本発明の光学フィルタは、透明基板と、それぞれ近赤外波長領域内の所定の波長範囲の光の透過を制限する、3つ以上の、薄膜積層構造体を備え、各々の前記薄膜積層構造体は透明基板のいずれか一方の表面上に積層される。そして、3つ以上の薄膜積層構造体のうちの少なくとも2つの薄膜積層構造体は透過を制限する波長範囲がそれぞれ異なっており、かつ、3つ以上の薄膜積層構造体によって透過が制限される波長範囲が連続している。そして、透明基板の少なくとも一方の同一の表面側に配置される薄膜積層構造体による透過制限波長範囲が不連続である。
従来一般的な、透過を制限する光の波長範囲(以下「透過制限波長範囲」ともいう。)の広い薄膜積層構造体のみを使用した光学フィルタでは光の入射角が大きくなると、可視波長領域の所定の波長範囲において透過率が部分的に低下する現象(以下「反射リップル」という。)が起こり易くなる。他方、反射リップルを抑える一般的な手法は、透過制限波長範囲の狭い薄膜積層構造体を使用することであるが、これを適用すると近赤外波長領域の所定の波長範囲において透過率が部分的に上昇する現象(以下「透過リップル」という。)が発生するおそれがある。そのため、従来技術を用いた光学フィルタにおいては、可視波長帯域における反射リップルの抑制と近赤外波長領域の透過リップルの抑制とを両立させることは非常に難しい。
通常、光学フィルタの赤色領域の透過率の低下の原因としては、ガラスの吸収もしくは、入射角度変化による近赤外領域の透過制限波長範囲の短波長側へのシフトがほとんどである。その変化量は光学系のデザインに大きく影響されるため、予期しうる。これに対し、青色、緑色領域の透過率低下の原因は、近赤外波長領域の阻止帯を形成するショートパスフィルタの設計バランスのずれから生じる巨大な反射リップル発生が主原因であり、透過率変化量の予期が難しい。そして、緑色領域は画像処理上で多用される重要な領域であり、青色領域は元々の感受率が低い等の問題から、より高い光量が必要な領域である。そのため、青色、緑色領域のおける反射リップルの抑制(透過率の低下の抑制)された光学フィルタは、CCDやCMOS等の撮像素子、その他光センサ用途の光学フィルタとして好適に利用することができる。
本発明の光学フィルタにおいては、近赤外領域の波長の光の透過を、3つ以上の薄膜積層構造体によって制限するため、各々の透過制限波長範囲が狭い薄膜積層構造体を用いたとしても、近赤外波長領域の透過リップル及び可視波長領域の反射リップルが生じにくく、広角度の光の入射に対しても高い透過制限性能を維持することができる。
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。図1に示すように、第1の実施形態に係る光学フィルタ1は、透明基板10と、3つの薄膜積層構造体11、12、13を備えている。薄膜積層構造体11、12、13は、各々、透明基板10のいずれか一方の表面上に積層される。図1においては、透明基板10の一方の表面10a上に薄膜積層構造体12が、他方の表面10b上に、薄膜積層構造体11及び薄膜積層構造体13が積層されている。なお、薄膜積層構造体12は、透明基板10のいずれの表面上に設けられてもよく、この場合、薄膜積層構造体11及び薄膜積層構造体13は、透明基板10の薄膜積層構造体12の設けられた面と反対側の面に設けられる。例えば、薄膜積層構造体12が表面10b上に、薄膜積層構造体11及び薄膜積層構造体13が表面10a上に積層されてもよい。
この薄膜積層構造体11、12、13は、それぞれ、近赤外波長領域内の所定の波長範囲の光の透過を制限する。具体的には、薄膜積層構造体11は、例えば、近赤外波長領域に含まれる第1の波長範囲の光の透過を制限する。同様に、薄膜積層構造体12は、近赤外波長領域に含まれる第2の波長範囲を、薄膜積層構造体13は、近赤外波長領域に含まれる第3の波長範囲の光の透過を、それぞれ制限する。なお、本発明で用いられる各薄膜積層構造体は、近赤外波長領域内の光の透過が制限される波長範囲が連続していることが好ましい。言い換えると、各薄膜積層構造体は、近赤外波長領域内において、一つの光透過制限波長範囲を有する(光透過制限波長範囲が二つ以上に分かれていない)ことが好ましい。
薄膜積層構造体11、12、13が透過を制限する波長範囲は互いに異なっている。例えば、第1の波長範囲は、近赤外線波長領域を3つの範囲に分けたときの、最も短波長側の範囲を含む波長範囲であり、第3の波長範囲は、最も長波長側の範囲を含む波長範囲である。第2の波長範囲は、第1の波長範囲と、第3の波長範囲の中間の範囲を含む波長範囲である。この場合、第1の波長範囲、第2の波長範囲、第3の波長範囲の中心波長は、短波長側から長波長側に、第1の波長範囲の中心波長、第2の波長範囲の中心波長、第3の波長範囲の中心波長の順、もしくは、長波長側から短波長側に、第1の波長範囲の中心波長、第2の波長範囲の中心波長、第3の波長範囲の中心波長の順に位置することが好ましい。
