明 細 書
生体適合性を有する超高強度ゲル 技術分野
本発明は、 天然素材のみの超高強度ゲル、 特に、 生体適合性を有する前記ゲル に関するものである。 背景技術
現在、 人工臓器 'インプラントや医療デバイス、 例えば、 人工弁 'ペースメー 力 ·人工関節 ·人工血管に用いるための、 様々な種類の生体 (細胞 ·組織) 適合 性材料 (医療用材料、 バイオマテリアル) が提供されている。 この材料には、 目 的毎に必要な機械強度と、 免疫拒絶を惹起しにくい生体適合性の高さが要求され る。 今までに、 ポリマー、 金属、 セラミック、 ヒ ドロキシアパタイ ト、 ハイ ド口 ゲル等の使用が提案されているが、 その一つであるハイ ド口ゲルに関しては、 機 械強度に優れた合成高分子 (特にポリビニルアルコール系) が中心となっており、 生体適合性を向上させるために、 コラーゲンのような天然物で処理するという方 式が一般に採られている。
しかしながら、 前記のような合成高分子を用いた場合には、 長期的には、 生体 適合性や生体安全性の観点から問題が無いとはいえず、 天然素材のみの生体適合 性材料が求められている。 しかし、 天然素材のみでは生態適合性材料として用い るには機械強度が低すぎるという問題が在る。 例えば、 生体軟骨として用いる場 合には、 高い力学物性 {例えば、 初期弾性率 (I M P a ) ·応力 (3〜1 8 M P a ) } を該材料が有している必要があるところ、 天然高分子だけを組み合わせた 系においては、 このような機械強度を有する高強度のゲルは、 未だ提供されてい ない。
そこで、 本発明は、 天然素材のみの超高強度ゲル、 特に生体適合性を有する前 記ゲルの創製を目的とする。 発明の開示
本発明者らは、 ナタデココとしてデザートに用いられている、 主に食用として 利用されているバクテリアセルロースに着目した。 バクテリアセルロースは、 材 料としても非常に優れた性質を示すことが知られている (引っ張りに対して非常 に強い) ものの、 ゲルとしては保水能力が低く、 一度変形してしまうと元の形に 戻らないという欠点を有している。 そこで、 本発明者らは、 このバクテリアセル ロースゲルを、 電荷を持つ天然高分子と組み合わせて (セミ) 相互侵入網目構造 ゲルとすることにより、 前記欠点が解消すると共に、 機械強度、 生体適合性及び 保水能を備えた材料が得られることを見出し、 本発明を完成させたものである。 即ち、 本発明 (1 ) は、 バクテリアセルロースの網目間に電荷を有する天然高 分子が介在していることを特徴とする、 相互侵入網目構造ハイ ド口ゲル又はセミ 相互侵入網目構造ハイ ドロゲルである。
本発明 (2 ) は、 電荷を有する天然高分子が、 タンパク質又は多糖類である、 前記発明 ( 1 ) の相互侵入網目構造ハイ ド口ゲル又はセミ相互侵入網目構造ハイ ドロゲルである。
本発明 (3 ) は、 電荷を有する天然高分子が、 ゼラチン、 コラーゲン、 アルギ ン酸ナトリウム、 ジエランガム、 カラギーナン、 キトサン、 ヒアルロン酸、 プロ テオダリカン及びァグリカン並びにこれらの組み合わせからなる群より選択され る、 前記発明 (2 ) の相互侵入網目構造ハイ ド口ゲル又はセミ相互侵入網目構造 ハイ ドロゲノレである。
本発明 (4 ) は、 電荷を有する天然高分子が、 ゼラチンである、 前記発明
( 3 ) の相互侵入網目構造ハイ ド口ゲル又はセミ相互侵入網目構造ハイ ド口ゲル である。
本発明 (5 ) は、 前記発明 (1 ) 〜 (4 ) のいずれか一つの相互侵入網目構造 ハイ ドロゲル又はセミ相互侵入網目構造ハイ ドロゲルの製造方法であって、 電荷 を有する天然高分子が入った培地中で菌を培養することによりバクテリアセル ロースを生産させる工程を含む方法である。
本発明 (6 ) は、 電荷を有する天然高分子が、 タンパク質又は多糖類である、 前記発明 (5 ) の方法である。
本発明 (7 ) は、 電荷を有する天然高分子が、 ゼラチン、 コラーゲン、 アルギ
ン酸ナトリウム、 ジエランガム、 カラギーナン、 キトサン、 ヒアルロン酸、 プロ テオダリカン及びァグリカン並びにこれらの組み合わせからなる群より選択され る、 前記発明 (6) の方法である。
