JPWO2019065643A1 - 赤外線透過ガラス - Google Patents

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Abstract

毒性の化合物を用いることなく、所定の赤外領域の透過率を十分に高くするとともに、可視領域の透過率を低く抑えて、動作の安定した赤外線センサ用のカバーガラスを提供する。酸化物基準のモル百分率表示で、SiO2を60モル%以上含有し、酸化物のみからなる透過率調整成分を含有する赤外線透過ガラスであって、該赤外線透過ガラスの、波長900nm〜1000nmにおける透過率の最小値Tminが70%以上、該透過率の最大値Tmaxと最小値Tminとの差(Tmax−Tmin)が10%以下であり、上記赤外線透過ガラスの、波長380nm〜650nmにおける透過率の最大値Tvmaxが50%以下である、赤外線透過ガラス。

Description

本発明は、赤外線透過ガラスに係り、特に、所定の近赤外領域において透過率が高く、かつ、可視領域において透過率を抑えた、暗色系の色調を有する赤外線透過ガラスに関する。
赤外線センサは、赤外領域の光(赤外線)を受光し、これを電気信号に変換する装置であり、近年、その用途は拡大の一途にある。特に、近赤外線(NIR)は、従来からリモコン等の赤外線通信、自動ドアの開閉や照明の自動点灯等の人感センサ等に用いられており、それに加えて、自動車の車載用途や、ロボットやドローン等への搭載用途など、様々な用途への適用が実施、検討されている。
すなわち、自動車の車載用としては、自動車と外部の障害物等との距離測定や、自動車内への搭乗者の有無の感知、車内環境の監視等に使用される。また、ロボットの人感センサやドローンの高度測定(地面との距離測定等)でも応用されている。
このような用途の拡大に応じて、屋外環境での用途も増えてきており、その際、太陽光に起因して、可視光によりセンサがダメージを受けたり、迷光により近赤外線カメラのNIR画像が不鮮明化したりする問題がある。
このような赤外線センサには、通常、センサ保護や隠蔽の目的で、赤外線センサの検知対象である赤外領域の光透過を良好にしつつ、それ以外の光を遮断するような赤外線透過部材が求められている。
このような赤外線透過部材としては、赤外領域の透過率が良好であって、かつ、可視領域の透過率を抑制する赤外線透過膜を有する赤外線透過フィルタが知られている(例えば、特許文献1〜2等参照)。
ところで、これらの赤外線透過フィルタは、樹脂製の赤外線透過膜を設けることによって該フィルタを得るものであるが、このような赤外線透過膜は外部環境に直接曝されるには強度が不十分であり、赤外線センサのカバーガラス等の外部表面に設けても経時的な劣化が著しく、用途が限定されてしまう。
一方、ガラス製である透過率調整成分としてカドミウム(Cd)化合物を含有、分散させたCdS−CdSe系のガラスが赤外線透過ガラスとして知られている(例えば、非特許文献1参照)。この赤外線透過ガラスは、屋外用として用いるのに強度が十分に高く、また、その光学特性は、可視領域の光を遮断し、赤外領域の光を透過するため、赤外線センサ用のカバーガラスとしての特性は好ましいものである。
また、CdS−CdSe系のガラスに対して、近赤外線は透過しつつ、可視光線に加え、遠赤外線をも吸収するように吸収特性を調整した、CrとCoOを所定の含有量、配合比で有する赤外線透過ガラスも知られている(例えば、特許文献3参照)。
特開2014−130338号公報 特開2014−130332号公報 特開平7−126036号公報
作花 済夫編,「ガラスハンドブック」,朝倉書店,1975年,P168
しかしながら、CdS−CdSe系の赤外線透過ガラスの含有成分であるカドミウム(Cd)が人体に対して毒性を有し、さらに、カドミウムは発がん性を有するとの報告もなされている。また、カドミウムは人体への蓄積性も指摘され、一度カドミウムに暴露されると、長期間その毒性にさらされる危険性がある。
そのため、近年では、特にヨーロッパを中心に、製品への使用が規制され、脱カドミウム化が推進されている。
また、CrとCoOで吸収特性を調整した赤外線透過ガラスは、その吸収特性を近赤外線のみとするためにシャープな吸収曲線を有するものとしているが、シャープであるがため、近赤外線センサに用いられる波長が狭く、特定の波長の赤外線センサにしか使用できない。また、透過が良好な波長以外の赤外線の吸収量もそれなりにあるため、ガラス自体の温度が上昇し、赤外線センサ内部の温度も上昇するおそれがある。
