実施の形態1.
<電動機の構成>
本発明の実施の形態1の電動機100について説明する。図1は、実施の形態1における電動機100の構成を示す断面図である。この電動機100は、回転子5に永久磁石53が埋め込まれた永久磁石埋込型電動機であり、例えば潤滑油および冷媒が封入された圧縮機500(図22参照)に用いられる。
電動機100は、インナロータ型と呼ばれる電動機であり、固定子1と、固定子1の内側に回転可能に設けられた回転子5とを有する。固定子1と回転子5との間には、例えば0.3〜1.0mmのエアギャップが形成されている。
以下では、回転子5の回転軸である軸線C1の方向を、「軸方向」と称する。また。軸線C1を中心とする周方向(図1等に矢印R1で示す)を、「周方向」と称する。また、軸線C1を中心とする半径方向を、「径方向」と称する。なお、図1は、回転子5の回転軸(軸線C1)に直交する面における断面図である。
<回転子の構成>
回転子5は、円筒状の回転子鉄心50と、回転子鉄心50に取り付けられた永久磁石53と、回転子鉄心50の中央部に配置されたシャフト55とを有する。シャフト55は、例えば、圧縮機500(図22)のシャフトである。
図2は、電動機100を示す、軸線C1に平行な面における断面図(縦断面図)である。回転子鉄心50は、複数の電磁鋼板(積層要素)を軸方向に積層し、軸方向の両端部を固定部材61,62で締結したものである。回転子鉄心50を構成する電磁鋼板の厚さは、例えば0.2〜0.5mmである。
図1に戻り、回転子鉄心50の外周面に沿って、永久磁石53が挿入される複数の磁石挿入孔51が形成されている。磁石挿入孔51は、回転子鉄心50を軸方向に貫通する貫通孔である。磁石挿入孔51の数は、ここでは6である。但し、磁石挿入孔51の数は6に限定されるものではなく、2以上であればよい。隣り合う磁石挿入孔51の間は、極間となる。
永久磁石53は、軸方向に長い平板状の部材であり、回転子鉄心50の周方向に幅を有し、径方向に厚さを有する。永久磁石53の厚さは、例えば2mmである。永久磁石53は、例えば、ネオジウム(Nd)、鉄(Fe)およびボロン(B)を主成分とする希土類磁石で構成されている。永久磁石53は、厚さ方向に着磁されている。
ここでは、1つの磁石挿入孔51に1つの永久磁石53を配置しているが、1つの磁石挿入孔51に複数の永久磁石53を周方向に並べて配置してもよい。この場合、同じ磁石挿入孔51内の複数の永久磁石53は、互いに同一の極が径方向外側を向くように着磁される。
磁石挿入孔51の周方向両端部には、フラックスバリア(漏れ磁束抑制穴)52が形成されている。フラックスバリア52は、隣り合う永久磁石53の間の漏れ磁束を抑制するものである。フラックスバリア52と回転子鉄心50の外周との間の鉄心部分は、隣り合う永久磁石53の間の磁束の短絡を抑制するため、薄肉部となっている。薄肉部の厚さは、回転子鉄心50を構成する電磁鋼板の厚さと同じであることが望ましい。
<固定子の構成>
固定子1は、固定子鉄心10と、固定子鉄心10に設けられた第1の絶縁部2および第2の絶縁部3と、固定子鉄心10に巻き付けられた巻線4とを有する。固定子鉄心10は、軸線C1を中心とする環状のヨーク部11と、ヨーク部11から径方向内側(すなわち軸線C1に向かう方向)に延在する複数のティース12とを有する。
ティース12は、周方向に一定間隔で配置されている。ティース12の数は、ここでは9である。但し、ティース12の数は9に限定されるものではなく、2以上であればよい。周方向に隣り合うティース12の間には、巻線4を収容する空間であるスロット13が形成される。
固定子鉄心10は、円筒状のフレーム7の内側に、焼き嵌め、圧入または溶接等によって組み込まれている。フレーム7は、例えば、圧縮機500(図22)の密閉容器507の一部である。
フレーム7の内側には、圧縮機500の圧縮要素501(図22)の焼き付きを防止するための潤滑油(例えば冷凍機油)、および、冷凍サイクルを循環する冷媒が存在する。潤滑油および冷媒は、主に、スロット13の内部と、フレーム7と切欠き19(後述)の間を通って流れる。ここでは、潤滑油および冷媒の両方が流れる場合について説明するが、潤滑油および冷媒のうち一方が流れればよい。
図3は、固定子鉄心10を示す平面図である。固定子鉄心10は、厚さが0.2〜0.5mm(より望ましくは0.2〜0.35mm)である電磁鋼板(積層要素)を軸方向に積層して構成される。電磁鋼板としては、例えば無方向性電磁鋼板が用いられるが、これに限定されるものではない。また、電磁鋼板の代わりに、例えばアモルファス金属の薄帯を用いてもよい。
固定子鉄心10は、ティース12毎に複数の分割鉄心10Aが周方向に連結された構成を有する。分割鉄心10Aの数は、ティース12の数と同じ(ここでは9つ)である。各分割鉄心10Aは、ヨーク部11の外周面11a側の端部に設けられた連結部15で互いに連結されている。
図4は、固定子鉄心10の一部を拡大して示す図である。ヨーク部11は、周方向に延在する環状の外周面11aと、その径方向内側に位置する内周面11bとを有する。外周面11aは、フレーム7(図1)に嵌合する面である。内周面11bは、スロット13に面している。
ヨーク部11は、分割鉄心10Aの周方向の両端を規定する分割面(端面)16を有する。分割面16は、ヨーク部11の内周面11bから径方向外側に延在するが、外周面11aには到達しない。分割面16の径方向外側の端部には、穴11cが形成されている。この穴11cとヨーク部11の外周面11aとの間の薄肉部は、塑性変形可能な連結部15を構成する。なお、連結部15は、塑性変形可能な薄肉部に限らず、例えば円形のカシメ(丸カシメ)であってもよい。
固定子鉄心10が環状に組み立てられた状態では、周方向に隣り合う分割鉄心10Aの分割面16が互いに当接する。一方、固定子鉄心10が帯状に展開された状態では(図15参照)、周方向に隣り合う分割鉄心10Aの分割面16が互いに離間する。
ヨーク部11の外周面11aには、切欠き19が形成されている。切欠き19は、後述する巻線工程(図17(B))において、固定子1を治具でチャックする部分である。また、切欠き19とフレーム7との間の領域は、潤滑油および冷媒の流路となる。潤滑油および冷媒が切欠き19を流れることで、固定子1に発生した熱が放出される。
ティース12は、分割鉄心10Aにおけるヨーク部11の周方向中央部から、径方向内側に延在している。ティース12は、周方向の両端面である一対の側面12aと、軸方向の両端面である一対の端面12b(図2)とを有する。この側面12aおよび端面12bに、巻線4が巻き付けられる。ティース12の側面12aは、スロット13に面している。
