明 細 書
神経分化促進ペプチド
技術分野
[0001] 本発明は新規な神経幹細胞の分化促進活性を有するペプチドならびにその薬学 的に許容される塩に関する。さらに詳しくは、本発明は外傷等による脊髄損傷;脊髄 異形成症候群;脳虚血による神経障害、ハンチントン病、パーキンソン病、筋萎縮性 側索硬化症、アルツハイマー等の神経変性疾患の治療に有用なペプチドならびに その薬学的に許容される塩に関する。
背景技術
[0002] 胚性幹細胞や体性幹細胞を用いる再生医療は、従来回復が不可能と考えられて いた神経変性疾患などの治療に希望を与えるものであり、既に先駆的な臨床試験も 開始されている。しかし、神経疾患の治療において、移植する神経幹細胞の供給源 、数量、神経への分化効率などの多くの問題があり、神経幹細胞の有効な増殖'分 化方法が求められている (非特許文献 1)。
一方、アポトーシスは生体の恒常性を保っために必要な細胞の自然死であり、その 破綻は癌や自己免疫疾患などの重篤な疾患を招く (非特許文献 2)。アポトーシスは 放射線や薬剤などの外因によっても引き起されるが、内因性の誘導因子として TNF、 TRAIL, FasL等が報告されている (非特許文献 3および非特許文献 4)。これらは、標 的細胞上のそれぞれに特異的な受容体と結合し、アポトーシスを誘導する (非特許文 献 5)。
[0003] TNF、 TRAIL, FasLの過剰産生は、リウマチ性関節炎 (Rheumatoid arthritis),多発 '性硬ィ匕症 (Multiple sclerosis)^ AIDS(Acquired immune deficiency syndrome) ^ 、敗 血症ショック (Septic shock),うつ血'性心不全 (Congestive heart failure),再'性不良'性 貧血 (Aplastic anemia),脊髄異开成症候群 (Myelodysplastic syndrome),クローン病( Crohn's disease)等の疾患の原因となる (非特許文献 6)。
[0004] CD95L (FasL)特異的にその生理活性を中和する抗体力 マウスの脊髄損傷後の 神経細胞死を抑制し、神経機能の回復を促進することが報告されている(非特許文
献 7)。
[0005] IL-12、 GM-CSF等の榭状細胞力 分泌される物質、榭状細胞を誘導'増殖させる 物質、榭状細胞を活性化する物質、神経組織中の神経栄養因子の発現を誘導する 物質、および神経組織中のマイクログリア、マクロファージを誘導'増殖させる物質か ら選ばれる 1種または 2種以上の物質;これら物質を発現することができるベクター;あ るいは、神経栄養因子 NT-3、 CNTF、 TGF |8 1、 IL-6、 EGFを分泌する榭状細胞サブ セット;を有効成分とする、脊髄損傷を含む中枢神経系損傷や脳梗塞などの神経機 能不全疾患の治療薬が知られて!/、る (特許文献 1)。
[0006] 神経栄養因子様作用、神経栄養因子活性増強作用、 βアミロイドの細胞毒性抑制 作用等の医薬作用を有する新規なベンゼン環縮合 5員複素環式化合物が知られて いる (特許文献 2)。
[0007] 優れた幹細胞 ·神経前駆細胞の増殖 ·分化促進作用を有する新規なベンゼン環縮 合 5員複素環式化合物が知られて!/ヽる (特許文献 3)。
[0008] インターロイキン一 6レセプターとインターロイキン一 6の融合タンパク質を有効成分 として含む、神経前駆細胞の神経細胞への分化促進剤が知られて!/ヽる (特許文献 4)
[0009] トリァゼピンまたはジァゼピン力もなる 7員環と 2乃至 4個の窒素原子を含む 5員環と の縮合環化合物であることを特徴とするアポトーシス抑制剤が知られている (特許文 献 5)。
[0010] また、近年カスペースの阻害作用などによりアポトーシスを阻害する薬剤が脳虚血 による神経障害 (非特許文献 8)、ハンチントン病 (非特許文献 9)、パーキンソン病( 非特許文献 10)、筋萎縮性側索硬化症 (非特許文献 11)、アルツハイマー等の神経 変性疾患の動物モデルにぉ 、て有効な治療効果を示すことが報告されて!、る。
