ガラス基板は、上記の通り、半導体実装の基板の材料として有利な特性を有している。例えば、無アルカリガラスでできたガラス基板は、熱特性及び耐薬品性の点で優れている。ガラス基板をなすガラスのアルカリ成分が少ないと、ガラス基板を用いて作製された電子部品の線膨張係数をシリコン基板に合わせやすい。加えて、熱拡散及び酸又はアルカリによる処理によりガラス基板からアルカリ成分が溶出し拡散して、電気絶縁性が低下すること又は誘電率(ε)及び誘電正接(tanδ)等の電気特性及び高周波特性に影響が及ぶことを抑制できる。このようなガラス基板を半導体実装の基板として用いる場合、貫通孔及び非貫通孔等の孔をガラス基板に形成するとともにガラス基板に導電性材料を積層して、配線基板としてガラス基板を利用することが考えられる。このようなガラス基板を高密度及び高集積の半導体実装の基板として使用するためには、孔の真円度が高いことが望ましい。例えば、孔の内部に導電性材料を充填して電極を形成する場合、孔の真円度のばらつきは、各孔の内部に形成された電極の導電性にばらつきを生じさせる。この場合、安定した電気特性を発揮できる配線基板を作製できない可能性がある。本明細書において、「高い真円度」または「真円度が高い」とは、平面視における孔の外見が円により近いことを意味する。
ガラス基板は、脆性材料であるので、ドリル等の工具を用いた機械加工によっては、所望の孔を形成することが難しい場合がある。また、レーザードリルを用いた加工では、タクトタイムが長くなってしまう。このため、ガラス基板にパルスレーザーを照射して変質部を形成し、その後ウェットエッチングにより変質部を除去して、ガラス基板に孔を形成する方法が実用的である。
特許文献1に記載の技術によれば、フッ酸をエッチャントとして用いたエッチングにより、貫通孔の真円度が低く、細長い孔が得られる場合がある(特許文献1の図11及び図14参照)。また、フッ酸をエッチャントとして用いた場合、エッチング速度が速いため、反応種が孔内部で消費されて少なくなり、孔の奥部に近づくにつれエッチング速度が小さくなり、孔の中央部の径が、ガラス基板のレーザー入射面又はその反対面における貫通孔の径に比べて小さく、「くびれ」の大きな孔ができやすい。このため、ストレート性の高い孔を形成できない可能性もある。
特許文献2に記載の技術によれば、フッ酸によりエッチングを行い、真円度の高い貫通孔を形成できることが示唆されている。(特許文献2のFIG. 13Bの172参照)。一方、レーザーのバーストエネルギーが大きいと、真円度が低く、楕円形の孔が形成されることが示されている(FIG. 13Bの170及びFIG. 13Cの171参照)。このため、特許文献2に記載の技術によれば、高エネルギーのレーザーをガラス基板に照射して高い真円度を有する孔を形成することは難しい。
そこで、本発明者は、新たな観点から、高い真円度を有する孔をガラス基板に形成するのに有利な方法について鋭意検討を重ねた。その結果、ガラス基板に所定の変質部を形成することによって高い真円度を有する孔を形成できることを新たに見出した。この新たな知見に基づき、本発明に係る方法を案出した。
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明は、本発明の一例に関するものであり、本発明は以下の実施形態に限定されない。
図1Aに示す通り、ガラス基板1aは、少なくとも2つの変質部11を有する。図1Aは、変質部11が形成されたガラス基板1aの概略平面図である。ガラス基板1aをウェットエッチングしたとき、変質部11におけるエッチングレートがガラス基板1aの他の部分におけるエッチングレートよりも高い。2つの変質部11のそれぞれは、ボイド11vと、微小クラック群11cとを含む。図2Aに示す通り、ボイド11vは、ガラス基板1a内で特定の方向(例えば、厚み方向)に延びる柱状である。図2Aでは、ボイド11vは、特に円柱状に表されている。微小クラック群11cは、ボイド11vの横にボイド11vに沿って形成されている。図2B及び図2Cは、それぞれ、ガラス基板の厚み方向に延びるように形成された変質部11の実際の様子を示す平面写真及び断面写真である。
少なくとも2つの変質部11は、ガラス基板1aにパルスレーザーを照射することによって形成される。ウェットエッチングにより少なくとも2つの変質部11に基づいて1つの孔10が形成される。これにより、例えば、図1Bに示すような、孔10を有する微細構造付ガラス基板20が得られる。孔10は、貫通孔であってもよいし、非貫通孔(いわゆる有底孔)であってもよい。
変質部11の形状は、例えば、パルスレーザーが直線偏光を有すると、平面視において、パルスレーザーの偏光面に沿って長い略偏平な形状となる。ガラス基板1aのパルスレーザーが集光された部分又はその近傍では、ガラスが融解する程度に温度が上昇していると考えられる。ガラスが融解する部分はパルスレーザーが集光された部分を含む部分であり、その部分の体積は小さい。このため、ガラスの融解からすぐ後にその部分の周囲に熱拡散が生じ、融解したガラスが凝固する。このガラスの融解から凝固の過程においては、「ガラスの融解に伴う膨張に起因した周囲への圧縮応力」と、「ガラスの凝固に伴う収縮に起因した周囲への引張応力」とが発生する。これにより、ガラスの凝固に伴う収縮において、ボイド(空乏領域)11vが発生すると考えられる。ボイド11vは、ガラスが融解した部分に対応した部分で発生する。このため、照射されるパルスレーザーが直線偏光を有すると、パルスレーザーの光軸に沿った円柱状(線状)となる。ボイド11vは、パルスレーザーの光軸の方向に断続的に形成される場合もある。また、円柱状のボイド11vの横には、応力によって微小クラック群11cが発生する。微小クラック群11cは、クレバス群ともいう。図2Aに示す通り、微小クラック群11cは、例えば、略三角柱状である。微小クラック群11cは、例えば、ボイド11vが延びる方向に垂直な方向に発生する。このようにして、変質部11が形成される。変質部11は、ウェットエッチングのエッチャントによりガラス基板1aの他の部分よりも選択的にエッチングによる作用を受ける。これにより、孔10が形成される。
