明 細 書
テントウムシ科の昆虫を含む生物農薬
技術分野
[0001] 本発明は天敵昆虫を利用した生物農薬に関する。詳しくは、本発明はテントウムシ 科の昆虫を含む生物農薬、該生物農薬に利用されるテントウムシ科の昆虫の作出方 法などに関する。
背景技術
[0002] 農作物の約 3分の 1を消失させるといわれる病害虫の防除には化学農薬が主に使 用されてきた。しかしながら、環境への負荷が大きいことや耐性の獲得の問題など、 化学農薬には様々な弊害や問題がある。これを克服するため、天敵昆虫を利用した 生物学的な害虫防除法が試みられている。その一例としてテントウムシを利用した生 物農薬が実用化されており、これまでに世界レベルで害虫防除に用いられてきた。し 力しながら、テントウムシの成虫のように飛翔して分散する性質の昆虫は持続的な効 果が得られ難!ヽという問題があり、周囲の生態系に影響を与える危険性もあった。 尚、テントウムシを利用した生物農薬に関するものではないが、生物農薬に関連す る文献を以下に列挙する。
特許文献 1:特開 2003— 79271号公報
特許文献 2 :特開 2002— 47116号公報
特許文献 3:特開 2005 - 272353号公報
発明の開示
発明が解決しょうとする課題
[0003] 上記の通り、テントウムシを利用した生物農薬は効果の持続性の面、及び生態系へ の影響の面で問題を抱えて 、た。
そこで本発明は、持続性に優れ、効果的な害虫防除が可能となることに加え、生態 系への影響も少ない、テントウムシを利用した生物農薬、及びそれに利用されるテン トウムシの作出法を提供することを主たる課題とする。
課題を解決するための手段
[0004] 上記課題に鑑み本発明者らは、テントウムシの翅形成に必須の二つの遺伝子、即 ち翅形成のマスター遺伝子であるべステイジアル遺伝子及びそのコファクターをコー ドするスカロブト遺伝子に注目した。そして、標的遺伝子の発現を特異的に阻害する RNA干渉法 (RNAi法)を利用し、これらの遺伝子の発現抑制と翅形成との関係を調 ベた。具体的には-ジユウャホシテントウを実験モデルとし、べステイジアル遺伝子及 びスカロブト遺伝子の配列に基づき合成した二本鎖 RNAを幼虫体に注射し、その効 果を検証した。その結果、これらの遺伝子の発現を抑制することによって、翅形成が 不全となり飛翔不可能な成虫を効率的に作出することができるとの知見を得た。また 、各遺伝子の発現抑制と翅形成との関係、及び遺伝子の発現抑制の時期と翅形成と の関係について詳細に検討した結果、有意義かつ興味深い知見を得るに至った。さ らに、べステイジアル遺伝子の発現抑制による翅形成への影響 (効果)力 ナミテント ゥを用いた実験にぉ 、ても確認された。
本発明は主として以上の知見に基づくものであり、本発明の第 1の局面は以下の生 物農薬を提供する。
[ 1]べステイジアル遺伝子及び Z又はスカロブト遺伝子の発現抑制によって翅形成 が不全となったテントウムシ科の昆虫を含む生物農薬。
[2]前記発現抑制が、べステイジアル遺伝子及び Z又はスカロブト遺伝子を標的とし た RNAi法による発現抑制である、 [1]に記載の生物農薬。
[3]前記 RNAi法が dsRNAの投与により行われる、 [2]に記載の生物農薬。
[4]前記発現抑制が前記昆虫の幼虫期に行われる、 [1]〜 [3]の 、ずれかに記載の 生物農薬。
[5]前記昆虫が、テントウムシ亜科に属するテントウムシである、 [1]〜[4]のいずれ かに記載の生物農薬。
[6]前記昆虫がナミテントウである、 [1]〜 [4]の 、ずれかに記載の生物農薬。
[0005] 一方、本発明の第 2の局面は、生物農薬として有用なテントウムシの作出法及びそ れによって得られるテントウムシを提供する。
[7]べステイジアル遺伝子及び Z又はスカロブト遺伝子の発現抑制を行うことを特徴 とする、翅形成が不全となったテントウムシ科の昆虫の作出法。
[8]前記発現抑制が、べステイジアル遺伝子及び Z又はスカロブト遺伝子を標的とし た RNAi法による発現抑制である、 [7]に記載の作出法。
[9]前記 RNAi法が dsRNAの投与により行われる、 [8]に記載の作出法。
[10]前記発現抑制が前記昆虫の幼虫期に行われる、 [7]〜 [9]の 、ずれかに記載 の作出法。
[11] 2齢期〜 4齢期の幼虫に対して、べステイジアル遺伝子を標的とした dsRNAを投 与して前記発現抑制を行う、 [7]に記載の作出法。
[12] 1齢期〜 2齢期の幼虫に対して、スカロブト遺伝子を標的とした dsRNAを投与し て前記発現抑制を行う、 [7]又は [11]に記載の作出法。
[13]前記昆虫が、テントウムシ亜科に属するテントウムシである、 [7]〜[12]のいず れかに記載の作出法。
[14]前記昆虫がナミテントウである、 [7]〜 [ 12]の 、ずれかに記載の作出法。
[15] [7]〜 [14]のいずれかに記載の作出法で作出される、テントウムシ科の昆虫。 図面の簡単な説明
[図 1]ナミテントウの幼虫の形態を成長段階毎に模式的に示す図。
[図 2]-ジユウャホシテントウのべステイジアル遺伝子 (vg)の全長 cDNA配列及びそれ がコードする推定アミノ酸配列を示す図。
[図 3]-ジユウャホシテントウのスカロブト遺伝子(sd)の cDNA部分配列及びそれがコ ードする推定アミノ酸配列を示す図。
