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改変された転写開始配列を有するパラミクソウイルス

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C07K14/005 Peptides having more than 20 amino acids; Gastrins; Somatostatins; Melanotropins; Derivatives thereof from viruses
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美之 永井
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Description

技術分野
本発明は、転写開始配列が改変された組換えパラミクソウイルス科ウイルスに関する。
背景技術
パラミクソウイルスは非分節型ネガティブ鎖RNAをゲノムとして有する。ゲノムには6つの遺伝子がコードされており、各遺伝子には短い配列(E-IG-Sシグナル)が共通して連結されている。これらのシグナルの配列の保存性は、属(genus)および科(family)内で特に高く、同じ種(species)に属するウイルスの遺伝子内ではきわめて高い(Feldmann,H.E.et al.,1992,Virus Res.24:1-19)。
センダイウイルス(Sendai virus;SeV)はパラミクソウイルス科(Paramyxoviridae)のレスピロウイルス(Respirovirus)に分類されている、エンベロープを持つ非分節型のネガティブ鎖RNAウイルスであり、パラミクソウイルス亜科(Paramyxovirinae)の原型であると考えられている。SeVのゲノムサイズは15,384塩基で、3'の短いリーダー領域に続き、N(ヌクレオキャプシド)、P(ホスホ)、M(マトリックス)、F(フュージョン)、NH(ヘマグルチニン-ノイラミニダーゼ)、およびL(ラージ)蛋白質をコードする6つの遺伝子が並んでおり、短い5'トレイラー領域を他端に有する。P蛋白質に加え、鋳型にないG残基が挿入されるco-transcriptional editing(転写に共役したRNA編集)(Park,K.H.and M.Krystal,1992,J.Virol.66:7033-7039;Paterson,R.G.,and R.A.Lamb,1990,J.Virol.64:4137-4145;Thomas,S.M.et al.,1988,Gell,54:891-902;Vidal,S.et al.,1990,J.Virol.64:239-246)および選択的翻訳開始機構(Gupta,K.C.,and E.Ono,1997,J.321:811-818;Kuronati,A.et al.,1998,Genes Cells 3:111-124)により、第2の遺伝子がそれぞれアクセサリー蛋白質VおよびCを発現する。ゲノムはN蛋白質と強く結合しており、ヘリカルなリボヌクレオプロテイン(RNP)複合体を形成している。裸のRNAではなく、このRNPが転写および複製のための鋳型となる(Lamb,R.A.,and D.Kolakofsky,1996,Paramyxoviridae:The viruses and their replication.pp.1177-1204.In Fields Virology,3rd edn.Fields,B.N.,D.M.Knipe,and P.M.Howley et al.(ed.),Raven Press,New York,N.Y.)。P蛋白質とL蛋白質とを含むウイルスのRNAポリメラーゼに対するプロモーターは、3'端の一つしか存在しない(Hamaguchi,M.et al.,1983,Virology 128:105-117)。各遺伝子の境界部にある短い保存された転写終結配列(Eシグナル)および転写開始配列(Sシグナル)を認識することによって、このポリメラーゼはリーダーRNAと各mRNAを生成する(Glazier,K.et al.,1997,J.Virol.21:863-871)。転写終結配列と転写開始配列の間には、転写されない3塩基の介在(IG)配列が存在する(Gupta,K.C.,and D.W.Kingsbury,1984,Nucleic Acids Res.12:3829-3841;Luk,D.et al.,1987,Virology 160:88-94)。各遺伝子の境界からの転写の再開始効率は高いものの完全ではないため、上流の遺伝子よりも下流の遺伝子の転写量は減少する。従って、感染細胞において各mRNAは等モルでは合成されず、5'端に行くほど転写量が減少する極性効果が見られる(Glazier,K.et al.,1997,J.Virol.21:863-871;Homann,H.E.et al.,1990,Virology 177:131-140;Lamb,R.A.,and D.Kolakofsky,1996,Paramyxoviridae:The viruses and their replication.pp.1177-1204.In Fields Virology,3rd edn.Fields,B.N.,D.M.Knipe,and P.M.Howley et al.(ed.),Raven Press, New York,N.Y.)。
mRNAが翻訳され、翻訳産物が蓄積してくると、ゲノムの複製が始まる。このとき、同じウイルスRNAポリメラーゼは、同じRNPを鋳型として複製を行うが、各mRNAの転写終結配列および転写開始配列はなぜか無視され、全長アンチゲノムのポジティブセンス(+)RNAを生成する(Lamb,R.A.,and D.Kolakofsky,1996,Paramyxoviridae:The viruses and their replication.pp.1177-1204.In Fields Virology,3rd edn.Fields,B.N.,D.M.Knipe,and P.M.Howley et al.(ed.),Raven Press,New York,N.Y.)。ポリメラーゼは(+)RNAの3'端にあるプロモーターに入り、ゲノム(-)RNPを生成する。これが次の転写および複製の鋳型として働く。
転写終結配列(Eシグナル)(ゲノムのネガティブセンスでは、3'-AUUCUUUUUU-5')は、SeVゲノムの6つの遺伝子で完全に保存されている。転写終結配列の後半部の5つのU残基はポリメラーゼのスリップを起こさせ、ポリ(A)を生じさせると考えられている。これに対し、転写開始配列はわずかながら多様性があり、一般的には3'-UCCCWVUUWC-5'(Gupta,K.C.,and D.W.Kingsbury,1984,Nucleic Acids Res.12:3829-3841)で表される。具体的には、P、M、およびHN遺伝子では、UCCCACUUUC、N遺伝子ではUCCCAgUUUC、F遺伝子ではUCCCuaUUUC、そしてL遺伝子ではUCCCACUUaCである。この違いは、これまで配列が決定されているすべてのSeVの株で共通しており、ウイルスの単離経路やパッセージの履歴、およびマウス等の天然の宿主に対する病原性の程度によらない。このことから、この変異は位置特異的であることが示唆される。これらの相異は、転写開始配列中で、変異しても機能に影響を受けない部分に塩基置換が蓄積した結果である可能性もあるが、別の可能性としては、ウイルスの進化の過程で、シグナルの重要な部分に塩基置換が入り、各遺伝子の発現を調節する能力を獲得したものが選択された結果であるとも考えられる。
これまでに、モデル鋳型系を用いたさまざまな非分節型ネガティブ鎖RNAウイルスの研究により、転写開始配列は実際、転写開始には必須であるものの、その配列中の変異はある程度許容されることが示されている(Barr,J.N.et al.,1997,J.Virol.71:1794-1801;Barr,J.N.et al.,1997,J.Virol.71:8718-8725;Hwang,L.N.et al.,1998,J.Virol.72:1805-13;Kuo,L.et al.,1996,J.Virol.70:6143-6150;Rassa,J.C.,and G.D.Parks,1998,Virology,247:274-286;Stillman E.A.,and M.A.Whitt,1998,J.Virol.72:5565-5572)。それらの転写開始配列のある種の塩基の変異は、転写の開始効率を低下させることから、天然に起こるバリエーションによってもウイルスのライフサイクルにおいて遺伝子発現が改変されることが示唆されている(Kuo,L.et al.,1996,J.Virol.70:6892-6901;Kuo,L.et al.,1997,J.Virol.71:4944-4953;Stillman E.A.,and M.A.Whitt,1997,J.Virol.71:2127-2137)。しかしながらモデル鋳型系では、トランスに作用する蛋白質が続けて継続的に供給されるため、初期転写のように自然のライフサイクルの初期に必要とされる事象はすべてバイパスされてしまう(Nagai,Y.Paramyxovirus replication and pathogenesis.Reverse genetics transforms understanding.Rev.Medical.Virol.9(2):83-99(1999))。また、これらの系では、ミニゲノムの転写と複製はカップルしていない。さらに、トランスに作用する蛋白質を供給するためにしばしば用いられるT7ポリメラーゼ発現ワクシニアウイルスは、例えば、ワクシニアウイルスがコードするキャッピング酵素による転写後修飾などにより、変異による僅かな影響を覆い隠してしまう。それに加えて、トランスフェクションの効率は全実験を通して同一ではないかもしれない(Bukreyev,A.et al.,1996,J.Virol.70:6634-6641;He,B.et al.,1997,Virology 237:249-260)。すなわちモデル鋳型系では、転写開始に及ぼす転写開始配列の塩基置換の効果を正確に検証することはできないと考えられる。従って、転写開始配列および転写終結配列の役割を包括的に調べるためには、全長ウイルスゲノムに変異を導入する必要があった。
発明の開示
本発明は、転写開始配列の改変によりその下流の遺伝子群の発現が改変されたパラミクソウイルス科ウイルスベクター、並びにそれらの製造および用途を提供することを課題としている。
本発明者らは既に、組換えDNA技術を用いてゲノムを操作し、感染性のセンダイウイルス(SeV)を作出する系を構築することに成功している。この系を用いれば、DNAをベースにしてネガティブ鎖RNAウイルスを再生させることができ、感染性ウイルスの様々な遺伝子操を通したセンダイウイルスのリバースジェネティクスを行うことが可能となる(Kato,A.et al.,1997,EMBO J.16:578-587;Kato,A.et al.,1997,J.Virol.71:7266-7272;Kuo,L.et al.,1996,J.Virol.70:6892-6901;Nagai,Y.,1999,Rev.Medical.Virol.9:83-99;Sakaguchi,T.et al.,1997,Virology 235:360-366)。本発明者らは、この系を用いて、SeVの転写開始配列に見出された異質性の意味を明らかにすることを試みた。