ティース12は、径方向の内側端部(すなわち先端)にティース先端部120を有する。ティース先端部120は、回転子5(図1)の外周面に対向する円弧状の先端面12dを有する。ティース先端部120は、ティース12の側面12aに対して周方向の両側に突出する突出部121を有する。突出部121の径方向外側(すなわちヨーク部11に対向する側)には、突出面12cが形成されている。突出面12cは、スロット13に面している。
ティース12の径方向の中央部には、カシメ部(ティースカシメ部)17が形成されている。ヨーク部11の切欠き19の周方向の両側には、カシメ部(ヨークカシメ部)18がそれぞれ形成されている。ティース12のカシメ部17およびヨーク部11のカシメ部18は、固定子鉄心10を構成する複数の電磁鋼板を互いに固定するものである。
ティース12のカシメ部17およびヨーク部11のカシメ部18によって複数の電磁鋼板を互いに固定することにより、固定子鉄心10の高い寸法精度および高い剛性を得ることができる。また、電動機100の駆動時に、電磁加振力によって発生する振動および騒音を抑制することができる。
なお、カシメ部17は、ティース12の径方向の中央部に限らず、例えば、ティース先端部120の周方向中央部または突出部121に形成してもよい。また、カシメ部の数は、固定子鉄心10の寸法精度および剛性を確保できる最小数でよく、例えばティース12のカシメ部17を省略してもよい。
図5は、固定子鉄心10に、第1の絶縁部2と第2の絶縁部3とを設けた状態を示す断面図である。図6は、固定子鉄心10に、第1の絶縁部2および第2の絶縁部3を介して、巻線4を巻き付けた状態を示す断面図である。図6には、フレーム7および回転子5も併せて示す。
図5に示すように、第1の絶縁部2(インシュレータとも称する)は、ティース12の側面12aおよび端面12b(図2)を覆うティース周囲部2aと、ヨーク部11の内周面11bを覆う外側壁部2bと、ティース12の突出部121の突出面12cを覆う内側壁部2cとを有する。
ティース周囲部2aは、図6に示すように巻線4が巻き付けられる部分である。外側壁部2bおよび内側壁部2cは、ティース周囲部2aに巻き付けられた巻線4を、径方向外側および径方向内側からガイドする部分である。なお、内側壁部2cは、ティース12の突出部121の周方向端面も覆っている。
第1の絶縁部2を構成する材料は、例えば、粉体樹脂、液状樹脂、熱可塑性樹脂、電気絶縁ワニス、または接着剤などが望ましい。より具体的には、エポキシ樹脂、液晶ポリエステル樹脂(繊維状無機強化材または無機充填材を加えたもの)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレンテレフタレート、またはABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)樹脂などが望ましい。但し、第1の絶縁部2の構成材料は、これらに限定されるものではない。
第1の絶縁部2は、樹脂を金型で固定子鉄心10と一体に成形するか、または別部品として成形した樹脂成形体を固定子鉄心10に組み付けることで形成される。
第1の絶縁部2の厚さは、固定子鉄心10と巻線4との絶縁性の確保という観点では、厚い方がよい。但し、第1の絶縁部2の厚さが厚すぎると、スロット13の断面積が小さくなり、スロット13内に収容可能な巻線量が減少し、(巻線量に反比例する)銅損の増加によって電動機効率が低下する。絶縁性能と電動機効率とを両立させるためには、第1の絶縁部2の厚さは、0.1mm〜0.7mmの範囲内にあることが望ましい。
固定子鉄心10と第1の絶縁部2との間には、第2の絶縁部3(塞ぎ部とも称する)が形成される。第2の絶縁部3は、ティース12の側面12aおよび突出面12c、並びに、ヨーク部11の内周面11b(つまり、固定子鉄心10のスロット13側の面)を覆うように形成される。
すなわち、第2の絶縁部3は、ティース12の側面12aを覆うティース側面部3aと、ヨーク部11の内周面11bを覆うヨーク内面部3bと、ティース12の突出面12cを覆うティース突出面部3cとを有する。
ティース側面部3aは、ティース12の側面12aと第1の絶縁部2のティース周囲部2aとの間に設けられている。ヨーク内面部3bは、ヨーク部11の内周面11bと第1の絶縁部2の外側壁部2bとの間に設けられている。ティース突出面部3cは、ティース12の突出面12cと第1の絶縁部2の内側壁部2cとの間に設けられている。
第2の絶縁部3は、固定子鉄心10の電磁鋼板の隙間に、スロット13内を流れる潤滑油および冷媒が侵入することを抑制するために設けられる。そのため、第2の絶縁部3は、固定子鉄心10のスロット13側の面(すなわち、ティース12の側面12aおよび突出面12c、並びに、ヨーク部11の内周面11b)を覆い、当該面に形成される凹部104(後述)を塞ぐように形成される。
第2の絶縁部3は、潤滑油および冷媒の少なくとも一方(望ましくは両方)よりも比誘電率の小さい材料で構成される。第2の絶縁部3を構成する材料は、例えば、粉体樹脂、液状樹脂、熱可塑性樹脂、電気絶縁ワニス、または接着剤などが望ましい。より具体的には、エポキシ樹脂、液晶ポリエステル樹脂(繊維状無機強化材または無機充填材を加えたもの)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレンテレフタレート、またはABS樹脂などが望ましい。但し、第2の絶縁部3の構成材料は、これらに限定されるものではない。なお、第1の絶縁部2および第2の絶縁部3は、同一の材料で構成されていてもよい。
図6に示すように、固定子鉄心10のティース12には、第1の絶縁部2および第2の絶縁部3を介して、巻線4が巻き付けられる。具体的には、各ティース12に、例えば直径1.0mmのマグネットワイヤを80ターン巻き付けることにより、巻線4が構成される。巻線4がスロット13内に高密度に配置されることで、銅損が低減され、電動機効率化が向上する。
巻線4は、ここでは集中巻きで巻かれ、Y結線により結線されている。但し、巻線4は、分布巻で巻かれてもよく、Δ結線により結線されてもよい。巻線4の巻き数および直径は、要求される特性(回転数、トルク等)、印加電圧およびスロット13の断面積に応じて決定される。
図7は、第1の絶縁部2の外観形状の一例を示す斜視図である。第1の絶縁部2は、上記の通り、ティース周囲部2aと外側壁部2bと内側壁部2cとを有する。ティース周囲部2aは、上記の通り、ティース12を周方向両側および軸方向両側から囲むように形成されている。このティース周囲部2aに、巻線4(図6)が巻き付けられる。
外側壁部2bおよび内側壁部2cは、いずれも、固定子鉄心10から軸方向外側に延在し、それぞれ壁部22および壁部21を構成している。これらの壁部21,22は、固定子鉄心10の軸方向外側で巻線4(図2)を径方向両側からガイドする部分である。
