JPWO2019151248A1 - 冷カソード形x線管及びその制御方法 - Google Patents
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Abstract
アノード電流の経時的な低下を防止することにより、長時間にわたって安定駆動させることのできる冷カソード形X線管を提供する。冷カソード形X線管(1)は、冷カソードを用いた電子放出素子を含む電子放出部(10)と、電子放出部(10)と対向して配置されるアノード部(11)と、アノード部(11)の表面の一部に配置されたターゲット(12)と、内部に電子放出部(10)、アノード部(11)、及びターゲット(12)が配置された筐体(15)と、電子が衝突すると水素を発生させる材料によって構成され、かつ、筐体(15)の内部に存在する表面のうちターゲット(12)の表面以外の部分に配置された水素発生部(14)と、を備える。
Description
本発明は、冷カソード形X線管及びその制御方法に関する。
従来のX線管は電子放出素子としてフィラメントを用いており、このフィラメントから出る熱電子を電子源としている。これに対し、近年では、電子放出素子として冷カソードを用いるX線管(冷カソード形X線管)もいくつか提案されてきている(例えば、特許文献1〜3)。
冷カソード形X線管には、電子放出素子としてフィラメントを用いるX線管と比較して、電子放出量がカソード表面状態の影響を受けやすいという性質がある。そのため、従来の冷カソード形X線管には、例えばX線管の動作中に発生するガスによって真空度が低下し、その結果としてカソードの表面状態が変化することにより、アノード電流が経時的に低下する場合があるという問題があった。この問題に対応するための方法として、引き出し電圧を徐々に上げていくという方法が知られている(例えば、非特許文献1,2)。
なお、フィールドエミッションディスプレイの例であるが、非特許文献3には、スピント型のMo材料を使った冷カソードアレイを用いる場合に動作中の真空管内で酸化性ガスが発生し、その結果としてアノード電流の経時的な低下が発生することが記載されている。また、非特許文献4には、このようなアノード電流の低下を防止するために水素ガスが有効であることが記載されている。非特許文献4に記載の技術では、カソードからアノードに向かう電子(一次電子)の流れの中にメタルハイドライドが配置され、電子がメタルハイドライドに衝突する際に発生する水素ガスが利用される。
IVNC2013 P15 Stable, High Current Density Carbon Nanotube Field Emission Devices (D.Smith et.al)、Proc. Of SPIE Vol.7622 76225M-1 Distributed source X-ray technology for Tomosynthesis imaging (F.Sprenger, et.al)
Proc. Of SPIE Vol.7622 76225M-1 Distributed source X-ray technology for Tomosynthesis imaging (F.Sprenger, et.al)
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しかしながら、上記従来の技術では、冷カソード形X線管で発生するアノード電流の経時的な低下を十分に抑止することは困難である。すなわち、まず引き出し電圧を徐々に上げていくという方法については、引き出し電圧が大きくなりすぎると放電が発生してしまうため、アノード電流の経時的な低下を十分にカバーすることができない。また水素ガスを利用する方法については、カソードからアノードに向かう電子(一次電子)の流れの中にメタルハイドライドを配置するためには、ターゲットにメタルハイドライドをコーティングする必要がある、という点がネックとなり、そのままでは冷カソード形X線管に適用できない。以下、この点について、詳しく説明する。
X線管の場合、アノード表面のうち、カソードからアノードに向かう電子(一次電子)の流れが直接衝突する部分には、X線の発生源であるターゲットが配置される。したがって、カソードからアノードに向かう電子(一次電子)の流れの中にメタルハイドライドを配置するためには、ターゲットにメタルハイドライドのコーティングを施す必要がある。
