシウムで脱水し、 ろ過後、 溶媒を減圧乾燥して、 本発明の両親媒性分子である化合物 3 (GGLG:
Ia-1) (65%)を白色粉末として得た t
化合物 3の分析結果は以下のとおりであった。
(3): 薄層クロマトグラフィー(シリカゲル、 クロ口ホルム/メタノール (4/1) (容量 /容量) : : 0·05(モノスポット))
赤外吸収スぺクトル (cm 1): 1737 ( V c=o,ester); 1673 ( v c=o, amide)
iH-NMR(CDCl3、 500 MHz、 δ (ppm)) : 0.84(t, 6H, -CH3) ; 1.23 (br, 52H, alkyl); 3.88, 3.93 (t, IH, glu α -CH-Lys-); 4.34(q, IH, lys α -CH-); 4.44 (q, IH, glu oi -CH-COO-)
合成された本発明の両親媒性分子は、 三段階で合成でき、 精製も再結晶のみで 行うことができるため、 短時間でかつ簡便な方法で 40 %超の高収率で大量合成 できる利点を持つ。 これは、 現在までに報告されている D O P Eなどのリン脂質 誘導体と比較しても格段に有利な点である。
〔実施例 2〕
リボソームの調製
化合物 3 (174 mg、 0.177 mmol)、 コレステロール (69.3 mg、 0.179 mmol), iV-methoxypolythylene glyco-l,5-dioctadecyl-L-glutamate (PEG-Glu2Cis : PEG, Mw 5000) (6.0 mg、 1.0 mol)をベンゼンに溶解させ、 凍結乾燥して混 合脂質を調製した。 この混合脂質 20 mgを注射用水 1 mLに分散し、 6 時間 攪拌後、 高圧押出法 (最終孔径 0.22 ^ m)にて粒子径約 225 nm のリボソーム (以下、 「pH応答性リボソーム」 という場合がある。 ) を調製した。
(ゼ一夕電位測定)
調製したリボソーム([lipid]=10 mg/ml)を pH 7.4, 7, 6, 5, 4の酢酸緩衝液 (30 mM)にそれぞれ添加し、 最終濃度を [lipid]=l mg/mL として 37でにおけるゼ一 夕電位を測定した。 Malvern社製の型式 Zetasizer4 を用いて、 測定濃度に希釈 したリボソーム分散液をキヤビラリ一セルに充填し、 37°Cにて 3 回測定した。 その結果を図 2に示す。
図 2からわかるように、 化合物 3を構成成分とするリボソームは、 pH の低下 に伴ってゼ一夕電位が上昇し、 マイナスからプラスへと変化した。 これは、 pH 7.4 ではリボソームのゼ一夕電位がマイナスであり、 親水部の Ύ 位のカルポキ シル基がアミノ基よりも表面に突出しているためであると考えられる。 すなわち、 pH の低下 (pH 5-6)に伴い、 ゼ一夕電位がプラスとなるのはグルタミン酸のカル ポキシル基が解離状態から非解離状態になったためであると考えられる。 図 2に おいて、 (〇) は化合物 3 /cholesterol/PEG-Glu2Cl8(5/5/0.03(モル比))のゼ一夕 電位変化を示す。
(ァニオン性生体膜との相互作用の検討 1 )
エンドソ一ム膜はホスファチジルセリン (PS), ホスファチジルグリセロール (PG)などのァニオン性脂質が多く含有することが知られている。 そこで、 ェン ドソーム内における pH応答性リボソームの挙動解析として、 ァニオン性生体膜 への吸着作用を明らかとするために、 ァニオン性リボソーム (c.a. 250 nm)と pH 応答性リボソーム (c.a. 250 nm)の各 pHでの凝集度 (融合も含む) を粒径変化に よって測定した。
ァニオン性リボソーム (ジパルミトイルホスファチジルコリン
(DPPC)ん holesterol/ジパルミ トィルホスファチジルグリセ口一ル
(DPPG)=4/5/l(モル比), [lipid] =1 mg/ml) と pH応答性リポソ一ム([lipid]=l mg/ml)を、 30 mM酢酸緩衝液に各々 50 ^ L添加し、 粒径を光散乱光度計により 測定した。 Beckman社製の型式 N4 PLUS Submicron Particle Size Analyzerを 用いて、 測定濃度に希釈したリボソーム分散液 2 mLをセルに充填し、 動的光散
乱法により 3回見かけの粒子径を測定した。 その結果を図 3に示す。 図 3におい て、 各 pH(4,5,6,7,7.4)における凝集度を示した (n=3)。
図 3からわかるように、 ァニオン性リボソームまたは pH応答性リボソームは pH によらず粒子径は一定であつたが、 pH 応答性リボソームをァニオン性リポ ゾームと混合すると、 分散媒の pH低下に伴い粒径が増大した。 pH 6で pH応 答性リボソームの粒径は約 400 nmになり、 さらに pHの低下とともに粒径は増 大し、 pH 4でその粒径は約 650 nmとなった。 これはリポソ一ム間での凝集を 意味している。 その凝集度は pH応答性リボソームのゼ一夕電位がプラスになる ほど大きくなつた。 これにより pH応答性リボソームがエンドゾーム内の pH環 境下で、 エンドゾーム膜との凝集と融合を促進させるのに必要な性質を有してい ることを示唆している。