本発明 (8) は、 電荷を有する天然高分子が、 ゼラチンである、 前記発明 (7) の方法である。 本発明 (9) は、 前記発明 (1) 〜 (4) のいずれか一つの相 互侵入網目構造ハイ ドロゲル又はセミ相互侵入網目構造ハイ ドロゲルの製造方法 であって、 バクテリアセルロースを電荷を有する天然高分子の溶液に含浸させ、 バクテリアセルロース中に電荷を有する天然高分子を取り込ませる工程を含む方 法である。
本発明 (10) は、 電荷を有する天然高分子が、 タンパク質又は多糖類である、 前記発明 (9) の方法である。
本発明 (1 1) は、 電荷を有する天然高分子が、 ゼラチン、 コラーゲン、 アル ギン酸ナトリウム、 ジエランガム、 カラギ一ナン、 キトサン、 ヒアルロン酸、 プ 口テオダリカン及びァグリカン並びにこれらの組み合わせからなる群より選択さ れる、 前記発明 (1 0) の方法である。
本発明 ( 1 2) は、 電荷を有する天然高分子が、 ゼラチンである、 前記発明 (1 1) の方法である。
本発明 (1 3) は、 前記発明 (1) 〜 (4) のいずれか一つの相互侵入網目構 造ハイ ドロゲル又はセミ相互侵入網目構造ハイ ドロゲルを基材とする生体適合性 材料である。
本発明 (14) は、 人工血管又は人工軟骨である、 前記発明 (1 3) の生体適 合性材料である。 図面の簡単な説明
図 1は、 試験例 1に従い得られた、 実施例 1及び 2 (ゼラチン) 並びに比較例
1の B Cハイ ド口ゲルの引張応力一歪曲線である。 尚、 図中、 (1) は比較例 1、 (2) は実施例 1、 (3) は実施例 2のものである {(2) と (3) は殆ど重なつ ているので一本の線のように表示されている }。 図 2は、 試験例 2に従い得られ た、 実施例 3 (アルギン酸ナトリウム) 及び比較例 2の B Cハイ ド口ゲルの引張
応力一歪曲線である。 尚、 図中、 (1) は比較例 2、 (2) は実施例 3のものであ る。 図 3は、 試験例 2に従い得られた、 実施例 4 (ジヱラン) 及び比較例 2の B Cハイ ド口ゲルの引張応力一歪曲線である。 尚、 図中、 (1) は比較例 2、 (2) は実施例 4のものである。 図 4は、 試験例 3に従い得られた、 実施例 5 (ゼラチ ン)、 実施例 6 (架橋ゼラチン) 及び市販 B Cの B Cハイ ド口ゲルの圧縮応力一 歪曲線である。 尚、 図中、 (1) は市販 BC、 (2) は実施例 5、 (3) は実施例 6のものである。 図 5は、 試験例 4に従い得られた、 実施例 7 (架橋ゼラチン) 及び比較例 3の BCハイ ド口ゲルの圧縮応力一歪曲線である。 尚、 図中、 (1) は比較例 3、 (2) は実施例 7のものである。 図 6は、 試験例 4に従い得られた、 実施例 8 (アルギン酸ナトリウム) 及び比較例 3の BCハイ ド口ゲルの圧縮応力
—歪曲線である。 尚、 図中、 (1) は比較例 3、 (2) は実施例 8のものである。 図 7は、 試験例 4に従い得られた、 実施例 9 一力ラギ一ナン) 及び比較例 3の BCハイ ド口ゲルの圧縮応力—歪曲線である。 尚、 図中、 (1) は比較例 3、 (2) は実施例 9のものである。 図 8は、 実施例 1 0 (ジエランガム) 及び比較 例 3の BCハイ ド口ゲルの圧縮応力—歪曲線である。 尚、 図中、 (1) は比較例
3、 (2) は実施例 10のものである。 図 9は、 試験例 4に従い得られた、 実施 例 7 (架橋ゼラチン) 及び比較例 3の B Cハイ ド口ゲルの引張応力一歪曲線であ る。 尚、 図中、 (1) は比較例 3、 (2) は実施例 7のものである。 図 1 0は、 試 験例 4に従い得られた、 実施例 8 (アルギン酸ナトリウム) 及び比較例 3の BC ハイ ド口ゲルの引張応力一歪曲線である。 尚、 図中、 (1) は比較例 3、 (2) は 実施例 8のものである。 図 1 1は、 試験例 4に従い得られた、 実施例 9 一力 ラギーナン) 及び比較例 3の BCハイ ド口ゲルの引張応力—歪曲線である。 尚、 図中、 ( 1 ) は比較例 3、 (2) は実施例 9のものである。 図 1 2は、 実施例 10 (ジエランガム) 及び比較例 3の B Cハイド口ゲルの引張応力一歪曲線であ る。 尚、 図中、 (1) は比較例 3、 (2) は実施例 10のものである。 図 1 3は、 試験例 5に従い得られた、 EDC濃度の異なる実施例 1 1及び 1 2 (架橋ゼラチ ン) 及び比較例 4の B Cハイ ド口ゲルの圧縮応力一歪曲線である。 尚、 図中、 (1) は比較例 4、 (2) は実施例 1 1、 (3) は実施例 1 2のものである。 図 14は、 試験例 5に従い得られた、 E DC濃度の異なる実施例 1 1及び 1 2 (架
