明 細 書
JCウィルスの VP— 1に対する siRNA、及びそれを含有してなる医薬組成 物
技術分野
[0001] 本発明は、 JCウィルスの VP— 1をコードする遺伝子に対する短い干渉 RNA (siRN A)を用いる RNAi法による JCウィルス感染細胞に対する治療のための医薬組成物、 そのための有効成分であるポリヌクレオチドを提供するものである。本発明は、 JCウイ ノレスの VP - 1をコードする遺伝子に対する短!ヽ干渉 RNA (siRNA)又は当該 siRN Aを形成し得る遺伝子、及び製薬学的に許容される担体を含有してなる JCウィルス 感染症の治療のための医薬組成物、そのためのポリヌクレオチド、それらの製造のた めの使用に関する。
背景技術
[0002] JCウィルス QCV)はヒト大脳に脱髄病変を生じる進行性多巣性白質脳症(
progressive multifocal leukoencephalopathy: PML)の原因ウイノレスである。 JCウイノレ スはポリオ一マウィルス属に属する 2本鎖環状 DNAウィルスであり、幼 ·小児期に過 半数の人が感染し一生の持続感染を起こす。通常は 70%以上の健常人の尿路系に 不顕性感染している力 健常人で発症に至ることは極めてまれなことであった。しかし 、宿主が後天'性免疫不全症候群(AIDS : Acquired immunodeficiency syndrome)な どにより免疫不全状態に陥ると脳に移行し、オリゴデンドログリアに感染し増殖するこ とで致死的な脱髄を起こす。また、ミエリン生成細胞である希突起膠細胞
(oligodendrocytes)が損傷を受けることも報告されている。さらに、最近では痴呆症の 原因の一部として JCVとの関係も指摘されてきている。
[0003] 1984年にフリスク(Frisque)らは PML患者の脳組織より JCウィルス(Mad- 1株)を分 離し (非特許文献 1参照)、その後、 JCウィルスの感染にっ 、て ¾[Cウィルス抗体を 用いる抗原の検出や、免疫組織染色法などの各種の診断法が開発されてきている( 非特許文献 2参照)。例えば、 JCウィルス粒子の製造方法及び JCウィルス外郭蛋白 の製造方法に関するもの (特許文献 1参照)、 JCウィルスの VP— 1タンパク質を抗原
とする ¾[Cウィルス抗体による診断法 (特許文献 2〜4参照)などにっ ヽての特許出 願がなされている。
また、 PMLの治療法については、現在の段階では未だ有効な臨床的な治療法は 確立されていない。 PMLの治療法については、 AMPA受容体又はカイニン酸受容 体が関与する疾患の治療剤としてのピリダジノンおよびトリアジノンィ匕合物類を使用 する方法 (特許文献 5参照)、及び、 1, 2—ジヒドロピリジン化合物類を使用する方法 (特許文献 6参照)などが提案されて!ヽるが、有効な治療薬は未だ開発されて!ヽな 、 のが現状である。また、シトシンァラビノサイド(cytosine arabinoside)やシドフオビル( cidofovir)による治療は、 PMLに罹った個体での有効性を証明することに失敗してい る。 DNAトポイソメラーゼを阻害してインビトロで JCウィルスの複製を遮断するトポテ カン (topotecan)による治験が現在進行中である。
さらに、本発明者らは、 JCウィルスの増殖を阻止する目的として JCウィルスが有する 遺伝子のうちで最も小さな遺伝子であるァグノ (agno)タンパク質のアミノ酸配列を変 異させてこの遺伝子の発現を停止させると、 JCウィルスの増殖が阻止されることを見 出してきて!/、る (特許文献 7参照)。
一方、近年になって、特定の遺伝子の発現を抑制する手法のひとつとして RNAi ( RNA interference)法が開発されてきた。 RNAiは、もともと 2本鎖 RN Aの導入により、 それと相同な RNAの発現が強力に抑制されるという生命現象として 1998年に発見 されたものであり、この現象を利用して 2本鎖 RNA(dsRNA)の導入により標的とする 特定の遺伝子の発現を抑制する方法である。細胞に導入された長!ヽ (数百塩基対) d sRNAは、 Dicerと!、う 2本鎖 RNA (dsRNA)を特異的に切断する RNaselll様の酵素 により分解されて、 21〜25塩基対程度の短い dsRNA (これを、 small interfering RNA(siRNA)と呼ぶ。)を生成する。この siRNAが 1本鎖の解離し、解離した 1本鎖 の siRNAが複合体 RISC (RNA- induced silencing complex)として標的の mRNAを 特異的に認識して切断することにとり、当該 mRNAの発現が抑制されることになる。 RNAi法としては、 dsRNAの導入に代えて、 siRNAを導入することも行われている。 siRNA (small interfering RNA)による RNAi法が、細胞やウィルスの遺伝子発現を 抑制するアプローチとして現在広く使用されるようになってきている(非特許文献 3参
照)。 siRNAsをウィルスと同時にあるいは事前に投与することによってウィルスの感 染を防げることが数々の研究によって示されて ヽる(非特許文献 4参照)が、細胞や 組織で 、つたん確立した感染を RNAiによって除去することは実証されて 、な 、。
[0005] 特許文献 1:特開平 09— 224658号
特許文献 2:特開平 09— 067397号
特許文献 3:特表 2000 - 500973号
特許文献 4:特開 2003— 061693号
特許文献 5:再公表公報 WO02Z022587号
特許文献 6:再公表公報 WO01Z096308号
特許文献 7:特開 2003— 160510号
非特許文献 l : Frisque,R.J. et al., J. Virol, 51, 458-469, 1984
非特許文献 1 : E.O.Major, et al, Clin. Microbiol. Rev., 5, 49-73, 1992
非特許文献 3 : Gitlin L., et al., Nature, vol.418, pp.430- 434, 2002
非特許文献 4:Andino R., Nature BiotechnoL, vol.21, pp.629- 630, 2003
発明の開示
発明が解決しょうとする課題
[0006] 本発明は、 JCウィルスの VP— 1の発現を抑制し、 JCウィルスの増殖を抑制すること により JCウィルス感染症、例えば進行性多巣性白質脳症 (progressive multifocal leukoencephalopathy: PML)を治療するための医薬組成物、そのためのポリヌクレオ チド、及びその使用を提供する。
