JPWO2020009171A1 - 熱間プレス成形品の製造方法、プレス成形品、ダイ金型、及び金型セット - Google Patents

熱間プレス成形品の製造方法、プレス成形品、ダイ金型、及び金型セット Download PDF

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Abstract

ダイ金型11は、ダイ穴11Dの外側の表面であって且つ熱間プレス成形される前のめっき鋼板10(溶融亜鉛めっき層及び亜鉛ニッケルめっき層からなる群より選択される少なくとも一種のめっき層を有するめっき鋼板)と接触する鋼板接触面11Aのうち、ダイ肩部11Bに隣接する全領域に、ダイ穴11Dの外側から内側に向かう方向に測定したスキューネス(Rsk)が−5.0以上1.2以下、かつ硬さHv_DieがHV1000以上1550以下である硬質層11Cを有する熱間プレス成形品の製造方法。

Description

本開示は、熱間プレス成形品の製造方法、プレス成形品、ダイ金型、及び金型セットに関する。
近年、環境保護と地球温暖化の防止のために、化学燃料の消費を抑制する要請が高まっている。この要請は、様々な製造業に対して影響を与えている。自動車についても例外ではなく、車体の軽量化などによる燃費の向上等が求められている。但し、自動車では車体の軽量化と安全性を両立する必要がある。
自動車の車体構造の多くは、鉄、特に鋼板により形成されている。この鋼板による構造材の強度を維持しつつ重量を低減することが、車体の軽量化に求められる。このような鋼板に対する要請は、自動車製造業のみならず、様々な製造業でも同様になされている。よって、鋼板の機械的強度を高めることにより、従来使用されていた鋼板より薄くしても構造材の機械的強度を維持又は高めることが可能になる。
一般的に高い機械的強度を有する材料は、曲げ加工等の成形加工において、形状凍結性が低下する傾向にある。すなわち、複雑な形状に加工する場合、加工そのものが困難となる。この成形性についての問題を解決する手段の一つとして、いわゆる「熱間プレス成形(ホットプレス法、高温プレス法、ダイクエンチ法)」が挙げられる。この熱間プレス成形では、成形対象である鋼板を一旦高温に加熱して、加熱により軟化した鋼板に対してプレス加工を行って成形した後に、冷却する。
この熱間プレス成形によれば、鋼板を一旦高温に加熱して軟化させるので、その鋼板を容易にプレス加工することができる。更に、成形後の冷却による焼入れ効果により、鋼板の機械的強度を高めることができる。従って、この熱間プレス成形により、良好な形状凍結性と高い機械的強度とを両立した成形品が得られる。
しかし、例えば鋼板を800℃以上の高温に加熱することにより、鋼板の表面が酸化してスケール(酸化物)が発生する。耐食性を確保するため塗装やめっきする場合、スケールは邪魔になる。従って、熱間プレス成形を行った後に、このスケールを除去する工程(デスケーリング工程)が必要となる。すなわち生産性が悪い。
このようなスケール生成を避ける方法として、熱間プレス成形前の鋼板に被覆を施す方法が挙げられる。鋼板に対して犠牲防食作用のある亜鉛をめっきした亜鉛(Zn)系めっき鋼板が、その防食性能と鋼板生産技術の観点から、自動車鋼板等に広く使われている。しかし、熱間プレス成形における加熱温度(700〜1000℃)は、亜鉛の沸点よりも高く、熱間プレス成形のために加熱したとき、表面のめっき層が蒸発し、表面性状の著しい劣化の原因となる場合がある。
それに対して、特許文献1には、加工疵の発生を防止するために熱間潤滑性と共に、化成処理性及び耐食性を改善する目的で、酸化亜鉛皮膜(以下「ZnO皮膜」とも称する)等のウルツ鉱型化合物の皮膜をAlめっき鋼板の表面に形成する方法が開示されている。
一方で、特許文献2には、プレス成形時のZnO皮膜の密着性を高める目的で、水酸化Zn、リン酸Zn、及び有機酸Znからなる群より選択された1つ以上のZn化合物の皮膜をAlめっき鋼板の表面に形成する方法が開示されている。特許文献2の方法では、Zn化合物の皮膜が形成されたAlめっき鋼板を熱間プレス成形するときの熱で、ZnOの皮膜を生成し、密着性に優れたZnO皮膜を形成し、熱間潤滑性、皮膜密着性、スポット溶接性、及び塗装後耐食性を向上することができる。
なお、特許文献3には、表面に硬質皮膜を有する被覆金型であって、前記硬質皮膜は、膜厚が5μm以上の窒化物からなるA層と、ダイヤモンドライクカーボン皮膜からなるB層とを含み、前記B層は前記A層よりも外表面側にあり、前記B層の表面が、算術平均粗さRa≦0.2μm、最大高さRz≦2.0μm、スキューネスRsk<0を満たす被覆金型が開示されている。
特許文献1:国際公開第2009/131233号
特許文献2:日本国特開2014−139350号公報
特許文献3:国際公開第2016/171273号
ここで、特許文献1〜2のめっき鋼板は、何れも熱間潤滑性に優れ、加工疵の発生を抑制することができる。
ところで、一般に非めっき材やめっき鋼板を使用して熱間プレス成形したとき、プレス成形品の縦壁部及びフランジ部となる部分等、めっき鋼板が摺動する熱間プレス成形用金型の摺動面に摩耗が発生する。このため、熱間プレス成形の高面圧部においては金型の摺動面に生じる摩耗対応として、金型手入れが必要である。特許文献1〜2のめっき鋼板により金型摩耗が軽減されることが期待されたが、特許文献1〜2をもってしても他の非めっき材やめっき鋼板と同様に金型摩耗を解決できなかった。
また、特許文献3に記載されるように表面に被覆層を備えた塑性加工用金型を用いても、熱間プレス成形の高面圧部においては金型の摺動面に生じる摩耗を解決できなかった。
本開示の課題は、溶融亜鉛めっき層及び亜鉛ニッケルめっき層からなる群より選択される少なくとも一種のめっき層を有するめっき鋼板に熱間プレス成形するときの、ダイ金型の摺動面の摩耗の発生を抑制する熱間プレス成形品の製造方法を提供することである。
また、本開示の課題は、摺動面の摩耗の発生を抑制するダイ金型、ダイ金型とパンチ金型との金型セット、およびダイ金型と鋼板おさえ金型との金型セットを提供することである。
また、本開示の課題は、表面品位に優れ且つ遅れ破壊の発生を抑制するプレス成形品を提供することである。
本開示の要旨は、以下の通りである。
<1>
熱間プレス成形品の製造方法であって、
溶融亜鉛めっき層及び亜鉛ニッケルめっき層からなる群より選択される少なくとも一種のめっき層を有するめっき鋼板を、ダイ金型のダイ穴を塞いで前記ダイ金型上に配置すること、および
前記めっき鋼板に前記ダイ金型を用いて熱間プレス成形すること、
を有し、
前記ダイ金型は、前記ダイ穴の外側の表面であって且つ前記熱間プレス成形される前の前記めっき鋼板と接触する鋼板接触面のうち、ダイ肩部に隣接する全領域に、前記ダイ穴の外側から内側に向かう方向に測定したスキューネス(Rsk)が−5.0以上1.2以下、かつ硬さHv_DieがHV1000以上1550以下である硬質層を有する熱間プレス成形品の製造方法。
<2>
前記硬質層は、最表層として窒化層を有する層である<1>に記載の熱間プレス成形品の製造方法。
<3>
前記硬質層は、窒化層と、前記窒化層の表面にある硬質コーティング層と、を含む層である<1>又は<2>に記載の熱間プレス成形品の製造方法。
<4>
前記めっき鋼板が、前記めっき層の上に最表層として亜鉛化合物層または金属亜鉛層を有する<1>〜<3>のいずれか1項に記載の熱間プレス成形品の製造方法。
<5>
鋼板製のプレス成形品であって、
前記鋼板は、硬さHv_PartsがHV400以上である鋼母材と、前記鋼母材上に溶融亜鉛めっき層及び亜鉛ニッケルめっき層からなる群より選択される少なくとも一種のめっき層と、前記めっき層上に最表層として酸化亜鉛層と、を有し、
前記プレス成形品は、天板部と、前記天板部に第1稜線部を介して接続する縦壁部と、前記縦壁部に第2稜線部を介して接続するフランジ部と、を有し、
前記第2稜線部において曲率半径が最小となる箇所での該曲率半径[Rmin]が3mm以上10mm未満であり、
前記プレス成形品の長手方向に直交かつ前記天板部に平行な方向から前記プレス成形品を投影した前記フランジ部の曲率半径が最小となる箇所PB0minを含む前記プレス成形品の横断面において、前記天板部における幅方向での中心箇所PB1minでの平滑度[SaB1]と、前記縦壁部における高さ方向での中心箇所PB2minでの平滑度[SaB2]と、の差[SaB1−SaB2]が0.35μm以上であり、
前記天板部における前記箇所PB1minでの表面性状のアスペクト比[StrB1]と、前記縦壁部における前記箇所PB2minでの表面性状のアスペクト比[StrB2]と、の差[StrB1−StrB2]が0.50以下であるプレス成形品。
<6>
前記酸化亜鉛層の平均厚さが0.3μm以上2.0μm以下である<5>に記載のプレス成形品。
<7>
溶融亜鉛めっき層及び亜鉛ニッケルめっき層からなる群より選択される少なくとも一種のめっき層を有するめっき鋼板の熱間プレス成形に用いられ、
ダイ穴の外側の表面且つダイ肩部に隣接するダイ肩隣接面のうち、前記ダイ肩部に隣接する全領域に、ダイ穴の外側から内側に向かう方向に測定したスキューネス(Rsk)が−5.0以上1.2以下、かつ硬さHv_DieがHV1000以上1550以下である硬質層を有するダイ金型。
<8>
前記硬質層は、最表層として窒化層を有する層である<7>に記載のダイ金型。
<9>
前記硬質層は、窒化層と、前記窒化層の表面にある硬質コーティング層と、を含む層である<7>又は<8>に記載のダイ金型。
<10>
溶融亜鉛めっき層及び亜鉛ニッケルめっき層からなる群より選択される少なくとも一種のめっき層を有するめっき鋼板の熱間プレス成形に用いられ、
<7>〜<9>のいずれか1項に記載のダイ金型と、パンチ金型と、を備え、
前記パンチ金型は、前記ダイ金型の前記ダイ肩隣接面に対向する対向面のうち、前記ダイ金型が前記硬質層を有する箇所と対向する全領域に、パンチ部の外側から内側に向かう方向に測定したスキューネス(Rsk)が−5.0以上1.2以下、かつ硬さHv_DieがHV1000以上1550以下である第二硬質層を有する金型セット。
<11>
前記第二硬質層は、最表層として第二窒化層を有する層である<10>に記載の金型セット。
<12>
前記第二硬質層は、第二窒化層と、前記第二窒化層の表面にある第二硬質コーティング層と、を含む層である<10>又は<11>に記載の金型セット。
<13>
溶融亜鉛めっき層及び亜鉛ニッケルめっき層からなる群より選択される少なくとも一種のめっき層を有するめっき鋼板の熱間プレス成形に用いられ、
<7>〜<9>のいずれか1項に記載のダイ金型と、鋼板おさえ金型と、を備え、
前記鋼板おさえ金型は、前記ダイ金型の前記ダイ肩隣接面に対向する対向面のうち、前記ダイ金型が前記硬質層を有する箇所と対向する全領域に、パンチ挿通部の外側から内側に向かう方向に測定したスキューネス(Rsk)が−5.0以上1.2以下、かつ硬さHv_DieがHV1000以上1550以下である第二硬質層を有する金型セット。
<14>
前記第二硬質層は、最表層として第二窒化層を有する層である<13>に記載の金型セット。
<15>
前記第二硬質層は、第二窒化層と、前記第二窒化層の表面にある第二硬質コーティング層と、を含む層である<13>又は<14>のいずれか1項に記載の金型セット。
本開示によれば、溶融亜鉛めっき層及び亜鉛ニッケルめっき層からなる群より選択される少なくとも一種のめっき層を有するめっき鋼板に熱間プレス成形するときの、ダイ金型の摺動面の摩耗の発生を抑制する熱間プレス成形品の製造方法を提供することができる。
また、本開示によれば、摺動面の摩耗の発生を抑制するダイ金型、ダイ金型とパンチ金型との金型セット、およびダイ金型と鋼板おさえ金型との金型セットを提供することができる。
また、本開示によれば、表面品位に優れ且つ遅れ破壊の発生を抑制するプレス成形品を提供することができる。
ダイ金型、ホルダー(鋼板おさえ金型)、及びパンチによって熱間プレス成形されるめっき鋼板の一例を示す模式図である。 図1に示す熱間プレス成形で得られるプレス成形品の一例を示す模式図(斜視図)である。 図1に示す熱間プレス成形で得られるプレス成形品の一例を示す模式図(側面図)である。 本実施形態に係る熱間プレス成形で得られるプレス成形品の他の一例を示す模式図である。 図3AのA−A’断面図である。 本実施形態に係る熱間プレス成形で得られるプレス成形品の他の一例を示す模式図である。 図4AのB−B’断面図である。 本実施形態にかかる熱間プレス成形で得られるプレス成形品の他の一例を示す模式図である。 ダイ金型、及びパンチ金型によって熱間プレス成形されるめっき鋼板の一例を示す模式図である。 本実施形態に用いられるめっき鋼板の一例を示す概略断面図である。 熱間潤滑性の評価装置を示す概略構成図である。
次に、本開示について詳細に説明する。
以下に添付図面を参照しながら、本開示の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する場合がある。
本明細書において、「プレス成形品の長手方向」をx方向と定義する。x方向は、天板部の長手方向の端部それぞれの重心を結んだ線に沿った方向である。
また、「プレス成形品の長手方向に直交かつ天板部に平行な方向」をy方向と定義する。y方向は、プレス成形品を長手方向に直交するプレス成形品の横断面において、第1稜線部同士を結んだ線に沿った方向である。
<熱間プレス成形品の製造方法>
本開示の一実施形態に係る熱間プレス成形品の製造方法について説明する。
本実施形態に係る熱間プレス成形品の製造方法は、
溶融亜鉛めっき(以下単に「GIめっき」とも称す)層及び亜鉛ニッケルめっき(以下単に「Zn−Niめっき」とも称す)層からなる群より選択される少なくとも一種のめっき層を有するめっき鋼板を、ダイ金型のダイ穴を塞いで前記ダイ金型上に配置すること、および
