明 細 書
粉体原料と液体原料の結合方法およびミキサー
技術分野
[0001] 本発明は、粉体原料に液体原料を均等に加え、あるいは結合させる方法およびミ キサ一の技術に関する。
人類は、小麦粉を製粉して用いるようになって以来、製パン用ゃ製麵用のドウを得 ようとするとき、小麦粉に水分を加え、これをかき混ぜる方法で、時間をかけてドウを 作ってきた。本発明は、開発した複数の新技術を用いて、両者を接触させる当初から 小麦粉粒子と微粒子状の水分を均等に結合させる方法を実現し、僅か 3. 5秒間とい う画期的に短レ、ミキシング時間で、水和(=完全混合状態)が完成した完璧なドウを 得る技術を提供するものである。同時に、これまでのドウが抱えていたほとんど全ての 問題を解決している。
背景技術
[0002] (1)製パン用のドウ作り
製パン用のドウを作る際に、小麦粉などの粉体原料と液体原料とを均一に結びつ ける水和を目指すために、既存の製パン用のミキサーである縦型ミキサーやスパイラ ノレミキサー等を用いて均一化させる方法では、両原料を合わせた当初に生じる加水 むら、すなわち、小麦粉に水分を加えたときに、過剰に水を抱く部分と、まだ小麦粉 及び水分が結びつかない部分とを、攪拌混合によって均一化させようとする。
[0003] ところが、小麦粉のような微粒子状の粉体原料の中に多量に存在する空気は、粉 体原料粒子に強く付着する性質を有するため、液体原料が粉体原料の中を移動す ることを阻み、均一化のための液体原料の拡散を妨げる。そのため、均一化に時間 を要し、その間に生じたグノレテンの組織化が進み、ベーカーが望まぬ、製品品質に 悪影響を及ぼす様々な様態のダルテン組織が、水和が得られるまでのドウに生成さ れる。
そのため、品質を追求するべ一力一たちは、このようなダルテン組織の生成を避け るための、あるいはその影響を減らすための困難な対策を強いられてきた。
大量生産を行うベーカリーでは、添カ卩物の使用を避けることができな力 た。
[0004] 少しでも品質のよい製品を製造しょうとするベーカーは、ミキサーの使用を、水和が 未完成である早い段階で打ち切り、ミキサーからドウを取り出して手加工によって水 和を完成させている。さらにより高品質な製品を求めるベーカーたちは、水和を得る 手段としてはミキサーの使用を控えてさえきた。
水和を得る工程において、品質を損ねるグノレテンの組織化が生じないように、容器 あるいは袋に粉体原料と液体原料とを交互に入れて長時間放置し、液体原料が粉 体原料の中に自然に拡散して水和が完成するのを待つ方法もある。
この場合、水和の完成に長時間を要するため、イーストの異常発酵を抑えるために 冷蔵庫に入れて低温に保つ。
[0005] (2)製麵用のドウ作り
既存の製麵用のミキサーも、低速のバッチ型、準高速の連続型を問わず、当初に 生じた加水むらを攪拌混合作用によって均一化させるためのミキサーである。
製麵用のドウは、製パン用のドウに比較して、通常 10%— 30%以上も加水率(= 小麦粉重量と、この小麦粉体に加える液体原料の重量との比率)が低ぐ 30%— 50 %である。そのため、小麦粉の中に水分を拡散浸透させることがさらに難しぐ既存の 製麵用ミキサーでは、低速バッチ型ミキサーを使用する場合も、準高速連続型ミキサ 一を使用する場合も、液体原料を加えた当初に生じる加水むらを、ミキシング工程が 終了した時点においても、また、ミキシング工程後に、更に水分の均一化を促す追加 処理を施した後におレヽても均一化させることはできなレ、。
[0006] し力し、ミキシングの工程や水分の均一化を促す追加処理の工程で、小麦粉中の 空気を脱気したり加圧したりして小麦粉中の空気を排除すれば、均一化が達成され る。ところが、脱気や加圧により空気を排除した食べ物は、後述するように人が味や 香りを僅力 か感じることができなくなる。そのため、食品の製法としては好ましくない
[0007] もし、ミキサーだけを使って均一化を果たそうと無理にミキシング時間を長引かせば 、先に生成されているダルテン組織が攪拌混合の加力によって破壊され、ダルテン 組織が無きに等しいドウとなり、完全に使用不能になる。これは、ミキシングの継続に
よって新たに生成されるダルテン組織以上に、既に生成されているグノレテン組織が 破壊される量が多くなるためである。
