JPWO2020138127A1 - 眼鏡レンズ - Google Patents

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Abstract

本開示の一実施の形態である眼鏡レンズは、レンズ本体と、上記レンズ本体に設けられ、複数のドット部が配列したドット部群を含むコントラスト調整部と、を備え、複数のドット部の配列が不均等である。本開示の第2の実施の形態である眼鏡レンズは、レンズ本体と、上記レンズ本体に設けられ、複数のドット部が配列したドット部群を含むコントラスト調整部と、を備え、上記ドット部群は、平面視形状における長軸方向の長さに対する短軸方向の長さで表されるアスペクト比が1未満であるドット部を含む。

Description

本開示は、眼鏡レンズに関する。
眼鏡レンズは、レンズ基材の表面を覆う様々な層を備えている。例えば、レンズ基材に対して傷が入ることを防止するためのハードコート層、レンズ表面での光反射を防止するための反射防止層、更にはレンズの水ヤケを防止するための撥水層等である。また近年では、コーティングによって所定の模様を形成した光学部材や、等方的な配列パターンで複数のドットが形成されたレンズも提案されている(例えば、特許文献1、2)。
特開2008−55253号公報 国際公開第2016/125808号公報
特許文献2には、等方的に配置された複数のドットのパターンによって、レンズ全体の主に低い空間周波数におけるコントラストを所定の割合だけ低下させることにより、装用者の焦点調節を補助し得ることが記載されている。しかしながら、等方的な配列パターンで配置された複数のドットを備えるレンズには以下の問題がある。
まず、光束が斜めに入射する周辺領域においては、レンズの直径方向と周方向とでコントラスト低下作用の程度が異なるという問題がある。このため、使用者に違和感を与える場合がある。また、周辺領域におけるドットパターンに起因する迷光が発生しやすくなるという問題もある。
そこで、本開示の第1の実施の形態は、主に低い空間周波数(例えば、30cpd(cycle per degree)以下の空間周波数)におけるコントラスト低下作用を有しつつ、眼鏡レンズの周辺領域においてもコントラスト低下作用の方向による差異を抑制できる眼鏡レンズに関する。
また、本開示の第2の実施の形態は、コントラスト低下作用を有しつつ、迷光の発生を防止できる眼鏡レンズに関する。
本開示の第1の実施の形態である眼鏡レンズは、
レンズ本体と、
上記レンズ本体に設けられ、複数のドット部が配列したドット部群を含むコントラスト調整部と、を備え、
上記複数のドット部の配列が不均等である。
本開示の第2の実施の形態である眼鏡レンズは、
レンズ本体と、
上記レンズ本体に設けられ、複数のドット部が配列したドット部群を含むコントラスト調整部と、を備え、
上記ドット部群は、平面視形状における長軸方向の長さに対する短軸方向の長さで表されるアスペクト比が1未満であるドット部を含む。
本開示の第1の実施の形態である眼鏡レンズによれば、眼鏡レンズの周辺領域においても、コントラスト低下作用を方向に依存することなく確保できる眼鏡レンズを提供することができる。
また、本開示の第2の実施の形態である眼鏡レンズによれば、コントラスト低下作用を有しつつ、迷光の発生を防止できる眼鏡レンズを提供することができる。
図1は、本開示の第1の実施形態に係る眼鏡レンズ10Aの平面模式図である。 図2は、眼鏡レンズ10AのA−A’断面図及び部分拡大図である。 図3は、ドット部15の配列を説明するための図である。 図4は、等方的に均一に配列された複数のドット部が全面に設けられた眼鏡レンズ10Xの平面模式図である。 図5は、眼鏡レンズ10Xにおいて発生する問題を説明する図である。 図6は、眼鏡レンズ10Xにおいて発生する他の問題を説明する図である。 図7は、眼鏡レンズ10Aの作用を説明する図である。 図8は、眼鏡レンズに設けられた、直径方向の断面が凸状の凸状構造体がコントラストに与える影響を自己相関法に基づいて説明する図である。 図9は、本開示の第2の実施形態に係る眼鏡レンズ10BのA−A’断面図及び部分拡大図である。 図10は、連結ドット部15Dの構成例を示す図である。 図11は、眼鏡レンズ上の光束径に対する、凸状構造体の側面の傾斜部の直径方向の長さの影響を示すグラフである。 図12は、眼鏡レンズに設けられた、直径方向の断面が台形状の凸状構造体の作用を説明する図である。 図13は、眼鏡レンズ10A1の層構成を示す、直径方向の断面の部分拡大図である。 図14は、眼鏡レンズ10A2の層構成を示す、直径方向の断面の部分拡大図である。 図15は、不均等に配列された複数のドット部を備える眼鏡レンズのMTF(Modulation Transfer Function)特性のシミュレーション結果を示す図である。 図16は、図15のシミュレーション結果の縦軸を、ドット部を有していない眼鏡レンズに対するコントラスト低下量として表した図である。 図17は、図16の例とは異なる配列パターンで、複数のドット部が不均等に配列された眼鏡レンズのMTF特性のシミュレーション結果を示す図であり、縦軸を、ドット部を有していない眼鏡レンズに対するコントラスト低下量として表した図である。 図18は、等方的に均一に配列された複数のドット部が全面にわたって設けられた眼鏡レンズのMTF特性のシミュレーション結果を示す図であり、縦軸を、ドット部を有していない眼鏡レンズに対するコントラスト低下量として表した図である。 図19は、本開示の他の実施形態に係る眼鏡レンズ10Cの平面模式図である。
本明細書における用語の定義を以下に示す。
「等方的に均一に配置された」とは、二次元的に一定間隔で配置されていることを意味する。
「ドット部が一定間隔に配列する」とは、ドット部の中心から隣接するドット部の中心までの距離が、全て同じ又は所定の誤差ばらつきの範囲内(例えば、平均値の±10%以内)に含まれる配列であることを意味する。
「配列が不均等」とは、一定間隔ではない配列を含んでいることを意味し、隣り合うドット部の中心間の距離が所定の誤差ばらつき範囲を超えている配列、隣り合うドット部の中心間距離が、眼鏡レンズの直径方向の位置に応じて変化する配列、及び、ランダムな配列等を含んでいることを意味する。