[図 4]-ジユウャホシテントウの幼虫に対する RNAi (larval RNAi法)実験の結果。 Ev- vg(a-d): vgの二本鎖 RNAを各幼虫期に注射して得られた表現型、 Ev-sd(e-h): sdの 二本鎖 RNAを各幼虫期に注射して得られた表現型、 Ev-vg+Ev-sd(i-l): vgの二本鎖 R NA及び sdの二本鎖 RNAを各幼虫期に注射して得られた表現型、 gft)(m-p) : gii)の二 本鎖 RNAを各幼虫期に注射して得られた表現型 (対照)。
[図 5]ナミテントウの幼虫に対する RNAi (larval RNAi法)実験の結果。 Ha-vg:vgの二 本鎖 RNAを幼虫期に注射して得られた表現型。 glp: gft)の二本鎖 RNAを幼虫期に注 射して得られた表現型 (対照)。
[図 6]ナミテントウの幼虫に対する RNAi (larval RNAi法)実験の結果。 sdの二本鎖 RN
Aを幼虫期に注射して得られた表現型。
発明を実施するための最良の形態
[0007] 本発明の生物農薬は、特定の遺伝子の発現抑制によって翅形成が不全となったテ ントウムシ科 (Coccinelidae)の昆虫を含む。
本発明にお 、て用語「発現抑制」は、「発現阻害」や「機能阻害」と置換可能な用語 として用いる。また、本明細書では説明の便宜上、テントウムシ科の昆虫を総称する 用語として「テントウムシ」を用い、本発明の生物農薬を構成することになるテントゥム シを「本発明のテントウムシ」と呼ぶ。
[0008] 「生物農薬」とは一般に、生物を用いた農薬をいい、化学農薬と峻別される。生物 農薬の中でも天敵生物を用いたものは「天敵農薬」と呼ばれる。本発明の生物農薬 はこの天敵農薬に該当する。生物農薬はその本質的な特徴によって一般に化学農 薬に比較して有効期間が短い。特に昆虫を用いた生物農薬の場合はこの傾向が顕 著であるといわれる。本発明の生物農薬では天然のテントウムシを利用した場合に比 較して大幅な有効期間の延長が図られるとともに、その使用に伴う生態系への影響 を効果的に抑えることができる。つまり、持続的な効果を発揮できる点及び安全性が 高い点に本発明の最大の特徴がある。
[0009] テントウムシ科の昆虫として、テントウムシ亜科に分類されるナミテントウ、カメノコテ ントウ、ヒメカメノコテントウ、ナナホシテントウ、ダンダラテントウ、シロホシテントウ及び キイ口テントウ、ヒメテントウムシ亜科に分類されるアミダテントウ、クチビルテントウムシ 亜科に分類されるョッボシテントウ、ァカホシテントウ及びヒメァカホシテントウ、マダラ テントウ亜科に分類されるニジユウャホシテントウ、才才ニジユウャホシテントウ及びト ホシテントウ等を例示することができる。本発明の生物農薬における昆虫は、好ましく は、一般に益虫とされるテントウムシ亜科に属するテントウムシである。具体的には、 ナミテントウ、カメノコテントウ、ヒメカメノコテントウ、ナナホシテントウ、ダンダラテントウ 、シロホシテントウ及びキイ口テントウ等が好ましい。ナミテントウ、カメノコテントウ、ヒメ カメノコテントウ、ナナホシテントウ及びダンダラテントウは肉食性であり、アブラムシゃ カイガラムシ等を捕食する。また、シロホシテントウ及びキイ口テントウは菌食性であり 、うどんこ病菌などを捕食する。特に好ましくは、本発明の生物農薬における昆虫は
ナミテントウである。
[0010] 本発明にお 、て「翅形成が不全となった」とは、正常な翅形成が行われず、飛翔能 力に障害を来した状態をいう。ここでの「障害」の程度は、天然の(野生型)対応する テントウムシとの間で飛翔能力に優劣の差が認められる限り特に限定されない。好ま しくは、本発明に係るテントウムシは実質的な飛翔能力を有しな 、。
[0011] テントウムシの飛翔能力の有無又は程度は例えば、所定期間放置したときの飛翔 回数や移動距離を計測することによって評価できる。この評価系を用いて試験対象 のテントウムシと、対応する野生型のテントウムシとの間で飛翔能力を比較すれば、 試験対象のテントウムシの飛翔能力がどの程度の障害を受けているかを判定するこ とができる。具体的には、試験対象のテントウムシと、対応する野生型のテントウムシ とをそれぞれ同条件下で落下させ、飛翔の有無及び Z又は飛翔距離の観点から両 者を比較することによって、試験対象のテントウムシの飛翔能力を評価することができ る。尚、「対応するテントウムシ」とは、同種のテントウムシのことである。例えば、本発 明に係るテントウムシがナミテントウテントウの場合、野生型のナミテントウが「対応す るテントウムシ」となる。
以上のような試験系によってテントウムシの飛翔能力を確実に評価 ·判定することが できる。一方、翅の形態観察によってテントウムシの飛翔能力を推定することもできる 。例えば、形態観察の結果、翅が認められない場合や、翅が認められるもののその 大きさが極度に小さぐ実質的に翅として機能しないと判断される場合などであれば、 当該テントウムシは飛翔能力を実質的に有しないと評価 ·判定することができる。