[0011] 上記の抗体やサイト力インなどは、特異性は高いが分子量が大きい蛋白質であるの で、抗原性、投与方法、安定性に問題がある。天然の TNF結合蛋白の TNF結合機能 部分を探索して得られた合成ペプチドは、天然の TNF結合蛋白との競合による有効 性の低下、血液中の滞留時間が短いこと等の問題がある。また、低分子有機化合物 のアポトーシス阻害剤は、アポトーシスの基本経路を阻害するので、選択性が低いこ
とによる副作用が問題である。
特許文献 1:特開 2004— 2412号公報
特許文献 2 :特開 2003— 81959号公報
特許文献 3:特開 2002— 348239号公報
特許文献 4:特開 2000 - 248000号公報
特許文献 5:特開平 11― 228576号公報
非特許文献 1 :実験医学、 Vol.20(9), 1276-1279, 2002
非特許文献 2 :Annu Rev Immunol, 17, 221-253, 1999
非特許文献 3 : Pharm Acta Helv, 74, 281-286, 2000
非特許文献 4: Exp Cell Res, 256, 58-66, 2000
非特許文献 5 : TIBS, 24 February, 47-53, 1999
非特許文献 6 :Microsc Res Tech, 50, 229-235, 2000
非特許文献 7 : Nat Med, 10(4), 389-395 (2004)
非特許文献 8 : Proc Natl Acad Sci USA, 95, 15769-15774, 1998
非特許文献 9 : Nature Medicine, 6, 797-801, 2000
非特許文献 10 : J Neurosci, 22, 1763-1771, 2002
非特許文献 11 : Nature, 417, 74-78, 2002
発明の開示
[0012] 発明の概要
本発明は、新規な神経幹細胞の分化促進活性を有するペプチドならびにその薬学 的に許容される塩を与え、さらには、外傷等による脊髄損傷;脊髄異形成症候群;脳 虚血による神経障害、ハンチントン病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、アル ッハイマー等の神経変性疾患の治療に有用なペプチドならびにその薬学的に許容 される塩を与えることを目的とする。
[0013] 本発明は、下記のアミノ酸配列:
Tyr Arg His Tyr Trp Ser Glu Asn Leu Phe Gin Cys Phe Asn (配列番号: 1) Tyr Arg His Ala Trp Ser Glu Asn Leu Ala Gin Cys Phe Asn (酉己列番号: 2)
Ala Arg His Ala Trp Ser Glu Asn Leu Ala Gin Cys Phe Asn (配列番号: 3)
Tyr Arg His Ala Ala Ser Glu Asn Leu Ala Gin Cys Phe Asn (配列番号: 4) のいずれか、あるいは該アミノ酸配列において 1〜3個の任意のアミノ酸が付加され た配列、該アミノ酸配列から 1〜3個の任意のアミノ酸が欠失した配列、または該アミ ノ酸配列において任意のアミノ酸残基が相同性置換された配列力 なるペプチドで あって、神経幹細胞の神経細胞への分ィヒを促進する該ペプチドまたはその薬学的 に許容される塩を提供する。
[0014] 本発明にお 、ては各種アミノ酸残基を次の略号で記述する。
Ala : L- -ァラニン
Arg : L- -ァノレギニン
Asn : L- -ァスノ ラギン
Asp :し- -ァスパラギン酸
Cys : L- -システィン
Gin : L- -グルタミン
Glu : L- -グルタミン酸
Gly :グリシン
His : L- -ヒスチジン
He : L-イソロイシン
Leu : L- -口イシン
Lys : L- -リジン
Met : L- -メチォニン
Phe : L- -フエ-ルァラニン
Pro : L- -プロリン
Ser :し—セリン
Thr : L- -トレオニン
Trp : L- -トリブトファン
Tyr : L- -チロシン
Val :し一バリン
[0015] また、本明細書においては、常法に従ってペプチドのアミノ酸配列を、その N末端
のアミノ酸残基が左側に位置し、 C末端のアミノ酸残基が右側に位置するように記述 する。