なお、後述するように、本開示の実施形態においては、少なくとも眼鏡レンズの中心領域に一定間隔に配列した複数のドット部を含んでいる。
「眼鏡レンズの直径方向」とは、眼鏡レンズの中心から、眼鏡レンズの主面に沿って周縁へ向かう方向を意味する。本明細書では、「眼鏡レンズの直径方向」を単に「直径方向M」ということがある。
「眼鏡レンズの周方向」とは、眼鏡レンズの主面に沿う、眼鏡レンズの直径方向に交差する方向を意味する。本明細書では、「眼鏡レンズの周方向」を単に「周方向S」ということがある。
「アスペクト比」とは、レンズ主面に沿った互いに直交する2方向の長さの比を意味し、特に、本開示において、「ドット部のアスペクト比」という場合は、ドット部を平面視したときの形状における、長軸方向におけるドット部の長さに対する、短軸方向におけるドット部の長さの比を意味する。
以下に、本開示の実施の形態及び実施例について説明する。同一又は相当する部分に同一の参照符号を付し、その説明を繰返さない場合がある。以下に説明する実施の形態及び実施例において、個数、量等に言及する場合、特に記載がある場合を除き、本開示の範囲は必ずしもその個数、量等に限定されない。以下の実施の形態において、各々の構成要素は、特に記載がある場合を除き、本開示の実施の形態及び実施例にとって必ずしも必須のものではない。
[第1の実施形態]
以下、本開示の第1の実施形態について説明する。
[眼鏡レンズ10Aの構成]
図1は、本開示の第1の実施形態に係る眼鏡レンズ10Aの平面模式図である。眼鏡レンズ10Aの構成について、図1を参照して説明する。
眼鏡レンズ10Aは、レンズ本体と、このレンズ本体に設けられたコントラスト調整部とを備えている。レンズ本体は後述するレンズ基材11によって構成される。
複数の微細なドット部15がレンズ本体の全面にわたって配置され、ドット部群Dを形成している。このドット部群Dによって、眼鏡レンズ10Aのコントラストを調整する機能を持つコントラスト調整部30が構成される。
ドット部群Dに含まれる各ドット部15は、平面視で真円形状である。眼鏡レンズ10Aの中心領域Aと、その外側の周辺領域Bとで、ドット部15の配列パターンが異なる。
中心領域Aのドット部群(第1ドット部群)D1においては、複数のドット部15が等方的な配列パターンP1で配置されている。つまり、最も近くで互いに隣接するドット部(最近接ドット部)間において、両者の中心距離(配列ピッチ)は等しく、また、最近接ドット部間において、両者の周縁の最短距離は等しい。この等方的な配列パターンP1で複数のドット部15が配置されたドット部群D1は、低い空間周波数(例えば、30cpd以下の空間周波数)のコントラストを効率的に低下させる構造である。仮に、配列パターンP1の不均一さが高まると、例えば、特開2016−212333号公報に記載されているように、ローパスフィルタ効果、すなわち、高い空間周波数(例えば、30cpdを超える空間周波数)のコントラストを低下させる効果が生じてしまうことになる。このため、本開示の第1の実施形態では、ドット部群D1において等方的な配列パターンP1を採用している。
周辺領域Bのドット部群(第2ドット部群)D2においては、複数のドット部15が不均等な配列パターンP2で配置されている。つまり、直径方向Mに関して、ドット部15は中心領域Aにおいて均一に配置され、周辺領域Bにおいて不均等に配置されている。ただし、ドット部群D2も、低い空間周波数のコントラストを効率的に低下させる構造であり、ローパスフィルタ効果が支配的にならない程度に不均等の度合いが調整されている。
詳しくは、周辺領域Bにおいては、中心領域Aに比べて、眼鏡レンズの直径方向Mにおける隣り合うドット部15間の距離が長い部分や、直径方向Mにおいて、互いに連結するドット部対を含んでいる。以下、このドット部対を連結ドット部15Dという。連結ドット部15Dは、直径方向Mにおける長さが、連結ドット部15Dを構成する各ドット部15の対応する長さよりも長い。
ドット部15のより具体的な配列については、「コントラスト調整部の作用」欄で詳述する。
周辺領域Bの第2ドット部群D2のドット部15は、後述する効果を得る目的で、直径方向Mにおいて、意図的に、距離を大きくしたり、近接又は密接させたりしたものである。したがって、本来均一に配列されるべきドット部が、ドット部を形成する際の誤差等によって、周方向にずれたり長くなったりしたものとは異なる。
一方、周方向Sに関しては、図1に符号L1、L2で示すように、直径方向Mにおけるドット部15の配列が互いに異なる複数の配列が含まれる。つまり、互いに直径方向Mの配列パターンが異なる、第1配列L1と第2配列L2とが周方向Sにおいて異なる位置に並んでいる。
ドット部群Dは、全面が均一な配列のドット部群を有する眼鏡レンズに比べると、全体として不均等な配列を有しているといえる。
図2は、眼鏡レンズ10AのA−A’断面模式図及び部分拡大図である。図2に示すように、眼鏡レンズ10Aは、レンズ本体を構成する眼鏡用レンズ基材11(以下単に「レンズ基材」ともいう)を有する。レンズ基材11は第1主面111と第2主面112とを有しており、第1主面111上に、ドット部15を構成する凸部と凹部とが形成されている。なお、図2における眼鏡レンズ10A全体の断面模式図において、第1主面111上にドット部15は、凹凸構造であることを示す目的で簡略して図示しており、後述する図5〜7、9と共通である。本実施態様におけるドット部15の構造や配列は、他の図面等に基づいて詳述する。レンズ基材11の第1主面111上には、他の層も設けられるが、図2等においては図示を省略する。他の層も含めた眼鏡レンズの層構成及びそれらの材質等については後述する。
<コントラスト調整部>
眼鏡レンズ10Aのコントラスト調整部30は、コントラストを調整することにより、装用者の焦点調節を補助し得る機能をもたらす構造を備えている。コントラスト調整部30は、例えば、眼鏡レンズ10Aの基材11の第1主面111上に設けられた、位相差を生じさせる構造によって構成される。