新規に合成した転写終結配列および転写開始配列をホタルルシフェラーゼ遺伝子の上流に連結し、N遺伝子の非コード領域の下流に挿入した。この転写開始配列は天然に生じた上記4つの変異と同じとなるように設計した。構築した組換えウイルスでは、N mRNAの転写は自身の転写開始配列から始まり、レポーター(ルシフェラーゼ)遺伝子と共に導入された合成転写終結配列で終結する。そして、各々異なる転写開始配列から転写されるレポーター遺伝子の発現を定量し、比較した。
その結果、天然のF遺伝子の転写開始配列は、他の3種の転写開始配列に比べ再開始活性が有意に低いことが判明した。新規の蛋白質合成をブロックし、ゲノム複製を阻害すると転写だけが起こり、複製は起こらない。この条件で実験することにより、ルシフェラーゼ遺伝子発現の減少が、実際、F遺伝子の転写開始配列により転写レベルで減少することが主な要因であり、複製の結果による2次的なものではないことが確かめられた(図4)。またこの実験から、F遺伝子の転写開始配列による再開始活性は、他の3つの転写開始配列による再開始活性に比べ約1/4であることが判明した。
さらに、F遺伝子が天然に持つ転写開始配列を、再開始効率がより高いP/M/HN遺伝子の転写開始配列に置換し、回収したウイルス(SeV/mSf)の培養細胞、卵、およびマウスでの複製能を調べることで、異なる転写開始配列の再開始能を検討した。その結果、本発明者らは、交換された転写開始配列がF遺伝子のみならず、その下流の遺伝子群の発現をも増強することを見出した。この増強は、やはり転写レベルであった(図7、9)。
即ち、本発明者らは、パラミクソウイルス科ウイルスの各遺伝子の転写開始配列の再開始活性が転写開始配列により異なることを見出すとともに、特定の遺伝子の転写開始配列を再開始活性が異なる他の転写開始配列に置換することで核配列の直下の遺伝子のみならずさらに下流の遺伝子群の発現をも転写レベルで改変しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は、転写開始配列の改変によりその下流の遺伝子群の発現が改変されたパラミクソウイルス科ウイルスベクター、並びにそれらの製造および用途に関し、より具体的には、
(1) パラミクソウイルス科ウイルスのゲノム上の少なくとも1つの遺伝子の転写開始配列が改変されることにより、宿主内における該遺伝子およびその下流の遺伝子の発現量が改変された、ウイルスベクターDNA、
(2) 転写開始配列の改変が、パラミクソウイルス科ウイルスの他の遺伝子の転写開始配列への置換である、(1)に記載のウイルスベクターDNA、
(3) 転写開始配列の改変が、F遺伝子の転写開始配列の、他の遺伝子の転写開始配列への置換である、(1)に記載のウイルスベクターDNA、
(4) 他の遺伝子の転写開始配列がP/M/HN遺伝子型の転写開始配列である、(3)に記載のウイルスベクターDNA、
(5) F遺伝子および/またはHN遺伝子が欠損している、(1)から(4)のいずれかに記載のウイルスベクターDNA、
(6) 外来遺伝子が挿入されている、(1)から(5)のいずれかに記載のウイルスベクターDNA、
(7) (1)から(6)のいずれかに記載のウイルスベクターDNAからの転写産物をウイルス粒子内部に含む、パラミクソウイルス科ウイルスベクター、
(8) センダイウイルスベクターである、(7)に記載のベクター、
(9) 天然型ウイルスと比較して宿主における増殖能力が高まっている、(7)または(8)に記載のベクター、
(10) (1)から(6)のいずれかに記載のウイルスベクターDNAを宿主に導入し、該宿主内でウイルスタンパク質を発現させる工程を含む、パラミクソウイルス科ウイルスベクターの調製方法、
(11) パラミクソウイルス科ウイルスがセンダイウイルスである、(10)に記載の方法、を提供する。
なお、本発明において「パラミクソウイルス科ウイルスベクター」とは、パラミクソウイルス科ウイルスに由来し、遺伝子を宿主細胞に導入することができるベクター(担体)を指す。本発明のパラミクソウイルス科ウイルスベクターはリボ核タンパク質(RNP)であってもよく、また、感染力を有するウイルス粒子であってもよい。「感染力」とは、ウイルスベクターが細胞への接着能および膜融合能を保持していることにより、細胞内にウイルス粒子内部のウイルスゲノムを導入し発現させることのできる能力を指す。
本発明のパラミクソウイルス科ウイルスベクターは、複製能を有していてもよく、複製能を有さない欠損型ベクターであってもよい。「複製能を有する」とは、ウイルスベクターが宿主細胞に感染した場合、該細胞においてウイルスが複製され、感染性ウイルス粒子が産生されることを指す。
また、本発明のパラミクソウイルス科ウイルスベクターは、外来遺伝子を発現することができるように保持することができる。このようなウイルスベクターは組み換えパラミクソウイルス科ウイルスベクターとして作製することができる。「組み換え」パラミクソウイルス科ウイルスベクターとは、遺伝子操作により構築されたパラミクソウイルス科ウイルスベクターまたはそれを増幅して得られるパラミクソウイルス科ウイルスベクターを言う。組換えパラミクソウイルス科ウイルスベクターは、例えば、組換えパラミクソウイルス科ウイルスcDNAを再構成して生成することができる。
本発明においてパラミクソウイルス科ウイルスとはパラミクソウイルス科に属するウイルスまたはその誘導体を指す。本発明を適用可能なパラミクソウイルス科ウイルスとしては、例えばパラミクソウイルス科(Paramyxoviridae)のセンダイウイルス(Sendai virus)、ニューカッスル病ウイルス(Newcastle disease virus)、おたふくかぜウイルス(Mumps Virus)、麻疹ウイルス(Measles virus)、RSウイルス(Respiratory syncytial virus)、牛疫ウイルス(rinderpest virus)、ジステンパーウイルス(distemper virus)、サルパラインフルエンザウイルス(SV5)、ヒトパラインフルエンザウイルス1,2,3型等が挙げられる。本発明のウイルスベクターおよびベクターDNAが由来するウイルスは、好ましくはパラミクソウイルス属(Paramyxovirus)に属するウイルスまたはその誘導体である。本発明を適用可能なパラミクソウイルス属ウイルスとしては、例えばセンダイウイルス(Sendai virus)およびヒトHA2などを含むパラインフルエンザウイルス1型、サルSV5およびSV41並びにヒトCAなどを含むパラインフルエンザウイルス2型、ウシSFおよびヒトHA1などを含むパラインフルエンザ3型、パラインフルエンザ4型(A亜型およびB亜型を含む)、ムンプスウイルス、ニューカッスルウイルス、並びにその他の多くのパラミクソウイルス属ウイルスが含まれる。本発明のウイルスベクターおよびベクターDNAが由来するパラミクソウイルス科ウイルスは、最も好ましくはセンダイウイルスである。これらのウイルスは、天然株、変異株、ラボ継代株、および人為的に構築された株などであり得る。DI粒子(J.Virol.68,8413-8417(1994))等の不完全ウイルスや、合成したオリゴヌクレオチド等も、本発明のウイルスベクターを製造するための材料として使用することができる。
本発明において「ウイルスベクターDNA」とは、ウイルスベクターのゲノムをコードする塩基配列を含むDNAを指す。また、本発明において「DNA」とは、一本鎖DNAおよび日本鎖DNAを含む。
また、パラミクソウイルス科ウイルスの「N、P、M、F、HN、およびL遺伝子」とは、それぞれヌクレオキャプシド、ホスホ、マトリックス、フュージョン、ヘマグルチニン-ノイラミニダーゼ、およびラージ蛋白質をコードする遺伝子のことを指す。例えばパラミクソウイルス亜科に属する各ウイルスにおける各遺伝子は、一般に次のように表記される。一般に、N遺伝子は「NP遺伝子」と表記されることもある。
レスピロウイルス属 N P/C/V M F NH - L
ルブラウイルス属 N P/V M F NH(SH)L
モービリウイルス属 N P/C/V M F H - L
例えばセンダイウイルスの各遺伝子の塩基配列のデータベースのアクセッション番号は、N遺伝子についてはM29343、M30202,M30203,M30204,M51331,M55565,M69046,X17218、P遺伝子についてはM30202,M30203,M30204,M55565,M69046,X00583,X17007,X17008、M遺伝子についてはD11446,K02742,M30202,M30203,M30204,M69046,U31956,X00584,X53056、F遺伝子についてはD00152,D11446,D17334,D17335,M30202,M30203,M30204,M69046,X00152,X02131、HN遺伝子についてはD26475,M12397,M30202,M30203,M30204,M69046,X00586,X02808,X56131、L遺伝子についてはD00053,M30202,M30203,M30204,M69040,X00587,X58886を参照のこと。
本発明は、パラミクソウイルス科ウイルスのゲノム上の少なくとも1つの遺伝子の転写開始配列が改変されることにより、宿主内における該遺伝子およびその下流の遺伝子の発現量が改変された、ウイルスベクターDNAを提供する。本発明のウイルスベクターDNAは、転写開始配列の改変により、その直下の遺伝子のみならず、さらに下流の遺伝子の転写をも改変し得ることを特徴とする。
本発明における「転写開始配列の改変」とは、パラミクソウイルス科ウイルスのゲノム上の遺伝子の転写開始配列において1若しくは数個の塩基を置換、欠失、付加および/または挿入すること、或いは他の遺伝子の転写開始配列への置換を行なうことを指す。
転写開始配列を改変して、所望の再開始活性を有する配列を得るためには、種々の転写開始配列をデザインし、実施例1に記載のルシフェラーゼ解析などを利用して、それら再開始活性を検出し、所望の活性を有する配列を選択すれば良い。転写開始配列の改変は、公知の遺伝子組換え技術を用いて行うことができる。例えば、実施例3に記載のように部位特異的変異挿入法により、パラミクソウイルス科ウイルスゲノムのF遺伝子の転写開始配列に任意の変異を導入することができる。
本発明のパラミクソウイルス科ウイルスベクターは、転写開始配列の改変により、例えばF遺伝子の発現量が、野生型に比べ有意に上昇しているウイルスベクターが含まれる。有意な上昇とは、例えば野生型のF遺伝子の発現に比べ20%以上、好ましくは40%倍以上、より好ましくは2倍以上、さらに好ましくは3倍以上の上昇である。このようなベクターは、例えばF遺伝子の転写開始配列を、P、M、HN、N、またはL遺伝子の転写開始配列に置換することにより製造することができる。また本発明のパラミクソウイルス科ウイルスベクターには、P、M、HN、N、およびL遺伝子のいずれか、またはその組み合わせが、野生型の発現に比べ有意に低下しているウイルスベクターが含まれる。有意な低下とは、例えば野生型の発現に比べ20%以上、より好ましくは30%以上、さらに好ましくは40%以上、さらに好ましくは60%以上低下しているベクターが含まれる。このようなベクターは、例えばP、M、HN、N、および/またはL遺伝子の転写開始配列を、F遺伝子の転写開始配列に置換することにより製造することができる。遺伝子の発現量の測定は、例えばmRNA(転写産物)または蛋白質(翻訳産物)の検出を通して測定され得る。発現量の測定は、好ましくはウイルスの複製速度の影響を最小限に留める条件下で行われる。例えば、実施例図3で実施されたような、複製サイクルが一回まわる条件下で測定したり、または図4に示したように、RNAまたは蛋白質の検出により初期転写を特異的に測定することにより遺伝子の発現を測定することができる。これらの測定は、例えば実施例1または2に記載の方法等により行うことができる。