[0012] 本発明にお ヽて発現抑制の対象となる遺伝子はべステイジアル遺伝子 (vestigial、 本明細書では必要に応じて略称「vg」を使用する)及びスカロブト遺伝子 (scalloped, 本明細書では必要に応じて略称「sd」を使用する)である。即ち、これらの遺伝子のい ずれか又は両方の発現抑制によって、翅形成が不全となったテントウムシを作出し、 得られたテントウムシを本発明の生物農薬として用いる。
べステイジアル遺伝子は、ショウジヨウバエにぉ 、て翅形成のマスター遺伝子として クロー-ングされた遺伝子である。べステイジアル遺伝子は有翅昆虫に必須の遺伝 子と考えられる力 保存性の低さから他の生物種でそのクローユングに成功したとの
報告はほとんどな 、。本発明者らのグループではショウジヨウバエや蚊のべステイジ アル遺伝子の配列情報を基に-ジユウャホシテントウのべステイジアル遺伝子のクロ 一-ングに成功したことを報告している (修士論文「昆虫翅形成遺伝子の単離と機能 解析」、名古屋大学大学院生命農学研究科、生物機構,機能科学専攻、三輪雅代、 2002年 3月)。 -ジユウャホシテントウのべステイジアル遺伝子(cDNA)及びそれがコ ードするアミノ酸配列をそれぞれ配列番号 1及び配列番号 2に示す。本発明者らは 同様の手段でナミテントウのべステイジアル遺伝子の部分配列のクローユングにも成 功した。ナミテントウのべステイジアル遺伝子 (cDNA部分配列)及びそれがコードする アミノ酸配列をそれぞれ配列番号 5及び配列番号 6に示す。
特定のテントウムシのべステイジアル遺伝子のクローユングは先の報告 (修士論文「 昆虫翅形成遺伝子の単離と機能解析」、名古屋大学大学院生命農学研究科、生物 機構'機能科学専攻、三輪雅代、 2002年 3月)又は後述の実施例を参考にして行うこ とができる。簡単に説明すれば、幼虫期の翅原基からの全 RNAの抽出、一本鎖 cDN Aの合成、特異的プライマーを用いた RT-PCR、を経て目的のべステイジアル遺伝子 を得ることができる。
一方のスカロブト遺伝子はべステイジアル遺伝子と同様に翅形成に必須の遺伝子 としてクロー-ングされた遺伝子であり、ショウジヨウバエ等においてその存在が確認 されている。スカロブト遺伝子はべステイジアル遺伝子と協同して翅形成に関与する と考えられて 、る。本発明者らのグループでは-ジユウャホシテントウのスカロプト遺 伝子 (部分配列)のクローユングに成功したことを報告して 、る (修士論文「昆虫翅形 成遺伝子の単離と機能解析」、名古屋大学大学院生命農学研究科、生物機構,機 能科学専攻、三輪雅代、 2002年 3月)。 -ジユウャホシテントウのスカロブト遺伝子 (cD NA部分配列)及びそれがコードするアミノ酸配列をそれぞれ配列番号 3及び配列番 号 4に示す。本発明者らは同様の手段でナミテントウのスカロブト遺伝子の部分配列 のクロー-ングにも成功した。ナミテントウのスカロブト遺伝子(cDNA部分配列)及び それがコードするアミノ酸配列をそれぞれ配列番号 15及び配列番号 16に示す。 べステイジアル遺伝子と同様、特定のテントウムシのスカロブト遺伝子のクローニン グも先の報告 (修士論文「昆虫翅形成遺伝子の単離と機能解析」、名古屋大学大学
院生命農学研究科、生物機構 ·機能科学専攻、三輪雅代、 2002年 3月)又は後述の 実施例を参考にして行うことができる。簡単に説明すれば、幼虫期の翅原基力 の全 RNAの抽出、一本鎖 cDNAの合成、特異的プライマーを用いた RT-PCR、を経て目的 のスカロブト遺伝子を得ることができる。
[0014] べステイジアル遺伝子及びスカロブト遺伝子の発現抑制の手段は特に限定されな い。例えば、 RNAi法、アンチセンス法、又はリボザィムの使用による方法を採用する ことができる。これらの方法による場合、ゲノム中の遺伝子に影響を与えることなく目 的の遺伝子の発現を抑制することができる。これによつて、次世代への遺伝による生 態系への影響を実質的に伴うことのない生物農薬となる。このような特徴は、野外へ の放虫を伴う生物農薬として好ましい。
[0015] (RNAi法による発現抑制)
発現抑制手段として RNAi法を採用することが特に好ま 、。 RNAi法によれば特異 的且つ効果的な発現抑制を達成することができる。「RNAi」とは、標的遺伝子に相同 な(特に標的遺伝子に対応する mRNAに相同な)配列の RNAを標的細胞に導入する ことにより、標的遺伝子の発現が抑えられる現象をいう。
昆虫を対象とした RNAi法による発現抑制では通常、標的遺伝子 (本発明の場合べ ステイジアル遺伝子又はスカロブト遺伝子)の一部に相当する配列の dsRNA (二本鎖 RNA)が用いられる。一つの標的遺伝子に対して二種類以上の dsRNAを使用するこ とにしてちよい。
[0016] 哺乳動物細胞を標的とした RNAi法の場合は、 21〜23ヌクレオチド程度の短い dsR NA(siRNA)が用いられるが、昆虫細胞ではむしろ数百ヌクレオチド以上という長い ds RNAがより有効なものとして用いられる。 RNAi法に使用する dsRNAの長さは例えば 3 0ヌクレオチド以上、好ましくは 200ヌクレオチド以上である。効果的な発現抑制を引 き起こすためには dsRNAが好ま U、が、一本鎖 RNAの使用を妨げるものではな!/、。 使用する dsRNAは必ずしもセンス鎖とアンチセンス鎖の 2分子に分かれている必要 はなぐ例えば dsRNAを構成するセンス鎖とアンチセンス鎖がヘアピンループで連結 された構造の dsRNAであってもよ!/、。
