JPWO2019160057A1 - 炎症性疾患若しくは骨疾患の予防又は治療剤及び医薬組成物 - Google Patents

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Abstract

下記式(1)[式(1)中、Xは、水素原子、ハロゲン原子又は置換されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基を表し、R1は、置換されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基、置換されていてもよい炭素数1〜10のアルケニル基又は置換されていてもよい炭素数6〜14のアリール基を表し、1以上の水素原子は重水素原子に置換されていてもよい。]で表される化合物又はその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する、炎症性疾患若しくは骨疾患の予防又は治療剤、及び、炎症性疾患若しくは骨疾患の予防又は治療用医薬組成物。[化1]

Description

本発明は、炎症性疾患若しくは骨疾患の予防又は治療剤、及び、炎症性疾患若しくは骨疾患の予防又は治療用医薬組成物に関する。本願は、2018年2月15日に日本に出願された特願2018−025170号、及び、2018年6月27日に日本に出願された特願2018−121858号に基づき優先権を主張し、それらの内容をここに援用する。
炎症は、多くの慢性炎症性疾患の重要な原因である。また、長期間の炎症は、組織の破壊をもたらし、広範囲の損傷及び最終的には炎症を受けた器官の障害を引き起こす。
慢性炎症性疾患は、特定の組織又は臓器に関与する。例えば、筋骨格組織における慢性炎症性疾患は、関節リウマチ、強直性脊椎炎等の疾患の原因となる。また、消化管における慢性炎症性疾患は、クローン病、潰瘍性大腸炎等の疾患の原因となる。また、膵臓β細胞における慢性炎症性疾患は、インスリン依存性糖尿病等の疾患の原因となる。また、副腎における慢性炎症性疾患は、アジソン病等の疾患の原因となる。また、腎臓における慢性炎症性疾患は、グッドパスチャー症候群、IgA腎症、間質性腎炎等の疾患の原因となる。また、外分泌腺における慢性炎症性疾患は、シェーグレン症候群、自己免疫性膵炎等の疾患の原因となる。また、皮膚における慢性炎症性疾患は、乾癬、アトピー性皮膚炎等の疾患の原因となる。また、呼吸器における慢性炎症性疾患は、肺炎、慢性気管支炎、気管支喘息等の疾患の原因となる。また、慢性炎症性疾患には、全身性紅斑性狼瘡(SLE)及び強皮症等、多臓器に関与するものも知られている。
これらの慢性炎症性疾患は世界中で増加している。また、現在の治療法では十分に治療されていないのが現状である。
慢性炎症性疾患のうち、大腸及び小腸の粘膜に慢性の炎症又は潰瘍をひきおこす原因不明の疾患の総称を炎症性腸疾患(Inflammatory Bowel Disease:IBD)という。炎症性腸疾患は、主に潰瘍性大腸炎とクローン病に分類され、いずれも特定疾患(難病)に指定されている。特徴的な症状としては、血便、粘液便、下痢や腹痛等が挙げられ、症状がよくなったり(寛解)、悪くなったり(増悪)を繰り返すことが特徴である。
日本国内における潰瘍性大腸炎の患者数は、平成25年度末で16万人強で、人口10万人あたり100人程度である。また、クローン病の患者数は平成25年度末で4万人弱であり、人口10万人あたり27人程度である。
食生活の欧米化に伴い、潰瘍性大腸炎、クローン病とも、毎年増加の一途をたどっている。また欧米における単位人口あたりの患者数は、日本と比べて数倍〜10倍程度ともいわれており、大きな社会問題となっている。
炎症性腸疾患を完治させることは難しく、現行の治療における主な目的は、寛解に導き、長期間寛解を維持することで外科的治療までの期間を延長させることである。基本的には、薬物療法や血球成分除去療法を行い、必要に応じて外科治療を行う。
例えば、薬物療法においてしばしば用いられるステロイドは、その抗炎症効果は強力ではあるものの、副作用が大きいため、長期間の服用は避けることが望ましく、炎症性腸疾患の寛解を維持する目的には適さない。
また、ステロイドの長期投与の結果、ステロイド抵抗性、ステロイド依存性等の難治性大腸炎へと進行する場合もある。また、重症例及び難治例では、治療当初から大量のステロイドが投与されるため、副作用が多く出現するという問題がある。
ステロイドの使用量を減らす目的で、免疫調節薬であるアザチオプリン及び6−メルカプトプリン(6−MP)が代替薬として用いられるが、これらの薬剤は、その効果が発現するまでに約2〜3ヶ月かかる。
また、炎症性腸疾患の薬物療法においては、抗TNFα抗体(インフリキシマブ、アダリムマブ等)等の生物学的製剤が用いられることもある。しかしながら、インフリキシマブは免疫抑制作用による結核菌感染や敗血症、肺炎等の感染症、肝障害、発疹、白血球減少等の副作用が報告されている。また、これらの抗体製剤に対する抗体の産生が起き、効果が減弱することも報告されている。
また、抗TNFα抗体製剤の効果を持続させるために、通常、免疫調節薬(アザチオプリン及び6−MP)と併用されるが、これらの併用は発癌リスクを上げるという問題が指摘されている。
また、5−アミノサリチル酸剤は、軽症から中等症の潰瘍性大腸炎やクローン病に幅広く使用されているが、重度の患者には効果が弱い傾向にある。
ところで、ケタミンは、アリルシクロヘキシルアミン系の解離性麻酔薬として知られる化合物であり、R−ケタミン及びS−ケタミンの等量混合物であるラセミ体である。ケタミンは、NMDA受容体アンタゴニストであることが知られている。ケタミンは、他の一般的な麻酔薬と比較して、低用量では呼吸を抑制しないという大きな利点があり、動物の麻酔としてもよく使われる。
例えば、非特許文献1には、ケタミンが、潰瘍性大腸炎モデルマウスにおいて、抗炎症作用を有することが報告されている。
ところで、骨の恒常性は、破骨細胞が古くなった骨を破壊・吸収し、骨芽細胞が新たな骨を形成するという再構築(骨リモデリング)により維持されている。この骨リモデリングのバランスが様々な理由で崩れ、骨破壊・吸収が骨形成よりも優位になると、骨粗鬆症、溶骨性骨転移、骨パジェット病等の骨疾患を引き起こす。
近年の超高齢化社会の到来を受けて、骨粗鬆症等の骨疾患の患者数は増大しており、日本国内には約1,300万人の患者がいると推定されている。例えば、骨粗鬆症は、骨を形成するカルシウムやマグネシウムの不足、カルシウムの吸収に必要なビタミンD等のビタミンがバランスよく摂取できていないこと、運動不足、加齢、閉経等の様々な要因で発症することが知られているが、その発症メカニズムは未だ不明である。
また、免疫異常等によって炎症が生じて起きる関節リウマチは、全身性自己免疫を背景とした慢性多発滑膜炎とそれに伴う骨破壊を特徴とする。関節リウマチは年々増加傾向にあり、この患者における骨量減少及び骨破壊の原因究明と治療法の開発は重要課題である。
骨芽細胞から産生されるReceptor activator of nuclear factor κB ligand(RANKL)は、破骨細胞の形成、機能等を促進する。このため、何らかの原因によりRANKLが過剰に産生されると過剰な骨吸収につながる。
関節リウマチ患者の関節では、活性化されたT細胞及びB細胞の浸潤や滑膜線維芽細胞の異常な増殖等が起こっているが、これらの細胞においてRANKLが高発現していて、破骨細胞の形成、機能、生存が亢進されることで、関節近傍の骨破壊が誘発すると考えられている。
骨疾患治療薬であるデノスマブは、RANKLを標的としたヒト型モノクローナル抗体製剤である。この製剤は、RANKLに結合しRANKLの働きを阻害することで破骨細胞による骨吸収の亢進を抑制し、骨密度を高めることにより、骨疾患を改善する作用を示す。またRANKLの働きを阻害することで、関節箇所の破骨細胞による骨吸収を抑え、関節リウマチ患者における骨びらんの進展や関節の骨破壊を抑える作用を示す(例えば、特許文献1を参照。)
特許第4401613号公報
Ashry E.E., et al., Protective Effect of Ketamine against Acetic Acid-Induced Ulcerative Colitis in Rats, Pharmacology & Pharmacy, 7, 9-18, 2016.
