本発明の実施形態について図面を参照して説明する。なお、図面は模式的なものであり、長さや大きさの比率等は、図面に示したものに限らない。また、以下の説明における水平、垂直、鉛直、直交等の記載は、厳密に水平、垂直、鉛直、直交等を示す場合に限らない。水平、垂直、鉛直、直交等との記載は、それぞれ、略水平、略垂直、略鉛直、略直交等の意味を含み得る。
なお、以下の説明では、昆虫網鱗翅目メイガ科マダラメイガ亜科に属する昆虫(蛾、ガ)をマダラメイガ(Phycitinae)と記載する。屋内性のマダラメイガは、少なくとも、チャマダラメイガ(英名:Tobacco moth、学名:Ephestia elutella)、ノシメマダラメイガ(英名:Indian meal moth、学名:Plodia interpunctella)、スジマダラメイガ(英名:Dried currant moth、学名:Cadra cautella)及びスジコナマダラメイガ(英名:Mediterranean flour moth、学名:Ephestia kuehniella)を含む。
マダラメイガは、性フェロモンの研究が進んでいる。性フェロモンを利用したマダラメイガ成虫の捕獲器(フェロモントラップ)は、成虫発生のモニタリングに用いられている。ただし、性フェロモンは雄の成虫には有効であるが、雌の成虫には有効ではないため、フェロモントラップを用いても、捕殺による防除効果は期待できない。
屋内性マダラメイガ成虫は、食品工場や倉庫、一般家庭内で発生する。このため、屋内性マダラメイガ成虫の防除においては、殺虫剤の使用が制限され、非化学的防除手段による解決が望まれている。一般的に、多くの昆虫は雌雄に関わらず光に誘引されることが知られている。そのため、非化学的防除手段の一つとして、多くの害虫に対しては光源を備えた捕獲器(ライトトラップ)が広く普及している。一方、マダラメイガ成虫については、実験室内では誘引光への誘引性が観察されているものの、倉庫等の広い空間(実環境)では従来のライトトラップへの捕獲性が著しく低いことが知られている。
実験室内では誘引性を示す光源が実環境においては誘引性を示さない現象の原因を明らかにするため、マダラメイガ成虫の光に対する行動を詳細に解析した。本解析の結果、光には、光量子束密度(放射照度)の違いによってマダラメイガ成虫の誘引と行動抑制という相反する行動を誘起する性質があることが明らかとなった。本解析によれば、低光量子束密度の光源は、マダラメイガ成虫に対して誘引性を示す。一方で、高光量子束密度の光源は、マダラメイガ成虫の行動を抑制する効果を示す。すなわち、従来のライトトラップでは、光で誘引されたマダラメイガ成虫にトラップ近傍で行動抑制がかかってしまうため、捕獲できないことが分かった。
さらにマダラメイガ成虫の光源への接近経路(移動経路、移動領域)を観察した。本観察の結果、マダラメイガ成虫は、床面近くを飛翔又は歩行してから光源へ接近していることが分かった。
これらのことから、光源下方への光量をマダラメイガ成虫に行動抑制がかかる光量未満に制限することによって、マダラメイガ成虫を効率的に捕獲できることが示された。以下、これらの知見に基づいたマダラメイガ成虫を誘引する誘引方法及び光源装置と、マダラメイガ成虫を誘引して捕獲する捕獲方法及び捕獲器について詳細に説明する。
以下の説明では、マダラメイガ成虫に行動抑制がかかる誘引光の光量、すなわち、マダラメイガ成虫に行動抑制が生じる光量子束密度の値を行動抑制光量と記載する。誘引光の光量子束密度の値が行動抑制光量以上である領域を行動抑制領域と記載する。誘引光の光量子束密度の値が行動抑制光量未満である領域を非行動抑制領域と記載する。また、行動抑制領域と非行動抑制領域との境界(行動抑制光量の閾値)を行動抑制境界面と記載する。行動抑制境界面は、光量子束密度の値が行動抑制光量である位置を示す点の集合(面)であるとも表現できる。さらに、誘引光に誘引されたマダラメイガ成虫が誘引光を射出する射出端の近傍へ移動する経路を移動経路(接近経路)と記載し、移動経路と成り得る領域を移動領域と記載する。また、移動領域と移動領域外との境界を移動境界面と記載する。
以下の説明では、マダラメイガ成虫を誘引光の射出端の近傍にまで案内する領域を案内経路と記載する。ここで、案内経路は、光源(射出端)高さと床面との間の領域のうち、マダラメイガの「移動領域内」かつ「非行動抑制領域内」の領域である。なお、案内経路は、「移動領域内の非行動抑制領域」である場合と、「非行動抑制領域内の移動領域」である場合とがあり得る。また、案内経路と案内経路外の領域との境界を基準面として記載する。ここで、案内経路が「移動領域内の非行動抑制領域」であるとき、基準面は行動抑制境界面である。案内経路が「非行動抑制領域内の移動領域」であるとき、基準面は移動境界面である。
[第1の実施形態]
<構成>
本実施形態に係る捕獲器1の構成例の概略について正面図(左)と側面図(右)とを並べて模式図として図1に示す。また、捕獲器1から射出される誘引光について説明するための図を図2に示す。
本実施形態に係る捕獲器1は、図1に示すように、光源部10と、捕獲部20と、支持部材30とを備える。光源部10と捕獲部20とは、支持部材30に配置されている。捕獲器1は、例えば支持部材30の下端(捕獲器1の下端)が床面と接するようにして配置される。捕獲器1は、例えば支持部材30の裏面(X−側の面)が壁面と接するようにして配置される。
以下、説明の簡単のために、重力方向をZ−方向と定義し、Z方向に垂直、かつ、捕獲器1に対して誘引光が射出される側の方向をX+方向と定義し、Z方向及びX方向に垂直な方向をY方向と定義する。
光源部10は、誘引光を所定の射出特性で射出できるように構成されている。射出特性は、誘引光の放射強度、放射角度、波長等の各種特性を含む。図2に、本実施形態に係る誘引光の射出特性について説明するための図を示す。図2では、指向性を有する誘引光が光源部10の射出端から水平方向(X+方向)に向けて射出されている場合が例として示されている。図2には、簡単のため、誘引光の射出端の高さ(誘引光の光軸)より下側のみ示している。本実施形態に係る光源部10は、所定の放射強度(光量子束密度)で、誘引光を所定の時間、連続的に射出する。本実施形態並びに以下の各実施形態及び変形例において、誘引光は、連続光あるいは、いずれの周波数の点滅光であってもよく、所定の放射強度の調整には、何れの方法を用いてもよい。所定の時間とは、数分間から数時間、数時間から数日間、或いは、数日間から数か月間、の何れの時間間隔であってよく、何れの時間間隔であっても一定の捕虫効果が認められる。
図2に示す場合では、行動抑制境界面IBは、光源部10の誘引光を射出する光軸より鉛直方向の下側(Z−側、以下単に下側という)に位置し、行動抑制領域SAと非行動抑制領域WAとの境界である。このとき、行動抑制境界面IBは、誘引光のうち、光軸から所定の角度以上外れた誘引光であって光量子束密度が行動抑制光量にまで低下している誘引光によって形成されている。したがって、例えば図2に示すように、指向性を有する誘引光が円錐状に射出されているとき、その行動抑制境界面IBは、当該円錐の外周面の一部である。なお、行動抑制境界面IBの角度や位置、面積、形状等は、行動抑制領域SAと非行動抑制領域WAとの形状等に応じて適宜決定され得る。なお、光源部10は、行動抑制境界面IBより鉛直方向の上側(Z+側、以下単に上側という)に、所定の放射強度(光量子束密度)で、誘引光を所定の時間、連続的に射出するとも表現できる。
光源部10の射出する誘引光は、マダラメイガの成虫(マダラメイガ成虫)を誘引できる性質を有する光である。誘引光がマダラメイガを誘引できるか否かは、例えば、光(誘引光)の強さ、波長等に依存する。本実施形態に係る誘引光は、375〜380nmを中心波長とする紫外光であるが、これに限らない。誘引光は、マダラメイガ成虫を誘引できる波長の光であればよい。誘引光は、紫外領域以外の波長成分を含んでいてもよい。
光源部10の誘引光の放射強度は、捕獲部20の近傍(図2に示す計測位置MP)における誘引光の放射照度[μW/cm2]が0.1〜5となる放射強度であることが好ましい。また、同位置における誘引光の光量子束密度[photons/m2/s]は、0.1×1014〜10×1014であることが好ましい。
光源部10は、図1に示すように、光源11を備える。ここで、図2に示すように、光源11の光軸と行動抑制境界面IBとの成す角を、光源11の配光角(θ/2)と定義する。光源11は、狭い配光角である狭角配光角(θn/2)の光線(誘引光)を射出できるように構成されている。例えば、射出された誘引光の狭角配光角θn/2は、L×tan(θn/2)<Hの関係を満たす範囲の角度である。ここで、Lは所定の光量子束密度で射出された誘引光の光量子束密度の値が、大気中で行動抑制光量未満にまで減衰する距離であり、Hは光源11の射出端の高さである。光源11の高さHが30cmであれば、光源11の狭角配光角(θn/2)は、例えば、0°〜53°(限界配光角θc/2)であることが好ましい。本実施形態に係る光源11の狭角配光角(θn/2)は、15°である。本実施形態に係る光源11は、紫外光(誘引光)を射出できる発光ダイオード(LED)であるが、これに限らない。光源11は、例えば、蛍光灯、白熱電球、ネオンランプ、水銀灯、ハロゲンランプ等であってもよい。
捕獲部20は、誘引光に誘引されたマダラメイガを捕獲できるように構成されている。捕獲部20は、例えば、光源部10の近傍に配置されている。捕獲部20は、例えば、誘引光の光量子束密度が所定の値未満である領域(案内経路)内に配置されている。捕獲部20は、X+側の面に捕獲部材を備える。捕獲部材は、捕獲部材に接触したマダラメイガを捕獲できるものであればよい。捕獲部材は、例えば、粘着シート(捕獲紙)等の粘着部材、電撃殺虫器のように接触したマダラメイガに電圧を印加して捕獲する部材、上面(入口)がロート状に形成されて内部に水や殺虫剤を備える部材、吸引式の捕獲部材、水盤等であってもよいし、これらの組み合わせであってもよい。また、捕獲部20は、案内経路内に複数の捕獲部材を備えていてもよく、案内経路外の領域に配置された捕獲部材を含んでいてもよい。
本実施形態に係る捕獲部20は、図1に示すように、下側捕獲部21と、上側捕獲部22とを備える。下側捕獲部21は、光源11の近傍、かつ、下側(Z−側)に配置されている。上側捕獲部22は、光源11の近傍、かつ、上側(Z+側)に配置されている。下側捕獲部21及び上側捕獲部22の捕獲部材は、例えば交換可能な粘着シートである。
支持部材30は、光源部10と捕獲部20とを支持する。本実施形態に係る支持部材30は矩形の板状であるが、これに限らない。支持部材30は、所定の位置や角度で光源部10と捕獲部20とを支持できる形状、材質であれば何でもよい。なお、光源部10と捕獲部20とは一体に構成されていなくてもよい。
<作用>
光源部10は、図2に示すように、誘引光の射出によって行動抑制境界面IB1より上側(Z+側)に行動抑制領域SA1を形成する。すなわち、誘引光の放射強度、放射角度等の光源部10の射出特性は、射出した誘引光が行動抑制領域を形成できるように設定されている。また、光源部10は、図2に示すように、誘引光の射出によって行動抑制境界面IB1より下側(Z−側)に非行動抑制領域WA1を形成する。すなわち、誘引光の放射強度、放射角度等の光源部10の射出特性は、射出した誘引光が案内経路をさらに形成できるように設定されている。
行動抑制領域SA1は、誘引光の放射照度(光量子束密度)の値が、マダラメイガ成虫に行動抑制が生じる割合(行動抑制割合)が高いときの値(行動抑制光量)以上の領域である。誘引光の放射照度(光量子束密度)の値は、光源部10の射出特性と、光源部10の射出端との相対位置とによって変化する。例えば、活動していたマダラメイガ成虫の行動抑制割合が8割以上のとき、行動抑制割合は高いと表現できる。
非行動抑制領域WA1は、誘引光の放射照度(光量子束密度)の値が、行動抑制割合が低いときの値(行動抑制光量)未満の領域である。したがって、非行動抑制領域WA1は、誘引光に誘引されたマダラメイガを捕獲部20にまで案内するための領域であると表現できる。例えば、活動していたマダラメイガ成虫の行動抑制割合が8割未満のとき、行動抑制割合は低いと表現できる。
なお、行動抑制境界面IB1は、光源部10の誘引光を射出する光軸より下側(Z−側)に位置し、行動抑制領域SA1と非行動抑制領域WA1との境界である。
なお、案内経路は、少なくとも行動抑制境界面IBより下側(Z−側)に形成される。これは、誘引光に誘引されたマダラメイガ成虫が光源部10の近傍に配置されている捕獲部20にまで移動する移動経路(移動領域)が、誘引光の光軸に対して下側(Z−側)から誘引光の射出端へ向かう経路である傾向が高いことに基づく。このため、案内経路は、少なくとも行動抑制領域SAと床面3との間に形成される。
なお、本実施形態に係る捕獲方法及び捕獲器1は、上述したように、誘引光の射出によって案内経路を形成し、誘引光に誘引されたマダラメイガ成虫を案内経路によって光源11(誘引光の射出端)の近傍にまで案内し、マダラメイガ成虫を捕獲するものである。すなわち、本実施形態に係る光源部10は、マダラメイガ成虫を誘引する光源装置であるとも表現できる。同様に、本実施形態に係る技術は、マダラメイガ成虫を誘引する誘引方法を含む。
