明 細 書
ブラシレスモータの起動方法および駆動装置並びに冷蔵庫
技術分野
[0001] 本発明は、卷線を有するステータと永久磁石を有するロータとを備えたブラシレスモ ータの起動方法および駆動装置、並びにブラシレスモータをコンプレッサの駆動手 段として用いた冷蔵庫に関する。
背景技術
[0002] 従来より、冷蔵庫や空気調和機などの冷凍サイクルにおいて、レシプロ式のコンプ レッサが採用されている。現在では、このコンプレッサを直流ブラシレスモータで駆動 することが主流となっている。
[0003] このブラシレスモータは、複数相の卷線が卷回されたステータと、永久磁石を備え た複数極のロータとから構成されている。コンプレッサの内部は、高温、高圧となるた め位置センサを取り付けることが難しい。このため、卷線の電流または電圧に基づい てロータの回転位置を検出し、その検出位置に基づいて回転制御を行うセンサレス 駆動装置が用レ、られている。
[0004] このセンサレス駆動装置は、ブラシレスモータの停止状態においてロータの位置を 検出することができない。そこで、センサレス駆動装置は、ブラシレスモータを起動す るときに、位置情報を用いることなぐ予め設定された通電パターンに基づいて卷線 に電流を流し、ロータを所定の回転速度にまで加速させる強制転流を行う。この場合 、ロータの急激な回転移動を防止するため、例えば日本国公開特許公報昭和 61年 第 1290号に開示されているように、直流励磁によりロータを初期位置に回転移動さ せてから上記強制転流を行うようにしている。
[0005] 具体的には、センサレス駆動装置は、直流励磁の電流を徐々に上昇させ、ロータを 初期位置に回転移動させる。そして、予め設定された電流値まで上昇させた時に、口 ータが初期位置まで回転移動していると見做して、この電流値のまま上記強制転流 に移行する。
[0006] この起動方法によれば電流値の急激な変化を低減できることから、ロータの急激な
回転移動を低減でき、起動時の脱調を防止し易くなる。
発明の開示
発明が解決しょうとする課題
[0007] し力しながら、停止しているロータを直流励磁により初期位置に回転移動させる場 合、発生磁界の向きと磁極との位置関係によっては、初期位置に回転移動させること ができなかったり、直流励磁から強制転流への移行直前にロータが急激に回転移動 して脱調することがあった。以下、この現象について図 14ないし図 16を参照しながら 説明する。
[0008] これらの図は、レシプロ式コンプレッサのシリンダ内におけるピストンの位置と、 4極 のブラシレスモータのロータ位置との関係を模式的に示している。ロータ 201には、 回転軸からずれた位置にクランクピン 202が固定されている。このクランクピン 202は 、リンク 203を介してシリンダ、室 204内のピストン 205と連結されてレ、る。
[0009] 上述したロータ 201の初期位置 Xは、ロータ 201の S極に対応してロータ 201に取り 付けられたクランクピン 202が、図中 XIまたは X2の位置にある状態である。ステータ の卷線を直流励磁して XI方向および X2方向に N極の磁界を発生させると、ロータ 2 01は位置 XI、 X2の何れかの方向に回転する。図 14では CW方向に回転し、クラン クピン 202の位置(以下、ロータ位置と称す)が初期位置 XIに移動する。
[0010] これに対して、図 15に示すように、 S極に対応したクランクピン 202が、位置 XIと X2 の中間点 zに停止していた場合、直流励磁を行い卷線の電流を所定の電流値まで 増加させても、磁力のつり合いによってロータ 201が回転移動できないことがある。
[0011] この場合であっても、センサレス駆動装置は、直流励磁の電流を所定の電流値まで 増加させた時に、ロータ 201が初期位置 XIまたは X2で停止しているものと見做して 強制転流に移行する。このため、強制転流によりロータ 201を例えば CW方向に回転 させる場合には、強制転流への移行直後に、 N極の磁界が XI— X2方向(破線で示 す)から X3— X4方向(二点鎖線で示す)に移動し、中間点 Zで停止しているロータ 20 1はー且位置 X2 (X4)の方向(CCW方向)に引き寄せられる。
[0012] その結果、強制転流直後に磁界の回転方向とロータ 201の回転方向とが逆になり 、脱調する虞があった。また、脱調しなくても、ロータ 201の急激な速度変化によって
