JPWO2019155969A1 - 夾雑活性が低減したヌクレオシダーゼ剤 - Google Patents

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Abstract

特にビール又はビール系飲料中のプリン体低減に有用な酵素剤及びその用途を提供することを課題とする。ヌクレオシダーゼ活性当たりのグアニンデアミナーゼ活性である活性比(U/U)が0.4以下であることを特徴とする、ヌクレオシダーゼ剤が提供される。

Description

本発明は新規ヌクレオシダーゼ剤に関する。詳しくは、ビール又はビール系飲料中のプリン体の低減に有用なヌクレオシダーゼ剤に関する。本出願は、2018年2月9日に出願された日本国特許出願第2018−022542号に基づく優先権を主張するものであり、当該特許出願の全内容は参照により援用される。
食生活の欧米化やアルコール摂取量の増加により、高尿酸血症及びそれを基盤とした痛風の有病率は上昇傾向にある。これらの疾患の原因の一つとして食品又は飲料中のプリン体が問題視されている。例えば、レバー類、白子又は魚卵、一部の魚介類などはプリン体を多く含有する。また、アルコール飲料、特に醸造酒(ビール、ワイン等)にもプリン体が比較的多く含まれる。アルコール飲料は日常的に摂取されることが多いことから、高尿酸血症及び痛風のリスク要因として重要と考えられる。例えば、ビールや発泡酒などのビール系飲料には、一般に、原料(麦芽等)由来のプリン体が100mL中に3〜8mg程度含まれており、プリン体含有量の低減したビール/ビール系飲料(低プリン体ビール/ビール系飲料)の提供が切望されている。
これまでにも、ビール中のプリン体を低減させることが試みられている。例えば、特許文献1に記載された方法では、製造工程において、麦汁に酵素(プリンヌクレオシド・フォスフォリラーゼ又はヌクレオシダーゼ)を作用させることにより、麦汁中のプリンヌクレオシドをリボースと遊離プリン塩基に分解する。遊離プリン塩基は発酵中に酵母によって資化される。その結果、ビール製品中のプリン体(遊離プリン塩基、ヌクレオチド、ヌクレオシド)の量が低減する。特許文献2にも、ビール中のプリン体低減に有用なヌクレオシダーゼが報告されている。また、吸着剤の使用によってプリン体を除去する方法も提案されている(特許文献3)。特許文献4も、ビール中のプリン体低減にヌクレオシダーゼを利用可能なことに言及するとともに、様々な微生物がヌクレオシド分解活性を有することを開示する。微生物由来のヌクレオシダーゼの一例が特許文献5に開示されている。尚、ビールの製造において酵母発酵のプリン体代謝経路の末端物質がキサンチンであり、酵母発酵によってキサンチンが増加することが知られている(特許文献6)。
特許第3824326号公報 特許第3824353号公報 特開2004−113189号公報 国際公開第96/025483号パンフレット 特開平10−57063号公報 特開2012−125205号公報
以上のように、ビール中のプリン体を除去するための各種技術が報告されているものの、実用化された例はなく、低プリン体ビールを製造する技術に対するニーズは依然として高い。また、発泡酒などのビール系飲料については、麦芽使用率を低減させることや麦芽以外の原料を使用することによってプリン体含有量を少なくすることが可能ではあるが、使用する原料が制約されることから、根本的な解決策とはいえない。そこで本発明は、特にビール又はビール系飲料中のプリン体低減に有用な酵素剤及びその用途を提供することを課題とする。
上記課題の下で本発明者らは、低プリン体ビール/ビール系飲料の製造に有用な酵素剤を開発すべく検討を重ねた。プリン体には製造過程で酵母が資化できるもの(資化性プリン体)と資化できないもの(非資化性プリン体)が存在する。ヌクレオシダーゼを利用すればビール/ビール系飲料中のプリン体を低減することができるが、非資化性プリン体を除去できない場合や夾雑酵素活性によって非資化性プリン体が生成してしまう場合には、最終製品(ビール)にプリン体が残存することになる。この問題に対処するためには、ビール/ビール系飲料の製造過程において非資化性プリン体の一つであるキサンチンの生成を抑制することが有効であるとの着想の下、検討を進めた。その結果、グアニンからキサンチンを生成する脱アミド反応を触媒するグアニンデアミナーゼ活性の低いヌクレオシダーゼ剤を得ることに成功した。この新規ヌクレオシダーゼ剤の効果を評価したところ、非資化性プリン体の低減(換言すれば、資化性プリン体の増大)に有用であることが確認された。また、低プリン体製品として望ましいビール/ビール系飲料を製造することに要求される、ヌクレオシダーゼ剤の特性(ヌクレオシダーゼ活性当たりのグアニンデアミナーゼ活性のレベル)を特定することにも成功した。
以上のように、鋭意検討の末、低プリン体ビール/ビール系飲料の製造に極めて有用な新規ヌクレオシダーゼ剤の取得に成功した。この成果に基づき、以下の発明を提供する。
[1]ヌクレオシダーゼ活性当たりのグアニンデアミナーゼ活性である活性比(U/U)が0.4以下であることを特徴とする、ヌクレオシダーゼ剤。
[2]前記活性比が0.36以下である、[1]に記載のヌクレオシダーゼ剤。
[3]含有するヌクレオシダーゼが、配列番号1若しくは配列番号21のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列と85%以上同一のアミノ酸配列、或いは配列番号2若しくは配列番号22のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列と88%以上同一のアミノ酸配列、を含む、[1]又は[2]に記載のヌクレオシダーゼ剤。
[4]前記ヌクレオシダーゼのアミノ酸配列が、配列番号1若しくは配列番号21のアミノ酸配列又は配列番号2若しくは配列番号22のアミノ酸配列と90%以上同一のアミノ酸配列である、[3]に記載のヌクレオシダーゼ剤。
[5]含有するヌクレオシダーゼが下記の酵素学的性質を有する、[1]又は[2]に記載のヌクレオシダーゼ剤、
(1)作用:プリンヌクレオシドをD-リボースとプリン塩基に加水分解する反応を触媒し、アデノシン、アデニン、イノシン、ヒポキサンチン、グアノシン、グアニン及びキサンチンの存在下でも活性を示す、
(2)分子量:N型糖鎖を含まない場合の分子量が約49 kDa(SDS-PAGEによる)、
(3)至適温度:55℃〜60℃、
(4)温度安定性:55℃以下で安定(pH6.0、30分間)。
[6]含有するヌクレオシダーゼが下記の酵素学的性質を更に有する、[5]に記載のヌクレオシダーゼ剤、
(5)至適pH:3.5、
(6)pH安定性:pH3.5〜7.5の範囲で安定(30℃、30分間)。
[7]含有するヌクレオシダーゼが下記の酵素学的性質を有する、[1]又は[2]に記載のヌクレオシダーゼ剤、
(1)作用:プリンヌクレオシドをD-リボースとプリン塩基に加水分解する反応を触媒し、アデノシン、アデニン、イノシン、ヒポキサンチン、グアノシン、グアニン及びキサンチンの存在下でも活性を示す、
(2)分子量:N型糖鎖を含まない場合の分子量が約40 kDa(SDS-PAGEによる)、
(3)至適温度:50℃〜55℃、
(4)温度安定性:65℃以下で安定(pH4.5、60分間)。
[8]含有するヌクレオシダーゼが下記の酵素学的性質を更に有する、[7]に記載のヌクレオシダーゼ剤、
(5)至適pH:4.5、
(6)pH安定性:pH3.5〜7.5の範囲で安定(30℃、30分間)。
[9]前記ヌクレオシダーゼがペニシリウム・マルチカラー由来である、[3]〜[8]のいずれか一項に記載のヌクレオシダーゼ剤。
[10]前記ペニシリウム・マルチカラーがIFO 7569株又はその変異株である、[9]に記載のヌクレオシダーゼ剤。
マッシング(仕込)試験の反応工程。 麦汁中のプリン体量の比較。マッシング後の麦汁中の各プリン体量を高速液体クロマトグラフィーで分析した。 ペニシリウム・マルチカラーIFO 7569株由来のヌクレオシダーゼの作用温度域。7種類のプリン体存在下、各温度条件で酵素反応を行い、遊離プリン塩基比率を求めた。 ペニシリウム・マルチカラーIFO 7569株由来のヌクレオシダーゼの作用pH域。7種類のプリン体存在下、各pH条件で酵素反応を行い、遊離プリン塩基比率を求めた。 ペニシリウム・マルチカラーIFO 7569株からのヌクレオシダーゼの精製。DEAE HPカラムクロマトグラフィーの結果を示す。 各精製酵素(ピーク1〜3)の分子量の測定結果(SDS-PAGE)。左はピーク1、2の結果。右はピーク3の結果。PNGase F処理後のサンプル(「糖鎖なし」のレーン)と無処理のサンプル(「糖鎖あり」のレーン)を電気泳動し、CBB染色した。左端のレーンは分子量マーカー(ミオシン(200 kDa)、β-ガラクトシダーゼ(116.3 kDa)、ホスホリラーゼB(97.4 kDa)、BSA(66.3 kDa)、グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(55.4 kDa)、乳酸デヒドロゲナーゼ(36.5 kDa)、炭酸脱水素酵素(31.0 kDa)、トリプシンインヒビター(21.5 kDa)、リゾチーム(14.4 kDa)、アプロチニン(6.0 kDa)、インスリンB鎖(3.5 kDa)、インスリンA鎖(2.5 kDa))。 各精製酵素(ピーク1〜3)の分子量。N末端アミノ酸分析の結果も示した。 遺伝子クローニングに使用したプローブの配列。上段:PN1用(配列番号18)、下段:PN2用(配列番号19)。 遺伝子クローニングの結果。ピーク3の酵素(PN1)をコードするゲノム配列(上段。配列番号4)とピーク1、2の酵素(PN2)をコードするゲノム配列(下段。配列番号6)を示す。 遺伝子クローニングの結果。ピーク3の酵素(PN1)をコードするcDNA配列(上段。配列番号3)とピーク1、2の酵素(PN2)をコードするcDNA配列(下段。配列番号5)を示す。 遺伝子クローニングの結果。ピーク3の酵素(PN1)のアミノ酸配列(上段。配列番号1)とピーク1、2の酵素(PN2)のアミノ酸配列(下段。配列番号2)を示す。 遺伝子クローニングの結果。cDNA塩基数、イントロン数、アミノ酸長、分子量及び推定pIをピーク3の酵素(PN1)とピーク1、2の酵素(PN2)の間で比較した。 精製酵素(PN1)の至適温度。 精製酵素(PN1)の温度安定性。 精製酵素(PN1)の至適pH。 精製酵素(PN1)のpH安定性。 組換え生産した酵素(PN2)の電気泳動の結果。 精製酵素(PN2)の至適温度。 精製酵素(PN2)の温度安定性。 精製酵素(PN2)の至適pH。 精製酵素(PN2)のpH安定性。 組換え生産した酵素(PN2)を用いたマッシング(仕込)試験の結果。 マッシング(仕込)試験の反応工程。 麦汁中のプリン体量の比較。pH4.5〜5.5でマッシング試験を行った。マッシング後の麦汁中の各プリン体量を高速液体クロマトグラフィーで分析した。 ヌクレオシダーゼ活性当たりのグアニンデアミナーゼ活性と、麦汁中の資化性プリン構成比の関係。