[0016] 本発明のペプチドは、通常のペプチド合成方法により行われる。例えば固相合成 法または液相合成法によって調製されるが、固相合成法が操作上簡便である〔例え ば、 日本生化学会編「続生化学実験講座 2 タンパク質の化学 (下)」 (昭和 62年 5月 2 0日 株式会社東京化学同人発行)、第 641— 694頁参照〕。
[0017] 本発明のペプチドの固相合成法による調製は、
例えば、スチレンージビュルベンゼン共重合体などの反応溶媒に不溶性である重 合体に、目的とするペプチドの C末端に対応するアミノ酸をそれが有する oc -COO H基を介して結合させ、
次いで該アミノ酸に目的とするペプチドの N末端の方向に向力つて、対応するァミノ 酸またはペプチド断片を該アミノ酸またはペプチド断片が有する a COOH基以外 の OCーァミノ基などの官能基を保護したうえで縮合させて結合させる操作と、該結合 したアミノ酸またはペプチド断片における OCーァミノ基などのペプチド結合を形成す るァミノ基が有する保護基を除去する操作とを順次繰り返すことによってペプチド鎖 を伸長させ、目的とするペプチドに対応するペプチド鎖を形成し、
次!、で該ペプチド鎖を該重合体から脱離させ、かつ保護されて!、る官能基力 保 護基を除去すること〖こより目的とするペプチドを得、次いで該ペプチドを精製すること によって実施される。ここで、ペプチド鎖の重合体力 の脱離および保護基の除去は 、トリフルォロ酢酸を用いて同時に行うのが副反応を抑制する観点から好ましい。また 、得られたペプチドの精製は逆相液体クロマトグラフィーやゲルパーミエイシヨンクロ マトグラフィ一で行うのが効果的である。
[0018] また、本発明のペプチドの塩は、通常の塩生成反応を利用することにより調製され る。
[0019] 本発明により提供されるペプチドのアミノ酸配列は、
(1) Tyr Arg His Tyr Trp Ser Glu Asn Leu Phe Gin Cys Phe Asn (配列番号: 1)
(2) Tyr Arg His Ala Trp Ser Glu Asn Leu Ala Gin Cys Phe Asn (配列番号: 2)
(3) Ala Arg His Ala Trp Ser Glu Asn Leu Ala Gin Cys Phe Asn (配列番号: 3)
(4) Tyr Arg His Ala Ala Ser Glu Asn Leu Ala Gin Cys Phe Asn (配列番号: 4)で与え られる。
本発明のペプチドとは、前記配列番号 1〜4のいずれかに記載のアミノ酸配列から なるものまたはこれと同等のアミノ酸配列力 なるものであって神経幹細胞の神経細 胞への分ィ匕を促進するものである。ここで、「前記配列番号 1〜4のいずれかに記載 のアミノ酸配列またはこれと同等のアミノ酸配列」には、
1.前記配列番号 1〜4のいずれかのアミノ酸配列、
2.前記配列番号 1〜4のいずれかのアミノ酸配列のァミノ末端がァセチル基、メトキ シカルボニル基、ブトキシカルボニル基、 1〜3個のアミノ酸残基 (好ましくは 1もしくは 2個のアミノ酸残基、さらに好ましくは 1個のアミノ酸残基)のペプチドで置換されたアミ ノ酸配列、
3.前記配列番号 1〜4のいずれかのアミノ酸配列のカルボキシ末端がアミド基、メチ ルエステル基、ブチルエステル基、 1〜 3個のアミノ酸残基 (好ましくは 1もしくは 2個の アミノ酸残基、さらに好ましくは 1個のアミノ酸残基)のペプチドで置換されたアミノ酸 配列、
4.前記配列番号 1〜4の 、ずれかのアミノ酸配列の各アミノ酸残基が側鎖官能基の 性質に基づき相同性置換されたアミノ酸配列、例えば、 Aspおよび Gluの群、 Arg、 Lys および Hisの群、 Asn、 Gln、 Ser、 Thrおよび Tyrの群、ならびに Ala、 Gly、 Val、 Leu、 He
、 Pro, Phe、 Met, Trpおよび Cysの群中の残基はそれぞれ互いに置換可能であり (Mo lecular Biology of The Cell, Fourth Edition, B. Albert et al, Garland Science, NY, 2 002. pp.13ト 133.参照)、本明細書および特許請求の範囲において「相同性置換」と は上記各群内における置換を意味する、