橋ゼラチン) 及び比較例 4の BCハイ ド口ゲルの引張応力一歪曲線である。 尚、 図中、 (1) は比較例 4、 (2) は実施例 1 1、 (3) は実施例 1 2のものである。 図 1 5は、 試験例 5に従い得られた、 ゼラチン濃度の異なる実施例 1 3〜 16 (架榼ゼラチン) 及び比較例 4の BCハイ ドロゲルの圧縮応力一歪曲線であ る。 尚、 図中、 ( 1 ) は比較例 4、 (2) は実施例 1 3、 (3) は実施例 1 4、
(4) は実施例 1 5、 (5) は実施例 1 6のものである。 図 1 6は、 試験例 5に 従い得られた、 ゼラチン濃度の異なる実施例 1 3〜1 6 (架橋ゼラチン) 及び比 較例 4の B Cハイ ド口ゲルの引張応力—歪曲線である。 尚、 図中、 (1) は比較 例 4、 (2) は実施例 1 3、 (3) は実施例 14、 (4) は実施例 1 5、 (5) は実 施例 1 6のものである。 図 1 7は、 ゲル中の溶媒を N a C 1水溶液にした状態で の、 B CZゼラチン DNゲルの圧縮応力一歪曲線である。 尚、 図中、 (1) は OMNa C l水溶液、 (2) は 0. 001 MN a C 1水溶液、 (3) は 0. 01M N a C 1水溶液、 ( 4 ) は 0. 1 MN a C 1水溶液の場合を示す。 図 1 8は、 ゲ ル中の溶媒を N a C 1水溶液にした状態での、 B CZゼラチン DNゲルの引張応 力一歪曲線である。 尚、 図中、 ( 1 ) は 0 M N a C 1 水溶液、 ( 2 ) は
0. O O lMN a C l水溶液、 (3) は 0. 0 1 MN a C 1水溶液、 (4) は 0. 1MN a C 1水溶液の場合を示す。 図 1 9は、 BCZゼラチン (50) DN ハイ ド口ゲルのサイクル試験の結果を示すものである。 図 2 0は、 ゼラチン (50) ハイ ド口ゲルのサイクル試験の結果を示すものである。 図 21は、 BC ハイ ド口ゲルのサイクル試験の結果を示すものである。 図 22は、 ゼラチン濃度 に対する水の残存量を示したものである。 尚、 図中の〇はゼラチン単独の場合を、 秦は B CZゼラチン DNハイ ド口ゲルの場合を示すものである。 図 23は、 B CZゼラチン DNハイ ドロゲルの皮下埋植試験後の、 皮下ゲル周囲の状況を撮影 した電子写真である。 図 24は、 皮下埋植試験後に取り出した、 BCノゼラチン DNハイ ド口ゲルを撮影した電子写真である。 発明を実施するための最良の形態
まず、 本明細書で用いる用語につき説明する。 「相互侵入網目構造ハイ ドロゲ ル」 とは、 一般的な意味における 「相互侵入網目構造ハイ ド口ゲル」 と同義であ
り、 ベースとなる網目構造に、 他の網目構造が、 ゲル全体において好適には均一 に絡みついており、 結果としてゲル内に複数の網目構造を形成しているようなゲ ルを指す。 例えば、 この種のゲルは、 複数の架橋点を有する第一の網目構造と、 複数の架橋点を有する第二の網目構造とから構成され、 これら第一の網目構造と 第二の網目構造が、 互いに網目を介して物理的に絡まり合っている。
「セミ相互侵入網目構造ハイ ド口ゲル」 とは、 一般的な意味における 「セミ相 互侵入網目構造ハイ ド口ゲル」 と同義であり、 ベースとなる網目構造に、 直鎖状 ポリマーが、 ゲル全体において好適には均一に絡みついており、 結果としてゲル 内に複数の網目構造を形成しているようなゲルを指す。 例えば、 この種のゲルは、 複数の架橋点を有する第一の網目構造と、 直鎖状ポリマーとから構成され、 これ ら第一の網目構造と直鎖状ポリマーが、 互いに網目を介して物理的に絡まり合つ ている。 尚、 本発明の場合、 第一の網目構造は、 バクテリアセルロースから成る ものである。
尚、 「相互侵入網目構造ハイ ド口ゲル」 及び 「セミ相互侵入網目構造ハイ ド口 ゲル」 は、 ダブルネットワーク型のみでなく、 三重や四重以上の網目構造を有す るゲルをも含む概念である。
