明 細 書
2 -ァダマンタノンの製造方法
技術分野
[0001] 本発明は、ァダマンタンや 1ーァダマンタノールを短時間で酸化を行い、ァダマンタ ン誘導体の中でも各種医農薬原料,産業用原料として重要な中間体である 2—ァダ マンタノンを高収率で製造する方法に関する。
背景技術
[0002] ァダマンタンは、ダイヤモンドの構造単位と同じ構造を持つ、対称性の高!ヽカゴ型 化合物として知られている。化学物質としては、(1)分子の歪みエネルギーが少なぐ 熱安定性に優れ、(2)炭素密度が大きいため脂溶性が大きぐ(3)昇華性があるにも かかわらず、臭いが少ないなどの特徴を有しており、 1980年代からは医薬品分野に お 、てパーキンソン氏病治療薬やインフルエンザ治療薬の原料として注目されて ヽ たが、近年、ァダマンタン誘導体の有する耐熱性や透明性などの特性が、半導体製 造用フォトレジスト,磁気記録媒体,光ファイバ一,光学レンズ,光ディスク基板原料 などの光学材料分野や、耐熱性プラスチック,塗料,接着剤などの機能性材料、化 粧品、潤滑油などの分野で注目され、その用途が増大しつつある。また、医薬分野 においても抗癌剤,脳機能改善剤,神経性疾患用剤、抗ウィルス剤などの原料とし ての需要が増大してきて 、る。
[0003] 炭化水素化合物を酸ィ匕してアルコールゃケトンに変換する技術は、炭素資源の有 効活用の観点から、工業的にも非常に重要な技術である。各種医農薬原料,産業用 原料として重要な中間体である 2—ァダマンタノンを選択的に製造する技術としては 、濃硫酸中で製造する方法が公知である。例えば、 Schlatmannは、 1ーァダマンタノ ールを濃硫酸中、 30°Cで 12時間加熱保持することにより、 72%の収率で 2—ァダマ ンタノンが得られることを報告している(例えば、非特許文献 1参照)。また、ァダマン タンを濃硫酸により酸ィ匕した後、水蒸気蒸留により精製し、 47〜48%の収率でァダ マンタノンが得られることも知られている(例えば、非特許文献 2参照)。さらに、この技 術の改良法として反応を 2段階または 3段階で昇温して実施する方法が提案されて
いる(例えば、特許文献 1及び 2参照)。
しかし、これらの方法では 2—ァダマンタノンの収率は、最高で 90%まで向上するも のの、反応速度は遅ぐその収率を得るためには非常に長時間(30時間以上)反応 させる必要があると 、う問題点を有して 、る。
[0004] 非特許文献 1 : Tetrahedron : 24, 5361 (1968)
非特許文献 2 : Organic Syntheses53, 8 (1973)
特許文献 1:特開平 11― 189564号公報
特許文献 2:特開 2003 - 267906号公報
発明の開示
[0005] 本発明は、ァダマンタンや 1ーァダマンタノールを酸ィ匕して、従来になく短時間、か つ高収率で 2—ァダマンタノンを選択的に効率よく製造しうる方法を提供することを目 的とする。
本発明者らは、前記従来技術の問題点を解消し、短時間、かつ高収率で 2—ァダ マンタノンを選択的に効率よぐ製造するため、鋭意研究を重ねた結果、ァダマンタ ンゃ 1ーァダマンタノールを硫酸にカルボン酸類および Zまたはスルホン酸類を共存 させた酸化剤を用いて酸化することにより、上記課題を達成しうることを見出した。本 発明は、力かる知見に基づいて完成したものである。
すなわち、本発明は、
(1) ァダマンタンおよび 1-ァダマンタノール力 選ばれる少なくとも一種を酸ィ匕させ て 2—ァダマンタノンを製造する方法において、酸化剤として、硫酸にカルボン酸類 および Zまたはスルホン酸類を共存させたものを用いることを特徴とする 2-ァダマン タノンの製造方法、
(2) 硫酸に対して共存させるカルボン酸類および Zまたはスルホン酸類の量力 モ ル比で 0. 01-1. 0の範囲力 選ばれる上記(1)の 2—ァダマンタノンの製造方法、 及び
