明細書 胚性幹細胞に遺伝子を導入する方法 技術分野
本発明は、 胚性幹細胞に遺伝子を導入する方法に関する。 また本発明は、 外来 遺伝子が導入された胚性幹細胞の製造方法に関する。 また本発明は、 胚性幹細胞 への遺伝子導入に用いるウイルスべクターに関する。 背景技術
胚性幹細胞 (以下、 ES細胞ともいう) とは、 多分化能と自己複製能を有する未 分化細胞である。 また、 ES細胞は損傷後の組織修復力を有することが示唆されて いる。 このため、 ES細胞は、 各種疾患の治療用物質のスクリーニング、 再生医療 分野において有用であるとして、 さかんに研究されている。 特にサル由来の ES細 胞は、 マウスの ES細胞に比べてよりヒトに近縁であるため、 ヒ トの疾患のモデル に利用するにあたって好適であり、 期待されている。
将来、 ES細胞をさまざまな疾患治療おょぴ損傷治療に応用していくには、 ES細 胞の遺伝子操作がきわめて重要になる。 ES細胞への遺伝子導入は、 例えば生体内 への移植後の細胞の追跡調査、 in vitro, in vivoにおける細胞の分化制御、 細胞 治療法における欠失形質の補充等、 基礎生物学的な検討から再生治療への応用研 究に対し非常に有用な技術となる。 ES細胞の増殖能または分化能などの細胞特十生 または薬剤感受性などを変更するためには、 ES細胞への遺伝子導入が必要になる ことが多い。 細胞への遺伝子導入のためには、 レトロウイルスベクターがよく用 いられている。 し力 し、 遺伝子導入に従来広く用いられているモロ-一マウス白 血病ウィルス (MoMLV) に由来するレトロウイルスベクターは、 マウス ES細胞への 遺伝子導入効率は低い上 (数%程度) 、 その遺伝子発現は時間経過とともに減弱
する。 最近、 マウス幹細胞ウィルス (MSCV) 由来のレトロウイルスベクターを用 いてマウス ES細胞への遺伝子導入効率の改善が図られたが (50%以上) 、 遺伝子 発現が時間経過とともに減弱する問題は解決されていない (Cherry, S. R. et al . Mol. Cell Biol. 20 : 7419, 2000) 。 最近、 ゲノムに組み込まれるもう一つのべ クタ一であるレンチウィルスベクターを用いると、 マウス ES細胞にさらに効率よ く (80%以上) 遺伝子導入できることが示された (Hamaguchi, I. et al. J. Vir ol. 74: 10778, 2000) 。 し力 し、 この報告では導入遺伝子発現の観察期間は数日 から 2週間程度と短く、 導入遺伝子の長期発現についての記載はない。 また、 マ ゥス以外の ES細胞への効率的な遺伝子導入方法の開発も、 未だ確立されていない 。 例えば、 霊長類 ES細胞への遺伝子導入はマウス ES細胞への遺伝子導入に比べて さらに困難であると指摘されており、 霊長類 ES細胞への遺伝子導入効率は、 たと えば MoMLVベクターでは 1%前後、 MSCVベクターでは、 5〜10%前後と言われている (IMSUT Symposium for Stem Cell Biology, Tokyo, Japan 2000; Key Stone Sym poia, Pluripotent Stem Cells : Biology and Applications, Durango, Colorado , USA, 2001) 。 最近、 VSV-Gでシユードタイプ化したサル免疫不全ウィルスが、 サル ES細胞に対して効率的に遺伝子を導入できることが報告されている (TO02/10 1057 ; Asano, T. et al. , Mol, Ther, 6 (2) : 162-8, 2002) 。 しカ し、 ゲノムに糸且 み込まれるタイプのウィルスべクターは、 挿入の際にゲノム上の遺伝子の破壌ま たは活性化、 および相同組み換えによる複製能を持ったウィルスの生成の危険が 伴う。 また、 一度組み込まれたウィルスゲノムを染色体から除去するのは困難で ある。 発明の開示
本発明は、 哺乳動物 ES細胞に遺伝子を導入する方法を提供することを課題とす る。 また本発明は、 外来遺伝子が導入された哺乳動物 ES細胞の製造方法を提供す ることを課題とする。 さらに本発明は、 哺乳動物 ES細胞への遺伝子導入のための
ウィルスベクターを提供することを課題とする
ES細胞へ長期間安定して外来遺伝子を発現させる方 を開発するため、 本発明 者らはサル ES細胞に対して種々の条件でベクターの導入を行い、 導入遺伝子の発 現を測定した。 その結果、 パラミクソウィルスベクターが、 ES細胞に対して非常 に高い遺伝子導入効率を示すことを見いだした。 驚くべきことに、 導入された遺 伝子の発現は 370日以上継代した後でも持続していた。 また、 ベクタ一を導入する ことによって、 ES細胞の未分ィヒ状態が有意に影響されることはなく、 未分化のま ま培養することが可能であった。 さらに、 ベクターを導入した ES細胞は多分化能 を保持しており、 分化誘導により軟骨、 上皮細胞、 腺 田胞、 神経細胞、 およぴ造 血細胞などへ分化することができた。 パラミクソウイ,レスべクタ一は、 ES細胞へ の遺伝子導入のためのベクターとして好適に用いられる。
ES細胞を指向した遺伝子治療は、 様々な遺伝子疾患 tこ対する治療の可能性を持 つているが、 これまで ES細胞への安全で効率的な遺伝子導入方法が確立されてい ないことが大きな制約となっていた。 パラミクソウイ レスベクターは宿主ゲノム に組み込まれない点で安全性が高く、 パラミクソウイ レスベクターで遺伝子を導 入した場合に、 ウィルス除去薬剤で細胞からウィルスベクターを除去することも 可能である。 実施例に示すように、 パラミクソウィルスベクターは、 非常に単純 な手順で、 ES細胞に外来遺伝子を発現させることができ、 さらに導入した遺伝子 は長期間安定に発現が持続し、 分ィ匕した組織において 発現が検出された。 本発 明により、 ES細胞への効率的な遺伝子送達が可能となり、 様々な遺伝子疾患に対 する治療法および治療薬開発への適用が期待される。
本発明は、 ES細胞に遺伝子を導入する方法に関し、 より具体的には、
( 1 ) 胚性幹細胞に遺伝子を導入する方法であって、 言亥遺伝子を保持するパラミ クソウィルスベクターと胚性幹細胞とを接触させる工程を含む方法、
( 2 ) パラミクソウィルスベクターがセンダイウィルスべクターである、 ( 1 )
に記載の方法、
(3) 胚性幹細胞が霊長類胚性幹細胞である、 (1) に記載の方法、
(4) 外来遺伝子が導入された胚性幹細胞の製造方法であって、 該遺伝子を保持 するパラミクソウィルスベクターと胚性幹細胞とを接触させる工程を含む方法、 (5) ノ、。ラミクソウィルスベクターがセンダイウィルスベクターである、 (4) に記載の方法、
(6) 胚性幹細胞が霊長類胚性幹細胞である、 (4) に記載の方法、
(7) (4) に記載の方法により製造された、 外来遺伝子が導入された胚性幹細 胞、
(8) (7) に記載の胚性幹細胞を増殖および/または分ィ匕させた細胞、
(9) 胚性幹細胞への遺伝子送達のために用いる、 パラミクソウィルスベクター
(10) パラミクソウィルスベクターがセンダイウィルスベクターである、 (9 ) に記載のベクター、
(1 1) 胚性幹細胞が霊長類胚性幹細胞である、 (9) に記載のベクター、 に関 する。 本発明は、 パラミクソウィルスべクターを用いる ES細胞への遺伝子導入方法を 提供する。 この方法は、 導入したい遺伝子を保持するパラミクソウィルスベクタ 一を、 哺乳動物 ES細胞に接触させる工程を含む方法である。 本発明者等は、 パラ ミクソウィルスベクターが高い効率で ES細胞へ遺伝子を導入できることを見出し た。 ES細胞は再生医学において様々な細胞および,組織を作り出すために重要であ り、 本発明の方法は ES細胞への所望の遺伝子の導入に好適に用いられ得る。 遺伝 子導入は培養液、 生理食塩水、 血液、 体液など所望の生理的水溶液中で行うこと ができる。
単純な手順により高い効率で遺伝子導入が達成できることは、 ES細胞への遺伝
子送達の重要な優位性の 1つである。 例えばレトロウイルスおよびレンチウイノレ スを介した遺伝子送達は、 最適な遺伝子送達のためには遠心でヴィルスを濃縮す る必要があるが、 遠心操作はしばしばウィルスの力価を低下さ i rる。 また、 高い 効率で感染させるには毒性のある薬剤であるポリプレンを必要とする場合がある (Bunnell, B. A. et al. , Proc. Natl. Acad. Sci. U S A, 1995 , 92 : 7739-7743 ; Chuck, A. S. , Hum. Gene Ther. , 1996, 7: 743-750; Chinnasa,my, D. et al. , Blood 2000, 96: 1309—1316 ; Fehse, B. et al. , Br. J. Haema ol. , 1998, 102: 566-574) 。 一方でパラミクソウィルスべクター溶液は特別な襄剤に助けられる ことなく、 単に添加するだけでより優れた遺伝子送達を達成す 2>ことができた。 さらに、 ES細胞へのセンダイウィルスベクター (SeV) を介する最適な遺伝子送達 は、 非常に短い暴露で行うことができた。 臨床場面を考えると、 パラミクソウイ ルスベクターを介した遺伝子送達のこれらの特徴は、 ES細胞の ex vivoおよび in v ivoでの遺伝的改変を単純化し、 操作に依存した細胞生存性の喪失および分化状態 への影響を最小化し得るものである。
M0I (ES細胞 1つあたりの感染ウィルス数) は 1〜500で ES細胞とベクターとを接 触させることが好ましく、 より好ましくは 2〜300、 さらに好ましくは 3〜200、 さ らに好ましくは 10〜100 (例えば 10〜50、 または 10〜20) である ベクターと ES細 胞との接触は例えば 1分〜 24時間、 より特定すれば 3分〜 2時間、 より特定すれば 5 分〜 1時間である。 さらに短い時間でも十分な感染効率を得ることが可能であり、 例えば;!〜 45分程度、 より特定すれば 5分〜 30分程度であってよ!/ もちろん、 そ れ以上の時間接触させてもよく、 例えば数日間またはそれ以上接触させてもよい 。 例えば、 M0I 10 (1つの ES細胞あたり 10 transduction units <Τϋ) のベクター ) で未分化 ES細胞にパラミクソウィルスベクターを感染させた湯合、 ES細胞への 遺伝子導入率は、 例えば約 20%またはそれ以上、 約 25%または れ以上、 あるい は約 30%またはそれ以上である。 また例えば、 M0I 50で未分化 ES細胞にパラミク ソウィルスベクターを感染させた場合、 ES細胞への遺伝子導入寧は、 例えば約 40
%またはそれ以上、 約 45%またはそれ以上、 あるいは約 50%またはそれ以上であ る。 本発明の方法の特徴の 1つは、 ES細胞へ遺伝子を導入した後、 長期間にわた つて導入遺伝子の発現が持続することである。 本発明の方法により、 ベクターを E S細胞に感染させてから 10日間以上、 例えば 20日間以上、 30日以上、 90日以上、 18 0日以上、 200日以上、 250日以上、 300日以上、 350日以上、 さらに 1年以上にわた つて、 遺伝子導入した ES細胞の例えば 30%またはそれ以上、 好ましくは 40%また はそれ以上、 より好ましくは 50%またはそれ以上、 より好ましくは 60%またはそ れ以上、 より好ましくは 70%またはそれ以上、 より好ましくは 80%またはそれ以 上、 より好ましくは 90%またはそれ以上で導入遺伝子の発現を検出することがで きる。
導入遺伝子の発現は、 例えば抗ウィルス薬の添加により停止させることが可能 である。 抗ウィルス薬としては、 パラミクソウィルスの増殖を阻害する所望の薬 剤と利用できるが、 プリンヌクレオシドアナログ (プリン骨格をもつ核酸アナ口 グ) などの R A依存' I"生 RNAポリメラーゼ阻害剤を好適に利用することができる。 パ ラミクソウィルスベクターの除去に効果的なプリンヌクレオシドアナログとして は、 特にリノ ビリン (Ribavirin ; 1_ β - D - ribofuranosyl-lH-l, 2, 4_tri_azole - 3- carboxaraide, C8H12N405) が挙げられる。 リバビリンを用いる場合は、 高濃度条件 で使用することで、 それより低濃度で用いるよりも細胞毒性を低下させることが できる場合がある。 好ましくは 50〜1500 /i g/ml、 より好ましくは 100〜1200 g/ ml、 より好ましくは 200〜: 1000 /i g/ml程度の濃度で用いられる。 リバビリンは、 インターフェロン a _2b等のィンターフェロンと併用してもよい。
ES細胞とは、 多分化能 (pluripotency) を持つ樹立細胞株のことである。 ES細 胞の多分化能は、 例えば免疫不全動物にその細胞を移植後、 テラトーマが形成さ れることにより同定することができる。 ES細胞をより具体的に特定すれば、 胚盤 胞腔中に注入した時に、 その胚が発生した個体中の生殖細胞を含む細胞に分ィ匕で きる細胞である。 ES細胞は例えば線維芽細胞をフィーダー細胞として用い、 白血
球増殖抑制因子 [LIF、 分化阻害因子 (DIF) とも表記される] などの添加により 分化を抑制して無限に培養することができる。 本発明において遺伝子導入の標的 とする ES細胞としてはその由来に制限はないが、 げっ歯類および霊長類 ES細胞が 好適な対象である。
高等霊長類は、 以下の 2グループに大別される:
( 1 ) 新世界霊長類 (New World Primates)
マーモセット (Callithrix jacchus) が広く知られ、 実験用霊長類の一つとし て用いられている。 新世界霊長類の発生は、 胚および胎盤の構造が旧世界霊長類 のものと異なる面もあるが、 基本的には類似する。
( 2 ) 旧世界霊長頼 (Old World Primates)
