JPWO2019244961A1 - 変異vhh抗体を用いたアフィニティー担体 - Google Patents

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Abstract

変異VHH抗体を用いたアフィニティー担体の提供。固相担体と、該固相担体に結合したイムノグロブリン結合タンパク質とを含み、該イムノグロブリン結合タンパク質が、配列番号22のアミノ酸配列の127〜184位、及び配列番号23のアミノ酸配列の13〜210位からなる群より選択される少なくとも1つの領域におけるエピトープを認識する、VHH抗体の変異体又はその断片を含む、アフィニティー担体。

Description

本発明は、変異VHH抗体を用いたアフィニティー担体、ならびに該アフィニティー担体を用いた目的物質の単離方法に関する。
抗体医薬に代表されるタンパク質製剤は、基本的にモノクローナル抗体であり、細胞培養技術を用いて大量に生産されている。これら抗体医薬の製造工程における初期精製工程には、アフィニティークロマトグラフィーが一般的に利用される。現在、上市されている主要な抗体医薬は免疫グロブリンG(IgG)サブクラスであり、その初期精製にはグラム陽性細菌スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)によって生産される細胞壁タンパク質の1種であるプロテインAをリガンドとして用いたアフィニティークロマトグラフィーが広く利用されている。一方で、近年、抗体医薬の高機能化を目的として、部分化抗体、抗体薬物複合体、二重特異性抗体などの改変抗体の開発が盛んに行われている。これら改変抗体のアフィニティー精製のために、プロテインAと異なる性質のリガンドを利用したアフィニティー担体も開発され、上市されている。
VHH(variable domain of heavy chain of heavy chain antibody)は、偶蹄目ラクダ科動物(フタコブラクダ、ヒトコブラクダ、ラマ等)の血清中に含まれる、軽鎖を持たない重鎖抗体の可変領域を含むドメインである。VHHは、抗原に結合できる免疫グロブリンフラグメントとして最小の単位であり、抗体医薬やアフィニティー担体のリガンドとして有用である。
本発明は、抗体結合性リガンドとして有用なVHH抗体変異体を固定化したアフィニティー担体を提供する。
本発明は、以下を提供する。
〔1〕アフィニティー担体であって、
固相担体と、該固相担体に結合したイムノグロブリン結合タンパク質とを含み、
該イムノグロブリン結合タンパク質が、配列番号22のアミノ酸配列の127〜184位、及び配列番号23のアミノ酸配列の13〜210位からなる群より選択される少なくとも1つの領域におけるエピトープを認識する、VHH抗体の変異体又はその断片を含む、
アフィニティー担体。
〔2〕前記VHH抗体変異体が、変異前のVHH抗体に対して、少なくとも1個のヒスチジンが挿入されているか又は少なくとも1個のアミノ酸残基がヒスチジンに置換されている相補性決定領域を有する、〔1〕記載のアフィニティー担体。
〔3〕前記変異前のVHH抗体が、配列番号1〜4のいずれかのアミノ酸配列と少なくとも85%同一なアミノ酸配列からなり、かつトラスツズマブのFab領域に対して親和性を有するポリペプチドである、〔2〕記載のアフィニティー担体。
〔4〕前記相補性決定領域がCDR3である、〔2〕又は〔3〕記載のアフィニティー担体。
〔5〕前記VHH抗体変異体が、前記配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも85%同一なアミノ酸配列において、配列番号1のアミノ酸配列の97位に相当する位置、100位に相当する位置及び102位に相当する位置からなる群より選択される少なくとも1つの位置におけるアミノ酸残基がヒスチジンに置換されているアミノ酸配列からなるポリペプチドである、〔4〕記載のアフィニティー担体。
〔6〕前記配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも85%同一なアミノ酸配列が、配列番号1の26〜35位領域に相当するCDR1領域に配列番号10のアミノ酸配列を、配列番号1の51〜65位領域に相当するCDR2領域に配列番号11のアミノ酸配列を、配列番号1の96〜107位領域に相当するCDR3領域に配列番号12のアミノ酸配列を有し、
前記配列番号2のアミノ酸配列と少なくとも85%同一なアミノ酸配列が、配列番号2の26〜37位領域に相当するCDR1領域に配列番号13のアミノ酸配列を、配列番号2の53〜68位領域に相当するCDR2領域に配列番号14のアミノ酸配列を、配列番号2の99〜118位領域に相当するCDR3領域に配列番号15のアミノ酸配列を有し、
前記配列番号3のアミノ酸配列と少なくとも85%同一なアミノ酸配列が、配列番号3の26〜35位領域に相当するCDR1領域に配列番号16のアミノ酸配列を、配列番号3の51〜66位領域に相当するCDR2領域に配列番号17のアミノ酸配列を、配列番号3の97〜116位領域に相当するCDR3領域に配列番号18のアミノ酸配列を有し、
前記配列番号4のアミノ酸配列と少なくとも85%同一なアミノ酸配列が、配列番号4の26〜35位領域に相当するCDR1領域に配列番号19のアミノ酸配列を、配列番号4の51〜66位領域に相当するCDR2領域に配列番号20のアミノ酸配列を、配列番号4の97〜116位領域に相当するCDR3領域に配列番号21のアミノ酸配列を有する、
〔3〕〜〔5〕のいずれか1項記載のアフィニティー担体。
〔7〕前記VHH抗体変異体が、前記変異前のVHH抗体のアミノ酸配列における少なくとも1個のリジンがアルギニンに置換されているアミノ酸配列からなる、〔2〕〜〔6〕のいずれか1項記載のアフィニティー担体。
〔8〕前記VHH抗体変異体が、変異前のVHH抗体のアミノ酸配列における少なくとも1個のリジンがアルギニンに置換されているアミノ酸配列からなる、〔1〕記載のアフィニティー担体。
〔9〕前記変異前のVHH抗体が、配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも85%同一なアミノ酸配列からなり、トラスツズマブのFab領域に対して親和性を有するポリペプチドである、〔8〕記載のアフィニティー担体。
〔10〕前記VHH抗体変異体が、前記配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも85%同一なアミノ酸配列において、配列番号1のアミノ酸配列の43位に相当する位置、53位に相当する位置、64位に相当する位置、75位に相当する位置及び86位に相当する位置からなる群より選択される少なくとも1つの位置にアルギニンを有するアミノ酸配列からなるポリペプチドである、〔9〕記載のアフィニティー担体。
〔11〕前記配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも85%同一なアミノ酸配列が、配列番号1の26〜35位領域に相当するCDR1領域に配列番号10のアミノ酸配列を、配列番号1の51〜65位領域に相当するCDR2領域に配列番号11のアミノ酸配列を、配列番号1の96〜107位領域に相当するCDR3領域に配列番号12のアミノ酸配列を有する、〔9〕又は〔10〕記載のアフィニティー担体。
〔12〕アフィニティー担体であって、
固相担体と、該固相担体に結合したイムノグロブリン結合タンパク質とを含み、
該イムノグロブリン結合タンパク質が、配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも85%同一なアミノ酸配列であって、配列番号1のアミノ酸配列の97位に相当する位置、100位に相当する位置及び102位に相当する位置からなる群より選択される少なくとも1つの位置にヒスチジンを有するアミノ酸配列からなるポリペプチドを含む、
アフィニティー担体。
〔13〕前記配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも85%同一なアミノ酸配列が、配列番号1の26〜35位領域に相当するCDR1領域に配列番号10のアミノ酸配列を、配列番号1の51〜65位領域に相当するCDR2領域に配列番号11のアミノ酸配列を、配列番号1の96〜107位領域に相当するCDR3領域に配列番号12のアミノ酸配列を有する、〔12〕記載のアフィニティー担体。