5. 1〜3個の任意のアミノ酸残基 (好ましくは 1もしくは 2個の任意のアミノ酸残基、さら に好ましくは 1個の任意のアミノ酸残基)力 前記配列番号 1〜4のいずれかのアミノ 酸配列の任意の位置に付加されたアミノ酸配列、特に、付加されるアミノ酸残基は Ly s、 Ala、 Glu、 Aspおよび Glyからなる群から選択される、ならびに
6.前記配列番号 1〜4のいずれかのアミノ酸配列の 1〜3個の任意のアミノ酸残基( 好ましくは 1もしくは 2個の任意のアミノ酸残基、さらに好ましくは 1個の任意のアミノ酸
残基)が、欠失されたアミノ酸配列、
が含まれる。
[0021] 本発明のペプチドの神経幹細胞の神経細胞への分化促進効果は、これらの活性 を測定する通常の方法により確認し得る。例えば、(1)ラット胎児海馬由来の神経幹 細胞の神経分化促進活性 (例えば、 Nat. Med. 6:271277; 2000参照)、(2)ラット胎児 脊髄由来の神経幹細胞の神経分化促進活性 (例えば、 J. Neurosci. 16:7599-7609,1 996参照)、(3)ラット骨髄間質細胞の神経細胞分化促進活性例えば、 Brain Res. 991 :46-55, 2003参照)を測定して行われる。また、 TNFの活性はマウス L929細胞や NI H3T3細胞に対するアポトーシス誘導で測定できる。 TRAILの活性はマウス L929細 胞に対するアポトーシス誘導で測定できる。 FasLの活性は Fas遺伝子を導入したマウ ス L929細胞や NIH3T3細胞に対するアポトーシス誘導で測定できる (例えば、 EMB 0 J, 13 , 4587-4596, 1994.参照)。アポトーシス誘導の検出は、ヨウ化プロピディウム( PI)やへキスト 33258等の核酸染色試薬や、蛍光標識ァネキシン Vなどの膜構造の 変化を検出する方法が好ましく用いられる。中でもヨウ化プロピディウム (PI)、 FITC標 識ァネキシン Vが特に好ま 、。
[0022] 本発明の遺伝子は、上記本発明のペプチドのうちの何れか 1つをコードするもので ある。
[0023] 本発明のペプチドは、薬学的に許容される塩を形成していても良ぐその塩として は、例えば、塩酸、硫酸、燐酸、乳酸、酒石酸、マレイン酸、フマール酸、シユウ酸、リ ンゴ酸、クェン酸、ォレイン酸、ノルミチン酸などの酸と共に形成された塩;ナトリウム 、カリウム、カルシウムなどのアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の、またはアルミ -ゥムの水酸ィ匕物または炭酸塩と共に形成された塩;トリェチルァミン、ベンジルアミ ン、ジエタノールァミン、 tーブチルァミン、ジシクロへキシルァミン、アルギニンなどと 共に形成された塩などが挙げられる。
[0024] 本発明のペプチドおよび Zまたはその薬学的に許容される塩は単独で用いても、 または 2以上を混合して用いてもよい。すなわち、本明細書で開示のペプチドは混合 物として用いることも可能である。以下、特に断りのない場合、「ペプチド」という語は ペプチドおよび Zまたはその薬学的に許容される塩を示すものとする。
[0025] 本発明のペプチドは、神経幹細胞の分化促進活性を有するため、外傷等による脊 髄損傷;脊髄異形成症候群;脳虚血による神経障害、ハンチントン病、パーキンソン 病、筋萎縮性側索硬化症、アルツハイマー等の神経変性疾患の治療に有用である。 このため、本発明は、外傷等による脊髄損傷;脊髄異形成症候群;脳虚血による神経 障害、ハンチントン病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、アルツハイマー等の 神経変性疾患を治療するための方法およびその方法における本発明のペプチドの 使用を含む。ここで、「外傷等による脊髄損傷」とは、変性、傷害、機能不全等が原因 となる脊髄損傷をいう。
[0026] 本発明のペプチドを用いる治療法は、例えば静脈内投与、皮下投与、腹腔内投与 、経皮投与、経口投与などの全身的投与や、脳内投与や脊髄内投与などのように疾 患部位にカテーテルや注射針を用いて本発明のペプチドを注入する方法などが挙 げられる。
[0027] 本発明のペプチドの有効な活性発現のための投与量は、通常 0. 01 μ gZkg〜2g Zkg (成人)であり、好ましくは 0. 01 gZkg〜200mgZkg (成人)である。