しかしながら、ターゲットには高温のベーキング処理をする必要があり、そのようなベーキング処理を行うとメタルハイドライドから水素が脱離してしまうことから、水素ガスを発生させる目的でターゲットにメタルハイドライドのコーティングを施すことは困難である。また、ターゲットはX線管の動作時にも高温になるため、仮にメタルハイドライドでコーティングできたとしても、動作中の高温によってメタルハイドライドに膜剥がれやクラックが発生し、水素ガス供給源としての役割を果たせなくなってしまう。
したがって、本発明の目的は、アノード電流の経時的な低下を防止することにより、長時間にわたって安定駆動させることのできる冷カソード形X線管を提供することにある。
本発明による冷カソード形X線管は、冷カソードを用いた電子放出素子を含む電子放出部と、前記電子放出部と対向して配置されるアノード部と、前記アノード部の表面の一部に配置されたターゲットと、内部に前記電子放出部、前記アノード部、及び前記ターゲットが配置された筐体と、電子が衝突すると水素を発生させる材料によって構成され、かつ、前記筐体の内部に存在する表面のうち前記ターゲットの表面以外の部分に配置された水素発生部と、を備える。
冷カソード形X線管においては、アノード表面のうちカソードからアノードに向かう電子の流れが直接衝突する部分以外(筐体の内部に存在するその他の表面を含む)にも、散乱した電子が衝突するので、本発明によれば、ターゲットの表面以外の部分に水素発生部を配置しているにもかかわらず、X線管の動作中に水素ガスを発生させることができる。したがって、アノード電流の経時的な低下が防止されるので、長時間にわたって安定駆動させることのできる冷カソード形X線管を提供することが可能になる。
以下、添付図面を参照しながら、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1(a)は、本発明の実施の形態による冷カソード形X線管1の模式的な断面図である。同図に示すように、X線管1は、電子放出部10と、アノード部11と、ターゲット12と、フォーカス構造13と、水素発生部14とが筐体15の内部に配置された構造を有している。同図には、X線管1の制御装置2についても図示している。
筐体15は、ガラス、セラミックス、及びステンレスのいずれかにより構成される密閉部材である。図示していないが筐体15にはバルブが設けられており、必要に応じ、このバルブを通じて筐体15の内部の排気及び筐体15の内部へのガス注入が行われる。例えば、制御装置2の制御によって冷カソード形X線管1を動作させる前には、真空ポンプを用いて筐体15の内部を排気することによって真空状態を作り、一方で、水素ガス又は水素ガスと窒素ガスの混合ガスを筐体15の内部に注入することによって、水素ガスを水素発生部14に吸着させる。これは、水素発生部14から好適に水素ガスが発生するようにするための処理である。
図1(b)は、電子放出部10の模式的な断面図である。同図に示すように、電子放出部10は、カソード部20と、カソード部20の上面に配置される複数の電子放出素子21と、マトリクス状に配置された複数の開口部22hを有するゲート電極22とを備えて構成される。複数の電子放出素子21はそれぞれスピント型の冷カソードであり、開口部22h内に1つずつ配置される。各電子放出素子21の上端は、開口部22h内に位置している。カソード部20には制御装置2からグランド電位GNDが供給され、ゲート電極22には制御装置2からゲート電圧Vgが供給される。
アノード部11は、電子放出部10と対向して配置されたアノード面11aを有する金属部材であり、具体的には銅(Cu)によって構成される。アノード部11には電源Pのプラス側端子が接続されており、したがって、図1(b)に示したゲート電極22がオンとなっている場合、電源Pからアノード部11、電子放出部10、カソード部20を通って電流(アノード電流)が流れることになる。このとき、図1(b)に示した各電子放出素子21から複数の電子(一次電子)が放出される。これらの電子はアノード面11aに衝突し、アノード部11内を通って電源Pに吸収される。アノード面11aは、図1(a)に示すように、電子の移動方向(図面上では、左から右に向かう方向)に対して傾斜して形成されている。
ターゲット12は、電子を受けてX線を発生する材料によって構成された部材であり、アノード面11aのうち各電子放出素子21から放出された電子が直接衝突する部分を覆うように配置される。ターゲット12がアノード面11a上に配置されていることから、アノード面11aに衝突する複数の電子の一部又は全部はターゲット12を通過し、通過の際に、ターゲット12内でX線が発生する。こうして発生したX線の放射方向は、アノード面11aの傾斜のために図面下向きとなる。