化学架橋やイオン架橋を行う場合における 「架橋度」 とは、 架橋剤のモル濃度 で表した値をいう。 なお、 実際には、 重合に関与しなかったモノマーや架橋に関 与しなかった架橋剤も僅かにある場合があるが、 この際も、 本明細書におけるゲ ルの架橋度は、 前記の通りとする。
「膨潤度」 (q ) とは、 以下の式で求められる値をいう :
膨潤度 =膨潤させたゲルの重量 (Ww) ノ乾燥ゲルの重量 (WD)
「初期弾性率」 とは、 圧縮 (引張) 歪みが 0〜 5 %の範囲においての圧縮 (引 張) 応力と圧縮 (引張) 歪み曲線の傾きから求めたものを指す。
「圧縮破断応力」 とは、 (圧縮破断時の力 元の断面積) の式で算出され、 ま た、 「圧縮破断歪」 とは、 (元の長さ一圧縮破断時の長さ) 元の長さ X I 0 0 % の式で算出される。
「引張破断応力」 とは、 (引張破断時の力/元の断面積) の式で算出され、 ま た、 「引張破断歪」 とは、 (引張破断時の長さ一元の長さ) 元の長さ X I 0 0 %
の式で算出される。
次に、 本発明につき詳細に説明する。 本発明は、 バクテリアセルロースの網目 間に電荷を有する天然高分子が介在していることを特徴とする、 相互侵入網目構 造ハイ ド口ゲル又はセミ相互侵入網目構造ハイ ド口ゲルである。 ここで、 「バタ テリアセルロース」 (以下、 B Cと省略する場合がある) とは、 微生物により産 生された、 セルロース、 セルロースを主鎖としたへテロ多糖、 ]3— 1, 3—、 β ー 1, 2等のダルカンのいずれか又はこれらの混合物である。 なお、 ヘテロ多糖 の場合のセルロース以外の構成成分は、 マンノース、 フラク トース、 ガラタ ト一 ス、 キシロース、 ァラビノース、 ラムノース、 グルクロン酸等の 6炭糖、 5炭糖 及び有機酸等である。 ここで、 バクテリアセルロースを産生する微生物は、 特に 限定されないが、 ダルコンァセトパクター ·キシリナム ·サブスピーシス ·キシ リナム A T C C— 5 3 5 8 2 { luconacetobacter xyl inus subsp. xyl mus (Yamada) } , ァセトパクター ·ァセチ ·サブスピーシス ·キシリナム A T C C— 1 0 8 2 1 ( Acetobactoracetisubsp xyl inum ) 、 同ノ ス 卜 ゥ リ ア ン ( A. pasteurium ) , 同ランセンス ( A. rancens ) , サノレシナ - ベン 卜 リ ク リ
(Sarcina ventricul i)、 ノくクァリツム ·キシロイァス (Bacterium xyloides)、 シユードモナス属細菌、 ァグロパクテリゥム属細菌等で、 バクテリアセルロース を産生するものを利用することができる。
次に、 「電荷を有する天然高分子」 とは、 電荷を有するタンパク質や多糖類等 を指す。 具体的には、 タンパク質としては、 ゼラチンやコラーゲン等を、 また、 多糖類としては、 アルギン酸ナトリウム、 ジエランガム、 カラギーナン、 キトサ ンゃヒアルロン酸等を挙げることができる。 また、 糖とタンパク質の共有結合化 合物である糖タンパク質をも含み、 例えば、 このような糖タンパク質として、 プ 口テオダリカン、 ァグリカンを挙げることができる。 バクテリアセルロース中に 介在する電荷を有する天然高分子は、 一種でなくとも複数種存在していてもよい。 バクテリアセルロース中に介在している電荷を有する天然高分子は、 そのまま で存在していてもよく (セミ相互侵入網目構造ハイ ド口ゲル)、 架橋していても よい (相互侵入網目構造ハイ ド口ゲル)。
次に、 本発明に係るハイ ドロゲルの製造方法につき説明する。 本発明に係るハ
ィ ドロゲルの製造方法としては、 ①電荷を有する天然高分子 (例えば、 多糖類や タンパク質) が入った培地でバクテリアセルロースを生産させる手法、 ②分子量 (サイズ) が小さな電荷を有する天然高分子 (例えば、 多糖類やタンパク質) を バクテリアセルロースに含浸させ、 取り込ませる手法、 ③電荷を有する天然高分 子 (例えば、 多糖類やタンパク質) のゲル中に菌を閉じ込め、 出来た菌含有ゲル を培地に浸しバクテリアセルロースを形成させる手法、 ④電荷を有する天然高分 子 (例えば、 多糖類やタンパク質) のゲルを凍結乾燥して多孔質のスポンジを作 り、 出来たスポンジを菌入り培地に浸してバクテリアセルロースを形成させる手 法を挙げることができる。