旧世界霊長類はヒ トに極めて近縁な霊長類である。 ァカゲザル (Macaca mulatt a) および力二クイザノレ (Macaca fascicularis) が知られている。 二ホンザノレ (M acaca fuscata) は力二クイザルと同じ属 (マ力カ属) である。 旧世界霊長類の胚 発生は、 ヒ トの発生に酷似する。
本発明に用いられる 「サル」 とは、 霊長類、 具体的には、 新世界霊長類及び旧 世界霊長類をいう。 本発明のベタターによる遺伝子導入の対象となるサル由来の E S細胞としては、 例えばマーモセット ES細胞 (Thomson, J. A. et al., Biol. Rep rod. 55, 254-259, (1996) ) 、 ァカゲザル ES細胞 (Thomson, J. A. et al. , Proc . Natl. Acad. Sci. U. S. A. 92, 7844-7848, (1995) ) 、 力二クイザル ES細胞な どが挙げられる。 旧世界霊長類は、 ヒ トに極めて近縁な霊長類であり、 かつヒ ト の発生に類似しているので、 ヒトに近い疾患モデルおょぴ種々の疾患治療剤のス クリーニング系として利用されることが期待される。 したがって、 本発明のベタ ターの導入対象としては、 旧世界霊長類が特に望ましく、 特に二ホンザル、 ァカ ゲザル、 力-クイザルなどのマカカ属のサル由来の ES細胞が好ましい。
霊長類からの ES細胞の調製は、 公知の方法に記載の方法に従ってまたは準じて 行うことができる。 例えば、 胚盤胞期胚を発生させ、 ここから ES細胞を得ること
ができる 〔例えば、 W096/22362参照〕 。 具体的には、 例えば胚盤胞期 Bより得ら れる内部細胞塊をフィーダ一細胞上、 好ましくは LIF存在下で培養する ことにより ES細胞を樹立することができる。 また、 W002/101057の記載に従ってナル ES細胞を 調製することもできる。
フィーダー細胞としては、 妊娠 12日〜 16日目のマウス胎児の線維芽 田胞の初代 培養細胞、 マウスの胎児線維芽細胞株である ST0細胞などをマイトマイ シン Cまた は X線処理して得られた細胞などが挙げられる。 このようなマウス由 のフィーダ 一細胞は、 大量に調製できる点で実験などに有利である。 フィーダ一 田胞の作製 は、 例えば、 後述の実施例に記載の方法などにより行なうことができる。 フィー ダー細胞は、 例えば MEM培地 (Minimum Essential Medium Eagle) を いて、 ゼラ チンコートした培養容器に播種する。 フィーダ一細胞は、 培養容器を :間無く覆 う程度まで播種すればよい。 内部細胞塊は、 フィーダ一細胞が播種された培養容 器中の MEM培地を ES細胞培養用の培地 (W002/101057) に交換したフィーダ一細胞 上に播種する。
本発明においてパラミクソウィルスベクターとは、 パラミクソウイ Zレスをべ一 スとする感染力を持つウィルス粒子であって、 遺伝子を細胞に導入するための担 体である。 ここで 「感染力」 とは、 パラミクソウィルスベクターが細 包への接着 能を保持しており、 接着した細胞の内部にベクターに含まれる遺伝子 導入する ことのできる能力のことを言う。 好ましい態様では、 本発明のパラミ汐ソウィル スベクターは、 ベクターのゲノム RNA中に外来遺伝子が発現できるよ に組み込ま れている。 本発明のパラミクソウィルスベクターは、 複製能を有してレ、てもよく 、 複製能を有さない欠損型ベクターであってもよい。 「複製能を有する」 とは、 ウィルスベクタ一が宿主細胞に感染した場合、 該細胞においてウィルスが複製さ れ、 感染性ゥィルス粒子が産生されることを指す。
組み換えウィルスとは、 組み換えポリヌクレオチドを介して生成しプこウィルス 、 またはそのウィルスの増幅産物を言う。 組み換えポリヌクレオチド は、 その
両端が自然の状態と同じようには配置されていないポリヌクレオチドを言う。 具 体的には、 組み換えポリヌクレオチドは、 人の手によってポリヌクレオチド鎖の 結合が改変 (切断および/または結合) されたポリヌクレオチドである。 組み換え ポリヌクレオチドは、 ポリヌクレオチド合成、 ヌクレアーゼ処理、 リガーゼ処理 等を組み合わせて、 公知の遺伝子組み換え方法により生成させることができる。 組み換えゥィルスは、 遺伝子操作により構築されたウィルスゲノムをコードする ポリヌクレオチドを発現させ、 ウイルスを再構築することによつて生成すること 力できる (Molecular Cloning : A Laboratory Manual (2000) 3rd ed. , Sambrook , J. and DW Russel, Cold Spring Harbor Laboratory Press) 。 例えば、 糸且換免 パラミクソウィルスは、 cDNAから再構成して生成することができる (Y. Nagai, A . Kato, Microbiol. Immunol. , 43, 613—624 (1999) ) 。
本発明において遺伝子とは遺伝物質を指し、 転写単位をコードする核酸を言う 。 遺伝子は RNAであっても DNAであってもよい。 本発明において蛋白質をコードす る核酸は、 該蛋白質の遺伝子と呼ぶ。 また遺伝子は蛋白質をコードしていなくて もよく、 例えば遺伝子はリボザィムまたはアンチセンス RNAなどの機能的 RNAをコ 一ドするものであってもよい。 遺伝子は天然由来または人為的に設計された配列 であり得る。 また、 本発明において 「DNA」 とは、 一本鎖 DNAおよび二本鎖 DNAを含 む。 また蛋白質をコードするとは、 ポリヌクレオチドが該蛋白質を適当な条件下 で発現できるように、 該蛋白質のアミノ酸配列をコードする 0RFをセンスまたはァ ンチセンスに含むことを言う。
本発明においてパラミクソウィルスとはパラミクソウィルス科 (Paramyxovirid ae) に属するウィルスまたはその誘導体を指す。 パラミクソウィルスは、 非分節 型ネガティブ鎖 RNAをゲノムに持つウィルスのグループの 1つで、 パラミクソウイ ノレス亜科 (Paramyxovirinae) (レスピロウイノレス属 (パラミクソウィルス属とも 言う) 、ルブラウィルス属、 およびモービリウィルス属を含む) およびニューモ ウイノレス亜科 (Pneumovirinae) (ニューモウイノレス属およびメタニューモウイノレ
ス属を含む) ウィルスを含む。 本発明を適用可能なパラミクソウィルスとしては
、 具体的にはセンダイウイノレス(Sendai virus) , ニューカッスル病ウィルス(Newc astle disease virus)、 おたふく力ぜゥイノレス (Mumps virus) N 麻珍ウイノレス (Mea sles virusノ、 RSヮイノレス (Respiratory syncytial virus)、 千 ヮづノレス (rinder pest virus)、 ジステンパーウィルス (distemper virus)、 サルパラインフノレエン ザウィルス (SV5) 、 ヒトパラインフルエンザウイルス 1, 2, 3型等が挙げられる 。 本発明のウィルスは、 好ましくはパラミクソウィルス亜科に属するウィルスま たはその誘導体であり、 より好ましくはレスピロウィルス属 (genus Respiroviru s) に属するウィルスまたはその誘導体である。 本発明を適用可能なレスピロウイ ルス属ウィルスとしては、 例えばヒトパラインフルエンザウイルス 1型 (HPIV- 1 ) 、 ヒ トパラインフルエンザウイルス 3型 (HPIV- 3) 、 ゥシパラインフルエンザ ウィルス 3型 (BPIV-3) 、 センダイウィルス(Sendai virus ; マウスパラインフノレ ェンザウィルス 1型とも呼ばれる)、 およびサルパラインフルェンザウィルス 10型 (SPIV - 10) などが含まれる。 本発明においてパラミクソウィルスは、 最も好まし くはセンダイウィルスである。 これらのウィルスは、 天然株、 野生株、 変異株、 ラボ継代株、 および人為的に構築された株などに由来してもよい。
パラミクソウィルスベクターはゲノム RNAに搭載遺伝子をアンチセンスにコード している。 ゲノム RNAとは、 パラミクソウィルスのウィルス蛋白質と共に RNPを形 成し、 該蛋白質によりゲノム中の遺伝子が発現し、 この RNAが複製されて娘 RNPが 形成される機能を持つ RNAである。 一般にパラミクソウィルスのゲノムは、 3'リー ダー領域と 5, トレイラ一領域の間に、 ウィルス遺伝子がアンチセンスとして並ん だ構成をしている。 各遺伝子の 0RFの間には、 転写終結配列 (E配列) -介在配列(I 配列) -転写開始配列 (S配列) が存在し、 これにより各遺伝子の 0RFをコードする RNAが別々のシストロンとして転写される。
パラミクソウィルスのウィルスタンパク質をコードする遺伝子としては、 NP、 P 、 M、 F、 HN (または H)、 および L遺伝子が含まれる。 「NP、 P、 M、 F、 HN、 および L
遺伝子」 とは、 それぞれヌクレオキヤプシド、 ホスホ、 マトリックス、 フュージ ヨン、 へマグルチニン -ノイラミニダーゼ、 およびラージ蛋白質をコードする遺伝 子のことを指す。 パラミクソウィルス亜科に属する各ウィルスにおける各遺伝子 は、 一般に次のように表記される。 一般に、 NP遺伝子は 「N遺伝子」 と表記される こともある。 またノィラミニダーゼ活性を持たないへマダルチュンは 「HJ と表記 される。
レスピロウィルス属 NP P/C/V M F HN - L
ルブラウィルス属 NP P/V M F HN (SH) L
モービリ ウィルス属 NP P/C/V M F H - L
例えばセンダイウィルスの各遺伝子の塩基配列のデータベースのァクセッショ ン番号は、 NP遺伝子については M29343、 M30202, M30203, M30204, M51331, M555 65, M69046, X17218, P遺伝子については M30202, M30203, M30204, M55565, M69 046, X00583, X17007, X17008, M遺伝子については D11446, K02742, M30202, M3 0203, M30204, M69046, U31956, X00584, X53056、 F遺伝子については D00152, D 11446, D17334, D17335, M30202, M30203, M30204, M69046, X00152, X02131、 HN 遺伝子については D26475, M12397, M30202, M30203, M30204, M69046, X00586, X02808, X56131、 L遺伝子については D00053, M30202, M30203, M30204, M69040, X00587, X58886を参照のこと。
これらのウィルス蛋白質をコードする 0RFおよび外来遺伝子の 0RFは、 ゲノム R A において上記の E - I-S配列を介してアンチセンスに配置される。 ゲノム RNAにおい て最も 3'に近い 0RFは、 3'リーダー領域と該 0RFとの間に S配列のみが必要であり、 Eおよび I配列は必要ない。 またゲノム RNAにおいて最も 5'に近い 0RFは、 5' トレイ ラー領域と該 0RFとの間に E配列のみが必要であり、 Iおよび S配列は必要ない。 ま た 2つの 0RFは、 例えば IRES等の配列を用いて同一シストロンとして転写させるこ とも可能である。 このような場合は、 これら 2つの 0RFの間には E - I-S配列は必要な レ、。 野生型のパラミクソウィルスの場合、 典型的な RNAゲノムは、 3' リーダー領域
に続き、 N、 P、 M、 F、 HN、 および L蛋白質をアンチセンスにコードする 6つの ORF が順に並んでおり、 それに続いて 5' トレイラ一領域を他端に有する。 本発明のゲ ノム RNAにおいては、 ウィルス遺伝子の配置はこれに限定されるものではないが、 好ましくは、 野生型ウィルスと同様に、 3,リーダー領域に続き、 N、 P、 M、 F、 HN 、 および L蛋白質をコードする ORFが順に並び、 それに続いて 5' トレイラ一領域が 配置されることが好ましい。 ある種のパラミクソウィルスにおいては、 ウィルス 遺伝子が異なっているが、 そのような場合でも上記と同様に各ウィルス遺伝子を 野生型と同様の配置とすることが好ましい。 一般に N、 P、 および L遺伝子を保持 しているベクターは、 細胞内で自律的に RNAゲノム上の遺伝子が発現し、 ゲノム R Aが複製される。 さらに Fおよび H遺伝子等のエンベロープ蛋白質をコードする遺 伝子、 およひ¾遺伝子の働きにより、 感染性のウィルス粒子が形成され、 細胞外に 放出される。 従って、 このようなベクターは複製能を有するウィルスベクターと なる。 ES細胞に導入したい外来遺伝子は、 後述するように、 このゲノム中の蛋白 質非コード領域に挿入すればよい。
また、 本発明のパラミクソウィルスベクターは、 野生型パラミクソウィルスが 持つ遺伝子のいずれかを欠損したものであってよい。 例えば、 M、 F、 または HN遺 伝子、 あるいはそれらの組み合わせが含まれていないパラミクソウィルスベクタ 一も、 本発明のパラミクソウィルスベクターとして好適に用いることができる。 このようなウィルスベクターの再構成は、 例えば、 欠損している遺伝子産物を外 来的に供給することにより行うことができる。 このようにして製造されたウィル スベクターは、 野生型ウィルスと同様に宿主細胞に接着して細胞融合を起こすが
、 細胞に導入されたベクターゲノムはウィルス遺伝子に欠損を有するため、 最初 と同じような感染力を持つ娘ウィルス粒子は形成されない。 このため、 一回限り の遺伝子導入力を持つ安全なウィルスベクターとして有用である。 ゲノムから欠 損させる遺伝子としては、 例えば F遺伝子および/または HN遺伝子が挙げられる。 例えば、 F遺伝子が欠損した組み換えパラミクソウィルスベクターゲノムを発現す