[0008] そのため、機械製麵では、準高速連続型ミキサーに投じた原料を 10秒足らずでミ キサー内を通過させても、製麵可能なドウを得るためには、ミキシング工程後に、ゆる や力、な攪拌混合によって更なる均一化を促すニーダー処理工程や、帯状に圧延し て放置することによって水分の更なる均一化を待つ寝かし熟処理工程などの追加処 理が必須となる。これらの工程は、少なくても 30分一 60分の時間を要する。
[0009] 手打ちうどん作りや手延べ麵作りなどの手加工製麵では、ミキサーから取り出した 後、足踏み処理や寝かし熟成処理など、水分均一化を促すための処理を行う。しか しながら、これら処理を行ったとしても、処理の直後では、完全な混合状態を得ること ができない。
加水率が 50%に近い高率の加水を行う手カ卩ェ製麵においては、当初に過剰に水 分を与えられた部分の水分が、最後まで微小な単位でドウの中ゃ麵の中に微小な単 位の遊離水として残る。そのため、ドウゃ麵に大きな粘着性が生じる。そのため、製麵 加工に際しては、ドウや麵に油を塗ったり打ち粉をしたりして粘着を防ぎながら製麵し なければならない。
[0010] (3)準高速型のミキサー
製麵用の連続型準高速攪拌混合ミキサー (スーパーターボ'タービュライザ、及び その改良型ミキサー)は、外筒内壁面で水分(多くの場合、塩水である)が与えられて 過剰に水分と結合した部分を、準高速回転する羽根やパドルで細分化し、水分と未 結合の粉体部分と混合させて短時間のうちに均一化させる目的で作られたミキサー である。外筒の側端力 粉体原料と液体原料とを投入するミキサーもあるが、均一化 させる方法は同じである。
しかし、遠心分離機の原理と同様に、水分と結びついて質量を増した原料は外筒 内壁に沿って回り、水分と結びつかず質量が小さい粉体原料はその内側を回転する 。そのため、思うように結合部分と未結合部分との接触が生じず、均一化が進まない
[0011] それ故、この種のミキサーでは、ミキサーから排出される結合物力 s、水分との結合率
が高い原料の周囲を、水分との結合率が低い原料がとりまく「そぼろ状」となって排出 される。そのため、ミキサーを通過する時間は短くても、均一化を促すための追加処 理を行わなければ製麵ができなレ、。
[0012] 毎秒 2500回転以下で準高速回転する水平な円盤に小麦粉と水分を落下させて四 方に飛散させ、ある程度微粒子化して両者を結びつけるタイプの製麵用の連続型ミ キサー(フロージエツター)がある。このミキサーは、理論上は、前記のミキサーよりも、 粉体原料と液体原料との均一な結びつきが可能である。
しかし、実際には、粉体原料が円盤中心の周囲に向かって不均等に供給されるた め、粉体原料の飛散方向によって大きなむらのある状態になる。また、粉体原料の一 部が水分と結びつくことができずにそのまま漂い出るため、集塵装置が不可欠になる ケースが多い。排出される結合物は、過剰な水分と結びついた部分を、水分との結 合度合が低い部分がとりまいた「そぼろ状」の結合物となり、そのままでは無論、製麵 できない。
[0013] (4)真空ミキサー
減圧して攪拌混合する真空ミキサーと呼ばれるミキサーがある。液体原料の拡散を 妨げる粉体原料中の空気を追い出して攪拌混合を行う仕組みであるので、比較的短 時間のうちに均一化が達成される。しかし、当然、ドウの中の空気は失われる。その 結果、空気の含有量が少ない麵ができる。そのため、このミキサーを使用した麵は、 シリンダーに入れてピストンで加圧して空気を追出しながらダイスから押出して製麵 するパスタゃ麵類と同様に、原料の品質の如何に係らず、原料が持つ味や香りを感 じにくい麵になる。
これは、人間の味蕾が、食物に含まれる空気と食味の成分とが断続的に味蕾を刺 激するときに、はじめて味を感じるようにできているためである。
従って、この種のミキサーによるドウ作りや、高い圧力をカ卩えての製麵は、味や風味 が重要である食物の製法として問題があると言わざるをえない。
また、空気が追い出されるため、硬質になり、茹でる際に、アルファ一化に不可欠な 水分力パスタゃ麵に浸透する速度が遅くなる。そのため、茹で時間が長くなる問題も ある。
発明の開示
発明が解決しょうとする課題
[0014] 本発明は、上述のような、従来のミキシング技術の問題点を解決し、下記(a)— (f) の達成を目的とする。