フォーカス構造13は、電子放出部10から放出された電子の軌道を修正する機能を有する構造物であり、電子放出部10と、アノード面11aに配置されるターゲット12との間に配置される。フォーカス構造13は窓13hを有しており、電子放出部10から放出された電子は、この窓13hを通ってターゲット12に向かう。フォーカス構造13には、制御装置2からフォーカス電圧Vfが供給される。このフォーカス電圧Vfは、フォーカス構造13による電子軌道の修正量を制御する役割を果たす。なお、フォーカス構造13は2つ以上の領域に分かれていてもよく、その場合、各領域に異なるフォーカス電圧Vfを印加することで、アノード面11aにおける電子線の焦点位置を調整することが可能になる。
制御装置2は、予め書き込まれたプログラム又は外部からの指示に従って動作する処理装置であり、カソード部20にグランド電位GNDを供給する機能、ゲート電極22にゲート電圧Vgを供給する機能、及び、フォーカス構造13に対してフォーカス電圧Vfを供給する機能を有する。X線管1は、制御装置2の制御によってゲート電極22へのゲート電圧Vgの供給が開始された場合に動作中となり、X線の放射を開始する。
水素発生部14は、電子が衝突すると水素を発生させる材料によって構成される部材である。そのような材料として具体的には、シリコン窒化膜(SiN)、シリコン炭化膜(SiC)、シリコン炭窒化膜(SiCN)、アモルファス炭素膜(a−C)、又は、ダイヤモンドライクカーボン膜(DLC)が挙げられる。
水素発生部14は、筐体15の内部に存在する表面のうちターゲット12の表面以外の部分に配置される。具体的には、図1(a)に示すように、アノード部11を構成する金属の表面のうちターゲット12が配置されていない部分に配置される。なお、アノード部11を構成する金属の表面のうち電子放出部10から放出された一次電子が直接衝突する部分を避けて、水素発生部14を配置することとしてもよい。
水素発生部14の形成は、例えばプラズマCVD(Plasma-Enhanced Chemical Vapor Deposition)によって行うことが好適である。プラズマCVDを用いることによって、対象の表面を覆う薄膜により水素発生部14を構成することが可能になる。一例を挙げると、例えば水素発生部14をダイヤモンドライクカーボン膜(DLC)によって構成する場合であれば、メタン(CH4)をソースガスとしたプラズマCVDを用い、1Pa、200℃の条件で1μmの薄膜を形成することにより、水素発生部14を形成することが好ましい。
電子放出部10から放出された一次電子がアノード面11a上に形成されたターゲット12に衝突すると、ターゲット12からはX線の他に二次電子が放出される。この二次電子の少なくとも一部は、ターゲット12の後方に回り込み、アノード部11の表面に衝突する。そこには水素発生部14が配置されているので、衝突した電子により水素ガスが発生することになる。これにより筐体15内のガス雰囲気(分圧)が調整され、その結果として、アノード電流の経時的な低下が防止される。
以上説明したように、本実施の形態による冷カソード形X線管1によれば、アノード電流の経時的な低下が防止されるので、長時間にわたって安定駆動させることのできる冷カソード形X線管を提供することが可能になる。また、本実施の形態による冷カソード形X線管1によれば、ターゲット12の表面に水素発生部14を形成しているわけではないので、水素発生部14に膜剥がれやクラックが発生し、水素ガス供給源としての役割を果たせなくなってしまうことも回避できる。
図2は、冷カソード形X線管のアノード電流の時間変化を模式的に示す図である。同図では、横軸を時間とし、縦軸をアノード電流としている。同図に示す曲線C1は本実施の形態による冷カソード形X線管1におけるアノード電流の変化を示し、曲線C2は本実施の形態による冷カソード形X線管1から水素発生部14を取り除いた状態の冷カソード形X線管におけるアノード電流の変化を示している。
図2に示すように、水素発生部14がないと時間の経過とともにアノード電流が減少してしまうが、水素発生部14があると、時間を経ても一定のアノード電流が流れ続ける。このように、本実施の形態によれば、水素発生部14を設けたことによって、アノード電流の経時的な低下を防止することが可能になる。
図3は、本発明の実施の形態の第1の変形例による冷カソード形X線管1の模式的な断面図である。本変形例では、アノード部11の表面ではなくフォーカス構造13の表面に水素発生部14が配置される。なお、図3にも示すように、フォーカス構造13の表面の全体ではなく、電子放出部10と対向する面の反対側の面のみに水素発生部14を配置することが好ましい。水素発生部14の構成材料及び形成方法は、アノード部11の表面に形成する場合と同様でよい。