〔14〕前記イムノグロブリン結合タンパク質が配列番号5〜8のいずれかのアミノ酸配列からなるポリペプチドを含む、〔12〕記載のアフィニティー担体。
〔15〕アフィニティー担体であって、
固相担体と、該固相担体に結合したイムノグロブリン結合タンパク質とを含み、
該イムノグロブリン結合タンパク質が、配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも85%同一なアミノ酸配列であって、配列番号1のアミノ酸配列の43位に相当する位置、53位に相当する位置、64位に相当する位置、75位に相当する位置及び86位に相当する位置からなる群より選択される少なくとも1つの位置にアルギニンを有するアミノ酸配列からなるポリペプチドを含む、
アフィニティー担体。
〔16〕前記配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも85%同一なアミノ酸配列が、配列番号1の26〜35位領域に相当するCDR1領域に配列番号10のアミノ酸配列を、配列番号1の51〜65位領域に相当するCDR2領域に配列番号11のアミノ酸配列を、配列番号1の96〜107位領域に相当するCDR3領域に配列番号12のアミノ酸配列を有する、〔15〕記載のアフィニティー担体。
〔17〕前記イムノグロブリン結合タンパク質が配列番号9のアミノ酸配列からなるポリペプチドを含む、〔15〕記載のアフィニティー担体。
〔18〕〔1〕〜〔17〕のいずれかに記載のアフィニティー担体を用いる、イムノグロブリン又はその断片の単離方法。
本発明のアフィニティー担体は、親抗体と比べてイムノグロブリンの溶出挙動もしくは結合容量が向上している。本発明のアフィニティー担体により、イムノグロブリン又はその断片の製造効率を向上させることができる。
本発明のVHH抗体変異体のイムノグロブリン結合解離挙動。横軸の「pH2.0」は、pH2.0の溶離液を流した時間を表す。 本発明のVHH抗体変異体をリガンドとするアフィニティー担体からのイムノグロブリン溶出挙動。
本願明細書において、「イムノグロブリン結合タンパク質」とは、イムノグロブリン又はその断片に対する結合活性を有するタンパク質をいう。本明細書において、「イムノグロブリン」(Ig)は、IgG、IgA、IgD、IgE、IgM、及びこれらのサブクラス等の任意のクラスのイムノグロブリンを含む。本明細書において、イムノグロブリンの断片としては、Fab、Fab’、F(ab’)、Fv、還元型IgG(rIgG)等の抗原認識部位を有するイムノグロブリンの重鎖と軽鎖の複合体を含むイムノグロブリン断片が挙げられる。
本明細書において、「抗体」とは、イムノグロブリンの可変領域に位置する少なくとも1つの抗原認識部位を介してポリヌクレオチド等の標的に特異的に結合可能な分子をいう。本明細書における「抗体」は、IgG、IgA、IgD、IgE、IgM、及びこれらのサブクラス等の任意のクラスのイムノグロブリン、その断片(Fab、Fab’、F(ab’)、Fv、rIgG等)、1本鎖抗体(ScFv)、重鎖抗体、VHH(variable domain of heavy chain of heavy chain antibody)抗体、これらの変異体などを含み得る。また本明細書における「抗体」は、ヒト化抗体等のキメラ抗体、抗体複合体、および抗原認識部位を含む他のイムノグロブリン修飾体などであってもよい。
本明細書において、「VHH抗体」とは、重鎖抗体の重鎖可変ドメイン(VHH)を含む抗体をいい、好ましくはVHHからなるシングルドメイン抗体をいう。重鎖抗体はラクダ科動物等から見出されており、本発明で用いるVHH抗体は、好ましくはラクダ科動物由来である。本発明で使用されるVHH抗体には、重鎖抗体の定常領域のフラグメントが含まれていてもよい。
本明細書において、ラクダ科動物としては、フタコブラクダ、ヒトコブラクダ、ラマ、アルパカ、ビクーニャ、グアナコなどが挙げられ、好ましくはアルパカが挙げられる。
本明細書において、「抗体医薬」とは、抗体を主成分とする医薬をいう。多くの場合、該主成分の抗体はモノクローナル抗体である。抗体医薬としては、抗がん剤であるリツキシマブ(リツキサン(登録商標))、トラスツズマブ(ハーセプチン(登録商標))、ベバシズマブ(アバスチン(登録商標))、抗リウマチ薬であるインフリキシマブ(レミケード(登録商標))、アダリムマブ(ヒュミラ(登録商標))、血管新生阻害剤であるラニビズマブ(ルセンティス(登録商標))、等が上市されているが、本明細書で言及する抗体医薬は、これらに限定されるものではない。
本願明細書において、「エピトープ」とは、抗原上における、抗体に認識されて結合される抗体との相互作用部位をいう。
本明細書において、アミノ酸配列やヌクレオチド配列の同一性は、カーリンとアルチュールによるBLASTアルゴリズム(Pro. Natl. Acad. Sci. USA, 1993, 90:5873-5877)を用いて決定することができる。このBLASTアルゴリズムに基づいて、BLASTN、BLASTX、BLASTP、TBLASTN及びTBLASTXとよばれるプログラムが開発されている(J. Mol. Biol., 1990, 215:403-410)。これらのプログラムを用いる場合には、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いることができる。これらの解析方法の具体的な手法は公知である(www.ncbi.nlm.nih.gov参照)。
本明細書において、アミノ酸配列及びヌクレオチド配列に関する「少なくとも85%の同一性」とは、85%以上の同一性、好ましくは90%以上の同一性、より好ましくは95%以上の同一性、さらに好ましくは97%以上の同一性、さらに好ましくは98%以上の同一性、なお好ましくは99%以上、なお好ましくは100%の同一性をいう。
本明細書において、アミノ酸配列及びヌクレオチド配列上の「相当する位置」は、目的配列と参照配列(例えば、配列番号1のアミノ酸配列)とを、各アミノ酸配列又はヌクレオチド配列中に存在する保存アミノ酸残基又はヌクレオチドに最大の相同性を与えるように整列(アラインメント)させることにより決定することができる。アラインメントは、公知のアルゴリズムを用いて実行することができ、その手順は当業者に公知である。例えば、アラインメントは、Clustal Wマルチプルアラインメントプログラム(Thompson, J. D. et al, 1994, Nucleic Acids Res., 22:4673-4680)をデフォルト設定で用いることにより行うことができる。Clustal Wは、例えば、欧州バイオインフォマティクス研究所(European Bioinformatics Institute: EBI [www.ebi.ac.uk/index.html])や、国立遺伝学研究所が運営する日本DNAデータバンク(DDBJ [www.ddbj.nig.ac.jp/Welcome-j.html])のウェブサイト上で利用することができる。
本明細書において、アミノ酸残基は次の略号でも記載される:アラニン(Ala又はA)、アルギニン(Arg又はR)、アスパラギン(Asn又はN)、アスパラギン酸(Asp又はD)、システイン(Cys又はC)、グルタミン(Gln又はQ)、グルタミン酸(Glu又はE)、グリシン(Gly又はG)、ヒスチジン(His又はH)、イソロイシン(Ile又はI)、ロイシン(Leu又はL)、リジン(Lys又はK)、メチオニン(Met又はM)、フェニルアラニン(Phe又はF)、プロリン(Pro又はP)、セリン(Ser又はS)、トレオニン(Thr又はT)、トリプトファン(Trp又はW)、チロシン(Tyr又はY)、バリン(Val又はV);及び任意のアミノ酸残基(Xaa又はX)。また本明細書において、ペプチドのアミノ酸配列は、常法に従って、アミノ末端(以下N末端という)が左側、カルボキシル末端(以下C末端という)が右側に位置するように記載される。
本発明が提供するアフィニティー担体は、固相担体と、該固相担体に結合したイムノグロブリン結合タンパク質とを含む。本発明のアフィニティー担体に含まれる該イムノグロブリン結合タンパク質は、1個以上のVHH抗体変異体又はその断片を含み、好ましくは1個以上のVHH抗体変異体を含む。該イムノグロブリン結合タンパク質が2個以上のVHH抗体変異体又はその断片を含む場合、各変異体又はその断片は、直接又はリンカーペプチドを介して互いに連結されていることが好ましい。一実施形態において、該イムノグロブリン結合タンパク質は、1個以上のVHH抗体変異体又はその断片から本質的に構成される。別の実施形態において、該イムノグロブリン結合タンパク質は、1個以上のVHH抗体変異体又はその断片、及びリンカーペプチドから本質的に構成される。
