明 細 書
Bmallの発現誘導を促進する ROR a
技術分野
[0001] 本発明は、時計遺伝子の作用メカニズム及びその周辺技術に関する。より詳細に は、 Bmall (brain— muscle ARNT— like protein 1)の発現誘導を促進する R OR a (retinoic acid receptor― related orphan receptor)、並びに抗カ Sん 剤、時差ぼけ調整剤、それらの薬剤のスクリーニング方法などに関する。
背景技術
[0002] 概日リズム(サ一力ディアンリズム)は、約 24時間を周期とする生物リズムであり、単 細胞生物からヒトに至るまで、多くの生物に普遍的に見られる生体内現象である。各 生物は、概日リズムの制御に関わる遺伝子を有し、概日リズム制御遺伝子が、概日リ ズムの調整を行って 、る。
[0003] 哺乳類では、概日リズム制御遺伝子の発現量が脳視床下部の視交叉上核 (SCN) で特に高ぐ個体レベルでの概日リズム調整の中枢を担っている。一方、生体内のそ の他の組織 (概日リズム末梢組織)にお 、ても、概日リズム制御遺伝子は発現してお り、概日リズム中枢と同様に、概日リズム制御遺伝子による細胞 ·組織ごとの概日リズ ム調整が行われている。
[0004] 哺乳類における概日リズム制御遺伝子としては、 Per遺伝子(Perl、 Per2、 Per3) 、 Clock遺伝子、 Bmal遺伝子(Bmall、 Bmal2、 Bmal3)、 Cry遺伝子、 Rev—erb 遺伝子(Rev— erb a、 Rev—erb j8 )などが知られている。
[0005] そのうち、 BMAL1 (Bmall遺伝子の転写産物、以下同じ)は、 CLOCK (Clock遺 伝子の転写産物、以下同じ)と二量体を形成し、 E— box (Perl遺伝子のプロモータ 一領域)を介して、 Per遺伝子、 Cry遺伝子などの発現を活性化することが示唆され 飞いる ( ekakis, N. et al. Role of theし LOCK protein in the mammalian circadian mechanism." Science 280, 1564-9 (1998)など参照)。
[0006] また、 Bmall遺伝子は、 REV— ERB (Rev— erb遺伝子の転写産物、以下同じ)な どによって、発現が調節されることが示唆されている(Preitner, N. et al. "The orphan
nuclear receptor REV— ERBalpha controls circadian transcription within the positive limb of the mammalian circadian clock" Cell 110, 251—60 (2002)など参照)。
[0007] ここで、本発明にかかわりのあるタンパク質、 ROR a (retinoic acid binding -r eceptor alpha,以下同じ)について、説明する。 ROR aは、 RORA (Rar— relate d orphan receptor A)などとも呼ばれるタンパク質で、 ROR a 1、 ROR o; 4など のスプライシングバリアントが明らかになつている。なお、「スプライシングバリアント」は 、同一遺伝子に由来する、アミノ酸配列の一部が異なったタンパク質のことであり、ス プライシングの際のつながり方が異なるために生じる。
[0008] また、 ROR aは、低酸素状態にお!、て、発現が促進されることが報告されて!、る (C hauvet, C. et al. 'Retinoic acid receptor-related orphan receptor (ROR)alpha4 is th e predominant isoform of the nuclear receptor RORalpha in the liver and is up— regul atea by hypoxia in HepG2 human hepatoma cells." Biochem J364, 449-56 (2002)参 照)。
[0009] 哺乳類における概日リズムの調節メカニズムは、特に、未解明な部分が多 、。一方 、概日リズムは、睡眠、覚醒だけでなぐ体温調節、ホルモン分泌など、生物の恒常 性や体内調節機構にも深くかかわつていることが示唆されている。また、がんをはじ めとする多くの疾患の発症機構にも関与している可能性がある。
[0010] そこで、本発明は、概日リズムの調節メカニズムのうち、未解明な部分を明らかにす ることを主な目的とする。
発明の開示
[0011] 本発明者らは、 ROR a (retinoic acid binding -receptor alpha、以下同じ) 力 Bmallの発現誘導を促進すること、及び、低酸素状態において、 Bmallの発現 誘導が促進されること、を新規に見出した。
[0012] そこで、本発明では、 Bmallの発現誘導を促進する ROR a、及び、低酸素状態で
、 Bmallの発現誘導を促進する ROR o;、を提供する。
[0013] 本発明は、次のような概日リズムの調節メカニズムの存在を強く示唆する。
[0014] 低酸素状態などで、 ROR aの発現が促進されると、 Bmallの発現誘導が促進され る。 Bmallの発現誘導が促進されると、 BMAL1と CLOCKとの結合が促進され、 Pe
r遺伝子及び Z又は Cry遺伝子の発現誘導が促進される。
[0015] また、本発明では、 ROR a力 REV— ERB a又は REV— ERB βと競合的に、 Β mallの発現誘導を促進することを、新規に見出した。従って、本発明は、 ROR aと R EV— ERBの両者が Bmallの発現誘導を調節することにより、概日リズムを調整する メカニズムの存在をも強く示唆する。
[0016] 本発明により、 ROR aと Bmallのプロモーター領域 (RORE)との相互作用が明ら 力になった。従って、 Bmallの発現リズムの変調などにより、概日リズムの変調が引き 起こされた場合、本発明により、概日リズムを調整できる可能性がある。
[0017] 例えば、 ROR aを抑制する物質は、時差ぼけ調整剤としての適用可能性がある。