(ァニオン性生体膜との相互作用の検討 2 )
さらに、 エンドソ一ム内の pH環境下における pH応答性リボソームとエンド ソ一ム膜を仮想したァニオン性生体膜との膜融合度を、 FRET (蛍光共鳴エネル ギー移動)を利用した希釈法により測定した。
仮想エン ド ゾーム と してジォレオイ ルホス フ ァチジルコ リ ン (DOPC)/cholesterol/ジォレオイルホスファチジルセリン (DOPS)/ 1,2-Dioleoyl- sn-glycero-3-phosp oethanolamme-]Si-(7-nitro-2-l,3-benzoxadiazol-4-yi)(NBD- PE)/l,2-dioleoyl-sn-glycero-3-pliosphoethanolamine-N-(lissamine rhodamme B sulfonyl)(R-PE)(=3/l/0.3/0.0022/0.0022, モル比)を構成成分とするァニオン 性リボソームを調製した。 まず、 pHの異なる酢酸緩衝液 200 1に対し、 500 M ァニオン性リボソーム 25 1 と 4.5 mM pH 応答性リボソーム(化合物 3 /cholesterol/PEG-Glu2Ci8=5/5/0.03, モル比) を添加し、 インキュベート (37°C , 30分)した。 続いて、 この混合液 20 1を 150 mM生理食塩水 80 1に添 加し、 プレートリーダー (Perkin Elmer Japan Co., Ltd, ARVO Mx-3) にて 535nmにおける蛍光強度 (Fluorescent Intensity, F.L)を検出した (Ex: 485nm)。 式 (1.1) を用いて各 pH における膜融合度を算出し、 さらに式 (1.2) を用いて PH7.4における膜融合度に対する相対的な膜融合度の値を、 各 pHについて算出
した。 膜融合度の測定結果を図 4に示す。
膜融合度 = Κοο)-ΐ(θ)
式(ι·υ
I (X) =ァ二オン性リボソーム及び ρΗ応答性リポソームの蛍光強度
I (0) =ァ二オン性リポソ一ムのみの蛍光強度
I (∞) =0. 5%SDSで処理されたァニオン性リボソームの蛍光強度
. ノ
D v (x)
相対的な膜融合度 = DF (74)— 式 ( 1 2)
D. F. (X) =各 pHにおけるァニオン性リボソーム及び pH応答性リボソームの膜融合度 D. F. (X) =pH7. 4におけるァニオン性リポソーム及び pH応答性リポソ一ムの膜融合度
、 図 4からわかるように、 膜融合度は pH7.4-6.0 の範囲ではほぼ変化しなかつ たが、 PH6.0-4.0 の範囲内で膜融合度の増大が認められた。 そして ρΗ5·0 にお いて、 ρΗ7.4 における膜融合度の約 3.7倍に達した。 このことから、 pH応答性 リボソームは ρΗ5-6 環境下において、 ゼ一夕電位がマイナスからプラスへと変 化し、 ァニオン性生体膜と静電的吸着を経て、 膜融合が促進されることが示され た。 オリジナルデータは表 1に示したとおりである。 各 pHにおける蛍光強度
pH 1(0)ん Ι(χ) - !(∞)/-
7.4 1625±133 2038± 265 2757±68
7.0 1936±175 2194± 107 2655±1 19
6.5 1996±91 2241±345 2636±45
6.0 2059±171 2301±161 2614±63
5.5 2098±84 2618±207 2601 ±81
5.0 2131±141 2789±295 2623±43
4.5 2232±201 2587±159 2533±134
4.0 1646±104 2121±224 2726±47
〔実施例 3〕
pH 応答性リボソームの細胞内動態 (TRITC 標識アルブミン内包リボソームの 調製)
Tetramethylrhodamine-5-(>and-6)-isothiocyanate (TRITC) 2 mg -a 0.1N- NaOH aq. に溶解し、 pH を 7.4 に調整した。 その水溶液をアルブミン 1 mL (25 g/dL)と混合し 3時間撹拌後、 ゲルカラム (Sephadex G-25)にて未結合ローダ ミンを除去し、 ローダミン標識アルブミンを調製した。
次に、 pH 応答性混合脂質 (化合物 3 /cholesterol/PEG-Glu2C18=5/5/0.03, モ ル比) 25 1ををローダミン標識アルブミン水溶液 (10 mg/mL)で水和し、 高圧押 出法 (最終孔径 0.22 m)にてアルブミン内包リボソーム (以下、 ローダミン標 識アルブミン内包 pH応答性リボソームともいう) を調製した。