また、図1において、薄膜積層構造体11、13は、ガラス基板側から薄膜積層構造体11、薄膜積層構造体13の順で配置されるが、薄膜積層構造体13、薄膜積層構造体11の順で配置されてもよい。また、薄膜積層構造体12の主要部分は薄膜積層構造体11、薄膜積層構造体13が配置される面とは異なる面に配置されることが必要である。つまり、光学フィルタ1が透過を制限する光の阻止量のほとんどは薄膜積層構造体11、薄膜積層構造体13が配置される面とは反対側の薄膜積層構造体12が作り出すことが好ましい。なお、上記各薄膜積層構造体とは別に、例えば紫外波長領域の光の透過を制限する薄膜積層構造体を設けてもよい。紫外波長領域の光の透過を制限るための薄膜積層構造体は、薄膜積層構造体11、12、13と透過制限波長範囲が連続していないため、透過制限波長範囲同士が重なりあう部分に発生しやすい透過リップルの影響がないからである。
なお、本実施形態の光学フィルタにおいて、「光の透過を制限する」とは、所定の波長の光に関し、入射角0度(垂直入射)で入射した場合の光の透過率が5%未満であることをいう。また、「透過制限波長範囲が不連続」とは、透過リップルによって透過制限波長範囲が分断されることを言い、この透過リップルの程度が透過率5%以上の大きさとなった状態をいう。
薄膜積層構造体11、12、13によって透過を制限する波長範囲は、連続している。すなわち、第1の波長範囲、第2の波長範囲、第3の波長範囲を重ね合わせた範囲は、近赤外線波長領域の所定領域のすべてを含む。
薄膜積層構造体12と、薄膜積層構造体13は、後述する斜入射の反射リップルが小さい特徴を持つ薄膜積層構造体とすることが好ましく、特に薄膜積層構造体12は薄膜積層構造体13よりも全ての薄膜の平均屈折率が高く、入射光の斜入射依存による波長シフト量が小さいものであることが好ましい。
これらの特徴を持つ薄膜積層構造体は、透過制限波長範囲の幅が通常のものより狭いことが多いが、斜入射の反射リップルが根本的に小さいことにより、薄膜積層構造体の層数を増やした場合の斜入射の反射リップル増大の問題が少なく、透過制限波長範囲を形成しやすい。さらに、薄膜積層構造体12がその他とは別の面に配置されるため、薄膜積層構造体同士の重ね合わせによって発生する透過リップルの問題が起きにくい。
また、薄膜積層構造体12は、斜入射時の波長シフト量が非常に小さいものとすることで、広角において安定して特定波長域における透過制限性能を維持できる。そして、薄膜積層構造体13の斜入射時の波長シフト量が薄膜積層構造体12の斜入射時の波長シフト量よりも十分に大きい場合、入射角度が大きいと薄膜積層構造体13における透過制限波長範囲が、薄膜積層構造体12が受け持っていた波長帯に移動してくる。それによりそれぞれの薄膜積層構造体が形成する透過制限波長範囲が常に重複することとなり、波長800〜1000nmにおける光の阻止性能を維持しやすく好ましい。また、薄膜積層構造体12が受け持つ入射角度0度の波長範囲内のもっとも透過率が低い波長において、本発明が構成する光学フィルタの透過率が0.05%以下であることが好ましい。
本発明において、光の透過率は、分光光度計、例えば、日立ハイテクサイエンス製分光光度計U4100を用いて測定できる。また、特に指定しない場合、光の透過率とは、入射角が0°における透過率をいうものである。
なお、上記では、3つの薄膜積層構造体11、12、13を有する光学フィルタ1について説明したが、薄膜積層構造体の数は4つ以上であってもよい。薄膜積層構造体が4つ以上の場合、透過を制限する波長範囲の中心波長が、薄膜積層構造体11、12、13の中心波長よりも長波長側にある薄膜積層構造体を付加的に設けることができる。すなわち、薄膜積層構造体が4つ以上の場合、前述の3つの薄膜積層構造体11、12、13は、透過を制限する波長範囲の中心波長が最も短波長側にある薄膜積層構造体、2番目に短波長側にある薄膜積層構造、及び3番目に短波長側にある薄膜積層構造体である。薄膜積層構造体の数は3つ以上7つ以下が好ましく、4つ以上6つ以下であることが特に好ましい。実施形態の光学フィルタが4つ以上の薄膜積層構造体を有する場合にも、透明基板の同一の表面上に積層される薄膜積層構造体の透過制限波長は連続しないように、薄膜積層構造体が配置される。例えば、透過制限波長範囲の中心波長が短いものから順に4つの薄膜積層構造体について、透明基板10の両表面に交互に積層することができる。或いは、近赤外領域の波長の光の透過を制限する波長範囲の中心波長が2番目に短波長側にある薄膜積層構造体がそれ以外の薄膜積層構造体とは異なる表面に積層されてもよい。このようにすることで、可視波長帯域の反射リップルを抑制することができる。
次に、本実施形態の光学フィルタ1が有する各構成について説明する。