(3) 硫酸と共存させる酸が、ハロゲンィ匕カルボン酸および Zまたはハロゲン化スル ホン酸である上記(1)又は(2)の 2—ァダマンタノンの製造方法、
を提供するものである。
発明を実施するための最良の形態
[0006] 以下本発明を詳細に説明する。
本発明の 2-ァダマンタノンの製造方法においては、ァダマンタンおよび 1-ァダマン タノ一ルカ 選ばれる少なくとも一種を酸ィ匕させて 2—ァダマンタノンを製造する方法 において、酸化剤として、硫酸にカルボン酸類および Zまたはスルホン酸類を共存さ せたものを用いる。
[0007] 本発明に用いられる硫酸としては、一般的に酸化反応に用いられる 99〜95質量 %の濃度の硫酸を使用することが好ましい。硫酸の濃度を上記範囲にすることによつ て、副生する水による、反応速度の遅くれを抑え、また、タール分の生成を抑制する ことができる。
本発明の反応におけるァダマンタンや 1ーァダマンタノールに対する硫酸の量は、 特に制限はされないが、通常、ァダマンタン 1質量部に対して、 0. 1〜150質量部が 好ましぐより好ましくは、 1〜: LOO質量部である。ァダマンタンや 1—ァダマンタノール に対する硫酸の量を上記範囲内にすることで反応速度の低下を抑え、硫酸の後処 理に力かる手間を抑えることができる。
[0008] また、硫酸と共存させるカルボン酸類および Zまたはスルホン酸類の添カ卩量は、例 えば、ァダマンタン 1質量部に対して、通常 0. 01〜200質量部程度、好ましくは 0. 1 〜 100質量部である。カルボン酸類および/またはスルホン酸類の添力卩量を上記範 囲することで、酸ィ匕反応を速めることができる。
前記カルボン酸類としては蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸等のモノカルボン酸、シ ユウ酸、マロン酸、コハク酸等のジカルボン酸、安息香酸、フタル酸等の芳香族カル ボン酸、モノフルォロ酢酸、ジフルォロ酢酸、トリフルォロ酢酸、モノクロ口酢酸、ジクロ 口酢酸、トリクロ口酢酸等のハロゲンィ匕カルボン酸等が挙げられる。
また、スルホン酸類としては、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸等の脂肪族スルホ ン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸等の芳香族スルホン酸、トリフルォロメ タンスルホン酸等のハロゲン化スルホン酸等が挙げられる。中でもモノカルボン酸、 ハロゲン化カルボン酸、ハロゲン化スルホン酸が好適である。
これらのカルボン酸類ゃスルホン酸類は一種を単独で用いてもよぐ二種以上を組
み合わせて用いてもよい。
[0009] さらに、硫酸に対して共存させるカルボン酸類および Zまたはスルホン酸類の量が 、モル比で 0. 01-1. 0の範囲が好ましぐさらに好ましくはモル比で 0. 05〜 0. 5の範囲である。硫酸に対して共存させるカルボン酸類および Zまたはスルホン 酸類の量を上記範囲にすることで重質分の生成が抑制され、高収率で 2—ァダマン タノンを得ることができる。
[0010] また、反応温度は、通常 15〜180°Cが好ましぐより好ましくは、 30〜100°Cである 。上記温度範囲で酸ィ匕反応を完了させるのが、反応速度の低下を抑え、かつ、副生 する重質分、 2-ァダマンタノンへの選択率の低下を抑えることができる。
反応時間は反応温度や使用する硫酸の量、共存させるカルボン酸類および Zまた はスルホン酸類の種類や量、及びァダマンタンや 1ーァダマンタノールの量などにも よるため一概にはいえないが、通常 0. 5〜20時間、好ましくは 1〜10時間、より好ま しくは 2〜8時間である。
本発明における酸化反応としては、通常、濃硫酸を溶媒として用い、カルボン酸類 および Zまたはスルホン酸類を共存させ、ァダマンタンや 1ーァダマンタノールを所 定量硫酸に懸濁させて昇温することで反応を進行させる方法が用いられる。