課題を解決するための手段
[0007] 本発明者らは、 JCウィルスの増殖を抑制するために、ァグノタンパク質(
Agnoprotein)の発現を抑制すればよ!、ことを報告してきた (特許文献 7参照)が、その ためにはァグノタンパク質をコードする遺伝子 (agno遺伝子)の塩基配列を改変する など、煩雑な操作を必要としていた。そこで、簡便な手法で JCウィルスの増殖を抑制 できる手法を検討してきたところ、 RNA干渉 (RNAi)法により感染後の細胞にお!ヽて も短い干渉 RNA (small interfering RNA:siRNA)を感染細胞に導入することにより、 当該細胞における感染を治療することができることを実証することに成功し、 JCウィル
スの感染細胞における治療剤として短 ヽ干渉 RNA (siRNA)が有効であることを見 出した。
[0008] 即ち、本発明は、 JCウィルスの VP— 1をコードする遺伝子に対する短い干渉 RNA
(siRNA)又は当該 siRNAを形成し得る遺伝子、及び製薬学的に許容される担体を 含有してなる JCウィルス感染症の治療のための医薬組成物に関する。
また、本発明は、前記本発明の医薬組成物の有効成分となる短い干渉 RNA(siR NA)又は当該 siRNAを形成し得る遺伝子であるポリヌクレオチド、より詳細には、 D NAの配列として表記したときに少なくとも 5' - tgaggatctaacctgtgga— 3'の塩基配 列若しくはその相補配列又は対応する RNAの配列を有する、 40塩基以下の長さか らなるポリヌクレオチドに関する。
さらに、本発明は、前記した本発明のポリヌクレオチドの使用に関する。より詳細に は、本発明の使用は、 JCウィルス感染症を治療するための、 JCウィルスの VP— 1を コードする遺伝子に対する短 ヽ干渉 RNA (siRNA)又は当該 siRNAを形成し得る 遺伝子の使用、及び、 JCウィルスの VP— 1をコードする遺伝子に対する短い干渉 R NA (siRNA)又は当該 siRNAを形成し得る遺伝子、及び製薬学的に許容される担 体を含有してなる JCウィルス感染症の治療のための医薬組成物の製造のための、 JC ウィルスの VP— 1をコードする遺伝子に対する短い干渉 RNA (siRNA)又は当該 si RNAを形成し得る遺伝子の使用に関する。
[0009] さらに、本発明は、 JCウィルス感染症の患者に、 JCウィルスの VP— 1をコードする 遺伝子に対する短 ヽ干渉 RNA (siRNA)又は当該 siRNAを形成し得る遺伝子、及 び製薬学的に許容される担体を含有してなる JCウィルス感染症の治療のための医薬 組成物の有効量を投与することからなる JCウィルス感染症、例えば進行性多巣性白 質脳症(progressive multifocal leukoencephalopathy: PML)を治療する方法に関す る。
また、本発明は、 JCウィルスに感染した細胞又は生体に、 JCウィルスの VP— 1をコ ードする遺伝子に対する短 ヽ干渉 RNA (siRNA)又は当該 siRNAを形成し得る遺 伝子を導入することからなる JCウィルスの増殖を抑制する方法に関する。
[0010] JCウィルスは、 5, 130bpの 2本鎖環状 DNAを有するウィルスで、複製開始起点の
塩基を 1番(nt. 1)とした場合、 VP— 1遺伝子は nt. 1469— 2533にコードされ、 VP —1は 254個のアミノ酸からなるタンパク質である(Frisque,R.J., et al., J. Virol. 51 (2), 458-469 (1984))。 VP— 1をコードする遺伝子の塩基配列を配列表の配列番号 1 に示し、 VP— 1のアミノ酸配列を配列番号 2に示す。また、 VP— 1は、 JCウィルスの 後期 mRNAのひとつであるァグノタンパク質及び VP— 1をコードする mRNAにより、 ァグノタンパク質と同じ mRNAにコードされて!/、る。この mRNAの塩基配列を配列番 号 3に示す。
[0011] 本発明における JCウィルスの VP— 1をコードする遺伝子に対する短い干渉 RNA( siRNA)としては、 VP— 1をコードする遺伝子から転写されて生成される mRNAの塩 基配列 (センス配列)と相同な連続した少なくとも 10塩基以上、好ましくは 15塩基以 上、より好ましくは 19塩基以上の塩基配列を有する 15〜40塩基、好ましくは 15〜3 0塩基、 15〜25塩基、又は 19〜25塩基の長さを有し、全長において少なくとも 90% 以上、好ましくは 100%の相同性を有する 2本鎖 RN Aである。このような siRNAの塩 基配列は、 VP— 1遺伝子の mRNAの翻訳領域又は非翻訳領域のどの部分から選 択してもよいが、好ましくは翻訳領域力 選択され、また siRNAの全体の GC含量が 70%以下、好ましくは 30〜70%、 30〜60%程度となるように選択されるのが好まし い。好ましい塩基配列としては、センス側の配列として、
5 -ugaggaucuaaccugugga— 3 、
力もなる RNAが挙げられる。
本発明における短い干渉 RNA (siRNA)は、 3'末端に 5塩基以下、好ましくは 2塩 基からなる塩基対を形成しな!、塩基が存在して ヽることが好ま ヽ。このような塩基対 を形成しない塩基の配列としては、例えば ug— 3'、 uu—3'、 tg—3 '、 tt—3'などの 配列が挙げられるが、これに限定されるものではない。このような塩基対を形成しない 塩基が存在して 、る好まし 、例としては、センス側の配列として、
5 - ugaggaucuaaccugugga— dt— dt— 5 、
(式中、 dtは塩基対を形成しない塩基を示す。 )
力 なる RNAが挙げられる力 これに限定されるものではない。
[0012] 本発明における短 ヽ干渉 RNA (siRNA)としては、前記してきた塩基配列を有する
RNAと、その相補鎖力 なる 2本鎖 RNAが挙げられる力 ヘアピンループ型の構造 をとることにより、前記した 15〜40塩基、好ましくは 15〜30塩基、 15〜25塩基、又 は 19〜25塩基の長さの部分が 2本鎖となるような構造であってもよい。この場合にお けるヘアピンループのループ部分の塩基配列としては、ループを形成することができ る配列であれば特に制限はな 、。