(共焦点顕微鏡によるアルブミン内包リボソームの細胞内動態解析)
細胞に取込まれた後のリボソーム内包物の放出挙動を解析するために、 細胞内 の動態観察を共焦点顕微鏡を用いて行った。 まず、 COS-7(アフリカミドリザル 腎細胞) 1 X 105 Cellsを 35 mmガラスボトムディッシュに播種し、 24時間培養 した (37。C、 5%C02)。 続いてダルベッコ改変イーグルス培地 (DMEM) (10%ゥ シ血清) で希釈した各リボソームを細胞に添加 ([lipid]=50 z g/diSh)し、 2 時間培 養した。 その後、 PBS (-)で 2 回洗浄後、 ライソトラッカー (450 nM)にてエンド ソ一ムまたはリソゾームを染色し、 共焦点顕微鏡 (LSM5Pascal, Carl Zeiss Co.,Ltd.)にて内包ローダミン標識アルブミン (赤)とエンドゾーム (緑)の局在を観 察した。 また、 CCD-32SK細胞についても、 MEM 培地に置換し、 同様に細胞 に取り込まれたリボソームの動態観察を行った。 観察結果を図 5に示した。
図 5からわかるように、 ローダミン標識アルブミン内包 pH応答性リポソーム は、 アルブミン単独で局在している箇所が見られ、 アルブミンがエンドゾームか ら脱出していることが示唆された。 このことから pH応答性リボソームは、 リポ ソ一ム内のアルブミンを細胞質へ送達できることが示された。
〔実施例 4〕
siRNA内包リポゾームの調製
実施例 1 で得られた化合物 3 ( 20 mg ) を 0.1%DEPC ( diethyl pyrocarbonate) 水溶液に分散させた 10 nmol/mL siRNA(21 bp)水溶液 500 β Lで 6 時間水和させた後、 高圧押出法 (最終孔径 0.22 ii m)にて siRNA内包リポ ゾームを調製した。 また、 siRNA を添加していないことを除いて、 上記と同様 の方法で siRNAを内包しないリボソームを調製した。
(siRNA内包 pH応答性リボソームによるルシフェラ一ゼ合成阻害評価) ルシフェラーゼ夕ンパク合成遺伝子が恒常的に発現する CHO細胞を作製し、 siRNA 内包リポソーム添加後の、 RNAi による合成阻害に関する評価を行った。 ルシフェラーゼ発現 CHO細胞 5 X 104 cellsを 12wellsプレートに播種し、 24 時間培養した (37。C、 5%C02)。 その後、 siRNA 内包リボソームを血清存在下で 細胞に添加([lipid]=100 または 200 /2 g/well)し、 24 時間培養した(37。C、 5%C02)。 PBS (-)で 2 回洗浄後、 細胞を可溶化し、 基質添加後の発光強度を測定 しルシフェラーゼ発現量を算出した。 その結果を図 6に示した。 なお、 コント口 ールは、 培地のみを添加した場合とした。 図 6中、 siRNA 内包リボソームを siRNA (+)、 siRNAを内包しないリポソ一ムを siRNA (-)と表記した。
図 6からわかるように、 添加量の増大とともにルシフエラーゼの発現量が有意 に減少し、 [Lipid]=100 ^ g/well で約 50%、 [Lipid]=200 n g/well で約 75%のル シフェラーゼ合成阻害が達成された。 このことは、 すなわち、 pH 応答性リポソ ームが siRNAをェンドソームから細胞質へ脱出させ、 siRNAによりルシフェラ ーゼの合成阻害が起こり、 細胞に発現していたルシフェラ一ゼ量のノックダウン に寄与したことを意味する。 この結果より、 本発明の分子集合体が RNAi を利 用した遺伝子治療に有用な運搬体であることが示された。
(pH応答性リポソームの毒性評価)
pH応答性リボソームの毒性評価を WST Assayを用いて行った。 ルシフェラ ーゼ発現 CHO細胞 1 X 104 Cellsを 96 wellsプレー卜に播種し、 24時間培養し た (37で、 5%C02)。 その後、 リボソームを血清存在下で細胞に添加 ([lipid]=5, 10,
20 または 40 11 g/well)し、 24 時間培養した(37 °C、 5%C02)。 続いて DMEM(10%FBS)で 2 回洗浄後、 WST1/ECS 試薬 (ImmimoKontact社)を添加 した。 1時間培養 (37で、 5%C02)した後、 450 nmにおける吸光度をプレートリ —ダ一にて測定した。 細胞生存率 (Cell survival)は下記の式を用いて算出し、 そ の結果を図 7に示した。
τ -I
Cell survival % = ~ ―
■Moo 1o