本発明のアフィニティー担体に含まれる該VHH抗体変異体又はその断片は、イムノグロブリンのFab領域にあるエピトープに対して特異的に結合する。この結合特性は、従来リガンドとして一般的に使用されてきた、イムノグロブリンFc領域に結合するプロテインAドメインとは異なる。したがって、該VHH抗体変異体又はその断片を用いたアフィニティー精製により、Fc領域を有する完全体の抗体分子だけでなく、Fabのような断片化抗体をも単離することが可能になる。
本発明で用いられるVHH抗体変異体又はその断片は、配列番号22のアミノ酸配列の127〜184位、及び配列番号23のアミノ酸配列の13〜210位からなる群より選択される少なくとも1つの領域、好ましくは両領域におけるエピトープを認識する。これらのエピトープ領域はそれぞれ、トラスツズマブのFabの軽鎖(配列番号22)内領域、及び重鎖(配列番号23)内領域に相当する。より詳細には、該VHH抗体変異体又はその断片の認識するエピトープは、配列番号22のアミノ酸配列の127−129位、157−158位、180−182位、及び184位、ならびに配列番号23のアミノ酸配列の13位、119−125位、150−151位、153位、177−182位、及び210位からなる群より選択される少なくとも1つの部位であり、好ましくはそれらの複数の部位、より好ましくはそれらの部位の全部である。
本発明で用いられるVHH抗体変異体の元となる変異前のVHH抗体を、本明細書において「親VHH抗体」と呼ぶことがある。当該本発明のVHH抗体変異体の親VHH抗体の例としては、野生型重鎖抗体由来のVHH抗体(野生型VHH抗体とも呼ぶ)、及び該野生型VHH抗体と同じ抗原結合性を有するその変異体が挙げられる。
当該親VHH抗体の好ましい例としては、配列番号1〜4のいずれかのアミノ酸配列からなるポリペプチドが挙げられる。配列番号1〜4は、トラスツズマブのFab領域に対して親和性を有する、ラクダ科動物由来の野生型VHH抗体のアミノ酸配列を表す。したがって、本発明の変異体の親VHH抗体のさらなる例としては、配列番号1〜4のいずれかのアミノ酸配列と少なくとも85%同一なアミノ酸配列からなり、かつトラスツズマブのFab領域に対して親和性を有するポリペプチドが挙げられる。より好ましくは、当該親VHH抗体は、配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも85%同一なアミノ酸配列からなり、かつトラスツズマブのFab領域に対して親和性を有するポリペプチドである。好ましくは、該親VHH抗体はラクダ科動物由来のVHH抗体であり、したがって、本発明で用いられるVHH抗体変異体は、好ましくはラクダ科動物由来のVHH抗体の変異体である。
配列番号1〜4のアミノ酸配列からなる親VHH抗体は、そのアミノ酸配列中に、CDR1〜3の3つの相補性決定領域(CDR)を有する:
配列番号1のVHH抗体は、配列番号1の26〜35位に配列番号10のアミノ酸配列からなるCDR1、51〜65位に配列番号11のアミノ酸配列からなるCDR2、96〜107位に配列番号12のアミノ酸配列からなるCDR3を有する;
配列番号2のVHH抗体は、配列番号2の26〜37位に配列番号13のアミノ酸配列からなるCDR1、53〜68位に配列番号14のアミノ酸配列からなるCDR2、99〜118位に配列番号15のアミノ酸配列からなるCDR3を有する;
配列番号3のVHH抗体は、配列番号3の26〜35位に配列番号16のアミノ酸配列からなるCDR1、51〜66位に配列番号17のアミノ酸配列からなるCDR2、97〜116位に配列番号18のアミノ酸配列からなるCDR3を有する;
配列番号4のVHH抗体は、配列番号4の26〜35位に配列番号19のアミノ酸配列からなるCDR1、51〜66位に配列番号20のアミノ酸配列からなるCDR2、97〜116位に配列番号21のアミノ酸配列からなるCDR3を有する。
好ましくは、配列番号1〜4のいずれかのアミノ酸配列と少なくとも85%同一なアミノ酸配列からなり、かつトラスツズマブのFab領域に対して親和性を有するポリペプチドである親VHH抗体は、配列番号1〜4の親VHH抗体と同等の相補性決定領域CDR1〜3を有する:
好ましくは、配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも85%同一なアミノ酸配列からなり、かつトラスツズマブのFab領域に対して親和性を有するポリペプチドは、配列番号1の26〜35位に相当する領域に配列番号10のアミノ酸配列からなるCDR1、51〜65位に相当する領域に配列番号11のアミノ酸配列からなるCDR2、96〜107位に相当する領域に配列番号12のアミノ酸配列からなるCDR3を有する;
好ましくは、配列番号2のアミノ酸配列と少なくとも85%同一なアミノ酸配列からなり、かつトラスツズマブのFab領域に対して親和性を有するポリペプチドは、配列番号2の26〜37位に相当する領域に配列番号13のアミノ酸配列からなるCDR1、53〜68位に相当する領域に配列番号14のアミノ酸配列からなるCDR2、99〜118位に相当する領域に配列番号15のアミノ酸配列からなるCDR3を有する;
好ましくは、配列番号3のアミノ酸配列と少なくとも85%同一なアミノ酸配列からなり、かつトラスツズマブのFab領域に対して親和性を有するポリペプチドは、配列番号3の26〜35位に相当する領域に配列番号16のアミノ酸配列からなるCDR1、51〜66位に相当する領域に配列番号17のアミノ酸配列からなるCDR2、97〜116位に相当する領域に配列番号18のアミノ酸配列からなるCDR3を有する;
好ましくは、配列番号4のアミノ酸配列と少なくとも85%同一なアミノ酸配列からなり、かつトラスツズマブのFab領域に対して親和性を有するポリペプチドは、配列番号4の26〜35位に相当する領域に配列番号19のアミノ酸配列からなるCDR1、51〜66位に相当する領域に配列番号20のアミノ酸配列からなるCDR2、97〜116位に相当する領域に配列番号21のアミノ酸配列からなるCDR3を有する。
本発明で用いられるVHH抗体変異体は、上記親VHH抗体のアミノ酸残基を変異させることによって得られる。一実施形態において、当該VHH抗体変異体は、親VHH抗体のCDRに対して少なくとも1個のHisを挿入するか、又は親VHH抗体のCDRにおいて少なくとも1個のアミノ酸残基をHisに置換することによって得られる。このようにして得られるVHH抗体変異体を、以下の本明細書において、「本発明のHis変異体」と呼ぶことがある。該Hisの挿入又は置換がなされる親VHH抗体のCDRは、好ましくは、上述したCDR1〜3からなる群より選択される少なくとも1つであればよく、より好ましくはCDR3である。
好ましい実施形態において、本発明のHis変異体は、配列番号1〜4のアミノ酸配列と少なくとも85%同一なアミノ酸配列からなり、かつトラスツズマブのFab領域に対して親和性を有するポリペプチドのCDR3に対して、少なくとも1個のHisを挿入するか、又は該CDR3において、少なくとも1個のアミノ酸残基をHisに置換することによって得られる。より好ましい実施形態において、本発明のHis変異体は、配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも85%同一なアミノ酸配列からなり、かつトラスツズマブのFab領域に対して親和性を有するポリペプチドのCDR3において、少なくとも1個のアミノ酸残基をHisに置換することによって得られる。さらに好ましい実施形態において、本発明のHis変異体は、配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも85%同一なアミノ酸配列からなり、かつトラスツズマブのFab領域に対して親和性を有するポリペプチドのCDR3において、配列番号1のアミノ酸配列の97位に相当する位置、100位に相当する位置及び102位に相当する位置からなる群より選択される少なくとも1つの位置におけるアミノ酸残基をHisに置換することによって得られる。好ましくは、Hisに置換されるべきアミノ酸残基は、配列番号1の97位に相当する位置のアミノ酸残基、100位に相当する位置のアミノ酸残基、102位に相当する位置のアミノ酸残基、又は100位及び102位に相当する位置のアミノ酸残基である。