また、本発明は、 DNAの配列として表記したときに少なくとも 5' -tgaggatctaacctg tgga— 3'の塩基配列若しくはその相補配列又は対応する RNAの配列を有する、 4 0塩基以下の長さからなるポリヌクレオチドを提供するものであり、当該ポリヌクレオチ ドは、 DNAであってもよいし、 RNAであってもよく、さらに 2本鎖の RNAであってもよ い。これらのポリヌクレオチドは、 3'末端に 5塩基以下、好ましくは 2塩基からなる塩基 対を形成しな 、塩基が存在して 、ることが好まし!/、。
これらの本発明のポリヌクレオチドは、人工的に合成したものであってもよいし、生 体内や細胞内で発現させたものであってもよ 、。
本発明における JCウィルスの VP— 1をコードする遺伝子 (VP— 1遺伝子)に対する 短 ヽ干渉 RNA (siRNA)を形成し得る遺伝子としては、生体内にお!、て前記した短 V、干渉 RNA (siRNA)のセンス鎖からなる RNA及びアンチセンス鎖からなる RNAを 生成させることができ、これらからなる 2本鎖 RNAを形成することができるものであれ ば特に制限はない。例えば、前記した RNAを細胞内で発現することができる遺伝子 、好ましくは DNAである。このような遺伝子としては、センス鎖の RNAを発現できる遺 伝子とアンチセンス鎖の RNAを発現できる遺伝子との組み合わせ力 なる遺伝子が 挙げられる。各々の遺伝子のプロモーターは同じ条件で発現するものであってもよい し、異なる条件で発現でするプロモーターであってもよ 、。
また、前記したヘアピンループ型の構造をとる RNAを発現させる場合には、ヘアピ ンループ型の構造をとる RNAの全長を発現することができる遺伝子、例えば、プロモ 一ターの下流側にセンス鎖の RNAをコードする配列、ループ部分をコードする配列 、アンチセンス鎖の RNAをコードする配列、ポリ Tストレッチ配列、及びストップコドン 力 なる塩基配列を有する遺伝子を用いることができる。
本発明の短い干渉 RNA (siRNA)を形成し得る遺伝子におけるプロモーターとし
ては、恒常的に発現するためのプロモーターであってもよいし、特定の条件下で発現 するためのプロモーターであってもよい。例えば、 RNAポリメラーゼ III (polIII)プロモ 一ター(Brummerlkamp,T.R., et al., Science, 297, 1352—1354, 2002)、 U6プロモータ 一(a) Lee NS. et al., Nature Biotech. 20, 500-505, 2002 ;b) Miyagishi M. & Taira K., Nature Biotech. 20, 497—500, 2002 ;c) Paul CP. et al., Nature Biotech. 20, 505-508, 2002)、 HIプロモーター(Brummelkamp TR et al: Science 296, 550-553, 2002)、 tRNAプロモーター(Oshima K., et al., Cancer Research 63, 6809-6814, 15, 2003)などが挙げられる力 これらに限定されるものではない。
[0014] 前記してきた本発明の短 ヽ干渉 RNA (siRNA)又は当該 siRN Aを形成し得る遺伝 子を、生体内や細胞内に導入する方法としては、公知の各種の手法を採用すること ができる。例えば、センス鎖及びアンチセンス鎖のそれぞれの 1本鎖 RNAを直接導 入する方法や、環状 RNAとして導入する方法、また DNAの場合には公知の遺伝子 導入法、例えば、プラスミドやウィルスなどのベクター、例えばレンチウィルスベクター (Rubinson, D.A. et al., Nature Genet. 33, 401-406, 2003)などを使用する方法など を採用することができる。したがって、本発明の医薬組成物における短い干渉 RNA( siRNA)又は当該 siRNAを形成し得る遺伝子としては、単にこれらのポリヌクレオチ ドそのものだけでなぐこれらのポリヌクレオチドを含有する遺伝子導入用の遺伝子、 例えば、これらのポリヌクレオチが生体内に導入するためのベクターに組み込まれて いる遺伝子などのすベての態様の遺伝子を包含するものである。
[0015] 本発明は、 JCウィルス感染症の治療、即ち JCウィルスに既に感染した細胞におい ても、 JCウィルスの VP— 1をコードする遺伝子 (VP— 1遺伝子)に対する短い干渉 R NA (siRNA)を用いる RNAi法が有効であることという技術的思想に基づくものであ り、既存の RNAi法の応用を本発明の具体的な適用に応用可能であることは当業者 が容易には理解されるところである。例えば、
WO00/63364号(特表 2002— 542263号)【こ ίま、各種のクイノレス【こ対するアンチ センスの適用や RNAi法の適用が開示されており、この記載を参照して本明細書に 取り込む。また、 WO01/092513号(特表 2003— 535583号)【こ ίま、 RNAi法【こ随 伴する因子類の操作により RNAi媒介遺伝子サイレンシングを増強するための改良
法が開示されており、この記載を参照して本明細書に取り込む。
[0016] 本発明の医薬組成物は、前記してきた短 、干渉 RNA (siRNA)又は当該 siRNA を形成し得る遺伝子を単独で使用する場合も包含して 、るが、医薬組成物を形成す るための製薬学的に許容される担体をさらに含有しているものも包含している。本発 明の製薬学的に許容される担体としては、本発明の短い干渉 RNA(siRNA)又は当 該 siRNAを形成し得る遺伝子を生体に投与又は導入するための処方をなすもので あり、生理学的に無害で不活性なものが挙げられる。このような担体としては、例えば 、殺菌水、生理食塩水、リン酸緩衝液、エタノール、グリセリン、ショ糖、乳糖などが挙 げられる力 これに限定されるものではない。また、本発明の医薬組成物は、薬学上 許容可能なその他の任意の成分、例えば、溶解補助剤などの各種の補助剤、安定 剤、 pH調節剤、及び他の活性成分などが含まれていてもよい。
さらに、本発明の医薬組成物には、細胞への RNAや遺伝子の導入を促進する物 質、例えば、局所麻酔剤、リボソームなどの脂質、ポリリジンなどのポリカチオン、カチ オン性界面活性剤などをさらに含有することもできる。
[0017] 本発明の医薬組成物の具体的な処方としては、投与する RNA分子や DNA分子 の形態や、患者の状態にもよるが、注射剤、外用剤、坐剤などの各種の剤型とするこ とができ、溶液状、乳化状、ゲル状、ゾル状などの各種の製薬形態をとることができる 本発明の医薬組成物の投与量、投与間隔などは、患者の性別、年齢、体重、及び 病態などの各種条件等に応じて適宜設定される。好ましい投与量としては、 VP— 1 遺伝子の mRNAl個当たり 1〜10個、好ましくは 3〜6個程度の siRNAが導入される 量が上げられる。
