明 細 書
放熱部材及びその製造方法
技術分野
[0001] 本発明は、半導体装置や画像表示装置、光デバイス等の電子機器から発生する 熱を周囲に拡散させる役割を担う放熱部材及びその製造方法に関する。
背景技術
[0002] ノート型パソコンに代表される半導体装置の高速化'高集積化、液晶テレビやブラ ズマディスプレイに代表される画像表示装置の高輝度化、更には発光ダイオード (L ED)に代表される光デバイスの大出力化に伴い、これらの電子機器の構成部品から 発生する熱量が増大している。電子機器内における部品の発熱は、装置の誤動作 や故障の原因となるので、従来、熱対策が重要な技術となっている。
これらの分野にぉ 、ては、金属材料の中でも熱伝導率の高 ヽ銅ゃアルミニウムを 筐体や放熱板として用いることで、発生した熱を周囲に拡散させている。しかし、金属 材料の中では熱伝導性の良好な銅であっても、その熱伝導率は 400WZ (m-K)程 度であり、し力も密度が 8. 9 (MgZm3)と大きく重いという欠点がある。
[0003] そのため、近年このような金属材料に変えて、軽量で熱伝導率の高い炭素繊維を 使用し、金属材料と複合化させた複合材料を放熱部材として用いる提案もある。 例えば、特開 2003— 46038号 (特許文献 1)では、炭素繊維と金属材料の複合材 料を製造するために炭素繊維にニッケル,銅等の金属メツキを施し、ついで金属材 料の溶湯を含浸して溶湯鍛造する方法、あるいは金属メツキ後の炭素繊維をホットプ レスにより焼結して固化成形する方法が開示されている。このホットプレスによる方法 では、炭素繊維の表面に施された金属メツキは、ホットプレス時の緩衝材となり、各炭 素繊維間を埋める接合剤としての役割を果たす。
このように炭素繊維にメツキを施す方法は、炭素繊維と金属材料を複合化させる技 術として有効な手段であると考えられる。
[0004] 特許文献 1 :特開 2003— 46038号公報
発明の開示
発明が解決しょうとする課題
[0005] 上述した特許文献 1に開示される方法は、炭素繊維と金属材料の複合材料により 構成される放熱部材を製造する手法として有効である。
ところで、炭素繊維の熱伝導率は 500WZ (m.K)以上、典型的には 800WZ (m- K)〜: LOOOWZ (m'K)程度である力 炭素繊維より熱伝導率の低い金属材料との 複合材料になれば、熱伝導率は低下するので、複合材料とした場合でも熱伝導率の 低下を抑制できる放熱部材が求められている。
本発明の目的は、上記の問題に鑑み、炭素繊維と金属材料の複合材料により構成 される高熱伝導率の放熱部材とその製造方法を提供することである。
課題を解決するための手段
[0006] 本発明者は、炭素繊維と複合化させる金属材料として、金属の中では熱伝導率が 高ぐかつ安価な銅に着目し、この炭素繊維と銅の複合材料により構成される放熱部 材における銅の部分の組織形態と放熱部材の熱伝導率の間に密接な関係があるこ とを見出し、本発明に到達した。
すなわち本発明は、実質的に一方向に揃えられた炭素繊維と銅との複合材料によ り構成される放熱部材であって、該放熱部材中の前記銅の金属組織が再結晶組織 である放熱部材である。
本発明は、好ましくは、再結晶組織の平均結晶粒径を 0. 1 μ πι〜20 /ζ mとした放 熱部材である。
また、本発明は、放熱部材中に占める炭素繊維の部分の体積率 V 力 30%〜90
CF
%である上記の放熱部材であり、望ましくは、 V が 30%〜60%である放熱部材で
CF
ある。また、本発明は、炭素繊維方向と垂直な断面において、任意の m角の視 野中に少なくとも 1本以上の炭素繊維が存在する上記の放熱部材であり、更に望まし くは、炭素繊維方向と垂直な断面が lmm角以上の大きさである上記の放熱部材で ある。
本発明は、更には、放熱部材の密度 p (Mg/m3)、炭素繊維の密度 p (Mg/m3
CF
)、炭素繊維の体積率 V (%)、銅の密度 p (MgZm3)銅のみかけ体積率 V (
CF CU 、 CU
%) = (100-V )の間に、 ρ Ζ{ ρ X (V /100) + p X (V /100) }≥0.