かくして得られた本発明のHis変異体は、親VHH抗体に対して少なくとも1個のHisが挿入されているか又は少なくとも1個のアミノ酸残基がHisに置換されているCDRを有する。好ましくは、本発明のHis変異体は、親VHH抗体に対して少なくとも1個のHisが挿入されているか又は少なくとも1個のアミノ酸残基がHisに置換されているCDR3を有する。より好ましくは、本発明のHis変異体は、親VHH抗体に対して少なくとも1個のアミノ酸残基がHisに置換されているCDR3を有する。本発明のHis変異体は、好ましくは、上述したHisの挿入又は置換以外は、親VHH抗体と同一なアミノ酸配列のCDRを有する。好ましくは、該親VHH抗体は、配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも85%同一なアミノ酸配列からなり、かつトラスツズマブのFab領域に対して親和性を有するポリペプチドである。
好ましい実施形態において、本発明のHis変異体は、配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも85%同一なアミノ酸配列であって、配列番号1のアミノ酸配列の97位に相当する位置、100位に相当する位置及び102位に相当する位置からなる群より選択される少なくとも1つの位置にHisを有するアミノ酸配列からなる。より好ましくは、本発明のHis変異体は、配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも85%同一で、かつ配列番号1の26〜35位に相当する領域に配列番号10のアミノ酸配列からなるCDR1、51〜65位に相当する領域に配列番号11のアミノ酸配列からなるCDR2、96〜107位に相当する領域に配列番号12のアミノ酸配列からなるCDR3を有するアミノ酸配列であって、ただし配列番号1のアミノ酸配列の97位に相当する位置、100位に相当する位置及び102位に相当する位置からなる群より選択される少なくとも1つの位置にHisを有するアミノ酸配列からなる。さらに好ましくは、本発明のHis変異体は、配列番号1のアミノ酸配列であって、その97位に相当する位置、100位に相当する位置、102位に相当する位置、又は100位及び102位に相当する位置にHisを有するアミノ酸配列からなる。当該His変異体のアミノ酸配列と配列番号1のアミノ酸配列との同一性は、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上、さらに好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上である。
本発明のHis変異体の好ましい例としては、配列番号5〜8のアミノ酸配列からなるポリペプチドが挙げられる。
本発明のHis変異体は、上述した本発明で用いられるVHH抗体変異体が認識するエピトープを認識する。好ましくは、本発明のHis変異体は、トラスツズマブのFab領域に結合することができる。
さらなる実施形態において、本発明で用いられるVHH抗体変異体は、親VHH抗体のアミノ酸配列における少なくとも1個のLysをArgに置換することによって得られる。このようにして得られるVHH抗体変異体を、以下の本明細書において、「本発明のArg変異体」と呼ぶことがある。
好ましい実施形態において、本発明のArg変異体は、配列番号1〜4のアミノ酸配列と少なくとも85%同一なアミノ酸配列からなり、かつトラスツズマブのFab領域に対して親和性を有するポリペプチドのアミノ酸配列において、少なくとも1個のLysをArgに置換することによって得られる。より好ましい実施形態において、本発明のArg変異体は、配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも85%同一なアミノ酸配列からなり、かつトラスツズマブのFab領域に対して親和性を有するポリペプチドのアミノ酸配列において、配列番号1のアミノ酸配列の43位に相当する位置、53位に相当する位置、64位に相当する位置、75位に相当する位置及び86位に相当する位置からなる群より選択される少なくとも1つの位置におけるLysをArgに置換することによって得られる。好ましくは、配列番号1の43位、53位、64位、75位及び86位に相当する位置のLysが、Argに置換される。
かくして得られた本発明のArg変異体は、親VHH抗体のアミノ酸配列における少なくとも1個のLysがArgに置換されているアミノ酸配列からなる。本発明のArg変異体は、好ましくは、上述したArg置換以外は、親VHH抗体と同一なアミノ酸配列のCDRを有する。好ましくは、該親VHH抗体は、配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも85%同一なアミノ酸配列からなり、かつトラスツズマブのFab領域に対して親和性を有するポリペプチドである。
好ましい実施形態において、本発明のArg変異体は、配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも85%同一なアミノ酸配列であって、配列番号1のアミノ酸配列の43位に相当する位置、53位に相当する位置、64位に相当する位置、75位に相当する位置及び86位に相当する位置からなる群より選択される少なくとも1つの位置にArgを有するアミノ酸配列からなる。より好ましくは、本発明のArg変異体は、配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも85%同一で、かつ配列番号1の26〜35位に相当する領域に配列番号10のアミノ酸配列からなるCDR1、51〜65位に相当する領域に配列番号11のアミノ酸配列からなるCDR2、96〜107位に相当する領域に配列番号12のアミノ酸配列からなるCDR3を有するアミノ酸配列であって、ただし配列番号1のアミノ酸配列の43位に相当する位置、53位に相当する位置、64位に相当する位置、75位に相当する位置及び86位に相当する位置からなる群より選択される少なくとも1つの位置にArgを有するアミノ酸配列からなる。さらに好ましくは、本発明のArg変異体は、配列番号1のアミノ酸配列であって、その43位、53位、64位、75位及び86位に相当する位置にArgを有するアミノ酸配列からなる。当該Arg変異体のアミノ酸配列と配列番号1のアミノ酸配列との同一性は、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上である。
本発明のArg変異体の好ましい例としては、配列番号9のアミノ酸配列からなるポリペプチドが挙げられる。
本発明のArg変異体は、上述した本発明で用いられるVHH抗体変異体が認識するエピトープを認識する。好ましくは、本発明のArg変異体は、トラスツズマブのFab領域に結合することができる。
さらなる実施形態において、本発明で用いられるVHH抗体変異体は、配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも85%同一なアミノ酸配列からなり、かつトラスツズマブのFab領域に対して親和性を有するポリペプチドのアミノ酸配列において、配列番号1のアミノ酸配列の84位に相当する位置のSerを他のアミノ酸残基で置換することによって得られる。このようにして得られるVHH抗体変異体を、以下の本明細書において、「本発明のS84X変異体」と呼ぶことがある。好ましくは、該84位に相当する位置のSerと置換されるアミノ酸残基は、Ala、Val又はThrである。
かくして得られた本発明のS84X変異体は、配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも85%同一なアミノ酸配列であって、配列番号1のアミノ酸配列の84位に相当する位置にAla、Val又はThrを有するアミノ酸配列からなる。より好ましくは、本発明のS84X変異体は、配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも85%同一で、かつ配列番号1の26〜35位に相当する領域に配列番号10のアミノ酸配列からなるCDR1、51〜65位に相当する領域に配列番号11のアミノ酸配列からなるCDR2、96〜107位に相当する領域に配列番号12のアミノ酸配列からなるCDR3を有するアミノ酸配列であって、かつ配列番号1のアミノ酸配列の84位に相当する位置にAla、Val又はThrを有するアミノ酸配列からなる。当該S84X変異体のアミノ酸配列と配列番号1のアミノ酸配列との同一性は、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上、さらに好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上である。