しかしながら、ケタミンが抗炎症作用を有することが記載されている非特許文献1では、50mg/kgという高用量でケタミンを使用している。このような投与量は麻酔用量であり、急性の運動量亢進作用等の副作用が顕著に観察される。炎症性疾患の予防又は治療の目的で、患者に麻酔容量のケタミンを投与することは現実的ではない。
また、デノスマブは骨疾患の根本的な治療薬ではない。さらに、骨疾患の患者にデノスマブを投与すると、低カルシウム血症、顎骨壊死・顎骨骨髄炎、アナフィラキシー、大腿骨転子下及び近位大腿骨骨幹部の非定型骨折、皮膚感染症等の重篤な副作用が生じる場合があることが知られている。
このような背景のもと、本発明は、炎症性疾患若しくは骨疾患の予防又は治療剤及び医薬組成物を提供することを目的とする。
本発明は以下の態様を含む。
[1]下記式(1)で表される化合物又はその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する、炎症性疾患若しくは骨疾患の予防又は治療剤。
Figure 2019160057
[式(1)中、Xは、水素原子、ハロゲン原子又は置換されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基を表し、Rは、置換されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基、置換されていてもよい炭素数1〜10のアルケニル基又は置換されていてもよい炭素数6〜14のアリール基を表し、1以上の水素原子は重水素原子に置換されていてもよい。]
[2]下記式(2)で表される化合物又はその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する、[1]に記載の炎症性疾患若しくは骨疾患の予防又は治療剤。
Figure 2019160057
[式(2)中、1以上の水素原子は重水素原子に置換されていてもよい。]
[3]前記炎症性疾患が、潰瘍性大腸炎、クローン病、関節リウマチ、強直性脊椎炎、インスリン依存性糖尿病、アジソン病、グッドパスチャー症候群、IgA腎症、間質性腎炎、シェーグレン症候群、自己免疫性膵炎、乾癬、アトピー性皮膚炎、肺炎、慢性気管支炎、気管支喘息、全身性紅斑性狼瘡(SLE)、強皮症又はせん妄であり、前記骨疾患が、骨粗鬆症、溶骨性骨転移又は骨パジェット病である、[1]又は[2]に記載の炎症性疾患若しくは骨疾患の予防又は治療剤。
[4]下記式(3)で表される化合物及びその薬理学的に許容される塩を実質的に含まない、[1]〜[3]のいずれかに記載の炎症性疾患若しくは骨疾患の予防又は治療剤。
Figure 2019160057
[式(3)中、Xは、水素原子、ハロゲン原子又は置換されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基を表し、Rは、置換されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基、置換されていてもよい炭素数1〜10のアルケニル基又は置換されていてもよい炭素数6〜14のアリール基を表す。]
[5]下記式(4)で表される化合物及びその薬理学的に許容される塩を実質的に含まない、[4]に記載の炎症性疾患若しくは骨疾患の予防又は治療剤。
Figure 2019160057
[6][1]〜[5]のいずれかに記載の炎症性疾患若しくは骨疾患の予防又は治療剤と、薬理学的に許容される担体とを含有する、炎症性疾患若しくは骨疾患の予防又は治療用医薬組成物。
本発明によれば、炎症性疾患若しくは骨疾患の予防又は治療剤及び医薬組成物を提供することができる。
実験例1における実験スケジュールを説明する模式図である。 実験例2の結果を示すグラフである。 実験例3の結果を示すグラフである。 実験例4の結果を示すグラフである。 (a)〜(e)は、実験例6の結果を示すグラフである。 実験例7における実験スケジュールを説明する模式図である。 実験例8の結果を示すグラフである。 実験例9の結果を示すグラフである。 実験例10の結果を示すグラフである。 (a)は、実験例11における実験スケジュールを説明する模式図である。(b)〜(e)は、実験例11における行動評価の結果を示すグラフである。 (a)〜(e)は、実験例11におけるオステオプロテゲリン(OPG)、RANKL、オステオポンチン(OPN)の測定結果を示すグラフである。 (a)〜(d)は、実験例11における骨密度の測定結果を示すグラフである。 (a)〜(c)は、実験例12における骨密度の測定結果を示すグラフである。 (a)〜(d)は、実験例13における骨密度の測定結果を示すグラフである。
[炎症性疾患の予防又は治療剤]
1実施形態において、本発明は、下記式(1)で表される化合物又はその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する、炎症性疾患若しくは骨疾患の予防又は治療剤を提供する。骨疾患の予防又は治療剤については後述する。実施例において後述するように、本実施形態の予防又は治療剤により、炎症性疾患を予防又は治療することができる。
Figure 2019160057
[式(1)中、Xは、水素原子、ハロゲン原子又は置換されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基を表し、Rは、置換されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基、置換されていてもよい炭素数1〜10のアルケニル基又は置換されていてもよい炭素数6〜14のアリール基を表し、1以上の水素原子は重水素原子に置換されていてもよい。]
本明細書において、「有効成分として含有する」とは、主要な活性成分として含むことを意味し、上記式(1)で表される化合物又はその薬理学的に許容される塩を薬効成分として含むものであれば、その含有量は特に限定されない。
本実施形態の炎症性疾患の予防又は治療剤において、「炎症性疾患」としては、潰瘍性大腸炎、クローン病等の炎症性腸疾患、関節リウマチ、強直性脊椎炎、インスリン依存性糖尿病、アジソン病、グッドパスチャー症候群、IgA腎症、間質性腎炎、シェーグレン症候群、自己免疫性膵炎、乾癬、アトピー性皮膚炎、肺炎、慢性気管支炎、気管支喘息、全身性紅斑性狼瘡(SLE)、強皮症、せん妄等が挙げられる。本実施形態の予防又は治療剤は、中でも、潰瘍性大腸炎、クローン病等の炎症性腸疾患に効果的であり、実施例において後述するように、潰瘍性大腸炎に特に効果的である。
炎症性疾患は、長期間(年単位)にわたり進行する慢性の病気であることから、早期に治療を開始することで、症状の進行を予防することもできる。また、潜在的に、炎症性疾患に罹患しやすい遺伝的バックグラウンドを有するような患者に対して、炎症性疾患の症状を呈する前に投与することにより、炎症性疾患の発症予防にも用いることもできる。
本実施形態の予防又は治療剤は、炎症性疾患の発症予防剤であるということができ、炎症性疾患の症状の進行予防剤であるということもできる。また、本実施形態の予防又は治療剤は、炎症性疾患の症状の進行を防止し、症状を緩和又は改善する、治療剤であるということもできる。
上記式(1)で表される化合物において、Xは、水素原子、ハロゲン原子又は置換されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基を表す。ハロゲン原子としては、F、Cl、Br又はIが挙げられる。炭素数1〜10のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、シクロブチル基、シクロプロピルメチル基、ペンチル基、シクロペンチル基等が挙げられる。また、アルキル基の置換基としては、例えば、F、Cl、Br、I等のハロゲン原子、ヒドロキシル基等が挙げられる。
また、上記式(1)で表される化合物において、Rは、置換されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基、置換されていてもよい炭素数1〜10のアルケニル基又は置換されていてもよい炭素数6〜14のアリール基を表す。
がアルキル基である場合、アルキル基の炭素数は1〜10であり、1〜6であることが好ましい。アルキル基は、直鎖状であってもよいし、分岐鎖状であってもよいし、環を形成していてもよい。
アルキル基の置換基としては、例えば、F、Cl、Br、I等のハロゲン原子、ヒドロキシル基等が挙げられる。
炭素数1〜10のアルキル基は、本実施形態の効果が発揮される限り特に限定されず、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、シクロブチル基、シクロプロピルメチル基、ペンチル基、シクロペンチル基等が挙げられる。
アルキル基は、直鎖アルキル基であることが好ましく、炭素数1〜5の直鎖アルキル基であることがより好ましく、メチル基又はエチル基であることが更に好ましく、メチルであることが特に好ましい。
がアルケニル基である場合、アルケニル基の炭素数は1〜10であり、1〜6であることが好ましい。アルケニル基は、直鎖状であってもよいし、分岐鎖状であってもよいし、環を形成していてもよい。アルケニル基の置換基としては、例えば、F、Cl、Br、I等のハロゲン原子、ヒドロキシル基等が挙げられる。
アルケニル基としては、アルキル基として上述した基に1つ又は2つ以上の二重結合を導入した基が挙げられ、ビニル基、アリル基等が挙げられる。
がアリール基である場合、アリール基の炭素数は6〜14であり、6〜10であることが好ましい。アリール基の置換基としては、例えば、F、Cl、Br、I等のハロゲン原子、ヒドロキシル基等が挙げられる。具体的なアリール基としては、フェニル基等が挙げられる。
また、上記式(1)で表される化合物は同位元素標識されていてもよい。同位元素としては、特に限定されないが、例えば、安定性同位体である13CやH(D)等が挙げられる。同位元素標識を行うことで、同位元素標識を行う前の化合物又はその薬理学的に許容される塩の生体内動態を変えることができる。このような化合物としては、例えば、下記式(A)、(B)、(C)で表される、重水素原子で標識した化合物が挙げられる。