その他、概日リズムが変調した場合として、例えば、睡眠障害、覚醒障害、不眠症、 自律神経失調症、うつ病、老人性痴呆、夜間勤務,交代勤務など生活リズムの不規 則化による体調の悪化、自閉症などにおける生活リズムの不規則化による消耗、など が挙げられる。これらの疾患に対しても、本発明は適用可能性がある。
[0018] カロえて、本発明は、抗がん剤として、適用できる可能性がある。
[0019] 一般に、がん組織では、低酸素状態に陥ることが多い。また、例えば、夜間勤務に よる看護婦などの乳がん発生率上昇などは、概日リズムの変調が誘因であると指摘さ れている。
[0020] それに対し、本発明では、低酸素状態において、 Bmallの発現誘導が促進される ことを明らかにした。従って、 ROR o;を抑制する物質は、抗がん剤として、適用できる 可能性がある。
[0021] その他、本発明は、 DNAチップ、プロテインチップ、概日リズムの変調を検出する ためのマーカーとしての使用、抗がん剤又は時差ぼけ調整剤のスクリーニング方法 などに適用できる可能性がある。
[0022] 本発明により、 ROR o;が Bmallの発現誘導を促進することが明らかになつたため、 本知見に基づき、概日リズムを調整できる。
図面の簡単な説明
[0023] [図 1]図 1は、概日リズムの調節メカニズムを示す図。
[図 2]図 2は、各組織における、 Rev— erb α、 Ror α、 Bmallの発現パターンを示す
図。
[図 3]図 3は、培養細胞 NIH3T3における、 Rev— erb α、 Ror α、 Bmallの発現パタ ーンを示す図。
[図 4]図 4は、 ROR a力 ¾malの発現を誘導したことを示す図。
[図 5]図 5は、 ROR a 4の発現量の増大に伴い、 Bmalの発現誘導も促進されることを 示す図。
[図 6]図 6は、 ROR aと REV—ERBタンパク質が、 Bmalのプロモーター領域に競合 的に作用することを示す図。
[図 7]図 7は、 ROR aのドミナントネガティブ変異体の存在下で細胞を培養した場合 の、 Bmal発現量の概日変化を示す図。
[図 8]図 8は、作製した組換えベクターの配列を示す図。
[図 9]図 9は、 Bmallの上流領域の長さをかえた場合における、 ROR aによる Bmal の発現誘導レベルを示す図。
[図 10]図 10は、 Bmallの上流領域の長さをかえた場合における、 Bmal発現量の概 日変化を示す図。
[図 11]図 11は、プルダウン法による、ウェスタンプロット写真(図面代用写真)。
[図 12]図 12は、 15日間、 12時間ごとに明条件と暗条件を繰り返した後、暗条件でフ リーラン(自由継続)させた場合のァクトグラム。
[図 13]図 13は、 15日間、 12時間ごとに明条件と暗条件を繰り返した後、飼育環境を
24時間暗条件にした場合の、マウスの概日周期を取得した図。
[図 14]図 14は、 15日間、 12時間ごとに明条件と暗条件を繰り返した後、暗条件の開 始時刻を 4時間早め、時差のある状態にした場合のァクトグラム。
[図 15]図 15は、 15日間、 12時間ごとに明条件と暗条件を繰り返した後、環境条件を
、6時間ごとに明条件と暗条件を繰り返す環境に変化させた場合のァ外グラム。
[図 16]図 16は、 RNA干渉により、 ROR aの発現を抑制した場合の、 Bmalの発現誘 導を示す図。
[図 17]図 17は、マウス胚繊維芽細胞の ROR a遺伝子欠損変異体を用いた場合の、 Bmal発現誘導の概日変化を示す図。
[図 18]図 18は、マウス胚繊維芽細胞の ROR a遺伝子欠損変異体を用いた場合に おける、定量的リアルタイム RT— PCRによる、 Bmal発現量の概日変化を示す図。
[図 19]図 19は、アンチセンスを用いて ROR aの発現を抑制した場合における、 Bma 1の発現誘導を示す図。
[図 20]図 20は、低酸素状態において、 Bmalの発現誘導が促進されたことを示す図。 発明を実施するための最良の形態
[0024] <本発明に係る ROR aにつ 、て >
はじめに、本発明に係る ROR o;について、以下説明する。
[0025] 本発明に係る ROR aは、 ROR a 1、 ROR a 4などのスプライシングバリアントを有 する。ヒトにおける ROR a 1のアミノ酸配列を配列番号 1に、 ROR a 4のアミノ酸配列 を配列番号 2に記載する。また、マウスにおける ROR o; 1のアミノ酸配列を配列番号 3に、 ROR a 4のアミノ酸配列を配列番号 4に記載する。
[0026] なお、本発明に係る ROR aは、 ROR a 1、 ROR a 4、若しくは前記いずれかのタン パク質のアミノ酸配列と相同性を有し、 Bmallのプロモーター領域 (RORE)と相互 作用する領域を保持するタンパク質である。即ち、例えば、前記いずれかのタンパク 質の他のスプライシングバリアントや、前記いずれかのタンパク質のアミノ酸配列中の 一部に、置換、欠損、挿入、付加部分が含まれる場合も、本発明に係る ROR aに包 含される。
[0027] <本発明に係る概日リズムの調節メカニズムについて >
続いて、 ROR aに関わる概日リズムの調節メカニズムについて、図 1を参照にしな がら、以下説明する。
[0028] 本発明により、 ROR aは、 Bmallのプロモーター領域 (ROREs)に結合し、 Bmall の発現誘導を促進することが明らかになった。従って、次のような概日リズムの調節メ 力-ズムが存在すると推測される。
[0029] 低酸素状態などにより、 ROR aの発現が促進されると、 ROR aは、 Bmallのプロ モーター領域 (ROREs)に作用し、 Bmallの発現誘導を促進する。発現した BMAL 1は、 CLOCKと二量体を形成し、 E—box (Per遺伝子、 Cry遺伝子などのプロモー ター領域)を介して、 Per遺伝子、 Cry遺伝子の発現誘導を促進する。発現した PER
(Per遺伝子の転写産物)及び CRY (Cry遺伝子の転写産物)は、概日リズムの形成 に直接的に関与する。
[0030] なお、図中、「RE a Z j8」は、 REV— ERBを示す。 REV— ERBは、 Bmallのプロ モーター領域 (ROREs)に、 ROR o;と競合的に結合し、 Bmallの発現を抑制すると 考えられている。