<効果>
本実施形態に係る誘引方法、捕獲方法、光源部10(光源装置)、捕獲器1によれば、以下のことが言える。
本実施形態に係るマダラメイガ成虫の誘引方法は、マダラメイガ亜科に属する蛾の成虫である屋内性のマダラメイガ成虫の誘引方法であって、所定の光量子束密度で所定の時間以上、誘引光を射出し、誘引光の射出端(光源11)の高さより下側で所定の光量子束密度より小さい光量子束密度を有する領域内にマダラメイガ成虫を射出端の近傍にまで案内する案内経路を形成する。また、本実施形態に係るマダラメイガ成虫を誘引するための光源装置(光源部10)は、所定の光量子束密度で誘引光を射出し、誘引光の射出によって、誘引光の射出端(光源11)の高さより下側で所定の光量子束密度より小さい光量子束密度を有する領域内にマダラメイガ亜科に属する蛾の成虫である屋内性のマダラメイガ成虫を射出端の近傍にまで案内する案内経路を形成する。
この方法及び構成によれば、誘引光の射出によって誘引光の射出端より下側の領域内に案内経路を形成し、マダラメイガ成虫を誘引光の射出端の近傍にまで誘引できる。一方で、案内経路以外の領域では、所定の光量子束密度のままであってもよい。すなわち、案内経路を形成できれば、案内経路以外の領域に照射される誘引光の光量子束密度は問われない。したがって、この方法及び構成によれば、広いマダラメイガ成虫の誘引範囲を保ちつつ、案内経路によってマダラメイガ成虫を誘引できる。
本実施形態に係るマダラメイガ成虫の捕獲方法は、上述の誘引方法に加え、さらに案内経路内で誘引光に誘引されたマダラメイガ成虫を捕獲する。また、本実施形態に係るマダラメイガ成虫の捕獲器1は、上述の光源部10と、案内経路内に配置され、誘引光で誘引されたマダラメイガ成虫を捕獲可能な捕獲部20とを備える。
この方法及び構成によれば、誘引光の射出によって形成された案内経路でマダラメイガ成虫を誘引光の射出端の近傍にまで誘引し、捕獲できる。なお、捕獲は案内経路内で行われればよく、捕獲部20は、少なくとも案内経路内に配置されていればよい。
上述の誘引方法、捕獲方法、光源装置及び捕獲器1において、案内経路は、射出端の高さと床面との間の領域内のうち、誘引光の光量子束密度の値が前記マダラメイガ成虫に行動抑制が生じる光量子束密度の値(行動抑制光量)未満である非行動抑制領域内にある。この方法及び構成によれば、案内経路内をマダラメイガ成虫に行動抑制が生じない又は生じる割合が低い領域とすることができるため、マダラメイガ成虫に行動抑制を生じさせることなく又は生じさせる割合を低減させつつ、広い範囲のマダラメイガ成虫を誘引又は捕獲できる。
上述の誘引方法、捕獲方法、光源装置及び捕獲器1において、案内経路は、射出端の高さと床面との間の領域内のうち、誘引光の光量子束密度の値が前記マダラメイガ成虫に行動抑制が生じる光量子束密度の値(行動抑制光量)未満である非行動抑制領域内、かつ、誘引光に誘引されたマダラメイガ成虫が射出端の近傍へ移動する移動領域内にある。ここで、誘引光に誘引されたマダラメイガ成虫の移動領域内に非行動抑制領域があってもよいし、非行動抑制領域内に移動領域があってもよい。この方法及び構成によれば、案内経路は、誘引光に誘引されたマダラメイガ成虫の移動領域であり、マダラメイガ成虫に行動抑制が生じない又は生じる割合が低い領域(非行動抑制領域)であるため、マダラメイガ成虫の誘引割合及び捕獲割合を向上させることができる。
上述の誘引方法及び捕獲方法において、誘引光の射出は、指向性を有する誘引光を射出することである。また、上述の光源装置及び捕獲器1において、誘引光は指向性を有する。この方法及び構成によれば、上述の案内経路を簡易に形成できる。例えば、配光角θ/2は、0°≦θ/2≦53°の関係を満たす。
上述の誘引方法、捕獲方法、光源装置及び捕獲器1において、案内経路は、射出端が配置されている面から床面と略平行に15cm以内の領域及び床面からの高さが30cm以内の領域である。この方法及び構成によれば、マダラメイガ成虫に行動抑制を生じさせることなく又は生じさせる割合を低減させつつ、広い範囲のマダラメイガ成虫を誘引又は捕獲できる。つまり、誘引光の光軸より下側から誘引光の射出端へ向かって移動するマダラメイガ成虫を適切に誘引又は捕獲できる。
上述の誘引方法、捕獲方法、光源装置及び捕獲器1において、誘引光の射出は、水平方向に向けて行われ、案内経路内における誘引光の光量子束密度d[photons/m2/s]は、0<d<2×1014又は0<d≦0.1×1014の関係を満たす値である。この方法及び構成によれば、マダラメイガ成虫に行動抑制を生じさせることなく又は生じさせる割合を低減させつつ、マダラメイガ成虫を誘引又は捕獲できる。
上述の誘引方法及び捕獲方法において、誘引光は、少なくとも1つの発光ダイオード(LED)によって射出される。また、上述の光源装置及び捕獲器1は、誘引光を射出する少なくとも1つのLEDを備える。この方法及び構成によれば、誘引又は捕獲に係る消費電力を低減できる。また、光源装置及び捕獲器1の構造の簡略化や小型化、低コスト化、長寿命化が容易となる。LEDは、LEDが封入されている樹脂やガラス等のカバー(光学系)により、狭角配光に光線を放射する指向特性に構成されているものがあり、指向性の強い狭角配光の誘引光を容易に実現できる。
上述の捕獲方法において、捕獲は、案内経路内の射出端の近傍に捕獲部材を配置することにより行われる。また、上述の捕獲器1において、捕獲部20は、案内経路内の射出端の近傍に配置されている。この方法及び構成によれば、誘引光に誘引されたマダラメイガ成虫を適切に捕獲できる。
上述の捕獲方法において、捕獲は、案内経路内の床面上に捕獲部材を配置することにより行われる。また、上述の捕獲器1において、捕獲部20は、案内経路内の床面上に配置されている。この方法及び構成によれば、誘引光に誘引されたマダラメイガ成虫を、光源11の近傍にまで移動する途中であっても適切に捕獲できる。
[第2の実施形態]
以下、本実施形態に係る捕獲器1について、図面を参照して説明する。ここでは、第1の実施形態との相違点について主に説明し、同一の部分については同一の符号を付してその説明を省略する。
<構成>
本実施形態に係る捕獲器1の構成の概略について正面図(左)と側面図(右)とを並べて模式図として図3に示す。第1の実施形態では、指向性を有する誘引光を射出できる光源11を用いて、光源11の高さより下側に非行動抑制領域WA1(WA)及び案内経路を形成できる捕獲器1について説明した。一方で、誘引光は、光源11の特性以外に起因して狭角に調整されてもよい。そこで、本実施形態では、光源11の放射した光線(誘引光)を狭角の誘引光に調整する光学素子12を備える捕獲器1について説明をする。
本実施形態に係る捕獲器1の光源部10は、図3に示すように、光源11に加えて、光学素子12をさらに備える。光学素子12は、光源11のX+側に配置されている。
本実施形態に係る光源11は、例えば紫外光を放射可能な蛍光管であるが、これに限らない。光源11は、マダラメイガ成虫を誘引できる波長及び強度で誘引光を放射できる光源であればよく、発光ダイオード(LED)、白熱電球、ネオンランプ、水銀灯、ハロゲンランプ等であってもよい。
光学素子12は、光源11から放射された光線(誘引光)が所定の射出特性で光源部10の射出端から射出されるように、誘引光の強度、指向特性、波長等を調整する。本実施形態に係る光源部10は、図3に示すように、光学素子12として絞り部13を備える。絞り部13は、光源11の一部を覆い、光源11が誘引光を放射する面積(放射面積)を制限する。絞り部13の開口部の形状は、円形であってもよいし、三角形であってもよいし、四角形又はそれ以上の多角形等であってもよい。すなわち、絞り部13は、例えば、ピンホール等の孔の周囲を規定する部分であってもよいし、スリットの周囲を規定する部分であってもよいし、光源11を覆うカバーであってもよい。絞り部13には、減光フィルタ(NDフィルタ)等の誘引光を減光できる部材(減光部材)が用いられてもよいし、アルミ箔等の金属、樹脂、液晶等の誘引光を100%減光できる減光部材、すなわち誘引光を遮光できる部材(遮光部材)が用いられてもよい。絞り部13の開口部の形状や面積、材料は適宜設計され得る。
本実施形態に係る捕獲器1の備える捕獲部20は、中央捕獲部23を備える。中央捕獲部23は、光源11のX+側の近傍に配置されている。中央捕獲部23の捕獲部材は、中央捕獲部23のX+側に配置されている。捕獲部材の構成は第1実施形態と同様である。中央捕獲部23の中心には、絞り部13が設けられている。本実施形態に係る中央捕獲部23の捕獲部材の形状は、矩形であるが、これに限らない。捕獲部材の形状は、マダラメイガ成虫を捕獲できる形状であれば何でもよい。
<作用・効果>
本実施形態に係る捕獲器1では、絞り部13によって光源11の放射面積を制限することで、誘引光の放射角度(指向特性)を狭角に調整する。これにより、本実施形態に係る捕獲器1は、第1の実施形態に係る捕獲器1と同様に、狭角配光の誘引光(指向性を有する誘引光)を射出できる。すなわち、本実施形態に係る捕獲器1は、第1の実施形態に係る捕獲器1と同様に、光源11の高さより下側に非行動抑制領域WAを形成して案内経路を形成できる。
本実施形態に係る捕獲器1によれば、以下のことが言える。
上述の誘引方法及び捕獲方法において、指向性を有する誘引光(狭角配光の誘引光)の射出は、光学素子12によって光源11から入射した光線を指向性を有する誘引光として射出して行われる。また、上述の光源装置及び捕獲器1は、光源11と、光源11から入射した光線を指向性を有する誘引光として射出する光学素子12とを備える。この方法及び構成によれば、第1の実施形態に係る誘引方法、捕獲方法、光源装置及び捕獲器1と同様の効果が得られ得る。また、第1の実施形態に係る捕獲器1の効果に加えて、光源11として選択できる光源に制限が少ないといった効果がある。例えば、本実施形態に係る光源11は、狭角配光に構成されていなくてもよい。
上述の誘引方法及び捕獲方法において、指向性を有する誘引光(狭角配光の誘引光)の射出は、光源11と対向する位置に孔部又はスリットを含む絞り(絞り部13)を配置して行われる。また、上述の光源装置及び捕獲器1において、光学素子12は、光源11と対向する位置に配置された孔部又はスリットを含む絞り部13である。この方法及び構成によれば、集光レンズ等の光学系を用意することなく、簡易な方法又は構造によって指向性を有する誘引光(狭角配光の誘引光)を射出できる。
なお、光学素子12は、集光レンズ、コリメータ等の光学部材によって構成されていてもよい。また、光源11が放射した光線(誘引光)が紫外領域以外の波長成分を含む場合には、光学素子12は、特定の波長域の光線のみ透過したり、特定の波長域の光線のみ反射したりするような波長選択板を含んでいてもよい。この場合には、光源の選択性がさらに向上する。なお、光学素子12は、捕獲部20に設けられていなくてもよい。
なお、本実施形態に係る中央捕獲部23は、第1の実施形態に係る捕獲器1に適用できる。つまり、第1の実施形態に係る捕獲器1は、下側捕獲部21及び中央捕獲部23のうち少なくとも1つを備えていればよい。また、本実施形態に係る捕獲器1は、第1の実施形態に係る下側捕獲部21又は上側捕獲部22のうち少なくとも1つを備えていてもよいし、さらに床面上に配置されている捕獲部材を備えていてもよい。また、本実施形態に係る捕獲器1の捕獲部20は、床面上に配置された捕獲部材のみであってもよい。何れの場合であっても、少なくとも1つの捕獲部材が、案内経路内に配置され、案内経路内で捕獲が行われればよい。
[第1の変形例]
以下、本変形例に係る捕獲器1を構成する光源部10(光源装置)について、図面を参照して説明する。ここでは、第1の実施形態又は第2の実施形態との相違点について主に説明し、同一の部分については同一の符号を付してその説明を省略する。
第1の実施形態及び第2の実施形態では、指向性を有する誘引光(狭角配光の誘引光)を射出することによって行動抑制境界面IBの下側(Z−側)に非行動抑制領域及び案内経路を形成する誘引方法、捕獲方法、光源装置及び捕獲器1について説明をした。上述した狭角配光の誘引光は、誘引光の光軸方向であれば、徐々に減衰しながらも到達できる。一方で、上述した狭角配光の誘引光は、水平方向(X方向又はY方向)にも狭角である。このため、誘引光の射出方向(光軸)から水平方向に外れた方向にある放飼地点から放飼されたマダラメイガに対する誘引性及び捕獲割合が低いという課題がある。そこで、本実施形態に係る技術は、水平方向には広角配光であり、かつ、重力方向(Z方向)には狭角配光である指向性を有する誘引光を射出することによって、非行動抑制領域及び案内経路を形成する。
<構成>
本変形例に係る光源部10の構成の概略を模式図として図4に示す。本実施形態に係る光源部10は、図4に示すように、複数の第1の実施形態に係る光源11を備える。複数の光源11は、図4に示すように、誘引光が放射状に射出されるように支持部材30に放射状に配置されている。すなわち、複数の光源11は、半円柱形の支持部材30の外周面が構成する円弧上に所定の間隔をおいて(例えば等間隔に)配置される。なお、支持部材30の形状は半円柱形に限らず、例えば半球状であってもよい。