9の関係が成り立つ放熱部材である。
[0007] また、本発明は、上記の放熱部材の製造方法であって、直径 d の炭素繊維の表
CF
面に(0. 05〜0. 60) X d の厚さの銅メツキを施した後、該銅メツキ後の炭素繊維を
CF
実質的に一方向に揃えた状態で、最高到達温度 600°C〜1050°C、最高圧力 5Mp a〜100MPa、最高到達温度 ±5°Cにおける温度保持時間 0. Iks〜: L 8ksの条件 で放電プラズマ焼結するとともに銅の金属組織を再結晶化させる放熱部材の製造方 法である。
発明の効果
[0008] 本発明によれば、放熱部材の熱伝導率を著しく高めることができるので、各種半導 体装置や画像表示装置、光デバイス等、熱対策の必要な装置にとって欠くことのでき ない技術を提供できる。
発明を実施するための最良の形態
[0009] 上述したように、本発明の重要な特徴は、実質的に一方向に揃えられた炭素繊維 と銅との複合材料により構成される放熱部材にお ヽて、高 ヽ熱伝導率を得るために、 放熱部材中における銅の部分の金属組織を再結晶組織としたことにある。これは、銅 の再結晶組織が放熱部材における銅の部分の熱伝導率、ひ 、ては放熱部材の熱伝 導率を高めるために必要な組織であるからである。
上述したように、銅の熱伝導率は約 400 (WZ (m'K) )と言われている力 銅の結 晶中に塑性加工によって生じる転位ゃ空孔等の格子欠陥が存在する場合には、こ れらの格子欠陥が熱の伝導を妨げるため、熱伝導率は 400 (W/ (m-K) )より低下 する。それ故、銅が本来有する約 400 (WZ (m'K) )の熱伝導率を発現させ、ひいて は放熱部材の熱伝導率を高めるために、放熱部材における銅の部分は、格子欠陥 の無 、再結晶組織とする必要がある。
これにより、複合材料の母材 (基地)となる銅の熱伝導率が大きく改善され、高い熱 伝導率を有する放熱部材とすることができる。
[0010] なお、本発明の再結晶組織とは、再結晶が完全に終了した組織に観察される金属 組織を指し、再結晶が完全に終了せず、未再結晶部が残存する組織に観察される 金属組織を含まない。その理由は、未再結晶部には上述した格子欠陥が残存し、熱
伝導率を低下させるからである。
また、本発明では、放熱部材を構成する銅の種類を特に規定しないが、高熱伝導 率の放熱部材を得るためには、純度 99質量%以上の純銅であることが望ましい。そ の理由は、銅に 1質量%を超える合金元素が含まれると、熱伝導率が顕著に低下す る力らである。より望ましくは、銅の純度は 3N (99. 9質量%)以上であると良い。なお 、ここに述べる銅の純度とは、放熱部材の断面を鏡面研磨した後、銅の部分を走査 型電子顕微鏡に付設されたエネルギー分散型 X線分析装置、またはエレクトロンプロ ーブマイクロアナライザーに付設された波長分散型 X線分析装置により分析した際の 銅の濃度 (質量%)を指す。
[0011] 望ましい範囲として、銅の部分の平均結晶粒径を規定した理由を述べる。
平均結晶粒径の下限を 0. 1 μ mとしたのは、再結晶組織とした母材 (銅の部分)に 存在する結晶粒界の量を減らして熱を伝え易くするためである。結晶粒界は熱伝導 の妨げとなるので、再結晶組織内に多量の結晶粒界が存在する場合には放熱部材 の熱伝導率は低下する場合がある。再結晶組織の平均結晶粒径を 0. 1 μ m以上と することにより、放熱部材における母材 (銅の部分)を銅本来の約 400WZ (m'K)の 熱伝導率とすることがより確実にできるので、望まし 、下限として規定した。
一方、放熱部材における炭素繊維の体積率を高めていくと、母材 (銅の部分)の体 積率は減少し、再結晶組織とした母材の結晶粒の成長は炭素繊維によって妨げられ ることになる。よって、再結晶組織の平均結晶粒径の上限は炭素繊維の体積率に大 きく影響され、後述する炭素繊維の好ましい体積率を考慮すれば、再結晶粒径の好 ましい上限は 20 mとすれば良い。より望ましい範囲は、 0. 5 m〜10 mである。
[0012] 次に本発明において放熱部材中に占める炭素繊維の部分の体積率 V を 30%〜
CF
90%としたのは、 30%未満では熱伝導率を高める効果が小さぐ逆に 90%を超える 範囲では、炭素繊維間を埋める接合剤としての銅の量が、炭素繊維と比較して顕著 に少な!/ヽために、炭素繊維と銅を均質に複合ィ匕した放熱部材を得ることが難しくなる 力 である。