振動が生じ、ロータ 201を保持する図示しないフレームがコンプレッサの密閉ケース に衝突して異音が生じることがあった。
[0013] さらに、図 16に示すように、ロータ 201の停止位置が中間点 Zの近傍位置 Rである 場合もある。この場合にも、直流励磁を開始した直後は磁力のつり合いによってロー タ 201は停止している。しかし、電流を所定値例えば 1. 7A以上まで上昇させると、 位置 XIの磁界(N極)とロータ 201の S極との間に作用する磁力と、位置 X2の磁界( N極)とロータ 201の S極との間に作用する磁力との差が大きくなる。このため、ロータ 201は、位置 XIまたは X2のうち近い方向(図 16では CW方向)に回転する。この回 転開始時の電流値は既に大きくなつているので、ロータ 201の磁極に作用する磁力 が大きぐロータ 201が急激に回転移動する。その結果、ロータ 201の急激な速度変 化による振動が生じ、ロータ 201を保持するフレームがコンプレッサの密閉ケースに 衝突して異音が生じることがあった。
[0014] 本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的は、確実に起動できるブラシ レスモータの起動方法および駆動装置を提供すること、並びにコンプレッサを駆動す るブラシレスモータに対し当該起動方法を適用した冷蔵庫を提供することにある。 課題を解決するための手段
[0015] 上記課題を解決するため、本発明のブラシレスモータの起動方法は、
卷線を有するステータと永久磁石を有するロータとを備えたブラシレスモータの起 動方法であって、
前記卷線に対して直流励磁を行うことにより前記ロータを予め定められた初期位置 に回転移動させる初期位置移動ステップと、
前記卷線に対し予め設定された通電パターンに従って通電することにより、前記口 ータを前記初期位置から回転させる強制転流ステップと、
前記卷線の電流または電圧を用いて推定した前記ロータの回転位置に基づく回転 制御に移行する移行ステップとからなり、
前記初期位置移動ステップは、前記初期位置から離間した予備励磁位置に前記口 ータが回転移動するように、前記直流励磁の電流を第 1電流値まで上昇させる第 1ス テツプと、前記ロータが前記予備励磁位置から前記初期位置に回転移動するように、
前記直流励磁の電流を前記第 1電流値よりも大きい第 2電流値まで上昇させる第 2ス テツプとからなることを特徴とする。
[0016] また、本発明の冷蔵庫は、ブラシレスモータと、このブラシレスモータにより駆動され るレシプロ式のコンプレッサとを備えた冷蔵庫であって、
前記ブラシレスモータの起動時において、予め定められた初期位置から離間した 予備励磁位置に前記ロータが回転移動するように前記卷線の電流を第 1電流値まで 上昇させる直流励磁制御を行い、その後、前記ロータが前記予備励磁位置から前記 初期位置に回転移動するように前記卷線の電流を前記第 1電流値よりも大きい第 2 電流値まで上昇させる直流励磁制御を行い、その後、前記ロータが前記初期位置か ら回転するように強制転流制御を行う制御手段を備えたことを特徴とする。
発明の効果
[0017] 本発明によれば、ブラシレスモータの起動時にロータを確実に初期位置に回転移 動させた状態で強制転流に移行することができるので、振動や脱調を防止して確実 に起動することができる。
図面の簡単な説明
[0018] [図 1]図 1は第 1の実施形態を示すモータの起動タイムチャートである。
[図 2]図 2は駆動装置のブロック構成図である。
[図 3]図 3はコンプレッサの縦断面図である。
[図 4]図 4はロータの磁極とステータ卷線との位置関係を模式的に示す図である。
[図 5]図 5は冷蔵庫の縦断面図である。
[図 6]図 6は三相の電流と二相の電流との関係を示すベクトル図である。
[図 7]図 7は α β軸の電流と dq軸の電流との関係を示すベクトル図である。
[図 8]図 8はロータの停止位置と電流値との関係を示す図である。
[図 9]図 9は 4極のモータについて予備励磁位置の範囲を示す説明図である。
[図 10]図 10はロータが初期位置の中間点に停止している状態を示す説明図である。