本発明者等は、パラミクソウイルス科ウイルス(センダイウイルス)に見られる4種類の転写開始配列の再開始活性を検出したところ、それぞれ活性が異なり、L遺伝子の転写開始配列(AGGGTGAAT)、P/M/HN遺伝子の転写開始配列(AGGGTGAAA)、およびN遺伝子の転写開始配列(AGGGTCAAA)の転写開始活性が高い値を示したのに対し、F遺伝子の転写開始配列(AGGGATAAA)の転写開始活性が低い値を示すことを見出した。従って、高い再開始活性を望む場合には、L遺伝子、P/M/HN遺伝子、あるいはN遺伝子の転写開始配列を用いればよく、低い再開始活性を望む場合には、F遺伝子の転写開始配列を用いればよい。例えば、F遺伝子の転写開始配列を、再開始活性の高いP/M/HN遺伝子の転写開始配列に置換することにより、F遺伝子およびその下流の遺伝子群の転写レベルを上昇させることができる。
パラミクソウイルス科ウイルス遺伝子の転写レベルを改変することには、様々な利点が存在する。例えば、F遺伝子の転写開始配列を再開始活性のより高い転写開始配列に置換したウイルスは、増殖力の上昇が期待できる。また、例えばF遺伝子の転写開始配列とL遺伝子の転写開始配列を交換すれば、ウイルスの増殖力はそのままにして、F遺伝子およびHN遺伝子の発現量だけを上げることが期待できる。また、あまり高い発現が好ましくない蛋白質の場合には、F遺伝子の転写開始配列のような再開始活性の低い転写開始配列の下流に連結することで発現量を制限することも可能である。
転写開始配列が、転写の再開始活性の高いものに改変された遺伝子を持つウイルスゲノムでは、従来の野生型ゲノムと比較して、その下流にコードされているmRNAの発現量が増える。下流に所望の外来遺伝子が存在する場合、得られる生産物量も増えると予想される。従って、このようなゲノムを持つウイルスベクターは、産物の生産効率が向上するという利点を有する。また、医薬品組成物やワクチンとして、組換えウイルス粒子またはウイルス様粒子を回収する場合、このようなゲノムを持つウイルスでは、短期間で多量のウイルスを回収することが可能であるという利点を有している。例えば、37℃で2日間インキュベートされたウイルス粒子は、ウイルス粒子間で複合体を作り、元の形から変形するaging(老化)現象を起こすことが知られている(Kim,J.et al.Virology 95:523-35(1979))。彼らの電顕観察によると、若い粒子はヌクレオカプシドの構造がタイトに折りたたまれているが、agingに伴いルーズな構造に変化する。ウイルス粒子またはウイルス様粒子を医薬品組成物やワクチンとして利用する場合には、均一な材料を得ることが重要である。従って、なるべく短期間の培養でウイルスを回収することが必要である。実施例に示されるように、本発明により、改変ウイルスを野生型に比べ100倍の力価で調製することも可能となる(図5)。
本発明のパラミクソウイルス科ウイルスベクターとしては、例えば、複製能を有し、自立的に増殖するようなベクターが挙げられる。例えば、一般に天然型パラミクソウイルスのゲノムは、3'の短いリーダー領域に続き、N(ヌクレオキャプシド)、P(ホスホ)、M(マトリックス)、F(フュージョン)、HN(ヘマグルチニン-ノイラミニダーゼ)、およびL(ラージ)蛋白質をコードする6つの遺伝子が並んでおり、短い5'トレイラー領域を他端に有する。これと同様の構造を有するゲノムを設計することにより、自律複製可能なベクターを製造することができる。なお、本発明のパラミクソウイルス科ウイルスベクターにおいては、ウイルス遺伝子の配置は野生型ウイルスから改変されていてもよい。
また、本発明のパラミクソウイルス科ウイルスベクターとしては、野生型パラミクソウイルス科ウイルスが持つ遺伝子のいずれかを欠損したものであってもよい。例えば、センダイウイルス科ウイルスベクターを再構成させる場合、N、P/CおよびL遺伝子から作られる蛋白質群がトランスに必要だと考えられているが、該蛋白質群をコードする遺伝子自体は、本発明のウイルスベクターに必ずしも含まれている必要なはい。例えば、該蛋白質群をコードする遺伝子を有する発現ベクターを、ベクターゲノムをコードする発現ベクターと共に宿主細胞にトランスフェクションすることにより、再構成を行うことができる。また、該蛋白質群をコードする遺伝子を有する宿主細胞にベクターゲノムをコードする発現ベクターを導入し、該宿主細胞から該蛋白質群を供給して再構成を行ってもよい。これらの蛋白質群のアミノ酸配列は、ウイルス由来の配列そのままでなくとも、核酸の導入における活性が天然型のそれと同等かそれ以上ならば、変異を導入したり、あるいは他のウイルスの相同遺伝子で代用してもよい。
また、パラミクソウイルス科ウイルスが細胞に伝播してゆくためには、N、FおよびHN遺伝子から作られる蛋白質群が必要だと考えられているが、パラミクソウイルス科ウイルスベクターをRNPとして調製する場合は、これらの蛋白質は必要ない。RNPに含まれるゲノムに、M、FおよびHN遺伝子が含まれていれば、宿主に導入された時に、これらの遺伝子産物が生産され、感染性のあるウイルス粒子が形成される。
RNPを細胞に導入するには、例えばリポフェクトアミンやポリカチオニックリポソームなどと共に複合体を形成させて導入することが可能である。具体的には、種々のトランスフェクション試薬が利用できる。例えば、DOTMA(Boehringer)、Superfect(QIAGEN #301305)、DOTAP、DOPE、DOSPER(Boehringer #1811169)などが挙げられる。エンドソーム中での分解を防ぐため、クロロキンを加えることもできる(Calos,M.P.,1983,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 80:3015)。複製型ウイルスの場合、産生されたウイルスは、培養細胞、鶏卵、個体(例えばマウスなどの哺乳動物)などに再感染させて増幅または継代することができる。
逆に、M、Fおよび/またはHN遺伝子が含まれていないパラミクソウイルス科ウイルスベクターも、本発明のウイルスベクターとして用いることができる。このようなウイルスベクターの再構成は、例えば、欠損している遺伝子産物を外来的に供給することにより行うことができる。このようにして製造されたウイルスベクターは、野生型ウイルスと同様に宿主細胞に接着して細胞融合を起こすが、細胞に導入されたベクターゲノムはこれらのいずれかの遺伝子を欠損しているため、最初と同じような感染力を持つ娘ウイルス粒子は形成されない。このため、一回限りの遺伝子導入力を持つ安全なウイルスベクターとして有用である。ゲノムから欠損させる遺伝子としては、例えばF遺伝子および/またはHN遺伝子が挙げられる。例えば、F遺伝子が欠損した組換えパラミクソウイルス科ウイルスベクターゲノムを発現するプラスミド(ウイルスベクターDNAを含んでいる)を、F蛋白質の発現ベクターならびにN、P/CおよびL蛋白質の発現ベクターと共に宿主細胞にトランスフェクションすることにより、F遺伝子を欠損したウイルスベクターの再構成を行うことができる(国際出願番号PCT/JP00/03194およびPCT/JP00/03195)。また、例えば、F遺伝子が染色体に組込まれた宿主細胞を用いて製造することもできる。これらの蛋白質群を外から供給する場合、そのアミノ酸配列はウイルス由来の配列そのままでなくとも、核酸の導入における活性が天然型のそれと同等かそれ以上ならば、変異を導入したり、あるいは他のウイルスの相同遺伝子で代用してもよい。
また、ベクターゲノムが由来するウイルスのエンベロープ蛋白質とは異なる蛋白質をベクターのエンベロープに含むベクターを作製することもできる。このようなタンパク質に特に制限はない。例えば、他のウイルスのエンベロープタンパク質、例えば水疱性口内炎ウイルス(VSV)のGタンパク質(VSV-G)を挙げることができる。本発明のウイルスベクターは、VSV-Gタンパク質などのように、ゲノムが由来するウイルス以外のウイルスに由来するエンベロープタンパク質を含むシュードタイプウイルスベクターが含まれる。
本発明のウイルスベクターDNAには、所望の外来遺伝子を導入することができる。外来遺伝子は蛋白質をコードしてもよく、また蛋白質をコードしていなくてもよい。例えば、外来遺伝子はリボザイムまたはアンチセンスRNAなどの機能的RNAをコードするものであってもよい。外来遺伝子は天然由来または人為的に設計された配列であり得る。例えば、遺伝子治療などを目的とする場合には、該ウイルスベクターDNAに対象となる疾患の治療用遺伝子を挿入する。本発明のウイルスベクターDNAを遺伝子治療ベクターの製造目的に用いる場合には、宿主内での毒性を抑制するために、F遺伝子、NH遺伝子、および/またはM遺伝子を欠失させておくことが好ましい。ウイルスベクターDNAに外来遺伝子を導入する場合は、例えば、センダイウイルスベクターDNAにおいては、転写終結配列と転写開始配列との間などに、6の倍数の塩基数を有する配列を挿入することが望ましい(Journal of Virology,Vol.67,No.8,1993,p.4822-4830)。外来遺伝子は、ウイルスの各遺伝子(N、P、M、F、HN、またはL遺伝子)の前および/または後ろに挿入することができる。前後の遺伝子の発現を妨げないようにするため、外来遺伝子の前または後ろに適宜E-I-S配列(転写開始配列−介在配列−転写終結配列)またはその部分を挿入する。挿入した外来性遺伝子の発現量は、外来遺伝子の5'側(先頭)に付加する転写開始配列の種類により調節することができる。また、遺伝子挿入の位置、また遺伝子の前後の塩基配列により調節しうる。例えば、センダイウイルスにおいては、挿入位置がN遺伝子に近いほど、挿入された遺伝子の発現量が多いことが知られている。
一般に、挿入位置はウイルスゲノムのネガティブ鎖RNAの3'端に近いほど(野生型ウイルスのゲノム上の遺伝子配置においては、N遺伝子に近いほど)、挿入された遺伝子の発現量が高い。外来遺伝子の高い発現を得るためには、外来遺伝子をN遺伝子の上流(マイナス鎖においては3'側)またはN遺伝子とP遺伝子の間など、ネガティブ鎖ゲノムにおいて3'端に近い領域に挿入することが好ましい。逆に、挿入位置がネガティブ鎖RNAの5'端に近いほど(野生型ウイルスのゲノム上の遺伝子配置においては、L遺伝子に近いほど)、挿入された遺伝子の発現量が低くなる。外来遺伝子の発現を低く抑えるためには、例えばネガティブ鎖の最も5'側、すなわち野生型ウイルスゲノムにおいてはL遺伝子の下流(ネガティブ鎖においてはL遺伝子の5'隣接部位)、またはL遺伝子の上流(ネガティブ鎖においてはL遺伝子の3'隣接部位)に外来遺伝子を挿入する。このように、外来遺伝子の挿入位置は、該遺伝子の所望の発現量を得るために、また前後のウイルスタンパク質をコードする遺伝子との組み合わせが最適となる様に適宜調節することができる。外来遺伝子を容易に挿入できるようにするために、挿入部位にクローニングサイトを設計することができる。クローニングサイトは、例えば制限酵素の認識配列とすることができる。ゲノムをコードするベクターDNA中の当該制限酵素部位に外来遺伝子断片を挿入することができる。クローニングサイトは、複数の制限酵素認識配列を有する、いわゆるマルチクローニングサイトとしてもよい。また、本発明のベクターDNAは、このように挿入した以外に位置に他の外来遺伝子を保持していてもよい。