第1の絶縁部2は、固定子鉄心10への組み付けを容易にするため、例えば、軸方向の中心部に形成された分割面23で2つに分割された構成(分割構造)を有する。但し、このような分割構造に限定されるものではなく、一体構造であってもよい。なお、第2の絶縁部3は、第1の絶縁部2の内側に設けられるため、図7では隠れている。
次に、第2の絶縁部3の構成および作用について、さらに説明する。まず、電磁鋼板101の打ち抜き工程および積層工程で発生する、固定子鉄心10の凹凸部および積層隙間について説明する。
図8は、電磁鋼板101の打ち抜き工程について説明するための模式図である。固定子鉄心10を製造する際には、電磁鋼板101を、固定子鉄心10の形状(すなわちヨーク部11とティース12とを有する形状)に、一枚ずつ打ち抜く。打ち抜きは、上型71(ダイ)と下型72(パンチ)とを有するプレス装置70を用いて行う。
以下では、説明の便宜上、電磁鋼板101の上型71側の面(すなわち上面)を表面101aと称し、下型72側の面(すなわち下面)を裏面101bと称する。
電磁鋼板101は、プレス装置70の上型71と下型72とでせん断変形を与えることにより打ち抜く。上型71を下型72に対して下降させると、上型71および下型72が電磁鋼板101に食い込んでクラックCが生じる。上型71をさらに下降させると、電磁鋼板101がクラックCを起点として破断する。
図9(A)および(B)は、打ち抜いた電磁鋼板101の切断面(打ち抜き面)を、それぞれ側方および正面から見た模式図である。電磁鋼板101の打ち抜き面には、表面101a側から裏面101b側にかけて、だれA1、せん断面A2、破断面A3およびかえりA4が順に形成される。
だれA1は、電磁鋼板101の表面101aが上型71に押し下げられて変形した湾曲面である。せん断面A2は、上型71に擦られて生じる平面であり、せん断方向(ここでは上下方向)に傷が形成されている。
破断面A3は、クラックCにより破断した面であり、せん断面A2よりも粗い面である。かえりA4(バリ)は、電磁鋼板101が上型71に押し下げられることで形成された突起であり、裏面101bから下方に突出する。
図9(A)に示すように、電磁鋼板101の打ち抜き面では、せん断面A2が面方向(厚さ方向に直交する方向)の外側に突出している。だれA1、破断面A3およびかえりA4は、せん断面A2よりも内側に退避している。
図10(A)は、電磁鋼板101のカシメ部17(18)の形成方法を説明するための模式図である。電磁鋼板101を図8に示したように打ち抜く前に、ポンチ93を有する上型92と、ダイス91を有する下型90とを用いて、電磁鋼板101の表面101aと裏面101bに凹形状と凸形状を形成する。具体的には、ポンチ93によって電磁鋼板101の一部をダイス91に押し込むことにより、電磁鋼板101の裏面101b側(ダイス91側)に凸形状を形成し、表面101a側(ポンチ93側)に凹形状を形成する。
その後、図8に示したように電磁鋼板101を打ち抜き、その後、図10(B)に示すように、複数の電磁鋼板101を軸方向に積層する。このとき、電磁鋼板101の裏面101bの凸形状を、軸方向に重なり合う電磁鋼板101の表面101aの凹形状に嵌合させる。このようにして、複数の電磁鋼板101がカシメ部17(18)で互いに固定された固定子鉄心10が得られる。
なお、カシメ部17(18)は、例えば、図10(B)に示すように、軸方向に見た形状が円形で、断面形状が矩形であってもよく、また、図10(C)に示すように、軸方向に見た形状が矩形で、且つ断面形状がV字状であってもよい。図10(B)に示したカシメ形状は、円柱状のポンチ93を用いることで形成され、図10(C)に示したカシメ形状は、V字状のポンチ93を用いることで形成される。
図11は、電磁鋼板101の打ち抜き面に対応する固定子鉄心10の端面を拡大して示す断面図である。電磁鋼板101の打ち抜き面に対応する固定子鉄心10の端面とは、図1に示したヨーク部11の外周面11aおよび内周面11b、並びに、ティース12の側面12a、突出面12cおよび先端面12dである。
固定子鉄心10の端面には、せん断面A2を含む凸部103と、だれA1、破断面A3およびかえりA4を含む凹部104とが、軸方向に交互に形成される。このような固定子鉄心10の凸部103および凹部104は、図1に示したヨーク部11の外周面11aおよび内周面11b、ティース12の側面12a、突出面12cおよび先端面12dのいずれにも形成される。
また、電磁鋼板101を積層すると、ある電磁鋼板101のかえりA4が、その下側の電磁鋼板101の表面101aに当接する。そのため、ある電磁鋼板101の裏面101bと、その下側の電磁鋼板101の表面101aとの間には、数μmの微小な隙間(積層隙間と称する)102が形成される。積層隙間102の軸方向の位置は、かえりA4の軸方向の位置と同じであり、積層隙間102は凹部104に連通している。
図12は、ヨーク部11の外周面11aを拡大して示す断面図であり、図6に示した線分12−12における矢視方向の断面図に相当する。ヨーク部11の外周面11aはフレーム7の内周面に嵌合する。一方、フレーム7と切欠き19との間には、潤滑油および冷媒の流路が形成される。
固定子鉄心10の積層隙間102は、上記の通り、凹部104に連通している。そのため、フレーム7と切欠き19との間を流れる潤滑油および冷媒は、図12に矢印で示すように、凹部104を通って積層隙間102の内部に入り込む場合がある。
ヨーク部11には巻線4が巻かれないため、ヨーク部11の外周面11a側(あるいは切欠き19側)から積層隙間102に潤滑油および冷媒が入り込んでも、電動機100の特性への影響はない。しかしながら、ティース12には巻線4が巻かれるため、ティース12の積層隙間102に潤滑油および冷媒が入り込むと、漏洩電流が増加し、電動機効率の低下を招く可能性がある。
図13は、ティース12の側面12a、第1の絶縁部2および第2の絶縁部3を拡大して示す断面図であり、図5に示した線分13−13における矢視方向の断面図に相当する。上記の通り、ティース12の側面12a(スロット13側の面)には、第1の絶縁部2および第2の絶縁部3が設けられている。
第2の絶縁部3は、ティース12の側面12aの凸部103を覆い、凹部104(すなわち積層隙間102のスロット13側)を塞ぐように形成されている。なお、第2の絶縁部3は、凹部104を塞いでいればよく、必ずしも凸部103を覆う必要は無い。
上記の通り、固定子鉄心10のスロット13(図6)の内部には、潤滑油および冷媒が流れる。第2の絶縁部3によって、ティース12の側面12aの凹部104を塞ぐことにより、凹部104に連通する積層隙間102への潤滑油および冷媒の侵入を抑制することができる。
このように、ティース12(すなわち巻線4が巻かれる部分)の積層隙間102への潤滑油および冷媒の侵入が抑制されるため、漏洩電流を低減することができ、これに起因する電動機効率の低下を抑制することができる。