[図 11]図 11はロータを予備励磁位置に回転移動させた状態を示す説明図である。
[図 12]図 12はロータを初期位置に回転移動させた状態を示す説明図である。
[図 13]図 13は第 2の実施形態を示すモータの起動タイムチャートである。
[図 14]図 14はロータが初期位置に回転移動する状態を示す説明図である。
[図 15]図 15はロータが初期位置の中間点に停止している状態を示す説明図である。
[図 16]図 16はロータが初期位置近傍に停止している状態を示す説明図である。 発明を実施するための最良の形態
[0019] (第 1の実施形態)
以下、本発明の第 1の実施形態について図 1ないし図 12を参照しながら説明する。 図 5は、冷蔵庫の縦断面図である。冷蔵庫本体 1は、断熱箱体 2内に上段力 順に 、冷蔵室 3、野菜室 4、切替室 5および冷凍室 6を有して構成されている。冷蔵庫本体 1の前面開口部には、上段から順に、各貯蔵室 3— 6の扉 7— 10が設けられている。 なお、特に図示しないが、製氷室が切替室 5に併設されている。
[0020] 冷蔵室 3の背面および冷凍室 6の背面には、それぞれ冷凍サイクルを構成する冷 蔵室用冷却器 12 (以下、 Rエバと称す)、冷凍室用冷却器 14 (以下、 Fエバと称す) が設けられており、その各上部には、それぞれ冷蔵室用ファン 11、冷凍室用ファン 1 3が設けられている。ファン 11、 13が運転されると、 Rエバ 12、 Fエバ 14により生成さ れた冷気が各室に供給され、各室の設定温度に応じた冷却が行われる。
[0021] 冷蔵庫本体 1の背面底部には機械室 15が設けられている。その内部には、レシプ 口式のコンプレッサ 16、コンプレッサ駆動用のブラシレスモータ 17 (以下、モータと称 す)を制御する駆動装置 18などが設けられている。
[0022] 図 3は、レシプロ式のコンプレッサ 16の縦断面図である。以下、このコンプレッサ 16 の構造について説明する。
コンプレッサ 16の密閉ケース 19内の上下方向ほぼ中間部には、フレーム 20がスプ リング 21を介して弾性的に支持されている。フレーム 20の上にはコンプレッサ機構部 22が配設され、フレーム 20の下方にはモータ 17が配設されている。また、フレーム 2 0の中心部には枢支用孔 23が設けられており、主軸である回転軸 24が回転自在に 嵌め込まれている。
[0023] この回転軸 24の上端部には、鍔部 25がー体に形成されている。この鍔部 25の上 部には、クランクピン 26が回転軸 24の中心軸に対して偏心した状態で固定されてい る。回転軸 24が回転すると、鍔部 25はフレーム 20の上面と摺接した状態で回転し、
クランクピン 26は回転軸 24に対して偏心回転するようになっている。
[0024] コンプレッサ機構部 22にはシリンダ 27が設けられており、シリンダ室 28には往復運 動可能なようにピストン 29が収容されている。ピストン 29と上記クランクピン 26とは、リ ンク 30により連接されている。すなわち、ピストン 29は、リンク 30の一端とボールジョ イント機構部 31を介して連結されており、リンク 30の他端 30aは、クランクピン 26に対 し回転自在に連結されている。この構成によれば、クランクピン 26が偏心回転すると 、リンク 30がボールジョイント機構部 31を支点として揺動運動をなし、ピストン 29はシ リンダ室 28内を往復運動する。
[0025] また、シリンダ 27の奥端部(図 3では左端)には、弁機構 33が設けられている。この 弁機構 33は、図示しない吸込室を介して冷媒ガスを吸い込み、図示しない吐出室を 介してシリンダ室 28で圧縮された高圧ガスを冷凍サイクル内に吐出するようになって いる。
[0026] モータ 17は、フレーム 20から下方に突出する回転軸 24に嵌着させたロータ 34と、 ステータ 35とから構成されている。ロータ 34には、永久磁石 32が埋め込まれている。 ロータ 34の外周面とステータ 35の内周面との間には、狭小の隙間(ギャップ)が設け られている。図 4は、モータ 17についてロータ 34の磁極とステータ 35の卷線 49との 位置関係を模式的に示した図である。モータ 17は直流ブラシレスモータであり、本実 施形態では三相 6スロット 4極の内転型モータである。