(a)粉体原料中の多量の空気の存在に関わらず、水和(=完全混合状態)が完了し た製パン用と製麵用のドウを瞬時に得ることを可能にする。
(b)水和を得る過程で攪拌混合されていない、したがって、製パンに不都合なグルテ ン組織が生成されていない製パン用のドウを得ることを可能にする。
(c)ミキサーから取り出した直後のドウによる製麵を可能にする。
(d)液体原料との結合率が低いドウから高いドウに至るまで、同一装置で瞬時に得る ことを可能にする。
(e)攪拌混合や長時間処理を嫌う薬品や工業原料の粉体原料と、液体原料との結 合物や混合物を、攪拌混合なしに瞬時に得ることを可能にする。
(f)上記(a) (e)を達成するための処理を、小量生産向きのバッチ型でも大量生産 向きの連続型でも可能にする。
課題を解決するための手段
[0015] 本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、以下の手段を採用した。
すなわち、本発明のミキサーの第 1の態様は、外筒内壁に拡げて回転させる粉体 原料に、前記粉体原料と結合した後に移動して新たな前記粉体原料と結合する必要 力 レ、大きさに微粒子化した液体原料を回転軸の側から加え、前記液体原料と結合 した前記粉体原料を慣性分級作用によって前記外筒内壁の側に、前記液体原料と 未結合の前記粉体原料を前記回転軸の側に移動させ、あるいは前記液体原料と結 合度合いが高い前記粉体原料を前記外筒内壁面の側に、前記液体原料と結合の度 合いが低い粉体原料を前記回転軸の側に移動させて、前記粉体原料と前記液体原 料とを結合させる。
[0016] 前記回転軸の周囲に独立して回転可能な羽根を備え、前記羽根が、底面が前記 外筒内壁面に沿い、厚さが少なレ、、回転方向に対して広すぎない幅を有し、前記羽 根自体に、前記粉体原料を押して進む機能がほとんどない、しかし、前記羽根に載
せた前記紛体原料が前記外筒内壁にある前記紛体原料と入れ替りながら前記紛体 原料を前記外筒内壁に拡げて回転させるようにしてもょレ、。
[0017] また、本発明のミキサーの第 2の態様は、粉体原料と液体原料とを結合させるミキサ 一であって、前記粉体原料が投入される外筒と、前記外筒と同軸状に配置され、前 記液体原料を微粒子化して放出する回転軸と、前記外筒の内壁に沿って配置され た短冊状の羽根と、を備え、前記羽根が、前記回転軸の周囲を独立して回転可能と され、前記羽根の幅が前記羽根の内面から外面にかけて広くなるように、前記羽根 の回転方向の側面が傾斜面とされている。
[0018] 前記粉体原料の回転方向に直角をなすとともに前記外筒内壁面に沿って前記外 筒を横断する羽根を備えてもよい。
[0019] 前記粉体原料の回転方向に直角以外の角度をなすとともに前記外筒内壁面に沿 つて前記外筒を横断する羽根を備えてもよい。
[0020] 前記回転軸を構成する円筒に、前記液体原料の微粒子を得るための前記液体原 料の液膜を遠心力によって放つ前記円筒の表裏に通じる切り口を設け、前記切り口 のエッジから前記液膜を放って前記液体原料の微粒子を得てもよい。
[0021] 前記切り口を設けた前記円筒の内側に、前記液体原料が通る貫通孔が壁面に形 成された複数の円筒を組み合わせ、外側の前記円筒ほど前記貫通孔の数を増加さ せ、内側の前記円筒に前記液体原料を供給し、前記各円筒の回転にともなう遠心力 によって前記貫通孔を通って外側の前記円筒へ前記液体原料を移動させる間に、 数が増加する前記貫通孔によって前記液体原料の液量を分割し、外側の前記円筒 の前記切り口のエッジから前記液膜を放って前記液体原料の微粒子を得てもよい。
[0022] 本発明の粉体原料と液体原料の結合方法は、外筒内壁に拡げて回転させる粉体 原料に、前記粉体原料と結合した後に移動して新たな前記粉体原料と結合する必要 カ レ、大きさに微粒子化した液体原料を回転軸の側から加え、前記液体原料と結合 した前記粉体原料を慣性分級作用によって前記外筒内壁の側に、前記液体原料と 未結合の前記粉体原料を前記回転軸の側に移動させ、あるいは前記液体原料と結 合度合いが高い前記粉体原料を前記外筒内壁面の側に、前記液体原料と結合の度 合いが低い粉体原料を前記回転軸の側に移動させて、前記粉体原料と前記液体原
料とを結合させる。
[0023] 本発明の作用について以下に述べる。
