JPWO2019043859A1 - 検査システム、検査方法、およびプログラム - Google Patents

検査システム、検査方法、およびプログラム Download PDF

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Abstract

検査装置(800)は、前後方向力の測定値の時系列データに含まれる低周波成分の信号強度を低減し、前後方向力の高周波成分の時系列データを生成する。検査装置(800)は、前後方向力の高周波成分の時系列データに基づいて、通り狂い量を算出する。

Description

本発明は、検査システム、検査方法、およびプログラムに関し、特に、鉄道車両の軌道を検査するために用いて好適なものである。
軌道上を鉄道車両が走行すると鉄道車両からの荷重により軌道の位置が変化する。このような軌道の変化が生じると、鉄道車両が異常な挙動を示す虞がある。そこで、従来から、鉄道車両を軌道上で走行させることにより、軌道の異常を検出することが行われている。
特許文献1には、レーザ光の照射部と、走行部と、受光部とを備える測定装置が記載されている。照射部は、1本のレールに固定される。走行部は、照射部が固定されたレール上を走行する。受光部は、走行部に取り付けられる。受光部は、レーザ光の受光位置を検出する検出部を有する。この検出部の形状は、レールの延伸方向に略直交する断面において面状となっている。走行部を距離Lだけ前進させることと、走行部を距離L/2だけ後退させることと、走行部を距離Lだけ前進させることとを繰り返し行う。このように受光部による測定範囲の一部が重複するように走行部を走行させることにより、軌道の曲線部での軌道狂いの量を測定する。
特開2017−53773号公報
日本機械学会編、「鉄道車両のダイナミクス 最新の台車テクノロジー」、株式会社電気車研究会、2003年1月、p.15-p.33 Ping Li et al.、「Estimation of railway vehicle suspension parameters for condition monitoring」、Control Engineering Practice 15 (2007) p.43-p.55
しかしながら、特許文献1に記載の方法は、軌道不整を直接測定する手法である。このため、高価な測定装置が必要になる。また、特許文献1に記載の方法は、走行部が前進と後退とを繰り返す。このため、営業車両の走行中に軌道不整を検知することができない。
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、鉄道車両の軌道の曲線部における不整を特別な測定装置を用いることなく検出することができるようにすることを目的とする。
本発明の検査システムは、車体と台車と輪軸とを有する鉄道車両を軌道上で走行させることにより測定される測定値の時系列データである計測データを取得するデータ取得手段と、前記鉄道車両の状態に応じて値が変動する物理量の時系列データから、前記鉄道車両が前記軌道の曲線部を走行することに起因して生じる低周波成分の信号強度を低減する周波数調整手段と、前記軌道の状態を反映する情報を導出する軌道状態導出手段と、を有し、前記計測データは、前後方向力の測定値を含み、前記前後方向力は、前記輪軸と、当該輪軸が設けられる前記台車との間に配置される部材に生じる前後方向の力であり、前記部材は、軸箱を支持するための部材であり、前記前後方向は、前記鉄道車両の走行方向に沿う方向であり、前記周波数調整手段は、前記物理量である前記前後方向力の測定値の時系列データから、前記鉄道車両が前記軌道の曲線部を走行することに起因して生じる低周波成分の信号強度を低減する第1の周波数調整手段を有し、前記軌道状態導出手段は、前記輪軸の位置での前記軌道の状態を反映する情報と前記前後方向力との関係を示す関係式と、前記第1の周波数調整手段により低周波成分の信号強度が低減された前記前後方向力の値と、を用いて、前記軌道の状態を反映する情報を導出し、前記関係式は、レールの曲率半径を含まない式であることを特徴とする。
本発明の検査方法は、車体と台車と輪軸とを有する鉄道車両を軌道上で走行させることにより測定される測定値の時系列データである計測データを取得するデータ取得工程と、前記鉄道車両の状態に応じて値が変動する物理量の時系列データから、前記鉄道車両が前記軌道の曲線部を走行することに起因して生じる低周波成分の信号強度を低減する周波数調整工程と、前記軌道の状態を反映する情報を導出する軌道状態導出工程と、を有し、前記計測データは、前後方向力の測定値を含み、前記前後方向力は、前記輪軸と、当該輪軸が設けられる前記台車との間に配置される部材に生じる前後方向の力であり、前記部材は、軸箱を支持するための部材であり、前記前後方向は、前記鉄道車両の走行方向に沿う方向であり、前記周波数調整工程は、前記物理量である前記前後方向力の測定値の時系列データから、前記鉄道車両が前記軌道の曲線部を走行することに起因して生じる低周波成分の信号強度を低減する第1の周波数調整工程を有し、前記軌道状態導出工程は、前記輪軸の位置での前記軌道の状態を反映する情報と前記前後方向力との関係を示す関係式と、前記第1の周波数調整工程により低周波成分の信号強度が低減された前記前後方向力の値と、を用いて、前記軌道の状態を反映する情報を導出し、前記関係式は、レールの曲率半径を含まない式に基づく式であることを特徴とする。
本発明のプログラムは、車体と台車と輪軸とを有する鉄道車両を軌道上で走行させることにより測定される測定値の時系列データである計測データを取得するデータ取得工程と、前記鉄道車両の状態に応じて値が変動する物理量の時系列データから、前記鉄道車両が前記軌道の曲線部を走行することに起因して生じる低周波成分の信号強度を低減する周波数調整工程と、前記軌道の状態を反映する情報を導出する軌道状態導出工程と、をコンピュータに実行させ、前記計測データは、前後方向力の測定値を含み、前記前後方向力は、前記輪軸と、当該輪軸が設けられる前記台車との間に配置される部材に生じる前後方向の力であり、前記部材は、軸箱を支持するための部材であり、前記前後方向は、前記鉄道車両の走行方向に沿う方向であり、前記周波数調整工程は、前記物理量である前記前後方向力の測定値の時系列データから、前記鉄道車両が前記軌道の曲線部を走行することに起因して生じる低周波成分の信号強度を低減する第1の周波数調整工程を有し、前記軌道状態導出工程は、前記輪軸の位置での前記軌道の状態を反映する情報と前記前後方向力との関係を示す関係式と、前記第1の周波数調整工程により低周波成分の信号強度が低減された前記前後方向力の値と、を用いて、前記軌道の状態を反映する情報を導出し、前記関係式は、レールの曲率半径を含まない式に基づく式であることを特徴とする。
図1は、鉄道車両の概略の一例を示す図である。 図2は、鉄道車両の構成要素の主な運動の方向を概念的に示す図である。 図3Aは、直線軌道における通り狂い量の一例を示す図である。 図3Bは、曲線軌道における通り狂い量の一例を示す図である。 図4は、通り狂い量と鉄道車両の構成要素の運動との相互の作用関係の一例を示す図である。 図5は、前後方向力を用いて、通り狂い量と鉄道車両の構成要素の運動との相互の作用関係の一例を示す図である。 図6は、輪軸のヨーイングに直接作用する構成要素の運動を決定するのに必要な作用関係の一例を示す図である。 図7は、通り狂い量を決定するのに必要な作用関係の一例を示す図である。 図8は、検査装置の機能的な構成の第1の例を示す図である。 図9は、検査装置のハードウェアの構成の一例を示す図である。 図10は、検査装置における事前処理の第1の例を示すフローチャートである。 図11は、検査装置における本処理の第1の例を示すフローチャートである。 図12は、自己相関行列の固有値の分布の一例を示す図である。 図13は、前後方向力の測定値の時系列データ(測定値)と、前後方向力の予測値の時系列データ(計算値)の一例を示す図である。 図14は、前後方向力の高周波成分の時系列データの一例を示す図である。 図15は、各輪軸における通り狂い量の時系列データの一例を示す図である。 図16は、最終的な通り狂い量の時系列データと、軌道16(レール)の曲率との一例を示す図である。 図17は、検査装置の機能的な構成の第2の例を示す図である。 図18は、検査装置における事前処理の第2の例を示すフローチャートである。 図19は、検査装置における本処理の第2の例を示すフローチャートである。 図20は、検査システムの構成の一例を示す図である。
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
(概要)
まず、本発明の実施形態の概要を説明する。
図1は、鉄道車両の概略の一例を示す図である。尚、図1において、鉄道車両は、x軸の正の方向に進むものとする(x軸は、鉄道車両の走行方向に沿う軸である)。また、z軸は、軌道16(地面)に対し垂直方向(鉄道車両の高さ方向)であるものとする。y軸は、鉄道車両の走行方向に対して垂直な水平方向(鉄道車両の走行方向と高さ方向との双方に垂直な方向)であるものとする。また、鉄道車両は、営業車両であるものとする。尚、図1および図3において、○の中に●が付されているものは、紙面の奥側から手前側に向かう方向を示す。図1では、この方向は、y軸の正の方向である。図3では、この方向は、z軸の正の方向である。
図1に示すように本実施形態では、鉄道車両は、車体11と、台車12a、12bと、輪軸13a〜13dとを有する。このように本実施形態では、1つの車体11に、2つの台車12a、12bと4組の輪軸13a〜13dとが備わる鉄道車両を例に挙げて説明する。輪軸13a〜13dは、車軸15a〜15dとその両端に設けられた車輪14a〜14dとを有する。本実施形態では、台車12a、12bが、ボルスタレス台車である場合を例に挙げて説明する。尚、図1では、表記の都合上、輪軸13a〜13dの一方の車輪14a〜14dのみを示すが、輪軸13a〜13dの他方にも車輪が設けられている(図1に示す例では、車輪は合計8個ある)。また、鉄道車両は、図1に示す構成要素以外の構成要素(後述する運動方程式で説明する構成要素等)を有するが、表記の都合上、図1では、当該構成要素の図示を省略する。例えば、台車12a、12bは、台車枠および枕バネなどを有する。また、各輪軸13a〜13dの左右方向の両側には、軸箱が配置される。また、台車枠と軸箱は、軸箱支持装置により相互に結合される。軸箱支持装置は、軸箱および台車枠との間に配置される装置(サスペンション)である。軸箱支持装置は、軌道16から鉄道車両に伝わる振動を吸収する。また、軸箱支持装置は、軸箱が台車枠に対してx軸に沿う方向およびy軸に沿う方向に移動することを抑制するように(好ましくは、当該移動が生じないように)軸箱の台車枠に対する位置を規制した状態で軸箱を支持する。軸箱支持装置は、各輪軸13a〜13dのy軸に沿う方向の両側に配置される。尚、鉄道車両自体は公知の技術で実現できるので、ここでは、その詳細な説明を省略する。
鉄道車両が軌道16上を走行すると、車輪14a〜14dと軌道16との間の作用力(クリープ力)が振動源となり、輪軸13a〜13d、台車12a、12b、車体11に振動が順次伝搬する。図2は、鉄道車両の構成要素(輪軸13a〜13d、台車12a、12b、車体11)の主な運動の方向を概念的に示す図である。図2に示すx軸、y軸、z軸は、それぞれ、図1に示したx軸、y軸、z軸に対応する。
図2に示すように本実施形態では、輪軸13a〜13d、台車12a、12b、および車体11が、x軸を回動軸として回動する運動と、z軸を回動軸として回動する運動と、y軸に沿う方向の運動とを行う場合を例に挙げて説明する。以下の説明では、x軸を回動軸として回動する運動を必要に応じてローリングと称し、x軸を回動軸とする回動方向を必要に応じてローリング方向と称し、x軸に沿う方向を必要に応じて前後方向と称する。尚、前後方向は、鉄道車両の走行方向である。本実施形態では、x軸に沿う方向が鉄道車両の走行方向であるものとする。また、z軸を回動軸として回動する運動を必要に応じてヨーイングと称し、z軸を回動軸とする回動方向を必要に応じてヨーイング方向と称し、z軸に沿う方向を必要に応じて上下方向と称する。尚、上下方向は、軌道16に対し垂直な方向である。また、y軸に沿う方向の運動を必要に応じて横振動と称し、y軸に沿う方向を必要に応じて左右方向と称する。尚、左右方向は、前後方向(鉄道車両の走行方向)と上下方向(軌道16に対し垂直な方向)との双方に垂直な方向である。尚、鉄道車両は、この他の運動も行うが、各実施形態では説明を簡単にするため、これらの運動については考慮しないものとする。しかしながら、これらの運動を考慮してもよい。
本発明者らは、輪軸13a〜13b(13c〜13d)と、当該輪軸13a〜13b(13c〜13d)が設けられる台車12a(12b)との間に配置される部材に生じる前後方向の力の測定値を用いて、軌道不整(軌道16の外観上の不良)を反映する情報の一例として通り狂い量を算出する方法に想到した。以下の説明では、この部材に生じる前後方向の力を、必要に応じて前後方向力と称する。
通り狂い量は、鉄道車両の直線軌道の走行時における運動を記述する運動方程式に基づく式であって、通り狂い量と前後方向力との関係を示す式を用いて算出される。軌道16には、直線部と曲線部とが含まれる。以下の説明では、軌道16の直線部を必要に応じて直線軌道と称し、軌道16の曲線部を必要に応じて曲線軌道と称する。曲線軌道を走行する鉄道車両の運動を記述する運動方程式では、走行時に鉄道車両が受ける遠心力等を考慮する必要がある。従って、曲線軌道を走行する鉄道車両の運動を記述する運動方程式には、レールの曲率半径を含む項が含まれる。よって、前後方向力の測定誤差が通り狂い量の精度に反映され易くなり、通り狂い量を高精度に算出することができなくなる虞がある。
本発明者らは、鉄道車両が曲線軌道を走行する場合には、直線軌道を走行しているときに対し、前後方向力の測定値が或るバイアスを持つことに着目した。通り狂いによる前後方向力の成分自体は、曲線軌道であっても直線軌道であっても同じように生じる。そこで、本発明者らは、通り狂い量自体は、前記バイアスの量とは無関係であると考え、前後方向力の測定値の時系列データから低周波成分(前記バイアスの挙動)を低減させればよいと考えた。このことから、本発明者らは、低周波成分が低減された前後方向力の値の時系列データを、鉄道車両の直線軌道の走行時における運動を記述する運動方程式に基づく式であって、通り狂い量と前後方向力との関係を示す式に与えることによって、通り狂い量を算出することに想到した。このようにして通り狂い量を算出することによって、鉄道車両の直線軌道の走行時における運動を記述する運動方程式に基づく式を用いているのにも関わらず、曲線軌道における通り狂い量を算出することができる。また、通り狂い量の算出式は、曲線軌道であっても直線軌道であっても同じ算出式になる。
(運動方程式)
