以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。尚、以下の図において、同一の部分には同一の符号を付し、繰り返しの説明は省略する。また、本明細書においては、前後、上下の方向は図中に示す方向であるとして説明する。
図1は本発明の実施例に係るインパクト工具1の内部構造を示す縦断面図である。基本的な構成は、図22で示した従来のインパクト工具201と同じであり、ここではスピンドル30とハンマ40の構成や形状が異なり、それらの形状変更に合わせるために、ハンマケース3等の寸法をやや修正し、ハンマスプリング54等の特性を変更したものである。インパクト工具1のハウジングは、本体ハウジング2(2a〜2c)とそれに設けられるハンマケース3によって構成される。ハンマケース3の先端には、弾力性のある素材でできた弾性カバー5が設けられる。モータ4はユニバーサルモータであって、その回転軸4aは、減速機構20及びスピンドル30の軸線A1と同軸上に配置される。尚、本発明ではモータ4の種類は問われずに、インバータ回路を用いてブラシレスDCモータを駆動するもの、その他の電気モータや任意の駆動源によって駆動するようにしても良い。モータ4の回転軸4aは前端側と後端側にて2つのボールベアリングによる軸受18a、18bによって軸支される。ハンマケース3は、減速機構20と打撃機構(スピンドル30、ハンマ40等)と被打撃機構(アンビル60)を収容するための先細り形状の円筒状の金属製のケースであって、それらの回転中心が軸線A1に並ぶように配置する。モータ4の回転軸4aは、その軸線A1が胴体部2aの長手方向に伸びるように配置される。アンビル60の先端には断面形状が六角形の装着孔61aが形成され、ワンタッチ装着式のビット保持部70により先端工具が保持される。アンビル60は被打撃部たる羽根部63と出力軸部61を一体に形成したもので、出力軸部61には装着される先端工具を保持するための2つのスチールボール69が設けられる。
モータ4の回転駆動力は、回転軸4aから減速機構20を介して打撃機構に伝達される。減速機構20はモータ4の出力をスピンドル30に伝達するものであり、ここでは、遊星歯車を用いた減速機構20が用いられる。減速機構20は、モータ4の回転軸4aの先端に固定されるサンギヤ21と、サンギヤ21の外周側に距離を隔てて取り囲むように設けたリングギヤ23と、サンギヤ21及びリングギヤ23の間に配置され、これら双方のギヤに噛み合わされる複数(ここでは3つ)のプラネタリーギヤ22を含んで構成される。3つのプラネタリーギヤ22はシャフトの回りを自転しつつサンギヤ21の回りを公転する。リングギヤ23は本体ハウジング2側に固定されるもので非回転部材である。3つのプラネタリーギヤ22の各シャフトは、スピンドル30の後端部分に形成された遊星キャリア部(図2で後述するフランジ部37、38)に固定され、プラネタリーギヤ22の公転運動が遊星キャリア部の回転運動に変換されるためスピンドル30が回転する。スピンドル30の後端の円筒部39は、ボールベアリング等の軸受19bによって軸支される。
スピンドル30は、減速機構20の遊星キャリア部の前方側に配置される。本実施例では、スピンドルカム溝33として側面視で略V字状の溝が形成されるが、図22で示した従来のスピンドルカム溝233、234が2組設けられるのに対して、本実施例のインパクト工具1では、1組のスピンドルカム溝33がスピンドル30に設けられる。スピンドルカム溝33にはカムボール51が転動するため、その窪みの断面形状は半円状とされる。本実施例では、スピンドルカム溝33を1組としたため、用いられるカムボール51の数も1つである。このためスピンドル軸部31(符号は後述の図2参照)を従来と同じにしながら、ハンマ40の後退量を従来よりも大幅に大きくすることが可能となった。
本体ハウジング2の拡径部2cの内部には、トリガ6aの引き動作によってモータ4の速度を制御する機能を備えた制御回路基板9が収容される。制御回路基板9は略水平になるように配置され、打撃トルクを切り換えるための出力切替スイッチ12が設けられる。
図2は、図1の打撃部及び被打撃部の展開斜視図である。前方側からアンビル60、ハンマ40、スピンドル30の順に配置されるという基本構成は、図22にて示した従来のインパクト工具201と同じ構成である。しかしながら用いられるカムボール51は2つから1つに削減されている。カムボール51を1つにしたことによりスピンドル30に形成されるスピンドルカム溝33の形状も変更される。さらに、ハンマ40の内周側であって、スピンドル軸部31の外周面と当接する位置にはニードルベアリング56が装着される。
アンビル60はインパクト工具1の出力軸を形成すると共に、ハンマ40の被打撃部を形成するものであって、出力軸と被打撃部が一体に形成される。アンビル60は鋳造又は鍛造後に切削加工をすることにより製造される金属の一体品であって、その円筒形の出力軸部61の後方に、3つの羽根部63a〜63cによる被打撃爪が形成されたものである。出力軸部61の前側端部から内側部分には、断面形状が六角形であって先端工具を装着するための装着孔61aが形成される。装着孔61aが形成される細径部61bは、ビット保持部70を設けるために形成されるもので、細径部61bの後方には径方向に貫通する2つの貫通穴61cが形成され、ビット保持部70の構成要素となるスチールボール69(図1参照)が配置される。軸方向に見て貫通穴61cと羽根部63a〜63cとの間は研磨された円柱面とされ、この領域の外周側にニードルベアリング19a(図1参照)が配置されることによりアンビル60はハンマケース3(図1参照)に回転可能に軸支される。羽根部63a〜63cは、回転方向に見て120度ずつ隔てるように均等に配置された被打撃爪であり、径方向外側に伸びるように配置される。羽根部63a〜63cの回転方向の側面は、ハンマ40の打撃爪によって締め付け方向の回転時に打撃される被打撃面64a〜64cと、その反対側に形成され緩め方向の回転時に打撃される被打撃面65a〜65cが形成される。被打撃部の後方側には、円筒状の軸部66(図1参照)が形成され、軸部66がスピンドル30の嵌合孔32に係合することよってアンビル60とスピンドル30が相対回転可能な状態で接続される。
ハンマ40は、スピンドル30にて保持される部材であり、前方側からスピンドル30に装着される。ハンマ40は理想的にはスピンドル30に対して浮いた状態、又は、非接触状態の姿勢を保つように保持され、従来のスピンドル230では浮かす状態、非接触状態を保つために2つのカムボール251、252(図22参照)が用いられていた。本実施例ではカムボールの数を一つ減らした一方で、スピンドル軸部31の外周面とハンマ40の内周面にニードルベアリング56を配置した。ニードルベアリング56はハンマ40側又はスピンドル30のいずれか側に固定できるが、本実施例ではハンマ40側に固定する。尚、図2ではニードルベアリング56の内周側の形状、特に針状ころ等の図示を省略しているので注意されたい。ハンマ40の前面42aの外周側の3カ所には、軸方向の前方側(アンビル60側)に突出する3つの打撃爪46a〜46cが形成される。打撃爪46a〜46cは、回転方向に見てその中心位置が回転角で120度ずつ隔てるように均等に配置される。打撃爪46a〜46cの回転方向にみて2つの側面は、アンビル60の3つの羽根部63a〜63cと衝突時に良好に面接触するように回転方向に所定の角度が付けられたもので、一方側(47a〜47c)が締め付け方向時の打撃面となり、他方側(48a〜48c)が緩め方向時の打撃面となる。ハンマ40の外周部は筒状部分43とされ、中央部には貫通孔41aを有する。貫通孔41aを形成する内周側であって前方側にはハンマカム溝44が形成される。ハンマカム溝44は、ハンマ40の内周面を平面に展開した際に略台形状の輪郭を有する窪みであって、スピンドルカム溝33と共にカムボール51の動きを制限する空間を形成する。ハンマ40の内周面の周方向の一箇所において、隣接するハンマカム溝44の辺部を分離する壁部45が形成される。壁部45は前端側のスピンドル30の外周面と隣接又は当接する箇所となり、ハンマ40がスピンドル30に対する相対回転の姿勢維持に貢献する。ハンマ40の壁部45と周方向に対向する箇所には、組立時にカム溝内にカムボール51を挿入するための挿入溝44aが形成される。第1の筒状部分とスピンドル軸部31とが対向する箇所が本発明における第1の規制部に該当し、第1の規制部はハンマ40のスピンドル30に対する径方向の移動を規制する。