そこで、上記のような状況を鑑み、本発明は、カドミウムのような毒性の化合物を用いることなく、所定の赤外領域の透過率を十分に高くするとともに、可視領域の透過率を低く抑えて、動作の安定した赤外線センサ用のカバーガラスを提供することを目的とする。
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、上記のような所定の特性を満たす赤外線透過ガラスを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の赤外線透過ガラスは、酸化物基準のモル百分率表示で、SiOを60モル%以上含有する赤外線透過ガラスであって、前記赤外線透過ガラスが、酸化物のみからなる透過率調整成分を含有し、前記赤外線透過ガラスの、波長900nm〜1000nmにおける透過率の最小値Tminが70%以上、該透過率の最大値Tmaxと最小値Tminとの差(Tmax−Tmin)が10%以下であり、前記赤外線透過ガラスの、波長380nm〜650nmにおける透過率の最大値Tvmaxが50%以下である、ことを特徴とする。
本発明の赤外線センサ用カバーガラスは、上記本発明の赤外線透過ガラスからなる、ことを特徴とする。
本発明の赤外線透過ガラスによれば、毒性を有する化合物を用いることなく、所定の赤外領域の透過率が十分に高く、かつ、可視領域の透過率が低い赤外線透過ガラスを提供できる。
本発明の赤外線センサ用カバーガラスによれば、上記特性を有する赤外線透過ガラスからなるため、赤外線センサの動作を安定させることができるカバーガラスを提供できる。
実施例及び比較例で得られた赤外線透過ガラスの透過率曲線を示した図である。
以下、本発明の赤外線透過ガラスについて、実施形態を参照しながら詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変形して実施できる。
[赤外線透過ガラス]
本実施形態の赤外線透過ガラスは、上記の通りの構成を有するガラス体である。
すなわち、酸化物基準のモル百分率表示で、SiOを60モル%以上含有する赤外線透過ガラスであって、赤外線透過ガラスが、酸化物のみからなる透過率調整成分を含有する。
また、この赤外線透過ガラスの、波長900nm〜1000nmにおける透過率(%)の最小値Tminが70%以上、該透過率の最大値Tmaxと最小値Tminとの差(Tmax−Tmin)が10%以下であり、かつ、波長380nm〜650nmにおける透過率の最大値Tvmaxが50%以下である。
<透過率>
本実施形態の赤外線透過ガラスは、波長900nm〜1000nmにおける透過率の最小値Tminが70%以上であり、該透過率の最大値Tmaxと最小値Tminとの差(Tmax−Tmin)が10%以下である。
本実施形態の赤外線透過ガラスは、上記したように波長900〜1000nmという特定の範囲の透過率の最小値Tminが70%以上、すなわち、この波長領域における透過率を70%以上としたものである。この波長領域における透過率の最小値Tminは、80%以上が好ましく、85%以上がより好ましい。上記透過率を満たすことにより、赤外領域の光を効率的に利用でき、赤外線センサとして近赤外線を検知するセンサのカバーガラスとして好適である。
また、ここで波長900〜1000nmにおける透過率の最大値Tmaxと最小値Tminとの差(Tmax−Tmin)を10%以下とする。この差は、8%以下が好ましく、5%以下がより好ましい。この特性を満たすことにより、波長900〜1000nmの領域における透過率が良好で、比較的広い範囲で近赤外線を透過できるため、異なる複数の波長を利用したセンサ用のカバーガラスとしても用いることができる。また、赤外領域の光の吸収がしにくいものであるため、カバーガラス自体の温度の上昇を抑制できる。
なお、ここで透過率の測定は、分光光度計(例えば、パーキンエルマー社製、商品名:ラムダ950)を用いて測定し、ISO−9050(1990年)に従って、900〜1000nmの領域の最小値Tminと最大値Tmaxを百分率(%)で表せばよい。また、ここで得られた最小値Tminと最大値Tmaxから、最大値Tmaxと最小値Tminとの差(Tmax−Tmin)は容易に算出できる。
