実施の形態1.
図1は実施の形態1を示す図で、ロータリ圧縮機300の永久磁石電動機100の横断面図である。図1に示す永久磁石電動機100は、6極の集中巻ブラシレスDCモータである。永久磁石電動機100は、固定子12と回転子11とを備える。永久磁石電動機100を、以下、単にモータまたは電動機と呼ぶ場合もある。
図1の部分拡大図に示すように、固定子12と回転子11との間に、所定の径方向寸法の空隙60(エアーギャップともいう)が設けられる。固定子12と回転子11との間の空隙60は、例えば、径方向寸法が0.2〜2.0mm程度である。
固定子12の内周側には空隙60を介して回転子11が設けられる。回転子11の構成については、詳細は後述する。
固定子12は、後述するロータリ圧縮機300の密閉容器72(図10参照)の胴部72aの内周に嵌合している。固定子12と密閉容器72の胴部72aとの嵌合は、例えば、焼嵌により行われる。
固定子12と密閉容器72の胴部72aとの焼嵌を行う場合、胴部72aは、電磁誘導加熱で200℃程度に熱せられ、膨張した状態で固定子12に焼嵌される。胴部72aと固定子12との嵌め代(焼嵌代)は、固定子12の重量に合わせて、数十〜数百μmの範囲で適宜選択される。
焼嵌とは、常温で固定子12の外径よりも胴部72aの内径を小さく設定し、胴部72aに固定子12を嵌合する場合に、胴部72aを加熱して膨張させ、常温の固定子12の外径よりも胴部72aの内径を大きくして挿入し、固定子12が常温に戻ると、両者は固定されることをいう。また、嵌め代(焼嵌代)とは、常温での固定子12の外径と胴部72aの内径との差をいう(固定子12の外径>胴部72aの内径)。
図2は実施の形態1を示す図で、固定子12の横断面図である。固定子12は、略円筒状(ドーナッツ状)の固定子鉄心12aと、固定子鉄心12aの固定子スロット12b(9個のスロット、図3参照)にU相、V相、W相からなる三相の巻線20が備えられている。巻線20には、一般的に銅線の外周に絶縁被膜が施されたマグネットワイヤなどが用いられる。
尚、固定子スロット12bには、巻線20と固定子鉄心12aとの間に電気的絶縁を確保するために絶縁材12gが挿入される。
図2に示すように、巻線20は一つの固定子歯部12e(9個の固定子歯部、図3参照)に絶縁材12gを介して直接巻かれている。このような巻線方式は、一般的に集中巻と呼ばれている。
U相巻線、V相巻線及びW相巻線はY結線(星形結線、スター結線)で接続され、各々の巻線に三相電圧を印加することで永久磁石電動機100がトルクを発生する。ここではY結線について説明するが、Δ結線(三角結線)を用いても良い。
図3は実施の形態1を示す図で、固定子鉄心12aの横断面図である。固定子鉄心12aは、板厚が0.1〜1.5mm程度の電磁鋼板を所定の形状に打ち抜いた後、所定枚数軸方向に積層し、抜きカシメや溶接等により固定して製作される。
図3に示すように、固定子鉄心12aには、内周縁に沿って固定子スロット12bが形成されている。9個の固定子スロット12bは、周方向にほぼ等間隔に配置される。図3の例では、固定子スロット12bはすべて同じ形状であるが、一部の大きさを変更した大小のスロット形状で構成しても良い。
隣り合う固定子スロット12bの間には、固定子鉄心12aの一部分である固定子歯部12eが形成されている。そのため固定子スロット12bと固定子歯部12eの数は同一であり、図3の例では、固定子12は、9個の固定子スロット12bと、9個の固定子歯部12eとを備える。
固定子スロット12bは、半径方向に延在している。固定子スロット12bは、内周縁に開口している。この開口部をスロット開口部12dと言う。
