JPWO2019208132A1 - 防音構造体 - Google Patents

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Abstract

音源に固有の周波数の音をより大きく消音することができる防音構造体を提供する。厚み方向に貫通する開口部を有する第一枠体と、開口部を覆い、振動可能に第一枠体に固定される膜状部材と、膜状部材の面内に、膜状部材の膜振動に追従可能に固定される、音波に共鳴する共鳴構造と、を有し、共鳴構造は、音波の入射側と音波の透過側とで粒子速度の位相が反転する、音波に対する単極子共鳴器として機能する共鳴周波数を有し、共鳴構造の共鳴周波数は、共鳴構造が共鳴しないとみなした場合における、共鳴構造を含む膜状部材の第一固有振動周波数での吸収率の周波数スペクトルの半値幅の範囲内にある。

Description

本発明は、防音構造体に関する。
複写機等の各種電子機器、および、自動車に搭載される電子装置、住宅設備の電子機器、家電製品、ロボット等の各種移動体等は、多機能化および高性能化に伴って、これらを高い電圧および電流で駆動することが求められており、電気系の出力が大きくなっている。また、出力の増加とコンパクト化に伴い、冷却のために熱や風を制御する必要も大きくなりファン等も重要となっている。
電子機器等は、騒音の発生源となる電子回路、パワーエレクトロニクスおよび電気モーター等を有しており、電子回路、パワーエレクトロニクスおよび電気モーター等(以下、音源ともいう)は、それぞれ固有の周波数で大きな音量の音を発生する。電気系の出力を大きくすると、この周波数の音量がさらに大きくなるため騒音として問題となる。
例えば、電気モーターの場合には、回転数に応じた周波数の騒音(電磁騒音)が生じる。インバーターの場合には、キャリア周波数に応じた騒音(スイッチングノイズ)が生じる。ファンの場合には、回転数に応じた周波数の騒音が生じる。これらの騒音は近い周波数の音と比べて音量が大きくなる。
特定の周波数の音をより大きく消音する手段として、ヘルムホルツ共鳴、および、膜振動の共振等を利用した共鳴型の消音手段が知られている。
例えば、特許文献1には、振動板を含む第1の吸音部と、この第1の吸音部を振動板要素とする第2の吸音部とを備えた吸音装置が記載されている。
この吸音装置は、第1の吸音部と第2の吸音部とがそれぞれ特定の共振周波数を持ち、それぞれの周波数の音を吸音できることが記載されている。また、第1の吸音部と第2の吸音部とが同じ共振周波数を持つときには、1つの共振系に比べて吸音力を高めることができることが記載されている。
特開昭62−098398号公報
各種電子機器のさらなる高速化や大出力化に伴い、上述した電子回路および電気モーター等が発生する騒音の音量はより大きくなっており、特定の周波数の音をより大きく消音することが求められている。
しかしながら、ヘルムホルツ共鳴、および、膜振動の共振等を利用した共鳴型の消音手段単体では、その原理から音の吸収率が最大でも50%を超えることはないという制約があった。
具体的には、例えば、管内にヘルムホルツ共鳴器が設置された系を考えて、吸収値Aについて考察する。共鳴器が1つの場合は、伝達マトリクスは以下のように記述出来る。
ここにZ1はヘルムホルツ共鳴器のインピーダンスである。このとき、この伝達マトリクスに基づくインピーダンスZC
C=(Z0×A+B)/(Z0×C+D)=Z0×Z1/(Z0+Z1
となる。(ただし、A=T11、B=T12、C=T21、D=T22。TijはT1の行列成分の各要素、Z0は管路のインピーダンスであり、Z0=ρ×c/S、ρは空気密度、cは音速、Sは管路断面積である)。
これを用いて、反射係数rC、透過係数tCを記述すると、以下のように表すことが出来る。
C=(ZC−Z0)/(ZC+Z0)=Z0/(2×Z1+Z0
C=2/(A+B/Z0+C×Z0+D)=2×Z1/(Z0+2Z1
従って吸収値Aは、
A=1−|rC2−|tC2
=1−|Z0/(2×Z1+Z0)|2−|2×Z1/(Z0+2Z1)|2
=4×Z0×Z1/(Z0+2×Z12
となる。このとき、Z0は管路のインピーダンス(定数)であるため、Z1の値に依存して吸収値Aが決定される。上式より、AはZ1=Z0/2の場合に最大値0.5を取り、他のどのような値を取ってもこれを超過することは無いことが上記の導出から理論的に示される。
次に、管内に、管内を塞いて振動可能な膜が配置された系を考えて、吸収値Aについて考察する。伝達マトリクスは以下のように記述出来る。
ここにZ1は膜体のインピーダンスである。このとき、この伝達マトリクスに基づく音響インピーダンスZC
C=(Z0×A+B)/(Z0×C+D)=Z0+Z1
となる。(ただし、A=T11、B=T12、C=T21、D=T22。TijはT1の行列成分の各要素、Z0は管路のインピーダンスであり、Z0=ρ×c/S、ρは空気密度、cは音速、Sは管路断面積である)。
これを用いて、反射係数rC、透過係数tCを記述すると、以下のように表すことが出来る。
C=(ZC−Z0)/(ZC+Z0)=Z1/(2×Z0+Z1
C=2/(A+B/Z0+C×Z0+D)=2×Z0/(2×Z0+Z1
従って吸収値Aは、
A=1−|rC2−|tC2
=1−|Z1/(2×Z0+Z1)|2−|2×Z0/(2×Z0+Z1)|2
=4×Z0×Z1/(2×Z0+Z12
となる。このとき、Z0は管路のインピーダンス(定数)であるため、Z1の値に依存して吸収値が決定される。上式より、AはZ1=2×Z0の場合に最大値0.5を取り、他のどのような値を取ってもこれを超過することは無いことが上記の導出から理論的に示される。
以上のように、共鳴構造単体では、50%が吸収率の限界となる。
特許文献1には、膜振動の共鳴を利用した共鳴型の消音手段を2つ組み合わせて、消音手段が1つの場合よりも吸音力を高めることが記載されている。しかしながら、特許文献1のように共鳴型の消音手段を2つ組み合わせても、音の吸収率は最大でも50%を超えることはない。
従って、特定の周波数の音をより大きく消音することが難しいという問題があった。
本発明の課題は、上記従来技術の問題点を解消し、特定の周波数の音をより大きく消音することができる防音構造体を提供することにある。
この課題を解決するために、本発明は、以下の構成を有する。
[1] 厚み方向に貫通する開口部を有する第一枠体と、
開口部を覆い、振動可能に第一枠体に固定される膜状部材と、
膜状部材の面内に、膜状部材の膜振動に追従可能に固定され、音波に共鳴する共鳴構造と、を有し、
共鳴構造は、音波の入射側と音波の透過側とで粒子速度の位相が反転する、音波に対する単極子共鳴器として機能する共鳴周波数を有し、
共鳴構造の共鳴周波数は、共鳴構造が共鳴しないとみなした場合における、共鳴構造を含む膜状部材の第一固有振動周波数での吸収率の周波数スペクトルの半値幅の範囲内にある防音構造体。
[2] 共鳴構造は、膜状部材の一方の面側の空間と他方の面側の空間とを連通する孔部を有する[1]に記載の防音構造体。
[3] 共鳴構造は、
厚み方向に貫通する開口部を有する第二枠体と、
第二枠体の開口部の両端面にそれぞれ配置される2つの板状部材と、を有し、
第二枠体の外周面が膜状部材に固定されており、
板状部材は貫通孔を有する[1]または[2]に記載の防音構造体。
[4] 共鳴構造は、
厚み方向に貫通する開口部を有する第二枠体と、
第二枠体の開口部の両端面にそれぞれ配置される2つの板状部材と、を有し、
板状部材の一方が膜状部材に固定されており、
板状部材は貫通孔を有する[1]または[2]に記載の防音構造体。
[5] 共鳴構造が、ヘルムホルツ共鳴器である[1]〜[4]のいずれかに記載の防音構造体。
[6] 共鳴構造が、厚み方向に貫通する開口部を有する第二枠体と、
第二枠体の開口部の両端面にそれぞれ振動可能に固定される2つの膜状部材と、を有する[1]〜[4]のいずれかに記載の防音構造体。
[7] 膜状部材の面方向において、共鳴構造の重心位置が、膜状部材の中心位置と一致している[1]〜[6]のいずれかに記載の防音構造体。