薄膜積層構造体11、12、13は、例えば、誘電体多層膜によって、所望の波長範囲の透過を制限するように構成される。誘電体多層膜は、低屈折率の誘電体膜(低屈折率膜)、中屈折率の誘電体膜(中屈折率膜)及び高屈折率の誘電体膜(高屈折率膜)から選択して交互に積層することで得られる光学的機能を有する膜である。設計により、光の干渉を利用して特定の波長領域の光の透過や、光の透過制限を制御する機能を発現させることができる。なお、低屈折率、高屈折率、中屈折率とは、隣接する層の屈折率に対して高い屈折率と低い屈折率、またその中間の屈折率を有することを意味する。
本発明の光学フィルタにおいて、斜入射の反射リップルを低減できる薄膜積層構造体としては、以下の構成の光学多層膜(近赤外線カットフィルタ)を好適に用いることができる。
波長500nmにおける屈折率が2.0以上である高屈折率膜と、波長500nmにおける屈折率が1.6以上で前記高屈折率膜の屈折率未満である中屈折率膜と、波長500nmにおける屈折率が1.6未満である低屈折率膜とを備え、前記高屈折率膜をH、前記中屈折率膜をM、前記低屈折率膜をLとしたとき、(LMHML)^n(nは1以上の自然数)の繰り返しで表される繰り返し積層構造を有し、400〜700nmの波長範囲に平均透過率が85%以上となる透過帯と、750〜1100nmの波長範囲において平均透過率が5%未満の領域の幅が100〜280nmである阻止帯とを有し、前記光学多層膜の前記高屈折率膜のQWOT(Quater−wave Optical Thickness)をTH、前記中屈折率膜のQWOTをTM、前記低屈折率膜のQWOTをTLとした場合、前記中屈折率膜の屈折率が前記高屈折率膜の屈折率と前記低屈折率膜の屈折率との中間値以上の場合、前記光学多層膜は、垂直入射条件での分光特性で400〜700nmの波長範囲内に透過率が局所的に5%以上低下する箇所が存在しない2TL/(TH+2TM)の最大値を100%、最小値を0%と設定した場合、2TL/(TH+2TM)が100%〜70%の範囲内であり、前記中屈折率膜の屈折率が前記高屈折率膜の屈折率と前記低屈折率膜の屈折率との中間値未満の場合、前記光学多層膜は、垂直入射条件での分光特性で400〜700nmの波長範囲内に透過率が局所的に5%以上低下する箇所が存在しない(2TL+2TM)/THの最大値を100%、最小値を0%と設定した場合、(2TL+2TM)/THが100%〜70%の範囲内となるように、前記高屈折率膜、前記中屈折率膜及び前記低屈折率膜を積層した近赤外線カットフィルタである。これについては、特許文献3に詳細に記載されている。
また、光学多層膜は、波長500nmにおける屈折率が1.8以上2.23以下の中屈折率膜と、波長500nmにおける屈折率が1.45以上1.49以下の低屈折率膜とが交互に積層されてなり、前記中屈折率膜と前記低屈折率膜の組み合わせ単位を5以上35以下の数で有し、前記光学多層膜に0°で入射した光が透過の制限される波長範囲の幅を100nm以上300nm以下とした近赤外線カットフィルタである。これについては、本出願人が特願2017−253468号に詳細に記載した。ただし、光学多層膜に0°で入射した光が透過の制限される波長範囲は、これに記載された範囲に限らない。
また、光学多層膜は、波長500nmにおける屈折率が2.0以上の高屈折率膜と、1.6以下の低屈折率膜とから構成され、前記光学多層膜は、高屈折率膜の波長500nmにおけるQWOTをQH、低屈折率膜の波長500nmにおけるQWOTをQLとしたときに、(anQH、bnQL、cnQH、dnQL)の基本単位がn個積層された繰り返し構造(ここで、an、bn、cn、dnは、各基本単位における膜の物理膜厚がQWOTの何倍であるかを示す係数であり、またnは1以上の自然数を表す。)を有する近赤外線カットフィルタである。これについて、特許文献4に詳細に記載されている。ただし、紫外線カットの特性は必須構成ではないので、前記係数は限定されない。
また、他の態様として、高屈折率膜の構成材料は、屈折率が2以上である材料が好ましく、2.2〜2.7がより好ましい。このような構成材料としては、例えば、TiO2、Nb2O5(屈折率:2.38)、Ta2O5、又はこれらの複合酸化物等が挙げられる。
このとき、中屈折率膜の構成材料は、例えば屈折率が1.6を超え、2未満であることが好ましく、1.62〜1.92がより好ましい。このような構成材料としては、例えば、Al2O3、Y2O3(屈折率:1.81)、又はこれらの複合酸化物、Al2O3とZrO2の混合物膜(屈折率:1.67)等が挙げられる。また、中屈折率膜は、高屈折率膜と低屈折率膜とを組み合わせた等価膜で代用してもよい。
低屈折率膜の構成材料は、例えば屈折率が1.3以上1.6以下であることが好ましい。このような構成材料としては、例えば、SiO2、SiOxNy、MgF2などが挙げられる
誘電体多層膜(薄膜積層構造体)は、異なる屈折率の薄膜を交互に積層して構成される場合、その層数は、誘電体多層膜の有する光学特性によるが、薄膜の合計積層数として50〜150層が好ましい。合計積層数が50層未満であると、波長800nm〜1000nmの阻止性能が十分とならないおそれがある。また、合計積層数が150層を超えると、光学フィルタの製作時のタクトタイムが長くなり、誘電体多層膜に起因する光学フィルタの反りなどが発生するため好ましくない。