[0028] 本発明のペプチドは、 5%ブドウ糖液や生理食塩水などの薬学的に許容し得る溶 液に溶解させて得られる溶液として投与されるのが好ま ヽ。また該溶液は薬理学的 に許容される種々の添加剤 (充填剤、希釈剤、または保存料などの製剤補助剤)を含 んでいてもよい。さらに本発明のペプチドをカプセルィ匕またはリボソーム化することも 可能である。
図面の簡単な説明
[0029] [図 1]図 1は、試験例 2において 6-ヒドロキシドーパミン処置し、配列番号 2のペプチド を投与したラットの脳 (試験例)のチロシンヒドロキシラーゼ免疫染色の結果を示す。
[図 2]図 2は、試験例 2において 6-ヒドロキシドーパミン処置し、配列番号 2のペプチド は投与して 、な 、ラットの脳 (比較例)のチロシンヒドロキシラーゼ免疫染色の結果を 示す。
[図 3]図 3は、試験例 2において 6-ヒドロキシドーパミンおよび配列番号 2のペプチドの 何れも投与して 、な 、ラットの脳 (コントロール)のチロシンヒドロキシラーゼ免疫染色の 結果を示す。
実施例
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に より限定されるものではない。
(実施例 1)
式 (1) : Tyr Arg His Tyr Trp Ser Glu Asn Leu Phe Gin Cys Phe Asn (配列番号: 1) で示されるアミノ酸配列を含むペプチド Tyr Arg His Tyr Trp Ser Glu Asn Leu Phe Gl n Cys Phe Asn-NHをペプチド自動合成装置を用いて固相合成法により合成した。
2
すなわち、 4— (2'、 4'—ジメトキシフエ-ルーフルォレ -ルメトキシカルボ-ル)—アミ ノメチル)—フエノキシァセトアミドーェチル基を 0. 62ミリモル Zg (榭脂)の割合で有す るスチレンージビュルベンゼン共重合体〔スチレンとジビュルベンゼンの構成モル比: 99対 1〕力 なる粒状榭脂〔米国アプライド 'バイオシステムズ社製、 Fmocアミドレジ ン〕 0. 1ミリモルを用い、 目的とするペプチドのカルボキシル末端カもァミノ末端に向 力つて順次対応するアミノ酸を結合させた。結合反応において、アミノ酸として、米国 アプライド ·バイオシステムズ社製の N α— 9— (フルォレニルメトキシカルボニル) - Ν Ί トリチルー L グルタミン〔Fmocグルタミン〕、 N"— 9 (フルォレ -ルメトキシカル ボ -ル) - y -ブチル L グルタミン酸〔Fmocグルタミン酸〕、 N α— 9— (フルォレ -ルメトキシカルボ-ル)一 Νβ トリチル一 L ァスパラギン〔Fmocァスパラギン〕、 N α— 9 (フルォレ -ルメトキシカルボ-ル) NG— (2, 2, 5, 7, 8 ペンタメチルクロ マン— 6—スルフォ-ル)— L—アルギ-ン〔Fmocアルギニン〕、 Να— 9— (フルォレ -ルメトキシカルボ-ル)— S トリチル— L システィン〔Fmocシスティン〕、 Να— 9 (フルォレ -ルメトキシカルボ-ル )— 0— t ブチルー Lーセリン〔Fmocセリン〕、 N α— 9— (フルォレ -ルメトキシカルボ-ル) L ロイシン〔Fmocロイシン〕、 N α— 9— (フルォレニルメトキシカルボニル) Nto トリチル L ヒスチジン〔Fmocヒスチジン 〕、 Να— 9— (フルォレ -ルメトキシカルボ-ル)一 L フエ-ルァラニン〔Fmocフエ- ルァラニン〕、 N α— 9— (フルォレ -ルメトキシカルボ-ル) Ο t ブチル L チ 口シン〔Fmocチロシン〕、 Να— 9— (フルォレ -ルメトキシカルボ-ル)— Νω ブトキ シ— L トリプトファン〔Fmocトリプトファン〕を、各結合ステップにつ 、てそれぞれ 1ミ リモルずつ用いた。
[0031] 得られたペプチド榭脂を、 7. 5%のフエノールと、 2. 5%のエタンジチオール、 5% の水と 5%のチオア-ノールを含むトリフルォロ酢酸 10mlで 3時間処理した。得られ た溶液をジェチルエーテルに加えて生じる沈殿をさらに数回ジェチルエーテルで洗 浄して、ペプチドの脱保護と榭脂からの脱離を行った。粗生成物を PD10カラム (アマ シャムフアルマシアジャパン)で精製してペプチドを得た。得られた精製ペプチドをフ アルマシアバイオテク株式会社製 AKTA explorer 10XT〔カラム:ミリポアウォータ ーズ株式会社製ノバパック C 18 3. 9mm φ X 150mm,移動相:トリフルォロ酢酸を 0. 05容量%含有するァセトニトリルと水の混合溶媒 (ァセトニトリル濃度を 30分間で 5 容量%から 50容量%に直線的に変化させた)、流速 1. 0mlZmin〕に付したところ、 21. 5minに単一のピークが示された。 FAB法マススペクトルにより求めた精製べプチ ドの分子量は 1906であった (理論値: 1906. 1)。