また、本実施形態の赤外線透過ガラスは、波長380〜650nmにおける透過率の最大値Tvmaxが50%以下である。この透過率の最大値Tvmaxは、45%以下が好ましく42%以下がより好ましい。すなわち、可視領域の光の透過を抑制できる。
これにより、太陽光等が直接又は間接に曝されるような環境において赤外線センサが使用される場合であっても、センサ自体に太陽光の可視領域の光の入射を遮断し、センサが受けるダメージを抑制し、劣化を抑制できる。そのため製品寿命を長くできる。また、可視領域の光の入射を遮断することで、NIR画像における迷光を低減させ、センサの品質を向上させ、製品信頼性を高めることができる。
ここでの透過率の測定も、上記と同様に行うことができる。通常は、測定領域である波長を一度に測定することで、透過率特性の数値を得ることができる。すなわち、本実施形態の特性を満たすか否かは、測定対象のガラス板に対して、例えば、300〜1500nmの領域の透過率を測定すればよい。
上記のように赤外線領域の光は透過し、可視領域の光の透過を抑制することで、検知対象である赤外線を安定して利用でき、その際、可視領域の光のノイズ等を十分に低減できるため、赤外線センサのカバーガラスとして好適な赤外線透過ガラスが得られる。
<ガラス組成>
また、本実施形態の赤外線透過ガラスは、酸化物基準のモル百分率表示で、SiOを60モル%以上含有し、酸化物のみからなる透過率調整成分を含有するガラス体である。
ここで、この赤外線透過ガラスの基本組成(母組成)としては、二酸化ケイ素を主成分とする一般的なガラス、例えば、ソーダライムシリケートガラス、アルミノシリケートガラス、ホウケイ酸ガラス、無アルカリガラス、石英ガラス等の公知のガラスが挙げられ、上記光学特性及び組成範囲を満たすものであれば特に制限なく用いることができる。
なお、ここで用いられるガラス材料は、強化処理によりガラス表面に圧縮応力層の形成が可能な材料であり、化学強化処理により圧縮応力層を形成できる材料が好ましい。
本実施形態においては、このようなガラスに対して、透過率調整成分を含有させて、上記のような赤外領域の透過率を満たしつつ、かつ、可視領域の透過率も満たすようにする。このとき用いられる透過率調整成分は、酸化物からなる透過率調整成分である。
この透過率調整成分としては、例えば、Cr、Co及びMnOが挙げられる。これら透過率調整成分は、ガラスに含有させる成分としては公知であるが、一般に、赤外線透過を考慮していない着色ガラスに用いられ、赤外線透過を考慮したものでも、上記特性を満たすような具体的な組成については知られていない。
Crは可視領域の光を吸収し、近赤外領域の光を透過させる成分であり、上記特性を満たすために基本的な吸収特性を形づくるのに好適な成分である。
Crの含有量は、酸化物基準のモル百分率表示で、0.03〜1モル%が好ましい。上記特性を有効に発揮するため、Crの含有量は、0.03モル%以上が好ましい。一方、Crの含有量が多くなるとTminが低下し、(Tmax−Tmin)が増加する傾向にあるため、Crの含有量は1モル%以下が好ましい。Crの含有量は、0.04%以上がより好ましく、0.05%以上がさらに好ましい。また、Crの含有量は、0.5%以下がより好ましく、0.3%以下がさらに好ましい。
Coは可視領域の光を吸収し、近赤外領域の光を透過させる成分であり、上記特性を満たすために好適な成分である。このCoは、特に、500〜700nmの範囲で光を吸収するため、Crの光学特性を補完する成分である。
Coの含有量は、酸化物基準のモル百分率表示で、0.003〜0.3モル%が好ましい。上記特性を有効に発揮するため、Coの含有量は、0.003モル%以上が好ましい。一方、Coの含有量が多くなるとTminが低下し、(Tmax−Tmin)が増加する傾向にあるため、Coの含有量は0.3モル%以下が好ましい。Coの含有量は、0.005%以上がより好ましく、0.01%以上がさらに好ましい。また、Coの含有量は、0.2%以下がより好ましく、0.1%以下がさらに好ましく、0.06%以下がもっとも好ましい。
MnOは可視領域の光を吸収し、近赤外領域の光を透過させる成分であり、上記特性を満たすために好適な成分である。このMnOは、特に、400〜800nmの範囲で光を吸収するため、Crの光学特性を補完する成分である。