ボイド11vは、例えば、空孔、格子欠陥、又は、空孔と格子欠陥の混在した状態で存在する。図2Aにおいて、微小クラック群11cは、その立体形状が略三角柱状に示されているが、上述のように、このような形態に限定されない。微小クラック群11cは、典型的には、多数の微小クラックの集団から構成される帯状の形態を有する。ガラス基板1aにレーザーパルスを照射することにより、ガラスが融解して周辺部が押されて圧縮応力が生じる。融解したガラスが冷却され収縮する際にボイド11vが生じる。ボイド11vによって、周辺部の圧縮応力が緩和されず、これらの応力により微小クラック群11cがボイド11vから外側に向かって形成されると考えられる。微小クラック群11cは、ボイド11vの外側に生じるので、ボイド11vから離れるに従って細くなる傾向がある。そこで、図2A等において、微小クラック群11cを模式的に略三角形柱状で示している。直線偏光を有するパルスレーザーによって変質部11が形成された場合、そのパルスレーザーの偏光方向に対応して微小クラック群11cが形成される傾向がある。さらに、微小クラック群11cは、ボイド11vの周りに生じ、ボイド11vと微小クラック群11cとの間にスペースが生じる態様で(離れて)形成される場合があり、このスペースが非常に小さく、ボイド11vと微小クラック群11cとがつながって認識できるような態様で形成される場合もある。
ガラス基板1aの変質部11の平面視において、ボイド11vの近似円の直径をφVと表し、変質部11の最小近似楕円Emの長軸長さをLMと表す。このとき、ガラス基板1aは、(i)0.1μm≦φV≦10μm及び(ii)0.5μm≦LM≦50μmの条件を満たす。加えて、ガラス基板1aは、(Ia)0.2≦LV/φV≦20の条件を満たす。LVは、2つの変質部11の平面視における2つの変質部11のボイド11v間の距離である。ここで、ボイド11v間の距離は、2つの変質部11の平面視におけるボイド11vの近似円の中心間の距離を意味する。
ボイド11vの近似円の直径φVは、求められる貫通孔のサイズによって異なるが、より集積度を高めるという意味では小さければ好ましい場合があり、0.1μm≦φV≦5μmを満たすことが好ましく、0.2μm≦φV≦2μmを満たすことがより好ましい。また、変質部11の最小近似楕円Emの長軸長さLMは、求められる貫通孔のサイズによって異なるが、より集積度を高めるという意味では小さければ好ましい場合があり、1μm≦LM≦20μmを満たすことが好ましく、2μm≦LM≦10μmを満たすことがより好ましい。また、LV/φVの値は、0.5≦LV/φV≦12を満たすことが好ましく、1≦LV/φV≦10を満たすことがより好ましい。
例えば、図3Aに示すガラス基板1rをウェットエッチングしてガラス基板1rに孔を形成することが考えられる。ガラス基板1rによれば、選択的エッチング等により単一の変質部11に対応して1つの孔が形成される。変質部11は、それが元となって形成される孔の形状から鑑みて、その平面視において楕円に見立てることがその後の孔の形成について考えやすい。変質部11が平面視でパルスレーザーの偏光方向に沿って長い略扁平な形状を呈すると考えて、そのボイドと微小クラック群を含むように楕円形状を想定してもよい。適用されるガラスの種類や照射されるレーザーの仕様、エッチング条件などにより、ウェットエッチングにより得られる孔の真円度が低くなる場合がある。ウェットエッチングの時間を長くすれば、孔の真円度は高くなるが、孔の径が大きくなってしまう。一方、図3Bに示す通り、ガラス基板1aによれば、(i)及び(ii)の条件に加えて、(Ia)の条件を満たしていることにより、ウェットエッチングにおいて、少なくとも2つの変質部11のそれぞれに対応した部分へのエッチングの作用によって形成される小孔12が統合される。これにより、ウェットエッチングの時間やエッチング量が比較的小さい場合でも、高い真円度を有する孔10を形成しやすい。換言すると、孔10の径が小さい状態で孔10の真円度を高めやすい。本明細書において孔10の真円度とは、孔10の平面視における孔10の輪郭の真円度を意味する。また、真円度の定義は、日本工業規格(JIS) B 0621に従う。孔10の真円度は、孔10の平面視における孔10の輪郭(円形形体)を二つの同心の幾何学的円で挟んだとき、同心二円の間隔が最小となる場合の、二円の半径差である。このように算出した真円度は、その値が小さいほど真円度が高い。
孔10の平面視において、孔10の真円度は、望ましくは1.5μm以下である。
図4に示す通り、ガラス基板1aに、パルスレーザーを照射して、複数の変質部群11gを形成してもよい。複数の変質部群11gのそれぞれは、少なくとも2つの変質部11を有する。ウェットエッチングにより、複数の変質部群11gに含まれる少なくとも2つの変質部11に対応した部分のエッチングにより、隣接する複数の孔10が形成される。この場合、(Ia)の条件に加えて、例えば、φV<LV<2LM及びLV<φH<LHの条件が満たされる。φHは、孔10の平面視における孔10の直径である。例えば、LHは、隣接する複数の孔10の平面視における隣り合う2つの孔10同士の距離である。
φV<LV<2LMの条件が満たされていると、特定の変質部群11gにおけるボイド11v間の距離が所望の範囲にあり、平面視において変質部11同士が重なりにくく、変質部11同士が離れすぎることもない。このため、少なくとも2つの変質部11をウェットエッチングにより除去して1つの孔10を形成するときに、高い真円度を有する孔10が形成されやすい。
さらに高い真円度を有する孔が要求される場合においては、φV<LV<1.8LMが好ましく、φV<LV<1.6LMがさらに好ましい。また、2μm≦LV≦6μmの場合であっても高い真円度を有する孔を得ることができる。
LV<φH<LHの条件がさらに満たされていると、隣接する複数の孔10が所望の状態で形成される。
ガラス基板1aの、1つの孔10を形成するための少なくとも2つの変質部11を平面視したとき、2つの変質部11の最小近似楕円の長軸は、例えば、略平行である。最小近似楕円とは、先述のようにボイドと微小クラック群を含むように変質部を囲ったうえで、その長径と短径がもっとも小さくなる楕円のことをいう。
ガラス基板1aに照射されるパルスレーザーは、例えば、直線偏光を有する。これにより、ガラス基板1aに変質部11が所望の状態で形成されやすい。
ウェットエッチングは、酸性又はアルカリ性の水溶液によって行われる。