スピンドル30の円柱部分、即ちスピンドル軸部31の外周面には、スピンドルカム溝33が1つだけ形成される。スピンドルカム溝33は、ハンマ40の内周面に形成されたハンマカム溝44に対向する位置に設けられる。スピンドル30とハンマ40は、スピンドルカム溝33とハンマカム溝44によって所定の空間が形成されるように組み合わされる。カム機構によってハンマ40はスピンドル30とほぼ連動するように回転するが、カムボール51が1つであるためそのままではハンマ40のスピンドル30に対する回転方向及び軸方向の相対位置が安定しないため、本実施例ではニードルベアリング56が併用される。ニードルベアリング56は、スピンドル30に対するハンマ40の軸方向移動、及び、周方向の回転を支持するものである。本実施例において、スピンドルカム溝33、カムボール51及びハンマカム溝44からなるカム機構は、ハンマ40のスピンドル30に対する軸方向の移動を規制する第2の規制部に該当する。
スピンドル軸部31の前方端部には、アンビル60の軸部66が嵌挿されるための嵌合孔32が形成され、スピンドル軸部31の後方側には、減速機構20の遊星キャリア部となるフランジ部37、38が形成される。フランジ部37は軸線A1とは直交する円盤状であって、回転方向には均等間隔で3つの嵌合穴37a〜37cが形成される。フランジ部37と所定の距離を隔てて後方側には、フランジ部37と平行となるように円盤状のフランジ部38が設けられる。フランジ部38にも回転方向には均等間隔で3つの嵌合穴38a〜38c(図では38aしか見えない)が形成され、フランジ部37の嵌合穴37a〜37cと共に、プラネタリーギヤ22を軸支するシャフトを固定する。
図3はインパクト工具1の打撃部の断面図である。ハンマ40はスピンドル30に対して軸線A1を中心として所定の角度だけ相対回転が可能であり、かつ、軸方向にも相対回転が可能である。図3の状態はスピンドル30に対してハンマ40が最も前側に位置している状態である。ハンマ40は、内径の異なる2つの筒状部分41、43の前方側を接続部42にて径方向につなげたような形状とされる。ここではハンマ40は金属製であり、その直径(外径)は35〜44mm程度、イナーシャは0.39kg・cm2[0.00038N・m2]以下となるように構成すると良い。スピンドル30におけるモータ4側の端部には、軸線A1に沿った方向で前方側に窪む嵌合孔34が形成され、サンギヤ21の収容空間とされる。一方、スピンドル30のアンビル60側の端部には、軸線A1に沿って後方に窪むように形成された円柱状の嵌合孔32が形成される。本実施例においては、筒状部分41及び壁部45が本発明の第1の筒状部分に、筒所部分43が本発明の第2の筒状部分に該当する。
ハンマスプリング54は圧縮スプリングであり、その前方側には複数のスチールボール52がワッシャ53に押さえられた状態で配置され、その後方側は段差付きのワッシャ55によってスピンドル30のフランジ部37にて保持される。ワッシャ55の内周側においては、中央をハンマ40の内側の筒状部分41の後端部41cが貫通できるようにくり抜き孔55aが形成される。ここでは図示していないが、段差付きのワッシャ55の内周側にゴム等の弾性体で構成されるダンパを配置して、ハンマ40の最大後退時におけるハンマ40とフランジ部37との衝突による衝撃を抑制しても良い。ハンマ40とフランジ部37との衝突を回避するようにすれば、スピンドルカム溝33内においてカムボール51が端部に衝突することも回避できる。
ハンマ40は、カムボール51を介したスピンドル30への接続と、壁部45とスピンドル30の当接によって、がたつきかないように保持される。ハンマ40は、スピンドル30に対して軸方向に移動可能であり、特に後方側には大きく移動可能とされる。ハンマ40は、ハンマスプリング54(図1参照)によってスピンドル30に対して常に前方側に付勢されるので、ハンマ40の後方側への移動はハンマスプリング54を圧縮しながらの移動となる。しかしながら、本実施例の構成ではカムボール51は1つであるので、ハンマ40の前端部の壁部45も周方向に1箇所だけとなる。そこで、本実施例では、ハンマ40とスピンドル30の相対位置関係を安定させるために、ハンマ40の内周側の後端部41c付近にニードルベアリング56を取りつけた。ニードルベアリング56は、外輪がハンマ40側に固定され、内側に設けられる複数の針状ころがスピンドル30の外周面と接触する。このようにニードルベアリング56を設けたことによって、スピンドル30の外周面とニードルベアリング56が常に良好な当接状態を保つので、それ以外の接触箇所、即ちカムボール51を介した保持と、壁部45による保持によってハンマ40の姿勢が良好に保持され、ハンマ40のスムーズな動きが実現できる。
図4はスピンドル30とハンマ40の組立体の正面図である。尚、図3の断面図は図4のB−B部の断面に相当するものである。ハンマ40の前面42aは平面状になっており、周方向に等間隔で前面42aよりも軸方向前方に突出するように3つの打撃爪46a〜46cが設けられる。打撃爪46a〜46cの一方側の側面は、締め付け時の打撃面47a〜47cとなり、他方側の側面、即ち、打撃面48a〜48cは緩め時の打撃面となる。打撃面47a〜47cと打撃面48a〜48cは、ハンマ40の後退を容易にするために軸線A1を含む仮想面に対して略平行に形成される。ハンマ40に形成されるハンマカム溝44は、壁部45を除いてほぼ一周分を示すように配置される。ハンマカム溝44の一部であって壁部45とは軸対称の位置付近には、組立時にカムボール51を挿入するための挿入溝44aが形成される。図示しているカムボール51は図示の位置から、一方向側(時計回り)又は他方向側(反時計回り)に半周分近く移動可能である。
図5はインパクト工具1の打撃部の断面図であって、(1)はハンマ40が通常位置にある状態を示し、(2)はハンマ40が後退時の状態を示す。図5(1)は図3と同じ図であるが、ここにはスピンドルカム溝33の前端位置から後端位置までの範囲をRgで示している。一方、ニードルベアリング56の移動範囲をRbにて示している。ここで、溝の形成範囲Rgとニードルベアリング56の移動範囲Rbを比較するとわかるように、それらは軸線A1方向に一部が重複するような位置関係となる。本実施例のインパクト工具1では、カムボール51を一つだけとしたため、スピンドルカム溝33の形成のためにスピンドル軸部31の外周面のほぼ一周分を利用できるため、スピンドルカム溝33を十分長くすることができ、ハンマ40の後退量が増大する。しかしながら、溝の形成範囲Rgとニードルベアリング56の移動範囲Rbが軸方向に重なるようにしたことにより、溝の形成範囲Rgを軸線A1方向に長くしたにもかかわらずにスピンドル30の大型化を抑制でき、従来のスピンドル230とさほど変わらないようなコンパクトな打撃機構が実現できた。