[0027] 次に、コンプレッサ 16の動作について説明する。
モータ 17への通電により回転軸 24が回転すると、クランクピン 26が回転軸 24と一 体に偏心回転する。この偏心回転は、リンク 30とボールジョイント機構部 31とを介し て、シリンダ室 28内におけるピストン 29の往復運動に変換される。
[0028] 密閉ケース 19内には、 Rエバ 12または Fエバ 14で蒸発した冷媒ガスが導かれる。
この冷媒ガスは、ピストン 29が下死点に向けて移動すると(吸込工程)、弁機構 33を 介してシリンダ室 28に吸い込まれる。
[0029] 逆にピストン 29が上死点に向けて移動すると (圧縮工程)、冷媒ガスは圧縮され、弁 機構 33を介して吐出管から冷凍サイクルに導かれる。こうして、モータ 17の回転によ り圧縮工程と吸込工程とが繰り返され、冷凍サイクル内の冷媒が循環され、各貯蔵室
3— 6が冷却されるようになっている。
[0030] 次に、モータ 17を回転制御する駆動装置 18の構成について説明する。
図 2は、駆動装置 18のブロック構成図である。駆動装置 18は、モータ 17に流れる 電流に基づレ、て回転位置を検出するレ、わゆるセンサレス駆動装置である。駆動装置 18は、インバータ回路 36、整流回路 37、 PWM形成部 38、 AZD変換部 39、 dq変 換部 40、速度検出部 41、速度指令出力部 42、速度 PI制御部 43、 d軸電流 PI制御 部 44、 q軸電流 PI制御部 45、三相変換部 46および初期パターン出力部 47を備え ている。
[0031] 駆動装置 18のうちインバータ回路 36と整流回路 37を除く部分および後述する主 制御部 48は、マイクロコンピュータにより構成されている。また、 d軸電流 PI制御部 44 、 q軸電流 PI制御部 45、三相変換部 46および PWM形成部は、電流制御部 55 (電 流制御手段)を構成してレ、る。
[0032] インバータ回路 36は、モータ 17を回転させる場合、モータ 17の三相(u相、 v相、 w 相)のステータ卷線 49u、 49v、 49wに三相の駆動電流を流す。このインバータ回路 36は、パワースイッチング半導体素子であるトランジスタ Trl一 Tr6 (本実施形態では IGBT)を直流電源線 50pと 50ηとの間にフルブリッジ接続した構成を備えている。下 アーム側のトランジスタ Tr4、 Tr5、 Tr6と直流電源線 50ηとの間には、それぞれ電流 を検出するためのシャント抵抗 Rl、 R2、 R3 (電流検出器)が接続されている。
[0033] 整流回路 37は、商用電源(例えば AC100V)である交流電源 51の交流電圧を整 流してインバータ回路 36に供給する。
PWM形成部 38は、後述する三相の電圧 Vu、 Vv、 Vwに基づいてパルス幅変調を 行レ、、トランジスタ Trl一 Tr6の各ゲートに PWM信号(転流信号)を出力する。
[0034] AZD変換部 39は、シャント抵抗 Rl、 R2、 R3の各電圧を入力し、それをアナログ 値からデジタル値に変換し、その A/D変換値に基づいて相電流 Iu、 Iv、 Iwを検出 する。
[0035] dq変換部 40は、 AZD変換部 39から出力された相電流 Iu、 Iv、 Iwを、磁束に対応 した電流成分である d軸(direct-axis)の電流 Idと、トルクに対応した電流成分である q 軸(quadrature-axis)の電流 Iqに変換する。この場合、まず(1)式に示す三相—二相
変換を行い、三相の電流 Iu、 Iv、 Iwを二相の電流 Ι α、 I iSに変換する。図 6は、三相 の電流と二相の電流との関係を示すベタトル図である。
[0036] [数 1]
[0037] 続いて、(2)式に示す dq座標変換を行レ、、二相の電流 Iひ、 1 /3を d軸電流 Idと q軸 電流 Iqに変換する。図 7は、二相の電流 I a、 I iSと d軸電流 Id、 q軸電流 ¾との関係を 示すベクトル図である。なお、 (1)式と(2)式に示す演算は、一度にまとめて行っても よい。
[0038] [数 2]
[0039] 速度検出部 41は、検出した d軸電流 Idと q軸電流 Iqとに基づいて、モータ 17のロー タ 34の回転角 Θを検出する。そして、この回転角 Θを微分することにより回転速度 ω を求める。