Figure 2019160057
[式(A)中、Xは、水素原子、ハロゲン原子又は置換されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基を表し、Rは、置換されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基、置換されていてもよい炭素数1〜10のアルケニル基又は置換されていてもよい炭素数6〜14のアリール基を表し、Dは重水素原子を表す。]
上記式(A)におけるX及びRは、上記式(1)におけるX及びRと同様である。
Figure 2019160057
[式(B)中、Xは、水素原子、ハロゲン原子又は置換されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基を表し、Rは、置換されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基、置換されていてもよい炭素数1〜10のアルケニル基又は置換されていてもよい炭素数6〜14のアリール基を表す。ここで、X及びRで表される基に含まれる水素原子のうち少なくとも1つは重水素原子である。]
上記式(B)におけるXは、上記式(1)におけるXと同様であり、上記式(B)のRは、上記式(1)におけるRと同様である。
Figure 2019160057
[式(C)中、Xは、水素原子、ハロゲン原子又は置換されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基を表し、Rは、置換されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基、置換されていてもよい炭素数1〜10のアルケニル基又は置換されていてもよい炭素数6〜14のアリール基を表す。ここで、X及びRで表される基に含まれる水素原子のうち0以上は重水素原子である。]
上記式(C)におけるXは、上記式(1)におけるXと同様であり、上記式(C)のRは、上記式(1)におけるRと同様である。
本実施形態の炎症性疾患の予防又は治療剤において、上記式(1)で表される化合物の薬理学的に許容される塩としては、塩酸塩、硫酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、燐酸塩、硝酸塩、安息香酸塩、メタンスルホン酸塩、2−ヒドロキシエタンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩、酢酸塩、プロパン酸塩、シュウ酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、グルタル酸塩、アジピン酸塩、酒石酸塩、マレイン酸塩、フマール酸塩、リンゴ酸塩、マンデル酸塩等が挙げられ、塩酸塩、メタンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩が好ましく、塩酸塩が特に好ましい。
本実施形態の炎症性疾患の予防又は治療剤において、上記式(1)で表される化合物又はその薬理学的に許容される塩は、水和物であってもよく、水和物以外の溶媒和物であってもよい。
本実施形態の炎症性疾患の予防又は治療剤は、有効成分として、遊離塩基である上記式(1)で表される化合物を含有していてもよいし、上記式(1)で表される化合物の薬理学的に許容される塩を含有していてもよいし、上記式(1)で表される化合物及び上記式(1)で表される化合物の薬理学的に許容される塩の双方を含有していてもよい。
上記式(1)で表される化合物は、下記式(2)で表される化合物であることが好ましい。すなわち、本実施形態の予防又は治療剤は、下記式(2)で表される化合物又はその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有するものであることが好ましい。実施例において後述するように、下記式(2)で表される化合物又はその薬理学的に許容される塩は、炎症性疾患の予防又は治療効果が高い。
Figure 2019160057
[式(2)中、1以上の水素原子は重水素原子に置換されていてもよい。]
上記式(2)で表される化合物は、上記式(1)中、XがClであり、Rがメチル基である化合物であり、R−ケタミンと呼ばれる化合物である。すなわち、本実施形態の炎症性疾患の予防又は治療剤は、R−ケタミン又はその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有することが好ましい。
また、上述したように、上記式(2)で表される化合物は同位元素標識されていてもよい。同位元素としては、特に限定されないが、例えば、安定性同位体である13CやH(D)等が挙げられる。同位元素標識を行うことで、同位元素標識を行う前の化合物又はその薬理学的に許容される塩の生体内動態を変えることができる。このような化合物としては、例えば、下記式(D)、(E)、(F)で表される、重水素原子で標識した化合物が挙げられる。
Figure 2019160057
[式(D)中、Dは重水素原子を表す。]
Figure 2019160057
[式(E)中、Dは重水素原子を表す。]
Figure 2019160057
[式(F)中、Dは重水素原子を表す。]
上記式(2)で表されるR−ケタミンは遊離塩基である。R−ケタミンの薬理学的に許容される塩としては塩酸塩が好ましい。R−ケタミン塩酸塩の化学式を下記式(5)に示す。本実施形態の炎症性疾患の予防又は治療剤において、R−ケタミン又はその薬理学的に許容し得る塩は、水和物であってもよく、水和物以外の溶媒和物であってもよい。
Figure 2019160057
また、R−ケタミン又はその薬理学的に許容し得る塩は、同位元素標識されていてもよい。同位元素としては、特に限定されないが、例えば、安定性同位体である13CやH(D)等が挙げられる。同位元素標識を行うことで、同位元素標識を行う前のR−ケタミン又はその薬理学的に許容される塩の生体内動態を変えることができる。例えば、下記式(6)で表される、重水素原子で標識したR−ケタミン塩酸塩は代謝が遅くなり、持続時間が長くなると期待される。
Figure 2019160057
[式(6)中、Dは重水素原子を表す。]
また、本実施形態の炎症性疾患の予防又は治療剤は、下記式(3)で表される化合物及びその薬理学的に許容される塩を実質的に含まないものであることが好ましい。
Figure 2019160057
[式(3)中、Xは、水素原子、ハロゲン原子又は置換されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基を表し、Rは、置換されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基、置換されていてもよい炭素数1〜10のアルケニル基又は置換されていてもよい炭素数6〜14のアリール基を表す。]
本実施形態の炎症性疾患の予防又は治療剤において、「上記式(3)で表される化合物及びその薬理学的に許容される塩を実質的に含まない」とは、(i)上記式(3)で表される化合物を全く含まず、且つ上記式(3)で表される化合物の薬理学的に許容される塩も全く含まないこと、(ii)上記式(3)で表される化合物又は上記式(3)で表される化合物の薬理学的に許容される塩を副作用が発生しない程度の量で含んでいてもよいこと、又は、(iii)上記式(3)で表される化合物又は上記式(3)で表される化合物の薬理学的に許容される塩を、その製造上不可避的な程度の量含んでいてもよいことを意味する。
より具体的には、例えば、本実施形態の炎症性疾患の予防又は治療剤において、医薬品とした場合の原薬である上記式(1)で表される化合物又はその薬理学的に許容される塩は、上記式(3)で表される化合物又はその薬理学的に許容される塩を0.15モル%以下含んでいてもよい。
上記式(3)で表される化合物及びその薬理学的に許容される塩は、下記式(4)で表される化合物及びその薬理学的に許容される塩であってもよい。すなわち、本実施形態の炎症性疾患の予防又は治療剤は、下記式(4)で表される化合物及びその薬理学的に許容される塩を実質的に含まないものであってもよい。
Figure 2019160057
上記式(4)で表される化合物は、上記式(3)中、XがClであり、Rがメチル基である化合物であり、S−ケタミンと呼ばれる化合物である。すなわち、本実施形態の炎症性疾患の予防又は治療剤は、S−ケタミン又はその薬理学的に許容される塩を実質的に含有しないことが好ましい。
実施例において後述するように、R−ケタミンを投与した場合の炎症性疾患の予防又は治療効果は、S−ケタミンを投与した場合の予防又は治療効果よりも高い。また、R−ケタミン及びS−ケタミンの等量混合物であるRS−ケタミンの副作用(精神病惹起作用、解離症状、薬物依存等)は、主にS−ケタミンにより引き起こされると考えられている。
したがって、上記式(1)で表される化合物又はその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有し、上記式(3)で表される化合物及びその薬理学的に許容される塩を実質的に含有しない、炎症性疾患の予防又は治療剤は、治療効果が高く、副作用が少ない。
[炎症性疾患の予防又は治療用医薬組成物]
1実施形態において、本発明は、上述した炎症性疾患若しくは骨疾患の予防又は治療剤と、薬理学的に許容される担体とを含有する、炎症性腸疾患若しくは骨疾患の予防又は治療用医薬組成物を提供する。骨疾患の予防又は治療用医薬組成物については後述する。
上述した炎症性疾患の予防又は治療剤は、医薬組成物として製剤化されていることが好ましい。医薬組成物は、経口的に使用される剤型であってもよく、非経口的に使用される剤型であってもよい。
経口的に使用される剤型としては、錠剤、カプセル剤、コーティング錠、トローチ剤、溶液又は懸濁液等の液剤等が挙げられる。また、非経口的に使用される剤型としては、注射剤、粉剤、滴剤、スプレー剤、クリーム剤、坐剤、パッチ剤、リニメント剤、ゲル剤等が挙げられる。これらの剤型の製剤は、いずれも、製薬技術上当業者に公知の方法によって調製することができる。