[0017] dsRNAは、好ましくは dsRNA溶液の注入により標的生物(卵、幼虫、又は成虫)内に
導入される。但し、後述のように摂食を介した導入を行うことも可能である(Timmons L, Fire A: Specinc Interference Dy ingested dsRNA. Nature 395: 854, 1988 を参照)。さらには、 dsRNA溶液に幼虫を浸漬する方法 (Tabara H, Grishok A, M ello し RNAi in し. elegans: soaking in the genome sequence. Science 28 2: 430-431, 1998を参照)や、 dsRNA溶液に卵を浸漬する方法を採用してもよい。 尚、テントウムシを対象とした RNAiのプロトコルについては本発明者らの論文 (新美 輝幸ら、ナミテントウの RNAiプロトコル、細胞工学、 Vol.22 No.l pp80-85. 2003)が 参考になる。
[0018] dsRNAを直接 (そのままの状態で)標的生物内に導入するのではなぐ又はこの方 法に加えて、 目的の dsRNAをコードする DNA配列を挿入した発現ベクターを導入す ることにしてもよい。このように発現ベクターを利用した RNAiによれば例えば RNAi効 果の持続時間をコントロールすることが可能である。
[0019] RNAi法に使用する dsRNAは化学合成によって、又は適当な発現ベクターを用いて i n vitro又は in vivoで調製することができる。発現ベクターによる方法は、比較的長 い dsRNAの調製を行うことに特に有効である。 dsRNAの設計には通常、標的核酸に 固有の配列 (連続配列)が利用される。尚、適当な標的配列を選択するためのプログ ラム及びアルゴリズムが開発されて ヽる。
dsRNAの調製法の具体例は後述の実施例の欄に示される。
[0020] (アンチセンス法による発現抑制)
アンチセンス法による発現抑制を行う場合には通常、それが転写された際、標的遺 伝子に対応する mRNAの固有の部分に相補的な RNAを生成するアンチセンス ·コン ストラタトが使用される。このようなアンチセンス'コンストラクト(アンチセンス核酸ともい う)は例えば、発現プラスミドの形態で標的細胞に導入される。アンチセンス'コンスト ラクトとして、標的細胞内に導入されたときに、標的遺伝子の DNA配列又はそれに対 応する mRNA配列(以上をまとめて「標的核酸」とも 、う)とハイブリダィズしてその発現 を阻害するオリゴヌクレオチド 'プローブを採用することもできる。このようなオリゴヌク レオチド 'プローブとしては、好ましくは、ェキソヌクレアーゼ及び Z又はエンドヌクレ ァーゼなどの内因性ヌクレアーゼに対して抵抗性であるものが用いられる。
アンチセンス核酸として DNA分子を使用する場合、標的遺伝子に対応する mRNA の翻訳開始部位 (例えば- 10〜+10の領域)を含む領域に由来するオリゴデォキシリ ボヌクレオチドが好ましい。
[0021] アンチセンス核酸と標的核酸との間の相補性は厳密であることが好ましいが、多少 のミスマッチが存在して 、てもよ 、。標的核酸に対するアンチセンス核酸のハイブリダ ィズ能は一般に、両核酸の相補性の程度及び長さの両方に依存する。通常、使用す るアンチセンス核酸が長いほど、ミスマッチの数が多くても、標的核酸との間に安定な 二重鎖 (又は三重鎖)を形成することができる。当業者であれば、標準的な手法を用 V、て、許容可能なミスマッチの程度を確認することができる。
[0022] アンチセンス核酸は DNA、 RNA、若しくはこれらのキメラ混合物、又はこれらの誘導 体や改変型であってもよい。また、一本鎖でも二本鎖でもよい。塩基部分、糖部分、 又はリン酸骨格部分を修飾することで、アンチセンス核酸の安定性、ハイブリダィゼ ーシヨン能等を向上させることなどができる。
アンチセンス核酸は例えば市販の自動 DNA合成装置 (例えばアプライド 'バイオシ ステムズ社等)を使用するなど、常法で合成することができる。核酸修飾体や誘導体 の作製には例えば、 Stein et al.(1988), Nucl. Acids Res. 16:3209や Sarin et al ., (1988), Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 85:7448- 7451等を参照することができ る。
[0023] 標的細胞内におけるアンチセンス核酸の作用を高めるために、昆虫細胞内で強力 に作用するプロモーター(例えばァクチンプロモーターや ielプロモーター)を利用す ることができる。即ち、このようなプロモーターの制御下に配置されたアンチセンス核 酸を含むコンストラクトを標的細胞に導入すれば、当該プロモーターの作用によって 十分な量のアンチセンス核酸の転写を確保できる。
[0024] (リボザィムによる発現抑制)
本発明の他の一態様ではリボザィムによる発現抑制を行う。部位特異的認識配列 で mRNAを開裂させるリボザィムを用いて、標的遺伝子に対応する mRNAを破壊する こともできるが、好ましくはハンマーヘッド'リボザィムを使用する。ハンマーヘッド'リボ ザィムの構築方法については例えば Haseloff and Gerlach, 1988, Nature, 334:5