MnOの含有量は、酸化物基準のモル百分率表示で、0.001〜2モル%が好ましい。上記特性を有効に発揮するため、MnOの含有量は、0.001モル%以上が好ましい。一方、MnOの含有量が多くなるとTminが低下、(Tmax−Tmin)が増加する傾向にあるため、MnOの含有量は2モル%以下が好ましい。MnOの含有量は、0.01%以上がより好ましく、0.05%以上がさらに好ましい。また、MnOの含有量は、1%以下がより好ましく、0.5%以下がさらに好ましい。
本実施形態の赤外線透過ガラスは、この透過率調整成分として、上記Cr、Co及びMnOを全て含有することが好ましい。これら成分を全て含有することで、上記特性を満たすとともに、赤外線透過ガラスの色調を暗色系の色味に調整できる。
また、酸化物基準のモル百分率表示で、赤外線透過ガラス中に、Crを0.05〜0.3モル%、Coを0.01〜0.1モル%、MnOを0.05〜0.5モル%、含有することがより好ましい。さらに、これら透過率調整成分の含有割合は、各成分の比として、Cr/Coが2〜10モル比、MnO/Coが3〜20モル比、(Cr+(1/2)×MnO)/Coが4〜20モル比であることが(Tmax−Tmin)を小さくする観点から好ましい。
本実施形態の赤外線透過ガラスは、上記のような組成からなるものであり、基本的にはガラスを構成する酸化物と、上記透過率調整成分と、を含有するため、その組成として酸化物のみから構成されるものであってもよい。ただし、本実施形態の効果を阻害しない範囲であれば、酸化物以外の成分を含有させてもよい。
以下、ガラス組成について、より具体的に説明する。
ガラスは、上記のように種々の組成を有するガラスを利用できるが、例えば、酸化物基準のモル%表記で、以下の組成を有するアルミノシリケートガラスが好ましいものとして挙げられる。
本実施形態の赤外線透過ガラスを構成するガラス材料は、例えば、酸化物基準のモル百分率表示で、SiOを60〜75%、Alを2〜30%、RO(ここで、RはLi,Na,Kから選ばれる1種以上である)を5〜25%、含有する。ここで用いられるガラス材料は、強化処理によりガラス表面に圧縮応力層の形成が可能な材料であり、化学強化処理により圧縮応力層を形成できる材料が好ましい。
ここで、ガラスの組成は、簡易的には蛍光エックス線法による半定量分析によって求められるが、より正確には、ICP発光分析等の湿式分析法により測定できる。なお、各成分の含有量は、酸化物基準のモル百分率(モル%)表示で表し、特に断りのない限り、以下「%」で表す。ガラス組成について構成する成分を、以下、具体的に説明する。
SiOはガラスの骨格を構成する成分である。また、化学的耐久性を上げる成分であり、ガラス表面に傷(圧痕)がついた時のクラックの発生を低減させる成分である。
このSiOの含有量は60%以上である。上記特性を有効に発揮するため、SiOの含有量は、63%以上が好ましく、65%以上がより好ましい。一方、SiOの含有量が75%超であると溶融性が低下する傾向にあるため、SiOの含有量は75%以下であり、74%以下が好ましく、73%以下がより好ましい。
Alはヤング率と硬度を向上させる成分であり、含まれると好ましい成分である。また、Alは化学強化の際のイオン交換性能を向上させ、強化後の表面圧縮応力を大きくするために有効な成分である。さらに、Alはガラスのガラス転移点(Tg)を高くする成分であり、化学強化時に圧縮応力深さを深くするために長時間の処理を行っても、圧縮応力を小さくしにくくする成分でもある。
Alの含有量は2%以上である。上記特性を有効に発揮するため、Alの含有量は、2.5%以上が好ましい。一方、Alの含有量が30%超であるとガラスの耐酸性が低下し、または失透温度が高くなる傾向にあるため、Alの含有量は30%以下である。また、ガラスの粘性が増大し溶融性が低下するおそれがある。そのため、Alの含有量は、27%以下が好ましく、20%以下がより好ましく、15%以下がさらに好ましく、10%以下が特に好ましい。
O(ここで、RはLi,Na,Kから選ばれる1種以上である)は、イオン交換によりガラス表面に表面圧縮応力層を形成するための成分であり、化学強化ガラスの破砕性を改善する成分である。これら成分の合量(LiO+NaO+KO)は、5%以上であり、8%以上が好ましく、10%以上がより好ましく、12%以上がさらに好ましい。一方、ROの含有量が25%超ではガラスの耐酸性が低下する傾向にあるため、ROの含有量は25%以下である。ROの含有量は、20%以下が好ましく、18%以下がより好ましい。