本実施形態の医薬組成物を注射用製剤として調製する場合は、溶液剤又は懸濁剤の製剤の形態が好ましい。また、本実施形態の医薬組成物を、経鼻腔や口腔等の経粘膜投与用製剤として調製する場合は、粉末、滴剤又はエアロゾル剤の製剤の形態が好ましい。また、本実施形態の医薬組成物を、直腸投与用製剤として調製する場合は、クリ−ム剤又は坐剤等の半固形剤の製剤の形態が好ましい。
薬学的に許容される担体としては、特に限定されず、通常の医薬組成物に用いられるものを用いることができる。例えば、抗酸化剤、安定剤、防腐剤、矯味剤、着色料、溶解剤、可溶化剤、界面活性剤、乳化剤、消泡剤、粘度調整剤、ゲル化剤、吸収促進剤、分散剤、賦形剤、pH調整剤等が挙げられる。
医薬組成物は添加剤を更に含んでいてもよい。添加剤としては、ステアリン酸マグネシウム等の潤滑剤;ショ糖、乳糖、サッカリン等の甘味剤;ペパーミント、アカモノ油等の香味剤;ベンジルアルコール、フェノールの安定剤;リン酸塩、酢酸ナトリウム等の緩衝剤;安息香酸ベンジル、ベンジルアルコール等の溶解補助剤;酸化防止剤;防腐剤等が挙げられる。
また、本実施形態の医薬組成物は、上記式(1)で表される化合物又はその薬理学的に許容される塩に加え、上記式(1)で表される化合物又はその薬理学的に許容される塩以外の抗炎症効果のある他の薬効成分を含んでいてもよい。
注射用製剤は、薬学的に許容される担体として、例えば、アルブミン等の血漿由来タンパク質、グリシン等のアミノ酸、マンニトール等の糖等を含有していてもよく、更に緩衝剤、溶解補助剤、等張剤等を含有していてもよい。また、水溶製剤又は凍結乾燥製剤として使用する場合、凝集を防ぐために、例えば、Tween(登録商標)80及びTween(登録商標)20等の界面活性剤を含有していてもよい。
注射用製剤以外の非経口投与用製剤は、薬学的に許容される担体として、例えば、蒸留水又は生理食塩液、ポリエチレングリコ−ル等のポリアルキレングリコ−ル、植物起源の油、水素化したナフタレン等を含有していてもよい。
例えば、坐剤のような直腸投与用製剤は、賦形剤として、例えば、ポリアキレングリコ−ル、ワセリン、カカオ油脂等を含有していてもよい。また、吸入用製剤は、固体であってもよく、賦形剤として、例えば、ラクト−スを含有していてもよい。また、経鼻腔投与用滴剤は、水溶液又は油溶液であってもよい。
本実施形態の医薬組成物の正確な投与量及び投与計画は、個々の治療対象毎の所要量、治療方法、疾病又は必要性の程度等に依存して適宜調整することができる。また、投与経路は、好ましくは経口投与、経鼻腔投与又は注射による静脈内投与、皮下投与若しくは筋肉内投与である。
治療対象は、特に限定されないが、哺乳動物であることが好ましく、ヒトであることが好ましい。
投与量は、具体的には、年齢、体重、健康状態、性別、食事、投与時間、投与方法、排泄速度、薬物の組合せ、対象の病状等に応じて決めることができ、更にその他の要因を考慮して決定してもよい。
本実施形態の医薬組成物を、炎症性疾患を有する患者に投与する場合には、医薬組成物が、有効成分(上記式(1)で表される化合物又はその薬理学的に許容される塩)を、各炎症性疾患の症状、好ましくは各炎症性疾患の炎症軽減に有効な量含むことが好ましい。
上記式(1)で表される化合物又はその薬理学的に許容される塩の1日あたりの投与量は、患者の状態や体重、化合物の種類、投与経路等によって異なるが、経口投与の場合は、通常、約0.01〜1000mg/人/日、好ましくは0.1〜500mg/人/日であり、また、非経口投与の場合は、通常、約0.01〜500mg/人/日、好ましくは0.1〜100mg/人/日である。本実施形態の医薬組成物は、1日1回、又は数回に分けて投与することが適切であると考えられる。
本実施形態の医薬組成物は、炎症性疾患を発症する前に投与することにより、炎症性疾患の予防に用いることもできるし、炎症性疾患の発症後に投与することにより、炎症性疾患の治療に用いることもできる。
[骨疾患の予防又は治療剤]
1実施形態において、本発明は、下記式(1)で表される化合物又はその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する、骨疾患の予防又は治療剤を提供する。実施例において後述するように、本実施形態の予防又は治療剤により、骨疾患を予防又は治療することができる。
Figure 2019160057
[式(1)中、Xは、水素原子、ハロゲン原子又は置換されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基を表し、Rは、置換されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基、置換されていてもよい炭素数1〜10のアルケニル基又は置換されていてもよい炭素数6〜14のアリール基を表す。]
本実施形態の予防又は治療剤において、「骨疾患」としては、骨粗鬆症、溶骨性骨転移、骨パジェット病等が挙げられる。実施例において後述するように、本実施形態の予防又は治療剤を投与することにより、破骨細胞による骨吸収、骨芽細胞による骨形成のバランスを骨形成に優位に変化させることができる。その結果、骨疾患を予防又は治療することができる。
上記式(1)で表される化合物において、X及びRは、上述した炎症性疾患の予防又は治療剤におけるものと同様であってよい。また、上記式(1)で表される化合物の薬理学的に許容される塩は、上述した炎症性疾患の予防又は治療剤におけるものと同様であってよい。
本実施形態の骨疾患の予防又は治療剤において、上記式(1)で表される化合物は、下記式(2)で表される化合物であることが好ましい。すなわち、本実施形態の骨疾患の予防又は治療剤は、下記式(2)で表される化合物又はその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有するものであることが好ましい。実施例において後述するように、下記式(2)で表される化合物又はその薬理学的に許容される塩は、骨疾患の予防又は治療効果が高い。
Figure 2019160057
上記式(2)で表される化合物は、上記式(1)中、XがClであり、Rがメチル基である化合物であり、R−ケタミンと呼ばれる化合物である。すなわち、本実施形態の骨疾患の予防又は治療剤は、R−ケタミン又はその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有することが好ましい。
上記式(2)で表されるR−ケタミンは遊離塩基である。R−ケタミンの薬理学的に許容される塩としては塩酸塩が好ましい。R−ケタミン塩酸塩の化学式を下記式(5)に示す。本実施形態の骨疾患の予防又は治療剤において、R−ケタミン又はその薬理学的に許容し得る塩は、水和物であってもよく、水和物以外の溶媒和物であってもよい。
Figure 2019160057
また、R−ケタミン又はその薬理学的に許容し得る塩は、同位元素標識されていてもよい。同位元素としては、特に限定されないが、例えば、安定性同位体である13CやH(D)等が挙げられる。同位元素標識を行うことで、同位元素標識を行う前のR−ケタミン又はその薬理学的に許容される塩の生体内動態を変えることができる。例えば、下記式(6)で表される、重水素原子で標識したR−ケタミン塩酸塩は代謝が遅くなり、持続時間が長くなると期待される。
Figure 2019160057
[式(6)中、Dは重水素原子を表す。]
また、本実施形態の骨疾患の予防又は治療剤は、下記式(3)で表される化合物及びその薬理学的に許容される塩を実質的に含まないものであることが好ましい。
Figure 2019160057
[式(3)中、Xは、水素原子、ハロゲン原子又は置換されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基を表し、Rは、置換されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基、置換されていてもよい炭素数1〜10のアルケニル基又は置換されていてもよい炭素数6〜14のアリール基を表す。]
本実施形態の骨疾患の予防又は治療剤において、「上記式(3)で表される化合物及びその薬理学的に許容される塩を実質的に含まない」とは、(i)上記式(3)で表される化合物を全く含まず、且つ上記式(3)で表される化合物の薬理学的に許容される塩も全く含まないこと、(ii)上記式(3)で表される化合物又は上記式(3)で表される化合物の薬理学的に許容される塩を副作用が発生しない程度の量で含んでいてもよいこと、又は、(iii)上記式(3)で表される化合物又は上記式(3)で表される化合物の薬理学的に許容される塩を、その製造上不可避的な程度の量含んでいてもよいことを意味する。
より具体的には、例えば、本実施形態の骨疾患の予防又は治療剤において、医薬品とした場合の原薬である上記式(1)で表される化合物又はその薬理学的に許容される塩は、上記式(3)で表される化合物又はその薬理学的に許容される塩を0.15モル%以下含んでいてもよい。
上記式(3)で表される化合物及びその薬理学的に許容される塩は、下記式(4)で表される化合物及びその薬理学的に許容される塩であってもよい。すなわち、本実施形態の骨疾患の予防又は治療剤は、下記式(4)で表される化合物及びその薬理学的に許容される塩を実質的に含まないものであってもよい。
Figure 2019160057
上記式(4)で表される化合物は、上記式(3)中、XがClであり、Rがメチル基である化合物であり、S−ケタミンと呼ばれる化合物である。すなわち、本実施形態の骨疾患の予防又は治療剤は、S−ケタミン又はその薬理学的に許容される塩を実質的に含有しないことが好ましい。
実施例において後述するように、R−ケタミンを投与した場合の骨疾患の予防又は治療効果は、S−ケタミンを投与した場合の骨疾患の予防又は治療効果よりも高い。また、上述したように、R−ケタミン及びS−ケタミンの等量混合物であるRS−ケタミンの副作用は、主にS−ケタミンにより引き起こされると考えられている。
したがって、上記式(1)で表される化合物又はその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有し、上記式(3)で表される化合物及びその薬理学的に許容される塩を実質的に含有しない、骨疾患の予防又は治療剤は、治療効果が高く、副作用が少ない。