<効果>
本変形例に係る捕獲器1によれば、以下のことが言える。
上述の誘引方法、捕獲方法、光源装置及び捕獲器1において、指向性を有する誘引光(狭角配光の誘引光)の射出は、水平方向に関して放射状に行われる。この方法及び構成によれば、第1の実施形態又は第2の実施形態に係る誘引方法、捕獲方法、光源装置及び捕獲器1で得られる効果に加えて、水平方向に広角の行動抑制領域SAを形成して、より広範囲のマダラメイガを誘引できる。また、案内経路も水平方向に広範囲に形成できるため、より広範囲のマダラメイガ成虫を捕獲できるという効果がある。
なお、複数の第1の実施形態に係る光源11が放射状に配置されている場合を例として説明をしたが、これに限らない。例えば、第2の実施形態に係る光源部10が複数設けられていてもよい。この方法及び構成であっても上述と同様の効果が得られ得る。
なお、本変形例に係る光源装置及び捕獲器1は、例えば、少なくとも1つの広角配光の光源11と、放射状に配置された複数の光学素子12とを備えていてもよい。これらを用いた方法及び構成によれば、光源11の数を低減できるため、捕獲器1の構成を簡易にしたり、消費エネルギを低減したりできるという効果が得られ得る。
なお、本変形例に係る光源装置及び捕獲器1は、例えば、少なくとも1つの広角配光の光源11と、放射状に複数の絞り部13又はスリットが設けられた光学素子12とを備えていてもよい。これらを用いた方法及び構成によれば、光源11及び光学素子12の数を低減できるため、捕獲器1の消費エネルギの低減に加えて、製造コストを低減できるという効果が得られ得る。
なお、本変形例では、複数の光源11が放射状に配置されている場合を例として説明をしたが、これに限らない。例えば、複数の光源11は、互いに誘引光の射出方向が異なるように、同一の平面上に略直線状に配置されていてもよい。また、光学素子12は、水平方向に開口しているスリットを備えていてもよい。これらを用いた方法及び構成であっても、上述と同様の効果が得られ得る。
[第3の実施形態]
以下、本実施形態に係る捕獲器1について、図面を参照して説明する。ここでは、第1の実施形態、第2の実施形態又は第1の変形例との相違点について主に説明し、同一の部分については同一の符号を付してその説明を省略する。
<構成>
本実施形態に係る捕獲器1の構成の概略について正面図(左)と側面図(右)とを並べて模式図として図5に示す。第1の実施形態、第2の実施形態及び第1の変形例では、狭角配光の誘引光(指向性を有する誘引光)を少なくとも1方向に射出することで、非行動抑制領域WA及び案内経路を形成できる技術について説明をしたが、誘引光は狭角配光の誘引光に限らない。例えば、以下に説明するような指向性を有する誘引光であっても同様に非行動抑制領域WA及び案内経路を形成できる。
本実施形態に係る光源部10は、図5に示すように、光源11と、光学素子12とを備える。光学素子12は、光源11のX+側に配置されている。
本実施形態に係る光源11は、例えば紫外光を放射可能な蛍光管であるが、これに限らない。光源11は、マダラメイガ成虫を誘引できる波長及び強度で誘引光を放射できる光源であればよく、発光ダイオード(LED)、白熱電球、ネオンランプ、水銀灯等であってもよい。
本実施形態に係る光源部10は、図5に示すように、光学素子12として減光部材14を備える。減光部材14は、減光部材14を通過した誘引光の放射照度(光量子束密度)の値が、非行動抑制領域において、行動抑制光量未満となるように、誘引光を減光する部材である。減光部材14には、例えば減光フィルタ(NDフィルタ)等の誘引光を減光できる部材が用いられる。なお、減光部材として、アルミ箔等の金属、樹脂、液晶等の誘引光を100%減光できる、すなわち誘引光を遮光できる部材(遮光部材)が用いられてもよい。遮光した場合であっても、回析により遮光部材の背後(下側)にわずかに光が回りこむため、案内経路(非行動抑制領域)は形成される。減光部材14は、光源11の下側(Z−側)であって、下側捕獲部21の上側(Z+側)である位置に配置されている。例えば、減光部材14を介して誘引光の光量子束密度が行動抑制光量以上から行動抑制光量未満となるとき、減光部材14が配置されている面は、本実施形態に係る行動抑制境界面である。一方で、誘引光の光量子束密度は、減光部材14で減光された後に、さらに減衰して行動抑制光量未満となる場合もあり得る。このとき、行動抑制境界面は、誘引光の光量子束密度が減衰して行動抑制光量未満となった位置である。
<作用・効果>
本実施形態に係る減光部材14は、光源11から放射された誘引光のうち、減光部材14より下側へ向かう誘引光の強度を低下させ、行動抑制割合が低い誘引光の強度(非行動抑制光量)未満の領域を形成する。一方で、減光部材14より上側へ射出された誘引光の強度は減光されない。このようにして、本実施形態に係る光源装置及び捕獲器1は、減光部材14より上側には高い放射強度で誘引光を射出し、減光部材14より下側には減光された低い放射強度の誘引光を射出する。このような指向性を有する誘引光であっても、第1の実施形態、第2の実施形態及び第1の変形例と同様に、広範囲のマダラメイガを誘引しつつ、非行動抑制領域WA及び案内経路を形成できる。
本実施形態に係る捕獲器1によれば、以下のことが言える。
上述の誘引方法及び捕獲方法において、誘引光の射出は、誘引光の光量子束密度を低下させる減光部材14を射出端の下側に配置して行われ、減光部材14は、所定の光量子束密度を案内経路内においてマダラメイガ成虫に行動抑制が生じる光量子束密度の値(行動抑制光量)未満にする。また、上述の光源装置及び捕獲器1は、射出端の下側に配置され、所定の光量子束密度を案内経路内においてマダラメイガ成虫に行動抑制が生じる光量子束密度の値(行動抑制光量)未満にする減光部材14を備える。上述のマダラメイガ成虫の誘引方法、捕獲方法、光源装置及び捕獲器1において、減光部材14は、水平方向に延びる。すなわち、減光部材14は、床面と平行に配置され、射出端の配置されている面から、誘引光の射出方向に延設されている。なお、減光部材14は、誘引光を100%減光する遮光部材であってもよい。
これらの方法及び構成によれば、行動抑制境界面IBの上側には、より広範囲のマダラメイガを誘引できる行動抑制光量以上の誘引光が射出され、行動抑制境界面IBの下側には、光源11の放射した誘引光が減光部材14で減光された後に射出される。したがって、本実施形態に係る方法及び構成によれば、上述の実施形態及び変形例と同様に、広い誘引範囲を有していながら、減光部材14の下側に非行動抑制領域及び案内経路を形成することができるため、光源11の射出特性によらず、マダラメイガ成虫を誘引又は捕獲できる。また、本実施形態に係る光源装置及び捕獲器1は、第1の実施形態及び第2の実施形態に係る捕獲器1と比較して、マダラメイガの誘引に効果的な行動抑制領域を容易に大きくできるという効果もある。さらに、蛾(ガ)の飛翔経路に曲がりを生じた場合でも、蛾が行動抑制領域SA側に移動してしまうことを物理的に阻害することができる。これによって、行動抑制領域SA側に移動した蛾が行動抑制されることで捕獲数が低下するといった不具合を生じることを防止できる。
[第2の変形例]
以下、本変形例に係る捕獲器1について説明する。ここでは、上述の実施形態及び変形例との相違点について主に説明し、同一の部分については同一の符号を付してその説明を省略する。
上述の実施形態及び変形例では、誘引光を射出して、誘引光によってマダラメイガ成虫を誘引する捕獲器1について説明をしたが、これに限らない。捕獲器1は、誘引光に加えて、さらに誘引光以外の誘引手段を備えていてもよい。
上述の誘引方法及び捕獲方法において、マダラメイガ成虫用の誘引物質(マダラメイガ成虫用の性フェロモン)を用いて前記マダラメイガ成虫を誘引することをさらに含む。また、上述の光源装置及び捕獲器1は、マダラメイガ成虫用の誘引物質を周囲に拡散可能に構成された薬剤収容部をさらに備える。薬剤収容部は、例えば捕獲部20の近傍に配置されるが、性フェロモン等の化学物質が、案内経路内に拡散できるように構成されていれば、行動抑制領域SA内に配置されていてもよい。この方法及び構成によれば、行動抑制領域SAを形成する誘引光に加えて、性フェロモン等のマダラメイガ成虫を誘引する化学物質によって、捕獲器1のマダラメイガ成虫に対する誘引性をさらに向上させる効果がある。
なお、性フェロモン等に誘引されたマダラメイガ成虫も、案内経路によって捕獲部20まで案内できる。すなわち、従来は困難であったライトトラップとフェロモントラップとの組み合わせを実現することができるという効果もある。なお、本変形例に係る技術は、上述した何れの実施形態及び変形例に係る捕獲器1にも適用できる。
なお、光源11の配光角(θ/2)に合わせて誘引光の射出角度を決定することで、非行動抑制領域と案内経路とが形成されてもよい。この場合、行動抑制境界面と、床面とが接しないように、射出角度が上側に調整されればよい。このような方法及び構成であっても、上述の実施形態及び変形例と同様の効果が得られ得る。
[試験例1]
まず、誘引光によってマダラメイガを誘引し、誘引されたマダラメイガを誘引光の射出端の近傍で捕獲するにあたって要求される誘引光の射出特性について検討した。本試験例では、誘引光の放射照度(光量子束密度)と、マダラメイガの誘引(捕獲)効果との関係について検討を行った。
図6に、本試験例に係る試験領域の構成例の概略を模式図として示す。図6に示すように、本試験例に係る試験領域は、奥行き(X方向)が3.6mであり、幅(Y方向)が1.8mであり、高さ(Z方向)が1.8mである。試験領域のX−側の壁面には、本試験例に係る第1の試験用捕獲器1aがX+方向に誘引光を射出可能に配置されている。第1の試験用捕獲器1aは、図6に示すように、捕獲器の下端が床面に接するように配置されている。本試験領域における試供虫の放飼地点R0は、X+側の壁面の中央、かつ床面上である。なお、試験領域は、試験領域外から光が入射しないように構成されている。
図7に、本試験で用いた第1の試験用捕獲器1aの構成の概略を模式図として示す。第1の試験用捕獲器1aは、光源11を具備する光源部10と、下側捕獲部21を具備する捕獲部20と、支持部材30とを備える。図7に示すように、第1の試験用捕獲器1aは、光源11の近傍、かつ、下側(Z−側)に下側捕獲部21が配置された構成を有する。第1の試験用捕獲器1aの光源11(第1の光源11a)は、紫外光を放射できる発光ダイオード(48素子、NS375L−3RLQ、ナイトライド・セミコンダクター社製)である。第1の試験用捕獲器1aは、入力電圧の調整によって射出される光の光強度が調整可能に構成されている。第1の光源11aの放射する光線(誘引光)の中心波長は、375〜380nmである。下側捕獲部21の捕獲部材は、下側捕獲部21のX+側に配置されている。捕獲部材は、交換可能な粘着紙である。
本試験に先立って、第1の光源11aの放射する光線(誘引光)の放射照度を計測した。第1の光源11aによる誘引光の放射照度は、複数の第1の光源11aの放射強度毎に計測した。放射照度は、誘引光の射出端に正対して15cm離れた位置(図2に示す計測位置MP)で計測した。放射照度の測定には、朝日分光社製のHSU−100Sが用いられた。ここで、放射照度[W/m2]の大きさは、単位面積あたりに入射する放射束(誘引光の光束)の量を示し、光源部10から射出されるときの誘引光の放射強度の大きさと相関がある。また、放射照度は、光線の波長[m]を用いて光量子束密度[photons/m2/s]として表現できる。ここで、光量子束密度は、単位時間及び単位面積あたりの光子数を示す値である。
本試験で用いた試験対象(供試虫)は、チャマダラメイガ及びノシメマダラメイガである。本試験では、発生2日後の雌雄各25頭のチャマダラメイガ及びノシメマダラメイガが供試虫として用いられた。
本試験の手順を説明する。まず、捕獲部20に粘着紙を取り付けた。その後、供試虫100頭を、試験領域内に上述の放飼地点より同時放飼した。放飼後、光源部10に所定の放射強度で誘引光を射出させた。23時間後に粘着紙を回収し、粘着紙に捕獲された供試虫の頭数をカウントした。
本試験は、上述の手順を、複数の放射強度毎に実施した。複数の放射強度は、それぞれ上述したように算出された光量子束密度の値が、0、0.1×1014、2×1014、10×1014、20×1014、40×1014、60×1014、75×1014、100×1014となる放射強度である。なお、粘着紙は試験毎に交換した。
図9及び図10に本試験の結果を示す。図9及び図10は、それぞれ、チャマダラメイガの捕虫数と、ノシメマダラメイガの捕虫数とを示す。図9及び図10において、横軸は光量子束密度[photons/m2/s]を示し、縦軸は捕虫数を示す。
