JP7071265B2 - ヌクレオシダーゼ - Google Patents
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Description
以上のように、鋭意検討の末、飲料・食品中のプリン体低減に極めて有用な新規ヌクレオシダーゼの取得に成功した。この成果に基づき、以下の発明を提供する。
[1]配列番号1のアミノ酸配列若しくは該アミノ酸配列と85%以上同一のアミノ酸配列、又は配列番号2のアミノ酸配列若しくは該アミノ酸配列と88%以上同一のアミノ酸配列、を含む、ヌクレオシダーゼ。
[2]アミノ酸配列が、配列番号1のアミノ酸配列又は配列番号2のアミノ酸配列と90%以上同一のアミノ酸配列である、[1]に記載のヌクレオシダーゼ。
[3]下記の酵素学的性質を有するヌクレオシダーゼ、
(1)作用:プリンヌクレオシドをD-リボースとプリン塩基に加水分解する反応を触媒し、アデノシン、アデニン、イノシン、ヒポキサンチン、グアノシン、グアニン及びキサンチンの存在下でも活性を示す、
(2)分子量:N型糖鎖を含まない場合の分子量が約49 kDa(SDS-PAGEによる)、
(3)至適温度:55℃~60℃、
(4)温度安定性:55℃以下で安定(pH6.0、30分間)。
[4]下記の酵素学的性質を更に有する、[3]に記載のヌクレオシダーゼ、
(5)至適pH:3.5、
(6)pH安定性:pH3.5~7.5の範囲で安定(30℃、30分間)。
[5]下記の酵素学的性質を有するヌクレオシダーゼ、
(1)作用:プリンヌクレオシドをD-リボースとプリン塩基に加水分解する反応を触媒し、アデノシン、アデニン、イノシン、ヒポキサンチン、グアノシン、グアニン及びキサンチンの存在下でも活性を示す、
(2)分子量:N型糖鎖を含まない場合の分子量が約40 kDa(SDS-PAGEによる)、
(3)至適温度:50℃~55℃、
(4)温度安定性:65℃以下で安定(pH4.5、60分間)。
[6]下記の酵素学的性質を更に有する、[5]に記載のヌクレオシダーゼ、
(5)至適pH:4.5、
(6)pH安定性:pH3.5~7.5の範囲で安定(30℃、30分間)。
[7]ペニシリウム・マルチカラー由来である、[1]~[6]のいずれか一項に記載のヌクレオシダーゼ。
[8]ペニシリウム・マルチカラーがIFO 7569株又はその変異株である、[7]に記載のヌクレオシダーゼ。
[9][1]~[8]のいずれか一項に記載のヌクレオシダーゼ、又は[1]~[8]のいずれか一項に記載のヌクレオシダーゼを産生する微生物の培養液若しくはその精製物を含有するヌクレオシダーゼ剤。
[10]以下の(a)~(c)からなる群より選択されるいずれかのDNAからなるヌクレオシダーゼ遺伝子:
(a)配列番号1又は2のアミノ酸配列をコードするDNA;
(b)配列番号3~6いずれかの塩基配列からなるDNA;
(c)配列番号3~6のいずれかの塩基配列と等価な塩基配列を有し、且つヌクレオシダーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。
[11][10]に記載のヌクレオシダーゼ遺伝子を含む組換えDNA。
[12][11]に記載の組換えDNAを保有する微生物。
[13]以下のステップ(1)及び(2)を含む、ヌクレオシダーゼの製造方法:
(1)[1]~[8]のいずれか一項に記載のヌクレオシダーゼを産生する微生物を培養するステップ;
(2)培養後の培養液及び/又は菌体より、ヌクレオシダーゼを回収するステップ。
[14]微生物がペニシリウム・マルチカラーIFO 7569株又はその変異株である、[13]に記載の製造方法。
[15]以下のステップ(i)及び(ii)を含む、ヌクレオシダーゼの製造法:
(i)[12]に記載の微生物を、前記遺伝子がコードするタンパク質が産生される条件下で培養するステップ;
(ii)産生された前記タンパク質を回収するステップ。
[16]以下のステップ(I)及び(II)を含む、ヌクレオシダーゼ剤の製造方法:
(I)[1]~[8]のいずれか一項に記載のヌクレオシダーゼを産生する微生物を培養するステップ;
(II)培養後に菌体を除去するステップ。
[17]以下のステップを更に含む、[16]に記載の製造方法:
(III)菌体除去後の培養液を精製するステップ。
[18]微生物がペニシリウム・マルチカラーIFO 7569株又はその変異株である、[16]又は[17]に記載の製造方法。
本明細書において用語「単離された」は「精製された」と交換可能に使用される。用語「単離された」は、天然の状態、即ち、自然界において存在している状態のものと区別するために使用される。単離するという人為的操作によって、天然の状態とは異なる状態である、「単離された状態」となる。単離されたものは、天然物自体と明確且つ決定的に相違する。
本発明の第1の局面はヌクレオシダーゼ及びその生産菌を提供する。本発明者らは、ペニシリウム・マルチカラー(Penicillium multicolor)から、食品・飲料中のプリン体低減に有用な2種類のヌクレオシダーゼ(以下、実施例での表記に対応させて「PN1」及び「PN2」と呼ぶ。また、これら二つのヌクレオシダーゼをまとめて「本酵素」と呼ぶことがある)を取得することに成功し、その遺伝子配列及びアミノ酸配列を同定した。当該成果に基づき、本酵素は配列番号1のアミノ酸配列又は配列番号2のアミノ酸配列、或いは、これらのアミノ酸配列のいずれかと等価なアミノ酸配列を含むという、特徴を備える。尚、配列番号1のアミノ酸配列はPN1に対応し、配列番号2のアミノ酸配列はPN2に対応する。
<PN1の酵素学的性質>
(1)作用
PN1はヌクレオシダーゼであり、プリンヌクレオシドをD-リボースとプリン塩基に加水分解する反応を触媒する。プリンヌクレオシドとは、プリン塩基と糖の還元基がN-グリコシド結合で結合した配糖体である。プリンヌクレオシドの例は、アデノシン、グアノシン、イノシンである。また、プリン塩基とは、プリン骨格を有する塩基の総称であり、具体例はアデニン、グアニン、ヒポキサンチン、キサンチンである。尚、プリンヌクレオシド及びプリン塩基の他、プリンヌクレオチド等を含め、プリン骨格を有する化合物をプリン体と総称する。
PN1は天然型では糖鎖を含み(即ち、糖タンパク質である)、N型糖鎖除去前の分子量は約53 kDa(SDS-PAGEで測定した分子量)であった。ゲルろ過クロマトグラフィーで測定すると約126 kDaであり、2量体を形成していると推定される。一方、N型糖鎖除去後にSDS-PAGEで分子量を測定すると約49k Daを示した。従って、N型糖鎖を含まない場合の本酵素の分子量は約49 kDa(SDS-PAGEで測定した分子量)である。
PN1の至適温度は55℃~60℃である。このように至適温度が高いことは、比較的高温での処理工程を経る、食品や飲料の製造への適用に有利である。至適温度は、酢酸緩衝液(pH4.3)を用い、グアノシンを基質とし、反応生成物であるリボースを定量することによって評価することができる。
PN1は酢酸緩衝液(pH4.5)中、60分間処理した場合、45℃以下の温度条件で80%以上の活性を維持する。従って、例えば処理時の温度が5℃~45℃の範囲であれば、処理後の残存活性が80%以上となる。
(5)至適pH
PN1の至適pHは3.5である。至適pHは、例えば、pH2.5~3.5のpH域ではクエン酸緩衝液、pH3.5~5.5のpH域では酢酸緩衝液、pH5.5~6.5のpH域ではリン酸カリウム緩衝液中で測定した結果を基に判断される。