[8] 共鳴構造が共鳴しないとみなした場合における、共鳴構造を含む膜状部材の第一固有振動周波数が20000Hz以下である[1]〜[7]のいずれかに記載の防音構造体。
[9] 共鳴構造の共鳴周波数は、共鳴構造が共鳴しないとみなした場合における、共鳴構造を含む膜状部材による吸収率の周波数スペクトルにおいて、第一固有振動周波数での極大値の75%以上となる周波数幅の範囲内にある[1]〜[8]のいずれかに記載の防音構造体。
本発明によれば、音源に固有の周波数の音をより大きく消音することができる防音構造体を提供することができる。
本発明の防音構造体の一例を模式的に示す斜視図である。 本発明の防音構造体の一例を模式的に示す断面図である。 共鳴構造単体を模式的に示す断面図である。 共鳴構造が共鳴しないとみなした場合の共鳴構造を含む膜状部材の構造を模式的に示す断面図である。 周波数と吸収率との関係を模式的に表すグラフである。 共鳴構造の入射側および透過側における粒子速度の向きを模式的に表す断面図である。 共鳴構造が共鳴しないとみなした場合の共鳴構造を含む膜状部材の構造の入射側および透過側における粒子速度の向きを模式的に表す断面図である。 本発明の防音構造体の入射側および透過側における粒子速度の向きを模式的に表す断面図である。 周波数と吸収率との関係を模式的に表すグラフである。 従来の構造の入射側および通過側における粒子速度の向きを模式的に表す断面図である。 本発明の防音構造体の他の一例を模式的に示す断面図である。 シミュレーションに用いた計算モデルを説明するための図である。 本発明の防音構造体の各部の寸法を説明するための図である。 比較例の構造を説明するための概略断面図である。 周波数と吸収率との関係を表すグラフである。 防音構造体の前後における粒子速度の向きを可視化した図である。 防音構造体の前後における粒子速度の向きを可視化した図である。 防音構造体の前後における粒子速度の向きを可視化した図である。 周波数と透過損失との関係を表すグラフである。 周波数と吸収率との関係を表すグラフである。 周波数と吸収率との関係を表すグラフである。
以下、本発明の防音構造体について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明は、そのような実施態様に限定されるものではない。すなわち、以下では、本発明の防音構造体についての種々の実施形態を挙げて説明するが、本発明は、これらの実施形態に限定されるものではなく、また、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良又は変更をしてもよいのは勿論である。
なお、本明細書において、「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
また、本明細書において、例えば、「45°」、「平行」、「垂直」あるいは「直交」等の角度は、特に断る場合を除き、厳密な角度との差異が5度未満の範囲内であることを意味する。厳密な角度との差異は、4度未満であることが好ましく、3度未満であることがより好ましい。
また、本明細書において、「同じ」、「同一」、「一致」は、技術分野で一般的に許容される誤差範囲を含むものとする。
また、本明細書において、「全部」、「いずれも」または「全面」などというとき、100%である場合のほか、技術分野で一般的に許容される誤差範囲を含み、例えば99%以上、95%以上、または90%以上である場合を含むものとする。
<<防音構造体>>
本発明の防音構造体は、
厚み方向に貫通する開口部を有する第一枠体と、
開口部を覆い、振動可能に第一枠体に固定される膜状部材と、
膜状部材の面内に、前記膜状部材の膜振動に追従可能に固定される、音波に共鳴する共鳴構造と、を有し、
共鳴構造は、音波の入射側と音波の透過側とで粒子速度の位相が反転する、音波に対する単極子共鳴器として機能する共鳴周波数を有し、
共鳴構造の共鳴周波数は、共鳴構造が共鳴しないとみなした場合における、共鳴構造を含む膜状部材の第一固有振動周波数での吸収率の周波数スペクトルの半値幅の範囲内にある防音構造体である。
本発明の防音構造体は、各種の電子機器、および、輸送機器等が発生する音を消音する消音手段として好適に用いることができる。
電子機器としては、空調機(エアコン)、エアコン室外機、給湯器、換気扇、冷蔵庫、掃除機、空気清浄機、扇風機、食洗機、電子レンジ、洗濯機、テレビ、携帯電話、スマートフォン、プリンター等の家庭用電気機器;複写機、プロジェクター、デスクトップPC(パーソナルコンピューター)、ノートPC、モニター、シュレッダー等のオフィス機器、サーバー、スーパーコンピューター等の大電力を使用するコンピューター機器、恒温槽、環境試験機、乾燥機、超音波洗浄機、遠心分離機、洗浄機、スピンコーター、バーコーター、搬送機などの科学実験機器が挙げられる。
輸送機器としては、自動車、バイク、電車、飛行機、船舶、自転車(特に電気自転車)、パーソナルモビリティー等が挙げられる。
移動体としては、民生用ロボット(掃除用途、愛玩用途や案内用途などのコミュニケーション用途、自動車椅子等の移動補助用途など)や工業用ロボット等が挙げられる。
また、使用者への通知や警告を発する意味で、特定の少なくとも一つ以上の単周波音を通知音、警告音として発するように設定された機器にも用いることができる。また、金属体や機械がそのサイズに応じた周波数にて共振振動したとき、それに起因して比較的大きな音量で発せられる少なくとも一つ以上の単周波音が騒音として問題となるが、このような騒音に対しても本発明の防音構造体は適用可能である。
また、上述した機器が入っている部屋、工場、および、車庫等にも本発明の防音構造体が適用可能である。
本願発明の防音構造体が消音対象とする音の音源の一例としては、上記の各種機器が有する、インバーター、パワーサプライ、昇圧器、大容量コンデンサー、セラミックコンデンサー、インダクタ、コイル、スイッチング電源、トランス等の電気制御装置を含む電子部品またはパワーエレクトロニクス部品や電気モーター、ファン等の回転部品やギア、アクチュエータによる移動機構等の機械部品、金属棒等の金属体が挙げられる。
音源が、インバーター等の電子部品の場合には、キャリア周波数に応じた音(スイッチングノイズ)を発生する。
音源が、電気モーターの場合には、回転数に応じた周波数の音(電磁騒音)を発生する。
音源が、金属体の場合には、共振振動モード(1次共鳴モード)に応じた周波数の音(単周波数騒音)を発生する。
すなわち、音源はそれぞれ、音源に固有の周波数の音を発生する。
固有の周波数を有する音源は、特定周波数を発振するような物理的もしくは電気的メカニズムを有する場合が多い。例えば、回転系(ファン、モーター等)はその回転数およびその倍数がそのまま音として発せられる。また、インバーター等の交流電気信号を受ける部分は、その交流の周波数に対応する音を発振する場合が多い。また、金属棒等の金属体では、そのサイズに応じた共振振動が生じ、その結果として単一周波数の音が強く発せられる。よって、回転系、交流回路系及び金属体は、音源に固有の周波数を有する音源といえる。
より一般的に、音源が固有の周波数を有するかは下記のような実験を行うことができる。
音源を無響室もしくは半無響室内、もしくはウレタン等の吸音体で囲んだ状況に配置する。周辺を吸音体とすることで、部屋や測定系の反射干渉による影響を排除する。その上で、音源を鳴らし、離れた位置からマイクで測定を行い周波数情報を取得する。音源と測定系のサイズによりマイクとの距離は適宜選択できるが、30cm程度以上離れて測定することが望ましい。
音源の周波数情報において、極大値をピークと呼び、その周波数をピーク周波数と呼ぶ。その極大値が周辺の周波数での音と比較して3dB以上大きい場合には、そのピーク周波数音が十分に人間に認識できるため、固有の周波数を有する音源といえる。5dB以上であればより認識でき、10dB以上であればさらに認識できる。周辺の周波数との比較は、信号のノイズや揺らぎを除いて極小となるなかで最も近い周波数における極小値と、極大値の差分で評価する。
また、自然界に環境音としてよく存在するホワイトノイズやピンクノイズに対して、特定の周波数成分のみが強く鳴る音は目立ちやすく、不快な印象を与えるとされるため、それらの音を除去することは重要となる。