以上のことを前提として、鉄道車両の直線軌道の走行時における運動を記述する運動方程式の一例を説明する。本実施形態では、鉄道車両が21自由度を有する場合を例に挙げて説明する。即ち、輪軸13a〜13dが、左右方向における運動(横振動)とヨーイング方向における運動(ヨーイング)とを行うものとする(2×4セット=8自由度)。また、台車12a、12bが、左右方向における運動(横振動)とヨーイング方向における運動(ヨーイング)とローリング方向における運動(ローリング)とを行うものとする(3×2セット=6自由度)。また、車体11が、左右方向における運動(横振動)とヨーイング方向における運動(ヨーイング)とローリング方向における運動(ローリング)とを行うものとする(3×1セット=3自由度)。また、台車12a、12bに対してそれぞれ設けられている空気バネ(枕バネ)が、ローリング方向における運動(ローリング)を行うものとする(1×2セット=2自由度)。また、台車12a、12bに対してそれぞれ設けられているヨーダンパが、ヨーイング方向における運動(ヨーイング)を行うものとする(1×2セット=2自由度)。
尚、自由度は、21自由度に限定されない。自由度を大きくすれば計算精度は向上するが、計算負荷が高くなる。また、後述するカルマンフィルタの動作が安定しなくなる虞がある。これらの点を考慮して自由度を適宜決定することができる。また、以下の運動方程式は、それぞれの構成要素(車体11、台車12a、12b、輪軸13a〜13d)のそれぞれの方向(左右方向、ヨーイング方向、ローリング方向)の動作を、例えば、非特許文献1、2の記載に基づいて表すことにより実現することができる。従って、ここでは、それぞれの運動方程式の概要を説明し、詳細な説明を省略する。尚、以下の各式には、軌道16(レール)の曲率半径(曲率)を含む項が存在しない。即ち、以下の各式は、鉄道車両が直線軌道を走行することを表現する式となる。鉄道車両が曲線軌道を走行することを表現する式において、軌道16(レール)の曲率半径を無限大(曲率を0(ゼロ))とすることにより、鉄道車両が直線軌道を走行することを表現する式が得られる。
以下の各式において、添え字wは、輪軸13a〜13dを表す。添え字w(のみ)が付されている変数は、輪軸13a〜13dで共通であることを表す。添え字w1、w2、w3、w4はそれぞれ、輪軸13a、13b、13c、13dを表す。
添え字t、Tは、台車12a、12bを表す。添え字t、T(のみ)が付されている変数は、台車12a、12bで共通であることを表す。添え字t1、t2はそれぞれ、台車12a、12bを表す。
添え字b、Bは、車体11であることを表す。
添え字xは、前後方向またはローリング方向を表し、添え字yは、左右方向を表し、添え字zは、上下方向またはヨーイング方向を表す。
また、変数の上に付している「・・」、「・」はそれぞれ、2階時間微分、1階時間微分を表す。
尚、以下の運動方程式の説明に際し、必要に応じて、既出の変数の説明を省略する。
[輪軸の横振動]
輪軸13a〜13dの横振動(左右方向における運動)を記述する運動方程式は、以下の(1)式〜(4)式で表される。
は、輪軸13a〜13dの質量である。yw1・・(式において・・はyw1の上に付される(以下、その他の変数についても同様))は、輪軸13aの左右方向における加速度である。fは、横クリープ係数である。vは、鉄道車両の走行速度である。yw1・(式において・はyw1の上に付される(以下、その他の変数についても同様))は、輪軸13aの左右方向における速度である。Cwyは、軸箱と輪軸とをつなぐ軸箱支持装置の左右方向におけるダンピング定数である。yt1・は、台車12aの左右方向における速度である。aは、台車12a、12bに設けられている輪軸13a・13b、13c・13d間の前後方向における距離の1/2を表す(台車12a、12bに設けられている輪軸13a・13b、13c・13d間の距離は2aになる)。ψt1・は、台車12aのヨーイング方向における角速度である。hは、車軸の中心と台車12aの重心との上下方向における距離である。φt1・は、台車12aのローリング方向における角速度である。ψw1は、輪軸13aのヨーイング方向における回動量(角変位)である。Kwyは、軸箱支持装置の左右方向のバネ定数である。yw1は、輪軸13aの左右方向における変位である。yt1は、台車12aの左右方向における変位である。ψt1は、台車12aのヨーイング方向における回動量(角変位)である。φt1は、台車12aのローリング方向における回動量(角変位)である。尚、(2)式〜(4)式の各変数は、前述した添え字の意味に従って(1)式の変数を読み替えることにより表される。
[輪軸のヨーイング]
輪軸13a〜13dのヨーイングを記述する運動方程式は、以下の(5)式〜(8)式で表される。
wzは、輪軸13a〜13dのヨーイング方向における慣性モーメントである。ψw1・・は、輪軸13aのヨーイング方向における角加速度である。fは、縦クリープ係数である。bは、輪軸13a〜13dに取り付けられている2つの車輪と軌道16(レール)との接点の間の左右方向における距離である。ψw1・は、輪軸13aのヨーイング方向における角速度である。Cwxは、軸箱支持装置の前後方向のダンピング定数である。bは、軸箱支持装置の左右方向における間隔の1/2を表す(1つの輪軸に対して左右に設けられている2つの軸箱支持装置の左右方向における間隔は2bになる)。γは、踏面勾配である。rは、車輪14a〜14dの半径である。yR1は、輪軸13aの位置での通り狂い量である。sは、車軸15a〜15dの中心から軸箱支持バネまでの前後方向におけるオフセット量である。yt1は、台車12aの左右方向における変位である。Kwxは、軸箱支持装置の前後方向のバネ定数である。尚、(6)式〜(8)式の各変数は、前述した添え字の意味に従って(5)式の変数を読み替えることにより表される。ただし、yR2、yR3、yR4はそれぞれ、輪軸13b、13c、13dの位置での通り狂い量である。
ここで、通り狂いとは、日本工業規格(JIS E 1001:2001)に記載されているように、レールの長手方向の左右の変位である。通り狂い量は、その変位の量である。図3Aおよび図3Bに、輪軸13aの位置での通り狂い量yR1の一例を示す。図3Aでは、軌道16が、直線軌道である場合を例に挙げて説明する。図3Bでは、軌道16が、曲線軌道である場合を例に挙げて説明する。図3Aおよび図3Bにおいて、16aは、レールを示し、16bは、枕木を示す。図3Aでは、輪軸13aの車輪14aが位置301でレール16aと接触しているとする。図3Bでは、輪軸13aの車輪14aが位置302でレール16aと接触しているとする。輪軸13aの位置での通り狂い量yR1は、輪軸13aの車輪14aとレール16aとの接触位置と、正規の状態であると仮定した場合のレール16aの位置と、の左右方向の距離である。輪軸13aの位置とは、輪軸13aの車輪14aとレール16aとの接触位置である。輪軸13b、13c、13dの位置での通り狂い量yR2、yR3、yR4も、輪軸13aの位置での通り狂い量yR1と同様に定義される。
[台車の横振動]
台車12a、12bの横振動(左右方向における運動)を記述する運動方程式は、以下の(9)式、(10)式で表される。
は、台車12a、12bの質量である。yt1・・は、台車12aの左右方向における加速度である。c´は、左右動ダンパのダンピング定数である。hは、台車12aの重心と左右動ダンパとの上下方向における距離である。y・は、車体11の左右方向における速度である。Lは、台車12a、12bの中心間の前後方向における間隔の1/2を表す(台車12a、12bの中心間の前後方向における間隔は2Lになる)。ψ・は、車体11のヨーイング方向における角速度である。hは、左右動ダンパと車体11の重心との間の上下方向における距離である。φ・は、車体11のローリング方向における角速度である。yw2・は、輪軸13bの左右方向における速度である。k´は、空気バネ(枕バネ)の左右方向のバネ定数である。hは、台車12a、12bの重心と空気バネ(枕バネ)の中心との間の上下方向における距離である。yは、車体11の左右方向における変位である。ψは、車体11のヨーイング方向における回動量(角変位)である。hは、空気バネ(枕バネ)の中心と車体11の重心との間の上下方向における距離である。φは、車体11のローリング方向における回動量(角変位)である。尚、(10)式の各変数は、前述した添え字の意味に従って(9)式の変数を読み替えることにより表される。
[台車のヨーイング]
台車12a、12bのヨーイングを記述する運動方程式は、以下の(11)式、(12)式で表される。
Tzは、台車12a、12bのヨーイング方向における慣性モーメントである。ψt1・・は、台車12aのヨーイング方向における角加速度である。ψw2・は、輪軸13bのヨーイング方向における角速度である。ψw2は、輪軸13bのヨーイング方向における回動量(角変位)である。yw2は、輪軸13bの左右方向における変位である。k´は、ヨーダンパのゴムブッシュ剛性である。b´は、台車12a、12bに対し左右に配置された2つのヨーダンパの左右方向における間隔の1/2を表す(台車12a、12bに対し左右に配置された2つのヨーダンパの左右方向における間隔は2b´になる)。ψy1は、台車12aに配置されたヨーダンパのヨーイング方向における回動量(角変位)である。k´´は、空気バネ(枕バネ)の左右方向のバネ定数である。bは、台車12a、12bに対し左右に配置された2つの空気バネ(枕バネ)の左右方向における間隔の1/2を表す(台車12a、12bに対し左右に配置された2つの空気バネ(枕バネ)の左右方向における間隔は2bになる)。尚、(12)式の各変数は、前述した添え字の意味に従って(11)式の変数を読み替えることにより表される。
[台車のローリング]
台車12a、12bのローリングを記述する運動方程式は、以下の(13)式、(14)式で表される。
Txは、台車12a、12bのローリング方向における慣性モーメントである。φt1・・は、台車12aのローリング方向における角加速度である。cは、軸ダンパの上下方向のダンピング定数である。b´は、台車12a、12bに対し左右に配置された2つの軸ダンパの左右方向における間隔の1/2を表す(台車12a、12bに対し左右に配置された2つの軸ダンパの左右方向における間隔は2b´になる)。cは、空気バネ(枕バネ)の上下方向のダンピング定数である。φa1・は、台車12aに配置された空気バネ(枕バネ)のローリング方向における角速度である。kは、軸バネの上下方向のバネ定数である。λは、空気バネ(枕バネ)の本体の容積を補助空気室の容積で割った値である。kは、空気バネ(枕バネ)の上下方向のバネ定数である。φa1は、台車12aに配置された空気バネ(枕バネ)のローリング方向における回動量(角変位)である。kは、空気バネ(枕バネ)の有効受圧面積の変化による等価剛性である。尚、(14)式の各変数は、前述した添え字の意味に従って(13)式の変数を読み替えることにより表される。ただし、φa2は、台車12bに配置された空気バネ(枕バネ)のローリング方向における回動量(角変位)である。
[車体の横振動]
車体11の横振動(左右方向における運動)を記述する運動方程式は、以下の(15)式で表される。
は、台車12a、12bの質量である。y・・は、車体11の左右方向における加速度である。yt2・は、台車12bの左右方向における速度である。φt2・は、台車12bのローリング方向における角速度である。yt2は、台車12bの左右方向における変位である。φt2は、台車12bのローリング方向における回動量(角変位)である。
[車体のヨーイング]
車体11のヨーイングを記述する運動方程式は、以下の(16)式で表される。
Bzは、車体11のヨーイング方向における慣性モーメントである。ψ・・は、車体11のヨーイング方向における角加速度である。cは、ヨーダンパの前後方向のダンピング定数である。ψy1・は、台車12aに配置されたヨーダンパのヨーイング方向における角速度である。ψy2・は、台車12bに配置されたヨーダンパのヨーイング方向における角速度である。ψt2は、台車12bのヨーイング方向における回動量(角変位)である。
[車体のローリング]
車体11のローリングを記述する運動方程式は、以下の(17)式で表される。
Bxは、車体11のローリング方向における慣性モーメントである。φ・・は、車体11のローリング方向における角加速度である。
[ヨーダンパのヨーイング]
台車12aに配置されたヨーダンパ、台車12bに配置されたヨーダンパのヨーイングを記述する運動方程式は、それぞれ以下の(18)式、(19)式で表される。
ψy2は、台車12bに配置されたヨーダンパのヨーイング方向における回動量(角変位)である。
[空気バネ(枕バネ)のローリング]
台車12aに配置された空気バネ(枕バネ)、台車12bに配置された空気バネ(枕バネ)のローリングを記述する運動方程式は、それぞれ以下の(20)式、(21)式で表される。
φa2・は、台車12bに配置された空気バネ(枕バネ)のローリング方向における角速度である。
<軌道の通り狂い量と鉄道車両の運動との関係>
次に、通り狂い量yR1〜yR4の精度を向上させるための本発明者らが得た知見について説明する。
図4は、通り狂い量と鉄道車両の構成要素の運動との相互の作用関係の一例を示す図である。実線で描かれている矢線は、同一構成要素内の異なる運動間の作用関係を示す。実線以外の線種で描かれている矢線は異なる構成要素の運動間の作用関係を示す。各運動には、本実施形態で説明するその運動を記述する運動方程式の番号を添えている。例えば、輪軸13a〜13dのヨーイングは、(5)式〜(8)式で記述される。輪軸13a〜13dのヨーイングは、通り狂い量yR1〜yR4、輪軸13a〜13dの横振動、台車12a、12bの横振動、台車12a、12bのヨーイングから直接作用を受ける。台車12a、12bの横振動は、(9)式〜(10)式で記述される。台車12a、12bの横振動は、輪軸13a〜13dの横振動、台車12a、12bのローリング、車体11の横振動、車体11のヨーイング、台車12a、12bのヨーイング、車体11のローリングから直接作用を受け、輪軸13a〜13dのヨーイングからは直接作用を受けない。
図4から分かるように、通り狂い量yR1〜yR4は輪軸13a〜13dのヨーイングに直接的に作用する。この作用が、その他の構成要素の運動に作用が伝播する。通り狂い量yR1〜yR4から直接的・間接的に作用を受ける構成要素の運動に関する運動方程式から状態方程式を作成する。また、通り狂い量yR1〜yR4に関連する運動の中から計測可能な状態変数を計測して観測方程式を設定する。そして、カルマンフィルタ等のデータ同化を行うフィルタを用いた演算を行うことにより、通り狂い量yR1〜yR4を算出することが可能である。しかしながら、この方法では運動の自由度が大きいため、フィルタの動作が安定しなくなる虞がある。
そこで、本発明者らは、通り狂い量yR1〜yR4の精度を向上させるためには、通り狂い量yR1〜yR4が直接作用する輪軸13a〜13dのヨーイングと、輪軸13a〜13dのヨーイングに直接作用する因子(構成要素の運動を含む)とを精度良く算出することと、輪軸13a〜13dのヨーイングを記述する運動方程式を用いて通り狂い量yR1〜yR4を算出することとを行えば良いと考えた。また、クリープ力は、前後方向の成分である縦クリープ力と左右方向の成分である横クリープ力とに分解される。本発明者らは、縦クリープ力は、通り狂い量yR1〜yR4と高い相関を有するという知見を得た。縦クリープ力は、輪軸13a〜13b(13c〜13d)と、当該輪軸13a〜13b(13c〜13d)が設けられる台車12a(12b)との間に配置される部材に生じる前後方向の力(前後方向力)により測定される。以上のことから、発明者らは、前後方向力の測定値を用いて通り狂い量yR1〜yR4を算出する方法を想到するに至った。