前記めっき鋼板に前記ダイ金型を用いて熱間プレス成形すること、
を有する熱間プレス成形品の製造方法である。
なお、本実施形態では、めっき鋼板がめっき層としてGIめっき層のみを有する態様であっても、Zn−Niめっき層のみを有する態様であってもよく、またGIめっき層及びZn−Niめっき層の両方を有する態様であってもよい。
そして、前記ダイ金型は、ダイ穴の外側の表面であって且つ熱間プレス成形される前の前記特定めっき鋼板と接触する鋼板接触面のうち、ダイ肩部に隣接する全領域に、ダイ穴の外側から内側に向かう方向に測定したスキューネス(Rsk)が−5.0以上1.2以下、かつ硬さHv_DieがHV1000以上1550以下である硬質層を有する。
めっき鋼板をダイ金型のダイ穴を塞いでダイ金型上に配置するとき、めっき鋼板はダイ穴の全部を塞いでもよいし、一部を塞いでもよい。例えば、図5のカップ状のハット材を成形する場合、めっき鋼板はダイ穴の全部を塞いで配置する。また、図2の溝型のハット材を成形する場合、めっき鋼板はダイ穴の一部を塞いで配置する。すなわち、めっき鋼板の端部はダイ穴を横断して配置される。
本実施形態に係る熱間プレス成形品の製造方法は、上記構成により、熱間プレス成形の際に高面圧部で生じるダイ金型の摺動面での摩耗の発生を抑制する。そして、本実施形態に係る熱間プレス成形品の製造方法は、以下に示す知見により見出された。
従来の熱間プレス成形用の特定めっき鋼板(鋼板の両面にGIめっき層及びZn−Niめっき層の少なくとも一方のめっき層が設けられためっき鋼板)を熱間プレス成形すると、GIめっき層又はZn−Niめっき層の亜鉛とダイ金型の素材(鉄)とが反応する焼き付きが生じる。この焼き付きにより生成する金属間化合物(亜鉛凝着物)がダイ金型の表面に多量に凝着することがあった。
ダイ金型への凝着物の凝着を抑制する目的で、特許文献1及び2では、鋼板の両面に設けためっき層の表面に各々ZnO皮膜を形成しためっき鋼板(以下「ZnO皮膜付きめっき鋼板」)が提案されている。
ZnO皮膜付きめっき鋼板は、めっき層の表面がZnO皮膜で覆われているため、熱間プレス成形したときでも、焼き付きによる凝着物のダイ金型の表面への凝着が抑えられる。その結果、ダイ金型の表面との摩擦係数が低減される。
しかし、ZnO皮膜があっても金型は摩耗する。ダイ穴の外側の表面であって熱間プレス成形の際に、めっき鋼板と摺動する表面のダイ肩部に隣接する領域には、高面圧がかかる。そのため、ZnO皮膜の有無にかかわらず特定めっき鋼板を使用した時、ダイ金型の摺動面に摩耗が発生する場合がある。
これに対し、本実施形態では、ダイ金型のダイ穴の外側の表面であって、且つ熱間プレス成形される前の特定めっき鋼板と接触する鋼板接触面のうち、ダイ肩部に隣接する全領域に硬質層を有する。そして、この硬質層の、ダイ穴の外側から内側に向かう方向に測定したスキューネス(Rsk)が−5.0以上1.2以下である。
ここで、スキューネスRskとは、JIS B 0601(2001年)に定義され、平均線に対しての山部と谷部の対称性を表す指標である。このRskが正(0<Rsk)のときは、山部及び谷部が平均線よりも下側へ偏在している状態を示す。一方、このRskが負(Rsk<0)のときは、山部及び谷部が平均線よりも上側へ偏在している状態を示す。つまり、Rskが負(Rsk<0)の場合、表面に突出する山部が少ない状態となっている。スキューネス(Rsk)が上記範囲であるということは、ダイ穴の外側から内側に向かう方向において、硬質層の表面が突出する山部が少ない状態である。つまり熱間プレス成形の際にダイ金型に対して特定めっき鋼板が摺動する方向において、硬質層の表面が突出する山部が少ない状態となっている。これにより、めっき鋼板と摺動する表面のダイ肩部に隣接する領域つまり高面圧がかかる箇所においても、摩耗が抑制される。
また、上記硬質層は、硬さHv_DieがHV1000以上1550以下である。最表面層である硬質層の硬さが上記範囲であることで、硬質である特定めっき鋼板との摺動によっても硬質層自体の摩耗が抑制され、ダイ金型の摩耗が抑制される。
以下、本実施形態に係る熱間プレス成形品の製造方法について詳述する。
本実施形態に係る熱間プレス成形品の製造方法は、めっき鋼板を加熱した後、ダイ金型によりプレスして、熱間プレス成形する熱間プレス成形品の製造方法である。そして、熱間プレス成形では、高温に加熱しためっき鋼板を、金型によりプレス成形する。その後、冷却することで、目的の形状のプレス成形品が得られる。
なお、熱間プレス成形は、めっき鋼板を、ダイ金型のダイ穴を塞いでダイ金型上に配置した後、実施する。
−熱間プレス成形−
プレス成形では、鋼板がダイ金型のダイ穴に引き込まれて成形される。ダイ穴の縁(ダイ肩部)がダイ穴の外側に向かって張り出して湾曲している場合、鋼板はダイ穴に引き込まれる際、縮みフランジ変形する。
絞り成形の場合、縮みフランジ変形では鋼板がダイ穴の縁(ダイ肩部)に近づくに従い厚みが増加する。鋼板の厚みが増加すると、鋼板に高い面圧が付与される。
曲げ成形の場合、縮みフランジ変形では鋼板がダイ穴の縁(ダイ肩部)に近づくに従い鋼板にしわが発生する。鋼板にしわが発生すると、ダイ穴の近傍でしわになった鋼板がダイ金型に接触し、接触した箇所が高面圧になる。
これらは熱間プレス成形でも同じである。本実施形態のダイ金型は高い面圧が生じる箇所に硬質層を備える。
図1にダイ金型、ホルダー(鋼板おさえ金型)、及びパンチによって熱間プレス成形されるめっき鋼板を示す。また、図2A及び図2Bに図1のダイ金型によって成形される熱間プレス成形品を示す。なお、図1は図2Aに示される熱間プレス成形品30をダイ金型によって成形する際の、y方向の断面に相当する断面図である。また、図2A及び図2Bでは、熱間プレス成形品30の長手方向をx方向とし、x方向に直交する方向のうち縦壁部33側から観察する方向をy方向とし、x方向及びy方向に直交する方向であって天板部31側から観察する方向をz方向とする。
図2A及び図2Bに示す熱間プレス成形品30は、2つの縦壁部33と、2つの縦壁部33を第1稜線部32を介して結ぶ天板部31と、2つの縦壁部33に対しそれぞれ第2稜線部34を介して天板部31とは反対側で接続するフランジ部35と、を有する。また、プレス成形品30の長手方向に直交かつ天板部31に平行な方向からプレス成形品30を投影した場合(例えば、図2Bに示すようにy方向から観察した場合)、フランジ部35のうち曲率半径が最小となる箇所PB0minを有する形状である。即ち、フランジ部35が長手方向(x方向)において湾曲する箇所を有しており、フランジ部35全体として曲率半径が一定でない形状である。また、フランジ部35と同様に天板部31も長手方向(x方向)において湾曲する箇所を有している。
また、本実施形態に係るダイ金型によって成形される熱間プレス成形品は、図2A及び図2Bに示す形状のものに限定されるものではない。例えば、図3A及び図3Bに示すように、天板部及びフランジ部が平坦な形状の成形品であってもよい。なお、図3Bは図3AにおけるA−A’断面図である。
図3A及び図3Bでは、熱間プレス成形品40の長手方向をx方向とし、x方向に直交する方向のうち縦壁部43側から観察する方向をy方向とし、x方向及びy方向に直交する方向であって天板部41側から観察する方向をz方向とする。
図3A及び図3Bに示す熱間プレス成形品40は、2つの縦壁部43と、2つの縦壁部43を第1稜線部42を介して結ぶ天板部41と、2つの縦壁部43に対しそれぞれ第2稜線部44を介して天板部41とは反対側で接続するフランジ部45と、を有する。なお、この熱間プレス成形品40では、長手方向(x方向)に直交する方向の断面(横断面、例えば図3Bに示す断面など)を観察した場合に、どこで切断した横断面を観察しても第2稜線部44の曲率半径が同じ値となる形状である。また、どこで切断した横断面を観察しても左右対称の形状となっている。
さらに、本実施形態に係るダイ金型によって成形される熱間プレス成形品は、図3A及び図3Bに示すように横断面における形状が左右対称のものに限定されず、例えば、図4A及び図4Bに示すセンターピラーのように、横断面視において左右が異なる形状の成形品であってもよい。なお、図4Bは図4AにおけるB−B’断面図である。
図4A及び図4Bでは、熱間プレス成形品50の長手方向をx方向とし、x方向に直交する方向のうち縦壁部53a側から観察する方向をy方向とし、x方向及びy方向に直交する方向であって天板部51側から観察する方向をz方向とする。
図4A及び図4Bに示す熱間プレス成形品50は、2つの縦壁部53a、53bと、2つの縦壁部53a、53bをそれぞれ第1稜線部52a、52bを介して結ぶ天板部51と、2つの縦壁部53a、53bに対しそれぞれ第2稜線部54a、54bを介して天板部51とは反対側で接続するフランジ部55a、55bと、を有する。なお、この熱間プレス成形品50では、長手方向(x方向)に直交する方向の断面(横断面)を観察した場合に左右の形状が対称ではない箇所が存在する。例えば、図4Bに示す横断面では、平坦な天板部51の両側に存在する2つの第1稜線部52a、52bのz方向高さが異なり、右側の第1稜線部52aの方が左側の第1稜線部52bよりもz方向に盛り上がって高くなった形状である。また、図4Bに示す横断面では、2つのフランジ部55a、55bのz方向高さも異なり、右側のフランジ部55aの方が左側のフランジ部55bよりも高い形状である。そして、この熱間プレス成形品50では、横断面を観察した場合に切断する箇所によって第2稜線部54a、54bの曲率半径が異なる形状であり、図4Bに示す横断面での第2稜線部54aの曲率半径が最小となる形状である。
これらの熱間プレス成形品(例えば熱間プレス成形品30)の成形では、図1に示すように、熱間プレス成形の際、パンチ13をめっき鋼板10に押付けてダイ穴11Dに挿通させると、めっき鋼板10はダイ穴11D内に流入する。このとき、めっき鋼板10がダイ穴11Dに近づくに従い、縮みフランジ変形して熱間プレス成形品20の板厚が厚くなる。図1において、ダイ金型(ダイス)11は、ダイ穴11Dの外側の表面であって且つ熱間プレス成形される前のめっき鋼板10と接触する鋼板接触面11Aのうち、ダイ肩部11Bに隣接する全領域に、硬質層11Cを有する。
この硬質層11Cが前記スキューネス(Rsk)及び硬さHv_Dieを満たすことで、特定めっき鋼板を熱間プレス成形する際に、高面圧部で生じるダイ金型11の摺動面での摩耗の発生が抑制される。
また、ホルダー(鋼板おさえ金型)12は、ダイ金型11の鋼板接触面11Aに対向する対向面のうち、ダイ金型11が硬質層11Cを有する箇所と対向する全領域に、第二硬質層12Cを有することが望ましい。
この第二硬質層12Cが前記スキューネス(Rsk)及び硬さHv_Dieを満たすことで、特定めっき鋼板を熱間プレス成形する際に、高面圧部で生じるホルダー12の摺動面での摩耗の発生が抑制される。
なお、ダイ金型11の摩耗抑制の観点では、硬質層11Cはダイ肩部11Bに沿って全域にわたり形成されていることが好ましい。一方、コスト等の観点から形成する領域を低減する場合、特に高い面圧が生じる箇所を選択して硬質層11Cを形成してもよい。
また、ホルダー12の摩耗抑制の観点では、第二硬質層12Cはダイ金型11のダイ肩部11Bに対向する箇所に沿って全域にわたり形成されていることが好ましい。一方、コスト等の観点から形成する領域を低減する場合、特に高い面圧が生じる箇所を選択して第二硬質層12Cを形成してもよい。
なお、本実施形態では、成形する熱間プレス成形品の形状は図2A及び図2B、図3A及び図3B、図4A及び図4B等に示される形状に限定されるものではない。例えば、図5に示すハット状の形状であるプレス成形品など、他の多様な形状のプレス成形品を製造することができる。
そして、そのプレス成形に用いるダイ金型として、ダイ穴の外側の表面であって且つ熱間プレス成形される前の特定めっき鋼板と接触する鋼板接触面のうち、ダイ肩部に隣接する全領域に、ダイ穴の外側から内側に向かう方向に測定したスキューネス(Rsk)及び硬さHv_Dieが前記範囲を満たす硬質層を有するダイ金型を適用することで、高面圧部で生じるダイ金型の摺動面での摩耗の発生が抑制される。
なお、本実施形態に係る熱間プレス成形品の製造方法において、熱間プレス成形では、例えば、必要に応じてブランキング(打ち抜き加工)した後、高温に加熱してめっき鋼板を軟化させる。そして、金型を用いて、軟化しためっき鋼板をプレスして成形し、その後、冷却する。このように、熱間プレス成形では、めっき鋼板を一旦軟化させることにより、後続するプレスを容易に行うことができる。また、熱間プレス成形されたプレス成形品は、加熱及び冷却により焼入れされ、約1500MPa以上の高い引張強度の成形品となる。
熱間プレス成形のための加熱方法としては、通常の電気炉、ラジアントチューブ炉に加え、赤外線加熱、通電加熱、誘導加熱等による加熱方法を採用することが可能である。加熱は酸化雰囲気で行われる。
−ダイ金型−
次いで、本実施形態に係るダイ金型について詳述する。
本実施形態に係るダイ金型は、GIめっき層及びZn−Niめっき層の少なくとも一方のめっき層を有する特定めっき鋼板の熱間プレス成形に用いられる。例えば、GIめっき層を最表層として有するGIめっき鋼板や、GIめっき層の上にさらに最表層として亜鉛化合物層または金属亜鉛層を有するGIめっき鋼板に熱間プレス成形を行うためのダイ金型、Zn−Niめっき層を最表層として有するZn−Niめっき鋼板や、Zn−Niめっき層の上にさらに最表層として亜鉛化合物層または金属亜鉛層を有するZn−Niめっき鋼板に熱間プレス成形を行うためのダイ金型等として用いることができる。
そして、ダイ穴の外側の表面且つダイ肩部に隣接するダイ肩隣接面のうち、前記ダイ肩部に隣接する全領域に、ダイ穴の外側から内側に向かう方向に測定したスキューネス(Rsk)が−5.0以上1.2以下−5.0以上、かつ硬さHv_DieがHV1000以上1550以下である硬質層を有する。