85-591を参考にすることができる。
アンチセンス法の場合と同様に、例えば安定性やターゲット能を向上させることを目 的として、修飾されたオリゴヌクレオチドを用いてリボザィムを構築してもよい。効果的 な量のリボザィムを標的細胞内で生成させるために、昆虫細胞で強力に作用するプ 口モーター(例えばァクチンプロモーターや ielプロモーター)の制御下に、当該リボ ザィムをコードする DNAを配置した核酸コンストラクトを使用することが好ましい。
[0025] ところで、後述の実施例に示すように、本発明者等の検討によって、各遺伝子の発 現抑制と翅形成との関係、及び遺伝子の発現抑制の時期と翅形成との関係が明らか となった。当該知見に基づき本発明の一態様では 2齢期〜 4齢期、好ましくは 3齢期 〜4齢、更に好ましくは 3齢初期〜 4齢初期、最も好ましくは 3齢後期の幼虫に対して べステイジアル遺伝子の発現抑制を行!ヽ(RNAi法による発現抑制を採用するのであ れば例えば、べステイジアル遺伝子を標的とした dsRNAを投与する)、翅形成が不全 となったテントウムシを得る。本発明の他の一態様では 1齢期〜 2齢期、好ましくは 1 齢期の幼虫に対してスカロブト遺伝子を標的とした同様の発現抑制を行う。また、ベ ステイジアル遺伝子とスカロブト遺伝子の発現抑制を行う場合には 1齢期〜 2齢期、 好ましくは 1齢期の幼虫に対して同様の操作を行う。
尚、本明細書において「発現抑制の時期」とは、「発現抑制の操作を行う時期」のこ とをいう。従って、注射による RNAi法の場合、注射の時期が即ち「発現抑制の時期」 であり、実際に生物内で発現抑制効果が生じる時期はそれよりも後になる。
[0026] テントウムシの幼虫期は 1齢期、 2齢期、 3齢期、及び 4齢期に分かれる。以下、図 1 に示すナミテントウの幼虫を例にとり、各齢期を説明する。 1齢期は孵卵直後の期間 であり、典型的には約 2日〜 4日程度の長さをもつ。 1齢期の幼虫は体長が短ぐ全 身が黒色である。 2齢期は 1齢期に続く期間であり、体節に模様が現れる時期である 。典型的には約 2日〜 4日程度の長さである。体節 A1に橙色の斑点があることによつ て 2齢期の幼虫であることを見分けることができる。 2齢期を経た幼虫は 3齢期にはい り、体節 A1〜A5にかけて周縁部に斑点を現す。 3齢期は通常、約 2日〜4日程度継 続する。 4齢期は幼虫期の最後の期間であり、幼虫が蛹になる準備期間として位置 付けることができる。 4齢期の幼虫は体長が大きぐ体節 A1〜A5にかけて周縁部に斑
点が認められるとともに、体節 Al、 A4、 A5では中央付近にも斑点が現れるという特徴 的な形態を示す。
尚、本明細書では各期間の最初の 1日〜 2日を当該期間の初期と呼び、同様に最 後の 1日〜 2日を当該期間の後期と呼ぶ。
[0027] 以上のように幼虫への注射により発現抑制を行うことによって、形質転換体による遺 伝子改変操作とは異なり、基本的には次世代に遺伝的な影響を及ぼさない。従って 本発明の生物農薬は生態系への影響が極めて少ないと言える。
[0028] 幼虫に対して、 RNAi法による発現抑制を行う場合、典型的には、 dsRNAを含む溶 液を幼虫に注入する。注入部位は特に限定されず、例えば胸部の体節間膜にガラス 針などを利用して注入すればよ!、。注入量 (液量)は幼虫の生存に影響のな 、範囲 で設定され、例えば 0. 2 1〜0. 5 1とする。導入する dsRNA量は、期待される発現 効果が得られるのに必要な量で且つ幼虫の生存に影響を与えない量とし、塩基長に よって変動するが概ね 0. 4 8〜1 8とすればよい。尚、べステイジアル遺伝子とス カロブト遺伝子の両者を発現抑制する場合は少なくとも二種類の dsRNAが使用され ることになる力 その量については合計の RNA量が上記の範囲内となるようにする。 尚、幼虫に対して注入操作で RNAiを引き起こす方法のことを本明細書では「larval RNAi法」とも呼ぶ。テントウムシを対象とした larval RNA法については、 T. Niimi, H. Kuwayama and T. Yaginuma: Larval RNAi Applied to the Analysis of P ostembryonic Development in the Ladybird beetle, Harmonia axyridis. Journa 1 of Insect Biotechnology and Sericology 74, 95- 102(2005)、及び新美輝幸-柳 沼利信 (2006)ナミテントウの larval RNAi法、日本比較内分泌学会-ユース、 121,32- 37が参考になる。
[0029] 本発明の一態様では、雌成虫から産生される次世代において翅形成が不全となる ように雌成虫に対して標的遺伝子の発現抑制を行う。 RNAi法を例にとれば、雌成虫 に対して所定の dsRNAを注入する。注入部位は好ましくは生殖器官の存在する腹部 とし、生殖細胞系列へ dsRNAが効率的に導入されるようにする。尚、このように成虫を 対象とした RNAi法のことを本明細書では「Parental RNAi法」とも呼ぶ。 larval RNAi 法では幼虫 1個体ずつへの注入操作が必要である力 Parental RNAi法によれば雌