スピンドル30の静止時には、カムボール51、スピンドルカム溝33と、ハンマカム溝44との係合位置と、ハンマスプリング54との付勢力とのバランス関係によって、ハンマ40の前面42aとアンビル60の羽根部63aの後端面とは軸方向に僅かに隙間を隔てた位置にある。一方、アンビル60の羽根部63aとハンマ40の打撃爪46aは、軸線A1方向にみて重なるような位置関係となる。ここで、係合量とは、軸線A1の方向に見てハンマ40の打撃爪46a〜46cと、アンビル60の羽根部63a〜63cの当接領域の軸方向長さであって、静止時又は打撃前の初期位置においてその係合量が最大となる。係合量は、ハンマ40の後方向の移動によって変化するもので、アンビル60が先端工具側から受ける力によりハンマ40に伝わる反トルクが大きくなると、カムボール51の位置が移動することによりハンマ40とアンビル60の相対的位置関係が変化する。
ハンマ40がスピンドル30に対して相対回転しながら、矢印49の方向に後退しても、図5(2)に示すようにハンマ40の筒状部分41の後端部41cが断面がL型のワッシャ55の内側にまで後退することを許容する。従って、ニードルベアリング56の移動空間を効率良く確保でき、スピンドル30の全長が長くなることを抑制できる。また、スピンドル30の主軸部の直径、ハンマ40の内径及び外径は、従来のハンマ240と略同じであるので、容易に本発明を実施できる。
図6はハンマ40に設けられるニードルベアリング56付近の部分拡大断面図である。ハンマ40の内側の筒状部分41の後端付近には段差部41bが形成され、その段差部41bにニードルベアリング56が装着される。ニードルベアリング56は、外輪がハンマ40側に固定されるシェル57となり、シェル57によって囲まれる部分に複数の針状ころ58が設けられ、針状ころ58の外周面がスピンドル軸部31と当接する。複数の針状ころ58の回転軸59は、軸線A1と平行になるようにシェル57にて軸支される。ここではハンマ40の内周面とスピンドル30との隙間は平均でS1程度となるが、ニードルベアリング56の内側の針状ころ58部分は、ほぼ0になる。尚、ハンマとスピンドルの周囲は、十分なグリスが塗布されているので、ニードルベアリング56もグリスが満たされた環境下で使用できるものとすると良い。以上のように、ニードルベアリング等の転動部材を設けることにより、ハンマ40のスピンドル軸部31に対するガタツキを抑制することができ、1つのカムボール構成であってもスムーズな打撃動作が可能となる。本実施例においてはニードルベアリング56等の転動部材が本発明の第3の規制部に該当し、第3の規制部はハンマ40のスピンドル30に対する傾きを規制する。
次に図7を用いてスピンドル30の形状を説明する。図7(1)はスピンドル30の上面図である。スピンドル30は金属製であって、その直径Dは10〜18mm程度とすると良く、ここでは13.8mmである。スピンドル30の外周面には軸線A1と直交する方向から見た際に前端部33dから略V字状に後退するような形状とされる。スピンドルカム溝33は前端部33dから所定のカムリード角θを有する。本実施例では、ねじを締める時に用いられる正転用溝部33bと、ねじを締める時に用いられる逆転用溝部33aのカムリード角θは同一角度とし、例えば20〜36度の範囲内になるように設定される。カムリード角θが大きくなると、離脱トルクが多くなる上に打撃エネルギーが高くなる。一方、カムリード角θを小さくすると、離脱トルクが小さくなるが、打撃エネルギーも小さくなる。従って、離脱トルクを小さく抑えながら、できるだけ大きい打撃エネルギーが得られるようにすることが重要である。
図7(2)はスピンドル30の底面図である。ここでは逆転用溝部33aの後端部33cと正転用溝部33bの後端部33eは近接するまで延ばされるので、スピンドル軸部31のほぼ一周分をスピンドルカム溝33に使用できるので、従来のスピンドルカム溝233、234(図22参照)の倍近い長さを確保できる。スピンドルカム溝33の前端位置から後端位置までの軸方向の範囲Rgに対して、ニードルベアリング56の移動範囲Rbは図示のように軸方向にオーバーラップする。そのため、ニードルベアリング56はスピンドルカム溝33のある部分まで移動することになる。スピンドルカム溝33の占める範囲Rgとニードルベアリング56の移動範囲Rbを軸方向に重ならないように並べて配置するように構成することも可能であるが、その場合はスピンドル30の軸方向の長さが大きくなる。本発明では、範囲Rgと移動範囲Rbを部分的に重ねることによってスピンドル軸部31の長さを抑制した。
図8はスピンドルのカム溝の形状を示す展開図であり、(1)は従来のスピンドルカム溝233、234を示し、(2)は本実施例のスピンドルカム溝33を示す。従来のスピンドル軸部231の2つのスピンドルカム溝233、234は、それぞれ、逆転用溝部233a、234aと正転用溝部233b、234bが形成される。しかしながら、周方向に2組のスピンドルカム溝233、234を並べるために、軸方向に占める長さL0を大きくすることは難しい。従って、溝の後端を構成する円弧を形成する円(点線)の中心の一方の中心から他方の中心までの間の回転角C0が、180度未満となる。
本実施例ではスピンドル軸部31は、1つのスピンドルカム溝33だけとした。図8(2)においてスピンドルカム溝33は、正転用溝部33b、逆転用溝部33aは同じ角度のリード角θで構成される。スピンドルカム溝33の2つの後端部33c、33eの間は円周方向の回転角で180度を超えて360度近くまで延びる。従って、スピンドルカム溝33の中央の前端部33dから2つの後端部33c、33eまでの軸方向距離L1は、従来のスピンドル230の軸方向距離L0に比べて十分長くすることができる。また、溝の後端を構成する円弧を形成する円(点線)の中心の一方の中心から他方の中心までの間の回転角C1が、180度以上となり、例えば270度を超える程度にまで設定できる。
図9は本実施例のインパクト工具1における打撃エネルギーと離脱トルクの関係を示す図である。トリガ6aが引かれてモータ4が起動されると、正逆切替レバー7で設定された方向にモータ4が回転を開始し、その回転力は減速機構20によって所定の減速比で減速されてスピンドル30に伝達され、スピンドル30が所定の速度で回転駆動される。ここで、スピンドル30とハンマ40とはカム機構によって連結され、スピンドル30が回転駆動されると、その回転はカム機構を介してハンマ40に伝達される。ハンマ40は回転開始後に1/3回転もしないうちにハンマ40の打撃爪46a〜46cがアンビル60の羽根部63a〜63cに当接してアンビル60を回転させる。その際、アンビル60からの係合反力によってスピンドル30とハンマ40との間に相対回転が生ずると、ハンマ40はカム機構のスピンドルカム溝33に沿ってハンマスプリング54を圧縮しながらモータ4側へと後退を始める。そして、ハンマ40の後退動によってハンマ40の打撃爪46a〜46cがアンビル60の羽根部63a〜63cを乗り越えて両者の係合状態が解除されると、ハンマ40は、スピンドル30の回転力に加え、ハンマスプリング54に蓄積されていた弾性エネルギーとカム機構の作用によって回転方向に回転しながら前方に急速に加速される。