コントラスト調整部30は、レンズ基材上に層として形成してもよいし、レンズを成形する際の成形型に加工しておくことで、レンズの表面構造として形成してもよいし、レンズへの後加工によって形成してもよい。
コントラスト調整部30を層として形成する場合は、レンズ基材上に直接形成してもよいし、レンズ基材上に接着層などの他の層を介して設けてもよい。
コントラスト調整部30に含まれるドット部は、実体物であってもよいし、実体物によって囲まれた空間であってもよい。
また、コントラスト調整部を構成する材料は、レンズ基材と同様の光透過性を有するものでもよいし、レンズ基材とは光透過性が異なるものでもよい。
ドット部は、レンズ基材の表面に形成してもよいし、レンズ基材の内部に形成してもよい。
コントラスト調整部30は、複数の微細なドット形状の開口部(凹部)を含む。これらの開口部が、眼鏡レンズ10Aのドット部15となる。ドット部15は、眼鏡レンズ10Aの中心領域Aにおいて、等方的に均一に配列されている。複数の微細なドット形状の開口部を等方的に均一なピッチで配列することで、コントラスト低下作用を発現し、これによって、眼鏡レンズ10Aの装用者の焦点調節を補助し得る。
コントラスト調整部30は、例えば、金属含有層20で構成される。この場合の金属含有層に含まれる金属としては、例えば、Cr、Ta、Nb、Ti、Zr、Au、Ag、及びAlの中から選ばれる少なくとも1種の金属を含み、好ましくはCrである。コントラスト調整部30を、金属含有層とすることで、眼鏡レンズの帯電を防止する効果も得られる。
コントラスト調整部は、例えば、インクジェット(IJ)を用いた印刷によって作製することができる。この場合、最終的に剥離されるドット状の層をIJで印刷し、金属含有層で被覆した後に、ドット状の層とともに対応する金属含有層を剥離除去することで、金属含有層にドット状の開口部を形成することができる。
IJ以外の他の印刷法や、蒸着等によってドット部を形成してもよい。
ドット部を実体物とする場合は、IJ等によってドット部を構成する材料を印刷することにより、直接的にドット部を形成することもできる。
コントラスト調整部30は、複数のドット部15が配列したドット部群Dを含む。
ドット部群Dは、レンズ本体の中心領域Aにある第1ドット部群D1と、中心領域Aより外側の周辺領域Bにある第2ドット部群D2を含み、記第2ドット部群D2は、第1ドット部群D1に比べて、(i)レンズ本体の直径方向におけるドット部間の距離が長い。
図1に示す態様においては、第1ドット部群D1のドット部15の配列パターンは格子状である。
第2ドット部群D2における複数のドット部15の配列は、第1ドット部群D1の複数のドット部15の配列において、所定位置のドット部15をレンズ本体の直径方向Mに移動した配列に相当する。
第2ドット部群D2は、第1ドット部群D1に比べて、(ii)レンズ本体の直径方向におけるドット部の長さが長いとも言える。
図3は、ドット部15の配列を説明するための図である。図3の(A)に拡大して示すように、中心領域Aのドット部群D1において、ドット部15の中心から隣接するドット部15の中心の間隔c1は、例えば、0.1mm以上、好ましくは0.2mm以上、より好ましくは0.3mm以上であり、そして、例えば、5.0mm以下、好ましくは3.0mm以下、より好ましくは1.0mm以下である。
隣接するドット部15の縁間の最短距離g1は、例えば、0.03mm以上、好ましくは0.06mm以上、より好ましくは0.12mm以上であり、そして、例えば、1.6mm以下、好ましくは1.0mm以下、より好ましくは0.3mm以下である。
ドット部15の直径rは、例えば、0.01mm以上、より好ましくは0.05mm以上、更に好ましくは0.1mm以上であり、そして、例えば、5.0mm以下、好ましくは2.0mm以下、より好ましくは1.0mm以下、更に好ましくは0.5mm以下である。
間隔c1/直径rは、好ましくは1.0超、より好ましくは1.1以上、更に好ましくは1.2以上であり、そして、好ましくは2.0以下、より好ましくは1.8以下、更に好ましくは1.5以下である。
第2ドット部群D2は、互いに連結するドット部対を含み、このドット部対は、レンズ本体の直径方向Mにおける長さが、上記ドット部対を構成する各ドット部の対応する直径方向Mにおける長さよりも長い、連結ドット部15Dを形成する。
図3の(B)に、図1に示す配列L1と配列L2を拡大して示す。周方向Sにおいて異なる位置にある配列L1と配列L2には、それぞれ、ドット部15を直径方向Mに移動させた配列パターンとすることにより形成された、連結ドット部15Dが含まれている。このため、連結ドット部15Dとこれに隣り合うドット部との間の直径方向Mにおける距離g2は、中心領域Aのドット部群D1における対応する距離g1よりも長くなっている。
また、連結ドット部15Dを形成するために直径方向Mにドット部を移動させる長さは、眼鏡レンズの装用者から見て、眼鏡レンズに入射する光のレンズ上における光束は、周辺領域Bでは直径方向Mに長くなることを考慮して設定することが望ましい。詳しくは、上記距離g2が、光束が長くなるのを光学的に打ち消して、中心領域Aと同様のコントラストを装用者が感じられるように、移動長さを設定すればよい。具体的な移動量としては、例えば0.02〜4.5mm程度とすることができる。連結ドット15Dの直径方向Mの長さd1は、後述する図10において説明する。
<コントラスト調整部による作用>
次に、本実施の形態に係る眼鏡レンズにおけるコントラスト調整部による作用を、等方的に均一に配列された複数のドット部が全面的に配置された眼鏡レンズと対比しながら説明する。なお、図3〜7において、理解を容易にするため、ドット部の長さや高さ等を誇張するとともに、ドット部の数を実際よりも少なく図示している。
また、以下の説明において、ドット部が実体物であるかのように、図示したり説明したりする場合がある。位相差が生じ得る微細構造がレンズ本体に設けられていれば、装用者には、ドット部が空間であっても実体物であっても等価なものとして認識され、実体物であるとして説明しても特に支障はないため、図示や説明を容易にする都合上、そのように図示・説明を行っている。