(a)粉体原料を攪拌混合作用なしに外筒内壁に沿って拡げ進めることができる羽根 を開発した。例えば、図 1の断面図および図 2の側方構造図に、符号 2及び 3で示す ような、至極構造が単純な羽根である。この羽根を用いて、外筒内に投じた粉体原料 を外筒の内壁に沿って拡げつつ回転させる。
(b)—旦生じた粉体原料と液体原料の結合物から、過剰な液体原料が、粉体原料の 間に存在する空気の抵抗に杭しながら未結合の粉体原料や結合度合いの低い結合 物に移動して均一化する、物理的に困難な、時間のかかる拡散や浸透の現象を一 切期待しなくてもよいように、一旦粉体原料と結合した液体原料が他へ移動する必要 カ¾い微細さに液体原料を微粒子化する。その微粒子化した液体原料を、外筒内壁 に沿って拡がりながら回転する粉体原料に向かって、回転軸の側から、その全面に 向って放出するように加える。
(c)液体原料の微粒子化の度合いは、これまでのミキサーにはなレ、度合レ、である。
(d)慣性の法則に基づく遠心作用により、液体原料と結合して質量を増した結合物 は、外筒内壁面の側に移動し、未結合の粉体原料は、その内側である回転軸の側を 回転する。このような遠心分離の作用によって、液体原料と結合した粉体原料と、未 結合の粉体原料とに仕分ける。この仕分けを一瞬のうちに行う。
(e)このような仕分けを行うために、一旦粉体原料と結合した液体原料が他へ再移動 しなくても済むように、十分に微粒子化した必要な量の液体原料を、一瞬の内に回転 軸の側から外筒内壁面に沿って拡げることにより、回転している粉体原料の全面に向 力、つて放つことができる液体原料の微粒子化装置を開発した。小麦粉のように、液体 原料と結合して湿潤グノレテンが生じ、次にダルテンとダルテンが結びつレ、て組織化さ れる性質の粉体原料の場合には、時間が経過すると外筒内壁側と回転軸側の粉体 原料粒子の入代わりが困難になるからである。
発明の効果
[0024] 本発明によれば、製パンの工程も製麵の工程も著しく短縮されるが、特に製麵のェ 程では、少な目に見積っても処理時間が 1200分の 1以下に短縮される。これは、ミキ
シング工程後における水分の均一化を促進するための追加的処理が一切不要にな る力らである。また、追加的処理のために用いてきたニーダー装置や圧延寝かし熟 成装置等の一切が不要になるため、設備コストの節約効果も絶大である。
手打ちうどん作りや手延べ麵作りにおいても、 20分近レ、ミキシング工程後の足踏み 処理工程や、寝かし熟成工程が一切不要になる。そのため、製麵の何時間も前から ドウ作りにかかる必要がない。したがって、製麵を始めたい時にドウを作ることができ る。産業的利用上の便宜は絶大である。
薬品や工業原料の粉体原料と、液体原料との混合や結合には、攪拌混合や長時 間の処理を嫌うものが多い。そのため、攪拌混合作用のない、一瞬で混合や結合を 完成させる本発明は、薬品や工業原料の混合物や結合物を得る産業においても利 用価値が高い。
別途出願済みの特開 2004—337141号公報の製麵技術を組み合せて用いれば、 これまでにない優れた数々の特徴を持つ高品質なパスタゃ麵類を、これまでにない 小規模な装置で製麵することが可能になり、製麵を産業的に大きく変革'進歩させる こと力 Sできる。
本発明のミキサーは、構造が簡単なため、分解や組立が容易である。従って、メン テナンスゃ清掃も容易である。従って、産業の利用可能性は絶大である。
図面の簡単な説明
[0025] [図 1]図 1は、本発明のミキサーの一実施形態を示す図であって、回転軸線に垂直な 断面における断面図である。
[図 2]図 2は、同ミキサーの回転軸線を含む断面における断面図である。
[図 3]図 3は、本発明のミキサーの他の実施形態を示す図であって、図 4の B—B線に おける断面図である。
[図 4]図 4は、同ミキサーを図 3の A— A線に沿って見た断面図である。
符号の説明
[0026] 1 粉体原料をその外筒内壁に沿って拡げて回転させるための外筒である。
2 粉体原料を外筒内壁に沿って拡げて回転させるための羽根である。
3 外筒 1と対称的な位置にある粉体原料を外筒内壁に沿って拡げて回転させるた
めの羽根である。
4 切り口を設けた円筒である。図 1 , 2に示す断面図の例では 8つの切り口を設け ている。
5 切り口の一つを示す。