1.ヌクレオシダーゼ剤
本発明は低プリン体ビール又はビール系飲料の製造に有用なヌクレオシダーゼ剤に関する。「ビール系飲料」とは、ビール風味の飲料であり、本発明においては、原料の一部に麦芽を使用した発酵飲料であることが好ましく、より好ましくは発酵工程前に麦芽から麦汁を製造する工程を含む方法にて製造された発酵飲料である。
本発明のヌクレオシダーゼ剤の主たる用途は低プリン体ビール又はビール系飲料の製造であるが、他の用途にも本発明のヌクレオシダーゼ剤を適用可能である。例えば、ビール又はビール系飲料以外の食品又は飲料中のプリン体を低減する目的に本発明のヌクレオシダーゼ剤を用いることにしてもよい。本発明のヌクレオシダーゼ剤を食品又は飲料の製造過程で使用すると、原料由来のプリンヌクレオシドを遊離プリン塩基に変換することができる。遊離プリン塩基がその後の製造過程において除去されれば、プリン体含有量が低減した食品・飲料が得られる。従って、製造過程において遊離プリン塩基が除去され得る食品又は飲料の製造に対して本発明のヌクレオシダーゼ剤を適用可能である。該当する食品・飲料の例は、遊離プリン塩基を資化可能な微生物による発酵を利用した食品及び飲料、即ち発酵食品及び発酵飲料である。具体的には、各種漬物、味噌、醤油、ヨーグルト、発酵乳、乳酸菌飲料、紹興酒、ワイン等が挙げられる。これらの食品や飲料の製造への本発明の適用に際しては、例えば、本発明のヌクレオシダーゼ剤を発酵前又は発酵中の原料に添加して作用させ、原料中のプリンヌクレオシドをD-リボースとプリン塩基に分解する。生成したプリン塩基は典型的には発酵中に微生物によって資化される。その結果、プリン体の総量が低減した食品又は飲料が得られる。
本発明のヌクレオシダーゼ剤は、ヌクレオシダーゼ活性当たりのグアニンデアミナーゼ活性である活性比(U/U)が0.4以下であることによって特徴付けられる。即ち、主成分であるヌクレオシダーゼの活性に対する夾雑グアニンデアミナーゼ活性が少ない。
本発明のヌクレオシダーゼ剤を用いて低プリン体のビールを製造する場合、典型的には、麦汁に発明のヌクレオシダーゼ剤を添加し、麦汁中のプリンヌクレオシドをD-リボースとプリン塩基に分解することになる。ビールの発酵に使用する酵母は通常、プリンヌクレオシドを資化できないが、遊離プリン塩基のうち、グアニン及びアデニンを資化することが知られている。従って、本発明のヌクレオシダーゼ剤の作用によって麦汁中のプリンヌクレオシドを遊離プリン塩基に変換すれば、発酵工程中で酵母が遊離プリン塩基を資化し、プリン体の総量が低減したビールが得られる(ビール系飲料の製造の場合もこれに準ずる)。
ヌクレオシダーゼ剤に夾雑するグアニンデアミナーゼは、資化性プリンのグアニンを、非資化性プリンであるキサンチンに変換する反応を触媒する酵素である。夾雑グアニンデアミナーゼ活性が高いと、ヌクレオシダーゼ剤を作用させたときに非資化性プリン(キサンチン)の生成量が多くなり、最終製品(ビール)中の残存プリン体量が増大する。従って、低プリン体のビールを得るためには、夾雑グアニンデアミナーゼ活性の少ないヌクレオシダーゼ剤を使用し、麦汁中の資化性プリン構成比(資化性プリンと非資化性プリンの比率)を高めることが望まれる。資化性プリン構成比はヌクレオシダーゼ剤の主成分であるプリンヌクレオシダーゼによる資化性プリンの生成と夾雑グアニンデアミナーゼによる非資化性プリン(キサンチン)の生成に依存する。換言すれば、ヌクレオシダーゼ活性当たりのグアニンデアミナーゼ活性(活性比)は資化性プリン構成比の決定因子となる。最終製品(ビール)中の残存プリン量を考慮すると、酵素反応後の麦汁中の資化性プリン構成比は90%以上であることが望まれる。好ましくは資化性プリン構成比を91%以上、より好ましくは92%以上、より一層好ましくは93%以上、更に好ましくは94%以上、最も好ましくは95%以上にすることが望まれる。後述の実施例に示した実験結果から、ヌクレオシダーゼ活性当たりのグアニンデアミナーゼ活性と資化性プリン構成比の関係は図25のように表され、資化性プリン体構成比を90%以上にするためには、ヌクレオシダーゼ活性当たりのグアニンデアミナーゼ活性が0.4(U/U)以下である必要がある。そこで本発明のヌクレオシダーゼ剤は、その目的を達成するため、「ヌクレオシダーゼ活性当たりのグアニンデアミナーゼ活性である活性比(U/U)が0.4(U/U)以下」という特性で特徴づけられる。資化性プリン構成比を一層高めるため、ヌクレオシダーゼ活性当たりのグアニンデアミナーゼ活性は好ましくは0.36(U/U)以下であり、更に好ましくは0.3(U/U)以下であり、更に更に好ましくは0.2(U/U)以下であり、より一層好ましくは0.1(U/U)以下である。
本発明のヌクレオシダーゼ剤の主成分であるヌクレオシダーゼは、ヌクレオシダーゼを産生する微生物(ヌクレオシダーゼ産生株)を培養することにより得ることができる。オクロバクトラム(Ochrobactrum)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属、ペディオコッカス(Pediococcus)属、ロイコノストック(Leuconostoc)属、ラクトバシルス(Lactobacillus)属、エシェリヒア(Escherichia)属、シトロバクター(Citrobacter)属、セラチア(Serratia)属、アルカリゲネス(Alcaligenes)属、フラボバクテリウム(Flavobacterium)属、バシルス(Bacillus)属、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、スタフィロコッカス(Staphylococcus)属、アースロバクター(Arthrobacter)属、コマモナス(Comamonas)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、クルイベロミセス(Kluyveromyces)属、サッカロミセス(Saccharomyces)属、デバリオミセス(Debaryomyces)属、ピヒア(Pichia)属、ハンゼヌラ(Hansenula)属、スポロボロミセス(Sporobolomyces)属、スポリディオボルス(Sporidiobolus)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、ペニシリウム(Penicillium)属などの微生物をヌクレオシダーゼ産生株として採用し得る。ヌクレオシダーゼ産生株は野生株であっても変異株(例えば紫外線照射によって変異株が得られる)であってもよい。ヌクレオシダーゼ産生株の具体例を挙げると、オクロバクトラム・アンスロピ(Ochrobactrum anthropi)(FERM BP-5377)、ストレプトコッカス・シトロボラム(Streptococcus citrovorum)、ペディオコッカス・ペントサセウス(Pediococcus pentosaceus)(IFO 3182)、ロイコノストック・デキストラニカム(Leuconostoc dextranicum)、ラクトバシルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)(ラクトバシルス・アラビノサス(Lactobacillus arabinosus))(IFO 3070)、ラクトバシルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)(ラクトバシルス・ククメリス(Lactobacillus cucumeris))(IFO 3074)、エシェリヒア・コリBビオチンレス(Escherichiacoli B biotin less)、シトロバクター・フロインディー(Citrobacter freundii)(IFO 13546)、セラチア・マルセセンス(Serratia marcescens)(IFO 3736)、アルカリゲネス・フェカリス(Alcaligenes faecalis)、フラボバクテリウム・メニンゴセプティカム(Flavobacterium meningosepticum)(DSM2800)、バシルス・セレウス(Bacillus cereus)、コリネバクテリウム・グルタミクム(Corynebacterium glutamicum)(ATCC13060)、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)(IFO 3060)、アースロバクター・ウレアファシエンス(Arthrobacter ureafaciens)(アースロバクター・グロビホルミス(Arthrobacter globiformis))(IFO 12140)、コマモナス・テストステロニ(Comamonas testosteroni)(シュードモナス・ダカンハエ(Pseudomonas dacunhae))(IFO 12048)、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)、バシルス・アニュリノリティカス(Bacillus