また、音源から発せられた音が、各種機器の筐体内で共鳴することで、この共鳴周波数、あるいは、その倍音の周波数の音量が大きくなる場合もある。あるいは、上記の各種機器が入っている部屋、工場、および、車庫等の中で音源から発せされた音が共鳴して、その共鳴周波数、あるいは、その倍音の周波数の音量が大きくなる場合もある。
他にもタイヤ内部の空間、および、スポーツ用途ボールの内部の空洞などによって共鳴が生じることで、振動が加えられたときに空洞共鳴やその高次振動モードに対応する音が大きく発振して生じる場合もある。
また、音源から発せられた音が、各種機器の筐体、あるいは筐体内に配置された部材等の機械的構造の共鳴周波数で発振されて、この共鳴周波数、あるいは、その倍音の周波数の音量が大きくなる場合もある。例えば、音源がファンの場合でも、機械的構造の共鳴によって、ファンの回転数よりも遥かに高い回転数で共振音が発生する場合がある。
本発明の構造は、騒音を発する電子部品あるいはモーターに直接取り付けることで用いることができる。また、ダクト部およびスリーブなどの通風部に配置して透過音の消音に用いることもできる。また、開口のある箱体(各種電子機器を入れる箱や、部屋など)の開口部に取り付けて、箱体から放射して出てくる騒音に対する消音構造として用いることもできる。また、部屋の壁に取り付けて部屋内部の騒音を抑制するなどに用いることもできる。これに限定されずに用いることももちろん可能である。
<<防音構造体の構成例>>
本発明の防音構造体の一例について、図1および図2を参照しながら説明する。
図1は、本発明の防音構造体の一例(以下、防音構造体10)を示す模式的な斜視図である。図2は、防音構造体10の模式的な断面図である。なお、図1においては説明のため、防音構造体の一部の図示を省略している。
図1および図2に示すように、防音構造体10は、膜状部材12、第一枠体14、および、第二枠体16と板状部材18と板状部材19とを備える共鳴構造15を有する。
第一枠体14は、厚み方向(図2中上下方向)に貫通する開口部を有する筒状の枠体である。図1に示す例では、第一枠体14は円筒状の部材である。第一枠体14の開口部の一方の端面(開口面)には、膜状部材12が固定されている。
第一枠体14は、剛体からなり、膜状部材12の縁部を固定して膜状部材12を振動可能に支持している。
ここで、本発明において「剛体」とは、実質的に剛体とみなすことができるものである。具体的には、膜状部材12の剛性よりも十分に大きい剛性であって、膜状部材12が膜振動している間に振動せずに静止している物であり、膜状部材12に対して圧倒的に厚みがあり、曲げ剛性が格段に高い物である。硬さが膜状部材12に対して十分に大きければ、実質的に、音が入射した際の膜状部材12の揺れに対して、剛体の揺れが無視できる。
なお、膜状部材12の縁部は、固定端部であり、剛体である第一枠体14に固定されているために振動しないことになる。膜状部材12の縁部(すなわち、第一枠体14)が振動しない(静止している)かどうかは、レーザー干渉を用いた測定によって確認することができる。具体的には、膜状部材12の縁部の変位量が、膜状部材12の振動する部分(膜部分12a)の振幅の1/100程度以下であれば剛体とみなす。変位量はヤング率(縦弾性係数)と断面二次モーメントの積に反比例する。断面二次モーメントは厚みの3乗と幅の1乗に比例する。そのため、ヤング率E、厚みh、幅wとしたときに、変位量は1/(E×w×h3)に比例する。従って、変位量を1/100以下とするには、第一枠体14の(E×w×h3)が膜状部材12の100倍以上であればよい。
あるいは、膜状部材12に塩や白色の微粒子を撒いて膜状部材12を振動させた際に膜状部材12の縁部では上記の微粒子が静置していることを観測することで視覚的に確認することができる。
膜状部材12は、外形が、第一枠体14の開口面と略同じ大きさの円形の薄膜体である。膜状部材12は、その縁部(外縁部)が第一枠体14の開口面に固定されている。これにより、膜状部材12は、第一枠体14に固定された縁部よりも内側部分が膜振動可能な状態で第一枠体14に支持されている。
また、膜状部材12の面方向の略中央部には、共鳴構造15が固定されている。
共鳴構造15は、音波に共鳴する共鳴器である。図2に示す例では、共鳴構造15はヘルムホルツ共鳴器である。
共鳴構造15は、第二枠体16と、板状部材18と、板状部材19とを有する。第二枠体16、板状部材18および板状部材19は、剛体である。
第二枠体16は、厚み方向(図2中上下方向)に貫通する開口部20を有する筒状の枠体である。図1に示す例では、第二枠体16は円筒状の部材である。第二枠体16の開口部20の一方の端面(開口面)には、板状部材18が固定されており、開口部20の他方の端面(開口面)には、板状部材19が固定されている。
また、第二枠体16の外周面は膜状部材12に固定されている。
板状部材18および板状部材19は、外径が、第二枠体16の開口面と略同じ大きさの円形の板状の部材である。板状部材18および板状部材19は、その縁部(外縁部)が第二枠体16の開口面に固定されている。また、板状部材18および板状部材19の略中央部には、貫通孔18aおよび貫通孔19aがそれぞれ形成されている。貫通孔18aおよび貫通孔19aは、共鳴構造15の外部と第二枠体16の内部(開口部20)とを連通している。
なお、図2に示す例では、第二枠体16と、板状部材18および板状部材19とはそれぞれ別体とし、固定(接合)されたものとしたが、これに限定はされず、第二枠体16と、板状部材18および板状部材19とはそれぞれ一体的に形成されていてもよい。
共鳴構造15は、第二枠体16の両端面に板状部材18および板状部材19が配置された構成とすることで第二枠体16と板状部材18と板状部材19とに囲まれた開口部20を内部空間20とし、この内部空間20と、板状部材18および板状部材19に形成された貫通孔18aおよび貫通孔19aとによってヘルムホルツ共鳴を起こす共鳴器として機能する。
例えば、板状部材18側から音波が入射する場合には、主に板状部材18に形成された貫通孔18aと内部空間20とによってヘルムホルツ共鳴が発生する。
共鳴構造15は、膜状部材12の面内に固定されている。共鳴構造15は膜状部材12のみに固定されており、膜状部材12の膜振動に追従して、膜状部材12の膜面に垂直な方向に移動可能である。言い換えると、膜状部材12の膜振動は、共鳴構造15を錘として付与した膜状部材12の膜振動ということができる。
図2に示す例では、膜状部材12の面方向において、共鳴構造15は、共鳴構造15の重心位置(図2に示す例では中心位置)が膜状部材12の中心位置と一致するように膜状部材12に固定されている。
なお、図2に示す例では、共鳴構造15は膜状部材の膜面に垂直な方向の軸に対して軸対称な形状であるため、共鳴構造15の重心位置と中心位置とが一致するが、これに限定はされず、共鳴構造15の形状が非対象で重心位置と中心位置とが一致していなくてもよい。なお、中心位置は、膜状部材の膜面に垂直な方向から見た際に、共鳴構造の外周上のすべての点から等しい距離にある点である。
ここで、本発明において、共鳴構造15は、音波の入射側と音波の透過側とで粒子速度の位相が反転する共鳴周波数を有する、音波に対する単極子共鳴器として機能するものである。この共鳴構造15の共鳴周波数は、共鳴構造15が共鳴しないとみなした場合における、共鳴構造15を含む膜状部材12の第一固有振動周波数(以下、「膜構造の第一固有振動周波数」ともいう)に略一致している。具体的には、共鳴構造15の共鳴周波数は、共鳴構造が共鳴しないとみなした場合における、共鳴構造を含む膜状部材の第一固有振動周波数での吸収率の周波数スペクトルの半値幅の範囲内にある。なお、以下の説明において、共鳴構造15の共鳴周波数が、共鳴構造が共鳴しないとみなした場合における、共鳴構造を含む膜状部材の第一固有振動周波数での吸収率の周波数スペクトルの半値幅の範囲内にあることを、膜構造の第一固有振動周波数と、共鳴構造15の共鳴周波数とが略一致する、ともいう。