また、炭素繊維を横切る方向(以下、垂直方向と記す。 )にも高い熱伝導率が要求 される場合や、高温環境や温度サイクルに対する放熱部材の信頼性が要求される場
合、更には放熱部材の機械的強度が要求される場合には、 V の範囲は 30%〜60
CF
%であることが、より望ましい。
炭素繊維の比率が大きくなると、炭素繊維方向の熱伝導率を高くすることができる一 方で、垂直方向の熱伝導率は低下する。更に、銅と炭素繊維の濡れ性は悪いので、 隣り合う炭素繊維間に存在する銅の量が少な!ヽと、放熱部材を使用中に高温環境で 放置された際に、銅が塑性流動して炭素繊維の周囲に空隙が発生する場合があり、 放熱特性を劣化することがある。また、隣り合う炭素繊維間に存在する銅の量が少な いことは、強度の弱い炭素繊維と銅の界面を多数存在させることになり、放熱部材と しての強度を低下させることになる。それ故、放熱部材に温度サイクルが力かった場 合の熱応力が大きいとクラック発生の可能性が生じてしまう。以上の理由から、炭素 繊維のより望ましい範囲は 30%〜60%とした。
[0013] なお、本発明で言う炭素繊維の体積率とは、放熱部材の炭素繊維方向に垂直な断 面を鏡面研磨後に光学顕微鏡で観察した際、視野中に占める炭素繊維の面積率に 実質的に等しいので、断面力も評価することができる。
より具体的には、放熱部材の断面を光学顕微鏡で観察すると、銅の部分は白く見え る一方で、炭素繊維の部分は黒く見える。この光学顕微鏡の観察画像を白黒に 2値 化し、画像中に占める黒い部分の面積比率を求めることにより、視野中に占める炭素 繊維の面積率を測定することができる。但し、炭素繊維と銅の界面に僅かに存在する 空隙も、光学顕微鏡画像では黒く見えるので、この測定方法で得られる炭素繊維の 面積率の値は、真の面積率より大きい。し力しながら、本発明の放熱部材においては 、空隙部分の面積は、炭素繊維や銅の部分の面積と比較してごく僅かであるので、 空隙部分を無視して炭素繊維の面積率を測定しても差し支えない。
[0014] また、本発明では放熱部材を構成する炭素繊維の種類 (PAN系、ピッチ系)や形 状、大きさ(直径、長さ)を特に規定しないが、高熱伝導率の放熱部材を得るために はグラフアイト構造を有した直径 5 μ m〜20 μ mの範囲の炭素繊維が望ま U、。更に 、炭素繊維方向と垂直な断面において、均一な構造の断面を得る観点からは 1種類 の直径の炭素繊維を用いることが望ましいが、炭素繊維を密に充填して放熱部材中 における炭素繊維の体積率を更に高めたい場合には、 5 /z πι〜20 /ζ mの範囲で 2種
類以上の直径の炭素繊維を併用しても良い。また、後述する放熱部材の製造方法に おいて、炭素繊維に銅メツキを施した後、実質的に一方向に揃えるためには、炭素 繊維は、少なくとも 100mm以上の長さを有した長繊維であることが望ましい。
[0015] 次に、望ましい範囲として、放熱部材中の炭素繊維方向と垂直な断面において、任 意の 50 /z m角の視野中に少なくとも 1本以上の炭素繊維が存在することとした理由 は、放熱部材中の炭素繊維は、できるだけ均一に分布していることが望ましいからで ある。炭素繊維の分布に偏りがあると、炭素繊維が密な部分の放熱は迅速に進む一 方で、炭素繊維が疎な部分の放熱は遅ぐ結果として熱伝導率を低下させる懸念が ある力もである。任意の m角の視野中に少なくとも 1本以上の炭素繊維が存在し ていれば、炭素繊維の分布は、ほぼ均一と考えて良い。より望ましくは、任意の 50 m角の視野中に 5本以上の炭素繊維が存在して 、ると良 、。
[0016] 更に、望ましい範囲として、放熱部材中の炭素繊維方向と垂直な断面が lmm角以 上の大きさであることと規定した理由は、この大きさが、電子機器内に用いられる放熱 部材として望ましい大きさであるからである。例えば、大出力の発光ダイォ―ド (LED )のチップ (以下、 LEDチップ)を榭脂で封止した発光パッケージの中に本発明の放 熱部材を用いる場合、放熱部材における炭素繊維方向と垂直な断面を LEDチップ の底面と接触させることによって、 LEDチップで発生した熱を発光パッケージの内部 力も外部に向けて輸送することになる。効率的な熱の輸送を行うためには、放熱部材 の接触面の面積は、 LEDチップの底面より大きいことが望ましい。大出力の LEDチ ップにおける底面の大きさは lmm角程度であるので、望ましい範囲として、放熱部材 中の炭素繊維方向と垂直な断面が lmm角以上であることとした。より望ましくは、 1. 5mm角以上であると良い。