外来遺伝子を有する組換えセンダイウイルスベクターは、例えば、Kato,A.et al.,1997,EMBO J.16:578-587及びYu,D.et al.,1997,Genes Cells 2:457-466の記載に準じて、次のようにして構築することができる。
まず、所望の外来遺伝子のcDNA塩基配列を含むDNA試料を用意する。DNA試料は、25ng/μl以上の濃度で電気泳動的に単一のプラスミドと確認できることが好ましい。以下、外来遺伝子をNotI部位を利用してウイルスゲノムをコードするDNAに挿入する場合を例にとって説明する。目的とするcDNA塩基配列の中にNotI認識部位が含まれる場合は、部位特異的変異挿入法などを用いて、コードするアミノ酸配列を変化させないように塩基配列を改変し、NotI部位を予め除去しておくことが好ましい。この試料から所望の遺伝子断片をPCRにより増幅回収する。増幅された断片の両端がNotI部位とし、さらに一端にセンダイウイルスの転写終結配列(E)、介在配列(I)及び転写開始配列列(S)(EIS配列)のコピーを付加するために、NotI制限酵素切断部位配列及び転写終結配列(E)、介在配列(I)及び転写開始配列(S)と目的遺伝子の一部の配列を含むプライマー対として、フォワード側合成DNA配列及びリバース側合成DNA配列(アンチセンス鎖)を作成する。
例えば、フォワード側合成DNA配列は、NotIによる切断を保証するために5'側に任意の2以上のヌクレオチド(好ましくはGCG、およびGCCなどのNotI認識部位由来の配列が含まれない4塩基、更に好ましくはACTT)を選択し、その3'側にNotI認識部位gcggccgcを付加し、さらにその3'側にスペーサー配列として任意の9塩基または9に6の倍数を加えた数の塩基を付加し、さらにその3'側に所望のcDNAの開始コドンATGからこれを含めてORFの約25塩基相当の配列を付加した形態とする。最後の塩基はGまたはCとなるように該所望のcDNAから約25塩基を選択してフォワード側合成オリゴDNAの3'の末端とすることが好ましい。
リバース側合成DNA配列は5'側から任意の2以上のヌクレオチド(好ましくはGCG、およびGCCなどのNotI認識部位由来の配列が含まれない4塩基、更に好ましくはACTT)を選択し、その3'側にNotI認識部位gcggccgcを付加し、さらにその3'側に長さを調節するための挿入断片のオリゴDNAを付加する。このオリゴDNAの長さは、NotI認識部位gcggccgcを含め、cDNAの相補鎖塩基配列と後述するセンダイウイルスに由来するセンダイウイルスゲノムのEIS塩基配列の合計が6の倍数になるように塩基数を設計する(いわゆる「6のルール(rule of six)」;Kolakofski,D.et al.,J.ViroI.72:891-899,1998)。さらに挿入断片の3'側にセンダイウイルスのS配列の相補鎖配列、好ましくは5'-CTTTCACCCT-3'、I配列、好ましくは5'-AAG-3'、E配列の相補鎖配列、好ましくは5'-TTTTTCTTACTACGG-3'、さらにその3'側に所望のcDNA配列の終始コドンから逆に数えて約25塩基相当の相補鎖の最後の塩基がGまたはCになるように長さを選択して配列を付加し、リバース側合成オリゴDNAの3'の末端とする。
PCRは、例えば、ExTaqポリメラーゼ(宝酒造)を用いる通常の方法を用いることができる。好ましくはVentポリメラーゼ(NEB)を用いて行い、増幅した目的断片はNotIで消化した後、プラスミドベクターpBluescriptのNotI部位に挿入する。得られたPCR産物の塩基配列をシークエンサーで確認し、正しい配列のプラスミドを選択する。このプラスミドから挿入断片をNotIで切り出し、ゲノムcDNAを含むプラスミドのNotI部位にクローニングする。またプラスミドベクターpBluescriptを介さずにNotI部位に直接挿入し、組換えセンダイウイルスcDNAを得ることも可能である。
本発明のウイルスベクターDNAは、これを宿主細胞へ導入し発現させることにより、該ウイルスベクターDNAからの転写産物をウイルス粒子内部に含むウイルスベクターを調製することができる。具体的には、例えば本発明のウイルスベクターDNAを宿主に導入し、該宿主内でウイルスタンパク質を発現させればよい。ウイルスベクターDNAの宿主への導入および該宿主内でのウイルスタンパク質の発現は、どちらを先に行ってもよく、また同時に行ってもよい。ウイルスタンパク質は、例えばウイルスタンパク質をコードする発現ベクターの導入により宿主内で発現させることができる。ウイルスベクターDNAにおいて、F遺伝子、HN遺伝子、および/またはM遺伝子を欠失させた場合には、そのままでは感染性のウイルス粒子を形成しないが、宿主細胞に、これら欠失させた遺伝子および/または他のウイルスエンベロープ蛋白質をコードする遺伝子などを別途、導入し発現させることにより、感染性ウイルス粒子を形成させることが可能である。
例えば、ウイルスベクターDNAを細胞内に導入する方法には、次のような方法、▲1▼目的の細胞が取り込めるようなDNA沈殿物を作る方法、▲2▼目的の細胞による取りこみに適し、かつ細胞毒性の少ない陽電荷特性を持つDNAを含む複合体を作る方法、▲3▼目的の細胞膜に、DNA分子が通り抜けられるだけに十分な穴を電気パルスによって瞬間的に開ける方法などがある。
▲2▼としては、種々のトランスフェクション試薬が利用できる。例えば、DOTMA(Boehringer)、Superfect(QIAGEN #301305)、DOTAP、DOPE、DOSPER(Boehringer #1811169)などが挙げられる。▲1▼としては例えばリン酸カルシウムを用いたトランスフェクション法が挙げられ、この方法によって細胞内に入ったDNAは貧食小胞に取り込まれるが、核内にも十分な量のDNAが入ることが知られている(Graham,F.L.and Van Der Eb,J.,1973,Virology 52:456;Wigler,M.and Silverstein,S.,1977,Cell 11:223)。ChenおよびOkayamaはトランスファー技術の最適化を検討し、1)細胞を共沈殿物のインキュベーション条件を2〜4%CO2、35℃、15〜24時間、2)DNAは直鎖状より環状のものが活性が高く、3)沈殿混液中のDNA濃度が20〜30μg/mlのとき最適な沈殿が得られると報告している(Chen,C.and Okayama,H.,1987,Mol.Cell.Biol.7:2745)。▲2▼の方法は、一般的なトランスフェクションに適している。古くはDEAE-デキストラン(Sigma #D-9885 M.W.5×105)混液を所望のDNA濃度比で調製し、トランスフェクションを行う方法が知られている。複合体の多くはエンドソームの中で分解されてしまうため、効果を高めるためにクロロキンを加えることもできる(Calos,M.P.,1983,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 80:3015)。▲3▼の方法は電気穿孔法と呼ばれる方法で、細胞選択性がないという点で▲1▼や▲2▼の方法に比べて汎用性が高い。効率はパルス電流の持続時間、パルスの形、電界(電極間のギャップ、電圧)の強さ、バッファーの導電率、DNA濃度、細胞密度の最適条件下で良いとされている。
以上、3つのカテゴリーの中で▲2▼の方法は操作が簡便で多量の細胞を用いて多数の検体を検討することができるので、本発明においては、トランスフェクション試薬が適している。好適にはSuperfect Transfection Ragent(QIAGEN,Cat No.301305)、またはDOSPER Liposomal Transfection Reagent(Boehringer Mannheim,Cat No.1811169)が用いられる。
cDNAからのウイルスの再構成は、公知の方法を用いて行うことができる(国際公開97/16539号;国際公開97/16538号;Durbin,A.P.et al.,1997,Virology 235:323-332;Whelan,S.P.et al.,1995,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 92:8388-8392;Schnell.M.J.et al.,1994,EMBO J.13:4195-4203;Radecke,F.et al.,1995,EMBO J.14:5773-5784;Lawson,N.D.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 92:4477-4481;Garcin,D.et al.,1995,EMBO J.14:6087-6094;Kato,A.et al.,1996,Genes Cells 1:569-579;Baron,M.D.and Barrett,T.,1997,J.Virol.71:1265-1271;Bridgen,A.and Elliott,R.M.,1996,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 93:15400-15404)。これらの方法により、パラインフルエンザ、水疱性口内炎ウイルス、狂犬病ウイルス、麻疹ウイルス、リンダーペストウイルス、センダイウイルスなどを含むパラミクソウイルス科ウイルスベクターをベクターDNAから再構成させることができる。