尚、 電荷を有する天然高分子を架橋させる場合には、 架橋剤 (化学架橋剤、 ィ オン架橋剤等) を用いればよい。 例えば、 化学架橋剤としては、 水溶性カルポジ イミ ド (WS C、 EDC) を、 また、 イオン架橋剤としては、 C a C l 2を挙げ ることができる。 また、 架橋剤を添加しなくても、 例えば、 ゼラチンなどは、 あ る程度の濃度以上で水素結合で架橋する。 但し、 この場合でも、 更に化学架橋さ せてもよレ、。
尚、 化学架橋やイオン架橋する場合、 架橋度を 1 0_3〜5 X 1 0_2Mの範囲 に設定すると、 しなやかで丈夫なゲルを得ることができ、 架橋度を 5 X 1 0一 2〜2M (好適には、 1 0―1〜 1M) の範囲に設定すると、 硬くて丈夫なゲルを 得ることができる。
本発明に係るハイ ドロゲルは、 天然物素材のみからなるため、 生体適合性に優 れており、 しかも、 非常に優れた機械強度を有する。 したがって、 例えば、 人工 臓器 'インプラントや医療デバイス、 例えば、 人工弁 'ペースメーカ '人工関 節 ·人工血管に用いるための、 様々な種類の生体 (細胞 *組織) 適合性材料 (医 療用材料、 バイオマテリアル) として使用可能である。 特に、 人工血管や人工軟 骨として有用である。 尚、 本発明に係るハイ ド口ゲルを乾燥させて乾燥ゲルとす ることで、 高強度の吸収性材料として使用することもできる。 実施例
以下、 本発明を実施例を参照しながら具体的に説明する。 尚、 本実施例により
本発明が限定されるものではない。
実施例 1 ( B Cノゼラチン ·ダブルネットワークゲルの製造①)
Bacto Pepton 0. 5%、 Yeast Extract 0. 5%、 リン酸水素ニナトリ ウム 0. 27%、 クェン酸 0. 1 1 5%、 グルコース 2%、 の仕込みで脱イオン水に 溶解し HS培地を得た。 次いで、 この培地に、 培地に対して 1 5重量%となるよ うにゼラチンを混合し、 この培地を三角フラスコに 1 5〜3 Oml 程度の分量で 取分けた後、 フラスコにキャップをし、 そのままオートクレープ滅菌を 1 20°C、 2 0分間行った。 その後、 _ 8 0 °Cに保存してある酢酸菌 (AT C C 53 58 2) を取り出して培地に移した。 そして、 28〜 30°Cの間で約 2〜 3日間静置をすると、 培地の空気界面側からバクテリアセルロースが生産始め、 更に厚さが約 2mm になるまで培養を続けた。 得られたバクテリアセルロース ゼラチン ·ダブルネットワークゲルについて、 1 %N a OH水溶液による洗浄を 1 日、 更に純水による溶媒交換を 2日行い、 標記ゲルを製造した。 尚、 このゲル の膨潤度は 30であった。
実施例 2 ( B Cノゼラチン ·ダブルネットワークゲルの製造②)
培地に対して 20重量%となるようにゼラチンを混合すること以外は、 実施例 1と同様の方法で標記ゲルを製造した。 尚、 このゲルの膨潤度は 36であった。 比較例 1 ( B Cシングルネットワークゲルの製造)
ゼラチンを混合しない点以外は実施例 1と同様の方法で、 標記ゲルを製造した。 尚、 このゲノレの膨潤度は 89であった。
試験例 1 '(引張試験)
得られたゼラチン含有バクテリアセルロースの引張試験を行った。 尚、 引張試 験は、 TENSILON 測定機を用い、 サンプルを 5匪 X 1. 5mmX 30瞧 の短冊状に し、 引張速度を lmm/min.として行った。 図 1及び表 1にその結果を示す。 表 1
サンプル 破断応力(MPa) 破断歪 初期弾性率 (MPa) 実施例 1 1. 15 0. 12 9. 027
実施例 2 0. 83 0. 99 6. 268
比較例 1 0. 64 0. 45 0. 037
実施例 3 ( B C Zアルギン酸ナトリウム ·ダブルネットワークゲルの製造) 培地に対し 2重量。 /0となるようにアルギン酸ナトリウムを混合すること、 及び、 多糖部分を C a 2 +によってイオン架橋する目的で 0 . I MC a C 1 2溶液に 2日 間浸漬した以外は、 実施例 1と同様の方法で標記ゲルを製造した。 尚、 このゲル の膨潤度は 2 0であった。
実施例 4 ( B C Zジエランガム ·ダブルネットワークゲルの製造)