[0018] 本発明の医薬組成物は、 JCウィルスの増殖を抑制し、 JCウィルス感染症を治療す ることができる。本発明の JCウィルス感染症としては、進行性多巣性白質脳症、特に ヒト進行性多巣性白質脳症、痴呆症などの JCウィルスの感染に起因する各種の疾患 が挙げられる。本発明の医薬組成物は、 JCウィルスに感染している細胞、哺乳動物 由来の細胞、ヒト細胞、又は哺乳動物などの動物やヒトに投与される。
[0019] また、本発明は、 JCウィルス感染症を治療するための、前記してきた本発明の JCゥ
ィルスの VP— 1をコードする遺伝子に対する短い干渉 RNA(siRNA)又は当該 siR NAを形成し得る遺伝子の使用、及び本発明の医薬組成物の製造のための、 JCウイ ノレスの VP - 1をコードする遺伝子に対する短!ヽ干渉 RNA (siRNA)又は当該 siRN Aを形成し得る遺伝子の使用を提供するものである。
[0020] 次に、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの具体的な説明に限定さ れるものではない。
本発明者らは、 JCウィルス感染細胞での JCウィルスの増殖の阻害を試験するため に、 3つの異なる JCウィルスタンパク質を標的とした siRNAを設計した。即ち、 JCウイ ルスの VP— 1タンパク質をコードする遺伝子 (VP— 1遺伝子)を標的とする VP274 及び VP691、ァグノタンパク質をコードする遺伝子(agno遺伝子)を標的とする Agl 22及び Agl47、並びにラージ T抗原(Large T antigen; T- Ag)をコードする遺伝子を 標的とする LT78及び LT134を設計した。これらの 2本鎖の RNAはそれぞれの 3' - 末端に 2個の非対の塩基を有して 、る。
[0021] これらの siRNAを次に示す。
Agl22 : センス鎖 5'- -GGUGAAGACAGUGUAGACG-dTdG- -3'
アンチセンス鎖 3'- -dGdT-CCACUUCUGUCACAUCUGC- -5'
Agl47 : センス鎖 5'- -AAAGACAGAGACACAGUGG-dTdT- 3'
アンチセンス鎖 3'- -dTdT-UUUCUGUCUCUGUGUCACC- -5'
VP274 : センス鎖 5'- -UGAGGAUCUAACCUGUGGA-dTdT- -3'
アンチセンス鎖 3'- -dTdT-ACUCCUAGAUUGGACACCU- -5'
VP691 : センス鎖 5'- -UACUGCCACAACAGUGCUG-dTdT- -3'
アンチセンス鎖 3'- -dTdT-AUGACGGUGUUGUCACGAC- -5'
LT78 : センス鎖 5'- -UUCCUGUCAUGAGAAAAGC-dTdG- -3'
アンチセンス鎖 3'- -dGdT-AAGGACAGUACUCUUUUCG- -5'
LT134 : センス鎖 5'- -GGUGGGGACGAAGACAAGA-dTdT- -3'
アンチセンス鎖 3'- -dTdT-CCACCCCUGCUUCUGUUCU- -5'
JCウィルスの早期 mRNA類および後期 mRNA類は、選択的スプライシングにより 生成され、主な後期 mRNAの二つの主要な型は、ァグノタンパク質及び VP— 1をコ
ードする mRNAと、ァグノタンパク質、 VP— 2及び VP— 3をコードする mRNAである 。主な早期 mRNAとしてはスプライシングによる異型として翻訳されるスモール t抗原 とラージ T抗原(T— Ag)をコードする mRNAである。これらの mRNAと前記してきた siRNAの関係を図 1に示す。図 1の上段はラージ T抗原又はスモール t抗原(small t antigen)をコードする早期 mRNA (Early mRNA)を示し、図 1の下段はァグノタンパク 質及び VP— 1をコードする mRNAと、ァグノタンパク質、 VP— 2及び VP— 3をコード する mRNAの後期 mRNA (Late mRNA)を示す。図 1中の矢印は、前記した本発明 で設計された siRNAの標的となるウィルス RN A類の領域を示す。
[0023] JCウィルス(Mad— lZSVE A株、赤血球凝集活性が細胞 3 X 105個あたり 1024 単位)を SVG— A(SV40形質転換ヒト胎児グリア)細胞に接種し、接種 4日後に、 JC ウィルスに特異的なそれぞれの siRNAをリポフエクシヨン法により導入した。 siRNA 導入後における JCウィルスの VP— 1及びァグノタンパク質に対するィムノブロッティ ングを行った。最初に JCウィルスを感染させた後の JCウィルスタンパク質の発現と感 染後の経過日数の関係を観察した。結果を図 2に図面に代わる写真で示す。図 2の 横方向は、 JCウィルス感染後からの経過日数(dpi:days post infection)を示し、図 2の 上段は VP— 1を示し、下段はァグノタンパク質を示す。この結果、 VP— 1ゃァグノタ ンパク質などの JCウィルスの後期に発現するタンパク質は、 JCウィルス感染から 2日 後(2dpi)からィムノブロッテイングによって検出され、導入 4日後(4dpi)では大量に 検出された (図 2参照)。
[0024] そこで、ウィルスの接種力 4日後及び 6日後のそれぞれの時点で、リポフエクタミン
2000 (インビトロジェン社)を用いて SVG— A細胞へ各 siRNA (120pmolZ細胞 6 X 104個)を導入した。約 80%の SVG— A細胞において、フルォレセイン色素結合 Agl22siRNAを導入することに成功した(ここでは、データは示していない。 ) 0
2回目の siRNAの導入(ウィルス接種から 6日後)から 48時間後での、それぞれの s iRNA導入細胞における JCウィルスのァグノタンパク質、 VP—1、及び SV40ラージ T抗原の発現量を、ァグノタンパク質、 VP— 1に関しては本発明者らが作製した特異 抗体を、ラージ T抗原に関しては Ab— 2 (オンコジーンリサーチプロダクト社)を用い て、ィムノブロッテイングを行った。対照として、哺乳動物細胞には存在しないスクラン
ブル配列を持つ siRNA (ダーマコン社)を導入した細胞を用いた。結果を図 3に図面 に代わる写真で示す。図 3の横方向は導入した siRNAを示し、縦方向はタンパク質 の種類を示す。下段のァクチンは、陽性コントロールである。