ガラス基板1aは、図5に示すガラス基板1b又は図6に示すガラス基板1cのように変更されてもよい。ガラス基板1b及び1cは、特に説明する部分を除き、ガラス基板1aと同様に構成されている。ガラス基板1aの構成要素と同一又は対応するガラス基板1b及び1cの構成要素には同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。ガラス基板1aに関する説明は、技術的に矛盾しない限り、ガラス基板1b及び1cにも当てはまる。
図5に示す通り、ガラス基板1bは、少なくとも2つの変質部11を有する。ガラス基板1bの変質部11の平面視において、上記の(i)及び(ii)の条件が満たされている。加えて、ガラス基板1bは、下記(IIa)及び(IIb)の条件を満たす。
(IIa)2つの変質部11を平面視したときに、2つの変質部11のボイド11vが少なくとも部分的に重なりあっており、かつ、2つの変質部11のそれぞれの微小クラック群11cがボイド11vの周りに形成されている。
(IIb)2≦LM/φV≦10
さらに高い真円度を有する孔が要求される場合においては、2≦LM/φV≦8が満たされることが好ましく、2≦LM/φV≦6が満たされることがより好ましい。
2つの変質部11を平面視したときに、互いに異なる方向に2つの変質部11が延びており、ウェットエッチングの時間を調整することにより、真円度の高い孔10を形成できる。
ガラス基板1bにおいて、例えば、2つの変質部11におけるボイド11v及び微小クラック群11cは、2つの変質部11の平面視において、交差する2つの方向に沿って形成されている。換言すると、2つの変質部11の平面視において、2つの変質部11の最小近似楕円の長軸は互いに交差している。これにより、ウェットエッチングの時間を調整することにより、より確実に、真円度の高い孔10を形成できる。
2つの変質部11の最小近似楕円の長軸同士がなす90°以下の角度θEは、例えば、70°〜90°である。
ガラス基板1bに照射されるパルスレーザーは、例えば、直線偏光を有する。これにより、ガラス基板1bに変質部11が所望の状態で形成されやすい。
例えば、偏光方向の位相差が角度θEに対応する位相差となるように、直線偏光を有するパルスレーザーが2回照射される。ガラス基板1bを、その主面を同一平面に保ちつつ回転させて、直線偏光を有するパルスレーザーを2回照射してもよい。また、レーザー光出射部とガラス基板1bとの間に、λ/2波長板を挿入し、偏光方向とλ/2波長板との角度の関係により、1回目に照射されるパルスレーザーの偏光方向と、2回目に照射されるパルスレーザーの偏光方向との位相を変更してもよい。これにより、図5に示すような変質部11が形成される。
図6に示す通り、ガラス基板1cは、少なくとも1つの変質部11を有する。この変質部11は、ガラス基板1cにパルスレーザーを照射することにより形成される。ウェットエッチングにより少なくとも1つの変質部11が除去され、1つの孔10が形成される。
変質部11の平面視において、ボイド11vの近似円の直径をφVと表すとき、0.1μm≦φV≦10μmの条件を満たされている。変質部11の平面視において、変質部11は、ボイド11vの周りに形成された3つ以上の微小クラック群11cを含む。ここで3つ以上の微小クラック群11cとは、ボイド11vの周りに、ボイド11vの中心から外側に向かって異なる3つ以上の方向に延びる微小クラック群11cである。
ガラス基板1cによれば、ウェットエッチングの時間を調整することにより、真円度の高い孔10を形成できる。
微小クラック群11cの数が3である場合、変質部11の平面視において、ボイド11vの中心と、ボイド11vの周りに隣接する2つの微小クラック群11cのそれぞれの外周端とを接続する2つの線分がなす角度は、例えば、100°〜140°である。
ガラス基板1cに照射されるパルスレーザーは、例えば、円偏光を有する。これにより、ガラス基板1cに、真円度の高い孔を得るのに適した変質部11が形成されやすい。
例えば、1/4波長板を用いて円偏光に変換したパルスレーザーをガラス基板1cに照射する。変質部11は、その微小クラック群11cがボイド11vの周りに約120°など所定の位相差を示すように形成される。
ガラス基板1a〜1cは、上記の変質部11を有する限り、特定のガラス基板に限定されない。ガラス基板1a〜1cをなすガラスは、例えば、石英ガラス、ホウケイ酸ガラス、アルミノシリケートガラス、ソーダライムガラス、又はチタン含有シリケートガラスである。ガラス基板1a〜1cをなすガラスは、これらのガラスであって、かつ、アルカリ成分(アルカリ金属酸化物)を実質的に含んでいない無アルカリガラス又はアルカリ成分を微量だけ含んでいる低アルカリガラスであってもよい。
さらに、その吸収係数を効果的に高めるために、ガラスが、着色成分として、Bi、W、Mo、Ce、Co、Fe、Mn、Cr、V、及びCuから選ばれる金属の酸化物を少なくとも1種含んでいてもよい。
ホウケイ酸ガラスとしては、コーニング社の#7059ガラス(組成は、質量%で表して、SiO2 49%、Al2O3 10%、B2O3 15%、RO(アルカリ土類金属酸化物)25%)又はパイレックス(登録商標)(ガラスコード7740)等が挙げられる。
アルミノシリケートガラスは、以下の組成を有するガラスであってもよい。
質量%で表して、
SiO2 50〜70%、
Al2O3 14〜28%、
Na2O 1〜5%、
MgO 1〜13%、及び
ZnO 0〜14%、を含むガラス。
アルミノシリケートガラスは、以下の組成を有するガラスであってもよい。
質量%で表して、
SiO2 56〜70%、
Al2O3 7〜17%、
B2O3 0〜9%、
Li2O 4〜8%、
MgO 1〜11%、
ZnO 4〜12%、
TiO2 0〜2%、
Li2O+MgO+ZnO 14〜23%、
CaO+BaO 0〜3%、
を含むガラス。
アルミノシリケートガラスは、以下の組成を有するガラスであってもよい。
質量%で表して、
SiO2 58〜66%、
Al2O3 13〜19%、
Li2O 3〜4.5%、
Na2O 6〜13%、
K2O 0〜5%、
R2O 10〜18%(ただし、R2O=Li2O+Na2O+K2O)、
MgO 0〜3.5%、
CaO 1〜7%、