[0017] また、望ま Uヽ範囲として放熱部材の密度 p (Mg/m3)、炭素繊維の密度 p (M
CF
g/m3)、炭素繊維の体積率 V (%)、銅の密度 p (Mg/m3)銅のみかけの体
CF CU 、
積率 V (%) = ( 100 -V )の間に、 ρ Ζί /θ X (V /100) + ρ X (V /1
CU CF CF CF CU CU
00) }≥0. 9の関係が成り立つこととした理由も、高い熱伝導率の放熱部材を得るた めである。
ここに示す X (V /100) + ρ X (V Zioo) }の値は、放熱部材の理論
密度、すなわち理想的な密度に相当するので、 p Z X (V /100) + p X (
CF CF CU
V /100) }の値は相対密度に相当し、この値が 1に近いほど、空隙の少ない複合
CU
材料となる。放熱部材中に空隙が存在すると、その空隙が熱の伝導を妨げるので、 放熱部材の熱伝導率が低下する。その弊害は、 / o Z X (V /100) + p X
CF CF CU
(V Z100) }の値が 0. 9より小さい時に特に顕著であるので、
CU ρ Ζί /0 χ
CF (ν CF /
100) + p X (V Zioo) }≥o. 9に規定した。より望ましくは x (v /
CU CU CF CF
100) + p X (V
CU CU Ζ100) }≥0· 93であると良い。
[0018] 本発明の製造方法では、炭素繊維と銅を複合化させる前処理手法として、炭素繊 維に銅メツキを施す方法を適用する。そのもっとも重要な特徴は、炭素繊維と銅を均 質に複合ィ匕することによって、即ちメツキ厚を調整することによって、接合される炭素 繊維同士の間隔を均等に近いものとすることができるということにある。これにより、放 熱部材の品質として重要な面内の放熱特性のばらつきを低減できる。また、この手法 は、経済性、再現性の点からも工業的な大量生産に適している。
また、本発明では、先に述べた放熱部材を得るための望ましい製造方法として、銅 メツキの厚さを規定し、また、銅メツキ後の炭素繊維を固化成形する条件を規定する。 以下、本発明における製造方法の規定理由を述べる。
[0019] 炭素繊維の直径 d に対し、炭素繊維の表面に施す銅メツキの厚さを (0. 05〜0.
CF
60) X d と規定したのは、高い熱伝導率と、緩衝材としての役割を両立させるのに
CF
必要であるためである。そして、この範囲内であれば、銅メツキ後の炭素繊維を固化 成形して炭素繊維と銅の複合材料により構成される放熱部材を製造した際、該部材 中に占める炭素繊維の部分の体積率を 30%〜90%の範囲に調整することもできる ためである。
銅メツキの厚さが 0. 05 X d より薄いと、緩衝材としての効果が不十分であり、逆に
CF
0. 60 X d より厚い場合には、放熱部材中に占める炭素繊維の部分の体積率が 30
CF
%未満となり、所望の高い熱伝導率が得難くなるのでこの範囲に規定した。より望ま しくは、 (0. 15-0. 60) X d であると良ぐこの範囲にしておけば、放熱部材中の V
CF
を、より望ましい範囲である 30%〜60%の範囲に調整することができる。
CF
[0020] 次に、上記の銅メツキ後の炭素繊維を実質的に一方向に揃える。これは、放熱部材
における炭素繊維方向の熱伝導率を高めるためである。
一方向への揃え方としては、例えば一定の長さに切り揃えて同じ方向に並べる方 法を挙げることができ、この他、メツキ後の炭素繊維を折り曲げて一定の長さに揃える 方法等により行うことにより、実質的に一方向に揃えることができる。
そして、実質的に一方向に揃えた状態で放電プラズマ焼結を適用し、銅メツキ後の 炭素繊維を固化成形する。
この放電プラズマ焼結法はホットプレスとよく似ているが、焼結の初期段階に発生 する放電プラズマと放電衝撃圧力によって拡散が促進されるので、ホットプレスと比 較して短時間で焼結を完了させることができる。ここで重要なのは、放熱部材におい て高い熱伝導率を得るためには、高密度を得るだけでは十分でなぐ銅の部分が再 結晶組織となるように放電プラズマ焼結の条件を調整することである。