PN1は広いpH域で安定した活性を示す。例えば、処理に供する酵素溶液のpHが3.5~7.5の範囲内にあれば、30℃、30分の処理後、最大活性の80%以上の活性を示す。また、50℃、60分の処理の場合、処理に供する酵素溶液のpHが3.5~7.5の範囲内にあれば、処理後、最大活性の80%以上の活性を示す。尚、pH安定性は、例えば、pH2.5~3.5のpH域ではクエン酸緩衝液、pH3.5~5.5のpH域では酢酸緩衝液、pH5.5~6.5のpH域ではリン酸カリウム緩衝液中で測定した結果を基に判断される。
(1)作用
PN2はヌクレオシダーゼであり、プリンヌクレオシドをD-リボースとプリン塩基に加水分解する反応を触媒する。
PN2は天然型では糖鎖を含み(即ち、糖タンパク質である)、N型糖鎖除去前の分子量は約51 kDa(SDS-PAGEで測定した分子量)であった。ゲルろ過クロマトグラフィーで測定すると約230 kDaであった。一方、N型糖鎖除去後にSDS-PAGEで分子量を測定すると約40 kDaを示した。従って、N型糖鎖を含まない場合の本酵素の分子量は約40 kDa(SDS-PAGEで測定した分子量)である。
PN2の至適温度は50℃~55℃である。このように至適温度が高いことは、比較的高温での処理工程を経る、食品や飲料の製造への適用に有利である。至適温度は、酢酸緩衝液(pH4.3)を用い、グアノシンを基質とし、反応生成物であるリボースを定量することによって評価することができる。
PN2は酢酸緩衝液(pH4.5)中、60分間処理した場合、65℃以下の温度条件で80%以上の活性を維持する。従って、例えば処理時の温度が5℃~65℃の範囲であれば、処理後の残存活性が80%以上となる。
(5)至適pH
PN2の至適pHは4.5である。至適pHは、例えば、pH2.5~3.5のpH域ではクエン酸緩衝液、pH3.5~5.5のpH域では酢酸緩衝液、pH5.5~6.5のpH域ではリン酸カリウム緩衝液中で測定した結果を基に判断される。
PN2は広いpH域で安定した活性を示す。例えば、処理に供する酵素溶液のpHが3.5~7.5の範囲内にあれば、30℃、30分の処理後、最大活性の80%以上の活性を示す。また、50℃、60分の処理の場合、処理に供する酵素溶液のpHが4.5~7.5の範囲内にあれば、処理後、最大活性の80%以上の活性を示す。尚、pH安定性は、例えば、pH2.5~3.5のpH域ではクエン酸緩衝液、pH3.5~5.5のpH域では酢酸緩衝液、pH5.5~6.5のpH域ではリン酸カリウム緩衝液中で測定した結果を基に判断される。
本発明の第2の局面は本酵素をコードする遺伝子に関する。一態様において本発明の遺伝子は、配列番号1又は2のアミノ酸配列をコードするDNAを含む。当該態様の具体例は、配列番号3の塩基配列からなるDNA(配列番号1のアミノ酸配列をコードするcDNAに対応する)、配列番号4の塩基配列からなるDNA(配列番号1のアミノ酸配列をコードするゲノムDNAに対応する)、配列番号5の塩基配列からなるDNA(配列番号2のアミノ酸配列をコードするcDNAに対応する)、配列番号6の塩基配列からなるDNA(配列番号2のアミノ酸配列をコードするゲノムDNAに対応する)である。
本発明の第3の局面はヌクレオシダーゼの製造方法を提供する。本発明の製造方法の一態様では、本酵素を産生する微生物を培養するステップ(ステップ(1))と培養後の培養液及び/又は菌体よりヌクレオシダーゼを回収するステップ(ステップ(2))を行う。本酵素を産生する微生物は例えばペニシリウム・マルチカラーであり、好ましくは、ペニシリウム・マルチカラーIFO 7569株又はその変異株である。変異株は、紫外線、X線、γ線などの照射、亜硝酸、ヒドロキルアミン、N-メチル-N'-ニトロ-N-ニトロソグアニジンなどによる処理等によって得ることができる。