第2の絶縁部3の厚さ(最大厚さ)は、凹部104の大きさにもよるが、固定子鉄心10を構成する電磁鋼板の板厚(1枚の厚さ)の1/4〜1/2の範囲内であることが望ましい。なお、第2の絶縁部3の最大厚さとは、第1の絶縁部2から、かえりA4までの距離を言う。
図13には、ティース12の側面12aの第1の絶縁部2および第2の絶縁部3を示したが、図5に示したように、ティース12の突出面12cおよびヨーク部11の内周面11bにも、同様に第1の絶縁部2および第2の絶縁部3が形成されている。すなわち、ティース12の突出面12cおよびヨーク部11の内周面11bのそれぞれに形成された凹部104も、第2の絶縁部3によって塞がれている。
このように、固定子鉄心10のスロット13側の面(ティース12の側面12aおよび突出面12c、並びに、ヨーク部11の内周面11b)に、第1の絶縁部2および第2の絶縁部3が設けられ、第2の絶縁部3が凹部104(すなわち積層隙間102のスロット13側)を塞いでいるため、潤滑油および冷媒の積層隙間102への侵入を抑制することができる。これにより、漏洩電流を低減し、電動機効率を向上することができる。
また、電磁鋼板101の板厚をより薄くすることで、だれA1、せん断面A2、破断面A3およびかえりA4(図9(A)および(B))を小さくすることができる。これにより、第2の絶縁部3の厚さを薄くすることが可能になり、製造コストの上昇を抑制することができる。電磁鋼板101の板厚は、0.2mm〜0.35mmの範囲内であることが望ましい。
<固定子の製造工程>
次に、固定子1の製造工程について説明する。図14は、固定子1の製造工程を説明するためのフローチャートである。なお、電磁鋼板101の表面101aおよび裏面101bには、図9(A)で示したようにカシメ用の凹凸形状を予め形成しておく。
まず、電磁鋼板101を、帯状に展開された固定子鉄心10の形状に1枚ずつ打ち抜く(ステップS11)。より具体的には、電磁鋼板101を、分割鉄心10Aに対応する鋼板部分10Bが帯状に連結された形状に打ち抜く。図15は、打ち抜いた電磁鋼板101を示す図である。隣り合う鋼板部分10Bは、連結部15(例えば塑性変形可能な薄肉部)で互いに連結されている。
電磁鋼板101の打ち抜きは、図8に示したように上型71と下型72とを有するプレス装置70で行う。電磁鋼板101の打ち抜き面には、だれA1、せん断面A2、破断面A3およびかえりA4(図9(A)および(B))が形成される。
なお、ここでは、電磁鋼板101を、帯状に展開された固定子鉄心10の形状(図15)に打ち抜いているが、固定子鉄心10が複数の分割鉄心10Aを連結した構成でない場合には、電磁鋼板101を環状の固定子鉄心10の形状(図3)に打ち抜いてもよい。
次に、打ち抜いた複数の電磁鋼板101を、軸方向に積層する(ステップS12)。このとき、図10(B)および(C)に示したように、積層された複数の電磁鋼板101は、カシメ部17,18によって互いに固定される。これにより、帯状に展開された固定子鉄心10が得られる。
次に、固定子鉄心10に、第2の絶縁部3を形成する(ステップS13)。より具体的には、固定子鉄心10のスロット13側の面(すなわち、ティース12の側面12aおよび突出面12c、並びに、ヨーク部11の内周面11b)に、第2の絶縁部3を形成する。
例えば、固定子鉄心10を金型内にセットし、第2の絶縁部3を構成する樹脂を金型内に充填して硬化させることにより、固定子鉄心10のスロット13側の面に第2の絶縁部3を一体成形する。これにより、固定子鉄心10のスロット13側の面の凹部104(図13)は、第2の絶縁部3によって塞がれる。
このとき、固定子鉄心10のうち、ティース12の先端面12d、ヨーク部11の外周面11aおよび分割面16には、第2の絶縁部3が形成されないように、予めカバーで覆うものとする。
第2の絶縁部3の形成方法は、金型を用いた一体成形には限らない。図16は、スプレー装置82を用いた第2の絶縁部3の形成方法を示す模式図である。図16に示すように、スプレー装置82により、固定子鉄心10のスロット13側の面(すなわち、ティース12の側面12aおよび突出面12c、並びに、ヨーク部11の内周面11b)に噴霧状の樹脂を吹き付け、樹脂を硬化させることで、第2の絶縁部3を形成してもよい。
スプレー装置82を用いる場合、固定子鉄心10の複数の分割鉄心10Aのうち、樹脂を吹き付ける分割鉄心10Aを治具で固定し、その両側の分割鉄心10Aを、隣り合うティース12の間隔が広がるように、連結部15を中心として回動させる。これにより、樹脂を吹き付ける分割鉄心10Aの周囲に広い空間が形成されるため、吹き付けを簡単に行うことができる。
このように第2の絶縁部3を形成した後、固定子鉄心10に第1の絶縁部2を取り付ける(ステップS14)。すなわち、予め成形した樹脂成形体である第1の絶縁部2(インシュレータ)を、固定子鉄心10を構成する各分割鉄心10Aに取り付ける。第1の絶縁部2が分割構造(図7)を有する場合には、固定子鉄心10への第1の絶縁部2の取り付けが容易になる。
また、第1の絶縁部2は、金型を用いて固定子鉄心10および第2の絶縁部3と一体に成形してもよい。例えば、第2の絶縁部3が形成された固定子鉄心10を金型内にセットし、第1の絶縁部2を構成する樹脂を金型内に充填して硬化させることで、固定子鉄心10のスロット13側の面に、第2の絶縁部3を覆うように、第1の絶縁部2を形成することができる。
その後、固定子鉄心10に、巻線4を巻き付ける(ステップS15)。図17(A)および(B)は、巻線工程を説明するための模式図である。まず、図17(B)に示すように、帯状に展開された固定子鉄心10の複数の分割鉄心10Aのうち、巻線4を巻き付ける分割鉄心10Aを治具で固定し、その両側の分割鉄心10Aを、隣り合うティース12の間隔が広がるように、連結部15を中心として回動させる。
この状態で、巻線位置に固定した分割鉄心10Aのティース12の周囲に、巻線装置の巻線ノズル81を用いて巻線4を巻き付ける。巻線ノズル81は、図17(B)に矢印R2で示すようにティース12の周囲を回転し、ティース12の周囲に巻線4を巻き付ける。ティース12の周囲に広い空間が形成されるため、巻線4の巻き付けを簡単に行うことができる。
各ティース12に巻線4を巻き付けたのち、図17(A)に示すように、固定子鉄心10を環状に組み立てる(ステップS16)。すなわち、固定子鉄心10を環状に折り曲げ、固定子鉄心10の両端の分割鉄心10Aの突き合わせ部(図1に符号Wで示す)を互いに突き合わせて溶接する。