SrO 0〜2%、
BaO 0〜2%、
RO 2〜10%(ただし、RO=MgO+CaO+SrO+BaO)、
TiO2 0〜2%、
CeO2 0〜2%、
Fe2O3 0〜2%、
MnO 0〜1%(ただし、TiO2+CeO2+Fe2O3+MnO=0.01〜3%)、
SO3 0.05〜0.5%、
を含むガラス。
アルミノシリケートガラスは、以下の組成を有するガラスであってもよい。
質量%で表して、
SiO2 60〜70%、
Al2O3 5〜20%、
Li2O+Na2O+K2O 5〜25%、
Li2O 0〜1%、
Na2O 3〜18%、
K2O 0〜9%、
MgO+CaO+SrO+BaO 5〜20%、
MgO 0〜10%、
CaO 1〜15%、
SrO 0〜4.5%、
BaO 0〜1%、
TiO2 0〜1%、
ZrO2 0〜1%、
を含むガラス。
アルミノシリケートガラスは、以下の組成を有するガラスであってもよい。
質量%で示して、
SiO2 59〜68%、
Al2O3 9.5〜15%、
Li2O 0〜1%、
Na2O 3〜18%、
K2O 0〜3.5%、
MgO 0〜15%、
CaO 1〜15%、
SrO 0〜4.5%、
BaO 0〜1%、
TiO2 0〜2%、
ZrO2 1〜10%、
を含むガラス。
ソーダライムガラスは、例えば板ガラスに広く用いられる組成を有する。
チタン含有シリケートガラスは、以下の組成を有する第一チタン含有シリケートガラスであってもよい。
モル%で表示して、
TiO2 5〜25%を含み、
SiO2+B2O3 50〜79%、
Al2O3+TiO2 5〜25%、
Li2O+Na2O+K2O+Rb2O+Cs2O+MgO+CaO+SrO+BaO 5〜20%、
であるガラス。
また、第一チタン含有シリケートガラスにおいて、
SiO2 60〜65%、
TiO2 12.5〜15%、
Na2O 12.5〜15%、を含み、
SiO2+B2O3 70〜75%、
であることが望ましい。
さらに、第一チタン含有シリケートガラスにおいて、
(Al2O3+TiO2)/(Li2O+Na2O+K2O+Rb2O+Cs2O+MgO+CaO+SrO+BaO)≦0.9、
であることがより望ましい。
また、チタン含有シリケートガラスは、以下の組成を有する第二チタン含有シリケートガラスであってもよい。
モル%で表示して、
B2O3 10〜50%、
TiO2 25〜40%、を含み、
SiO2+B2O3 20〜50%、
Li2O+Na2O+K2O+Rb2O+Cs2O+MgO+CaO+SrO+BaO 10〜40%、であるガラス。
低アルカリガラスは、以下の組成を有する第一低アルカリガラス又は第一無アルカリガラスであってもよい。
モル%で表示して、
SiO2 45〜68%、
B2O3 2〜20%、
Al2O3 3〜20%、
TiO2 0.1〜5.0%(但し5.0%は除く)、
ZnO 0〜9%、を含み、
Li2O+Na2O+K2O 0〜2.0%(但し2.0%は除く)であるガラス。
また、第一低アルカリガラスにおいて、着色成分として、
CeO2 0〜3%、
Fe2O3 0〜1%、
を含むことが望ましい。
さらに実質的にアルカリ金属酸化物を含まない第一無アルカリガラスがより望ましい。
第一低アルカリガラス又は第一無アルカリガラスは、必須成分としてTiO2を含む。第一低アルカリガラス又は第一無アルカリガラスにおけるTiO2の含有量は、0.1モル%以上5.0モル%未満であり、レーザー照射によって得られる孔の内面の平滑性に優れる点から、望ましくは0.2〜4.0モル%であり、より望ましくは0.5〜3.5モル%であり、さらに望ましくは1.0〜3.5モル%である。特定の組成を有する低アルカリガラス又は無アルカリガラスにTiO2を適度に含ませることにより、比較的弱いレーザー照射によっても変質部11を形成することが可能となる。加えて、その変質部11は後工程のウェットエッチングにより容易に除去されうる。また、TiO2は結合エネルギーが紫外光のエネルギーと略一致しており、紫外光を吸収することが知られている。TiO2を適度に含ませることにより、電荷移動吸収として一般に知られているように、他の着色剤との相互作用を利用して着色をコントロールすることも可能である。従ってTiO2の含有量の調整により、所定の光に対する吸収を適度なものにすることができる。ガラスが適切な吸収係数を有することによって、ウェットエッチングによって孔が形成される変質部11の形成が容易になるため、これらの観点からも、適度にTiO2を含ませることが望ましい。
また、第一低アルカリガラス又は第一無アルカリガラスはZnOを任意成分として含んでいてもよい。第一低アルカリガラス又は第一無アルカリガラスにおけるZnOの含有量は、望ましくは0〜9.0モル%であり、より望ましくは1.0〜8.0モル%であり、さらに望ましくは1.5〜5.0モル%であり、特に望ましくは1.5〜3.5モル%である。ZnOは、TiO2と同様に紫外光の領域に吸収を示すので、ガラス基板1a〜1cをなすガラスに有効な作用をもたらす。
第一低アルカリガラス又は第一無アルカリガラスは、着色成分としてCeO2を含有させてもよい。特にTiO2と併用することで、変質部11をより容易に形成できる。第一低アルカリガラス又は第一無アルカリガラスにおけるCeO2の含有量は望ましくは0〜3.0モル%であり、より望ましくは0.05〜2.5モル%であり、さらに望ましくは0.1〜2.0モル%であり、特に望ましくは0.2〜0.9モル%である。
Fe2O3もガラス基板1a〜1cをなすガラスにおける着色成分として有効であり、含有させてもよい。特にTiO2とFe2O3とを併用すること、又は、TiO2とCeO2とFe2O3とを併用することにより、変質部11の形成が容易になる。第一低アルカリガラス又は第一無アルカリガラスにおけるFe2O3の含有量は、望ましくは0〜1.0モル%であり、より望ましくは0.008〜0.7モル%であり、さらに望ましくは0.01〜0.4モル%であり、特に望ましくは0.02〜0.3モル%である。
第一低アルカリガラス又は第一無アルカリガラスは、以上に挙げた成分に限られるものではないが、適度な着色成分の含有によりガラスの所定波長(波長535nm以下)の吸収係数が1〜50/cm、望ましくは3〜40/cmになるようにしてもよい。