6 切り口 5と円筒 4の内壁面とが交わる箇所に形成されたエッジである。 7 エッジ 6と同様に、切り口 5と円筒 4の内壁面とが交わる箇所に形成されたエッジ である。
8 液体原料を適量に分割するための貫通孔を有する円筒である。
9 液体原料を適量に分割するための貫通孔を有する円筒である。円筒 8の外側に 隣接する。
10 液体原料を適量に分割するための貫通孔を有する円筒である。円筒 9の外側 に隣接する。なお、図 1では、図面の関係上、各円筒 4, 8, 9, 10が互いに密着して レ、るように示されている力 実際には、これら円筒 4, 8, 9, 10間には、液体原料が通 過するための隔間が設けられている。
11 外部からの液体原料を円筒 8の中心部に供給するための供給管ある。図 1 , 2 では図示を省略しているが、各円筒 8, 9, 10には、円筒 8の中心部に供給される液 体原料を、円筒の長手方向にも順次分割して拡げるための貫通孔が設けられている 発明を実施するための最良の形態
[0027] 粉体原料を外筒内壁に沿って回転させるこれまでの方法では、板状、棒状、パドル 状などの羽根を回転させて粉体原料を駆動する力 \または、ブルドーザーの押し板 のような羽根を外筒内壁に沿って回転させるなどしていた。しかし、前者は粉体原料 を攪拌混合し、後者は羽根の前面に粉体原料を集中させる。
[0028] 図 1は、本発明のミキサーの一実施形態を示す図であって、回転軸線に垂直な断 面における断面図である。また、図 2は、同ミキサーの回転軸線を含む断面における 断面図である。図 3は、本発明のミキサーの他の実施形態を示す図であって、図 4の B-B線における断面図である。図 4は、同ミキサーを図 3の A— A線に沿って見た断 面図である。
(a)粉体原料を攪拌混合しないようにしながら外筒 1の内壁に沿って均等に拡げて回 転させるために、底面が外筒 1内壁面に沿い、厚さが少なぐ回転方向に対して広過 ぎない幅を持ち、 自らが粉体原料を押す機能をほとんど持たない、羽根 2, 3を用い る。
[0029] 羽根 2は、回転軸 12側を向く面に粉体原料の一部を載せたまま回転することができ る。すなわち、羽根 2の、回転軸 12側を向いた面に、粉体原料が静止状態の安息角 よりゆるやかな角度を形成して載る。この羽根 2上にある粉体原料の山が、外筒 1の 内壁上にある粉体原料を押して外筒 1の内壁に沿って回転させる。しかし、羽根 2上 の粉体原料の山は、羽根 2の上に載ったままではなレ、。羽根 2上の粉体原料は、外 筒 1内壁面上の粉体原料と衝突するため、連続的に入れ替わる。このようにして、一 見何の機能も果たしそうに見えない、ほとんど平らな羽根 2が粉体原料を外筒 1内壁 に沿って拡げ、回転させる。
[0030] 粉体原料を回転させる羽根 2の、回転軸 12側に対向する面は、必ずしも厳密に外 筒 1内壁面に並行する曲面でなくてもよい。平面であっても、回転軸 12の側に向かつ て多少膨らんだ曲面や角のある面を形成していてもよい。すなわち、粉体原料をその 上面に載せて進むことができる形状であればょレ、。
粉体原料と液体原料との結合がはじまると、液体原料と結合して質量を増した外筒 1の内壁面上にある粉体原料は、羽根 2に載った粉体原料に更に激しく衝突する。羽 根 2上にある質量の小さな粉体原料は、弾き飛ばされ、液体原料と結合した粉体原 料と積極的に入れ替わる。このようにして、外筒 1の内壁に沿って回転する粉体原料 と、羽根 2上の粉体原料との双方において、液体原料との均等な結合が得られる。
[0031] (b)粉体原料を押し進めて外筒 1の内壁面に拡げる羽根 2, 3の形状は、図 2に示す ように、外筒 1の長手方向の幅いっぱいに延在し、なおかつ、回転方向に対して直角 をなす直線状に延びた形状が効果的である。これら羽根 2, 3は、外筒 1の両側端位 置で、支え棒や支え円盤などによって回転軸 12に連結され、駆動される。
(c)回転方向に対して斜めに延びる羽根 2を用レ、た場合には、羽根 2が原料を外筒 1 の長手方向に送ることもできるので、連続型の羽根 2として作用することが可能となる
(d)粉体原料を拡げて押し進める羽根 2の数は、外筒 1の大きさと、処理する粉体原 料の多少によって適宜選択される。