ハンマ40がハンマスプリング54の付勢力によって前方へ移動すると、ハンマ40の打撃爪46a〜46cが、回転後の次のアンビル60の羽根部63a〜63cに再び係合することにより強い打撃が行われ、ハンマ40とアンビル60は一体に回転し始める。この打撃により強力な回転力がアンビル60に加えられるため、アンビル60の装着孔61aに装着される図示しない先端工具を介してねじに回転打撃力が伝達される。以後、同様の動作が繰り返されて先端工具からねじに回転打撃力が間欠的に繰り返し伝達され、例えば、ねじが木材等の図示しない被締結材にねじ込まれる。以上がハンマ40によるアンビル60の通常打撃時の状態を示すものであるが、本実施例では、ハンマ40の打撃爪とアンビル60の羽根部がそれぞれ3本形成されたことにより、特徴的な打撃を行うようにした。その打撃は、モータ4の回転速度を所定の回転数以上の高速領域として“一つ飛ばしの打撃”、“二つ飛ばしの打撃”をするか、所定の回転数以下の低速領域として連続打撃をするか、のいずれかを打撃動作を行うことによってハンマ40によるアンビル60への打撃トルクを切り替え可能とした。
打撃エネルギーEは、ハンマ40がアンビル60を打撃する直前に、ハンマ40が有するエネルギーである。ここでは、トリガ6aの操作量(引き量)は最大、被締め付け材はボルトで、その反発率は0.41という条件下で算出した。離脱トルクTB[kg・cm]、及び打撃エネルギーE[N・m2×(rad/s)2]は次の式1、式2で算出した値である。式1: 離脱トルクTB[kg・cm]=ばね定数[kg/cm]×(ばね押付け高さ)[cm]×tan(カム角度[deg]×カム接点半径[cm]) 但し、ばね押付け高さ[cm]は、ばねの自由長[cm]−離脱時のばね高さ[cm]である(本実施例では1.1cm)。カム接点半径[cm]は、スピンドル30の中心軸からスピンドルに形成されたカムR形状の中心点までの距離である(本実施例では0.7cm)。尚、ここに示す離脱トルクTBは静的な状態における離脱トルクを示しており、上記した部品の各寸法から容易に算出することが可能である。式2: 打撃エネルギーE=0.5×ハンマイナーシャ[N・m2]×(ハンマ打撃直前速度[rad/s])2 (単位:N・m2×(rad/s)2) 但し、ハンマ打撃直前速度[rad/s] = スピンドル角速度[rad/s]+(スピンドル角速度[rad/s]×反発率を考慮した係数) スピンドル角速度[rad/s]=2×π×スピンドル回転数[rps] 反発率を考慮した係数は、本実施例では2.4である。ここに示すスピンドル回転数は、ねじ締め作業時におけるスピンドル回転数を示しており、ねじ締め作業時におけるロータの実用回転数を検証すれば、遊星歯車の減速比から容易に算出することが可能である。また、反発率を考慮した係数については木材の硬さにより変動することになる。
図9にて図示した各プロット点は、本発明、従来における打撃諸元をそれぞれプロットしたものであり、かつ、ハンマ40に配した打撃爪46aが、アンビル60に配した羽根部63aから離脱した後に、次の羽根部63bを飛ばして次の次の羽根部63cに係合するまでの回動角度を240度とした中速動作モード、次の次の次の羽根部63aに係合するまでの回動角度を360度とした高速動作モードにおける、打撃エネルギーEと離脱トルクTB、及び、係数Kの範囲を、上限の係数K2、K4と下限の係数K1、K3として表示した。プロット群91は市販されている現行品の一つ飛び打撃時の打撃エネルギーEと離脱トルクTBの関係である。この従来品(現在市販されているインパクト工具)の打撃エネルギーEをさらに大きくするためにハンマスプリング54のバネ圧を大きくすると離脱トルクTBも大きくなってしまう。しかしながら、本実施例では、ハンマ40に配した打撃爪46aが、アンビル60に配した羽根部63aから離脱した後に、次の次の羽根部63cに打撃するという、いわゆる“1つ飛ばし打撃モード(中速動作モード)”に加えて、羽根部63aから離脱した後に、次の羽根部63bと、その次の羽根部63cを飛ばして、再びもとの羽根部63aを打撃するという“2つ飛ばし打撃モード(高速動作モード)”も追加した。この高速動作モードの場合は、ハンマ40がアンビル60に対して1回転する間に1回だけ打撃することになり、それらの打撃諸元をそれぞれプロットしたのがプロット群92である。
アンビル60に配した羽根部63aから離脱した後に、次の次の次の羽根部に係合するまでの前記回動角度を340〜380度となるインパクト工具の打撃エネルギーEと離脱トルクTB、及び、係数KPの関係性をE=KP×TB[K1<KP]とした場合では、プロット群92で示すように離脱トルクを12〜18kg・cmを保ったまま打撃エネルギーEをプロット群91よりも段違いに向上させることができ、実線K3の領域よりも上側領域の高い打撃エネルギーEを得ることが可能となった。
プロット群91に示すような、いわゆる“1つ飛ばし打撃モード”から、プロット群92に示すような、いわゆる“2つ飛ばし打撃モード”に切り替えるには、モータ4の回転速度の切替制御が重要である。このようにモータ4の速度をうまく制御することによって、係数K3〜K4の範囲の高い打撃エネルギーの動作モード、係数K1〜K2の中打撃エネルギーの動作モード、係数K1以下であって従来のインパクト工具と同様に“連続打撃”を行う低打撃エネルギーの3つを選択できるようにして、軽負荷のねじ締め作業から高負荷のボルト締め作業まで、幅広い締め付け作業に対応できるインパクト工具を実現できる。この係数K3よりも高い打撃エネルギーの動作モードでは、打撃エネルギーEと離脱トルクTBとの関係が、プロット群92に示すような10.0×TB<E<16.7×TBの領域での打撃となる。
図10は、従来のインパクト工具と本実施例のインパクト工具1における打撃機構の数値を示す比較表である。従来例の数値は、高出力時に“1つ飛ばし打撃モード”を行うインパクト工具であり、本実施例の数値は、高出力時に“2つ飛ばし打撃モード”を行うインパクト工具とも言い換えることができる。スピンドル30、230の軸部の直径は13.8mmで同一とする。被締結材からの反発率は、従来は負荷の大きい太いビスを想定して0.31とし、本実施例では締め付けトルクの向上から硬いボルトを想定して反発率を0.41としている。ハンマバック量は、カムボールが2つと一つの違いから従来例では10.5mm、本実施例では19.3mmと1.8倍以上の距離を確保できるが、本実施例では余裕を持たせて17.3mmとして、カムボール51がスピンドルカム溝33の後端部33c、33eに到達しないようにして、溝の端部の破損を防止するように構成した。このように製品として必要とされる出力を得るために、ハンマスプリング54、254を選択することにより、従来例のインパクト工具では離脱トルクが15.9[N・m]に対して、13.5[N・m]と更に低くしながら、得られる最大打撃エネルギーEは、9.7から18.1[N・m2×(rad/s)2]と大幅に向上させることができた。