本発明のS84X変異体は、上述した本発明で用いられるVHH抗体変異体が認識するエピトープを認識する。好ましくは、本発明のS84X変異体は、トラスツズマブのFab領域に結合することができる。
本発明で用いられるVHH抗体変異体は、上述した本発明のHis変異体、本発明のArg変異体、もしくは本発明のS84X変異体であってもよく、又はそれらの変異を組み合わせた多重変異体であってもよい。好ましくは、該多重変異体は、該His変異体かつArg変異体である多重変異体である。いずれの場合であっても、該VHH抗体変異体は、上述したエピトープを認識し、好ましくはトラスツズマブのFab領域に結合することができる。
本発明で用いられるVHH抗体変異体の断片は、上述した本発明のHis変異体、本発明のArg変異体、もしくは本発明のS84X変異体の断片、又はそれらの多重変異体の断片であり得る。本発明で用いられる該VHH抗体変異体の断片は、上述した本発明で用いられるVHH抗体変異体が認識するエピトープを認識し、好ましくはトラスツズマブのFab領域に結合することができる。
本発明で用いられるVHH抗体変異体又はその断片は、当該分野で公知の手法、例えばアミノ酸配列に基づく化学合成法、リコンビナント法などにより製造することができる。例えば、該VHH抗体変異体又はその断片は、該変異体又はその断片をコードするポリヌクレオチド(DNA等)をベクターに組み込み、このベクターで宿主細胞を形質転換し、得られた形質転換体を培地中で培養し、発現した抗体又はその断片を回収することにより得ることができる。当該VHH抗体変異体又はその断片をコードするポリヌクレオチドは、親VHH抗体をコードするポリヌクレオチドに対して、そのコードするポリペプチドに上述したHisの挿入又は置換やArgの置換などが生じるように変異導入することによって得ることができる。ポリヌクレオチドに対する変異導入のための具体的な手法としては、部位特異的突然変異、相同組換え法、SOE(splicing by overlap extension)−PCR法(Gene,1989,77:61−68)などを挙げることができる。ポリヌクレオチドに対する変異導入の詳細な手順は当業者に周知である。
形質転換に用いられる宿主としては、大腸菌などの細菌、酵母、真菌などの微生物が挙げられ、大腸菌が好ましい。形質転換に用いられるベクターとしては、宿主細胞内で複製可能な既知のベクター(プラスミド等)のいずれをも用いることができ、発現ベクターが好ましい。好ましい発現ベクターとしては、宿主細胞内で複製可能な既知のベクターのいずれをも用いることができ、例えば、米国特許第5,151,350号明細書に記載されているプラスミドや、Sambrookら編集のMolecular Cloning(Cold Spring Harbor Laboratory Press, 3rd edition, 2001)などに記載されているプラスミドが挙げられる。形質転換の手段としては、各宿主に応じて当該技術分野において知られるいずれの方法を用いてもよく、例えば、Sambrookら編集のMolecular Cloning(Cold Spring Harbor Laboratory Press,3rd edition,2001)などに記載されている公知の方法を利用することができる。得られた形質転換体(例えば微生物細胞)を培養して発現されたタンパク質を回収する方法は、当業者によく知られている。あるいは、該VHH抗体変異体又はその断片は、無細胞タンパク質合成系を用いて発現させてもよい。
本発明のアフィニティー担体に用いるイムノグロブリン結合タンパク質として、2個以上の当該VHH抗体変異体又はその断片を含むイムノグロブリン結合タンパク質を製造する場合、該VHH抗体変異体又はその断片をコードするポリヌクレオチドを2個以上連結したポリヌクレオチドを作製し、これを前述した手順でベクターに組み込み、該ベクターで宿主細胞を形質転換し、得られた形質転換体を培養して、発現した目的タンパク質を回収すればよい。
したがって、本発明はまた、上述した本発明で用いられるVHH抗体変異体をコードするポリヌクレオチド、それを含むベクター、及び該ポリヌクレオチド又はベクターを含む形質転換体を提供する。
上述したVHH抗体変異体又はその断片を含むイムノグロブリン結合タンパク質は、アフィニティーリガンドとして使用することができる。本発明のイムノグロブリン結合タンパク質を固相担体に固定化することによって、本発明のアフィニティー担体を製造することができる。本発明のアフィニティー担体に用いられる固相担体は、好ましくは不溶性担体である。好ましくは、本発明のアフィニティー担体は、アフィニティークロマトグラフィー用担体である。
当該固相担体としては、合成高分子系支持体、天然高分子系支持体等の有機系支持体;無機系支持体;これらを組み合わせた有機−有機複合系支持体や有機−無機複合系支持体等が挙げられる。合成高分子系支持体としては、例えば、ポリビニルアルコール類、ポリ(メタ)アクリレート類、ポリ(メタ)アクリルアミド類、ポリスチレン類、エチレン−無水マレイン酸共重合物等で構成されるものが挙げられる。天然高分子系支持体としては、例えば、アガロース、デキストラン、マンナン、セルロース等の多糖類で構成されるものが挙げられる。また、これを物理架橋や化学架橋したものでもよい。無機系支持体としては、ガラスビーズ、シリカゲル、金属、金属酸化物等で構成されるものが挙げられる。これらの中でも、流速特性の観点から、合成高分子系支持体が好ましい。本発明のアフィニティー担体は、支持体として合成高分子系支持体を使用した場合でも、防汚性を充分に備える。合成高分子系支持体としては、単官能不飽和モノマーと多官能不飽和モノマーとの共重合体が好ましく、単官能不飽和モノマーとしては、エポキシ基又は開環エポキシ基をもつ単官能不飽和モノマーが好ましい。多官能不飽和モノマーの使用量は、単官能不飽和モノマー100質量部に対して、通常1〜100質量部、好ましくは1〜50質量部である。
支持体は、非多孔質でも多孔質でもよいが、多孔質であることが好ましい。また、支持体の形態は、粒子状、モノリス状、板状、チップ状、繊維状、膜状(中空糸を含む)等のいずれでもよいが、標的物質捕捉特性の観点から、粒子状、モノリス状、板状、繊維状、膜状が好ましく、粒子状がより好ましい。
支持体が粒子である場合、その粒径は、流速特性の観点から、好ましくは30μm以上であり、また、標的物質捕捉特性の観点から、好ましくは300μm以下である。斯かる粒径は、重合する際の条件や分級等により調整できる。なお、本発明における「粒径」とは、レーザ回折散乱式粒度分布測定装置により得られる体積平均粒子径を意味する。
支持体が多孔質粒子である場合、その比表面積は、孔径10〜5000nmの範囲に相当するポアを測定したときに、ポアサイズ10nm〜5000nmにおける比表面積で、好ましくは70m2/g以上であり、より好ましくは90m2/g以上である。なお、本発明における「比表面積」とは、水銀ポロシメータにより得られる細孔径10〜5000nmの細孔の有する表面積を粒子の乾燥質量で除した値である。
支持体は、市販品を用いても、常法に従い合成したものを用いてもよい。例えば、合成高分子系支持体は、特公昭58−058026号公報、特開昭53−090991号公報等に記載の公知の方法に従って得ることができる。
当該固相担体へのリガンド(イムノグロブリン結合タンパク質)の結合方法としては、タンパク質を担体に固定化する一般的方法を用いて行うことができる。例えば、カルボキシ基を有する担体を用い、このカルボキシ基をN−ヒドロキシコハク酸イミドにより活性化させリガンドのアミノ基と反応させる方法;アミノ基又はカルボキシ基を有する担体を用い、水溶性カルボジイミド等の脱水縮合剤存在下でリガンドのカルボキシ基又はアミノ基と反応させアミド結合を形成する方法;水酸基を有する担体を用い、臭化シアン等のハロゲン化シアンで活性化させてリガンドのアミノ基と反応させる方法;担体の水酸基をトシル化又はトレシル化しリガンドのアミノ基と反応させる方法;ビスエポキシド、エピクロロヒドリン等によりエポキシ基を担体に導入し、リガンドのアミノ基、水酸基又はチオール基と反応させる方法;エポキシ基を有する担体を用い、リガンドのアミノ基又、水酸基又はチオール基と反応させる方法、などが挙げられる。上記のうち、反応を実施する水溶液中での安定性の観点からは、エポキシ基を介してリガンドを結合させる方法が望ましい。