[0032] (実施例 2)
式 (2) : Tyr Arg His Ala Trp Ser Glu Asn Leu Ala Gin Cys Phe Asn (配列番号: 2) 、式 (3) : Ala Arg His Ala Trp Ser Glu Asn Leu Ala Gin Cys Phe Asn (配列番号: 3)、 式 (4) : Tyr Arg His Ala Ala Ser Glu Asn Leu Ala Gin Cys Phe Asn (配列番号: 4)で 示されるアミノ酸配列を含むペプチドを実施例 1と同様の方法で合成した。ただし、結 合反応において、実施例 1に示したアミノ酸以外に、米国アプライド 'バイオシステム ズ社製の N α— 9— (フルォレ -ルメトキシカルボ-ル) L ァラニン〔Fmocァラニン 〕を、各結合ステップについてそれぞれ 1ミリモルずつ用いた。
[0033] Tyr- Arg- His- Ala- Trp- Ser- Glu- Asn- Leu- Ala- Gin- Cys- Phe- Asn- NHで示される
2 精製ペプチドでは、 17. 9minに単一のピークが示され、精製ペプチドの分子量は 17 38であった (理論値: 1737. 9)。 Ala- Arg- His- Ala- Trp- Ser- Glu- Asn- Leu- Ala- Gin- Cys-Phe-Asn-NHで示される精製ペプチドでは、 17. 5minに単一のピークが示され
2
、精製ペプチドの分子量は 1646であった (理論値: 1645. 8)。 Tyr-Arg-His-Ala-Ala -Ser- Glu- Asn- Leu- Ala- Gin- Cys- Phe- Asn- NHで示される精製ペプチドでは、 15.
2
3minに単一のピ―クが示され、精製ペプチドの分子量は 1623であった (理論値: 16 22. 8)。
[0034] (比較例)
下記の (試験例 1)において対照実験を行うベぐ式 (5) : Trp Ser Glu Asn Leu Ala Gl n Cys Phe Asn (配列番号: 5)、式 (6) : Tyr Arg His Ala Trp Ser Glu Asn Leu Ala (配 列番号: 6)、式 (7) : Tyr Arg His Ala Trp Ser Glu Asn Leu Ala Gin Cys Ala Asn (配列 番号: 7)、式 (8) : Tyr Arg His Tyr Trp Ser Glu Asn Leu Phe Gin Cys Ala Asn (配列 番号: 8) (配列番号 1 8は TNF 1型受容体0^^-1?1)由来)、式(9) :丁 Arg His Ser Trp Pro Glu Asn Leu Ala Cys Glu Glu Leu (配列番号: 9)、式 (10) : Tyr Arg His Ser Trp Pro Glu Asn Leu Ala (配列番号: 10)、式 (11) : Tyr Arg His Ser Phe Pro Glu Asn Leu Ala Cys Glu Glu Leu (配列番号: 11) (配列番号 9 11は Frizzled- related prot ein(Frzb-l)由来)で示されるアミノ酸配列を含むペプチドを実施例 1と同様の方法で 合成した。ただし、結合反応において、実施例 1に示したアミノ酸以外に、米国ァプラ イド ·バイオシステムズ社製の N α— 9— (フルォレニルメトキシカルボニル) L ァラ ニン〔Fmocァラニン〕と N α— 9— (フルォレ -ルメトキシカルボ-ル) L プロリン〔F mocプロリン〕を、各結合ステップについてそれぞれ 1ミリモルずつ用いた。
Trp Ser Glu Asn Leu Ala Gin Cys Phe Asn- NHで示される精製ペプチドでは、 18.