また、1つの輪軸における左右の車輪のうち一方の車輪における縦クリープ力と他方の車輪における縦クリープ力との同相の成分は、ブレーキ力や駆動力に対応する成分である。従って、鉄道車両が加減速を行っているときにも通り狂い量yR1〜yR4を算出するために、縦クリープ力の逆相成分に対応するように前後方向力を定めるのが好ましい。縦クリープ力の逆相成分とは、1つの輪軸における左右の車輪のうち一方の車輪における縦クリープ力と他方の車輪における縦クリープ力との相互に逆位相となる成分である。即ち、縦クリープ力の逆相成分とは、縦クリープ力の、車軸をねじる方向の成分である。この場合、前後方向力は、1つの輪軸の左右方向の両側に取り付けられた2つの前記部材に生じる力の前後方向の成分のうち、相互に逆位相となる成分となる。
以下に、縦クリープ力の逆相成分に対応するように前後方向力を定める場合の前後方向力の具体例について説明する。
軸箱支持装置が、モノリンク式の軸箱支持装置である場合、軸箱支持装置は、リンクを備えており、軸箱と台車枠とがリンクにより連結されている。このリンクの両端にはゴムブッシュが取り付けられる。この場合、前後方向力は、1つの輪軸の左右方向の端にそれぞれ1つずつ取り付けられる2つのリンクのそれぞれが受ける荷重の前後方向の成分のうち、相互に逆位相となる成分になる。また、リンクの配置および構成により、リンクは、前後方向、左右方向、前後方向の荷重のうち主に前後方向の荷重を受ける。従って、例えば、各リンクに歪ゲージを1つ取り付ければよい。この歪みゲージの測定値を用いて、当該リンクが受ける荷重の前後方向の成分を導出することにより、前後方向力の測定値を得る。また、このようにすることに替えて、リンクに取り付けられたゴムブッシュの前後方向の変位を変位計で測定してもよい。この場合、測定した変位と当該ゴムブッシュのバネ定数との積を、前後方向力の測定値とする。軸箱支持装置が、モノリンク式の軸箱支持装置である場合、前述した、軸箱を支持するための部材は、リンクまたはゴムブッシュになる。
尚、リンクに取り付けられる歪ゲージにより測定される荷重には、前後方向の成分だでけなく、左右方向の成分および上下方向の成分のうち少なくとも何れか一方の成分が含まれる場合がある。しかしながら、このような場合であっても、軸箱支持装置の構造上、リンクが受ける左右方向の成分の荷重および上下方向の成分の荷重は、前後方向の成分の荷重に比べて十分に小さい。従って、各リンクに歪ゲージを1つ取り付けるだけで、実用上要求される精度を有する前後方向力の測定値を得ることができる。このように、前後方向力の測定値には、前後方向の成分以外の成分が含まれることがある。従って、上下方向および左右方向の歪みがキャンセルされるように3つ以上の歪みゲージを各リンクに取り付けてもよい。このようにすれば、前後方向力の測定値の精度を向上させることができる。
軸箱支持装置が、軸はり式の軸箱支持装置である場合、軸箱支持装置は、軸はりを備えており、軸箱と台車枠とが、軸はりにより連結されている。軸はりは、軸箱と一体に構成されていてもよい。この軸はりの台車枠側の端にはゴムブッシュが取り付けられる。この場合、前後方向力は、1つの輪軸の左右方向の端にそれぞれ1つずつ取り付けられる2つの軸はりのそれぞれが受ける荷重の前後方向の成分のうち、相互に逆位相となる成分になる。また、軸はりの配置構成により、軸はりは、前後方向、左右方向、上下方向の荷重のうち前後方向の荷重に加えて、左右方向の荷重も受けやすい。従って、例えば、左右方向の歪みがキャンセルされるように2つ以上の歪ゲージを各軸はりに取り付ける。これらの歪ゲージの測定値を用いて、軸はりが受ける荷重の前後方向の成分を導出することにより、前後方向力の測定値を得る。また、このようにすることに替えて、軸はりに取り付けられたゴムブッシュの前後方向の変位を変位計で測定してもよい。この場合、測定した変位と当該ゴムブッシュのバネ定数との積を、前後方向力の測定値とする。軸箱支持装置が、軸はり式の軸箱支持装置である場合、前述した、軸箱を支持するための部材は、軸はりまたはゴムブッシュになる。
尚、軸はりに取り付けられる歪ゲージにより測定される荷重には、前後方向および左右方向の成分だでけなく、上下方向の成分が含まれる場合がある。しかしながら、このような場合であっても、軸箱支持装置の構造上、軸はりが受ける上下方向の成分の荷重は、前後方向の成分の荷重および左右方向の成分の荷重に比べて十分に小さい。従って、軸はりが受ける上下方向の成分の荷重をキャンセルするように歪みゲージを取り付けなくても、実用上要求される精度を有する前後方向力の測定値を得ることができる。このように、計測された前後方向力には、前後方向の成分以外の成分が含まれることがあり、左右方向の歪みに加えて上下方向の歪みもキャンセルされるように3つ以上の歪みゲージを各軸はりに取り付けてもよい。このようにすれば、前後方向力の測定値の精度を向上させることができる。
軸箱支持装置が、板バネ式の軸箱支持装置である場合、軸箱支持装置は、板バネを備えており、軸箱と台車枠とが、板バネにより連結されている。この板バネの端にはゴムブッシュが取り付けられる。この場合、前後方向力は、1つの輪軸の左右方向の端にそれぞれ1つずつ取り付けられる2つの板バネのそれぞれが受ける荷重の前後方向の成分のうち、相互に逆位相となる成分になる。また、板バネの配置構成により、板バネは、前後方向、左右方向、上下方向の荷重のうち前後方向の荷重に加えて、左右方向の荷重および上下方向の荷重も受けやすい。従って、例えば、左右方向および上下方向の歪みがキャンセルされるように3つ以上の歪ゲージを各板バネに取り付ける。これらの歪ゲージの測定値を用いて、板バネが受ける荷重の前後方向の成分を導出することにより、前後方向力の測定値を得る。また、このようにすることに替えて、板バネに取り付けられたゴムブッシュの前後方向の変位を変位計で測定してもよい。この場合、測定した変位と当該ゴムブッシュのバネ定数との積を、前後方向力の測定値とする。軸箱支持装置が、板バネ式の軸箱支持装置である場合、前述した、軸箱を支持するための部材は、板バネまたはゴムブッシュになる。
尚、前述した変位計としては、公知のレーザ変位計や渦電流式の変位計を用いることができる。
また、ここでは、軸箱支持装置の方式が、モノリンク式、軸はり式、および板バネ式である場合を例に挙げて、前後方向力を説明した。しかしながら、軸箱支持装置の方式は、モノリンク式、軸はり式、および板バネ式に限定されない。軸箱支持装置の方式に合わせて、モノリンク式、軸はり式、および板バネ式と同様に、前後方向力を定めることができる。
また、以下では、説明を簡単にするために、1つの輪軸について1つの前後方向力の測定値が得られる場合を例に挙げて説明する。即ち、図1に示す鉄道車両は、4つの輪軸13a〜13dを有する。従って、4つの前後方向力T〜Tの測定値が得られる。
図5は、前後方向力T〜Tを用いて、通り狂い量yR1〜yR4と鉄道車両の構成要素の運動との相互の作用関係の一例を示す図である。前後方向力T〜Tの算出式、変換変数e〜eの算出式、変換変数e〜eを用いたときの輪軸13a〜13dの横振動を記述する運動方程式、前後方向力T〜Tを用いたときの輪軸13a〜13dのヨーイングを記述する運動方程式の具体例については後述する(それぞれ(40)式〜(43)式、(26)式〜(29)式、(34)式〜(37)式、(64)式〜(67)式を参照)。
図6は、図5の作用関係から、輪軸13a〜13dのヨーイングに直接作用する構成要素の運動を決定するのに必要な作用関係を取り出して示す図である。輪軸13a〜13dのヨーイングが排除された分だけ運動の自由度が減る。また、前後方向力T〜Tの分だけ、カルマンフィルタ等のデータ同化を行うフィルタで用いる測定値が増える。従って、カルマンフィルタ等のデータ同化を行うフィルタを用いた演算を行うことにより算出される運動の情報の精度は向上する。
一方、図7は、図5の作用関係から、通り狂い量yR1〜yR4を決定するのに必要な作用関係を取り出して示す図である。変換変数e〜eと台車12a、12bのヨーイングの情報とが既知である。従って、変換変数e〜eの算出式(後述する例では(26)式〜(29)式)を用いることにより、輪軸13a〜13dのヨーイングの情報が算出される。このときの変換変数e〜eは前後方向力T〜Tの値から直接導出される。また、台車12a、12bのヨーイングの情報は図6の作用関係を用いて算出される。従って、変換変数e〜eと台車12a、12bのヨーイングの情報とから算出される輪軸13a〜13dのヨーイングの情報の精度は、図4の作用関係を用いて算出した場合と比べて向上する。さらに、輪軸13a〜13dのヨーイングの情報と、前後方向力T〜Tと、輪軸13a〜13dのヨーイングに直接作用する構成要素の運動(輪軸13a〜13dの横振動と台車12a、12bの横振動)の情報とが既知である。従って、輪軸13a〜13dのヨーイングを記述する運動方程式(後述する例では(64)式〜(67)式)を用いることにより、通り狂い量yR1〜yR4が算出される。このときの輪軸13a〜13dのヨーイングの情報の精度は、先にも述べたように図4の作用関係を用いて算出した場合と比べて向上する。また、前後方向力T〜Tは測定値である。また、輪軸13a〜13dのヨーイングに直接作用する構成要素の運動の情報は、図6の作用関係を用いて算出されるため、その精度は向上する。従って、以上のようにして算出された通り狂い量yR1〜yR4の精度は向上する。以下の各実施形態では、以上の式を用いて、通り狂い量yR1〜yR4を算出する場合を例に挙げて説明する。
(第1の実施形態)
次に、本発明の第1の実施形態を説明する。
<検査装置800>
図8は、検査装置800の機能的な構成の一例を示す図である。図9は、検査装置800のハードウェアの構成の一例を示す図である。図10は、検査装置800における事前処理の一例を示すフローチャートである。図11は、検査装置800における本処理の一例を示すフローチャートである。本実施形態では、図1に示すように、検査装置800が、鉄道車両に搭載される場合を例に挙げて示す。
図8において、検査装置800は、その機能として、状態方程式記憶部801、観測方程式記憶部802、データ取得部803、第1の周波数調整部804、フィルタ演算部805、第2の周波数調整部806、軌道状態算出部807、および出力部808を有する。
図9において、検査装置800は、CPU901、主記憶装置902、補助記憶装置903、通信回路904、信号処理回路905、画像処理回路906、I/F回路907、ユーザインターフェース908、ディスプレイ909、およびバス910を有する。
CPU901は、検査装置800の全体を統括制御する。CPU901は、主記憶装置902をワークエリアとして用いて、補助記憶装置903に記憶されているプログラムを実行する。主記憶装置902は、データを一時的に格納する。補助記憶装置903は、CPU901によって実行されるプログラムの他、各種のデータを記憶する。補助記憶装置903は、後述する状態方程式および観測方程式を記憶する。状態方程式記憶部801および観測方程式記憶部802は、例えば、CPU901および補助記憶装置903を用いることにより実現される。
通信回路904は、検査装置800の外部との通信を行うための回路である。通信回路904は、例えば、前後方向力の測定値や、車体11、台車12a、12b、および輪軸13a〜13dの左右方向における加速度の測定値の情報を受信する。通信回路904は、検査装置800の外部と無線通信を行っても有線通信を行ってもよい。通信回路904は、無線通信を行う場合、鉄道車両に設けられるアンテナに接続される。
信号処理回路905は、通信回路904で受信された信号や、CPU901による制御に従って入力した信号に対し、各種の信号処理を行う。データ取得部803は、例えば、CPU901、通信回路904、および信号処理回路905を用いることにより実現される。また、第1の周波数調整部804、フィルタ演算部805、第2の周波数調整部806および軌道状態算出部807は、例えば、CPU901および信号処理回路905を用いることにより実現される。
画像処理回路906は、CPU901による制御に従って入力した信号に対し、各種の画像処理を行う。この画像処理が行われた信号は、ディスプレイ909に出力される。
ユーザインターフェース908は、オペレータが検査装置800に対して指示を行う部分である。ユーザインターフェース908は、例えば、ボタン、スイッチ、およびダイヤル等を有する。また、ユーザインターフェース908は、ディスプレイ909を用いたグラフィカルユーザインターフェースを有していてもよい。
ディスプレイ909は、画像処理回路906から出力された信号に基づく画像を表示する。I/F回路907は、I/F回路907に接続される装置との間でデータのやり取りを行う。図9では、I/F回路907に接続される装置として、ユーザインターフェース908およびディスプレイ909を示す。しかしながら、I/F回路907に接続される装置は、これらに限定されない。例えば、可搬型の記憶媒体がI/F回路907に接続されてもよい。また、ユーザインターフェース908の少なくとも一部およびディスプレイ909は、検査装置800の外部にあってもよい。
出力部808は、例えば、通信回路904および信号処理回路905と、画像処理回路906、I/F回路907、およびディスプレイ909との少なくとも何れか一方を用いることにより実現される。
尚、CPU901、主記憶装置902、補助記憶装置903、信号処理回路905、画像処理回路906、およびI/F回路907は、バス910に接続される。これらの構成要素間の通信は、バス910を介して行われる。また、検査装置800のハードウェアは、後述する検査装置800の機能を実現することができれば、図9に示すものに限定されない。
[状態方程式記憶部801、S1001]
状態方程式記憶部801は、状態方程式を記憶する。本実施形態では、前述した運動方程式のうち、(5)式〜(8)式の輪軸13a〜13dのヨーイングを記述する運動方程式を状態方程式に含めない。(5)式〜(8)式には、通り狂い量yR1〜yR4が含まれる。(5)式〜(8)式を状態方程式に含めて、後述するカルマンフィルタによるフィルタリングを行う場合には、軌道16のモデルが必要になる。通り狂いは物理法則に則って記述できるものではない。従って、通り狂い量yR1〜yR4の時間微分が例えばホワイトノイズとなるように、軌道16のモデルを作成する必要がある。そうすると、軌道16のモデルの不確かさが、後述するカルマンフィルタによるフィルタリングの結果に影響を与える虞がある。また、状態方程式を少なくし、状態変数を減らすことにより、後述するカルマンフィルタの動作を安定させることができる。