これにより、固定子鉄心10と、第1の絶縁部2と、第2の絶縁部3と、巻線4とを備えた固定子1が完成する。なお、上記のステップS11で、電磁鋼板101を環状に打ち抜いた場合には、ステップS16(環状組立工程)は不要である。固定子1は、圧縮機500のフレーム7の内側に、焼き嵌め、圧入、または溶接によって組み込まれる。
一方、回転子5の回転子鉄心50は、電磁鋼板を回転子鉄心50の形状に1枚ずつ打ち抜き、これらを軸方向に積層し、固定部材61,62(図2)で軸方向両側から固定することによって得られる。この回転子鉄心50の磁石挿入孔51に永久磁石53を挿入し、中心孔54にシャフト55を挿入することにより、回転子5が得られる。この回転子5を、フレーム7内に取り付けられた固定子1の内側に挿入する。これにより、図1に示した電動機100が完成する。
圧縮機500では、電動機100のスロット13の内部および切欠き19とフレーム7との間を通って潤滑油および冷媒が流れるが、固定子鉄心10のスロット13側の面には、凹部104(すなわち積層隙間102のスロット13側)を塞ぐように第2の絶縁部3が形成されている。そのため、固定子鉄心10の巻線4が巻かれた部分(すなわちティース12)の積層隙間102への潤滑油および冷媒の侵入を抑制することができる。これにより、漏洩電流を低減し、電動機効率を向上することができる。
なお、第2の絶縁部3は、ティース12の側面12aおよび突出面12c並びにヨーク部11の内周面11bの全てに形成するのが最も望ましいが、ティース12の側面12aおよび突出面12c並びにヨーク部11の内周面11bのうちの少なくとも1つに形成すれば、ティース12の積層隙間102に潤滑油および冷媒が侵入しにくくなるという効果が得られる。
また、ここでは、固定子鉄心10を構成する積層要素として電磁鋼板を用いたが、電磁鋼板に限定されるものではなく、例えばアモルファス合金等の薄帯であってもよい。
<駆動回路>
次に、電動機100を駆動する駆動装置としての駆動回路201について説明する。図18は、電動機100の駆動回路201を示すブロック図である。駆動回路201には、商用交流電源202から供給される交流電圧を直流電圧に変化する整流回路203と、整流回路203から出力された直流電圧を交流電圧に変換して電動機100に供給するインバータ主回路204(インバータ)と、インバータ主回路204を駆動する主素子駆動回路205とを有する。
駆動回路201は、また、整流回路203から出力された直流電圧を検出する直流電圧検出部208と、電動機100の端子電圧を検出して電動機100の回転子の位置を検出する回転子位置検出部210と、インバータ主回路204の最適な出力電圧を演算する出力電圧演算部211と、出力電圧演算部211の演算結果に基づいて主素子駆動回路205にPWM(Pulse Width Modulation)信号を出力するPWM信号生成部212とを有する。
整流回路203は、商用交流電源202から供給される電圧を昇圧するチョッパー回路、および、整流した直流電圧を平滑にする平滑コンデンサなどを有する。
インバータ主回路204は、3相ブリッジのインバータ回路である。インバータ主回路204のスイッチング部は、インバータ主素子としての6つのIGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)206a〜206fと、ファストリカバリーダイオード(FRD)としてのシリコンカーバイド(SiC)を用いた6つのSiC−SBD(ショットキーバリアダイオード)207a〜207fとを有する。FRDであるSiC−SBD207a〜207fは、IGBT206a〜206fがONからOFFに転じる際に生じる逆起電力を抑制する逆電流防止手段である。
ここでは、IGBT206a〜206fとSiC−SBD207a〜207fは、同一リードフレーム上に各チップが実装されエポキシ樹脂でモールドされてパッケージされたICモジュールで構成される。IGBT206a〜206fは、シリコンを用いたIGBT(Si−IGBT)に代えて、SiCまたはGaNを用いたIGBTで構成してもよい。また、IGBTに代えてSi、SiCまたはGaNを用いたMOSFET(Metal−Oxide−Semiconductor Field−Effect Transistor)などの他のスイッチング素子で構成してもよい。
整流回路203とインバータ主回路204の間には、直列に接続された2つの分圧抵抗208a,208bが設けられている。直流電圧検出部208は、これらの分圧抵抗208a,208bによる分圧回路によって高圧直流電圧を低圧化した電気信号をサンプリングし、保持する。
インバータ主回路204から供給される交流電力は、圧縮機500のガラス端子511(図22)を介して電動機100の巻線4に供給され、回転磁界によって回転子5が回転する。
回転子位置検出部210は、回転子5の位置情報を検出し、出力電圧演算部211に出力する。出力電圧演算部211は、駆動回路201の外部から与えられる目標回転数Nの指令または装置の運転条件の情報と回転子5の位置情報とに基づいて、電動機100に供給すべき最適なインバータ主回路204の出力電圧を演算する。出力電圧演算部211は、演算した出力電圧をPWM信号生成部212に出力する。
PWM信号生成部212は、出力電圧演算部211から与えられた出力電圧となるようなPWM信号を、インバータ主回路204のIGBT206a〜206fを駆動する主素子駆動回路205に出力する。インバータ主回路204のIGBT206a〜206fは、主素子駆動回路205によってスイッチングされる。
SiC−SBD207a〜207fに使用されるSiCは、ワイドバンドギャップ半導体の一つである。ワイドバンドギャップ半導体は、Siよりもバンドギャップが大きい半導体の総称であり、SiCの他に、窒化ガリウム(GaN)、ダイヤモンドなどがある。ワイドバンドギャップ半導体、特にSiCは、Siに比べて、耐熱温度、絶縁破壊強度および熱伝導率が高い。ここでは、インバータ回路のFRDにSiCを用いているが、SiCに代えてその他のワイドバンドギャップ半導体を用いてもよい。
電動機100は、駆動回路201のインバータ主回路204によるPWM制御により可変速駆動を行うことで、要求された負荷条件に応じた高効率な運転を行う。インバータ主回路204のスイッチング周波数(キャリア周波数)は、主素子駆動回路205に用いられるスイッチング素子によって異なる。例えば主素子駆動回路205にGaNが用いられる場合には、100kHz程度で波形が生成され、駆動電圧には運転周波数よりも高いスイッチングによる高周波が含まれる。
PWM制御による高周波運転時に、固定子鉄心10と巻線4との間に高周波電位差が生じると、浮遊静電容量により漏洩電流が流れやすくなる。この漏洩電流の原理は、コンデンサの原理と同じであり、漏洩電流iと、周波数fと、静電容量Cと、電圧Vとの間には、i=2πfCVの関係が成り立つ。すなわち、漏洩電流iは、周波数fと静電容量Cと電圧Vとの積に比例する。