一例を示すと、24穴から6穴程度のプラスチックプレートまたは100mmペトリ皿上で、10%ウシ胎児血性(FCS)および抗生物質(100units/mlペニシリンGおよび100μg/mlストレプトマイシン)を含む最少必須培地(MEM)を用いてサル腎臓由来細胞株LLCMK2を70〜80%コンフルエントになるまで培養し、例えば1μg/mlpsoralen(ソラレン)存在下UV照射処理を20分処理で不活化した、T7ポリメラーゼを発現する組換えワクシニアウイルスvTF7-3(Fuerst,T.R.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 83:8122-8126,1986、Kato,A.et al.,Genes Cells 1:569-579,1996)を2PFU/細胞で感染させる。ソラレンの添加量およびUV照射時間は適宜調整することができる。感染1時間後、2〜60μg、より好ましくは3〜5μgの上記の組換えセンダイウイルスcDNAを、全長センダイウイルスゲノムの生成に必須なトランスに作用するウイルスタンパク質を発現するプラスミド(24-0.5μgのpGEM-N、12-0.25μgのpGEM-P、および24-0.5μgのpGEM-L、より好ましくは例えば1μgのpGME-N、0.5μgのpGEM-P、および1μgのpGEM-L)(Kato,A.et al.,Genes Cells 1:569-579,1996)と共にSuperfect(QIAGEN社)を用いたリポフェクション法等によりトランスフェクションする。トランスフェクションを行った細胞は、所望により100μg/mlのリファンピシン(Sigma)及びシトシンアラビノシド(AraC)、より好ましくは40μg/mlのシトシンアラビノシド(AraC)(Sigma)のみを含む血清不含のMEMで培養し、ワクシニアウイルスによる細胞毒性を最少にとどめ、ウイルスの回収率を最大にするように薬剤の最適濃度を設定する(Kato,A et al.,1996,Genes Cells 1:569-579)。トランスフェクションから48〜72時間程度培養後、細胞を回収し、凍結融解を3回繰り返して細胞を破砕した後、LLCMK2細胞にトランスフェクションして培養する。培養3〜7日後に培養液を回収する。エンベロープ蛋白質をコードする遺伝子を欠損した複製能を持たないウイルスベクターを再構成させるには、エンベロープタンパク質を発現するLLCMK2細胞をトランスフェクションに使用するか、またはエンベロープ発現プラスミドを共にトランスフェクションすればよい。また、トランスフェクションを行った細胞にエンベロープタンパク質を発現するLLCMK2細胞に重層して培養することによって欠損型ウイルスベクターを増幅することもできる(国際出願番号PCT/JP00/03194およびPCT/JP00/03195参照)。培養上清に含まれるウイルス力価は赤血球凝集活性(HA)を測定することにより決定することができる。HAは「endo-point希釈法」(Kato,A.et al.,1996,Genes Cells 1:569-579)により決定することができる。得られたウイルスストックは-80℃で保存することができる。
ウイルスベクターが再構成する限り、再構成に用いる宿主細胞は特に制限されない。例えば、センダイウイルスベクター等の再構成においては、サル腎由来のCVI細胞やLLCMK2細胞、ハムスター腎由来のBHK細胞、ヒト由来細胞などの培養細胞を使うことができる。また、大量にセンダイウイルスベクターを得るために、上記の宿主から得られたウイルスベクターを発育鶏卵に感染させ、該ベクターを増幅することができる。鶏卵を使ったベクターの製造方法は既に開発されている(中西ら編(1993)「神経科学研究の先端技術プロトコールIII,分子神経細胞生理学」,厚生社,大阪,pp.153-172)。具体的には、例えば、受精卵を培養器にいれ9〜12日間37〜38℃で培養し、胚を成長させる。ウイルスベクターを漿尿膜腔へ接種し、数日間卵を培養してウイルスベクターを増殖させる。培養期間等の条件は、使用する組換えウイルスにより変わり得る。その後、ウイルスを含んだ漿尿液を回収する。また、漿尿液からのセンダイウイルスの分離・精製は常法に従って行うことができる(田代眞人,「ウイルス実験プロトコール」,永井、石浜監修,メジカルビュー社,pp.68-73,(1995))。
本発明のウイルスベクターには、そのエンベロープ表面が特定の細胞に接着しうるように、接着因子、リガンド、受容体等、またはそれらの断片が含まれていても構わない。例えば、これらの蛋白質を細胞外領域に有し、ウイルスエンベロープ由来のポリペプチドを細胞内領域に有するキメラタンパク質などを含むベクターを作製すれば、特定の組織を標的とするベクターを作り出すこともできる。これらはウイルスゲノムにコードされていてもよいし、ウイルスベクターの再構成時に、ゲノム以外の遺伝子(例えば別の発現ベクターまたは宿主染色体などの遺伝子)の発現により供給されてもよい。
また、組換え体ウイルスベクターは、例えば、免疫原性を低下させるために、また、RNAの転写効率や複製効率を高めるために、その内部に含まれるウイルス遺伝子が改変されたものであってもよい。具体的には、例えば複製因子であるN遺伝子、P/C遺伝子およびL遺伝子の少なくとも一つを改変し、転写または複製の機能を高めることが考えられる。また、構造体蛋白質の1つであるHN蛋白質は、赤血球凝集素であるヘマグルチニン(hemagglutinin)活性とノイラミニダーゼ(neuraminidase)活性との両者の活性を有するが、例えば前者の活性を弱めることができれば、血液中でのウイルスの安定性を向上させることが可能であろうし、例えば後者の活性を改変することにより、感染能を調節することも可能である。また、膜融合に関わるF蛋白質を改変することにより、膜融合リポソームの融合能を調節することもできる。また、例えば、細胞表面の抗原分子となりうるF蛋白質やHN蛋白質の抗原提示エピトープ等を解析し、これを利用して抗原提示能を弱めたパラミクソウイルス科ウイルスベクターを作製することもできる。
欠損型ウイルスベクターを調製する場合、例えば、ゲノム上で欠損しているエンベロープ遺伝子が異なる2種のベクターを同じ細胞に導入すれば、それぞれで欠損するエンベロープタンパク質が、もう一方の複合体からの発現により供給されるため、互いに相補しあって感染力のあるウイルス粒子が形成され、複製サイクルがまわりウイルスベクターが増幅される。すなわち、2種またはそれ以上の本発明のベクターを、エンベロープタンパク質を相補する組み合わせで接種すれば、それぞれのエンベロープ遺伝子欠損型ウイルスベクターの混合物を大量かつ低コストで生産することができる。これらのウイルスは、エンベロープ遺伝子が欠損しているため、エンベロープ遺伝子を欠損していないウイルスに比べゲノムサイズが小さくなり長い外来遺伝子を保持することができる。また、元々感染性のないこれらのウイルスは細胞外で希釈され共感染の維持が困難であることから、不稔化するため、環境放出管理上の利点がある。
このようにして得られたウイルスベクターの遺伝子治療への応用としては、直接投与による遺伝子発現、間接(ex vivo)投与による遺伝子発現のいずれの方法によっても、治療効果を期待できる外来遺伝子もしくは患者の体内で供給が不足している内在遺伝子を発現させることが可能である。外来遺伝子としては特に制限はなく、蛋白質をコードする核酸に加え、例えば、アンチセンスまたはリボザイムなどのタンパク質をコードしない核酸であってもよい。蛋白質をコードする外来遺伝子としては、特に制限はないが、天然の蛋白質としては、例えばホルモン、サイトカイン、増殖因子、受容体、酵素、ペプチドなどが挙げられる。蛋白質は分泌蛋白質、膜蛋白質、細胞質蛋白質、核蛋白質などであり得る。人工的な蛋白質としては、例えば、キメラ毒素などの融合蛋白質、ドミナントネガティブ蛋白質(受容体の可溶性分子または膜結合型ドミナントネガティブ受容体を含む)、欠失型の細胞接着分子および細胞表面分子などが挙げられる。また、分泌シグナルや膜局在化シグナル、核移行シグナル等を付加した蛋白質であってもよい。また、アンチセンスRNA分子またはRNA切断型リボザイムなどを発現させて腎細胞で発現する望ましくない遺伝子の機能を抑制することもできる。投与可能な本発明のベクターが応用できる遺伝子治療の対象としては、細胞を死滅させる、例えば自殺遺伝子と呼ばれる、感染細胞に毒性を示す遺伝子(HSV tk等)を発現させることによる癌治療、動脈硬化による冠動脈再狭窄予防治療などが考えられる。また、細胞の生存を持続させる方向としては、単一遺伝子病等で、欠失または欠損の知られている遺伝子、例えばADA、CFTRなどの遺伝子産物を補充するという応用が考えられる。
いずれの方向においても、本発明のベクターはRNAをゲノムとし、その転写および自己複製プロセス中にDNAに変換されることがなく、生殖細胞等の染色体に取り込まれて次世代の遺伝子に影響を及ぼす心配がないため、広範囲の疾患に応用することができる。すなわち、多数の遺伝子が原因となる病気、高血圧、糖尿病、ぜん息、虚血性心疾患等の疾患にも応用でき、また、ワクチン等の多数の健康な人々を対象とした治療法や予防法、種々の感染症、エイズ、マラリア、インフルエンザ等のワクチン予防にも応用できる。
本発明のウイルスベクターは、薬学的に許容される所望の媒体と共に組成物とすることができる。「薬学的に許容される担体」とは、ベクターと共に投与することが可能であり、ベクターによる遺伝子導入を阻害しない材料である。例えば本発明のウイルスベクターを生理食塩水やリン酸緩衝生理食塩水(PBS)などで適宜希釈して組成物とすることができる。本発明のウイルスベクターを鶏卵で増殖させた場合等においては漿尿液を含んでよい。また本発明のウイルスベクターを含む組成物は、脱イオン水、5%デキストロース水溶液等の媒体を含んでいてもよい。さらに、その他にも、安定剤、殺生物剤等が含有されていてもよい。本発明のウイルスベクター含有組成物の投与対象としては、ヒト、サル、マウス、ラット、ウサギ、ヒツジ、ウシ、イヌなど全ての哺乳動物が含まれる。
【図面の簡単な説明】
図1は、pSeV18c(+)の構築とN ORFの下流域へのルシフェラーゼ遺伝子の挿入の概要を示す図である。NotI部位を含むように設計した18塩基の断片を、部位特異的変異により、pSeV(+)中のSeVゲノムの3'末端から1698位〜1699位の間に挿入した(Shioda,T.et al.,1983,Nucleic Acids Res.11:7317-7330)。この結果得られた、18塩基からなる断片を付加したSeVアンチゲノムをコードするプラスミドをpSeV18c(+)と名付けた。ルシフェラーゼ遺伝子のORFは、pHvLuc-RT4プラスミド(Kato,A.et al.,1996,Genes to cells 1:569-579)を鋳型として、NotIタグを付けた4組のプライマー(ESn/NotLr、ESp/NotLr、ESf/NotLr、およびESI/NotLr)を用いてPCRにより増幅した。このようにして、ルシフェラーゼ遺伝子の先頭に各々異なる天然の転写開始配列を付加した断片を生成した。これらの増幅断片はNotIで切断し、pSeV18c(+)のNotI部位に挿入した。作製されたプラスミドpSeV(+)SnLuc、pSeV(+)SpLuc、pSeV(+)SfLuc、およびpSeV(+)SlLucを用いて、それぞれの組換え体SeV/SnLuc、SeV/SpLuc、SeV/SfLuc、およびSeV/SlLucを再構築させた。
図2は、SeVの遺伝子構築を示す図である。
図3は、SeV/SpLuc、SeV/SnLuc、SeV/SfLuc、およびSeV/SlLucからのルシフェラーゼの発現を示す図である。組換えウイルスをmoi 10(pfu/cell)でCV1細胞に接種し、図示された時間(hr)に、ルシフェラーゼ活性を測定した。
図4は、組換えSeVからのルシフェラーゼの発現を示す写真および図である。組換えウイルスをmoi 100(pfu/cell)でCV1細胞に接種し、シクロヘキシミド存在下で12時間培養した。細胞の一部を回収し、RNAを調製後、ルシフェラーゼプローブで解析した(上段)。残りの細胞は、さらにシクロヘキシミド非存在下で0、2、および4時間培養してタンパク質を合成させ、ルシフェラーゼ活性を測定した(下段)。
図5は、SeV/mSfの増殖速度(kinetics)を示す図である。一段増殖サイクル条件下において、野生型SeVおよび変異型SeV/mSfの力価を図示された時間に測定した。白と黒の棒は、それぞれ野生型およびSeV/mSfのHAUを表す。白および黒の丸を結ぶ線は、それぞれ野生型およびSeV/mSfのpfu/mlを表す。