図9に示すように、例えば光量子束密度の値が0より大きく20×1014未満の範囲であるときに、チャマダラメイガの捕虫数が高くなることが分かった。チャマダラメイガの捕虫数が高い光量子束密度の範囲は、0より大きく20×1014未満の範囲に限らず、0より大きく10×1014未満、0より大きく2×1014未満、0より大きく0.1×1014未満、0.1×1014以上20×1014未満、0.1×1014以上10×1014未満、0.1×1014以上2×1014未満、2×1014以上20×1014未満、2×1014以上10×1014未満、又は10×1014以上20×1014未満の範囲を含む。さらにチャマダラメイガの捕虫数が高い光量子束密度の値は、0.1×1014、2×1014、10×1014の値を含む。一方で、例えば光量子束密度の値が20×1014以上の値であるときには、チャマダラメイガの捕虫数は低くなることが分かった。
図10に示すように、例えば光量子束密度の値が0より大きく40×1014未満の範囲であるときに、ノシメマダラメイガの捕虫数が大きくなることが分かった。ノシメマダラメイガの捕虫数が高い光量子束密度の範囲は、0より大きく40×1014未満の範囲に限らず、0より大きく20×1014未満、0より大きく10×1014未満、0より大きく2×1014未満、0より大きく0.1×1014未満、0.1×1014以上40×1014未満、0.1×1014以上20×1014未満、0.1×1014以上10×1014未満、0.1×1014以上2×1014未満、2×1014以上40×1014未満、2×1014以上20×1014未満、2×1014以上10×1014未満、10×1014以上40×1014未満、10×1014以上20×1014未満、又は20×1014以上40×1014未満の範囲を含む。さらにノシメマダラメイガの捕虫数が高い光量子束密度の値は、0.1×1014、2×1014、10×1014、20×1014の値を含む。一方で、例えば光量子束密度の値が40×1014以上の値であるときには、ノシメマダラメイガの捕虫数は小さくなることが分かった。
また、本試験では、比較例として、市販されている捕虫器(ムシポン:登録商標、MP−301、ベンハーはかり株式会社製、第2の試験用捕獲器1b)を用いた試験を行った。図8に、本試験で用いた第2の試験用捕獲器1bの構成の概略を模式図として示す。なお、第2の試験用捕獲器1bは、光源11と、支持部材30の形状とが異なること以外、第1の試験用捕獲器1aと同様である。第2の試験用捕獲器1bの光源11(第2の光源11b)は、定格消費電力が30Wであり、紫外光を放射できる捕虫器用蛍光管(捕虫用蛍光ランプ、FL30SBL、東芝ライテック社製)である。また、第2の試験用捕獲器1bの放射強度は、上述したように算出された光量子束密度の値が50×1014となる放射強度であった。図9及び図10に本試験の結果を第1の試験例における試験結果と共に示す。図9及び図10に示すように、市販品の光量子束密度の値が50×1014となる放射強度では、チャマダラメイガ及びノシメマダラメイガの捕虫数は小さいことが確認された。
以上のことから、放射照度(光量子束密度)の値が低い場合にはマダラメイガが捕獲されやすいが、放射照度(光量子束密度)の値が高い場合にはマダラメイガが捕獲されにくいことが示された。また、第1の試験用捕獲器1a及び第2の試験用捕獲器1bにおいて、捕獲部20は、光源部10の近傍に配置されている。したがって、本試験の結果は、捕獲部20の近傍に高い放射照度(光量子束密度)の領域である行動抑制領域が存在するとき、マダラメイガの捕虫数が減少するとも評価できる。マダラメイガ成虫を誘引光によって誘引して、誘引光の射出端の近傍に配置された捕獲部材によって捕獲する際には、マダラメイガ成虫に照射される誘引光の強度を、0より大きく40×1014未満、0より大きく20×1014未満、0より大きく10×1014未満、0より大きく2×1014未満、0より大きく0.1×1014未満、0.1×1014以上40×1014未満、0.1×1014以上20×1014未満、0.1×1014以上10×1014未満、0.1×1014以上2×1014未満、2×1014以上40×1014未満、2×1014以上20×1014未満、2×1014以上10×1014未満、10×1014以上40×1014未満、10×1014以上20×1014未満、又は20×1014以上40×1014未満の範囲のうち何れかの範囲とすることが好ましい。さらに好ましくは、0より大きく20×1014未満、0より大きく10×1014未満、0より大きく2×1014未満、0より大きく0.1×1014未満、0.1×1014以上20×1014未満、0.1×1014以上10×1014未満、0.1×1014以上2×1014未満、2×1014以上20×1014未満、2×1014以上10×1014未満、又は10×1014以上20×1014未満の範囲のうち何れかの範囲である。また、捕獲部材の近傍の光量子束密度の値は、0.1×1014、2×1014、10×1014、20×1014のうち何れかの値を含み、好ましくは、0.1×1014、2×1014、10×1014のうち何れかの値を含む。
[試験例2]
試験例1に係る試験の結果が示すように、高い放射強度で光源部10が誘引光を射出したとき、すなわち、高い放射照度(光量子束密度)の領域が存在するとき、マダラメイガの捕虫数は減少する。そこで本試験では、放射照度(光量子束密度)の大きさとマダラメイガの活動との関係を明らかとするために、複数の放射照度(光量子束密度)の環境下におけるマダラメイガの挙動を観察した。
図11は、本試験に係る試験領域の概要を示す。図11に示すように、試験領域には、供試虫が配置されている観察領域と、当該観察領域へ誘引光(紫外光)を照射する光源11と、当該観察領域へ照明光を照射する照明装置50とが設けられている。照明装置50として、UVカットスリーブ(UV Guard、富士フィルム社製)が装着された蛍光管(パナソニック社製、FL20WS)を用いた。試験領域は、試験領域外から光が入射しないように構成されている。
観察領域には、供試虫を観察領域内に配置するために、シャーレが配置されている。シャーレは、高さ1.5cm、直径4cmの円形であり、上部にはフタが設けられている。シャーレは、観察領域内に、光源11から離れる方向に5列、光源から離れる方向と直交する方向に4列となるように配置されている。
光源11は、観察領域の一端から5cm離れ、観察領域の底面から10cm高い位置に配置されている。また、光源11の射出端(射出面)と観察領域の中心との距離は15cmである。光源11として、試験例1において上述した第1の光源11aを用いた。
照明装置50は、観察領域の上方に配置されている。照明装置50の射出する照明光は、日光を模した白色光である。照明装置50の射出する照明光によって、観察領域を明期としたり、暗期としたりできる。
本試験では、ビデオ撮影をして、各々のシャーレ内に配置されたマダラメイガの挙動を観察した。チャマダラメイガの活動は暗期に活発になるため、明期に限らず、暗期でも撮影を行った。暗期での撮影は、高感度カメラ(WAT−232、ワテック社製)と、赤外線投光器(SM−104−850、HOGA社製)とを用いて行った。
本試験で用いた供試虫は、発生24時間以内、かつ、既交尾のチャマダラメイガの雌雄各10頭である。試供虫は、明期14時間及び暗期10時間の飼育条件で成虫になるまで飼育されたチャマダラメイガである。供試虫は、一頭ずつシャーレの内部に配置されている。
ここで、本試験の手順を説明する。まず、試験領域にチャマダラメイガを入れたシャーレを配置した。配置後、暗期開始直前に試験を開始し、ビデオ撮影を開始した。ビデオ撮影は、4日目まで継続して行う。試験開始の直後に暗期とした。暗期開始から10時間後に、再び明期とした。明期条件は、照明光を観察領域全体へ照射して実現した。なお、明期において、照明装置が観察領域に照射する照明光の照度[lux]の値は、200〜250であった。明期開始から14時間後に、照明光の観察領域への照射を止めて再び暗期とした。これら明暗条件は、飼育条件に合わせて設定された。このようにして、本試験の間、明期と暗期とを繰り返した。試験開始3日目の暗期開始から1時間後に、紫外光を観察領域全体へ10秒間照射した。その後、ビデオ撮影した結果を用いて、紫外光を観察領域へ照射する10秒前まで活動していた個体のうち、何頭の個体が紫外光の照射後に活動を停止したかをカウントした。
図12に本試験の結果を示す。図12は、紫外光(誘引光)の強度とチャマダラメイガの活動停止割合との関係を示す度数分布である。図12中に示すグラフにおいて、縦軸は活動停止割合を示し、横軸は光量子束密度を示す。ここで、活動停止割合は、紫外光を観察領域へ照射する10秒前まで活動していた個体(直前活動個体)に占める、紫外光の照射後に活動を停止した個体(活動停止個体)の割合である。
図12に示すように、活動停止割合(活動停止個体数/直前活動個体数)は、光量子束密度の値が0.1×1014のときは(6/16)であり、2×1014、10×1014、20×1014、40×1014、60×1014、75×1014、100×1014のときは、それぞれ、(8/10)、(6/9)、(7/8)、(11/12)、(10/11)、(10/11)、(14/14)である。このように、チャマダラメイガは、光量子束密度の値が20×1014以上の場合には、紫外光(誘引光)によって約9割の個体が活動を停止することが分かる。
以上のことから、チャマダラメイガを含むマダラメイガは、所定の値以上の放射照度(光量子束密度)の環境(行動抑制領域)において行動が抑制されることが示された。このように、マダラメイガは、誘引光に誘引される性質と、行動抑制領域において行動抑制が生じる性質とを有することが示された。行動抑制領域における光量子束密度の値の範囲は、例えば20×1014以上である。
一方で、チャマダラメイガを含むマダラメイガは、所定の値未満の放射照度(光量子束密度)の環境(非行動抑制領域)においては行動が抑制されにくいことが示された。すなわち、誘引光に誘引されたマダラメイガ成虫が捕獲部材へ到達するまでの移動経路上の領域(移動領域)が非行動抑制領域内にあれば、又は非行動抑制領域が移動領域内にあれば、マダラメイガ成虫を捕獲できる可能性が示唆された。ここで、誘引光の射出端の高さと床面との間の領域内のうち、非行動抑制領域内、かつ、移動領域内にある領域を案内経路とすると、本試験の結果は、案内経路内であれば、ライトトラップを用いてマダラメイガ成虫を捕獲できる可能性を示唆するものと表現できる。本試験結果によれば、非行動抑制領域における光量子束密度の値の範囲は、例えば0より大きく20×1014未満、0より大きく10×1014未満、0より大きく2×1014未満、0より大きく0.1×1014未満、0.1×1014以上20×1014未満、0.1×1014以上10×1014未満、0.1×1014以上2×1014未満、2×1014以上20×1014未満、2×1014以上10×1014未満、10×1014以上20×1014未満の範囲のうち何れかの範囲である。また、非行動抑制領域における光量子束密度の値は、0.1×1014、2×1014、10×1014のうち何れかの値を含む。
[試験例3]
一般に、マダラメイガの被害が問題となる倉庫等は、比較的広い空間であることが多い。したがって、倉庫等で広範囲に分布するマダラメイガを誘引して捕獲したい場合には、遠くまで誘引光が到達するように、高い放射強度で誘引光を射出する必要がある。一方で、高い放射強度で誘引光が射出された場合には、誘引光に誘引されたマダラメイガの移動経路上に行動抑制領域が生じ得る。移動領域が行動抑制領域内にある場合、マダラメイガの捕獲は困難となる。そこで、案内経路を形成する際に要求される誘引光の射出特性を明らかとすることを目的として、誘引光に誘引されたマダラメイガの移動経路(移動領域)について検討した。
図13は、本試験に用いた第1の試験領域A1(倉庫)の構成を上方から見た平面図を示す。図13に示すように、第1の試験領域A1の奥行き(X方向)は22.5mであり、床面積は約425m2である。第1の試験領域A1のX−側の壁面には、捕獲器がX+方向に誘引光を射出可能に配置されている。第1の試験領域A1は、窓のない空の倉庫であり、試験領域外から光が入射しない構成である。捕獲器が配置されている位置からX+方向(誘引光の射出方向)に5m離れた位置には、第1の放飼地点R1が設けられている。同様に、捕獲器1からX+方向に10m、20m離れた位置には、それぞれ、第2の放飼地点R2、第3の放飼地点R3が設けられている。
本試験は、上述した第1の試験領域A1に第3の試験用捕獲器1cを配置して行った。第3の試験用捕獲器1cは、捕獲器の下端が床面に接するように配置されている。
ここで、第3の試験用捕獲器1cの構成の概略について正面図(上)と側面図(下)とを並べて模式図として図14に示す。第3の試験用捕獲器1cは、光源11及び絞り部13(光学素子12)を具備する光源部10と、中央捕獲部23を具備する捕獲部20と、支持部材30とを備える。図14に示すように、第3の試験用捕獲器1cは、光源11の近傍、かつ、周囲(Y−Z面)に中央捕獲部23が配置された構成を有する。中央捕獲部23の捕獲部材は、中央捕獲部23のX+側に配置されている。捕獲部材は、1m角の交換可能な粘着紙である。第3の試験用捕獲器1cの備える第3の光源11c(光源11)は、紫外光を放射できる蛍光管(20W、FL20SBL、東芝ライテック社製)である。第3の光源11cの放射する光線(誘引光)の中心波長は、375〜380nmである。第3の試験用捕獲器1cの備える絞り部13(第1の絞り部13a)は、光源11の放射する誘引光の放射面がスリット状になるように、光源11を覆うものである。第1の絞り部13aとして、アルミ箔を用いた。第1の絞り部13aのスリット(開口部)は、幅が1cmであり、X+方向を向いている。