[0031] また、図中、「Ligand」は、 ROR aの発現を促進又は抑制する物質である。上記の 通り、 ROR o;の発現は、概日リズムの調整に深く関わる。従って、その物質 (ligand) をスクリーニングすることにより、新規時差ぼけ調整剤、抗がん剤などを探索できる。 即ち、本発明に係る概日リズムの調節メカニズムに基づいて、スクリーニング系を構 築できる。
[0032] <本発明に係る ROR aを抑制する物質にっ 、て >
続ヽて、本発明に係る ROR aを抑制する物質 (ROR aを抑制する物質を少なくと も含有する抗がん剤'時差ぼけ調整剤など)について、以下説明する。
[0033] 後述する実施例において、概日リズムがシフトした場合 (明条件の開始時間が変更 された場合など)、 ROR aの発現を抑制することにより、通常よりも早ぐ新しい概日リ ズムに同調できる、という結果が得られた。従って、本発明に係る ROR o;を抑制する 物質は、時差ぼけ調整剤としての適用可能性がある。
[0034] また、本発明では、低酸素状態において、 Bmallの発現誘導が促進されることを明 らかにした。一方、上述の通り、がん組織では、低酸素状態に陥ることが知られている
。従って、本発明に係る ROR aを抑制する物質は、抗がん剤として、適用できる可能
'性がある。
[0035] ROR aを抑制する物質として、例えば、抗 ROR a抗体、 ROR aのコード配列の一 部を有する siRNA、アンチセンス核酸などが挙げられる。
[0036] 抗 ROR a抗体は、 ROR aと特異的に結合することにより、 ROR aの機能を抑制す る。
[0037] siRNA (short interfering RNA)は、 RNA干渉によって遺伝子発現を抑制す る、短い二本鎖 RNAである。 ROR aのコード配列の一部を有する siRNAは、 ROR aの発現を抑制するため、 ROR aの機能を抑制できる。
[0038] アンチセンス核酸は、 ROR aのコード配列の一部を有する核酸で、人工的に合成 されたもの、安定ィ匕するために修飾'カ卩ェなどを施したもの、を広く包含する。アンチ センス核酸は、 ROR aの転写産物(mRNA)と相補的に結合することにより、 ROR a の発現を抑制するため、 ROR aの機能を抑制できる。
[0039] 抗 ROR a抗体、 siRNA、アンチセンス核酸は、 、ずれも、公知方法により、作製で きる。
[0040] <本発明に係る DNAチップ、プロテインチップについて >
続いて、本発明に係る DNAチップ及びプロテインチップについて、以下説明する。
[0041] ROR aをコードする遺伝子の塩基配列を有する核酸、又は、前記遺伝子の一部分 の塩基配列を有する核酸は、 DNAチップに適用可能である。 DNAチップにそれら の核酸を固定することにより、例えば、血液中や所定の組織中の ROR o;発現量を検 出できるため、概日リズムの変調などの検出に、有用な可能性がある。 DNAチップ への核酸の固定は、公知方法により行うことができる。
[0042] 同様に、 ROR aと特異的に結合する抗体は、プロテインチップに適用可能である。
プロテインチップに、この抗体を固定することにより、例えば、血液中や所定の組織中 の ROR a発現量を検出できるため、概日リズムの変調などの検出に、有用な可能性 がある。プロテインチップへの抗体の固定も、公知方法により行うことができる。
[0043] <本発明に係る概日リズムの変調を検出するためのマーカーとしての使用につ!/ヽ て >
続いて、本発明に係る概日リズムの変調を検出するためのマーカーとしての使用に ついて、以下説明する。
[0044] 上述の通り、本発明に係る ROR αは、概日リズムを調整するメカニズムにお 、て、 重要な役割を果たしているため、概日リズムの変調を検出するためのマーカーとして 使用できる可能性がある。具体的には、例えば、血液中や所定の組織中の ROR a 量を ELISA法 (公知方法)などで検出し、 ROR a発現量の変調を検出することにより 、概日リズムの変調を検出できる可能性がある。
[0045] <本発明に係るスクリーニング方法にっ ヽて >
続いて、本発明に係るスクリーニング方法の一例について、以下説明する。
[0046] ROR aを抑制する物質を探索することにより、スクリーニングを行う場合、例えば、 反応系に標的物質を供給した後、 ROR aと Bmallのプロモーター領域 (RORE)と の相互作用を検出することにより、 目的の物質を探索できる。即ち、反応系に標的物 質を供給することにより相互作用が抑制された場合、その標的物質は、抗がん剤又 は時差ぼけ調整剤として有効な可能性がある。
[0047] スクリーニング方法の具体例として、例えば、予め、 Bmallのプロモーター領域 (R ORE)のオリゴヌクレオチドを、カラム、ビーズなどに固定しておき、 ROR aと標的物 質を供給した後、 ROR o;と Bmallのプロモーター領域 (RORE)との相互作用を検 出する方法、が考えられる。その場合、相互作用を検出する方法として、例えば、共 免疫沈降法、カラム又はビーズを用いたプルダウン法、などを適用できる。
[0048] なお、本発明に係るスクリーニング方法は、キットィ匕が可能である。その場合、例え ば、 ROR a、 Bmallのプロモーター領域(RORE)のオリゴヌクレオチド、抗 ROR a 抗体、相互作用検出試薬 (共免疫沈降法、カラム又はビーズを用いたプルダウン法、 ウェスタンプロットなどに用いる試薬)、などを、相互作用検出方法などに応じて適宜 組み合わせ、キットィ匕する。その場合、前記タンパク質及びオリゴヌクレオチドは、変 異体を用いてもよい。
実施例 1
[0049] 実施例 1及び実施例 2では、予備的実験として、 Rev—erb α、 Ror α、 Bmallの発 現パターンを調べた。
[0050] 実施例 1では、マウス力も複数の組織を採取し、それらの組織における、 Rev—erb α、 Ror α、 Bmallの発現パターンを調べた。
[0051] 実験手順の概要は次の通りである。