図6は、SeV/mSfの細胞毒性を示す写真である。トリプシン存在下(+)または非存在下(-)で、野生型またはSeV/mSfをmoi 20(pfu/cell)でCV1細胞に感染させた。感染48時間後に写真を撮影した。
図7は、ウイルス遺伝子の細胞内発現を示す写真である。野生型SeVまたはSeV/mSfを感染させたCV1細胞を、感染後さまざまな時間(hr)に、ウイルスのN、P、F、またはL遺伝子をプローブとしてノーザンハイブリダイゼーションにより解析した。mRNAの位置とゲノム/アンチゲノムRNA(vRNA)の位置を図中に示した。
図8は、ウイルス遺伝子の細胞内発現を示す写真である。各レーンの上に示した時間(hr)におけるCV1細胞でのウイルス遺伝子の細胞内発現を、抗SeV抗体を用いたウェスタンブロッティングにより解析した。
図9は、ウイルス遺伝子の細胞内発現を示す写真である。シクロヘキシミド存在下、野生型SeVまたはSeV/mSfをmoi 100 pfuでCV1細胞に感染させた。接種後12時間にRNAを抽出し、ノーザンハイブリダイゼーションにより解析した。検出された特異的バンドは、BAS 2000イメージアナライザーを用いて解析した。
図10は、多段増殖連続共継代における野生型SeVおよびSeV/mSfの競合アッセイの結果を示す写真である。(A)特異的プライマー対(左)と検出されるいずれかのウイルスRNA(右)を示す。(B)初期濃度を、104(SeV/mSf)および104(野生型SeV)pfu/卵、または104(SeV/mSf)および102(野生型SeV)pfu/卵で接種し、継代を行った。接種後3日ごとにしょう尿液を回収し、10-6に希釈した後、新しい卵に共接種することを繰り返し、10回継代を行った。ウイルスRNAを抽出し、特異的プライマーセットを用いた1ステップPCR法で解析した。継代回数を図の上に示す。「野生型SeV」および「SeV/mSf」はそれぞれの配列を増幅できる特異的プライマー対を用いて増幅されたDNA断片を表している。
図11は、野生型SeVおよびSeV/mSfを感染させた正常BALB/cマウスおよび胸腺を欠損するBALB/c(nu/nu)マウスの体重増加を示す図である。5匹のマウスに経鼻接種でさまざなな量のウイルス(104から107pfu/マウス)を感染させた。マウスの体重増加を感染14日後まで毎日グラムで測定した。死亡したマウスは「†」で示した。
図12は、BALB/cマウスおよびBALB/c(nu/nu)マウスの肺病変と肺内ウイルス量を示す図である。それぞれのマウスに104pfuのウイルスを経鼻接種した。これらのマウスは感染後0、1、2、3、5、7、および9日後に殺し、肺の病変スコア(上)、および肺内ウイルスタイター(下)を測定した。これらの値は各マウス個体ごとに示した。
発明を実施するための最良の形態
以下実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1]組換えウイルスの構築とルシフェラーゼアッセイ
SeVの転写終結配列(Eシグナル)の9ヌクレオチドは、全ての遺伝子上で正確に保存されている。一方、転写開始配列(Sシグナル)の9ヌクレオチドには、わずかに相異がある。6つの遺伝子中、3つ(P、M、およびHN)の転写開始配列は3'-UCCCACUUU-5'だが、N、F、およびLの遺伝子は、それぞれ3'-UCCCAgUUU-5'、3'-UCCCuaUUU-5'、および3'-UCCCACUUa-5'である(図2)。これらのわずかな相異は、継代の経緯、毒性、単離方法に関わらず、全てのSeV株において完全に保存されている。転写開始配列のこれらのわずかな相異が持つ役割を解析するため、合成転写開始配列の調節下にルシフェラーゼを発現するSeV/SpLuc、SeV/SnLuc、SeV/SfLuc、SeV/SlLucと名付けた4つの組換えSeVを以下のようにして作成した。
1−1. N ORFの下流の挿入部位の作成
SeVのアンチゲノム全長cDNAコピーを含むプラスミドpSeV(+)(Kato,A.et al.,1996,Genes to Cells 1:569-579)を、出発材料として、プラスミド構築を行った。まず、合成された転写終結配列および転写開始配列を持つルシフェラーゼ遺伝子を挿入するため、N遺伝子内のN ORFの下流にユニークなNotI部位を作り出した。NotI制限酵素認識部位を含む18ヌクレオチド(5'-gagggcccgcggccgcga-3'/配列番号:1)を、N遺伝子の5'非コード領域(ネガティブセンス)にあるゲノムの3'末端から1698ヌクレオチドおよび1699ヌクレオチドの間に挿入した(Shioda,T.et al.,1983,Nucleic Acids Res.11:7317-7330)(図1)。挿入は、PCRを介した重複プライマー伸長法(Ho,S.N.et al.,1989,Gene 77:51-59)による部位特異的変異導入法を用い、本質的には文献(Hasan,M.K.et al.,1997,J.Gen.Virol.78:2813-2820)に従い行った。簡潔に述べると、重複している18ヌクレオチドの末端を有する2つのプライマー(NmF;5'-gagggcccgcggccgcga1699TACGAGGCTTCAAGGTACTT1718-3'/配列番号:2およびNmR;5'-tcgcggccgcgggccctc1698TGATCCTAGATTCCTCCTAC1670-3'/配列番号:3)、それに2つの外側プライマー(OP1,5'-61CAAAGTATCCACCACCCTGAGGAGCAGGTTCCAGACCCTTTGCTTTGC106-3'/配列番号:4およびOP2,5'-2467TTAAGTTGGTVAGTGACTC2449-3'/配列番号:5)を合成した。鋳型にpSeV(+)を用いて、まずOP1/NmFプライマー対、およびOP2/NmFプライマー対でPCRを行い、それぞれ1.6Kbおよび0.8Kbの断片を得た。精製した1.6Kbおよび0.8Kbの断片を鋳型に、OP1/OP2プライマー対を用いて第2のPCRを行い、先の18ヌクレオチドを含む2.4Kbの単一のバンドを得た。2.4Kbの断片を精製して、SphIとSalIで切断した。pSeV(+)プラスミドをこれらの酵素によって、それぞれ、SeVゲノムの610位と2070位に対応する位置で切断した。得られた1.47Kbの断片の配列を、自動DNAシーケンサーAFLII(Pharmacia,Uppsala)を用いて確認し、もともとのpSeV(+)の対応する断片と置換した。このようにして、N ORFの下流にユニークな(唯一の)制限酵素部位を含むpSeV18c(+)を構築した。
これによって得られたNotI部位を含む18ヌクレオチドの挿入を持つプラスミドからは、親プラスミドpSeV(+)と同様に組換えウイルスの再構築が可能であり、生成したウイルスの感染性や複製能もpSeV(+)と同様であった。
1−2. さまざまな転写開始配列で制御されるルシフェラーゼ遺伝子のベクターへの挿入
pHVlucRT4(-)(Kato,A.et al.,1996,Genes to Cells 1:569-579)に含まれるホタル(Photinus pyralis)由来のルシフェラーゼ遺伝子を、4種の異なる転写開始配列を含む以下の4つのプライマー対を用いたPCRで増幅した。すなわち、4つの順方向プライマー(ESp;5'-TTgcggccgcGTAAGAAAAACTTAGGGTGAAAGTTCACTTCACGATGGAAGACGGCAAAAACAT-3'/配列番号:6、ESn;5'-TTgcggccgcGTAAGAAAAACTTAGGGTcAAAGTTCACTTCACGATGGAAGACGGCAAAAACAT-3'/配列番号:7、ESf;5'-TTgcggccgcGTAAGAAAAACTTAGGGatAAAGTTCACTTCACGATGGAAGACGGCAAAAACAT-3'/配列番号:8、およびESl;5'-TTgcggccgcGTAAGAAAAACTTAGGGTGAAtGTTCACTTCACGATGGAAGACGGCAAAAACAT-3'/配列番号:9)、それに1つの共通の逆方向プライマー(NotLr;5'-TCgcggccgcTATTACAATTTGGACTTTCCG-3'/配列番号:10)を増幅に用いた。下線を引いた領域は、それぞれ、SeVの新しい転写終結配列と転写開始配列のセットで、保存された介在(intergenic)トリヌクレオチドを間に持つ。下線のない小文字はNotI制限酵素認識部位を表す。下線部の小文字はそれぞれのプライマーにユニークなヌクレオチドを示す。ESp/NotLr、ESn/NotLr、ESf/NotLr、およびESl/NotLrプライマー対で増幅した1.7Kbの断片を精製し、NotIで切断し、pSeV18c(+)のNotI部位に直接導入した(図1)。最終構築物は用いた転写開始配列に従い、それぞれpSeV(+)SpLuc、pSeV(+)SnLuc、pSeV(+)SfLuc、およびpSeV(+)SlLucと名付けた。
1−3. cDNAからのウイルスの再構築
cDNAからのウイルスの再構築は、本質的には文献(Kato,A.et al.,1996,Genes to Cells 1:569-579)に記載の方法に従った。簡単に述べると、直径6cmのプレートにLLCMK2細胞を2×106で播き、2PFU/cell1のmoiでワクシニアウイルス(vaccinia virus;VV)vTF7-3(B.Moss博士より供与(Fuerst,T.R.et al.,1986,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 83:8122-8126))を感染させた。その後、親株または変異を導入したpSeV(+)10μgと、トランスに作用するタンパク質群をコードするプラスミド、pGEM-N(4μg)、pGEM-P(2μg)、およびpGEM-L(4μg)(Kato,A.et al.,1996,Genes to Cells 1:569-579)を、リポフェクション試薬DOTAP(Boehringer-Mannheim,Mannheim)を用いて同時にトランスフェクトした。VVの細胞毒性が最小となり、再構築の比率が最大になるよう、細胞は40μg/mlのaraC(1-β-D-arabinofuranosylcytosine)と100μg/mlのリファンピシンを含む、血清不含のMEMにて維持した。トランスフェクション40時間後に細胞を回収し、冷凍と解凍を3回繰り返し細胞を破砕し、10日目の発育鶏卵に接種した。接種3日後、しょう尿液を回収した。回収したウイルスの力価は、文献(Kato,A.et al.,1996,Genes to Cells 1:569-579)に従い測定し、赤血球凝集価(HAU)とPFU/mlで表した。108から109pfu/mlの回収したSeVを含む卵のしょう尿液中に含まれるヘルパーVVは、しょう尿液を10-7に希釈し、卵で2回目の継代を行って除去した。この2回目の継代をした溶液を-80℃で保存し、全ての実験において、種ウイルスとして使用した。
1−4. 細胞培養とウイルスの感染
サル腎臓由来の細胞株LLCMK2およびCV1は、10%のウシ胎児血清を含む最小必須培地(MEM)で37℃で培養した。これらの細胞の単層培養に、cDNAから再構築させた変異型ウイルスをmoi 10 PFU/cellで感染させ、血清を含まないMEMで培養した。cDNAから再構築させた野生型SeV(Z株)(Kato,A.et al.,1996,Genes to Cells 1:569-579)も対照として用いた。