また、静電容量Cと、固定子鉄心10のスロット13側の面の近傍の巻線4の表面積Sと、固定子鉄心10と巻線4との最短距離dとの間には、C=εS/dの関係が成り立つ。ここで、εは誘電率であり、物質によって異なる。通常は、真空の誘電率ε0との比である比誘電率εr(=ε/ε0)が用いられる。
固定子鉄心10と巻線4との間には、第1の絶縁部2と、第2の絶縁部3と、潤滑油および冷媒とが存在する。圧縮機500で用いられる潤滑油(冷凍機油)の比誘電率は、4〜7である。また、圧縮機500で用いられる冷媒の比誘電率は、7〜12である。第1の絶縁部2および第2の絶縁部3を構成する材料(樹脂)の比誘電率は、3〜5である。すなわち、比誘電率は、樹脂、潤滑油、冷媒の順に大きくなる。
従って、固定子鉄心10のスロット13側の面に、比誘電率が潤滑油および冷媒よりも小さい第2の絶縁部3を設けることにより、上記の関係式i=2πfCVにおける静電容量Cを小さくすることができる。すなわち、高周波運転時に固定子鉄心10と巻線4との電位差によって生じる漏洩電流iを、抑制することができる。
<実施の形態の効果>
以上説明したように、本発明の実施の形態1によれば、固定子鉄心10のスロット13内に第1の絶縁部2が設けられ、固定子鉄心10と第1の絶縁部2との間に第2の絶縁部3が設けられ、この第2の絶縁部3が積層隙間102のスロット13側を塞いでいる。そのため、スロット13を流れる潤滑油および冷媒の積層隙間102への侵入を抑制することができる。これにより、固定子鉄心10の積層隙間102に潤滑油および冷媒が侵入することによる漏洩電流を低減し、電動機効率を向上することができる。
また、固定子鉄心10の積層隙間102への潤滑油および冷媒の侵入を低減することにより、潤滑油および冷媒の侵入の度合いのばらつきに起因する漏洩電流の変動を抑制することができ、電動機100の信頼性を向上することができる。
また、上記のように漏洩電流を低減することにより、例えばSiCまたはGaNを用いてインバータのPWM制御のキャリア周波数を高くすることができる。キャリア周波数を高くすることで、制御分解能を向上することができ、電動機100の高速駆動が可能となる。これにより、圧縮機500の回転数を増加させ、出力を向上することができる。また、圧縮機500を用いる空気調和装置600(図23)の冷暖房能力を向上し、快適性を高めることができる。
また、固定子鉄心10のスロット13側の面に、積層隙間102に連通する凹部104が形成され、第2の絶縁部3が凹部104を塞いでいるため、凹部104から積層隙間102への潤滑油および冷媒の侵入を抑制することができ、漏洩電流を効果的に抑制することができる。
また、第2の絶縁部3が、潤滑油および冷媒よりも比誘電率が小さい材料で構成されているため、電動機100の高周波運転時に固定子鉄心10と巻線4との電位差によって発生する漏洩電流を低減することができる。
また、第2の絶縁部3が、ティース12の側面12aに形成されているため、巻線4が巻かれるティース12の積層隙間102への潤滑油および冷媒の侵入を抑制し、漏洩電流を抑制する効果を高めることができる。
また、第2の絶縁部3が、ヨーク部11の内周面11bにも形成されているため、ヨーク部11からティース12の積層隙間102への潤滑油および冷媒の侵入を抑制することができる。
また、第2の絶縁部3が、ティース12の先端の突出部121の突出面12cにも形成されているため、突出部121からティース12の積層隙間102への潤滑油および冷媒の侵入を効果的に抑制することができる。
また、第2の絶縁部3の厚さが、固定子鉄心10を構成する電磁鋼板101の厚さの1/4〜1/2の範囲内であるため、凹部104(すなわち積層隙間102のスロット13側)を効果的に塞ぎ、潤滑油および冷媒の侵入を抑制することができる。
また、固定子鉄心10を構成する電磁鋼板101の厚さが、0.2〜0.35mmの範囲内であるため、電磁鋼板101の打ち抜き面に生じるだれA1、せん断面A2、破断面A3およびかえりA4を小さくすることができる。これにより、第2の絶縁部3の厚さを薄くし、製造コストを低減することができる。
なお、上記の図13に示した例では、第2の絶縁部3が、固定子鉄心10の凹部104を塞ぐように形成されており、積層隙間102には入り込んでいなかった。しかしながら、図19に一例を示すように、第2の絶縁部3が凹部104から積層隙間102に入り込んでいてもよい。第2の絶縁部3は絶縁性を有するため、第2の絶縁部3が積層隙間102に入り込んでも、漏洩電流の原因とはならない。
実施の形態2.
図20は、実施の形態2の電動機における固定子鉄心10のスロット13側の面(ここではティース12の側面12a)および絶縁部30を拡大して示す断面図であり、上述した図5の線分13−13における矢視方向の断面図に相当する。
この実施の形態2では、第1の絶縁部2と第2の絶縁部3とが一体化されて、絶縁部30を構成している。絶縁部30は、固定子鉄心10のスロット13側の面の凹部104を塞ぐように形成され、積層隙間102への潤滑油および冷媒の侵入を抑制する。絶縁部30は、凹部104から積層隙間102に入り込んでいても良い(図19参照)。また、絶縁部30の周囲には、巻線4(図1参照)が巻き付けられる。
絶縁部30は、実施の形態1で説明した第1の絶縁部2および第2の絶縁部3の構成材料と同一の材料で構成することができる。絶縁部30は、潤滑油および冷媒よりも比誘電率の小さい材料で構成されていることが望ましい。絶縁部30は、例えば、固定子鉄心10を金型にセットし、樹脂を金型に充填して硬化させることによって形成される。また、図16に示したように、噴霧状の樹脂を、固定子鉄心10に吹き付けて硬化させてもよい。
図19には、ティース12の側面12aに形成された絶縁部30を示したが、ティース12の突出面12cおよびヨーク部11の内周面11b(図5参照)にも、同様の絶縁部30が形成される。
実施の形態2の電動機は、第1の絶縁部2および第2の絶縁部3に代えて絶縁部30を有することを除き、実施の形態1の電動機100と同様に構成されている。また、実施の形態2の固定子の製造工程は、ステップS13とステップS14とを同時に単一の工程(すなわち絶縁部30を形成する工程)で行うことを除き、実施の形態1の固定子1の製造工程(図14)と同様である。
この実施の形態2では、実施の形態1と同様、固定子鉄心10の巻線4が巻かれる部分(すなわちティース12)の積層隙間102への潤滑油および冷媒の侵入を低減することができる。これにより、漏洩電流を抑制し、電動機効率を向上することができる。
また、実施の形態2では、実施の形態1の第1の絶縁部2および第2の絶縁部3に代えて、単一の絶縁部30を用いるため、固定子1の製造工程を簡単にすることができる。
実施の形態3.