aneurinolyticus)、バシルス・チュリンジエンシス(Bacillus thuringiensis)(IFO 3951)、クルイベロミセス・マルキシアヌス(Kluyveromyces marxianus)(サッカロミセス・マキシアヌス(Saccharomyces maxianus))(IFO 0277)、デバリオミセス・シュードポリモルファス(Debaryomyces pseudopolymorphus)(ピヒア・シュードポリモルファ(Pichia pseudopolymorpha))(IFO 1026)、ピヒア・カプスラタ(Pichia capsulata)(ハンゼヌラ・カプスラタ(Hansenula capsulata))(IFO 0721)、スポロボロミセス・サルモニカラー(Sporobolomyces salmonicolor)(IFO 1038)、スポリディオボラス・サルモニカラー(Sporidiobulus salmonicolor)(スポロボロミセス・オドルス(Sporobolomyces odorus))(IFO 1035)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)(IFO 4416)、ペニシリウム・スピヌロスム(Penicillium spinulosum)(IAM 7047)、アスペルギルス・アワモリ(Aspergillus awamori)(IFO 4033)、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)(IAM 2630)、アスペルギルス・フラバス(Aspergillus flavus)(IFO 5839)、アスペルギルス・テレウス(Aspergillus terreus)(IFO 5445)、アスペルギルス・ソヤ(Aspergillus sojae)(IFO 4386)、アスペルギルス・パラシティクス(Aspergillus parasiticus)(IFO 4082)、ペニシリウム・sp(Penicillium sp.)である。尚、ヌクレオシダーゼ産生株から取得したヌクレオシダーゼ遺伝子(又は当該遺伝子を改変した遺伝子)を導入した宿主微生物をヌクレオシダーゼ産生株として用いることもできる。
産生株から取得したヌクレオシダーゼの夾雑グアニンデアミナーゼ活性が高い場合には、例えば、各種クロマトグラフィー(イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等)、熱処理、pH処理、塩析等などを適宜組み合わせて精製し、夾雑グアニンデアミナーゼ活性を必要なレベルまで低下させればよい。尚、産生株に対して変異処理(紫外線、X線、γ線などの照射、亜硝酸、ヒドロキルアミン、N-メチル-N'-ニトロ-N-ニトロソグアニジンなどによる処理等)を施すことにより、ヌクレオシダーゼ活性当たりの夾雑グアニンデアミナーゼ活性が低い変異株を取得することにしても良い。指標となる「ヌクレオシダーゼ活性当たりの夾雑グアニンデアミナーゼ活性」は後述の方法によって評価することが出来る。
好ましくは、ペニシリウム・マルチカラー(Penicillium multicolor)に由来するヌクレオシダーゼを主成分として本発明のヌクレオシダーゼ剤が構成される。ここでの「ペニシリウム・マルチカラーに由来するヌクレオシダーゼ」とは、ペニシリウム・マルチカラーに分類される微生物(野生株であっても変異株であってもよい)が生産するヌクレオシダーゼ、或いはペニシリウム・マルチカラー(野生株であっても変異株であってもよい)のヌクレオシダーゼ遺伝子を利用して遺伝子工学的手法によって得られたヌクレオシダーゼであることを意味する。従って、ペニシリウム・マルチカラーより取得したヌクレオシダーゼ遺伝子(又は当該遺伝子を改変した遺伝子)を導入した宿主微生物によって生産された組み換え体も、「ペニシリウム・マルチカラーに由来するヌクレオシダーゼ」に該当する。
特に好ましくは、本発明のヌクレオシダーゼ剤を構成するヌクレオシダーゼは、ペニシリウム・マルチカラー(Penicillium multicolor)から取得された二種類のヌクレオシダーゼ(以下、実施例での表記に対応させて「PN1」及び「PN2」と呼ぶのいずれか(その等価物であってもよい)であり、一態様では、これら二つのヌクレオシダーゼの両方(その等価物であってもよい)が本発明のヌクレオシダーゼ剤に含有されることになる。ここでの等価物とは、等価なアミノ酸配列を有し、同等の機能(具体的には酵素活性)を発揮する酵素である。PN1のアミノ酸配列を配列番号1に、PN2のアミノ酸配列を配列番号2に示す。また、PN1の成熟体のアミノ酸配列を配列番号21に、PN2の成熟体のアミノ酸配列を配列番号22に示す。好ましい態様のヌクレオシダーゼ剤を構成するヌクレオシダーゼは、配列番号1のアミノ酸配列若しくは配列番号21のアミノ酸配列、又は配列番号2のアミノ酸配列若しくは配列番号22のアミノ酸配列、或いは、これらのアミノ酸配列のいずれかと等価なアミノ酸配列を含むことになる。ここでの「等価なアミノ酸配列」とは、基準となる配列(配列番号1のアミノ酸配列、配列番号21のアミノ酸配列、配列番号2のアミノ酸配列、又は配列番号22のアミノ酸配列)と一部で相違するが、当該相違がタンパク質の機能(ここではヌクレオシダーゼ活性)に実質的な影響を与えていないアミノ酸配列のことをいう。従って、等価なアミノ酸配列からなるポリペプチド鎖を有する酵素はヌクレオシダーゼ活性を示す。活性の程度は、ヌクレオシダーゼとしての機能を発揮できる限り特に限定されない。但し、基準となる配列からなるポリペプチド鎖を有する酵素と同程度又はそれよりも高いことが好ましい。
「アミノ酸配列の一部の相違」とは、典型的には、アミノ酸配列を構成する1〜数個(上限は例えば3個、5個、7個、10個)のアミノ酸の欠失、置換、若しくは1〜数個(上限は例えば3個、5個、7個、10個)のアミノ酸の付加、挿入、又はこれらの組合せによりアミノ酸配列に変異(変化)が生じていることをいう。ここでのアミノ酸配列の相違はヌクレオシダーゼ活性が保持される限り許容される(活性の多少の変動があってもよい)。この条件を満たす限り、アミノ酸配列が相違する位置は特に限定されず、また複数の位置で相違が生じていてもよい。ここでの「複数」とは、配列番号1又は配列番号21のアミノ酸配列に関しては、全アミノ酸の約15%未満に相当する数であり、好ましくは約10%未満に相当する数であり、さらに好ましくは約5%未満に相当する数であり、より一層好ましくは約3%未満に相当する数であり、最も好ましくは約1%未満に相当する数である。一方、配列番号2又は配列番号22のアミノ酸配列に関しては、全アミノ酸の約12%未満に相当する数であり、好ましくは約10%未満に相当する数であり、さらに好ましくは約5%未満に相当する数であり、より一層好ましくは約3%未満に相当する数であり、最も好ましくは約1%未満に相当する数である。即ち、等価タンパク質は、配列番号1又は配列番号21のアミノ酸配列が基準となる場合、例えば約85%以上、好ましくは約90%以上、さらに好ましくは約95%以上、より一層好ましくは約98%以上、最も好ましくは約99%以上の同一性を有し、配列番号2又は配列番号22のアミノ酸配列が基準となる場合、例えば約88%以上、好ましくは約90%以上、さらに好ましくは約95%以上、より一層好ましくは約98%以上、最も好ましくは約99%以上の同一性を有する。尚、アミノ酸配列の相違は複数の位置で生じていてもよい。
好ましくは、ヌクレオシダーゼ活性に必須でないアミノ酸残基において保存的アミノ酸置換が生じることによって等価なアミノ酸配列が得られる。ここでの「保存的アミノ酸置換」とは、あるアミノ酸残基を、同様の性質の側鎖を有するアミノ酸残基に置換することをいう。アミノ酸残基はその側鎖によって塩基性側鎖(例えばリシン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えばアスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖(例えばグリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖(例えばアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β分岐側鎖(例えばスレオニン、バリン、イソロイシン)、芳香族側鎖(例えばチロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)のように、いくつかのファミリーに分類されている。保存的アミノ酸置換は好ましくは、同一のファミリー内のアミノ酸残基間の置換である。
ところで、二つのアミノ酸配列又は二つの核酸配列(以下、これらを含む用語として「二つの配列」を使用する)の同一性(%)は例えば以下の手順で決定することができる。まず、最適な比較ができるよう二つの配列を並べる(例えば、第一の配列にギャップを導入して第二の配列とのアライメントを最適化してもよい)。第一の配列の特定位置の分子(アミノ酸残基又はヌクレオチド)が、第二の配列における対応する位置の分子と同じであるとき、その位置の分子が同一であるといえる。二つの配列の同一性は、その二つの配列に共通する同一位置の数の関数であり(すなわち、同一性(%)=同一位置の数/位置の総数 × 100)、好ましくは、アライメントの最適化に要したギャップの数およびサイズも考慮に入れる。