図3に示すように、固定子鉄心12aの外周面(固定子歯部12eの外周側)には、固定子切欠12cが9ヶ所設けられている。但し、これは一例であり、固定子切欠12cの数は任意でよい。
また、固定子鉄心12aにおいて、固定子スロット12bの外側の鉄心部を、一般的にコアバック12fと呼ぶ。固定子切欠12cが形成された部分のコアバック12fの磁路断面積は、外周が円弧形状の部分の磁路断面積よりも小さくなる。そのため、通常、固定子歯部12eの外周側(径方向の延長線上)に固定子切欠12cを設ける。固定子スロット12bの外側のコアバック12fに固定子切欠12cを設けると、固定子切欠12c部分のコアバック12fの磁路断面積が固定子切欠12cの分小さくなる。
冷凍サイクルに用いられる密閉型圧縮機の一例であるロータリ圧縮機300(後述する)に、永久磁石電動機100を搭載する場合、固定子12はロータリ圧縮機300の円筒状の密閉容器72の胴部72aの内周に焼き嵌めされる。ロータリ圧縮機300の内部では、冷媒ガス(冷凍機油を含む)が永久磁石電動機100を通過する。そのため、永久磁石電動機100には、冷媒ガスの通路が必要となる。
図4は実施の形態1を示す図で、回転子11の横断面図である。固定子12の内周側に空隙60を介して設けられる回転子11は、回転子鉄心11a、永久磁石13a(6個の永久磁石13aで6極の回転子11を構成する)及び回転軸90を備える。永久磁石13aは、後述するように回転子鉄心11aの内部に埋め込まれる。
永久磁石13aは、ネオジム(元素記号:Nd)、鉄(元素記号:Fe)、ボロン(元素記号:B)を主成分とした希土類永久磁石であり、保磁力を高めるために、ディスプロシウム(元素記号:Dy)が含有されている。尚、別の表現をすると、永久磁石13aは、ネオジム、鉄、ボロン及びディスプロシウムを含む希土類永久磁石である。
回転子鉄心11aの磁石挿入孔11f(図5参照)に永久磁石13aを挿入した後、回転子鉄心11aの積層方向両端部に端板(図示せず)を配置し、挿入孔にリベット(図示せず)を挿入して回転子11が製作される。
図5は実施の形態1を示す図で、回転子鉄心11aの横断面図、図6は図5の部分拡大図である。図5に示すように、回転子鉄心11aは、固定子鉄心12aと同様に板厚が0.1〜1.5mmの電磁鋼板を所定の形状に打ち抜き、軸方向に積層し、抜きカシメや接着等により固定して製作される。一般的には、固定子鉄心12aの内側(内周側)の部分の電磁鋼板を利用することが多い。
一般的に回転子鉄心11aは、固定子鉄心12aと同一の材料から打ち抜くことが多いが、回転子鉄心11aの材料を固定子鉄心12aの材料と異なるようにしても構わない。例えば、回転子鉄心11aの板厚を0.5mm、固定子鉄心12aの板厚を0.35mmにすることで鉄損を低減させた高効率な永久磁石電動機100を得ることができる。
回転子鉄心11aには、6個の磁石挿入孔11fが設けられ、磁石挿入孔11fには平板状の6枚の永久磁石13aが挿入され、6極の回転子11を構成している。また、回転子鉄心11aの略中心部に回転軸90が嵌合する軸孔11gが形成されている。
図6に示すように、磁石挿入孔11fは、回転子鉄心11aの外周縁の近傍に外周縁に沿うように、周方向に長く形成されている。磁石挿入孔11fの中央部は、永久磁石13aが挿入される磁石挿入部11f−1になっている。磁石挿入部11f−1の両端は、永久磁石13aが挿入された状態でも一部が空間として残る漏れ磁束抑制孔11f−2になっている。漏れ磁束抑制孔11f−2は、永久磁石13aの周方向端部における磁束の漏れを抑制する。
図5、6に示すように、回転子鉄心11aには、磁石挿入孔11fの外周側に存在する鉄心部に、複数のスリット40が設けられている。磁極中心線の両側に、例えば、複数のスリット40が対称に合計7本設けられる。但し、その中の1本は、磁極中心線上にある。