[骨疾患の予防又は治療用医薬組成物]
1実施形態において、本発明は、上述した骨疾患の予防又は治療剤と、薬理学的に許容される担体とを含有する、骨疾患の予防又は治療用医薬組成物を提供する。
上述した骨疾患の予防又は治療剤は、医薬組成物として製剤化されていることが好ましい。医薬組成物は、経口的に使用される剤型であってもよく、非経口的に使用される剤型であってもよい。
本実施形態の骨疾患の予防又は治療用医薬組成物の剤型は、上述した炎症性腸疾患の予防又は治療用医薬組成物と同様であってよい。
また、本実施形態の医薬組成物は、上記式(1)で表される化合物又はその薬理学的に許容される塩に加え、上記式(1)で表される化合物又はその薬理学的に許容される塩以外の骨疾患の予防又は治療効果のある他の薬効成分を含んでいてもよい。このような成分としては、例えば、カルシウム、マグネシウム、ビタミンD、カルシトシン、ビタミンK2、抗RANKL製剤、生物製剤(抗体医薬品)等が挙げられる。
本実施形態の医薬組成物の正確な投与量及び投与計画は、個々の治療対象毎の所要量、治療方法、疾病又は必要性の程度等に依存して適宜調整することができる。また、投与経路は、好ましくは経口投与、経鼻腔投与又は注射による静脈内投与、皮下投与若しくは筋肉内投与である。
治療対象は、特に限定されないが、哺乳動物であることが好ましく、ヒトであることが好ましい。
投与量は、具体的には、年齢、体重、健康状態、性別、食事、投与時間、投与方法、排泄速度、薬物の組合せ、対象の病状等に応じて決めることができ、更にその他の要因を考慮して決定してもよい。
本実施形態の医薬組成物を、骨疾患患者に投与する場合には、医薬組成物が、有効成分(上記式(1)で表される化合物又はその薬理学的に許容される塩)を、各骨疾患の症状の軽減に有効な量含むことが好ましい。
上記式(1)で表される化合物又はその薬理学的に許容される塩の1日あたりの投与量は、患者の状態や体重、化合物の種類、投与経路等によって異なるが、経口投与の場合は、通常、約0.01〜1000mg/人/日、好ましくは0.1〜500mg/人/日であり、また、非経口投与の場合は、通常、約0.01〜500mg/人/日、好ましくは0.1〜100mg/人/日である。本実施形態の医薬組成物は、1日1回、又は数回に分けて投与することが適切であると考えられる。
本実施形態の医薬組成物は、骨疾患を発症する前に投与することにより、骨疾患の予防に用いることもできるし、骨疾患の発症後に投与することにより、骨疾患の治療に用いることもできる。
[その他の実施形態]
1実施形態において、本発明は、上記式(1)で表される化合物又はその薬理学的に許容される塩の有効量を、治療を必要とする患者に投与することを含む、炎症性疾患若しくは骨疾患の予防又は治療方法を提供する。
1実施形態において、本発明は、炎症性疾患若しくは骨疾患の予防又は治療のための上記式(1)で表される化合物又はその薬理学的に許容される塩を提供する。
1実施形態において、本発明は、炎症性疾患若しくは骨疾患の予防又は治療剤を製造するための上記式(1)で表される化合物又はその薬理学的に許容される塩の使用を提供する。
これらの各実施形態において、上記式(1)で表される化合物、上記式(1)で表される化合物の薬理学的に許容される塩、炎症性疾患、骨疾患については上述したものと同様である。上記式(1)で表される化合物又はその薬理学的に許容される塩は、上記式(3)で表される化合物及びその薬理学的に許容される塩を実質的に含まないことが好ましい。
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。また、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。全ての試験は千葉大学動物実験委員会の許諾の下に実施した。
[実験例1]
(炎症性疾患モデルマウス)
炎症性疾患モデルマウスにR−ケタミン及びS−ケタミンを投与し、治療効果を検討した。炎症性疾患モデルマウスとして、デキストラン硫酸塩(DSS)を投与する潰瘍性大腸炎モデルマウスを使用した。
R−ケタミンとして、R−ケタミン塩酸塩を使用した。また、S−ケタミンとして、S−ケタミン塩酸塩を使用した。R−ケタミン塩酸塩及びS−ケタミン塩酸塩は、RS−ケタミン(Ketalar(登録商標)、ケタミン塩酸塩、第一三共株式会社)から、D−酒石酸又はL−酒石酸を使用して、米国特許第6040479号明細書に記載の方法で調製した。
各異性体の純度は、高速液体クロマトグラフィー(CHIRALPAK(登録商標)IA、株式会社ダイセル、カラムサイズ:250×4.6mm、移動相:n−ヘキサン/ジクロロメタン/ジエチルアミン(75/25/0.1)、S−ケタミンの保持時間=6.99分、R−ケタミンの保持時間=10.56分)により確認した。
その結果、調製したS−ケタミンの純度は99%以上であった。また、R−ケタミンの純度も99%以上であった。
潰瘍性大腸炎モデルマウスの作製及び薬剤の投与は、次のようにして行った。図1は、実験スケジュールを説明する模式図である。マウスとして、雄性のBALB/cCr Slcマウス(6週齢、日本SLC株式会社)を使用した。マウスには水及び飼料を自由に摂取させた。
マウスが7週齢になってから実験を開始した。実験開始に伴い、飲料水として3%DSSを添加した水道水を与えた。また、対照群として飲料水にDSSを含まない通常の水道水を与えた群を用意した。
3%DSSを添加した水道水を与えた群のマウスには、実験第1日目から、生理食塩水(10mL/kg体重)、S−ケタミン(10mg/kg体重)又はR−ケタミン(10mg/kg体重)を1日1回14日間腹腔内投与した。対照群のマウスには、実験第1日目から、生理食塩水(10mL/kg体重)を1日1回14日間腹腔内投与した。
続いて、実験開始から15日目に、各群のマウスを5%イソフルラン麻酔し、心臓から採血し、血漿を得た。血漿は、後述する炎症性サイトカイン測定まで−80℃の冷凍庫に保管した。また、採血終了後、各群のマウスをイソフルラン麻酔下で放血死により安楽死させた。
[実験例2]
(炎症性疾患モデルマウスの病態スコアの評価)
実験例1のスケジュールで飼育した各群のマウスにおいて、実験開始から7日目、10日目、12日目、14日目に病態スコアを算出した。病態スコアは、マウスに、生理食塩水、S−ケタミン又はR−ケタミンを投与する前に評価した。具体的には、体重減少量の評価スコア、糞の評価スコア、及び出血の評価スコアを以下の評価基準により求め、合計スコアを病態スコアとした。
《体重減少量の評価スコア》
生理食塩水、S−ケタミン又はR−ケタミンの投与前の体重を100%とし、各群のマウスの体重減少量を下記表1に記載の評価基準で評価した。
Figure 2019160057
《糞の評価スコア》
下記表2に記載の評価基準により、各群のマウスの糞を評価した。
Figure 2019160057
《出血の評価》
下記表3に記載の評価基準により、各群のマウスの出血を評価した。
Figure 2019160057
《病態スコア》
図2は、各群のマウスの病態スコアを示すグラフである。図2中、「対照」は、対照群のマウスの結果を示し、「DSS+生理食塩水」はDSS及び生理食塩水を投与した群のマウスの結果を示し、「DSS+S−ケタミン」はDSS及びS−ケタミンを投与した群のマウスの結果を示し、「DSS+R−ケタミン」はDSS及びR−ケタミンを投与した群のマウスの結果を示す。
図2中、データは、平均±標準誤差(n=8〜9マウス/群)で表す。統計分析は、一元配置分散分析(one−way ANOVA)及びそれに続いて最小有意差法検定(Fisher LSD test)を行うことにより実施した。図2中、「*」、「**」、「***」は、それぞれ、DSS及び生理食塩水を投与した群と比較して、「p<0.05」、「p<0.01」、「p<0.001」で有意差が認められたことを示す。
その結果、「DSS+生理食塩水」群のマウスでは、「対照」群のマウスと比較して、病態スコアの有意な悪化が認められた。また、「DSS+S−ケタミン」群において、病態スコアの改善傾向が認められたが有意ではなかった。一方、「DSS+R−ケタミン」群において、病態スコアの有意な改善が認められた。
[実験例3]
(炎症性疾患モデルマウスの大腸炎症スコアの評価)
実験例1において、実験開始から15日目に安楽死させた各群のマウスについて、大腸炎症スコアを評価した。
安楽死させた各群のマウスの盲腸から肛門までを摘出し、盲腸直下から肛門までの長さを測定した。続いて、大腸の内腔を生理食塩水で洗浄し、洗浄後縦走方向に切開し、以下の評価基準にしたがって、大腸炎症スコアを求めた。
Figure 2019160057
図3は、各群のマウスの大腸炎症スコアを示すグラフである。図3中、「対照」は、対照群のマウスの結果を示し、「DSS+生理食塩水」はDSS及び生理食塩水を投与した群のマウスの結果を示し、「DSS+S−ケタミン」はDSS及びS−ケタミンを投与した群のマウスの結果を示し、「DSS+R−ケタミン」はDSS及びR−ケタミンを投与した群のマウスの結果を示す。
データは、平均±標準誤差(n=8〜9マウス/群)で表す。統計分析は、一元配置分散分析(one−way ANOVA)及びそれに続いて最小有意差法検定(Fisher LSD test)を行うことにより実施した。図3中、「*」、「***」は、それぞれ、DSS及び生理食塩水を投与した群と比較して、「p<0.05」、「p<0.001」で有意差が認められたことを示す。また、「+++」は「DSS+S−ケタミン」群と比較して「p<0.001」で有意差が認められたことを示す。
その結果、「DSS+生理食塩水」群のマウスでは、「対照」群のマウスと比較して、大腸炎症スコアの有意な悪化が認められた。また、「DSS+R−ケタミン」群において、「DSS+S−ケタミン」群と比較して、大腸炎症スコアの有意な改善が認められた。
[実験例4]
(血液中の炎症性サイトカインの評価)
実験例1において、実験開始から15日目に各群のマウスから採取した血漿中の炎症性サイトカインを定量した。炎症性サイトカインとして、インターロイキン(IL)−6を定量した。IL−6の定量は、市販のキットを用いたELISA法により行った。