誘電体多層膜(薄膜積層構造体)の膜厚としては、上記好ましい積層数を満たした上で、光学フィルタ1の薄型化の観点からは、薄い方が好ましい。しかしながら、所望の光学特性を得るには、5μm以上であることが好ましい。また、誘電体多層膜に起因する光学フィルタの反りなどを考慮し、15μm以下であることが好ましい。
また、3つの薄膜積層構造体を備える光学フィルタ1においては、透明基板10の両表面に配置される薄膜積層構造体の合計膜厚が互いにできるだけ近いほうが好ましい。環境光センサに用いられる光学フィルタ1では、光学フィルタ1が極めて薄く形成されるため、透明基板10も極めて薄い。そのため、透明基板10の両表面の薄膜積層構造体の物理膜厚が大きく異なると、光学フィルタ1において、物理膜厚の小さい薄膜積層構造側に凸状の反りが生じることがあるためである。
したがって、3つの薄膜積層構造体を備える光学フィルタ1においては、3つの薄膜積層構造体のうち、透過制限波長範囲が2番目に短波長側に位置し、透明基板10の表面に単独で積層される薄膜積層構造体12の物理膜厚を、その他の2つの薄膜積層構造体11、13よりも大きくすることが好ましい。すなわち、3つの薄膜積層構造体11、12、13の透過制限波長範囲の中心波長のうち2番目に短波長側に位置する中心波長を有する薄膜積層構造体12の物理膜厚が、それ以外の2つの薄膜積層構造体11及び薄膜積層構造体13の物理膜厚よりも厚いことが好ましい。これにより、透明基板10に積層された際の、透明基板10の両表面での薄膜積層構造体全体の厚さの差を小さくして、光学フィルタ1の反りを抑制することができる。
誘電体多層膜(薄膜積層構造体)は、その形成にあたっては、例えば、IAD(Ion Assisted Deposition)蒸着法、CVD法、スパッタ法、真空蒸着法等の乾式成膜プロセスや、スプレー法、ディップ法等の湿式成膜プロセス等を使用できる。
透明基板10は、可視光を透過する材料である。例えば、ガラス、ガラスセラミックス、水晶、サファイア等の結晶、樹脂(ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン樹脂、ノルボルネン樹脂、ポリアクリレート、ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂、ウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂、フッ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂等)等が挙げられる。
透明基板10は、近赤外領域の波長の光を吸収する性質を有することが好ましい。例えば、本発明の光学フィルタ1を固体撮像装置用の近赤外線カットフィルタとして用いる場合、透明基板10が近赤外波長域の光を吸収する性質を有することで、人の視感度特性に近い色補正が可能となる。薄膜積層構造体11、12、13により、入射角依存性の低い分光特性が得られるため、近赤外領域の波長の光を吸収する性質を有する透明基板10に上記薄膜積層構造体を設けることで、近赤外領域の波長の光の透過を制限する優れた分光特性が得られる。そのため、固体撮像装置用の近赤外線カットフィルタとして良好な特性を有する光学フィルタ1を得ることが可能となる。
近赤外領域の波長の光を吸収する性質を有する透明基板10は、可視光領域の光を透過し、近赤外領域の光を吸収する能力を有するガラス、例えば、CuO含有フツリン酸塩ガラス又はCuO含有リン酸塩ガラス(以下、これらをまとめて「CuO含有ガラス」ともいう。)で構成されることが好ましい。
透明基板10は、CuO含有ガラスで構成されることで、可視光に対し高い透過率を有するとともに、近赤外領域の波長の光に対して高い透過制限性を有する。なお、「リン酸塩ガラス」には、ガラスの骨格の一部がSiO2で構成されるケイリン酸塩ガラスも含まれる。
CuO含有ガラス基板は、波長400〜450nmの光の吸収は僅かで、波長775〜900nmの光に対する波長400〜450nmの光の吸収率比が低い特徴がある。その結果、CuO含有ガラス基板は、波長775〜900nmの光の透過を、吸収により十分制限するようにCuO含有量を増やして吸収率を高くしても、可視光の顕著な透過率低下とならないため有用である。
近赤外領域の波長の光を吸収する性質を有する透明基板10としては、CuO含有ガラス以外の材料として、透明樹脂中に、近赤外領域のうち特定の範囲の波長の光を吸収する近赤外線吸収色素を含有した近赤外線吸収基板も挙げられる。
また、光学フィルタの近赤外光の吸収性能を高めるために、透明基板10の表面に、上記近赤外線吸収基板と同様の材料を用いて、近赤外線吸収色素及び透明樹脂を含む近赤外線吸収層を形成してもよい。この場合、近赤外線吸収層は、透明基板10と、薄膜積層構造体11又は薄膜積層構造体12の間に形成される。また、近赤外線吸収層は透明基板10の少なくとも一方の表面に形成されればよい。