スリット40は、磁石挿入孔11fの外周側の鉄心部の磁束分布を滑らかにするもので、例えば、永久磁石13aの磁極中心線の延長線上の一点に集中するように、回転子鉄心11aの内周側から外周側に向かって延びるように形成される。
但し、スリット40の延びる方向は、磁極中心に向かって延びなくてもよい。例えば、永久磁石13aの磁化方向に沿って平行に(磁石挿入孔11fに対して直角方向に)向かうようなものでもよい。さらに、スリット40の形状は、図5、図6の例では、断面が略四角形であるが、この形状に限定されるものではない。回転子鉄心11aの内周側から外周側に向かって延びて形成されるものであれば、楕円、台形等どのような形状でもよい。また磁極中心線の両側に対称にスリット40を設けたが、非対称に設けてもよい。
複数のスリット40を配置することにより、回転子鉄心11aの外周部の磁束分布を滑らかにすることができ、固定子12の巻線20に誘起される電圧の高調波成分を低減することができる。
巻線20に三相正弦波交流電圧を印加して駆動する場合、永久磁石電動機100のトルクとして有効に寄与するのは、固定子12の巻線20に誘起される電圧の基本波成分のみであり、高調波成分はトルク脈動(トルクリプル)となる。
このトルクリプルは電動機の振動及び騒音を増大させる要因となるが、複数のスリット40を配置することで、振動や騒音の少ない永久磁石電動機100を得ることができる。またこの永久磁石電動機100をロータリ圧縮機300に搭載することで、低振動・低騒音なロータリ圧縮機300を得ることができる。
固定子12の巻線20に大きな反磁界電流が流れると、永久磁石13aは不可逆減磁(以下、減磁)を引き起こし、永久磁石13aの磁力(磁束量)が低下することで、電動機の効率が低くなる課題がある。また、反磁界電流による減磁は、永久磁石13aの固定子12に近い側の表面、特に円周方向端部の角部近傍から、徐々に減磁していく傾向にある。
固定子12の反磁界の磁束は、磁気抵抗の低い鉄心部を通過するため、スリット40が存在しない場合はもちろんのこと、スリット40の幅方向寸法(周方向)が小さい場合でも、永久磁石13aの円周方向端部が減磁する可能性がある。
図7乃至図9は実施の形態1を示す図で、図7は減磁特性を示す図で、反磁界電流に対する磁束量特性図、図8は減磁特性を示す図で、反磁界電流に対する磁束量特性図、図9は減磁特性を示す図で、ディスプロシウム(Dy)含有率に対する磁石温度特性図である。
永久磁石13aの減磁特性に関して、図7乃至図9を用いて説明する。ここで永久磁石13aは前述の通り、ネオジム、鉄、ボロンを主成分とした希土類永久磁石であり、また保磁力を高めるためにディスプロシウム(Dy)が添加されている。
図7に示すように、例えば、磁石温度T1において、永久磁石13aに反磁界電流を与えた場合、反磁界電流が低い場合は、永久磁石13aの磁束量は低減することはないが、所定の反磁界電流が流れると磁束量は低減し、さらにそれ以上の反磁界電流を与えると、磁束量は急激に低下する傾向がある。
磁石温度をT2、T3においてもT1と同様の傾向が見られるが、磁束量低減が開始する反磁界電流が変化する。ここでそれぞれの温度は、T1<T2<T3の関係であり、磁石温度が高くなると、磁束量低減が開始する反磁界電流が低くなる。すなわち、図7に示すように、磁石温度が低くなると、所定磁束量となる反磁界電流が高くなることがわかる。
つまり、同一の反磁界電流においては、磁石温度が低くなれば減磁しにくく、磁石温度が高くなれば減磁しやすいことを示している。
また、図8は磁石温度一定条件におけるDy含有率を変化させた場合の減磁特性を示しており、Dy含有率7%の永久磁石はDy含有率3%の場合と比較すると、磁束量低減が開始する反磁界電流が高くなる。すなわちDy含有率が高くなると減磁しにくく、Dy含有率が低くなると減磁しやすくなることを示している。