二つの配列の比較及び同一性の決定は数学的アルゴリズムを用いて実現可能である。配列の比較に利用可能な数学的アルゴリズムの具体例としては、KarlinおよびAltschul (1990) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:2264-68に記載され、KarlinおよびAltschul (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:5873-77において改変されたアルゴリズムがあるが、これに限定されることはない。このようなアルゴリズムは、Altschulら (1990) J. Mol. Biol. 215:403-10に記載のNBLASTプログラムおよびXBLASTプログラム(バージョン2.0)に組み込まれている。等価なヌクレオチド配列を得るには例えば、NBLASTプログラムでscore = 100、wordlength = 12としてBLASTヌクレオチド検索を行えばよい。等価なアミノ酸配列を得るには例えば、XBLASTプログラムでscore = 50、wordlength = 3としてBLASTポリペプチド検索を行えばよい。比較のためのギャップアライメントを得るためには、Altschulら (1997) Amino Acids Research 25(17):3389-3402に記載のGapped BLASTが利用可能である。BLASTおよびGapped BLASTを利用する場合は、対応するプログラム(例えばXBLASTおよびNBLAST)のデフォルトパラメータを使用することができる。詳しくはhttp://www.ncbi.nlm.nih.govを参照されたい。配列の比較に利用可能な他の数学的アルゴリズムの例としては、MyersおよびMiller (1988) Comput Appl Biosci. 4:11-17に記載のアルゴリズムがある。このようなアルゴリズムは、例えばGENESTREAMネットワークサーバー(IGH Montpellier、フランス)またはISRECサーバーで利用可能なALIGNプログラムに組み込まれている。アミノ酸配列の比較にALIGNプログラムを利用する場合は例えば、PAM120残基質量表を使用し、ギャップ長ペナルティ=12、ギャップペナルティ=4とすることができる。
二つのアミノ酸配列の同一性を、GCGソフトウェアパッケージのGAPプログラムを用いて、Blossom 62マトリックスまたはPAM250マトリックスを使用し、ギャップ加重=12、10、8、6、又は4、ギャップ長加重=2、3、又は4として決定することができる。また、二つの核酸配列の相同度を、GCGソフトウェアパッケージ(http://www.gcg.comで利用可能)のGAPプログラムを用いて、ギャップ加重=50、ギャップ長加重=3として決定することができる。
本発明のヌクレオシダーゼ剤を構成するヌクレオシダーゼが、より大きいタンパク質(例えば融合タンパク質)の一部であってもよい。融合タンパク質において付加される配列としては、例えば多重ヒスチジン残基のような精製に役立つ配列、組換え生産の際の安定性を確保する付加配列等が挙げられる。
上記アミノ酸配列を有するヌクレオシダーゼは、遺伝子工学的手法によって容易に調製することができる。例えば、ヌクレオシダーゼをコードするDNAで適当な宿主細胞(例えば大腸菌)を形質転換し、形質転換体内で発現されたタンパク質を回収することにより調製することができる。回収されたタンパク質は目的に応じて適宜精製される。このように組換えタンパク質として本酵素を得ることにすれば種々の修飾が可能である。例えば、ヌクレオシダーゼをコードするDNAと他の適当なDNAとを同じベクターに挿入し、当該ベクターを用いて組換えタンパク質の生産を行えば、任意のペプチドないしタンパク質が連結された組換えタンパク質からなるヌクレオシダーゼを得ることができる。また、糖鎖及び/又は脂質の付加や、あるいはN末端若しくはC末端のプロセッシングが生ずるような修飾を施してもよい。以上のような修飾により、組換えタンパク質の抽出、精製の簡便化、又は生物学的機能の付加等が可能である。
PN1及びPN2を以下の酵素学性質で特徴付けることもできる。
<PN1の酵素学的性質>
(1)作用
PN1はヌクレオシダーゼであり、プリンヌクレオシドをD-リボースとプリン塩基に加水分解する反応を触媒する。プリンヌクレオシドとは、プリン塩基と糖の還元基がN-グリコシド結合で結合した配糖体である。プリンヌクレオシドの例は、アデノシン、グアノシン、イノシンである。また、プリン塩基とは、プリン骨格を有する塩基の総称であり、具体例はアデニン、グアニン、ヒポキサンチン、キサンチンである。尚、プリンヌクレオシド及びプリン塩基の他、プリンヌクレオチド等を含め、プリン骨格を有する化合物をプリン体と総称する。
PN1は、アデノシン、アデニン、イノシン、ヒポキサンチン、グアノシン、グアニン及びキサンチンの存在下でも活性を示す。即ち、分解生成物による実質的な阻害を受けない。この特徴は、食品や飲料の製造に本酵素を適用する上で特に重要である。この特徴を示すPN1によれば、食品や飲料の製造過程において、原料に由来するプリンヌクレオシドを効率的に分解することが可能となる。
(2)分子量
PN1は天然型では糖鎖を含み(即ち、糖タンパク質である)、N型糖鎖除去前の分子量は約53 kDa(SDS-PAGEで測定した分子量)であった。ゲルろ過クロマトグラフィーで測定すると約126 kDaであり、2量体を形成していると推定される。一方、N型糖鎖除去後にSDS-PAGEで分子量を測定すると約49k Daを示した。従って、N型糖鎖を含まない場合の本酵素の分子量は約49 kDa(SDS-PAGEで測定した分子量)である。
(3)至適温度
PN1の至適温度は55℃〜60℃である。このように至適温度が高いことは、比較的高温での処理工程を経る、食品や飲料の製造への適用に有利である。至適温度は、酢酸緩衝液(pH4.3)を用い、グアノシンを基質とし、反応生成物であるリボースを定量することによって評価することができる。
(4)温度安定性
PN1は酢酸緩衝液(pH4.5)中、60分間処理した場合、45℃以下の温度条件で80%以上の活性を維持する。従って、例えば処理時の温度が5℃〜45℃の範囲であれば、処理後の残存活性が80%以上となる。
一方、PN1をリン酸緩衝液(pH6.0)中、30分間処理した場合には、55℃以下の温度条件で80%以上の活性を維持する。従って、例えば処理時の温度が5℃〜55℃の範囲であれば、処理後の残存活性が80%以上となる。
このように優れた温度安定性を示すPN1は、ビールの仕込工程など、比較的高温の条件においても高い活性を示すことができる。
PN1を以下の酵素学的性質(5)及び(6)で更に特徴付けることができる。
(5)至適pH
PN1の至適pHは3.5である。至適pHは、例えば、pH2.5〜3.5のpH域ではクエン酸緩衝液、pH3.5〜5.5のpH域では酢酸緩衝液、pH5.5〜6.5のpH域ではリン酸カリウム緩衝液中で測定した結果を基に判断される。
(6)pH安定性
PN1は広いpH域で安定した活性を示す。例えば、処理に供する酵素溶液のpHが3.5〜7.5の範囲内にあれば、30℃、30分の処理後、最大活性の80%以上の活性を示す。また、50℃、60分の処理の場合、処理に供する酵素溶液のpHが3.5〜7.5の範囲内にあれば、処理後、最大活性の80%以上の活性を示す。尚、pH安定性は、例えば、pH2.5〜3.5のpH域ではクエン酸緩衝液、pH3.5〜5.5のpH域では酢酸緩衝液、pH5.5〜6.5のpH域ではリン酸カリウム緩衝液中で測定した結果を基に判断される。
<PN2の酵素学的性質>
(1)作用
PN2はヌクレオシダーゼであり、プリンヌクレオシドをD-リボースとプリン塩基に加水分解する反応を触媒する。
PN2は、アデノシン、アデニン、イノシン、ヒポキサンチン、グアノシン、グアニン及びキサンチンの存在下でも活性を示す。即ち、分解生成物による実質的な阻害を受けない。この特徴は、食品や飲料の製造に本酵素を適用する上で特に重要である。この特徴を示すPN1によれば、食品や飲料の製造過程において、原料に由来するプリンヌクレオシドを効率的に分解することが可能となる。
(2)分子量
PN2は天然型では糖鎖を含み(即ち、糖タンパク質である)、N型糖鎖除去前の分子量は約51 kDa(SDS-PAGEで測定した分子量)であった。ゲルろ過クロマトグラフィーで測定すると約230 kDaであった。一方、N型糖鎖除去後にSDS-PAGEで分子量を測定すると約40 kDaを示した。従って、N型糖鎖を含まない場合の本酵素の分子量は約40 kDa(SDS-PAGEで測定した分子量)である。
(3)至適温度
PN2の至適温度は50℃〜55℃である。このように至適温度が高いことは、比較的高温での処理工程を経る、食品や飲料の製造への適用に有利である。至適温度は、酢酸緩衝液(pH4.3)を用い、グアノシンを基質とし、反応生成物であるリボースを定量することによって評価することができる。
(4)温度安定性
PN2は酢酸緩衝液(pH4.5)中、60分間処理した場合、65℃以下の温度条件で80%以上の活性を維持する。従って、例えば処理時の温度が5℃〜65℃の範囲であれば、処理後の残存活性が80%以上となる。
一方、PN2をリン酸緩衝液(pH6.0)中、30分間処理した場合には、55℃以下の温度条件で80%以上の活性を維持する。従って、例えば処理時の温度が5℃〜55℃の範囲であれば、処理後の残存活性が80%以上となる。
このように優れた温度安定性を示すPN2は、ビールの仕込工程など、比較的高温の条件においても高い活性を示すことができる。
PN2を以下の酵素学的性質(5)及び(6)で更に特徴付けることができる。
(5)至適pH
PN2の至適pHは4.5である。至適pHは、例えば、pH2.5〜3.5のpH域ではクエン酸緩衝液、pH3.5〜5.5のpH域では酢酸緩衝液、pH5.5〜6.5のpH域ではリン酸カリウム緩衝液中で測定した結果を基に判断される。
(6)pH安定性
PN2は広いpH域で安定した活性を示す。例えば、処理に供する酵素溶液のpHが3.5〜7.5の範囲内にあれば、30℃、30分の処理後、最大活性の80%以上の活性を示す。また、50℃、60分の処理の場合、処理に供する酵素溶液のpHが4.5〜7.5の範囲内にあれば、処理後、最大活性の80%以上の活性を示す。尚、pH安定性は、例えば、pH2.5〜3.5のpH域ではクエン酸緩衝液、pH3.5〜5.5のpH域では酢酸緩衝液、pH5.5〜6.5のpH域ではリン酸カリウム緩衝液中で測定した結果を基に判断される。