るプラスミ ドを、 F蛋白質の発現ベクターならびに NP、 P、 および L蛋白質の発現べ クタ一と共に宿主細胞にトランスフエクションすることにより、 ウィルスベクタ 一の再構成を行うことができる (W000/70055 および WOOO/70070 ; Li, H. - 0. et al. , J. Virol. 74 (14) 6564-6569 (2000) ) 。 また、 例えば、 F遺伝子が染色体に 組み込まれた宿主細胞を用いてウィルスを製造することもできる。 これらの蛋白 質群は、 そのアミノ酸配列はウィルス由来の配列そのままでなくとも、 核酸の導 入における活·生が天然型のそれと同等かそれ以上ならば、 変異を導入したり、 あ るいは他のウィルスの相同遺伝子で代用してもよい。 ゲノムには、 ウィルス RNAの 複製に必要な遺伝子群 (N, P, および L) が含まれているため、 細胞内においてゲ ノム RNAは増幅され、 細胞が分裂しても娘細胞にウィルス R Aが伝達される。 これ により ES細胞での持続的な発現が可能となる。
また、 本発明のウィルスベクターとして、 ベクターゲノムが由来するウィルス のエンベロープ蛋白質とは異なる蛋白質をエンベロープに含むベクターを作製す ることもできる。 例えば、 ウィルス再構成の際に、 ベクターのベースとなるウイ ルスのゲノムがコードするエンベロープ蛋白質以外のエンベロープ蛋白質を細胞 で発現させることにより、 所望のエンベロープ蛋白質を有するウィルスベクター を製造することができる。 このような蛋白質に特に制限はない。 例えば、 他のゥ ィルスのエンベロープ蛋白質、 例えば水疱性口内炎ウィルス (Vesicular stomati tis virus ; VSV) の G蛋白質 (VSV- G) を挙げることができる。 VSV- G蛋白質は、 任 意の VSV株に由来するものであってよい。 例えば Indiana血清型株 (J. Virology 39: 519-528 (1981) ) 由来の VSV-G蛋白を用いることができるが、 これに限定され ない。 また本発明のベクターは、 他のウィルス由来のエンベロープ蛋白質を任意 に組み合わせて含むことができる。 例えば、 このような蛋白質として、 ヒト細胞 に感染するウィルスに由来するエンベロープ蛋白質が好適である。 このような蛋 白質としては、 特に制限はないが、 レトロウイルスのアンフォト口ピックェンべ ロープ蛋白質などが挙げられる。 レトロウイルスのアンフォトロピックェンベロ
ープ蛋白質としては、 例えばマウス白血病ウィルス (MuLV) 4070A株由来のェンべ ロープ蛋白質を用い得る。 また、 MuMLV 10A1由来のエンベロープ蛋白質を用いる こともできる (例えば pCL - lOAl (Imgenex) (Naviaux, R. K. et al. , J. Virol. 7 0: 5701-5705 (1996) ) 。 また、 ヘルぺスウイ Λ 科の蛋白質としては、 例えば単 純へルぺスウィルスの gB、 gD、 gH、 gP85蛋白質、 EBウィルスの gp350、 gP220蛋白 質などが挙げられる。 へパドナウィルス科の蛋白質としては、 B型肝炎ウィルスの S蛋白質などが挙げられる。 このように本発明のウィルスベクターには、 VSV- G蛋 白質などのように、 ゲノムが由来するウィルス以外のウィルスに由来するェンべ ロープ蛋白質を含むシユードタイプウィルスベクターが含まれる。 ウィルスのゲ ノム RNAにはこれらのェンベロープ蛋白質をゲノムにコードされないように設計す れば、 ウィルス粒子が細胞に感染した後は、 ウィルスベクターからこの蛋白質が 発現されることはない。
また、 本発明のウィルスベクターは、 例えば、 エンベロープ表面に特定の細胞 に接着しうるような接着因子、 リガンド、 受容体等の蛋白質、 抗体またはその断 片、 あるいはこれらの蛋白質を細胞外領域に有し、 ウィルスエンベロープ由来の ポリぺプチドを細胞内領域に有するキメラ蛋白質などを含むものであってもよい 。 これにより、 ベクターの ES細胞への特異性を制御し得る。 これらはウィルスゲ ノムにコードされていてもよいし、 ウィルスベクターの再構成時に、 ウィルスゲ ノム以外の遺伝子 (例えば別の発現ベクターまたは宿主染色体上などにある遺伝 子) の発現により供給されてもよい。
また本発明のベクターは、 例えばウィルス蛋白質による免疫原性を低下させる ために、 または RNAの転写効率または複製効率を高めるために、 ベクターに含まれ る任意のウィルス遺伝子が野生型遺伝子から改変されていてよレ、。 具体的には、 例えばパラミクソウィルスベクターにおいては、 複製因子である N、 P、 および lit 伝子の中の少なくとも一つを改変し、 転写または複製の機能を高めることが考え られる。 また、 エンベロープ蛋白質の 1つである HN蛋白質は、 赤血球凝集素であ
るへマグノレチニン (hemagglutinin) 活十生とノィラミニダーゼ (neuraminidase) 活性との両者の活性を有するが、 例えば前者の活性を弱めることができれば、 血 液中でのウィルスの安定性を向上させることが可能であろうし、 例えば後者の活 性を改変することにより、 感染能を調節することも可能である。 また、 F蛋白質を 改変することにより膜融合能を調節することもできる。 また、 例えば、 細胞表面 の抗原分子となりうる F蛋白質および/または HN蛋白質の抗原提示ェピトープ等を 解析し、 これを利用してこれらの蛋白質に関する抗原提示能を弱めたウィルスべ クタ一を作製することもできる。
また本発明のベクターにおいては、 アクセサリー遺伝子が欠損したものであつ てよい。 例えば SeVのアクセサリー遺伝子の 1つである V遺伝子をノックアウトす ることにより、 培養細胞における遺伝子発現おょぴ複製は障害されることなく、 マウス等の宿主に対する SeVの病原性が顕著に減少する (Kato, A. et al. , 1997, J. Virol. 71 : 7266-7272; Kato, A. et al. , 1997, EMBO J. 16 : 578-587 ; Curra n, J. et al. , W001/04272, EP1067179) 。 このような弱毒化ベクターは、 毒性の 低い遺伝子導入用ウィルスベクターとして特に有用である。
パラミクソウィルスは遺伝子導入ベクターとして優れており、 宿主細胞の細胞 質でのみ転写 ·複製を行い、 DNAフェーズを持たないため染色体への組み込み (in tegration) は起こらなレヽ (Lamb, R. A. and Kolakofsky, D. , Paramyxoviridae: The viruses and their replication. In : Fields BN, Knipe DM, Howley PM, (e ds) . Fields of virology. Vol. 2. Lippincott - Raven Publishers : Philadelp hia, 1996, pp. 1177-1204) 。 このため染色体異常による癌化および不死化など の安全面における問題が生じない。 パラミクソウィルスのこの特徴は、 ベクター 化した時の安全性に大きく寄与している。 異種遺伝子発現の結果では、 例えばセ ンダイウィルス (SeV) を連続多代継代しても殆ど塩基の変異が認められず、 ゲノ ムの安定性が高く、 挿入異種遺伝子を長期間に渡って安定に発現する事が示され ている (Yu, D. et al. , Genes Cells 2, 457-466 (1997) ) 。 また、 力プシド構
造蛋白質を持たないことによる導入遺伝子のサイズまたはパッケージングの柔軟 性 (flexibility) など性質上のメリットがある。 このように、 パラミクソウィル スベクターは、 ヒトの遺伝子治療のための高効率ベクターの新しいクラスとなる ことが示唆される。 複製能を有する SeVベクターは、 外来遺伝子を少なくとも 4kb まで導入可能であり、 転写ユニットを付加することによって 2種類以上の遺伝子 を同時に発現する事も可能である。
また野生型センダイウイルスは、 齧歯類にとっては病原性で肺炎を生じること が知られているが、 人に対しては病原性が認められない。 これはまた、 野生型セ ンダイウィルスの経鼻的投与によって非ヒト霊長類において重篤な有害作用を示 さないというこれまでの報告によっても支持されている (Hurwitz, J. L. et al. , Vaccine 15: 533-540, 1997) 。 センダイウィルスのこれらの特徴は、 センダイ ウィルスベクターが、 ヒトの治療へ応用できることを示唆し、 センダイウィルス ベクターが、 ヒトを含む霊長類 ES細胞を標的とした遺伝子治療の有望な選択肢の 一つとなることを結論づけるものである。
本発明のウィルスベクターは、 ゲノム R A中に外来遺伝子をコードし得る。 外来 遺伝子を含む組換えパラミクソウィルスベクターは、 上記のパラミクソウィルス ベクターゲノムに外来遺伝子を挿入することによって得られる。 外来遺伝子とし ては、 標的とする ES細胞において発現させたい所望の遺伝子を用いることができ る。 外来遺伝子は天然型蛋白質をコードする遺伝子であってもよく、 あるいは欠 失、 置換または揷入により天然型蛋白質を改変した蛋白質をコードする遺伝子で あってもよい。 外来遺伝子の揷入位置は、 例えばウィルスゲノムの蛋白質非コー ド領域の所望の部位を選択することができ、 例えばゲノム RNAの 3'リーダー領域と 3'端に最も近いウィルス蛋白質 0RFとの間、 各ウィルス蛋白質 0RFの間、 およひ 7ま たは 5'端に最も近いウィルス蛋白質 0RFと 5' トレイラ一領域の間に挿入することが できる。 また、 Fまたは HN遺伝子などを欠失するゲノムでは、 その欠失領域に外来 遺伝子をコードする核酸を挿入することができる。 パラミクソウィルスに外来遺
伝子を導入する場合は、 ゲノムへの挿入断片のポリヌクレオチドの鎖長が6の倍数 となるように揷入することが望ましい (Journal of Virology, Vol. 67, No. 8, 4822-4830, 1993) 。 挿入した外来遺伝子とウィルス ORFとの間には、 E - 1 - S配列が 構成されるようにする。 E-I-S配列を介して 2またはそれ以上の遺伝子をタンデム に並べて挿入することができる。
ベクターに搭載する外来遺伝子の発現レベルは、 その遺伝子の上流 (ネガティ ブ鎖の 3'側) に付加する転写開始配列の種類により調節することができる (W001/ 18223) 。 また、 ゲノム上の外来遺伝子の挿入位置によって制御することができ、 ネガティブ鎖の 3,の近くに揷入するほど発現レベルが高く、 5,の近くに揷入する ほど発現レベルが低くなる。 このように、 外来遺伝子の挿入位置は、 該遺伝子の 所望の発現量を得るために、 また前後のウィルス蛋白質をコードする遺伝子との 組み合わせが最適となる様に適宜調節することができる。 一般に、 外来遺伝子の 高い発現が得られることが有利と考えられるため、 外来遺伝子は、 効率の高い転 写開始配列に連結し、 ネガティブ鎖ゲノムの 3'端近くに挿入することが好ましい 。 具体的には、 3'リーダー領域と 3'に最も近いウィルス蛋白質 0RFとの間に挿入さ れる。 あるいは、 3'に一番近いウィルス遺伝子と 2番目の遺伝子の 0RFの間に揷入 してもよい。 野生型パラミクソウィルスにおいては、 ゲノムの 3,に最も近いウイ ルス蛋白質遺伝子は N遺伝子であり、 2番目の遺伝子は P遺伝子である。 逆に、 導入 遺伝子の高発現が望ましくない場合は、 例えばべクタ一における外来遺伝子の挿 入位置をネガティブ鎖のなるべく 5'側に設定したり、 転写開始配列を効率の低い ものにするなどして、 ゥィルスべクターからの発現レベルを低く抑えることで適 切な効果が得られるようにすることも可能である。
本発明のベクターを製造するには、 哺乳動物細胞において、 パラミクソウィル スの成分である RNPの再構成に必要なウィルス蛋白質、 すなわち N、 P、 および L蛋 白質の存在下、 ノ ラミクソウィルスのゲノム R Aをコードする cDNAを転写させる。 転写によりネガティブ鎖ゲノム (すなわちウィルスゲノムと同じアンチセンス鎖
) を生成させてもよく、 あるいはポジティブ鎖 (ウィルス蛋白質をコードするセ ンス鎖) を生成させても、 ウィルス RNPを再構成することができる。 ベクターの再 構成効率を高めるには、 好ましくはポジティブ鎖を生成させる。 RNA末端は、 天然 のウィルスゲノムと同様に 3'リーダー配列と 5, トレイラ一配列の末端をなるベく 正確に反映させることが好ましい。 転写産物の 5'端を正確に制御するためには、 例えば転写開始部位として T7 RNAポリメラーゼ認識配列を利用し、 該 RNAポリメラ ーゼを細胞内で発現させればよい。 転写産物の 3'端を制御するには、 例えば転写 産物の 3,端に自己切断型リポザィムをコードさせておき、 このリボザィムにより 正確に 3'端が切り出されるようにすることができる (Hasan, M. K. et al. , J. G en. Virol. 78: 2813 - 2820, 1997、 Kato, A. et al. , 1997, EMBO J. 16 : 578 - 58 7及ぴ Yu, D. et al. , 1997, Genes Cells 2: 457-466) 。
例えば外来遺伝子を有する組み換えセンダイウィルスベクターは、 Hasan, M. K . et al. , J. Gen. Virol. 78: 2813-2820, 1997、 Kato, A. et al. , 1997, EMBO J. 16: 578-587及び Yu, D. et al., 1997, Genes Cells 2: 457- 466の記载等 に準じて、 次のようにして構築することができる。