[0021] 本発明にお 、て放電プラズマ焼結時の最高到達温度を規定したのは、放熱部材 中の銅の部分を再結晶組織にするとともに、 P Z ( /0 X V + p X V )の値を
CF CF CU CU
高めるためである。最高到達温度が 600°C未満では銅の部分の再結晶と焼結が進 まず、本発明で規定する組織や密度を有した放熱部材を得難い。逆に、最高到達温 度が 1050°Cを超える範囲では、銅の融点(1080°C)直下であるため、僅かな温度 変動によっても銅が溶融する懸念がある。以上より、最高到達温度を 600°C〜1050 °Cの範囲に規定した。放電プラズマ焼結時のより望ま 、最高到達温度は 700°C〜 1000。Cである。
[0022] 放電プラズマ焼結時の最高圧力を 5MPa〜100MPaとしたのは、最高圧力が 5M Pa未満では銅の部分の再結晶を起こさせるのに十分な塑性変形を施すことができ ず、また、 X V + P X V )の値を高めるにも不十分なためである。逆
CF CF CU CU
に lOOMPaを超える範囲では、特に大型の部材を作製する場合に大きな圧縮荷重 が必要となり工業的でないため、上述の範囲に規定した。より望ましい圧力の範囲は 、 10MPa〜80MPaである。
また、本発明の製造方法では特に規定しないが、焼結の初期過程で放電プラズマ を発生し易くするためには、加熱前に予め初期圧力をかけておくことが望ましい。こ の初期圧力の大きさは、 2MPa〜15MPaの範囲であることが望ましい。そして、初期
圧力から最高圧力まで圧力を高める時の温度は、 500°C〜800°Cの範囲であること が望ましい。
[0023] 放電プラズマ焼結時の最高到達温度 ± 5°Cにおける温度保持時間を 0. Iks〜: L 8ksとしたのは、放熱部材における銅の部分の再結晶と結晶粒成長を促進させるの に必要な時間である力 である。例えば、 0. Iksより短い 0. 06ks程度の保持時間で あっても、高密度を得ることはできる。し力しながら、このような短時間の保持では、銅 の部分の再結晶と結晶粒成長が不十分であるので、結果として高 、熱伝導率を得ら れ難い。それ故、保持時間の下限を 0. Iksに規定した。逆に、 1. 8ksを超える範囲 では時間が力かり過ぎて工業的でないので、保持時間の上限を 1. 8ksに規定した。 より望ましい保持時間の範囲は、 0. 2ks〜l. 2ksである。
なお、本発明の製造方法では特に規定しないが、放電プラズマ焼結過程において 焼結の妨げとなる銅の酸ィ匕を防ぐため、放電プラズマ焼結の真空度は、 lOOPaより 高真空であることが望ましい。より望ましくは、 50Paより高真空であると良い。
実施例 1
[0024] 以下の実施例で、本発明を更に詳しく説明する。
本実施例では、高熱伝導性の炭素繊維として、ピッチ系の炭素繊維を用いた。な お、本実施例では 1種類の直径の炭素繊維を用いた。炭素繊維の直径 d は、図 1の
CF
走査型電子顕微鏡写真力も分力るように 10 mである。この炭素繊維は、長さが約 2 70mの長繊維が約 2000本束ねられ、かつボビン状に巻かれた状態で市販されて!、 る。
この炭素繊維の熱伝導率は公称 800 (W/ (m-K) )、密度 p は 2. 2 (Mg/m3)
CF
である。また、炭素繊維の構造を X線回折により確認したところグラフアイト構造となつ ていた。
この炭素繊維を 500mmずつに切断した後、 0. 8 ^ πι ( = 0. 08 X d )〜5. O ^ m
CF
( = 0. 50 X d )の範囲で、狙い厚さを変動させた 6種類の厚さの無電解銅メツキを
CF
施した。これらのメツキ厚は、いずれも本発明の製造方法の規定範囲内である。
一例として、 5 m厚の銅メツキを施した後の表面の走査電子顕微鏡写真を図 2に 示す。メツキ後の表面形態は、メツキ前(図 1)と明らかに異なっており、銅の微粒子が
炭素繊維の表面に堆積した形態となっている。また、銅メツキ後の炭素繊維を榭脂に 埋め込み、光学顕微鏡を用いて観察した断面の写真を図 3に示す。炭素繊維 (1)の 表面に、ほぼ均質な厚さの銅メツキ (2)が施されて 、ることが分かる。