[0052] (1)まず、実験に用いたマウスの概日リズムを同調させた。マウスを、 2週間、 8時か ら 20時まで明条件、 20時から翌 8時までを暗条件にした部屋で飼育し、マウスの概 日リズムを同調させた。
[0053] (2)次に、マウスカも概日リズム末梢組織として、肝臓、心臓、腎臓、肺、胃を所定 の時刻に採取した。なお、各臓器の採取時刻は、概日リズムの同調を行った直後の 8 時から、 4時間ごとに設定した(8時、 12時、 16時、 20時、 24時、翌 4時)。
[0054] (3)次に、採取した各臓器をホモジナイズ後、 Promega total SV RNA Isola tion Kit (Promega社製)を用いて、各臓器から total RNAを抽出した。
[0055] (4)次に、定量的リアルタイム RT— PCR (定量的リアルタイム逆転写ポリメラーゼ反 応)を行 、、 Rev-erb α、 Ror α、 Bmallの各遺伝子の発現量を測定した。
[0056] 結果を図 2に示す。
[0057] 図中、「liver」は肝臓を、「heart^¾心臓を、「kidney」は腎臓を、「lung」は肺を、「 stomach」は胃を、それぞれ示す。
[0058] 各グラフ中、横軸「ZT (Zeitgeber Times)」は、概日時間を示す。また、縦軸「rel ative mRNA abundance」は、相対的な発現量(発現レベル)を示す。なお、縦軸 の発現量の値は、ハウスキーピング遺伝子 GAPDH (GlycerAldehyde— 3— Phos phate DeHydrogenase)の発現量を 1とした場合の相対的な値である。
実施例 2
[0059] 実施例 2では、培養細胞 NIH3T3における、 Rev— erb α、 Ror α、 Bmallの発現 パターンを、実施例 1と同様の手順で調べた。
[0060] 結果を図 3に示す。
[0061] 図中、横軸は、概日時間を示す。また、縦軸「relative mRNA abundance」は、 相対的な発現量 (発現レベル)を示す。なお、縦軸の発現量の値は、実施例 1と同様 、ハウスキーピング遺伝子 GAPDH (GlycerAldehyde— 3— Phosphate DeHydr ogenase)の発現量を 1とした場合の相対的な値である。
[0062] 以上、実施例 1及び実施例 2より、各組織における、 Rev-erb α、 Ror α、 Bmall の 3つの遺伝子の発現パターンを確認できた。
実施例 3
[0063] 続いて、実施例 3及び実施例 4は、 ROR aが Bmallの発現を誘導するかどうかを、 ルシフェラーゼアツセィにより調べた実験である。
[0064] 「ルシフェラーゼアツセィ」の概要について、以下説明する。
[0065] ルシフェラーゼは、生物発光を触媒する酵素タンパク質である。
[0066] 例えば、所定の遺伝子のプロモーター領域とルシフェラーゼをコードする遺伝子と を連結させた組換え遺伝子を作製し、その組換え遺伝子を培養細胞に組み込んだ
場合、その遺伝子の発現が誘導されると、ルシフェラーゼが発現する。
[0067] そこで、ルシフェラーゼによる生物発光を測定し、ルシフェラーゼの発現レベルを取 得することにより、その遺伝子の発現誘導レベルを推定することができる。
[0068] 実施例 3では、 RORファミリータンパク質 (ROR a 1、 ROR a 4、 ROR jS、 ROR y ) 1S Bmallの発現を誘導するかどうかを、ルシフェラーゼアツセィにより調べた。
[0069] 実験手順の概要を以下に示す。
[0070] (1)まず、ルシフェラーゼ発光ベクター pGL3 basic (Promega社製)に、 Bmall のプロモーター領域を組み込んで、組換えベクターを作製した。この組換えベクター は、 Bmallのプロモーター領域とルシフェラーゼ遺伝子をコードする領域を有する。
[0071] (2)また、発現ベクター pcDNA3 (Invitrogen社製)に、 RORファミリータンパク質 をコードする DNA配列を組み込んで、組換えベクターを作製した。
[0072] (3)次に、(1)及び(2)で作製した組換えベクターを、共に、培養細胞 NIH3T3にト ランスフエクシヨンした。次に、トランスフエクシヨンした培養細胞を、単離'継代し、両 たんぱく質を共発現させた。そして、トランスフエクシヨンの 36時間後に、継代した細 胞を集め、溶解させた。
[0073] (4)次に、 Dual Luciferase Assay System (Promega社製)を用いて、溶解さ せた細胞溶液を調製した後、発光強度を測定し、 Bmallの発現誘導レベルを取得し た。
[0074] 結果を図 4に示す。
[0075] 図中、「BM— Luc」は、 Bmallのプロモーター領域とルシフェラーゼ遺伝子をコー ドする領域を有する組換えベクターを、「ROR α 1」は、 ROR a 1をコードする DNA 配列を組み込んだ組換えベクターを、「ROR a 4」は、 ROR a 4をコードする DNA配 列を組み込んだ組換えベクターを、「ROR β」は、 ROR βをコードする DNA配列を 組み込んだ組換えベクターを、「ROR y」は、 ROR yをコードする DNA配列を組み 込んだ組換えベクターを、それぞれ示し、「 +」は、それらの組換えベクターを、培養 細胞に組み込んだことを表す。
[0076] 縦軸「relative luc activity は、発光強度を表す。この値は、「: BM— Luc」のみ を培養細胞に組み込んだ場合の発光強度を「 1」とした場合の相対値である。
[0077] 図 4に示す結果は、 RORファミリータンパク質、特に、 ROR a 1及び ROR a 4力 B mallの発現を誘導することを強く示唆する。
実施例 4
[0078] 実施例 4では、 ROR a 4の発現レベルを変動させた場合、 Bmallの発現誘導レべ ルも変動するかどうかについて調べた。
[0079] 実験は、実施例 3と同様の方法により行った。
[0080] なお、糸且換えベクターを培養細胞にトランスフエクシヨンする際、 ROR a 4をコード する DNA配列を組み込んだ組換えベクターの添カ卩量を、それぞれ、 0 (コントロール )、 1、 5、 10、 25、 50、 lOOngとした。