本発明の防音構造体は、膜構造の第一固有振動周波数と、共鳴構造15の共鳴周波数とを略一致させることで、この周波数において50%を超える吸収率を、1つの防音構造体で達成することができる。
この点について、以下、詳細に説明する。
図3に示す共鳴構造15は、図2に示す防音構造体10の共鳴構造15と同様の構成を有するものである。前述のとおり、共鳴構造15はヘルムホルツ共鳴器である。
このような共鳴構造15単体を消音装置として用いた場合の周波数と音の吸収率との関係は、図5に破線で示すように、共鳴周波数付近で吸収率が極大値となる波形で表すことができる。また、吸収率は最大でも0.5(50%)以下である。なお、図5は模式的なグラフである。
図4に示す構造は、図2に示す防音構造体10において、板状部材18に代えて貫通孔を有さない板状部材18bを有し、板状部材19に代えて貫通孔を有さない板状部材19bを有するものである。すなわち、図4に示す構造は、共鳴構造15が共鳴しないとみなした場合における共鳴構造15bを含む膜状部材12を有する膜構造である。
このような膜構造単体を消音装置として用いた場合の周波数と音の吸収率との関係は、図5に一点鎖線で示すように、膜振動の第一固有振動周波数付近で吸収率が極大値となる波形で表すことができる。また、吸収率は最大でも0.5(50%)以下である。
図3に示すようなヘルムホルツ共鳴器、および、図4に示すような膜振動を利用した消音器(以下、「膜型共鳴器」ともいう)はいずれも共鳴型の消音手段である。これらを単体で用いた場合には、その消音原理から音の吸収率が50%を超えることはない。
また、同一の共鳴周波数のものを並列に2つ配置したとしても、音の吸収率が50%を超えることはない。
ここで、図3に示すようなヘルムホルツ共鳴の共鳴構造15は、単極子(モノポール)共鳴器として機能する共鳴器である。単極子共鳴器とは、共鳴周波数付近の周波数で、音波の入射側と音波の透過側とで粒子速度の位相が反転する共鳴器のことである。
図6は、共鳴構造15に音波が入射した際の、ある瞬間における音波の入射側と音波の透過側における粒子速度の方向を示したものである。図6において、音波の入射方向を大きい矢印で示し、共鳴構造15に音波が入射する側の粒子速度の方向、および、共鳴構造15を音波が透過する側の粒子速度の方向を小さい矢印で示す。また、粒子速度の方向は共鳴構造15に向かう方向を+とした。
図6に示すように、ヘルムホルツ共鳴器のような単極子共鳴器では、共鳴構造15に音波が入射する側の粒子速度の方向、および、共鳴構造15を音波が透過する側の粒子速度の方向共に+の方向となり、音波の入射側と音波の透過側とで粒子速度の位相が反転する。
なお、粒子速度は、シミュレーションにより計算することができる。そのため、シミュレーションによって粒子速度を計算することで、その共鳴が単極子か双極子かを調べることが出来る。
また、MicroFlown社製のPUプローブにより音響インテンシティを計測することでも調べることが出来る。音響インテンシティとは、音の進行する方向性を考慮に入れた、音の大きさのことである。具体的には、音響インテンシティは音圧pと粒子速度uとしたときにI=puで定義される量である。pがスカラー量、uがベクトル量のため、Iはベクトル量である。
一方、図4に示すような膜型共鳴器(膜構造)は、双極子(ダイポール)共鳴器として機能する共鳴器である。双極子共鳴器とは、第一固有振動周波数付近の周波数で、音波の入射側と音波の透過側とで粒子速度の位相が同じ共鳴器のことである。
図7は、膜型共鳴器に音波が入射した際の音波の入射側と音波の透過側における粒子速度の方向を示したものである。図7において、音波の入射方向を大きい矢印で示し、ある瞬間における膜型共鳴器に音波が入射する側の粒子速度の方向、および、膜型共鳴器を音波が透過する側の粒子速度の方向を小さい矢印で示す。また、粒子速度の方向は膜型共鳴器に向かう方向を+とした。
図7に示すように、膜型共鳴器のような双極子共鳴器では、膜型共鳴器に音波が入射する側の粒子速度の方向が+の方向となり、膜型共鳴器を音波が透過する側の粒子速度の方向が−の方向となり、音波の入射側と音波の透過側とで粒子速度の位相は変わらない。
本発明の防音構造体10は、単極子共鳴器として機能する共鳴構造15を膜状部材12の面内に固定したものであり、膜構造の第一固有振動周波数と、共鳴構造15の共鳴周波数とが略一致した構成を有するものである。すなわち、本発明の防音構造体10は、単極子共鳴器を双極子共鳴器の一部として配置し、単極子共鳴器と双極子共鳴器の共鳴周波数を略一致させたものである。
図8は、本発明の防音構造体10に音波が入射した際の音波の入射側と音波の透過側における粒子速度の方向を示したものである。図8において、図中上側から音波が入射した場合の、ある瞬間における防音構造体10に音波が入射する側の粒子速度の方向、および、防音構造体10を音波が透過する側の粒子速度の方向を小さい矢印で示す。また、粒子速度の方向は防音構造体10に向かう方向を+とした。
図8に示すように、防音構造体10は、単極子共鳴器である共鳴構造15と、双極子共鳴器である膜構造とを有しているため、防音構造体10を音波が透過する側の粒子速度の方向は、単極子共鳴器の作用によって+の方向になるものと、双極子共鳴器の作用によって−の方向となるものとが存在する。単極子共鳴器に起因する粒子速度と双極子共鳴器に起因する粒子速度とが反転しているため、互いに打ち消しあう。その結果、音波が防音構造体10を透過しにくくなり、図9に示すように、共鳴周波数近傍で吸収率が50%超の極大値となり、高い吸収率を得ることができる。
従って、本発明の防音構造体は、特定の周波数の音をより大きく消音することができる。
ここで、特許文献1には、1つの膜型共鳴器(第2の吸音部)の膜状部材(振動板)の構成要素として、別の膜型共鳴器(第1の吸音部)を備えた吸音装置が記載されている。このように双極子共鳴器である膜型共鳴器を2つ組み合わせた構成の場合には、いずれも双極子共鳴器であるため、音波の透過側における粒子速度の打ち消しあいが生じないため、50%超の高い吸収率を得ることができない。この点は、単極子共鳴器同士の場合も同様である。
例えば、図10に示すように、底面が閉じた開口部を有する枠体114に膜状部材112が振動可能に固定された膜型共鳴体116の膜状部材112に、ヘルムホルツ共鳴器118が追従可能に固定された防音構造体110を考える。図10において、音波の入射方向を大きい矢印で示し、ある瞬間における防音構造体110に音波が入射する側の粒子速度の方向、および、防音構造体110を音波が通過した側の粒子速度の方向を小さい矢印で示す。また、粒子速度の方向は防音構造体110に向かう方向を+とした。
膜型共鳴体116の共鳴周波数と、ヘルムホルツ共鳴器118の共鳴周波数とが一致している場合、図10に示すように、構造110に音波が入射する側において、膜型共鳴体116に由来する粒子速度の方向と、ヘルムホルツ共鳴器118に由来する粒子速度の方向とが同じ方向となる。また、構造110を音波が通過した側においても、膜型共鳴体116に由来する粒子速度の方向と、ヘルムホルツ共鳴器118に由来する粒子速度の方向とが同じ方向となる。このように、単極子共鳴器を組み合わせた場合には、それぞれの共鳴器に由来する粒子速度の位相が同じとなり打ち消しあいの干渉は起こらない。従って、50%超の大きな吸収率を得ることはできない。
なお、図10においては、単極子共鳴器の膜型共鳴器とヘルムホルツ共鳴器とを組み合わせたがこれに限定はされず、単極子共鳴器同士の組み合わせであれば、膜型共鳴器と膜型共鳴器とを組み合わせた場合も同様である。
また、多数の共鳴器を配置することで全体として50%以上の大きな吸収率を得ることは可能である。しかしながら、共鳴器を設置するのに必要なスペースが大きくなる点、および、コスト等の問題が問題となる。
これに対して、本発明の防音構造体10は、1つの防音構造体10で50%超の高い吸収率を得られるため、省スペースで、コストの増加を抑制しつつ高い消音効果を得ることができる。
