ジャーミン様タンパク 4遺伝子プロモーター、 およびその利用 技術分野
本願発明は、 植物に外来遺伝子を導入して根で特異的に発現させるプロモータ 一に関する。 さらに詳しくは、 イネのジャーミン様タンパク 4遺伝子 (probable germin protein 4 gene ; GER4) のプロモーター領域、 もしくはその一音を用いて 根で特異的に外来遺伝子を発現させる方法に関する。 背景技術
根は植物を支える役割のほかに、 水や養分などの吸収と輸送、 植物ホルモンの 合成、 あるいは養分を蓄積する役割などを担っている。 また、 根は線虫や病原菌 からの被害や、 冠水、 乾燥、 栄養欠乏、 栄養過剰などのス トレスを受ける部位で もある。
このため植物の根において適切な遺伝子を発現させることで、 線虫抵抗性、 耐 病性、 耐冠水、 耐乾燥の植物、 あるいは特定の栄養素が欠乏した土壌、 過剰な土 壌などでも生育可能な植物を作出できる可能性がある。 また、 カドミウムなどの 有害物質を効率的に吸収できる植物を作出することで、 土壌浄化に利用すること も出来る。 あるいは、 根菜類の栄養改変や、 医薬品や生分解性プラスチックなど の原料の生産など、 根において外来遺伝子を発現させることによる応用範囲は広 く、 有用性は高い。
一般に、 植物ではその活性が強いことから、 カリフラワーモザイクウィルス(Ca MV)の 35Sプロモーターがよく利用されており、 実際、 除草剤耐性植物やウィルス 抵抗性植物の作出に用いられている。
しかしながら、 35Sプロモーターは、 強力であるが組織特異性がなく、 必ずしも
最適な形質転換植物の作出に適しているとは限らない。 例えば、 不必要な部位で の発現によつて成長異常などをきたしたり、 発現強度が高すぎることによってジ —ンサイレンシング等の好ましくない形質が現れたりすることがある。 また、 組 換え作物の作出に際しては、 必要のない形質を持ち込まないことが望まれており、 目的遺伝子を必要な組織以外においても発現させてしまうプロモーターでは植物 体への適用に際する用途が大きく制限されたものとなる。
このような問題の解決手段として、 特定の組織、 とりわけ根組織に特異的に目 的の遺伝子を制御するプロモーターを用いることが望ましい。 植物の主に根で発 現するとされている遺伝子はいくつか知られているが (非特許文献 1〜13、 17〜2 1参照) 、 植物の根で特異的に遺伝子発現を制御するプロモーターは従来技術にお いてはまだ種類が少なく (特許文献 1〜 3および非特許文献 14〜 16、 22、 23参 照) 、 しかもその特異性は低いのが現状である。
また、 非特許文献 1によると、 イネの RCc2遺伝子はノザン解析によって根に特異 的発現をすることがわかったが、 RCc2遺伝子の上流域をプロモーターとして使用 した場合は、 外来遺伝子を根の分裂域以外、 および葉の維管束で発現させること がわかった。 この例のように、 ノザン解析などで、 根特異的発現をする遺伝子を 取得しても、 外来遺伝子根特異的に発現させるプロモータ一部位を取得するのは 当業者であっても容易ではない。
ジャーミンは、 コムギの発芽時に特異的に出現するタンパク質として単離され、 シユウ酸酸化活性を持つと考えられているが、 その機能は不明である。 ジャーミ ン様タンパクは、 ジャーミンと相同性を持つタンパク質の総称で、 発現パターン はジャーミンと異なり、 シユウ酸酸化活性も持たず、 機能は不明である。 ジャー ミン、 及びジャーミン様タンパクはコムギ、 ォォムギ、 イネ、 シロイヌナズナ、 アサガオ、 タバコ、 ジャガイモ、 トマトなど多くの植物から単離されており、 発 現部位は、 芽ばえ全体、 葉、 茎、 根など遺伝子によって様々である。 また、 ジャ 一ミン、 及ぴジャーミン様タンパクの中には、 環境ストレス(塩、 重金属ストレ
ス)や病原菌の感染で発現が増加するもの、 あるいは発現がサ一力ディアンリズム を示すものも報告されている(非特許文献 2 4〜3 4参照)。 また、 イネからは複 数のジャーミン、 及びジャーミン様タンパクが単離されており(非特許文献 3 5参 照)、 本発明者らが単離した遺伝子のコーディング領域は、 イネのジャーミン様タ ンパク 4 (GER4: germin-like protein 4) と高い相同性(95%)があったが、 その 発現様式や遺伝子の機能に関する報告はなされていない。
〔特許文献 1〕 米国特許出願公開第 2001/0016954号明細書
〔特許文献 2〕 米国特許第 6271437号明細書
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〔非特許文献 3 5〕 embre, N. および Bernier, F.著、 「The rice genome express es at least six different genes for oxalate oxidase/germm-like proteins (Accession Nos. AF032971, AF032972, AF032973, AF032974, AF032975, and AF0 32976) (PGR98-021) J 、 Plant Physiol.、 Vol. 116、 No. 2、 p. 868、 1998年 発明の開示
本発明の目的は、 植物の根で特異的に遺伝子の発現を制御するのに有用なプロ モーター、 該プロモーターを含有する発現ベクター、 該発現ベクターを含む形質 転換植物もしくは植物体、 およびその作製方法を提供することにある。
本発明者らはイネの根から、 根で特異的に発現をするジャーミン様タンパク 4 (probable germin protein 4; GER4) 遺伝子の 5 '上流域を単離し、 この上流域 の DNAを解析し、 鋭意検討を重ねた結果、 ジャーミン様タンパク 4遺伝子のプロモ 一ター機能を有する DNA配列を特定することに成功し、 本発明を完成するに至った。 本発明者らによって単離されたプロモーターを利用することによって、 実際に外 来遺伝子を根特異的に発現させることが可能である。
すなわち、 本発明は、 以下の 〔1〕 〜 〔1 5〕 に関する。
〔1〕 下記の (a ) 、 ( b ) または (c ) の DNAを含むプロモーター。
( a ) 配列番号: 1に記載の塩基配列からなる DNA