[0025] 狙い厚さを変動させた 6種類の厚さの銅メツキ後の炭素繊維を 20mm、または 40m mずつに切断した後、実質的に一方向に揃えた状態で黒鉛型に詰め込み、放電プ ラズマ焼結機のチャンバ一内で約 lOPaまで真空引きを行った。
そして、初期圧力として 12. 5MPaの圧縮方向の圧力をかけた後、昇温と昇圧を行 い、表 1に示す 7種類の方法により、 5mm X 20mm X 20mm,または 5mm X 40mm X 40mmの大きさの放熱部材 A〜Gを製造した。この内、 A〜Fは、本発明の製造方 法により作製した放熱部材である。ここで、保持時間とは最高到達温度 ± 5°Cの範囲 の保持時間である。
放熱部材 Aは、銅メツキの狙い厚さを 0. 8 /z mとし、放電プラズマ焼結時の最高到 達温度 900°C、最高圧力 50MPa、保持 0. 90ksの条件により製造したものである。 また、放熱部材 B〜Fは、それぞれ銅メツキの狙い厚さを 1. Ο ^ πι (Β) , 2. 5 ^ πι (0 、 3. 0 m (D)、 4. 0 m (Ε)、 5. 0 m (F)とし、 Aと同じ条件で放電プラズマ焼結 を行ったものである。
一方、放熱部材 Gは比較例の方法により製造したものである。 5. O /z m厚の銅メッ キを施した後の放電プラズマ焼結時にぉ ヽて、最高到達温度 900°Cと最高圧力 50 MPaは A〜Fと同様である力 放熱部材 Gは、 900°Cでの保持時間が 0. 06ksと短く 、本発明の製造方法の規定範囲外である。
[0026] [表 1]
表 1
[0027] 各放熱部材から 5mm X 5mm X 5mmの試料を切り出し、炭素繊維に垂直な方向 の断面を観察できるように榭脂に埋め込んだ後、鏡面研磨し、無腐食のままで光学 顕微鏡により観察した。本発明の放熱部材の一例として、放熱部材 Fの断面の光学 顕微鏡写真を図 4に示す。この図 4の画像を白黒に 2値ィ匕し、画像中に占める黒い部 分の面積率を測定することにより、視野中に占める炭素繊維 (1)の部分の面積率を測 定した。面積率は、 34. 0%であった。この面積率は、放熱部材中に占める炭素繊維 の部分の体積率 V に等しぐ他の放熱部材 A〜Eおよび Gも同じ方法により V を
CF CF
測定した。また、各放熱部材における銅の部分を、エレクトロンプローブマイクロアナ ライザ に付設された波長分散型分析装置により分析したところ、銅以外の不純物 は全く検出されず、いずれも銅の純度が 100%であることを確認した。
[0028] 図 4の写真を撮影した放熱部材 Fの銅(3)の部分を、硝酸 1 :硫酸 1 :水 184の比率 で混合した溶液で腐食して組織を確認したところ、図 5に示したように銅 (3)部分は、 再結晶組織で構成されており、本発明で規定する放熱部材となっていることが確認さ れた。この図 5を画像解析することにより、銅の部分の平均結晶粒径を測定したところ 、 9. 1 mであつ 7こ。
なお、放熱部材 A〜Eにおいても同様に、銅の部分は再結晶組織で構成されおり、 本発明の放熱部材となっていた。一方、比較例の放熱部材 Gにおける銅の部分の組 織は、図 6に示したように、再結晶が未完了であるため、再結晶組織が明瞭に観察さ れない。
[0029] 本発明の放熱部材 A〜Fと比較例の放熱部材 Fにおける再結晶組織の有無、再結 晶組織の平均結晶粒径 m)、炭素繊維の体積率 V (%)、任意の 50 μ m角の視
CF
野中に存在する炭素繊維の本数を表 2に示す。再結晶組織の平均結晶粒径は、 1. 1 μ m〜9. 1 m、 V は 77. 0%〜34. 0%といずれも本発明の望ましい範囲内で
CF
ある。また、 V 値が高くなるのに伴って、再結晶組織の平均結晶粒径は小さくなるこ
CF
とが分かる。
[0030] また、炭素繊維方向と垂直な断面を 5mm角の大きさとした放熱部材において、任 意の 50 m角の視野中に存在する炭素繊維の本数は、 V 値とともに増加し、 V
CF CF
値が 34. 0%の放熱部材 Fでは 6本、 V 値が 77. 0%の放熱部材 Aでは 13本存在して
CF
いた。このように、本発明の放熱部材では、望ましい範囲とした lmm角以上の大きさ の断面において、任意の 50 m角の視野中に少なくとも 1本以上、かつ望ましい範 囲である 5本以上の炭素繊維が存在していることから、放熱部材中の炭素繊維の分 布は、ほぼ均一と考えて良い。