[0032] 但し、粉体原料を回転させる羽根 2の数が、外筒 1内の粉体原料の量に対して多す ぎたり、羽根 2の回転方向の幅が広過ぎたために外筒 1の内壁上の粉体原料の量が 少な過ぎたりすると、羽根 2上に載っている粉体原料と外筒の 1内壁上にある粉体原 料との入れ替わりが行われにくくなる。
(e)粉体原料を回転させる羽根 2とは別途駆動され、表面に液体原料を微粒化する ための切り口 5、あるいは「羽根」(図示略。下記(f)の項目で詳述)が外周囲に設けら れた円筒 4を、実施例に示したように高速回転させて大きな遠心力を発生させる。こ の遠心力により、一旦粉体原料と結びついた液体原料が、他の粉体原料に移動する 必要がない十分な微細さに微粒子化された後、円筒 4の切り口 5あるいは前記羽根 から、外筒 1の内壁に拡げられた粉体原料の全面に向って放出される。
[0033] 切り口 5あるいは前記羽根を設ける円筒 4は、必ずしも円筒形でなくてもよいが、円 筒が最も好ましい。
図 1に示すように、切り口 5が円筒 4内壁面に接する部分はエッジ状形状をなす。こ れらエッジ 6, 7から、液体原料の微粒子を得るための薄い液膜が放たれる。エッジ 6 , 7あるいは前記羽根から薄い液膜が放たれ、直後にこの液膜が微粒子になる。 なお、エッジ 6, 7は、切り口 5が円筒 4の内壁面に接する部分に限らず、円筒 4の内 壁面よりも円筒 4の外壁寄りの位置に形成されてもょレ、。
薄い液膜を放ち、液体原料の微粒子を放つ切り口 5の形状は、液膜を放つだけの 目的なら、丸でも四角でも三角でもよいが、図 2に示すように、円筒 4の長手方向いつ ぱいに延在し、円筒 4の回転方向に対して直角をなすように配置したものを、円筒 4 の回転方向に沿って均等に並べたものが好ましい。図 2は、 8本の切り口 5を円筒 4の 周囲に設けた例を示す。
[0034] (f)切り口 5の代りに、円筒 4の外壁面に、円筒 4の内壁面側から薄い液膜の供給を 受けて、前面の先端力 液体原料の薄い液膜を放って液体原料の微粒子を放出す る羽根(図示略)を、回転方向に正対するように立ち上げてもよい。
このような羽根の形状としては、微粒子状の液体原料を放つことのみを目的とする
のであれば、長い羽根でも短い羽根でもよレ、。しかしながら、円筒 4の長手方向いつ ぱいの長さを有し、円筒 4の回転方向に対して直角をなす羽根を、円筒 4の周りに均 等に並べたものが好ましい。
しかし、同じ直径と同じ長さを有する円筒 4に、円筒 4の長手方向いっぱいの長さの 切り口 5を等間隔に複数本設けて微粒子状の液体原料の放出手段とする場合と、円 筒 4の長手方向いっぱいの、切り口 5と同じ幅を持つ羽根を切り口 5と同数設ける場 合とを比べれば、液膜を放つエッジ 6, 7の長さは、液膜を放つ羽根のほぼ二倍にな る。羽根は、その前面の先端部のみから液膜を放ち、微粒子状の液体原料を放出す る。一方、切り口 5は、一本の切り口 5の、向い合う両側のエッジ 6と 7から液膜を放つ 。即ち、同じ円筒 4の表面に、微粒子状の液体原料を放出する場をほぼ二倍確保で きる。
[0035] 同じ速度で回転させた場合、円筒 4上に設けられた羽根の先端の方が回転の中心 線から離れている分だけ、より大きな遠心力に曝される。しかし、切り口 5を有する円 筒 4の回転数を僅かに増すか、切り口 5を有する円筒 4の半径を羽根の先端部から回 転軸 12の中心線までの距離と同じにすれば、遠心力は同一になる。
従って、液体原料の微細な微粒子を得るための液膜を放つ方法としては、切り口 5 を設ける方が羽根を設けるよりも好ましい。その上、構造が簡単であり、外部への凸 部がないので、その周囲に粉体原料やドウが位置するミキサーには好都合である。
[0036] 薄い液膜を放つことができる適量の液体原料を切り口 5あるいは羽根に供給するた めに、切り口 5あるいは羽根を設けた円筒 4の内側に、壁面に貫通孔が形成された、 直径が異なる 3つの円筒 8, 9, 10を重ねて共に高速回転させる。壁面の貫通孔は、 外側の円筒ほど数を増す。
重ねた円筒 8, 9, 10のうちの最も内側にある円筒 8の内部に液体原料を供給し、 大きな遠心力により、円筒 8の壁面に形成された貫通孔を通してその外側にある円筒 9, 10の内壁面に順次移動させる。液体原料を供給管 11から円筒 8の内部に供給す る場所は、必ずしも円筒 8の中心部になくてもよいが、中心部が好ましい。外側の円 筒 9, 10へと移動するにつれて数を増す貫通孔に分割されて液量が絞られ、薄い液 膜になり、切り口 5のエッジ 6, 7、あるいは羽根の前面に供給される。