LiOは、軽量で、絶縁性を有し、十分な強度を有する赤外線透過ガラスを実現するため、密度を低く維持したままヤング率を大きくするために有用な成分である。また、イオン交換によりガラス表面に表面圧縮応力層を形成する際に利用され、ガラスの耐摩耗性を向上させる成分である。ガラス表面のLiイオンをNaイオンに交換して化学強化処理を行う場合、LiOの含有量は、2%以上が好ましく、3%以上がより好ましく、5%以上がさらに好ましく、7%以上が特に好ましい。一方、LiOの含有量が20%超ではガラスの耐酸性が低下する傾向にあるため、LiOの含有量が20%以下が好ましく、17%以下がより好ましい。
NaOはイオン交換により表面圧縮応力層を形成させ、またガラスの溶融性を向上させる成分である。NaOは含有させなくてもよいが、ガラス表面のLiイオンをNaイオンに交換するのを促進できるため、NaOを含有させる場合の含有量は1%以上が好ましい。NaOの含有量は、2%以上がより好ましく、3%以上がさらに好ましい。一方、NaOの含有量が25%超ではイオン交換により形成される表面圧縮応力が低下するおそれがある。NaOの含有量は、23%以下が好ましく、21%以下がより好ましく、20%以下がさらに好ましく、19%以下が特に好ましく、18%以下が最も好ましい。
強化処理の際、硝酸カリウムと硝酸ナトリウムの混合溶融塩に浸漬する等の方法により、ガラス表面のLiイオンとNaイオン、NaイオンとKイオンを同時にイオン交換する場合には、NaOの含有量は、さらに好ましくは17%以下、特に好ましくは16%以下である。また、NaOの含有量は、好ましくは2%以上、より好ましくは3%以上、さらに好ましくは4%以上である。
Oは、イオン交換性能を向上させる等のために含有させてもよい。KOを含有させる場合の含有量は、0.1%以上が好ましく、0.2%以上がより好ましい。一方、KOの含有量が10%超であると、ヤング率が低下する、強化しにくくなる、ため、KOの含有量は10%以下が好ましい。KOの含有量は、8%以下がより好ましく、6%以下がさらに好ましく、4%以下が特に好ましく、2%以下が最も好ましい。
また、このガラス材料のガラス組成としては、上記成分の他、本実施形態の効果を阻害しない範囲で、種々の任意成分を含有できる。ここで任意成分としては、例えば、以下の成分が挙げられる。
は、赤外線透過ガラスの脆さを低減させ、また溶融性を向上させる成分である。Bは必須ではないが、Bを含有させる場合の含有量は、溶融性を向上するため0.5%以上が好ましく、1%以上がより好ましく、2%以上がさらに好ましい。一方、Bの含有量は5%を超えると耐酸性が悪化しやすいため、5%以下が好ましく、4%以下がより好ましく、3%以下がさらに好ましい。また、溶融時に脈理が発生しガラスの品質を低下しにくくするためには含有しないことが好ましい。
は、イオン交換性能および脆さを低減させる成分である。Pは含有させなくてもよいが、Pを含有させる場合の含有量は、0.5%以上が好ましく、1%以上がより好ましく、2%以上がさらに好ましい。一方、Pの含有量が6%超では、化学強化処理後のガラス(以下、「化学強化ガラス」ともいう)の圧縮応力が低下し、また耐酸性が低下するため、Pの含有量は、6%以下が好ましく、4%以下がより好ましく、3%以下がさらに好ましい。また、溶融時に脈理が発生しガラスの品質を低下しにくくするためには含有しないことが好ましい。
MgOは、ガラスの溶融性を向上させる成分であり、ヤング率を向上させる成分でもあり、含有させてもよい。MgOを含有させる場合の含有量は、0.5%以上が好ましく、1%以上がより好ましく、2%以上がさらに好ましく、3%以上が特に好ましく、5%以上が最も好ましい。一方、MgOの含有量が20%超となるとイオン交換性能が著しく低下するため、MgOの含有量は20%以下が好ましい。MgOの含有量は、16%以下がより好ましく、14%以下がさらに好ましく、12%以下が特に好ましく、10%以下が最も好ましい。
CaOは、ガラスの溶融性を向上させる成分であり、ヤング率を向上させる成分でもあり、含有させてもよい。CaOを含有させる場合の含有量は、0.1%以上が好ましく、0.2%以上がより好ましく、0.5%以上がさらに好ましい。一方、CaOの含有量が5%超となるとイオン交換性能が著しく低下するため、CaOの含有量は5%以下が好ましい。CaOの含有量は、4%以下がより好ましく、3%以下がさらに好ましく、2%以下が特に好ましく、1%以下が最も好ましい。