Ιο : 細胞なし 1100 '. リボソーム添加無し Ιχ ·. リボソーム添加有り 図 7からわかるように、 ρΗ 応答性リボソームでは、 脂質添加量 [Lipid] x g/mL 力 S 20 a g/well以下では、 細胞の生存率がほぼ 100%であり、 40 g/well 添加系における細胞生存率はほぼ 70%であった。 細胞試験は 96 wellプレートで 実験したが、 ルシフェラーゼ活性測定は 12 wellプレートで実験した。 よって毒 性評価の結果を 12 wellで換算すると 200 / g/well添加時では細胞毒性は全く示 されていないと類推できる。 よって、 細胞質でのルシフェラーゼの発現の減少は リボソーム膜脂質由来の毒性からではなく、 pH 応答性リボソームにより送達し た siRNAに由来した結果であるといえる。
〔実施例 5〕
牛血清アルブミン (BSA)内包 pH応答性リボソームの in vivo体内動態試験 BSA 内包 pH 応答性リボソームのラッ卜血漿及び組織中における化合物 3の 濃度測定を行った。 BSA 内包 pH 応答性リボソームのラッ卜血漿及び組織中に おける化合物 3の濃度を LC/MS/MSにより測定した。
なお、 pH 応答性リボソームの体内動態解析として以下の分析装置を利用した。 遠心機: MX-301 (トミ一精ェ)
HPLC: LC-20A システム (島津製作所)
システムコントローラー; SCLlOAvp
ポンプ; LC-20AD
デガッサー; DGU-20A3
オードインジェクター; SIL-20AC
カラムオーブン; CTO-20AC
MS: API2000 (Applied Biosystems/MDS SCIEX)
イン夕一フエ一ス; Turbolon Spray
(投与実験)
混合脂質 (化合物 (3)/cholesterol/PEG-Glu2C18=5/5/0.03 (mol)) から高圧押出 法にて pH応答性リボソームを調製した。 粒子径は 200-250 nmになるように調 製した。 また内水相に BSAを内包した。 調製した pH応答性リボソームをエー テル麻酔下、 SD系ラット (ォス、 体重 300 g以下) の尾静脈から、 pH応答性 リボソーム ([Lipid] = 20 mg/mL) を 2 ml/kgで投与した。 ラット使用例数を N=3 とする。 投与前、 投与後 5分、 1、 2、 6、 24時間に採血 (500 u h程度) を行い、 遠心 (2,000 x g、 20分) して血漿を得 (リボソーム浮遊血漿) 、 これ を- 80°Cで保存した。 また、 投与後 24 時間の採血を終えた後、 肝、 脾、 肺、 腎 を摘出して湿重量を測定し、 -80°Cで保存した。 その後、 臓器湿重量の 4 倍量の 生理食塩水でホモジネー卜した.
(測定用サンブルの調製方法)
•検量線および LC-MS分析用サンプル
10 Lの血漿及び肝臓ホモジネ一ト溶液に対して 100 x Lの GGLG標準溶液 を添加するところまで行ったものを検量線測定用サンプルとした。
•試料測定用サンプル
10 i Lの血漿及び臓器ホモジネ一ト溶液に対して lOO Lのメタノールを添加 するところまで行ったものを試料測定用サンプルとした。
上記測定用サンプルに内部標準物質 ( l,5-dihexadecyl - glutamyl-L- glutamate ( a Glu-Glu2Ci6)) 添加溶液 (900 i L) を加え、 ポルテックス攪拌し た後、 室温にて 10 分間以上静置させた。 その後、 再度ポルテックス攪拌し、 4で、 10,000 x gで 15分間遠心分離して、 その上清を LCバイアルに移した。
高速液体クロマ トグラフ (HPLC ) —タンデム質量分析計 (MS/MS )
(LC/MS/MS)
HPLC条件
カラムに CAPLCELLPAK Cis MG (株式会社資生堂) (3 m、 2.0 X 50mm) を用い、 カラム温度は 40°Cに設定した。 0.1%酢酸水溶液 (A)— 0.1 %酢酸メ夕ノ —ル (B)でグラジェント溶出させた。 流速は 0.25 mL/分でグラジェントプロダラ ムは表 2に示したとおりである。 なお、 オートインジェクター温度は 15°Cとし、 ニードル洗浄液は洗浄ポンプをクロ口ホルム/メタノール (1 : 1) 洗浄ポートを メタノールで行った。 表 2
MS/MS条件
HPLCで分離した溶離液を positive ESIイオン化し、 MRMモードで測定し た。 パラメ一夕は表 3に示したとおりである。
表 3
内部標準物質として化合物 3に構造が近似した次式で示される a GluGlu2Ci6 を用いた。
aGluGlu2Cl6 血漿及び製剤中の化合物 3 (GGLG)の濃度
血漿測定用検量線検体を測定し、 1/x2の重み付け, Quadratic で 1-300 g/mL血漿の検量線を作成した。 得られた検量線の式に血漿測定用検体のピーク エリア/ IS ピークエリアを代入して血漿中の化合物 3の濃度を算出した。 その結 果を表 4に示した。 図 8は、 この結果をグラフで示したものである。 なお、 図 8 中、 (―◊一) は animal 1、 (--□--) は animal 2、 (— -△-— ) は animal 3 の結果をそれぞれ示す。 PKパラメ一夕は表 5に示したとおりである。