以上の知見の下、本実施形態では、(5)式〜(8)式の輪軸13a〜13dのヨーイングを記述する運動方程式を状態方程式に含めずに、以下のようにして状態方程式を構成する。
まず、(9)式、(10)式の台車12a、12bの横振動(左右方向における運動)を記述する運動方程式と、(13)式、(14)式の台車12a、12bのローリングを記述する運動方程式と、(15)式の車体11の横振動(左右方向における運動)を記述する運動方程式と、(16)式の車体11のヨーイングを記述する運動方程式と、(17)式の車体11のローリングを記述する運動方程式と、(18)式、(19)式の台車12aに配置されたヨーダンパ、台車12bに配置されたヨーダンパのヨーイングを記述する運動方程式と、(20)式、(21)式の台車12aに配置された空気バネ(枕バネ)、台車12bに配置された空気バネ(枕バネ)のローリングを記述する運動方程式については、これらをそのまま用いて状態方程式を構成する。
一方、(1)式〜(4)式の輪軸13a〜13dの横振動(左右方向における運動)を記述する運動方程式と、(11)式、(12)式の台車12a、12bのヨーイングを記述する運動方程式には、輪軸13a〜13dのヨーイング方向における回動量(角変位)ψw1〜ψw4や角速度ψw1・〜ψw4・が含まれる。前述したように本実施形態では、(5)式〜(8)式の輪軸13a〜13dのヨーイングを記述する運動方程式を状態方程式に含めない。そこで本実施形態では、以下のようにして(1)式〜(4)式および(11)式、(12)式からこれらの変数を消去したものを用いて状態方程式を構成する。
まず、輪軸13a〜13dにおける前後方向力T〜Tは、以下の(22)式〜(25)式で表される。このように、前後方向力T〜Tは、輪軸のヨーイング方向の角変位ψw1〜ψw4と、当該輪軸が設けられる台車のヨーイング方向の角変位ψt1〜ψt2との差に応じて定まる。
以下の(26)式〜(29)式のように、変換変数e〜eを定義する。このように、変換変数e〜eは、台車のヨーイング方向の角変位ψt1〜ψt2と輪軸のヨーイング方向の角変位ψw1〜ψw4との差で定義される。変換変数e〜eは、台車のヨーイング方向の角変位ψt1〜ψt2と輪軸のヨーイング方向の角変位ψw1〜ψw4とを相互に変換するための変数である。
(26)式〜(29)式を式変形すると、以下の(30)式〜(33)式が得られる。
(30)式〜(33)式を、(1)式〜(4)式の輪軸13a〜13dの横振動(左右方向における運動)を記述する運動方程式に代入すると、以下の(34)式〜(37)式が得られる。
このように、(1)式〜(4)式の輪軸13a〜13dの横振動(左右方向における運動)を記述する運動方程式を、変換変数e〜eを用いて表現することで、当該運動方程式に含まれていた輪軸13a〜13dのヨーイング方向における回動量(角変位)ψw1〜ψw4を消去することができる。
(22)式〜(25)式を、(11)式、(12)式の台車12a、12bのヨーイングを記述する運動方程式に代入すると、以下の(38)式、(39)式が得られる。
このように、(11)式、(12)式の台車12a、12bのヨーイングを記述する運動方程式を、前後方向力T〜Tを用いて表現することで、当該運動方程式に含まれていた輪軸13a〜13dのヨーイング方向における角変位ψw1〜ψw4および角速度ψw1・〜ψw4・を消去できる。
また、(26)式〜(29)式を、(22)式〜(25)式に代入すると、以下の(40)式〜(43)式が得られる。
以上のように本実施形態では、(34)式〜(37)式のようにして輪軸13a〜13dの横振動(左右方向における運動)を記述する運動方程式を表すと共に、(38)式、(39)式のようにして台車12a、12bのヨーイングを記述する運動方程式を表し、これらを用いて状態方程式を構成する。また、(40)式〜(43)式は、常微分方程式であり、その解である変換変数e〜eの実績値は、輪軸13a〜13dにおける前後方向力T〜Tの値を用いることにより求めることができる。ここで、前後方向力T〜Tの値は、後述する第1の周波数調整部804により、前後方向力の測定値の時系列データから鉄道車両が軌道の曲線部を走行することに起因して生じる低周波成分の信号強度を低減されたものである。
このようにして求めた変換変数e〜eの実績値を、(34)式〜(37)式に与える。また、輪軸13a〜13dにおける前後方向力T〜Tの値を(38)式、(39)式に与える。ここで、前後方向力T〜Tの値は、後述する第1の周波数調整部804により、前後方向力の測定値の時系列データから鉄道車両が軌道の曲線部を走行することに起因して生じる低周波成分の信号強度を低減されたものである。
本実施形態では、以下の(44)式に示す変数を状態変数とし、(9)式、(10)式、(13)式〜(21)式、(34)式〜(39)式の運動方程式を用いて状態方程式を構成する。
状態方程式記憶部801は、例えば、以上のようにして構成される状態方程式を、オペレータによるユーザインターフェース908の操作に基づいて入力し、記憶する。
[観測方程式記憶部802、S1002]
観測方程式記憶部802は、観測方程式を記憶する。本実施形態では、車体11の左右方向における加速度、台車12a、12bの左右方向における加速度、および輪軸13a〜13dの左右方向における加速度を観測変数とする。この観測変数は、後述するカルマンフィルタによるフィルタリングの観測変数である。本実施形態では、(34)式〜(37)式、(9)式、(10)式、および(15)式の横振動を記述する運動方程式を用いて観測方程式を構成する。観測方程式記憶部802は、例えば、このようにして構成される観測方程式を、オペレータによるユーザインターフェース908の操作に基づいて入力し、記憶する。
以上のようにして、状態方程式および観測方程式が検査装置800に記憶された後に、データ取得部803、第1の周波数調整部804、フィルタ演算部805、第2の周波数調整部806、軌道状態算出部807、および出力部808が起動する。即ち、図10のフローチャートによる事前処理が終了した後に、図11のフローチャートによる本処理が開始する。
[データ取得部803、S1101]
データ取得部803は、計測データを所定のサンプリング周期で取得する。
本実施形態では、データ取得部803は、計測データとして、車体11の左右方向における加速度の測定値の時系列データ、台車12a、12bの左右方向における加速度の測定値の時系列データ、および輪軸13a〜13dの左右方向における加速度の測定値の時系列データを取得する。各加速度は、例えば、車体11、台車12a、12b、および輪軸13a〜13dにそれぞれ取り付けられた歪ゲージと、当該歪ゲージの測定値を用いて加速度を演算する演算装置とを用いることにより測定される。尚、加速度の測定は、公知の技術で実現することができるので、その詳細な説明を省略する。
また、データ取得部803は、計測データとして、前後方向力の測定値の時系列データを取得する。前後方向力の測定の方法は、前述した通りである。
データ取得部803は、例えば、前述した演算装置との通信を行うことにより、計測データを取得することができる。
[第1の周波数調整部804、S1102]
第1の周波数調整部804は、データ取得部803により取得された計測データのうち、前後方向力の測定値の時系列データに含まれる低周波成分の信号強度を低減(好ましくは除去)する。この低周波成分の信号は、鉄道車両が直線軌道を走行している場合には計測されないが、鉄道車両が曲線軌道を走行している場合に計測される信号である。即ち、鉄道車両が曲線軌道を走行している場合に計測される信号は、鉄道車両が直線軌道を走行している場合に計測される信号に、この低周波成分の信号が重畳された信号と見なすことができる。
本発明者らは、自己回帰モデル(AR(Auto-regressive)モデル)を修正したモデルを考案した。そして、本発明者らは、このモデルを用いて、前後方向力の測定値の時系列データに含まれる低周波成分の信号強度を低減することに想到した。以下の説明では、本発明者らが考案したモデルを、修正自己回帰モデルと称する。これに対し、公知の自己回帰モデルを、単に自己回帰モデルと称する。以下、修正自己回帰モデルの一例について説明する。
時刻k(1≦k≦M)における物理量の時系列データyの値をyとする。Mは、物理量の時系列データyがどの時刻までのデータを含むかを示す数であり、予め設定されている。以下の説明では、物理量の時系列データを必要に応じてデータyと略称する。データyの値yを近似する自己回帰モデルは、例えば、以下の(45)式のようになる。(45)式に示すように、自己回帰モデルとは、データyにおける時刻k(m+1≦k≦M)の物理量の予測値y^を、データyにおけるその時刻kよりも前の時刻k−l(1≦l≦m)の物理量の実績値yk−lを用いて表す式である。尚、y^は、(45)式において、yの上に^を付けて表記したものである。
(45)式におけるαは、自己回帰モデルの係数である。mは、自己回帰モデルにおいて時刻kにおけるデータyの値yを近似するために用いられるデータyの値の数であって、その時刻kよりも前の連続する時刻k−1〜k−mにおけるデータyの値yk−1〜yk−mの数である。mは、M未満の整数である。mとして、例えば、1500を用いることができる。
続いて、最小二乗法を用いて、自己回帰モデルによる時刻kにおける物理量の予測値y^が、値yに近似するための条件式を求める。自己回帰モデルによる時刻kにおける物理量の予測値y^が値yに近似するための条件として、例えば、自己回帰モデルによる時刻kにおける物理量の予測値y^と値yとの二乗誤差を最小化するとする条件を採用することができる。即ち、自己回帰モデルによる時刻kにおける物理量の予測値y^を値yに近似するために最小二乗法を用いる。以下の(46)式は、自己回帰モデルによる時刻kにおける物理量の予測値y^を値yとの二乗誤差を最小にするための条件式である。
(46)式より、以下の(47)式の関係が成り立つ。
また、(47)式を変形(行列表記)することで、以下の(48)式が得られる。
(48)式におけるRjlはデータyの自己相関と呼ばれるもので、以下の(49)式で定義される値である。このときの|j−l|を時差という。
(48)式を基に、以下の(50)式を考える。(50)式は、自己回帰モデルによる時刻kにおける物理量の予測値y^と、その予測値y^に対応する時刻kにおける物理量の値yと、の誤差を最小化する条件から導出される方程式である。(50)式は、ユール・ウォーカー(Yule−Walker)方程式と呼ばれる。また、(50)式は、自己回帰モデルの係数から成るベクトルを変数ベクトルとする線形方程式である。(50)式における左辺の定数ベクトルは、時差が1からmまでのデータyの自己相関を成分とするベクトルである。以下の説明では、(50)式における左辺の定数ベクトルを必要に応じて自己相関ベクトルと称する。また、(50)式における右辺の係数行列は、時差が0からm−1までのデータyの自己相関を成分とする行列である。以下の説明では、(50)式における右辺の係数行列を必要に応じて自己相関行列と称する。
また、(50)式における右辺の自己相関行列(Rjlで構成されるm×mの行列)を、以下の(51)式のように、自己相関行列Rと表記する。
一般に、自己回帰モデルの係数を求める際には、(50)式を係数αについて解くという方法が用いられる。(50)式では、自己回帰モデルで導出される時刻kにおける物理量の予測値y^が、その時刻kにおける物理量の値yにできるだけ近づくように係数αを導出する。よって、自己回帰モデルの周波数特性には、各時刻におけるデータyの値yに含まれる多数の周波数成分が含まれる。
そこで、本発明者らは、自己回帰モデルの係数αに乗算される自己相関行列Rに着目し、鋭意検討した。その結果、本発明者らは、自己相関行列Rの固有値の一部を用いて、データyに含まれる高周波成分の影響を低減することができることを見出した。即ち、本発明者らは、低周波成分が強調されるように自己相関行列Rを書き換えることができることを見出した。
以下に、このことの具体例を説明する。
自己相関行列Rを特異値分解する。自己相関行列Rの要素は、対称である。従って、自己相関行列Rを特異値分解すると以下の(52)式のように、直交行列Uと、対角行列Σと、直交行列Uの転置行列との積となる。
(52)式の対角行列Σは、以下の(53)式に示すように、対角成分が自己相関行列Rの固有値となる行列である。対角行列Σの対角成分を、σ11、σ22、・・・、σmmとする。また、直交行列Uは、各列成分ベクトルが自己相関行列Rの固有ベクトルとなる行列である。直交行列Uの列成分ベクトルを、u、u、・・・、uとする。自己相関行列Rの固有ベクトルuに対する固有値がσjjという対応関係がある。自己相関行列Rの固有値は、自己回帰モデルによる時刻kにおける物理量の予測値y^の時間波形に含まれる各周波数の成分の強度を反映する変数である。
自己相関行列Rの特異値分解の結果から得られる対角行列Σの対角成分であるσ11、σ22、・・・、σmmの値は、数式の表記を簡略にするために降順とする。(53)式に示す自己相関行列Rの固有値のうち、最大のものからs個の固有値を用いて、以下の(54)式のように、行列R’を定義する。sは、1以上且つm未満の数である。本実施形態では、sは、予め定められる。行列R’は、自己相関行列Rの固有値のうちs個の固有値を用いて自己相関行列Rを近似した行列である。
(54)式における行列Uは、(52)式の直交行列Uの左からs個の列成分ベクトル(使用される固有値に対応する固有ベクトル)により構成されるm×s行列である。つまり、行列Uは、直交行列Uから左のm×sの要素を切り出して構成される部分行列である。また、(54)式におけるU は、Uの転置行列である。U は、(52)式の行列Uの上からs個の行成分ベクトルにより構成されるs×m行列である。(54)式における行列Σは、(52)式の対角行列Σの左からs個の列と、上からs個の行により構成されるs×s行列である。つまり、行列Σは、対角行列Σから左上のs×sの要素を切り出して構成される部分行列である。
行列Σおよび行列Uを行列要素で表現すれば、以下の(55)式のようになる。
自己相関行列Rの代わりに行列R’を用いることで、(50)式の関係式を、以下の(56)式のように書き換える。
(56)式を変形することで、係数αを求める式として、以下の(57)式が得られる。(57)式によって求められる係数αを用いて、(45)式により、時刻kにおける物理量の予測値y^を算出するモデルが「修正自己回帰モデル」である。
ここでは、対角行列Σの対角成分であるσ11、σ22、・・・、σmmの値を降順とする場合を例に挙げて説明した。しかしながら、係数αの算出過程において対角行列Σの対角成分は降順である必要はない。その場合には、行列Uは、直交行列Uから左のm×sの要素を切り出して構成される部分行列ではなく、使用される固有値に対応する列成分ベクトル(固有ベクトル)を切り出して構成される部分行列になる。また、行列Σは、対角行列Σから左上のs×sの要素を切り出して構成される部分行列ではなく、修正自己回帰モデルの係数の決定に利用される固有値を対角成分とするように切り出される部分行列になる。