SrOは、ガラスの溶融性を向上する成分であり、ヤング率を向上させる成分でもあり、含有させてもよい。SrOを含有させる場合の含有量は、0.1%以上が好ましく、0.2%以上がより好ましく、0.3%以上がさらに好ましく、0.4%以上が特に好ましく、0.5%以上が最も好ましい。一方、SrOの含有量が20%超となるとイオン交換性能が著しく低下するため、SrOの含有量は5%以下が好ましく、4%以下がより好ましく、3%以下がさらに好ましく、2%以下が特に好ましく、1%以下が最も好ましい。脆さを低減させるためには、3%以下が好ましく、含有しないことがより好ましい。
BaOは、ガラス材料の溶融性を向上する成分であり、ヤング率を向上させる成分でもあり、含有させてもよい。BaOを含有させる場合の含有量は、0.1%以上が好ましく、0.2%以上がより好ましく、0.3%以上がさらに好ましく、0.4%以上が特に好ましく、0.5%以上が最も好ましい。一方、BaOの含有量が5%超となるとイオン交換性能が著しく低下するため、BaOの含有量は5%以下が好ましい。BaOの含有量は、4%以下がより好ましく、3%以下がさらに好ましく、2%以下が特に好ましい。脆さを低減させるためには、含有しないことが好ましい。
ZnOはガラスの溶融性を向上させる成分であり、含有させてもよい。ZnOを含有させる場合の含有量は、0.25%以上が好ましく、0.5%以上がより好ましい。一方、ZnOの含有量が10%超となるとガラスの耐候性が著しく低下するため、ZnOの含有量は10%以下が好ましい。ZnOの含有量は、7%以下がより好ましく、5%以下がさらに好ましく、2%以下が特に好ましく、1%以下が最も好ましい。
TiOは、ヤング率を向上させる成分であり、含有させてもよい。TiOを含有させる場合の含有量は、0.1%以上が好ましく、0.15%以上がより好ましく、0.2%以上がさらに好ましい。一方、TiOの含有量が5%超であると溶融時に失透しやすくなり、ガラスの品質が低下するおそれがあるため、TiOの含有量は5%以下が好ましい。TiOの含有量は、3%以下が好ましく、1%以下がより好ましく、0.5%以下がさら好ましく、0.25%以下が特に好ましい。
ZrOは、イオン交換による表面圧縮応力を増大させる成分であり、またヤング率を向上させる成分でもあり、含有させてもよい。ZrOを含有させる場合の含有量は、0.5%以上が好ましく、1%以上がより好ましい。一方、ZrOの含有量が8%超であると溶融時に失透しやすくなり、ガラスの品質が低下するおそれがあるため、ZrOの含有量は8%以下が好ましい。ZrOの含有量は、6%以下がより好ましく、4%以下がさらに好ましく、2%以下が特に好ましく、1.2%以下が最も好ましい。
La、Nbは、ヤング率を向上させる成分であり、含有させてもよい。これらの成分を含有させる場合のそれぞれの含有量は、0.5%以上が好ましく、1%以上がより好ましく、1.5%以上がさらに好ましく、2%以上が特に好ましく、2.5%以上が最も好ましい。一方、La、Nbの含有量はそれぞれ8%超であると溶融時にガラスが失透しやすくなり化学強化ガラスの品質が低下するおそれがあるため、La、Nbの含有量はそれぞれ、8%以下が好ましい。La、Nbの含有量はそれぞれ、6%以下がより好ましく、5%以下がさらに好ましく、4%以下が特に好ましく、3%以下が最も好ましい。
Ta、Gdは、ヤング率を向上させるために少量含有してもよいが、溶融時に失透しやすくなり、ガラスの品質が低下するおそれがあるため、これらの成分を含有させる場合のそれぞれの含有量は1%以下が好ましく、0.5%以下がより好ましく、含有しないことがさらに好ましい。
さらに、ガラスをより暗色系に着色して使用する際は、所望の透過率特性の達成を阻害しない範囲において着色成分を添加してもよい。着色成分としては、例えば、NiO、CuO、V、Bi、SeO、TiO、CeO、Er、Nd等が好適なものとして挙げられる。
これら着色成分の含有量は、酸化物基準のモル百分率表示で、合計で7%以下の範囲が好ましい。7%を超えるとガラスが失透しやすくなり望ましくない。この含有量は5%以下が好ましく、3%以下がより好ましく、1%以下がさらに好ましい。ガラスの可視透過率を優先させる場合は、これらの成分は実質的に含有しないことが好ましい。