( b ) 配列番号: 1に記載の塩基配列において 1もしくは複数の塩基が欠失、 置換もしくは付加された塩基配列からなり、 かつプロモーター機能を 有する DNA
( c ) 配列番号: 1に記載の塩基配列からなる DNAとストリンジェントな条件 下にハイブリダィズし、 かつプロモーター機能を有する DNA
本発明は、 より詳しくは、 以下に関する。
〔l b〕 上記 (a ) 、 ( b ) または (c ) の DNAを含む、 プロモーターとして 使用するための DNA、 または
〔l c〕 上記 (a ) 、 ( b ) または (c ) の DNAのプロモーターとしての使用 c 〔2〕 〔1〕 に記載のプロモーターの下流に、 外来遺伝子および植物ターミネ 一ターが機能的に連結した構造を有する DNA。
〔3〕 〔1〕 に記載のプロモーターを含むベクター。
〔4〕 〔1〕 に記載のプロモーターの下流に外来遺伝子揷入部位および植物タ ーミネーターを含む、 〔3〕 記載のベクター。
〔5〕 〔2〕 に記載の DNAを含むベクター。
〔6〕 〔1〕 に記載のプロモーター、 〔2〕 に記載の DNA、 または 〔3〕 〜
〔5〕 のいずれかに記載のベクターを含む、 形質転換細胞。
〔7〕 微生物である、 〔6〕 に記載の形質転換細胞。
〔8〕 植物細胞である、 〔6〕 に記載の形質転換細胞。
〔9〕 〔8〕 に記載の細胞を含む、 形質転換植物体。
〔1 0〕 〔 9〕 に記載の形質転換植物体の子孫またはクローンである、 形質転 換植物体。
〔1 1〕 〔9〕 または 〔1 0〕 に記載の形質転換植物体の繁殖材料。
〔1 2〕 〔9〕 または 〔1 0〕 に記載の形質転換植物体の作製方法であって、 〔1〕 に記載のプロモーター、 〔2〕 に記載の DNA、 または 〔3〕 〜
〔5〕 のいずれかに記載のベクターを植物細胞へ導入し、 該植物細胞か ら植物体を再生させる工程を含む方法。
〔1 3〕 植物の根において外来遺伝子を発現させる方法であって、 〔2〕 に記 載の DNA、 または 〔4〕 もしくは 〔5〕 に記載のベクターを該植物の細胞 へ導入する工程を含む方法。
〔1 4〕 被験化合物について、 〔1〕 に記載の DNAのプロモーター活性を調節す
04 005161
- 1 o - るか否かを評価する方法であって、
( a ) 〔1〕 に記載の DNAとレポーター遺伝子とが機能的に結合した構造を 有する DNAを含む細胞または細胞抽出液と、 被験化合物を接触させる 工程、
( b ) 該レポーター遺伝子の発現レベルを測定する工程、
を含み、 被験化合物が該レポーター遺伝子の発現レベルを変化させた場 合に、 被験化合物が 〔1〕 に記載の DNAのプロモーター活性を調節すると 判定される方法。
〔1 5〕 以下の工程 (a ) および (b ) を含む、 〔1〕 に記載の DNAのプロモー ター活性を調節する化合物のスクリ一二ング方法。
( a ) 〔1 4〕 に記載の評価方法により、 被験化合物について、 〔1〕 に 記載の DNAのプ口モータ一活性を調節するか否かを評価する工程 ( b ) 被験化合物から、 該 DNAのプ口モータ一活性を調節すると評価された 化合物を選択する工程
以下、 本発明を詳細に説明する。 本発明者らは、 イネの様々な部位からそれぞ れ cDNAライプラリ一を作成した。 根から作成した cDNAライブラリ一から 3334個の クローンを単離、 根以外の組織から作成した cDNAライブラリ一からは 8875個のク ローンを単離して塩基配列を決定した。
根由来のライブラリ一に 3回出現し、 根以外の糸且織由来のライブラリ一には一 度も出現しなかったクローンを選択し、 GenBank/EMBLデータベースを元に BLASTプ ログラムを用いて塩基配列のホモ口ジー検索を行つたところ、 このクローンがジ ヤーミン様タンパク 4 (germin protein 4; GER4) 遺伝子と推定される配列に一致 することが判明した。 ジャーミン様タンパク 4遺伝子の発現を逆転写 PCRによって 調べたところ、 根に特異的であることが確認された。 ジャーミン様タンパク 4遺伝 子の 5' 上流域を単離し、 上流側から段階的に欠損させた断片と GFP遺伝子を連結 させたキメラ遺伝子構築物をイネ、 およびシロイヌナズナ植物体に導入すること
で、 ジャーミン様タンパク 4遺伝子 (GenBankァクセッション番号: AP003020) 力、 らプロモーター領域を単離することに成功したものである。
本発明はまず、 ジャーミン様タンパク 4遺伝子プロモーター(DNA)を提供する。 本発明のプロモーターは、 下流の遺伝子を根特異的に発現させることが可能であ り、 極めて有用である。 本発明者らによって単離されたジャーミン様タンパク 4遺 伝子プロモーター DNAの塩基配列を、 配列番号: 1に示す。
本発明は、 より具体的には、 下記の (a ) 〜 (c ) のいずれかの DNAを含むプロ モーター (プロモーター活性を有する DNA) を提供する。
( a ) 配列番号: 1で示される塩基配列からなる DNA
( b ) 配列番号: 1で示される塩基配列において 1もしくは複数の塩基が欠失、 置換もしくは付加された塩基配列からなり、 かつプロモーター機能を有す る DNA
( c ) 配列番号: 1で示される塩基配列からなる DNAとストリンジェントな条件下 にハイブリダィズし、 かつプロモーター機能を有する DNA
本発明の 「プロモーター」 とは、 DNAを铸型とした mRNAの合成 (転写) の開始に 必要な特定塩基配列を含む DNAを意味し、 自然界に存在する DNAの他、 組換えなど の人工的な改変操作により作成された DNAを含む。 また、 本突明のプロモーターは、 植物細胞において発現誘導型プロモーターであることが好ましい。
本発明者らは、 本発明のプロモーターを得るために、 イネのジャ一ミン様タン パク 4遺伝子の上流に存在するゲノム配列から、 配列番号: 2に示す 2072bpの配列 を含む断片を PCRにより取得した。 この断片の下流に、 植物体において遺伝子発現 を容易にモュターすることが可能なレポーター遺伝子として、 緑色蛍光タンパク 質 (GFP) 遺伝子を連結したキメラ遺伝子構築物を作成し、 ァグロパクテリゥムを 介してイネ、 およぴシロイヌナズナの植物体へ導入したところ、 GFP遺伝子の発現 がシロイヌナズナの植物体では検出されず、 イネでは根に特異的に GFP遺伝子の発 現が観察された。