また、ラミン AZC (LaminA/C)特異的 siRNA、または、 60pmolZゥエルもしくは 12 OpmolZゥエルの Agl22siRNAを導入し^ JCウィルス感染細胞での、ラミン AZC ( LaminA/C)、 LT、 VP—1、ァグノタンパク質、及びァクチンのそれぞれのタンパク質 に対するィムノブロッテイングを行った。コントロール (Cont)として、細胞に疑似物質 を導入したものを用いた。結果を図 4に図面に代わる写真で示す。図 4の横方向は、 導入した siRNAを示し (Agl22の左側は 60pmolZゥエルの場合を示し、右側は 120 pmolZゥエルの場合を示す。)、縦方向は各タンパク質の種類を示す。下段のァクチ ンは陽性コントロールである。
[0025] この結果、 Agl22、 Agl47又は VP274を導入した細胞では、ウィルスの蛋白質の 顕著な減少が示された(図 3参照)。また、 Agl22は、ァグノタンパク質の発現だけで なく VP— 1の発現をも用量依存的に阻害した力 ラージ T抗原、ラミン AZC ( LaminA/C)又はァクチンの発現量には影響しな力つた(図 3及び図 4参照)。さらに、 VP274は、 VP— 1だけでなくァグノタンパク質の発現も抑制することが示された(図 3 参照)。
SV40ラージ T抗原の抗体は、 SV40形質転換細胞にお!、て、 JCウィルスのラージ T抗原と SV40のラージ T抗原(これらの 2つのタンパク質はアミノ酸配列で 70%以上 の相同性を有する)を区別することができない。そこで本発明者らは、 LT78と LT13 4の JCウィルスのラージ T抗原発現に対する効果を、逆転写反応 (RT)— PCRで評 価した。その結果、どちらの siRNAを細胞に導入しても、 JCウィルスのラージ T抗原 の mRNAの発現量は影響を受けなかった(ここではデータは示して!/ヽな 、。 )。
[0026] 次に、 JCウィルス感染細胞における Agl22及び VP274の効果を、間接蛍光抗体 免疫染色を用いて試験した。 siRNA導入の 48時間後、メタノールで固定した細胞を VP— 1又はァグノタンパク質の抗体で処理し、次にアレクサフルオル 488 (Alexa Fluor 488)の結合した抗ゥサギ二次抗体 (モレキュラープローブ社)で処理した。 VP 1又はァグノタンパク質に陽性である細胞は共焦点レーザー顕微鏡 (ォリンパス社
)で可視化され、 6フィールドで計測された。ァグノタンパク質又は VP— 1陽性である 細胞の割合を間接蛍光抗体免疫染色により測定した結果を図 5にグラフで示す。図 5の左側はァグノタンパク質の場合であり、右側は VP— 1の場合を示す。各グラフの 縦軸は、それぞれのタンパク質の陽性を示した細胞の、スクランブル siRNAが導入さ れた細胞に対する割合(% of sc)を示し、各グラフの左側の黒抜き部分はスクランプ ル siRNAを導入した場合を示し、その右側の灰色部分は Ag 122が導入された場合 を示し、その右側の灰色部分は VP274が導入された場合を示し、右側の白抜き部 分は Agl22及び VP274の両者が導入された場合を示す。各データは少なくとも 3回 の独立した試験での平均値士標準偏差である。図 5のグラフ中の * *印は、 P< 0. 02 (スチューデントの t検定)で有意差があることを示す。
この結果、ァグノタンパク質陽性細胞の割合は、スクランブル siRNAを導入された 細胞の値と比べ、 Agl22が導入された細胞、 Vp274が導入された細胞、及びその 両方の siRNAが導入された細胞において有意に減少していた(図 5参照)。同様に、 VP— 1陽性細胞の割合は、 Agl22が導入された細胞、 VP274が導入された細胞、 及び Agl22と VP274の両方が導入された細胞において有意に減少した。
そこで、 Ag 122若しくは VP274、又はその両方の siRNAが導入された細胞でのァ グノタンパク質及び VP— 1のそれぞれの発現の阻害を、ィムノブロッテイングにより確 認することにした。それぞれの siRNAが導入され^ JCウィルス感染細胞での、 VP— 1、ァグノタンパク質およびァクチンの発現に対するィムノブロッテイングの結果を図 6 に図面に代わる写真で示す。また、ァグノタンパク質と VP— 1のシグナルをイメージ アナライザ一により定量ィ匕し、スクランブル siRNAが導入された細胞での値に対する 割合(%)をグラフ化して図 7に示す。図 6の横方向は導入した siRNAを示し、縦方向 はタンパク質を示す。ァクチンは陽性コントロールである。図 7の左側はァグノタンパク 質の場合であり、右側は VP— 1の場合を示す。各グラフの縦軸は、それぞれのタン ノ ク質の陽性を示した細胞の、スクランブル siRNAが導入された細胞に対する割合( % of sc)を示し、各グラフの左側の黒抜き部分はスクランブル siRNAを導入した場 合を示し、その右側の斜線部分は Ag 122が導入された場合を示し、その右側の灰 色部分は VP274が導入された場合を示し、右側の白抜き部分は Agl22及び VP27
4の両者が導人された場合を示す。
この結果、ウィルスの蛋白質の発現を阻害する程度は、 Agl22と VP274を組み合 わせ〖こよるものと、それぞれの siRNA単独によるものとで、有意な差はなかった。これ は、 Agl22もしくは Vp274のいずれかによつて引き起こされるァグノタンパク質及び VP1の発現の阻害は、これらの蛋白質の双方をコードするポリシストロン性後期 mR NAが、それぞれの siRNAにより減少したことによるものと考えられる。
[0028] siRNAはそれと相同な配列を持つ mRNAを標的とし、その分解を引き起こすと考 えられている。そこで、 JCウィルスの mRNAの量に対する Agl22及び VP274の効 果を試験した。 siRNAを導入して 12もしくは 24時間後の細胞力ゝら全 RNAを抽出し、 DNaselで処理をした後、スーパースクリプトファーストストランド合成システム( superscript first-strand synthesis system (インビトロンェン社 ) )で逆 与して GeneA mp5700 (アプライドバイオシステムズ社)を用いて、リアルタイムでの定量的 PCRを 行った。それぞれのウィルスにおける mRNAの量は、同じサンプル中の j8—ァクチ ンの mRNAの量により規格した。データは、スクランブル siRNA (コントロール)が導 入され^ JCウィルス感染細胞での標準化された値に対する割合 (%)として表わし、 少なくとも 3回の独立した試験での平均値士標準偏差である。この結果を図 8にダラ フ化して示す。図 8の左側はァグノタンパク質の 12時間及び 24時間後の場合であり 、右側は VP— 1の 12時間及び 24時間後の場合を示す。各グラフの縦軸は、それぞ れのタンパク質の mRNAの量の、スクランブル siRNAが導入された細胞に対する割 合(% of sc)を示し、各グラフの左側の黒抜き部分はスクランブル siRNAを導入した 場合を示し、その右側の斜線部分は Ag 122が導入された場合を示し、その右側の 灰色部分は VP274が導入された場合を示し、右側の白抜き部分は Ag 122及び VP 274の両者が導入された場合を示す。図 8中の *印は P< 0. 05で、 * *印は P< 0 . 02で有意差があることを示す。