近赤外線吸収色素としては、可視光領域の光を透過し、近赤外領域の光を吸収する能力を有する近赤外線吸収色素であれば特に制限されない。なお、本発明における色素は顔料、すなわち分子が凝集した状態でもよい。
近赤外線吸収色素としては、シアニン系化合物、フタロシアニン系化合物、ナフタロシアニン系化合物、ジチオール金属錯体系化合物、ジイモニウム系化合物、ポリメチン系化合物、フタリド化合物、ナフトキノン系化合物、アントラキノン系化合物、インドフェノール系化合物、スクアリリウム系化合物等が挙げられる。
これらの中ではスクアリリウム系化合物、シアニン系化合物及びフタロシアニン系化合物がより好ましく、スクアリリウム系化合物が特に好ましい。スクアリリウム系化合物からなる近赤外線吸収色素は、その吸収スペクトルにおいて、可視光の吸収が少なく、保存安定性及び光に対する安定性が高いため好ましい。シアニン系化合物からなる近赤外線吸収色素は、その吸収スペクトルにおいて、可視光の吸収が少なく、近赤外線領域のうち、長波長側で光の吸収率が高いため好ましい。また、シアニン系化合物は低コストであって、塩形成することにより長期の安定性も確保できることが知られている。フタロシアニン系化合物からなる近赤外線吸収色素は、耐熱性や耐候性に優れるため好ましい。
近赤外線吸収色素としては、上記した化合物のうち1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
透明樹脂としては、屈折率が、1.45以上の透明樹脂が好ましい。屈折率は1.5以上がより好ましく、1.6以上が特に好ましい。透明樹脂の屈折率の上限は特にないが、入手のしやすさ等から1.72程度が好ましい。なお、本明細書において屈折率とは、特に断りのない限り、波長500nmでの屈折率をいう。
透明樹脂としては、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、エン・チオール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリパラフェニレン樹脂、ポリアリーレンエーテルフォスフィンオキシド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、環状オレフィン樹脂、及びポリエステル樹脂が挙げられる。透明樹脂としては、これらの樹脂から1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
上記の中でも、近赤外線吸収色素の透明樹脂に対する溶解性の観点から、透明樹脂は、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、エン・チオール樹脂、エポキシ樹脂、及び環状オレフィン樹脂から選ばれる1種以上が好ましい。さらに、透明樹脂は、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、及び環状オレフィン樹脂から選ばれる1種以上がより好ましい。ポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂等が好ましい。
近赤外線吸収層は、例えば、近赤外線吸収色素及び、透明樹脂又は透明樹脂の原料成分、さらに任意に紫外線吸収体を溶媒又は分散媒に、溶解させ又は分散させて調製した塗工液を、透明基板10上に塗工し、乾燥させ、さらに必要に応じて硬化させて製造できる。
近赤外線吸収層は、近赤外線吸収色素及び透明樹脂、任意成分の紫外線吸収体以外に、本発明の効果を阻害しない範囲で、必要に応じてその他の任意成分を含有してもよい。その他の任意成分として、具体的には、近赤外線ないし赤外線吸収剤、色調補正色素、紫外線吸収剤、レベリング剤、帯電防止剤、熱安定剤、光安定剤、酸化防止剤、分散剤、難燃剤、滑剤、可塑剤等が挙げられる。また、後述する近赤外線吸収層を形成する際に用いる塗工液に添加する成分、例えば、シランカップリング剤、熱もしくは光重合開始剤、重合触媒に由来する成分等が挙げられる。
近赤外線吸収層の膜厚は、使用する装置内の配置スペースや要求される吸収特性等に応じて適宜定められる。上記膜厚は、0.1〜100μmが好ましい。膜厚が0.1μm未満では、近赤外線吸収能を十分に発現できないおそれがある。また、膜厚が100μm超では膜の平坦性が低下し、吸収率のバラツキが生じるおそれがある。膜厚は、0.5〜50μmがより好ましい。この範囲にあれば、十分な近赤外線吸収能と膜厚の平坦性を両立できる。
以上説明した本発明の光学フィルタによれば、透明基板の表面に、透過制限波長範囲の異なる3つ以上の薄膜積層構造体が、同一の表面上における透過制限波長範囲が連続しないように積層されることで、広角度で入射した光に対しても、可視光透過率が高く、近赤外域の阻止性能も高い分光特性を得ることができる。