[0081] 結果を図 5に示す。
[0082] 図中、「BM—Luc」は、 Bmallのプロモーター領域とルシフェラーゼ遺伝子をコー ドする領域を有する組換えベクターを示し、「 +」は、組換えベクターを、培養細胞に 組み込んだことを表す。
[0083] 「ROR a 4」は、 ROR a 4をコードする DNA配列を組み込んだ組換えベクターを示 し、数字は、トランスフエクシヨンの際の、組換えベクターの添加量 (単位は ng)を表す
[0084] 縦軸「relative luc activityは、発光強度を表す。この値は、図 4と同様、「BM
-Lucjのみを培養細胞に組み込んだ場合の発光強度を「1」とした場合の相対値で ある。
[0085] 図 5の結果は、 ROR a 4の発現量の増大に伴!、、 Bmallの発現誘導も促進される ことを強く示唆する。従って、この結果は、 ROR o; 4の促進が Bmallの発現を誘導す ることを強く示唆する。
実施例 5
[0086] Rev—erb遺伝子は、概日リズム制御遺伝子として知られ、 REV— ERBタンパク質 は、 Bmallのプロモーター領域 (RORE)に結合して、 Bmallの発現を抑制すること が知られている。
[0087] そこで、実施例 5では、 ROR aタンパク質と REV— ERBタンパク質を共発現させた 場合、 Bmallの発現が誘導されるかどうかについて、調べた。
[0088] 実験手順の概要は、以下の通りである。
[0089] (1)まず、実施例 3などと同様の手順により、 Bmallのプロモーター領域を組み込 んだ組換えベクター、 RORひ 1をコードする DNA配列を組み込んだ組換えベクター 、 Rev— erb遺伝子を組み込んだ組換えベクター、をそれぞれ作製した。
[0090] (2)次に、その 3つの組み換えベクターを、共に、培養細胞 NIH3T3にトランスフエ クシヨンし、各タンパク質を共発現させた。
[0091] (3)そして、その培養細胞を溶解させた後、 Dual Luciferase Assay System ( Promega社製)を用いて、溶解させた細胞溶液を調製し、発光強度を測定した。
[0092] 結果を図 6に示す。
[0093] 図中、「BM—Luc」は、 Bmallのプロモーター領域とルシフェラーゼ遺伝子をコー ドする領域を有する組換えベクターを示し、「 +」は、組換えベクターを、培養細胞に 組み込んだことを表す。
[0094] 「ROR a 1」は、 ROR a 1をコードする DNA配列を組み込んだ組換えベクターを示 し、カツコ書きの数字は、トランスフエクシヨンの際の、組換えベクターの添加量(単位 は ng)を表す。
[0095] 「 β -Galjは、前記と同様の手順で β ガラクトシダーゼを共発現させた場合を示 し、コントロールである。数字は、トランスフエクシヨンの際の、組換えベクターの添カロ 量 (単位は ng)を表す。
[0096] 「RE a」、「RE j8」は、それぞれ、 Rev -erb a遺伝子、 Rev— erb β遺伝子を糸且み 込んだ組換えベクターを示し、数字は、トランスフエクシヨンの際の、組換えベクター の添加量(単位は ng)を表す。
[0097] 図 6の結果は、 ROR aと REV— ERBタンパク質は、 Bmallのプロモーター領域に 競合的に作用することを強く示唆する。
実施例 6
[0098] 実施例 6では、 ROR aのドミナントネガティブ変異体の存在下で細胞を培養した場 合の、 Bmall発現量の概日変化について調べた。
[0099] 実験手順の概要は次の通りである。
[0100] まず、実施例 3などと同様に、ルシフェラーゼ発光ベクター pGL3 basic (Promeg
a社製)に、 Bmallのプロモーター領域を組み込んで、組換えベクターを作製した。
[0101] 次に、培養細胞 NIH3Tに、その組み換えベクターをトランスフエクシヨンし、その培 養細胞を単離 '継代した。
[0102] 次に、その培養細胞に血清刺激を加えることにより、概日リズムを発生させた。
[0103] 次に、培養液に、 ROR a 1のドミナントネガティブ変異体をカ卩えた後、 15分おきに、 ルシフェリン (ルシフェラーゼの基質)を加え、ルシフェラーゼ活性 (発光強度)を測定 した。そして、その発光強度の概日変化より、 Bmallの転写概日リズムを取得した。
[0104] 結果を図 7に示す。
[0105] 図中、横軸は時間(単位は分)を、縦軸は発光強度(単位は M cpm ; Million of
Counts Per Minutes)を、それぞれ示す。
[0106] 「vector」は、ドミナントネガティブ変異体の代わりに空ベクター (pcDNA3)をカロえ た場合 (コントロール)の実験結果であることを示す。
[0107] 「 /3 -Galjは、ドミナントネガティブ変異体の代わりに /3 ガラクトシダーゼをカ卩えた 場合 (コントロール)の実験結果であることを示す。
[0108] 「hROR α Ι Δ LBD」は、ヒト ROR a 1のドミナントネガティブ変異体をカ卩えた場合の 実験結果であることを示す。
[0109] 図 7に示す通り、 ROR a 1のドミナントネガティブ変異体をカ卩えた場合、 Bmallの転 写概日リズムが抑制された。即ち、この結果は、 ROR o;力 bmallの発現を誘導する だけでなぐ Bmallの転写概日リズムの発現に、重要な役割を果たしていることを強 く示唆する。
実施例 7
[0110] 実施例 7及び実施例 8では、 ROR aによる Bmallの発現誘導に関して、 ROR aの
、 Bmallの配列における作用部位を調べた。
[0111] 実施例 7では、 Bmall遺伝子の上流領域の DNA配列について、それぞれ長さの 異なるものを作製し、実施例 3などと同様の手順により、 ROR o;による Bmallの発現 誘導レベルを取得した。
[0112] 実験手順の概要について、以下説明する。
[0113] (1)まず、図 8に示す DNA配列を有する組換えベクターを、ルシフェラーゼ発光べ
クタ一 pGL3 basic (Promega社製)を用いて、それぞれ作製した。