図4は、血液中のIL−6を定量した結果を示すグラフである。図4中、「対照」は、対照群のマウスの結果を示し、「DSS+生理食塩水」はDSS及び生理食塩水を投与した群のマウスの結果を示し、「DSS+S−ケタミン」はDSS及びS−ケタミンを投与した群のマウスの結果を示し、「DSS+R−ケタミン」はDSS及びR−ケタミンを投与した群のマウスの結果を示す。
データは、平均±標準誤差(n=8〜9マウス/群)で表す。統計分析は、一元配置分散分析(one−way ANOVA)及びそれに続いて最小有意差法検定(Fisher LSD test)を行うことにより実施した。図4中、「**」、「***」は、それぞれ、「DSS+生理食塩水」群と比較して、「p<0.01」、「p<0.001」で有意差が認められたことを示す。
その結果、「DSS+生理食塩水」群のマウスでは、「対照」群のマウスと比較して、血液中のIL−6濃度の有意な増加が認められた。また、「DSS+S−ケタミン」群及び「DSS+R−ケタミン」群においては、血液中IL−6濃度の有意な減少が認められた。さらに、R−ケタミン投与による血液中のIL−6の減少効果は、S−ケタミンを投与した場合よりも高いことが明らかとなった。
実験例1〜4の結果から、10mg/kg用量のR−ケタミンの腹腔内投与が、潰瘍性大腸炎の動物モデルであるDSS処置マウスにおいて、治療効果を示すことが明らかになった。これに対し、10mg/kg用量のS−ケタミンの腹腔内投与は、潰瘍性大腸炎の動物モデルにおいて治療効果の傾向を示したが、その効果はR−ケタミンよりも弱いことが明らかとなった。
ケタミンの両異性体の薬理動態は同じであることから、R−ケタミン及びS−ケタミンの治療効果の差は、これらの異性体の薬物動態の相違に起因するものではないと考えられた。
また、NMDA受容体への親和性はR−ケタミンよりもS−ケタミンの方が強い。このため、潰瘍性大腸炎の動物モデルであるDSS処置マウスにおけるR−ケタミンによる治療効果は、NMDA受容体遮断作用以外の機序によるものであると推測された。
[実験例5]
(社会的敗北ストレスモデルマウスの作製)
まず、既知の方法により、「社会的敗北ストレス」と呼ばれるストレスを与えたモデルマウスを作製した。具体的には、C57/B6雄性マウス(7週齢、日本SLC株式会社)及びICR雄性マウス(9週齢以上、日本SLC株式会社)を1匹ずつ10日間同居させた。各マウスには、水及び飼料を自由に摂取させた。ICRマウスはC57/B6マウスよりも体が大きく攻撃的であるため、これらのマウスを同居させるとC57/B6がストレスを受けることになる。
続いて、社会的敗北ストレスを与えたC57/B6マウスを社会的相互作用試験に供した。その結果、約3/4のマウスがうつ症状を示し、残りはうつ症状を示さなかった。続いて、社会的相互作用試験の結果、うつ症状を示したマウスを選び、尾懸垂試験(Tail Suspension Test、TST)、強制水泳試験(Forced Swimming Test、FST)、スクロース嗜好試験を行った。その結果、社会的相互作用試験でうつ症状を示したマウスは、TST、FST、スクロース嗜好試験の結果においてもうつ症状を示したことが確認された。
[実験例6]
(社会的敗北ストレスモデルマウスへのR−ケタミン投与の影響の検討)
実験例5で作製した、うつ症状を呈したマウス(以下、「社会的敗北ストレスマウス」という場合がある。)に、R−ケタミン及びS−ケタミンを投与し、その影響を検討した。R−ケタミンとして、R−ケタミン塩酸塩を使用した。また、S−ケタミンとして、S−ケタミン塩酸塩を使用した。R−ケタミン塩酸塩及びS−ケタミン塩酸塩は、実験例1と同様にして調製した。
社会的敗北ストレスマウスに、R−ケタミン(10mg/kg体重)、S−ケタミン(10mg/kg体重)又は生理食塩水(10mL/kg体重)を1回腹腔内投与した。また、対照マウスとして、「社会的敗北ストレス」を与えていないC57/B6雄性マウスを使用した。対照マウスには、生理食塩水(10mL/kg体重)を1回腹腔内投与した。
生理食塩水、R−ケタミン又はS−ケタミン投与4日後に、各マウスをイソフルランで吸入麻酔した。続いて、血液を採取し、直ちに遠心分離して血漿を得た。血漿は、測定まで−80℃の冷凍庫に保管した。
続いて、各血漿中の、オステオプロテゲリン(Osteoprotegerin、以下、「OPG」という。)、RANKL、オステオポンチン(osteopontin、以下、「OPN」という。)の濃度を、ELISAキット(R&Dシステムズ社)を使用してそれぞれ測定した。
図5(a)〜(e)は、測定結果を示すグラフである。図5(a)は、OPGの測定結果を示し、図5(b)は、RANKLの測定結果を示し、図5(c)は、図5(a)及び(b)の結果に基づいて算出したOPG/RANKL比を示し、図5(d)は、OPNの測定結果を示し、図5(e)は、図5(b)及び(d)の結果に基づいて算出したOPN/RANKL比を示す。図5(a)〜(e)中、データは平均±標準誤差(n=6マウス/群)で示し、「CSDSマウス」は社会的敗北ストレスでうつ症状を示したマウスを示し、「生理食塩水」は、生理食塩水を投与したマウスの結果であることを示し、「S−ケタミン」はS−ケタミンを投与したマウスの結果であることを示し、「R−ケタミン」はR−ケタミンを投与したマウスの結果であることを示す。
統計分析は、一元配置分散分析及びそれに続いて最小有意差検定を行うことにより実施した。図5(b)及び(c)中、「*」は生理食塩水を投与した社会的敗北ストレスマウス群と比較してp<0.05で有意差があることを示し、「**」は生理食塩水を投与した社会的敗北ストレスマウス群と比較してp<0.01で有意差があることを示す。また、図5(a)、(d)及び(e)中、「N.S.」は有意差がないことを示す。
その結果、図5(b)に示すように、社会的敗北ストレスマウスは、対照マウスと比較して、血漿中のRANKL濃度が有意に高いことが明らかとなった。また、社会的敗北ストレスマウスにR−ケタミンを投与すると、社会的敗北ストレスマウスの生理食塩水を投与した場合と比較して、血漿中のRANKL濃度が有意に低下したことが明らかとなった。
一方、社会的敗北ストレスマウスにS−ケタミンを投与しても、社会的敗北ストレスマウスに生理食塩水を投与した場合と比較して、血漿中のRANKL濃度の有意な変化は認められなかった。
上述したように、骨の恒常性は、破骨細胞による骨吸収、骨芽細胞による骨形成の微妙なバランスによって保たれている。OPG/RANKL比は、骨形成・骨吸収のバランスの指標として使用されているマーカーである。図5(c)に示すように、生理食塩水を投与した社会的敗北ストレスマウスのOPG/RANKL比は、対照マウスと比較して有意に低下したことが明らかとなった。OPG/RANKL比が低いことは骨破壊・吸収が骨形成よりも優位な傾向にあることを示す。
そして、社会的敗北ストレスマウスにR−ケタミンを投与すると、社会的敗北ストレスマウスに生理食塩水を投与した場合と比較して、OPG/RANKL比が有意に上昇したことが明らかとなった。一方、社会的敗北ストレスマウスにS−ケタミンを投与しても、社会的敗北ストレスマウスに生理食塩水を投与した場合と比較して、OPG/RANKL比の有意な変化は認められなかった。
なお、図5(d)及び(e)に示すように、血漿中のOPN濃度、OPN/RANKL比には、有意な差は認められなかった。
以上の結果から、R−ケタミンの投与により、RANKLの異常な高発現を正常値に戻すことができることが明らかとなった。この結果は、R−ケタミンが骨疾患の予防又は治療剤として有用であることを示す。これに対し、S−ケタミンにはこのような効果は認められなかった。
[実験例7]
(炎症性疾患モデルマウス)
炎症性疾患モデルマウスに、生理食塩水、潰瘍性大腸炎の標準薬である5−アミノサリチル酸(5−ASA)又はR−ケタミンをそれぞれ投与し、治療効果を検討した。炎症性疾患モデルマウスとして、実験例1と同様のデキストラン硫酸塩(DSS)を投与する潰瘍性大腸炎モデルマウスを使用した。R−ケタミンとしては、実験例1と同様にして調製したR−ケタミン塩酸塩を使用した。
潰瘍性大腸炎モデルマウスの作製及び薬剤の投与は、次のようにして行った。図6は、実験スケジュールを説明する模式図である。マウスとして、雄性のBALB/cCr Slcマウス(6週齢、日本SLC株式会社)を使用した。マウスには水及び飼料を自由に摂取させた。
マウスが7週齢になってから実験を開始した。実験開始に伴い、飲料水として3%DSSを添加した水道水を与えた。また、対照群として飲料水にDSSを含まない通常の水道水を与えた群を用意した。
3%DSSを添加した水道水を与えた群のマウスには、実験第1日目から、生理食塩水(10mL/kg体重)、5−ASA(50mg/kg体重)又はR−ケタミン(10mg/kg体重)を1日1回14日間腹腔内投与した。対照群のマウスには、実験第1日目から、生理食塩水(10mL/kg体重)を1日1回14日間腹腔内投与した。
続いて、実験開始から15日目に、各群のマウスを5%イソフルラン麻酔し、心臓から採血し、血漿を得た。血漿は、後述する炎症性サイトカイン測定まで−80℃の冷凍庫に保管した。また、採血終了後、各群のマウスをイソフルラン麻酔下で放血死により安楽死させた。
[実験例8]
(炎症性疾患モデルマウスの病態スコアの評価)
実験例7のスケジュールで飼育した各群のマウスにおいて、実験開始から7日目、10日目、12日目、14日目に病態スコアを算出した。病態スコアは、マウスに、生理食塩水、5−ASA又はR−ケタミンを投与する前に評価した。具体的には、体重減少量の評価スコア、糞の評価スコア、及び出血の評価スコアを実験例2と同様の評価基準により求め、合計スコアを病態スコアとした。
図7は、各群のマウスの病態スコアを示すグラフである。図2中、「Vehicle+Vehicle」は、対照群のマウスの結果を示し、「DSS+Vehicle」はDSS及び生理食塩水を投与した群のマウスの結果を示し、「DSS+5−ASA」はDSS及び5−ASAを投与した群のマウスの結果を示し、「DSS+R−ケタミン」はDSS及びR−ケタミンを投与した群のマウスの結果を示す。