[0040] 主制御部 48は、各貯蔵室 3— 6の温度制御など冷蔵庫全般の制御を行うものであ る。主制御部 48は、 dq変換部 40から送られてきた q軸電流 Iqに基づいて速度指令 信号 Sを出力する。
[0041] 速度指令出力部 42は、主制御部 48から出力された速度指令信号 Sと速度検出部 41から出力された回転速度 ωとに基づいて、基準回転速度 co ref¾r生成し出力する。 基準回転速度 co refは、速度指令信号 Sに対してスケール変換およびリミット処理を行 なったものである。減算器 52は、基準回転速度 co ref¾ ら現在の回転速度 ωを減算し て差分量 (速度偏差)を出力する。
[0042] 速度 PI制御部 43は、上記速度偏差を入力して PI演算を行い、基準 d軸電流 Idrefと 基準 q軸電流 Iqrefとを出力する。減算器 53は、基準 d軸電流 Idrefi^ら検出した d軸 電流 Idを減算して d軸電流偏差を出力する。同様に、減算器 54は、基準 q軸電流 Iq re 検出した q軸電流 Iqを減算して q軸電流偏差を出力する。
[0043] d軸電流 PI制御部 44は、 d軸電流偏差を入力して PI演算を行レ、、基準 d軸電圧 Vd を出力する。同様に、 q軸電流 PI制御部 45は、 q軸電流偏差を入力して PI演算を行 レ、、基準 q軸電圧 Vqを出力する。
[0044] 三相変換部 46は、基準 d軸電圧 Vdと基準 q電圧 Vqを三相の電圧 Vu、 Vv、 Vwに 変換し、それを PWM形成部 38に出力する。この場合、まず(3)式に示す dq座標変 換を行い、基準 d軸電圧 Vdと基準 q電圧 Vqを二相の電圧 Vひ、 V j3に変換する。
[0045] [数 3]
[0046] 続いて、(4)式に示す三相- :相変換を行い、二相の電圧 V a、V j3を三相の電圧
Vu、 Vv、 Vwに変換する。
[0047] [数 4]
初期パターン出力部 47 (電流指令手段)には、コンプレッサ 16 (モータ 17)を起動 させる際の起動パターンが設定されている。駆動装置 18は、モータ 17の起動時に、 この設定された起動パターンに従って運転を開始するようになっている。ここで、起動 パターンとは、後述する初期位置移動ステップにおいて用いられる回転初期位置電 流 Idinitl、 Iqinitl (直流励磁指令電流)と強制転流ステップにおいて用いられる始動
d軸電流 Idinit2、始動 q軸電流 Iqinit2 (強制転流指令電流)の大きさ、持続時間、変 化率など起動に関するデータである。
[0049] 次に、停止状態にあるコンプレッサ 16の運転を開始するときの駆動装置 18による モータ 17の起動制御について図 1および図 8ないし図 12も参照しながら説明する。 図 10ないし図 12は、コンプレッサ 16のシリンダ室 28におけるピストン 29の位置と、モ ータ 17のロータ 34の位置との関係を模式的に示している。
[0050] 停止状態にあるモータ 17を起動して通常の速度制御状態に移行させるためには、 初期パターン出力部 47に設定されている起動パターンに従って、初期位置移動ステ ップ、強制転流ステップおよび速度制御移行ステップを順次実行する。
[0051] 初期位置移動ステップは、任意の位置に停止しているロータ 34を初期位置 X (図 1 0ないし図 12参照)に回転移動させるステップである。強制転流ステップは、回転位 置情報を用いることなく強制転流によりモータ 17を回転させ、位置検出が可能となる 回転速度まで加速させるステップである。速度制御移行ステップは、強制転流制御 力 位置信号に基づく転流制御に切り替えるステップである。
[0052] 初期位置移動ステップは後述する。まずは強制転流ステップ力 説明する。
図 1は、モータ 17の起動タイムチャートである。駆動装置 18は、初期位置移動ステ ップの終了時刻 tc以降、モータ 17を予め設定された加速度例えば 150Hz/s2で加 速させる。具体的には、卷線 49に一定の始動 d軸電流 Idinit2が流れるように電流制 御するとともに、ロータ 34が正常に回転しているものと見做して強制転流のための P WM信号をインバータ回路 36に出力する。強制転流を行うのは、起動時の低速領域 では位置検出ができないからである。この時、速度制御すなわち q軸電流 Iqの制御 は行っておらず、始動 q軸電流 Iqinit2はゼロとしている。