さらに、 この断片を上流側から段階的に欠損させ、 それぞれの断片と GFP遺伝子 を連結させたキメラ遺伝子構築物をイネ、 およぴシロイヌナズナ植物体に導入し て解析を行ったところ、 根における発現の誘導には少なくとも 627bpからなる断片 (配列表の配列番号: 2の 1446番目から 2072番目までの配列からなる断片 Z配列 番号: 1 ) で十分機能することを突き止めた。 すなわち本発明は、 配列番号: 1 に記載の塩基配列からなる DNA、 もしくは該 DNAを含むプロモーター活性を有する D NAを提供する。
本発明のプロモーターは、 配列番号: 1の塩基配列からなる DNAだけでなく、 配 列番号: 1の塩基配列において 1もしくは複数の塩基が欠失、 置換もしくは付加 された塩基配列からなり、 かつ植物プロモーターとして作用する.能力を有する DNA、 または、 配列番号: 1の塩基配列において、 その 3 '末端に翻訳効率を上げる塩基 配列などを付加したものや、 プロモーター活性を失うことなく、 その 5 '末端を欠 失したものを含む。
上記 DNAを調製するために、 当業者によりょく知られた方法としては、 ハイプリ ダイゼーシヨン技術 (Southern, EM. , J Mol Biol, 1975, 98, 503. ) やポリメラ ーゼ連鎖反応 (PCR) 技術 (Saiki, RK. et al., Science, 1985, 230, 1350.、 Sa iki, RK. et al. , Science, 1988, 239, 487. ) の他に、 例えば、 該 DNAに対し、 s ite - directed mutagenesis法 (Kramer, W. & Fritz, HJ . , Methods Enzymol, 198 7, 154, 350. ) により変異を導入する方法が挙げられる。
本発明において欠失、 置換等の変異が導入される塩基の数は、 変異を導入され た DNAがプロモーター活性を有する限り、 特に制限されないが、 通常、 20塩基対以 内、 好ましくは 10塩基対以内、 より好ましくは 5塩基対以内、 最も好ましくは 3塩 基対以内である。
さらに、 本発明の植物プロモーターは、 配列番号: 1の塩基配列からなる DNAと ストリンジェントな条件下でハイブリダィズし、 かつ植物プロモーターとして作 用する能力を有する DNAを含む。 ここで、 ストリンジェントな条件とは、 特に制限
されるものではないが、 例えば 42°C、 2 X SSC (300mM NaCl、 30mMクェン酸) 、 0. 1%SDSの条件であり、 好ましくは 50°C、 2 X SSC 、 0. 1%SDSの条件であり、 さらに 好ましくは、 65°C、 0. 1 X SSCおよび 0. 1%SDSの条件である。 これらの条件におい て、 温度を上げる程に高い相同性を有する DNAが効率的に得られることが期待でき る。 ハイブリダィゼーションのストリンジエンシーに影響する要素としては温度 や塩濃度など複数の要素が考えられ、 当業者であればこれら要素を適宜選択する ことで同様のストリンジエンシーを実現することが可能である。
さらに本発明は、 本発明のプロモーターの下流に、 外来遺伝子およびターミネ 一ターが機能的に連結した構造を有する DNAを提供する。 本努明において外来遺伝 子とは、 特に制限されず、 所望の遺伝子を用いることができる。
また、 本発明のターミネータ一とは、 通常、 植物由来ターミネータ一 (植物タ ーミネーター) を言い、 本発明の植物組識特異的な発現を制御するプロモーター 領域に隣接して配置される DNA配列であり、 例えば、 力リフラワーモザィクウィル ス由来のターミネータ一、 あるいはノパリン合成酵素遺伝子由来のターミネータ 一等を例示することができるが、 ターミネータ一としての機能を有するものであ れば、 これらに特に制限されない。
本発明において 「機能的に連結」 とは、 プロモーターの下流の外来遺伝子がプ 口モーターからの転写を受けるように該プロモーターと結合している状態、 ある いは、 ターミネータ一によつて外来遺伝子の発現が終結するように外来遺伝子が ターミネータ一と結合した状態を指す。 プロモーター、 外来遺伝子おょぴターミ ネーターを 「機能的に連結」 させることは、 当業者においては一般的な遺伝子ェ 学技術を用いて、 簡便に行い得ることである。
また、 本発明のプロモーターの一例としては、 上記 (a ) 〜 (c ) のいずれか に記載の DNAからなるプロモータ一活性を有する DNAを挙げることができる。 プロ モーター活性は、 当業者においては公知の方法 (例えば、 後述のレポーター遺伝 子を用いて該遺伝子の発現を指標に測定する方法) によって適宜、 評価すること
1
- 1 4 - ができる。
さらに本発明は、 上記本発明のプロモーターを含むベクター、 本発明のプロモ 一ターの下流に遺伝子挿入部位およびターミネータ一を含むベクター、 並びに、 本発明の上記 DNAを含むベクターを提供する。
本発明のベクターは、 通常、 本発明のプロモーターを植物細胞内で複製可能な ベクターに挿入したものである。 この複製可能なベクターとしては、 公知の種々 のべクターを用いることができる。 例えば、 pUC誘導体などの大腸菌で増幅可能な ベクター、 pPZP2H - lacなどの大腸菌とァグロパクテリゥムの双方で増幅可能なシ ャトルべクタ一などが挙げられる。 また、 植物ウィルス、 例えば、 カリフラワー モザイクウィルスを利用することもできる。 当業者においては、 植物細胞内で複 製可能なベクターを、 各々の宿主細胞に応じて適宜選択することができる。 なお、 本発明のプロモーターをベクターに挿入する方法は、 通常の遺伝子をべクターに 挿入する常法に従う。
また本発明は、 本発明のプロモーター、 本発明の DNA、 または本発明のベクター を含む形質転換細胞を提供する。
本発明の細胞は、 特に制限されるものではないが、 好ましくは微生物細胞ある いは植物細胞である。
本発明の形質転換植物細胞は、 本発明の DNAもしくはベクターを宿主細胞に導入 し、 形質転換させた植物細胞である。 宿主細胞としては、 例えば葉、 根、 茎、 花 および種子中の胚盤等の植物細胞、 カルス、 懸濁培養細胞等が挙げられる。 細胞 の由来する植物種としては、 特に制限されるものではないが、 例えば、 タバコ、 ペチュニア、 コムギ、 イネ、 ォォムギ、 トウモロコシ、 ダイズ、 ナタネ、 ダイコ ン、 テンサイ、 カボチヤ、 キユウリ、 トマト、 ヮタなどが挙げられる。 尚、 本発 明における好ましい例として、 イネを挙げることができる。