2
lminに単一のピ―クが示され、精製ペプチドの分子量は 1210であった (理論値: 12 10. 3)。 Tyr Arg His Ala Trp Ser Glu Asn Leu Ala- NHで示される精製ペプチドでは
2
、 13. 6minに単一のピークが示され、精製ペプチドの分子量は 1246であった (理論 値: 1245. 4)。 Tyr Arg His Ala Trp Ser Glu Asn Leu Ala Gin Cys Ala Asn- NHで示
2 される精製ペプチドでは、 14. 4minに単一のピークが示され、精製ペプチドの分子 量は 1662であった (理論値: 1661. 8)。 Tyr Arg His Tyr Trp Ser Glu Asn Leu Phe Gin Cys Ala Asn - NHで示される精製ペプチドでは、 18. 5minに単一のピークが示
2
され、精製ペプチドの分子量は 1831であった (理論値: 1830. 0)。 Tyr Arg His Ser Trp Pro Glu Asn Leu Ala Cys Glu Glu Leu - NHで示される精製ペプチドでは、 17.
2
9minに単一のピークが示され、精製ペプチドの分子量は 1746であった (理論値: 17 45. 9)。 Tyr Arg His Ser Trp Pro Glu Asn Leu Ala - NHで示される精製ペプチドで
2
は、 14. 9minに単一のピークが示され、精製ペプチドの分子量は 1272であった (理 論値: 1271. 4)。 Tyr Arg His Ser Phe Pro Glu Asn Leu Ala Cys Glu Glu Leu— NH
2 で示される精製ペプチドでは、 17. 4minに単一のピークが示され、精製ペプチドの
分子量は 1707であった (理論値: 1706. 9)。
[0036] (試験例 1)
妊娠 16日目の Wistarラット胎児(チヤ一ルス'リバ一'ジャパン)から海馬を摘出し た。単一細胞に分散した後、 l%N2 (Invitrogen社)、 20ngZmlの bFGF (BD Bi oscience社)を含む DMEM/F12 (-ッスィ製薬工業)〖こ 100万個 Zmlになるよう に懸濁して、 25cm2フラスコ(NUNC社)中で 37°C、 5%CO下 3日間静置培養した
2 スフエアを形成して増殖している海馬由来神経幹細胞^^めて、 1%N2、 20ng/ mlの bFGFを含む DMEM/F12に懸濁し、 24穴プレート(NUNC社)の各ゥエル に 500 1Zゥエルずつ分注した。各ゥエルに、実施例および比較例で得られた配列 番号 1から 11に示すペプチドを、最終濃度が 100 gZmlになるようにカ卩え、その後 5日間 37°C、 5%CO下静置培養し、形態観察と免疫染色 (例えば、 V. J. Allan, Ed.