また、反応を穏やかに進行させたり、反応中にァダマンタンが昇華するのを防ぐ目 的で必要に応じて溶媒を使用することも可能である、しかし、その場合には硫酸に安 定な溶媒を選択することが必要である。このような溶媒としては、例えば、二塩化ェチ レン等のハロゲン化炭化水素化合物や-トロベンゼン、クロ口ベンゼン等の不活性置 換基をもつベンゼン等が挙げられる。
[0011] 反応の圧力は常圧でよいが、生成する水や二酸化硫黄の除去を促進する必要が ある場合には、減圧下で実施することも可能である。また、他の添加剤、例えばモレ キュラーシーブスや無水硫酸ナトリウム、無水硫酸マグネシウムなどの脱水剤を共存 させることちでさる。
また、反応装置としては、十分な攪拌ができて加熱が可能な装置であり、硫酸に耐 える材質を使用しているものであれば、なんら制限なく用いられる。例えば、通常のガ ラスライニング釜が好適に用 、られる。
酸化反応終了後は、反応系から 2—ァダマンタノンを常法に従って分離することが できる。すなわち、反応終了後、反応液を氷水上の注下し、これを蒸留すること〖こよつ て、水と共に 2—ァダマンタノンを蒸留取得することができる。
さらに、精製が必要な場合には、再結晶、減圧蒸留、水蒸気蒸留、昇華蒸留等の 方法で精製することができる。
実施例
[0012] 次に、実施例に基づいて本発明をさらに詳しく説明する力 本発明はこれらによつ て制限されるものではな 、。
なお、原料及び生成物定量分析は、内部標準法によるガスクロマトグラフィーにより お」なつ 7こ。
[0013] 実施例 1
lOOmLの 3ッロフラスコにァダマンタン lg、 98%硫酸 l lg、トリフルォロ酢酸 3gを 仕込んだ。攪拌しながら、 60°Cまで昇温した。 60°Cになってから、 4時間反応を行つ た。反応終了後 50gの氷に反応液をあけ、冷却しながら pH = 9になるまで NaOH水 溶液を加えた。その後、トルエン 50mLで抽出した。抽出液をガスクロマトグラフィー で分析した。結果を第 1表に示す。
[0014] 実施例 2
トリフルォロ酢酸の代わりにモノクロ口酢酸を用いた以外は実施例 1と同様の方法で
、反応、後処理、分析を行った。結果を第 1表に示す。
[0015] 実施例 3
トリフルォロ酢酸の代わりにトリフルォロメタンスルホン酸を用いた以外は実施例 1と 同様の方法で、反応、後処理、分析を行った。結果を第 1表に示す。
[0016] 実施例 4
トリフルォロ酢酸の代わりに酢酸を用いた以外は実施例 1と同様の方法で、反応、 後処理、分析を行った。結果を第 1表に示す。
[0017] 実施例 5
酢酸の添加量を 0. 5gとした以外は実施例 4と同様の方法で、反応、後処理、分析 を行った。結果を第 1表に示す。
[0018] 実施例 6
クロ口酢酸の添加量を 0. 5gとした以外は実施例 2と同様の方法で、反応、後処理、 分析を行った。結果を第 1表に示す。
[0019] 比較例 1
トリフルォロ酢酸を添加しな力つた以外は実施例 1と同様の方法で、反応、後処理、 分析を行った。結果を第 1表に示す。
[0020] 比較例 2
トリフルォロ酢酸を添加せず、かつ反応温度を 35°C-20時間、 50°C- 7時間、 75°C -3時間と 3段階で反応した以外は実施例 1と同様に反応、後処理、分析を行った。結 果を第 1表に示す。
[0021] 比較例 3
トリフルォロ酢酸を添加せず、かつ反応温度を 60°C-4時間、 80°C-8時間と 2段階 で反応した以外は実施例 1と同様に反応、後処理、分析を行った。結果を第 1表に示 す。
[0022] [表 1]
第 1表
本発明は、医農薬分野、半導体分野、磁気記録媒体分野、光学材料分野、耐熱性 プラスチック分野、塗料、接着剤等の機能性材料、化粧品、潤滑油などの分野に有 用な 2—ァダマンタノンを短時間で効率よく製造できる。