本酵素は例えば酵素剤(ヌクレオシダーゼ剤)の形態で提供される。本酵素剤は、有効成分(即ち、本酵素)の他、賦形剤、緩衝剤、懸濁剤、安定剤、保存剤、防腐剤、生理食塩水などを含有していてもよい。有効成分である本酵素の精製度は特に問わない。即ち、粗酵素であっても精製酵素であってもよい。賦形剤としては乳糖、ソルビトール、D-マンニトール、マルトデキストリン、白糖等を用いることができる。緩衝剤としてはリン酸塩、クエン酸塩、酢酸塩等を用いることができる。安定剤としてはプロピレングリコール、アスコルビン酸等を用いることができる。保存剤としてはフェノール、塩化ベンザルコニウム、ベンジルアルコール、クロロブタノール、メチルパラベン等を用いることができる。防腐剤としては塩化ベンザルコニウム、パラオキシ安息香酸、クロロブタノール等と用いることができる。
(I)本酵素を産生する微生物を培養するステップ
(II)培養後に菌体を除去するステップ
本発明の更なる局面は本酵素又は本酵素剤の用途を提供する。第1の用途としてビール又はビール系飲料の製造方法が提供される。「ビール系飲料」には、麦芽の使用率を減らした「発泡酒」、ビールや発泡酒とは異なる原料、製法でつくられるビール風味の発泡アルコール飲料(一般に「第3のビール」と称される)が含まれる。第3のビールは、原料に麦芽を使用せずに醸造したものと、発泡酒に別のアルコール飲料(代表は大麦スピリッツ)を混ぜたものに大別される。現在の酒税法上では、前者はその他の醸造酒(発泡性)(1)に分類され、後者はリキュール(発泡性)(1)に分類される。以下、ビールの製造に本酵素又は本酵素剤を適用する場合を例として使用態様を説明する。尚、ビール系飲料へ適用する場合もこれに準ずる。
低プリン体ビールの製造に有用な酵素を見出すべく、一万種を超える微生物を対象にスクリーニングを実施した。その結果、4株の微生物、即ち、ペニシリウム・マルチカラー(Penicillium multicolor)IFO 7569株、バチルス・ブレビス(Bacillus brevis)IFO 15304株、ブレビバチルス・リネンズ(Brevibacillus linens)IFO 12141株、ムコール・ヤバニカス(Mucor javanicus) 4068株が有望な候補として同定された。これらの微生物の産生するヌクレオシダーゼについて、ビールの仕込工程での利用を想定し、仕込工程の一般的な条件(マッシング試験)での作用・効果を評価した。
ペニシリウム・マルチカラーIFO 7569株を、下記の培養培地B 100mLに植菌し、500mL容坂口フラスコにて27℃、48~72時間振盪培養した。この前培養液を下記培養培地B 2Lに移して27℃、120~188時間通気撹拌培養した。この培養液を珪藻土ろ過して菌体を除いた培養上清を限外ろ過膜にて濃縮し、凍結乾燥粉末を得た。
1% ラスターゲンFK (日澱化学)
1% 酵母エキス(Difco )
0.5% NaCl
pH7.0
1% ラスターゲンFK (日澱化学)
1% 酵母エキス(Difco)
2% コーンミール(松本ノーサン)
0.5% NaCl
pH6.5
バチルス・ブレビスIFO 15304株とブレビバチルス・リネンズIFO 12141株を上記培養培地A 10mLに植菌し、試験管にて30℃、48時間振盪培養した。一方、ムコール・ヤバニカスIFO 4068株を上記培養培地B 10mLに植菌し、同条件で培養した。培養液をそれぞれ同組成の本培養培地50mLに移して30℃、120時間振盪培養した。この培養液を遠心分離にて菌体除去した上清から凍結乾燥粉末を得た。