図7中、データは、平均±標準誤差(n=8〜10マウス/群)で表す。統計分析は、一元配置分散分析(one−way ANOVA)及びそれに続いて最小有意差法検定(Fisher LSD test)を行うことにより実施した。図7中、「**」、「***」は、それぞれ、DSS及び生理食塩水を投与した群と比較して、「p<0.01」、「p<0.001」で有意差が認められたことを示す。
その結果、「DSS+生理食塩水」群のマウスでは、「対照」群のマウスと比較して、病態スコアの有意な悪化が認められた。また、「DSS+5−ASA」群において、病態スコアの改善傾向が認められたが有意ではなかった。一方、「DSS+R−ケタミン」群において、病態スコアの有意な改善が認められた。
[実験例9]
(炎症性疾患モデルマウスの大腸炎症スコアの評価)
実験例7において、実験開始から15日目に安楽死させた各群のマウスについて、大腸炎症スコアを評価した。
安楽死させた各群のマウスの盲腸から肛門までを摘出し、盲腸直下から肛門までの長さを測定した。続いて、大腸の内腔を生理食塩水で洗浄し、洗浄後縦走方向に切開し、実験例3と同様の評価基準にしたがって、大腸炎症スコアを求めた。
図8は、各群のマウスの大腸炎症スコアを示すグラフである。図8中、「Vehicle+Vehicle」は、対照群のマウスの結果を示し、「DSS+Vehicle」はDSS及び生理食塩水を投与した群のマウスの結果を示し、「DSS+5−ASA」はDSS及び5−ASAを投与した群のマウスの結果を示し、「DSS+R−ケタミン」はDSS及びR−ケタミンを投与した群のマウスの結果を示す。
データは、平均±標準誤差(n=8〜10マウス/群)で表す。統計分析は、一元配置分散分析(one−way ANOVA)及びそれに続いて最小有意差法検定(Fisher LSD test)を行うことにより実施した。図8中、「*」、「***」は、それぞれ、DSS及び生理食塩水を投与した群と比較して、「p<0.05」、「p<0.001」で有意差が認められたことを示す。
その結果、「DSS+生理食塩水」群のマウスでは、「対照」群のマウスと比較して、大腸炎症スコアの有意な悪化が認められた。また、「DSS+R−ケタミン」群において、「DSS+5−ASA」群と比較して、大腸炎症スコアの有意な改善が認められた。
[実験例10]
(血液中の炎症性サイトカインの評価)
実験例7において、実験開始から15日目に各群のマウスから採取した血漿中の炎症性サイトカインを定量した。炎症性サイトカインとして、IL−6を定量した。IL−6の定量は、市販のキットを用いたELISA法により行った。
図9は、血液中のIL−6を定量した結果を示すグラフである。図9中、「Vehicle+Vehicle」は、対照群のマウスの結果を示し、「DSS+Vehicle」はDSS及び生理食塩水を投与した群のマウスの結果を示し、「DSS+5−ASA」はDSS及び5−ASAを投与した群のマウスの結果を示し、「DSS+R−ケタミン」はDSS及びR−ケタミンを投与した群のマウスの結果を示す。
データは、平均±標準誤差(n=8〜10マウス/群)で表す。統計分析は、一元配置分散分析(one−way ANOVA)及びそれに続いて最小有意差法検定(Fisher LSD test)を行うことにより実施した。図9中、「*」、「**」は、それぞれ、「DSS+生理食塩水」群と比較して、「p<0.05」、「p<0.01」で有意差が認められたことを示す。
その結果、「DSS+生理食塩水」群のマウスでは、「対照」群のマウスと比較して、血液中のIL−6濃度の有意な増加が認められた。また、「DSS+5−ASA」群においては、血液中IL−6濃度の有意な減少が認められなかった。一方、「DSS+R−ケタミン」群において、血液中IL−6濃度の有意な減少が認められた。
実験例7〜10の結果から、10mg/kg用量のR−ケタミンの腹腔内投与が、潰瘍性大腸炎の動物モデルであるDSS処置マウスにおいて、有意な治療効果を示すことが明らかになった。これに対し、50mg/kg用量の5−ASAの腹腔内投与は、潰瘍性大腸炎の動物モデルにおいて治療効果が非常に弱かった。
[実験例11]
(社会的敗北ストレスモデルマウスへのR−ケタミン及びその代謝物の投与の影響の検討)
実験例5と同様にして作製した、うつ症状を呈したマウス(以下、「社会的敗北ストレスマウス」という場合がある。)に、R−ケタミン及びR−ケタミンの代謝物を投与し、その影響を検討した。R−ケタミンとして、実験例1と同様にして調製したR−ケタミン塩酸塩を使用した。また、R−ケタミンの代謝物として、R−ケタミンの最終代謝物である2R,6R−ヒドロキシノルケタミンの塩酸塩(2R,6R−HNK塩酸塩)を使用した。R−ケタミン塩酸塩及び2R,6R−HNK塩酸塩は、生理食塩水に溶解して使用した。
図10(a)は、実験スケジュールを説明する模式図である。社会的敗北ストレスを与え始めた日を1日目(D1)として12日目(D12)に、社会的敗北ストレスマウスに、R−ケタミン(10mg/kg体重)、2R,6R−HNK(10mg/kg体重)又は生理食塩水(10mL/kg体重)を1回腹腔内投与した。また、対照マウスとして、「社会的敗北ストレス」を与えていないC57/B6雄性マウスを使用した。対照マウスには、生理食塩水(10mL/kg体重)を1回腹腔内投与した。続いて、同12日目(D12)に運動量の測定(LMT)及び尾懸垂試験(TST)を行い、同13日目(D13)に強制水泳試験(FST)を行い、同14日目(D14)にスクロース嗜好試験(SPT)を行った。
生理食塩水、R−ケタミン又は2R,6R−HNK投与3日後(D15)に、各マウスをイソフルランで吸入麻酔した。続いて、血液を採取し、直ちに遠心分離して血漿を得た。血漿は、測定まで−80℃の冷凍庫に保管した。また、骨密度測定のために、大腿骨を採取した。
続いて、各血漿中の、オステオプロテゲリン(Osteoprotegerin、以下、「OPG」という。)、RANKL、オステオポンチン(osteopontin、以下、「OPN」という。)の濃度を、ELISAキット(R&Dシステムズ社)を使用してそれぞれ測定した。
また、大腿骨の骨密度を、実験動物用X線CT(日立アロカメデイカル株式会社、ラシータLCT−200)を用いて測定した。
図10(b)〜(e)は、行動評価の結果を示すグラフである。図10(b)は、運動量の測定結果である。図10(c)は、尾懸垂試験の測定結果である。図10(d)は、強制水泳試験の測定結果である。図10(e)は、スクロース嗜好試験の測定結果である。
図10(b)〜(e)中、データは平均±標準誤差(n=10マウス/群)で示し、「Control」は対照マウスの結果であることを示し、「Susceptible」は社会的敗北ストレスでうつ症状を示したマウスの結果であることを示し、「Vehicle」は生理食塩水を投与したマウスの結果であることを示し、「R−ケタミン」はR−ケタミンを投与したマウスの結果であることを示し、「R−HNK」は2R,6R−HNKを投与したマウスの結果であることを示す。また、「*」、「**」は、それぞれ、生理食塩水を投与した社会的敗北ストレスマウス群と比較して「p<0.05」、「p<0.01」で有意差があることを示す。また、「N.S.」は有意差がないことを示す。統計分析は、一元配置分散分析及びそれに続いて最小有意差検定を行うことにより実施した。
その結果、図10(c)〜(e)に示すように、社会的敗北ストレスマウスにR−ケタミンを投与すると、社会的敗北ストレスマウスに生理食塩水を投与した場合と比較して、有意に高い抗うつ効果を示すことが明らかとなった。一方、社会的敗北ストレスマウスに2R,6R−HNKを投与しても、抗うつ効果を示さないことが明らかとなった。
図11(a)〜(e)は、OPG、RANKL、OPNの測定結果を示すグラフである。図11(a)はOPGの測定結果を示し、図11(b)はRANKLの測定結果を示し、図11(c)は図11(a)及び(b)の結果に基づいて算出したOPG/RANKL比を示し、図11(d)は、OPNの測定結果を示し、図11(e)は図11(b)及び(d)の結果に基づいて算出したOPN/RANKL比を示す。
図11(a)〜(e)中、データは平均±標準誤差(n=10マウス/群)で示し、「Control」は対照マウスの結果であることを示し、「Susceptible」は社会的敗北ストレスでうつ症状を示したマウスの結果であることを示し、「Vehicle」は生理食塩水を投与したマウスの結果であることを示し、「R−ケタミン」はR−ケタミンを投与したマウスの結果であることを示し、「R−HNK」は2R,6R−HNKを投与したマウスの結果であることを示す。また、「*」、「***」は、それぞれ、生理食塩水を投与した社会的敗北ストレスマウス群と比較して「p<0.05」、「p<0.001」で有意差があることを示す。また、「N.S.」は有意差がないことを示す。統計分析は、一元配置分散分析及びそれに続いて最小有意差検定を行うことにより実施した。
その結果、図11(b)に示すように、社会的敗北ストレスマウスは、対照マウスと比較して、血漿中のRANKL濃度が有意に高いことが明らかとなった。また、社会的敗北ストレスマウスにR−ケタミンを投与すると、社会的敗北ストレスマウスに生理食塩水を投与した場合と比較して、血漿中のRANKL濃度が有意に低下したことが明らかとなった。一方、社会的敗北ストレスマウスに2R,6R−HNKを投与しても、社会的敗北ストレスマウスに生理食塩水を投与した場合と比較して、血漿中のRANKL濃度の有意な変化は認められなかった。図11(c)に示すように、社会的敗北ストレスマウスにおけるOPG/RANKL比はR−ケタミン投与で有意に増加したが、2R,6R−HNK投与では有意な変化は認められなかった。なお、図11(d)及び(e)に示すように、血漿中のOPN濃度、OPN/RANKL比には、有意な変化は認められなかった。
上述したように、骨の恒常性は、破骨細胞による骨吸収、骨芽細胞による骨形成の微妙なバランスによって保たれている。OPG/RANKL比は、骨形成・骨吸収のバランスの指標として使用されているマーカーである。図11(c)に示すように、生理食塩水を投与した社会的敗北ストレスマウスのOPG/RANKL比は、対照マウスと比較して有意に低下したことが明らかとなった。OPG/RANKL比が低いことは骨破壊・吸収が骨形成よりも優位な傾向にあることを示す。