[0114] 図中、「Luciferase」は、その領域が、ルシフェラーゼをコードする DNA配列である ことを示し、「Exonl」は、その領域が、 Bmall遺伝子の一番目のエタソン部分の配 列を有することを示す。なお、「hBmall」は、ヒトの Bmall遺伝子を表す。
[0115] 「ROREl」及び「RORE2」は、その領域が、それぞれ、 Bmall遺伝子のプロモー ター領域であることを示す。
[0116] 「一 3465」は、その DNA配列力 Bmall遺伝子配列の 3465塩基分上流までの配 列を有することを示す。他の数字も同様である。
[0117] 「mt」は、変異体(mutant)を表し、 ROREl、 RORE2、又は両者の配列の一部分 が変異したものであることを示す。
[0118] (2)そして、実施例 3などと同様の手順により、 RORひ 1とルシフェラーゼを共発現 させた後、発光強度を測定し、 Bmallの発現誘導レベルを取得した。
[0119] 結果を図 9に示す。
[0120] 図中、「ROR a 1」は、 ROR a 1をコードする DNA配列を組み込んだ組換えべクタ 一を示し、「 +」は、その組換えベクターを培養細胞に組み込んだことを、「―」は、組 み込んでいないことを、それぞれ表す。
[0121] 「: BM—Luc」は、 Bmallのプロモーター領域とノレシフェラーゼ遺伝子をコードする 領域を有する組換えベクターを示す。
[0122] 「一 3465」は、その組換えベクター力 Bmall遺伝子配列の 3465塩基分上流まで の配列を含むことを示し、「一 829」は、その組換えベクター力 Bmall遺伝子配列の 829塩基分上流までの配列を含むことを示し、「一 230」は、その組換えベクターが、 Bmall遺伝子配列の 230塩基分上流までの配列を含むことを示す。
[0123] また、「RORElmutZRORE2」は RORE1を欠損させた場合、「RORElZROR E2mutJは RORE2を欠損させた場合、「RORElmut/RORE2mut」は RORE1と RORE2の両方を欠損させた場合、を表す。なお、「mut」は、変異体 (mutant)を表 す。
実施例 8
[0124] 次に、実施例 8では、実施例 7で作製した組換えベクター(図 8参照)を用いて、実
施例 6などと同様の手順により、 Bmall発現量の概日変化について調べた。
[0125] 結果を図 10に示す。
[0126] 図中の表示は、図 7と同様である。
[0127] 以上、実施例 7 (図 9)及び実施例 8 (図 10)の結果は、 ROR aによる Bmallの発現 誘導が、 Bmall遺伝子の両方のプロモーター領域 (ROREl、 RORE2)を必要とす ることを示す。従って、 ROR aは、 Bmall遺伝子の両方のプロモーター領域に作用 して、 Bmallの発現を誘導していることを強く示唆する。
実施例 9
[0128] 実施例 9では、プルダウン法により、 Bmallのプロモーター領域 (RORE)と ROR a との結合を調べた。
[0129] 実験手順の概要は次の通りである。
[0130] (1)まず、所定時刻に、マウスの肝臓を採取後、ホモジナイズし、マウス肝臓の抽出 物を得た。
[0131] (2)また、 Bmallのプロモーター領域 (RORE)の配列を含むオリゴヌクレオチドを ピオチンィ匕した。ピオチンィ匕したオリゴヌクレオチドは、ストレプトァヴイジンーセファロ ースビーズ (Amersham社製)に固定した。
[0132] (3)次に、(1)で取得したマウス肝臓抽出物に、(2)のビーズをカロえ、インキュベート した。
[0133] (4)次に、ビーズを回収(プルダウン)した後、抗 ROR a抗体を用いてウェスタンブ ロットし、 ROR aを検出した。
[0134] 以上の手順により、 Bmallのプロモーター領域 (RORE)の配列を含むオリゴヌタレ ォチドと ROR a (肝臓抽出物中に存在)が結合しているかどうかを調べることができる
[0135] 結果を図 11に示す。
[0136] 図中、「no ODN (no oligonucleotide)」は、ピオチンにオリゴヌクレオチドを結 合させて 、な 、場合 (コントロール)を示す。
[0137] 「: BM— ROREs」は、 Bmallのプロモーター領域(RORE)の配列を含むオリゴヌク レオチドをピオチン化した場合の結果を示す。
[0138] 「: BM— mROREs」は、 Bmallのプロモーター領域(RORE)の配列を一部変化さ せたオリゴヌクレオチド (変異体)をピオチンィ匕した場合の結果を示す。なお、「m」は 変異体(mutant)を表す。
[0139] 「CT(circadian time)」は、概日時間を表す。即ち、マウス力も肝臓を採取した時 刻を表し、概日時間(明条件の開始時間を 0時とした時刻)で示している。
[0140] 「ROR a 1」、「ROR a 4」は、ウェスタンブロットに用いた抗体を示し、バンドの現れ る位置を表している。
[0141] 図 11に示す通り、 Bmallのプロモーター領域 (RORE)の配列を含むオリゴヌタレ ォチドを用いた場合、「ROR a l」、「ROR a 4」の両方において、バンドが確認でき た。それに対し、変異体のオリゴヌクレオチドを用いた場合、バンドが消失した。
[0142] 従って、以上の結果は、 ROR a力 Bmallのプロモーター領域 (RORE)に結合す ることにより、 Bmallの発現を誘導することを強く示唆する。
実施例 10
[0143] 実施例 10では、 ROR a遺伝子を欠損した変異体マウスを用いて、ァクトグラムを行 い、 ROR o;遺伝子欠損力 マウスの概日リズムに与える影響について、調べた。
[0144] 「ァタトグラム」は、マウスの飲食行動を検出することにより、マウスの活動時間を連 続的に記録する方法である。
[0145] 図 12は、 15日間、 12時間ごとに明条件と暗条件を繰り返した後、暗条件でフリーラ ン(自由継続)させた場合のァクトグラムである。
[0146] 図中、「 + Z +」は野生型を、「 + Zsg」はヘテロの ROR a遺伝子欠損型を、「sgZ sgjはホモの ROR a遺伝子欠損型を、それぞれ示す。
[0147] 「LD」は明条件 (light)と暗条件 (dark)を繰り返す環境を示し、「DD」は暗条件 (d ark)を続ける環境、即ち、フリーラン(自由継続)させた場合、を示す。