本発明の光学フィルタは、近赤外波長領域、例えば、波長800nm〜1000nmの光に対する透過率が1%以下であることが好ましい。また、波長800nm〜1000nmにおいて光の透過率が0.05%未満である波長範囲を100nm以上とする阻止性能を持つことが好ましい。また、本発明の光学フィルタによれば、入射角が0〜50°の光を透過する波長範囲の光学多層膜に起因する透過率の低下を大幅に低減することができる。この特徴により、近赤外線照射光が多用されるような環境下においてもフレアやゴーストなどが少ない画像を提供可能な、CCDやCMOS等の撮像素子、その他の光センサ用途の光学フィルタとして好適に利用することができる。
本発明の光学フィルタは、可視光領域内、特に波長430nm〜560nmの青色、緑色の領域における透過率の低下を、光の入射角が0〜50°の広角の範囲内で効果的に抑制できる。そのため、光の入射角の広い範囲で、前記波長範囲における平均透過率を85%以上とすることができる。
また、本発明の光学フィルタにおいて、近赤外線吸収性を有する透明基板を用いるか、透明基板の表面に近赤外線吸収層を設けることで、近赤外波長範囲の光の透過を確実に制限することができ、人の視感度特性に近い色補正が可能となる、より優れた光学特性を有する光学フィルタを得ることができる。
(実施例1)
本実施例に係る光学フィルタ(近赤外線カットフィルタ)は、透明基板(近赤外線吸収ガラス、板厚0.3mm、商品名:NF−50T、AGCテクノグラス社製)と、透明基板の一方の面及び他方の面に設けられた合計5つの薄膜積層構造体とを備える。この薄膜積層構造体は、それぞれ、上記透明基板表面側から、高屈折率膜と低屈折率膜とを順に積層した構造である。
透明基板の一方の面には4つの薄膜積層構造体が配置される。4つの薄膜積層構造体は、4つの合計で32層、物理膜厚3796.98nmの、高屈折率膜(酸化チタン(TiO2))と低屈折率膜(酸化珪素(SiO2))の繰り返し積層構造(第1−1の薄膜積層構造体)である。すなわち、透明基板の一方の面には4つの薄膜積層構造体からなる第1−1の薄膜積層構造体を有している。
透明基板の他方の面には、1つの薄膜積層構造体が配置される。この薄膜積層構造体は、高屈折率膜(酸化チタン(TiO2))と、低屈折率膜(酸化珪素(SiO2))の合計52層、物理膜厚3093.23nmの繰り返し積層構造である(第1−2の薄膜積層構造体)。
上記の光学フィルタの透明基板の一方の面に設けられた薄膜積層構造体(第1−1の薄膜積層構造体)の構成を表1に示す。また、光学フィルタの透明基板の他方の面に設けられた薄膜積層構造体(第1−2の薄膜積層構造体)の構成を表2に示す。表1及び表2において、膜層数は透明基板側からの層の序数であり、膜厚は物理膜厚を示す。
この光学フィルタについて、入射角0°、40°及び50°における光学特性を、光学薄膜シミュレーションソフト(TFCalc、Software Spectra社製)を用いて検証した。結果を図2、図3(波長850nm〜1050nmの領域における拡大図)に示す。
また、透明基板の一方の面に設けられた薄膜積層構造体(第1−1の薄膜積層構造体)のみ(透明基板による光の吸収の影響を除く)の入射角0°、40°及び50°における光学特性を、上記光学薄膜シミュレーションソフトを用いて検証した。結果を図4に示す。また、透明基板の他方の面に設けられた薄膜積層構造体(第1−2の薄膜積層構造体)のみ(透明基板による光の吸収の影響を除く)の入射角0°、40°及び50°における光学特性を、上記光学薄膜シミュレーションソフトを用いて検証した。結果を図5に示す。
図4に示されるように、本発明の実施例1の光学フィルタでは、透明基板の同一の表面側に配置される薄膜積層構造体の光学特性において、0°入射において波長970nm、1070nm、1190nm付近に透過率が5%以上の部分を有しており、当該薄膜積層構造体が透過を制限する波長領域が不連続である。そして、特定の近赤外領域の透過を制限する薄膜積層構造体のみを他方の面に形成しているため、当該他方の面の薄膜積層構造体の透過制限波長範囲の幅は狭いものの、光の入射角が大きくなったとしても可視領域に反射リップルが発生しがたい薄膜積層構造体を設けることができる。
(実施例2)
本実施例に係る光学フィルタ(近赤外線カットフィルタ)は、実施例1にて用いたものと同様の透明基板と、透明基板の一方の面及び他方の面に設けられた薄膜積層構造体とを備える。この薄膜積層構造体は、それぞれ、上記透明基板表面側から、異なる屈折率の膜を順に積層した構造である。
透明基板の一方の面には2つの薄膜積層構造体が配置される。2つの薄膜積層構造体は、合計50層、物理膜厚5930.11nmである。2つの薄膜積層構造体は、透明基板側の上に設けられた、高屈折率膜(酸化ジルコニウム(ZrO2))と低屈折率膜(酸化珪素(SiO2))との合計30層の繰り返し積層構造(第2−1の薄膜積層構造体)及び第2−1の薄膜積層構造体の上(空気側)に設けられた、高屈折率膜(酸化チタン(TiO2))と中屈折率膜(酸化アルミニウム(Al2O3))との合計20層の繰り返し積層構造(第2−2の薄膜積層構造体)とからなる。