[0053] 駆動装置 18は、ロータ 34が、上記起動パターンにより予め設定された切替速度例 えば 10Hz/s ( = 600rpm)に到達する時刻 tdまで強制転流を継続する。そして、時 刻 tdにおいて強制転流ステップから速度制御移行ステップに切り替える。
[0054] 駆動装置 18は、速度制御ステップへの移行時刻 td以降、検出した d軸電流 Idと q 軸電流 Iqに基づいて回転速度 ωとロータ 34の回転位置 Θを検出し、この回転速度 ωと基準回転速度 co refに基づいて生成した PWM信号をインバータ回路 36に出力
する。インバータ回路 36は、この PWM信号に基づいてトランジスタ Trl一 Tr6のスィ ツチングを行レ、、モータ 17の卷線 49に三相の電圧を出力する。これにより、モータ 1 7が基準回転速度 ω refに一致した回転速度 ωで回転するように速度制御(フィード バック制御)が行われる。
[0055] 次に、初期位置移動ステップについて説明する。
初期位置移動ステップは、第 1ステップと第 2ステップとからなる。主制御部 48が、 時刻 taにおいて初期パターン出力部 47に対しコンプレッサ 16の駆動指令を出力す ると、初期パターン出力部 47は、速度 PI制御部 43に対し所定時間例えば 3秒間に わたり回転初期位置電流 Idinitl、 Iqinitlを出力する(第 1ステップ)。この電流は、口 ータ 34を後述する予備励磁位置 Y (図 11に示す Y1または Y2)に回転移動させるた めの直流励磁電流である。回転初期位置電流 Idinitlは、ゼロから第 1電流値 II例え ば 1 Aまで徐々に増加する電流である。回転初期位置電流 Iqinitlはゼロに設定され ている。
[0056] 初期パターン出力部 47は、時刻 tbに回転初期位置電流 Idinitlが第 1電流値 IIに 達すると、直流励磁電流を一旦ゼロにする。その後、再び速度 PI制御部 43に対し所 定時間例えば 3秒間にわたり回転初期位置電流 Idinitl、 Iqinitlを出力する(第 2ステ ップ)。この電流は、ロータ 34を初期位置 Xに回転移動させるための直流励磁電流で ある。回転初期位置電流 Idinitlは、ゼロから第 2電流値 12例えば 2Aまで徐々に増加 する電流である。回転初期位置電流 Iqinitlはゼロに設定されている。第 2電流値 12 は、上記第 1電流値 IIよりも大きく設定されている。そして、時刻 tcにおいて回転初期 位置電流 Idinitlが第 2電流値 12に達すると、上述した強制転流ステップに移行する。
[0057] ここで、第 1ステップを設けた理由について説明する。
本願の発明者は、ロータ 34の停止位置を初期位置 Xに対して適宜変更し、直流励 磁によりロータ 34をそれぞれの停止位置から初期位置 Xに回転移動させるために必 要な電流値を測定した。また、各停止位置から初期位置 Xに回転移動させた時に、口 ータ 34の急激な速度変化によって、フレーム 20が密閉ケース 19に衝突して異音が 生じた電流値を測定した。ここで、ロータ 34の停止位置とは、例えば永久磁石 32の S 極の位置であり、初期位置 X (X1、 X2)とは、例えば直流励磁により生じる磁界の N
極の位置である。
[0058] 図 8は、この実験結果を示すものであり、実線は停止位置と回転移動に必要な電流 値との関係を示し、破線は停止位置と異音が生じた電流値との関係を示している。横 軸は初期位置 Xからの角度 (機械角)で、縦軸は電流値である。この図 8から分かるよ うに、ロータ 34の停止位置が初期位置 Xに近いほど、より小さい電流で回転移動可 能となる。また、ロータ 34の停止位置が初期位置 Xに近いほど、異音が生じる電流値 が大きくなる。
[0059] し力 ながら、ロータ 34の停止位置力 図 10に示すように初期位置 XI、 X2の中間 点 Zすなわち 90° の近傍になると、直流励磁により生じる磁界とロータ 34の磁極との 間に作用する磁力がつり合う。このつり合い状態から脱して回転移動させるためには 、より大きな励磁電流が必要となる。また、初期位置 Xまでの回転距離が長いことから 、直流励磁によってロータ 34が加速されて急激な速度変化を生じ易くなり、異音が発 生する電流値が低くなる。このため、中間点 Zの近傍では、回転に必要な電流値より も異音を発生させる電流値の方が低くなる。