成虫 1個体への注入操作によって、翅形成が不全のテントウムシを大量に得ることが 可能となる。
[0030] 本発明の他の一態様では、摂食を介した発現抑制を行う。具体的には例えば、標 的遺伝子に対する siRNAを人工飼料に混合し、幼虫に与える。このような摂食を介し た発現制御によれば簡易に目的のテントウムシ、即ち翅形成が不全のテントウムシを 得ることができる。
実施例
[0031] <翅形成が不全となった-ジユウャホシテントウの作出 >
1.べステイジアル遺伝子(vestigial: vg)、及びスカロプト遺伝子(scalloped: sd)のクロ 一ユング
先の報告 (修士論文「昆虫翅形成遺伝子の単離と機能解析」、名古屋大学大学院 生命農学研究科、生物機構 ·機能科学専攻、三輪雅代、 2002年 3月)に従い、以下 の方法でべステイジアル遺伝子 (vg)の cDNA (部分配列)及びスカロブト遺伝子(sd) の cDNA (部分配列)をクローユングした。尚、当該報告には、 -ジユウャホシテントウ を含め数種の昆虫より vgホモログ及び sdホモログの cDNA (部分配列)のクロー-ング に成功し、その塩基配列及び推定アミノ酸配列を決定したことが記載されて 、る。
(1)供試昆虫
ニンュゾャホシテントウ (Henosepilachna vigintioctopunctata。従来の'子名 ίま Epilac hna vigintioctopunctata) (名古屋大学大学院生命農学研究科圃場のジャガイモ葉 上より採集)を用いた。
(2) cDNAの調製
-ジユウャホシテントウ(Ev)の前蛹期の幼虫の翅原基より全 RNAを TRIZOL (Invitro gen)を用いた塩酸グァ-ジン法により抽出した。この RNAを铸型として、 SMART™ R ACE cDNA Amplification Kit (CLONTECH)に基づき、 Superscript II reverse tr anscriptase (Invitrogen)を用いて 1本鎖 cDNAを合成した。
(3) RT- PCR
上記の通り調製した 1本鎖 cDNAを铸型として、 Polymerase chain reaction (PCR) を行った。 PCRの Taq DNAポリメラーゼには Ampli Taq Gold (Applied Biosystems
)を用いた。 PCRに用いたプライマーを以下に示す。尚、配列中の Wは A+T、 Sは C+G 、 Yは C+T、 Rは A+G、 Iはイノシンをそれぞれ表す。
vgセンスプライマー;
vg-01: 5' -GTIWSITGYCCIGARGTIATGTA-3' (23mer、配列番号 7)
[0032] vgアンチセンスプライマー;
vg- 04: 5' -RTAYTGIGCCATRTTRTGRTGRTA-3' (24mer、配列番号 8)
[0033] sdセンスプライマー;
sd-01: 5' - GAYGCIGARGGIGTITGG- 3' (18mer、配列番号 9)
[0034] sdアンチセンスプライマー;
sd-04: 5' -TTYTCIARIACISWRTTCATCATRTA-3' (26mer、配列番号 10) [0035] PCRの条件は以下の通りとした。
(a) vg cDNA
酵素の活性化反応: 95°C、 9分
サイクル: 50
変性反応: 94°C、 1分
ァニール反応:49°C、 30秒
伸長反応: 72°C、3分
(b) sd cDNA
酵素の活性化反応: 95°C、 9分
サイクル: 50
変性反応: 94°C、 1分
ァニール反応:41°C、 30秒
伸長反応: 72°C、2分
[0036] (4) PCR産物の pBluescriptへのサブクロー-ング
各 RT- PCR産物をインサートとして pBluescript™KS(+) (pBS)の Eco RV認識部位に 挿入した。ライゲーシヨン反応は、 DNA Ligation Kit Ver. 2 (TaKaRa)を用いて行 つた。このライゲーシヨン反応液を、大腸菌 (XLl-Blue)への形質転換に用いた。この 形質転換した大腸菌培養液を LBプレートに引き、 37°Cで一晩培養した。ホワイトコロ
ニーを選出し、 PCR法を用いて目的の PCR断片が挿入されたクローンを選択した。こ のときの PCRの Taq DNAポリメラーゼには SIGMA Taq (SIGMA)を用い、プライマー は SKプライマーおよび KSプライマーを用いた。 PCRは 25サイクルを変性、 95°C/30秒 間;アニーリング、 55°C/30秒間;伸長、 72°C/30秒間の条件で行った。選択したクロ ーンを LB中で 37°Cでー晚振とう培養し、 FlexiPrep Kit (Amersham Biosciences)によ りキットのプロトコルに従ってプラスミド DNAを調製した。