なお、着色成分として一般的な酸価鉄は、近赤外領域の透過率を低下させる成分であるため、本実施形態においては、実質的に含有させないようにする。ここで、実質的に含有させないとは、不可避的に混入する場合を許容する意味であり、具体的な含有量としては、Fe換算値として0.1%以下とすることが好ましく、0.08%以下がより好ましく、0.05%以下がさらに好ましい。
ガラスの溶融の際の清澄剤として、SO、塩化物、フッ化物などを適宜含有してもよい。Asは含有しないことが好ましい。Sbを含有する場合は、0.3%以下が好ましく、0.1%以下がより好ましく、含有しないことが最も好ましい。
<ガラス特性>
また、本実施形態の赤外線透過ガラスは、CIELabにおけるL*が10〜45、a*が−10〜10、b*が−10〜10、であることが好ましい。このような範囲とすることにより、赤外線透過ガラスの色味が、暗色系でもより黒色に近いものとなる。
ここで、L*は15〜43がより好ましく、20〜42がさらに好ましく、a*は−9〜9がより好ましく、−8〜8がさらに好ましく、b*は−9〜9がより好ましく、−8〜8がさらに好ましい。
このような赤外線透過ガラスを、赤外線センサのカバーガラスとして用いると、近赤外線画像に対する迷光を遮断し、センサの信頼性を向上させたり、太陽光の可視光等からセンサを保護してセンサの劣化を抑制したり、センサの存在を隠蔽したり、することができる。
なお、本明細書におけるCIELab表示は、国際照明委員会(CIE)で規格化されたCIE 1976(L*a*b*)色空間(CIELAB)である。本願においては、D65光源における明度(L*)、D65光源における反射光の色度(a*、b*)をいう。
赤外線透過ガラスとしては、その形状は特に限定されず、例えば、板状に成形したガラスが好ましい。ここで、板状のガラス(ガラス板)としては、その形状は平坦でも湾曲でもよい。このようなガラス板は、赤外線センサー等のカバーガラスとして好適に用いることができる。ガラス板としたときの厚さは、0.5〜6mmが好ましく、0.7〜5mmがより好ましく、1〜4mmがさらに好ましい。
ガラス板の製造方法は特に限定されず、公知の方法で製造できる。例えば、所望のガラス原料を溶融炉に投入し、1500〜1600℃で加熱溶融し清澄した後、成形装置に供給して溶融ガラスを板状に成形し、徐冷することにより製造できる。なお、ガラス板の成形方法は特に限定されず、例えば、ダウンドロー法(例えば、オーバーフローダウンドロー法、スロットダウン法、リドロー法等)、フロート法、ロールアウト法、プレス法等を利用可能である。
このようなガラス板として用いる場合には、その強度を高めるために、ガラス板の主面に対し、物理強化又は化学強化を施した強化ガラスであることが好ましい。
赤外線透過ガラスの表面に圧縮応力層を形成する強化処理方法としては、風冷強化法、水冷強化法(物理強化法)および化学強化法が代表的なものとして知られている。風冷強化法、水冷強化法(物理強化法)は、軟化点付近まで加熱した赤外線透過ガラスの表面を風冷や水冷などにより急速に冷却する手法である。また、化学強化法は、ガラス転移点以下の温度で、イオン交換により、赤外線透過ガラスの表面に存在するイオン半径が小さいアルカリ金属イオン(典型的にはLiイオン、Naイオン)を、イオン半径のより大きいアルカリ金属イオン(典型的にはLiイオンに対してはNaイオンまたはKイオンであり、Naイオンに対してはKイオンである。)に交換する手法である。
本実施形態に用いられる赤外線透過ガラスは、その表面に圧縮応力層を有していると、機械的強度の高いガラスとなり好ましい。機械的強度が高いと、外部からの衝撃等に対しても破損しにくくなるため、外部環境に用いられる赤外線センサのカバーガラスとして好適である。本実施形態において、所望の圧縮応力層を形成するには、いずれの強化手法であってもよいが、厚みが薄くかつ圧縮応力(CS)値が大きな赤外線透過ガラスを得るために、化学強化法によって強化することが好ましい。
本実施形態に用いられる赤外線透過ガラスは、さらに、表面に反射防止膜、防曇膜等の機能膜を、片面、あるいは両面につけることができる。反射防止膜をつければ片面あたり約4%の透過率の向上が、両面で約8%の透過率向上が期待できる。
[赤外線センサ用カバーガラス]