培地に対し 0 . 4重量%となるようにジエランガムを混合する点以外は、 実施 例 3と同様の方法で標記ゲルを製造した。 尚、 このゲルの膨潤度は 2 8であった。 比較例 2 ( B Cシングルネットワークゲルの製造)
実施例 1と同様の方法で標記ゲルを製造した。 尚、 このゲルの膨潤度は 3 6で あった。
試験例 2 (引張試験)
試験例 1と同じ方法で、 実施例 3及び 4並びに比較例 2のゲルに引張試験を 行った。 図 2、 図 3及び表 2にその結果を示す。
表 2
実施例 5 ( B C Zゼラチン 'ダブルネットワークゲルの製造③)
市販のナタデココ (膨潤度: 189) を 40重量%ゼラチン水溶液に浸し、 80度で 3日間含浸させた。 その結果、 茶褐色の標記ゲルが得られた。 尚、 この ゲルの膨潤度は 3. 6であった。
実施例 6 (B C ゼラチン ·ダブルネットワークゲルの製造④)
実施例 5で得られたゲルを、 ゲル内部のゼラチンを架橋する目的で、 1MのW
SC溶液に浸漬させた。 その結果得られたゲルの膨潤度は 5. 2であった。 試験例 3 (圧縮試験)
圧縮試験は、 TENSILON測定機を用い、 サンプルを 10匪 X 10瞧 X 5 mm の直 方体状にし、 圧縮速度をサンプル厚さに対して 10%/min.として行った。 その 結果を図 4及び表 3に示す。
表 3
実施例 7〜 10 ·比較例 3 (各種 D Nゲルの製造)
ゼラチン (実施例 7 : 30重量%、 50°C、 pH7)、 多糖類 {アルギン酸ナ トリウム (実施例 8 : 4重量%、 70°C)、 ί —カラギーナン (実施例 9 : 5重 量%、 70°C)、 ジエランガム (実施例 10 : 3重量%、 70°C)} 溶液に 1週間 浸潰した後、 BCZゼラチンに対しては 1Mの WSC (化学架橋)、 BCZ多糖 に対しては 0. 11^の〇 8〇 12 (イオン架橋) を準備し、 夫々のサンプルにつ き 4日間浸漬した。 その後、 溶媒を純水に変えて 1週間溶媒交換を行った。 尚、 これ以外の製造条件は、 実施例 1と同じである。 このようにして得られた実施例
7 10のゲルの膨潤度は、 順に、 4. 6 20 30 27であった。 また、 比較のために作成したバクテリアセルロースゲル膨潤度は、 89であった。
試験例 4 (引張 ·圧縮試験)
圧縮試験は、 TENSILON 測定機を用い、 サンプルを直径 9mmX 5 の円柱状に し、 圧縮速度をサンプル厚さに対して 1 0%/min.に設定して行った。 また、 引 張試験は、 同測定機を用い、 サンプルを 5 X 2mraX 3 Omm の短冊状にし、 更 に直径 25 の円形カッターでダンベル状にし、 引張速度はサンプルの自然長 さに対して 1 0%/min.に設定して行った。 結果を図 5 1 2及び表 4に示す。 表 4
この結果より分かるように、 まず、 圧縮試験を見てみると、 初期弾性率につい ては比較例 3と比較しておよそ 1 2桁も上昇した。 例えば、 実施例 7の DNゲ ルに関しては、 初期弾性率が 1. 7 MPa という非常に高い弾性率を示すと共に、 破断点に関しては歪が 40%において約 4MPa という高い値を示している。 合成 高分子を用いず、 天然素材のみでここまでの機械特性を示したことは驚くべき結 果である。 また、 引張試験を見てみると、 バクテリアセルロース自体が、 元々
「引っぱり」 の力に強い物質であるため、 多糖類については、 圧縮のとき程には、 弾性率のオーダーが変わるほどの大幅は変化は見られなかった。 一方、 ゼラチン については、 23 MPa という非常に高い値を示した。 これまでの DNゲルでこの 付近の値を示したことは勿論なく、 応力に関しても約 3MPa という高い値を示し
試験例 5 ( B Cノゼラチン .ダブルネットワークゲルにおけるゼラチン濃度と縮 合剤濃度 (EDC) を変化させることによる物性の変化の確認試験)