(57)式は、修正自己回帰モデルの係数の決定に利用される方程式である。(57)式の行列Uは、自己相関行列Rの特異値分解により得られる直交行列Uの部分行列であって、修正自己回帰モデルの係数の決定に利用される固有値に対応する固有ベクトルを列成分ベクトルとする行列(第3の行列)である。また、(57)式の行列Σは、自己相関行列Rの特異値分解により得られる対角行列の部分行列であって、修正自己回帰モデルの係数の決定に利用される固有値を対角成分とする行列(第2の行列)である。(57)式の行列UΣ は、行列Σと行列Uとから導出される行列(第1の行列)である。
(57)式の右辺を計算することにより、修正自己回帰モデルの係数αが求まる。以上、修正自己回帰モデルの係数αの導出方法の一例について説明した。ここでは、修正自己回帰モデルの基となる自己回帰モデルの係数の導出方法を、直感的に分かり易いように、時刻kにおける物理量の予測値y^に対して最小二乗法を用いる方法とした。しかしながら、一般的には確率過程という概念を用いて自己回帰モデルを定義し、その係数を導出する方法が知られている。その場合に、自己相関は、確率過程(母集団)の自己相関で表現される。この確率過程の自己相関は、時差の関数として表される。従って、本実施形態におけるデータyの自己相関は、確率過程の自己相関を近似するものであれば他の計算式で算出した値に代えてもよい。例えば、R22〜Rmmは、時差が0(ゼロ)の自己相関であるが、これらをR11に置き換えてもよい。
(53)式に示す自己相関行列Rから抽出する固有値の数sは、例えば、自己相関行列Rの固有値の分布から決定することができる。
ここでは、前述した修正自己回帰モデルの説明における物理量は、前後方向力になる。前後方向力の値は、鉄道車両の状態に応じて変動する。
そこで、まず、鉄道車両を軌道16上で走行させて、前後方向力の測定値についてのデータyを得る。得られたデータy毎に、(49)式と(51)式とを用いて自己相関行列Rを求める。この自己相関行列Rについて(52)式で表される特異値分解を行うことによって自己相関行列Rの固有値を求める。図12は、自己相関行列Rの固有値の分布の一例を示す図である。図12では、輪軸13aにおける前後方向力Tの測定値のデータyのそれぞれについての自己相関行列Rを特異値分解して得られた固有値σ11〜σmmを昇順に並べ替えて、プロットしている。図12の横軸は、固有値のインデックスであり、縦軸は、固有値の値である。
図12に示す例では、他よりも顕著に高い値をもつ固有値が1つある。また、前記顕著に高い値もつ固有値ほどではないが、他と比べると比較的大きな値を持ち0(ゼロ)とみなせない固有値が2つある。このことから、(53)式に示す自己相関行列Rから抽出する固有値の数sとして、例えば、2または3を採用することができる。どちらを採用しても結果に顕著な差異は生じない。
第1の周波数調整部804は、データ取得部803で前後方向力の測定値のデータyの時刻kにおける値yが所定のサンプリング周期で取得されるたびに以下の処理を行う。
まず、第1の周波数調整部804は、前後方向力の測定値のデータyと、予め設定されている数M、mと、に基づいて、(49)式と(51)式とを用いて自己相関行列Rを生成する。
次に、第1の周波数調整部804は、自己相関行列Rを特異値分解することで、(52)式の直交行列Uおよび対角行列Σを導出し、対角行列Σから自己相関行列Rの固有値σ11〜σmmを導出する。
次に、第1の周波数調整部804は、自己相関行列Rの複数の固有値σ11〜σmmのうち、最大のものからs個の固有値σ11〜σssを、修正自己回帰モデルの係数αを求めるのに利用する自己相関行列Rの固有値として選択する。
次に、第1の周波数調整部804は、前後方向力の測定値のデータyと、固有値σ11〜σssと、自己相関行列Rの特異値分解により得られた直交行列Uと、に基づいて、(57)式を用いて、修正自己回帰モデルの係数αを決定する。
そして、第1の周波数調整部804は、修正自己回帰モデルの係数αと、前後方向力の測定値のデータyと、に基づいて、(45)式により、前後方向力の測定値のデータyの時刻kにおける予測値y^を導出する。前後方向力の予測値y^の時系列データは、前後方向力の測定値のデータyに含まれる低周波成分を抽出した時系列データになる。
図13は、前後方向力の測定値の時系列データ(測定値)と、前後方向力の予測値の時系列データ(計算値)の一例を示す図である。尚、本実施形態では、4つの前後方向力T〜Tの測定値が得られる。即ち、前後方向力について4つのデータyが得られる。図13では、これら4つのデータyのそれぞれにおける測定値および計算値を示す。図13の横軸は、基準の時刻を0(ゼロ)とした場合の当該基準の時刻からの経過時間(秒)で前後方向力T〜Tの測定時刻・計算時刻を表す。縦軸は、前後方向力T〜T(Nm)である。
図13において、輪軸13aにおける前後方向力Tの計算値は、概ね15秒〜35秒において、バイアスがかかっている(即ち、他の時間よりも大きな値を示す)。この期間は、輪軸13aが曲線軌道を通過する期間に対応する。輪軸13bにおける前後方向力Tの計算値、輪軸13cにおける前後方向力Tの計算値、および輪軸13dにおける前後方向力Tの計算値についても、輪軸13aにおける前後方向力Tの計算値と同様に、輪軸13b、13c、13dが曲線軌道を通過する期間にバイアスがかかっている。
従って、図13において、輪軸13a〜13dにおける前後方向力T〜Tの測定値から計算値を除けば、前後方向力T〜Tの信号のうち、輪軸13a〜13dが曲線軌道を通過することに起因する低周波成分を除くことができる。即ち、図13において、輪軸13a〜13dにおける前後方向力T〜Tの測定値から計算値を除けば、輪軸13a〜13dが曲線軌道を通過した場合の前後方向力T〜Tとして、輪軸13a〜13dが直線軌道を通過した場合と同等の前後方向力を得ることができる。
そこで、第1の周波数調整部804は、前後方向力の測定値yの時系列データ(データy)から、前後方向力の予測値y^の時系列データを減算する。以下の説明では、前後方向力の測定値yの時系列データ(データy)から、前後方向力の予測値y^の時系列データを減算した時系列データを、必要に応じて前後方向力の高周波成分の時系列データと称する。また、前後方向力の高周波成分の時系列データの各サンプリング時刻における値を、必要に応じて前後方向力の高周波成分の値と称する。
図14は、前後方向力の高周波成分の時系列データの一例を示す図である。図14の縦軸は、前後方向力T、T、T、Tの高周波成分の時系列データを示す。即ち、図14の縦軸に示す前後方向力T、T、T、Tの高周波成分は、それぞれ、図13に示した、輪軸13a、13b、13c、13dにおける前後方向力T、T、T、Tの測定値から計算値を減算することにより得られるものである。また、図14の横軸は、図13の横軸と同様に、基準の時刻を0(ゼロ)とした場合の当該基準の時刻からの経過時間(秒)で前後方向力T〜Tの測定時刻・計算時刻を表す。
第1の周波数調整部804は、以上のようにして、前後方向力T〜Tの高周波成分の時系列データを導出する。
[フィルタ演算部805、S1103]
フィルタ演算部805は、観測方程式を観測方程式記憶部802により記憶された観測方程式とし、状態方程式を状態方程式記憶部801により記憶された状態方程式として、カルマンフィルタにより、(44)式に示す状態変数の推定値を決定する。このとき、フィルタ演算部805は、データ取得部803で取得された計測データのうち、前後方向力T〜Tを除く計測データと、第1の周波数調整部804で生成された前後方向力T〜Tの高周波成分の時系列データとを用いる。前述したように本実施形態では、計測データには、車体11の左右方向における加速度の測定値、台車12a、12bの左右方向における加速度の測定値、および輪軸13a〜13dの左右方向における加速度の測定値が含まれる。輪軸13a〜13dにおける前後方向力T〜Tについては、データ取得部803で取得された計測データ(測定値)を用いずに、第1の周波数調整部804で生成された前後方向力T〜Tの高周波成分の時系列データを用いる。
カルマンフィルタは、データ同化を行う手法の一つである。即ち、カルマンフィルタは、観測できる変数(観測変数)の測定値と推定値との差異が小さく(最小に)なるように、未観測の変数(状態変数)の推定値を決定する手法の一例である。フィルタ演算部805は、観測変数の測定値と推定値との差異が小さく(最小に)なるカルマンゲインを求め、そのときの未観測の変数(状態変数)の推定値を求める。カルマンフィルタにおいては、以下の(58)式の観測方程式と、以下の(59)式の状態方程式を用いる。
Y=HX+V ・・・(58)
X・=ΦX+W ・・・(59)
(58)式において、Yは、観測変数の測定値を格納するベクトルである。Hは、観測モデルである。Xは、状態変数を格納するベクトルである。Vは、観測ノイズである。(59)式において、X・は、Xの時間微分を示す。Φは、線形モデルである。Wは、システムノイズである。尚、カルマンフィルタ自体は、公知の技術で実現できるので、その詳細な説明を省略する。
フィルタ演算部805は、(44)式に示す状態変数の推定値を所定のサンプリング周期で決定することにより、(44)式に示す状態変数の推定値の時系列データを生成する。
[第2の周波数調整部806]
第1の周波数調整部804により、前後方向力の測定値の時系列データに含まれる低周波成分の信号強度が十分に除去されていないと、フィルタ演算部805により生成される状態変数の推定値の時系列データに、鉄道車両が曲線軌道を走行することに起因する低周波成分の信号が残る虞がある。そこで、第2の周波数調整部806は、フィルタ演算部805により生成された状態変数の推定値の時系列データに含まれる低周波成分の信号強度を低減(好ましくは除去)する。尚、第1の周波数調整部804により、前後方向力の測定値の時系列データに含まれる低周波成分の信号強度が十分に除去されるように、(53)式に示す自己相関行列Rから抽出する固有値の数sを定めることができる場合には、第2の周波数調整部806の処理は不要になる。
本実施形態では、第2の周波数調整部806は、第1の周波数調整部804と同様に、修正自己回帰モデルを用いて、状態変数の推定値の時系列データに含まれる低周波成分の信号強度を低減する。
第2の周波数調整部806は、所定のサンプリング周期で状態変数毎に以下の処理を行う。
ここでは、前述した修正自己回帰モデルの説明における物理量は、状態変数になる。即ち、状態変数のデータyは、フィルタ演算部805により生成された状態変数の推定値の時系列データになる。状態変数の推定値は、何れも鉄道車両の状態に応じて変動する。
まず、第2の周波数調整部806は、状態変数の推定値のデータyと、予め設定されている数M、mと、に基づいて、(49)式と(51)式とを用いて自己相関行列Rを生成する。
次に、第2の周波数調整部806は、自己相関行列Rを特異値分解することで、(52)式の直交行列Uおよび対角行列Σを導出し、対角行列Σから自己相関行列Rの固有値σ11〜σmmを導出する。
次に、第2の周波数調整部806は、自己相関行列Rの複数の固有値σ11〜σmmのうち、最大のものからs個の固有値σ11〜σssを、修正自己回帰モデルの係数αを求めるのに利用する自己相関行列Rの固有値として選択する。sは、状態変数毎に予め定められる。例えば、鉄道車両を軌道16上で走行させて、これまで説明してきたようにして各状態変数の推定値のデータyを得る。そして、自己相関行列Rの固有値の分布を状態変数毎に個別に作成する。この自己相関行列Rの固有値の分布から、(53)式に示す自己相関行列Rから抽出する固有値の数sを状態変数のそれぞれについて決定する。
次に、第2の周波数調整部806は、状態変数の推定値のデータyと、固有値σ11〜σssと、自己相関行列Rの特異値分解により得られた直交行列Uと、に基づいて、(57)式を用いて、修正自己回帰モデルの係数αを決定する。
そして、第2の周波数調整部806は、修正自己回帰モデルの係数αと、状態変数の推定値のデータyと、に基づいて、(45)式により、状態変数の推定値のデータyの時刻kにおける予測値y^を導出する。状態変数の予測値y^の時系列データは、状態変数の推定値のデータyに含まれる低周波成分を抽出した時系列データになる。
そして、第2の周波数調整部806は、状態変数の推定値のデータyから、状態変数の予測値y^の時系列データを減算する。以下の説明では、状態変数の推定値のデータyから、状態変数の予測値y^の時系列データを減算した時系列データの各サンプリング時刻における値を、必要に応じて状態変数の高周波成分の値と称する。
[軌道状態算出部807、S1105]
(5)式〜(8)式の輪軸13a〜13dのヨーイングを記述する運動方程式に、(22)式〜(25)式を代入すると、以下の(60)式〜(63)式が得られる。
本実施形態では、(60)式〜(63)式に示すようにして、前後方向力T〜Tと輪軸13a〜13dの位置での通り狂い量yR1〜yR4との関係を示す関係式が定められる。
軌道状態算出部807は、(30)式〜(33)式より、輪軸13a〜13dのヨーイング方向における回動量(角変位)ψw1〜ψw4の推定値を算出する。そして、軌道状態算出部807は、輪軸13a〜13dのヨーイング方向における回動量(角変位)ψw1〜ψw4の推定値と、第2の周波数調整部806で生成された状態変数の高周波成分の値と、第1の周波数調整部804により生成された前後方向力T〜Tの高周波成分の値とを、(60)式〜(63)式に与えることにより、輪軸13a〜13dの位置での通り狂い量yR1〜yR4を算出する。ここで使用される状態変数は、台車12a〜12bの左右方向の変位yt1〜yt2、台車12a〜12bの左右方向の速度yt1・〜yt2・、輪軸13a〜13dの左右方向の変位yw1〜yw4、および輪軸13a〜13dの左右方向の速度yw1・〜yw4・である。軌道状態算出部807は、以上のような通り狂い量yR1〜yR4の算出を所定のサンプリング周期で行うことにより、通り狂い量yR1〜yR4の時系列データを得る。
そして、軌道状態算出部807は、通り狂い量yR1〜yR4から、最終的な通り狂い量yを算出する。例えば、軌道状態算出部807は、通り狂い量yR2〜yR4の時系列データの位相を、通り狂い量yR1の時系列データの位相に合わせる。即ち、軌道状態算出部807は、輪軸13aと輪軸13b〜13dとの前後方向の距離と、鉄道車両の速度とから、或る位置を輪軸13aが通過する時刻に対する、当該位置を輪軸13b〜13dが通過する時刻の遅れ時間を算出する。軌道状態算出部807は、通り狂い量yR2〜yR4の時系列データに対して、この遅れ時間だけ位相をずらす。
図15は、輪軸13a〜13dにおける通り狂い量yR1〜yR4の時系列データの一例を示す図である。図15において、輪軸13b〜13dにおける通り狂い量yR2〜yR4の時系列データの位相は、輪軸13aにおける通り狂い量yR1の時系列データの位相に合わせている。図15の横軸は、基準の時刻を0(ゼロ)とした場合の当該基準の時刻からの経過時間(秒)で通り狂い量yR1の検出時刻を表す。図25の縦軸は、輪軸13a〜13dにおける通り狂い量yR1〜yR4(m)である。