なお、このダイ金型が本実施形態に係る熱間プレス成形品の製造方法に用いられる場合、ダイ穴の外側の表面であって且つ熱間プレス成形される前の特定めっき鋼板と接触する鋼板接触面のうち、ダイ肩部に隣接する全領域に、ダイ穴の外側から内側に向かう方向に測定したスキューネス(Rsk)が−5.0以上1.2以下、かつ硬さHv_DieがHV1000以上1550以下である硬質層を有する。
・スキューネスRsk
ダイ金型が備える硬質層の、ダイ穴の外側から内側に向かう方向に測定したスキューネス(Rsk)が1.2以下であることで、熱間プレス成形の際に高面圧部で生じるダイ金型の摺動面での摩耗の発生が抑制される。また、特定めっき鋼板を熱間プレス成形すると、亜鉛凝着物が発生してダイ金型の表面に凝着することがあるが、スキューネス(Rsk)の上限値が上記範囲であることで、ダイ金型への凝着が抑制される。その結果、ダイ金型のめっき鋼板表面との摩擦係数が低減される。
硬質層のスキューネス(Rsk)は、より好ましくは1.0以下であり、さらに好ましくは0.8以下である。
また、硬質層のスキューネス(Rsk)の下限値は、スキューネス(Rsk)を低くするための表面制御による製造時のコスト増大を抑制する観点から、−5.0以上であり、より好ましくは−3.0以上である。
ここで、スキューネスRskは、JIS B 0601(2001年)に準じて測定する。具体的には、スキューネスRskは、JIS B 0601(2001年)に準じ、次の測定条件で測定する。
(測定条件)
測定装置:株式会社ミツトヨ製「表面粗さ・輪郭形状測定機 フォームトレーサ」
測定長さL:9.6mm
カットオフ波長λc:0.8mm
触針先端形状:先端角度60°円錐
触針先端半径:2μm
測定速度:1mm/sec
硬質層におけるダイ穴の外側から内側に向かう方向に測定したスキューネス(Rsk)を前記の範囲に制御する方法としては、特に限定されるものではない。例えば、形成された硬質層の表面を研磨すると共に、この研磨の際にダイ穴の外側から内側に向かう方向(つまり熱間プレス成形の際にめっき鋼板が摺動する方向)に向かって研磨を行う。例えば、研磨シートを摺動させて研磨する場合であれば、該研磨シートを摺動させる方向をダイ穴の外側から内側に向かう方向とする方法が挙げられる。
・硬さHv_Die
ダイ金型が備える硬質層の硬さHv_DieがHV1000以上であることで、熱間プレス成形の際に高面圧部で生じるダイ金型の摺動面での摩耗の発生が抑制される。
硬質層の硬さHv_Dieは、より好ましくはHV1200以上である。
また、硬質層の硬さHv_Dieの上限値は、HV1550以下である。HV1550以下であることで、特定めっき鋼板におけるGIめっき層又はZn−Niめっき層の削れや、さらに亜鉛化合物層または金属亜鉛層を有する場合にはこの亜鉛化合物層または金属亜鉛層の削れが抑制される。また、特定めっき鋼板を熱間プレス成形すると、亜鉛凝着物が発生してダイ金型の表面に凝着することがあるが、硬さHv_Dieの上限値が上記範囲であることで、ダイ金型への凝着が抑制される。その結果、ダイ金型のめっき鋼板表面との摩擦係数が低減される。
なお、硬さHv_Dieとは、JIS−Z−2244(2009年)で指定されるビッカース硬さをさし、本明細書においては、ビッカース硬さ試験方法において試験荷重0.2452Nによる硬さ値である。
マイクロビッカース試験機には、株式会社ミツトヨ製HM−115を用いる。
・硬質層の形成
本実施形態では、ダイ金型に形成される硬質層は、前述のスキューネスRsk及び硬さHv_Dieを満たすものであれば、その材質や形成方法に制限はない。
硬質層としては、例えば最表層として窒化層を有する層が挙げられる。また、硬質コーティング層を有する層(より好ましくは、窒化層と、窒化層の表面にある硬質コーティング層と、を含む積層型の硬質層)が挙げられる。
窒化層の形成は、例えば窒化処理と言った拡散を利用した表面硬化処理による方法が好ましい。窒化層の形成は、ダイ金型の母材に、例えばイオン窒化処理、つまり所定濃度のN及びHガス雰囲気中で、温度を調整してイオン窒化処理を施すことで行われる。
この時、窒化処理で形成される白層と呼ばれる窒化物層と言った化合物層は、密着性を低下させる原因となるため、処理条件の制御により形成させないようにするか、あるいは研磨等により除去することが望ましい。
硬質コーティング層としては、物理蒸着(PVD)による蒸着膜が挙げられる。物理蒸着法の種類については特に制限はない。また、化学気相成長(CVD)法を用いてもよい。物理蒸着法として、例えばアークイオンプレーティング法、及びスパッタリング法が望ましい。
中でも、硬質コーティング層としての蒸着膜としては、Ti及びCrの少なくとも一方を含む膜であることが好ましい。例えば、その金属元素部分がTi、Cr、及びAlから選んだ1種もしくは2種以上を主体とする窒化物、炭化物、炭窒化物のいずれかであることが好ましい。さらには、その金属元素部分がTi又はCrを主体とする窒化物、炭化物、炭窒化物のいずれかであることがより好ましい。
なお、その主体とすることについては、窒素及び炭素を除いた、金属(半金属を含む)組成部のみの割合で、Ti、CrもしくはAl(又はTiもしくはCr)が70(原子%)以上、更には90(原子%)以上とすることがよい(実質100(原子%)を含む)。
硬質コーティング層としての蒸着膜は、例えば、金属成分の蒸発源である各種金属製ターゲット及び反応ガス(Nガス、CHガス等)を用い、温度、ガス圧力を調整して、Bias電圧をかけることで、ダイ金型の母材の表面にPVD膜を成膜することができる。
具体的には、Ti、Cr及びAlから選ばれる1種又は2種以上を主体とする窒化膜、炭化膜、炭窒化膜、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜、等が挙げられる。
窒化層と、窒化層の表面にある硬質コーティング層と、を含む積層型の硬質層は、例えば前記の方法により窒化層を形成した後、さらに前記の方法等により硬質コーティング層(例えば蒸着膜)を形成することで得られる。
・母材
ダイ金型の母材の金属材質については、特段に定めるものではなく、例えば冷間ダイス鋼、熱間ダイス鋼、高速度鋼および超硬合金等の公知の金属材料が使用できる。これについては、JIS等による規格金属種(鋼種)を含め、従来金型への使用が可能な鋼種として提案のされてきた改良金属種も適用できる。
−金型セット−
次いで、本実施形態に係る金型セットについて詳述する。
金型セットとは、ダイ金型と、ダイ金型のダイ穴に対応する凸部を備えると共にダイ金型の鋼板接触面(ダイ肩隣接面)に対向する対向面を備えるパンチ金型の組合せである。また、金型セットとは、ダイ金型と、ダイ金型の鋼板接触面(ダイ肩隣接面)に対向する対向面を備えると共にダイ穴に挿通されるパンチが通る穴を備える鋼板おさえ金型(ホルダー)の組合せも含む。
本実施形態に係る第一の金型セットは、前述の本実施形態に係るダイ金型と、パンチ金型と、を備える。
パンチ金型は、ダイ金型のダイ肩隣接面(鋼板接触面)に対向する対向面のうち、ダイ金型が硬質層を有する箇所と対向する全領域に、パンチ部の外側から内側に向かう方向に測定したスキューネス(Rsk)が−5.0以上1.2以下、かつ硬さHv_DieがHV1000以上1550以下である第二硬質層を有する。
例えば図6に示されるダイ金型(ダイス)111は、ダイ穴111Dの外側の表面であって且つ熱間プレス成形される前のめっき鋼板10と接触する鋼板接触面111Aのうち、ダイ肩部111Bに隣接する全領域に、硬質層111Cを有する。さらに、パンチ(パンチ金型)113は、ダイ金型111の鋼板接触面111Aに対向する対向面のうち、ダイ金型111が硬質層111Cを有する箇所と対向する全領域に、第二硬質層113Cを有することが望ましい。第二硬質層113Cのある箇所に、成形下死点に近づいた際にしわになっためっき鋼板10が接触するからである。
本実施形態に係る第二の金型セットは、前述の本実施形態に係るダイ金型と、鋼板おさえ金型と、を備える。
鋼板おさえ金型は、ダイ金型のダイ肩隣接面(鋼板接触面)に対向する対向面のうち、ダイ金型が硬質層を有する箇所と対向する全領域に、パンチ挿通部の外側から内側に向かう方向に測定したスキューネス(Rsk)が−5.0以上1.2以下、かつ硬さHv_DieがHV1000以上1550以下である第二硬質層を有する。
既に説明したように、例えば図1に示されるホルダー(鋼板おさえ金型)12は、ダイ金型11の鋼板接触面11Aに対向する対向面のうち、ダイ金型11が硬質層11Cを有する箇所と対向する全領域に、第二硬質層12Cを有することが望ましい。
なお、本実施形態に係る第一の金型セットが備えるパンチ金型における第二硬質層、及び第二の金型セットが備える鋼板おさえ金型における第二硬質層の好ましい態様としては、前述の本実施形態に係るダイ金型が備える硬質層において説明した好ましい態様が、そのまま適用される。
ついで、本実施形態に係る熱間プレス成形品の製造方法に用いられる特定めっき鋼板の詳細について説明する。
(めっき鋼板)
特定めっき鋼板は、鋼母材上にGIめっき層及びZn−Niめっき層からなる群より選択される少なくとも一種のめっき層を有する。また、めっき層の上にさらに最表層として亜鉛化合物層または金属亜鉛層を有していてもよい。
例えば、図5に示されるめっき鋼板10のように、鋼板(鋼母材)112の両面(上面及び下面)にめっき層(具体的にはGIめっき(溶融亜鉛めっき)層又はZn−Niめっき(亜鉛ニッケルめっき)層)114A、114Bを備え、かつめっき層114A、114B上に最表層として亜鉛化合物層または金属亜鉛層116A、116Bを備える。
・鋼母材
めっきを施す鋼板(めっき前の鋼板、鋼母材)は、例えば、高い機械的強度(例えば、引張強さ、伏点、伸び、絞り、硬さ、衝撃値、疲れ強さ、クリープ強さなどの機械的な変形及び破壊に関する諸性質を意味する。)を有する鋼板が好ましい。本実施形態に係るめっき鋼板に使用される高い機械的強度を実現する鋼板(めっき前の鋼板)の一例は、以下の通りである。
なお、%の表記は、特に断りがない場合は質量%を意味する。また、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
鋼板は、質量%で、C:0.01〜0.6%、Si:0.01〜0.6%、Mn:0.5〜3%、Ti:0.01〜0.1%、及び、B:0.0001〜0.1%のうちの少なくとも1以上を含有し、かつ、残部Fe及び不純物からなることが好ましい。
Cは、目的とする機械的強度を確保するために含有させる。Cが0.01%未満の場合には、十分な機械的強度の向上が得られず、Cを含有する効果が乏しくなる。一方、Cが0.6%を超える場合には、鋼板を更に硬化させることができるものの、溶融割れが生じやすくなる。従って、C含有量は、0.01%以上0.6%以下とすることが好ましい。
Siは、機械的強度を向上させる強度向上元素の一つであり、Cと同様に目的とする機械的強度を確保するために含有させる。Siが0.01%未満の場合には、強度向上効果を発揮しにくく、十分な機械的強度の向上が得られない。一方、Siは、易酸化性元素でもある。よって、Siが0.6%を超える場合には、GIめっき又はZn−Niめっきを行う際に、濡れ性が低下し、不めっきが生じる恐れがある。従って、Si含有量は、0.01%以上0.6%以下とすることが好ましい。
Mnは、鋼を強化させる強化元素の1つであり、焼入れ性を高める元素の1つでもある。更にMnは、不純物の1つであるSによる熱間脆性を防止するのにも有効である。Mnが0.5%未満の場合には、これらの効果が得られず、0.5%以上で上記効果が発揮される。一方、Mnが3%を超える場合には、残留γ相が多くなり過ぎて強度が低下する恐れがある。従って、Mn含有量は、0.5%以上3%以下とすることが好ましい。
Tiは、強度強化元素の1つであり、GIめっき層又はZn−Niめっき層の耐熱性を向上させる元素でもある。Tiが0.01%未満の場合には、強度向上効果や耐酸化性向上効果が得られず、0.01%以上でこれらの効果が発揮される。一方、Tiは、あまり含有し過ぎると、例えば、炭化物や窒化物を形成して、鋼を軟質化させる恐れがある。特に、Tiが0.1%を超える場合には、目的とする機械的強度を得られない可能性が高い。従って、Ti含有量は、0.01%以上0.1%以下とすることが好ましい。
Bは、焼入れ時に作用して強度を向上させる効果を有する。Bが0.0001%未満の場合には、このような強度向上効果が低い。一方、Bが0.1%を超える場合には、介在物を形成して脆化し、疲労強度を低下させる恐れがある。従って、B含有量は、0.0001%以上0.1%以下とすることが好ましい。
なお、この鋼板は、その他製造工程などで混入してしまう不純物を含んでもよい。
このような化学成分で形成される鋼板は、熱間プレス成形などによる加熱により焼入れされて、約1500MPa以上の機械的強度を有することができる。このように高い機械的強度を有する鋼板ではあるが、熱間プレス成形により加工すれば、加熱により軟化した状態で熱間プレス成形を行うことができるので、容易に成形することができる。また、鋼板は、高い機械的強度を実現でき、ひいては軽量化のために薄くしたとしても機械的強度を維持又は向上することができる。
・GIめっき層
GIめっき(溶融亜鉛めっき)層について説明する。
GIめっき層の形成方法としては、例えば還元炉方式のめっき処理による形成方法が挙げられる。一般に、還元炉方式のめっき処理では、前処理工程、焼鈍工程、及びめっき工程が行われる。勿論、本実施形態での方法は、上記態様に限定されるものではなく、例えばめっき処理を無酸化炉方式にて行なうこともできる。以下では、還元炉方式に基づき、説明する。