ヌクレオシダーゼ活性は、グアノシンを基質とした反応によって生成するリボースを定量することで定義した。反応液1mL中には0.1M 酢酸緩衝液(pH4.3)、8mM グアノシンと適当量の酵素を含む。反応はグアノシン添加で開始し、55℃にて30分間反応させた。1.5mLの0.5%ジニトロサリチル酸溶液を添加して反応を停止した後、10分間煮沸処理した。冷却後の反応溶液の540nmの吸光度を測定し、酵素無添加の反応溶液の吸光度を差し引いた値より活性値を算出した。30分間に1μmolのリボースを生成する酵素量を酵素活性1Uと定義した。
粉砕麦芽80g、水320mLとともにヌクレオシダーゼ320U相当量を添加してマッシング試験を行い、麦汁を調製した。反応工程を図1に示す。マッシング後の麦汁中の各プリン体量は高速液体クロマトグラフィーにて下記条件で定量的に分析した。
カラム:Asahipak GS-220HQ
移動相:150mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH2.5)
温度:35℃
流速:0.5mL/分
検出:260nm
遊離プリン塩基比率(%)={プリン塩基/(プリンヌクレオシド+プリン塩基)}×100
P.multicolorヌクレオシダーゼの特性を調べるため、以下の組成の溶液(以下、模擬麦汁)を用い、作用温度域と作用pH域を検討した。
アデノシン 0.08 mmol/L
アデニン 0.43 mmol/L
イノシン 0.49 mmol/L
ヒポキサンチン 0.08 mmol/L
グアノシン 0.67 mmol/L
グアニン 1.45 mmol/L
キサントシン 0.00 mmol/L
キサンチン 0.08 mmol/L
模擬麦汁2mLにP.multicolorヌクレオシダーゼを9U添加し、各温度にてpH5.5下で1時間反応させた後、HPLCの移動相150mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH2.5)で10倍に希釈して高速液体クロマトグラフィーにて定量的に分析した。以下の計算式で遊離プリン塩基比率を算出した。50℃~60℃の反応温度で遊離プリン塩基比率が90%以上となった(図3)。
遊離プリン塩基比率(%)={プリン塩基/(プリンヌクレオシド+プリン塩基)}×100
模擬麦汁2mLにP.multicolorヌクレオシダーゼを9U添加し、各pHにて55℃で1時間反応させた後、HPLCの移動相150mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH2.5)で10倍に希釈して高速液体クロマトグラフィーにて定量的に分析した。pH4.5~pH6.0はクエン酸緩衝液、pH6.0~6.5はMES緩衝液を使用した。作用温度域の検討の場合と同様に、遊離プリン塩基比率を算出した。クエン酸緩衝液ではpH4.5~pH5.5で遊離プリン体比率が80%以上となった。MES緩衝液ではpH6.0~pH6.5で遊離プリン体比率が80%以上となった(図4)。
ハイドロキシアパタイトカラム、陰イオン交換カラム、疎水カラム、ゲルろ過カラムクロマトグラフィーによってヌクレオシダーゼを精製した。以下に一連の精製工程を示す。まず、ペニシリウム・マルチカラーIFO 7569株の培養液より調製した凍結乾燥粉末0.1gを5mLのバッファー(5mMリン酸カリウム緩衝液(pH6)+0.3M NaCl)で溶解し、同バッファーで平衡化したハイドロキシアパタイトカラム(BioRad)に供した。吸着したタンパク質を5mMから300mMのリン酸のグラジエントで溶出して活性画分を回収した。得られた活性画分をバッファー(20mM リン酸カリウム緩衝液(pH5.5))で透析し、同バッファーで平衡化したDEAE HPカラム(GEヘルスケア)に供した。吸着したタンパク質を0mMから500mMのNaClのグラジエントで溶出したところ、3つのピークを認めた(図5)。Fr.2をピーク1、Fr.8,9をピーク2、Fr.14,15をピーク3と定めた。