図11はハンマ40、アンビル60による打撃状態を示す図である。縦軸はハンマ40の前後方向の位置を示し、+が前方側(先端工具側)で、−が後方側(モータ側)であって、基準位置から何mmの位置にあるかを示す。0が静止時又は低負荷状態で回転時のハンマ40の打撃爪46aの前方端の位置であり、この際の羽根部63aの前方側位置も0である。横軸は回転角度であり、360度([deg])にて1周である。ここでは羽根部63a〜63cは120度の間隔で配置される。図11(1)において、トリガ6aを一杯に引いてスピンドル30が回転中に、ハンマ40の打撃爪46aに所定の反力が加わり、離脱トルクを越えると、ハンマ40が後退する。ハンマ40の後退量が羽根部63aとの最大係合量Aよりも大きくなると、打撃爪46aと羽根部63aとの係合状態が解除され、打撃爪46aが羽根部63aの後方側をすり抜けて回転し、次の羽根部63bを打撃する。この際のスピンドル30の回転は後述する図11(2)(3)に比べると低速である。図中、実線71で示すのが打撃爪46aの軸方向前方側且つ回転方向前方側の角部の移動軌跡であり、点線72で示すのが打撃爪46aの軸方向前方側且つ回転方向後方側の角部の移動軌跡である。この連続打撃を行う際には、制御回路は連続打撃が良好に行われるような回転速度にてスピンドル30を回転させるべく、モータ4の回転制御を行う。これが従来から行われてきたインパクト打撃である。図11においては、打撃爪46aしか図示していないが、同様に打撃爪46b、46cも後退及び打撃動作を行う。
図11(2)は“一つ飛ばし打撃”の状態を示すものである。ハンマ40の後退量が羽根部63aとの最大係合量Aよりも大きくなって、打撃爪46aが羽根部63aの後方側をすり抜けて回転する際の回転速度が中速にすると、次の羽根部63bの後方側も通過して、その次の羽根部63c(羽根部63aから見て次の次の羽根部)を打撃することができる。図中、実線73で示すのが打撃爪46aの軸方向前方側且つ回転方向前方側の角部の移動軌跡であり、点線74で示すのが打撃爪46aの軸方向前方側且つ回転方向後方側の角部の移動軌跡である。このように、打撃を行う際に打撃爪46aが、次の羽根部63bでなくて次の次の羽根部63cを打撃するためには、ハンマスプリング54を圧縮して後方側に移動したハンマ40が軸方向前方側に戻る前に、羽根部63bの後方を通過するような中速でスピンドル30を回転させる。
図11(3)は“二つ飛ばし打撃”の状態を示すものである。ここではモータ4の回転速度をさらに高速にして、打撃爪46aが羽根部63aの後方側をすり抜けて回転した際に、次の羽根部63bだけでなく次の次の羽根部63cも通過して、再び羽根部63a(羽根部63aから見て「次の次の次の羽根部」)を打撃することができるようにした。図中、実線75で示すのが打撃爪46aの軸方向前方側且つ回転方向前方側の角部の移動軌跡であり、点線76で示すのが打撃爪46aの軸方向前方側且つ回転方向後方側の角部の移動軌跡である。このように、打撃爪46aが、次の次の次の羽根部63aを打撃するためには、ハンマスプリング54を圧縮して後方側に移動したハンマ40が軸方向前方側に戻る前に、羽根部63bと羽根部63cの後方を通過するように十分な高速でスピンドル30を回転させることが必要である。
図11(1)〜(3)の打撃爪46aの軸方向前方側角部の移動軌跡71〜76をみて理解できるように、カムボールを2つ用いるスピンドルにおいては、図10にて示したようにハンマバック量が10.5mm程度しかないため、ハンマスプリング54のバネ圧を調整しても図11(3)のような“二つ飛ばし打撃”を実現することができなかった。しかしながら、本実施例では、図10にて示したようにハンマバック量を17.3mmと十分大きくすることができたので、ハンマスプリング54のバネ圧を調整するとともに、従来よりもモータの回転速度を高めることによって“二つ飛ばし打撃”を実現することができた。また、モータ4の回転制御によって“飛ばしを行わない打撃(従来と同様の打撃)”と“一つ飛ばし打撃”と“二つ飛ばし打撃”を自在に切り替え可能なので、締め付け対象に合わせた最適な出力を得ることが可能となる。
以上説明したように、本実施例によれば、離脱トルクTBの上昇を抑えて良好な打撃フィーリングを維持したインパクト工具を実現できる。また、その際にスピンドル回転数を大幅に高くして一つ飛ばし打撃又は二つ飛ばし打撃を行うことにより、打撃エネルギーEを従来よりも大幅に向上させることができる。さらに、打撃動作に移行した際にスピンドル回転数を大幅に低くして連続打撃を行うようにすれば、連続回転から打撃開始に至るまでの好フィーリング化を図ることができる。尚、本実施例は上述の例だけに限られずに様々な変更が可能である。
図12は、スピンドルのカム溝の形状を示す展開図であり、(1)は本実施例のスピンドルカム溝33の形状を示し、(2)は本実施例の第1の変形例にかかるスピンドル軸部81のカム溝82の形状を示し、(3)は本実施例の第2の変形例にかかるスピンドル軸部83のカム溝84の形状を示す。図12(1)に示すように本実施例のスピンドルカム溝33は、正転用溝部33b、逆転用溝部33aが同じリード角θとされる。一方、図12(2)では逆転用溝部82aのリード角θに対して、正転用溝部82bのリード角θ1を小さくした。このように構成することにより正転時の離脱トルクTB1と、逆転時の離脱トルクTB2の大きさを変えることが可能となり、正転時の離脱トルクTBを小さくできるので、正逆時の離脱トルクを下げ、カムアウト低減を可能にできる。また、逆転時はネジやボルト等を緩める作業であって、カムアウトがおきない場合はほとんどなので、カムリード角を小さくする必要性が少ない。
図12(3)では逆転用溝部84aと正転用溝部84bのリード角をともにθ1で小さくした。このように双方のリード角θ1を小さくすれば、正転時と逆転時の双方で離脱トルクTBを小さくすることができるので、子ネジ等を締め付け対象とするような小出力用のインパクト工具にも本発明を適用することができる。通常ではリード角θ1を小さくすると打撃トルクが小さくなるが,本実施例では1つ飛ばし打撃、又は/及び、2つ飛ばし打撃を併用することによって、リード角θ1の減少によるトルク低下分を補うことができる。
図13は、本発明の第3及び第4の変形例を示す図であり、ニードルベアリング56に代えて(1)は焼結メタル85を用いた例であり、(2)はOリング86を用いた例を示す図である。図13(1)はハンマ40Bの後端側内周面に径方向外側に窪むような段差部41Bを形成し、そこに円筒状の焼結メタル85を圧入したものである。焼結メタル85は、粉末冶金法により製造した多孔質の金属体に潤滑油を含浸させて、自己給油の状態で使用される滑り軸受であって、ハンマ40Bの後端付近をスピンドル軸部31に対して支持する部材である。焼結メタル85とスピンドル軸部31との間に存在する潤滑油により、摺動面に潤滑油膜が形成される。焼結メタル85の内径は、スピンドル30のスピンドル軸部31と良好に当接して、それらが軸方向及び回転方向に良好に摺動可能な状態とする。ハンマ40Bの段差部41Bよりも前方であって、スピンドルカム溝33の形成されていない部分との隙間S1を所定量だけ設けるようにして、ハンマ40Bのスピンドル軸部31に対する摺動抵抗をなくしている。
図13(2)はハンマ40Cの後端付近内周面に断面視で台形状に径方向外側に窪むような連続した溝部41Cを形成し、そこにOリング86を装着したものである。溝部41Cは従来から設けられていた潤滑油を溜めるための潤滑溝241c(図23参照)を軸方向後方に移動させたうえで、溝の大きさを大きくしたものである。Oリング86は、潤滑油が充填された環境下で対向する2つの部材(ハンマ40Cとスピンドル軸部31)の摺動抵抗を小さくして、ハンマ40Cとスピンドル軸部31の回転方向及び軸方向の動きをスムーズにする摺動部材であり、潤滑油を充分に浸したフェルトワイパを用いることができ、Oリング86の内周面がスピンドル軸部31に対して摺動するように支持される。ハンマ40Cの溝部41C以外の部分であって、スピンドルカム溝33の形成されていない部分との隙間S2は所定量だけ設けるようにして、ハンマ40Cのスピンドル軸部31に対する摺動抵抗を小さくできるように構成することが重要である。以上のように、ニードルベアリング等の転動部材に代えて、焼結メタル85やOリング86等の摺動部材を設けることにより、ハンマのスピンドルに対するガタツキを抑制することができ、1つのカムボール構成であってもスムーズな打撃動作が可能となる。本実施例においては、焼結メタル85やOリング86等の摺動部材が第3の規制部に該当し、第3の規制部はハンマ40のスピンドル30に対する傾きを規制する。