また、低アルカリガラスは、以下の組成を有する第二低アルカリガラス又は第二無アルカリガラスであってもよい。
モル%で表示して、
SiO2 45〜70%、
B2O3 2〜20%、
Al2O3 3〜20%、
CuO 0.1〜2.0%、
TiO2 0〜15.0%、
ZnO 0〜9.0%、
Li2O+Na2O+K2O 0〜2.0%(但し2.0%は除く)であるガラス。
さらに実質的にアルカリ金属酸化物を含まない第二無アルカリガラスがより望ましい。
第二低アルカリガラス又は第二無アルカリガラスは、第一低アルカリガラス又は第一無アルカリガラスと同様にTiO2を含んでいてもよい。第二低アルカリガラス又は第二無アルカリガラスにおけるTiO2の含有量は0〜15.0モル%であり、パルスレーザー照射によって得られる孔の内面の平滑性に優れる点から、望ましくは0〜10.0モル%であり、より望ましくは1〜10.0モル%であり、さらに望ましくは1.0〜9.0モル%であり、特に望ましくは1.0〜5.0モル%である。
また、第二低アルカリガラス又は第二無アルカリガラスはZnOを含んでもよい。第二低アルカリガラス又は第二無アルカリガラスにおけるZnOの含有量は0〜9.0モル%であり、望ましくは1.0〜9.0モル%であり、より望ましくは1.0〜7.0モル%である。ZnOは、TiO2と同様に紫外光の領域に吸収を示し、ガラス基板1a〜1cをなすガラスに対して有効な作用をもたらす。
さらに、第二低アルカリガラス又は第二無アルカリガラスはCuOを含んでいてもよい。第二低アルカリガラス又は第二無アルカリガラスにおけるCuOの含有量は、望ましくは0.1〜2.0モル%であり、より望ましくは0.15〜1.9モル%であり、さらに望ましくは0.18〜1.8モル%であり、特に望ましくは0.2〜1.6モル%である。CuOを含有させることにより、ガラスに着色が生じ、所定のレーザーの波長における吸収係数を適切な範囲にすることで、照射レーザーのエネルギーを適切に吸収させることができ、孔形成の基礎となる変質部11を容易に形成できる。
第二低アルカリガラス又は第二無アルカリガラスは、以上に挙げた成分に限られるものではないが、適度な着色成分の含有によりガラスの所定波長(波長535nm以下)の吸収係数が1〜50/cm、望ましくは3〜40/cmになるようにしてもよい。
第一低アルカリガラス、第二低アルカリガラス、第一無アルカリガラス、又は第二無アルカリガラスはMgOを任意成分として含んでいてもよい。MgOはアルカリ土類金属酸化物の中でも、熱膨張係数の増大を抑制しつつ、かつ歪点を過大には低下させないという特徴を有し、溶解性も向上させるので含有させてもよい。第一低アルカリガラス、第二低アルカリガラス、第一無アルカリガラス、又は第二無アルカリガラスにおけるMgOの含有量は、望ましくは15.0モル%以下であり、より望ましくは12.0モル%以下であり、さらに望ましくは10.0モル%以下であり、特に望ましくは9.5モル%以下である。また、MgOの含有量は、望ましくは2.0モル%以上であり、より望ましくは3.0モル%以上であり、さらに望ましくは4.0モル%以上であり、特に望ましくは4.5モル%以上である。
第一低アルカリガラス、第二低アルカリガラス、第一無アルカリガラス、又は第二無アルカリガラスはCaOを任意成分として含んでいてもよい。CaOは、MgOと同様に、熱膨張係数の増大を抑制しつつ、かつ歪点を過大には低下させないという特徴を有し、溶解性も向上させるので含有させてもよい。第一低アルカリガラス、第二低アルカリガラス、第一無アルカリガラス、又は第二無アルカリガラスにおけるCaOの含有量は、望ましくは15.0モル%以下であり、より望ましくは12.0モル%以下であり、さらに望ましくは10.0モル%以下であり、特に望ましくは9.3モル%以下である。また、CaOの含有量は、望ましくは1.0モル%以上であり、より望ましくは2.0モル%以上であり、さらに望ましくは3.0モル%以上であり、特に望ましくは3.5モル%以上である。
第一低アルカリガラス、第二低アルカリガラス、第一無アルカリガラス、又は第二無アルカリガラスはSrOを任意成分として含んでいてもよい。SrOはMgO及びCaOと同様に、熱膨張係数の増大を抑制しつつ、かつ歪点を過大には低下させないという特徴を有し、溶解性も向上させるので、失透特性と耐酸性の改善のためには含有させてもよい。第一低アルカリガラス、第二低アルカリガラス、第一無アルカリガラス、又は第二無アルカリガラスにおけるSrOの含有量は、望ましくは15.0モル%以下であり、より望ましくは12.0モル%以下であり、さらに望ましくは10.0モル%以下であり、特に望ましくは9.3モル%以下である。また、SrOの含有量は、望ましくは1.0モル%以上であり、より望ましくは2.0モル%以上であり、さらに望ましくは3.0モル%以上であり、特に望ましくは3.5モル%以上である。
ある成分を「実質的に含有しない」とは、ガラスにおける当該成分の含有量が、0.1モル%未満、望ましくは0.05モル%未満、より望ましくは0.01モル%以下であることを意味する。なお、本明細書において、数値範囲(各成分の含有量、各成分から算出される値及び各物性等)の上限値及び下限値は適宜組み合わせ可能である。
ガラス基板1a〜1cをなすガラスの熱膨張係数は、望ましくは100×10-7/℃以下であり、より望ましくは70×10-7/℃以下であり、さらに望ましくは60×10-7/℃以下であり、特に望ましくは50×10-7/℃以下である。また、熱膨張係数の下限は特に限定されないが、10×10-7/℃以上であってもよく、20×10-7/℃以上であってもよい。
熱膨張係数は以下のように測定される。まず、直径5mm、高さ18mmの円柱形状のガラス試料を作製する。これを25℃からガラス試料の降伏点まで加温し、各温度におけるガラス試料の伸びを測定することにより、熱膨張係数を算出する。50〜350℃の範囲の熱膨張係数の平均値を計算し、平均熱膨張係数を得ることができる。
上記の方法によれば、ガラス基板1a〜1cにパルスレーザーを照射する工程(工程A)において、いわゆる感光性ガラスを用いる必要がなく、加工できるガラスの範囲が広い。すなわち、工程Aでは、金や銀を実質的に含まないガラスからなるガラス基板1a〜1cに変質部11を形成できる。