軌道状態算出部807は、位相を合わせた通り狂い量yR1〜yR4の同じサンプリング時刻における値の和の算術平均値を当該サンプリング時刻における最終的な通り狂い量yとして算出する。軌道状態算出部807は、このような計算を各サンプリング時刻において行うことにより、最終的な通り狂い量yの時系列データを得る。通り狂い量yR2〜yR4の位相を、通り狂い量yR1の位相に合わせるので、通り狂い量yR1〜yR4の時系列データに共通して存在する外乱因子を相殺することができる。
図16は、最終的な通り狂い量yの時系列データと、軌道16(レール)の曲率1/Rとの一例を示す図である。図16の横軸は、図15の縦軸と同様に、基準の時刻を0(ゼロ)とした場合の当該基準の時刻からの経過時間(秒)で最終的な通り狂い量yの検出時刻を表す。図16の上図における縦軸は、各検出時刻における最終的な通り狂い量y(m)を表す。図16の下図における縦軸は、最終的な通り狂い量yの各検出時刻に鉄道車両の輪軸13aが位置する地点での軌道16(レール)の曲率1/R(1/m)である。図16の下図において、曲率1/Rが0(ゼロ)であることは直線軌道を示し、曲率1/Rが0(ゼロ)以外の値であることは曲線軌道を示す。
図16の上図において、測定値は、実際に測定した通り狂い量yである。推定値は、軌道状態算出部807で算出された最終的な通り狂い量yである。図16の上図に示すように、直線軌道においても曲線軌道においても通り狂い量yの推定値は測定値に良く一致することが分かる。
尚、軌道状態算出部807は、位相を合わせた通り狂い量yR1〜yR4のそれぞれについて移動平均をとり(即ち、ローパスフィルタを通し)、当該移動平均をとった通り狂い量yR1〜yR4から、最終的な通り狂い量yを算出してもよい。
また、軌道状態算出部807は、位相を合わせた通り狂い量yR1〜yR4の同じサンプリング時刻における値のうち、最大値と最小値を除く2つの値の算術平均値を最終的な通り狂い量yとして算出してもよい。
[出力部808、S1106]
出力部808は、軌道状態算出部807により算出された最終的な通り狂い量yの情報を出力する。このとき出力部808は、最終的な通り狂い量yが、予め設定された値よりも大きい場合には、軌道16が異常であることを示す情報を出力してもよい。出力の形態としては、例えば、コンピュータディスプレイへの表示、外部装置への送信、およびの内部または外部の記憶媒体への記憶の少なくとも何れか1つを採用することができる。
(まとめ)
以上のように本実施形態では、検査装置800は、前後方向力T〜Tの測定値の時系列データに含まれる低周波成分の信号強度を低減し、前後方向力T〜Tの高周波成分の時系列データを生成する。検査装置800は、前後方向力T〜Tの高周波成分の時系列データを、前後方向力T〜Tと輪軸13a〜13dの位置での通り狂い量yR1〜yR4との関係式に与えることにより、輪軸13a〜13dの位置での通り狂い量yR1〜yR4を算出する。この関係式は、鉄道車両の直線軌道の走行時における運動を記述する運動方程式(即ち、軌道16(レール)の曲率半径Rを含まない式)に基づく式である。従って、曲線軌道における不整を特別な測定装置を用いることなく高精度に検出することができる。
また、本実施形態では、検査装置800は、前後方向力の測定値のデータyから、自己相関行列Rを生成し、自己相関行列Rを特異値分解して得られた固有値のうち、最大のものからs個の固有値を用いて、前後方向力の測定値のデータyを近似する修正自己回帰モデルの係数αを決定する。従って、前後方向力の測定値のデータyに含まれる低周波成分の信号が残り、高周波成分が残らないように、係数αを決定することができる。検査装置800は、時刻kにおける前後方向力の予測値y^を、このようにして係数αが定められた修正自己回帰モデルに、その時刻よりも前の時刻k−l(1≦l≦m)の前後方向力の測定値のデータyを与えることにより算出する。従って、カットオフ周波数を予め想定することなく、前後方向力の測定値のデータyから、鉄道車両の曲線軌道の走行に起因する低周波成分の信号を低減することができる。
また、本実施形態では、検査装置800は、データ取得部803で取得された計測データのうち、前後方向力T〜Tを除く計測データと、第1の周波数調整部804で生成された前後方向力T〜Tの高周波成分の時系列データと、をカルマンフィルタに与えて、状態変数(yw1・〜yw4・、yw1〜yw4、yt1・〜yt2・、yt1〜yt2、ψt1・〜ψt2・、ψt1〜ψt2、φt1・〜φt2・、φt1〜φt2、y・、y、ψ・、ψ、φ・、φ、ψy1、ψy2、φa1、φa2)を導出する。次に、検査装置800は、状態変数の推定値の時系列データに含まれる低周波成分の信号強度を低減(好ましくは除去)することにより、状態変数の高周波成分の値を算出する。次に、検査装置800は、台車12a、12bのヨーイング方向における回動量(角変位)ψt1〜ψt2の高周波成分の値と、変換変数e〜eの実績値と、を用いて、輪軸13a〜13dのヨーイング方向における回動量(角変位)ψw1〜ψw4を導出する。次に、検査装置800は、輪軸13a〜13dのヨーイングを記述する運動方程式に、輪軸13a〜13dのヨーイング方向における回動量(角変位)ψw1〜ψw4と、状態変数の高周波成分の値と、前後方向力T〜Tの高周波成分の値と、を代入して、輪軸13a〜13dの位置での通り狂い量yR1〜yR4を算出する。そして、検査装置800は、輪軸13a〜13dの位置での通り狂い量yR1〜yR4から、最終的な通り狂い量yを算出する。従って、輪軸13a〜13dのヨーイングを記述する運動方程式として、輪軸13a〜13dの位置での通り狂い量yR1〜yR4を変数として含む運動方程式を用いて状態方程式を構成する必要がなくなる。これにより、軌道16のモデルを作成する必要がなくなると共に状態変数の数を減らすことができる。本実施形態では、モデルの自由度を21自由度から17自由度に減らすことができると共に、状態変数の数を38から30に減らすことができる。また、前後方向力T〜Tの分だけ、カルマンフィルタで用いる測定値が増える。
一方、前後方向力T〜Tを使用しないで、(5)式〜(8)式の輪軸13a〜13dのヨーイングを記述する運動方程式を状態方程式に含めると、計算が不安定となり、推定結果が得られない場合がある。即ち、状態変数を選定しないと、計算が不安定となり、推定結果が得られない場合がある。また、仮に推定結果が得られたとしても、本実施形態の方法の方が、状態変数を選定しない方法に比べ、軌道16の不整の検知精度が高くなる。本実施形態では、輪軸13a〜13dのヨーイングを記述する運動方程式を状態方程式に含めないことと、前後方向力の測定値を用いることとを実現しているからである。
また、本実施形態では、センサとして歪ゲージを用いることができるので、特別なセンサを必要としない。従って、軌道16の異常(軌道不整)を大きなコストをかけることなく精度よく検知することができる。また、特別なセンサを用いる必要がないので、営業車両に歪ゲージを取り付け、営業車に検査装置800を搭載することにより、営業車両の走行中に、軌道16の不整をリアルタイムで検知することができる。従って、検測車を走行させなくても、軌道16の不整を検知することができる。ただし、検測車に歪ゲージを取り付け、検測車に検査装置800を搭載してもよい。
<変形例>
本実施形態では、修正自己回帰モデルを用いる場合を例に挙げて説明した。しかしながら、必ずしも、修正自己回帰モデルを用いて、前後方向力測定値のデータyから、鉄道車両の曲線軌道の走行に起因する低周波成分の信号を低減する必要はない。例えば、鉄道車両の曲線軌道の走行に起因する周波数帯を特定することができる場合には、ハイパスフィルタを用いて、前後方向力の測定値のデータyから、鉄道車両の曲線軌道の走行に起因する低周波成分の信号を低減してもよい。
また、本実施形態では、位相を合わせる際の基準となる輪軸が輪軸13aである場合を例に挙げて説明した。しかしながら、基準となる輪軸は、輪軸13a以外の輪軸13b、13c、または13dでもよい。
本実施形態では、カルマンフィルタを用いる場合を例に挙げて説明した。しかしながら、観測変数の測定値と推定値との誤差が最小または当該誤差の期待値が最小になるように状態変数の推定値を導出するフィルタ(即ち、データ同化を行うフィルタ)を用いていれば、必ずしもカルマンフィルタを用いる必要はない。例えば、粒子フィルタを用いてもよい。尚、観測変数の測定値と推定値との誤差としては、例えば、観測変数の測定値と推定値との二乗誤差が挙げられる。
また、本実施形態では、通り狂い量を導出する場合を例に挙げて説明した。しかしながら、軌道16の状態を反映する情報として、軌道不整(軌道16の外観上の不良)を反映する情報を導出していれば、必ずしも通り狂い量を導出する必要はない。例えば、通り狂い量に加えてまたは代えて以下の(64)式〜(67)式の計算を行うことにより、鉄道車両が直線軌道を走行しているときに生じる横圧(車輪とレールとの間における左右方向の応力)を導出してもよい。ただし、Q、Q、Q、Qはそれぞれ、車輪14a、14b、14c、14dにおける横圧である。fはスピンクリープ係数を表す。
また、本実施形態では、車体11の状態を表す状態変数を含める場合を例に挙げて説明した。しかしながら、車体11は、車輪14a〜14dと軌道16との間の作用力(クリープ力)による振動の伝搬が最後に伝わる部分である。従って、例えば、車体11においてその伝搬による影響が小さいと判断される場合には、車体11の状態を表す状態変数を含めなくてもよい。このようにする場合、(1)式〜(21)式の運動方程式のうち、(15)式〜(17)式の車体11の横振動、ヨーイング、ローリングを記述する運動方程式と、(18)式、(19)式の台車12aに配置されたヨーダンパ、台車12bに配置されたヨーダンパのヨーイングを記述する運動方程式は不要になる。また、(1)式〜(21)式の運動方程式において、車体に関する状態量(添え字bを含む状態量)と、車体に関する状態量(添え字bを含む状態量)を含む{}内の値(例えば(21)式の左辺第3項の{φa2−φ})を0(ゼロ)にする。
また、本実施形態では、台車12a、12bがボルスタレス台車である場合を例に挙げて説明した。しかしながら、台車12a、12bは、ボルスタレス台車に限定されない。この他、鉄道車両の構成要素、鉄道車両が受ける力、および鉄道車両の運動の方向等に応じて、運動方程式は、適宜書き換えられる。即ち、運動方程式は、本実施形態で例示したものに限定されない。
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態を説明する。以下の説明では、第1の実施形態の手法で算出される最終的な通り狂い量yを、必要に応じて通り狂い量yの推定値と称し、実際に測定した通り狂い量yを、必要に応じて通り狂い量yの測定値と称する。
図15に示す通り狂い量yの推定値の時系列データを算出する際に用いた計測データは、実際に測定したデータではなく、鉄道車両の振動を模擬した模擬データである。そこで、本発明者らは、実際に測定した計測データを用いて、通り狂い量yの推定値と測定値との乖離がないかどうかを確認した。
その結果、本発明者らは、曲線軌道におけるレールの継目の個所において、通り狂い量yの推定値と測定値とに大きな乖離が生じるという知見を得た。ここで、大きな乖離とは、通り狂い量yの推定値の時間波形と測定値の時間波形とが反転した形になることを指す。例えば、通り狂い量yの推定値の時間波形が上に凸となる時間領域で、通り狂い量yの測定値の時間波形が下に凸となる場合に大きな乖離があることとする。鉄道車両が直線軌道におけるレールの継目を通過する際の前後方向力T〜Tに含まれる左右方向の成分は小さいと考えられる。これに対し、鉄道車両が曲線軌道におけるレールの継目を通過する際には、前後方向力T〜Tに含まれる左右方向の成分が大きくなると考えられる。本発明者らは、このことから、曲線軌道におけるレールの継目の個所において、通り狂い量yの推定値と測定値とに大きな乖離が生じると考えた。そこで、本実施形態では、曲線軌道におけるレールの継目の個所を含む領域に対応する前後方向力T〜Tの測定値の時系列データを補正することにより、通り狂い量yの推定値と測定値とに大きな乖離が生じることを抑制する。このように本実施形態は、第1の実施形態に対し、通り狂い量yの推定値を補正する処理が加わるものである。従って、本実施形態の説明において、第1の実施形態と同一の部分については、図1〜図16に付した符号と同一の符号を付す等して詳細な説明を省略する。
<検査装置1700>
図17は、検査装置1700の機能的な構成の一例を示す図である。図18は、検査装置1700における事前処理の一例を示すフローチャートである。図19は、検査装置1700における本処理の一例を示すフローチャートである。本実施形態でも、第1の実施形態と同様に、検査装置1700が、鉄道車両に搭載される場合を例に挙げて示す。
図17において、検査装置1700は、その機能として、状態方程式記憶部801、観測方程式記憶部802、軌道データ記憶部1701、データ取得部803、第1の周波数調整部804、継目判定部1702、補正部1703、フィルタ演算部805、第2の周波数調整部806、軌道状態算出部807、および出力部808を有する。検査装置1700のハードウェアの構成は、例えば、図9に示すもので実現することができる。
[軌道データ記憶部1701、S1801]
軌道データ記憶部1701は、軌道データを記憶する。軌道データは、鉄道車両が走行する軌道の位置と当該位置におけるレールの曲率1/Rとの関係を示すデータを含む。曲率1/Rが0(ゼロ)である位置は直線軌道である。曲率1/Rが0(ゼロ)でない位置は曲線軌道である。このようなデータとして、例えば、鉄道会社が路線ごとに管理しているデータを用いることができる。
鉄道車両の位置が、始発駅からの距離で表される場合、鉄道車両の現在の走行位置は、鉄道車両の速度と走行時間とから走行距離を求めることにより得られる。鉄道車両の現在の走行位置を求める方法は、このような方法に限定されない。例えば、データ取得部803が、GPS受信機を有していてもよい。この場合、GPS受信機が、鉄道車両の現在の走行位置を取得する。
[継目判定部1702、S1901]
継目判定部1702は、鉄道車両が曲線軌道におけるレールの継目を含む区間を通過したか否かを判定する。以下の説明では、この領域を必要に応じて継目区間と称する。本実施形態では、継目判定部1702は、以下のようにして継目区間を算出する。まず、継目判定部1702は、輪軸13b〜13dの左右方向における加速度yw2・・〜yw4・・の位相を、輪軸13aの左右方向における加速度yw1・・に合わせる。即ち、継目判定部1702は、輪軸13aと輪軸13b〜13dとの前後方向の距離と、鉄道車両の速度とから、或る位置を輪軸13aが通過する時刻に対する、当該位置を輪軸13b〜13dが通過する時刻の遅れ時間を算出する。継目判定部1702は、輪軸13b〜13dの左右方向における加速度yw2・・〜yw4・・の時系列データに対して、この遅れ時間だけ位相をずらす。継目判定部1702は、位相を合わせた輪軸13a〜13dの左右方向における加速度yw1・・〜yw4・・の算出平均値y・・を算出する。継目判定部1702は、この輪軸13a〜13dの左右方向における加速度yw1・・〜yw4・・の算術平均値y・・の絶対値が閾値を上回る時刻を、鉄道車両の輪軸13aが曲線軌道におけるレールの継目を通過した時刻とする。閾値は、予め定められる。鉄道車両が曲線軌道におけるレールの継目を通過するときの、輪軸13a〜13dの左右方向における加速度yw1・・〜yw4・・を調査し、その調査の結果から、鉄道車両が曲線軌道におけるレールの継目を通過したと判定することができる値を閾値として採用する。例えば、3(m/s)〜6(m/s)の値が閾値として定められる。継目判定部1702は、鉄道車両の輪軸13aが曲線軌道におけるレールの継目を通過した時刻の前後t(秒)の間に鉄道車両の輪軸13aが通過する区間を継目区間とする。tは、予め定められる時刻であり、例えば0.2(秒)未満の値がtの値として定められる。