ピーク1のN末端アミノ酸配列:ADKHYAIMDNDWYTA(配列番号7)
ピーク2のN末端アミノ酸配列:ADKHYAIMDNDWYTA(配列番号8)
ピーク3のN末端アミノ酸配列:VETKLIFLT(配列番号9)
決定したN末端アミノ酸配列及びヌクレオシダーゼ保存配列から以下の縮重プライマーを設計し、P.multicolorゲノムDNAを鋳型にしてPCRを実施した。
<PN1用縮重プライマー>
FW:ACIAARTAYMGNTTYYTIAC(配列番号10)
RV:CATNCCNCKNGTCCAYTGNCC(配列番号11)
<PN2用縮重プライマー>
FW:GCNATHATGGAYAAYGAYTGGTAYAC(配列番号12)
RV:GCNGCNGTYTCRTCCCARAANGG(配列番号13)
<PN1用PCRプライマー>
FW:ATGGCACCTAAGAAAATCATCATTG(配列番号14)
RV:TTAGTGGAAGATTCTATCGATGAGG(配列番号15)
<PN2用PCRプライマー>
FW:ATGCATTTCCCTGTTTCATTGCCGC(配列番号16)
RV:TCAACGCTCATTTCTCAGGTCGG(配列番号17)
(1)至適温度
DEAE HPカラムより回収されたピーク3のヌクレオシダーゼ(PN1)の至適温度を分析した。各温度における結果を図13に示す。当該条件下での至適温度は55℃~60℃であった。
DEAE HPカラムより回収されたピーク3のヌクレオシダーゼの温度安定性を分析した。各温度でpH4.5にて60分間処理した場合は45℃まで、pH6.0にて30分間処理した場合は55℃までは残存活性80%を示した(図14)。
DEAE HPカラムより回収されたピーク3のヌクレオシダーゼの至適pHを分析した。pH2.5とpH3.5はクエン酸緩衝液、pH3.5とpH4.5とpH5.5は酢酸緩衝液、pH5.5とpH6.5はリン酸カリウム緩衝液を用いた。至適pHはpH3.5であった(図15)。
DEAE HPカラムより回収されたピーク3のヌクレオシダーゼを各pHにて30℃で30分間処理した場合と50℃で60分間処理した場合のpH安定性を分析した。緩衝液は至適pHの検討の場合と同じものを使用し、pH7.5についてはリン酸カリウム緩衝液を用いた。30℃で30分間処理した場合はpH3.5~7.5で、50℃で60分間処理した場合はpH3.5~7.5で80%以上の残存活性を示した(図16)。
PN2のcDNA断片を発現用ベクターのクローニングサイトに挿入し、PN2発現ベクターを構築した。当該発現ベクターでアスペルギルス・オリゼ(A.oryzae(pyrG-))を形質転換した。得られた形質転換体を4日間液体培養した(30℃、300rpm)。培養上清を回収し、ヌクレオシダーゼ活性を測定した。その結果、活性を示す形質転換体が得られていた。また、培養上清を糖鎖除去処理し、電気泳動したところ、推定される分子量と一致するサイズのバンドが確認された(図17)。
組換え生産したPN2を用い、諸性質を検討した。実験方法、条件等はPN1の検討の場合と同様とした。
(1)至適温度
至適温度は50℃~55℃であった(図18)。
各温度でpH4.5にて60分間処理した場合は65℃まで、pH6.0にて30分間処理した場合は55℃までは残存活性80%を示した(図19)。