[0148] 図 12に示す通り、飼育環境を 24時間暗条件に変更した場合、野生型と比較して、 変異体マウスでは、行動時間の開始時刻が早くなつた。即ち、概日周期が短くなつた
。この結果は、 ROR a 1S Bmallの発現誘導を促進することにより、個体の概日リズ ムにも影響を与えて ヽることを示唆する。
[0149] 図 13は、図 12に示した実験結果に基づいて、飼育環境を 24時間暗条件に変更し
た後の、マウスの概日周期の平均値を取得した図である。図 13が示す通り、野生型 マウスでは、概日周期力 約 23. 8時間であつたのに対し、ホモの ROR a遺伝子欠 損型マウスでは、概日周期が約 23. 4時間に減少していた。
[0150] 次に、図 14は、 15日間、 12時間ごとに明条件と暗条件を繰り返した後、暗条件の 開始時刻を 4時間早め、時差のある状態にした場合のァクトグラムである。
[0151] 図中の表示は、図 12と同様である。
[0152] 図 14に示す通り、暗条件の開始時刻を 4時間早めた場合、 ROR a遺伝子欠損型 マウスは、野生型マウスよりも早ぐ新しい環境条件に順応した。
[0153] 図 15は、 15日間、 12時間ごとに明条件と暗条件を繰り返した後、環境条件を、 6時 間ごとに明条件と暗条件を繰り返す環境に変化させた場合のァ外グラムである。
[0154] 図中の表示は、図 12と同様である。
[0155] 図 15に示す通り、野生型マウスでは、環境の変化にかかわらず、概日リズムを維持 したのに対し、 ROR a遺伝子欠損型マウスは、概日リズムを維持したものと、概日リ ズムが完全に乱れたものの両者が存在した。
実施例 11
[0156] 実施例 11では、 RNA干渉により、 ROR aの発現を抑制した場合、 Bmallの発現 誘導も抑制されるかどうか、調べた。
[0157] 実験手順の概要は、次に通りである。
[0158] (1)まず、組換え siRNA発現ベクターを作製した。 ROR a 4をコードする遺伝子配 列の第 849〜 1391塩基の中から、 19塩基力もなる配列(配列番号 5)を選択した。 そして、その配列を、 siRNA発現ベクターに組み込み、組換え発現ベクターを作製 した。
[0159] (2)また、実施例 3などと同様に、ルシフェラーゼ発光ベクター pGL3 basic (Prom ega社製)に、 Bmallのプロモーター領域を組み込んで、組換えベクターを作製した
[0160] (3)次に、培養細胞 NIH3Tに、組換え siRNA発現ベクターと Bmallのプロモータ 一領域を組み込んだ組換えベクターとを、共に、トランスフエクシヨンした後、その培 養細胞を単離 '継代した。
[0161] (4)次に、その培養細胞に血清刺激を加えることにより、概日リズムを発生させた。
[0162] (5)次に、培養液に、 15分おきに、ルシフェリン (ルシフェラーゼの基質)をカ卩え、ル シフェラーゼ活性 (発光強度)を測定した。そして、その発光強度の概日変化より、 B mallの転写概日リズムを取得した。
[0163] 結果を図 16に示す。
[0164] 図中、横軸は時間(単位は分)を、縦軸 (relative cpm)は発光強度を示す。なお 、発光強度は、最初の発光強度のピークを「1」とした時の相対値である。
[0165] 「vector」は、ドミナントネガティブ変異体の代わりに空ベクター (pcDNA3)をカロえ た場合 (コントロール)の実験結果であることを示す。
[0166] 「RNAi (control)」は、 ROR aの配列とは関係のな 、siRNAを用いた場合であり 、コントロールである。
[0167] 「RNAi (ROR α )」は、 ROR aをコードする塩基配列の一部を有する siRNAを用 いた場合である。
[0168] 図 16に示す通り、 ROR aをコードする塩基配列の一部を有する siRNAを用いた 場合(図中、一番下のグラフ)、空ベクターを用いた場合 (そのグラフの上側の曲線) と比較して、 Bmallの発現誘導の振幅が減少した (そのグラフ中の下側の曲線)。従 つて、本実験結果は、 RNA干渉を用いて RORの発現を抑制した場合、 Bmallの発 現誘導も抑制されることを示す。
実施例 12
[0169] 実施例 12及び実施例 13では、マウス胚繊維芽細胞(MEF; Mouse Embryonic
Fibroblast)を用いて、 ROR αに Bmallの発現誘導を促進する作用があるかどう 力 調べた。
[0170] 実施例 12では、マウス胚繊維芽細胞の ROR a遺伝子欠損変異体を用いて、 Bma
11発現誘導の概日変化を調べた。
[0171] 実験手順の概要は次の通りである。
[0172] (1)まず、前記と同様、ルシフェラーゼ発光ベクター pGL3 basic (Promega社製) に、 Bmallのプロモーター領域を組み込んで、組換えベクターを作製した。
[0173] (2)次に、その組換えベクターを、マウス胚繊維芽細胞の ROR a遺伝子欠損変異
体にトランスフエクシヨンした後、その培養細胞を単離'継代した。
[0174] (3)次に、その培養細胞に血清刺激を加えることにより、概日リズムを発生させた。
[0175] (4)次に、培養液に、 15分おきに、ルシフェリン (ルシフェラーゼの基質)をカ卩え、ル シフェラーゼ活性 (発光強度)を測定した。そして、その発光強度の概日変化より、 B mallの転写概日リズムを取得した。
[0176] 結果を図 17に示す。
[0177] 図中、横軸は時間(単位は分)を、縦軸 (relative cpm)は発光強度を示す。なお
、発光強度は、最初の発光強度のピークを「1」とした時の相対値である。
[0178] 「 + Z +」は野生型を、「sgZsg」はホモの ROR o;遺伝子欠損型を、それぞれ示す
[0179] 図 17に示す通り、マウス胚繊維芽細胞の ROR a遺伝子欠損変異体では、 Bmall 発現誘導の振幅が減少した。
実施例 13
[0180] 次に、実施例 13では、定量的リアルタイム RT— PCRにより、マウス胚繊維芽細胞 の ROR a遺伝子欠損変異体における、 Bmall発現量の概日変化を調べた。