また本発明は、 本発明のプロモーター、 本発明の DNAまたはベクターを植物細胞 へ導入し、 該植物細胞から植物体を再生させる工程を含む、 形質転換体の作製方
法に関する。
本発明の DNAもしくはベクターを宿主植物細胞中に導入するために、 さまざまな 手法を用いることができる。 これらの手法には、 形質転換因子としてァグロパク テリウム 'ッメファシェンス ( grobacteriwn tumefaciens)または、 ァグロバクテ リウム . リゾゲネス Agrobacterium rhizogerws を用いた T- DNAによる植物細胞 の形質転換、 プロトプラストへの直接導入(インジェクション法、 エレクトロボレ ーシヨン法など)、 パーティクルガン法などや、 その他の公知の方法が含まれる。 プロトプラストへの直接導入では、 通常、 特別に必要とされるベクターはない c 例えば、 pUC誘導体のような単純なプラスミ ドを用いることができる。 目的の遺伝 子を植物細胞に導入する方法によっては、 他の DNA配列が必要になることもある。 例えば Tiまたは Riプラスミ ドを植物細胞の形質転換に用いる場合には、 Tiおよび R iプラスミ ドの T-DNA領域の少なくとも右端の配列、 大抵は両側の端の配列を、 導 入されるべき遺伝子の隣接領域となるように接続しなければならない。
ァグロパクテリゥム属菌を形質転換に用いる場合には、 導入すべき遺伝子を、 特別のプラスミ ド、 すなわち中間ベクターまたはバイナリーベクターの中にクロ 一-ングする必要がある。 中間ベクターはァグロパクテリゥム属菌の中では複製 されない。 中間ベクターは、 ヘルパープラスミ ドあるいはエレクト口ポレーショ ンによってァグロバクテリウム属菌の中に移行される。 中間ベクターは、 T - DNAの 配列と相同な領域をもっため、 相同的組換えによって、 ァグロバクテリウム属菌 の Tiまたは Riプラスミ ド中に取り込まれる。 宿主として使われるァグロバタテリ ゥム属菌には、 vir領域が含まれている必要がある。 通常 Tiまたは ^プラスミ ドに vir領域が含まれており、 その働きにより、 T - DNAを植物細胞に移行させることが できる。
一方、 バイナリーベクターはァグロパクテリゥム属菌の中で複製、 維持され得 るので、 ヘルパープラスミ ドあるいはエレクトロポレーシヨン法あるいは凍結溶 解法によってァグロパクテリゥム属菌中に取り込まれると、 宿主の vir領域の働き
によって、 バイナリーベクター上の T-DNAを植物細胞に移行させることができる。 なお、 このようにして得られた中間ベクターまたはバイナリーベクター、 およ ぴこれを含む大腸菌ゃァグロパクテリゥム属菌等の微生物も本発明の対象である また、 本発明の DNAもしくはベクターの導入によって形質転換された植物細胞を 効率的に選択するために、 上記ベクターは、 適当な選抜マーカー遺伝子を含む、 もしくは選抜マーカー遺伝子を含むプラスミドベクターとともに植物細胞へ導入 することが好ましい。 この目的に使用される選抜マーカー遺伝子は、 例えば、 抗 生物質ハイグロマイシン耐性であるハイグロマイシンホスホトランスフェラーゼ 遺伝子、 カナマイシンまたはゲンタマイシン耐性であるネオマイシンホスホトラ ンスフェラーゼ、 および除草剤ホスフイノスリシン耐性であるァセチルトランス フェラーゼ遺伝子等を挙げることができる。
上記ベクターを導入した植物細胞は、 導入した選抜マーカーに応じた選抜用薬 剤を含む選抜用培地に置床し培養する。 これにより、 形質転換された植物細胞を 得ることができる。
本発明の形質転換植物体とは、 本発明の形質転換植物細胞から再生された形質 転換植物体である。 形質転換された植物細胞から個体を再生する方法は植物細胞 の種類により異なるが、 例えばイネでは Fujimuraら (Fujimuraら(1995) , PlantTi ssue Culture Lett. , vol. 2 : p74 -) の方法、 トウモロコシでは、 Shillitoら (Shi llitoら(1989), Bio/Technology, vol. 7 : p581- ) の方法、 ジャガイモでは、 Visse rら (Visserら(1989), Theor. Appl. Genet. , vol. 78 :p589 -) の方法、 シロイヌ ナズナでは Akamaらの方法 (Akamaら(1992) , Plant Cell Rep. , νο1· 12 : ρ7- ) が挙 げられる。 これらの方法により作出された形質転換植物体またはその繁殖材料 (例えば種子、 果実、 塊茎、 切穂、 塊根、 株、 カルス、 プロトプラストなど) 力 ら得た形質転換植物体も本発明の対象である。 一旦、 染色体内に本発明のプロモ 一ター (DNA)が導入された形質転換植物体が得られれば、 該植物体から有性生殖ま たは無性生殖により子孫を得ることが可能である。 また、 該植物体やその子孫あ
るいはクローンから繁殖材料を得て、 それらを基に該植物体を量産することも可 能である。
本発明の植物体を作製する方法の好ましい態様においては、 本発明の DNAまたは べクターを宿主細胞に導入して形質転換植物細胞を得て、 該形質転換植物細胞か ら形質転換植物体を再生し、 得られた形質転換植物体から植物種子を得て、 該植 物種子から植物体を生産する工程を含む。
形質転換植物体から植物種子を得る工程とは、 例えば、 形質転換植物体を発根 培地から採取し、 水を含んだ土を入れたポットに移植し、 一定温度下で生育させ て、 花を形成させ、 最終的に種子を形成させる工程をいう。 また、 種子から植物 体を生産する工程とは、 例えば、 形質転換植物体上で形成された種子が成熟した ところで、 単離して、 水を含んだ土に播種し、 一定温度、 照度下で生育させるこ とにより、 植物体を生産する工程をいう。
本発明の植物プロモーターは、 例えば、 以下のようにして作製し、 利用するこ とができる。 なお、 実験手法に関しては、 特に記載のない限り、 「クローニング とシークェンス」 (渡辺格監修、 杉浦昌弘編集、 農村文化社 (1989年) ) や、 「M olecular Cloning (Sambrookら (1989), Cold Spring Harbor Laboratory Pres s) J などの実験書に従う。