[0031] また、各放熱部材の残部の重量と寸法測定から、密度 p (Mg/m3)を決定した。
各放熱部材の密度 p (Mg/m3)と相対密度 p Z{ /0 X (V /100) + p X (V
CF CF CU C
ZlOO) }の値を表 2に併せて示した。なお、 p = 2. 2、 p =8. 9として計算した
U CF CU
。各放熱部材の密度は、 V 値の増加に伴って小さくなり、 V 値が 34. 0%の放熱
CF CF
部材 Fでは 6. 63 (Mg/m3) , V 値が 77. 0%の放熱部材 Αでは 3. 50 (Mg/m3)
CF
であった。また、各放熱部材の相対密度は、いずれも望ましい範囲とした 0. 90以上 の値であった。
[0032] 更に、各放熱部材より 5mm X 10mm X 5mm程度の試料を各 2個ずつ切り出し、そ の 2個を接着剤で貼り合わせて 10mm X 10mm X 5mmとした。ここで、炭素繊維方 向の長さが 5mmとなるようにした。レーザーフラッシュ法により、各放熱部材の炭素繊 維方向の熱伝導率 (WZ (m-K) )を測定した結果を表 2に併せて示した。
[0033] [表 2]
平均 ¾ ^ 碓の の . 炭 '¾排方向 放熱 銅の ; の
休楨率 の視野中に す 相対密度
金属組織 の熱 導申- 備考 大きさ
' (%〕 る 素繊維の木数 兩 。 角 7 本発明 rt:結品 丄 角 J 7 ; 本¾明
mi¾ 木¾明 n 冉結晶 〇 本 明 結品 角 5 本発明 再結品 本¾明 未再結品 角 比較例
[0034] 表 2より、銅の部分を再結晶組織とし、更に再結晶組織の平均結晶粒径、 V 値、
CF
任意の 50 m角の視野中に存在する炭素繊維の本数、相対密度 p { p X
CF (V CF 100) + p X (V /100) }の値を本発明の望ましい範囲に調整した放熱部材
CU CU
A〜Fの炭素繊維方向の熱伝導率は、 570WZ (m-K)〜726WZ (m-K)と高!、値 を示している。
一方、比較例の放熱部材 Gでは、 V 値、任意の 50 μ m角の視野中に存在する炭
CF
素繊維の本数、相対密度の値は、いずれも本発明の放熱部材 Fとほぼ同じであるが 、銅の部分の再結晶が完了していないので、熱伝導率は 508WZ (m'K)と放熱部 材 Fより低い。
[0035] 以上の実施例 1から、炭素繊維と銅の複合材料により構成される放熱部材におい て、高熱伝導率を得るためには、炭素繊維の体積率や放熱部材の密度を調整する だけでは不十分であり、銅の部分を本発明で規定する再結晶糸且織とすることにより、 更に高い熱伝導率を有する放熱部材が得られることが分力る。
このような放熱部材を得るためには、本発明で規定する方法により放熱部材を製造 することが有効である。本発明の放熱部材は、銅の 400WZ (m'K)を超える高い熱 伝導率を有するので、半導体装置や画像表示装置、光デバイス等の電子機器の熱 対策に用いられる放熱部材として好適である。
実施例 2
[0036] 実施例 1で得た本発明の放熱部材について、レーザーフラッシュ法により、各放熱 部材の垂直方向の熱伝導率 (W/ (m-K) )を測定した。実施例 1で得られた炭素繊
維方向の熱伝導率を含め、熱伝導率と炭素繊維の体積率 V の関係を、図 7に示す
CF
。図 7には、比較のために純銅の熱伝導率を V =0として記載している。図 7に示す
CF
通り、 V の増加に伴い炭素繊維方向の熱伝導率は増加するが、炭素繊維を横切る
CF
垂直方向の熱伝導率の低下が著しい。 V の範囲を、本発明でより望ましいとした 30
CF
%〜60%の範囲に調整しておけば、垂直方向においても 80WZ (m.K)〜200W Z (m'K)の熱伝導率が得られることが分かる。
[0037] また、放熱部材 A, C, Dの信頼性評価として、真空中で高温放置後の炭素繊維方 向の熱伝導率を測定した結果を図 8に示す。図 8に示したように、放置温度が高くな ると、いずれの放熱部材においても熱伝導率が低下している力 V ΊΊ. 0%と炭
CF