[0181] マウス胚繊維芽細胞をホモジナイズ後、 Promega total SV RNA Isolation Kit (Promega社製)を用いて、各臓器から total RNAを抽出し、定量的リアルタイ ム RT— PCRにより、 Bmal 1遺伝子の発現量を測定した。
[0182] 結果を図 18に示す。
[0183] 図中、横軸は、時間(単位は分)を示す。縦軸「relative mRNA abundance]は 、相対的な発現量 (発現レベル)を示す。なお、縦軸の発現量の値は、実施例 1と同 様、ハウスキーピング遺伝子 GAPDH (GlycerAldehyde— 3— Phosphate DeHy drogenase)の発現量を 1とした場合の相対的な値である。
[0184] 「 + Z +」は野生型を、「sgZsg」はホモの ROR o;遺伝子欠損型を、それぞれ示す
[0185] 図 18に示す通り、マウス胚繊維芽細胞の ROR a遺伝子欠損変異体では、 Bmall 発現量の振幅が減少した。なお、この結果は、図 17の結果ともほぼ一致した。
[0186] 以上、図 17及び図 18の結果は、細胞レベルでも、 ROR aが Bmallの発現誘導を
促進することを、強く示唆する。
実施例 14
[0187] 実施例 14では、アンチセンス核酸を用いて ROR aの発現を抑制した場合、 Bmal
1の発現誘導も抑制されるかどうか、調べた。
[0188] 実験手順の概要は次の通りである。
[0189] (1)まず、アンチセンス核酸発現ベクターを作製した。 ROR aをコードする遺伝子 のうち、所定の領域と同じ塩基配列を有する DNAフラグメントを、 pcDNA3に組み込 んで、アンチセンス核酸発現ベクターを作製した。
[0190] なお、 DNAフラグメントとして、 ROR aをコードする遺伝子の第 65〜574塩基まで の配列を有するフラグメント、第 599〜 1122塩基までの配列を有するフラグメント、第 849〜 1391塩基までの配列を有するフラグメント、の 3種類を用 、た。
[0191] (2)また、実施例 3などと同様に、ルシフェラーゼ発光ベクター pGL3 basic (Prom ega社製)に、 Bmallのプロモーター領域を組み込んで、組換えベクターを作製した
[0192] (3)次に、培養細胞 NIH3Tに、アンチセンス発現ベクターと Bmallのプロモーター 領域を組み込んだ組換えベクターとを、コトランスフエクシヨンし、その培養細胞を単 離 ·継代した。
[0193] (4)次に、その培養細胞に血清刺激を加えることにより、概日リズムを発生させた。
[0194] (5)次に、培養液に、 15分おきに、ルシフェリン (ルシフェラーゼの基質)をカ卩え、ル シフェラーゼ活性 (発光強度)を測定した。そして、その発光強度の概日変化より、 B mallの転写概日リズムを取得した。
[0195] 結果を図 19に示す。
[0196] 図中、横軸は時間(単位は分)を、縦軸 (relative cpm)は発光強度を示す。なお 、発光強度は、最初の発光強度のピークを「1」とした時の相対値である。
[0197] 「AS (ROR a 1)」は、アンチセンス核酸として、 ROR aをコードする遺伝子の第 65 〜574塩基までの配列を有するフラグメントを用いた場合、「AS (ROR a 2)」は、ァ ンチセンスとして、第 599〜1122塩基までの配列を有するフラグメントを用いた場合 、「AS (ROR a 3)」は、アンチセンスとして、第 849〜 1391塩基までの配列を有する
フラグメントを用いた場合、を示す。
[0198] 図 19に示す通り、いずれの場合も、アンチセンス核酸を用いて ROR aの発現を抑 制することにより、 Bmallの発現誘導の振幅も抑制された。
実施例 15
[0199] 上述の通り、 ROR o;は低酸素状態において発現が誘導されることが明らかになつ ている。そこで、実施例 15では、低酸素状態において、 Bmallの発現誘導も促進さ れる力どう力につ 、て調べた。
[0200] 実験手順の概要は次の通りである。
[0201] (1)まず、前記と同様、ルシフェラーゼ発光ベクター pGL3 basic (Promega社製) に、 Bmallのプロモーター領域を組み込んで、組換えベクターを作製した。
[0202] (2)次に、その組換えベクターを、マウス胚繊維芽細胞の ROR a遺伝子欠損変異 体にトランスフエクシヨンし、その培養細胞を単離'継代した。
[0203] (3)次に、その培養細胞に血清刺激を加えることにより、概日リズムを発生させた。
[0204] (4)次に、培養液に、 0. OlmMCoClを加えた後、 15分おきに、ルシフェリン (ル
2
シフェラーゼの基質)を加え、ルシフェラーゼ活性 (発光強度)を測定した。そして、そ の発光強度の概日変化より、 Bmallの転写概日リズムを取得した。
[0205] なお、塩ィ匕コノ レト(CoCl )を加えた条件下で、細胞を培養することにより、低酸素
2
状態を作り出すことができる。
[0206] 結果を図 20に示す。
[0207] 図中、横軸は時間(単位は分)を、縦軸 (relative cpm)は発光強度を示す。なお
、発光強度は、最初の発光強度のピークを「1」とした時の相対値である。
[0208] 「 + 0. OlmMCoCl」は、培養液に 0. OlmMCoClをカ卩えた場合を、「 + 0. lm
2 2
MNaCl」は、培養液に、 0. OlmMCoClの代わりに、 0. ImMNaCIをカ卩えた場合(
2
コントロール)を、それぞれ示す。
[0209] 図 20の結果は、低酸素状態では、 Bmallの発現誘導も促進されることを示す。
産業上の利用可能性
[0210] 本発明は、概日リズムの調節メカニズムのうち、未解明な部分を明らかにして点で、 有用である。従って、本発明は、概日リズムの調節メカニズムに関与する疾患、例え
ば、がん、睡眠障害、時差ぼけ、覚醒障害、不眠症、自律神経失調症、うつ病、老人 性痴呆などの疾患の予防剤、治療剤として、適用可能性がある。また、 DNAチップ、 プロテインチップ、概日リズムの変調を検出するためのマーカー、抗がん剤'時差ぼ け調整剤などのスクリーニング方法やスクリーニングキットなどに適用可能である。