本試験で用いた試験対象(供試虫)は、雌雄各50頭のチャマダラメイガである。
本試験の手順を説明する。まず、捕獲部20に粘着紙を取り付けた。その後、供試虫100頭を、第1の試験領域A1の第2の放飼地点R2より同時放飼した。放飼後、光源部10に所定の放射強度で誘引光を射出させた。所定時間後に粘着紙を回収し、粘着紙に捕獲された供試虫の頭数をカウントした。なお、本試験では、放飼後2日目に回収する手順での試験と、放飼後3日目に回収する手順での試験とを行った。
また、本試験では、比較例として、同条件の下、第4の試験用捕獲器1dを用いた試験を行った。第4の試験用捕獲器1dは、絞り部13(第1の絞り部13a)を具備しないこと以外は第3の試験用捕獲器1cと同様である。
図15及び図16に本試験の結果を示す。図15及び図16は、それぞれ、第3の試験用捕獲器1cを用いた場合と、第4の試験用捕獲器1dを用いた場合のチャマダラメイガの捕虫数の分布を示す。
図15に示すように、捕虫分布は、光源11の誘引光の放射端の下側に偏りを有する。一方で、図16に示すように、放射照度が抑えられた領域が存在しない場合には捕虫数が低く、かつ、捕虫分布には偏りが見られない。
以上のことから、誘引光に誘引されているマダラメイガ(チャマダラメイガ)の移動経路は、誘引光の射出端(光源11)に対して下側(Z−側)から、誘引光の射出端へ向かって飛翔する経路である可能性が示唆された。
[試験例4]
[試験例4−1]
試験例3の試験結果によれば、マダラメイガ(チャマダラメイガ)は、光源(射出端)の直近において、射出端の下側から射出端に向かって上昇(飛翔)する可能性が示唆された。一方で、光源(射出端)の直近までの移動経路(移動領域)は未だ解明されていない。そこで、案内経路を形成する際に要求される誘引光の射出特性を明らかとすることを目的として、誘引光に誘引されたマダラメイガの移動経路(移動領域)についてさらに検討した。
図17は、本試験について説明するための図である。図17に示すように、本試験例に係る試験領域は、試験例1で用いた試験領域である。本試験例に係る第5の試験用捕獲器1eは、図3を参照して上述した第2の実施形態に係る捕獲器1と同様の構成と、捕獲部材を具備する水平置き捕獲部24とを備える。第5の試験用捕獲器1eと第2の実施形態に係る捕獲器1とは、光学素子12(絞り部13)の構成と、光源11の配置も異なる。第5の試験用捕獲器1eは、試験領域の中央に、下端の高さが床から90cmとなるように配置されている。
第5の試験用捕獲器1eの備える第4の光源11d(光源11)は、定格消費電力が4Wであり、紫外光を放射できる蛍光管(FL4BLB、東芝製)である。図18に、第4の光源11dの分光分布を示す。図18中に示すグラフは、縦軸が波長あたりの放射照度[μW/cm2/nm]であり、横軸が波長[nm]である。図18に示す放射照度は、光学素子12を設けていない状態で、図2に示す計測位置MPで計測された値である。第4の光源11dの放射する光線(誘引光)の中心(ピーク)波長は、図18に示すように、約350nmである。第4の光源11dの放射する光線(誘引光)の射出端に正対して15cm離れた計測位置MPにおける光量子束密度は、42.3×1014photons/m2/sであった。第4の光源11dの放射する光線(誘引光)の指向特性は、第4の光源11dが直管形の蛍光管であることから第4の光源11dの周方向に同様(Z方向に無指向性)である。第4の光源11dは、第2の実施形態に係る捕獲器1とは異なり、中央捕獲部23のX+側に配置されている。
第5の試験用捕獲器1eの備える第2の絞り部13b(ピンホール、光学素子12)は、開口部が設けられたアルミホイルである。第2の絞り部13bは、第4の光源11dを覆うように配置されている。第2の絞り部13bの開口部の形状は、略円形である。第2の絞り部13bの開口部の面積は、3mm2である。第2の絞り部13bで覆われた第4の光源11dは、開口部が中央捕獲部23の中心になるように、中央捕獲部のX+側の面に配置されている。
第5の試験用捕獲器1eの備える中央捕獲部23の捕獲部材は、中央捕獲部23のX+側に配置されている。捕獲部材は、50cm角の交換可能な粘着紙である。第5の試験用捕獲器1eの備える水平置き捕獲部24の捕獲部材は、水平置き捕獲部24のZ+側に配置されている。捕獲部材は、50cm角の交換可能な粘着紙である。第5の試験用捕獲器1eの備える水平置き捕獲部24は、中央捕獲部23の下方、床面上に配置されている。
本試験例に係る第6の試験用捕獲器1fは、水平置き捕獲部24の捕獲部材が床面から30cmの高さに配置されていること以外、第5の試験用捕獲器1eと同じである。
本試験例に係る第7の試験用捕獲器1gは、水平置き捕獲部24の捕獲部材が床面から50cmの高さに配置されていること以外、第5の試験用捕獲器1eと同じである。
本試験例に係る第8の試験用捕獲器1hは、水平置き捕獲部24の捕獲部材が床面から80cmの高さに配置されていること以外、第5の試験用捕獲器1eと同じである。
本試験で用いた試験対象(供試虫)は、雌雄各50頭のチャマダラメイガである。
本試験の手順を説明する。まず、捕獲部20に粘着紙を取り付けた。その後、供試虫100頭を、放飼地点R0より同時放飼した。放飼後、光源部10に所定の放射強度で誘引光を射出させた。誘引光の射出開始から23時間後に粘着紙を回収し、粘着紙に捕獲された供試虫の頭数をカウントした。なお、本試験では、第5の試験用捕獲器1e、第6の試験用捕獲器1f、第7の試験用捕獲器1g及び第8の試験用捕獲器1hの各々の捕獲器毎に、それぞれ上述の手順で試験を行った。
図19に本試験の結果を示す。図19は、チャマダラメイガの捕虫数と水平置き捕獲部24の捕獲部材の高さとの関係を示す。図19において、横軸は捕獲面の高さを示し、縦軸は捕虫割合を示す。
図19に示すように、水平置き捕獲部24の捕獲部材の高さが0cmであるときの捕虫割合は、水平置き捕獲部24の捕獲部材の高さが30cm、50cm及び80cmであるときの捕虫割合の約2倍であった。このことから、チャマダラメイガを含むマダラメイガは、誘引光に誘引されて射出端へ向かうとき、床面と、床面から30cmの高さとの間の領域を移動(飛翔又は歩行)することが示唆された。また、床面から30cmの範囲を射出端の下方付近まで移動した後に、射出端に向かって飛翔(移動)することが示唆された。ここで、第5の試験用捕獲器1eの備える水平置き捕獲部24の捕獲部材のX+側の端は、射出端の直下からX+側に25cmの位置であったことから、上述の射出端の下方付近は、射出端から床面と平行に25cm以内の範囲であると言える。以上のことから、マダラメイガの移動領域は、射出端が配置されている面から床面と略平行に25cm以内の領域及び床面からの高さが30cm以内の領域である、と表現できる。
[試験例4−2]
試験例4−1では、マダラメイガの一例として、チャマダラメイガに関する移動経路(移動領域)について検討した。一方で、マダラメイガは、チャマダラメイガに限らず、ノシメマダラメイガやスジマダラメイガ、スジコナマダラメイガを含む。そこで、本試験例では、ノシメマダラメイガ、スジマダラメイガ及びスジコナマダラメイガに関する移動経路(移動領域)についてさらに検討した。
本試験例に係る各種の試験条件は、試供虫の種類及び試験ごとの頭数が異なること以外は、試験例4−1と同じである。本試験で用いた試験対象(供試虫)は、雌雄各25頭のノシメマダラメイガ、スジマダラメイガ及びスジコナマダラメイガである。本試験は、ノシメマダラメイガ、スジマダラメイガ及びスジコナマダラメイガのそれぞれに関して行った。
図20にノシメマダラメイガに関する本試験の結果を示す。図20は、ノシメマダラメイガの捕虫数と水平置き捕獲部24の捕獲面の高さとの関係を示す。図20において、横軸は捕獲面の高さを示し、縦軸は捕虫割合を示す。図20に示すように、水平置き捕獲部24の捕獲面の高さが0cmであるときの捕虫割合は、水平置き捕獲部24の捕獲面の高さが30cm、50cm及び80cmであるときの捕虫割合の約3倍であった。このことから、ノシメマダラメイガは、誘引光に誘引されて射出端へ向かうとき、床面と、床面から30cmの高さとの間の領域を移動(飛翔又は歩行)することが示唆された。また、床面から30cmの範囲を射出端の下方付近まで移動した後に、射出端に向かって飛翔(移動)することが示唆された。ここで、第5の試験用捕獲器1eの備える水平置き捕獲部24の捕獲部材のX+側の端は、射出端の直下からX+側に25cmの位置であったことから、上述の射出端の下方付近は、射出端から床面と平行に25cm以内の範囲であると言える。以上のことから、ノシメマダラメイガの移動領域は、射出端が配置されている面から床面と略平行に25cm以内の領域及び床面からの高さが30cm以内の領域である、と表現できる。
図21にスジマダラメイガに関する本試験の結果を示す。図21は、スジマダラメイガの捕虫数と水平置き捕獲部24の捕獲面の高さとの関係を示す。図21において、横軸は捕獲面の高さを示し、縦軸は捕虫割合を示す。図21に示すように、水平置き捕獲部24の捕獲面の高さが0cmであるときの捕虫割合は、水平置き捕獲部24の捕獲面の高さが30cm、50cm及び80cmであるときの捕虫割合のそれぞれ1.25倍、2.5倍及び5倍であった。換言すれば、当該捕獲面の高さが0cm又は30cmであるときの捕虫割合は、当該捕獲面の高さが50cm及び80cmであるときの捕虫割合の2倍以上であった。また、当該捕獲面の高さが0cmであるときの捕虫割合は、当該捕獲面の高さが30cmであるときの捕虫割合よりさらに大きい。これらのことから、スジマダラメイガの移動領域は、チャマダラメイガ及びノシメマダラメイガと同様に、射出端が配置されている面から床面と略平行に25cm以内の領域及び床面からの高さが30cm以内の領域を含むことが示された。
ここで、図17に示すように、捕獲面高さが30cmのとき、射出端が配置されている面から床面と略平行に25cm以内の領域は、捕獲面と床面との間の領域である。当然のことながら、スジマダラメイガを含むマダラメイガは、物理的な干渉により、設置された捕獲面を通過できない。つまり、当該捕獲面の高さが30cmのとき、床面からの高さが30cm以内と、射出端が配置されている面から床面と略平行に25cm以内とのうち少なくとも一方を満たす領域は、捕獲面により分断されていた。このような中、スジマダラメイガに関する本試験において、捕獲面の高さが0cm又は30cmであるときの捕虫割合は、当該捕獲面の高さが50cm及び80cmであるときの捕虫割合の2倍以上であった。つまり、スジマダラメイガに関する本試験では、当該捕獲面の高さが0cmのときに加えて、当該捕獲面の高さが30cmのときにも捕虫割合が大きい。これらのことから、30cmの高さに設けられた水平置き捕獲部24は、誘引光に誘引されて誘引光の射出端に向かって飛翔(移動)するスジマダラメイガの移動領域を分断していなかったことが示された。このように、スジマダラメイガに関する本試験の結果によれば、0cm及び30cmの高さに設けられた水平置き捕獲部24は、射出端に向かって飛翔(移動)するスジマダラメイガの移動領域を床面側の領域と射出端側の領域とに分断していなかったことが示された。換言すれば、50cm及び80cmの高さに設けられた水平置き捕獲部24は、射出端に向かって飛翔(移動)するスジマダラメイガの移動領域を、床面側の領域と射出端側の領域とに分断していたことが示された。
上述したように、誘引光に誘引されたマダラメイガは、射出端の高さより下方から射出端へ向かって飛翔(移動)する。つまり、本試験例により示されたことから、以下のことがスジマダラメイガに関して示唆される。
スジマダラメイガは、例えば、誘引光に誘引されて射出端へ向かうとき、床面と、床面から50cmの高さとの間の領域を移動(飛翔又は歩行)することが示唆された。あるいは、スジマダラメイガは、例えば、誘引光に誘引されて射出端へ向かうとき、床面と、床面から30cmの高さとの間の領域を移動(飛翔又は歩行)したり、床面からの高さが30cmから50cmの間の領域を移動(飛翔)したりすることが示唆された。つまり、本考察によれば、誘引光に誘引されたスジマダラメイガは、床面から50cmの範囲を射出端の下方付近まで移動した後に、射出端に向かって飛翔(移動)すると考えられる。このとき、スジマダラメイガの移動領域は、射出端が配置されている面から床面と略平行に25cm以内の領域及び床面からの高さが50cm以内の領域である、と表現できる。換言すれば、スジマダラメイガの移動領域は、チャマダラメイガ及びノシメマダラメイガの移動領域と、床面からの高さが30cmから50cmの間の領域とを含む。