2
, Protein Localization by fluorescence Microscopy , uxford University Press, h. Y. , 2000.;)を行った。
5日後に観察した結果、配列番号 1〜4に示すペプチドを添加したゥエルでは、スフ エアを形成して 、た海馬由来神経幹細胞がプレート表面に接着して、無数の軸索様 神経突起を伸張した。これに対して配列番号 8に示すペプチドでは、スフエアを形成 して 、た海馬由来神経幹細胞がプレート表面に接着したが、軸索様神経突起の伸 張は観測されな力つた。配列番号 5〜7、 9〜: L 1に示すペプチドでは、海馬由来神経 幹細胞のスフエアがプレートに接着せず、かつ軸索様神経突起の伸張も観測されな かった。
配列番号 1〜4に示すペプチドを添加したゥエルで観測された軸索様神経突起は、 免疫染色の結果約 85%がニューロフィラメント(ケミコン社、 NF- M(145 kD)抗体、 AB1 987)陽性であった。約 10%が GFAP (ダコ社、 GFAP抗体、 Z0334)陽性であった。即 ち、配列番号 1〜4に示すペプチドが高効率に海馬由来神経幹細胞を神経細胞に 分化させることが明らかになった。
[0037] (試験例 2)
参考文献(Kirik, D., et al., Exp. Neurol, 152, 259-277(1998).)に記載の方法に従
つてパーキンソン病モデルラットを作成した。 6-ヒドロキシドーパミン(Sigma, HBr salt) 5.2 mg/mlとァスコルビン酸 (和光純薬) 20 mg/mlの割合で含む生理食塩液を、 8週 齢の雄性 SDラットの脳の線条体に注入個所あたり 2 μ 1ずつ注入した。注入個所は脳 定位固定装置を用いて、 (1) ΑΡ: +1.3, ML: -2.6, DV: 一 5.0;, (2) AP: +0.4, ML: -3.0, DV:—5.0; (3) AP: -0.4, ML:—4.2, DV:—5.0; (4) AP: -1.3, ML:—4.5, DV: -5.0の 4ケ所とした。これをパーキンソン病モデルラットとした。
得られた各パーキンソン病モデルラットに対し、 3週間以上 1週間ごとに、腹腔内に 1 mgのアポモルヒネを含む生理食塩液 1 mlを注入し、その後 30分間の平均の反時計 方向への回転速度を計測した。回転速度が 7回毎分以上のラットを選択し以下の実 験に供した。
6-ヒドロキシドーパミンを注入後 4週間目に、配列番号 2で示されるペプチドを 5 mg/ mlの割合で含む 5%ブドウ糖液(日本薬局方)を、脳定位固定装置を用いて、 (1) AP: +0.4, ML: -3.0, DV: -5.0; (2) AP: -0.4, ML: -4.2, DV: -5.0の 2ケ所に各 2 μ 1ずつ 注入した (試験例)。比較例として、 6-ヒドロキシドーノ ミンを同様に注入後、 5%ブドウ 糖液のみ (配列番号 2で示されるペプチドは含まず)を同位置に注入した (比較例)。 その後、 8週間後に、アポモルヒネによって誘導される回転運動を評価した。
その結果、アポモルヒネによって誘導される回転運動については、試験例の群にお Vヽて 4例中 1例にアポモルヒネによって誘導される回転運動の完全な抑制が認められ た。しかし、比較例の群においては回転運動の抑制は全く認められな力つた。
また、脳組織のドーノ ミン産生神経細胞のマーカーであるチロシンヒドロキシラーゼ を免疫染色して、試験例および比較例のラットの神経細胞の再生の程度を評価した 。コントロールとして、 6-ヒドロキシドーパミン、配列番号 2で示されるペプチド、および 5%ブドウ糖液の何れも注入して 、な 、側のラットの脳を取り出し、同様に染色した (コ ントロール)。
その結果、比較例のラットにおいてコントロールと比して神経細胞の減少が認めら れた (図 2)。これに対し、試験例の群では 4例中 2例力 コントロールと同程度にチロシ ンヒドロキシラーゼ陽性となり、 1例が有意に陽性となり、ドーノ ミン産生神経細胞の顕 著な再生が認められた (例えば、図 1および図 3 ;図中、神経細胞の中央部の茶色に
染色されて!ヽる部分が陽性細胞である)。
(試験例 3)
試験例 2と同様の方法で作製したパーキンソン病モデルラットに、配列番号 2で示さ れるペプチドを 5 mg/mlの割合で含む 5%ブドウ糖液(日本薬局方)を、 AP: +0.4, ML : 3.0, DV: 5.0の位置に挿入した力-ユーレを通して、 2 1ずつ週 1回で 4週間注入 した。その後、 8週間にわたって、行動の観察と 8週間後に脳切片のチロシンヒドロキ シラーゼ免疫染色を行った。
その結果、 8週間後には 4例とも左前後肢の麻痺の軽減が認められた。さらに、 4例 とも 20-30% (面積比)のチロシンヒドロキシラーゼ陽性のドーノミン産生神経細胞の再 生が認められた。
これより明らかに、配列番号 2で示されるペプチドの投与によって、有意な糸且織学的 および行動学的改善が認められ、パーキンソン病モデルの治療に対する有効性が 示された。