本変形例によれば、電子放出部10から放出された電子のうち、横方向に散乱したもの(後方散乱電子)が水素発生部14に衝突することになる。したがって、上記実施の形態の場合と同様に水素ガスが発生するので、本変形例によっても、アノード電流の経時的な低下を防止することができ、その結果として、長時間にわたって安定駆動させることのできる冷カソード形X線管を提供することが可能になる。また、水素発生部14に膜剥がれやクラックが発生し、水素ガス供給源としての役割を果たせなくなってしまうことも回避できる。
図4は、本発明の実施の形態の第2の変形例による冷カソード形X線管1の模式的な断面図である。本変形例では、アノード部11の表面やフォーカス構造13の表面ではなく、筐体15の内壁の一部に水素発生部14が配置される。具体的には、図4に示すように、筐体15中央の円筒形部分の内壁の全周にわたって、水素発生部14が形成される。水素発生部14の構成材料及び形成方法は、アノード部11の表面に形成する場合と同様でよい。
本変形例によっても、電子放出部10から放出された電子のうち、横方向に散乱したもの(後方散乱電子)が水素発生部14に衝突することになる。したがって、上記実施の形態や第1の変形例の場合と同様に水素ガスが発生するので、本変形例によっても、アノード電流の経時的な低下を防止することができ、その結果として、長時間にわたって安定駆動させることのできる冷カソード形X線管を提供することが可能になる。また、水素発生部14に膜剥がれやクラックが発生し、水素ガス供給源としての役割を果たせなくなってしまうことも回避できる。
以上、本発明の好ましい実施の形態について説明したが、本発明はこうした実施の形態に何等限定されるものではなく、本発明が、その要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施され得ることは勿論である。
1 冷カソード形X線管
2 制御装置
10 電子放出部
11 アノード部
11a アノード面
12 ターゲット
13 フォーカス構造
13h 窓
14 水素発生部
15 筐体
20 カソード部
21 電子放出素子
22 ゲート電極
22h 開口部
P 電源
T トランジスタ
2 制御装置
10 電子放出部
11 アノード部
11a アノード面
12 ターゲット
13 フォーカス構造
13h 窓
14 水素発生部
15 筐体
20 カソード部
21 電子放出素子
22 ゲート電極
22h 開口部
P 電源
T トランジスタ
Claims (6)
- 冷カソードを用いた電子放出素子を含む電子放出部と、
前記電子放出部と対向して配置されるアノード部と、
前記アノード部の表面の一部に配置されたターゲットと、
内部に前記電子放出部、前記アノード部、及び前記ターゲットが配置された筐体と、
電子が衝突すると水素を発生させる材料によって構成され、かつ、前記筐体の内部に存在する表面のうち前記ターゲットの表面以外の部分に配置された水素発生部と、
を備える冷カソード形X線管。 - 前記電子放出部と前記ターゲットの間にフォーカス構造をさらに備え、
前記水素発生部は、前記フォーカス構造の表面に配置される、
請求項1に記載の冷カソード形X線管。 - 前記アノード部は金属によって構成され、
前記水素発生部は、前記金属の表面のうち前記ターゲットが配置されていない部分に配置される、
請求項1に記載の冷カソード形X線管。 - 前記筐体の内壁の少なくとも一部は、ガラス、セラミックス、及びステンレスのいずれかにより構成され、
前記水素発生部は、前記筐体の内壁の前記少なくとも一部に配置される、
請求項1に記載の冷カソード形X線管。 - 前記水素発生部は、プラズマCVDによって形成されたシリコン窒化膜(SiN)、シリコン炭化膜(SiC)、シリコン炭窒化膜(SiCN)、アモルファス炭素膜(a−C)、又は、ダイヤモンドライクカーボン膜(DLC)によって構成される、
請求項1に記載の冷カソード形X線管。 - 請求項1乃至5のいずれか一項に記載の冷カソード形X線管の制御方法であって、
前記冷カソード形X線管が動作中でないときに、水素ガス又は水素ガスと窒素ガスの混合ガスを前記冷カソード形X線管の内部に注入することにより、前記水素発生部に水素を吸着させる、
冷カソード形X線管の制御方法。
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