pH2.5とpH3.5はクエン酸緩衝液、pH3.5とpH4.5とpH5.5は酢酸緩衝液、pH5.5とpH6.5はリン酸カリウム緩衝液を用いた。至適pHはpH4.5であった(図20)。
各pHにて30℃で30分間処理した場合と50℃で60分間処理した場合のpH安定性を分析した。緩衝液は至適pHの検討の場合と同じものを使用した。30℃で30分間処理した場合はpH3.5~7.5で、50℃で60分間処理した場合はpH4.5~7.5で80%以上の残存活性を示した(図21)。
組換え生産したPN2を用いたマッシング試験を行った。試験方法、条件等は上記1.(4)と同様とした。マッシング後の麦汁中の各プリン体量を高速液体クロマトグラフィーで定量分析した。分析結果を図22に示した。PN2(ヌクレオシダーゼ)を添加した麦汁はプリンヌクレオシドが減少し、プリン塩基が増加しているのがわかる。
ペニシリウム・マルチカラーIFO 7569株由来のヌクレオシダーゼのビール又はビール系飲料の製造における有用性を更に確認するため、当該酵素の至適pH付近(pH4.5~5.5)でマッシング試験を行い、所望の効果(即ち、プリン体低減)が得られるか検討した。粉砕麦芽80g、水320mLとともにヌクレオシダーゼ2400U相当量を添加して、初発(52℃)および60℃工程のpHをpH4.5、pH5.0又はpH5.5に調整してマッシング試験を行い、麦汁を調製した。反応工程を図23に示す。マッシング後の麦汁中の各プリン体量は高速液体クロマトグラフィーにて下記条件で定量的に分析した。分析結果を図24に示した。本ヌクレオシダーゼはpH4.5~5.5でマッシングを行っても遊離プリン塩基比率が90%以上となり、十分プリンヌクレオシドが減少し、プリン塩基が増加しているのがわかる。(図24)
カラム:Asahipak GS-220HQ
移動相:150mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH2.5)
温度:35℃
流速:0.5mL/分
検出:260nm
ペニシリウム・マルチカラーIFO 7569株由来のヌクレオシダーゼは、ビールの仕込工程での使用に適した至適温度及び温度安定性を示した。また、pH安定性及び温度安定性に優れ、ビール又はビール系飲料の製造に限らず、様々な用途への適用が可能であることが判明した。このように、飲料・食品中のプリン体低減に極めて有用な新規ヌクレオシダーゼの取得に成功した。
Claims (11)
- 以下(A)又は(B)を含有する、ヌクレオシダーゼ剤であって、食品又は飲料のプリン体含有量を低減させるために用いられる、剤:
(A)配列番号1のアミノ酸配列若しくは該アミノ酸配列と90%以上同一のアミノ酸配列、又は配列番号2のアミノ酸配列若しくは該アミノ酸配列と90%以上同一のアミノ酸配列、を含む、ヌクレオシダーゼ
(B)該ヌクレオシダーゼを産生する微生物の培養液、
該ヌクレオシダーゼを産生する微生物から精製された該ヌクレオシダーゼ、若しくは、
該ヌクレオシダーゼを産生する微生物の培養液から精製された該ヌクレオシダーゼ。 - 前記ヌクレオシダーゼが、下記の酵素学的性質を有する、請求項1記載のヌクレオシダーゼ剤、
(1)作用:プリンヌクレオシドをD-リボースとプリン塩基に加水分解する反応を触媒し、アデノシン、アデニン、イノシン、ヒポキサンチン、グアノシン、グアニン及びキサンチンの存在下でも活性を示す、
(2)分子量:N型糖鎖を含まない場合の分子量が約49 kDa(SDS-PAGEによる)、
(3)至適温度:55℃~60℃、
(4)温度安定性:55℃以下で安定(pH6.0、30分間)。 - 前記ヌクレオシダーゼが、下記の酵素学的性質を更に有する、請求項2に記載のヌクレオシダーゼ剤、