円筒に切り口 5を設ける場合も、羽根を設ける場合も、円筒 8, 9, 10の各貫通孔通 つて適量に調節された液体原料は、切り口 5や羽根が設けられた円筒 4の内壁面の 切り口 5と切り口 5の間、あるいは羽根と羽根との間に供給される。
[0037] 液量を分割する貫通孔を有する円筒 9の内壁面に、最も内側にある円筒 8の貫通 孔から供給された液体原料を円筒 9の複数の貫通孔に導くための誘導溝を設けても ょレ、し、設けなくてもよい。
誘導溝を設けた場合には、液体原料の微細な微粒子を得るための液膜を、最も外 側の円筒 4の切り口 5や羽根のそれぞれに、均等に、あるいは計画した割合で容易 に分配することができる。しかし、誘導溝を設けなくても、各円筒 8, 9, 10の貫通孔を 適切に配置すれば、同様の結果を得ることができる。
分割は、 2分割ずつおこなう方法が容易であるが、 2分割以上の複数分割でもよレ、
[0038] 貫通孔により液量を分割する役割を果たす円筒 8, 9, 10を何層重ねるかは、液膜 を放出する切り口 5の数あるいは羽根の数、切り口 5の長さや羽根の長さ、最終段階 で必要とする液量などにより異なる。
貫通孔により液量を分割する役割を果たす円筒 8, 9, 10の、液体原料が通過する ための間隔は、分割されつつある液体原料が遠心力によって円筒内壁面に押し付け られつつ移動することができるだけの僅かな間隙でよい。図 1では、液量を分割する 円筒の外壁面とその外側の円筒の内壁面とが密着しているように描かれているが、 実際には、分割されつつある液体原料の流路としての間隙が確保されている。
各貫通孔は、それ自体が液量を調節するための貫通孔ではないので、清掃を困難 にしたり目詰まりが生じたりするような狭い貫通孔である必要はない。
液体原料を、微細な液滴を得ることができる適量に調節して供給する本装置と同じ 仕組みの装置の一部あるいは全部、あるいは他の仕組みの装置の一部あるいは全 部を、別途用意して円筒の外部に設け、切り口 5や羽根を設けた円筒 4の内壁面に 供給してもよレ、。しかし、そのようにする利点があるわけではない。
実施例 1
[0039] <小型装置による製パン用ドウ作りの実験 >
内径 100mmかつ実質長 94mmの内壁面を有する外筒内壁に沿って 120gの強力 小麦粉を毎分 1900回転で回転させ、 72ccの水に少量の砂糖 ·食塩 'イーストを溶か した液体原料を、切り口を持つ微粒子化装置 (ミキサー)を通じて、回転軸の側から カロえた。その結果、 3. 5秒間で、加水が完了して水和が完成した製パン用のドウが 得られた。
[0040] その際における同装置の液体原料の微粒子化機構の運転状況は、以下の通りで ある。
直径 57mm、長さ 103mm、両端部が厚さ 2mmの円筒に、円筒の長手方向に伸び た長さ 94mm、幅 3mmの長方形の、長辺が円筒の回転方向に直角をなす 8つの切 り口を、円筒の周囲に等間隔に配置した。切り口がある部分の円筒の厚さは lmm程 度で 2mmより薄レ、。この円筒の内側に、直径 53mm、長さ 103mmの円筒に 56個の 貫通孔を、 7個ずつ、外側にある筒の長方形の切り口と切り口との間の対応する位置 に、 8列に並べた円筒を重ねた。
切り口を設けた円筒の内壁面と、貫通孔が並ぶ内側の円筒の外壁面との間隙の距 離は lmmに満たない。 56個の貫通孔を持つ円筒の内壁面には、その円筒のさらに 内側の円筒の貫通孔から受けた液体原料を 56個の貫通孔に導くための深さが lmm に満たない誘導溝を設けた。 56個の貫通孔を持つ円筒の内側に、 14個の貫通孔を 持つ、直径 46mm、長さ 103mmの円筒を重ねた。 14個の貫通孔の位置は、 56個 の貫通孔を持つ円筒の内壁面の誘導溝に対応する位置にある。
[0041] 重ねた三つの円筒を、切り口を設けた円筒と共に毎分 12000回転させ、 72ccの水 を 14個の貫通孔を持つ円筒の内部に、 14個の貫通孔に均等に液体が供給されるよ うにしたノズルから供給した。 3. 5秒間で全ての液体原料が微粒子化されて、切り口 に設けた円筒の周囲に放出され、前記の結果を得た。