本発明の DNAには、 天然あるいは単離 '精製されたゲノム DNA、 および化学合成!) NAが含まれる。 ゲノム DNAの調製は、 当業者にとって常套手段を利用して行うこと が可能である。
本発明の DNAは、 目的とする植物、 例えば、 イネの組織よりゲノム DNAを抽出し 精製し、 得られた DNAを铸型として PCRによって単離することができる。
本発明における、 配列番号: 1に記載の塩基配列からなる DNA、 およびこれとス トリンジェントな条件下でハイプリダイズし、 かつ根特異的発現を示すプロモー タ一を単離するためには、 例えば、 配列番号: 2に記載の塩基配列からなる DNA上 の配列であって、 本発明のプロモーターを増幅するためのプライマー対を用いる
ことができる。 このプライマ一対を用いて、 植物のゲノム DNAを铸型として PCRを 行い、 その後、 得られた増幅 DM断片をプローブとして用いて、 同じ植物のゲノム ライブラリーをスクリーエングすることができる。 そのようなプライマー対の例 として、 正方 |ロ」プフィマー (GER4Fs; 5 - tggccgcggagctgaccaactcttgcac -3 (配列番号: 8 ) ) と、 逆方向プライマー (GER4Rx; 5' - ggtctagacgaacagcgcgt ggttg -3' (配列番号: 7 ) ) との組合せが挙げられる。
PCRは、 市販のキットおよび装置の製造者の指針に基づいて行う力、 当業者に周 知の手法で行い得る。 遺伝子ライブラリ一の作製法、 および遺伝子のクローニン グ法なども当業者に周知である。 例えば、 「クローユングとシークェンス」 (渡 辺格監修、 杉浦昌弘編集、 農村文化社 (1989年) ) や、 「Molecular Cloning (Sa mbrookら(1989), Cold Spring Harbor Laboratory Press) 」 などの実験鲁を参照 のこと。 得られた遺伝子の塩基配列は、 当該分野で公知のヌクレオチド配列解析 法または市販されている自動シーケンサーを利用して決定し得る。 PCR技術やハイ ブリダィゼーシヨン技術によって単離し得る、 配列番号: 1に記載の塩基配列か らなる DNAとハイブリダィズする DNAもまた、 本発明の DNAに含まれる。
上記のようなスクリーエングによって単離および同定されたプロモーター (す なわち、 配列番号: 1に示されるプロモーター、 およびホモログ) が根特異的遺 伝子発現誘導性を示すことは、 以下のようにして解析することが可能である。 上記の配列を、 例えば、 GFPなどのレポーター遺伝子の上流に連結し、 pPZP2H - 1 acなどのベクターに組み込む。 レポーター遺伝子としては、 GFP遺伝子の他にクロ ラムフエ-コール ァセチルトランスフェラーゼ (CAT) 遺伝子や、 ルシフェラー ゼ (LUC) 遺伝子、 ベータ グルクロ-ダーゼ (GUS) 遺伝子なども利用が可能で ある。
上記のようにして作成されたキメラ遺伝子構築物は、 例えば、 ァグロバタテリ ゥムを介してシロイヌナズナなどの植物に導入してその機能を解析することが可 能である。 pPZP2H - lacをベクターとして用いた場合は、 キメラ遺伝子を含む組換
えプラスミドを、 例えば、 ァグロパクテリゥム ·ッメファシエンスの EHA101株に 凍結溶解法を用いて導入し、 得られた形質転換菌を、 例えば、 減圧浸潤法 (島本 功ら監修、 「モデル植物の実験プロトコール」 (植物細胞工学別冊、 植物細胞ェ 学シリーズ 4 ) 秀潤社 1996年 4月発行) によりシロイヌナズナなどの植物体に感染 させる。 感染処理した植物より得られた種子を、 ハイグロマイシンなど用いたベ クターに適した薬剤を含む培地に播種し、 得られた薬剤耐性個体を用いて GFP遺伝 子の発現について解析する。 蛍光顕微鏡で観察することにより、 GFPの蛍光が根で 特異的に検出されることが期待される。
本発明のプロモーターまたはそれを含む発現ベクターは、 以下のようにして利 用することが可能である。 本発明のプロモーターの下流に目的の遺伝子、 例えば、 養分のトランスポーター遺伝子を連結したキメラ遺伝子を、 例えば、 pPZP2H-lac に揷入し発現ベクターを構築する。 このべクタ一をァグロバクテリゥムを介して イネなどの植物体に導入する。 得られた形質転換植物においては、 本発明のプロ モーターの働きにより根において養分のトランスポーター遺伝子が特異的に発現 し、 養分を効率的に取り込むことができるようになることが期待される。 この場 合、 35Sプロモーターのように不要な組織においても発現することがないため、 他 の好ましくない形質が現れないことが期待される。
本発明のプロモーターで制御可能な遺伝子 (外来遺伝子) としては、 上記のト ランスポーター遺伝子に限定されない。 根において特異的に発現させることに意 義のあるあらゆる遺伝子に応用が可能である。
また、 本発明のプロモーターに他の発現制御配列を連結して本発明のプロモー ターの機能を改変することが可能である。 このような発現制御配列としては、 ェ ンハンサー配列ゃリプレッサー配列、 インスレーター配列などが挙げられる。 例 えば薬剤に応答して抑制が解除されるリプレッサー配列を本発明のプロモーター と連結したキメラプロモーターを作成し、 その下流に目的の遺伝子を連結した構 築物を植物に導入すると、 得られた形質転換体では、 薬剤が存在しない条件下で
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- 2 0 - は目的遺伝子の発現が抑制されているが、 薬剤を投与することによつて抑制が解 除され、 目的遺伝子が根で発現するようになることが期待される。
なお、 本発明における植物細胞の形質転換方法としては、 上記のァグロバクテ リゥムを介した方法の他に、 プロトプラストに電気パルス処理してプラスミドを 植物細胞へ導入するエレクト口ポレーシヨン法や、 小細胞、 細胞、 リソソームな どとプロトプラストとの 合法、 マイクロインジェクション法、 ポリエチレング リコール法、 あるいは、 パ一テイクルガン法などの方法が挙げられる。