本発明において、単極子共鳴器(共鳴構造15)に起因する粒子速度と双極子共鳴器(膜構造)に起因する粒子速度との打ち消しあいの効果を得るためには、単極子共鳴器(共鳴構造15)の共鳴周波数と、双極子共鳴器(膜構造)の共鳴周波数とを略一致させる必要がある。
具体的には、共鳴構造の共鳴周波数は、膜構造の第一固有振動周波数での吸収率の周波数スペクトルの半値幅の範囲内であり、吸収率の観点から、吸収率の周波数スペクトルにおいて、第一固有振動周波数での極大値の75%以上となる周波数幅の範囲内にあるのが好ましく、90%以上となる周波数幅の範囲内にあるのがより好ましい。
ここで、共鳴構造の共鳴周波数、および、膜構造の第一固有振動周波数は、例えば、JIS A 1405-2に従って垂直入射吸音率の周波数スペクトルを測定し、吸収率の極大値(ピーク)となる周波数として求めることができる。なお、周知のとおり、第一固有振動周波数は、最も低周波側に表れる基本振動モードにおける固有振動周波数である。膜構造の振動モードの解析は、レーザー干渉を用いて膜振動を測定することで直接観測する方法、膜面状に塩や白色の微粒子をまいて振動させることで節の位置を可視化する方法等により解析することができる。
あるいは、有限要素法計算などの数値計算法を用いて、共鳴構造の共鳴周波数、および、膜構造の第一固有振動周波数を求めることができる。
また、可聴域で吸音効果を得られる観点から、膜構造の第一固有振動周波数、および、共鳴構造の共鳴周波数は、20000Hz以下であるのが好ましく、50Hz〜20000Hzであることが好ましく、100Hz〜15000Hzがより好ましく、100Hz〜12000Hzがさらに好ましく、100Hz〜10000Hzが特に好ましい。
なお、本発明において可聴域とは、20Hz〜20000Hzである。
また、図1等に示す例では、共鳴構造15をヘルムホルツ共鳴器としたが、これに限定はされず、単極子共鳴器として機能する共鳴器であればよい。例えば、厚み方向に貫通する開口部を有する第二枠体と、第二枠体の開口部の両端面にそれぞれ振動可能に固定される2つの膜状部材とを有する両面膜型の共鳴器を用いることができる。
ところで、膜構造の膜振動の第一固有振動周波数は、膜状部材12の振動領域の大きさ、厚み、硬さ、密度、錘(共鳴構造15)の重さ、位置等を調整すればよい。
膜状部材12の厚みは、1000μm未満が好ましく、500μm以下がより好ましく、200μm以下がさらに好ましい。なお、膜状部材12の厚みが一様でない場合には、平均値が上記範囲であればよい。
膜状部材12のヤング率は、1MPa〜100GPaであることが好ましく、10MPa〜50GPaであることがより好ましく、100MPa〜30GPaであることが最も好ましい。
膜状部材12の密度は、10kg/m3〜30000kg/m3であることが好ましく、100kg/m3〜20000kg/m3であることがより好ましく、500kg/m3〜10000kg/m3であることが最も好ましい。
膜状部材12の膜振動する領域の形状、換言すると、第一枠体14の開口断面の形状は、特に制限的ではなく、例えば、正方形、長方形、ひし形、又は平行四辺形等の他の四角形、正三角形、二等辺三角形、又は直角三角形等の三角形、正五角形、又は正六角形等の正多角形を含む多角形、若しくは円形、楕円形等であってもよいし、不定形であってもよい。
膜状部材12の膜振動する領域の大きさ、換言すると、枠体の開口断面の大きさは、円相当直径(図13のd2)で1mm〜100mmが好ましく、3mm〜70mmがより好ましく、5mm〜50mmがさらに好ましい。
また、図1等に示す例では、共鳴構造15は、その重心位置が膜状部材12の中心位置と一致するように膜状部材12に固定される構成としたが、これに限定はされず、膜状部材12の中心位置以外の位置に配置されてもよい。共鳴構造15の配置位置を調整することで、膜構造の第一固有振動周波数を調整することができる。
膜振動の振動モードは、膜状部材の中心点に対して対称な形状となるので、振動モードを励起し高い吸収を得る観点から、共鳴構造15の重心位置と膜状部材12の中心位置とが一致した構成とすることが好ましい。
共鳴構造15の共鳴周波数は、周知の方法で調整すればよい。例えば、共鳴構造15がヘルムホルツ共鳴器の場合には、周知のとおり、ヘルムホルツ共鳴の基本周波数は貫通孔の開口面積と貫通孔の長さと背面空間の体積で決まるため、これらを調整することで共鳴周波数を所望の(膜構造の第一固有振動周波数と同じ)共鳴周波数とすることができる。
具体的には、ヘルムホルツ共鳴の共鳴周波数fh1は、fh1=c/(2π)×√(S/Vl)で与えられる。ここで、cは音速、Vは内部空間の体積、Sは貫通孔の断面積、lは貫通孔の長さ(より正確には開口端補正距離が考慮された長さ)である。このなかで貫通孔の長さに関しては必ずしも板状部材の厚みと同一である必要はない。例えば、貫通孔部から延長するように筒状部材を取り付ければ板状部材は薄いままで貫通孔の長さを長くすることができる。この構成は、吸音構造全体の軽量化を行う必要がある場合に有利な構成である。また、たとえば貫通孔を形成する際にパンチング等を用いて、打ち抜いた際に生じるバリ状の構造を上述した筒状部材として機能させることもできる。
また、内部空間20の厚み(すなわち、第二枠体16の高さ、図13中のh1)は、50mm以下が好ましく、30mm以下がより好ましく、20mm以下がさらに好ましく、10mm以下が特に好ましい。なお、内部空間20の厚みが一様でない場合には、平均値が上記範囲であればよい。
貫通孔18aおよび貫通孔19aの大きさは、円相当直径(図13のx)で0.1mm〜12mmが好ましく、0.5mm〜11mmがより好ましく、1mm〜10mmがさらに好ましい。
貫通孔の径が小さすぎると熱粘性摩擦が大きくなり板状部材を音が通りにくくなるため、背面側に存在する膜状部材などに十分に音が行き届かなくなる。一方で、貫通孔の径が大きすぎると熱粘性摩擦が小さくなりすぎるため、ヘルムホルツ共鳴による吸音効果が十分に得られにくい。
板状部材18および板状部材19の厚み(図13のt1)は、0.1mm〜10mmが好ましく、0.5mm〜7mmがより好ましく、1.0mm〜5mmがさらに好ましい。なお、板状部材18および板状部材19の厚みは、貫通孔部分における厚みである。また、板状部材18の厚みと板状部材19の厚みは同じであっても異なっていてもよい。
共鳴構造15が両面膜型の共鳴器の場合には、共鳴構造15の共鳴周波数は、2枚の膜状部材それぞれの振動領域の大きさ、厚み、硬さおよび密度、ならびに、2枚の膜状部材の間の空間の厚み等を調整すればよい。
また、図1等に示す例では、共鳴構造15は、厚み方向に貫通する開口部を有する第二枠体16と、貫通孔18aを有する板状部材18と、貫通孔19aを有する板状部材19とによって構成されている。そのため、共鳴構造15は、膜状部材12の一方の面側の空間と他方の面側の空間とを連通する孔部を有する構成である。
共鳴構造15が膜状部材12の一方の面側の空間と他方の面側の空間とを連通する孔部を有する構成とすることで通風性を有するものとすることができる。
また、図2に示す例では、共鳴構造15は、第二枠体16の外周面が膜状部材12に固定されている構成としたが、これに限定はされない。
図11は、本発明の防音構造体の他の一例を模式的に示す断面図である。図11に示す防音構造は、共鳴構造15と膜状部材12との固定位置が異なる以外は同じ構成を有するので同じ部位には同じ符号を付している。
図11に示す防音構造体において、共鳴構造15は板状部材18の第二枠体16とは反対側の表面が膜状部材12の一方の表面に固定されている。
また、図11に示す例では、膜状部材12の面方向において、共鳴構造15は、共鳴構造15の重心位置が膜状部材12の中心位置と一致するように膜状部材12に固定されている。
このように共鳴構造15の板状部材の一方を膜状部材12に固定する構成でも、共鳴構造15によって音波の入射側と音波の透過側とで粒子速度の位相が反転するため、防音構造体を音波が透過する側において、粒子速度の打ち消しあいが生じて、高い吸収率を得ることができる。