後述の実施例に示す通り、本発明者らはペニシリウム・マルチカラーIFO 7569株から上記性質を備えるヌクレオシダーゼを単離・精製することに成功した。尚、ペニシリウム・マルチカラーIFO 7569株は独立行政法人製品評価技術基盤機構(千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8)に保存された菌株(NBRC CultureカタログにNBRC 7569として掲載されている)であり、所定の手続を経ることにより、入手することができる。
本発明のヌクレオシダーゼ剤におけるヌクレオシダーゼの含有量は特に限定されないが、例えば、ヌクレオシダーゼ剤1g当たり、 100 U〜100,000 Uのヌクレオシダーゼが含有されるようにする。本発明のヌクレオシダーゼ剤の形態は液体状であっても固体状(粉体状を含む)であってもよい。本発明のヌクレオシダーゼ剤は、有効成分(即ち、本酵素)の他、賦形剤、緩衝剤、懸濁剤、安定剤、保存剤、防腐剤、生理食塩水などを含有していてもよい。賦形剤としては乳糖、ソルビトール、D-マンニトール、マルトデキストリン、白糖等を用いることができる。緩衝剤としてはリン酸塩、クエン酸塩、酢酸塩等を用いることができる。安定剤としてはプロピレングリコール、アスコルビン酸等を用いることができる。保存剤としてはフェノール、塩化ベンザルコニウム、ベンジルアルコール、クロロブタノール、メチルパラベン等を用いることができる。防腐剤としては塩化ベンザルコニウム、パラオキシ安息香酸、クロロブタノール等と用いることができる。
2.ヌクレオシダーゼ剤の製造方法
本発明のヌクレオシダーゼ剤は以下の方法、即ち、ヌクレオシダーゼを産生する微生物を培養するステップ(ステップ(1))と培養後の培養液及び/又は菌体よりヌクレオシダーゼを回収するステップ(ステップ(2))を行うことを特徴とする方法によって得ることができる。ヌクレオシダーゼを産生する微生物は例えばペニシリウム・マルチカラーであり、好ましくは、ペニシリウム・マルチカラーIFO 7569株又はその変異株である。変異株は、紫外線、X線、γ線などの照射、亜硝酸、ヒドロキルアミン、N-メチル-N'-ニトロ-N-ニトロソグアニジンなどによる処理等によって得ることができる。
培養条件や培養法は、ヌクレオシダーゼが生産されるものである限り特に限定されない。即ち、ヌクレオシダーゼが生産されることを条件として、使用する微生物の培養に適合した方法や培養条件を適宜設定できる。培養法としては液体培養、固体培養のいずれでも良いが、好ましくは液体培養が利用される。液体培養を例にとり、その培養条件を説明する。
培地としては、使用する微生物が生育可能な培地であれば、特に限定されない。例えば、グルコース、シュクロース、ゲンチオビオース、可溶性デンプン、グリセリン、デキストリン、糖蜜、有機酸等の炭素源、更に硫酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、あるいは、ペプトン、酵母エキス、コーンスティープリカー、カゼイン加水分解物、ふすま、肉エキス等の窒素源、更にカリウム塩、マグネシウム塩、ナトリウム塩、リン酸塩、マンガン塩、鉄塩、亜鉛塩等の無機塩を添加したものを用いることができる。使用する形質転換体の生育を促進するためにビタミン、アミノ酸などを培地に添加してもよい。培地のpHは例えば約3〜8、好ましくは約4〜7程度に調整し、培養温度は通常約20〜40℃、好ましくは約25〜35℃程度で、1〜20日間、好ましくは3〜10日間程度好気的条件下で培養する。培養法としては例えば振盪培養法、ジャー・ファーメンターによる好気的深部培養法が利用できる。
以上の条件で培養した後、培養液又は菌体より目的の酵素(ヌクレオシダーゼ)を回収する(ステップ(2))。培養液から回収する場合には、例えば培養上清をろ過、遠心処理等することによって不溶物を除去した後、限外ろ過膜による濃縮、硫安沈殿等の塩析、透析、イオン交換樹脂等の各種クロマトグラフィーなどを適宜組み合わせて分離、精製を行うことによりヌクレオシダーゼを得ることができる。他方、菌体内から回収する場合には、例えば菌体を加圧処理、超音波処理などによって破砕した後、上記と同様に分離、精製を行うことによりヌクレオシダーゼを得ることができる。尚、ろ過、遠心処理などによって予め培養液から菌体を回収した後、上記一連の工程(菌体の破砕、分離、精製)を行ってもよい。
一態様では、液状のヌクレオシダーゼ剤を簡便な操作で得るために、以下のステップ(I)及び(II)を含む製造方法で酵素剤を製造する。
(I)ヌクレオシダーゼを産生する微生物を培養するステップ
(II)培養後に菌体を除去するステップ
ステップ(I)は、上記のステップ(1)と同様であるため、その説明を省略する。ステップ(I)に続くステップ(II)では、遠心分離、ろ過、フィルター処理等を利用して菌体を除去する。このようにして得られた、菌体を含まない培養液はそのまま又は更なる処理(即ち、菌体除去後の培養液を精製するステップ(ステップ(III))を経た後、ヌクレオシダーゼ剤として用いられる。
ヌクレオシダーゼ遺伝子が導入された組換え菌を利用してヌクレオシダーゼ剤を製造することもできる。組換え菌を利用してヌクレオシダーゼ剤を製造する場合、適当な宿主微生物にヌクレオシダーゼ遺伝子を導入することで組換え菌(形質転換体)を得た後、それに導入された遺伝子によってコードされるタンパク質が産生される条件下で当該形質転換体を培養する(ステップ(i))。様々なベクター宿主系に関して形質転換体の培養条件が公知であり、当業者であれば適切な培養条件を容易に設定することができる。培養ステップに続き、産生されたタンパク質(即ち、ヌクレオシダーゼ)を回収する(ステップ(ii))。回収及びその後の精製については、上記態様の場合と同様に行えばよい。
ヌクレオシダーゼ遺伝子として、好ましくは、配列番号1のアミノ酸配列をコードするDNA(PN1をコードするDNA)、配列番号21のアミノ酸配列をコードするDNA(PN1の成熟体をコードするDNA)、配列番号2のアミノ酸配列をコードするDNA(PN2をコードするDNA)、又は配列番号22のアミノ酸配列をコードするDNA(PN2の成熟体をコードするDNA)、を含むものが用いられる。当該態様の具体例は、配列番号3の塩基配列からなるDNA(配列番号1のアミノ酸配列をコードするcDNAに対応する)、配列番号23の塩基配列からなるDNA(配列番号21のアミノ酸配列をコードするcDNAに対応する)、配列番号4の塩基配列からなるDNA(配列番号1のアミノ酸配列をコードするゲノムDNAに対応する)、配列番号5の塩基配列からなるDNA(配列番号2のアミノ酸配列をコードするcDNAに対応する)、配列番号24の塩基配列からなるDNA(配列番号22のアミノ酸配列をコードするcDNAに対応する)、配列番号6の塩基配列からなるDNA(配列番号2のアミノ酸配列をコードするゲノムDNAに対応する)である。
上記のヌクレオシダーゼ遺伝子は、本明細書又は添付の配列表が開示する配列情報を参考にし、標準的な遺伝子工学的手法、分子生物学的手法、生化学的手法、化学合成、PCR法(例えばオーバーラップPCR)或いはこれらの組合せによって、単離された状態に調製することができる。
一般に、あるタンパク質をコードするDNAの一部に改変を施した場合において、改変後のDNAがコードするタンパク質が、改変前のDNAがコードするタンパク質と同等の機能を有することがある。即ちDNA配列の改変が、コードするタンパク質の機能に実質的に影響を与えず、コードするタンパク質の機能が改変前後において維持されることがある。そこで、ヌクレオシダーゼ遺伝子として、基準となる塩基配列(配列番号3〜6、23、24のいずれかの配列)と等価な塩基配列を有し、ヌクレオシダーゼ活性をもつタンパク質をコードするDNA(以下、「等価DNA」ともいう)を含むものを用いることにしてもよい。ここでの「等価な塩基配列」とは基準となる塩基配列に示すDNAと一部で相違するが、当該相違によってそれがコードするタンパク質の機能(ここではヌクレオシダーゼ活性)が実質的な影響を受けていない塩基配列のことをいう。
等価DNAの具体例は、基準となる塩基配列に相補的な塩基配列に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAである。ここでの「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。このようなストリンジェントな条件は当業者に公知であって例えばMolecular Cloning(Third Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York)やCurrent protocols in molecular biology(edited by Frederick M. Ausubel et al., 1987)を参照して設定することができる。ストリンジェントな条件として例えば、ハイブリダイゼーション液(50%ホルムアミド、10×SSC(0.15M NaCl, 15mM sodium citrate, pH 7.0)、5×Denhardt溶液、1% SDS、10% デキストラン硫酸、10μg/mlの変性サケ精子DNA、50mMリン酸バッファー(pH7.5))を用いて約50℃でインキュベーションし、その後0.1×SSC、0.1% SDSを用いて約65℃で洗浄する条件を挙げることができる。更に好ましいストリンジェントな条件として例えば、ハイブリダイゼーション液として50%ホルムアミド、5×SSC(0.15M NaCl, 15mM sodium citrate, pH 7.0)、1×Denhardt溶液、1%SDS、10%デキストラン硫酸、10μg/mlの変性サケ精子DNA、50mMリン酸バッファー(pH7.5))を用いる条件を挙げることができる。