[0029] この結果、ァグノタンパク質と VP— 1の mRNAの発現量は、 Ag 122若しくは VP27 4、又はその両方の siRNAsが導入され^ JCウィルス感染細胞で有意に減少して!/ヽ た(図 8参照)。しかしながら、ウィルスの mRNA量の減少は、それがコードするタンパ ク質の発現量の減少ほど大きなものではな力つた(図 5及び図 8参照)。
そこで、(1)RT— PCR反応前に逆転写酵素反応なしで DNasel処理をし、また(2) 逆転写酵素反応の前に RNaseA処理をすることによって、 RT— PCRサンプル中に ウィルスの DNAが混入してくる可能性を無くした実験を行った。この両方の処理によ つて、 RT— PCRのシグナルが失われたが、これは RT— PCRサンプル中にウィルス の DNAの混入がないことが示されたことになる。 siRNAは、 RNA誘導サイレンシン グ複合体 (RISC ; RNA- induced silencing complex)に結合し、 RISCを介する配列特 異的な mRNAの切断を誘起することが知られている力 このプロセスの詳細なメカ- ズムは未解明なままである。 JCウィルスの特異的な siRNAsの効果の大きさ力 ウイ ルス RNAに対する効果とウィルスタンパク質に対する効果とで異なったことの説明の ひとつとしては、 siRNAと結合した標的 RNA力 切断される前に RT— PCRによって 検出されたということである。
[0030] JCウィルスの増殖に対する RNAi法の効果を試験するために、 JCウィルス感染 SV G— A細胞の赤血球凝集活性を siRNA導入 36時間後に測定した。 JCウィルス感染 細胞にそれぞれの siRNAを導入した 36時間後の JCウィルス感染細胞カゝら調製した 抽出物について赤血球凝固活性 (HA)を分析した。データは、細胞抽出物 25 Lあ たりの赤血球凝固活性力価として表し、少なくとも 3回の独立した試験での平均値士 標準偏差である。結果を図 9にグラフ化して示す。図 9の縦軸は細胞抽出物 25 Lあ たりの赤血球凝固活性力価 (HA titer/25 μ L)を示し、グラフの左側の黒抜き部分は スクランブル siRNAを導入した場合を示し、その右側の斜線部分は Agl22が導入さ れた場合を示し、その右側の灰色部分は VP274が導入された場合を示し、右側の 白抜き部分は Ag 122及び VP274の両者が導入された場合を示す。図 9中の * *印 は P< 0. 02で有意差があることを示す。
この結果、 Ag 122若しくは VP274、又はその両方の siRNAsを導入した細胞の赤 血球凝集活性は、スクランブル siRNAを導入した細胞と比較してそれぞれ、 6. 7%、 9. 3%、4. 1%であった(図 9参照)。このように、ァグノタンパク質又は VP— 1を標的 とする siRNAは、感染細胞での JCウィルス増殖を大きく阻害した。
[0031] 以上のことから、 JCウィルスに既に感染した細胞での JCウィルスの増殖を、 RNAi 法によって顕著に阻害することができることを本発明者が初めて実証し、確認するこ
とができた。この結果は、 PMLの治療に対する新しいアプローチの開発に重要な意 味を持つものであり、 PMLに対する RNAi法に基づ ヽた抗ウィルス戦略を適用する には、中枢神経系への siRNAの効果的かつ特異的なデリバリーが極めて有効な手 段であることを明らかにするものである。
JCウィルス感染 SVG細胞にお!、て JCウィルスのァグノタンパク質及び VP— 1をコ ードして 、る mRNAに特異的な siRNAを用いてウィルスのタンパク質の発現を抑制 することが可能であり、 JCウィルス感染価も顕著に低下した。ウィルス感染が成立した 後のウィルスの増殖の抑制が可能であることは、実際のウィルス感染症の治療を開 発してゆく上で極めて有用であり、これによりウィルスの感染による各種の感染症、例 えば PMLや痴呆症の治療が可能となる。
発明の効果
[0032] 本発明は、 siRNAという極めて短い 2本鎖 RNAの導入という簡便な手法により、 JC ウィルスに感染した後の細胞における JCウィルスの増殖を抑制することができ、当該 ウィルスの感染による各種の疾患の治療が可能となった。また、本発明は、 JCウィル スに感染した後の細胞における JCウィルスの増殖を抑制するための極めて有効な塩 基配列を有するポリヌクレオチド、及び当該ポリヌクレオチド力 なる siRNAを提供す るものである。さらに、本発明の siRNAiお Cウィルスの後期 mRNAにおけるァグノタ ンパク質及び VP— 1をコードする mRNAの発現を抑制することができ、両方のタン ノ ク質の発現を同時に抑制することができることから、極めて有効なウィルス増殖抑 制剤を提供するものでもある。
図面の簡単な説明
[0033] [図 1]図 1は、 JCウィルスの主な早期 mRNA (Early mRNA)及び後期 mRNA (Late mRNA)と本発明の siRNA (図 1中の矢印)との関係を示したものである。
[図 2]図 2は、 JCウィルス感染後における JCウィルスの VP— 1及びァグノタンパク質に 対するィムノブロッテイングを行った結果を示す図面に代わる写真である。図 2の横方 向は、 JCウィルス感染からの経過日数(dpi:days post infection)を示し、図 2の上段は VP— 1を示し、下段はァグノタンパク質を示す。
[図 3]図 3は、 2回目の siRNAの導入(ウィルス接種から 6日後)から 48時間後での、
それぞれの siRNA導入細胞における JCウィルスのァグノタンパク質、 VP—1、及び S V40ラージ T抗原の発現量を、ィムノブロッテイングを行った結果を示す図面に代わ る写真である。図 3の横方向は導入した siRNAを示し、縦方向はタンパク質の種類を 示す。下段のァクチンは、陽性コントロールである。