CV1細胞における複製を測定したところ、4種の組換えウイルスは、野生型に比べ複製速度が遅いとこが判明した。これは、おそらく追加された1,728塩基の遺伝子によるものと考えられる(Hasan,M.K.et al.,1997,J.Gen.Virol.78:2813-2820)。4種の組換えウイルスの中で、SeV/SfLucの複製が最も遅いことが判明した。
1−5. ルシフェラーゼ解析
それぞれの組換えSeVから発現されるルシフェラーゼの活性を比較した。6ウェルプレート中の5×105cells/ウェルのCV1細胞に様々な感染価でウイルス(1〜300pfu/細胞)を感染させ、SeVのルシフェラーゼ活性の発現を測定した。一回の増殖サイクルがまわる条件では、感染後0、6、14、20、および26時間に細胞を回収した。回収した細胞のルシフェラーゼ活性は、ルシフェラーゼアッセイキット(Promega,Madison)を用い、ルミノメーター(Luminos CT-9000D,Dia-Iatron,Tokyo)によって文献(Hasan,M.K.et al.,1997,J.Gen.Virol.78:2813-2820:Kato,A.et al.,1996,Genes to Cells 1:569-579)に記載の方法に従って計測した。
その結果、どの組換え体においても、感染時間と感染量に比例して、SeVから発現されるルシフェラーゼ活性の上昇が観察された。感染価(moi)10でCV1細胞に感染させた場合のルシフェラーゼ活性の変化を図3に示す。
これらの細胞を回収し、ルシフェラーゼcDNAをプローブとしてノーザンハイブリダイゼーションを行った。ノーザンハイブリダイゼーションは以下のように行った。細胞からTRIzol(Gibco BRL,N.Y.)を用いてRNAを抽出した。RNAをエタノールで沈殿させ、ホルムアミド/ホルムアルデヒド溶液中に溶解させた。これを0.9%アガロース−ホルムアミド/MOPSゲルで電気泳動し、Hibond-Nフィルター(Amersham,Buckighamshire)へキャピラリー・トランスファーを行った。フィルターは、multi-prime labeling kit(Amersham,Buckighamshire)で32Pラベルしたプローブを用いてハイブリダイゼーションを行った。ルシフェラーゼプローブとしては、NarI/HincII(1270bp)断片を、pHvlucRT4(Kato,A.et al.,1996,Genes to Cells 1:569-579)から精製して用いた。その結果、ルシフェラーゼmRNAはモノシストロニックmRNAとして合成されることが確認された。
これらのことから、ルシフェラーゼORFの直前に挿入した合成された転写終結配列および転写開始配列は、ウイルスのRNAポリメラーゼにより正しく認識されることが実証された。しかしながら、これら4種のウイルスを感染させた細胞におけるルシフェラーゼ活性の値は、同じ条件にも関わらず異なっていた。感染26時間後においては、SeV/SlLusに感染した細胞が最も高い活性を示し、SeV/SfLucに感染した細胞が最も低い活性を示した(図3)。SeV/SpLucとSeV/SnLucはSeV/SlLucよりも感染26時間後においてわずかに低い活性を示した。しかし、この差は感染14時間後および感染20時間後では見られなかった。このことから、Sp、Sn、およびSlの再開始能は同等であると考えられる。
[実施例2]組換えウイルスからの初期転写量の比較
実施例1で観察された4種の組換えSeV間の発現量の相異が主に転写レベルの違いによるものなのか、それとも複製過程によるものなのかを調べるため、CV1細胞に組換えウイルスを感染させ、シクロヘキシミドを添加する実験を行った。シクロヘキシミドは蛋白質合成を阻害するため、新規なウイルス蛋白質の合成が必要なウイルス複製は阻害される。このような条件下では、ウイルス粒子に内在するRNAポリメラーゼによりウイルスの初期(primary)転写のみが行われる。
実施例1と同様にCV1細胞に組換えウイルスをmoi=100で感染させ、感染細胞を100μg/mlのシクロヘキシミド(Sigma,St.Louis)存在下で12時間インキュベートした。細胞を回収後、上記の通りウイルスRNAを調製し、ルシフェラーゼcDNAをプローブとしてノーザンハイブリダイゼーションを行った(図4上)。別の細胞では、さらにシクロヘキシミド非存在下で0、2、および4時間インキュベートして蛋白質を合成させ、ルシフェラーゼ活性を測定した。
その結果、いずれの組換えウイルスを感染させた細胞でも、シクロヘキシミドを除いてからのインキュベーション時間が長くなるほど、ルシフェラーゼ活性の増加が見られた。しかしここでも、SeV/SfLucが他の3つに比べルシフェラーゼの発現が有意に低かった(図4下)。各ウイルスを感染させた細胞でのルシフェラーゼmRNA量は、ルシフェラーゼ活性とよく相関していた。4時間後のルシフェラーゼ活性を、6つの遺伝子のうち3つで共通しているSeV/SpLuc型の転写開始配列での値で標準化した。その結果、SeV/SnLucおよびSeV/SlLuc感染細胞のルシフェラーゼ活性は、それぞれ0.86および1.19であり、SeV/SpLucとほぼ同等であった。それに対し、SeV/SfLucに感染した細胞での値は対照のわずか0.24であった。
これらの結果から、F遺伝子の発現に用いられているシグナルは、他の転写開始配列に比べ再開始能が低いことが強く示唆される。
[実施例3]F遺伝子の転写開始配列が改変されたSeV変異体
上記の結果は、天然のSeVゲノムではF遺伝子の転写が抑制的に調節されていることを示唆している。これをさらに調べるため、F遺伝子の転写開始配列をP/M/HN遺伝子型に改変した変異体SeV(SeV/mSf)を以下のようにして作成し、その複製を野性型と比較した。
3−1. F遺伝子の転写開始配列が改変された全長SeV cDNAの変異体の作製
以下のようにF遺伝子の転写開始配列上に変異を導入し、2つのヌクレオチドを置換した。まず、pSeV(+)を、BanIIIを用いてSeVゲノム上の2088位と5333位を切断し、3.4Kbの断片をpBluescript KS(+)(Stratagene,La Jolla)の同じ制限酵素認識部位に再クローン化し、pB/BanIIIを作製した。その後、PCR-mediated重複プライマー伸長法(Ho,S.N.et al.,1989,Gene 77:51-59)を用いて、上記したのと同時に部位特異的変異を導入した。簡単に述べると、2つのプライマー(mGS1F;5'-4810CTTAGGGTGAAAGTCCCTTGT4830-3'/配列番号:11およびmGS1R;5'-4830ACAAGGGACTTTCACCCTAAG4810-3'/配列番号:12)と2つの外側プライマー(M1F;5'-3931TACCCATAGGTGTGGCCAAAT3961-3'/配列番号:13およびT7;5'-TAATACGACTCACTATAGGGC-3'/配列番号:14)を合成した。下線を付けた文字は、変異を導入した部位を表す。最初のPCRは、鋳型としてpB/BanIIIを用い、M1F/mGS1Rプライマー対およびT7/mGS1Fプライマー対で行い、それぞれ0.9Kbおよび0.6Kbの断片を得た。これらの2つの断片を精製し、鋳型として用いて、2回目のPCRをM1F/T7プライマー対で行い、2つのヌクレオチドの変異を有する、1.5Kbの単一の断片を得た。この断片を精製し、BanIIIで切断し、pSeV(+)の同じ制限酵素認識部位に再クローン化し、pSeV(+)mSfを作製した。クローン化した配列は、塩基配列を決定して確認した。cDNAからのウイルスの再構築は、実施例1と同様にして行った。
このウイルスの増殖をCV1細胞を用いて調べたところ、SeV/mSfは野生型SeVよりも速く増殖することが判明した(図5)。トリプシン非存在下では丸い細胞やはがれた細胞が観察され、またプロテオリシスによりF糖蛋白質を活性化する外来のトリプシン存在下では、融合した細胞が、変異型において有意に多く観察された。これらのことから、SeV/mSfにおいては細胞傷害性が増加していることが明らかとなった(図6)。
3−2. SeV/mSfの遺伝子群の発現
野生型SeV、および変異SeV(SeV/mSf)をmoi=10で感染させたCV1細胞の、感染後さまざまな時間におけるmRNAレベルを、実施例1と同様のノーザンブロッティングにより調べた。ただし、センダイウイルスのNプローブについては、PstI/PvuI(1189bp)断片をpGEM-Nから精製して用いた。Pプローブに関しては、SmaI/SmaI断片の792bpをpGEM-Pから精製して用いた。M、F、HN、およびLプローブに関しては、それぞれNdeI/NdeI(878bp)、BamHI/BamHI(902bp)、ScaI/ScaI(1108bp)、およびBamHI/BamHI(1654bp)断片を、pSeV(+)から精製して用いた。
図7に示すように、SeV/mSfのFおよびL転写産物は、野生型を感染させた場合と比べ早く検出され、明らかに高いレベルに達した。PおよびN転写産物も、SeV/mSf感染の方が早く検出されたが、ピークのレベルは野生型と同程度であった。
感染細胞におけるウイルス蛋白質の発現を確認するため、抗SeV抗体を用いたウェスタンブロッティングにより解析した。すなわち、6ウェルのプレートで増殖させたCV1細胞(2×105)に、野生型またはSeV/mSfを10moiで感染させ、感染後、さまざまな時間に細胞を回収した。遠心分離により細胞を沈殿させ、細胞のペレットを溶解後に12.5%のSDS-PAGE(Laemmli,U.K.,1970,Nature 227:680-685)で解析し、抗SeVウサギ血清を用いて、文献(Kato,A.et al.,1995,Virology 209:480-488;Kato,A.et al.,1996,Genes to Cells 1:569-579)に記載の方法に従いウェスタンブロッティングを行った。その結果、SeV/mSf感染細胞でのF0蛋白質のレベルは、感染後のいずれの時点においても野生型よりも有意に高かった(図8)。下流の遺伝子産物であるHNおよびLはこの実験では十分に分離できなかった。
転写レベルを直接比較するため、野生型SeVまたはSeV/mSfのいずれかに感染させた細胞をシクロヘキシミド処理により新規の蛋白質合成をブロックした後にRNAを抽出し、上記のノーザンハイブリダイゼーションにより解析した。ハイブリダイズしたバンドに含まれるウイルスゲノムRNAの放射性活性を、BAS2000イメージアナライザー(Fujifilm,Tokyo)を用いて解析した。その結果、変異SeVにおいてFおよびL遺伝子の発現が増強され、NおよびP遺伝子は増強されないという現象が観察された(図9)。これらの結果から、天然のF遺伝子転写開始配列の再開始活性は低く、F遺伝子やその下流の遺伝子群の発現が抑制的に調節されていることが裏付けられた。そして、F遺伝子の転写開始配列を高い効率の転写開始配列に置換することで、F遺伝子のみならず、その下流の遺伝子群の転写レベルも上昇させられることが示された。SeV/mSfにおいては、おそらくL遺伝子の発現が増強されたため、感染の全過程において、変異型では野生型に比べビリオン(v)RNAのレベルが上昇したと考えられる(図7)。図7からわかるように、変異株SeVの感染でmRNAがより早く検出されたが、これはL遺伝子の発現が増加したためと思われる。