図7および図8の特性図から、同一反磁界電流で所定磁束量(所定減磁率)特性となるDy含有率に対する磁石温度特性を図9に示す。Dy含有率を高くすることで永久磁石13aの温度を高くすることができる。すなわち、Dy含有率が低くなると永久磁石13aの温度を低くする必要があることを示している。
図9に示すように、Dy含有率が4%より高い永久磁石を用いた場合、Dy含有率を高くしても永久磁石の温度は余り高くすることはできない。つまり、Dy含有率に対する磁石温度特性が大きく変わらないことを示している。
一方、Dy含有率が4%以下の永久磁石を用いた場合、Dy含有率の変化に対して、所定磁束量となる磁石温度特性が急峻に変化することがわかる。つまりDy含有率の永久磁石を使用するためには、磁石温度をより低くする必要がある。
図10は実施の形態1を示す図で、ロータリ圧縮機300の縦断面図で、図1のA−O−B断面図である。
図10を参照しながら、ロータリ圧縮機300の構成を説明する。図10に示すように、ロータリ圧縮機300は密閉容器72内に、圧縮要素200と電動要素である永久磁石電動機100と図示しない冷凍機油とを収納している。冷凍機油は、密閉容器72内の底部に貯留している。冷凍機油は主に圧縮要素200の摺動部を潤滑する。密閉容器72は上皿容器72bと胴部72aとから構成される。
圧縮要素200は、シリンダ79、上軸受74(軸受の一例)、下軸受75(軸受の一例)、回転軸90、ローリングピストン77、吐出マフラ76、ベーン(図示せず)などで構成される。
内部に圧縮室が形成されるシリンダ79は、外周が平面視略円形で、内部に平面視略円形の空間であるシリンダ室を備える。シリンダ室は、軸方向両端が開口している。シリンダ79は、側面視で所定の軸方向の高さを持つ。
シリンダ79の略円形の空間であるシリンダ室に連通し、半径方向に延びる平行なベーン溝(図示せず)が軸方向に貫通して設けられる。
また、ベーン溝の背面(外側)にベーン溝に連通する平面視略円形の空間である背圧室(図示せず)が設けられる。
吸入管71からの吸入ガスが通る吸入ポートが、シリンダ79の外周面からシリンダ室に貫通している。
シリンダ79には、略円形の空間であるシリンダ室を形成する円の縁部付近を切り欠いた吐出ポート(図示せず)が設けられる。
ローリングピストン77が、シリンダ室内を偏心回転する。ローリングピストン77はリング状で、ローリングピストン77の内周が回転軸90の偏心軸部90aに摺動自在に嵌合する。
ベーンがシリンダ79のベーン溝内に収納され、背圧室に設けられるベーンスプリング(図示せず)で、ベーンが常にローリングピストン77に押し付けられている。ロータリ圧縮機300は、密閉容器72内が高圧であるから、運転を開始するとベーンの背面(背圧室側)に密閉容器72内の高圧とシリンダ室の圧力との差圧による力が作用するので、ベーンスプリングは主にロータリ圧縮機300の起動時(密閉容器内とシリンダ室の圧力に差がない状態)に、ベーンをローリングピストン77に押し付ける目的で使用される。
ベーンの形状は、平たい(周方向の厚さが、径方向及び軸方向の長さよりも小さい)略直方体である。
上軸受74は、回転軸90の主軸部90b(偏心軸部90aより上の部分)に摺動自在に嵌合するとともに、シリンダ79のシリンダ室(ベーン溝も含む)の一方の端面(永久磁石電動機100側)を閉塞する。
上軸受74に、吐出弁(図示せず)が取り付けられる。上軸受74は、側面視略逆T字状である。
下軸受75が、回転軸90の副軸部90c(偏心軸部90aより下の部分)に摺動自在に嵌合するとともに、シリンダ79のシリンダ室(ベーン溝も含む)の他方の端面(冷凍機油側)を閉塞する。下軸受75は、側面視略T字状である。