まず、 目的の外来遺伝子の cDNA塩基配列を含む DNA試料を用意する。 DNA試科は 、 25ng/ / l以上の濃度で電気泳動的に単一のプラスミドと確認できることが好ま しい。 以下、 Notl部位を利用してウィルスゲノム RNAをコードする DNAに外来遺伝 子を挿入する場合を例にとって説明する。 目的とする cDNA塩基配列の中に Notl認 識部位が含まれる場合は、 部位特異的変異導入法などを用いて、 コードするアミ ノ酸配列を変化させないように塩基配列を改変し、 Notl部位を予め除去しておく ことが好ましい。 この試料から目的の遺伝子断片を PCRにより増幅し回収する。 2 つのプライマーの 5'部分に Notl部位を付加しておくことにより、 増幅された断片 の両端を Notl部位とする。 ウィルスゲノム上に挿入された後の外来遺伝子の 0RFと その両側のウィルス遺伝子の 0RFとの間に E-I-S配列が配置されるように、 プライ マー中に E- 1- S配列を含めるように設計する。
例えば、 フォワード側合成 DNA配列は、 Notlによる切断を保証するために 5'側 に任意の 2以上のヌクレオチド (好ましくは GCGおよび GCCなどの Notl認識部位由 来の配列が含まれない 4塩基、 更に好ましくは ACTT) を選択し、 その 3'側に Notl 認識部位 gcggccgcを付加し、 さらにその 3'側にスぺーサー配列として任意の 9塩 基または 9に 6の倍数を加えた数の塩基を付加し、 さらにその 3'側に所望の cDNA の開始コドン ATGからこれを含めて 0RFの約 25塩基相当の配列を付加した形態とす る。 最後の塩基は Gまたは Cとなるように該所望の cDNAから約 25塩基を選択してフ ォヮード側合成オリゴ DNAの 3'の末端とすることが好ましい。
リパース側合成 DNA配列は 5'側から任意の 2以上のヌクレオチド (好ましくは GC Gおよび GCCなどの Notl認識部位由来の配列が含まれない 4塩基、 更に好ましくは A CTT) を選択し、 その 3'側に Notl認識部位 gcggccgcを付カ卩し、 さらにその 3'側に長 さを調節するための挿入断片のォリゴ DNAを付加する。 このオリゴ DNAの長さは、 最終的な PCR増幅産物の Notl断片の鎖長が 6の倍数になるように塩基数を設計する (いわゆる 「6のルール (rule of six) 」 ; Kolakofski, D. et al. , J. Virol. 72 : 891-899, 1998 ; Calain, P. and Roux, L. , J. Virol. 67 : 4822—4830, 1993 ; Calain, P. and Roux, L. , J. Virol. 67 : 4822-4830, 1993) 。 このプライマー に E- 1- S配列を付加する場合には、 挿入断片のオリゴ DNAの 3'側にセンダイウイル スの S配列、 I配列、 およひ Έ配列の相補鎖配列、 好ましくはそれぞれ 5' -CTTTCACC CT - 3, (配列番号: 1 ) 、 5,- MG-3'、 および 5' - TTTTTCTTACTACGG- 3, (配列番号 : 2 ) を付加し、 さらにその 3'側に所望の cDNA配列の終始コドンから逆に数えて 約 25塩基相当の相補鎖の最後の塩基が Gまたは Cになるように長さを選択して配列 を付カ卩し、 リバース側合成 DNAの 3,の末端とする。
PCRは、 Taqポリメラーゼまたはその他の DNAポリメラーゼを用いる通常の方法を 用いることができる。 増幅した目的断片は Notlで消化した後、 pBluescript等のプ ラスミドベクターの Notl部位に揷入する。 得られた PCR産物の塩基配列をシークェ ンサ一で確認し、 正しい配列のプラスミドを選択する。 このプラスミドから挿入
断片を Notlで切り出し、 ゲノム cDNAを含むプラスミドの Notl部位にクローエング する。 またプラスミ ドベクターを介さずにゲノム cDNAの Notl部位に直接挿入し、 組み換えセンダイウィルス cDNAを得ることも可能である。
例えば、 組み換えセンダイウィルスゲノム cDNAであれば、 文献記載の方法に準 じて構築することができる (Yu, D. et al. , Genes Cells 2 : 457-466, 1997 ; Ha san, M. K. et al. , J. Gen. Virol. 78: 2813-2820, 1997) 。 例えば、 Notl制限 部位を有する 18bpのスぺーサー配列 (5' - (G) _CGGCCGCAGATCTTCACG- 3,) (配列番 号: 3 ) を、 クローニングされたセンダイウィルスゲノム cDNA (pSeV (+) ) のリー ダー配列と N蛋白質の 0RFとの間に挿入し、 デルタ肝炎ウィルスのアンチゲノム鎖 (antigenomic strand) 由来の自己開裂リボザィム部位を含むプラスミ ド pSeV18+ b (+)を得る (Hasan, M. K. et al. , 1997, J. General Virology 78 : 2813—2820 ) 。 pSeV18+b (+)の Notl部位に外来遺伝子断片を揷入し、 所望の外来遺伝子が組み 込まれた,祖み換えセンダイウィルス cDNAを得ることができる。
このようにして作製した組み換えパラミクソウィルスのゲノム RNAをコードする DNAを、 上記のウィルス蛋白質 (L、 P、 および N) 存在下で細胞内で転写させるこ とにより、 本発明のベクターを再構成することができる。 本発明は、 本発明のベ クタ一の製造のための、 本発明のベクターのウィルスゲノム RNAをコードする DNA を提供する。 また本発明は、 本発明のベクターの製造に適用するための、 該べク ターのゲノム RNAをコードする DNAの使用に関する。 組み換えウィルスの再構成は 公知の方法を利用して行うことができる (W097/16539 ; W097/16538 ; Durbin, A. P. et al. , 1997, Virology 235 : 323-332; Whelan, S. P. et al. , 1995, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92: 8388 - 8392 ; Schnell. M. J. et al., 1994, EMB0 J. 13: 4195-4203; Radecke, F. et al. , 1995, EMB0 J. 14: 5773—5784 ; Lawson, N. D. et al. , Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92: 4477-4481; Garcin, D. et al. , 1995, EMB0 J. 14: 6087 - 6094 ; Kato, A. et al. , 1996, Genes Cells 1: 569— 579; Baron, M. D. and Barrett, T. , 1997, J. Virol. 71: 1265-1271; Bridgen
, A. and Elliott, R. M., 1996, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93: 15400-15404 ) 。 これらの方法により、 パラインフルエンザ、 水疱性口内炎ウィルス、 狂犬病 ウィルス、 麻疹ウィルス、 リンダーぺストウィルス、 センダイウィルスなどを含 むマイナス鎖 RNAウィルスを DNAから再構成させることができる。 これらの方法に 準じて、 本発明のベクターを再構成させることができる。 ウィルスベクター DNAに おいて、 F遺伝子、 HN遺伝子、 および/または M遺伝子を欠失させた場合には、 その ままでは感染性のウィルス粒子を形成しないが、 宿主細胞に、 これら欠失させた 遺伝子および/または他のウィルスのエンベロープ蛋白質をコ一ドする遺伝子など を別途、 細胞に導入し発現させることにより、 感染性のウィルス粒子を形成させ ることが可能である。
具体的な手順は、 (a ) パラミクソウィルスゲノム RNA (ネガティブ鎖 RNA) ま たはその相補鎖 (ポジティブ鎖) をコードする cDNAを、 N、 P、 および L蛋白質を発 現する細胞で転写させる工程、 ( b ) 生成したパラミクソウィルスを含む培養上 清を回収する工程、 により製造することができる。 転写のために、 ゲノム RNAをコ ードする DNAは適当なプロモーターの下流に連結される。 転写されたゲノム RNAは N、 L、 および P蛋白質の存在下で複製され RNP複合体を形成する。 そして M、 HN、 およぴ F蛋白質の存在下でェンべ口ープに包まれたゥィルス粒子が形成される。 ゲ ノム RNAをコードする DNAは、 例えば T7プロモーターの下流に連結させ、 T7 RNA ポ リメラーゼにより腿に転写させる。 プロモーターとしては、 T7ポリメラーゼの認 識配列を含むもの以外にも所望のプロモーターを利用することができる。 あるい は、 インビトロで転写させた RNAを細胞にトランスフエクトしてもよい。
DNAからのゲノム RNAの最初の転写に必要な T7 RNAポリメラーゼ等の酵素は、 こ れを発現するプラスミドまたはウィルスベクターの導入によって供給することが できるし、 または、 例えば細胞の染色体に RNAポリメラーゼ遺伝子を、 発現を誘導 できるように組み込んでおき、 ウィルス再構成時に発現を誘導することにより供 給することもできる。 またゲノム RNA、 およびベクター再構成に必要なウィルス蛋
白質は、 例えばこれらを発現するプラスミ ドの導入によって供給する。 これらの ウィルス蛋白質の供給において、 野生型またはある種の変異パラミクソウィルス などのヘルパーゥィルスを用いることもできるが、 これらのウイルスの混入を招 くため好ましくない。
ゲノム RNAを発現する DNAを細胞内に導入する方法には、 例えば次のような方法 、 ①目的の細胞が取り込めるような DNA沈殿物を作る方法、 ②目的の細胞による取 りこみに適し、 かつ細胞毒性の少ない陽電荷特性を持つ DNAを含む複合体を作る方 法、 ③目的の細胞膜に、 DNA分子が通り抜けられるだけに十分な穴を電気パルスに よって瞬間的に開ける方法などがある。
②としては、 種々のトランスフエクシヨン試薬が利用できる。 例えば、 D0TMA ( Roche) 、 Superfect (QIAGEN #301305) 、 D0TAP、 DOPE, DOSPER (Roche #1811169 ) などが挙げられる。 ①としては例えばリン酸カルシウムを用いたトランスフエ クション法が挙げられ、 この方法によって細胞内に入った DNAは貧食小胞に取り込 まれるが、 核内にも十分な量の DNAが入ることが知られている (Graham, F. し an d Van Der Eb, J. , 1973, Virology 52: 456; Wigler, M. and Si lverstein, S., 1977, Cell 11: 223) 。 Chenおよび Okayamaはトランスファー技術の最適化を検 討し、 1) 細胞と共沈殿物のインキュベーション条件を 2〜4% C02 、 35 、 15〜 24時間、 2) DNAは直鎖状より環状のものが活性が高く、 3) 沈殿混液中の DM濃度 カ 20〜30 /z g/mlのとき最適な沈殿が得られると報告している (Chen, C. and Oka yama, H., 1987, Mol. Cell. Biol. 7: 2745) 。 ②の方法は、 一過的なトランス フエクシヨンに適している。 古くは DEAE-デキストラン (Sigma #D - 9885 M. W. 5 X 105 ) 混液を所望の DNA濃度比で調製し、 トランスフ クシヨンを行う方法が知ら れている。 複合体の多くはエンドソームの中で分解されてしまうため、 効果を高 めるためにクロ口キンを加えることもできる (Calos, M. P. , 1983, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 80: 3015) 。 ③の方法は電気穿孔法と呼ばれる方法で、 細胞選 択性がないという点で①または②の方法に比べて汎用性が高い。 効率はパルス電
流の持続時間、 パルスの形、 電界 (電極間のギャップ、 電圧) の強さ、 バッファ 一の導電率、 DNA濃度、 細胞密度の最適条件下で良いとされている。
以上、 3つのカテゴリーの中で②の方法は操作が簡便で多量の細胞を用いて多 数の検体を検討することができるので、 ベクター再構成のための DNAの細胞への導 入には、 トランスフエクシヨン試薬が適している。 好適には Superfect Transfec tion Ragent (QIAGEN, Cat No. 301305) 、 または DOSPER Liposomal Transfecti on Reagent (Roche, Cat No. 1811169) が用いられるが、 これらに制限されない cDNAからのウィルスの再構成は具体的には例えば以下のようにして行うことが できる。