[補正部1703、S1902]
補正部1703は、継目判定部1702により、鉄道車両の輪軸13aが継目区間を通過したと判定されると起動する。本実施形態では、補正部1703は、鉄道車両の輪軸13aが当該継目区間を通過した時間に対応する時刻における前後方向力T〜Tの高周波成分の値を補正する。
例えば、補正部1703は、鉄道車両の輪軸13aが継目区間を通過した時間の始期に対応する時刻における前後方向力Tの高周波成分の値と、鉄道車両の輪軸13aが当該継目区間を通過した時間の終期に対応する時刻における前後方向力Tの高周波成分の値とを線形補間する。即ち、補正部1703は、これらの値を直線で結ぶ。
補正部1703は、前後方向力T〜Tの高周波成分の時系列データの位相を、前後方向力Tの時系列データの位相に合わせる。即ち、補正部1703は、輪軸13aと輪軸13b〜13dとの前後方向の距離と、鉄道車両の速度とから、或る位置を輪軸13aが通過する時刻に対する、当該位置を輪軸13b〜13dが通過する時刻の遅れ時間を算出する。補正部1703は、前後方向力T〜Tの高周波成分の時系列データに対して、この遅れ時間だけ位相をずらす。
補正部1703は、このようにして位相をずらした前後方向力T〜Tの高周波成分の時系列データにおいて、鉄道車両の輪軸13aが継目区間を通過した時間に対応する時刻における前後方向力T〜Tの高周波成分の値と、鉄道車両の輪軸13aが当該継目区間を通過した時間の終期に対応する時刻における前後方向力T〜Tの高周波成分の値とをそれぞれ線形補間する。
尚、補正部1703による補正の方法は、線形補間に限定されない。例えば、補正部1703は、スプライン補間を行ってもよい。
(まとめ)
以上のように本実施形態では、検出装置1800は、鉄道車両の輪軸13aが継目区間を通過した時間に対応する時刻における前後方向力T〜Tの高周波成分の値を補正する。従って、最終的な通り狂い量yの推定値の精度を更に向上させることができる。
<変形例>
本実施形態では、継目区間を曲線軌道に対してのみ設定する場合を例に挙げて説明した。しかしながら、曲線軌道に加えて直線軌道に対しても継目区間を設定してもよい。
また、本実施形態では、前後方向力T〜Tの高周波成分の値を補正する場合を例に挙げて説明した。しかしながら、データ取得部803により取得された前後方向力T〜Tの測定値を、本実施形態で説明したようにして補正してもよい。このようにする場合、第1の周波数調整部804は、補正後の前後方向力T〜Tの測定値の時系列データに含まれる低周波成分の信号強度を低減する。
また、本実施形態では、輪軸13a〜13dの左右方向における加速度yw1・・〜yw4・・を用いて、鉄道車両の輪軸13aが継目区間を通過したか否かを判定する場合を例に挙げて説明した。しかしながら、鉄道車両の振動を表すデータであれば、必ずしも輪軸13a〜13dの左右方向における加速度yw1・・〜yw4・・を用いる必要はない。例えば、台車12a、12bの左右方向における加速度yt1・・、yt2・・を用いてもよい。また、輪軸13a〜13dまたは台車12a、12bの上下方向における加速度を用いてもよい。このようにする場合、データ取得部803は、輪軸13a〜13dまたは台車12a、12bの上下方向における加速度の測定値を計測データとして取得する。
その他、本実施形態においても、第1の実施形態で説明した種々の変形例を採用することができる。
(第3の実施形態)
次に、第3の実施形態を説明する。
第1の実施形態では、鉄道車両に搭載した検査装置800が最終的な通り狂い量yを算出する場合を例に挙げて説明した。これに対し、本実施形態では、検査装置800の一部の機能が実装されたデータ処理装置が、指令所に配置される。このデータ処理装置は、鉄道車両から送信される計測データを受信し、受信した計測データを用いて最終的な通り狂い量yを算出する。このように、本実施形態では、第1の実施形態の検査装置800が有する機能を、鉄道車両と指令所とで分担して実行する。本実施形態と第1の実施形態とは、このことによる構成および処理が主として異なる。従って、本実施形態の説明において、第1の実施形態と同一の部分については、図1〜図16に付した符号と同一の符号を付す等して詳細な説明を省略する。
図20は、検査システムの構成の一例を示す図である。図20において、検査システムは、データ収集装置2010a、2010bと、データ処理装置2020とを有する。図20には、データ収集装置2010a、2010bおよびデータ処理装置2020の機能的な構成の一例も示す。尚、データ収集装置2010a、2010bおよびデータ処理装置2020のハードウェアは、例えば、図9に示すもので実現することができる。従って、データ収集装置2010a、2010bおよびデータ処理装置2020のハードウェアの構成の詳細な説明を省略する。
鉄道車両のそれぞれには、データ収集装置2010a、2010bが1つずつ搭載される。データ処理装置2020は、指令所に配置される。指令所は、例えば、複数の鉄道車両の運行を集中管理する。
<データ収集装置2010a、2010b>
データ収集装置2010a、2010bは、同じもので実現することができる。データ収集装置2010a、2010bは、データ取得部2011a、2011bと、データ送信部2012a、2012bとを有する。
[データ取得部2011a、2011b]
データ取得部2011a、2011bは、データ取得部803と同じ機能を有する。即ち、データ取得部2011a、2011bは、データ取得部803で取得する計測データと同じ計測データを取得する。具体的にデータ取得部2011a、2011bは、計測データとして、車体11の左右方向における加速度の測定値、台車12a、12bの左右方向における加速度の測定値、輪軸13a〜13dの左右方向における加速度の測定値、および前後方向力の測定値を取得する。これらの測定値を得るための歪ゲージおよび演算装置は、第1の実施形態で説明したものと同じである。
[データ送信部2012a、2012b]
データ送信部2012a、2012bは、データ取得部2011a、2011bで取得された計測データを、データ処理装置2020に送信する。本実施形態では、データ送信部2012a、2012bは、データ取得部2011a、2011bで取得された計測データを、無線通信により、データ処理装置2020に送信する。このとき、データ送信部2012a、2012bは、データ収集装置2010a、2010bが搭載されている鉄道車両の識別番号を、データ取得部2011a、2011bで取得された計測データに付加する。このようにデータ送信部2012a、2012bは、鉄道車両の識別番号が付加された計測データを送信する。
<データ処理装置2020>
[データ受信部2021]
データ受信部2021は、データ送信部2012a、2012bにより送信された計測データを受信する。この計測データには、当該計測データの送信元である鉄道車両の識別番号が付加されている。
[データ記憶部2022]
データ記憶部2022は、データ受信部2021で受信された計測データを記憶する。データ記憶部2022は、鉄道車両の識別番号ごとに計測データを記憶する。データ記憶部2022は、鉄道車両の現在の運行状況と、計測データの受信時刻とに基づいて、当該計測データの受信時刻における鉄道車両の位置を特定し、特定した位置の情報と当該計測データとを相互に関連付けて記憶する。尚、データ収集装置2010a、2010bが、鉄道車両の現在の位置の情報を収集し、取集した情報を計測データに含めてもよい。
[データ読み出し部2023]
データ読み出し部2023は、データ記憶部2022により記憶された計測データを読み出す。データ読み出し部2023は、データ記憶部2022により記憶された計測データのうち、オペレータにより指定された計測データを読み出すことができる。また、データ読み出し部2023は、予め定められたタイミングで、予め定められた条件に合致する計測データを読み出すこともできる。本実施形態では、データ読み出し部2023により読み出される計測データは、例えば、鉄道車両の識別番号および位置の少なくとも何れか1つに基づいて決定される。
状態方程式記憶部801、観測方程式記憶部802、第1の周波数調整部804、フィルタ演算部805、第2の周波数調整部806、軌道状態算出部807、および出力部808は、第1の実施形態と説明したものと同じである。従って、ここでは、これらの詳細な説明を省略する。尚、フィルタ演算部805は、データ取得部803で取得された計測データに代えてデータ読み出し部2023で読み出された計測データを用いて、(44)式に示す状態変数の推定値を決定する。
<まとめ>
以上のように本実施形態では、鉄道車両に搭載されたデータ収集装置2010a、2010bは、計測データを収集してデータ処理装置2020に送信する。指令所に配置されたデータ処理装置2020は、データ収集装置2010a、2010bから受信した計測データを記憶し、記憶した計測データを用いて、最終的な通り狂い量yを算出する。従って、第1の実施形態で説明した効果に加え、例えば、以下の効果を奏する。即ち、データ処理装置2020は、計測データを任意のタイミングで読み出すことにより、任意のタイミングで最終的な通り狂い量yを算出することができる。また、データ処理装置2020は、同じ位置における最終的な通り狂い量yの時系列的な変化を出力することができる。また、データ処理装置2020は、複数の路線における最終的な通り狂い量yを路線ごとに出力することができる。
<変形例>
本実施形態では、データ収集装置2010a、2010bからデータ処理装置2020に計測データを直接送信する場合を例に挙げて説明した。しかしながら、必ずしもこのようにする必要はない。例えば、クラウドコンピューティングを利用して検査システムを構築してもよい。
また、指令所に配置されたデータ処理装置2020は、第2の実施形態で説明したようにして最終的な通り狂い量yを算出してもよい。このようにする場合、データ処理装置2020は、継目判定部1702および補正部1703を更に有する。
その他、本実施形態においても、第1の実施形態および第2の実施形態で説明した種々の変形例を採用することができる。
また、第1の実施形態では、状態方程式記憶部801、観測方程式記憶部802、データ取得部803、第1の周波数調整部804、フィルタ演算部805、第2の周波数調整部806、軌道状態算出部807、および出力部808が1つの装置に含まれる場合を例に挙げて説明した。しかしながら、必ずしもこのようにする必要はない。状態方程式記憶部801、観測方程式記憶部802、第1の周波数調整部804、フィルタ演算部805、第2の周波数調整部806、軌道状態算出部807、および出力部808の機能を複数の装置で実現してもよい。この場合、これら複数の装置を用いて検査システムが構成される。以上のことは、第2の実施形態で説明した、状態方程式記憶部801、観測方程式記憶部802、データ取得部803、第1の周波数調整部804、フィルタ演算部805、第2の周波数調整部806、軌道状態算出部807、出力部808、継目判定部1702、および補正部1703についても同じである。
(その他の実施形態)
以上説明した本発明の実施形態は、コンピュータがプログラムを実行することによって実現することができる。また、前記プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体及び前記プログラム等のコンピュータプログラムプロダクトも本発明の実施形態として適用することができる。記録媒体としては、例えば、フレキシブルディスク、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、ROM等を用いることができる。
また、以上説明した本発明の実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその技術思想、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
本発明は、例えば、鉄道車両の軌道を検査することに利用することができる。
以下に、縦クリープ力の逆相成分に対応するように前後方向力を定める場合の前後方向力の具体例について説明する。
軸箱支持装置が、モノリンク式の軸箱支持装置である場合、軸箱支持装置は、リンクを備えており、軸箱と台車枠とがリンクにより連結されている。このリンクの両端にはゴムブッシュが取り付けられる。この場合、前後方向力は、1つの輪軸の左右方向の端にそれぞれ1つずつ取り付けられる2つのリンクのそれぞれが受ける荷重の前後方向の成分のうち、相互に逆位相となる成分になる。また、リンクの配置および構成により、リンクは、前後方向、左右方向、上下方向の荷重のうち主に前後方向の荷重を受ける。従って、例えば、各リンクに歪ゲージを1つ取り付ければよい。この歪みゲージの測定値を用いて、当該リンクが受ける荷重の前後方向の成分を導出することにより、前後方向力の測定値を得る。また、このようにすることに替えて、リンクに取り付けられたゴムブッシュの前後方向の変位を変位計で測定してもよい。この場合、測定した変位と当該ゴムブッシュのバネ定数との積を、前後方向力の測定値とする。軸箱支持装置が、モノリンク式の軸箱支持装置である場合、前述した、軸箱を支持するための部材は、リンクまたはゴムブッシュになる。
図15は、輪軸13a〜13dにおける通り狂い量yR1〜yR4の時系列データの一例を示す図である。図15において、輪軸13b〜13dにおける通り狂い量yR2〜yR4の時系列データの位相は、輪軸13aにおける通り狂い量yR1の時系列データの位相に合わせている。図15の横軸は、基準の時刻を0(ゼロ)とした場合の当該基準の時刻からの経過時間(秒)で通り狂い量yR1の検出時刻を表す。図5の縦軸は、輪軸13a〜13dにおける通り狂い量yR1〜yR4(m)である。
図16は、最終的な通り狂い量yRの時系列データと、軌道16(レール)の曲率1/Rとの一例を示す図である。図16の横軸は、図15の軸と同様に、基準の時刻を0(ゼロ)とした場合の当該基準の時刻からの経過時間(秒)で最終的な通り狂い量yRの検出時刻を表す。図16の上図における縦軸は、各検出時刻における最終的な通り狂い量yR(m)を表す。図16の下図における縦軸は、最終的な通り狂い量yRの各検出時刻に鉄道車両の輪軸13aが位置する地点での軌道16(レール)の曲率1/R(1/m)である。図16の下図において、曲率1/Rが0(ゼロ)であることは直線軌道を示し、曲率1/Rが0(ゼロ)以外の値であることは曲線軌道を示す。