また、 植物ウィルスをベクターとして利用することによって、 目的遺伝子を植 物体に導入することができる。 利用可能な植物ウィルスとしては、 例えば、 カリ フラワーモザイクウィルスが挙げられる。 すなわち、 まず、 ウィルスゲノムを大 腸菌由来のベクターなどに揷入して糸且換え体を調製した後、 ウィルスのゲノム中 に、 これらの目的遺伝子を挿入する。 このようにして修飾されたウィルスゲノム を制限酵素によつて該組換え体から切り出し、 植物体に接種することによって、 これらの目的遺伝子を植物体に導入することができる (Hohnら (1982) 、 Molecul ar Biology of Plant Tumors (Academic Press、 New York) pp549, 米国特許第 4, 407, 956号) 。
また本発明は、 植物の根において外来遺伝子を発現させる方法を提供する。 本 方法の好ましい態様においては、 本発明のプロモーターの下流に外来遺伝子およ ぴ植物ターミネータ一が機能的に連結した構造を有する DNAを、 植物へ導入するェ 程を含む方法である。 本方法においては、 該 DNAを、 植物細胞へ導入し、 該細胞を 植物へ再生させることによつても行うことができる。 該 DNAの植物もしくは植物細 胞への導入は、 上述の方法によって実施することができる。
さらに本発明は、 被験化合物について、 本発明のプロモーター活性を有する DNA (例えば、 配列番号: 1に記載の塩基配列からなる DNA) のプロモーター活性を調 節するか否かを評価する方法を提供する。 この評価方法は、 本発明のプロモータ 一の活·生を有する DNAのプロモーター活性を調節する化合物のスクリ一二ング方法
に利用することができる。
本発明の評価方法に用いられる被検化合物としては、 特に制限はなく、 例えば、 天然化合物、 有機化合物、 無機化合物、 タンパク質、 ペプチド等の単一化合物、 並びに、 化合物ライブラリー、 遺伝子ライブラリーの発現産物、 細胞抽出物、 細 胞培養上清、 発酵微生物産生物、 海洋生物抽出物、 植物抽出物、 原核細胞抽出物、 真核単細胞抽出物もしくは動物細胞抽出物等を挙げることができる。
この方法においては、 まず、 本発明のプロモーター活性を有する DNAとレポータ 一遺伝子とが機能的に結合した構造を有する DNAを含む細胞または細胞抽出液と、 被験化合物を接触させる。
本発明において、 「機能的に結合した」 とは、 本発明のプロモーター活性を有 する DNAに転写因子が結合することにより、 レポーター遺伝子の発現が誘導される ように、 本発明のプロモーター活性を有する DNAとレポーター遺伝子とが結合して いることをいう。 本方法における 「本発明のプロモーター活性を有する DNAとレポ 一ター遺伝子とが機能的に結合した構造を有する DNAを含む細胞」 として、 例えば、 上記 DNAを含むベクターを導入した細胞を挙げることができる。 該ベクターは、 当 業者に周知の方法により作製することができる。 ベクターの細胞への導入は、 一 般的な方法、 例えば、 リン酸カルシウム沈殿法、 電気パルス穿孔法、 リポフエク タミン法、 マイクロインジェクション法等によって実施することができる。
また、 「本発明のプロモーター活性を有する DNAとレポーター遺伝子とが機能的 に結合した構造を有する DNAを含む細胞」 には、 染色体に該 DNAが挿入された細胞 も含まれる。 染色体への DNAの挿入は、 当業者に一般的に用いられる方法、 例えば、 相同組み換えを利用した遺伝子導入法により行うことができる。
本方法における 「本発明のプロモーター活性を有する DNAとレポーター遺伝子と が機能的に結合した構造を有する DNAを含む細胞抽出液」 とは、 例えば、 市販の試 験管内転写翻訳キットに含まれる細胞抽出液に、 本発明のプロモーター活性を有 する DNAとレポーター遺伝子とが機能的に結合した構造を有する DNAを添カ卩したも
のを挙げることができる。
本方法における 「接触」 は、 本発明のプロモ一ター活性を有する DNAとレポ一タ —遺伝子とが機能的に結合した構造を有する DNAを含む細胞の培養液に被験化合物 を添加する、 または該 DNAを含む上記の市販された細胞抽出液に被験化合物を添カロ することにより行うことができる。 被験化合物がタンパク質の場合には、 例えば、 該タンパク質をコードする DNAを含むベクターを、 該細胞へ導入する、 または該べ クターを該細胞抽出液に添加することで行うことも可能である。
本方法においては、 次いで、 該レポーター遺伝子の発現レベルを測定する。 レ ポーター遺伝子の発現レベルは、 当業者においては、 該レポーター遺伝子の種類 を考慮して、 測定することができる。
本方法においては、 被験化合物の非存在下において測定した場合と比較して、 被験化合物がレポーター遺伝子の発現レベルを変化させた場合に、 被験化合物が 本発明の DNAのプロモータ一活性を調節したと判定される。
さらに、 本発明においては、 上記評価方法を利用して、 複数の被験化合物につ いて、 本発明の DNAのプロモーター活性を調節する力否かを評価し、 プロモーター 活性を調節する化合物を選択することにより、 効率的にプロモーター活性を調節 する化合物をスクリーニングすることができる。 該スクリーニング方法によって 取得される化合物は、 遺伝子の根特異的な発現を制御することが可能であり、 非 常に有用である。 図面の簡単な説明
図 1は、 ジャーミン様タンパク 4遺伝子の組織別の相対的な発現量を RT-PCRによ つて調べた写真である。
図 2は、 配列番号: 2に示したジャーミン様タンパク 4遺伝子のプロモーター部 分を切り出し、 pblue- sGFP (S^T) - NOS SKに含まれる緑色蛍光タンパク (GFP) 遺 伝子の上流に連結することによって構築したプラスミドの遺伝子地図と、 そのプ
ラスミドからプロモーター: GFP:ターミネータ一のひとつながりを切り出し、 植 物用バイナリーベクターである PPZP2H- lacのマルチクローニングサイトに挿入す ることによって構築したプラスミドの遺伝子地図を示した図である。
図 3は、 本実施例の DNA断片を上流 (5 '側) から削った DNA断片のシリーズを作 製しそれぞれをベクターに連結した図である。
図 4は、 イネにおける本発明のプロモーターによる遺伝子の発現結果を検証す る写真である。 蛍光顕微鏡によるイネの根の蛍光像を示す。
1 . 蛍光顕微鏡による根の蛍光像。
2 . 通常光下における、 カルスから再分化中のイネの写真。
3 . 2の蛍光像。 根とカルスは蛍光を発しているが、 葉は全く蛍光を発していな い。 発明を実施するための最良の形態