素繊維の体積率が大きい放熱部材 Aでは、 800°Cで 24h放置すると、熱伝導率の低 下が特に大きいことが確認された。この高温放置後の放熱部材 Aについて、組織観 察を行った結果を図 10に示す。試験前には観察されな力つた空隙が組織中に確認 され、高温での銅の塑性流動が起こったことが推測される。これは、炭素繊維と銅の 濡れ性が悪!ヽためであり、炭素繊維間に存在する銅の量が少な!/、ために起きた現象 と考えられる。一方、 V 力 6. 1%の放熱部材 Dを 800°Cで 24h放置後の組織を同
CF
様に観察すると、図 9に示したように顕著な組織変化は確認されな力つた。このように 、高温放置に対する信頼性の点からも、 V の範囲は、 30%〜60%の範囲に調整し
CF
ておくこと力 より望ましい。
[0038] また、放熱部材 Aと Dから、 5mm X 5mm X 40mmの試験片を切り出し、スパン 30m m、変位速度 0. 5mmZ分の条件で 3点曲げ試験を行って荷重一変位曲線を測定し た結果を図 11に示す。図中に繊維方向と記してあるのは、試験片の 40mmの方向 が炭素繊維方向となるように切り出した試験片であり、一方、垂直方向と記してあるの は、 40mmの方向が炭素繊維に対して垂直方向となるように切り出した試験片である 。いずれの放熱部材においても、垂直方向の強度は、繊維方向と比較して低いが、 V 力 0%と炭素繊維の体積率が大きい放熱部材 Aでは、抗折荷重の低下が特
CF
に大きいことが分かる。これは、放熱部材 Aにおいては、強度の弱い炭素繊維と銅の 界面が多数存在するためと思われる。図 11に示す各荷重 変位曲線の最大荷重の 値と試験片の寸法から、次式(1)を用いて各放熱部材の抗折力 σ (MPa)を決定し
た結果を表 3に示す。
(1)式にぉ 、て、 Wは最大荷重(N)、 Lはスパン(= 30mm)、 bは試験片の幅( mm)、 tは試験片の厚さ( = 5mm)である。
[表 3]
表 3
[0040] これらの放熱部材 Aと Dに対して、(室温 X 10分)→ (一 40°C X 10分)→ (室温 X I 0分)→ (125°C X 10分)を 1サイクルとして 200サイクルまで温度サイクル試験を行つ た。温度サイクル試験後の放熱部材 Aと Dの組織を、それぞれ図 12と図 13に示す。 V ΊΊ. 0%と大きい放熱部材 Aでは、試験後にクラックが発生しているのに対し(
CF
図 12)、 V 力 6. 1%の放熱部材 Dには、クラックは観察されない(図 13)。このように
CF
、機械的強度や温度サイクル試験に対する信頼性の点からも、 V
CFの範囲は、 30%
〜60%の範囲に調整しておくことが、より望ましい。
[0041] 以上の実施例 2から、炭素繊維を横切る垂直方向にも高 ヽ熱伝導率が要求される 場合や、高温環境や温度サイクルに対する放熱部材の信頼性が要求される場合、更 に放熱部材の機械的強度が要求される場合には、 V %
CFの範囲は 30%〜60 として おくことが、より望ましいことが分かる。
図面の簡単な説明
[0042] [図 1]本発明で用いた炭素繊維の表面を示す走査型電子顕微鏡写真である。
[図 2]本発明の製造方法における銅メツキ後の炭素繊維の表面を示す走査型電子顕 微鏡写真である。
[図 3]本発明の製造方法における銅メツキ後の炭素繊維の断面を示す光学顕微鏡写
真である。
[図 4]本発明の放熱部材における炭素繊維に垂直な方向の断面を示す光学顕微鏡 写真である。
[図 5]本発明の放熱部材における銅の部分の組織を示す光学顕微鏡写真である。
[図 6]比較例の放熱部材における銅の部分の組織を示す光学顕微鏡写真である。
[図 7]本発明の放熱部材の熱伝導率に及ぼす炭素繊維の体積率の影響を示す図で ある。
[図 8]本発明の放熱部材の熱伝導率に及ぼす放置温度の影響を示す図である。
[図 9]本発明の放熱部材における高温放置試験後の組織を示す走査型電子顕微鏡 写真の例である。
[図 10]本発明の放熱部材における高温放置試験後の組織を示す走査型電子顕微 鏡写真の別の例である。
[図 11]本発明の放熱部材における抗折試験時の荷重—変位曲線である。
[図 12]本発明の放熱部材における温度サイクル試験後の組織を示す光学顕微鏡写 真の例である。
[図 13]本発明の放熱部材における温度サイクル試験後の組織を示す走査型電子顕 微鏡写真の例である。
符号の説明
1.炭素繊維 2.銅メツキ 3.銅