比較例 2と同様の方法で得た B Cシングルネッ トワークゲル (比較例 4 ) を、 30重量%のゼラチン水溶液 (50°C、 pH 7) に 1週間浸漬した。 その後、 濃 度を変えた EDC水溶液 (0. 1M、 1M) を準備し、 夫々のサンプルを 4日間 浸漬した。 更に溶媒を純水に変えて 1週間溶媒交換を行い、 実施例 1 1 (EDC 水溶液: 0. 1M) 及び 1 2 (E DC水溶液: 1M) の標記ゲルを得た。 また、 比較例 2と同様の方法で得た B Cシングルネットワークゲル (比較例 4 ) を、 濃 度を変えたゼラチン水溶液 (1 5%、 30%、 40%、 50% ; 50°C、 pH 7) に 1週間浸漬した。 その後、 1 Mの E DC水溶液を準備し、 夫々のサンプル を 4 日間浸漬した。 更に溶媒を純水に変えて 1週間溶媒交換を行い、 実施例 1 3〜: 1 6 (実施例 1 3 :ゼラチン 1 5 %、 実施例 14 :ゼラチン 30 %、 実施 例 1 5 :ゼラチン 40%、 実施例 1 6 :ゼラチン 50%) の標記ゲルを得た。 こ れらについて、 以下の測定方法で各種機械特性を測定した:
·圧縮試験
サンプルを直径 9隱 X 5mm の円柱状にし、 圧縮速度をサンプル厚さに対して 10 %/min.として、 TENSIR0N測定機を用いて測定。
•引張試験
サンプルを 5 mm X 2ramX 30 mm の短冊状にし、 更に直径 25 mm の円形力ッ ターでダンベル状にし、 引張速度をサンプルの自然長に対して 1 0 %/min.とし て、 TENS I RON測定機を用いて測定。
この結果を表 5及び図 1 3〜図 1 6に示す。
表 5
試験例 6 (バクテリアセルロース ゼラチンダブルネットワークゲルの生理食塩 水中での機械特性試験)
試験例 5で用いたバクテリアセルロースノゼラチンダブルネッ トワークゲル (製造時のゼラチン濃度が X= 5、 1 5、 30、 40、 50重量0 /0) を、 1M EDC水溶液に 4日間浸漬した。 さらに、 溶媒を純水に変えて 1週間溶媒交換を した。 以降のサンプルは BC- Gelatin (x%) と表記する。
(1) 試験例 6— 1
より生体内に近い環境での測定を目的として、 BC- Gelatin ゲルの溶媒を生理 食塩水 (0. lM N a C l水溶液) にした状態での圧縮、 引っ張り試験を行うと 共に、 イオン強度を変化ざせて力学物性値がどう変わるのかを調べた。 サンプル は BC— Gelatin(30)ゲルを用い、 3種類の N a C 1 水溶液( 0. 0 0 1、 0. 0 1、 0. 1M)を準備して 1週間溶媒交換を行った。 これらのサンプルにつ いて、 試験例 5と同じ方法で圧縮 ·引張試験を行った。 その結果を表 6及び 7並 びに図 1 7及び 18に示す。
表 6 サンプル名 q 破断応力 (MPa) 破断歪 初期弾性率 (MPa)
BC+Gelatin in water 5.8 3.7 0.37 1.7
BC+Gelatin 0.001 M NaCI 5.4 3.4 0.34 2.4
BC+Gelatin 0.01 M NaCI 4.9 4.4 0.36 1.5
BC+Gelatin 0.1 M NaCI 4.6 3.0 0.41 0.9
Gelatin in water 10 0.12 0.35 0.16
Gelatin 0.001 M NaCI 7.0 0.1 1 0.39 0.15
Gelatin 0.01 NaCI 6.7 0.14 0.42 0.09
Gelatin O.I MNaCI 6.1 0.12 0.45 0.07
BC in water 89 ― ― 0.007
BC 0.001 M NaCI 88 ― ― 0.010
BC 0.01 M NaCI 88 ― ― 0.007
BC 0.1 M NaCI 80 ― ― 0.009
サンプル名 q 破断応力 (MPa) 破断 ife 初期弾性率 (MPa)
BC+Gelatin in water 5.8 3.3 0.17 22
BC+Gelatin 0.001 M NaCI 5.4 3.3 0.17 21
BC+Gelatin 0.01 M NaCI 4.9 3.8 0.17 23
BC+Gelatin 0.1 M NaCI 4.6 3.8 0.19 19
Gelatin in water 10 0.068 0.32 0.20
Gelatin 0.001 M NaCI 7.0 0.078 0.36 0.21
Gelatin 0.01 NaCI 6.7 0.087 0.37 0.22
Gelatin O.I MNaCI 6.1 0.085 0.33 0.25
BC in water 89 2.2 0.21 2.9