透明基板の他方の面には、1つの薄膜積層構造体が配置される。この薄膜積層構造体は、高屈折率膜(酸化チタン(TiO2))と、低屈折率膜(酸化珪素(SiO2))の合計60層、物理膜厚3570.77nmの繰り返し積層構造である(第2−3の薄膜積層構造体)。
上記の光学フィルタの透明基板の一方の面に設けられた薄膜積層構造体(第2−1の薄膜積層構造体及び第2−2の薄膜積層構造体)の構成を表3に示す。また、光学フィルタの透明基板の他方の面に設けられた薄膜積層構造体(第2−3の薄膜積層構造体)の構成を表4に示す。表3及び表4において、膜層数は透明基板側からの層の序数であり、膜厚は物理膜厚を示す。
この光学フィルタについて、入射角0°、40°及び50°における光学特性を、光学薄膜シミュレーションソフト(TFCalc、Software Spectra社製)を用いて検証した。結果を図6、図7(波長850nm〜1050nmの領域における拡大図)に示す。
また、透明基板の一方の面に設けられた薄膜積層構造体(第2−1の薄膜積層構造体及び第2−2の薄膜積層構造体))のみ(透明基板による光の吸収の影響を除く)の入射角0°、40°及び50°における光学特性を、上記光学薄膜シミュレーションソフトを用いて検証した。結果を図8に示す。また、透明基板の他方の面に設けられた薄膜積層構造体(第2−3の薄膜積層構造体)のみ(透明基板による光の吸収の影響を除く)の入射角0°、40°及び50°における光学特性を、上記光学薄膜シミュレーションソフトを用いて検証した。結果を図9に示す。
(実施例3)
本実施例に係る光学フィルタ(近赤外線カットフィルタ)は、実施例1にて用いたものと同様の透明基板と、透明基板の一方の面及び他方の面に設けられた薄膜積層構造体とを備える。この薄膜積層構造体は、それぞれ、上記透明基板表面側から、異なる屈折率の膜を順に積層した構造である。
透明基板の一方の面には2つの薄膜積層構造体が配置される。2つの薄膜積層構造体は、合計44層、物理膜厚5738.57nmである。2つの薄膜積層構造体は、透明基板側の上に設けられた、高屈折率膜(酸化ジルコニウム(ZrO2))と低屈折率膜(酸化珪素(SiO2))との合計16層の繰り返し積層構造(第3−1の薄膜積層構造体)及び第3−1の薄膜積層構造体の上(空気側)に設けられた、高屈折率膜(酸化チタン(TiO2))と中屈折率膜(酸化珪素(SiO2))との合計28層の繰り返し積層構造(第3−2の薄膜積層構造体)とからなる。
透明基板の他方の面には、1つの薄膜積層構造体が配置される。この薄膜積層構造体は、高屈折率膜(酸化ジルコニウム(ZrO2))と、低屈折率膜(酸化珪素(SiO2))の合計30層、物理膜厚3656.75nmの繰り返し積層構造である(第3−3の薄膜積層構造体)。
上記の光学フィルタの透明基板の一方の面に設けられた薄膜積層構造体(第3−1の薄膜積層構造体及び第3−2の薄膜積層構造体)の構成を表5に示す。また、光学フィルタの透明基板の他方の面に設けられた薄膜積層構造体(第3−3の薄膜積層構造体)の構成を表6に示す。表5及び表6において、膜層数は透明基板側からの層の序数であり、膜厚は物理膜厚を示す。
この光学フィルタについて、入射角0°、40°及び50°における光学特性を、光学薄膜シミュレーションソフト(TFCalc、Software Spectra社製)を用いて検証した。結果を図10、図11(波長850nm〜1050nmの領域における拡大図)に示す。
また、透明基板の一方の面に設けられた薄膜積層構造体(第3−1の薄膜積層構造体及び第3−2の薄膜積層構造体)のみ(透明基板による光の吸収の影響を除く)の入射角0°、40°及び50°における光学特性を、光学薄膜シミュレーションソフトを用いて検証した。結果を図12に示す。また、透明基板の他方の面に設けられた薄膜積層構造体(第3−3の薄膜積層構造体)のみ(透明基板による光の吸収の影響を除く)の入射角0°、40°及び50°における光学特性を、光学薄膜シミュレーションソフトを用いて検証した。結果を図13に示す。
(比較例1)
本比較例に係る光学フィルタ(近赤外線カットフィルタ)は、実施例1にて用いたものと同様の透明基板を備える。透明基板の一方の面のみに複数の薄膜積層構造体と備える。この薄膜積層構造体は、上記透明基板表面側から、高屈折率膜と低屈折率膜とを順に積層した構造である。
透明基板の一方の面には、5つの薄膜積層構造体が配置される。この薄膜積層構造体は、いずれも高屈折率膜(酸化チタン(TiO2))と低屈折率膜(酸化珪素(SiO2))の合計40層、物理膜厚5151.58nmの繰り返し積層構造である。すなわち、透明基板の一方の面には同様の構成の5つの薄膜積層構造体が積層されている。