以下に本発明を実施例によりさらに詳細に説明する力 本発明はこれら実施例 に制限されるものではない。 なお、 ゲノム DNAの調製、 mRNAの調製、 DNAの切断、 連結、 大腸菌の形質転換、 遺伝子の塩基配列決定等一般の遺伝子組換えに必要な 方法は、 特に記載のない限り、 各操作に使用する市販の試薬、 機器装置等に添付 されている説明書や、 実験書 (例えば rMolecular Cloning (Sambrookら(1989), Cold Spring Harbor Laboratory Pressリ 」 ) に¾本的に従った。
〔実施例 1〕 根特異的発現をする遺伝子の探索
( a ) cDNAライブラリーの作成
イネの様々な部位からそれぞれ cDNAライブラリーを作成した。 ライブラリーの 作成は (Okubo et al. Large scale cDNA sequencing for analysis of quantita tive and qualitative aspects of gene expression, nature genetics 2 : 173-1 79 (1992) ) に基本的に従って行った。 根から作成した cDNAライブラリーから 3334
個のクローンを単離、 根以外の組織から作成した cDNAライブラリ一からは 8875個 のクローンを単離して塩基配列を決定した。 塩基配列の決定には、 PCR product P re-Sequencing Kit (USB)と DYEnamic ET Dye Terminator Cycle Seuencing Kit f or MegaBACE (amaersham pharraacia biotech)で反応を行レヽ、 MegaBACElOOOを用レヽ て行った。
それらのクローンを塩基配列によるクラスタリングにより、 グループ分けをし、 根由来のライブラリーに 3回出現し、 根以外の組織由来のライブラリーには 1回 も出現しなかったグループを選択した。
このグループの塩基配列を GenBank/EMBLデータベースを元に BLASTプログラムを 用いてホモロジ一検索を行ったところ、 このクローンがジャーミン様タンパク 4
(germin protein 4; GER4) 遺伝子と推定される配列に一致することが判明した。 ( b ) ジャ一ミン様タンパク 4遺伝子の発現
イネの根、 葉、 およびカルスから常法に従って RNAを抽出し、 逆転写反応 (条 件: 2 5 °C10分、 4 2 °C1時間、 9 9 °C5分) を行った。 プライマーは東洋紡の Oli go d (T)プライマーを、 逆転写酵素は GibcoBRLの SuperScriptllを用いた。 この逆 転写反応液の一部を铸型として、 GibcoBRLの SuperMix High Fidelityと下記のプ ライマー対を用いて PCR反応を行った。 この際の PCR反応条件は、 9 5 °Cで 5分間 の変性の後、 9 4。じで 3 0秒間、 6 4でで 3 0秒間、 そして 7 2 で 1分間を 2 5、 あるいは 3 0サイクル繰り返し、 最後に、 7 2 °Cで 3分間インキュベーショ ンを行う条件であった。
公知のイネ PACライブラリ一の配列 (ァクセッション番号: AP003020) に基づい て一対のプライマー (GER4Fc; 5' - CCGACTTGGCGTCCCCGGTG-3' (配列番号: 3 ) および GER4Rc ; 5' - GGCCTTGGCGAGGACGTCGG-3' (配列番号: 4 ) ) を合成した。 コントロールとして公知のィネアクチン遺伝子の配列 (ァクセッション番号: X16 280) に基づいて一対のプライマー (actFc; 5, - CTGGGTTCGCCGGAGATGAT - 3,
(配列番号: 5 ) および actRc; 5' - TGAGATCACGCCCAGCAAGG -3' (配列番号:
6 ) ) を合成した。
この結果、 図 1に示したように、 コントロールのァクチン遺伝子は根、 葉、 お よびカルスでほぼ一定に発現しているのに対し、 ジャーミン様タンパク 4遺伝子で は根に特異的にバンドが検出された。
〔実施例 2〕 ジャ一ミン様タンパク 4遺伝子のプロモーター領域の単離
公知のイネ PACライブラリーの配列 (ァクセッション番号: AP002971) に基づい て一対のプライマー (GER4Rx; 5, - ggtctagacgaacagcgcgtggttg _3, (酉己歹幡 号: 7 ) および GER4Fs; 5, - tggccgcggagctgaccaactcttgcac -3, (配列番号: 8 ) ) を合成した。 GER4Fsは、 正方向プライマーであり、 5 ' 末端側に制限酵素 S acll部位 (ccgcgg) を有する。 GER4Rxは、 逆方向プライマーであり、 5 ' 末端側 に制限酵素 Xbal部位 (tctaga) を有する。 このプライマー対を用いると、 ジャー ミン様タンパク 4遺伝子の翻訳開始点より上流 2072bpが増幅される。
常法に従って、 イネ (品種; 日本晴) のゲノム DNAを調製した。 上記のプライマ 一対を用い、 この DNAを鎳型として PCRを行い、 増幅 DNA断片を得た。 増幅された DN Aを、 制限酵素による切断と、 あるいは常法に従って塩基配列決定により目的の部 位が増幅されたことを確認した。
〔実施例 3〕 ジャーミン様タンパク 4遺伝子のプロモーター領域活性検定用べク ターの作成
まず、 ベクター pBluescript SK (Stratagene) に、 植物体内で強い蛍光を発す る緑色蛍光タンパク質の変異型 sGFP (S65T) (丹羽康夫:植物細胞工学シリーズ 4、 モデル植物の実験プロトコール、 ppll7- 121、 秀潤社、 1996) と Nosターミネータ 一を組み込んだプラスミドである pblue- sGFP (S65T) - NOS SK (丹羽康夫博士 静岡 県立大学大学院より分与) に、 PCRによって得られた DNA断片を組み込んだプラス ミドを作成した (図 2 ) 。 さらにこのプラスミドを Saclと Kpnlで切断し、 バイナ