以上のようにして、 vg-01と vg-04で増幅された RT-PCR産物(vg cDNA部分配列) 力 ¾coRVサイトにサブクロー-ングされた pBluescript KS+と、 sd-01と sd-04で増幅さ れた RT-PCR産物(sd cDNA部分配列)力 ¾coRVサイトにサブクローユングされた pBl uescript KS+を得た。尚、 vgの全長 cDNAの塩基配列(配列番号 1)及び推定アミノ酸 配列(配列番号 2)を図 2に示す。図 2において塩基番号 445-1141の配列力 サブク ローニングされた Vg cDNA部分配列に相当する。一方、 sdの cDNA部分配列(配列 番号 3)及びそれに対応する推定アミノ酸配列 (配列番号 4)を図 3に示す。図 3にお いて塩基番号 1-864の配列力 サブクローユングされた sd cDNA部分配列に相当す る。
[0037] 2. Larval RNAi法による vg及び Z又は sdの発現抑制効果
(1) RNA合成用の铸型の増幅
二本鎖 RNAを合成するための铸型には、クローユングした遺伝子 (vg cDNA部分 配列、 sd cDNA部分配列)の両末端に T7 RNAポリメラーゼのプロモーター配列を 付カ卩した PCR産物を用いた。この PCRを行う際には、上記のベクターにクローユングし たどの遺伝子にも共通して使用可能となるように、ベクター配列に T7 RNAポリメラー ゼのプロモーター配列を付カ卩した下記の PCRプライマーを使用した。
[0038] T7- KSプライマー: 列番号 11)
T7- SKプライマー:
' (配列番号 12)
PCRは下記の条件で行い、十分な PCR産物量を得るため、下記の反応チューブを 4 〜8本準備した。
[0039] (a)反応溶液
テンプレート DNA(20〜50 ng) + H O : 37.75 ,u l
2
10 X Buffer: 5 ^ 1
2 mM dNTP: 5 ^ 1
10 pmol/ml T7- KSプライマー: 1 1
10 pmol/ml T7- SKプライマー: 1 1
Ampn faq uold (Applied Biosystems): 0.25 μ 1
合計: 50 1
[0040] (b)反応条件
1stステージは 95°Cで 9分、 2ndステージは 94°Cで 60秒、 55°Cで 30秒、そして 72°Cで 60秒を 1サイクルとし、それを 40サイクル、 3rdステージは 72°Cで 7分、 4thステージは 4 °Cで∞の条件で PCRを行つた。
[0041] 上記の反応で得られた PCR産物をエタノール沈殿により濃縮した後、ァガロース電 気泳動に供し、続いて Mag Extractor (Toyobo)を用いてゲルから铸型 DNAを精製し た。得られる铸型 DNAの量は、通常下記の二本鎖 RNAの合成反応の数回分に相当 する。
[0042] (2)二本鎖 RNAの合成
上記铸型 DNAを 1 g用い、 MEGAscrtipt T7 Kit (Ambion)に従って RNAを合成し 、適量のヌクレアーゼ 'フリーの超純水に溶解した。
二本鎖 RNAのアニーリングを行うため、得られた RNA溶液を、ヒートブロックを用いて 65°C、 30分間インキュベートした後、 1〜2時間かけて室温に戻した。この二本鎖 RNA を少量用い、濃度測定およびァガロース電気泳動による確認を行った。合成が確認 された二本鎖 RNAは、インジェクション一回分ずつに小分けして- 80°Cで保存した。
[0043] (3)幼虫体への注射
Femtojet (Eppendorf)を用いたインジェクション装置を利用して、二酸化炭素で麻 酔した幼虫(1齢幼虫、 3齢初期幼虫、 3齢後期幼虫、 4齢初期幼虫)に二本鎖 RNAを
適量注射した。注射には、外径 lmmの芯入ガラス管(GDC- 1, Narishige)を用いた。 一個体当たり約 1 Hも / H 1の濃度の二本鎖 RNAを 0.5 μ 1程度 (約 0.5 μ g)注射した。 vg の二本鎖 RNAと sdの二本鎖 RNAを同時に注射する場合は、注射量がそれぞれ約 0.2 5 μ gとなるように調整した混合液を使用した。
注射操作後の幼虫を通常の条件下で飼育し、成虫になった段階で形態観察に供 した。形態観察の結果を図 4に示す。 a〜dは vgの二本鎖 RNAを各幼虫期に注射して 得られた表現型 (成虫)である(注射時期は順に 1齢期、 3齢初期、 3齢後期、 4齢初 期)。 aでは翅の多少の変形が認められる。 b〜dでは翅の大幅な変形及び萎縮を認 め、飛翔能力が重大な損傷を受けていることが窺える。
一方、 eは、 sdの二本鎖 RNAを 1齢幼虫に注射して得られた表現型 (成虫)であり、 痕跡的な翅しか認められず、飛翔能力が完全に欠落している。 vgの二本鎖 RNA及び sdの二本鎖 RNAを注射した場合 (i)も同様に飛翔能力が欠落して 、る。
f〜h (sdの二本鎖 RNAを 3齢初期、 3齢後期、 4齢初期に注射した場合)及び j〜l (v gの二本鎖 RNA及び sdの二本鎖 RNAを 3齢初期、 3齢後期、 4齢初期に注射した場合 )は蛹化直前に致死となり成虫にまで成長しな力つた。
以上の結果より、次の事項が導き出される。
(a) vgを標的とした RNAi及び sdを標的とした RNAiは 、ずれも、翅形成に実質的な影 響を与えることができる。換言すれば、これらの手段によれば飛翔能力が損傷ないし 欠落した成虫を得ることができる。