図14は、本発明の第5の変形例に係るハンマの例を示す図である。ここではニードルベアリング56を設ける代わりに、ハンマ40Dとスピンドル30の摺動抵抗を減らすための半球状の突起88a〜88cを設けたものである。突起88a〜88cはハンマ40の後端部内側に形成するものであって、周方向の3箇所に配置される。突起88a〜88cはハンマ40Dと一体に形成しても良いし、または3つの突起88a〜88cを形成した金属製又は樹脂製の別部材をニードルベアリング56に替えて装着するようにしても良い。突起88a〜88cの径方向位置は、嵌合孔32Dの位置よりも内側に突出し、スピンドル軸部31の外周面と点接触状態又は小さい領域にて接触する微小領域接触状態となる。このようにハンマ40D側とスピンドル軸部31との接触面積を小さくすることにより、良好な摺動特性を達成しながらハンマ40Dの姿勢を安定して保持することができる。尚、ここでは突起88a〜88cをハンマ40D側に形成したが、この関係を逆にして、スピンドル側に半球状の突起を周方向に複数形成して、ハンマ40Dの円筒状の内周面と点接触状態又は微小領域にて接触状態となるようにすれば良い。尚、設けられる突起の形状は半球状だけに限られず、ハンマ40Dとスピンドル軸部31との摺動特性が良好であればその他の形状であっても良い。
次に図15を用いて本願発明の第二の実施例について説明する。第一の実施例ではハンマ40の内周側、即ち、ハンマ40とスピンドル30の間にニードルベアリング56を設けるようにした。また、カムボール51の数を一つとしてスピンドルカム溝33を長く形成した。これに対して第二の実施例では、ハンマ140の内周側でなくて外周側にニードルベアリング180を設けた。ニードルベアリング180は、ハンマ140の外周面を支持する支持部材となるもので、ハンマ140とハンマケース103の間であってハンマケース103の内壁側に保持される。カムボール51の数は、第一の実施例と同様に1つだけであり、スピンドルカム溝133が長く確保できるように構成した。さらに、駆動源たるモータ104の形式を変更し、ブラシ付き直流モータからブラシレスDCモータに変更した。但し、モータの形式は任意で有り、本願発明の特徴的な打撃機構の構成には直接影響しない。
本体ハウジング102の形状は、モータ104の違いに起因して胴体部102aの前後方向の長さが短くてコンパクトな形状とされている。そのため、減速機構20と打撃機構(130、140、160等)を収容するハンマケース103の形状も変更される。ハンマケース103は、前側に行くにつれて径を徐々に絞る様な先絞り形状ではなくて、軸線と鉛直な底面を有するカップ状のような形状に変更した。これらの形状の変更は、トリガレバー6aよりも上側部分をコンパクトに設計したことにデザイン上の違いよるものが主な理由であり、内部の機械的な構成を変更した訳ではない。よって、第一の実施例と同様に先絞り形状としても良い。
減速機構20はモータ104の出力をスピンドル130に伝達するものであり、ここでは、図1で示したものと同様の遊星歯車減速機構を用いる。スピンドル130は第一の実施例のスピンドル30と同じ又はほぼ同じものを用いることができる。ハンマ140は、外周面140aをニードルベアリング180に当接させながら回転させるため、打撃爪部分を除く外周面の直径が、前端から後端まで一定の大きさとなるように構成される。またハンマ140の形状に合わせてハンマケース103の形状も決定されるため、ハンマケース103の内壁面の径状は円筒面となるように形成される。アンビル160は、図1で示したものと共通部品とすることができ、その先端にはビット保持部70が形成される。アンビル160の軸部分はニードルベアリング19aによって軸支される。ニードルベアリング19aを保持するために、ハンマケース103の前方側には、垂直壁103bから前方側に延在する細径円筒部103aが形成される。つまり、ハンマケース103には、細径円筒部103aの内側と、太径の円筒部103cの内側に、それぞれニードルベアリング(19a、180)が配置されることになる。細径円筒部103aと円筒部103cの間は、軸線A1とほぼ垂直な径方向に延在する垂直壁103bとなっている。このように第二の実施例では、アルミニウム合金等による金属製の一体成形のハンマケース103に、2つの軸受装置(19a、180)を設けたことが一つの特徴となっている。一方の軸受装置(ニードルベアリング19a)はアンビル160をハンマケース103に回転可能に軸支している。他方の軸受装置(ニードルベアリング180)はハンマ140をハンマケース103に軸支している。すなわち、2つの軸受装置は異なる構成部品(アンビル160、ハンマ140)を軸支(保持)している。言い換えると、異なる構成部品は2つの軸受装置によって同じ構成部品(ハンマケース103)に軸支(保持)されている。
ハンマケース103の太径の円筒部103cの内側には、突き当て部103eが形成され、突き当て部103eよりも後方側のハンマケース103の内径がやや大きく形成される。突き当て部103eよりも後方側にはニードルベアリング180がすきまばめによって固定される。ニードルベアリング180の種類としては、例えば、保持器付針状ころ軸受を採用できる。保持器付針状ころ軸受は、複数の針状ころの径方向外側部分にシェルを有しないため、外径が小さくなりハンマケース103の大型化抑制には好都合である。シェル無しのニードルベアリング180に含まれる細長い円筒状の針状ころ181は、その軸心が軸線A1と平行方向(つまり図15の前後方向)に配置され、針状ころ181の前後にはリング状の保持器182a、182b(符号は図16参照)が設けられて、前後の保持器182a、182bを回り止めをする1本の連結部材(図では見えない)にて保持されている。ニードルベアリング180の配置領域を含むハンマケース103の内側には、機械部品の摩耗を防ぐためのグリスが充填されているが、内側にてハンマ140が高速回転すると、シェル無しの保持器付針状ころ軸受の針状ころ181の周囲にグリスが溜まりやすくなるので、潤滑上有利である。
ニードルベアリング180の後方側は、減速機構20のリングギヤ23によって軸方向に保持される。リングギヤ23の後方側には、2つの軸受18a、19bを保持するインナカバー17が設けられ、インナカバー17がリングギヤ23の軸方向の動きを抑制すると共に回転中心の位置決めを行うもので、プラスチック等の合成樹脂製の筒状の一体部品であって、本体ハウジング102とは別部材にて構成される。
次に図16を用いてハンマ140とニードルベアリング180の関係を更に説明する。ハンマ140が図15の状態からハンマスプリング54を圧縮しながら後退して最も後側に位置すると、図16の位置になる。この状態はカムボール51がV字状のスピンドルカム溝133のうち、一方側の後端部(図8(2)のスピンドルカム溝33の後端部33e)付近に到達した状態である。ハンマケース103の内側には、軸線A1に沿った前後方向の長さLNのニードルベアリング180が配置され、後退時にはハンマ140の打撃爪を除く外周面140aのほぼ全部がニードルベアリング180に接触する。ここでは、ニードルベアリング180として、保持器付針状ころ軸受を用いた。つまり、ニードルベアリング180には、保持器182a、182bとそれに保持される針状ころ181が複数設けられる。ハンマケース103の内側には円周方向に連続するように形成された段差状の突き当て部(段差部)103eを有し、すきまばめによって突き当て部103eよりも後方側にニードルベアリング180が配置される。ニードルベアリング180の後端側は、リングギヤ23が挿入されるので、軸線A1方向にみてリングギヤ23が好適な押さえ部材となって、突き当て部103eとリングギヤ23の間にニードルベアリング180を挟持する。