24穴から 6穴程度のプラスチックプレートまたは 100mmぺトリ皿等で、 10%ゥシ 胎児血清 (FCS)および抗生物質 (100 units/ml ペニシリン Gおよび 100 μ g/ml スト レプトマイシン) を含む最少必須培地 (MEM)を用いてサル腎臓由来細胞株 LLC-MK2 (ATCC CCL-7) をほぼ 100%コンフルェントになるまで培養し、 例えば 1 /i g/ml p soralen (ソラレン) 存在下、 紫外線 (UV) 照射処理を 20分処理で不活化した、 T7 RNAポリメラーゼを発現する糸且換えワクシニアウィルス vTF7- 3 (Fuerst, T. R. e t al. , Proc. Natl. Acad. Sci. USA 83: 8122—8126, 1986、 Kato, A. et al. , Ge nes Cells 1 : 569-579, 1996) を 2 PFU/細胞で感染させる。 ソラレンの添加量お よび UV照射時間は適宜調整することができる。 感染 1時間後、 2〜60 μ §、 より好ま しくは 3〜20 μ §の組換えセンダイウィルスのゲノム RNAをコードする DNAを、 ウイ ルス NPの生成に必須なトランスに作用するウィルス蛋白質を発現するプラスミ ド (0. 5〜24 gの pGEM- N、 0. 25〜12 gの pGEM- P、 および 0. 5〜24/i gの pGEM- L) (Kat o, A. et al. , Genes Cells 1: 569—579, 1996) と共に Superfect (QIAGEN社) を 用いたリポフエクシヨン法等によりトランスフエクシヨンする。 N、 P、 および Lを コードする発現ベクターの量比は例えば 2: 1 : 2 とすることが好ましく、 プラス ミ ド量は、 例えば l〜4/ gの pGEM - N、 0. 5〜2 gの pGEM- P、 および 1〜4 AJ gの pGEM - L
程度で適宜調整する。
トランスフエクションを行った細胞は、 所望により 100 /i g/mlのリファンピシン (Sigma) 及ぴシトシンァラビノシド (AraC) 、 より好ましくは 40 μ g/mlのシトシ ンァラビノシド (AraC) (Sigma) のみを含む血清不含の MEMで培養し、 ヮクシ- ァウィルスによる細胞毒性を最少にとどめ、 ウィルスの回収率を最大にするよう に薬剤の最適濃度を設定する (Kato, A. et al. , 1996, Genes Cells 1 : 569-579 ) 。 トランスフヱクシヨンから 48〜72時間程度培養後、 細胞を回収し、 凍結融角军 を 3回繰り返して細胞を破碎した後、 RNPを含む破碎物を LLC- MK2細胞に再度トラ ンスフエクシヨンして培養する。 または、 培養上清を回収し、 LLC- MK2細胞の培養 液に添; ¾口して感染させ培養する。 トランスフエクシヨンは、 例えばリボフェク ト ァミンまたはポリ力チォニックリボソームなどと共に複合体を形成させて細胞に 導入することが可能である。 具体的には、 種々のトランスフエクシヨン試薬が利 用できる。 例えば、 DOTMA (Roche) 、 Superfect (QIAGEN #301305) 、 D0TAP、 DOP E、 DOSPER (Roche #1811169) などが挙げられる。 エンドソーム中での分解を防ぐ ため、 クロ口キンを力 Πえることもできる (Calos, M. P. , 1983, Proc. Natl. Aca d. Sci. USA 80: 3015) 。 RNPが導入された細胞では、 RNPからのウィルス遺伝子 の発現および RNPの複製の過程が進行しべクターが増幅する。 得られたウィルス溶 液 (培養上清) を適宜希釈して再増幅を繰り返すことにより、 ワクシニアウイノレ ス vTF7 - 3は完全に除去することができる。 再増幅は、 例えば 3回以上繰り返す。 得られたベクターは - 80°Cで保存することができる。 エンベロープ蛋白質をコード する遺伝子を欠損した複製能を持たないウィルスベクターを再構成させるには、 エンベロープ蛋白質を発現する LLC-MK2細胞をトランスフエクシヨンに使用するか 、 またはエンベロープ発現プラスミドを共にトランスフエクシヨンすればよレ、。 また、 トランスフエクションを行った細胞にエンベロープ蛋白質を発現する LLC - M K2細胞を重層して培養することによって欠損型ウィルスベクターを増幅すること もできる (国際公開番号 W000/70055 および W000/70070参照) 。
回収されたウィルスの力価は、 例えば CIU (Cell-Infected Unit) 測定または赤 血球凝集活性 (HA)の測定することにより決定することができる (WO00/70O70; Kat o, A. et al. , 1996, Genes Cells 1: 569-579; Yonemitsu, Y. & Kaneda, Y. , H emaggulutinating virus of Japan- 1 i po s ome-raed i at ed gene delivery to vascul ar cells. Ed. by Baker AH. Molecular Biology of Vascular Diseases. Method in Molecular Medicine : Humana Press: pp. 295—306, 1999) 。 また、 GFP (緑 色蛍光蛋白質) などのマーカー遺伝子を搭載したベクターについては、 マーカー を指標に直接的に感染細胞を力ゥントすることにより力価を定量することができ る (例えば GFP-CIUとして) 。 このようにして測定した力価は、 CIUと同等に扱う ことができる (W000/70070) 。 ウィルスの力価の単位は、 TU (transduction unit ) で表わすこともある。
ゥィルスべクタ一が再構成する限り、 再構成に用いる宿主細胞は特に制限され ない。 例えば、 センダイウィルスベクター等の再構成においては、 サル腎由来の L LC - MK2細胞および CV- 1細胞 (ATCC CCL-70)、 ハムスター腎由来の BHK細胞 (例えば ATCC CCL-10)などの培養細胞、 ヒト由来細胞等を使うことができる。 これらの細 胞に適当なエンベロープ蛋白質を発現させることで、 そのエンベロープを有する 感染性ウィルス粒子を得ることもできる。 また、 大量にセンダイウィルスベクタ 一を得るために、 上記の宿主から得られたウィルスベクターを発育鶏卵に感染さ せ、 該ベクターを増幅することができる。 鶏卵を使ったウィルスベクターの製造 方法は既に開発されている (中西ら編,(1993), 「神経科学研究の先端技術プロト コール III, 分子神経細胞生理学」 , 厚生社, 大阪, pp. 153-172) 。 具体的には、 例えば、 受精卵を培養器に入れ 9〜; 12日間 37〜38°Cで培養し、 胚を成長させる。 ウィルスベクターを尿膜腔へ接種し、 数日間 (例えば 3日間) 卵を培養してウイ ルスベクターを増殖させる。 培養期間等の条件は、 使用する組み換えセンダイゥ ィルスにより変わり得る。 その後、 ウィルスを含んだ尿液を回収する。 尿液から のセンダイウィルスベクターの分離 ·精製は常法に従って行うことができる (田
代眞人, 「ウィルス実験プロトコール」 , 永井、 石浜監修, メジカルビユー社, pp . 68-73, (1995) ) 。
例えば、 F遺伝子を欠失したセンダイウィルスベクターの構築と調製は、 以下の ように行うことができる (W000/70055 および W000/70070参照) 。
<1> F欠失型センダイゥィルスゲノム cDNAおよぴ F発現プラスミドの構築
センダイウィルス (SeV) 全長ゲノム cDNA、 pSeV18+ b (+) (Hasan, M. K. et al ., 1997, J. General Virology 78: 2813-2820) ( 「pSeV18+ b (+)」 は 「pSeV18+ 」 ともいう) の cDNAを Sphl/Kpnlで消化してフラグメント(14673bp)を回収し、 pUC 18にクローニングしてプラスミ ド pUC18/KSとする。 F欠損部位の構築はこの pUC18/ KS上で行う。 F遺伝子の欠損は、 PCR-ライゲーシヨン方法の組み合わせで行い、 結 果として F遺伝子の ORF (ATG-TGA=1698bp) を除いて例えば atgcatgccggcagatga ( 配列番号: 4 ) で連結し、 F欠失型 SeVゲノム cDNA (pSeV18+/ A F) を構築する。 P CRは、 Fの上流には Lforward : 5, - gttgagtactgcaagagc/配列番号: 5 , reverse - 5 -tttgccggcatgcatgtttcccaaggggagagttttgcaacc 酉己列番^": o ] 、 F遺 is子の 流{こ ίま [forward - 5 — atgcatgccggcagatga/ ffii歹 U番号: 7 , reverse ·* ΰ -tgggt gaatgagagaatcagc/配列番号: 8 ] のプライマー対を用いた PCRの産物を EcoT22I で連結する。 このように得られたプラスミ ドを Saclと Sailで消化して、 F欠損部位 を含む領域の断片 (4931bp) を回収して pUC18にクローニングし、 pUC18/dFSSとす る。 この pUC18/dFSSを Dralllで消化して、 断片を回収して pSeV18+の F遺伝子を含 む領域の Dralll断片と置き換え、 ライゲーシヨンしてプラスミド pSeV18+/ を 得る。
外来遺伝子は、 例えば pUC18/dFSSの F欠失部位にある制限酵素 Nsil および Ng oMIV部位に挿入する。 このためには、 例えば外来遺伝子断片を、 Nsil- tailedプ ラィマーおよび NgoMIV- tai ledプラィマーで増幅すればょ ヽ。
<2> SeV- F蛋白を誘導発現するヘルパー細胞の作製
センダイウィルスの F遺伝子 (SeV-F) を発現する Cre/loxP誘導型発現プラスミ
ドの構築は SeV- F遺伝子を PCRで増幅し、 Cre DNAリコンビナーゼにより遺伝子産物 が誘導発現されるように設計されたプラスミド pCALNdlw (Arai, T. et al. , J. V irology 72, 1998, plll5- 1121) のユニークサイト Swal部位に挿入し、 プラスミ ド pCALNdLw/Fを構築する。
F欠損ゲノムから感染ウィルス粒子を回収するため、 SeV_F蛋白を発現するヘル パー細胞株を樹立する。 細胞は、 例えば SeVの増殖によく用いられているサル腎臓 由来細胞株 LLC- MK2細胞を用いることができる。 LLC - MK2細胞は、 10%の熱処理し た不動化ゥシ胎児血清 (FBS)、 ぺ -シリン Gナトリウム 50単位/ ml、 およぴストレ プトマイシン 50 μ §/ιη1を添加した MEMで 37°C、 5% C02で培養する。 SeV- F遺伝子 産物は細胞傷害性を有するため、 Cre DNAリコンピナーゼにより F遺伝子産物を誘 導発現されるように設計された上記プラスミ ド pCALNdLw/Fを、 リン酸カルシゥム 法 (mammalian transfection kit (Stratagene) ) により、 周知のプロトコールに 従って LLC- MK2細胞に遺伝子導入を行う。
10cmプレートを用い、 40%コンフルェントまで生育した LLC-MK2細胞に lO /z gの プラスミ ド pCALNdLw/Fを導入後、 10mlの 10% FBSを含む MEM培地にて、 37°Cの 5 %C 02 インキュベータ一中で 24時間培養する。 24時間後に細胞をはがし、 10ml培地に 懸濁後、 10cmシャーレ 5枚を用い、 5ml 1枚、 2ml 2枚、 0. 2ml 2枚に蒔き、 G418 ( GIBC0-BRL)を 1200 μ g/mlを含む 10mlの 10°/。FBSを含む MEM培地にて培養を行い、 2日 毎に培地交換しながら、 14日間培養し、 遺伝子の安定導入株の選択を行う。 該培 地により生育してきた G418に耐性を示す細胞はクローニングリングを用いて回収 する。 回収した各クローンは 10cmプレートでコンフルェントになるまで拡大培養 を続ける。
F蛋白質の発現誘導は、 細胞を 6cmシャーレにてコンフルェントまで生育させた 後、 アデノウイルス AxCANCreを斉藤らの方法 (Saito et al. , Nucl. Acids Res. 23: 3816-3821 (1995) ; Arai, T. et al. , J. Virol 72, 1115 - 1121 (1998) ) によ り例えば moi=3 で感染させて行う。
く 3> F欠失 SeVウィルスの再構築及び増幅
上記 pSeV18+/ A F の外来遺伝子が挿入されたプラスミ ドを以下のようにして LL C - MK2細胞にトランスフエクシヨンする。 LLC-MK2細胞を 5 X 106 cells/dish で 100 讓のシャーレに播く。 T7 RNAポリメラーゼによりゲノム RNAの転写を行わせる場合 には、 細胞培養 24時間後、 ソラレン (psoralen) と長波長紫外線 (365nm) で 20 分間処理した T7 RNAポリメラーゼを発現するリコンビナントワクシニアウィルス (PLWUV-VacT7 : Fuerst, T. R. et al. , Proc. Natl. Acad. Sci. USA 83, 8122—8 126 (1986) ) を MOI 2程度で室温で 1時間感染させる。 ワクシニアウィルスへの紫 外線照射には、 例えば 15ヮットバルブを 5本が装備された UV Stratal inker 2400 (カタログ番号 400676 (100V) , ストラタジーン社, La Jolla, CA, USA) を用い ることができる。 細胞を無血清の MEMで洗浄した後、 ゲノム RNAを発現するプラス ミ ド、 およびパラミクソウィルスのそれぞれ N、 P、 L、 F、 およひ ΉΝ蛋白質を発現 する発現プラスミドを、 適当なリポフエクシヨン試薬を用いてこの細胞にトラン スフエタトする。 プラスミ ドの量比は、 これに限定されないが、 好適には順に 6 : 2 : 1 : 2 : 2 : 2 とすることができる。 例えば、 ゲノム R Aを発現するプラスミ ド 、 並びに N、 P、 L、 および Fプラス HN蛋白質を発現する発現プラスミ ド (pGEM/NP , pGEM/P, pGEM/L及び pGEM/F - HN; WOOO/70070, Kato, A. et al. , Genes Cells 1 , 569-579 (1996) ) を、 それぞれ 12 /z g, 4 /i g, 2 μ g, 4 μ g及び 4 μ g/dishの量比 トランスフエタトする。 数時間培養後、 血清を含まない MEMで細胞を 2回洗浄し、 40 μ g/mLc Cytosine β -D-arabinofuranoside (AraC: Sigma, St. Louis, MO) 及び 7. 5 jU g/mLの Trypsin (Gibco- BRL, Rockville, MD) を含む MEMで培養する。 こ れらの細胞を回収し、 ペレットを OptiMEM に懸濁する (107 cells/ml) 。 凍結融 角军を 3回繰り返して lipofection reagent DOSPER (Boehringer mannheim)と混合 し (106cells/25 l DOSPER) 室温で 15分放置した後、 上記でクロー-ングした F 発現へノレパー細胞にトランスフエクシヨン (106cells /well 12- well- plate) し 、 血清を含まな 、MEM (40 μ g/ml AraC, 7. 5 μ g/ml トリプシンを含む)で培養し、