そして、社会的敗北ストレスマウスにR−ケタミンを投与すると、社会的敗北ストレスマウスに生理食塩水を投与した場合と比較して、OPG/RANKL比が有意に上昇したことが明らかとなった。一方、社会的敗北ストレスマウスにR−ケタミンの代謝物である2R,6R−HNKを投与しても、社会的敗北ストレスマウスに生理食塩水を投与した場合と比較して、OPG/RANKL比の有意な変化は認められなかった。
以上の結果から、R−ケタミンの投与により、RANKLの異常な高発現を正常値に戻すことができることが明らかとなった。一方、R−ケタミンの代謝物である2R,6R−HNKには治療効果は認められなかった。この結果は、R−ケタミンが骨疾患の予防又は治療薬として有用であることを示し、代謝物ではなくR−ケタミン自体の作用だと考えられた。
図12(a)〜(d)は、骨密度の測定結果を示すグラフである。図12(a)は皮質骨密度の結果を示すグラフであり、図12(b)は海綿骨密度の結果を示すグラフであり、図12(c)は全骨密度の結果を示すグラフであり、図12(d)は平面骨密度の結果を示すグラフである。
その結果、図12(a)及び(c)に示すように、社会的敗北ストレスマウスの皮質骨密度及び全骨密度は、対照マウスと比較して、有意に低いことが明らかとなった。また、社会的敗北ストレスマウスにR−ケタミンを投与すると、社会的敗北ストレスマウスに生理食塩水を投与した場合と比較して、皮質骨密度及び全骨密度が有意に増加することが明らかとなった。
一方、社会的敗北ストレスマウスに2R,6R−HNKを投与しても、社会的敗北ストレスマウスに生理食塩水を投与した場合と比較して、皮質骨密度及び全骨密度の有意な変化は認められなかった。また、図12(b)及び(d)に示すように、海綿骨密度及び平面骨密度は、4群で差が認められなかった。
[実験例12]
(骨粗鬆症モデル動物へのR−ケタミンの投与の検討1)
多くの研究から、骨粗鬆症患者の血液では、RANKLの濃度が高いことが報告されており、ヒト型抗RANKLモノクローナル抗体製剤(デノスマブ)が治療薬として使用されている。本実験例では、骨粗鬆症のモデル動物として、sRANKLを投与したマウスを使用し、R−ケタミンの効果を検討した。
sRANKL(可溶性RANKL、オリエンタル酵母株式会社、東京、日本)を10週齢の雌性ddYマウス(日本SLC社、浜松、日本)に腹腔内投与することにより、骨量減少症モデルを作製し、R−ケタミンの効果を検討した。なお、sRANKLは、soluble RANKLの略である。R−ケタミンとして、実験例1と同様にして調製したR−ケタミン塩酸塩を使用し、生理食塩水に溶解して使用した。また、対照マウスとして、sRANKLの代わりに生理食塩水を投与したマウスを使用した。
R−ケタミン(10mg/kg)は、sRANKL(1mg/kg)投与30分前と、24時間後、48時間後に腹腔内投与した。最終投与24時間後に、各マウスをイソフルランで吸入麻酔した。続いて、骨密度測定のために、大腿骨を採取した。大腿骨の骨密度は、実験動物用X線CT(日立アロカメヂカル株式会社、ラシータLCT−200)を用いて測定した。統計分析は、一元配置分散分析及びそれに続いて最小有意差検定を行うことにより実施した。
図13(a)〜(c)は、骨密度の測定結果を示すグラフである。図13(a)は皮質骨密度の結果を示すグラフであり、図13(b)は海綿骨密度の結果を示すグラフであり、図13(c)は全骨密度の結果を示すグラフである。図13(a)〜(c)中、「Saline」は生理食塩水を投与したマウスの結果であることを示し、「sRNAKL」はsRANKLを投与したマウスの結果であることを示し、「R−ケタミン」はR−ケタミンを投与したマウスの結果であることを示す。また、「*」、「**」は、それぞれ、sRNAKL及び生理食塩水を投与したマウスと比較して、「p<0.05」、「p<0.01」で有意差が認められたことを示す。
その結果、図13(a)及び(c)に示すように、sRANKLを投与したマウスの皮質骨密度及び全骨密度は、対照マウスと比較して、有意に低いことが明らかとなった。また、sRANKLを投与したマウスにR−ケタミンを投与すると、生理食塩水を投与した場合と比較して、皮質骨密度及び全骨密度が有意に増加することが明らかとなった。また、図13(b)に示すように、sRANKLを投与したマウスの海綿骨密度は、R−ケタミンを投与すると有意に増加した。
以上の結果から、R−ケタミンの投与により、sRANKLを投与したマウス大腿骨の骨密度の低下を改善することができることが明らかとなった。この結果は、R−ケタミンが骨疾患の予防又は治療薬として有用であることを示す。
[実験例13]
(骨粗鬆症モデル動物へのR−ケタミンの投与の検討2)
骨粗鬆症のモデル動物として、卵巣摘出を施行したマウスを使用し、R−ケタミンの効果を検討した。
8週齢の雌性ddYマウス(日本SLC社、浜松、日本)をイソフルランで吸入麻酔した後、偽手術又は卵巣摘出手術を施行した(水曜日)。翌日(木曜日)、生理食塩水(10mL/kg)又はR−ケタミン(10mg/kg)を腹腔内投与した。その後、月曜日と木曜日に生理食塩水又はR−ケタミンの投与を繰り返し、手術施行6週間後に、各マウスをイソフルランで吸入麻酔した。続いて、骨密度測定のために、大腿骨を採取した。
大腿骨の骨密度は、実験動物用X線CT(日立アロカメヂカル株式会社、ラシータLCT−200)を用いて測定した。統計分析は、一元配置分散分析及びそれに続いて最小有意差検定を行うことにより実施した。
図14(a)〜(d)は、骨密度の測定結果を示すグラフである。図14(a)は皮質骨密度の結果を示すグラフであり、図14(b)は海綿骨密度の結果を示すグラフであり、図14(c)は全骨密度の結果を示すグラフであり、図14(d)は平面骨密度の結果を示すグラフである。
図14(a)〜(d)中、「Saline」は生理食塩水を投与したマウスの結果であることを示し、「R−ケタミン」はR−ケタミンを投与したマウスの結果であることを示す。また、「*」、「**」は、それぞれ、卵巣摘出手術を施行し生理食塩水を投与したマウスと比較して、「p<0.05」、「p<0.01」で有意差が認められたことを示す。
その結果、図14(a)及び(c)に示すように、卵巣摘出したマウスの皮質骨密度、海綿骨密度、全骨密度及び平面骨密度は、偽手術マウスと比較して、有意に低いことが明らかとなった。また、卵巣摘出したマウスにR−ケタミンを投与すると、生理食塩水を投与した場合と比較して、皮質骨密度及び全骨密度が有意に増加することが明らかとなった。また、図14(b)及び(d)に示すように、卵巣摘出したマウスの海綿骨密度及び平面骨密度は、R−ケタミンを投与すると増加傾向を示したが、統計学的に有意では無かった。
以上の結果から、R−ケタミンの投与により、卵巣摘出したマウス大腿骨の骨密度の低下を改善することができることが明らかとなった。この結果は、R−ケタミンが骨疾患の予防又は治療薬として有用であることを更に支持するものである。
本発明によれば、炎症性疾患若しくは骨疾患の予防又は治療剤及び医薬組成物を提供することができる。

Claims (6)

  1. 下記式(1)で表される化合物又はその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する、炎症性疾患若しくは骨疾患の予防又は治療剤。
    Figure 2019160057
    [式(1)中、Xは、水素原子、ハロゲン原子又は置換されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基を表し、Rは、置換されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基、置換されていてもよい炭素数1〜10のアルケニル基又は置換されていてもよい炭素数6〜14のアリール基を表し、1以上の水素原子は重水素原子に置換されていてもよい。]
  2. 下記式(2)で表される化合物又はその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する、請求項1に記載の炎症性疾患若しくは骨疾患の予防又は治療剤。
    Figure 2019160057
    [式(2)中、1以上の水素原子は重水素原子に置換されていてもよい。]
  3. 前記炎症性疾患が、潰瘍性大腸炎、クローン病、関節リウマチ、強直性脊椎炎、インスリン依存性糖尿病、アジソン病、グッドパスチャー症候群、IgA腎症、間質性腎炎、シェーグレン症候群、自己免疫性膵炎、乾癬、アトピー性皮膚炎、肺炎、慢性気管支炎、気管支喘息、全身性紅斑性狼瘡(SLE)、強皮症又はせん妄であり、前記骨疾患が、骨粗鬆症、溶骨性骨転移又は骨パジェット病である、請求項1又は2に記載の炎症性疾患若しくは骨疾患の予防又は治療剤。
  4. 下記式(3)で表される化合物及びその薬理学的に許容される塩を実質的に含まない、請求項1〜3のいずれか一項に記載の炎症性疾患若しくは骨疾患の予防又は治療剤。
    Figure 2019160057
    [式(3)中、Xは、水素原子、ハロゲン原子又は置換されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基を表し、Rは、置換されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基、置換されていてもよい炭素数1〜10のアルケニル基又は置換されていてもよい炭素数6〜14のアリール基を表す。]
  5. 下記式(4)で表される化合物及びその薬理学的に許容される塩を実質的に含まない、請求項4に記載の炎症性疾患若しくは骨疾患の予防又は治療剤。
    Figure 2019160057
  6. 請求項1〜5のいずれか一項に記載の炎症性疾患若しくは骨疾患の予防又は治療剤と、薬理学的に許容される担体とを含有する、炎症性疾患若しくは骨疾患の予防又は治療用医薬組成物。
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