上記で説明したような本実施形態の赤外線透過ガラスを用いることにより、赤外線センサ用として好適なカバーガラスとできる。このカバーガラスは、ガラス製であるため、強度が高く、割れやひっかき傷等の発生を抑制でき、熱や外部からの衝撃等による変形も抑制でき、耐候性、耐環境化学耐湿性、も良好である。
上記のような強化処理を施すと、これらの特性がより向上し、好ましいものである。なお、このカバーガラスについては、上記赤外線透過ガラスとして板状のものをそのまま適用できる。
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの記載により限定されるものではない。
(実施例1〜14、比較例1)
表1〜2中に示される酸化物基準のモル百分率(モル%)表示の各ガラス組成となるように板状のガラスを次の手順により白金るつぼ溶融にて作製した。
まず、酸化物、水酸化物、炭酸塩または硝酸塩等一般に使用されているガラス原料を適宜選択し、ガラスとして1000gになるように秤量した。ついで、混合した原料を白金るつぼに入れ、1500〜1700℃の抵抗加熱式電気炉に投入して3時間程度溶融し、脱泡、均質化した。得られた溶融ガラスを型材に流し込み、ガラス転移点+50℃の温度において1時間保持した後、0.5℃/分の速度で室温まで冷却し、ガラスブロックを得た。得られたガラスブロックを切断、研削し、最後に表面を鏡面に加工して、4cm角で、厚さ1mmのガラス板を得た。
[特性評価]
得られたガラス板の特性について、その近赤外透過率、可視透過率、色度を次のように測定し、その結果を表1〜2に併せて示した。
<透過率>
上記得られたガラス板の分光特性を分光光度計(パーキンエルマー社製、商品名:ラムダ950)を用いて測定し、ISO−9050(1990年)に従って、ガラス板の300〜1500nmでの透過率をそれぞれ測定し、各ガラス板について、波長380〜650nmにおける最大透過率をTvmax、波長900〜1000nmにおける最大透過率Tmax、最小透過率Tmin、それらの差(Tmax−Tmin)を算出し、表1〜2に示した。また、測定により得られた透過率曲線を図1に示した。
<色度>
上記得られたガラス板について、エックスライト株式会社製の色調測定器(商品名:Color i7)を用いて、D65光源における明度(L*)、D65光源における反射光の色度(a*、b*)を測定した。
Figure 2019065643
Figure 2019065643
以上の結果から、実施例の赤外線透過ガラスは、近赤外領域の光を安定して透過する一方、可視領域の光の透過を抑制でき、さらに、暗色系の色調を有するものであるため、赤外線センサ用のカバーガラスとして好ましいことがわかった。

Claims (7)

  1. 酸化物基準のモル百分率表示で、SiOを60モル%以上含有する赤外線透過ガラスであって、
    前記赤外線透過ガラスが、酸化物のみからなる透過率調整成分を含有し、
    前記赤外線透過ガラスの、波長900nm〜1000nmにおける透過率の最小値Tminが70%以上、該透過率の最大値Tmaxと最小値Tminとの差(Tmax−Tmin)が10%以下であり、かつ、
    前記赤外線透過ガラスの、波長380nm〜650nmにおける透過率の最大値Tvmaxが50%以下である、ことを特徴とする赤外線透過ガラス。
  2. 前記赤外線透過ガラスのCIELabにおけるL*が10〜45、a*が−10〜10、b*が−10〜10、である請求項1に記載の赤外線透過ガラス。
  3. 酸化物基準のモル百分率表示で、前記透過率調整成分として、Crを0.03〜1モル%、Coを0.003〜0.3モル%、MnOを0.001〜2モル%含有する請求項1又は2に記載の赤外線透過ガラス。
  4. 前記透過率調整成分の比として、Cr/Coが2〜10モル比、MnO/Coが3〜20モル比、(Cr+(1/2)×MnO)/Coが4〜20モル比である請求項3に記載の赤外線透過ガラス。
  5. 前記透過率調整成分として、酸化鉄を実質的に含有しない、請求項1〜4のいずれか1項に記載の赤外線透過ガラス。
  6. 請求項1〜5のいずれか1項に記載の赤外線透過ガラスを有することを特徴とする赤外線センサ用カバーガラス。
  7. 厚さが0.5〜5mmの板状である、請求項6に記載の赤外線センサ用カバーガラス。
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