上清を回収する。 F以外の遺伝子、 例えば HNまたは M遺伝子を欠損したウィルスも 、 これと同様の方法で調製することができる。
ウィルス遺伝子欠損型ベクターを調製する場合、 例えば、 ベクターに含まれる ウィルスゲノム上で欠損しているウィルス遺伝子が異なる 2種またはそれ以上の ベクターを同じ細胞に導入すれば、 それぞれで欠損するウィルス蛋白質が、 他の ベクターからの発現により供給されるため、 互いに相補しあって感染力のあるゥ ィルス粒子が形成され、 複製サイクルがまわりウィルスベクターが増幅される。 すなわち、 2種またはそれ以上の本発明のベクターを、 ウィルス蛋白質を相補す る組み合わせで接種すれば、 それぞれのウィルス遺伝子欠損型ウィルスベクター の混合物を大量かつ低コストで生産することができる。 これらのウィルスは、 ゥ ィルス遺伝子が欠損しているため、 ウィルス遺伝子を欠損していないウィルスに 比べゲノムサイズが小さくなりサイズの大きレヽ外来遗伝子を保持することができ る。 また、 ウィルス遺伝子の欠損により増殖性がないこれらのウィルスは細胞外 で希釈され共感染の維持が困難であることから、 不稔化するため、 環境放出管理 上の利点がある。
本発明のパラミクソウィルスにより導入する外来遺伝子としては、 特に制限は ないが、 天然の蛋白質としては、 例えばホルモン、 サイトカイン、 増殖因子、 受 容体、 細胞内シグナル分子、 酵素、 抗体、 ペプチドなどが挙げられる。 蛋白質は 分泌蛋白質、 膜蛋白質、 細胞質蛋白質、 核蛋白質などであり得る。 人工的な蛋白 質としては、 例えば、 キメラ毒素などの融合蛋白質、 ドミナントネガティブ蛋白 質 (受容体の可溶性分子または膜結合型ドミナントネガティブ受容体を含む) 、 欠失型の細胞接着分子、 細胞表面分子、 および抗体断片などが挙げられる。 また 、 分泌シグナル、 膜局在化シグナル、 または核移行シグナル等を付加した蛋白質 であってもよい。 導入遺伝子としてアンチセンス RNA分子または RNA切断型リボザ ィムあるいは siRNA (small interfering RNA) などを発現させて、 特定の遺伝子 の機能を抑制することもできる。 また、 外来遺伝子としては、 遺伝子の導入効率
または発現安定性等を評価するためのマーカー遺伝子であつてもよい。 マーカ一 遺伝子としては、 例えば、 グリーン蛍光蛋白質 (GFP) 、 β—ガラクトシダーゼ、 ルシフェラーゼなどをコードする遺伝子が挙げられる。
本明細書に記載したウイルス製造方法に従えば、 本発明のウィルスベクターは 、 例えば 1 X 105 CIU/mL以上、 好ましくは I X 106 CIU/mL以上、 より好ましくは 5 X 106 CIU/mL以上、 より好ましくは 1 X 107 CIU/mL以上、 より好ましくは 5 X 107 CIU/mL以上、 より好ましくは 1 X 108 CIU/mL以上、 より好ましくは 5 X 108 CIU/mL 以上の力価でウィルス産生細胞の細胞外液中に放出させることが可能である。 ゥ ィルスの力価は、 本明細書およぴ他に記載の方法により測定することができる (K iyotani, K. et al. , Virology 177 (1) , 65-74 (1990); W000/70070) 。
回収したパラミクソウィルスベクターは実質的に純粋になるよう精製すること ができる。 精製方法はフィルトレーシヨン (濾過) 、 遠心分離、 およびカラム精 製等を含む公知の精製 ·分離方法またはその組み合わせにより行うことができる 。 「実質的に純粋」 とは、 ウィルスベクターが、 それが存在する試料中の成分と して主要な割合を占めることを言う。 典型的には、 実質的に純粋なウィルスべク ターは、 試料中に含まれる全蛋白質 (但しキャリアーまたは安定剤として加えた 蛋白質は除く) のうち、 ウィルスベクター由来の蛋白質の割合が 10%以上、 好まし くは 20%以上、 より好ましくは 50%以上、 好ましくは 70%以上、 より好ましくは 80 %以上、 さらに好ましくは 90%以上を占めることにより確認することができる。 パラミクソウィルスの具体的な精製方法としては、 例えばセルロース硫酸エステ ルまたは架橋ポリサッカライド硫酸エステルを用いる方法 (特公昭 62- 30752号公 報、 特公昭 62-33879号公報、 およぴ特公昭 62- 30753号公報) 、 およびフコース硫 酸含有多糖および/またはその分解物に吸着させる方法 (TO97/32010) 等を例示す ることができる。
ベクターを含む組成物の製造においては、 ベクターは必要に応じて薬理学的に 許容される所望の担体または媒体と組み合わせることができる。 「薬学的に許容
される担体または媒体」 とは、 ベクターと共に投与することが可能であり、 べク ターによる遺伝子導入を有意に阻害しなレ、材料である。 例えばべクタ一を生理食 塩水、 リン酸緩衝生理食塩水 (PBS) 、 または培養液などで適宜希釈して組成物と することができる。 ベタターを鶏卵で増殖させた場合等においては尿液を含んで よい。 またベクターを含む組成物は、 脱イオン水、 5%デキストロース水溶液等の 担体または媒体を含んでいてもよい。 さらに、 その他にも、 植物油、 懸濁剤、 界 面活性剤、 安定剤、 殺生物剤等が含有されていてもよい。 また保存剤およびその 他の添加剤を添加することができる。 本発明のベクターを含む組成物は、 ES細胞 に遺伝子を導入するための試薬として、 さらに ES細胞を標的とする遺伝子治療に 用いる医薬として有用である。
また本発明は、 本発明のべクタ一が導入された ES細胞、 およぴ該細胞の増殖お ょぴ Zまたは分化により生成した細胞に関する。 ES細胞の分ィ匕の誘導は、 例えば サイトカインなどの公知の分化 ·増殖因子、 細胞外マトリクスなどの基質の添カロ 、 他の細胞との共培養、 個体への移入などにより行うことができる (丹羽仁史 「E S細胞の分化運命決定機構」 蛋白質核酸酵素 45 : 2047-2055, 2000; Rathjen, P. D. et al., Reprod. Fertil. Dev. 10: 31 - 47, 1998) 。 また、 テラトーマ (分化 多能性腫瘍) を形成させれば、 様々な分ィヒ細胞および組織を得ることもできる。 テラトーマとは内胚葉、 中胚葉、 およぴ外胚葉の三胚葉由来の細胞または組織を 含む組織塊であり、 例えば ES細胞を免疫不全動物の皮下などに移植して形成させ ることができる。
例えば、 胚体外組織起源の細胞種の分ィ匕誘導は以下のような方法で行うこと力 s できる:
胚体外内胚葉 胚様体 (embryoid body) 形成
栄養外胚葉 Oct- 3/4発現抑制
また、 未分ィ匕細胞起源の細胞種の分化誘導法としては以下のような方法が挙げ られる:
原始外胚葉 胚様体形成
HePG2培養上清
外胚葉起源の細胞種の分化誘導法としては以下のような方法が挙げられる : 神経細胞 胚様体形成 + レチノイン酸処理
胚様体形成 + bFGF
胚様体形成 + レチノイン酸処理 + Sox2陽性細胞の選 別
グリァ細胞 胚様体形成 + レチノィン酸処理
胚様体形成 + bFGF
上皮細胞 胚様体形成
神経堤細胞などに起源を有する細胞種の分化誘導法としては以下のような方法 が挙げられる:
色素細胞 胚様体形成
0P9 + ST2 +デキサメタゾン + SOL
ステロイド産生細胞 SF1過剰発現
中胚葉起源の細胞種の分化誘導法としては以下のような方法が挙げられる : 血液 (幹)細胞 胚様体形成 + IL-3 + IL-6 + フィーダ'
0P9 + フィーダ一細胞
flkl陽性細胞の選別
血管内皮細胞 flkl陽性細胞の選別
破骨細胞 胚様体形成 + レチノイン酸処理
心筋細胞 胚様体形成
胚様体形成 + "MHC陽性細胞の選別
骨格筋細胞 胚様体形成
平滑筋細胞 胚様体形成
胚様体形成 + DMS0
脂肪細胞 胚様体形成 + レチノィン酸処理 + インスリン + T3 内胚葉起源の細胞種の分化誘導法としては以下のような方法が挙げられる: インスリン産生細胞 胚様体形成
本発明は、 例えば本発明のベクターを導入した ES細胞から分ィ匕させた軟骨、 上 皮 (腸管上皮など) 、 皮膚、 皮脂腺などの腺組織を提供する。 また本発明は、 本 発明のベタターを導入した ES細胞から分ィ匕させた神経細胞を提供する。 例えば本 発明のベクターを導入した ES細胞から、 Map2 (raicrotuble associated protein 2 ) 陽性細胞、 および TUJ1 (class III tubul in) 陽性細胞を分ィ匕させることができ る。 また本発明は、 本発明のベクターを導入した ES細胞から分化させた造血細胞 を提供する。 例えば本発明のベクターを導入した ES細胞から、 単球おょぴ顆粒球 (NBT還元活性を持つ細胞) を分化させることができる。
本発明のベクターにより遺伝子導入した ES細胞、 および該 ES細胞から分化させ た細胞、 組織、 臓器等は、 各種薬剤のアツセィおよびスクリーニングに有用であ る。 例えば哺乳動物 ES細胞への遺伝子導入を通して、 組織または細胞、 特に好ま しくは霊長類由来の組織または細胞の特異的分ィ匕を行なうための遺伝子または薬 剤等の効果を評価したり、 スクリーニングすることができる。 本発明には、 組織 または細胞の特異的分ィ匕を行なうための遺伝子または薬剤のスクリ一ユング方法 を提供する。 本発明は、 ES細胞の増殖または分化に対する遺伝子発現の効果を検 出する方法であって、 (a ) 被験遺伝子を搭載する本発明のベクターと ES細胞と を接触させる工程、 ( b ) 該 ES細胞の増殖または分ィ匕を検出する工程、 を含む方 法を提供する。 該被験遺伝子を導入しない場合 (対照) の ES細胞の増殖または分 化との違いは、 該遺伝子の発現の効果と判断される。 ベクターの ES細胞への導入 は、 本発明のベクターを目的の ES細胞に接触させる工程により実施することがで きる。 ES細胞の増殖は、 細胞数の計数または MTTァッセィなどのミトコンドリア活 性の測定などの公知の方法により検出することができる。 また ES細胞の分化は、 公知の分化マーカー遺伝子の発現の検出、 あるいは細胞または組織等の形態学的
または生化学的測定などにより検出することができる (丹羽仁史 「ES細胞の分ィ匕 運命決定機構」 蛋白質核酸酵素 45 : 2047-2055, 2000; Rathjen, P. D. et al. , Reprod. Fertil. Dev. 10: 31-47, 1998) 。 導入ベクターには、 効果を検出した い所望の外来遺伝子保持させ ことができる。 また、 例えば対照として、 ES細胞 へのベクター自身の導入による効果を検出する場合においては、 外来遺伝子を含 まないベクターを用いることができる。 上記の検出方法を用いて、 ES細胞の増殖 または分化に影響を与え得る遺伝子を評価したりスクリ一ユングすることが可能 である。 スクリーニングは、 上記の検出方法の工程 ( a ) および (b ) に続いて 、 ( c ) 該 ES細胞の増殖または分化を調節する活性を有する導入遺伝子を選択す る工程、 を含む方法により実施することができる。 このようなスクリーニング方 法も、 上記本発明の遺伝子導入の効果を検出する方法に含まれる。
このような方法を用いたスクリーニングの一例として、 ES細胞から機能細胞を 分ィ匕させる遺伝子のスクリーニングを挙げることができる。
例えば ES細胞から膝臓 細胞を分化させる際において、 遺伝子 A、 B、 C、 D、 Eの うちどれが必要か、 どの組み合わせがもっともふさわしい力、 また、 どの順番で 遺伝子導入するのがもっとも適切かを調べる際には、 これらの遺伝子を ES細胞に 効率良くしかも簡単に導入する技術が有用である。 本ベクターはその要求を満た す。 例えば、 遺伝子 A、 B、 C、 D、 Eを発現する本発明のベクターを構築し、 これを 種々の組み合わせおょぴ順序で ES細胞またはその分化細胞に導入する。 遺伝子が 導入された細胞の分化を検出することにより、 遺伝子導入の効果を知ることがで 含る。
また、 例えばある遺伝子を体内に投与する遺伝子治療における副作用の予見に 本発明のベクターを利用することも有用である。
遺伝子 Xの各臓器およぴ組織への毒性および副作用は、 マウスまたはサル個体へ の投与実験である程度は把握できる。 しかし遺伝子 Xが各組織幹細胞へいかなる影 響を及ぼしうるかは今までの方法では検出できない。 この遺伝子 Xはある特定の組
織幹細胞から機能細胞への分ィヒを障害する可能性がある。 例えば、 肝臓幹細胞の 分化を障害する場合は、 肝炎に罹患した時または肝臓切除術を施行された時に、 初めてその障害が明らかになる。 すなわち遺伝子 Xによって肝臓幹細胞の分ィ匕が障 害され、 必要な時に肝臓の再生が進まないという深刻な事態が起こりうる。 こう した問題は通常の動物実験では必ずしも予見できない。 本ベクターを用いれば、 きわめて効率良く遺伝子 Xを ES細胞へ導入でき、 この遺伝子導入 ES細胞をさまざま な組織幹細胞に分ィ匕させ、 さらに機能細胞まで分ィヒさせることによって、 遺伝子 X の安全性をさまざまな分化段階で検出できるようになる。