図4は、等方的に均一に配列された複数のドット部が全面に設けられた眼鏡レンズ10Xの平面模式図である。眼鏡レンズ10Xにおいては、レンズ基材11の第1主面内のどの位置においても、配列パターンは実質的に同一である。
図5は、眼鏡レンズ10Xにおいて発生する問題を説明する図である。図5は、図4のB−B’の断面模式図及びその部分拡大図に相当する。
図5に示すように、眼鏡レンズの装用者の瞳100と、眼鏡レンズ10Xの中心とを結ぶ線分を基準としたときに、瞳から眼鏡レンズに入射する光の、眼鏡レンズに対する入射角をαとすると、眼鏡レンズ上の光束径は、眼鏡レンズの直径方向Mに1/cosαだけ長くなる。
これは、ドット部の長さと配列ピッチとが、図5の中央部下段の図に示すように、眼鏡レンズの直径方向Mにcosα倍されることと等価であり、装用者は、図5の右下の図にダッシュ付き符号B’、P1’、D2’、15’で示すように、中央領域Aに比べて、ドット部の直径方向Mのサイズと、隣接するドット部間の距離とが圧縮された形で視認することになる。
したがって、眼鏡レンズの直径方向Mにおいては、眼鏡レンズの端部になるほど、入射光の低周波成分のコントラストが過剰に低下する一方、入射光の高周波成分のコントラストがあまり低下しないことになる。このため、眼鏡レンズの直径方向Mにおいては、コントラスト低下特性が位置によって異なり、所定のコントラスト低下特性を得ることができなくなる。
また、眼鏡レンズの周方向Sに関しては、このようなコントラスト低下特性の変動は生じない。したがって、周方向Sと直径方向Mとで、コントラスト低下特性が異なることになり、非点収差が生じたような違和感を装用者に与える恐れがある。
図6は、眼鏡レンズ10Xにおいて発生する他の問題を説明する図である。図6は、B−B’の断面模式図において、外部から眼鏡レンズ10Xに光が入射する様子を示している。
図6に示すように、眼鏡レンズ10Xの周辺領域Bにおいては、コントラスト調整部30に含まれるドット部15が眼鏡レンズ10Xの曲面に沿って傾くため、ドット部15の壁面の傾斜が大きくなる。この結果、図6に模式的に示すように、光源200からの光がドット部15の壁面で反射される等により、ドット部15の壁面に起因する迷光が生じやすくなる。
図7は、眼鏡レンズ10Aの作用を説明する図である。図7は、図1のA−A’の断面模式図に相当する。なお、図7においては、説明及び理解を容易にするため、格子状に均一に配列されたドット部の一部を、直径方向Mのみに移動させることにより、ドット部の配列を不均等にする例を示す。
図7に示すように、中心領域Aにおいては、ドット部15は等方的な配列パターンP1で配列されている。また、周辺領域Bにおいては、ドット部は非等方的な配列パターンで配列されている。
具体的には、中心領域A側の第2の周辺領域B2においては、一部のドット部が直径方向に移動した配列パターンP3で配列されている。第2の周辺領域B2の更に外側の第1の周辺領域B1においては、第2の周辺領域B2よりも多くのドット部が直径方向に移動した配列パターンP2で配列されている。
眼鏡レンズの装用者が、眼鏡レンズの周辺領域Bを介して観察する際には、装用者の眼に入る光束は、眼鏡レンズ上では直径方向に長くなる。しかし、上述したように、周辺領域Bにおいては、直径方向Mにドット部が移動した配列パターンでドット部が配列されているため、装用者は、図7の右側の図にダッシュ付き符号B2’、P2’、15’、15D’とともに示すように、直径方向Mにおける配列ピッチが、中心領域Aの配列ピッチと同等のドット部のパターンを介して観察することになる。また、ドット部が隣接することにより、直径方向Mにドット部が長くなったのと等価になるため、直径方向Mにおけるドット部の長さが、中心領域Aのドット部の長さと同等のドット部を有するドット部群を介して観察することになる。
これにより、眼鏡レンズ10Aの周辺領域Bにおいて、方向によってコントラスト低下作用が異なるのを抑制することができる。よって、眼鏡レンズ10Aの装用者に違和感を与えたり、場合によっては、周辺領域Bにおいて焦点調節の補助機能が低下したりするのを防止することができる。
なお、図1〜3に示す態様においては、図7で説明したのと同様に、ドット部群Dが、中心領域Aと最も周縁側の周辺領域B1との間に、中間領域に相当する周辺領域B2において、周辺領域B2にある第3ドット部群D3を更に含む。
この第3ドット部群D3においては、レンズ本体の直径方向Mにおけるドット部15間の距離が、第1ドット部群D1及び第2ドット部群D2に含まれるドット部15の対応する距離の中間の値をとる配列パターンP3で、ドット部15が配列されている。
直径方向Mに関して、少なくとも3つの領域でドット部群の配列パターンを徐々に変化させていることにより、眼鏡レンズの装用者は、配列パターンの変化を認識しづらく、視認性を妨げにくくなっている。
周方向Sに関しては、直径方向Mにおけるドット部の配列が異なる複数の配列パターンが含まれる。また、図1に符号L3で示す配列パターンのように、周辺領域Bには、周方向Sにおいて複数のドット部がランダムに配列されている。これらにより、周方向に関しても、眼鏡レンズの装用者は、配列パターンの変化を認識しづらく、視認性を妨げにくくなっている。
[第2の実施形態]
次に、本開示の第2の実施形態について説明する。第2の実施形態の具体的な構成を説明する前に、まず、レンズ本体に設けられる凸状構造体がコントラストに与える影響について説明する。
図8は、眼鏡レンズに設けられた、直径方向Mの断面が凸状の凸状構造体がコントラストに与える影響を自己相関法に基づいて説明する図である。
図8の(A)と(B)には、直径方向の断面が矩形状の凸状構造体15Pの場合の説明図である。
上述した第1の実施形態においては、周辺に行くほど、cosαだけ間延びするのを打ち消すように、ドット部を移動させることにより、周辺領域のドット部を介して装用者の目に入る光束に対応する眼鏡レンズ上での光束の変化に対応させる旨を説明した。MTF計算手法の一つである自己相関法の概念を用いて考察すると、図8の(A)に示すように、凸状構造体15Pを直径方向Mに沿ってMTF計算周波数F1に対応した距離L1だけ移動させたときの符号15aで示す位置と、元の位置との差異に相当する図8の(B)の斜線部分の面積の2乗÷斜線部分の横幅に比例して、周波数F1におけるコントラストが低下する。