[図 4]図 4は、ラミン AZC (LaminA/C)特異的 siRNA、または、 60pmolZゥエルもしく は 120pmolZゥエルの Ag 122siRNAを導入し: feJCウィルス感染細胞での、ラミン A /C (LaminA/C)、 LT、 VP— 1、ァグノタンパク質、及びァクチンのそれぞれのタンパ ク質に対するィムノブロッテイングを行った結果を示す図面に代わる写真である。図 4 の横方向は、導入した siRNAを示し ( Ag 122の左側は 60pmolZゥエルの場合を示 し、右側は 120pmolZゥエルの場合を示す。)、縦方向は各タンパク質の種類を示す 。下段のァクチンは陽性コントロールである。
[図 5]図 5は、ァグノタンパク質又は VP— 1陽性である細胞の割合を間接蛍光抗体免 疫染色により測定した結果を示すグラフである。図 5の左側はァグノタンパク質の場 合であり、右側は VP— 1の場合を示す。各グラフの縦軸は、それぞれのタンパク質の 陽性を示した細胞の、スクランブル siRNAが導入された細胞に対する割合(% of sc )を示し、各グラフの左側の黒抜き部分はスクランブル siRNAを導入した場合を示し 、その右側の灰色部分は Ag 122が導入された場合を示し、その右側の灰色部分は VP274が導入された場合を示し、右側の白抜き部分は Agl22及び VP274の両者 が導入された場合を示す。各データは少なくとも 3回の独立した試験での平均値士 標準偏差である。図 5のグラフ中の * *印は、 P< 0. 02 (スチューデントの t検定)で 有意差があることを示す。
[図 6]図 6は、 Agl22若しくは VP274、又はその両方の siRNAが導入された細胞で のァグノタンパク質及び VP— 1のそれぞれの発現の阻害を、ィムノブロッテイングした 結果を示す図面に代わる写真である。図 6の横方向は導入した siRNAを示し、縦方 向はタンパク質を示す。ァクチンは陽性コントロールである。
[図 7]図 7は、 Agl22若しくは VP274、又はその両方の siRNAが導入された細胞で のァグノタンパク質及び VP— 1のそれぞれの発現の阻害を、ィムノブロッテイングした 結果のァグノタンパク質と VP— 1のシグナルをイメージアナライザーにより定量化して
、スクランブル siRNAが導入された細胞での値に対する割合(%)をグラフ化したもの である。図 7の左側はァグノタンパク質の場合であり、右側は VP— 1の場合を示す。 各グラフの縦軸は、それぞれのタンパク質の陽性を示した細胞の、スクランブル siRN Aが導入された細胞に対する割合(% of sc)を示し、各グラフの左側の黒抜き部分は スクランブル siRNAを導入した場合を示し、その右側の斜線部分は Agl22が導入さ れた場合を示し、その右側の灰色部分は VP274が導入された場合を示し、右側の 白抜き部分は Ag 122及び VP274の両者が導入された場合を示す。
[図 8]図 8は、 JCウィルス感染細胞に各 siRNAsを導入して、 12時間及び 24時間経 過後の JCウィルス感染細胞力 全 RNAを抽出し、ァグノタンパク質及び VP— 1の m RNAに対する定量的 RT— PCR解析を行った結果を示すグラフである。図 8の左側 はァグノタンパク質の 12時間及び 24時間後の場合であり、右側は VP— 1の 12時間 及び 24時間後の場合を示す。各グラフの縦軸は、それぞれのタンパク質の mRNA の量の、スクランブル siRNAが導入された細胞に対する割合(% of sc)を示し、各グ ラフの左側の黒抜き部分はスクランブル siRNAを導入した場合を示し、その右側の 斜線部分は Ag 122が導入された場合を示し、その右側の灰色部分は VP274が導 入された場合を示し、右側の白抜き部分は Agl22及び VP274の両者が導入された 場合を示す。図 8中の *印は P< 0. 05で、 * *印は P< 0. 02で有意差があることを 示す。
[図 9]図 9は、 JCウィルス感染細胞にそれぞれの siRNAを導入した 36時間後の JCゥ ィルス感染細胞カゝら調製した抽出物について赤血球凝固活性 (HA)を分析した結 果をグラフ化したものである。図 9の縦軸は細胞抽出物 25 Lあたりの赤血球凝固活 性力価(HA titer/25 μ L)を示し、グラフの左側の黒抜き部分はスクランブル siRNA を導入した場合を示し、その右側の斜線部分は Ag 122が導入された場合を示し、そ の右側の灰色部分は VP274が導入された場合を示し、右側の白抜き部分は Ag 12 2及び VP274の両者が導入された場合を示す。図 9中の * *印は P< 0. 02で有意 差があることを示す。
発明を実施するための最良の形態
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によ
り何ら限定されるものではない。
実施例 1
[0035] siRNAの構築
以下に示す各センス鎖及びアンチセンス鎖となる RNAを 2'— ACE— RNA合成法 (2し acetoxyethoxy- methyl ether RNA synthesis)により合成し、それぞれのセンス鎖 及びアンチセンス鎖から目的の siRNAを合成した。
Agl22 : センス鎖 5'- -GGUGAAGACAGUGUAGACG- -dTdG- -3' アンチセンス鎖 5'- -CGUCUACACUGUCUUCACC- -dTdG- -3'
Agl47 : センス鎖 5'- -AAAGACAGAGACACAGUGG- dTdT- 3'
アンチセンス鎖 5'- -CCACUGUGUCUCUGUCUUU- -dTdT- -3'
VP274 : センス鎖 5'- -UGAGGAUCUAACCUGUGGA- -dTdT- -3' アンチセンス鎖 5'- -UCCACAGGUUAGAUCCUCA- dTdT- -3'
VP691 : センス鎖 5'- -UACUGCCACAACAGUGCUG- -dTdT- -3' アンチセンス鎖 5'- -CAGCACUGUUGUGGCAGUA- -dTdT- -3'
LT78 : センス鎖 5'- -UUCCUGUCAUGAGAAAAGC- - dTdG- -3' アンチセンス鎖 5'- -GCUUUUCUCAUGACAGGAA- - dTdG- -3'
LT134 : センス鎖 5'- -GGUGGGGACGAAGACAAGA- -dTdT- -3'
アンチセンス鎖 5'- -UCUUGUCUUCGUCCCCACC- -dTdT- -3' 実施例 2