(b)二本鎖 RNAiの注射時期によって、翅形成への影響 (RNAiの効果)は大きく異な る。即ち、 vgを標的とした場合、若齢幼虫への注射は効果が低い。特に、 1齢幼虫へ の注射では高い効果を期待できず、 2齢期以降に注射することが好ましいと考えられ る。特に 3齢期〜 4齢期に注射した場合に高い効果を期待でき、中でも 3齢後期が最 も効果的な時期といえる。
(c) sdを標的とした場合は若齢期に注射することが好ましい。具体的には 3齢期前の 幼虫に注射することが好ましい。特に 1齢期が好ましいと考えられる。 1齢期に注射す ることによって完全に飛翔能力が欠落した成虫を得ることができる。一方、注射の時 期が遅いと致死的な影響を与える。
(d)vg及び sdの両者を標的とした場合は、 sdを標的とした場合と同様であり、若齢期( 特に 1齢期が好ましい)での注射によって完全に飛翔能力が欠落した成虫を得ること ができる。
以上のように、翅形成が不全の(飛翔能力に障害のある)テントウムシ成虫の作出 法として、 vg及び Z又は sdを標的とした larval RNAi法が有効であることが示された。 また、注射時期(RNAiの操作時期)が重要であることが判明するとともに、効果的に 翅形成を阻害することができる時期が明らかとなった。
[0044] <翅形成が不全となったナミテントウの作出 >
上記の-ジユウャホシテントウの場合と同様の手順(1. (1)〜(4) )で、ナミテントウ( Harmonia axyridis,野外採集したものを継代して使用)のべステイジアル遺伝子(ves tigial:vg)をクローユングした。但し、 cDNAを調製する際のサンプルに蛹化後一日の 蛹の前翅原基を用いたこと、及び RT-PCRに用いたプライマーセットが以下の vg5-vg 7であることが異なる。尚、配列中の Wは A+T、 Sは C+G、 Yは C+T、 Rは A+G、 Iはイノシ ンをそれぞれ表す。
vgセンスプライマー;
vg- 05: 5' -ATGTAYSRIGCITAYTAYCCITAYYTITA-3' (29mer、配列番号 13) vgアンチセンスプライマー;
vg- 07: 5' -SWRTTCCARAAISWIGGIGGRAARTT-3' (26mer、配列番号 14) [0045] クローユングに成功した、ナミテントウの vgの cDNA部分配列及びそれに対応する推 定アミノ酸配列をそれぞれ、配列表の配列番号 5及び配列番号 6に示す。このように して調製した cDNA配列を利用して vgの二本鎖 RNAを合成し、 Larval RNAi法による v gの発現抑制効果を調べた。尚、 Larval RNAi法も-ジユウャホシテントウの場合と同 様に行つ 7こ。
[0046] 形態観察の結果を図 5に示す。図の左及び中央は、 vgの二本鎖 RNAを 3齢中期幼 虫に注射して得られた表現型 (成虫)である。翅の大幅な変形及び萎縮を認め、飛翔 能力が重大な損傷を受けていることが窺える。この結果から、 vgを標的とした RNAiは 翅形成に実質的な影響を与えることができるといえる。
[0047] ナミテントウのスカロブト遺伝子についても、 -ジユウャホシテントウの場合と同様の
手順(1. (1)〜 (4) )でクローユングした。但し、サンプルに蛹化後一日の蛹の前翅 原基を用いた。 RT-PCRに用いたプライマーセットは以下の通りである。尚、 Larval R NAi法も-ジユウャホシテントウと同様の方法で行った。
sdセンスプライマー;
sd-01: 5' - GAYGCIGARGGIGTITGG- 3' (18mer、配列番号 9)
sdアンチセンスプライマー;
sd-04: 5' -TTYTCIARIACISWRTTCATCATRTA-3' (26mer、配列番号 10)
[0048] クローユングに成功した、ナミテントウの sdの cDNA部分配列及びそれに対応する推 定アミノ酸配列をそれぞれ、配列表の配列番号 15及び配列番号 16に示す。このよう にして調製した cDNA配列を利用して sdの二本鎖 RNAを合成し、 Larval RNAi法によ る sdの発現抑制効果を調べた。尚、 Larval RNAi法は-ジユウャホシテントウの場合 と同様に行った。
[0049] 形態観察の結果を図 6に示す。翅の大幅な変形及び萎縮が認められる。このように
、 sdを標的とした RNAiは翅形成に実質的な影響を与えた。
[0050] 以上のように、ナミテントウについても、翅形成が不全の (飛翔能力に障害のある)テ ントウムシ成虫の作出法として vg又は sdを標的とした larval RNAi法が有効であること が示された。
産業上の利用可能性
[0051] 本発明は、テントウムシを天敵とする害虫の防除に利用される。本発明の生物農薬 を構成するテントウムシは飛翔能力に障害を有する。従って本発明の生物農薬によ れば、飛翔による成虫の分散が効果的に抑制され、効率的且つ持続的な害虫防除 効果が得られる。
[0052] この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものでは ない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々 の変形態様もこの発明に含まれる。
本明細書の中で明示した論文、公開特許公報、及び特許公報などの内容は、その 全ての内容を援用によって引用することとする。