また、例えば、誘引光に誘引されたスジマダラメイガは、チャマダラメイガ及びノシメマダラメイガと比較して手前(放飼地点R0側)から射出端に向かって飛翔(移動)することが示唆された。具体的には、スジマダラメイガは、射出端が配置されている面から床面と略平行に25cmより手前(放飼地点R0側)から射出端に向かって飛翔(移動)していたと考えられる。ここで、簡単のために、誘引光に誘引されて射出端へ向かうスジマダラメイガは、略直線的に射出端へ向かって飛翔(移動)するとする。また、誘引光に誘引されて射出端へ向かうスジマダラメイガの上昇角(上昇勾配)を上昇角CA1とする。このとき、スジマダラメイガの移動領域は、50cmの高さに設けられた捕獲面のX+側の辺とスジマダラメイガの上昇角CA1とに応じて決定される領域をさらに含むと表現できる。具体的には、スジマダラメイガの移動領域は、50cmの高さに設けられた捕獲面のX+側の辺を通り、かつ、当該捕獲面とのなす角が上昇角CA1に等しい面(上昇角CA1に応じた面)より下方の領域をさらに含む。なお、上昇角CA1に応じた面上の任意の点に関して、床面からの高さは、X−側に向かうにつれて高くなるとする。以上のことから、本考察によれば、スジマダラメイガの移動領域は、射出端が配置されている面から床面と略平行に25cm以内の領域と、床面からの高さが30cm以内の領域と、上昇角CA1により規定される領域とを含む領域である、と表現できる。換言すれば、スジマダラメイガの移動領域は、チャマダラメイガ及びノシメマダラメイガの移動領域と、上昇角CA1により規定される領域とを含む。
図22にスジコナマダラメイガに関する本試験の結果を示す。図22は、スジコナマダラメイガの捕虫数と水平置き捕獲部24の捕獲面の高さとの関係を示す。図22において、横軸は捕獲面の高さを示し、縦軸は捕虫割合を示す。図22に示すように、水平置き捕獲部24の捕獲面の高さが0cmであるときの捕虫割合は、水平置き捕獲部24の捕獲面の高さが30cm及び50cmであるときの捕虫割合のそれぞれ5倍及び2倍であった。このことから、スジコナマダラメイガの移動領域は、チャマダラメイガ、ノシメマダラメイガ及びスジマダラメイガと同様に、射出端が配置されている面から床面と略平行に25cm以内の領域及び床面からの高さが30cm以内の領域を含むことが示された。
ここで、図17に示すように、捕獲面高さが80cmのとき、射出端が配置されている面から床面と略平行に25cm以内の領域は、捕獲面と床面との間の領域である。当然のことながら、スジコナマダラメイガを含むマダラメイガは、物理的な干渉により、設置された捕獲面を通過できない。つまり、当該捕獲面の高さが80cmのとき、床面からの高さが30cm以内と、射出端が配置されている面から床面と略平行に25cm以内とのうち少なくとも一方を満たす領域は、捕獲面により分断されていた。このような中、スジコナマダラメイガに関する本試験において、捕獲面の高さが80cmであるときの捕虫割合は、捕獲面の高さが0cmであるときの捕虫割合よりさらに高い。具体的には、捕獲面の高さが80cmであるときの捕虫割合は、捕獲面の高さが0cmであるときの捕虫割合の1.3倍であった。つまり、スジコナマダラメイガに関する本試験では、当該捕獲面の高さが0cmのときに加えて、当該捕獲面の高さが80cmのときにも捕虫割合が大きい。これらのことから、80cmの高さに設けられた水平置き捕獲部24は、誘引光に誘引されて誘引光の射出端に向かって飛翔(移動)するスジコナマダラメイガの移動領域を分断していなかったことが示された。このように、スジコナマダラメイガに関する本試験の結果によれば、80cm以下の高さに設けられた水平置き捕獲部24は、射出端に向かって飛翔(移動)するスジコナマダラメイガの移動領域を床面側の領域と射出端側の領域とに分断していなかったことが示された。
上述したように、誘引光に誘引されたマダラメイガは、射出端の高さより下方から射出端へ向かって飛翔(移動)する。つまり、本試験例により示されたことから、以下のことがスジコナマダラメイガに関して示唆される。
スジコナマダラメイガは、例えば、誘引光に誘引されて射出端へ向かうとき、床面と、床面から80cmの高さとの間の領域を移動(飛翔又は歩行)することが示唆された。つまり、本考察によれば、誘引光に誘引されたスジコナマダラメイガは、床面から80cmの範囲を射出端の下方付近まで移動した後に、射出端に向かって飛翔(移動)すると考えられる。このとき、スジコナマダラメイガの移動領域は、射出端が配置されている面から床面と略平行に25cm以内の領域及び床面からの高さが80cm以内の領域である、と表現できる。換言すれば、スジコナマダラメイガの移動領域は、チャマダラメイガ及びノシメマダラメイガの移動領域と、床面からの高さが30cmから80cmの領域とを含む。
なお、捕獲面の高さが80cmであるとき、最も高い捕虫割合となったことと、射出端の高さが115cmであったこととから、スジコナマダラメイガの移動領域は、射出端が配置されている面から床面と略平行に25cm以内の領域及び床面からの高さが115cm以内の領域である、と表現されてもよい。
なお、捕獲面の高さが30cm又は50cmであるときの捕虫割合は、当該捕獲面の高さが0cm及び80cmであるときの捕虫割合の0.5倍以下であった。このことから、誘引光に誘引されたスジコナマダラメイガは、例えば、誘引光に誘引されて射出端へ向かうとき、床面と、床面から30cmの高さとの間の領域を移動(飛翔又は歩行)したり、床面から50cm以上の高さを移動(飛翔)したりすることが示唆された。つまり、スジコナマダラメイガの移動領域は、射出端が配置されている面から床面と略平行に25cm以内の領域と、床面からの高さが30cm以内の領域と、床面からの高さが50cm以上80cm又は115cm以下の領域である、と表現されてもよい。
また、例えば、誘引光に誘引されたスジコナマダラメイガは、チャマダラメイガ及びノシメマダラメイガと比較して手前(放飼地点R0側)から射出端に向かって飛翔(移動)することが示唆された。具体的には、スジコナマダラメイガは、射出端が配置されている面から床面と略平行に25cmより手前(放飼地点R0側)から射出端に向かって飛翔(移動)していたと考えられる。ここで、簡単のために、誘引光に誘引されて射出端へ向かうスジコナマダラメイガは、略直線的に射出端へ向かって飛翔(移動)するとする。また、誘引光に誘引されて射出端へ向かうスジコナマダラメイガの上昇角(上昇勾配)を上昇角CA2とする。このとき、スジコナマダラメイガの移動領域は、スジコナマダラメイガの上昇角CA2に応じて決定される領域をさらに含むと表現できる。以上のことから、本考察によれば、スジコナマダラメイガの移動領域は、射出端が配置されている面から床面と略平行に25cm以内の領域と、床面からの高さが30cm以内の領域と、上昇角CA2により規定される領域とを含む領域である、と表現できる。換言すれば、スジコナマダラメイガの移動領域は、チャマダラメイガ及びノシメマダラメイガの移動領域と、上昇角CA2により規定される領域とを含む。ここで、例えばスジマダラメイガの上昇角CA1とスジコナマダラメイガの上昇角CA2が同程度であるとすれば、誘引光に誘引されたスジコナマダラメイガは、スジマダラメイガと比較して手前(放飼地点R0側)から射出端に向かって飛翔(移動)することが示唆される。
以上説明したように、試験例4に関する考察によれば、マダラメイガの移動領域は、少なくとも、射出端が配置されている面から床面と略平行に25cm以内の領域及び床面からの高さが30cm以内の領域を含む。また、マダラメイガに関して、捕獲部材は、例えば、案内経路内の床面上又は床面から30cm以下の高さに配置されればよい。
また、試験例4に関する考察によれば、マダラメイガの移動領域を分断しないように捕獲部材を配置すれば捕虫割合を向上できる。換言すれば、マダラメイガ成虫の誘引又は捕獲に要求される誘引光の射出特性(要求射出特性)は、捕獲部材によりマダラメイガの移動領域が分断されないように、案内経路を形成することを含む。
また、試験例4に関する考察によれば、スジマダラメイガ及びスジコナマダラメイガは、チャマダラメイガ及びノシメマダラメイガと比較して上方(床面からの高さが高い領域)を射出端に向かって飛翔(移動)すると考えられる。換言すれば、スジマダラメイガ及びスジコナマダラメイガの移動領域は、チャマダラメイガ及びノシメマダラメイガの移動領域と比較して床面からの高さが高い領域をさらに含む。
具体的には、スジマダラメイガの移動領域は、チャマダラメイガ及びノシメマダラメイガの移動領域に加えて、床面からの高さが30cmから50cmの間の領域をさらに含む。つまり、スジマダラメイガに関して、捕獲部材は、例えば、案内経路の床面上又は床面から50cm以下の高さに配置されればよい。好ましくは、捕獲部材は、床面上と、床面から30cmの高さとに配置されればよい。また、具体的には、スジコナマダラメイガの移動領域は、チャマダラメイガ及びノシメマダラメイガの移動領域に加えて、床面からの高さが30cmから115cmの領域をさらに含む。より好ましくは、スジコナマダラメイガの移動領域は、チャマダラメイガ及びノシメマダラメイガの移動領域に加えて、床面からの高さが30cmから80cmの領域又は床面からの高さが50cmから115cmの領域をさらに含む。より好ましくは、スジコナマダラメイガの移動領域は、チャマダラメイガ及びノシメマダラメイガの移動領域に加えて、床面からの高さが50cmから80cmの領域をさらに含む。つまり、スジコナマダラメイガに関して、捕獲部材は、例えば、案内経路内の床面上又は床面から50cm以上80cm以下の高さに配置されればよい。なお、これら捕獲部材が配置される床面からの高さは、マダラメイガの移動領域の高さに応じて適宜選択されればよい。
また、試験例4に関する考察によれば、例えば、スジマダラメイガ及びスジコナマダラメイガは、チャマダラメイガ及びノシメマダラメイガと比較して手前(放飼地点R0側)から射出端に向かって飛翔(移動)すると考えられる。このため、スジマダラメイガ及びスジコナマダラメイガを捕獲する際には、射出端が配置されている面から略平行に25cm以内の床面に限らず、さらに手前(放飼地点R0側)の床面に捕獲部材をさらに設けると効果的であると考えられる。このとき、捕獲部材は、1つの大きな捕獲面を有していてもよいし、複数の捕獲面を有していてもよい。
[試験例5]
[試験例5−1]
試験例1〜試験例4に係る試験結果が示すように、マダラメイガ成虫の誘引又は捕獲に要求される誘引光の射出特性(要求射出特性)は、光源11の高さより下側に案内経路を形成することを含む。さらに好ましくは、要求射出特性は、広い範囲のマダラメイガ成虫を誘引できることをさらに含む。本試験例では、指向性を有する誘引光(狭角配光の誘引光)を射出する第1の実施形態に係る捕獲器1(第9の試験用捕獲器1i)を用いて実施した捕獲試験について説明をする。
本試験例に係る試験領域は、図13を参照して説明した第1の試験領域A1である。本試験例に係る試験は、上述した第1の試験領域A1のX−側の壁面に、X+方向に誘引光を射出可能に第9の試験用捕獲器1i(捕獲器1)を配置して行った。第9の試験用捕獲器1iは、捕獲器の下端が床面に接するように配置されている。
第9の試験用捕獲器1iは、図1を参照して上述した第1の実施形態に係る捕獲器1の構成を有する。光源部10は、図1に示すように、光源11(第5の光源11e)を備える。第5の光源11eの支持部材30の下端(第9の試験用捕獲器1iの下端)を基準とした高さは、20cmである。第5の光源11eは、紫外光(誘引光)を射出できる発光ダイオード(NS375L−5RLO、ナイトライド・セミコンダクター社製)である。
図23に、第5の光源11eの分光分布(放射強度の波長依存性)を示す。図23中に示すグラフは、縦軸が波長あたりの放射照度[μW/cm2/nm]であり、横軸が波長[nm]である。図23に示す放射照度は、第5の光源11eの射出端に正対して15cm離れた位置(図2に示す計測位置MP)で計測された値である。第5の光源11eの放射する光線(誘引光)の中心波長(ピーク波長)は、図23に実線で示すように、375〜380nmである。第5の光源11eによる計測位置MPにおける光量子束密度[photons/m2/s]の値は、18.9×1014であった。
図24に、第5の光源11eの指向特性を示す。第5の光源11eの放射する光線(誘引光)の半値角は、図24に実線で示すように、約15°(狭角配光)である。ここで、半値角は、光軸と、光軸上の放射照度(光量子束密度)に対して50%の放射照度(光量子束密度)となる光線方向との成す角度である。
捕獲部20は、光源部10の近傍に配置され、誘引光に誘引されたマダラメイガを捕獲する。捕獲部20は、案内経路内に配置されている。本試験例に係る捕獲部20は、図1に示すように、下側捕獲部21と、上側捕獲部22とを備える。下側捕獲部21は、第5の光源11e(光源11)の近傍、かつ、下側(Z−側)に配置されている。下側捕獲部21の中心は、第9の試験用捕獲器1iの下端から10cmの高さに配置されている。上側捕獲部22は、第5の光源11eの近傍、かつ、上側(Z+側)に配置されている。上側捕獲部22の中心は、第9の試験用捕獲器1iの下端から30cmの高さに配置されている。下側捕獲部21及び上側捕獲部22のX+側の面には、捕獲部材として、交換可能な粘着シートが配置されている。