[0060] 図 8に示す特性において、脱調や異音の発生を防止しょうとすると 1. 7A以下の電 流値で直流励磁を行う必要があるが、これではロータ 34を回転移動させることができ なレ、。また、 1. 7A以上の電流値を流せば、ロータ 34を回転移動させることは可能で あるが、上述したように異音が発生したり、脱調する虞が生じる。
[0061] 図 9は、 4極のモータ 17に対する初期位置 X (X1、 X2)、予備励磁位置 Y (Y1、 Υ2 )および初期位置回転不可領域 Z1— Ζ2 (後述)の関係を示している。図中に示す角 度は機械角である。ロータ 34の停止位置が 90° (中間点 Ζ)を挟んで前後 5° の範 囲(XIを基準として CW方向または CCW方向に 85° から 95° の範囲)であると、上 述したような問題が発生する。さらに、ばらつきなども考慮すると、異音が発生したり 脱調が生じる虞のある範囲(以下、この範囲を初期位置回転不可領域 Z1 Ζ2と称 す)を、 90° (中間点 Ζ)を挟んで前後 10° の範囲(XIを基準として 80° 力 100° の範囲)にすることが適当である。
[0062] そこで、脱調や異音の発生を防止して、直流励磁によりロータ 34を初期位置 Xに確 実に回転移動させるため、事前ステップとして、ロータ 34を予備励磁位置 Υ (Υ1また
は Y2)に回転移動させる第 1ステップを設ける。これにより、起動時にロータ 34が初 期位置回転不可領域 Z1— Ζ2に停止し続けることを防止できる。
[0063] 予備励磁位置 Υの設定範囲は、直流励磁による電流が第 2電流値 12よりも小さい 第 1電流値 IIに達するまでに、ロータ 34が回転移動して初期位置回転不可領域 Z1 一 Ζ2から脱することができるように設定する必要がある。初期位置 Xに近過ぎる 0° 一 20° の範囲を予備励磁位置 Υとすると、初期位置回転不可領域 Z1— Ζ2に停止 しているロータ 34が第 1ステップにおいて回転移動することができない場合が生じる 。一方、初期位置 Xの中間点 Ζに近すぎる 80° — 100° の範囲を予備励磁位置 Υと すると、第 1ステップにおいてロータ 34を初期位置回転不可領域 Z1 Ζ2に停止させ てしまうことになる。そこで、初期位置 X (XI、 Χ2)を基準として CW方向または CCW 方向に 20° 80° の範囲に予備励磁位置 Υを設定している。なお、ばらつきまで考 慮すると 30° 70° の範囲内に設定することが好ましい。
[0064] 具体的には、図 9に示すように、初期位置 Xから離間した位置例えば 45° の位置 に予備励磁位置 Υ (Υ1、 Υ2)を設定し、ロータ 34が予備励磁位置 Υに移動するよう に直流励磁する。これにより、ロータ 34が初期位置回転不可領域 Z1— Ζ2に停止し ていたとしても、第 1ステップにより初期位置回転不可領域 Z1— Ζ2を脱して予備励 磁位置 Υに回転移動させることができる。そして、続く第 2ステップにより予備励磁位 置 Υから初期位置 Xに確実に回転移動させることができる。
[0065] また、予備励磁位置 Yl、 Υ2の中間点 Οまたはその近傍 Ol— 02にロータ 34が停 止している場合、第 1ステップの直流励磁において第 2ステップと同様に第 2電流値 I 2まで上昇させてしまうと、この第 1ステップでも異音が発生したり脱調する虞がある。 そこで、第 1ステップでは、第 2ステップで用いる第 2電流値 12よりも小さい第 1電流値 IIまでしか増加させなレ、。これにより、ロータ 34が急激に回転移動することを防止で き、上記不具合を解消することができる。
[0066] 第 1ステップにおいて直流励磁電流を第 1電流値 IIまでしか上昇させないことから、 回転移動させることができない領域 Ol 〇2が広がる。しかし、ロータ 34がこの領域 に停止していたとしても、この領域は初期位置回転不可領域 Z1 Ζ2の外であるため 、第 2ステップにおレ、て初期位置 Xに確実に回転移動させることができる。