まず、鋼板(鋼母材)に前処理を行う。前処理は、鋼板表面のオイル(油脂)や汚れを除去するために通常行なわれるものであり、代表的には、アルカリ脱脂によって行われる。ただし、本実施形態では鋼板表面が適切に脱脂されれば前処理の方法は限定されない。前処理としてアルカリ脱脂を行なったときは、例えば鋼板に付着した脱脂液を落とすため、ホットリンス(温水洗浄)され、ドライヤーなどで乾燥する。
次に、前処理された上記鋼板を還元炉に投入し、還元炉で焼鈍(還元性雰囲気下での熱処理)する。このときの焼鈍条件は、例えば500〜700℃の範囲(焼鈍温度、均熱温度)で、滞在時間(焼鈍時間、均熱時間)を30〜270秒とする。上記温度域での焼鈍処理を均熱処理とも呼ぶ。還元時の雰囲気や露点は、特に限定されないが、例えばH−N混合ガスでH濃度が1〜30%、−10〜−60℃の露点範囲とすることができる。還元炉を出た鋼板は、冷却帯で冷却される。冷却方法は、例えば還元性雰囲気の気体を鋼板に吹き付けて冷却するなどの通常用いられる方法が挙げられる。
こうして焼鈍工程を行なった後、溶融亜鉛めっき処理を行なうことによりGIめっき(溶融亜鉛めっき)層が形成される。
めっき(溶融亜鉛めっき)工程は、特に限定されず、通常用いられる方法を採用することができる。例えば、溶融亜鉛めっき浴の温度は、430〜500℃程度に制御すればよい。
こうしてGIめっき層が形成された後、スキンパス処理、テンションレベラ処理、塗油等の処理を施してもよい。
また、前記溶融亜鉛めっき処理後に再焼鈍を行なってもよい。再焼鈍の条件は、加熱温度(再焼鈍温度)400℃以上とするのがよく、一方亜鉛の蒸発を抑制する観点から再焼鈍温度は750℃以下とすることがよい。上記再焼鈍温度で保持する時間(再焼鈍時間)は、加熱方法等によって適宜設定することができる。例えば炉加熱の場合、再焼鈍時間は1時間以上(より好ましくは2時間以上)であることが好ましく、誘導加熱の場合、再焼鈍時間は10秒以上であることが好ましい。一方、亜鉛の蒸発を抑制する観点から、再焼鈍時間は、前記炉加熱の場合、15時間以下であることが好ましく、より好ましくは10時間以下である。また前記誘導加熱の場合、再焼鈍時間は、3分以下であることが好ましく、より好ましくは1分以下である。
GIめっき層の成分組成は、亜鉛からなるめっき層であってもよく、また亜鉛の他に少量の異種金属元素又は不純物(例えば、コバルト、モリブデン、タングステン、ニッケル、チタン、クロム、アルミニウム、マンガン、鉄、マグネシウム、鉛、ビスマス、アンチモン、錫、銅、カドミウム、ヒ素等)を含むめっき層であってもよい。また、さらにシリカ、アルミナ、チタニア等の無機物を含んでもよい。
GIめっき層の好ましい成分組成としては、例えば、質量%で、Al:0.01〜0.20%を含有し、かつ残部:Zn及び不純物からなるめっき層が挙げられる。
GIめっき層の付着量(目付量)は、Zn量換算で20〜100g/mであることが好ましい。GIめっき層の付着量を20g/m以上にすることで、ダイ金型の摺動面へ適度な量の亜鉛凝着物を凝着させ、ダイ金型の摺動面の磨耗抑制効果が高まる。また、プレス成形品の耐食性も高まる。一方で、GIめっき層の付着量を100g/m超えにすると、金型の摺動面へ多量の亜鉛凝着物が凝着し、ダイ金型の摺動面の磨耗が発生する傾向が高まる。
GIめっき層の付着量は、Zn量換算の付着量で評価する。GIめっき層の付着量の測定は、蛍光X線法を利用する。具体的には、蛍光X線法により、GIめっき層の付着量(Zn量換算)が既知である数種類の標準試料を用いて、検量線を作成する。そして、検量線により、測定対象である試料のZn強度をGIめっき層の付着量に換算して、GIめっき層の付着量を求める。
・Zn−Niめっき層
Zn−Niめっき(亜鉛ニッケルめっき)層について説明する。
Zn−Niめっき層の成分組成は、亜鉛及びニッケルからなるめっき層であってもよく、またこの他に少量の異種金属元素又は不純物(例えば、コバルト、モリブデン、タングステン、チタン、クロム、アルミニウム、マンガン、鉄、マグネシウム、鉛、ビスマス、アンチモン、錫、銅、カドミウム、ヒ素等)を含むめっき層であってもよい。また、さらにシリカ、アルミナ、チタニア等の無機物を含んでもよい。
Zn−Niめっき層の好ましい成分組成としては、例えば、質量%で、Ni:10〜25%を含有し、かつ残部:Zn及び不純物からなるめっき層が挙げられる。
Zn−Niめっき層の付着量(目付量)は、Zn量換算で20〜100g/mであることが好ましい。Zn−Niめっき層の付着量を20g/m以上にすることで、ダイ金型の摺動面へ適度な量の亜鉛凝着物を凝着させ、ダイ金型の摺動面の磨耗抑制効果が高まる。また、プレス成形品の耐食性も高まる。一方で、Zn−Niめっき層の付着量を100g/m超えにすると、金型の摺動面へ多量の亜鉛凝着物が凝着し、ダイ金型の摺動面の磨耗が発生する傾向が高まる。
また、Zn−Niめっき層は、2層以上を積層した積層型のめっき層であってもよい。
Zn−Niめっき層を2層積層する場合、それぞれの層の好ましい成分組成としては、例えば、1層目(下層)が、質量%で、Ni:60%以上を含有し、かつ残部:Zn及び不純物からなるめっき層であり、且つ2層目(上層)が、質量%で、Ni:10〜25%を含有し、かつ残部:Zn及び不純物からなるめっき層である構成が挙げられる。
なお、Zn−Niめっき層を2層積層する場合、1層目(下層)の付着量(目付量)が、Zn量換算で0.01〜5g/mであることが好ましく、且つ2層目(下層)の付着量(目付量)が、Zn量換算で10〜90g/mであることが好ましい。
Zn−Niめっき層の付着量は、Zn量換算の付着量で評価する。Zn−Niめっき層の付着量の測定は、蛍光X線法を利用する。具体的には、蛍光X線法により、Zn−Niめっき層の付着量(Zn量換算)が既知である数種類の標準試料を用いて、検量線を作成する。そして、検量線により、測定対象である試料のZn強度をZn−Niめっき層の付着量に換算して、Zn−Niめっき層の付着量を求める。
Zn−Niめっき層の形成方法は特に限定されるものではないが、公知の電気めっき法が好適である。Zn−Niめっき層を2層以上積層する場合も同様である。
例えば、硫酸ニッケル六水和物等のニッケル化合物、及び硫酸亜鉛七水和物等の亜鉛化合物を含有するめっき浴中で電気めっき処理を施すことで、鋼板(鋼母材)上にZn−Niめっき層を形成することができる。
また、Zn−Niめっき層を2層以上積層する場合も、それぞれのめっき層を同様にして形成することができる。なお、各層でのNi含有量、付着量(目付量)等の調整は公知の方法により制御でき、例えば硫酸ニッケル六水和物等のニッケル化合物と硫酸亜鉛七水和物等の亜鉛化合物との比率、めっき浴中での電流密度等の調整により制御できる。
・亜鉛化合物層または金属亜鉛層
亜鉛化合物層(Zn化合物層)または金属亜鉛層(金属Zn層)は、ZnO皮膜、又は、熱間プレス成形時にZnO皮膜になる層である。熱間プレス成形の前にめっき鋼板は酸化雰囲気で加熱される。このときZnO皮膜以外のZn化合物層または金属Zn層は酸化されてZnO皮膜になる。ZnO皮膜以外のZn化合物層または金属Zn層は、酸化してZnO皮膜になるのであれば特に種類は問わない。ZnO皮膜以外のZn化合物層には、リン酸亜鉛層、Zn系金属石鹸層等が例示できる。また、Zn化合物と金属Znは加熱により燃えて無くなる樹脂と混合し、ZnO皮膜以外のZn化合物層または金属Zn層としてもよい。Zn化合物層または金属Zn層に含まれるZnの量は、目標とする製品のZnO皮膜の付着量に応じて調節する。
・ZnO皮膜
ZnO皮膜は、ダイ金型と接触する面であって、プレス成形品の外側の面となる皮膜である。
ZnO皮膜の形成方法は、特に制限はなく、例えば、特許文献1及び2に記載された方法によりめっき層上に形成可能である。
ZnO皮膜の付着量は、製品の耐食性の観点ではZn量換算で0.4〜4.0g/mとすることが好ましい。ZnO皮膜の付着量がZn量換算で0.4g/m以上にすると、プレス成形品の耐食性が高まる。ZnO皮膜の付着量がZn量換算で4.0g/mを超える場合には、めっき層(GIめっき層又はZn−Niめっき層)及びZnO皮膜の厚みが厚くなり過ぎ、溶接性、塗料密着性が低下することがある。ZnO皮膜の付着量は、Zn量換算で0.4〜2.0g/mがより好ましい。金型摩耗の観点ではめっき層(GIめっき層又はZn−Niめっき層)の付着量が低い場合、ZnO皮膜の付着量は上記範囲の中でも高いことが望ましい。
なお、ZnO皮膜の付着量の測定方法としては、蛍光X線法を利用する。具体的には、蛍光X線法により、ZnO皮膜の付着量(Zn量換算)が既知である数種類の標準試料を用いて検量線を作成し、測定対象である試料のZn強度をZnO皮膜の付着量に換算して、ZnO皮膜の付着量を求める。
(プレス成形品)
次いで、本実施形態に係るプレス成形品について詳述する。
本実施形態に係るプレス成形品は、鋼板製のプレス成形品である。プレス成形品の鋼板は、鋼母材と、鋼母材上に溶融亜鉛めっき(GIめっき)層及び亜鉛ニッケルめっき(Zn−Niめっき)層からなる群より選択される少なくとも一種のめっき層と、めっき層上に最表層として酸化亜鉛(ZnO)層と、を有する。
最表層としての酸化亜鉛(ZnO)層は、特定めっき鋼板に熱間プレス成形を施す際の加熱によって形成される。
鋼母材(鋼板)は、高い機械的強度を得るとの観点から、その硬さHv_PartsがHV400以上であり、HV450以上であることが好ましく、HV550以上であることがより好ましい。
また、本実施形態に係るプレス成形品は、天板部と、天板部に第1稜線部を介して接続する縦壁部と、縦壁部に第2稜線部を介して接続するフランジ部と、を有する形状である。例えば、図3A及び図3Bに示す形状を有する天板部が平坦なハット形状断面を有する熱間プレス成形品40や、図2A及び図2Bに示す形状を有する熱間プレス成形品30である。
−第1の態様に係るプレス成形品−
まず、第1の態様に係るプレス成形品として、プレス成形品の長手方向に直交かつ天板部に平行な方向からプレス成形品を投影したフランジ部の曲率半径が最小となる箇所PB0minを有する形状のプレス成形品について説明する。なお、第1の態様に係るプレス成形品の一例として、図2A及び図2Bに示す成形品を例に挙げる。
図2A及び図2Bに示す熱間プレス成形品30は、2つの縦壁部33と、2つの縦壁部33を第1稜線部32を介して結ぶ天板部31と、2つの縦壁部33に対しそれぞれ第2稜線部34を介して天板部31とは反対側で接続するフランジ部35と、を有する。なお、天板部31は熱間プレス成形の際にパンチの頂面に相当する部分であり、縦壁部33はパンチ及びダイ金型と摺動する部分であり、フランジ部35は熱間プレス成形による成形が行われない部分である。また、第1稜線部32は天板部31と縦壁部33とを結ぶ湾曲部であり、第2稜線部34は縦壁部33とフランジ部35とを結ぶ湾曲部である。
また、プレス成形品30の長手方向に直交かつ天板部31に平行な方向からプレス成形品30を投影した場合(例えば、図2Bに示すようにy方向から観察した場合)、天板部31、縦壁部33、及びフランジ部35がいずれも一部で湾曲しており、天板部31の外側方向に向かって一部が膨らんだ形状である。そのため、この膨らんだ箇所のフランジ部35では、曲率半径が最小となる箇所PB0minが存在しプレス成形品30の長手方向に直交かつ天板部31に平行な方向からプレス成形品30を投影した場合にフランジ部35全体として曲率半径が一定でなく、また天板部31も全体として曲率半径が一定でない形状である。
・第2稜線部での曲率半径(第1の態様)
そして、第1の態様にかかるプレス成形品では、第2稜線部34において曲率半径が最も小さくなる箇所(つまり曲げが最も厳しい箇所)での該曲率半径[Rmin]が3mm以上10mm未満である。ここで、第2稜線部34での最小曲率半径[Rmin]が10未満であることは、特定めっき鋼板に熱間プレス成形を行ってプレス成形品30を製造する際に、縦壁部33となる箇所に高面圧が掛かっていることを示す。そのため、高面圧が掛かる縦壁部33において、摺動による擦り傷が発生し易い条件で熱間プレス成形が施されたプレス成形品であると言える。なお、第2稜線部34での最小曲率半径[Rmin]の上限値が8mm以下であると、さらに縦壁部33に摺動による擦り傷が発生し易いと言える。
一方で、第2稜線部34での最小曲率半径[Rmin]の下限値は、プレス成形時の割れ防止との観点から、3mm以上であり、好ましくは4mm以上である。
ここで、曲率半径は次の通り測定する。まず、第2稜線部34の外側の面つまり熱間プレス成形の際にダイ金型と接触した方の面における三次元形状を、三次元形状測定器により測定する。そして、横断面における曲率半径が最も小さくなる箇所での曲率半径[Rmin]を得る。
・天板部と縦壁部との平滑度の差(第1の態様)
また、第1の態様にかかるプレス成形品は、天板部31と縦壁部33とにおいて平滑度に差が生じる。具体的には、天板部31に関しては、プレス成形品30の長手方向に直交かつ天板部31に平行な方向からプレス成形品30を投影した場合(例えば、図2Bに示すようにy方向から観察した場合)に、フランジ部35での曲率半径が最小となる箇所PB0minに対応する位置(つまり図2Bに示すようにy方向から観察した場合に、フランジ部35上の箇所PB0minに対してz方向にずらすだけで、x方向にはずらさずに到達し得る天板部31上の位置)であって、且つ天板部31における幅方向(つまりy方向)での中心箇所PB1minにおいて、平滑度[SaB1]を測定する。
また、縦壁部33に関しては、プレス成形品30の長手方向に直交かつ天板部31に平行な方向からプレス成形品30を投影した場合に箇所PB0minに対応する箇所(例えば、図2Bに示すようにy方向から観察した場合に、フランジ部35上の箇所PB0minに対してz方向にずらすだけで、x方向にはずらさずに到達し得る縦壁部33上の位置)であって、且つ縦壁部33における高さ方向(つまりz方向)での中心箇所PB2minにおいて、平滑度[SaB2]を測定する。なお、箇所PB1min及び箇所PB2minのいずれにおいても外側の面、つまり熱間プレス成形の際にダイ金型と接触した方の面において測定する。