補正部1703は、このようにして位相をずらした前後方向力T2〜T4の高周波成分の時系列データにおいて、鉄道車両の輪軸13aが継目区間を通過した時間の始期に対応する時刻における前後方向力T2〜T4の高周波成分の値と、鉄道車両の輪軸13aが当該継目区間を通過した時間の終期に対応する時刻における前後方向力T2〜T4の高周波成分の値とをそれぞれ線形補間する。
尚、補正部1703による補正の方法は、線形補間に限定されない。例えば、補正部1703は、スプライン補間を行ってもよい。
(まとめ)
以上のように本実施形態では、検出装置100は、鉄道車両の輪軸13aが継目区間を通過した時間に対応する時刻における前後方向力T1〜T4の高周波成分の値を補正する。従って、最終的な通り狂い量yRの推定値の精度を更に向上させることができる。

Claims (20)

  1. 車体と台車と輪軸とを有する鉄道車両を軌道上で走行させることにより測定される測定値の時系列データである計測データを取得するデータ取得手段と、
    前記鉄道車両の状態に応じて値が変動する物理量の時系列データから、前記鉄道車両が前記軌道の曲線部を走行することに起因して生じる低周波成分の信号強度を低減する周波数調整手段と、
    前記軌道の状態を反映する情報を導出する軌道状態導出手段と、を有し、
    前記計測データは、前後方向力の測定値を含み、
    前記前後方向力は、前記輪軸と、当該輪軸が設けられる前記台車との間に配置される部材に生じる前後方向の力であり、
    前記部材は、軸箱を支持するための部材であり、
    前記前後方向は、前記鉄道車両の走行方向に沿う方向であり、
    前記周波数調整手段は、前記物理量である前記前後方向力の測定値の時系列データから、前記鉄道車両が前記軌道の曲線部を走行することに起因して生じる低周波成分の信号強度を低減する第1の周波数調整手段を有し、
    前記軌道状態導出手段は、前記輪軸の位置での前記軌道の状態を反映する情報と前記前後方向力との関係を示す関係式と、前記第1の周波数調整手段により低周波成分の信号強度が低減された前記前後方向力の値と、を用いて、前記軌道の状態を反映する情報を導出し、
    前記関係式は、レールの曲率半径を含まない式であることを特徴とする検査システム。
  2. 前記計測データと、状態方程式と、観測方程式と、を用いて、データ同化を行うフィルタを用いた演算を行うことにより、前記状態方程式で推定値を決定すべき変数である状態変数の推定値を決定するフィルタ演算手段を更に有し、
    前記計測データは、前記台車および前記輪軸の左右方向の加速度の測定値を更に含み、
    前記左右方向は、前記前後方向と、前記軌道に対し垂直な方向である上下方向との双方に垂直な方向であり、
    前記前後方向力は、前記輪軸のヨーイング方向の角変位と、当該輪軸が設けられる前記台車のヨーイング方向の角変位との差に応じて定まる力であり、
    前記ヨーイング方向は、前記上下方向を回動軸とする回動方向であり、
    前記状態方程式は、前記状態変数と、前記前後方向力と、変換変数と、を用いて記述される方程式であり、
    前記状態変数は、前記台車の左右方向の変位および速度と、前記台車のヨーイング方向の角変位および角速度と、前記台車のローリング方向の角変位および角速度と、前記輪軸の左右方向の変位および速度と、前記鉄道車両に取り付けられている空気バネのローリング方向の角変位と、を含み、前記輪軸のヨーイング方向の角変位および角速度を含まず、
    前記ローリング方向は、前記前後方向を回動軸とする回動方向であり、
    前記変換変数は、前記輪軸のヨーイング方向の角変位と前記台車のヨーイング方向の角変位とを相互に変換する変数であり、
    前記観測方程式は、観測変数と、前記変換変数と、を用いて記述される方程式であり、
    前記観測変数は、前記台車および前記輪軸の左右方向の加速度を含み、
    前記フィルタ演算手段は、前記観測変数の測定値と、前記第1の周波数調整手段により低周波成分の信号強度が低減された前記前後方向力の値および前記変換変数の実績値を代入した前記状態方程式と、前記変換変数の実績値を代入した前記観測方程式と、を用いて、前記観測変数の測定値と推定値との誤差または当該誤差の期待値が最小になるときの前記状態変数の推定値を決定し、
    前記軌道状態導出手段は、前記フィルタ演算手段により決定された前記状態変数の一つである前記台車のヨーイング方向の角変位の推定値と、前記変換変数の実績値と、を用いて、前記輪軸のヨーイング方向の角変位の推定値を導出し、前記輪軸のヨーイング方向の角変位の推定値と、前記第1の周波数調整手段により低周波成分の信号強度が低減された前記前後方向力の値と、前記関係式と、を用いて前記軌道の状態を反映する情報を導出し、
    前記関係式は、前記輪軸のヨーイング方向の運動を記述する運動方程式を、前記前後方向力を用いて表現した式であり、
    前記変換変数の実績値は、前記第1の周波数調整手段により低周波成分の信号強度が低減された前記前後方向力の値を用いて導出されることを特徴とする請求項1に記載の検査システム。
  3. 前記状態方程式は、前記輪軸の左右方向の運動を記述した運動方程式と、前記台車の左右方向の運動を記述した運動方程式と、前記台車のヨーイング方向の運動を記述した運動方程式と、前記台車のローリング方向の運動を記述した運動方程式と、前記空気バネのローリング方向の運動を記述した運動方程式と、を用いて構成され、
    前記輪軸の左右方向の運動を記述した運動方程式は、前記輪軸のヨーイング方向の角変位に代えて、前記変換変数を用いて記述された運動方程式であり、
    前記台車のヨーイング方向の運動を記述した運動方程式は、前記輪軸のヨーイング方向の角変位および角速度に代えて、前記前後方向力を用いて記述された運動方程式であり、
    前記変換変数は、前記台車のヨーイング方向の角変位と前記輪軸のヨーイング方向の角変位との差で表されることを特徴とする請求項2に記載の検査システム。
  4. 前記データ取得手段は、前記車体の左右方向の加速度の測定値を更に取得し、
    前記観測変数は、前記車体の左右方向の加速度を更に含み、
    前記状態変数は、前記車体の左右方向の変位および速度と、前記車体のヨーイング方向の角変位および角速度と、前記車体のローリング方向の角変位および角速度と、前記鉄道車両に取り付けられるヨーダンパのヨーイング方向の角変位と、を更に有し、
    前記フィルタ演算手段は、前記車体、前記台車、および前記輪軸の左右方向の加速度の測定値と推定値との差が最小になるときの前記状態変数の推定値を決定することを特徴とする請求項2または3に記載の検査システム。
  5. 前記状態方程式は、前記車体の左右方向の運動を記述した運動方程式と、前記車体のヨーイング方向の運動を記述した運動方程式と、前記車体のローリング方向の運動を記述した運動方程式と、前記ヨーダンパのヨーイング方向の運動を記述した運動方程式と、を更に用いて構成されることを特徴とする請求項4に記載の検査システム。
  6. 前記観測方程式は、前記輪軸の左右方向の運動を記述した運動方程式と、前記台車の左右方向の運動を記述した運動方程式と、を更に用いて構成され、
    前記輪軸の左右方向の運動を記述した運動方程式は、前記輪軸のヨーイング方向の角変位に代えて、前記変換変数を用いて記述された運動方程式であることを特徴とする請求項2〜5の何れか1項に記載の検査システム。
  7. 前記観測方程式は、前記車体の左右方向の運動を記述した運動方程式を更に用いて構成されることを特徴とする請求項6に記載の検査システム。
  8. 前記周波数調整手段は、前記物理量である前記状態変数の推定値の時系列データから、前記鉄道車両が前記軌道の曲線部を走行することに起因して生じる低周波成分の信号強度を低減する第2の周波数調整手段を更に有することを特徴とする請求項2〜7の何れか1項に記載の検査システム。
  9. 前記フィルタは、カルマンフィルタであることを特徴とする請求項2〜8の何れか1項に記載の検査システム。
  10. 前記周波数調整手段は、前記物理量の時系列データを用いて、修正自己回帰モデルにおける係数を決定し、当該係数を決定した修正自己回帰モデルと、前記物理量の時系列データとを用いて、前記物理量の時系列データから、前記鉄道車両が前記軌道の曲線部を走行することに起因して生じる低周波成分の信号強度を低減し、
    前記修正自己回帰モデルは、前記物理量の値と、前記値に対する前記係数と、を用いて、前記物理量の予測値を表す式であり、
    前記周波数調整手段は、第1の行列を係数行列とし、自己相関ベクトルを定数ベクトルとする方程式を用いて、前記係数を決定し、
    前記自己相関ベクトルは、時差が1から前記修正自己回帰モデルで用いられる前記測定値の数であるmまでの前記物理量の時系列データの自己相関を成分とするベクトルであり、
    前記第1の行列は、1以上且つm未満の設定された数であるsに対して、自己相関行列のs個の固有値と対角行列Σとから導出される第2の行列Σと、前記s個の固有値と直交行列Uとから導出される第3の行列Uと、から導出される行列UΣ であり、
    前記自己相関行列は、時差が0からm−1までの前記物理量の時系列データの自己相関を成分とする行列であり、
    前記対角行列は、前記自己相関行列を特異値分解することで導出される前記自己相関行列の固有値を対角成分とする行列であり、
    前記直交行列は、前記自己相関行列の固有ベクトルを列成分ベクトルとする行列であり、
    前記第2の行列は、前記対角行列の部分行列であって、前記s個の固有値を対角成分とする行列であり、
    前記第3の行列は、前記直交行列の部分行列であって、前記s個の固有値に対応する固有ベクトルを列成分ベクトルとする行列であることを特徴とする請求項1〜9の何れか1項に記載の検査システム。
  11. 前記s個の固有値は、前記自己相関行列の固有値のうち、値が最大の固有値を含むことを特徴とする請求項10に記載の検査システム。
  12. 前記軌道の曲線部にあるレールの継目を含む区間における前記前後方向力の値を補正する補正手段を更に有し、
    前記補正手段により補正される前記前後方向力の値は、前記計測データに含まれる前記前後方向力の測定値、または、前記第1の周波数調整手段により低周波成分の信号強度が低減された前記前後方向力の値であることを特徴とする請求項1〜11の何れか1項に記載の検査システム。
  13. 前記軌道の状態を反映する情報は、前記軌道の通り狂い量、または、前記輪軸に設けられた車輪と前記軌道との間における左右方向の応力である横圧であり、
    前記左右方向は、前記前後方向と、前記軌道に対し垂直な方向である上下方向との双方に垂直な方向であることを特徴とする請求項1〜12の何れか1項に記載の検査システム。
  14. 前記前後方向力は、1つの前記輪軸の左右方向の両側に取り付けられた2つの前記部材のそれぞれに生じる力の前記前後方向の成分のうち、相互に逆位相となる成分であり、
    前記左右方向は、前記前後方向と、前記軌道に対し垂直な方向である上下方向との双方に垂直な方向であることを特徴とする請求項1〜13の何れか1項に記載の検査システム。
  15. 前記部材は、前記軸箱を支持するリンク、または、前記軸箱を支持するリンクに取り付けられたゴムブッシュであることを特徴とする請求項14に記載の検査システム。
  16. 前記部材は、前記軸箱を支持する軸はり、または、前記軸箱を支持する軸はりに取り付けられたゴムブッシュであることを特徴とする請求項14に記載の検査システム。
  17. 前記部材は、前記軸箱を支持する板バネ、または、前記軸箱を支持する板バネに取り付けられたゴムブッシュであることを特徴とする請求項14に記載の検査システム。
  18. 前記データ取得手段により取得された前記計測データを送信する送信手段と、
    前記送信手段により送信された前記計測データを受信する受信手段と、を更に有することを特徴とする請求項1〜17の何れか1項に記載の検査システム。
  19. 車体と台車と輪軸とを有する鉄道車両を軌道上で走行させることにより測定される測定値の時系列データである計測データを取得するデータ取得工程と、
    前記鉄道車両の状態に応じて値が変動する物理量の時系列データから、前記鉄道車両が前記軌道の曲線部を走行することに起因して生じる低周波成分の信号強度を低減する周波数調整工程と、
    前記軌道の状態を反映する情報を導出する軌道状態導出工程と、を有し、
    前記計測データは、前後方向力の測定値を含み、
    前記前後方向力は、前記輪軸と、当該輪軸が設けられる前記台車との間に配置される部材に生じる前後方向の力であり、
    前記部材は、軸箱を支持するための部材であり、
    前記前後方向は、前記鉄道車両の走行方向に沿う方向であり、
    前記周波数調整工程は、前記物理量である前記前後方向力の測定値の時系列データから、前記鉄道車両が前記軌道の曲線部を走行することに起因して生じる低周波成分の信号強度を低減する第1の周波数調整工程を有し、
    前記軌道状態導出工程は、前記輪軸の位置での前記軌道の状態を反映する情報と前記前後方向力との関係を示す関係式と、前記第1の周波数調整工程により低周波成分の信号強度が低減された前記前後方向力の値と、を用いて、前記軌道の状態を反映する情報を導出し、
    前記関係式は、レールの曲率半径を含まない式に基づく式であることを特徴とする検査方法。
  20. 車体と台車と輪軸とを有する鉄道車両を軌道上で走行させることにより測定される測定値の時系列データである計測データを取得するデータ取得工程と、
    前記鉄道車両の状態に応じて値が変動する物理量の時系列データから、前記鉄道車両が前記軌道の曲線部を走行することに起因して生じる低周波成分の信号強度を低減する周波数調整工程と、
    前記軌道の状態を反映する情報を導出する軌道状態導出工程と、をコンピュータに実行させ、
    前記計測データは、前後方向力の測定値を含み、
    前記前後方向力は、前記輪軸と、当該輪軸が設けられる前記台車との間に配置される部材に生じる前後方向の力であり、
    前記部材は、軸箱を支持するための部材であり、
    前記前後方向は、前記鉄道車両の走行方向に沿う方向であり、
    前記周波数調整工程は、前記物理量である前記前後方向力の測定値の時系列データから、前記鉄道車両が前記軌道の曲線部を走行することに起因して生じる低周波成分の信号強度を低減する第1の周波数調整工程を有し、
    前記軌道状態導出工程は、前記輪軸の位置での前記軌道の状態を反映する情報と前記前後方向力との関係を示す関係式と、前記第1の周波数調整工程により低周波成分の信号強度が低減された前記前後方向力の値と、を用いて、前記軌道の状態を反映する情報を導出し、
    前記関係式は、レールの曲率半径を含まない式に基づく式であることを特徴とするプログラム。

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