ガラス基板1a〜1cが高剛性であると、パルスレーザーをガラス基板1a〜1cに照射したときに、ガラス基板1a〜1cの両主面において割れが発生しにくい。このため、ガラス基板1a〜1cをなすガラスが高剛性のガラスであれば、工程Aにおいて変質部11を形成しやすい。高剛性のガラスは、例えば、80GPa以上のヤング率を有するガラスである。
なお、吸収係数αは、厚さt(cm)のガラス基板1a〜1cの透過率及び反射率を測定することによって算出できる。厚さt(cm)のガラス基板1a〜1cについて、所定の波長(波長535nm以下)における透過率T(%)と入射角12°における反射率R(%)とを分光光度計(例えば、日本分光株式会社製紫外可視近赤分光光度計V−670)を用いて測定する。得られた測定値から以下の式を用いて吸収係数α(/cm)を算出する。
α=(1/t)*ln{(100−R)/T}
ガラス基板1a〜1cをなすガラスの吸収係数αは、望ましくは1〜50/cmであり、より望ましくは3〜40/cmである。
以上に挙げたガラスについては、市販されている場合もあり、それらを購入して入手することができる。またそうでない場合であっても、公知の成形方法、例えば、オーバーフロー法、フロート法、スリットドロー法、キャスティング法等で所望のガラスを作製することができ、さらに切断や研磨等の後加工によって目的の形状のガラス基板を得ることができる。
工程Aでは、一度のパルスレーザー照射で1つの変質部11を形成できる。すなわち、工程Aでは、得られる変質部11が重ならないようにパルスレーザーを照射することができる。また、得られる変質部11の一部が重なるようにパルスレーザーを照射してもよい。
工程Aでは、ガラス基板1a〜1cの内部にフォーカスされるようにレンズでパルスレーザーを集光してもよい。例えば、ガラス基板1a〜1cに貫通孔を形成する場合には、通常、ガラス基板1a〜1cの厚さ方向の中央付近にフォーカスされるようにパルスレーザーを集光する。なお、ガラス基板1a〜1cの上面側(パルスレーザーの入射側)のみを加工する場合には、通常、ガラス基板1a〜1cの上面側にフォーカスされるようにパルスレーザーを集光する。逆に、ガラス基板1a〜1cの下面側(パルスレーザーの入射側とは反対側)のみを加工する場合には、通常、ガラス基板1a〜1cの下面側にフォーカスされるようにパルスレーザーを集光する。ただし、変質部11を形成できる限り、パルスレーザーがガラス基板1a〜1cの外部にフォーカスされてもよい。例えば、ガラス基板1a〜1cの上面や下面から所定の距離(例えば1.0mm)だけガラス基板1a〜1cから離れた位置にパルスレーザーがフォーカスされてもよい。換言すれば、ガラス基板1a〜1cに変質部11が形成できる限り、パルスレーザーは、ガラス基板1a〜1cの上面から手前方向(パルスレーザーの進行方向とは逆の方向)に1.0mm以内にある位置(ガラス基板1a〜1cの上面含む)、又は、ガラス基板1a〜1cの下面から後方(ガラスを透過したパルスレーザーが進行する方向)に1.0mm以内にある位置(ガラス基板1a〜1cの下面位置を含む)又は内部にフォーカスされてもよい。しかし、パルスレーザーの集光はこれらに限られず、用いるガラス材料やパルスレーザーの特性、得ようとする微細構造の属性などにより、ガラス基板の厚み方向のどの位置にパルスレーザーを集光するかを決めてもよい。
パルスレーザーのパルス幅は、1〜200ns(ナノ秒)が好ましく、1〜100nsがより好ましく、5〜50nsがさらに好ましい。また、パルス幅が200nsより大きくなると、パルスレーザーの尖頭値が低下してしまい、加工がうまくできない場合がある。5〜100μJ/パルスのエネルギーからなるレーザー光をガラス基板1a〜1cに照射する。パルスレーザーのエネルギーを増加させることによって、それに比例するように変質部11の長さを長くすることが可能である。パルスレーザーのビーム品質M2値は、例えば2以下であってもよい。M2値が2以下であるパルスレーザーを用いることによって、微小な細孔又は微小な溝の形成が容易になる。
工程Aでは、パルスレーザーが、Nd:YAGレーザーの高調波、Nd:YVO4レーザーの高調波、又はNd:YLFレーザーの高調波であってもよい。高調波は、例えば、第2高調波、第3高調波又は第4高調波である。これらレーザーの第2高調波の波長は、532〜535nm近傍である。第3高調波の波長は、355〜357nm近傍である。第4高調波の波長は、266〜268nmの近傍である。これらのレーザーを用いることによって、ガラス基板を安価に加工できる。
工程Aに適用されるレーザー加工に用いる装置としては、例えば、コヒレント社製の高繰返し固体パルスUVレーザー:AVIA355−4500が挙げられる。当該装置では、第3高調波Nd:YVO4レーザーであり、繰返し周波数が25kHzの時に6W程度の最大のレーザーパワーが得られる。第3高調波の波長は350〜360nmである。
パルスレーザーの波長は、535nm以下が好ましく、例えば、350〜360nmの範囲であってもよい。一方、パルスレーザーの波長が535nmよりも大きくなると、照射スポットが大きくなり、微小な構造の作製が困難になる上、熱の影響で照射スポットの周囲が割れやすくなる。
典型的な光学系として、発振されたレーザーを、ビームエキスパンダで2〜4倍に広げ(この時点でφ7.0〜14.0mm)、可変のアイリスでレーザーの中心部分を切り取った後にガルバノミラーで光軸を調整し、100mm程度のfθレンズで焦点位置を調整しつつガラス基板1a〜1cに集光する。
レンズの焦点距離F(mm)は、例えば50〜500mmの範囲にあり、100〜200mmの範囲から選択してもよい。
また、パルスレーザーのビーム径D(mm)は、例えば1〜40mmの範囲にあり、3〜20mmの範囲から選択してもよい。ここで、ビーム径Dは、レンズに入射する際のパルスレーザーのビーム径であり、ビームの中心の強度に対して強度が[1/e2]倍となる範囲の直径を意味する。
工程Aでは、焦点距離Fをビーム径Dで除した値、すなわち[F/D]の値が、7以上であり、7以上40以下が好ましく、10以上20以下であってもよい。この値は、ガラスに照射されるレーザーの集光性に関係する値であり、この値が小さいほど、レーザーが局所的に集光され、均一で長い変質部11の作製が困難になることを示す。この値が7未満であると、ビームウェスト近傍でレーザーパワーが強くなりすぎてしまい、ガラス基板1a〜1cの内部でクラックが発生しやすくなるという問題が生じる。