そして、この差[SaB1−SaB2]が0.35μm以上である。
つまり、プレス成形品30の長手方向に直交かつ天板部31に平行な方向からプレス成形品31を投影したフランジ部の曲率半径が最小となる箇所PB0minを含むプレス成形品30の横断面において、天板部31における幅方向での中心箇所PB1minでの平滑度[SaB1]と、縦壁部33における高さ方向での中心箇所PB2minでの平滑度[SaB2]と、の差[SaB1−SaB2]が0.35μm以上である。
ここで、天板部31と縦壁部33との平滑度の差[SaB1−SaB2]が上記範囲であることは、特定めっき鋼板に熱間プレス成形を行ってプレス成形品30を製造する際に、縦壁部33となる箇所に対し、天板部31となる箇所よりも高面圧が掛かっていることを示す。縦壁部33に高面圧が掛かって摺動することで、天板部31よりも縦壁部33の表面の方が平滑になるためである。そして、高面圧が掛かる縦壁部33において、摺動による擦り傷が発生し易い条件で熱間プレス成形が施されたプレス成形品であると言える。なお、平滑度の差[SaB1−SaB2]が0.40μm以上であると、さらに縦壁部33に摺動による擦り傷が発生し易いと言える。
一方で、平滑度の差[SaB1−SaB2]の上限値としては、塗装後の鮮鋭性との観点から、1.0μm以下が好ましい。
なお、平滑度[SaB1]及び[SaB2]は、ISO25178−2(2012)に規定される算術平均高さSa(単位:μm)を指す。測定装置及び測定条件等は以下の通りである。
測定装置:(株)キーエンス製 VK−X250/150形状解析レーザ顕微鏡
測定範囲:PB1min、PB2minの中心点を中心として、5mm×5mm
測定条件:ガウシアンフィルターを使用
Sフィルター:使用無し
Lフィルター:4mm
・天板部と縦壁部との表面性状のアスペクト比の差(第1の態様)
また、第1の態様に係るプレス成形品は、天板部31と縦壁部33とにおいて表面性状のアスペクト比の差が小さい。具体的には、天板部31及び縦壁部33のいずれに関しても、前記平滑度と同じく箇所PB1min及び箇所PB2minにおいて表面性状のアスペクト比[StrB1]及び表面性状のアスペクト比[StrB2]を測定する。なお、平滑度と同じく、いずれも外側の面つまり熱間プレス成形の際にダイ金型と接触した方の面において測定する。
そして、この差[StrB1−StrB2]が0.50以下である。
ここで、天板部31と縦壁部33との表面性状のアスペクト比の差[StrB1−StrB2]が小さいほど、熱間プレス成形の際に縦壁部33となる箇所に対し天板部31となる箇所よりも高面圧が掛かっているにもかかわらず、縦壁部33において摺動による擦り傷の発生が抑制されたプレス成形品であることを示す。摺動による擦り傷が顕著に発生した場合、その擦り傷は筋状であるため、その部分の表面性状のアスペクト比Strが低下する。さらに擦り傷が発生した部分は塗装前においては光沢部となる。さらに、塗装後においては光沢度に差が出るため、模様のように視認され、表面品位が劣る。しかし、表面性状のアスペクト比の差[StrB1−StrB2]を小さくすることによって、塗装後の光沢度の差が25以下である第1の態様に係るプレス成形品が実現でき、優れた表面品位を備える。
また、硬さHv_PartsがHV400以上と高硬度である鋼母材を用いたプレス成形品では、特にプレス成形の際に応力が集中して掛かった箇所において、水素脆化等の理由により遅れ破壊が発生し易い。しかし、これに対し第1の態様に係るプレス成形品は、上記の通り縦壁部33における擦り傷の発生が抑制されていることから、縦壁部33への応力の集中も抑制されていると言える。そのため、応力集中箇所で生じ易い遅れ破壊も抑制される。
なお、表面性状のアスペクト比の差[StrB1−StrB2]は、優れた表面品位及び遅れ破壊の抑制の観点から、0.50以下であることが好ましく、0.40以下であることがより好ましい。
なお、表面性状のアスペクト比[StrB1]及び[StrB2]は、ISO25178−2(2012)に規定される表面性状のアスペクト比Strを指す。測定装置及び測定条件等は以下の通りである。
測定装置:(株)キーエンス製 VK−X250/150形状解析レーザ顕微鏡
測定範囲:PB1min、PB2minの中心点を中心として、5mm×5mm
測定条件:ガウシアンフィルターを使用
Sフィルター:使用無し
Lフィルター:4mm
なお、天板部31と縦壁部33との表面性状のアスペクト比の差[StrB1−StrB2]を上記の範囲に制御する方法としては、特に限定されるものではないが、例えば前述の本実施形態に係る熱間プレス成形品の製造方法によってプレス成形品を成形する方法が挙げられる。
本実施形態に係る熱間プレス成形品の製造方法によってプレス成形品を成形することで、ダイ金型への凝着が抑制される。凝着物が多量に付着すると摩擦係数が上昇して、摺動による擦り傷が発生し易くなるが、上記の通り凝着物が低減されることで摩擦係数の上昇も抑制され、縦壁部33での摺動による擦り傷の発生が抑制される。その結果、表面性状のアスペクト比の差[Str1−Str2]を上記の範囲に制御し得るものと考えられる。
−第2の態様に係るプレス成形品−
次いで、第2の態様に係るプレス成形品について説明する。なお、第2の態様に係るプレス成形品の一例として、図3A及び図3B、並びに図4A及び図4Bに示す成形品を例に挙げる。
図3A及び図3Bに示す熱間プレス成形品40は、2つの縦壁部43と、2つの縦壁部43を第1稜線部42を介して結ぶ平坦な天板部41と、2つの縦壁部43に対しそれぞれ第2稜線部44を介して天板部41とは反対側で接続するフランジ部45と、を有する。なお、天板部41は熱間プレス成形の際にパンチの頂面に相当する部分であり、縦壁部43はパンチ及びダイ金型と摺動する部分であり、フランジ部45は熱間プレス成形による成形が行われない部分である。また、第1稜線部42は天板部41と縦壁部43とを結ぶ湾曲部であり、第2稜線部44は縦壁部43とフランジ部45とを結ぶ湾曲部である。
また、熱間プレス成形品40を側面側から観察した場合、つまり図3Aに示すようにy方向から観察した場合、天板部41、縦壁部43、及びフランジ部45がいずれも平坦な形状である。そして、この熱間プレス成形品40では、長手方向(x方向)に直交する方向の断面(横断面、例えば図3Bに示す断面など)を観察した場合に、どこで切断した横断面を観察しても左右対称の形状となっている。また、熱間プレス成形品40は、どこで切断した横断面を観察しても第2稜線部44の曲率半径が同じ値となる形状である。つまり、どこで切断した横断面においても第2稜線部44の曲率半径は一定であり、言い換えればどこで切断した横断面においても第2稜線部44の曲率半径は最小値である。
図4A及び図4Bに示す熱間プレス成形品50は自動車用のセンターピラーであり、2つの縦壁部53a、53bと、2つの縦壁部53a、53bを第1稜線部52a、52bをそれぞれ介して結ぶ平坦な天板部51と、2つの縦壁部53a、53bに対しそれぞれ第2稜線部54a、54bを介して天板部51とは反対側で接続するフランジ部55a、55bと、を有する。なお、天板部51は熱間プレス成形の際にパンチの頂面に相当する部分であり、縦壁部53a、53bはパンチ及びダイ金型と摺動する部分であり、フランジ部55a、55bは熱間プレス成形による成形が行われない部分である。また、第1稜線部52a、52bは天板部51と縦壁部53a、53bとを結ぶ湾曲部であり、第2稜線部54a、54bは縦壁部53a、53bとフランジ部55a、55bとを結ぶ湾曲部である。
この熱間プレス成形品50では、長手方向(x方向)に直交する方向の断面(横断面)を観察した場合に左右の形状が対称ではない箇所が存在する。例えば、図4Bに示す横断面では、平坦な天板部51の両側に存在する2つの第1稜線部52a、52bのz方向高さが異なり、右側の第1稜線部52aの方が左側の第1稜線部52bよりもz方向に盛り上がって高くなった形状である。また、図4Bに示す横断面では、2つのフランジ部55a、55bのz方向高さも異なり、右側のフランジ部55aの方が左側のフランジ部55bよりも高い形状である。そして、この熱間プレス成形品50では、横断面を観察した場合に切断する箇所によって第2稜線部54a、54bの曲率半径が異なる形状であり、図4Bに示す横断面(図4AのB−B’断面)での第2稜線部54aの曲率半径が最小となる形状である。
・第2稜線部での曲率半径(第2の態様)
そして、第2の態様にかかるプレス成形品では、第2稜線部44、54a又は54bにおいて曲率半径が最も小さくなる箇所(つまり曲げが最も厳しい箇所)での該曲率半径[Rmin]が3mm以上10mm未満である。ここで、第2稜線部44、54a又は54bでの最小曲率半径[Rmin]が10未満であることは、特定めっき鋼板に熱間プレス成形を行ってプレス成形品40、50を製造する際に、縦壁部43、53a又は53bとなる箇所に高面圧が掛かっていることを示す。そのため、高面圧が掛かる縦壁部43、53a又は53bにおいて、摺動による擦り傷が発生し易い条件で熱間プレス成形が施されたプレス成形品であると言える。なお、第2稜線部44、54a又は54bでの最小曲率半径[Rmin]の上限値が8mm以下であると、さらに縦壁部43、53a又は53bに摺動による擦り傷が発生し易いと言える。
一方で、第2稜線部44、54a又は54bでの最小曲率半径[Rmin]の下限値は、プレス成形時の割れ防止の観点から、3mm以上であり、好ましくは4mm以上である。
なお、曲率半径の測定は、前述の第1の態様における第2稜線部での曲率半径の測定方法に準じて行う。
・天板部と縦壁部との平滑度の差(第2の態様)
また、第2の態様にかかるプレス成形品は、天板部と縦壁部とにおいて平滑度に差が生じる。具体的には、プレス成形品の長手方向(x方向)に直交する方向の断面(横断面)を観察した場合に第2稜線部の曲率半径が最小となるプレス成形品の横断面を測定対象とする。つまり、図3A及び図3Bに示すプレス成形品40であれば、どこで切断した横断面においても第2稜線部44の曲率半径は最小値となるため、どの横断面を測定対象としてもよく、好ましくは長手方向(x方向)の中心位置での横断面が推奨される。また、図4A及び図4Bに示すプレス成形品50であれば、図4Bに示す横断面(図4AのB−B’断面)での第2稜線部54aの曲率半径が最小となるため、この図4Bに示す横断面を測定対象とする。そして、この曲率半径が最小となる横断面において、天板部(41、51)の横断面幅方向での中心箇所(例えば、図3Bであれば天板部41のy方向長さWの真ん中(W/2)の箇所)PA1minにおいて、平滑度[SaA1]を測定する。
また、縦壁部に関しても、同様にプレス成形品の長手方向(x方向)に直交する方向の断面(横断面)を観察した場合に第2稜線部の曲率半径が最小となる横断面を測定対象とする。そして、この曲率半径が最小となる横断面において、縦壁部(43、53a)の横断面高さ方向での中心箇所(例えば、図3Bであれば縦壁部43のz方向長さHの真ん中(H/2)の箇所)PA2minにおいて、平滑度[SaA2]を測定する。
なお、箇所PA1min及び箇所PA2minのいずれにおいても外側の面、つまり熱間プレス成形の際にダイ金型と接触した方の面において測定する。
そして、この差[SaA1−SaA2]が0.25μm以上である。
つまり、第2稜線部の曲率半径が最小となるプレス成形品の横断面において、天板部の横断面幅方向での中心箇所PA1minでの平滑度[SaA1]と、縦壁部の横断面高さ方向での中心箇所PA2minでの平滑度[SaA2]と、の差[SaA1−SaA2]が0.35μm以上である。
ここで、天板部と縦壁部との平滑度の差[SaA1−SaA2]が上記範囲であることは、特定めっき鋼板に熱間プレス成形を行ってプレス成形品を製造する際に、縦壁部となる箇所に対し、天板部となる箇所よりも高面圧が掛かっていることを示す。縦壁部に高面圧が掛かって摺動することで、天板部よりも縦壁部の表面の方が平滑になるためである。そして、高面圧が掛かる縦壁部において、摺動による擦り傷が発生し易い条件で熱間プレス成形が施されたプレス成形品であると言える。なお、平滑度の差[SaA1−SaA2]が0.45μm以上であると、さらに縦壁部に摺動による擦り傷が発生し易いと言える。
一方で、平滑度の差[SaA1−SaA2]の上限値としては、塗装後の鮮鋭性の観点から、1.0μm以下がより好ましい。
なお、平滑度[SaA1]及び[SaA2]は、ISO25178−2(2012)に規定される算術平均高さSa(単位:μm)を指す。測定装置及び測定条件等は以下の通りである。
測定装置:(株)キーエンス製 VK−X250/150形状解析レーザ顕微鏡
測定範囲:PA1min、PA2minの中心点を中心として、5mm×5mm
測定条件:ガウシアンフィルターを使用
Sフィルター:使用無し
Lフィルター:4mm
・天板部と縦壁部との表面性状のアスペクト比の差(第2の態様)
また、第2の態様に係るプレス成形品は、天板部と縦壁部とにおいて表面性状のアスペクト比の差が小さい。具体的には、天板部(図3Bにおける41、図4Bにおける51)及び縦壁部(図3Bにおける43、図4Bにおける53a)のいずれに関しても、前記平滑度と同じく箇所PA1min及び箇所PA2minにおいて表面性状のアスペクト比[StrA1]及び表面性状のアスペクト比[StrA2]を測定する。なお、平滑度と同じく、いずれも外側の面つまり熱間プレス成形の際にダイ金型と接触した方の面において測定する。
そして、この差[StrA1−StrA2]が0.50以下である。