[実施例4]発育鶏卵での野生型SeVとSeV/mSfの連続共継代
CV1細胞では、図5に示したように、1段増殖試験の場合にはSeV/mSfに比べ野生型の方が複製速度が遅かったが、ゆっくりと多段増殖する場合には、天然に見られるようにF遺伝子やその下流の遺伝子群の転写が抑制的に調節さている方が、人工的に上方に調節するように作出したものよりも有利であることも考えられる。そこで、野生型SeVおよびSeV/mSfの2つのウイルスを卵で連続共継代(successive co-passage)して多段増殖させる条件で、一方が他方を駆逐するかを調べた。
まず2つの発育鶏卵に、SeV/mSfおよび野生型SeVを、それぞれ104pfu/eggおよび104pfu/eggで同時に接種した(104:104接種)。別の実験ではSeV/mSfおよび野生型SeVを、それぞれ104pfu/eggおよび102pfu/eggで同時に接種した(104:102接種)。接種後3日毎にしょう尿液を回収し、10-6に希釈後、0.1mlを新しい卵へ再接種した。これらの再接種は10回まで続けた。各しょう尿液からTRIzol/LS(Gibco BRL,N.Y.)を用いて、実施例1と同様にウイルスRNAを抽出し、2組の特異的なプライマー対を用いた1ステップRT-PCR法により増幅し、しょう尿液中の増殖したウイルスを、特異的なプライマー対を用いたRT-PCRにより半定量的に測定した。1つのプライマー対は、F遺伝子に野生型転写開始配列(AGGGatAAAg)をもつ断片のみを増幅することができ、他方のプライマー対は変異型転写開始配列(AGGGtgAAAg)をもつ断片のみを増幅するようにした(図10A)。具体的には、しょう尿液25μlから抽出したRNAを、SuperscriptII(Gibco BRL,N.Y.)を用いて50℃で30分間、HvMプライマー(5'-4448TTTTCTCACTTGGGTTAATC4467-3'/配列番号:15)で逆転写させ、2分間94℃で熱変性させた。SeV/mSfの検出についてはプライマーHvMおよびGS2WR(5'-4836GCACTCACAAGGGACTTTca4817-3'/配列番号:16)を用いて、また野生型SeVの検出についてはプライマーHvMとGS2MR(5'-4836GCACTCACAAGGGACTTTat4817 -3'/配列番号:17)を用いて、文献(Kato,A.et al.,1997,EMBO J.16:578-587;Kuronati,A.et al.,1998,Genes Cells 3:111-124)に記載の方法に従って、cDNAをPCRにより増幅した。小文字は変異させた2ヌクレオチドを示す。それぞれに特異的な産物は、アガロースゲルでの電気泳動により上記に記載の通り解析した。
図10Bに示すように、104:104の接種においては、野生型ゲノムは8回目の継代で消失し、104:102の接種においては、5回目で消失することが判明した。対照実験では、各ウイルスを個別に継代し、ゲノム配列を決定した。その結果、これら2種のゲノムは安定であり、10回の継代の間、配列を決定した領域に塩基の変異は見られなかった。これらのデータは、天然のF遺伝子の転写開始配列は、少なくとも卵(in ovo)を用いた多段増殖試験においてはSeVの複製に有利ではないことを示している。
[実施例5]マウスにおけるSeV/mSfの病原性
自然の宿主であるマウスでのSeVの感染による個体レベルの病原性の発揮には、培養細胞や卵に比べはるかに複雑な条件が必要である。そこでマウスにおいて変異SeV/mSfが野生型よりも早く複製し、より高い病原性を示すかを調べた。
SPF(specific pathogen-free)の3週齢BALB/cマウスおよび4週齢のヌードマウスBALB/c(nu/nu)を日本Charles-Riverから購入し、ウイルス感染実験に供した。マウスをエーテルで軽く麻酔し、野生型またはSeV/mSfを104、105、106、107、または108pfu/マウスで鼻腔内に感染させた(Kiyotani,K.et al.,1990,Virology 177:65-74)。マウスの体重は14日目まで1個体ごとに毎日計測した。104pfuを接種したBALB/cおよびヌードマウスについては、感染後0、1、3、5、7、および9日目に、それぞれのグループから3匹のマウスを取りだし、屠殺して肺内ウイルスの力価を測定した。肺の病変スコアも同時に決定した(Kato,A.et al.,1997,EMBO J.16:578-587)。その結果を図11に示す。
107pfuのウイルスを接種した場合、どちらのウイルスの接種もマウスの体重増加を強く阻害した。どちらのウイルスの場合も、感染後似たような日数ですべてのマウスが死亡した。106pfuの接種では2種のウイルスに有意な違いが見出された。SeV/mSfの感染は野生型の感染に比べ、体重増加に対しより強い影響を示した。SeV/mSfの接種ではすべてのマウスが死亡したが、野生型の接種では死亡したのは1個体のみで残りは再び体重が増加した。105pfuの接種では、野生型を接種したすべてのマウスで非接種マウスと同等の体重増加を示し生存したが、SeV/mSfの接種ではあいかわらず体重増加が阻害され、半数以上のマウスが死亡した。従って、SeV/mSfは野生型よりも病原性が高いことが明らかとなった。病原性の違いを50%致死となる用量(LD50)で定量化したところ、野生型では1.78×106pfuであり、SeV/mSfでは、7.94×104pfuであった(表1)。従って、BALB/c系統においては、変異SeVは野生型よりも22倍病原性が高いことが判明した。
Figure 0003748535
細胞傷害性Tリンパ球(CTL)はSeVの病原性を2つの方法で改変する。すなわちCTLは、一方では身体からウイルスを消滅または消失させるように働き、他方では免疫病理学的過程による病状の進行を加速するように働く。すなわち、BALB/cマウスでの実験結果は、変異SeVがマウス個体内で高い増殖性を示したことによる直接的効果よりも、結果的により強い免疫を誘導したために間接的に病状が悪化した可能性が考えられる。そこで、胸腺欠損nudeマウスにおける野生型ウイルスと変異ウイルスの病原性を調べ、免疫誘導による病原性悪化の可能性の否定を試みた(図11)。その結果、各ウイルスのLD50はnudeマウスと親の正常マウスとの間に違いが認められず、nudeマウスにおいても2つのウイルスで同程度(〜40倍)の違いが認められた(表1)。これらの結果から、少なくともLD50に基づく限り、観察期間(14日)の間は、野生型ウイルスおよび変異ウイルス両者の病原性にCTLは主要な役割を果たしていないことが示唆される。しかしながら、野生型ウイルスおよび変異ウイルス両者共、親マウスではウイルスが消失した後にも、nudeマウスでは全過程で肺内にウイルスが存続していた(図12)。これらの結果は、CTLおよび他の胸腺依存的な応答が、ウイルスの病理において少なくとも部分的な役割を果たしていることを示唆する。
以上の結果から、天然のF遺伝子の転写開始配列はSeVの複製をある程度抑制することで感染したマウスをより長期間生存できるようにしていることが示唆される。
産業上の利用の可能性
本発明により転写開始配列が改変されたパラミクソウイルス科ウイルスベクターが提供された。本発明のウイルスベクターは、転写開始配列の改変により、野生型ウイルスと比較して、ゲノム上の遺伝子の転写レベルが改変されている。これらのウイルスは、増殖力を上昇させるために、また所望の外来遺伝子の発現を上昇させるために有用である。このようなウイルスベクターは、産物の生産効率が向上するという利点を有する。逆に、あまり高い発現が好ましくない蛋白質の場合には、F遺伝子の転写開始配列のような再開始活性の低い転写開始配列の下流に該蛋白質をコードする遺伝子を連結することで発現量を制限することが可能である。また、医薬品組成物やワクチンとして、組換えウイルス粒子またはウイルス様粒子を回収する場合、増殖力が上昇するように転写開始配列が改変されたゲノムを持つウイルスでは、短期間で多量のウイルスを回収することが可能であるという利点を有している。
【配列表】
Figure 0003748535
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Claims (18)
Hide Dependent

  1. パラミクソウイルス科ウイルスのゲノム上の少なくとも1つの遺伝子の転写開始配列が、パラミクソウイルス科ウイルスの他の遺伝子の転写開始配列へ置換されることにより、宿主内における該遺伝子およびその下流の遺伝子の発現量が改変された、ウイルスベクターDNA。
  2. 転写開始配列の置換が、 L 遺伝子、 P/M/HN 遺伝子、または N 遺伝子の転写開始配列の、 F 遺伝子の転写開始配列への置換である、請求項1に記載のウイルスベクター DNA
  3. 転写開始配列の置換が、F遺伝子の転写開始配列の、他の遺伝子の転写開始配列への置換である、請求項1に記載のウイルスベクターDNA。
  4. 他の遺伝子の転写開始配列がP/M/HN遺伝子型の転写開始配列である、請求項3に記載のウイルスベクターDNA。
  5. F遺伝子および/またはHN遺伝子が欠損している、請求項1から4のいずれかに記載のウイルスベクターDNA。
  6. 外来遺伝子が挿入されている、請求項1から5のいずれかに記載のウイルスベクターDNA。
  7. 請求項1から6のいずれかに記載のウイルスベクターDNAからの転写産物をウイルス粒子内部に含む、パラミクソウイルス科ウイルスベクター。
  8. センダイウイルスベクターである、請求項7に記載のベクター。
  9. 天然型ウイルスと比較して宿主における増殖能力が高まっている、請求項7または8に記載のベクター。
  10. 請求項1から6のいずれかに記載のウイルスベクターDNAを人体を除く宿主に導入し、該宿主内でウイルスタンパク質を発現させる工程を含む、パラミクソウイルス科ウイルスベクターの調製方法。
  11. パラミクソウイルス科ウイルスがセンダイウイルスである、請求項10に記載の方法。
  12. パラミクソウイルス科ウイルスの遺伝子の転写レベルを上昇させる方法であって、 F 遺伝子の転写開始配列を、 L 遺伝子、 P/M/HN 遺伝子、または N 遺伝子の転写開始配列に置換することを含む方法。
  13. パラミクソウイルス科ウイルスの遺伝子の転写レベルを低下させる方法であって、 L 遺伝子、 P/M/HN 遺伝子、または N 遺伝子の転写開始配列を、 F 遺伝子の転写開始配列に置換することを含む方法。
  14. パラミクソウイルス科ウイルスがセンダイウイルスである、請求項12または13に記載の方法。
  15. パラミクソウイルス科ウイルスの F 遺伝子の転写開始配列を有する外来遺伝子を含む、パラミクソウイルスベクター DNA
  16. F HN 、および/または M 遺伝子が欠損している、請求項15に記載のウイルスベクター DNA
  17. 請求項15または16に記載のウイルスベクター DNA からの転写産物をウイルス粒子内部に含む、パラミクソウイルス科ウイルスベクター。
  18. センダイウイルスベクターである、請求項17に記載のベクター。