工程Aでは、パルスレーザーの照射前にガラスに対する前処理(例えば、パルスレーザーの吸収を促進するような膜を形成すること)は不要である。ただし、そのような処理を行ってもよい。
アイリスの大きさを変えてレーザー径を変化させて開口数(NA)を0.020〜0.075まで変動させてもよい。NAが大きくなりすぎると、レーザーのエネルギーが焦点付近のみに集中し、ガラス基板1a〜1cの厚さ方向にわたって効果的に変質部11が形成されない。
さらにNAの小さいパルスレーザーを照射することにより、一度のパルス照射によって、厚み方向に比較的長い変質部11が形成されるため、タクトタイムの向上に効果がある。
繰返し周波数は10〜25kHzとして、サンプルにレーザーを照射するのが好ましい。また焦点位置をガラス基板1a〜1cの厚み方向で変えることで、ガラス基板1a〜1cに形成される変質部11の位置(上面側又は下面側)を最適に調整できる。
さらに制御PCからのコントロールにより、レーザー出力、ガルバノミラーの動作等を制御することができ、CADソフト等で作成した2次元描画データに基づいて、レーザーを所定の速度でガラス基板1a〜1c上に照射することができる。
パルスレーザーが照射された部分には、ガラス基板1a〜1cの他の部分とは異なる変質部11が形成される。この変質部11は、光学顕微鏡等により容易に見分けることが可能である。変質部11はガラス基板1a〜1cの上面近傍から下面近傍に達しうる。
フェムト秒レーザー装置を用いた従来の加工方法では、照射パルスが重なるようにレーザーを深さ方向(ガラス基板1a〜1cの厚み方向)にスキャンしながら変質部11を形成していたが、本発明の工程Aに係るレーザー照射とウェットエッチングを併用する孔開け技術においては、少なくとも一度のパルスレーザーの照射で変質部11を形成することができる。
工程Aにおいて選択される条件としては、例えば、ガラスの吸収係数が1〜50/cmであり、パルスレーザー幅が1〜100nsであり、パルスレーザーのエネルギーが5〜100μJ/パルスであり、波長が350〜360nmであり、パルスレーザーのビーム径Dが3〜20mmであり、かつレンズの焦点距離Fが100〜200mmである組み合わせが挙げられる。
さらに、必要に応じて、ウェットエッチングを行う前に、変質部11の直径のばらつきを減らすために、ガラス基板1a〜1cを研磨してもよい。研磨しすぎると変質部11に対するウェットエッチングの効果が弱まるため、研磨の深さは、ガラス基板1a〜1cの上面から1〜20μmの深さが好ましい。
工程Aで形成される変質部11の大きさは、レンズに入射する際のレーザーのビーム径D、レンズの焦点距離F、ガラスの吸収係数、パルスレーザーのパワー等によって変化する。得られる変質部11は、例えば、その偏光方向に沿った長手方向の径が5〜200μm程度であり、10〜150μm程度であってもよい。また、変質部11の深さは、上記のレーザー照射条件、ガラスの吸収係数、ガラスの板厚によっても異なるが、例えば、50〜300μm程度であってもよい。
また、変質部11を形成する方法としては以上の態様に限られない。例えば、先述のフェムト秒レーザー装置からの照射によっても変質部11を形成してもよい。
パルスレーザーを照射するための光学系は、アキシコンレンズを備えた光学系であってもよい。このような光学系を用いてレーザービームを集光すれば、ベッセルビームを形成できる。例えば、パルスレーザーの照射方向(光軸方向)に数mm〜数十mmの長さにおいて中心部の光強度が高く保たれるベッセルビームを得ることができる。これにより、焦点深度を深くでき、かつ、ビーム径を小さくできる。その結果、ガラス基板1a〜1cの厚み方向に略均一な変質部11を形成できる。この場合においても、得ようとする微小構造の属性に応じて、レーザービームのフォーカス位置を調整するステップを経て、パルスレーザーを照射してもよい。
後工程のウェットエッチングとの併用によって、ガラス基板1a〜1cに孔10を形成できれば、変質部11の形成の方法は、以上の方法に限られない。
ウェットエッチングにより一又は複数の変質部11を対応して1つの孔10を形成する工程(工程B)において、エッチング液は、例えば、フッ酸(フッ化水素(HF)の水溶液)である。また、エッチング液は、硫酸(H2SO4)もしくはその水溶液、硝酸(HNO3)もしくはその水溶液、又は塩酸(塩化水素(HCl)の水溶液)であってもよい。エッチング液は、これらの中の1種の酸でもよく、2種以上の酸の混合物であってもよい。エッチング液がフッ酸である場合、変質部のエッチングが進みやすく、短時間に孔を形成できる。エッチング液は、アルカリ性の水溶液であってもよい。
工程Bにおいて、ガラス基板1a〜1cの片側のみからのエッチングを可能にするために、ガラス基板1a〜1cの一方の主面に表面保護皮膜剤を塗布してもよい。このような表面保護皮膜剤としては、シリテクト−II(Trylaner International社製)等の市販品を使用できる。
エッチング時間あるいはエッチング液の温度は、変質部11の形状あるいは目的とする加工形状に応じて選択される。なお、エッチング時のエッチング液の温度を高くすることによって、エッチング速度を高めることができる。また、エッチング条件によって、孔の直径を制御することが可能である。
エッチング時間はガラス基板1a〜1cの厚みにもよるので、特に限定されないが、30〜180分程度が好ましい。エッチング液の温度は、例えば、5〜45℃程度であり、15〜40℃程度であり得る。工程Bの期間中に、エッチング液の温度は、エッチングレートの調整のために変更可能である。必要に応じて、エッチング液に超音波を印加しながら、エッチングを行ってもよい。これにより、エッチングレートを大きくすることができるとともに、液の撹拌効果を期待できる。
以下、実施例により本発明をより詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されない。
mol%で表して、SiO2:63%、B2O3:10%、Al2O3:12%、TiO2:3%、ZnO:3%、Li2O+Na2O+K2O:0%(実質的に含まれない)、MgO+CaO+SrO+BaO:9%の組成を有する無アルカリガラスからなるガラス基板を準備した。このガラス基板は、30mm×30mmの正方形状であり、0.465mm又は1.8mmの厚みを有していた。