等価DNAの他の具体例として、基準となる塩基配列に対して1若しくは複数(好ましくは1〜数個)の塩基の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含む塩基配列からなり、ヌクレオシダーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNAを挙げることができる。塩基の置換や欠失などは複数の部位に生じていてもよい。ここでの「複数」とは、当該DNAがコードするタンパク質の立体構造におけるアミノ酸残基の位置や種類によっても異なるが、例えば2〜40塩基、好ましくは2〜20塩基、より好ましくは2〜10塩基である。
等価DNAは、基準となる塩基配列(配列番号3〜6、23、24のいずれかの配列)に対して、例えば70%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは約90%以上、より一層好ましくは95%以上、最も好ましくは99%以上の同一性を有する。
以上のような等価DNAは例えば、制限酵素処理、エキソヌクレアーゼやDNAリガーゼ等による処理、位置指定突然変異導入法(Molecular Cloning, Third Edition, Chapter 13 ,Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York)やランダム突然変異導入法(Molecular Cloning, Third Edition, Chapter 13 ,Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York)による変異の導入などを利用して、塩基の置換、欠失、挿入、付加、及び/又は逆位を含むように、基準となる塩基配列を有するDNAを改変することによって得ることができる。また、紫外線照射など他の方法によっても等価DNAを得ることができる。等価DNAの更に他の例として、SNP(一塩基多型)に代表される多型に起因して上記のごとき塩基の相違が認められるDNAを挙げることができる。
ヌクレオシダーゼ遺伝子が導入された組換え菌を得るためには、典型的には、ヌクレオシダーゼ遺伝子を含む発現ベクターを構築し、当該発現ベクターで宿主細胞を形質転換する。宿主細胞の種類を考慮して適当なベクターが選択される。大腸菌を宿主とするベクターとしてはM13ファージ又はその改変体、λファージ又はその改変体、pBR322又はその改変体(pB325、pAT153、pUC8など)等、酵母を宿主とするベクターとしてはpYepSec1、pMFa、pYES2等、昆虫細胞を宿主とするベクターとしてはpAc、pVL等、哺乳類細胞を宿主とするベクターとしてはpCDM8、pMT2PC等を例示することができる。
「発現ベクター」とは、それに挿入された核酸を目的の細胞(宿主細胞)内に導入することができ、且つ当該細胞内において発現させることが可能なベクターをいう。発現ベクターは通常、挿入された核酸の発現に必要なプロモーター配列や、発現を促進させるエンハンサー配列等を含む。選択マーカーを含む発現ベクターを使用することもできる。かかる発現ベクターを用いた場合には、選択マーカーを利用して発現ベクターの導入の有無(及びその程度)を確認することができる。
DNAのベクターへの挿入、選択マーカー遺伝子の挿入(必要な場合)、プロモーターの挿入(必要な場合)等は標準的な組換えDNA技術(例えば、Molecular Cloning, Third Edition, 1.84, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New Yorkを参照することができる、制限酵素及びDNAリガーゼを用いた周知の方法)を用いて行うことができる。
上記発現ベクターを利用した形質転換体の調製には、トランスフェクション乃至はトランスフォーメーションを用いればよい。トランスフェクション、トランスフォーメーションはリン酸カルシウム共沈降法、エレクトロポーレーション(Potter, H. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 81, 7161-7165(1984))、リポフェクション(Felgner, P.L. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 84,7413-7417(1984))、マイクロインジェクション(Graessmann, M. & Graessmann,A., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 73,366-370(1976))、Hanahanの方法(Hanahan, D., J. Mol. Biol. 166, 557-580(1983))、酢酸リチウム法(Schiestl, R.H. et al., Curr. Genet. 16, 339-346(1989))、プロトプラスト−ポリエチレングリコール法(Yelton, M.M. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. 81, 1470-1474(1984))等によって実施することができる。
宿主細胞は、ヌクレオシダーゼが発現する限りにおいて特に限定されず、例えばBacillus subtilis、Bacillus licheniformis、Bacillus circulansなどのBacillus属細菌、Lactococcus、Lactobacillus、Streptococcus、Leuconostoc、Bifidobacteriumなどの乳酸菌、Escherichia、Streptomycesなどのその他の細菌、Saccharomyces、Kluyveromyces、Candida、Torula、Torulopsis、などの酵母、Aspergillus oryzae、Aspergillus nigerなどのAspergillus属、Penicillium属、Trichoderma属、Fusarium属などの糸状菌(真菌)などより選択される。
<実施例1> 新規ヌクレオシダーゼの取得及び同定
1.新規ヌクレオシダーゼの取得
低プリン体ビールの製造に有用な酵素を見出すべく、一万種を超える微生物を対象にスクリーニングを実施した。その結果、4株の微生物、即ち、ペニシリウム・マルチカラー(Penicillium multicolor)IFO 7569株、バチルス・ブレビス(Bacillus brevis)IFO 15304株、ブレビバチルス・リネンズ(Brevibacillus linens)IFO 12141株、ムコール・ヤバニカス(Mucor javanicus) 4068株が有望な候補として同定された。これらの微生物の産生するヌクレオシダーゼについて、ビールの仕込工程での利用を想定し、仕込工程の一般的な条件(マッシング試験)での作用・効果を評価した。尚、ペニシリウム・マルチカラー(Penicillium multicolor)IFO 7569株は、後に再同定した結果、Penicillium maximaeと同定された。
(1)ペニシリウム・マルチカラーIFO 7569株の培養方法
ペニシリウム・マルチカラーIFO 7569株を、下記の培養培地B 100mLに植菌し、500mL容坂口フラスコにて27℃、48〜72時間振盪培養した。この前培養液を下記培養培地B 2Lに移して27℃、120〜188時間通気撹拌培養した。この培養液を珪藻土ろ過して菌体を除いた培養上清を限外ろ過膜にて濃縮し、凍結乾燥粉末を得た。
<培養培地A>
1% ラスターゲンFK (日澱化学)
1% 酵母エキス(Difco )
0.5% NaCl
pH7.0
<培養培地B>
1% ラスターゲンFK (日澱化学)
1% 酵母エキス(Difco)
2% コーンミール(松本ノーサン)
0.5% NaCl
pH6.5
(2)バチルス・ブレビスIFO 15304株、ブレビバチルス・リネンズIFO 12141株、ムコール・ヤバニカス 4068株の培養方法
バチルス・ブレビスIFO 15304株とブレビバチルス・リネンズIFO 12141株を上記培養培地A 10mLに植菌し、試験管にて30℃、48時間振盪培養した。一方、ムコール・ヤバニカスIFO 4068株を上記培養培地B 10mLに植菌し、同条件で培養した。培養液をそれぞれ同組成の本培養培地50mLに移して30℃、120時間振盪培養した。この培養液を遠心分離にて菌体除去した上清から凍結乾燥粉末を得た。
(3)ヌクレオシダーゼ活性の測定
ヌクレオシダーゼ活性は、グアノシンを基質とした反応によって生成するリボースを定量することで定義した。反応液1mL中には0.1M 酢酸緩衝液(pH4.3)、8mM グアノシンと適当量の酵素を含む。反応はグアノシン添加で開始し、55℃にて30分間反応させた。1.5mLの0.5%ジニトロサリチル酸溶液を添加して反応を停止した後、10分間煮沸処理した。冷却後の反応溶液の540nmの吸光度を測定し、酵素無添加の反応溶液の吸光度を差し引いた値より活性値を算出した。30分間に1μmolのリボースを生成する酵素量を酵素活性1Uと定義した。
(4)マッシング試験
粉砕麦芽80g、水320mLとともにヌクレオシダーゼ320U相当量を添加してマッシング試験を行い、麦汁を調製した。反応工程を図1に示す。マッシング後の麦汁中の各プリン体量は高速液体クロマトグラフィーにて下記条件で定量的に分析した。
<HPLC条件>
カラム:Asahipak GS-220HQ
移動相:150mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH2.5)
温度:35℃
流速:0.5mL/分
検出:260nm
分析結果を図2に示した。図中には、以下の計算式で遊離プリン塩基比率も示した。
遊離プリン塩基比率(%)={プリン塩基/(プリンヌクレオシド+プリン塩基)}×100
ペニシリウム・マルチカラーIFO 7569株(P.multicolor)由来のヌクレオシダーゼを添加した麦汁はプリンヌクレオシドが減少し、プリン塩基が増加していた。対照的に、バチルス・ブレビス(Bacillus brevis)IFO 15304株、ブレビバチルス・リネンズ(Brevibacillus linens)IFO 12141株、ムコール・ヤバニカス(Mucor javanicus) 4068株由来のヌクレオシダーゼは、おそらく分解生成物(アデニン、グアニン、ヒポキサンチン、キサンチン)による阻害を受けたと思われ、プリンヌクレオシドの量に大きな変化はなかった。