BC 0.001 M NaCI 88 2.3 0.22 2.4
BC 0.01 M NaCI 88 3.2 0.27 3.5
BC 0.1 M NaCI 80 2.9 0.22 2.7
( 2 ) 試験例 6— 2
B C単体ではいつたん大変形してしまうと元には戻らない性質を持っている力 電解質である Gelatinを含有させることで変形からの回復効果が得られるように なった否かの確認のため、 圧縮によるサイクル試験を行った。
TENSILO 測定機を用いてサンプル (BC- Gelatin (50) ) の圧縮試験を行った。 サンプルについてはほぼ直径 9瞧 X 5膽 の円柱状にし、 圧縮速度はサンプル厚
さに対して 1 0%/min. とした。 歪 30 %のところまでサイクルを 5回繰り返し た。
図 1 9 2 1からいずれの場合も、 1回目の往路の立ち上がりが早いこと、 2回目以降の往路と全体の復路はほぼ一定の経路をたどることがわかった。 図 21を見ると荷重を抜いても押し返す力が弱く、 復路の落ち込みが大きいことが わかる。 これは BCの回復性の低さが表れている為だと考えられる。 図 1 9及び 20では、 2回目以降の立ち上がりが歪約 7 %のところで起こり、 一方で図 2 1では歪約 1 2%のところであるので、 DNでの 2サイクル以降は Gelatinの 性質が強く出ているのではないかと理解される。
素材の観点から図 1 9を見ると、 このゲルは破断直前の歪を力 f続けても高い 弾性率を保ち、 また高荷重にも耐えていることから耐久性のある物質であること がわ力 る。
(3) 試験例 6— 3
BCに電解質を加えることでどれくらい保水能力が上がっているのかを試験し た。 尚、 圧縮試験は試験例 5に準じて行った。 サンプルは BC- Gelatin(x%)を 用いた。 保水力は、 歪 30%で圧縮を止めてゲル周囲の水分を拭き取り、 圧縮前 後のゲルの重量から評価した。
重量評価については
Wwater = Woolvmer x ^ - 1)
+· , ^before χ α - Waiter
水の減少率 A =—— ~~
水の残存量 = 1- (%で表示した)
α :圧縮しない状態での補正値 (大気中への蒸発)
から算出した。
図 22に B Cに含浸させるゼラチン濃度と水の残存量との関係を示した。 ゲル に与えた歪量が 30%であったので BC単体 (ゼラチン 0%) でも 80%の水は 残っているが、 ゼラチン濃度を徐々に上げていくことで DNでの残存量は上昇し、 ゼラチン濃度が 40 50%にもなると DNもゼラチン SNも大差なく近い値を 示していることがわかる。
試験例 7 {生体内耐久性に関する評価 (皮下埋植試験) }
実施例 7のバクテリアセルロース/ゼラチン DN型ハイ ドロゲルにつき、 以下 のプロ トコールに従い、 標記試験を行った:
1. 材料と方法
1) ゲル材料
Cellulose-Gelatin (size 1 0 ramX 1 0 mmX o mm; 4個
2) 使用動物
白色家兎雄 2羽 (体重 3 kg 台)
3) 滅菌方法
'イソジン消毒 1 0分 → 抗生剤入り (ミノマイシン lg 4 8時間) 浸漬
•兎 1羽につき背骨を対称に間隔を空け 3箇所にゲル素材埋植
•兎背部の傍脊柱筋上の皮膚に約 2 cm 程の皮切を加え皮下を剥離し埋植する スペースを確保した後ゲル材料を 1個埋植し皮膚縫合。
•術後の兎はケージ内で 6週間飼育。
4) 埋植実験
①埋植群:ゲル 2個を滅菌処置後 6週間皮下埋植
②対照群 (滅菌処置のみ) : 2個を滅菌処置後に 6週間蒸留水中で保管
5) 検討項目
•兎背部手術創周囲の状態
·皮下のゲル周囲の状態
• ゲルの形状、 変形状態
2. 結果
埋植群: 兎 2羽は特に重篤な感染兆候なく 6週経過後屠殺。
ゲル材料を回収し 2時間後に先端研にて破壊試験施行
·背部の状況
ゲル埋植部において軽度の膨隆を認めるが著明な発赤、 熱感等は認めず •皮下ゲル周囲の状況
ゲルを中心として被膜を形成。 著明な感染の兆候は認めず {図2 3 ( 1 ) 及 び (2)}
• ゲルの形状、 変形の有無
size 9.63X 10.19X4.88
埋植前の状態と比べ若干変形があったものの、 ほぼ原型維持(図 24) 力学試験の結果
*コントロ一ル群:未処置
*滅菌群:滅菌処置 (抗生剤 &イソジン浸漬.) 後 6週間蒸留水中で保管 *埋植群:滅菌処置後皮下 6週間埋植