リーベクターである pPZP2H-lac (矢野昌裕博士農業生物資源研究所より分与) (Fuse et al. (2001) Plant Biotechnology 18 (3) : 219 - 222) のマルチクロー二 ングサイトにプロモーター領域- GFP-Nosターミネータ一のひとつながりの配列を 挿入することで、 プロモーター領域の活性を検定するための植物形質転換用バイ ナリーベクターを完成させた (図 2 ) 。
〔実施例 4 ] 植物への遺伝子導入
作成したべクターは凍結解凍法によりァグロパクテリゥム 'ッメファシエンス 菌 EHA101に導入した。 凍結解凍法とは凍結した EHA101のコンビテントセルにプラ スミ ド溶液を加え、 3 7 °Cで 5分間保温する方法のことをいう。 目的のベクター が導入された菌株を用いてシロイヌナズナ (品種: Columbia) とイネ (品種: 日 本晴) に遺伝子を導入した。
シロイヌナズナヘの導入は、 「減圧浸潤法による形質転換 (荒木崇) 」 (植物 細胞工学シリーズ 4、 モデル植物の実験プロトコール、 ppl09_113、 秀潤社、 199 6) に記載の方法に基本的に従って行った。 ただし、 記載されている減圧の過程は 省いて行った。
イネへの導入は、 イネのカルス化と植物体の再生に関して、 「イネのカルス形 成と植物体再生 (西村哲、 島本功) 」 (植物細胞工学シリーズ 15、 新版モデル植 物の実験プロトコール、 pp78- 81、 秀潤社、 2001) を参考に、 ァグロバタテリゥム による形質転換は、 「ァグロバタテリゥムによる方法 (横井修二、 鳥山欽哉) 」
(植物細胞工学シリーズ 15、 新版モデル植物の実験プロトコール、 pp78- 81、 秀潤 社、 2001) を参考にして行った。
〔実施例 5〕 植物体で発現した GFPの観察
GFPの発現はシャーレにいれた寒天培地上で育てた植物体を、 直接蛍光顕微鏡で 観察することができる。 蛍光顕微鏡は IX- FLA (ォリンパス) で、 U- MNIBAフィルタ
- 2 1 - 一を用いて観察を行った。 イネにおける蛍光像を図 4に示した。 〔実施例 6〕 プロモーター領域の絞込み
プ口モーターの活性領域を絞り込むために、 図 3に示したようにプロモーター 領域を上流側から段階的に欠損させたシリーズを作成した。 翻訳開始点より上流 2 072塩基の断片を作成した場合と同様に、 逆方向プライマーは 5 ' 末端側に制限酵 素 Xbal部位 (tctaga) を有する GER4Rxを用い、 正方向プライマーは 5 ' 末端側に 制限酵素 SacII部位 (ccgcgg) を有するプライマー (GER4F15S; 5' - TGGCCGCggga aacttggcttgttttgat-3' (配列番号: 9 ) 、 GER4F10s; 5' - GGCCGCggacgattttgc tatacatttat -3, (配列番号: 1 1 ) 、 GER4F06s; 5, - TGGCCGCggtagtcccgtaacc gtagc _3, (配列番号 : 1 0 ) GER4F036s; 5, 一 TGGCCGCGgtctatctccagcaatttatg gt -3' (配列番号: 1 2 ) 、 GER4F022s; 5, - TGGCCGcggcggcggcttcgtccg -3, (配歹 (J番号: 1 3 ) 、 GER4F014s; 5' - TGGCCGCggtgaactgatcaattattagttg -3, (配列番号: 1 4) ) をそれぞれ用いて、 翻訳開始点より上流 1508塩基、 1043塩基、 627塩基、 356塩基、 223塩基、 140塩基の断片を作成した。
これらの DNA断片と GFP遺伝子を連結させたキメラ遺伝子構築物 (図 3の②、 ③、 ④、 ⑤、 ⑥、 ⑦) をイネとシロイヌナズナの植物体に導入した。
その結果、 ②、 ③、 ④を導入したシロイヌナズナでは①と同様に GFPの蛍光は観 察されず、 イネでは根が特異的に光っているのが観察された。 このことから、 ィ ネの根における発現の誘導には、 627bpからなる断片 (配列表の配列番号: 2の 14 46番目から 2072番目までの配列からなる断片) で十分機能することを突き止めた。 また⑤、 ⑥、 ⑦を導入したイネとシロイヌナズナでは GFPの有意な蛍光は観察され なかったことから、 627bpからなる断片 (配列表の配列番号: 2の 1446番目から 20 72番目までの配列からなる断片) に含まれる 272bpからなる配列 (配列表の配列番 号: 2の 1446番目から 1717番目までの配列からなる断片) の一部、 または全部が イネの根で特異的な発現をするプロモーターのシス領域として必須であることを
突き止めた。 産業上の利用の可能性
本発明により、植物の根で特異的に遺伝子の発現を制御するのに有用なプロモ 一ターとして機能する DNA、 該プロモーターを含む発現ベクター、 該発現ベクター を導入した形質転換細胞および形質転換植物体、 更には該プ口モーターの制御下 にある遺伝子の発現量を調節する方法が提供される。
形質転換植物体において、 本発明のプロモーターを機能させることにより、 根 組織で特異的に目的遺伝子を発現させることができる。 目的遺伝子としては、 あ らゆる遺伝子の選択が可能である。
本発明のプロモーターは、 イネの根全体にわたる強い発現活性が見られること から、 幅広い用途への利用が期待できる。 例えば、 本発明のプロモーターで発現 させる遺伝子として栄養吸収関連遺伝子、 栄養飢餓耐性遺伝子、 旱魃耐性遺伝子、 耐病原菌性遺伝子、 耐虫性遺伝子などを選択した場合は、 多様な不良土壌にも適 応性の高い植物を育成することが可能となる。
更に、 該プロモーターの制御下にある目的遺伝子の発現量を調節する方法によ つて、 目的遺伝子の産物であるタンパク質やその働きによって細胞内で生じる物 質を効率的に生産させることができ、 この生産には、 形質転換細胞あるいはその 細胞からなる毛状根など組織の培養物、 あるいは形質転換植物体の栽培収穫物が 利用可能となる。
カロえて、 本発明のプロモーターに他の発現制御配列、 例えば、 薬剤に応答して 抑制が解除されるリプレッサー配列などを連結することにより、 薬剤に応答し、 かつ特定の様式で遺伝子発現を誘導するプロモーターの構築が可能になる。
ただし、 シロイヌナズナではプロモーター活性がなかったことから、 利用でき る植物種は限られる可能性が高い。 しかし逆に活性を持つ植物種が少ないという ことは、 開放系の環境において遺伝子の流出 (他の生物への組み込み) による危
険性が小さくなるため安全性は高いといえる。