図21は、実施の形態3の電動機300を示す断面図である。実施の形態3の電動機300は、回転子305が固定子301の外側に配置されたアウタロータ型の構成を有する点で、実施の形態1の電動機100と異なる。電動機300は、例えば圧縮機500(図22)に用いられる。
固定子301は、例えば厚さが0.2〜0.5mm(望ましくは0.2〜0.35mm)の電磁鋼板(積層要素)を軸線C1の方向に積層した固定子鉄心310と、固定子鉄心310に巻き付けられた巻線4(図1参照)とを有する。なお、巻線4は、図21では省略されている。
固定子鉄心310は、軸線C1を中心とする環状のヨーク部311と、ヨーク部311から径方向外側(軸線C1と反対側)に延在する複数のティース312とを有する。ティース312の数は、ここでは4であるが、4に限定されるものではない。周方向に隣り合うティース312の間には、巻線4を収容する空間であるスロット313が形成される。スロット313には、圧縮機500(図22)の潤滑油および冷媒が流れる。
図21では省略されているが、ヨーク部311およびティース312には、複数の電磁鋼板を互いに固定するためのカシメ部が形成されている。
ティース312は、周方向の両端面である側面312aを有する。また、ティース312は、径方向の外側端部(すなわち先端)に、ティース先端部320を有する。ティース先端部320は、ティース312の側面312aに対して周方向の両側に突出する突出部321を有する。突出部321の径方向内側には、ヨーク部311に対向する突出面312cが形成されている。ティース312の側面312aおよび突出面312cは、スロット313に面している。
ヨーク部311は、軸線を中心とする環状の内周面311aと外周面311bとを有する。内周面311aの内側には、回転子305に連結されたシャフト355が配置されている。ヨーク部311の内周面311aとシャフト355との間には、互いに接触しない程度の隙間が設けられている。ヨーク部311の外周面311bは、スロット313に面している。
すなわち、この実施の形態3では、固定子鉄心310のスロット313側の面は、ティース312の側面312aおよび突出面312c、並びに、ヨーク部311の外周面311bである。
固定子鉄心310のスロット313側の面(ティース312の側面312aおよび突出面312c、並びに、ヨーク部311の外周面311b)には、第2の絶縁部303が形成されている。また、第2の絶縁部303を覆うように、第1の絶縁部302が設けられている。第1の絶縁部302および第2の絶縁部303の構成材料および厚さは、それぞれ、実施の形態1の第1の絶縁部2および第2の絶縁部3と同様である。
第2の絶縁部303は、実施の形態1の第2の絶縁部3と同様、金型を用いて固定子鉄心310と一体に成形することができる。また、スプレー装置により固定子鉄心310に樹脂を吹き付けてもよい。
第1の絶縁部302は、実施の形態1の第1の絶縁部2と同様、予め成形した樹脂成形体を固定子鉄心310に組み付けるか、あるいは、金型を用いて固定子鉄心310および第2の絶縁部3と一体に成形することができる。
第1の絶縁部302および第2の絶縁部303は、実施の形態1で説明した第1の絶縁部2および第2の絶縁部3の構成材料と同一の材料で構成することができる。第1の絶縁部302および第2の絶縁部303は、潤滑油および冷媒よりも比誘電率の小さい材料で構成されていることが望ましい。
固定子鉄心310の端面には、図13に示した凸部103および凹部104と同様の凸部および凹部が形成される。また、固定子鉄心310を構成する電磁鋼板の隙間には、図13に示した積層隙間102と同様の積層隙間が形成される。
実施の形態2の第2の絶縁部303は、固定子鉄心310のスロット313側の面(ティース312の側面312aおよび突出面312c、並びに、ヨーク部311の外周面311b)において、凹部を塞いでいる。
そのため、固定子鉄心310の巻線4が巻き付けられる部分(すなわちティース312)の積層隙間への潤滑油および冷媒の侵入を抑制することができ、漏洩電流を低減することができる。第2の絶縁部303の厚さは、固定子鉄心310を構成する電磁鋼板の板厚の1/4〜1/2の範囲内であることが望ましい。
なお、第2の絶縁部303は、ティース312の側面312aおよび突出面312c並びにヨーク部311の外周面311bのうち、少なくとも1つに形成されていれば、ティース312の積層隙間に潤滑油および冷媒が侵入しにくくなるという効果が得られる。
回転子305は、軸線C1を中心とする環状の回転子鉄心350と、回転子鉄心350の内周に沿って配置された複数の永久磁石351とを有する。永久磁石351の数は、ここでは6であるが、6に限定されるものではない。回転子305は、図示しないハブを介してシャフト355に固定されており、軸線C1は当該シャフト355の回転中心である。
電動機300は、例えば、実施の形態1で説明した駆動回路201(図18)によって駆動することができる。
固定子301の製造方法は、次の通りである。すなわち、予めカシメ用の凹凸形状を形成した電磁鋼板を、固定子鉄心310の形状に1枚ずつ打ち抜く。続いて、複数の電磁鋼板を積層し、カシメ部で互いに固定して固定子鉄心310を得る。次に、固定子鉄心310のスロット313側の面に、第2の絶縁部303を形成する。さらに、第2の絶縁部303を覆うように、第1の絶縁部302を組み付けるかまたは一体に成形する。その後、固定子鉄心310のティース312に、第1の絶縁部302を介して巻線4を巻き付ける。これにより、固定子301が得られる。
この実施の形態3では、アウタロータ型の電動機300において、固定子鉄心310のスロット313の内部に第1の絶縁部302が設けられ、固定子鉄心310と第1の絶縁部302との間に第2の絶縁部303が設けられ、この第2の絶縁部303が積層隙間のスロット313側を塞いでいる。そのため、スロット313を流れる潤滑油および冷媒の積層隙間への侵入を低減することができる。これにより、漏洩電流を低減し、電動機効率を向上することができる。
なお、実施の形態2で説明したように、第1の絶縁部302と第2の絶縁部303とを一体に形成してもよい。また、第2の絶縁部303は、図19に示したように、固定子鉄心310の積層隙間に入り込んでいてもよい。
<圧縮機>
次に、各実施の形態の電動機100が適用可能な圧縮機(ロータリ圧縮機)500について説明する。図22は、圧縮機500の構成を示す断面図である。圧縮機500は、密閉容器507と、密閉容器507内に配設された圧縮要素501と、圧縮要素501を駆動する電動機100とを備えている。電動機100は、実施の形態1で説明した電動機100(図1)であるが、実施の形態2または3で説明した電動機であってもよい。