また、本試験例では、比較例として、広角配光の誘引光を射出する第10の試験用捕獲器1j及び第11の試験用捕獲器1kを用いた試験を行った。第10の試験用捕獲器1jは、光源11に第6の光源11fを用いること以外は第9の試験用捕獲器1iと同じである。図25は、第11の試験用捕獲器1kの構成の概略について正面図(左)と側面図(右)とを並べて示す模式図である。第11の試験用捕獲器1kは、図25に示すように、光源11に第7の光源11gを用いること以外は第9の試験用捕獲器1iと同じである。
第6の光源11fは、紫外光(誘引光)を射出できる広角配光に構成された発光ダイオード(NS375L−5RFS、ナイトライド・セミコンダクター社製)である。第6の光源11fの放射する光線(誘引光)の中心波長(ピーク波長)は、図23に破線で示すように、375〜380nmである。また、第6の光源11fの計測位置MPで計測した光線(誘引光)の光量子束密度は、19.9×1014photons/m2/sであった。第6の光源11fの放射する光線(誘引光)の指向特性は、図24に破線で示すように、半値角が約65°の広角配光である。
第7の光源11gは、定格消費電力が30Wであり、紫外光(誘引光)を射出できる捕虫器用蛍光管(捕虫用蛍光ランプ、FL30SBL、東芝ライテック社製)である。ここで、第7の光源11gは、第2の光源11bと同一の蛍光管である。一方で、駆動(誘引光の射出)のために印加された電力値は異なる。このため、第2の光源11bと第7の光源11gとは異なる光源11として記載されている。図26に、第7の光源11gの分光分布を示す。図26中に示すグラフは、縦軸が波長あたりの放射照度[μW/cm2/nm]であり、横軸が波長[nm]である。図26に示す放射照度は、図2に示す計測位置MPで計測された値である。第7の光源11gの放射する光線(誘引光)の中心(ピーク)波長は、図26に示すように、約350nmである。第7の光源11gによる計測位置MPにおける光量子束密度[photons/m2/s]の値は、37.5×1014であった。第7の光源11gの放射する光線(誘引光)の指向特性は、第7の光源11gが直管形の蛍光管であることから第7の光源11gの周方向に同様(Z方向に無指向性)である。
本試験で用いた供試虫は、雌雄各60頭のチャマダラメイガ及びノシメマダラメイガである。供試虫は、第1の放飼地点R1、第2の放飼地点R2及び第3の放飼地点R3から、雌雄各20頭ずつ放飼される。試験に先立って、何れの放飼地点から放飼されたか判別できるように、供試虫に、各放飼地点毎に異なる色の蛍光顔料を用いてマーキングを施した。
ここで、本試験の手順を説明する。まず、捕獲部20に粘着紙を取り付けた。その後、供試虫120頭を、各々の放飼地点から同時放飼した。放飼後、光源部10に所定の放射強度で10時間、誘引光を射出させた。誘引光の射出を開始してから10時間後に粘着紙を回収し、粘着紙に捕獲された供試虫の頭数をカウントした。これらの手順を、第9の試験用捕獲器1i、第10の試験用捕獲器1j及び第11の試験用捕獲器1kに対して、捕獲器毎に実施した。
図27及び図28に本試験の結果を示す。図27及び図28は、それぞれ、放飼地点別のチャマダラメイガの捕虫割合及び放飼地点別のノシメマダラメイガの捕虫割合を示す。図27及び図28において、横軸は放飼位置の誘引光の射出端(捕獲器1)からの距離を示し、縦軸は捕虫割合を示す。
図27及び図28に示すように、第10の試験用捕獲器1j及び第11の試験用捕獲器1kの捕虫割合は、放飼位置やマダラメイガの種によらず、低い傾向が示された。一方で、第9の試験用捕獲器1iの捕虫割合は、他の捕獲器と比較して高い。また、第9の試験用捕獲器1iの捕虫割合は、捕獲器に近い第1の放飼地点R1で放飼されたマダラメイガに対して、特に高い値を示している。
ここで、第9の試験用捕獲器1iから射出される誘引光によって形成される行動抑制領域、非行動抑制領域及び案内経路について、図2を参照してより詳細に説明をする。なお、図2では、第5の光源11eと、第6の光源11fとの配光角θ/2を、それぞれ、狭角配光角θn/2と、広角配光角θw/2と示している。ここで、配光角は、光軸と、誘引光の放射照度(光量子束密度)が行動抑制光量となる光線方向との成す角度である。
図2に示すように、光源部10の射出端(光源11)は、床面3から20cmの高さで、壁面2に配置されている。図2には、光源部10の射出端に正対して15cm離れた放射照度の計測位置MPと、計測位置MPの床面3上の投影位置IPとが示されている。投影位置IPは、誘引光の放射端を基準として、誘引光(光源部10)の光軸からZ−方向に53°外れた方向にある床面3上の点であるとも表現できる。
図24に実線で示すように、第5の光源11eの放射する光線(誘引光)の放射照度(光量子束密度)が0.5未満(50%未満)となる放射角度(半値角)は15°以上である。また、投影位置IPにおける放射照度(光量子束密度)は、計測位置MPで計測された放射照度(光量子束密度)に対して0.05倍程度である。一方で、図24に破線で示すように、第6の光源11fの放射する光線(誘引光)の放射照度(光量子束密度)が0.5未満(50%未満)となる放射角度(半値角)は60°(広角配光角θw/2)以上である。また、投影位置IPにおける放射照度は、計測位置MPで計測された放射照度に対して0.7倍程度である。
ここで、計測位置MPで計測された第5の光源11e及び第6の光源11fの光量子束密度は、共に約20×1014photons/m2/sであった。また、マダラメイガ成虫に行動抑制が生じる割合が低い光量子束密度は、20×1014photons/m2/s未満であり、例えば、10×1014photons/m2/s以下である。なお、第7の光源11gの放射する光線は、図26を参照して上述したように、計測位置MPで計測された光量子束密度が約40×1014photons/m2/sであり、指向性を有してもいない。
したがって、図4の行動抑制領域SA1のように、第5の光源11eの光軸から15°(狭角配光角θn/2)以内の領域では、光量子束密度の値は、10×1014photons/m2/s以上の行動抑制領域SAとなる。一方で、図2の非行動抑制領域WA1のように、誘引光の放射端を基準として、第5の光源11eの光軸から15°(狭角配光角θn/2)以上外れた投影位置IPにおける光量子束密度の値は、10×1014photons/m2/s未満となる。同様に、第6の光源11fの光軸から60°以上外れた、計測位置MPと投影位置IPとを通る直線上の領域では、光量子束密度の値が10×1014photons/m2/s以下となる。なお、第6の光源11fの光軸から53°(限界配光角θc/2)以上外れるとき、誘引光の形成する行動抑制領域は、床面3と接することとなる。
すなわち、投影位置IPは、第9の試験用捕獲器1iが形成する行動抑制領域SA1の領域外であって、第10の試験用捕獲器1jが形成する行動抑制領域SA2及び第11の試験用捕獲器1kが形成する行動抑制領域の領域内である。同様に、投影位置IPは、第9の試験用捕獲器1iが形成する非行動抑制領域WA1の領域内であって、第10の試験用捕獲器1jが形成する非行動抑制領域WA2及び第11の試験用捕獲器1kが形成する非行動抑制領域の領域外である。すなわち、第9の試験用捕獲器1iは、上述した要求射出特性を満たし、行動抑制境界面IBの上側に行動抑制領域を形成し、下側に非行動抑制領域を形成することができる。一方で、第10の試験用捕獲器1j及び第11の試験用捕獲器1kは、上述した要求射出特性を満たさず、行動抑制境界面IBの下側に案内経路を形成することができない。
以上のことから、上述した要求射出特性を満たし、光源の高さより下側に案内経路を形成することができる捕獲器1は、マダラメイガ成虫の誘引及び捕獲に有効であると示された。また、第1の捕獲器は、行動抑制境界面の上側に行動抑制領域を形成し、広範囲のマダラメイガ成虫を誘引できる。
[試験例5−2]
試験例5−1では、マダラメイガの一例として、チャマダラメイガ及びノシメマダラメイガに関して、指向性を有する誘引光を用いて実施した捕獲試験について説明をした。一方で、マダラメイガは、チャマダラメイガ及びノシメマダラメイガに限らず、スジマダラメイガやスジコナマダラメイガを含む。そこで、本試験例では、スジマダラメイガ及びスジコナマダラメイガに関して、指向性を有する誘引光(狭角配光の誘引光)を射出する第1の実施形態に係る捕獲器1(第9の試験用捕獲器1i)を用いて実施した捕獲試験について説明をする。
本試験例に係る各種の試験条件は、試験領域と、試供虫の種類及び頭数と、放飼後の誘引光の照射時間とが異なること以外は、試験例5−1と同じである。
図29は、本試験例で捕獲試験を実施した試験例5−2に係る試験領域A1´の構成を上方から見た平面図を示す。図29に示すように、試験例5−2に係る試験領域A1´の奥行き(X方向)は30mであり、床面積は450m2である。捕獲器1からX+方向(誘引光の射出方向)に5m離れた位置には、試験例5−2に係る第1の放飼地点R1´が設けられている。同様に、捕獲器1からX+方向に15m及び25m離れた位置には、それぞれ、試験例5−2に係る第2の放飼地点R2´及び試験例5−2に係る第3の放飼地点R3´が設けられている。試験例5−2に係る試験領域A1´のX−側の壁面には、第9の試験用捕獲器1i(捕獲器1)がX+方向に誘引光を射出可能に配置されている。第9の試験用捕獲器1iは、捕獲器の下端が床面に接するように配置されている。また、本試験例でも、比較例として、広角配光の誘引光を射出する第10の試験用捕獲器1j及び第11の試験用捕獲器1kを用いた試験を行った。
本試験で用いた供試虫は、雌雄各75頭のスジマダラメイガ及びスジコナマダラメイガである。本試験は、スジマダラメイガ及びスジコナマダラメイガに関して同時に行った。供試虫は、それぞれ、試験例5−2に係る第1の放飼地点R1´、試験例5−2に係る第2の放飼地点R2´及び試験例5−2に係る第3の放飼地点R3´から、雌雄各25頭ずつ放飼される。試験に先立って、何れの放飼地点から放飼されたか判別できるように、供試虫に、各放飼地点毎に異なる色の蛍光顔料を用いてマーキングを施した。なお、捕獲された試供虫がスジマダラメイガとスジコナマダラメイガとのうちいずれの種であるかは、見た目から容易に判別できる。
ここで、本試験の手順を説明する。まず、捕獲部20に粘着紙を取り付けた。その後、供試虫300頭を、各々の放飼地点から同時放飼した。放飼後、光源部10に所定の放射強度で24時間、誘引光を射出させた。誘引光の射出を開始してから24時間後に粘着紙を回収し、粘着紙に捕獲された供試虫の頭数を種ごとにカウントした。これらの手順を、第9の試験用捕獲器1i、第10の試験用捕獲器1j及び第11の試験用捕獲器1kに対して、捕獲器毎に実施した。
図30及び図31に本試験の結果を示す。図30及び図31は、それぞれ、放飼地点別のスジマダラメイガの捕虫割合及び放飼地点別のスジコナマダラメイガの捕虫割合を示す。図30及び図31において、横軸は放飼位置の誘引光の射出端(捕獲器1)からの距離を示し、縦軸は捕虫割合を示す。
図30及び図31に示すように、第10の試験用捕獲器1j及び第11の試験用捕獲器1kの捕虫割合は、試験例5−1と同様に、放飼位置やマダラメイガ(スジマダラメイガ又はスジコナマダラメイガ)の種によらず、低い傾向が示された。一方で、第9の試験用捕獲器1iの捕虫割合は、試験例5−1と同様に、他の捕獲器と比較して高い。また、第9の試験用捕獲器1iの捕虫割合は、試験例5−1と同様に、捕獲器に近い試験例5−2に係る第1の放飼地点R1´で放飼されたマダラメイガ(スジマダラメイガ又はスジコナマダラメイガ)に対して、特に高い値を示している。
以上説明したように、試験例5に関する考察によれば、上述した要求射出特性を満たし、光源の高さより下側に案内経路を形成することができる捕獲器1は、マダラメイガ成虫の誘引及び捕獲に有効であると示された。また、第1の捕獲器は、行動抑制境界面の上側に行動抑制領域を形成し、広範囲のマダラメイガ成虫を誘引できる。ここで、マダラメイガは、少なくともチャマダラメイガ、ノシメマダラメイガ、スジマダラメイガ及びスジコナマダラメイガを含む。
[試験例6]
本試験例では、光源11の放射した誘引光を絞り部13によって狭角配光の誘引光として射出できる第2の実施形態に係る捕獲器1(第12の試験用捕獲器1l及び第13の試験用捕獲器1m)を用いて実施した捕獲試験について説明をする。
図32は、本試験例で捕獲試験を実施した第2の試験領域A2(倉庫)の構成を上方から見た平面図を示す。図32に示すように、第2の試験領域A2の奥行き(X方向)は32mであり、床面積は約748m2である。捕獲器1からX+方向(誘引光の射出方向)に5m離れた位置には、第4の放飼地点R4が設けられている。同様に、捕獲器1からX+方向に10m、20m、30m離れた位置には、それぞれ、第5の放飼地点R5、第6の放飼地点R6、第7の放飼地点R7が設けられている。第4の放飼地点R4〜第7の放飼地点R7の各々の放飼地点は、捕獲器1のY+側及びY−側の2か所に分かれて配置されている。第2の試験領域A2のX−側の壁面には、捕獲器1がX+方向に誘引光を射出可能に配置されている。第12の試験用捕獲器1l及び第13の試験用捕獲器1mは、各々の捕獲器1の下端が床面に接するように配置されている。第2の試験領域A2は、試験領域外から光の入射がない、空の倉庫である。