P T/JP2008/059499
表 4 化合物 3 (GGLG)の血漿中濃度
血漿中 GGLG濃度 ( 11 g/mL)
animal 1 animal 2 animal 3 平均値 標準偏差
Pre N.D. N.D. N.D. -
5min 105.30 153.13 136.28 131.57 24.25
lhr 44.72 62.44 53.49 53.55 8.86
2hr 25.81 39.28 28.50 31.20 7.13
6hr 8.39 10.20 8.12 8.90 1.13
24hr 1.02 1.20 1.17 1.13 0.0940
N.D. ;定量下限未満
表 5 : PKパラメータ
animal 1 animal 2 animai 3 平均
Tmax (hr) 0.083 0.083 0.083 0.083
Cmax (ug/mL) 105.31 153.13 136.30 131.57
AUC(hr*ug/mL) 266.21 364.43 296.59 309.08
tl/2(hr) 5.032 4.31 5.18 4.84
LC/MS/MS 測定における血漿中の化合物 3の濃度から、 化合物 3の半減期は 4.8時間であることがわかった。 以上の結果により、 化合物 3を含有する pH応 答性リポソームが良好な血中滞留性を示すことがわかつた。
(組織中の化合物 3 (GGLG)の濃度)
組織測定用検量線検体を測定し, 1/x2の重み付け, Quadratic で 1-100 g/ml の検量線を作成した。 得られた検量線の式に組織測定用検体のピークエリ ァ /IS ピークエリアを代入して組織中の化合物 3の濃度を算出した (組織ホモジ ネートの比重を 1 g/mLとして計算) 。 結果を表 6に示した。 なお、 図 9は、 こ の結果をグラフにしたものである。
表 6 化合物 3の組織中濃度 ( x g / g)
animal上 animal 2 animal 3 平均 標準偏差 腎臓 N.D. N.D. N.D. - - 肺 5.60 5.02 6.17 5.60 0.58 肝臓 110.32 64.38 55.62 76.78 29.38 脾臓 30.35 33.45 36.7 33.53 3.22
N.D.;定量下限未満
LC/MS/MS測定における投与 24時間後の臓器中の化合物 3の分布は主に肝臓、 脾臓に局在していた。 これは通常のリボソーム製剤の臓器分布と同じであった。 化合物 3が腎臓あるいは肺にはほとんど局在していないことから、 pH 応答性リ ポソ一ムが血中滞留性を有することを示している。 従って、 pH 応答性リポソ一 ムは臓器を標的とした薬物、 プローブ、 核酸及びタンパク質の運搬体として有用 であることがわかる。
〔実施例 6〕
p H応答性両親媒性分子の合成
実施例 1の工程 (A) で得られた化合物 1 (1.0 g, 1.67 mmol) と、 トリェチル ァミン (202 mg, 2.0 mmol)をジクロロメタン 30 mLに溶解し、 1時間室温で撹 拌した。 その後、 ァァミノ基を t-ブトキシカルボニル (Boc)基、 εアミノ基をべ ンジルォキシカルポニル (Ζ)基で保護し、 力ルポキシル基を -ヒドロキシスクシ ンイミドにより活性化させたリジン (617 mg, 1.4 mmol)を添加し、 さらに 6時間 室温で撹拌した。 反応終了後、 溶媒を減圧除去し、 クロ口ホルムに溶解して、 炭 酸ナトリウム飽和水溶液で 3 回洗浄した。 クロ口ホルム層を硫酸マグネシウム で脱水し、 ろ過後、 溶媒を減圧除去した。 残留物はメタノールから 4 °Cで再結 晶し、 グラスフィルタ一 (G6)ろ過して凍結乾燥後、 化合物 4を得た。
化合物 4
化合物 4を TFA処理して Boc基を脱保護し、 クロ口ホルムに溶解し、 炭酸ナ トリウム飽和水溶液で 3 回洗浄した。 純水にて洗浄後、 クロ口ホルム層を硫酸 マグネシウムで脱水し、 ろ過後、 溶媒を減圧除去し、 化合物 5を得た。
化合物 5 化合物 5 (500 mg、 0.58 mmol) とトリエチルァミン(71 mg、 0.70 mmol)を ジクロロメタン 30 mL に溶解し、 1 時間室温で撹拌した。 その後、 αアミノ基 を Boc基、 ァカルポキシル基を OtBu基で保護し、 力ルポキシル基を N—ヒ ドロキシスクシンイミドにより活性化させたグルタミン酸 Boc-Glu(OtBu)-OSu (310 mg、 0.7 mmol)を添加し、 さらに 6時間室温で撹拌して反応させた。 反応 終了後、 溶媒を減圧除去し、. クロ口ホルムに溶解して、 炭酸ナトリウム飽和水溶 液で 3 回洗浄した。 クロ口ホルム層を硫酸マグネシウムで脱水し、 ろ過後、 溶 媒を減圧除去した。 残留物はメタノールから 4 でで再結晶し、 グラスフィル夕 一 (G6)ろ過して、 凍結乾燥後化合物 6を得た。