表1に示すような各変質部が形成されるように、ガラス基板にパルスレーザーを照射した。例1では、1つの貫通孔を形成するために1回の直線偏光のパルスレーザーの照射により1つの変質部を形成した。表1中の例1の「形状」の欄に「単一」と記載した。例1は比較例である。例2〜6では、1つの貫通孔を形成するために2回の直線偏光のパルスレーザーの照射により2つの変質部を形成した。表1中の例2〜6の「形状」の欄に「ずらし」と記載した。具体的には、図8に示すように、パルスレーザーの照射により1つの変質部を形成した後に、その変質部の長手方向に垂直な方向にずらしてパルスレーザーを照射して、さらにもう1つの変質部を形成した。例7では、1つの貫通孔を形成するために2回のパルスレーザーの照射により、最小近似楕円の長軸同士がなす角度θEが約90°である一部が重なり合った(ボイド部分が重なり合った)2つの変質部を形成した。表1中の例7の「形状」の欄に「十字」としてそれらの形状を表した。具体的には、図10に示すように、パルスレーザーの照射により1つの変質部を形成した後に、その偏光方向を90°回転させてパルスレーザーを照射して、さらにもう1つの変質部を形成した。例8では、1つ貫通孔を形成するために1回の円偏光を有するパルスレーザーの照射により1つの変質部を形成した。表1中の例8の「形状」の欄に「三ツ矢」としてその形状を表した。
変質部の形成には、コヒレント社製の高繰返し固体パルスUVレーザー(AVIA355−4500)を用いた。このUVレーザーは、第3高調波Nd:YVO4レーザーであり、繰返し周波数が25kHzの時に6W程度の最大のレーザーパワーが得られた。第3高調波の主波長は355nmであった。このレーザー装置より出射されたパルスレーザー(パルス幅:9ns、パワー:1.2W、ビーム径:3.5mm)を、ビームエキスパンダで4倍に広げ、この拡大されたビームを、径5〜15mmの範囲で調整可能な可変のアイリスで切り取り、ガルバノミラーで光軸を調整し、焦点距離100mmのfθレンズでガラス基板の内部に入射させた。アイリスの大きさを変えることでレーザー径を変化させてNAを0.020〜0.075まで変動させて、それぞれの例に応じて最も適した変質部が得られるようにNAを調整した。このとき、照射パルスが重ならないように、パルスレーザーを、400mm/秒の速度でスキャンした。パルスレーザーの照射エネルギーは、500μJ/pulseであった。繰返し周波数を10〜25kHzに調整し、ガラス基板にパルスレーザーを照射した。また、焦点位置をガラス基板の厚み方向で変えることで、ガラス基板に形成される変質部の位置(上面側又は下面側)を最適に調整した。例1〜7において、パルスレーザーは直線偏光を有し、例8において、パルスレーザーは円偏光を有していた。このようにして、例1〜例8に係る変質部付ガラス基板を得た。
パルスレーザーの照射後にガラス基板を光学顕微鏡により観察した。その結果、ガラス基板のパルスレーザーが照射された部分において、他の部分とは異なる変質部が形成されていることが確認された。光学顕微鏡を用いた、例1〜8に係る変質部付ガラス基板の主面における変質部の観察より、ボイドの近似円の直径φV、変質部の最小近似楕円の長軸長さをLM、及び1つの貫通孔を形成するための2つの変質部におけるボイド間の距離LVを計測した。結果を表1に示す。また、例1、例2、例4、例7、及び例8に係る変質部付ガラス基板の変質部の平面写真を、それぞれ、図7、図8、図9、図10、及び図11に示す。
2重量%のフッ酸及び6重量%の硝酸を含有する水溶液を準備した。この水溶液に、非イオン系界面活性剤(和光純薬工業社製、製品名:NCW−1001、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルの濃度が30重量%の水溶液)を15ppm添加し、エッチング液を得た。エッチング液の温度を30℃に保ち、40kHz及び0.26W/cm2の超音波が照射されたエッチング槽に例1〜8に係る変質部付ガラス基板のそれぞれを入れた。超音波の強度は出力(単位W)をエッチング槽の底面積(単位cm2)で除して求めた。超音波の照射には、超音波洗浄器(アズワン社製、型番:US−3R、出力:120W、発振周波数:40kHz、槽寸法:W303mm×D152mm×H150mm)を用いた。エッチング槽において、変質部付ガラス基板を起立させて上下方向に搖動させた。これにより、各例に係る変質部付ガラス基板の変質部に対応した部分に、貫通孔が形成された。このようにして、例1〜8に係る貫通孔付ガラス基板を得た。
3次元測長機(ニコン社製、製品名:VMR6555)を用いて、例1〜8に係る貫通孔付ガラス基板における貫通孔の寸法を測長した。3次元測長機を用いた測長において、貫通孔付ガラス基板の平面視における貫通孔の拡大写真からエッジ検出機能にて貫通孔の境界(黒色外側境界部)を算出し、その境界のデータからJIS B 0621(最小領域法)に基づいて、貫通孔の真円度を導出した。最小領域法において、境界点からなる図形に対し、その図形を挟む同心二円(内接円と外接円)の半径差が最も小さくなるように、二円の中心座標の位置の探索が行われる。この中心座標を図形の中心として、この二円の半径差が真円度と決定される。下記の条件で上方からの貫通孔の拡大カメラ画像を取得し、この画像から画像解析ソフトを用いて下記の条件で貫通孔の近似円を求め、この近似円の直径を貫通孔の孔径と決定した。結果を表1に示す。また、例1、3、及び6における貫通孔付ガラス基板の貫通孔の外観およびその真円度を表2に示し、1つの貫通孔を形成するための2つの変質部におけるボイド間の距離と、貫通孔の真円度との関係を図12に示す。
<画像取得の条件>
光源条件:落射光、光量レベル55%
倍率条件:8倍
<近似円の決定条件>
貫通孔の境界のエッジ検出箇所:180か所(2°間隔)
近似方法:最小二乗法による円近似
残差計算:円近似点と境界の実測値との距離
評価指標:残差180点の標準偏差
例1〜8に関する評価結果によれば、変質部の形態を調整することによって、真円度が高い(例えば、1.4以下)の貫通孔を有するガラス基板が得られることが示唆された。