ここで、天板部と縦壁部との表面性状のアスペクト比の差[StrA1−StrA2]が小さいほど、熱間プレス成形の際に縦壁部となる箇所に対し天板部となる箇所よりも高面圧が掛かっているにもかかわらず、縦壁部において摺動による擦り傷の発生が抑制されたプレス成形品であることを示す。摺動による擦り傷が顕著に発生した場合、その擦り傷は筋状であるため、その部分の表面性状のアスペクト比Strが低下する。さらに擦り傷が発生した部分は塗装前においては光沢部となる。さらに、塗装後においては光沢度に差が出るため、模様のように視認され、表面品位が劣る。しかし、表面性状のアスペクト比の差[StrA1−StrA2]を小さくすることによって、塗装後の光沢度の差が25以下である第2の態様に係るプレス成形品が実現でき、優れた表面品位を備える。
また、硬さHv_PartsがHV400以上と高硬度である鋼母材を用いたプレス成形品では、特にプレス成形の際に応力が集中して掛かった箇所において、水素脆化等の理由により遅れ破壊が発生し易い。しかし、これに対し第2の態様に係るプレス成形品は、上記の通り縦壁部における擦り傷の発生が抑制されていることから、縦壁部への応力の集中も抑制されていると言える。そのため、応力集中箇所で生じ易い遅れ破壊も抑制される。
なお、表面性状のアスペクト比の差[StrA1−StrA2]は、優れた表面品位及び遅れ破壊の抑制の観点から、0.50以下であることが好ましく、0.40以下であることがより好ましい。
なお、表面性状のアスペクト比[StrA1]及び[StrA2]は、ISO25178−2(2012)に規定される表面性状のアスペクト比Strを指す。測定装置及び測定条件等は以下の通りである。
測定装置:(株)キーエンス製 VK−X250/150形状解析レーザ顕微鏡
測定範囲:PA1min、PA2minの中心点を中心として、5mm×5mm
測定条件:ガウシアンフィルターを使用
Sフィルター:使用無し
Lフィルター:4mm
なお、天板部と縦壁部との表面性状のアスペクト比の差[StrA1−StrA2]を上記の範囲に制御する方法としては、特に限定されるものではないが、例えば前述の本実施形態に係る熱間プレス成形品の製造方法によってプレス成形品を成形する方法が挙げられる。
本実施形態に係る熱間プレス成形品の製造方法によってプレス成形品を成形することで、ダイ金型への凝着が抑制される。凝着物が多量に付着すると摩擦係数が上昇して、摺動による擦り傷が発生し易くなるが、上記の通り凝着物が低減されることで摩擦係数の上昇も抑制され、縦壁部での摺動による擦り傷の発生が抑制される。その結果、表面性状のアスペクト比の差[Str1−Str2]を上記の範囲に制御し得るものと考えられる。
・酸化亜鉛層の平均厚さ(第1及び第2の態様)
第1及び第2の態様に係るプレス成形品では、最表層である酸化亜鉛(ZnO)層の平均厚さが0.3μm以上2.0μm以下であることが好ましく、0.4μm以上1.5μm以下であることがより好ましい。
なお、ここで言う平均厚さとは、熱間プレス成形時に摺動が少ない箇所、具体的には図2A、図3B、又は図4Bに示すプレス成形品30、40、又は50であれば、天板部31、41、又は51の内側におけるZnO層の厚さを指す。
ZnO層の平均厚さが0.3μm以上であることで、熱間プレス成形の際のダイ金型への凝着が抑制される。一方、ZnO層の平均厚さが2.0μm以下であることで、優れた溶接性が得られ、またGAめっき層が薄くなり過ぎないため高い耐食性も維持される。
なお、ZnO層の平均厚さは、熱間プレス成形の際の加熱の保持時間や、成形前のZnO被膜の塗布によって調整し得る。
ZnO層の平均厚さは、上記の通り熱間プレス成形時に摺動が少ない箇所で測定する。具体的には、以下の方法により厚さを測定する。
プレス成形品を横断面で切断し、断面の天板部の最表層におけるめっき層構造を、日本電子製の電子顕微鏡JSM−7001Fを用いて観察・分析する。そして、最表面に存在するZnO層の厚さの最大部の板厚方向厚さを測定する。
なお、無作為に選んだ天板部の内側3箇所について測定し、その平均値をとる。
次に、実施例を示しながら、本開示を更に説明する。なお、本開示が、次に示す実施例に限定されることはない。
≪GIめっき鋼板の作製≫
<GIめっき鋼板(G1)>
板厚1.6mmの冷延鋼板(質量%で、C:0.21%、Si:0.12%、Mn:1.21%、P:0.02%、S:0.012%、Ti:0.02%、B:0.03%、Al:0.04%、並びに残部:Fe及び不純物)を鋼母材として準備し、この鋼母材の両面に還元炉方式のGIめっき処理によりGIめっき層を形成した。
まず、アルカリ脱脂によって鋼母材に前処理を行い、その後ホットリンス(温水洗浄)及びドライヤーでの乾燥を行った。次いで、前処理された鋼母材を還元炉に投入し、還元性雰囲気下で焼鈍し、冷却した。この鋼母材に対し、溶融亜鉛めっき浴にて溶融亜鉛めっき層を形成することで、GIめっき(溶融亜鉛めっき)層を形成した。このようにして、GIめっき鋼板(A1)の供試材を得た。
なお、GIめっき層の成分組成は、質量%で、Al:0.1%を含有し、かつ残部:Zn及び不純物からなる。
<GIめっき鋼板(G2)>
GIめっき層の上面及び下面での付着量(目付量)を下記表1に記載の通りに変更したこと以外は、GIめっき鋼板(G1)と同様にしてGIめっき鋼板の供試材を得た。
<GIめっき鋼板(G3)>
GIめっき鋼板(G1)に対し、さらにZnO皮膜を形成した。具体的には、両面のGIめっき層上に、薬液(シーアイ化成(株)社製nanotek slurry、酸化亜鉛粒の粒径=70nm)をロールコーターで塗布し、約80℃で焼きつける作業をそれぞれ施し、付着量(Zn換算量)0.6g/mのZnO皮膜を両面に形成して、GIめっき鋼板の供試材を得た。


−実施例A(GIめっき鋼板の実施例)−
≪ダイ金型の作製≫
<条件番号1A:比較例A1>
・母材
表1に記載される材質の鋼を用意し、焼鈍状態にて図6に示す上型102A及び下型102Bに近似した形状に粗加工し、真空中1180℃の加熱保持より窒素ガス冷却により焼入れ後、540〜580℃での焼戻しにより64HRCに調質した。その後、仕上げ加工を行って、ダイ金型の母材を得た。
窒化層及びPVD膜は形成せず、前記母材自体をダイ金型(上型102A及び下型102B)として用いた。
得られたダイ金型の鋼板接触面について、接触(摺動)するめっき鋼板10の摺動方向におけるスキューネス(Rsk)を、前述の方法により測定した。また、得られたダイ金型の鋼板接触面について、硬さHv_Dieを、前述の方法により測定した。
さらに、表2に示すめっき鋼板及びダイ金型を用いて、後述の評価を実施した。
<条件番号2A:実施例A1>
・窒化層の形成
条件番号1Aで得た母材(上型102A及び下型102B)におけるめっき鋼板10と接触(摺動)する鋼板接触面に、窒化層を形成した。
前記母材に、次に示す条件にてイオン窒化処理を施した。つまり、流量比5%N(残H)雰囲気中で、500℃、5時間保持の条件でイオン窒化処理を施した後、それぞれの試験面を研磨によって仕上げ、窒化層を形成した。
なお、上記研磨の際に、鋼板接触面におけるめっき鋼板10と接触(摺動)する方向に向かって、研磨シートを摺動させて研磨を行った。
得られたダイ金型の鋼板接触面におけるめっき鋼板10との摺動方向におけるスキューネス(Rsk)、及び鋼板接触面における硬さHv_Dieを表2に示す。さらに、表2に示すめっき鋼板及びダイ金型を用いて、後述の評価を実施した。
<条件番号3A〜4A:実施例A2〜A3>
条件番号2Aにおいて、窒化層の研磨の度合いを変更することで、ダイ金型の鋼板接触面におけるめっき鋼板10との摺動方向におけるスキューネス(Rsk)が下記表2に記載の値となるよう調整して、ダイ金型(上型102A及び下型102B)を作製した。
さらに、表2に示すめっき鋼板及びダイ金型を用いて、後述の評価を実施した。
<条件番号5A:実施例A4>
条件番号2Aにおいて、イオン窒化処理を施した後、試験面の研磨を行わない状態で窒化層を形成した。ついて、この窒化層上に硬質コーティング層としてのPVD膜を形成した。
・PVD膜の形成
母材の窒化層を形成した箇所に、アークイオンプレーティング装置を用い、圧力0.5PaのAr雰囲気中で、母材に−400VのBias電圧を印加し、60分の熱フィラメントによるプラズマクリーニングを行った。この後、金属成分の蒸発源である金属製ターゲット及び反応ガスとしてNガスを用い、母材温度500℃、反応ガス圧力3.0Pa、−50VのBias電圧にてPVD膜の成膜を行った。なお、蒸発源である金属製ターゲットには、表2に記載の組成を満たすPVD膜が形成される金属組成のものを用いた。
PVD膜の形成後、鋼板接触面におけるめっき鋼板10と接触(摺動)する方向に向かって、研磨シートを摺動させて研磨を行った。
得られたダイ金型の鋼板接触面におけるめっき鋼板10との摺動方向におけるスキューネス(Rsk)、及び鋼板接触面における硬さHv_Dieを表2に示す。さらに、表2に示すめっき鋼板及びダイ金型を用いて、後述の評価を実施した。
<条件番号6A〜12A:実施例A5及び比較例A2〜A7>
PVD膜の組成を下記表2に記載ものとし、かつそのPVD膜の硬度を下記表2に記載の値となるよう調整した。また、条件番号5Aにおいて、PVD膜の研磨の度合いを変更することで、ダイ金型の鋼板接触面におけるめっき鋼板10との摺動方向におけるスキューネス(Rsk)が下記表2に記載の値となるよう調整して、ダイ金型(上型102A及び下型102B)を作製した。
さらに、表2に示すめっき鋼板及びダイ金型を用いて、後述の評価を実施した。
<条件番号13A:実施例A6>
条件番号2Aにおいて、窒化層の硬度を下記表2に記載の値となるよう調整した。また、窒化層の研磨の度合いを変更することで、ダイ金型の鋼板接触面におけるめっき鋼板10との摺動方向におけるスキューネス(Rsk)が下記表2に記載の値となるよう調整して、ダイ金型(上型102A及び下型102B)を作製した。
さらに、表2に示すめっき鋼板及びダイ金型を用いて、後述の評価を実施した。
<条件番号14A:比較例A8>
条件番号1Aにおいて、鋼板接触面の研磨の度合いを変更することで、ダイ金型の鋼板接触面におけるめっき鋼板10との摺動方向におけるスキューネス(Rsk)が下記表2に記載の値となるよう調整して、ダイ金型(上型102A及び下型102B)を作製した。
さらに、表2に示すめっき鋼板及びダイ金型を用いて、後述の評価を実施した。
<条件番号15A〜16A:実施例A6〜A7>
表2の条件に従って、ダイ金型(上型102A及び下型102B)を作製した。
さらに、表2に示すめっき鋼板及びダイ金型を用いて、後述の評価を実施した。
<評価>
・金型摩耗
まず、熱間潤滑性の評価装置を準備した。図6に示す熱間潤滑性の評価装置は、近赤外線加熱炉100と、上型102A及び下型102Bからなる金型とを備えている。上型102A及び下型102Bは、めっき鋼板の引き抜き方向に直交する方向に伸びた幅10mmの凸部を有しており、互いの凸部の頂面で供試材を挟み込むことで、所定の押付け荷重を掛ける。また、熱間潤滑性の評価装置には、近赤外線加熱炉100で加熱しためっき鋼板、及び、金型で挟み込むときのめっき鋼板の温度を測定するための熱電対(不図示)も設けられている。なお、図6中、10はめっき鋼板の供試材を示す。
図6に示す熱間潤滑性の評価装置を用いて、近赤外線加熱炉100により、窒素雰囲気で、30mm×500mmの供試材を920℃加熱した後、約650℃となった供試材を、上型102A及び下型102Bからなる金型で3kNの押付け荷重をかけつつ(つまり供試材を金型に摺動させつつ)、引き抜いた。なお、引抜き長さは100mm、引抜き速度は40mm/sとした。なお、920℃に加熱する際の平均昇温速度は、7.5℃/秒とした。
上記の熱間潤滑性の評価試験前後における「熱間潤滑性の測定装置の金型」のめっき鋼板10と接触(摺動)する鋼板接触面の表面形状差分を分析することで、金型の摩耗量を測定した。具体的には、接触式の形状測定機を用いて、摺動前後の摺動部における金型表面のプロファイルを計測して、金型摩耗量を測定した。なお、金型摩耗量は、上型及び下型のそれぞれの表面のプロファイルから平均摩耗量を算出し、それらの平均値とした。
得られた金型摩耗量から、以下の評価基準により評価した。
A:金型摩耗量0.5μm以下
B:金型摩耗量0.5μm超え1μm以下
C:金型摩耗量1μm超え2μm以下
D:金型摩耗量2μm超え
・凝着
金型への凝着について、以下の試験により評価した。
上記の熱間潤滑性の評価試験前後における「熱間潤滑性の測定装置の金型」のめっき鋼板10と接触(摺動)する鋼板接触面の表面形状差分を分析することで、金型の凝着量を測定した。具体的には、接触式の形状測定機を用いて、摺動前後の摺動部における金型表面のプロファイルを計測して、凝着物付着部の高さが最大となる位置での凝着高さ(以下、金型最大凝着高さ)を測定した。なお、金型最大凝着高さは、上型及び下型の凝着高さのうちの最大値とした。
得られた金型最大凝着高さから、以下の評価基準により評価した。
A:金型最大凝着高さ0.5μm以下
B:金型最大凝着高さ0.5μm超え1μm以下
C:金型最大凝着高さ1μm超え3μm以下
D:金型最大凝着高さ3μm超え
・摩擦係数
金型と鋼板との摩擦係数について、以下の試験により評価した。
上記の熱間潤滑性の評価試験後における「熱間潤滑性の測定装置の金型」の鋼板接触面と、めっき鋼板10との摩擦係数を下記方法により測定した。
上記の熱間潤滑性の評価試験中において、引抜き荷重を測定し、押付け荷重と測定された引抜き荷重を用いて摩擦係数を算出した。


表2から、実施例A1〜A6では、ダイ金型の鋼板接触面に、摺動方向へのスキューネス(Rsk)が−5.0以上1.2以下、かつ硬さHv_DieがHV1000以上1550以下である硬質層を形成したことで、ダイ金型の摺動面の磨耗を低減できることを確認した。具体的には、スキューネス(Rsk)が1.3、かつ硬さHv_DieがHV550である比較例A1に比べ、各実施例ではダイ金型の摺動面の磨耗を低減できている。