エポキシ基が開環して生成する開環エポキシ基であるアルコール性水酸基は、担体表面を親水化し、タンパク質などの非特異吸着を防止すると共に、水中で担体の靱性を向上させ、高流速下の担体の破壊を防止する役割を果たす。したがって、リガンドを固定化させた後の担体中にリガンドと結合していない残余のエポキシ基が存在している場合、当該残余のエポキシ基を開環させることが好ましい。担体中のエポキシ基の開環方法としては、例えば、水溶媒中で、酸又はアルカリにより、加熱又は室温で該担体を撹拌する方法を挙げることができる。また、メルカプトエタノール、チオグリセロール等のメルカプト基を有するブロッキング剤やモノエタノールアミン等のアミノ基を有するブロッキング剤で、エポキシ基を開環させても良い。より好ましい開環エポキシ基は、担体に含まれるエポキシ基をチオグリセロールにより開環させて得られる開環エポキシ基である。チオグリセロールは、原料としてメルカプトエタノール等よりも毒性が低く、またチオグリセロールが付加したエポキシ開環基は、アミノ基を有するブロッキング剤による開環基よりも非特異吸着が低い上に、動的結合量が高くなる、といった利点を有する。
必要に応じて、固相担体とリガンドの間に任意の長さの分子(スペーサー)を導入してもよい。スペーサーの例としては、ポリメチレン鎖、ポリエチレングリコール鎖、糖類などが挙げられる。
本発明のアフィニティー担体は、完全体のイムノグロブリン分子だけでなく、Fab等の断片化抗体をも単離することができる。したがって、本発明はさらに、本発明のアフィニティー担体を用いる、イムノグロブリン又はその断片の単離方法を提供する。本発明で単離されるイムノグロブリン又はその断片は、好ましくは抗体であり、より好ましい例としては、IgG、IgA、IgD、IgE、IgM、及びこれらのサブクラス等の任意のクラスのイムノグロブリン、ならびにその断片(例えばFab、Fab’、F(ab’)、rIgG等)が挙げられる。
本発明の一実施形態に係るイムノグロブリン又はその断片の単離方法を説明する。本実施形態に係るイムノグロブリン又はその断片の単離方法は、好適には、リガンド(上述したVHH抗体変異体又はその断片を含むイムノグロブリン結合タンパク質)を固定化したアフィニティー担体に、目的物質(イムノグロブリン又はその断片)を含有する試料を通液し、該担体に該目的物質を吸着させる工程(第一の工程)、及び、該担体から該目的物質を溶出させる工程(第二の工程)を含む。
当該第一の工程では、本発明のアフィニティー担体を充填したカラム等に、目的物質を含有する試料を、該目的物質がリガンドに吸着する条件にて流す。この第一の工程では、試料中の目的物質以外の物質のほとんどは、リガンドに吸着されずカラムを通過する。この後、必要に応じて、リガンドに弱く保持された一部の物質を除去するため、担体をNaClなどの塩を含む中性の緩衝液で洗浄してもよい。
当該第二の工程では、酸性の溶離液を流し、リガンドに吸着された目的物質を溶出させる。この溶出液を回収することで、試料から目的とするイムノグロブリン又はその断片を単離することができる。該溶離液のpHは、好ましくは2以上、より好ましくは2.5以上、さらに好ましくは3以上であり、一方、好ましくは5以下、より好ましくは4.5以下、さらに好ましくは4以下である。例えば、該溶離液のpHは、好ましくは2〜5、より好ましくは2〜4.5、より好ましくは2〜4、さらに好ましくは2.5〜5、さらに好ましくは2.5〜4.5、さらに好ましくは2.5〜4、なお好ましくは3〜5、なお好ましくは3〜4.5、なお好ましくは3〜4である。
本発明によるイムノグロブリン又はその断片の単離方法の一実施形態において、単離されたイムノグロブリン又はその断片は、抗体医薬として使用される。したがって、一実施形態において、本発明は、本発明のアフィニティー担体を用いる抗体医薬の製造方法を提供する。当該方法の手順は、抗体医薬に使用すべき目的のイムノグロブリン又はその断片を含有する試料を用いる以外は、基本的に上述したイムノグロブリン又はその断片の単離方法の手順と同様である。
以下、本発明を、実施例を挙げてさらに具体的に説明する。また、以下の記載は本発明の態様を概括的に示すものであり、特に理由なく、かかる記載により本発明は限定されるものではない。
参考例1 多孔質粒子の合成
(1)360gの純水にポリビニルアルコール(クラレ社製 PVA−217)3.58gを添加し、加熱撹拌してポリビニルアルコールを溶解させ、冷却した後、ドデシル硫酸ナトリウム(和光純薬工業製)0.36g、硫酸ナトリウム(和光純薬工業製)0.36g、及び亜硝酸ナトリウム(和光純薬工業製)0.18gを添加し、撹拌して水溶液Sを調製した。
(2)グリシジルメタクリレート(三菱レーヨン社製)12.00g及びジビニルベンゼン(新日鐵化学社製)1.33gからなる単量体組成物を、ジイソブチルケトン(三井化学社製)24.43gに溶解させ、単量体溶液を調製した。
(3)該水溶液Sを、500mLセパラブルフラスコ内に全量投入し、温度計、撹拌翼及び冷却管を装着して、温水バスにセットし、窒素雰囲気下で撹拌を開始した。このセパラブルフラスコ内に該単量体溶液を全量投入して、温水バスにより加温した。内温が85℃に到達したところで2,2’−アゾイソブチロニトリル(和光純薬工業社製)0.53gを添加した。
(4)得られた反応液を、86℃に温度を維持しながら、3時間撹拌した。次いで、反応液を冷却した後、ろ過し、純水とエタノールで洗浄した。洗浄した粒子を純水に分散させてデカンテーションを3回行い、小粒子を除いた。次いで、粒子の濃度が10質量%となるように粒子を純水に分散させ、分散液Aを得た。
(5)ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル66.00g、硫酸ナトリウム(和光純薬工業製)45.70gからなる組成物を、0.1M炭酸バッファー388.3gと混合させ、水溶液Eを調製した。
(6)チオグリコール酸(和光純薬工業製)23.03g、硫酸ナトリウム(和光純薬工業製)7.10gを純水に溶解させ、水酸化ナトリウム(和光純薬工業製)を加えてpH8.3、500mLとした水溶液Cを調製した。
(7)水溶液E及び分散液Aを吸引濾過したろ物を1Lのプラスチックボトルに加え、ローター式攪拌機にセットし、室温条件下で撹拌を開始した。2時間後、液をろ過し、純水で洗浄した。
(8)該ろ物17.00gと水溶液C全量を1Lのプラスチックボトルに加え、ローター式攪拌機にセットし、室温条件下で撹拌を開始した。4時間後、液をろ過し、純水、16vol%エタノールで洗浄した。次いで、粒子体積が50%(v/v)となるように、粒子を16vol%エタノールに分散させ、多孔質粒子(PB)分散液を得た。
実施例1 VHH抗体の作製
(1)VHH抗体2bS13の作製
配列番号1のアミノ酸配列からなり、トラスツズマブ(ハーセプチン(登録商標))に結合する、ラクダ科動物野生型重鎖抗体由来VHH抗体2bS13と、そのC末端に連結したPB固定化用リンカーペプチドとをコードするプラスミドを調製した。このプラスミドを用いて大腸菌コンピテントセルBL21(DE3)(NEW ENGLAND BIOLABS製)を形質転換した。得られた形質転換体を、吸光度(OD600)が約10に到達するまで37℃でインキュベートし、その後、終濃度で1mMになるようにIPTG(和光純薬工業製)を添加し、さらに5時間37℃でインキュベートして、組換えVHH抗体タンパク質を発現させた。タンパク質発現後、細胞を遠心分離により回収し、pH8.5のトリス緩衝液中に分散させ、ホモジナイザーを用いて細胞を破壊した。得られた菌体破壊固形分をグアニジン塩酸塩(和光純薬)の変性剤含有溶液で分散させ、BioPro SおよびBioPro Q(株式会社ワイエムシィ)によって2bS13を精製した。精製したタンパク質を、20mMリン酸緩衝液に対して複数回の透析を行いリフォールディングした。
(2)His置換変異VHH抗体の作製