また、装置小型化の観点から、防音構造体10の合計厚み(厚み方向における防音構造体10の一端から他端までの長さ)は、50mm以下であるのが好ましく、30mm以下であるのがより好ましく、15mm以下であるのがさらに好ましい。
なお、防音構造体10の厚みの下限値については、膜状部材12および板状部材18および板状部材19を適切に支持し得る以上、特に限定されるものではないが、0.1mm以上であるのが好ましく、0.3mm以上であるのがさらに好ましい。
以下、防音構造体10各部(すなわち、膜状部材12、第一枠体14、第二枠体16、板状部材18および板状部材19)を構成する材料について説明する。
<枠体材料>
第一枠体14及び第二枠体16の材料(以下、枠体材料)は、膜状部材12とともに振動(共振)しないもの、すなわち剛体であり、具体的には金属材料、樹脂材料、強化プラスチック材料、および、カーボンファイバ等を挙げることができる。金属材料としては、例えば、アルミニウム、チタン、マグネシウム、タングステン、鉄、スチール、クロム、クロムモリブデン、ニクロムモリブデン、銅および、これらの合金等の金属材料を挙げることができる。また、樹脂材料としては、例えば、アクリル樹脂、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネート、ポリアミドイミド、ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリアセタール、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド、ポリサルフォン、ポリエチレンテレフタラート、ポリブチレンテレフタラート、ポリイミド、ABS樹脂(アクリロニトリル(Acrylonitrile)、ブタジエン (Butadiene)、スチレン(Styrene)共重合合成樹脂)、ポリプロピレン、および、トリアセチルセルロース等の樹脂材料を挙げることができる。また、強化プラスチック材料としては、炭素繊維強化プラスチック(CFRP:Carbon Fiber Reinforced Plastics)、および、ガラス繊維強化プラスチック(GFRP:Glass Fiber Reinforced Plastics)を挙げることができる。
また、枠体材料として各種ハニカムコア材料を用いることもできる。ハニカムコア材料は軽量で高剛性材料として用いられているため、既製品の入手が容易である。アルミハニカムコア、FRPハニカムコア、ペーパーハニカムコア(新日本フエザーコア株式会社製、昭和飛行機工業株式会社製など)、熱可塑性樹脂(PP,PET,PE,PCなど)ハニカムコア(岐阜プラスチック工業株式会社製TECCELLなど)など様々な素材で形成されたハニカムコア材料を枠体材料として使用することが可能である。
防音構造体10が高温となる場所に配置され得るため、枠体材料は、難燃材料より耐熱性の高い材料であることが好ましい。耐熱性は、例えば、建築基準法施行令の第百八条の二各号を満たす時間で定義することができる。建築基準法施行令の第百八条の二各号を満たす時間が5分間以上10分間未満の場合が難燃材料であり、10分間以上20分間未満の場合が準不燃材料であり、20分間以上の場合が不燃材料である。ただし、耐熱性については、適用分野別に定義されることが多い。そのため、防音構造体を利用する分野に合わせて、枠体材料を、その分野で定義される難燃性相当以上の耐熱性を有する材料からなるものとすればよい。
枠体の形状について付言しておくと、枠体の肉厚(円筒状の枠体であれば、外径と内径との差)や厚みについては、当該枠体にて膜状部材12、板状部材18および板状部材19を確実に固定、支持することができるものである以上、特に制限されるものではなく、例えば、枠体に形成された開口部20の大きさ(内径)等に応じて適宜設定することができる。
<膜材料>
膜状部材12の材料(以下、膜材料)としては、アルミニウム、チタン、ニッケル、パーマロイ、42アロイ、コバール、ニクロム、銅、ベリリウム、リン青銅、黄銅、洋白、錫、亜鉛、鉄、タンタル、ニオブ、モリブデン、ジルコニウム、金、銀、白金、パラジウム、鋼鉄、タングステン、鉛、および、イリジウム等の各種金属、あるいはPET(ポリエチレンテレフタレート)、TAC(トリアセチルセルロース)、PVDC(ポリ塩化ビニリデン)、PE(ポリエチレン)、PVC(ポリ塩化ビニル)、PMP(ポリメチルペンテン)、COP(シクロオレフィンポリマー)、ゼオノア、ポリカーボネート、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PP(ポリプロピレン)、PS(ポリスチレン)、PAR(ポリアリレート)、アラミド、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、PES(ポリエーテルサルフォン)、ナイロン、PEs(ポリエステル)、COC(環状オレフィン・コポリマー)、ジアセチルセルロース、ニトロセルロース、セルロース誘導体、ポリアミド、ポリアミドイミド、POM(ポリオキシメチレン)、PEI(ポリエーテルイミド)、ポリロタキサン(スライドリングマテリアルなど)およびポリイミド等の樹脂材料等が利用可能である。さらに、薄膜ガラスなどのガラス材料、CFRP(炭素繊維強化プラスチック)およびGFRP(ガラス繊維強化プラスチック)のような繊維強化プラスチック材料を用いることもできる。または、これらを組合せた材料を膜材料として用いてもよい。
なお、熱、紫外線、外部振動等に対する耐久性が優れている観点から、金属材料を膜材料として用いるのが好ましい。また、金属材料を用いる場合には、錆びの抑制等の観点から、表面に金属めっきを施してもよい。
また、枠体への膜状部材12の固定方法については、特に制限されるものではなく、両面テープまたは接着剤を用いる方法、ネジ止め等の機械的固定方法、圧着等が適宜利用可能である。ここで、枠体材料や膜材料と同様、耐熱、耐久性、耐水性の観点から固定手段を選定するのが好ましい。例えば、接着剤を用いて固定する場合には、セメダイン社「スーパーX」シリーズ、スリーボンド社「3700シリーズ(耐熱)」、太陽金網株式会社製耐熱エポキシ系接着剤「Duralcoシリーズ」などを固定手段として選定するとよい。また、両面テープを用いて固定する場合には、スリーエム製高耐熱両面粘着テープ9077などを固定手段として選定するとよい。このように、要求する特性に対して様々な固定手段を選択することができる。
<板状部材の材料>
板状部材18および板状部材19の材料としては、金属材料、樹脂材料、強化プラスチック材料、および、カーボンファイバ等を挙げることができる。金属材料としては、例えば、アルミニウム、チタン、マグネシウム、タングステン、鉄、スチール、クロム、クロムモリブデン、ニクロムモリブデン、銅および、これらの合金等の金属材料を挙げることができる。また、樹脂材料としては、例えば、アクリル樹脂、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネート、ポリアミドイド、ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリアセタール、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド、ポリサルフォン、ポリエチレンテレフタラート、ポリブチレンテレフタラート、ポリイミド、ABS樹脂(アクリロニトリル(Acrylonitrile)、ブタジエン (Butadiene)、スチレン(Styrene)共重合合成樹脂)、ポリプロピレン、および、トリアセチルセルロース等の樹脂材料を挙げることができる。また、強化プラスチック材料としては、炭素繊維強化プラスチック(CFRP:Carbon Fiber Reinforced Plastics)、および、ガラス繊維強化プラスチック(GFRP:Glass Fiber Reinforced Plastics)を挙げることができる。
防音構造体10が高温となる場所に配置され得るため、板状部材は、難燃材料、もしくは不燃材料、あるいは、耐熱性の高い材料であることが好ましい。
<<本発明の防音構造体の変形例について>>