また、Hv_DieがHV1550を超える比較例A2〜A7に比べ、各実施例では凝着を抑制できている。
−実施例B/GIめっき鋼板を用いたプレス成形品の作製−
≪ダイ金型の作製≫
前記「実施例A」における条件番号1A、2A、3A、4A、5A、6A、10A、12A、13Aにて作製したダイ金型において、その形状を図2A及び図2Bに示すプレス成形品を成形し得る形状のものにすると共に、第2稜線部において曲率半径が最小となる箇所での該曲率半径[Rmin]が下記表3に記載の値となる形状のものに変更し、且つ母材を縦壁部での硬さHv_Dieが下記表3に記載のものに変更したこと以外、「実施例A」における各条件番号と同様にしてダイ金型を作製した。
なお、窒化層及びPVD膜の成形箇所は、プレス成形時に金型と材料が接触すると想定される全域にわたり形成した。
≪プレス成形品の作製≫
表3に記載の条件番号のダイ金型を用い、炉温設定:920℃、材炉5分(成形品番号11Aのみ材炉6分)、成形開始温度:650℃にて熱間プレス成形を行った。
得られたプレス成形品について、第2稜線部において曲率半径が最小となる箇所での該曲率半径[Rmin]、ZnO層平均厚さ、フランジ部の曲率半径が最小となる箇所PB0minに対応する天板部における幅方向での中心箇所PB1minでの平滑度[SaB1]、箇所PB0minに対応する縦壁部における高さ方向での中心箇所PB2minでの平滑度[SaB2]、天板部における箇所PB1minでの表面性状のアスペクト比[StrB1]、縦壁部における箇所PB2minでの表面性状のアスペクト比[StrB2]を、前述の方法により測定した。
さらに、表3に示すプレス成形品を用いて、後述の評価を実施した。
<評価>
・縦壁部の表面品位
得られた各成形品番号のプレス成形品に対し、膜厚15μmの電着塗装、さらに膜厚20μmの上塗りを実施した後の製品に対し、縦壁部での表面品位を、以下の基準により判定した。
A:表面品位優(光沢度差<15,表面に傷なし)
B:表面品位OK(15≦光沢度差<30,表面に傷なし)
C:表面品位NG(光沢度差≧30,表面に傷なし)
D:表面欠陥ありNG(製品表面に筋状の傷あり)
・光沢度差
天板部のうち側面側から観察した場合にフランジ部の曲率半径が最小となる箇所PB0minに対応する天板部における幅方向での中心箇所PB1minと、縦壁部のうち側面側から観察した場合に箇所PB0minに対応する縦壁部における高さ方向での中心箇所PB2minとの光沢度を、それぞれ以下の方法により測定し、この2箇所での光沢度の差を算出した。
なお、光沢度の測定は、JIS Z 8741に規定される、黒色鏡面ガラスn=1.567の反射率を基準100とした反射率の相対値を、光の入射角度60°で計測した。


・成形品番号1A
第2稜線部での最小曲率半径[Rmin]が大きく、縦壁部に掛かる面圧が低いと考えられ、平滑度の差[SaB1−SaB2]が小さくなっている。
・成形品番号2A〜4A、12A、13A
第2稜線部での最小曲率半径[Rmin]が小さく、縦壁部に掛かる面圧が高いと考えられ、平滑度の差[SaB1−SaB2]が大きくなっている。
スキューネス(Rsk)が1.2超えとの条件及び硬さHv_DieがHV1000未満との条件の少なくとも一方を満たす金型を用いた熱間プレス成形、並びに硬さHv_DieがHV1550超えとの条件を満たす金型を用いた熱間プレス成形では、金型へのめっき凝着が発生し、縦壁にスクラッチ傷が発生するため、表面状態の異方性を示すパラメータである縦壁部表面性状のアスペクト比[StrB2]が大きく低下し、0に近くなっている。
また、縦壁部のスクラッチ傷部分とZnO層の光の反射度合に差があるため、光沢度の差が大きくなっている。
・成形品番号5A〜7A
第2稜線部での最小曲率半径[Rmin]が小さく、縦壁部に掛かる面圧が高いと考えられ、平滑度の差[SaB1−SaB2]が大きくなっている。
しかし、スキューネス(Rsk)が1.2以下との条件及び硬さHv_DieがHV1000以上HV1550以下との条件の両方を満たす金型を用いた熱間プレス成形では、縦壁部でのスクラッチ傷の発生が抑制され、表面状態の異方性を示すパラメータである縦壁部表面性状のアスペクト比[StrB2]の低下も抑制される。
そのため、縦壁部と天板部の光沢度の差は小さくなっている。
・成形品番号8A〜10A
プレス成形品の母材強度が異なる例である。
・成形品番号11A
ZnO層の厚さ(平均厚さ)が厚い場合の例である。
また、遅れ破壊の評価を陰極水素チャージ試験法(参考文献:大村朋彦ほか:鉄と鋼,Vol.100,No.10,2014,pp.1289)により、保持時間48時間、鋼材中の水素量が飽和する条件で実施した。成形品の縦壁部の表面でのクラックの有無を観察したところ、成形品番号7Aでは「○(クラックなし)」評価であったのに対し、成形品番号3Aでは「×(クラックあり)」との評価であった。
≪Zn−Niめっき鋼板の作製≫
<Zn−Niめっき鋼板(Z1)>
板厚1.6mmの冷延鋼板(質量%で、C:0.21%、Si:0.12%、Mn:1.21%、P:0.02%、S:0.012%、Ti:0.02%、B:0.03%、Al:0.04%、並びに残部:Fe及び不純物)を鋼母材として準備し、この鋼母材の両面に電気めっき処理によりZn−Niめっき層を形成した。
硫酸ニッケル六水和物及び硫酸亜鉛七水和物を含有する、pH1.5、温度50℃のめっき浴中で、電流密度を調整して電気めっき処理を施してZn−Niめっき層を形成した。このようにして、Zn−Niめっき鋼板(Z1)の供試材を得た。
なお、Zn−Niめっき層の成分組成は、質量%で、Ni:12%を含有し、かつ残部:Zn及び不純物からなる。
<Zn−Niめっき鋼板(Z2)>
Zn−Niめっき層の上面及び下面での付着量(目付量)を下記表4に記載の通りに変更したこと以外は、Zn−Niめっき鋼板(Z1)と同様にしてZn−Niめっき鋼板の供試材を得た。
<Zn−Niめっき鋼板(Z3)>
2層のめっき層を積層した積層型のZn−Niめっき鋼板を形成した。
Zn−Niめっき鋼板(Z1)で得た鋼母材の両面に、電気めっき処理により1層目(下層)及び2層目(上層)のZn−Niめっき層を形成した。
まず、硫酸ニッケル六水和物及び硫酸亜鉛七水和物を含有する、pH3.0、温度50℃のめっき浴中で、電流密度を調整して電気めっき処理を施して下層のZn−Niめっき層を形成した。なお、下層の成分組成は、質量%で、Ni:60%を含有し、かつ残部:Zn及び不純物からなる。
次に、硫酸ニッケル六水和物及び硫酸亜鉛七水和物を含有する、pH1.5、温度50℃のめっき浴中で、電流密度を調整して電気めっき処理を施してZn−Niめっき層を形成した。なお、Zn−Niめっき層の成分組成は、質量%で、Ni:12%を含有し、かつ残部:Zn及び不純物からなる。
このようにして、積層型のZn−Niめっき鋼板(Z3)の供試材を得た。
<Zn−Niめっき鋼板(Z4)>
Zn−Niめっき鋼板(Z1)に対し、さらにZnO皮膜を形成した。具体的には、両面のZn−Niめっき層上に、薬液(シーアイ化成(株)社製nanotek slurry、酸化亜鉛粒の粒径=70nm)をロールコーターで塗布し、約80℃で焼きつける作業をそれぞれ施し、付着量(Zn換算量)0.6g/mのZnO皮膜を両面に形成して、Zn−Niめっき鋼板の供試材を得た。

−実施例C(Zn−Niめっき鋼板の実施例)−
≪ダイ金型の作製≫
<条件番号1C:比較例C1>
・母材
表4に記載される材質の鋼を用意し、焼鈍状態にて図6に示す上型102A及び下型102Bに近似した形状に粗加工し、真空中1180℃の加熱保持より窒素ガス冷却により焼入れ後、540〜580℃での焼戻しにより64HRCに調質した。その後、仕上げ加工を行って、ダイ金型の母材を得た。
窒化層及びPVD膜は形成せず、前記母材自体をダイ金型(上型102A及び下型102B)として用いた。
得られたダイ金型の鋼板接触面について、接触(摺動)するめっき鋼板10の摺動方向におけるスキューネス(Rsk)を、前述の方法により測定した。また、得られたダイ金型の鋼板接触面について、硬さHv_Dieを、前述の方法により測定した。
さらに、表5に示すめっき鋼板及びダイ金型を用いて、後述の評価を実施した。
<条件番号2C:実施例C1>
・窒化層の形成
条件番号1Cで得た母材(上型102A及び下型102B)におけるめっき鋼板10と接触(摺動)する鋼板接触面に、窒化層を形成した。
前記母材に、次に示す条件にてイオン窒化処理を施した。つまり、流量比5%N(残H)雰囲気中で、500℃、5時間保持の条件でイオン窒化処理を施した後、それぞれの試験面を研磨によって仕上げ、窒化層を形成した。
なお、上記研磨の際に、鋼板接触面におけるめっき鋼板10と接触(摺動)する方向に向かって、研磨シートを摺動させて研磨を行った。
得られたダイ金型の鋼板接触面におけるめっき鋼板10との摺動方向におけるスキューネス(Rsk)、及び鋼板接触面における硬さHv_Dieを表5に示す。さらに、表5に示すめっき鋼板及びダイ金型を用いて、後述の評価を実施した。
<条件番号3C〜4C:実施例C2〜C3>
条件番号2Cにおいて、窒化層の研磨の度合いを変更することで、ダイ金型の鋼板接触面におけるめっき鋼板10との摺動方向におけるスキューネス(Rsk)が下記表5に記載の値となるよう調整して、ダイ金型(上型102A及び下型102B)を作製した。
さらに、表5に示すめっき鋼板及びダイ金型を用いて、後述の評価を実施した。
<条件番号5C:実施例C4>
条件番号2Cにおいて、イオン窒化処理を施した後、試験面の研磨を行わない状態で窒化層を形成した。ついて、この窒化層上に硬質コーティング層としてのPVD膜を形成した。
<条件番号15C〜16C:実施例C6〜CC7>
表5の条件に従って、ダイ金型(上型102A及び下型102B)を作製した。
さらに、表5に示すめっき鋼板及びダイ金型を用いて、後述の評価を実施した。
・PVD膜の形成
母材の窒化層を形成した箇所に、アークイオンプレーティング装置を用い、圧力0.5PaのAr雰囲気中で、母材に−400VのBias電圧を印加し、60分の熱フィラメントによるプラズマクリーニングを行った。この後、金属成分の蒸発源である金属製ターゲット及び反応ガスとしてNガスを用い、母材温度500℃、反応ガス圧力3.0Pa、−50VのBias電圧にてPVD膜の成膜を行った。なお、蒸発源である金属製ターゲットには、表5に記載の組成を満たすPVD膜が形成される金属組成のものを用いた。
PVD膜の形成後、鋼板接触面におけるめっき鋼板10と接触(摺動)する方向に向かって、研磨シートを摺動させて研磨を行った。
得られたダイ金型の鋼板接触面におけるめっき鋼板10との摺動方向におけるスキューネス(Rsk)、及び鋼板接触面における硬さHv_Dieを表5に示す。さらに、表5に示すめっき鋼板及びダイ金型を用いて、後述の評価を実施した。
<条件番号6C〜12C:実施例C5及び比較例C2〜C7>
PVD膜の組成を下記表5に記載ものとし、かつそのPVD膜の硬度を下記表5に記載の値となるよう調整した。また、条件番号5Cにおいて、PVD膜の研磨の度合いを変更することで、ダイ金型の鋼板接触面におけるめっき鋼板10との摺動方向におけるスキューネス(Rsk)が下記表5に記載の値となるよう調整して、ダイ金型(上型102A及び下型102B)を作製した。
さらに、表5に示すめっき鋼板及びダイ金型を用いて、後述の評価を実施した。
<条件番号13C:実施例C6>
条件番号2Cにおいて、窒化層の硬度を下記表5に記載の値となるよう調整した。また、窒化層の研磨の度合いを変更することで、ダイ金型の鋼板接触面におけるめっき鋼板10との摺動方向におけるスキューネス(Rsk)が下記表5に記載の値となるよう調整して、ダイ金型(上型102A及び下型102B)を作製した。
さらに、表5に示すめっき鋼板及びダイ金型を用いて、後述の評価を実施した。
<条件番号14C:比較例C8>
条件番号1Cにおいて、鋼板接触面の研磨の度合いを変更することで、ダイ金型の鋼板接触面におけるめっき鋼板10との摺動方向におけるスキューネス(Rsk)が下記表5に記載の値となるよう調整して、ダイ金型(上型102A及び下型102B)を作製した。
さらに、表5に示すめっき鋼板及びダイ金型を用いて、後述の評価を実施した。
<評価>
・金型摩耗
まず、熱間潤滑性の評価装置を準備した。図6に示す熱間潤滑性の評価装置は、近赤外線加熱炉100と、上型102A及び下型102Bからなる金型とを備えている。上型102A及び下型102Bは、めっき鋼板の引き抜き方向に直交する方向に伸びた幅10mmの凸部を有しており、互いの凸部の頂面で供試材を挟み込むことで、所定の押付け荷重を掛ける。また、熱間潤滑性の評価装置には、近赤外線加熱炉100で加熱しためっき鋼板、及び、金型で挟み込むときのめっき鋼板の温度を測定するための熱電対(不図示)も設けられている。なお、図6中、10はめっき鋼板の供試材を示す。
図6に示す熱間潤滑性の評価装置を用いて、近赤外線加熱炉100により、窒素雰囲気で、30mm×500mmの供試材を920℃加熱した後、約700℃となった供試材を、上型102A及び下型102Bからなる金型で3kNの押付け荷重をかけつつ(つまり供試材を金型に摺動させつつ)、引き抜いた。なお、引抜き長さは100mm、引抜き速度は40mm/sとした。なお、920℃に加熱する際の平均昇温速度は、7.5℃/秒とした。
上記の熱間潤滑性の評価試験前後における「熱間潤滑性の測定装置の金型」のめっき鋼板10と接触(摺動)する鋼板接触面の表面形状差分を分析することで、金型の摩耗量を測定した。具体的には、接触式の形状測定機を用いて、摺動前後の摺動部における金型表面のプロファイルを計測して、金型摩耗量を測定した。なお、金型摩耗量は、上型及び下型のそれぞれの表面のプロファイルから平均摩耗量を算出し、それらの平均値とした。