化合物 6
化合物 6を H2 /Pd-Black存在下で、 Z基を脱保護し、 アミノ基を Boc基、 jS力ルポキシル基を OtBu 基で保護し、 α力ルポキシル基を Ν- ヒドロキシス クシンイミ ドにより活性化させたァスパラギン酸 Boc-Asp(OtBu)-OSu を反応さ せ TFAにて脱保護し、 化合物 7 (Ia-2)を得た。
化合物 7(Ia-2)の同定:
薄層クロマトグラフィー(シリカゲル、 クロ口ホルム/メタノール (5/1) (容量/容 量) : Rf: 0·05(モノスポット))
iH-NMR(CDCl3, 500 MHz, δ (ppm)): 0.88 (t, 6H, -CH3); 1.30 (br, 52H, alkyl); 1.62 (m, 4H, COO-CH2-CH2-); 4.28 (q, IH, lys α -CH-) ; 4.47 (q, IH, glu a - CH-COO-);
化合物 Ί を得る方法と同様にして、 Boc-Glu(OtBu)の代わりに Boc- Asp(OtBu)-OSu を用い、 Boc-Asp(OtBu)-OSu の代わりに Boc-Glu(OtBu)を用 いて化合物 8 (Ia-4)を合成した。
化合物 8(Ia-4)の同定:
薄層クロマトグラフィー(シリカゲル、 クロ口ホルム/メタノール (5/1) (容量/容 量) : : 0·07(モノスポット))
!H-NMRCCDC^, 500 MHz, δ (ppm)) : 0.84(t, 6H, -CH3) ; 1.23 (br, 52H, alkyl); 3.68, 3.94 (t, 1H, glu -CH-Lys-); 4.34(q, 1H, lys α -CH-); 4.60 (q, 1H, glu a -CH-COO-) 実施例 1の工程 (B) で得られた化合物 2 (500 mg, 691 mmol)とトリェチル ァミン(107 1, 829 mmol) をジクロロメタン 30 mLに溶解し、 1時間室温で撹 拌した。 その後、 アミノ基を Boc 基、 ;6力ルポキシル基を t-ブチルエステル基 で保護し、 -力ルポキシル基を -ヒドロキシスクシンイミドにより活性化 させたァスパラギン酸 Boc-Asp(OtBu)-OSu (639 mg、 1.45 mmol)を添加し、 さ らに 6時間室温で撹拌して反応させた。
反応終了後、 溶媒を減圧除去し、 クロ口ホルムに溶解して、 炭酸ナトリウム飽 和水溶液で 3 回洗浄した。 クロ口ホルム層を硫酸マグネシウムで脱水し、 ろ過 後、 溶媒を減圧除去した。 残留物はメタノールから 4 °Cで再結晶し、 グラスフ ィルター (G6)ろ過して、 アミノ基を保護したリジン誘導体を得た。
得られたリジン誘導体にトリフルォロ酢酸 (20 mL)を加え、 4 で 2時間撹拌 した。 反応終了後、 溶媒を減圧除去し、 クロ口ホルムに溶解して、 炭酸ナトリウ ム飽和水溶液で 2 回洗浄した。 クロ口ホルム層を硫酸マグネシウムで脱水し、 ろ過後、 溶媒を減圧乾燥して、 本発明の両親媒性分子である化合物 9 (Ia-3) を 白色粉末として得た。
化合物 9 (Ia-3)の同定:
薄層クロマトグラフィー(シリカゲル、 クロ口ホルム/メタノール (5/1) (容量/容 量) :: f : 0.15(モノスポット))
!H-NMRCCDCls, 500 ΜΗζ、 δ (ppm)) : 0.83(t, 6H, -CH3) ; 1.24 (br, 52H, alkyl); 3.64, 3.88 (t, IH, Asp a -CH-Lys-); 4.33 (q, IH, lys a -CH-); 4.61 (q, IH, Asp Qi -CH-COO-)
〔実施例 7〕
リボソームの調製
化合物 7, 8または 9 (0.177 mmol)、 コレステロール (0.179 mmol)、 PEG- Glu2Ci8 (l-0 mol)をベンゼンに溶解させ、 凍結乾燥して混合脂質を調製した。 この混合脂質 20 mgを注射用水 1 mLに分散し、 6 時間攪拌後、 高圧押出法 (最 終孔径 0.22 m)にて粒子径約 240 nmのリボソームを調製した。
調製したリボソーム([lipid]=10 mg/ml)を pH 7.4, 7, 6, 5, 4の酢酸緩衝液 (20 mM)に添加し、 最終濃度を [lipid]=l rag/mL として 37でにおけるゼ一タ電位を
測定した。
化合物 9 (Ia-3) を主成分として用いた場合、 この脂質組成の混合脂質を水に 分散させた際に凝集し、 高圧押出時にろ過されてしまったと考えられる。 おそら く親水部にァスパラギン酸を用いた脂質は、 水和しにくいと考察できる。