[0036] JCウィルス感染後の JCウィルスタンパク質の発現に対するィムノブロッテイング
SVG— A(SV40形質転換ヒト胎児グリア)細胞に、 JCウィルス (Mad- 1/SVE Δ 株、赤血球凝集活性が細胞 3 X 105個あたり 1024単位)を接種した。
感染直後、感染 2日後、 3日後、 4日後に JCウィルス後期タンパク質としてァグノタン パク質及び VP— 1を、抗ァグノタンパク質抗体又は抗 VP— 1抗体を用いたィムノブ ロッテイングを行った。
結果を図 2に示す。
実施例 3
[0037] JCウィルス感染細胞への各種 siRNAの導入による JCウィルスのタンパク質の発現
に対するィムノブロッテイング
実施例 1で製造した各種の siRNAを JCウィルス感染細胞へ導入した。導入 2日後( ウィルス接種から 6日後)、再度同じ siRNAを導入し、 2回目の siRNAの導入から 48 時間後に、それぞれの siRNA導入細胞における JCウィルスのァグノタンパク質、 VP 1、及び SV40ラージ T抗原の発現量を、それぞれの特異的な抗体を用いてィムノ ブロッテイングを行った。対照として、スクランブル配列を持つ siRNA (ダーマコン社) を導入した細胞を用いた。
結果を図 3に示す。
実施例 4
[0038] Agl22siRNAによるタンパク質の発現の抑制
ラミン AZC (LaminA/C)特異的 siRNA (ダーマコン社)(60pmolZゥエル)、及び A gl22を 60pmolZゥエル又は 120pmolZゥエルの Agl22siRNAを JCウィルス感染 細胞へ導入した。それぞれの siRNAの導入カゝら 48時間後に、それぞれの siRNA導 入細胞における JCウィルスのァグノタンパク質、 VP—1、及び SV40ラージ T抗原の 発現量を、それぞれの特異的な抗体を用いてィムノブロッテイングを行った。対照( Cont)として、細胞に形質導入試薬のみを導入したものを用いた。
結果を図 4に示す。
実施例 5
[0039] JCウィルス感染細胞における Agl22及び VP274の間接蛍光抗体免疫染色
実施例 2と同様にして、 Agl22 (120pmolZゥエル)、 VP274 (120pmolZゥエル)、 並びに Agl22及び VP274 (それぞれ 60pmolZゥエル)を JCウィルス感染細胞へ導 入した。 siRNAの導入力 48時間後に、それぞれの siRNAが導入され^ JCウィル ス感染細胞をメタノールで固定し、当該細胞を VP— 1又はァグノタンパク質の抗体で 処理し、次にアレクサフルオル 488 (Alexa Fluor 488)の結合した抗ゥサギ二次抗体( モレキュラープローブ社)で処理した。 VP— 1又はァグノタンパク質に陽性である細 胞は共焦点レーザー顕微鏡 (ォリンパス社)で可視化され、 6フィールドで計測した。 結果を図 5にグラフで示す。
実施例 6
[0040] Ag 122若しくは VP274、又はその両方の siRNAが導入され^ JCウィルス感染細 胞でのァグノタンパク質及び VP— 1のそれぞれの発現に対するィムノブロッテイング 実施例 2と同様にして、 Agl22 (120pmolZゥエル)、 VP274 (120pmolZゥエル)、 並びに Agl22及び VP274 (それぞれ 60pmolZゥエル)を JCウィルス感染細胞へ導 入した。 siRNAの導入力 48時間後に、それぞれの siRNAが導入され^ JCウィル ス感染細胞での、 VP— 1、ァグノタンパク質およびァクチンの発現に対するィムノブ口 ッティングを行った。
結果を図 6に示す。
[0041] また、ァグノタンパク質と VP— 1のシグナルをイメージアナライザ一により定量化し、 スクランブル siRNAが導入された細胞での値に対する割合(%)をグラフ化して図 7 に示す。
実施例 7
[0042] JCウィルスの mRNAの発現量に対する Agl22及び VP274の効果試験
Agl22 (120pmolZゥエル)、 VP274 (120pmolZゥエル)、並びに Agl22及び VP 274 (それぞれ 60pmolZゥエル)を JCウィルス感染細胞へ導入した。それぞれの siR NAを導入して 12時間後、 24時間後の細胞から全 RNAを抽出し、 DNaselで処理 をした後、スーパースクリプトファーストストランド合成システム (インビトロジェン社)で 逆転写して、 GeneAmp5700 (アプライドバイオシステムズ社)を用いて、リアルタイ ム RT—PCRを行った。それぞれのウィルスにおける mRNAの量は、同じサンプル中 の 13—ァクチンの mRNAの量により規格した。データは、スクランブル siRNA (コント ロール)が導入され^ JCウィルス感染細胞での標準化された値に対する割合 (%)と して表わした。
この結果を図 8にグラフ化して示す。
実施例 8
[0043] siRNAが導入され^ JCウィルス感染 SVG— A細胞での JCウィルスの赤血球凝集 活性
Agl22 (120pmolZゥエル)、 VP274 (120pmolZゥエル)、並びに Agl22及び VP 274 (それぞれ 60pmolZゥエル)を JCウィルス感染細胞へ導入した。それぞれの siR
NAを導入して 36時間後に細胞を回収し、 ImMトリス— HC1, 0. 2%BSA(pH7. 5 )で細胞を溶解し、 0. 05U/mlノイラミニダーゼで 37°Cでー晚処理して、 56°Cで 30 分で不活化した後に、遠心分離を行い、上清をウィルス抽出液として用いた。このよう にして得られたウィルス抽出液 25 μ Lを用いてへマグルチネーシヨンアツセィ法によ りウィルス抽出液の赤血球凝集活性を測定した。
結果を図 9にグラフィヒして示す。
産業上の利用可能性
[0044] 本発明は、有効な治療方法が開発されていない JCウィルスに起因する進行性多巣 '性白質月 症 (progressive multifocal leukoencephalopathy: PML)や痴呆症などの疾 患に有効な医薬糸且成物、及びその有効成分となるポリヌクレオチドを提供するもので あり、疾患の治療薬や、 JCウィルスの増殖抑制剤として産業上、極めて有用なもので ある。
配列表フリーテキスト
[0045] 配列番号 1: VP— 1をコードする DNAの塩基配列
配列番号 2: VP— 1のアミノ酸配列
配列番号 3:ァグノタンパク質及び VP— 1をコードする後期 mRNAの塩基配列 配列番号 4: VP274siRNAのセンス鎖の塩基配列
5'-UGAGGAUCUAACCUGUGGA-dTdT-3'