2bS13のCDR3のアミノ酸残基をHisに置換した変異VHH抗体を作製した。配列番号1の97位アミノ酸残基をHisに置換した変異VHH抗体2bS13−97Hをコードするプラスミド、配列番号1の100位アミノ酸残基をHisに置換した変異VHH抗体2bS13−100Hをコードするプラスミド、配列番号1の102位アミノ酸残基をHisに置換した変異VHH抗体2bS13−102Hをコードするプラスミド、及び配列番号1の100位及び102位に相当する位置のアミノ酸残基をHisに置換した変異VHH抗体2bS13−100−102Hをコードするプラスミドを調製した。これらのプラスミドを用いて、(1)と同様の手順でCDR3におけるHis置換を有する変異VHH抗体タンパク質2bS13−97H(配列番号5)、2bS13−100H(配列番号6)、2bS13−102H(配列番号7)、及び2bS13−100−102H(配列番号8)を調製した。
(3)Arg置換変異VHH抗体の作製
2bS13に含まれるLysをArgに置換した変異VHH抗体を作製した。2bS13のアミノ酸配列に含まれる5つのLys(配列番号1の43位、53位、64位、75位及び86位Lys)をArgに置換した変異VHH抗体2bS13−KR5をコードするプラスミドを調製した。このプラスミドを用いて、(1)と同様の手順で変異VHH抗体タンパク質2bS13−KR5(配列番号9)を調製した。
実施例2 アフィニティー担体の調製
N−ヒドロキシスルホスクシンイミド(和光純薬工業製)0.22g、1−(3−ジメチルアミノプロピル)−3−エチルカルボジイミド塩酸塩(和光純薬工業製)0.95gからなる単量体組成物を0.02M MESバッファー(pH5.5)1.84gに溶解させ、単量体溶液を調製した。該単量体溶液を参考例1で取得した多孔質粒子(PB)0.5gと混合し、ローター式攪拌機にセットし、室温条件下で撹拌を開始した。30分後、液をろ過し、0.02M MESバッファー(pH5.5)、及びリン酸ナトリウムバッファー(pH7.5)で洗浄した。得られたろ物と実施例1で調製したいずれかのVHH抗体とを、多孔質粒子1gあたりのタンパク質量が0.12gになるように、0.02Mリン酸ナトリウムバッファー(pH7.5)に混和した。これを25℃で5時間振盪して多孔質粒子にVHH抗体を固定化させて、VHH抗体をリガンドとするアフィニティークロマトグラフィー用担体(2bS13/PB、2bS13−97H/PB、2bS13−100H/PB、2bS13−102H/PB、2bS13−100−102H/PB、及び2bS13−KR5)を得た。これら粒子に残存するN−ヒドロキシスルホスクシンイミド基を、トリスヒドロキシメチルアミノメタンを用いてブロッキングした。その後、0.001M NaOH及び0.1Mクエン酸バッファー(pH2.5)を用いて粒子を洗浄し、最終的にPBSに懸濁した。
試験例1 VHH抗体の抗原エピトープの特定
実施例1で調製したVHH抗体が認識するエピトープを調べた。
(1)VHH抗体とトラスツズマブとの複合体結晶の取得
モノクローナル抗体トラスツズマブ(ハーセプチン(登録商標))をパパインで消化し、Fabを調製した。得られたトラスツズマブFabとラクダ科動物野生型重鎖抗体由来のVHH抗体2bS13(配列番号1)とを混合し、HPLCにより複合体を分取した。該複合体を用いて、タンパク質結晶化分注システム Gryphon(Art Robbins Instruments社)による結晶化を行い、VHH抗体2bS13とトラスツズマブFabの複合体の結晶を得た。
(2)VHH抗体とトラスツズマブの複合体の立体構造の評価
得られた複合体結晶のX線回折データから、複合体のモデリングと精密化を行った。該モデルとVHH抗体、トラスツズマブFabそれぞれのモデルから、それぞれのタンパク質を構成する各アミノ酸残基の複合体形成前後のAccessible surface area(以下、ASAとする)の変化を算出した。トラスツズマブFabの軽鎖(配列番号22)及び重鎖(配列番号23)のアミノ酸配列上におけるASAの変化が1以上であった位置の残基を表1に示す。ASAの変化が1以上の場合、VHH抗体とトラスツズマブFabとの間で相互作用が生じていると考えられ、斯かる位置の残基はエピトープであると解される。これらの結果から、該VHH抗体が、プロテインAのようなFc領域に結合する抗体ではなく、Fabを認識する抗体であることが示された。
Figure 2019244961
試験例2 His置換変異VHH抗体のIg結合解離挙動の評価
実施例1で調製した2bS13、2bS13−97H、2bS13−100H、及び2bS13−102Hについて、Ig結合能を、Biacore(GEヘルスケア社)を用いて評価した。該VHH抗体をHBS−EP(10mM Hepes、150mM NaCl、3mM EDTA、及び0.005% Tween−20)に分散させ、12.5〜150nMのVHH抗体溶液を作製した。Biacoreセンサーチップに、試験例1で調製したトラスツズマブFabを固定化し、これに該VHH抗体溶液をアプライした。測定はpH7.4の中性条件下で行われた。結合及び解離挙動にBinding modelを用いたカーブフィッティングを適応し、結合速度定数(Kon)及び結合解離定数(Koff)、親和性(KD)を評価した。さらに、このセンサーチップを酸性の溶離液(10mM Glycine−HCl+0.5M NaCl、pH2.0)で洗浄してシグナルを測定し、得られたシグナル形状より、酸によるIg溶出挙動を調べた。溶離液で洗浄した直後のシグナルの減衰が早いほど、酸性条件下で抗体固定化センサーチップからVHH抗体が脱離し易い、すなわちVHH抗体のIg溶出効率が高いことを示す。
測定結果を表2及び図1に示す。表2に示されるように、変異VHH抗体はいずれも、中性条件下でトラスツズマブFabに対して親抗体2bS13と同等のKD値を有し、変異VHH抗体が親抗体と同等のIg結合能を有していることが示された。また、変異VHH抗体はいずれも、親抗体2bS13と比べて、酸性の溶離液による洗浄直後(図1中四角で囲んだ領域)でのシグナルの減衰率が高く、親抗体と比べて酸性条件下でのIg溶出挙動が向上していたことが示された。
Figure 2019244961
試験例3 His置換変異VHH抗体を用いたアフィニティー担体のIg溶出能
実施例2で得られたアフィニティー担体2bS13/PB、2bS13−100H/PB、及び2bS13−100−102H/PBを充填したカラムを用いてアフィニティークロマトグラフィーを行い、酸性条件下での担体からのIg溶出能を評価した。全てのクロマトグラフィー実験は、AKTA avant 150(GE Healthcare社製)にて行った。クロマトグラフィー用カラムは、Tricorn 5/50 カラム(GE Healthcare社製)を用いて、実施例2で得られたアフィニティー担体を充填した(カラムボリューム1mL)。担体に結合させるIgには、試験例1と同じトラスツズマブFabを用いた。ローディング液には、pH7.5のクエン酸ナトリウム緩衝液を、溶離液には、pH3.0及び2.5のクエン酸ナトリウム緩衝液を順に用いた。カラムからの溶出物のOD280を逐次モニターすることで、溶出物中のIg量を測定した。pH3.0溶出液及びpH2.5溶離液で溶出した画分のうち、OD280の値が0.12AU以上の画分の体積を調べた。
カラムからの溶出物のOD280の変化を図2に示す。His置換のないリガンドを用いた担体2bS13/PBは、pH3.0でIgをほとんど溶出せず、さらにpHを2.5まで下げてもIgの溶出量はわずかであった。これに対し、His置換変異のあるリガンドを用いた担体2bS13−100H/PBでは、結合するIgのほとんどがpH3.0で溶出された。さらに、二重His置換変異体を用いた担体2bS13−100−102H/PBは、pH3.0で結合するIgのほぼ全てを溶出した。
表3は、担体に結合したIgの溶出に要した溶離液の量を示す。His置換変異のあるリガンドを用いた担体は、pH3.0の溶離液で充分量のIgを溶出することができた。リガンドのHis置換の数が多くなると、Ig溶出に必要な溶離液の量はさらに減少した。一方、His置換のないリガンドを用いた担体は、pH2.5以上の溶離液を多量に使用しても充分量のIgを溶出することができなかった。
Figure 2019244961
試験例4 Arg置換変異VHH抗体を用いたアフィニティー担体のIg結合能
(1)リガンド固定化量の測定
実施例2で調製した、変異VHH抗体2bS13又は2bS13−KR5が固定化されたアフィニティー担体1mgを用いてBCAタンパク質アッセイを行った。検量線に基づいてリガンド固定化量を決定した。
(2)静的結合容量(SBC)の測定