実施例 2
[0042] <小型装置による製パン用のドウ作りと、このドウで製パンをする実験 >
この実験用ミキサー(小型装置)を神奈川県茅ケ崎巿にあるベーカリー P社の製パ ン工場に持ち込み、原料が異なる三種類のパンを作る製パン実験を行った。
工場長でもある P社のオーナー 'ベーカーは、 日頃から東京都内や日本全国の高
品質な製品を求めるベーカーたちと研究会を行っている。
ベーカーは、小麦粉などの粉体原料と、水 ·鶏卵 '砂糖'塩などからなる液体原料が 僅か 3. 5秒間でドウになったことに驚き、 自らの手で装置からドウを取り出し、
「このドウは、ミキサーを使わないで、小麦粉と液体原料を交互に容器の中に入れ てー晚置いて水和を得たドウと同じです。」
「しかし、イーストの異常発酵を抑えるために冷蔵庫に入れる必要もなぐ一晩という 長い時間をかける必要もなぐ瞬時にこのような生地ができることは驚きです。」 とおつしゃった。
ホイ口で発酵させていく各工程ごとに、
「この表面の滑らかさに触れてみてください。このような滑らかさは容易にできるもの ではありません。」との言葉を繰返した。
焼き上げたパンについてベーカーは、
「クラストが薄くパリツとして、クラムのきめが細かく弾力に富み、いずれも品評会に出 せば優勝もののパンです。」と評価した。
「このミキサーがあれば、これまで望んでも不可能だった、水和の工程と捏ねの工程 を完全に分離した、理想的な製パンができます。」
「捏ねない方がよいフランスパンだけでなぐその他のパンも必要な程度にだけ一 瞬捏ねて、良質なダルテン組織を作ることができるので、このような最高品質のパン ができるのです。」
「余分な捏ねがないので、原料の風味を生力した新しい種類のパンを創り出すこと あでさるでしょう。」
「一日も早く実用機の供給を望みます。」
との評価をいただいた。
これまで高度な技術や特殊な製法によらなければ不可能と考えられてきた最高品 質のパンを、このミキサーを用いて容易に製造できることが、この製パン実験によって 実証された。
実施例 3
<製麵用のドウ作りと製麵の実験 >
上記実施例その 1と同じ装置を用い、 120gの中力小麦粉を毎分 1900回転で回転 させ、上記実施例 1の方法と同様に、 60ccの水に小量の食塩を溶力 た液体原料を 回転軸の側から加えた。 3. 5秒でドウができ、水和が完成した(=完全混合状態が完 成した)製麵用のドウを得た。このドウは、一瞬両手で揉みグノレテンを組織化するだ けで実験装置から取り出した直後に手力卩ェの方法で高品質な製麵ができた。ドウや 麵が粘着する性質も、従来の 50%加水のドウに比べてはるかに少なかった。
産業上の利用可能性
[0044] 上記実施例 1、実施例 2、実施例 3に記したように、産業上の利用の可能性は既に 実証済みである。この発明の技術を用いることにより、製パンの工程も製麵の工程も 著しく短縮されるが、特に製麵の工程では、少な目に見積っても処理時間が 1200分 の 1以下に短縮される。これは、ミキシング工程後における水分の均一化を促進する ための追加的処理が一切不要になるからである。また、追加的処理のために用いて きたニーダー装置や圧延寝かし熟成装置等の一切が不要になるため、設備コストの 節約効果も絶大である。
手打ちうどん作りや手延べ麵作りにおいても、 20分近いミキシング工程後の足踏み 処理工程や、寝かし熟成工程が一切不要になる。そのため、製麵の何時間も前から ドウ作りにかかる必要がない。したがって、製麵を始めたい時にドウを作ることができ る。産業的利用上の便宜は絶大である。
薬品や工業原料の粉体原料と、液体原料との混合や結合には、攪拌混合や長時 間の処理を嫌うものが多い。そのため、攪拌混合作用のない、一瞬で混合や結合を 完成させる本発明は、薬品や工業原料の混合物や結合物を得る産業においても利 用価値が高い。
[0045] 別途出願済みの特開 2004—337141号公報の製麵技術を組み合せて用いれば、 これまでにない優れた数々の特徴を持つ高品質なパスタゃ麵類を、これまでにない 小規模な装置で製麵することが可能になり、製麵を産業的に大きく変革'進歩させる こと力 Sできる。
本発明のミキサーは、構造が簡単なため、分解や組立が容易である。従って、メン テナンスゃ清掃も容易である。従って、産業の利用可能性は絶大である。