得られた金型摩耗量から、以下の評価基準により評価した。
A:金型摩耗量0.5μm以下
B:金型摩耗量0.5μm超え1μm以下
C:金型摩耗量1μm超え2μm以下
D:金型摩耗量2μm超え
・凝着
金型への凝着について、以下の試験により評価した。
上記の熱間潤滑性の評価試験前後における「熱間潤滑性の測定装置の金型」のめっき鋼板10と接触(摺動)する鋼板接触面の表面形状差分を分析することで、金型の凝着量を測定した。具体的には、接触式の形状測定機を用いて、摺動前後の摺動部における金型表面のプロファイルを計測して、凝着物付着部の高さが最大となる位置での凝着高さ(以下、金型最大凝着高さ)を測定した。なお、金型最大凝着高さは、上型及び下型の凝着高さのうちの最大値とした。
得られた金型最大凝着高さから、以下の評価基準により評価した。
A:金型最大凝着高さ0.5μm以下
B:金型最大凝着高さ0.5μm超え1μm以下
C:金型最大凝着高さ1μm超え3μm以下
D:金型最大凝着高さ3μm超え
・摩擦係数
金型と鋼板との摩擦係数について、以下の試験により評価した。
上記の熱間潤滑性の評価試験後における「熱間潤滑性の測定装置の金型」の鋼板接触面と、めっき鋼板10との摩擦係数を下記方法により測定した。
上記の熱間潤滑性の評価試験中において、引抜き荷重を測定し、押付け荷重と測定された引抜き荷重を用いて摩擦係数を算出した。

表5から、実施例C1〜C6では、ダイ金型の鋼板接触面に、摺動方向へのスキューネス(Rsk)が−5.0以上1.2以下、かつ硬さHv_DieがHV1000以上1550以下である硬質層を形成したことで、ダイ金型の摺動面の磨耗を低減できることを確認した。具体的には、スキューネス(Rsk)が1.3、かつ硬さHv_DieがHV550である比較例C1に比べ、各実施例ではダイ金型の摺動面の磨耗を低減できている。
また、Hv_DieがHV1550を超える比較例C2〜C7に比べ、各実施例では凝着を抑制できている。
−実施例D/Zn−Niめっき鋼板を用いたプレス成形品の作製−
≪ダイ金型の作製≫
前記「実施例C」における条件番号1C、2C、3C、4C、5C、6C、10C、12C、13Cにて作製したダイ金型において、その形状を図2A及び図2Bに示すプレス成形品を成形し得る形状のものにすると共に、第2稜線部において曲率半径が最小となる箇所での該曲率半径[Rmin]が下記表6に記載の値となる形状のものに変更し、且つ母材を縦壁部での硬さHv_Dieが下記表6に記載のものに変更したこと以外、「実施例C」における各条件番号と同様にしてダイ金型を作製した。
なお、窒化層及びPVD膜の成形箇所は、プレス成形時に金型と材料が接触すると想定される全域にわたり形成した。
≪プレス成形品の作製≫
表6に記載の条件番号のダイ金型を用い、炉温設定:920℃、材炉5分(成形品番号11Cのみ材炉6分)、成形開始温度:700℃にて熱間プレス成形を行った。
得られたプレス成形品について、第2稜線部において曲率半径が最小となる箇所での該曲率半径[Rmin]、ZnO層平均厚さ、フランジ部の曲率半径が最小となる箇所PB0minに対応する天板部における幅方向での中心箇所PB1minでの平滑度[SaB1]、箇所PB0minに対応する縦壁部における高さ方向での中心箇所PB2minでの平滑度[SaB2]、天板部における箇所P1minでの表面性状のアスペクト比[StrB1]、縦壁部における箇所PB2minでの表面性状のアスペクト比[StrB2]を、前述の方法により測定した。
さらに、表6に示すプレス成形品を用いて、後述の評価を実施した。
<評価>
・縦壁部の表面品位
得られた各成形品番号のプレス成形品に対し、膜厚15μmの電着塗装、さらに膜厚20μmの上塗りを実施した後の製品に対し、縦壁部での表面品位を、以下の基準により判定した。
A:表面品位優(光沢度差<15,表面に傷なし)
B:表面品位OK(15≦光沢度差<30,表面に傷なし)
C:表面品位NG(光沢度差≧30,表面に傷なし)
D:表面欠陥ありNG(製品表面に筋状の傷あり)
・光沢度差
天板部のうち側面側から観察した場合にフランジ部の曲率半径が最小となる箇所PB0minに対応する天板部における幅方向での中心箇所PB1minと、縦壁部のうち側面側から観察した場合に箇所PB0minに対応する縦壁部における高さ方向での中心箇所PB2minとの光沢度を、それぞれ以下の方法により測定し、この2箇所での光沢度の差を算出した。
なお、光沢度の測定は、JIS Z 8741に規定される、黒色鏡面ガラスn=1.567の反射率を基準100とした反射率の相対値を、光の入射角度60°で計測した。

・成形品番号1C
第2稜線部での最小曲率半径[Rmin]が大きく、縦壁部に掛かる面圧が低いと考えられ、平滑度の差[SaB1−SaB2]が小さくなっている。
・成形品番号2C〜4C、12C、13C
第2稜線部での最小曲率半径[Rmin]が小さく、縦壁部に掛かる面圧が高いと考えられ、平滑度の差[SaB1−SaB2]が大きくなっている。
スキューネス(Rsk)が1.2超えとの条件及び硬さHv_DieがHV1000未満との条件の少なくとも一方を満たす金型を用いた熱間プレス成形、並びに硬さHv_DieがHV1550超えとの条件を満たす金型を用いた熱間プレス成形では、金型へのめっき凝着が発生し、縦壁にスクラッチ傷が発生するため、表面状態の異方性を示すパラメータである縦壁部表面性状のアスペクト比[StrB2]が大きく低下し、0に近くなっている。
また、縦壁部のスクラッチ傷部分とZnO層の光の反射度合に差があるため、光沢度の差が大きくなっている。
・成形品番号5C〜7C
第2稜線部での最小曲率半径[Rmin]が小さく、縦壁部に掛かる面圧が高いと考えられ、平滑度の差[SaB1−SaB2]が大きくなっている。
しかし、スキューネス(Rsk)が1.2以下との条件及び硬さHv_DieがHV1000以上HV1550以下との条件の両方を満たす金型を用いた熱間プレス成形では、縦壁部でのスクラッチ傷の発生が抑制され、表面状態の異方性を示すパラメータである縦壁部表面性状のアスペクト比[StrB2]の低下も抑制される。
そのため、縦壁部と天板部の光沢度の差は小さくなっている。
・成形品番号8C〜10C
プレス成形品の母材強度が異なる例である。
・成形品番号11C
ZnO層の厚さ(平均厚さ)が厚い場合の例である。
また、遅れ破壊の評価を陰極水素チャージ試験法(参考文献:大村朋彦ほか:鉄と鋼,Vol.100,No.10,2014,pp.1289)により、保持時間48時間、鋼材中の水素量が飽和する条件で実施した。成形品の縦壁部の表面でのクラックの有無を観察したところ、成形品番号6Cでは「○(クラックなし)」評価であったのに対し、成形品番号3Cでは「×(クラックあり)」との評価であった。
以上、添付図面を参照しながら本開示の好適な実施形態について詳細に説明したが、本開示はかかる例に限定されないことは言うまでもない。本開示の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範囲内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。
符号の説明は、次の通りである。
10 めっき鋼板
11、111 ダイ金型(ダイス)
11A、111A 鋼板接触面
11B、111B ダイ肩部
11C、111C 硬質層
11D、111D ダイ穴
12 ホルダー(鋼板おさえ金型)
12C 第二硬質層
13 パンチ
30、40、50 熱間プレス成形品
31、41、51 天板部
32、42、52a、52b 第1稜線部
33、43、53a、53b 縦壁部
34、44、54a、54b 第2稜線部
35、45、55a、55b フランジ部
100 近赤外線加熱炉
102A 上型
102B 下型
112 鋼板
113 パンチ金型
113C 第二硬質層
114A、114B めっき層
116A、116B 亜鉛化合物層または金属亜鉛層
なお、日本国特許出願第2018−127893号の開示はその全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、および技術規格は、個々の文献、特許出願、および技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。

Claims (15)

  1. 熱間プレス成形品の製造方法であって、
    溶融亜鉛めっき層及び亜鉛ニッケルめっき層からなる群より選択される少なくとも一種のめっき層を有するめっき鋼板を、ダイ金型のダイ穴を塞いで前記ダイ金型上に配置すること、および
    前記めっき鋼板に前記ダイ金型を用いて熱間プレス成形すること、
    を有し、
    前記ダイ金型は、前記ダイ穴の外側の表面であって且つ前記熱間プレス成形される前の前記めっき鋼板と接触する鋼板接触面のうち、ダイ肩部に隣接する全領域に、前記ダイ穴の外側から内側に向かう方向に測定したスキューネス(Rsk)が−5.0以上1.2以下、かつ硬さHv_DieがHV1000以上1550以下である硬質層を有する熱間プレス成形品の製造方法。
  2. 前記硬質層は、最表層として窒化層を有する層である請求項1に記載の熱間プレス成形品の製造方法。
  3. 前記硬質層は、窒化層と、前記窒化層の表面にある硬質コーティング層と、を含む層である請求項1又は請求項2に記載の熱間プレス成形品の製造方法。
  4. 前記めっき鋼板が、前記めっき層の上に最表層として亜鉛化合物層または金属亜鉛層を有する請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の熱間プレス成形品の製造方法。
  5. 鋼板製のプレス成形品であって、
    前記鋼板は、硬さHv_PartsがHV400以上である鋼母材と、前記鋼母材上に溶融亜鉛めっき層及び亜鉛ニッケルめっき層からなる群より選択される少なくとも一種のめっき層と、前記めっき層上に最表層として酸化亜鉛層と、を有し、
    前記プレス成形品は、天板部と、前記天板部に第1稜線部を介して接続する縦壁部と、前記縦壁部に第2稜線部を介して接続するフランジ部と、を有し、
    前記第2稜線部において曲率半径が最小となる箇所での該曲率半径[Rmin]が3mm以上10mm未満であり、
    前記プレス成形品の長手方向に直交かつ前記天板部に平行な方向から前記プレス成形品を投影した前記フランジ部の曲率半径が最小となる箇所PB0minを含む前記プレス成形品の横断面において、前記天板部における幅方向での中心箇所PB1minでの平滑度[SaB1]と、前記縦壁部における高さ方向での中心箇所PB2minでの平滑度[SaB2]と、の差[SaB1−SaB2]が0.35μm以上であり、
    前記天板部における前記箇所PB1minでの表面性状のアスペクト比[StrB1]と、前記縦壁部における前記箇所PB2minでの表面性状のアスペクト比[StrB2]と、の差[StrB1−StrB2]が0.50以下であるプレス成形品。
  6. 前記酸化亜鉛層の平均厚さが0.3μm以上2.0μm以下である請求項5に記載のプレス成形品。
  7. 溶融亜鉛めっき層及び亜鉛ニッケルめっき層からなる群より選択される少なくとも一種のめっき層を有するめっき鋼板の熱間プレス成形に用いられ、
    ダイ穴の外側の表面且つダイ肩部に隣接するダイ肩隣接面のうち、前記ダイ肩部に隣接する全領域に、ダイ穴の外側から内側に向かう方向に測定したスキューネス(Rsk)が−5.0以上1.2以下、かつ硬さHv_DieがHV1000以上1550以下である硬質層を有するダイ金型。
  8. 前記硬質層は、最表層として窒化層を有する層である請求項7に記載のダイ金型。
  9. 前記硬質層は、窒化層と、前記窒化層の表面にある硬質コーティング層と、を含む層である請求項7又は請求項8に記載のダイ金型。
  10. 溶融亜鉛めっき層及び亜鉛ニッケルめっき層からなる群より選択される少なくとも一種のめっき層を有するめっき鋼板の熱間プレス成形に用いられ、
    請求項7〜請求項9のいずれか1項に記載のダイ金型と、パンチ金型と、を備え、
    前記パンチ金型は、前記ダイ金型の前記ダイ肩隣接面に対向する対向面のうち、前記ダイ金型が前記硬質層を有する箇所と対向する全領域に、パンチ部の外側から内側に向かう方向に測定したスキューネス(Rsk)が−5.0以上1.2以下、かつ硬さHv_DieがHV1000以上1550以下である第二硬質層を有する金型セット。
  11. 前記第二硬質層は、最表層として第二窒化層を有する層である請求項10に記載の金型セット。
  12. 前記第二硬質層は、第二窒化層と、前記第二窒化層の表面にある第二硬質コーティング層と、を含む層である請求項10又は請求項11に記載の金型セット。
  13. 溶融亜鉛めっき層及び亜鉛ニッケルめっき層からなる群より選択される少なくとも一種のめっき層を有するめっき鋼板の熱間プレス成形に用いられ、
    請求項7〜請求項9のいずれか1項に記載のダイ金型と、鋼板おさえ金型と、を備え、
    前記鋼板おさえ金型は、前記ダイ金型の前記ダイ肩隣接面に対向する対向面のうち、前記ダイ金型が前記硬質層を有する箇所と対向する全領域に、パンチ挿通部の外側から内側に向かう方向に測定したスキューネス(Rsk)が−5.0以上1.2以下、かつ硬さHv_DieがHV1000以上1550以下である第二硬質層を有する金型セット。
  14. 前記第二硬質層は、最表層として第二窒化層を有する層である請求項13に記載の金型セット。
  15. 前記第二硬質層は、第二窒化層と、前記第二窒化層の表面にある第二硬質コーティング層と、を含む層である請求項13又は請求項14に記載の金型セット。
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