(1)で調製したVHH抗体が固定化されたマトリックス3mgに、リン酸ナトリウムバッファー(pH7.5)に溶解した、試験例1と同じトラスツズマブFab 0.5gを添加し、振盪機を用いて25℃で撹拌した。1時間後に溶液をろ過し、リン酸ナトリウムバッファー(pH7.5)で洗浄し、洗浄液をろ液と混合した。得られた水溶液のOD280を測定し、漏出したFab量を決定した。初期添加Fab量から漏出したFab量を差し引くことで、静的結合容量(SBC)を算出した。
測定結果を表4に示す。表4に示すデータは、各担体についての3回の測定結果とその平均値である。
Figure 2019244961

Claims (18)

  1. アフィニティー担体であって、
    固相担体と、該固相担体に結合したイムノグロブリン結合タンパク質とを含み、
    該イムノグロブリン結合タンパク質が、配列番号22のアミノ酸配列の127〜184位、及び配列番号23のアミノ酸配列の13〜210位からなる群より選択される少なくとも1つの領域におけるエピトープを認識する、VHH抗体の変異体又はその断片を含む、
    アフィニティー担体。
  2. 前記VHH抗体変異体が、変異前のVHH抗体に対して、少なくとも1個のヒスチジンが挿入されているか又は少なくとも1個のアミノ酸残基がヒスチジンに置換されている相補性決定領域を有する、請求項1記載のアフィニティー担体。
  3. 前記変異前のVHH抗体が、配列番号1〜4のいずれかのアミノ酸配列と少なくとも85%同一なアミノ酸配列からなり、かつトラスツズマブのFab領域に対して親和性を有するポリペプチドである、請求項2記載のアフィニティー担体。
  4. 前記相補性決定領域がCDR3である、請求項2又は3記載のアフィニティー担体。
  5. 前記VHH抗体変異体が、前記配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも85%同一なアミノ酸配列において、配列番号1のアミノ酸配列の97位に相当する位置、100位に相当する位置及び102位に相当する位置からなる群より選択される少なくとも1つの位置におけるアミノ酸残基がヒスチジンに置換されているアミノ酸配列からなるポリペプチドである、請求項4記載のアフィニティー担体。
  6. 前記配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも85%同一なアミノ酸配列が、配列番号1の26〜35位領域に相当するCDR1領域に配列番号10のアミノ酸配列を、配列番号1の51〜65位領域に相当するCDR2領域に配列番号11のアミノ酸配列を、配列番号1の96〜107位領域に相当するCDR3領域に配列番号12のアミノ酸配列を有し、
    前記配列番号2のアミノ酸配列と少なくとも85%同一なアミノ酸配列が、配列番号2の26〜37位領域に相当するCDR1領域に配列番号13のアミノ酸配列を、配列番号2の53〜68位領域に相当するCDR2領域に配列番号14のアミノ酸配列を、配列番号2の99〜118位領域に相当するCDR3領域に配列番号15のアミノ酸配列を有し、
    前記配列番号3のアミノ酸配列と少なくとも85%同一なアミノ酸配列が、配列番号3の26〜35位領域に相当するCDR1領域に配列番号16のアミノ酸配列を、配列番号3の51〜66位領域に相当するCDR2領域に配列番号17のアミノ酸配列を、配列番号3の97〜116位領域に相当するCDR3領域に配列番号18のアミノ酸配列を有し、
    前記配列番号4のアミノ酸配列と少なくとも85%同一なアミノ酸配列が、配列番号4の26〜35位領域に相当するCDR1領域に配列番号19のアミノ酸配列を、配列番号4の51〜66位領域に相当するCDR2領域に配列番号20のアミノ酸配列を、配列番号4の97〜116位領域に相当するCDR3領域に配列番号21のアミノ酸配列を有する、
    請求項3〜5のいずれか1項記載のアフィニティー担体。
  7. 前記VHH抗体変異体が、前記変異前のVHH抗体のアミノ酸配列における少なくとも1個のリジンがアルギニンに置換されているアミノ酸配列からなる、請求項2〜6のいずれか1項記載のアフィニティー担体。
  8. 前記VHH抗体変異体が、変異前のVHH抗体のアミノ酸配列における少なくとも1個のリジンがアルギニンに置換されているアミノ酸配列からなる、請求項1記載のアフィニティー担体。
  9. 前記変異前のVHH抗体が、配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも85%同一なアミノ酸配列からなり、トラスツズマブのFab領域に対して親和性を有するポリペプチドである、請求項8記載のアフィニティー担体。
  10. 前記VHH抗体変異体が、前記配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも85%同一なアミノ酸配列において、配列番号1のアミノ酸配列の43位に相当する位置、53位に相当する位置、64位に相当する位置、75位に相当する位置及び86位に相当する位置からなる群より選択される少なくとも1つの位置にアルギニンを有するアミノ酸配列からなるポリペプチドである、請求項9記載のアフィニティー担体。
  11. 前記配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも85%同一なアミノ酸配列が、配列番号1の26〜35位領域に相当するCDR1領域に配列番号10のアミノ酸配列を、配列番号1の51〜65位領域に相当するCDR2領域に配列番号11のアミノ酸配列を、配列番号1の96〜107位領域に相当するCDR3領域に配列番号12のアミノ酸配列を有する、請求項9又は10記載のアフィニティー担体。
  12. アフィニティー担体であって、
    固相担体と、該固相担体に結合したイムノグロブリン結合タンパク質とを含み、
    該イムノグロブリン結合タンパク質が、配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも85%同一なアミノ酸配列であって、配列番号1のアミノ酸配列の97位に相当する位置、100位に相当する位置及び102位に相当する位置からなる群より選択される少なくとも1つの位置にヒスチジンを有するアミノ酸配列からなるポリペプチドを含む、
    アフィニティー担体。
  13. 前記配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも85%同一なアミノ酸配列が、配列番号1の26〜35位領域に相当するCDR1領域に配列番号10のアミノ酸配列を、配列番号1の51〜65位領域に相当するCDR2領域に配列番号11のアミノ酸配列を、配列番号1の96〜107位領域に相当するCDR3領域に配列番号12のアミノ酸配列を有する、請求項12記載のアフィニティー担体。
  14. 前記イムノグロブリン結合タンパク質が配列番号5〜8のいずれかのアミノ酸配列からなるポリペプチドを含む、請求項12記載のアフィニティー担体。
  15. アフィニティー担体であって、
    固相担体と、該固相担体に結合したイムノグロブリン結合タンパク質とを含み、
    該イムノグロブリン結合タンパク質が、配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも85%同一なアミノ酸配列であって、配列番号1のアミノ酸配列の43位に相当する位置、53位に相当する位置、64位に相当する位置、75位に相当する位置及び86位に相当する位置からなる群より選択される少なくとも1つの位置にアルギニンを有するアミノ酸配列からなるポリペプチドを含む、
    アフィニティー担体。
  16. 前記配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも85%同一なアミノ酸配列が、配列番号1の26〜35位領域に相当するCDR1領域に配列番号10のアミノ酸配列を、配列番号1の51〜65位領域に相当するCDR2領域に配列番号11のアミノ酸配列を、配列番号1の96〜107位領域に相当するCDR3領域に配列番号12のアミノ酸配列を有する、請求項15記載のアフィニティー担体。
  17. 前記イムノグロブリン結合タンパク質が配列番号9のアミノ酸配列からなるポリペプチドを含む、請求項15記載のアフィニティー担体。
  18. 請求項1〜17のいずれかに記載のアフィニティー担体を用いる、イムノグロブリン又はその断片の単離方法。
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