透明基板の他方の面に設けられた光学多層膜は反射防止膜である。この光学多層膜は、それぞれ高屈折率膜が酸化チタン(TiO2)、低屈折率膜が酸化珪素(SiO2)であり、それらの合計6層、物理膜厚237.58nmの繰り返し積層構造である。
上記の光学フィルタの透明基板の一方の面に設けられた薄膜積層構造体の構成を表3に示す。また、光学フィルタの透明基板の他方の面に設けられた光学多層膜の構成を表4に示す。表7及び表8において、膜層数は透明基板側からの層の序数であり、膜厚は物理膜厚を示す。
この光学フィルタについて、入射角0°、40°及び50°における光学特性を、光学薄膜シミュレーションソフト(TFCalc、Software Spectra社製)を用いて検証した。結果を図14、図15(波長850nm〜1050nmの領域における拡大図)に示す。また、透明基板の一方の面に設けられた薄膜積層構造体のみ(透明基板による光の吸収の影響を除く)の入射角0°、40°及び50°における光学特性を、上記光学薄膜シミュレーションソフトを用いて検証した。結果を図16に示す。また、透明基板の他方の面に設けられた光学多層膜のみ(透明基板による光の吸収の影響を除く)の入射角0°、40°及び50°における光学特性を、上記光学薄膜シミュレーションソフトを用いて検証した。結果を図17に示す。
(比較例2)
本比較例に係る光学フィルタ(近赤外線カットフィルタ)は、実施例1にて用いたものと同様の透明基板を備え、透明基板の一方の面のみに薄膜積層構造体を備える。この薄膜積層構造体は、上記透明基板表面側から、高屈折率膜と低屈折率膜とを順に積層した構造である。
透明基板の一方の面には、5つの薄膜積層構造体が配置される。5つの薄膜積層構造体は、いずれも、中屈折率膜(酸化ジルコニウムチタン(ZrO2))、低屈折率膜(酸化珪素(SiO2))及び高屈折率膜(酸化チタン(TiO2))で構成される合計56層、物理膜厚7647.11nmの繰り返し積層構造である(第3の薄膜積層構造体)。そしてこの第3の薄膜積層構造体において、第1層から第20層までは、透明基板側から上記中屈折率膜と低屈折率膜を交互に積層した繰り返し積層構造であり、第21層から第56層までは、高屈折率膜と低屈折率膜を交互に積層した繰り返し積層構造である。すなわちこの光学フィルタは、透明基板の一方の面に、5つの薄膜積層構造体を有する。
透明基板の他方の面に設けられた光学多層膜は反射防止膜である。この光学多層膜は、比較例1にて用いたものと同様の光学多層膜である。そのため、膜構成、分光特性の説明は省略する。
上記の光学フィルタの透明基板の一方の面に設けられた薄膜積層構造体(第3の薄膜積層構造体)の構成を表9に示す。表9において、膜層数は透明基板側からの層の序数であり、膜厚は物理膜厚を示す。この光学フィルタについて、入射角0°、40°及び50°における光学特性を、光学薄膜シミュレーションソフト(TFCalc、Software Spectra社製)を用いて検証した。結果を図18、図19(波長850nm〜1050nmの領域における拡大図)に示す。また、透明基板の一方の面に設けられた薄膜積層構造体のみ(透明基板による光の吸収の影響を除く)の入射角0°、40°及び50°における光学特性を、上記光学薄膜シミュレーションソフトを用いて検証した。結果を図20に示す。
以上より、例えば、実施例1の光学フィルタは、光の入射角が40°、50°であっても近赤外領域のうち850nm〜990nmの透過率が0.1%以下であり、透過リップルが抑制されている。また、同様に光の入射角が40°であっても可視領域(450nm〜550nm)の透過率が最小値で92%以上、光の入射角が50°であっても可視領域の透過率の最小値が81%以上であり、反射リップルが抑制されている。また、波長898nm〜955nmにおいて透過率が0.0001%以下であり、高い近赤外線の吸収能を備える。
これに対し、比較例1の光学フィルタは、光の入射角が50°において可視領域(450nm〜550nm)の透過率の最小値が80%以下であり、反射リップルが抑制できていない。また、比較例2の光学フィルタは、光の入射角が50°において可視領域(450nm〜550nm)の透過率の最小値が80%以下であり、反射リップルが抑制できていない。さらに、光の入射角が0°、40°、50°であっても近赤外領域(850nm〜990nm)の透過率が0.1%以上であり、透過リップルが抑制できていない。
比較例1、2の光の入射角が50°において可視領域の反射リップルが抑制できていないのは、近赤外領域の透過を制限する薄膜積層構造体が、一方の面のみに形成されていることに起因するものと考えられる。
本発明を詳細に、また特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく、様々な変更や修正を加えることができることは、当業者にとって明らかである。
本出願は、2018年3月30日出願の日本特許出願2018−067598に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。