(5)ペニシリウム・マルチカラーIFO 7569株由来ヌクレオシダーゼ(P.multicolorヌクレオシダーゼ)の特性の検討
P.multicolorヌクレオシダーゼの特性を調べるため、以下の組成の溶液(以下、模擬麦汁)を用い、作用温度域と作用pH域を検討した。
アデノシン 0.08 mmol/L
アデニン 0.43 mmol/L
イノシン 0.49 mmol/L
ヒポキサンチン 0.08 mmol/L
グアノシン 0.67 mmol/L
グアニン 1.45 mmol/L
キサントシン 0.00 mmol/L
キサンチン 0.08 mmol/L
(5−1)作用温度域
模擬麦汁2mLにP.multicolorヌクレオシダーゼを9U添加し、各温度にてpH5.5下で1時間反応させた後、HPLCの移動相150mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH2.5)で10倍に希釈して高速液体クロマトグラフィーにて定量的に分析した。以下の計算式で遊離プリン塩基比率を算出した。50℃〜60℃の反応温度で遊離プリン塩基比率が90%以上となった(図3)。
遊離プリン塩基比率(%)={プリン塩基/(プリンヌクレオシド+プリン塩基)}×100
(5−2)作用pH域
模擬麦汁2mLにP.multicolorヌクレオシダーゼを9U添加し、各pHにて55℃で1時間反応させた後、HPLCの移動相150mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH2.5)で10倍に希釈して高速液体クロマトグラフィーにて定量的に分析した。pH4.5〜pH6.0はクエン酸緩衝液、pH6.0〜6.5はMES緩衝液を使用した。作用温度域の検討の場合と同様に、遊離プリン塩基比率を算出した。クエン酸緩衝液ではpH4.5〜pH5.5で遊離プリン体比率が80%以上となった。MES緩衝液ではpH6.0〜pH6.5で遊離プリン体比率が80%以上となった(図4)。
(6)ペニシリウム・マルチカラーIFO 7569株由来ヌクレオシダーゼの精製
ハイドロキシアパタイトカラム、陰イオン交換カラム、疎水カラム、ゲルろ過カラムクロマトグラフィーによってヌクレオシダーゼを精製した。以下に一連の精製工程を示す。まず、ペニシリウム・マルチカラーIFO 7569株の培養液より調製した凍結乾燥粉末0.1gを5mLのバッファー(5mMリン酸カリウム緩衝液(pH6)+0.3M NaCl)で溶解し、同バッファーで平衡化したハイドロキシアパタイトカラム(BioRad)に供した。吸着したタンパク質を5mMから300mMのリン酸のグラジエントで溶出して活性画分を回収した。得られた活性画分をバッファー(20mM リン酸カリウム緩衝液(pH5.5))で透析し、同バッファーで平衡化したDEAE HPカラム(GEヘルスケア)に供した。吸着したタンパク質を0mMから500mMのNaClのグラジエントで溶出したところ、3つのピークを認めた(図5)。Fr.2をピーク1、Fr.8,9をピーク2、Fr.14,15をピーク3と定めた。
回収したピーク3をバッファー(20mM 酢酸緩衝液(pH4.5)+30%飽和硫酸アンモニウム)で透析し、同バッファーで平衡化したPhenyl HPカラム(GEヘルスケア)に供した。吸着したタンパク質を30%飽和から0%の硫酸アンモニウムのグラジエントで溶出して活性画分を回収した。得られた活性画分をバッファー(20mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH6))で透析した後、限外ろ過膜を用いて0.5mLに濃縮した。濃縮した活性画分を同バッファーで平衡化したHiLoad 16/60 Superdex200(GEヘルスケア)に供して活性画分を回収した。得られた精製酵素はSDS-PAGEにより単一バンドであることを確認した(図6)。分子量はSDS-PAGEで約53 kDa、ゲルろ過クロマトグラフィーで約126 kDaと推定された(図7)。得られた精製酵素の糖鎖をPNGaseF(New England BioLabs)で除去した。処理方法は添付プロトコールに従った。処理後のSDS-PAGEより、N型糖鎖除去によって分子量が約53k Daから約49k Daになったことが示された(図6、7)。回収したピーク1、2についても同様に精製し、SDS-PAGE及びゲルろ過クロマトグラフィーで分子量を決定した。分子量はSDS-PAGEで約51 kDa、ゲルろ過クロマトグラフィーで約230 kDaと推定された(図7)。得られた精製酵素の糖鎖をPNGaseF(New England BioLabs)で除去した。処理後のSDS-PAGEより、N型糖鎖除去によって分子量が約51 kDaから約40 kDaになったことが示された(図6、7)。
各精製酵素(ピーク1〜3)のN末端アミノ酸配列をプロテインシーケンサー(島津製作所)で分析したところ、以下に示す配列が推定された。
ピーク1のN末端アミノ酸配列:ADKHYAIMDNDWYTA(配列番号7)
ピーク2のN末端アミノ酸配列:ADKHYAIMDNDWYTA(配列番号8)
ピーク3のN末端アミノ酸配列:VETKLIFLT(配列番号9)
ピーク1とピーク2は分子量とN末端アミノ酸配列が一致し、同一の酵素であると推定された(図7)。ピーク3のN末端アミノ酸配列については、その後の解析によって実際は「VEILLISLT」(配列番号20)であることが判明した。以降の検討では、当該酵素をPN2と呼び、ピーク3の酵素をPN1と呼ぶことした。
2.遺伝子クローニング
決定したN末端アミノ酸配列及びヌクレオシダーゼ保存配列から以下の縮重プライマーを設計し、P.multicolorゲノムDNAを鋳型にしてPCRを実施した。
<PN1用縮重プライマー>
FW:ACIAARTAYMGNTTYYTIAC(配列番号10)
RV:CATNCCNCKNGTCCAYTGNCC(配列番号11)
<PN2用縮重プライマー>
FW:GCNATHATGGAYAAYGAYTGGTAYAC(配列番号12)
RV:GCNGCNGTYTCRTCCCARAANGG(配列番号13)
得られた増幅断片をpMD20-T(TaKaRa)にサブクローニングしてシーケンスし、図8に示すプローブを用いてサザンブロッティング及びコロニーハイブリダイゼーションを実施した。得られた断片をシーケンスしてPN1とPN2のゲノム中での塩基配列(図9)を同定した。
次に、P.multicolorのゲノムDNAより調製したmRNAからSMARTER RACE5'/3' (TaKaRa)を用いてcDNAを調製した。そして、以下のプライマーを用いてPCRを行い、増幅断片をシーケンスし、cDNA中のPN1とPN2の塩基配列を決定した(図10)。また、決定した塩基配列から、PN1とPN2のアミノ酸配列を同定した(図11)。尚、図12においてPN1とPN2を比較した。
<PN1用PCRプライマー>
FW:ATGGCACCTAAGAAAATCATCATTG(配列番号14)
RV:TTAGTGGAAGATTCTATCGATGAGG(配列番号15)
<PN2用PCRプライマー>
FW:ATGCATTTCCCTGTTTCATTGCCGC(配列番号16)
RV:TCAACGCTCATTTCTCAGGTCGG(配列番号17)
3.酵素PN1の諸性質の検討
(1)至適温度
DEAE HPカラムより回収されたピーク3のヌクレオシダーゼ(PN1)の至適温度を分析した。各温度における結果を図13に示す。当該条件下での至適温度は55℃〜60℃であった。
(2)温度安定性
DEAE HPカラムより回収されたピーク3のヌクレオシダーゼの温度安定性を分析した。各温度でpH4.5にて60分間処理した場合は45℃まで、pH6.0にて30分間処理した場合は55℃までは残存活性80%を示した(図14)。
(3)至適pH
DEAE HPカラムより回収されたピーク3のヌクレオシダーゼの至適pHを分析した。pH2.5とpH3.5はクエン酸緩衝液、pH3.5とpH4.5とpH5.5は酢酸緩衝液、pH5.5とpH6.5はリン酸カリウム緩衝液を用いた。至適pHはpH3.5であった(図15)。
(4)pH安定性
DEAE HPカラムより回収されたピーク3のヌクレオシダーゼを各pHにて30℃で30分間処理した場合と50℃で60分間処理した場合のpH安定性を分析した。緩衝液は至適pHの検討の場合と同じものを使用し、pH7.5についてはリン酸カリウム緩衝液を用いた。30℃で30分間処理した場合はpH3.5〜7.5で、50℃で60分間処理した場合はpH3.5〜7.5で80%以上の残存活性を示した(図16)。
4.酵素PN2の組換え生産
PN2のcDNA断片を発現用ベクターのクローニングサイトに挿入し、PN2発現ベクターを構築した。当該発現ベクターでアスペルギルス・オリゼ(A.oryzae(pyrG-))を形質転換した。得られた形質転換体を4日間液体培養した(30℃、300rpm)。培養上清を回収し、ヌクレオシダーゼ活性を測定した。その結果、活性を示す形質転換体が得られていた。また、培養上清を糖鎖除去処理し、電気泳動したところ、推定される分子量と一致するサイズのバンドが確認された(図17)。
5.酵素PN2の諸性質の検討
組換え生産したPN2を用い、諸性質を検討した。実験方法、条件等はPN1の検討の場合と同様とした。
(1)至適温度
至適温度は50℃〜55℃であった(図18)。
(2)温度安定性
各温度でpH4.5にて60分間処理した場合は65℃まで、pH6.0にて30分間処理した場合は55℃までは残存活性80%を示した(図19)。
(3)至適pH
pH2.5とpH3.5はクエン酸緩衝液、pH3.5とpH4.5とpH5.5は酢酸緩衝液、pH5.5とpH6.5はリン酸カリウム緩衝液を用いた。至適pHはpH4.5であった(図20)。
(4)pH安定性