本発明のベクターを利用したアツセィおよびスクリーニングは、 哺乳動物、 特 にヒトおよぴサルを含む霊長類における発生学的研究、 疾患研究、 臨床応用、 実 験モデルなどに有用であり、 かつ所望の分化細胞または分ィ匕組織を得るのに有用 な遺伝子および試薬をスクリ一ユングすることができるという優れた効果を発揮 する。
上記のスクリーニング法において、 ES細胞から所望の組織または細胞への特異 的分化は、 例えば、 所望の組織または細胞に特異的なマーカーの発現を指標とし て評価されうる。 前記所望の組織または細胞に特異的なマーカーとしては、 組織 または細胞特異的抗原が挙げられ、 例えば、 神経系前駆細胞のマーカーとしては 、 中間径フィラメントであるネスチンなどが挙げられる。 このような特異的マー カーは、 該マーカーに対する抗体を用い、 慣用の ELISA、 免疫染色等により検出し てもよく、 該マーカーをコードする核酸を用い、 慣用の RT_PCR、 DNAアレイハイブ リダィゼーシヨン等により検出してもよい。 なお、 「核酸」 とは、 ゲノム DNA、 RN A、 mRNA又は cDNAなどを意味する。 本スクリーニング法により得られた遺伝子およ び試薬は本発明の範囲に包含される。
また、 本発明のベクターが導入された ES細胞、 およぴ該 ES細胞から分ィ匕した分 化細胞または分ィ匕組織も本発明の範囲に含まれる。 分化細胞及ぴ分化組織は、 前 記組織又は細胞に特異的なマーカーの発現、 形態学的特徴の観察により同定する
ことができる。
本発明のウィルスベクターは、 様々な遺伝性疾患の遺伝子治療にも応用が可能 である。 対象となる疾患は特に制限されない。 例えば、 対象となり得る疾患とそ の単一原因遺伝子としては、 ゴーシェ病においては -セレブロシダーゼ (第 20染 色体) 、 血友病においては血液凝固第 8因子 (X染色体) および血液凝固第 9因子 ( X染色体) 、 アデノシンデァミナーゼ欠損症においてはアデノシンデァミナーゼ、 フエ二ルケトン尿症においてはフエ二ルァラニンヒドロキシラーゼ (第 12染色体 ) 、 Duchenne型筋ジストロフィーにおいてはジストロフィン (X染色体) 、 家族性 高コレステロール血症においては LDLレセプター (第 19染色体) 、 嚢ほう性繊維症 においては CFTR遺伝子等が挙げられる。 それら以外の複数の遺伝子が関与してい ると思われている対象疾患としては、 アルツハイマー、 パーキンソン病等の神経 変性疾患、 虚血性脳障害、 痴呆、 またエイズ等の難治性の感染症等が考えられる また、 遺伝子導入した ES細胞から分ィヒさせた細胞、 組織、 臓器を疾患治療のた めに用いることも考えられる。 例えば、 遺伝子の欠損または不足によって発症す る疾患に対して、 ES細胞に当該遺伝子を導入し、 これを体内に移植することによ つて欠損する遺伝子を補い、 所望の細胞または組織を再生させることが考えられ る。 また、 本ベクターを用いて遺伝子を導入した ES細胞がサル由来のものである 場合は、 当該 ES細胞を疾患モデルサルに移植することにより、 ヒ トの疾患の治療 モデルとして有用な系を提供することができる。 ヒ トの疾患のモデルとして様々 な疾患モデルサルが知られており、 例えば、 ヒ トのパーキンソン病のモデルサル は人工的に作出可能であり、 ヒトの糖尿病の忠実なモデルとして自然発症の糖尿 病サルが多く飼育され、 また、 サルの SIV感染症がヒトの HIV感染症の忠実なモデ ルとしてよく知られている。 このような疾患において、 ヒト ES細胞を用いた臨床 応用を行う前に、 前臨床試験としてサル ES細胞を疾患モデルサルに移植する系は 、 非常に有用である。
図面の簡単な説明
図 1は、 複製型センダイウィルス (上段) 、 および EGFP遺伝子を有する複製欠 損型センダイウィルス (F遺伝子欠失) のゲノム構造を示す図である。
図 2は、 複製欠損型 SeV (SeV18+/ AF-GFP) で GFP遺伝子を導入した CMK6細胞の G FPの発現を示す写真および図である。 SeV感染の 253日後の ES細胞の蛍光顕微鏡像 (A) および FACS解析結果 (B) を示す。 H-2Kd陰性のサル ES細胞の 93%が GFP陽性 であった。
図 3は、 複製欠損型 SeV (SeV18+/ AF-GFP) の感染時間を変えた時の CMK6細胞の GFP発現を示す写真である。
図 4は、 複製欠損型 SeV (SeV18+/ A F-GFP) の量 (moi) と GFP陽性率の関係を示 す図である。
図 5は、 アデノウイルスベクター (A)、 アデノ随伴ウィルス(MV)ベクター (B) 、 複製欠損型 SeV (SeV18+/ A F-GFP) (C) の CMK6に対する遺伝子導入の比較を示す 写真である。
図 6は、 図 5の実験を数値ィ匕した結果おょぴその時間変化を示す図である。 図 7は、 遺伝子導入細胞の選別と導入遺伝子の発現を示す写真である。 上段 (A ) は選別をせずに継代を続けた場合、 下段 (B) はコロニーセレクションで GFP陽 性コ口ニーの選別を 1回行い、 継代を続けた場合である。
図 8は、 SeVベクターのゲノムの自己複製能おょぴ DNA非依存性を確認した結果 を示す写真である。 (A) RNA - PCRはベクター導入細胞から R Aを調製し、 RT - PCRに よりウィルスゲノムを増幅した結果を示す。 580 bpのバンドはウィルスゲノム由 来のパンドである。 craESはサル ES細胞株、 craES- EGFPはエレクト口ポレーシヨン法 で EGFP遺伝子を染色体に組み込んだサル ES細胞株、 cmES/SeVは SeV18+/ Δ F- GFPを 導入したサル ES細胞である。 SeV (+)は野生型 SeVゲノム cDNAを鍀型として用いた結 果 (対照) である。 SeVベクターを導入した ES細胞でウィルスゲノムが複製されて
いることが証明された。 (B) DNA - PCKはベクター導入細胞から DNAを調製し、 これ を铸型として PCRによりウィルスゲノムを増幅した結果を示す。 SeVベクターを導 入した ES細胞における GFP発現が DNAを介さないことが示された。
図 9は、 SeVベクターにより遺伝子を導入した CMK6細胞によるテラトーマ形成を 示す写真である。
図 1 0は、 図 9のテラトーマの顕微鏡像を示す写真である。
図 1 1は、 SeVベタターにより遺伝子を導入した CMK6による胚様体形成を示す写 真である。
図 1 2は、 SeVベタターにより遺伝子を導入した CMK6の血球への分化を示す写真 である。
図 1 3は、 SeVベクターにより導入した遺伝子の発現のリバビリンによる停止と 細胞毒性を示す写真である。
図 1 4は、 リバビリン濃度と細胞毒性との関係を示す図である。
図 1 5は、 リバピリン濃度と培養上清中の HA活性 (VLP放出) との関係を示す図 である。
図 1 6は、 SeVベクターにより遺伝子を導入した CMK6のリバビリン処理による導 入遺伝子発現の停止を示す図である。 発明を実施するこめの最良の形態
以下、 実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、 本発明は、 これら実施 例に制限されるものではない。 なお、 本明細書全体を通じて引用された文献は、 すべて本明細書の一部として組み込まれる。 実施例 1 :サル ES細胞へのセンダイウィルスベクターを用いた遺伝子導入
1 . ES細胞の培養
力-クイザル ES細胞、 CMK6 (Suemori H et al. Dev. Dyn. 222, 273 2001) は
京都大学中辻教授より供与されたものを以下の ES培地にて培養して用いた。
ES培地: DMEM/F12 (Sigma) , 15% FBS (ES Cell-qualified, Gibco)、 1 mM L-glu tamine, 1 raM sodium pyrubate, 0. 1 mM 2-mercaptoethanol
また、 フィーダ一細胞として、 通常妊娠 13- 14日 ICRマウスあるいは BALB/cマウ スより mouse embryonic fibroblast (MEF) を採取し、 3〜5継代培養し増殖させた 後、 分注し凍結保存した。 使用時は 10% FCS添加 DMEMにて解凍後、 100 mg / 10 cm dish Mitomycin C (SIGMA) にて 2〜3hr培養し、 MEFの分裂を止めた。 細胞はトリ プシン- EDTAで解離した後、 先に 0. 1%ゼラチンでコートした 3. 5 cm dishに 5 X 105 細胞播種した。 播種後 1日以上経過した後、 ES細胞を 104〜105細胞 /3. 5 cm dishで フィーダ一上に播種した。 2日に一度は ES培地を交換し、 3〜4日に一度、 継代を 行った。 ES培地を除き、 Hanks' balanced salt solutions (HBSS, Gibco) にて洗 つた後、 0. 25% trypsin/HBSSを加え 1〜2分室温にて放置し、 MEFの混入が少なく、 ES細胞のコロニーが多く剥離するように、 検鏡しながら dishの底を軽く叩いて ES 細胞を集めた。 その後細胞は 800 rpmにて 4分遠心後、 予め用意したフィーダ一上 に播種した。
2 . SeVベクターの調製
F欠失型 GFP発現 SeVベクター: SeV18+/ A F- GFP は、 通常の手順 (Li, H. -0. et al. , J. Virol. 74 (14) 6564-6569 (2000) ) に従って、 生産、 精製後、 CIUの測定 を行った (1 X 108) 。 なお SeV18+/ A F- GFPは、 SeV18+/ Δ F- EGFP、 SeV18+/dF- GFP 、 SeV18+/dF- EGFP、 SeV18+GFP/ A F、 SeV18+EGFP/ A F、 SeV18+GFP/dF、 または SeVl 8+EGFP/dFなどと表記することもある。
3 . CMK6への感染
コ口ニーピックアップと持続発現: CMK6を 0. 25% trypsin/HBSSにて剥離し、 遠 心管に回収し 800rpmにて 4分遠心後 ES培地を加えタッビングし、 細胞を軽くほぐし た。 HBSSで洗浄後、 MEFが混入したまま細胞数をカウントし、 6 well plateに 2 X 1 OVwell mlとなるように ES培地で懸濁した。 そこに SeV18+/ A F - GFPを 200 μ 1、 即
ち 2 X 107 CIU加え、 混合し 5% C02、 37°Cにてー晚培養した。 翌日、 0. 25% trypsin/ HBSSにて剥離し、 遠心管に回収し 800rpmにて 4分遠心した。 HBSSで洗浄後、 ES培地 を加え、 予め用意した 6 well plateの MEFフィーダ一細胞上に加え、 培養した。 3 日もしくは 4日ごとに新フィーダー細胞上に継代を行つた。 感染後 3週後、 6 wel 1 plateに 104細胞 /wellで継代し、 その 5日後、 蛍光顕微鏡上で構成細胞全てが GFP 陽性であるコロニーを選んで一つずつマイク口ピぺットで回収し、 フィーダ一細 胞を播いておいた 24well plateに移植した。 その後、 それぞれの wellを蛍光観察 し、 コロニーを形成するまで生育し構成細胞が全て GFP陽性であるコ口ニーを継代 し、 拡大培養した。 そのうちの一つを 370日以上継代し続けた。
ベクター間の比較: GFP遺伝子を搭載したアデノウィルスベクターである Ad5 - CM V- EGFP、 アデノ随伴ゥィルスベクターである AAV2-CAG-WPRE- EGFP、 F欠失 SeVベク ターである SeV18+/ A F- GFPをそれぞれ、 3. 4 X 102 genome copies/Cell, 2. 4 X 104 genome copies/Cell, 50 ClU/Cellとなるように培地に添加し、 48時間、 5% C02、 37°Cにて感染した。 感染 4日後に蛍光観察、 撮影を行った。
感染時間の検討: SeV18+/ - GFPを 50 CIU/cellとなるように MEFを含んだ CMK6 に感染し、 5% C02、 37°Cで 1時間、 3時間、 24時間培養し感染させた。 その後 HBSS で洗浄後、 ES培地にて感染後 48時間後まで培養し、 蛍光観察を行った。
4 . 継代感染細胞の解析 (フローサイトメータによる解析)
FACS (BD Bioscience) を用いて解析する数継代前より、 MEFを ICRマウス由来の ものから、 BALBんマウス由来に交換して継代しておき、 細胞を 0. 25% trypsin- 1 m M EDTAにて解離した。 800 rpmにて 4分遠心後、 細胞を 4% BSA/PBSに懸濁した後、 P hycoerythrin (PE) 標識抗マウス MHC classl抗体 H_2Kd にて染色、 洗浄後 FACSに よる解析を行った。 MEFは H-2Kd陽性、 CMK6は H - 2Kd陰性細胞として検出されるの で、 CMK6の SeV18+/ A F- GFP感染細胞の割合は H- 2Kd陰性細胞内の GFP陽性率で表し た。
5 . テラトーマ形成方法
SeV18+/ A F - GFP感染後 119日培養した ES細胞を 1 X 106、 150 μ 1の 0. 2°/。 BSA/HBSS に懸濁し、 生後 8週齢の N0D/SCIDマウス左大腿内側皮下に移植した。 移植後 17週後 に屠殺し、 蛍光観察および組織学的検査を行った。
6 . 胚様体の形成
CMK6を 0. 1% collagenase type IVにて 37°C 8〜: 10分インキュベートし、 CMK6を ェンリツチして剥離し HBSSで洗浄後、 バクテリア用ブラスティックディッシュ上 に ES培地に懸濁し培養する。 5日おきに培地交換を行い胚様体を形成させた。 7 · 継代感染細胞におけるゲノム RNAの検出