圧縮要素501は、シリンダ室503を有するシリンダ502と、電動機100によって回転するシャフト55と、シャフト55に固定されたローリングピストン504と、シリンダ室503内を吸入側と圧縮側に分けるベーン(図示せず)と、シャフト55が挿入されてシリンダ室503の軸方向端面を閉鎖する上部フレーム505および下部フレーム506とを有する。上部フレーム505および下部フレーム506には、上部吐出マフラ508および下部吐出マフラ509がそれぞれ装着されている。
密閉容器507は、例えば厚さ3mmの鋼板を絞り加工して形成された円筒状の容器である。密閉容器507の底部には、圧縮要素501の各摺動部を潤滑する潤滑剤としての冷凍機油(図示せず)が貯留されている。シャフト55は、軸受部としての上部フレーム505および下部フレーム506によって回転可能に保持されている。
シリンダ502は、内部にシリンダ室503を備えており、ローリングピストン504は、シリンダ室503内で偏心回転する。シャフト55は偏心軸部を有し、その偏心軸部にローリングピストン504が嵌合している。
密閉容器507は、円筒状のフレーム7を有する。電動機100の固定子1は、焼き嵌め、圧入または溶接等の方法により、フレーム7の内側に組み込まれている。固定子1の巻線4には、密閉容器507に固定されたガラス端子511から電力が供給される。シャフト55は、回転子5の回転子鉄心50(図1)の中央に形成された中心孔54に固定されている。
密閉容器507の外部には、冷媒ガスを貯蔵するアキュムレータ510が取り付けられている。密閉容器507には吸入パイプ513が固定され、この吸入パイプ513を介してアキュムレータ510からシリンダ502に冷媒ガスが供給される。また、密閉容器507の上部には、冷媒を外部に吐出する吐出パイプ512が設けられている。
冷媒としては、例えば、R410A、R407CまたはR22等を用いることができる。また、地球温暖化防止の観点からは、低GWP(地球温暖化係数)の冷媒を用いることが望ましい。
圧縮機500の動作は、以下の通りである。アキュムレータ510から供給された冷媒ガスは、吸入パイプ513を通ってシリンダ502のシリンダ室503内に供給される。インバータの通電によって電動機100が駆動されて回転子5が回転すると、回転子5と共にシャフト55が回転する。そして、シャフト55に嵌合するローリングピストン504がシリンダ室503内で偏心回転し、シリンダ室503内で冷媒が圧縮される。シリンダ室503で圧縮された冷媒は、吐出マフラ508,509を通り、さらに固定子鉄心10のスロット13(図6)および切欠き19とフレーム7との間を通って、密閉容器507内を上昇する。密閉容器507内を上昇した冷媒は、吐出パイプ512から吐出され、冷凍サイクルの高圧側に供給される。
なお、シリンダ室503で圧縮された冷媒には冷凍機油が混入しているが、固定子鉄心10のスロット13(図6)等を通過する際に、冷媒と冷凍機油との分離が促進され、冷凍機油の吐出パイプ512への流入が防止される。
この圧縮機500の電動機100には、各実施の形態で説明した電動機が適用可能であり、洩電流の低減によって高い電動機効率と高い信頼性を有している。そのため、圧縮機500の運転効率および信頼性を向上することができる。
また、電動機100は、漏洩電流の低減により、高いキャリア周波数で駆動することができ、高速駆動が可能である。そのため、圧縮機500の回転数を増加させ、出力を向上することができる。
なお、各実施の形態で説明した電動機は、ロータリ圧縮機に限らず、他の種類の圧縮機にも利用することができる。
また、各実施の形態で説明した電動機は、圧縮機以外の装置に用いることができる。電動機が圧縮機以外の装置で用いられる場合であっても、固定子鉄心を構成する電磁鋼板の隙間に、例えば潤滑油(冷凍機油には限定されない)が侵入することを抑制することができる。
<空気調和装置>
次に、上述した圧縮機500を備えた空気調和装置600(冷凍空調装置)について説明する。図23は、空気調和装置600の構成を示す図である。図23に示した空気調和装置600は、圧縮機(ロータリ圧縮機)500と、四方弁601と、凝縮器602と、減圧装置(膨張器)603と、蒸発器604と、冷媒配管605と、制御部606とを備える。圧縮機500、凝縮器602、減圧装置603および蒸発器604は、冷媒配管605によって連結され、冷凍サイクルを構成している。
空気調和装置600の動作は、次の通りである。圧縮機500は、吸入した冷媒を圧縮して高温高圧のガス冷媒として送り出す。四方弁601は、冷媒の流れ方向を切り換えるものであるが、図23に示した状態では、圧縮機500から送り出された冷媒を凝縮器602に流す。凝縮器602は、圧縮機500から送り出された冷媒と空気(例えば、室外の空気)との熱交換を行い、冷媒を凝縮して液化させて送り出す。減圧装置603は、凝縮器602から送り出された液冷媒を膨張させて、低温低圧の液冷媒として送り出す。
蒸発器604は、減圧装置603から送り出された低温低圧の液冷媒と空気(例えば、室内の空気)との熱交換を行い、冷媒に空気の熱を奪わせて蒸発(気化)させ、ガス冷媒として送り出す。蒸発器604で熱が奪われた空気は、図示しない送風機により、対象空間(例えば室内)に供給される。なお、四方弁601および圧縮機500の動作は、制御部606によって制御される。
空気調和装置600の圧縮機500は、各実施の形態で説明した電動機が適用可能であり、漏洩電流の低減により高い運転効率と高い信頼性を有している。そのため、空気調和装置600の運転効率および信頼性を向上することができる。また、圧縮機500は、高回転数と高出力に対応可能であるため、空気調和装置600(図23)の冷房能力を向上し、快適性を高めることができる。
なお、空気調和装置600における圧縮機500以外の構成要素は、上述した構成例に限定されるものではない。
以上、本発明の望ましい実施の形態について具体的に説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良または変形を行なうことができる。
本発明の固定子は、軸線を中心とする周方向に延在するヨーク部と、ヨーク部から軸線に向かう方向または軸線から離間する方向に延在する複数のティースと、複数のティースのうち周方向に隣り合う2つのティースの間に形成されたスロットとを有する固定子鉄心であって、複数の積層要素が軸線の方向に積層され、複数の積層要素のうち軸線の方向に隣り合う2つの積層要素の間に隙間を有する固定子鉄心と、スロット内に設けられ、隙間のスロット側を塞ぎ、同一の材料で一体に形成された絶縁部と、絶縁部に巻き付けられた巻線とを備える。