図8の(A)と(B)で説明した事項は、眼鏡レンズの周辺領域に設けられる、直径方向Mの断面の形状が台形状である凸状構造体の場合にも当てはまる。例えば、図8の(C)と(D)は、眼鏡レンズに設けられた、直径方向Mの断面が台形状の凸状構造体15Mの位置の変化がコントラストに与える影響を自己相関法に基づいて説明する図である。
ここで、凸状構造体15Mの周縁には、中央側から外側に行くほど肉薄になる傾斜部が設けられている。レンズ本体の直径方向Mにおいて、凸状構造体15Pの端部から距離m0のところまで、傾斜部15Maが存在する。
この場合も、図8の(C)に示すように、凸状構造体15Mを直径方向Mに沿って距離m2だけ移動させたときの符号15Maで示す位置と、元の位置との差異に相当する図8の(D)の斜線部分の面積の2乗÷斜線部分の横幅に比例して、周波数F1におけるコントラストが低下する。このことに鑑みて、斜線部分の横幅が大きくなるような形状を凸状構造体に与えることで、過剰な低周波コントラスト低下を抑制できることを見いだした。
例えば、瞳孔径を4ミリ、波長と555nmとしたとき、周波数F1を7cpd(cycle per degree)とすると、カットオフ周波数を考慮して、対応する距離m1およびm2は、眼鏡レンズ上における、コントラスト計算方向の光束径の約5.6%となる。
そこで、第2の実施形態においては、周辺領域Bのドット部15の、少なくとも直径方向Mにおける周縁に傾斜部を形成している。つまり、第2ドット部群D2には、直径方向Mにおいて、中央側から外側に行くほど肉薄になる傾斜部が周縁に設けられ、かつ、レンズ本体の直径方向における長さが前記第1ドット部群のドット部の対応する長さよりも長い傾斜ドット部が含まれている。
図9は、本開示の第2の実施形態に係る眼鏡レンズ10BのA−A’断面図及び部分拡大図である。なお、眼鏡レンズ10Bの平面模式図は、図1と同様である。
図9に示すように、周辺領域Bにおいて、直径方向Mの断面が台形状のドット部(傾斜ドット部)15d1、15d2・・・を設けるとともに、これらの少なくとも一方を直径方向Mに移動させた配列をとることで、連結ドット部15Dを形成している。
連結ドット部15Dは、第1の実施形態のように、一部のドット部を移動させた配列パターンとすることにより、あるいは、第2の実施形態のように、ドット部の縁に傾斜部15dsを形成することにより形成される。なお、他の構成は図2に示した眼鏡レンズ10Aと同様である。
図10は、連結ドット部15Dの構成例を示す図である。連結ドット部15Dは、図10の(A)に破線で示すように、等間隔g1で直径方向Mに並んだドット部の一部を直径方向Mに移動させることにより、図10の(B)に示すように、隣り合うドット部が接点20aで接する態様をとることができる。また、図10の(C)に示すように、隣り合うドット部の縁の一部が、符号20bで示すように、互いに重なり合う態様をとることもできる。ドット部が直径方向Mに移動することにより、移動したドット部とそれに隣り合う移動しなかったドット部との縁間の距離は、距離g1より大きい距離g2に広がる。
連結ドット部15Dを得るのに、隣り合うドット部が接しているか重なり合っていると、両者の間の壁面がなくなるか若しくは減少するので、迷光抑制の効果を得やすい。
図10の(D)に示すように、隣り合うドット部がわずかに離れる(図10の(D)において符号g3で示す距離)程度に両者を近づける態様をとることによっても、低周波コントラストの過剰低下抑制および迷光抑制に一定の効果が得られる。図10の(D)において、ドット部間の最近接部を符号20cで示す。連結ドット部と同様の効果が得られる、ドット部間の最近接距離として、直径方向Mにおけるドット部の周縁間の距離を、例えば、光束径の0.56%程度(0.022mm程度)に設定することができ、また、例えば、0.015〜0.030mm程度に設定することができる。この値は注目する空間周波数によって変えてもよい。
また、図10の(E)に示すように、平面視形状が、アスペクト比1未満の形状、より具体的には、眼鏡レンズの直径方向に長い形状(楕円形、瓢箪形、矩形等)の態様とすることもできる。この場合、ドット部のアスペクト比は、周方向S(短軸に相当)の長さw÷直径方向M(長軸に相当)の長さd1で表され、1未満である。平面視形状がアスペクト比1未満のドット部の好ましいアスペクト比は、0.45〜0.99程度である。図10の(A)や図10の(B)に示すような連結ドット部15Dについても、周方向Sの最大長さをwとし、直径方向Mの長さをd1とするときのアスペクト比(w/d1)が1未満であり、好ましくは0.45〜0.99程度である。
図10の(B)〜(D)に示すドット部対、及び、図10の(E)に示す平面視形状がアスペクト比1未満の形状のドット部は、一態様においては、上述したように、直径方向Mにおけるドット部の周縁に傾斜部を設けることによって形成する。この場合は、眼鏡レンズの周辺領域において迷光を防止しやすくなる。
傾斜ドット部は、成形型を用いて形成してもよいし、IJによる吐出ドットの重ね打ち等によって形成してもよい。
平面視形状がアスペクト比1未満のドット部は、楕円形、瓢箪型、矩形型等でもよい。IJ法であればインクドットを同時又は連続的に吐出することで連結ドット部を形成してもよい。
なお、上述した第1の実施形態におけるドット部群Dは、平面視形状がアスペクト比1未満のドット部を含んでいるとも言える。
図11は、眼鏡レンズ10Aの、眼鏡レンズ上の光束径に対する、凸部の側面の傾き部分の直径方向の長さの影響を示すグラフである。このグラフは、後述するMTF測定の基本条件に準じてシミュレーションを行って得たものである。
コントラスト低下特性の変動を完全に抑えるために必要な、ドット部のシフト量は、図11に実線で示す曲線(1)により与えられる。