インパクト工具101の高性能化を図るためには、ハンマ140の後退可能量を十分確保すれば良い。しかしながら、スピンドル130の外径が従来と同じならば後退可能量が決まってしまうので、後退可能量を伸ばすことは難しい。一方で、離脱トルクを下げるためにはカムリード角を寝かせたいという要望もある。その要望を満たすには、限られたスペース内でのハンマ140の後退可能量がさらに減ってしまう。本実施例では、その対策として通常のカム機構にはカムボールが2つあるところを、カムボール51を1つだけにして側面視で1つのV字状のカム溝(図8(2))とすることで、ハンマ140の後退可能量を従来の約2倍近くまで確保できるようにした。一方、ハンマ後退量が大幅に増えたことでカムリード角θ(図12(1)参照)を小さくして打撃動作に移るためのハンマ140の離脱トルクを従来よりも下げるようにした。さらに本実施例では、カムボール51を一つにしたことによるハンマ140の回転バランスの崩れを、ハンマ140の外周面を保持するニードルベアリング180を設けたことにより回避するように構成した。第一の実施例のようにハンマ140の後方の内周側に配置するのも効率的であるが、スピンドル130の長さが長くなってしまうことのトレードオフになる。そこで第二の実施例では、ハンマ140の外周側で保持するようにしたので、内周側にニードルベアリング56(図2参照)を設けなくても十分な回転バランスをとることが可能となった。さらに、ハンマケース103側でニードルベアリング180を保持するので、小形のハンマ140を使用するインパクト工具の場合であっても、ハンマ内周面の難易な加工をしなくても済む。
次に図17を用いてハンマ140とアンビル160の位置関係をさらに説明する。スピンドル軸部131は、減速機構20の遊星キャリア部の前方側に位置し、その外周面にV字状の1組のスピンドルカム溝133が設けられる。ここではハンマ140の長さLHに対して、ニードルベアリング180の長さLNが十分長く形成される。つまり、ハンマ140の可動範囲では必ずニードルベアリング180と接触するようにニードルベアリング180の大きさを設定した。(1)に示すハンマ140が通常位置(後退していない状態)では、ハンマ140とニードルベアリング180は部分的にはオーバーラップしているが、完全にはオーバーラップしていない。これは、(1)の状態ではハンマ140の打撃爪146a〜146c(図では146cは見えない)とアンビル160の羽根部163a〜163c(図では163cは見えない)が当接している状態で、ハンマ140の軸ぶれの度合いが少ないため、ハンマ140の外周面の後端付近だけを保持すれば十分だからである。一方、(2)に示すようにハンマスプリング54を圧縮して、ハンマ140が後退しているような状態は、ハンマ140の打撃爪146a〜146c(図では146cは見えない)とアンビル160の羽根部163a〜163c(図では163cは見えない)が非接触状態であるので、ハンマ140は内周側で1つのカムボール51で保持されている不安定な状態である。しかしながら、ハンマ140がアンビル160との係合状態が離脱する際には、打撃爪を除くハンマ140の外周面全体がニードルベアリング180の針状ころ181に接触するので、ハンマ140の姿勢を精度良く保持し、ハンマ140の回転軸を軸線A1と良好に一致させることが可能となった。なお、図16から明らかなように、ニードルベアリング180の軸方向の配置範囲は、スピンドルカム溝133の前端位置から後端位置までの軸方向の範囲に対してオーバーラップしている。
図17(1)に示すようにハンマ140が通常位置(前進位置)にあるとき、ニードルベアリング180の前後方向中心位置185(図中の黒三角マーク)が、ハンマ140の長さLHが占める領域よりも後方側に位置する。また、ハンマ140の前後方向中心位置149(図中の黒三角マーク)がニードルベアリング180の前端位置よりも後方側に位置する。一方、ハンマ140が最も後退した位置(後退位置)にあるときには、図17(2)に示すようにハンマ140の長さLHが占める部分が、完全にニードルベアリング180の占める長さLNの内部に入る様な位置関係となる。このようにニードルベアリング180の軸方向の長さが長いほどハンマ140のがたつきを効果的に防止できる。また、ニードルベアリング180の長さLNが長いほど、ハンマケース103内に挿入するときの組み立て性が向上する。従って図17のニードルベアリング180は、ハンマケース103に対して強固な回り止めをしなくても済む。また、ハンマケース103側にはキー溝を設けるなどの特別な仕組みをすることは不要であるが、確実に回り止めを行うためにキー溝を設けても良い。また、本実施例ではニードルベアリング180及びハンマ140の中心位置185及び149を上述の通りとしたが、図17や図18のニードルベアリングの位置よりも前方側(アンビル160側)に配置しても良い。すなわち、ハンマ140が前進位置及び後退位置にある状態において、少なくともハンマ140の一部がニードルベアリング180に接するようニードルベアリング180を配置すれば良い。
以上説明したように、第二の実施例においてはハンマ140の外周側にニードルベアリング180を設けたので、ハンマ140を1つのカムボール51だけでスピンドル130に対して安定して保持することができる。しかも、ニードルベアリング180をハンマケース103側に設けたので図23で示したスピンドル230及びハンマ240側の構成を実質的に変更する必要が無い。従って、第二の実施例の実現は比較的容易である。また、組立性においても、ハンマケース103内にニードルベアリング180を組み込む工程が増えるだけで、それ以外の組み立て工程は従来と同じで良いので、コストアップも抑制できる。また、従来構造では、スピンドル表面に塗布されたグリスは遠心力により外周側に配されたハンマケース側に飛散することになる。これより、スピンドルとハンマの摺動部のグリスが枯渇することでカジリ、発熱、磨耗などが生じて耐久性を損ねる問題があった。しかしながら、第二の実施例によれば、ニードルベアリング180をハンマ140とハンマケース103との間(ハンマ140の外周側)に設けたため、スピンドル表面に塗布されたグリスは遠心力によってニードルベアリング180側に飛散することになり、グリスの枯渇がなく耐久性も大幅に向上させることができる。尚、第二の実施例では、ハンマ140の内周側にはベアリングが設けられないが、第一の実施例と第二の実施例を併用して、ハンマ140の外周側と内周側の双方にベアリングを設けることも可能である。また、第二の実施例では、カムボール51(スピンドルカム溝133)を1つとした構成においてニードルベアリング180を設けたが、ニードルベアリング180を図8(1)に示すようなカムボールが2つ(スピンドルカム溝が2つ)の従来の構成に適用しても良い。また、第一の実施例のニードルベアリング56を従来の構成に適用しても良い。