各pHにて30℃で30分間処理した場合と50℃で60分間処理した場合のpH安定性を分析した。緩衝液は至適pHの検討の場合と同じものを使用した。30℃で30分間処理した場合はpH3.5〜7.5で、50℃で60分間処理した場合はpH4.5〜7.5で80%以上の残存活性を示した(図21)。
6.酵素PN2のマッシング試験
組換え生産したPN2を用いたマッシング試験を行った。試験方法、条件等は上記1.(4)と同様とした。マッシング後の麦汁中の各プリン体量を高速液体クロマトグラフィーで定量分析した。分析結果を図22に示した。PN2(ヌクレオシダーゼ)を添加した麦汁はプリンヌクレオシドが減少し、プリン塩基が増加しているのがわかる。
7.低pH条件下でのマッシング試験
ペニシリウム・マルチカラーIFO 7569株由来のヌクレオシダーゼのビール又はビール系飲料の製造における有用性を更に確認するため、当該酵素の至適pH付近(pH4.5〜5.5)でマッシング試験を行い、所望の効果(即ち、プリン体低減)が得られるか検討した。粉砕麦芽80g、水320mLとともにヌクレオシダーゼ2400U相当量を添加して、初発(52℃)および60℃工程のpHをpH4.5、pH5.0又はpH5.5に調整してマッシング試験を行い、麦汁を調製した。反応工程を図23に示す。マッシング後の麦汁中の各プリン体量は高速液体クロマトグラフィーにて下記条件で定量的に分析した。分析結果を図24に示した。本ヌクレオシダーゼはpH4.5〜5.5でマッシングを行っても遊離プリン塩基比率が90%以上となり、十分プリンヌクレオシドが減少し、プリン塩基が増加しているのがわかる(図24)。
<HPLC条件>
カラム:Asahipak GS-220HQ
移動相:150mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH2.5)
温度:35℃
流速:0.5mL/分
検出:260nm
8.まとめ
ペニシリウム・マルチカラーIFO 7569株由来のヌクレオシダーゼは、ビールの仕込工程での使用に適した至適温度及び温度安定性を示した。また、pH安定性及び温度安定性に優れ、ビール又はビール系飲料の製造に限らず、様々な用途への適用が可能であることが判明した。このように、飲料・食品中のプリン体低減に極めて有用な新規ヌクレオシダーゼの取得に成功した。
<実施例2> ヌクレオシダーゼ剤の調製
ペニシリウム・マルチカラーIFO 7569株の変異株を、下記の培養培地B 100mLに植菌し、500mL容坂口フラスコにて27℃、48〜72時間振盪培養した。この前培養液を下記培養培地B 2Lに移して27℃、190〜240時間通気撹拌培養した。この培養液を珪藻土ろ過して菌体を除いた培養上清を限外ろ過膜にて濃縮し、ヌクレオシダーゼ酵素溶液を得た。尚、グアニンデアミナーゼ生産能が異なる変異株3種類を用いてヌクレオシダーゼ酵素溶液(試料1〜3)を調製した。
<培養培地A>
1% ラスターゲンFK (日澱化学)
1% 酵母エキス(Difco )
0.5% NaCl
pH7.0
<培養培地B>
1% ラスターゲンFK (日澱化学)
1% 酵母エキス(Difco)
2% コーンミール(松本ノーサン)
0.5% NaCl
pH6.5
<実施例3> キサンチン生成試験
50mM塩酸に溶解した1mMグアニン溶液0.1mlを150mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH 4.3)0.8mlへ添加し、基質溶液とした。ヌクレオシダーゼ活性が500u/gとなるように精製水で希釈した各ヌクレオシダーゼ酵素溶液(試料1〜3)0.1mlを基質溶液0.9mlへ添加し、52℃で反応させた。1時間後に反応液を0.1mlずつサンプリングした。10分間煮沸することにより酵素反応を停止させた後、精製水にて2倍希釈し、0.45μmのメンブレンフィルターに通した。フィルター処理後の溶液をHPLCに供し、キサンチン生成量を定量した。
(HPLC分析条件)
カラム::Asahipak GS220-HQ No.M211036
溶媒:150mMリン酸二水素ナトリウム pH2.5
流速:0.5ml/min
カラム温度:35℃
注入量:10μL
検出:260nm
分析時間:60分
1分間に1pmolのグアニンをキサンチンに変換する酵素量を1Uと定義し、以下の計算式でヌクレオシダーゼ酵素溶液のグアニンデアミナーゼ活性を算出した。
グアニンデアミナーゼ活性(u/ml)=反応60分間でのキサンチン生成量(μmol/ml)×1/60×1000000
一方、実施例1の「(3)ヌクレオシダーゼ活性の測定」に記載の方法によって、各ヌクレオシダーゼ酵素溶液(試料1〜3)のヌクレオシダーゼ活性を求め、ヌクレオシダーゼ活性当たりのグアニンデアミナーゼ活性(u/u)を算出した(表1)
Figure 2019155969
<実施例4> マッシング試験
実施例2のヌクレオシダーゼ酵素溶液(試料1〜3)を用いて、マッシング試験を行い、資化性プリン構成比を調べた。粉砕麦芽80g、水320mLとともにヌクレオシダーゼ2400 U相当量を添加して、初発(52℃)および60℃工程のpHをpH4.5に調整してマッシング試験を行い、麦汁を調製した。反応工程を図23に示す。マッシング後の麦汁中の各プリン体量は高速液体クロマトグラフィーにて下記条件で定量的に分析した。
<HPLC条件>
カラム:Asahipak GS-220HQ
移動相:150mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH2.5)
温度:35℃
流速:0.5mL/分
検出:260nm
各ヌクレオシダーゼ酵素溶液の資化性プリン構成比を以下の計算式で算出し、比較した(表2)。尚、資化性プリン構成比は資化性プリン(アデニン、グアニン)と非資化性プリン(アデノシン、グアノシン、イノシン、キサントシン、キサンチン、ヒポキサンチン)の比率である。
資化性プリン構成比(%)=資化性プリン量/(資化性プリン量+非資化性プリン量) ×100
Figure 2019155969
以上の実験結果から、ヌクレオシダーゼ活性当たりのグアニンデアミナーゼ活性と資化性プリン構成比の関係は図25のように表される。従って、資化性プリン構成比を90%以上にするためには、ヌクレオシダーゼ活性当たりのグアニンデアミナーゼ活性は0.4(U/U)以下であり、この条件を満たすヌクレオシダーゼ酵素溶液(試料1)が得られていることを確認できた。
本発明のヌクレオシダーゼ剤は夾雑グアニンデアミナーゼ活性が低く、低プリン体ビール/ビール系飲料の製造に有用である。低プリン体ビール/ビール系飲料の他、各種低プリン体食品又は飲料の製造にも本発明を利用可能である。
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。本明細書の中で明示した論文、公開特許公報、及び特許公報などの内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。

Claims (10)

  1. ヌクレオシダーゼ活性当たりのグアニンデアミナーゼ活性である活性比(U/U)が0.4以下であることを特徴とする、ヌクレオシダーゼ剤。
  2. 前記活性比が0.36以下である、請求項1に記載のヌクレオシダーゼ剤。
  3. 含有するヌクレオシダーゼが、配列番号1若しくは配列番号21のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列と85%以上同一のアミノ酸配列、或いは配列番号2若しくは配列番号22のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列と88%以上同一のアミノ酸配列、を含む、請求項1又は2に記載のヌクレオシダーゼ剤。
  4. 前記ヌクレオシダーゼのアミノ酸配列が、配列番号1若しくは配列番号21のアミノ酸配列又は配列番号2若しくは配列番号22のアミノ酸配列と90%以上同一のアミノ酸配列である、請求項3に記載のヌクレオシダーゼ剤。
  5. 含有するヌクレオシダーゼが下記の酵素学的性質を有する、請求項1又は2に記載のヌクレオシダーゼ剤、
    (1)作用:プリンヌクレオシドをD-リボースとプリン塩基に加水分解する反応を触媒し、アデノシン、アデニン、イノシン、ヒポキサンチン、グアノシン、グアニン及びキサンチンの存在下でも活性を示す、
    (2)分子量:N型糖鎖を含まない場合の分子量が約49 kDa(SDS-PAGEによる)、
    (3)至適温度:55℃〜60℃、
    (4)温度安定性:55℃以下で安定(pH6.0、30分間)。
  6. 含有するヌクレオシダーゼが下記の酵素学的性質を更に有する、請求項5に記載のヌクレオシダーゼ剤、
    (5)至適pH:3.5、
    (6)pH安定性:pH3.5〜7.5の範囲で安定(30℃、30分間)。
  7. 含有するヌクレオシダーゼが下記の酵素学的性質を有する、請求項1又は2に記載のヌクレオシダーゼ剤、
    (1)作用:プリンヌクレオシドをD-リボースとプリン塩基に加水分解する反応を触媒し、アデノシン、アデニン、イノシン、ヒポキサンチン、グアノシン、グアニン及びキサンチンの存在下でも活性を示す、
    (2)分子量:N型糖鎖を含まない場合の分子量が約40 kDa(SDS-PAGEによる)、
    (3)至適温度:50℃〜55℃、
    (4)温度安定性:65℃以下で安定(pH4.5、60分間)。
  8. 含有するヌクレオシダーゼが下記の酵素学的性質を更に有する、請求項7に記載のヌクレオシダーゼ剤、
    (5)至適pH:4.5、
    (6)pH安定性:pH3.5〜7.5の範囲で安定(30℃、30分間)。
  9. 前記ヌクレオシダーゼがペニシリウム・マルチカラー由来である、請求項3〜8のいずれか一項に記載のヌクレオシダーゼ剤。
  10. 前記ペニシリウム・マルチカラーがIFO 7569株又はその変異株である、請求項9に記載のヌクレオシダーゼ剤。
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