以上までに本発明の一例に係る防音構造体(すなわち、防音構造体10)の構成について説明してきたが、その内容は、あくまでも本発明の防音構造体の構成例の一つに過ぎず、他の構成も考えられる。以下では、本発明の防音構造体の変形例について説明する。
上述した防音構造体10の構成では、膜状部材12を支持する第一枠体14が、円筒状枠体によって構成されていることとした。ただし、第一枠体14は、膜状部材12を膜振動可能に支持するものであればよく、例えば、各種電子機器の筐体の一部であってもよい。かかる構成を採用する場合、第一枠体14としての枠体を筺体側にあらかじめ一体成型するとよい。そのようにすれば、膜状部材12を後から取り付けることが可能となる。
また、第一枠体14は、円筒形状に限定されるものではなく、膜状部材12を振動可能に支持できれば、種々の形状とすることが可能である。例えば、角筒形状(直方体の外形形状で開口部が形成された形状)の枠体を用いてもよい。
同様に、第二枠体16は、円筒形状に限定されるものではなく、内部空間20を形成できれば、種々の形状とすることが可能である。例えば、角筒形状(直方体の外形形状で開口部が形成された形状)の枠体を用いてもよい。
また、上述した防音構造体10の構成では、内部空間20の内部に空気のみが存在していることとしたが、内部空間20内に多孔質吸音体が配置されている構成であってもよい。
内部空間20内に多孔質吸音体を配置することで、吸音ピークでの吸音率が小さくなる代わりに低周波側に広帯域化することが可能となる。
多孔質吸音体としては、特に限定はなく、公知の多孔質吸音体を適宜利用することが可能である。例えば、発泡ウレタン、軟質ウレタンフォーム、木材、セラミックス粒子焼結材、フェノールフォーム等の発泡材料及び微小な空気を含む材料;グラスウール、ロックウール、マイクロファイバー(3M社製シンサレートなど)、フロアマット、絨毯、メルトブローン不織布、金属不織布、ポリエステル不織布、金属ウール、フェルト、インシュレーションボード並びにガラス不織布等のファイバー及び不織布類材料、木毛セメント板、シリカナノファイバーなどのナノファイバー系材料、石膏ボードなど、種々の公知の多孔質吸音体が利用可能である。
また、多孔質吸音体の流れ抵抗σ1には特に限定はないが、1000〜100000(Pa・s/m2)が好ましく、5000〜80000(Pa・s/m2)がより好ましく、10000〜50000(Pa・s/m2)がさらに好ましい。
多孔質吸音体の流れ抵抗は、1cm厚の多孔質吸音体の垂直入射吸音率を測定し、Mikiモデル(J. Acoust. Soc. Jpn., 11(1) pp.19−24 (1990))でフィッティングすることで評価することができる。または「ISO 9053」に従って評価してもよい。
また、板状部材18の貫通孔18aの部分、および、板状部材19の貫通孔19aの部分には、ゴミを通さない大きさの網目を有するメッシュ部材を配置してもよい。メッシュ部材は、金属製あるいはプラスチック製のメッシュ、不織布、ウレタン、エアロゲル、ポーラス状のフィルム等を用いることができる。
以下に実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。
なお、以下の実施例で挙げる材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等については、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す実施例により限定的に解釈されるべきものではない。
[実施例1]
実施例1として、図12に示すように、本発明の防音構造体10を音響管内に設置したモデルを作成してシミュレーションを行い、吸収率を求めた。
シミュレーションは、有限要素法計算ソフトCOMSOL MultiPhysics ver.5.3(COMSOL Inc.)の音響モジュールを用いて行なった。計算モデルは二次元軸対称構造計算モデルとした。
具体的には、計算モデルは、内径40mm(図13のd2)、長さ600mmの音響管Pの中央位置(長さ方向の300mmの位置)に防音構造体10が配置されるものとした。なお、音響管Pが、防音構造体10の第一枠体14を兼ねる構成とした。
防音構造体10の構成は以下のとおりとした。図13に防音構造体10各部の寸法記号を付した断面図を示す。
膜状部材12の厚みは125μmとし、膜状部材の硬さを表すパラメータであるヤング率をPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムのヤング率である4.5GPaとした。
第二枠体16は円筒形状とし、高さh1は10mmとし、外径d1は17mmとし、肉厚t2は1mmとした。
板状部材18および板状部材19は円盤形状とし、中央に貫通孔(18a、19a)を有する構成とした。板状部材18および板状部材19の厚みt1は2mmとし、貫通孔18aおよび貫通孔19aの直径xは2.1mmとした。
また、第二枠体16、板状部材18および板状部材19のヤング率はPETフィルムのヤング率である4.5GPaとした。
なお、後述する参考例1および参考例2に示すように、実施例1において膜構造の第一固有振動周波数は約1800Hzであり、共鳴構造の共鳴周波数は約1800Hzである。すなわち、実施例1は、膜構造の第一固有振動周波数と、共鳴構造の共鳴周波数は略一致している。
以上の計算モデルにおいて、音響と構造の連成解析計算を行った。このとき、共鳴構造15を含む膜状部材12の膜振動に関しては構造力学計算を行い、共鳴構造15のヘルムホルツ共鳴に関しては音の空気伝播を計算する形でシミュレーションを行った。また、ヘルムホルツ共鳴を生じる貫通孔内は熱粘性音響計算を行うことで、粘性摩擦による摩擦熱吸音も含めて正確に計算を行った。これらの物理モードを連成させて計算を行った。
評価は、垂直入射吸音率配置で行い、周波数と吸音率との関係を計算した。
[参考例1]
参考例1として、板状部材18および板状部材19が貫通孔を有さない構成とした以外は実施例1と同様にシミュレーションを行なった。
参考例1は、共鳴構造15が共鳴しないとみなした場合における共鳴構造15bを含む膜状部材12を有する膜構造に相当するものである。
参考例1の第一固有振動周波数は、約1800Hzであった。
[参考例2]
参考例2として、膜状部材12を音に対して振動しないものとした以外は実施例1と同様にシミュレーションを行なった。
参考例2は、共鳴構造15単体に相当するものである。
参考例2の共鳴周波数は、約1800Hzであった。
[比較例1〜3]
比較例1〜3として、貫通孔18aおよび貫通孔19aの直径xをそれぞれ、0.8mm、1.2mm、4.3mmとした以外は実施例1と同様にシミュレーションを行なった。
すなわち、比較例1〜3は、ヘルムホルツ共鳴器である共鳴構造の共鳴周波数を実施例1とは変えたものであり、共鳴構造の共鳴周波数が膜構造の第一固有振動周波数と一致しない例である。
比較例1の共鳴構造の共鳴周波数は740Hzである。比較例2の共鳴構造の共鳴周波数は1100Hzである。比較例3の共鳴構造の共鳴周波数は2580Hzである。
[比較例4]
比較例4として、図14に示すように共鳴構造15を有さず、中央に貫通孔100aを有する膜状部材100として実施例1と同様にシミュレーションを行なった。貫通孔100aの直径x2は、2.1mmとした。
結果を図15に示す。図15は、周波数と吸収率の関係を表すグラフである。
図15から、参考例1、参考例2および比較例4のように共鳴器単体の場合は吸収率が0.5(50%)を超えないことがわかる。
また、比較例1〜3のように、共鳴構造の共鳴周波数が膜構造の第一固有振動周波数と一致しない場合には、吸収率が0.5(50%)を超えることがなく、また、吸収ピーク周波数がずれることがわかる。
これに対して、本発明の防音構造体である実施例1は、吸収率が0.9(90%)を超えており、0.5(50%)を超える高い吸収率が得られることがわかる。