コントラスト調整の機能とコントラスト調整部の形成の容易性とのバランスをとり、コントラスト低下特性の変動を、コントラスト調整部なしの場合に比べて半減させる場合は、ドット部のシフト量は、図11に破線で示す曲線(2)により与えられる。
図11から明らかなように、コントラスト低下特性の変動が半減程度でよい場合は、ドット部の移動量あるいは移動させるべきドット部の割合も小さくて済む。つまり、連結ドット部や直径方向に長い形状を持つドット部の割合を減らすことができる。
図12は、眼鏡レンズに設けられた、直径方向の断面が台形状の凸状構造体の作用を説明する図である。
図12の(A)に示すように、ドット部の周縁に傾斜部を設けない、直径方向の断面が矩形状の凸状構造体15Pの場合、眼鏡レンズの周辺領域においては、ドット部の壁面によって光が反射されやすくなり、迷光が発生しやすい。
一方、図12の(B)に示すように、直径方向Mにおけるドット部の周縁に傾斜部15Maを設ける場合、眼鏡レンズの周辺領域においても、ドット部の壁面によって光が反射されにくくなり、光線が迷光とならずに済む。
上述した第2の実施形態では、周辺領域Bにおいて、一部のドット部を移動させた配列パターンにするとともに、ドット部の縁に傾斜部を設けることにより、連結ドット部を形成している。これにより、周辺領域Bを含む眼鏡レンズ全体において、コントラスト低下作用を十分確保することができるとともに、迷光の発生も防止することができる。
しかしながら、これに限るものではなく、例えば、コントラスト低下があまり問題にならないような用途などにおいては、眼鏡レンズの全体にわたって、複数のドット部の配列を全て等方的なものとし、周辺領域のみドット部の周縁に傾斜部を設けて迷光を防止することもできる。
次に、眼鏡レンズの具体的な層構成について説明する。
<眼鏡レンズの層構成の一例>
図13は、眼鏡レンズ10A1の層構成を示す、直径方向の断面の部分拡大図である。
図13に示す眼鏡レンズ10A1においては、眼鏡用レンズ基材11(以下単に「レンズ基材」ともいう)を有し、レンズ基材11の第1主面上に、ハードコート層13と、上述した金属含有層15b(20)と、反射防止層17、及び撥水層19とをこの順に有する。以下、金属含有層15b以外の各層について説明する。
<レンズ基材>
図13に示すように、レンズ基材11は、第1主面111、第2主面112、及びコバ面(図示せず)を有する。
レンズ基材11の材質としては、プラスチックであっても、無機ガラスであってもよい。基材の材質は、例えば、ポリチオウレタン樹脂、ポリウレタン樹脂等のポリウレタン系材料、ポリスルフィド樹脂等のエピチオ系材料、ポリカーボネート系材料、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート系材料、等が挙げられる。
レンズ基材11としては、通常無色のものが使用されるが、透明性を損なわない範囲で着色したものを使用することもできる。
レンズ基材11の屈折率は、例えば、1.50以上1.74以下である。
レンズ基材11として、フィニッシュレンズ、セミフィニッシュレンズのいずれであってもよい。
レンズ基材11の表面形状は特に限定されず、平面、凸面、凹面等のいずれであってもよい。
本開示の眼鏡レンズは、単焦点レンズ、多焦点レンズ、累進屈折力レンズ等のいずれであってもよい。累進屈折力レンズについては、通常、近用部領域(近用部)及び累進部領域(中間領域)が、前述の下方領域に含まれ、遠用部領域(遠用部)が上方領域に含まれる。
<ハードコート層>
ハードコート層13は、例えば、無機酸化物粒子とケイ素化合物とを含む硬化性組成物を硬化して得られる。ハードコート層13は、レンズ基材11の材質に応じて組成が選択される。なお、ハードコート層13の屈折率(nD)は、例えば、1.50以上1.74以下である。
<反射防止層>
反射防止層17は、屈折率の異なる膜を積層させた多層構造を有し、干渉作用によって光の反射を防止する膜である。このような反射防止層17は、一例として低屈折率層17Lと高屈折率層17Hとを多層積層してなる多層構造が挙げられる。低屈折率層17Lの屈折率は、波長500〜550nmで例えば、1.35〜1.80である。高屈折率層17Hの屈折率は、波長500〜550nmで例えば、1.90〜2.60である。
低屈折率層17Lは、例えば、屈折率1.43〜1.47程度の二酸化珪素(SiO)からなる。また高屈折率層17Hは、低屈折率層17Lよりも高い屈折率を有する材料からなり、例えば、酸化ニオブ(Nb)、酸化タンタル(Ta)、酸化チタン(TiO)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化イットリウム(Y)、酸化アルミニウム(Al)等の金属酸化物を、適宜の割合で用いて構成される。
<撥水層>
撥水層19は、例えば、フッ素置換アルキル基含有有機ケイ素化合物を含有する。この撥水層19は、反射防止層17と合わせて反射防止機能を奏するように設定された膜厚を有している。
<眼鏡レンズの層構成の他の例>
図14は、眼鏡レンズ10A2の層構成を示す、直径方向の断面の部分拡大図である。
第2の眼鏡レンズ10A2は、眼鏡レンズ10A1と基本的に共通の構成を有し、その平面図は、図1に示す眼鏡レンズ10A1と同様である。
図14に示すように、眼鏡レンズ10A2は、眼鏡用レンズ基材11(以下単に「レンズ基材」ともいう)を有し、レンズ基材11の第1主面上に、ハードコート層13と、第1の無機層15cと、金属含有層15bと、第2の無機層15eと、反射防止層17、及び撥水層19とをこの順に有する。
第1の無機層15cは、金属含有層15bとレンズ基材11の第1主面の間に形成され、開口部には形成されていない。第1の無機層15cを設けることで、眼鏡レンズ10A2の製造過程における金属含有層15bの剥がれを防ぐことができる。
第2の無機層15eは、金属含有層15bの上に形成され、開口部には形成されていない。第2の無機層15eを設けることで、眼鏡レンズ10A2の製造過程における金属含有層15bの摩耗を防ぐことができ、金属含有層15b部分の透過率の低下を防ぐことができる。