第12の試験用捕獲器1lは、図3を参照して上述した第2の実施形態に係る捕獲器1の構成を有する。第12の試験用捕獲器1lは、第4の光源11d(光源11)及び第3の絞り部13c(絞り部13、光学素子12)を具備する光源部10と、中央捕獲部23を具備する捕獲部20と、支持部材30とを備える。
第12の試験用捕獲器1lの備える第4の光源11dは、中央捕獲部23のX−側の中心近傍に配置されている。
第3の絞り部13c(絞り部13)の開口部は、中央捕獲部23の中心に配置されている。第3の絞り部13cの開口部の形状は、略円形である。第3の絞り部13cの開口部の面積は、3mm2である。
中央捕獲部23の捕獲部材は、中央捕獲部23のX+側に配置されている。捕獲部材は、中心に開口部が設けられた50cm角の交換可能な粘着紙である。
第13の試験用捕獲器1mは、絞り部13(光学素子12)の形状及び大きさが異なること以外、第12の試験用捕獲器1lと同じである。第13の試験用捕獲器1mの第4の絞り部13d(絞り部13)の開口部の形状は、10mm角の略矩形である。第4の絞り部13dの開口部の面積は、100mm2である。
本試験で用いた供試虫は、雌雄各200頭のチャマダラメイガである。供試虫は、それぞれ2か所ずつ設けられた第4の放飼地点R4、第5の放飼地点R5、第6の放飼地点R6又は第7の放飼地点R7から、雌雄各100頭ずつ放飼される。
ここで、本試験の手順を説明する。まず、捕獲部20に粘着紙を取り付けた。その後、供試虫200頭を、各々の放飼地点から100頭ずつ同時放飼した。放飼後、光源部10に所定の放射強度で誘引光を射出させた。誘引光の射出を開始してから3日後(4日後)に粘着紙を回収し、粘着紙に捕獲された供試虫の頭数をカウントした。本試験は、誘引光の射出を開始してから3日後に捕虫数をカウントする試験と、誘引光の射出を開始してから4日後に捕虫数をカウントする試験とを行った。これらの手順を、第4の放飼地点R4〜第7の放飼地点R7の各放飼地点毎に、第12の試験用捕獲器1l及び第13の試験用捕獲器1mのそれぞれに対して行った。
図33に本試験の結果を示す。図33は、開口部の面積が3mm2である第12の試験用捕獲器1lによる捕虫割合と、開口部の面積が100mm2である第13の試験用捕獲器1mによる捕虫割合とを示す。図33において、横軸は放飼位置の誘引光の射出端(捕獲器1)からの距離を示し、縦軸は捕虫割合を示す。
図33に示すように、第12の試験用捕獲器1l及び第13の試験用捕獲器1mの何れの捕獲器1を用いても、マダラメイガを捕獲できることが示された。また、捕虫割合は、捕獲器1に近い第1の放飼地点R1で放飼されたマダラメイガに対して、特に高い値を示している。
第12の試験用捕獲器1lの捕虫割合と、第13の試験用捕獲器1mの捕虫割合とを比較すると、絞り部13の開口部の面積が大きい第13の試験用捕獲器1mの捕虫割合の方が高いことも示された。これは、開口部の面積に基づく行動抑制領域の大きさ(誘引光の光量、放射強度)に起因するものであると推察できる。
以上のことから、本試験の結果は、上述の試験例の試験結果と同様に光源高さより下側(行動抑制境界面の下側)に案内経路を形成する捕獲器1の有用性に加え、大きい行動抑制領域によってマダラメイガ成虫に対する誘引性が高い捕獲器1の有用性をさらに示すものである。
[試験例7]
本試験では、狭角配光の誘引光の水平方向(Y方向)の誘引性(捕虫割合)について検討する。
図34は、第3の試験領域A3(倉庫)の構成を上方から見た平面図を示す。第3の試験領域A3として用いられた空間(倉庫)は、第2の試験領域A2と同様である。具体的には、捕獲器1が配置されている第3の試験領域A3のX−側の壁面は、第2の試験領域A2のY−側の壁面である。捕獲器1から5m離れた位置に、第8の放飼地点R8、第9の放飼地点R9及び第10の放飼地点R10が放射状に設けられている。第8の放飼地点R8は、捕獲器1のX+方向(誘引光の射出方向)に、誘引光の射出端に正対するように配置されている。第9の放飼地点R9は、捕獲器1に対して、第8の放飼地点R8の位置から時計回りに+45°移動した位置に配置されている。第10の放飼地点R10は、捕獲器1に対して、第8の放飼地点から時計回りに−45°移動した位置に配置されている。第3の試験領域A3のX−側の壁面には、捕獲器1がX+方向に誘引光を射出可能に配置されている。第3の試験領域A3は、空の倉庫であり、試験領域外から光が入射しないように構成されている。
本試験例では、試験例5−1で用いた第9の試験用捕獲器1iと、第10の試験用捕獲器1jとを用いて捕獲試験を実施した。
本試験で用いた供試虫は、雌雄各20頭のチャマダラメイガ及びノシメマダラメイガである。供試虫は、第8の放飼地点R8、第9の放飼地点R9及び第10の放飼地点R10の各々の放飼地点から、チャマダラメイガ及びノシメマダラメイガの雌雄各20頭ずつ放飼される。供試虫には、何れの放飼地点から放飼されたか判別できるように、マーキングが施されている。
ここで、本試験の手順を説明する。まず、捕獲部20に粘着紙を取り付けた。その後、供試虫240頭を、各々の放飼地点から同時放飼した。放飼後、光源部10に所定の放射強度で誘引光を射出させた。誘引光の射出を開始してから10時間後に粘着紙を回収し、粘着紙に捕獲された供試虫の頭数をカウントした。これらの手順を、第9の試験用捕獲器1iと、第10の試験用捕獲器1jとの各々の捕獲器毎に実施した。
図35及び図36に本試験の結果を示す。図35及び図36は、それぞれ、放飼位置に対するチャマダラメイガの捕虫割合と、放飼位置に対するノシメマダラメイガの捕虫割合とを示す。図35及び図36において、横軸は誘引光の射出端を基準とした誘引光の光軸に対する放飼位置の角度を示し、縦軸は捕虫割合を示す。
図35及び図36に示すように、第9の試験用捕獲器1iの捕虫割合は、第10の試験用捕獲器1jの捕虫割合より概ね高い値となっている。特に、誘引光の射出方向に位置する第8の放飼地点R8から放飼されたマダラメイガに対する捕虫割合は突出している。一方で、例えば第10の放飼地点R10における捕虫割合に見られるように、狭角配光の誘引光を射出する第9の試験用捕獲器1iの捕虫割合は、誘引光の射出方向から外れた位置のマダラメイガに対して低い。
すなわち、第9の試験用捕獲器1iは、第9の試験用捕獲器1iの形成する行動抑制領域SAの下方(Z−方向)又は前方(X+方向)に位置するマダラメイガに対する誘引性は高い。一方で、第9の試験用捕獲器1iの形成する行動抑制領域SAから水平方向(Y方向)に外れた領域に位置するマダラメイガに対する誘引性は低い。
以上のことから、本試験の結果は、狭角配光の誘引光を水平方向に放射状に射出する捕獲器1の有用性を示すものである。すなわち、水平方向には広角配光であり、かつ、重力方向(Z方向)には狭角配光である指向性を有する誘引光の有用性が示された。
[試験例8]
本試験例では、光源11の放射した誘引光のうち、行動抑制境界面の下側へ向かう誘引光をNDフィルタによって減光して射出することで、非行動抑制領域及び案内経路を形成できる第14の試験用捕獲器1nを用いた実施する捕獲試験について説明をする。
本試験例に係る試験領域は、図13を参照して説明した第1の試験領域A1である。本試験例に係る試験は、上述した第1の試験領域A1のX−側の壁面に、X+方向に誘引光を射出可能に第14の試験用捕獲器1n(捕獲器1)を配置して行った。第14の試験用捕獲器1nは、光源高さが70cmとなる高さに配置されている。
第14の試験用捕獲器1nは、図5を参照して上述した第3の実施形態に係る捕獲器1の構成を有する。第14の試験用捕獲器1nの光源部10は、図1に示すように、光源11(第4の光源11d)と、減光部材14(光学素子12)とを備える。
光源部10の第4の光源11d(光源11)は、図18を参照して説明した、紫外光(誘引光)を射出できる4Wの蛍光管である。第4の光源11dによる計測位置MPにおける光量子束密度[photons/m2/s]の値は、42.3×1014であった。第4の光源11dの放射する光線(誘引光)の指向特性は、第4の光源11dが直管形の蛍光管であることから第4の光源11dの周方向に同様(Z方向に無指向性)である。
光源部10の減光部材14(光学素子12)は、減光フィルタ(NDシート、#2110.9 ND 610×610mm、LFE FILTER社製)である。図37に、第4の光源11dの当該減光フィルタ透過(通過)後の光線の分光分布を示す。図37中に示すグラフは、縦軸が波長あたりの放射照度[μW/cm2/nm]であり、横軸が波長[nm]である。図37に示す放射照度は、図2に示す計測位置MPで計測された値である。誘引光の中心(ピーク)波長は、図18を参照して上述した減光フィルタを用いない場合と同様である。減光フィルタ透過後の第4の光源11dの誘引光による、計測位置MPにおける光量子束密度[photons/m2/s]の値は、0.5×1014であった。
このように、減光部材14は、減光部材14の上側(Z+側)から入射した光線(誘引光)を98%以上減光させる。したがって、第14の試験用捕獲器1nを用いた試験においては、行動抑制光量以上の領域である行動抑制領域と、行動抑制光量未満の領域である非行動抑制領域との境界が減光部材14であるから、減光部材14の配置されている位置が行動抑制境界面である。
また、本試験例では、比較例として、同条件の下、第15の試験用捕獲器1oを用いた試験を行った。第15の試験用捕獲器1oは、減光部材14を備えていないこと以外は、第14の試験用捕獲器1nと同じである。
本試験で用いた供試虫は、雌雄各60頭のチャマダラメイガ及びノシメマダラメイガである。供試虫は、第1の放飼地点R1、第2の放飼地点R2及び第3の放飼地点R3から、雌雄各20頭ずつ放飼される。供試虫には、何れの放飼地点から放飼されたか判別できるように、マーキングが施されている。
ここで、本試験の手順を説明する。まず、捕獲部20に粘着紙を取り付けた。その後、供試虫240頭を、各々の放飼地点から同時放飼した。放飼後、光源部10に所定の放射強度で10時間、誘引光を射出させた。誘引光の射出を開始してから10時間後に粘着紙を回収し、粘着紙に捕獲された供試虫の頭数をカウントした。
図38及び図39に本試験の結果を示す。図38及び図39は、それぞれ、放飼地点別のチャマダラメイガの捕虫割合と、放飼地点別のノシメマダラメイガの捕虫割合とを示す。図38及び図39において、横軸は放飼位置の誘引光の射出端からの距離を示し、縦軸は捕虫割合を示す。図38及び図39に示すように、光源11の高さより下側に案内経路を形成する第14の試験用捕獲器1nの捕虫割合は、案内経路を形成しない第15の試験用捕獲器1oの捕虫割合と比較して高い。
以上のことから、上述した要求射出特性は、減光部材14(光学素子12)を用いて実現されてもよいことが示された。また、行動抑制境界面の上側に行動抑制領域を形成し、下側に非行動抑制領域(案内経路)を形成することができる捕獲器1は、マダラメイガ成虫の捕獲に有効であると示された。
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。また、各実施例は適宜組み合わせて実施してもよく、その場合組み合わせた効果が得られる。更に、上記実施形態には種々の発明が含まれており、開示される複数の構成要件から選択された組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、課題が解決でき、効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
例えば、第1の変形例に係る技術は、第3の実施形態に係る捕獲器1に適用されてもよい。また、各々の試験用捕獲器の構成に、狭角配光に構成された光源11が用いられてもよいし、各種の絞り部13、減光部材14等の光学素子12が用いられてもよい。例えば、第3の試験例に係る試験用捕獲器の構成が、スリットの開口部の長手方向がY方向と略平行になる形態で用いられてもよい。例えば、X−Y面に略水平に配置された減光部材14のZ+側の面に光源11が配置されて、Z−側の面に捕獲部20が配置される構成も考えられる。
上述の試験例では、チャマダラメイガ、ノシメマダラメイガ、スジマダラメイガ及びスジコナマダラメイガのうち少なくとも1種を試供虫として用いて試験を行った。しかしながら、これら試験で得られた知見は、試供虫として用いたマダラメイガに限らず、チャマダラメイガ、ノシメマダラメイガ、スジマダラメイガ及びスジコナマダラメイガを含む屋内性のマダラメイガ成虫に対する知見であると見做すことができる。もちろん、適切な行動抑制光量と、移動領域の形状や大きさとは、種によって異なり得る。一方で、床面の近くを移動した後に誘引光の射出端に向かって射出端の下側から飛翔するマダラメイガ成虫であり、行動抑制光量が定義できるマダラメイガ成虫であれば、上述の誘引方法、捕獲方法、光源装置及び捕獲器に係る技術が適用できる。