これに対して、 化合物 7を主成分として用いた場合、 及び化合物 8を主成分と して用いた場合はリボソームを形成した。 図 1 0中、 (像) は化合物 7を主成分 とするリボソーム (化合物 7 /cholesterol/PEG-Glu2Cl8(5/5/0.03 (モル比))のゼ一 夕電位変化を示し、 (〇) は化合物 8を主成分とするリボソーム (化合物 8 /choles terol/PEG-Glu2Cl8(5/5/0.03 (モル比))のゼ一夕電位変化を示す。 化合物 7 (Ia-2 )を主成分としたリボソームでは、 ゼ一夕電位がマイナスからプラスへの転じる p Hがおよそ 5.5程度であつたのに対し、 化合物 8 (Ia-4)を主成分とするリボソーム ではその pHは 4.8程度であつた。 この結果より親水部にグルタミン酸とァスパラ ギン酸とを用いた両親媒性分子はリボソームを形成し、 pH変化によりゼ一夕電 位が変化する P H応答性を示すことが明らかとなつた。
〔実施例 8〕
アルキル鎖長の異なる両イオン性脂質の合成
実施例 1の工程 (A) と同様の方法にて、 グルタミン酸とテトラデシルアルコ ールまたはステアリルアルコールを用いて、 アルキル鎖長が 14 または 18 であ る化合物 1 0 (l,5-tetradecyl-L-glutamate)及び化合物 1 1 (1,5-octadecyl-L- glutamate)をそれぞれ合成した。
化合物 1 0及び化合物 1 1を用いて、 アルキル鎖の異なるグルタミン酸を 2 個親水部に持つ化合物 1 2及び 1 3をそれぞれ合成した。
化合物 1 2
化合物 1 2の同定:
薄層クロマトグラフィ一(シリカゲル、 クロ口ホルム/メタノール (5/1) (容量/容
量) : Rf: 0.05(モノスポット))
!H-NMRCCDCls, 500 MHz、 <5 (ppm)) : 0.88(t, 6H, -CH3) ; 1.27 (br, 44H, alkyl); 1.55 (br, 4H, COO-CH2-CH2-), 4.34(q, 1H, lys -CH-); 4.44 (q, 1H, glu Q! -CH-COO-) 化合物 1 3の同定:
薄層クロマトグラフィー(シリカゲル、 クロ口ホルム/メタノール (5/1) (容量/容 量) : Rf: 0.04(モノスポット))
!H-NMRiCDCls, 500 ΜΗζ、 δ (ppm)) : 0.88(t, 6H, -CH3) ; 1.27 (br, 60H, alkyl); 1.65 (br, 4H, COO-CH2-CH2-), 4.12 (t, 1H, glu -CH-Lys-); 4.35 (q, 1H, glu -CH-COO-); 3.60 (t, 4H, COO-CH2-CH2-)
〔実施例 9〕
リボソームの調製ならびにゼー夕電位及び融合度の測定
化合物 3、 1 2または 1 3を構成成分とするリボソームをそれぞれ調製し、 得 られたリボソームを用いてゼ一夕電位及び融合度を測定し、 物性を比較した。
(リボソームの調製)
化合物 3、 1 2または 1 3 (0.177 mmol)、 コレステロール (0.179 mmol)、 PEG-Glu2Cis (1.0 ^ mol)をベンゼンに溶解させ、 凍結乾燥して混合脂質を調製 した。 この混合脂質 20 mgを注射用水 1 mLに分散し、 6 時間攪拌後、 高圧押 出法 (最終孔径 0.22 ^ m)にて粒子径約 240 nmのリボソームを調製した。
(ゼ一夕電位測定)
調製した各リポソーム([lipid]=10 mg/ml)を pH 7.4, 7, 6, 5, 4の酢酸緩衝液 (20 mM)にそれぞれ添加し、 最終濃度を [lipid]=l mg/mLとして 37 °Cにおけるゼー 夕電位を測定した。 その結果を図 1 1に示す。 図中、 (參) は化合物 3を主成分 とするリポソーム (化合物 3 /cliolesterol/PEG-Glu2Cl8(5/5/0.03 (モル比))のゼー 夕電位変化を示し、 (〇) は化合物 1 2を主成分とするリボソーム(化合物 7
/cholesterol/PEG-Glu2C18 (5/5/0.03 (モル比))のゼ 夕電位変化を示す。
化合物 1 3を主成分として用いた場合、 混合脂質を調製した後、 水に分散させ た際に分散性が悪く、 凝集し、 高圧押出時にろ過されてしまった。 疎水部の大き な化合物 1 3は、 この脂質組成では親一疎水パランスが悪く、 小胞体構造をとり にくいためであると考えられる。 これに対して、 化合物 3を主成分として用いた 場合、 及び化合物 1 2を主成分として用いた場合はリボソームを形成した。 化合 物 3を主成分としたリボソームでは、 ゼ一タ電位がマイナスからプラスへの転じ る pHがおよそ 5.7程度であつたのに対し、 化合物 1 2を主成分とするリポソ一 ムではその pHは 7.0程度であった。 これによりリボソーム膜成分である両親媒 性分子の親水部構造が同じ場合でも、 疎水部のアルキル鎖長によってゼ一夕電位 挙動が変わることが判明した。
(融合度測定)