第1の無機層15c及び第2の無機層15e(以下、これらの上位概念の意味で単に「無機層」ともいう)は、例えば、無機酸化物により形成することができる。
無機層の膜厚は、例えば、1〜100nmであり、好ましくは1〜50nmである。
無機層の材質としては、例えば、SiO、Al、Ta、Nb、ZrO2、TiO、In23/SnO2(ITO)、CeOが挙げられる。
これらの中でも、SiO、Alが好ましく、SiOがより好ましい。
無機層は、公知の成膜方法により行うことができ、例えば、真空蒸着法を用いてもよい。
無機層の材質として、反射防止層17の最下層の材質と同一のものを使用することで、反射防止層17の最下層と関係で干渉などの問題を発生しにくくすることができる。
<シミュレーション>
上記実施形態で説明した眼鏡レンズと同様の構成を有するモデルを用いて、コントラスト調整部を構成するドット部群が、眼鏡レンズのコントラストに与える影響を、シミュレーションによって確認した。
シミュレーションの基本条件は以下のとおりである。
・ドット部のピッチ:0.500mm
・ドット部の直径:0.350mm
・ドット部の縁同士の間隔・0.150mm
・位相負荷量:0.15λ
・透過率:100%
・波長:555nm
・想定瞳径:4mm
図15は、不均等に配列された複数のドット部を備える眼鏡レンズのMTF特性のシミュレーション結果を示す図である。
ここで、複数のドット部の不均等な配列パターンとして、以下の条件を設定した。
[1A]光束径が直径方向に2倍になる地点で、全てのドット部が直径方向に接している(最近接ドット部間距離が0mm)。つまり、全てが連結ドット部である。また、これらのドット部の周縁には傾斜部は設けられていない。つまり、傾斜ドット部は含まれていない。
[2A]光束径が直径方向に1.4倍になる地点で、直径方向における最近接のドット部間の平均距離が0.090mmとなるようにドット部の位置をランダムに設定し、16%のドット部が直径方向に接している。また、これらのドット部の周縁には傾斜部が設けられている。つまり、傾斜ドット部が含まれる。直径方向における傾斜部の平均長さは0.043mmである。
図15に示すように、比較のための基準となる、ドット部を設けていない眼鏡レンズに対して、中心領域及び周辺領域ともに、空間周波数が高くなるにつれてコントラストが低下したが、これらの低下度合いは非常に似通っており、空間周波数に対する変化の度合いも類似していることが判る。なお、図15において、点線はドット部を設けていない眼鏡レンズの特性を示す。実線は、ドット部を設けた眼鏡レンズの中心領域又は周辺領域の円周方向の特性を示す。長破線は、ドット部を設けた眼鏡レンズの中心領域又は周辺領域の円周方向であって光束径が1.4倍の場合の特性を示す。二点鎖線は、ドット部を設けた眼鏡レンズの中心領域又は周辺領域の円周方向であって光束径が2倍の場合の特性を示す。以下で説明する図16〜図18も同様である。
図16は、図15のシミュレーション結果の縦軸を、ドット部を有していない眼鏡レンズに対するコントラスト低下量として表した図である。
図16から明らかなように、縦軸をコントラスト低下量としたことで、各曲線の違いが強調されているが、いずれの位置においても、コントラスト低下量がほぼ同等であることが理解できる。
図17は、図16の例とは異なる配列パターンで、複数のドット部が不均等に配列された眼鏡レンズのMTF特性のシミュレーション結果を示す図であり、縦軸を、ドット部を有していない眼鏡レンズに対するコントラスト低下量として表した図である。
ここで、複数のドット部の不均等な配列パターンとして、以下を条件[1B]〜[3B]を設定した。
[1B]合体するドット部の比率を「光束径の拡大率−1」となるように設定した。
[2B]光束径が直径方向に2倍になる地点で、全てのドット部が直径方向に接している(最近接ドット部間距離が0mm)。つまり、全てが連結ドット部である。また、これらのドット部の周縁には傾斜部は設けられていない。つまり、傾斜ドット部は含まれていない。
[3B]光束径が直径方向に1.4倍になる地点で、直径方向における最近接のドット部間の平均距離が0.090mmとなるようにドット部の位置をランダムに設定し、40%のドット部が直径方向に接している。これらのドット部の周縁には傾斜部は設けられていない。つまり、傾斜ドット部が含まれていない。
図17から明らかなように、各地点におけるコントラスト低下の挙動は非常に類似しており、位置によるコントラスト低下作用の変化が防止されていることが理解できる。
図18は、等方的に均一に配列された複数のドット部が全面にわたって設けられた眼鏡レンズのMTF特性のシミュレーション結果を示す図であり、縦軸を、ドット部を有していない眼鏡レンズに対するコントラスト低下量として表した図である。
図18から明らかなように、各地点でコントラスト低下量にばらつきがあり、図16、図17に示す特性に比べて、空間周波数に対するコントラストの変化が大きくなっていることが判る。
<他の配列パターン>
図1に示した配列パターンP2、P3は、装用者に違和感を与えるのをできるだけ避けるように、直径方向M及び周方向Sにおいて、ドット部の配置がランダムになるような配列パターンとしていた。しかし、これに限るものではなく、より規則的にドット部を移動させることによって擬似的に不規則なパターンを形成してもよい。
図19は、本開示の他の実施形態に係る眼鏡レンズ10Cの平面模式図である。
図19に示すように、眼鏡レンズ10Cにおいては、中心領域Aの第1ドット群D1の配列パターン、及び、中心領域Aのすぐ外側の周辺領域B2の第3ドット群D3の配列パターンが、ともに規則的は配列パターンP1である。
そして、周辺領域B2の更に外側の周辺領域B1の第2ドット群D2の配列パターンP2は、レンズ本体の中心から周辺に向けて直径方向Mにおける所定列以降のドット部を単純に直径方向Mに移動させて連結ドット部15Dを形成した配列パターンに相当する、擬似的な不規則パターンである。このようにすることで、配列パターンの決定及びその形成が容易になる。
本開示は、上記各成分の例、含有量、各種物性については、発明の詳細な説明に例示又は好ましい範囲として記載された事項を任意に組み合わせてもよい。