図18は第二の実施例の第一変形例を説明する。図18に示すインパクト工具101Aは軸方向に短い長さLNのニードルベアリング180Aを用いたもので、それに合わせてハンマケース103Aの形状(特に突き当て部の位置)を変更している。また、リングギヤ23Aの前側円筒部でニードルベアリング180Aの後方を押さえるようにしている。それ以外の構成部品は、図15〜図17で示したインパクト工具101と同じである。ここでは、ハンマ140の外周面の長さLHに比べて、ニードルベアリング180Aの長さL Nが短い。しかしながら、ハンマ140が前端位置から後端位置のいずれにおいても、長さLHと長さLNの少なくとも一部がオーバーラップする状態にある。また、図18(2)に示すようにハンマ140が後退した際には、ハンマ140の外周面140aの軸方向ほぼ中央付近でニードルベアリング180Aと接するので、ハンマ140の姿勢が乱れること無くスムーズに回転する。このように、ハンマ140がどの前後位置にあっても針状ころと接する配置にできるならば、ニードルベアリング180、180Aの前後方向の長さは任意に設定しても良い。
次に図19を用いて第二の実施例の第二変形例に係るインパクト工具101Bを説明する。図19に示すインパクト工具101Bでは、ニードルベアリング180Bの形状を保持器付針状ころ軸受からシェル形針状ころ軸受に変更したものである。つまり、ニードルベアリング180Bは、薄い鋼板にて外輪を形成して、その軌道面に針状ころ181とシェル183を組付けた軸受である。針状ころ181の軸方向両側であってシェルの内側には保持器182a、182bが設けられる。ニードルベアリング180Bの軸方向の長さは、図15で示したニードルベアリング180と同じである。また、ハンマケース103Bの形状は、ニードルベアリング180Bのサイズが径方向外側にやや大きくなったことに対応させた形状であるものの、基本構成は図15で示したハンマケース103と同じである。ニードルベアリング180Bは、外輪たるシェル183が外周側に形成され、内周側には針状ころ181が配置されるので、内輪を用いずに転動軸(針状ころ181)を直接ハンマ140の外周面を軌道とすることが可能である。また、外輪が針状ころ181及び保持器182a、182bから分離できない構造であるので、剛性が高く、ハンマケース103Bに適切な嵌め合いで圧入するだけで軸線A1方向の固定のために止め輪などが不要となる。
図20は図19に示す打撃部及び被打撃部の展開斜視図である。前方側からハンマケース103B、アンビル160、ハンマ140、スピンドル130の順に配置されるという基本構成は、図1にて示した第一の実施例のインパクト工具1と同じである。カムボール51の数は1つである。ハンマケース103はカップ状であって、先端中央部に貫通穴が形成され、貫通穴の縁部から細径円筒部103aが形成される。細径円筒部103aの内側にはアンビル160を軸支するためのニードルベアリング19aが取りつけられる。ハンマケース103の円筒部103cの内側には、ニードルベアリング180Bが挿入され、例えば中間ばめによって固定される。ニードルベアリング180Bの内周側には、多数の針状ころ181が設けられ、その回転軸心方向は、スピンドル130の回転中心と平行方向になる。
アンビル160はインパクト工具101Bの出力軸を形成すると共に、ハンマ140の被打撃部を形成する。その形状は図2で示したアンビル60とほぼ同じである。アンビル160は、その円筒形の出力軸部161の後方に、3つの羽根部163a〜163cによる被打撃爪が形成されたものである。出力軸部161の前側端部には装着孔161aが形成される。羽根部163a〜163cは、回転方向に見て120度ずつ隔てるように均等に配置された被打撃爪であり、径方向外側に伸びるように配置される。被打撃部の後方の、円筒状の軸部166は、スピンドル130の嵌合孔132に係合する。
ハンマ140は、スピンドル130にて保持される部材である。ハンマ140はスピンドル130に対して浮いた状態、又は、非接触状態の姿勢を保つように保持される。本実施例ではハンマ140の外周側にニードルベアリング180Bが位置するようにし、内周側にはニードルベアリングを装着していない。ハンマ140の前面側の外周3カ所には、軸方向の前方側(アンビル160側)に突出する3つの打撃爪146a〜146cが、回転角で120度ずつ隔てるように配置される。打撃爪146a〜146cの回転方向にみて2つの側面は、アンビル160の3つの羽根部163a〜163cと衝突時に良好に面接触する。ハンマ140の外周面140aは軸線と平行な筒状され、中央部には貫通孔141aを有する。貫通孔141aを形成する内周側であって前方側にはハンマカム溝144が形成される。ハンマ140の内周面の周方向の一箇所には壁部145が形成される。壁部145は前端側のスピンドル130の外周面と隣接又は当接する箇所となり、ハンマ140がスピンドル130に対する相対回転の姿勢維持に貢献する。ハンマ140の壁部145と周方向に対向する箇所には、組立時にカム溝内にカムボール51を挿入するための挿入溝144aが形成される。
スピンドル130のスピンドルカム溝133は1つだけ形成される。スピンドルカム溝133とハンマカム溝144及びカムボール51によるカム機構によって、ハンマ140はスピンドル130とほぼ連動するように回転する。ハンマ140のスピンドル130に対する回転及び軸方向移動は、ニードルベアリング180Bによって効果的に保持される。スピンドル軸部131の後方側には、減速機構20の遊星キャリア部となるフランジ部137、138が形成される。フランジ部137、138は、3つのプラネタリーギヤ22のシャフトを軸支する。
次に図21を用いて第二の実施例の第三変形例を説明する。図21に示すインパクト工具101Cでは、ニードルベアリング180の代わりに焼結材からなるメタル186を用いたものである。メタル186はしまりばめによってハンマケース103Cの内側に固定する。このようにハンマ140の外周面をメタル186の接触面にて滑らすようにしても、ハンマ140の回転及び軸方向移動時の姿勢を効果的に保持できるので、ハンマ140の軸心が振れないように安定して保持できる。尚、ハンマケース103Cとインナカバー17に囲まれる空間内にはグリス等の潤滑油が潤沢に塗布されているので、外周側に位置するメタル186とハンマ140の間の摩擦力は十分に低減される。メタル186の後方側とリングギヤ23の前端部の間は、隙間187が開いているが、この空間を設けることは必須ではなく、リングギヤ23の形状を変更して前方側に延ばして隙間が生じない様に構成しても良い。
第二の実施例のいずれの例においても、ハンマケース103の内周部にベアリングを配置し、ハンマ140の外周面を保持するように構成したので、ハンマ140の軸心がぶれずに安定した回転動作、打撃動作が可能となる。尚、第二の実施例では軸受部材としてニードルベアリングとメタルの例を示したが、ハンマ140と良好な摺動特性を有するならば、ニードル式でない他のベアリングであっても、その他の摺動材であっても良い。
以上、本発明を2つの実施例に基づいて説明したが、本発明は上述の実施例や種々の変形例に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で更なる変更が可能である。例えば、上述のハンマ40は3本の打撃爪を配した構成にて説明したが、180度隔てた位置に打撃爪と羽根部を有する2本羽根のアンビルと、2つの打撃爪を有するハンマを用いるインパクト工具においても同様に適用できる。また、ハンマとスピンドルとの間、又は、ハンマとハンマケースの間に設けられる転動部材、軸受部材は、ニードルベアリングや上述の例だけに限られずにその他の部材を用いても良い。