感染後 284日目の SeV18+/ A F- GFP感染 CMK6より RNAを抽出、 Taqmanreverse Trans cription Reagents (PE ABI) を用い逆転写反応を行った後、 SeVゲノム検出用プ ライマーとして F3208 (P遺伝子上、 agagaacaagactaagg ctaccノ配列番号: 9 ) と R3787 (M遺伝子上、 accttgacaatcctgatgtggZ配列番号: 1 0 ) を用い、 EGFPに対 するプライマーとして GFP - F3 : cgtccaggagcgcaccatcttc (酉己列番号: 1 1 ) 、 GF P-R3 : ggtctttgctcag ggcggact (配列番号: 1 2 ) 、 力二クイザル ]3 - actinに対 するプライマー (234bp) は CB1 : cattgtcatgg actctggcgacgg (配列番号: 1 3 ) 、 CB2 : catctcctgctcgaagtctagggc (配列番号: 1 4 ) を用いた。 また、 細胞 中に DNAとして GFP遺伝子、 あるいは SeVゲノムが保持されていないことを証明する ために、 SeV18+/ A F- GFP感染 CMK6より DNAを抽出し、 上記のプライマーで PCRを行 つた。 PCRの条件は 95°C7分の後、 94°C1分、 55°C1分、 72°C1分を 30サイクル行い、 72^5分の処理を行った。
8 . 血液細胞への分化
マウス stromal cell line 0P9細胞 (RIKEN Cell Bank No. RCB1124, Okada, S. et al. , Int Immunol, 12, 861-871, 2000) を a -MEM (Gibco) にて培養し mitom ycin処理した後、 6wellにコンフルェントになるよう播種し予め培養しておき、 そ の上に SeV18+/ A F- GFP感染 CMK6を播種し、 8% horse serum, 8% FCS, 5 X 10—6 M hy drocortisone/ IMDMに 20 ng/ml BMP— 4, 20 ng/ml SCF, 20 ng/ml IL— 3, 10 ng/ral
IL - 6, 20 ng/ml VEGF, 20 ng/ml G-CSF, 10 ng/ml Fit. 3 ligand, 2 unit/ml EP 0となるようにサイトカインをカロえ培養した。
9 . 血球細胞分析方法
コロニーアツセィ :移植後 14〜18日目に、 分化した非接着細胞を pipettingで回 収した。 セルストレーナ一を通した後、 2%FBS/IMDMに suspendし、 細胞を計数し た。 MeC培地 (MethoCult GF+ H4435 ; StemmCell technologies) に、 細胞数 1 X 1 04と 1 X 105で播種し、 37°C, 5% C02で培養した。 約 14日目に colony count、 顕微鏡 観察した。
サイトスピン: Colony assayで形成された造血コロニーを吊り上げ、 Cytospin 標本を作成し、 Wright- Giemsa染色を行い、 形態学的評価を行った。
好中球機能検查 (NBT還元試験) :メチルセルロース半固形培地に播種後 14日目 の、 colony力 S开成されて ヽる plateに NBT (nitroblue tetrazol ium) solutionを力 け、 好中球機能 (貪食能、 細胞内殺菌能) を検査した。
ES細胞への遺伝子導入 (結果)
1 . マウス MHC class I抗体を用い、 FACS上で MEFと CMK6を分離することに成功し 、 解析が可能になった。 (図 2 (B) )
2 . 力二クイザル ES細胞、 CMK6に対して、 moi=2、 10、 50で遺伝子導入したところ 、 24時間後の FACSによる解析で GFP陽性率は、 それぞれ 6. 7%、 22%、 46%、 48時 間後はそれぞれ 16. 5、 37. 8、 63. 2%と上昇した。 そのあと一度継代し、 感染後 4 日でそれぞれ 17. 1、 35. 2、 67. 0%、 感染後 7日でそれぞれ 7. 3、 36. 8、 59. 4%と遺 伝子導入率が維持された。 (図 4)
3 . Adenovirusベクターおよび MV2ベクターをそれぞれ moi=340、 moi=24000で CMK 6に感染させたところ、 感染 4日後でそれぞれ 20. 0%、 25. 9%と SeVベクターに比べ て低い値であった。 7日後には Adenovirusベクターによる感染細胞は 6. 1%に低下し た。 MV2ベクターは 19. 6%と感染率を維持したが、 SeVベクターに比べると低かつ た。 (図 5、 6)
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4 . 感染時間を 1、 3、 24時間としたところ、 感染効率は低いものの感染時間が短 くても遺伝子導入可能であった。 (図 3)
5 . コロニーの選択採取により、 遺伝子導入細胞をエンリッチしたものでは、 そ の後ほとんど 100%近い細胞が GFP陽性であり、 FACSのデータでも感染後 370日で 90 %の細胞が GFP陽性であった。 (図 2 :図の FACSデータは 253日目のもの、 図 7)
6 . N0D/SCID大腿皮下に SeV18+/ A F- GFP感染 CMK6細胞を移植し 17週後テラトーマ が形成された。 皮膚の上からも GFP蛍光が観察され、 切開すると強い蛍光が観察さ れた。 (図 9)
7 . 17週後テラトーマが形成されたテラトーマの切片で、 ほとんどの細胞が GFP陽 性であり、 それらが軟骨、 皮膚、 腸管上皮、 皮脂腺といった組織へ分ィ匕していた 。 (図 10)
8 . SeV18+/ Δ F-GFP感染 CMK6細胞は胚様体も形成し、 fl丕様態全体が GFPを発現して いた。 (図 11)
9 . SeV18+/ A F - GFP感染 CMK6細胞は血球に分ィ匕させることも可能であり、 分ィ匕後 も GFP陽性であった。 この GFP陽性細胞は、 形態的にも、 機能的にも好中球である ことを確認した。 (図 12) 実施例 2 :センダイウィルスベクターを介して導入した遺伝子の除去
ES細胞に導入する遺伝子の発現は、 自己複製能を用い永続的な発現を期待する 場合と、 分ィ匕能を人工的に制御するため一過的な発現が望ましい場合がある。 後 者の場合、 むしろ持続的な発現を抑制する技術が必要となる。 遺伝子導入技術の 中でも SeVベクターを用いた遺伝子導入法は、 上記のように遺伝子導入効率、 発現 効率がともに高く、 しかも遺伝子導入された細胞において持続発現が観察され、 遺伝子導入後も ES細胞の特徴である多分化能を有し続ける。 一方、 アデノウィル スベクターや MVベクター、 レトロウイルスベクターでは力二クイザル ES細胞に対 し、 遺伝子導入効率が非常に低かった。 また、 SeVベクターは RNAウィルスベクタ
一であるので、 R Aは細胞質内に留まり DNAとして染色体内に組み込まれることは ない。 従って、 細胞質内のベクターゲノムを除去できれば、 一過性に発現させる ことも可能となると期待される。 一方、 他のほとんどのウィルスベクターや、 非 ウィルスベクターによる遺伝子導入技術は、 DNA、 もしくは RNAより逆転写酵素に より転写される DNAを導入するため、 導入 DNAが核内に移行し、 導入遺伝子の発現 が一過性といわれるベクターであっても染色体内へ組み込まれることがある (Har ui A, et al 1998, J Virol. 73 6141-6146) 。 また DNAに制御可能な調節因子を組 込み、 遺伝子導入する方法もあるが、 調節因子の 「制御漏れ」 による導入遺伝子 の発現回避が難しい。 以上のことから、 RNAベクターである SeVベクターを除去で きる技術の確立は既存のベクターにない有用性を与えるものであり、 細胞分化に 必要な遺伝子のスタリーニング等の基礎解析にも大 ヽに役立つものと考えられる 以下の実施例では、 SeVウィルスベクターを細胞に導入後、 核酸アナログにより ベタターを除去する方法を例示する。
1 . LLC - MK2細胞からの SeVウィルスベクターの除去
《方法》
6穴プレート上に培養した 1 X 106の LLC-MK2細胞に対し M0I 3 になるように SeV1 8+GFP/ A F を感染させ 37°Cにて培養を続けた。 感染 2日後培地を、 62. 5、 125、 250 、 500、 1000 /i g/ml の濃度で Ribavirin (Sigma-Aldrich Corp. , St. Louis, MO) を含む無血清 MEMと交換した。 培養上清は 2日ないし 3日ごとに回収し、 細胞に はその都度同濃度の Ribavirinを含む MEMを加えた。 SeV18+GFP/ A Fの感染により発 現した GFP は蛍光顕微鏡下で観察した。 また一方、 SeV18+GFP/ A Fの感染により細 胞より放出される非感染性ウィルス様粒子は培養上淸中のへマグルチネーション (HA) 活性測定 (Kato et al. , 1996, Genes Cells 1, 569-579. ) により定量し た。 GFPの観察と HA活性はそれぞれ、 導入遺伝子の発現とベクターの転写複製を反 映するため、 これらによって SeVベクターの感染の持続の有無を確認することが可
能となる。 また細胞死は cytotoxicity detection kit (Roche, Basel, Switzerla nd) を用い傷害を受けた細胞が放出するラクテートデヒドロゲナーゼ (LDH) 活性 によって測定した (Decker et al. , 1988, J Immunol Methods 115, 61—69) .
《結果》
LLC- MK2細胞に SeV18+GFP/ A Fを moi 3で感染させ、 2日後に GFPの蛍光観察を行つ たところ、 ほぼ 100%の細胞が感染していた。 この細胞を用い、 SeVベクターの転 写、 複製に対する Ribavirinの影響を観察した結果、 薬剤投与 8日後 (感染 10日後 ) には Ribavirinの濃度依存的に GFP発現が弱まっていき、 投与 19日後 (感染 21日 後) にはいずれの濃度でも GFPはほとんど消失した (図 13) 。 また培地中の HA活性 も Ribavirinの濃度依存的に低下していき、 薬剤投与 8日後にはいずれの濃度でも 検出限界以下となった (図 14) 。 興味深いことにこの実験において、 Ribavirin濃 度が低レ、 62. 5〜250 μ g/mlの範囲では強い細胞毒性が観察されたが、 逆に 500〜100 O g/mlの高い濃度では、 ほとんど細胞毒性は検出されなかった (図 13, 15) 。 このように、 LLC- MK2細胞においては 500〜; 1000 g/mlの Ribavirin処理により 細胞毒 1"生を抑制しながらべクター転写 ·複製を阻害することが可能であり、 8日間 の薬剤処理により導入遺伝子の発現が検出されなくなった。
2 . 力二クイザル ES細胞 CMK6からの SeVベクターの除去
《方法》
力二クイザル ES細胞 (CMK6) はマイトマイシン C (Kyowa, Tokyo, Japan) 処理 を行ったマウス胎児の繊維芽細胞 (MEF) 細胞 (Suemori et al. 2001, Dev Dyn. 222, 273-9. ) をフィーダー細胞に用い、 0. 1 mM 2_メルカプトエタノール、 2 mM グルタミン、 0. I mM非必須アミノ酸 (Gibco, Gaithersburg, MD) 、 15%ES細胞 用ゥシ胎児血清 (Gibco) を添加したダルベッコ変法イーグル培地/ F12にて培養し た。 ES細胞はフィーダ一細胞上にコロニーを形成し、 そのコロニーを 3〜4日ごと に 0. 25%トリプシン (Gibco) 処理することにより、 剥離回収し継代を行った。 SeV ベクターは SeV18+GFP/ A Fを CMK6に対し、 フィーダ一細胞を含めて moi 3で感染させ
た。 感染後 1年以上経過し持続感染が成立した細胞に対し培地に Ribavirinを 0、 0 . 25、 1、 4 mM (それぞれ 0、 61、 244、 977 μ g/ml) 添加し、 5日間培養を行った 。 ES細胞の GFP発現率は FACScanにより解析した。 フィーダー細胞は PE標識抗マゥ ス H-2d抗体にて蛍光染色を行い、 ES細胞と区別した。
《結果》 '
ES細胞の GFP陽性率は Ribavirin濃度依存的に減少し、 1 mM (244 ^ g/ml) では徐 々にその比率が減少し (図 16) 、 4 mMでは 3日でほぼ GFP陽性細胞が無くなった ( 図 16) 。 産業上の利用の可能性
本発明により、 哺乳動物 ES細胞に長期間安定に遺伝子を発現させることが可能 となった。 本発明の方法は、 遺伝子導入効率が高く、 導入した遺伝子の発現も高 レベルである。 また、 DNAを介さずに長期間、 安定に遺伝子を発現させることがで きる。 さらに ES細胞の分化能に影響を与えない。 ES細胞への遺伝子導入は、 ヒト を含む霊長類および他の哺乳動物における発生学的研究、 疾患研究、 臨床応用、 実験モデルにおいて有用である。 また、 本発明のベクターは、 ES細胞からの組織 または細胞の特異的分化を制御する遺伝子および試薬等のスクリ一ユングを可能 にする。 このスクリーニング方法によれば、 所望の分化細胞または分化組織を得 るのに有用な、 組織または細胞の特異的分ィ匕を行なうための遺伝子および試薬等 をスクリーニングすることができるという優れた効果を奏する。 また本発明の方 法を用いた遺伝子発現により ES細胞で分ィ匕 ·増殖を調節する遺伝子を発現させ、 得られた細胞を再生医学に用いることも期待される。