[0067] 以上説明したように、本実施形態では起動時の初期位置移動ステップを第 1ステツ プと第 2ステップとから構成した。第 1ステップにおいてロータ 34が予備励磁位置 Yに 回転移動するように第 1電流値 IIまで直流励磁を行い、その後、第 2ステップにおい てロータ 34が初期位置 Xに回転するように第 1電流値 IIよりも大きい第 2電流値 12ま で直流励磁を行う。これにより、第 2ステップにおいてロータ 34を初期位置 Xに確実 に回転移動させることができ、初期位置移動ステップに引き続き実行される強制転流 ステップにおいて脱調を防止して確実に起動することができる。
[0068] また、冷蔵庫に用いられるコンプレッサ 16の起動用モータ 17に上記起動方法を適 用することにより、ロータ 34の急激な速度変化を防止することができる。その結果、異 音を発生させることなくコンプレッサ 16を確実に起動することができる。
[0069] (第 2の実施形態)
次に、本発明の第 2の実施形態について、図 13を参照して説明する。
第 1の実施形態では、第 1ステップで第 2電流値 12よりも小さい第 1電流値 II例えば 1 Aまでしか上昇させなレ、ため、初期位置 Xの中間点 Zおよびその近傍 Z1— Z2に口 ータ 34が停止していると回転移動させ難いことがある。そこで、第 1ステップにおいて ロータ 34を確実に回転移動させるために、本実施形態では、直流励磁電流が第 1電 流値 IIまで上昇した後、その第 1電流値 IIで所定時間だけ継続して通電させるように している。
[0070] 具体的には、図 13に示すように、駆動装置は、ロータ 34が予備励磁位置 Yに回転 移動するように、時刻 teから電流値を徐々に増加させる(電流上昇ステップ)。そして 、時刻 tfに直流励磁電流が第 1電流値 IIに達すると、所定時間ここでは 2秒間、第 1 電流値 IIをそのまま継続して直流励磁する(電流保持ステップ)。そして、所定時間 が経過した時刻 thで電流値をゼロに戻した後、第 2ステップに移行する。
[0071] この構成によれば、ロータ 34が回転し難い場所である初期位置回転不可領域 Z1 一 Z2に停止していても、第 1ステップにおいて確実に予備励磁位置 Yに回転移動さ せることができ、その後の第 2ステップ、強制転流ステップを経てより確実にモータ 17 を起動すること力 Sできる。
[0072] なお、図 13の破線で示すように、時刻 tfと時刻 thとの間の時刻 tgから後は、第 1電
流値 IIよりも小さい第 3電流値 13で直流励磁してもよい。これにより、第 2ステップに 移行する直前の thのタイミングでロータ 34が回転することを防止することができる。
[0073] (その他の実施形態)
なお、本発明は上記し且つ図面に示す各実施形態に限定されるものではなぐ例 えば以下のように変形または拡張が可能である。
[0074] 各実施形態では 4極のモータ 17を例に説明した。しかし、磁力のつり合いにより口 ータ 34が回転できない状況は、 2極モータ、 6極モータなど他の極数のモータであつ ても生じ得る問題である。本発明は、こうしたモータに対しても同様に適用できる。た だし、上記し或いは図面に示した角度は機械角であるため、他の極数のモータでは その数値が異なる。例えば 2極モータの場合、予備励磁位置 Yは、初期位置 Xを基 準にして CW方向または CCW方向に 40° 160° (機械角および電気角)の角度 範囲内に設定される。ばらつきまで考慮すると 60° — 140° の範囲内に設定するこ とが好ましい。
[0075] 初期位置移動ステップにおける直流励磁電流の上昇率は一定でなくてもよい。
卷線 49の電圧を用いてロータ 34の回転位置を推定してもよい。
各実施形態では、冷蔵庫に用いられるブラシレスモータについて説明したが、これ に限られず種々の機器に用いられるブラシレスモータの起動方法にも適応可能であ る。また、ベクトル制御を用いて説明した力 通常のインバータ制御でも同様の効果 を奏することができる。さらに、発明の要旨を変更しない範囲内において、ロータの磁 極、電流値、直流励磁位置を適宜変更してもよい。
産業上の利用可能性
[0076] 以上のように、本発明に係るブラシレスモータの起動方法は、冷蔵庫のみならず種 々の機器に用いられるブラシレスモータの起動に有用である。