また、実施例に記載した組成に対し、発明の詳細な説明に記載した組成となるように調整を行えば、クレームした組成範囲全域にわたって実施例と同様に開示の実施の形態を実施することができる。
最後に、本開示の実施の形態を、図等を用いて総括する。
本開示の一実施の形態である眼鏡レンズ10Aは、図1、図2、及び図6に示すように、レンズ本体となるレンズ基材11と、レンズ基材11に設けられ、複数のドット部15が配列したドット部群Dを含むコントラスト調整部30とを備え、不均等な配列パターンP2で配列された複数のドット部15を含む領域を有する。複数のドット部15の配列を不均等にすることで、周辺領域Bを含む眼鏡レンズ全体において、コントラスト低下作用を十分確保することができる。
また、本開示の他の実施の形態である眼鏡レンズ10Bは、図1、図6、図9及び図10に示すように、複数のドット部が配列したドット部群を含むコントラスト調整部と、を備え、上記ドット部群は、平面視形状がアスペクト比1未満のドット部を含む。上記ドット部群が、平面視形状がアスペクト比1未満のドット部を含むことで、コントラスト低下作用を維持しつつ、迷光の発生を防止できる。
本開示の眼鏡レンズは、日常的な用途で使用する近視・遠視・乱視・老眼等の視力矯正用眼鏡、眼を保護するための保護眼鏡、拡大鏡眼鏡アイウェアだけでなく、他の用途、例えば、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)用の光学系となる眼鏡レンズにも適用可能である。
今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
10A,10A1、10A2、10B、10C:眼鏡レンズ
11:レンズ基材(レンズ本体)
13:ハードコート層
15:ドット部
15b、20:金属含有層
15D:連結ドット部
15d1、15d2:傾斜ドット部
17:反射防止層
17L:低屈折率層
17H:高屈折率層
19:撥水層
30:コントラスト調整部
A:中心領域
B、B1、B2:周辺領域
D1:第1ドット部群
D2:第2ドット部群
D3:第3ドット部群
P1、P2、P3:配列パターン
L1:第1配列
L2:第2配列
M:直径方向
S:周方向
g1、g2、g3:直径方向Mにおけるドット部の周縁間の距離
d1:直径方向Mにおけるドット部の長さ
w:周方向Sにおけるドット部の長さ
r:ドット部の直径

Claims (13)

  1. レンズ本体と、
    前記レンズ本体に設けられ、複数のドット部が配列したドット部群を含むコントラスト調整部と、を備え、
    前記複数のドット部の配列が不均等である、眼鏡レンズ。
  2. 前記ドット部群は、前記レンズ本体の中心領域にある第1ドット部群と、前記中心領域より外側の周辺領域にある第2ドット部群とを含み、
    前記第2ドット部群は、前記第1ドット部群に比べて、(i)レンズ本体の直径方向におけるドット部間の距離が長い、請求項1に記載の眼鏡レンズ。
  3. 前記第2ドット部群における複数のドット部の配列は、前記第1ドット部群の複数のドット部の配列において、所定位置のドット部をレンズ本体の直径方向に移動した配列に相当する、請求項2に記載の眼鏡レンズ。
  4. 前記ドット部群は、前記中心領域と周辺領域との間の中間領域にある第3ドット部群を更に含み、
    前記第3ドット部群は、レンズ本体の直径方向におけるドット部間の距離が、前記第1ドット部群及び前記第2ドット部群に含まれるドット部の対応する距離の中間の値をとる、請求項2又は3に記載の眼鏡レンズ。
  5. 前記ドット部群は、平面視形状における長軸方向の長さに対する短軸方向の長さで表されるアスペクト比が1未満のドット部を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の眼鏡レンズ。
  6. レンズ本体と、
    前記レンズ本体に設けられ、複数のドット部が配列したドット部群を含むコントラスト調整部と、を備え、
    前記ドット部群は、平面視形状における長軸方向の長さに対する短軸方向の長さで表されるアスペクト比が1未満であるドット部を含む、眼鏡レンズ。
  7. 前記ドット部群は、前記レンズ本体の中心領域にある第1ドット部群と、前記中心領域より外側の周辺領域にある第2ドット部群とを含み、
    前記第2ドット部群は、前記第1ドット部群に比べて、(ii)レンズ本体の直径方向におけるドット部の長さが長い、請求項6に記載の眼鏡レンズ。
  8. 前記第2ドット部群は、互いに連結するドット部対を含み、該ドット部対は、レンズ本体の直径方向における長さが、前記ドット部対を構成する各ドット部の対応する長さよりも長い連結ドット部を形成する、請求項7に記載の眼鏡レンズ。
  9. 前記第2ドット部群には、レンズ本体の直径方向において中央側から外側に行くほど肉薄になる傾斜部が周縁に設けられ、かつ、レンズ本体の直径方向における長さが前記第1ドット部群のドット部の対応する長さよりも長い傾斜ドット部が含まれる、請求項7に記載の眼鏡レンズ。
  10. 前記ドット部群は、前記中心領域と周辺領域との間の中間領域にある第3ドット部群を更に含み、
    前記第3ドット部群は、レンズ本体の直径方向におけるドット部の長さが、前記第1ドット部群及び前記第2ドット部群に含まれるドット部の対応する長さの中間の値をとる、請求項7〜9のいずれか1項に記載の眼鏡レンズ。
  11. 前記第2ドット部群は、前記第1ドット部群に比べて、(i)レンズ本体の直径方向におけるドット部間の距離が長い、請求項7〜10のいずれか1項に記載の眼鏡レンズ。
  12. 前記ドット部群には、レンズ本体の直径方向におけるドット部の配列が互いに異なる第1配列及び第2配列が含まれ、前記第1及び第2配列は、レンズ本体の周方向の異なる位置にある、請求項1〜11のいずれか1項に記載の眼鏡レンズ。
  13. 前記複数のドット部は、前記コントラスト調整部に形成された凹部である、請求項1〜12のいずれか1項に記載の眼鏡レンズ。

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