実施例 2と同様の方法で、 ァニオン性リボソーム (DOPC/DPPG, 5/1 (モル比)) に対する p H応答性リボソームの融合度を算出した。 測定方法は以下のとおりで ある。 1 mMのァニオン性リボソームと 9 mM (混合脂質換算)の各 pH応答性リ ポゾームをそれぞれ 50 /i Lを 1.9 mLの各 pHの酢酸緩衝液に添加し、 37°Cで 静置した。 30 min経過後、 100 mLを分注し 1.9mLの HEPES緩衝液 (pH7.4) に加え、 石英セルに移し蛍光測定(A ex: 460 nm, λ era: 530 rnn)した。 測定は、 Shimadzu社製の型式 RF-5300PCを用いて行った。 結果を図 1 2に示す。
化合物 3を主成分としたリボソームでは、 従来の報告どおり p H7.4では 15% 程度の融合度であつたが、 pH5.5で融合度が極大値をとり、 その値は 60%程度で あった。 他方、 アルキル鎖長が 14である化合物 1 2を主成分としたリボソーム では pH7.4でも融合度が 45%程度と高く、 また融合の極大は pH6.5で 65%を超え ていた。
ゼ一夕電位測定結果を考慮すると、 化合物 1 2は中性領域でもゼ一夕電位がプ ラスとなり、 さらには相転移温度が低いことから、 ァニオン性のリボソームに融 合しやすいものと考察される。
〔実施例 1 0〕
siRNA内包リボソームのルシフェラーゼ合成阻害評価
( siRNA内包リボソームの調製)
従来用いられている脂質組成である、 ジパルミトイルホスファチジルコリン (DPPC)/cholesterol/DHSG/PEG-Glu2C18 (5/5/1/0.033, モル比) 力、 ら成る siRNA 内 包 ま た は 未 内 包 リ ボ ソ ー ム 群 ( リ ボ ソ ー ム 1 )、 aGluGlu2 C 16/cholesterol/PEG- Glu2 C 18(5/5/0.03, モル比)から成る siRNA 内 包または未内包リボソーム群(リボソーム 2 )をそれぞれ調製し、 これらを本発明 の化合物 3を主成分とする化合物 3 /cholesterol/PEG(5/5/0.03, モル比)から成る siRNA 内包または未内包リボソーム群(リボソーム 3 )と比較した。 尚、 aGluGlu2Cl6(l,5-hexadecyl- - glutamyl-L-glutamate)は、 実施例 5でも述べ たとおり下記式で示される親水部に両イオン性官能基を一つ有する化合物である。
aGluGlu2C16 ここで用いた l,5-hexadecyl - succinyl-L-glutamate(DHSG)は負電荷脂質で あり、 ジパルミトイルホスファチジルコリン (DPPC)はリン脂質である。
以下のようにして、 ルシフェラーゼ夕ンパク合成遺伝子が恒常的に発現する CHO細胞に、 各 siRNA内包リボソーム添加した後の RNAi による合成阻害に 関する評価を行った。 まず、 ルシフェラーゼ発現 CHO 細胞 5 X 104 Cells を 12wells プレートに播種し、 24 時間培養した (37°C、 5%C02)。 その後、 siRNA 内包リボソームを血清存在下で細胞に添加([lipid]=200 ^ g/well)し、 24 時間培 養した (37で、 5%C02)o PBS (-)で 2 回洗浄後、 細胞を可溶化し、 基質添加後の 発光強度を測定し、 ルシフェラーゼ発現量を算出した。 その結果を図 1 3に示し た。 なお、 コントロールは、 培地のみを添加した場合とした。 図中、 siRNA 内
包リボソームを siRNA (十)、 siRNA を内包しないリポソ一ムを siRNA (-)と表記 した。
ルシフェラ一ゼ発現 CHO細胞のみでは、 ルシフェラーゼ発現量が 4.2 X 104 RLU/ g-protein 程度であった。 これに対し siRNA 内包リボソーム 1 (DPPC/cholesterol/DHSG/PEG-Glu2C18)ではやや発現量が低下したが、 siRNA 未内包リボソーム 1添加時の発現量とほぼ同等であった。 よってリボソーム 1で は内包した siRNAによる阻害は起きていないと判断した。
一方、 siRNA内包リボソーム 2 (otGluGlu2C16/cholesterol/PEG-Glu2C18)あ るいはリボソーム 3 (GGLG/cholesterol/PEG-Glu2Cl8)では、 コントロ一ル群 と比較してそれぞれ 15、 70%程度のルシフェラーゼ合成阻害が確認された。 siRNA未内包リボソーム群では、 この阻害が起きていないことから、 この結果 は、 内包した siRNA によりルシフェラーゼの合成阻害が起こったことを意味し ている。 さらに、 siRNAデリバリーの効率はリボソーム 2よりもリボソーム 3 の方が優れていた。 産業上の利用可能性
本発明の分子集合体は、 薬物、 プローブ、 核酸及びタンパク質等をエンドソ一 ム内から細胞質側へ効率よく放出させる運搬体として有用であり、 各種疾患治療 用の製剤として利用価値が十分にあると考えられる。