ここで、図16〜図18に、実施例1、参考例1および参考例2のシミュレーション結果から、音響管内の粒子速度の向きを可視化した図を示す。図16〜図18に示す図は、入射する音が1800Hzの場合である。また、図16〜図18中の矢印は全て同じ大きさに揃えた(正規化した)。すなわち、矢印は粒子速度の向きのみを示すものであり、粒子速度の大きさは表していない。
図17から参考例1は、構造の前後で粒子速度の向きが変化していない、すなわち双極子(ダイポール)共鳴器として作用していることが分かる。一方で、図18から参考例2は、構造の前後で粒子速度の向きが反転している。すなわち、単極子(モノポール)共鳴器として作用していることが分かる。
図16から実施例1は、構造の透過側で、双極子(ダイポール)共鳴器由来の粒子速度と、単極子(モノポール)共鳴器由来の粒子速度とが打ち消しあっていることが分かる。
なお、膜構造の第一固有振動周波数は、図19に示すような周波数と透過損失との関係を求めて、透過損失が極小値となる周波数として求めてもよい。
[参考例3〜6]
参考例3〜6として、貫通孔18aおよび貫通孔19aの直径xをそれぞれ、1.9mm、2.0mm、2.2mm、2.3mmとした以外は参考例2と同様にシミュレーションを行なった。
すなわち、参考例3〜6は、共鳴構造15単体に相当するものである。
参考例3〜6の共鳴周波数はそれぞれ、約1640Hz、約1700Hz、約1860Hz、約1920Hzであった。
[実施例2〜5]
実施例2〜5として、貫通孔18aおよび貫通孔19aの直径xをそれぞれ、1.9mm、2.0mm、2.2mm、2.3mmとした以外は実施例1と同様にシミュレーションを行なった。
すなわち、実施例2〜5は、ヘルムホルツ共鳴器である共鳴構造の共鳴周波数を実施例1とは変えたものである。実施例2は、参考例1の膜構造と参考例3の共鳴構造とを組み合わせたものである。実施例3は、参考例1の膜構造と参考例4の共鳴構造とを組み合わせたものである。実施例4は、参考例1の膜構造と参考例5の共鳴構造とを組み合わせたものである。実施例5は、参考例1の膜構造と参考例6の共鳴構造とを組み合わせたものである。
ここで、参考例1の膜構造の吸収率の周波数スペクトルにおいて、第一固有振動周波数でのピークの半値幅は、1390Hz〜2230Hzである。
したがって、実施例2〜5はいずれも、共鳴構造の共鳴周波数が膜構造の第一固有振動周波数と略一致している。
実施例1〜5および参考例2〜6の結果を図20に示す。
図20から、共鳴構造の共鳴周波数が膜構造の第一固有振動周波数との一致度がより高い実施例ほど高い吸収率が得られることがわかる。
[参考例5〜8]
次に、参考例として、図10に示すような膜型の共鳴器116の膜状部材112にヘルムホルツ共鳴器118が固定された防音構造体110防音構造体について検討を行なった。
具体的には、枠体114はアクリル製で一面が開放された立方体とし、開口部が大きさ20mm×20mm、深さ20mm、枠厚みが2mmとした。膜状部材112は厚み50μm、大きさ24mm×24mmのPETフィルムとした。ヘルムホルツ共鳴器118は、アクリル製で、内部空間が10mm×10mm×10mm、枠厚み2mmの立方体とし、一面の中央に貫通孔を有するネックが取り付けられているものとした。ネックの長さは4mmとした。また、ヘルムホルツ共鳴器118のネック部の開口側が膜状部材112の中央に固定されるものとした。
このような構成において、ヘルムホルツ共鳴器118のネック部の開口径を2.5mm、3.2mm、3.8mm、4.0mmとしたものをそれぞれ参考例5〜参考例8とした。
なお、ヘルムホルツ共鳴器単体での共鳴周波数は、それぞれ約1600Hz(2.5mm)、約1900Hz(3.2mm)、約2100Hz(3.8mm)、2200Hz(4.0mm)である。
一方、ヘルムホルツ共鳴器が共鳴しないとみなした場合の、ヘルムホルツ共鳴器を含む膜型共鳴器(以下、単に膜型共鳴器ともいう)の共鳴周波数(第一固有振動周波数)は、2150Hzである。
参考例5〜8の各防音構造体を音響管内に配置し、4マイクロホン法による垂直入射吸音率の評価を行った。この吸音率の測定法はJIS A 1405-2に従ったもので、同様の測定は日本音響エンジニアリング製WinZacMTXを用いることができる。音響管の直径は40mmとした。
結果を図21に示す。
図21から、ヘルムホルツ共鳴器単体の共鳴周波数と膜型共鳴器の第一固有振動周波数とがずれている参考例5では、1600Hz付近にヘルムホルツ共鳴器に由来する吸収率のピークと、2100Hz付近に膜型共鳴器に由来する吸収率のピークとの2つの吸収率のピークが観測されていることがわかる。この2つの吸収率のピークはいずれも0.5(50%)以下である。
参考例6〜8から、ヘルムホルツ共鳴器単体の共鳴周波数と膜型共鳴器の第一固有振動周波数とが近い(略一致している)構成であっても、吸収率が0.5(50%)を超えないことが分かる。
以上から、位相が同じになる共鳴器を2つ組み合わせた場合においても吸収率は50%を超えることはないことがわかる。
以上の結果から、本発明の効果は明らかである。
10 防音構造体
12 膜状部材
14 第一枠体
15 共鳴構造
15b 共鳴しないとみなした共鳴構造
16 第二枠体
18 板状部材
18a 貫通孔
18b 貫通孔を有さない板状部材
19 板状部材
19a 貫通孔
19b 貫通孔を有さない板状部材
20 開口部(内部空間)
100 膜状部材
100a 貫通孔
110 防音構造体
112 膜状部材
114 枠体
116 膜型共鳴体
118 ヘルムホルツ共鳴器

Claims (9)

  1. 厚み方向に貫通する開口部を有する第一枠体と、
    前記開口部を覆い、振動可能に前記第一枠体に固定される膜状部材と、
    前記膜状部材の面内に、前記膜状部材の膜振動に追従可能に固定され、音波に共鳴する共鳴構造と、を有し、
    前記共鳴構造は、音波の入射側と音波の透過側とで粒子速度の位相が反転する、音波に対する単極子共鳴器として機能する共鳴周波数を有し、
    前記共鳴構造の共鳴周波数は、前記共鳴構造が共鳴しないとみなした場合における、前記共鳴構造を含む前記膜状部材の第一固有振動周波数での吸収率の周波数スペクトルの半値幅の範囲内にある防音構造体。
  2. 前記共鳴構造は、前記膜状部材の一方の面側の空間と他方の面側の空間とを連通する孔部を有する請求項1に記載の防音構造体。
  3. 前記共鳴構造は、
    厚み方向に貫通する開口部を有する第二枠体と、
    前記第二枠体の前記開口部の両端面にそれぞれ配置される2つの板状部材と、を有し、
    前記第二枠体の外周面が前記膜状部材に固定されており、
    前記板状部材は貫通孔を有する請求項1または2に記載の防音構造体。
  4. 前記共鳴構造は、
    厚み方向に貫通する開口部を有する第二枠体と、
    前記第二枠体の前記開口部の両端面にそれぞれ配置される2つの板状部材と、を有し、
    前記板状部材の一方が前記膜状部材に固定されており、
    前記板状部材は貫通孔を有する請求項1または2に記載の防音構造体。
  5. 前記共鳴構造が、ヘルムホルツ共鳴器である請求項1〜4のいずれか一項に記載の防音構造体。
  6. 前記共鳴構造が、厚み方向に貫通する開口部を有する第二枠体と、
    前記第二枠体の前記開口部の両端面にそれぞれ振動可能に固定される2つの膜状部材と、を有する請求項1〜4のいずれか一項に記載の防音構造体。
  7. 前記膜状部材の面方向において、前記共鳴構造の重心位置が、前記膜状部材の中心位置と一致している請求項1〜6のいずれか一項に記載の防音構造体。
  8. 前記共鳴構造が共鳴しないとみなした場合における、前記共鳴構造を含む前記膜状部材の第一固有振動周波数が20000Hz以下である請求項1〜7のいずれか一項に記載の防音構造体。
  9. 前記共鳴構造の共鳴周波数は、前記共鳴構造が共鳴しないとみなした場合における、前記共鳴構造を含む前記膜状部材による吸収率の周波数スペクトルにおいて、前記第一固有振動周波数での極大値の75%以上となる周波数幅の範囲内にある請求項1〜8のいずれか一項に記載の防音構造体。
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