(5)至適pH:3.5、
(6)pH安定性:pH3.5~7.5の範囲で安定(30℃、30分間)。 - 前記ヌクレオシダーゼが、下記の酵素学的性質を有する、請求項1記載のヌクレオシダーゼ剤、
(1)作用:プリンヌクレオシドをD-リボースとプリン塩基に加水分解する反応を触媒し、アデノシン、アデニン、イノシン、ヒポキサンチン、グアノシン、グアニン及びキサンチンの存在下でも活性を示す、
(2)分子量:N型糖鎖を含まない場合の分子量が約40 kDa(SDS-PAGEによる)、
(3)至適温度:50℃~55℃、
(4)温度安定性:65℃以下で安定(pH4.5、60分間)。 - 前記ヌクレオシダーゼが、下記の酵素学的性質を更に有する、請求項4に記載のヌクレオシダーゼ剤、
(5)至適pH:4.5、
(6)pH安定性:pH3.5~7.5の範囲で安定(30℃、30分間)。 - 前記ヌクレオシダーゼが、ペニシリウム・マルチカラー由来である、請求項1~5のいずれか一項に記載のヌクレオシダーゼ剤。
- ペニシリウム・マルチカラーがIFO 7569株又はその変異株である、請求項6に記載のヌクレオシダーゼ剤。
- 前記食品又は飲料が、ビール又はビール系飲料である、請求項1~7のいずれか一項に記載のヌクレオシダーゼ剤。
- 以下(A)又は(B)を含有する、ヌクレオシダーゼ剤であって、食品又は飲料のプリン体含有量を低減させるために用いられる、剤:
(A)下記の酵素学的性質(1)~(6)を有する、ペニシリウム・マルチカラー由来のヌクレオシダーゼ;
(1)作用:プリンヌクレオシドをD-リボースとプリン塩基に加水分解する反応を触媒し、アデノシン、アデニン、イノシン、ヒポキサンチン、グアノシン、グアニン及びキサンチンの存在下でも活性を示す、
(2)分子量:N型糖鎖を含まない場合の分子量が約49 kDa(SDS-PAGEによる)、
(3)至適温度:55℃~60℃、
(4)温度安定性:55℃以下で安定(pH6.0、30分間)、
(5)至適pH:3.5、及び
(6)pH安定性:pH3.5~7.5の範囲で安定(30℃、30分間)、
又は
(B)該ヌクレオシダーゼを産生する微生物の培養液、
該ヌクレオシダーゼを産生する微生物から精製された該ヌクレオシダーゼ、若しくは、
該ヌクレオシダーゼを産生する微生物の培養液から精製された該ヌクレオシダーゼ。 - 以下(A)又は(B)を含有する、ヌクレオシダーゼ剤であって、食品又は飲料のプリン体含有量を低減させるために用いられる、剤:
(A)下記の酵素学的性質(1)~(6)を有する、ペニシリウム・マルチカラー由来のヌクレオシダーゼ;
(1)作用:プリンヌクレオシドをD-リボースとプリン塩基に加水分解する反応を触媒し、アデノシン、アデニン、イノシン、ヒポキサンチン、グアノシン、グアニン及びキサンチンの存在下でも活性を示す、
(2)分子量:N型糖鎖を含まない場合の分子量が約40 kDa(SDS-PAGEによる)、
(3)至適温度:50℃~55℃、
(4)温度安定性:65℃以下で安定(pH4.5、60分間)、
(5)至適pH:4.5、
(6)pH安定性:pH3.5~7.5の範囲で安定(30℃、30分間)、
又は
(B)該ヌクレオシダーゼを産生する微生物の培養液、
該ヌクレオシダーゼを産生する微生物から精製された該ヌクレオシダーゼ、若しくは、
該ヌクレオシダーゼを産生する微生物の培養液から精製された該ヌクレオシダーゼ。 - ペニシリウム・マルチカラーがIFO 7569株又はその変異株である、請求項9又は10に記載のヌクレオシダーゼ剤。
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