上軸受74には、その外側(永久磁石電動機100側)に吐出マフラ76が取り付けられる。上軸受74の吐出弁(図示せず)から吐出される高温・高圧の冷媒ガスは、一端吐出マフラ76に入り、その後吐出マフラ76の吐出穴から密閉容器72内に放出される。
密閉容器72の横に、冷凍サイクルからの低圧の冷媒ガスを吸入し、液冷媒が戻る場合に液冷媒が直接シリンダ79のシリンダ室に吸入されるのを抑制する吸入マフラ78が設けられる。吸入マフラ78は、シリンダ79の吸入ポートに吸入管71を介して接続される。吸入マフラ78は、溶接等により密閉容器72の側面に固定される。
図11は実施の形態1を示す図で、遮蔽板80の横断面図である。
吐出マフラ76と永久磁石電動機100の間に、遮蔽板穴80a(図11に示す)が設けられた遮蔽板80が設けられる。遮蔽板80は、略円板形状である。圧縮要素200で圧縮された高温・高圧の冷媒ガスは、吐出マフラ76の吐出穴から吐出され、遮蔽板80の遮蔽板穴80aから、永久磁石電動機100の固定子切欠12cを通過して、吐出管70から外部の冷媒回路へ吐出される。
遮蔽板80の遮蔽板穴80aは、外周縁部に周方向に略等間隔に9個設けられる。遮蔽板80の遮蔽板穴80aは、固定子鉄心12aの外周面に設けられる9ヶ所の固定子切欠12cに対応している。
つまり、圧縮要素200で圧縮された高温・高圧の冷媒ガスを固定子切欠12cに通過させ、回転子11への冷媒ガス通過を抑制するように遮蔽板穴80aを備えた遮蔽板80を設ける。
遮蔽板80を設け、高温・高圧の冷媒ガスを固定子12の外周に通過させることで、回転子11が高温になるのを抑制することができる。つまり、回転子11に備えられた永久磁石13aの温度を低くすることが可能となる。
前述の通り、永久磁石13aの温度が低くすることで、反磁界電流に対する減磁特性を良好にすることができ、減磁耐力を改善させたロータリ圧縮機300を得ることができる。
また同一の反磁界電流であれば、Dy含有率を低減させることができ、Dy使用量の低い安価な永久磁石13aを使用することができ、安価なロータリ圧縮機300を得ることができる。
また、Dy使用量の低い永久磁石13aは一般的に残留磁束密度が高くなるため、ロータリ圧縮機300の動作時に、巻線20に流れる電流を低くすることができ、高効率な永久磁石電動機100およびロータリ圧縮機300を得ることができる。
特に本実施の形態に示すロータリ圧縮機300においては、遮蔽板80により永久磁石13aの温度を低くすることができ、Dy含有率(重量比率)が4%以下の永久磁石13aを使用することができる。そのため、更に安価で、かつ高効率な永久磁石電動機100およびロータリ圧縮機300が得られる。
遮蔽板穴80aと固定子切欠12cの数を同数とし、且つ位置(位相)を一致させることで、高温・高圧の冷媒ガスをより固定子切欠12cに通過させることが可能となり、より一層の効果を奏する。
圧縮要素200で圧縮された高温・高圧の冷媒ガス中には冷凍機油が含まれているが、冷媒ガスと共に冷凍機油がロータリ圧縮機300の外部に持ち出されると、圧縮要素200の潤滑不良を起こす課題がある。しかし、吐出マフラ76の上方に遮蔽板80を設けることで、冷凍機油が遮蔽板80の下部に付着させることができ、信頼性の高いロータリ圧縮機300を得ることができる。
更に固定子12の上方に、略ドーナツ形状の油遮蔽板84を設ける。遮蔽板80を設けても冷凍機油が冷媒ガスに含まれることがあるが、略ドーナツ形状の油遮蔽板84を固定子12の上方に設けることで、冷媒ガスに含まれる粘性の高い冷凍機油のみを油遮蔽板84に付着させ、冷媒ガスのみを吐出管70より吐出させるようにすることで、更に信頼性の高いロータリ圧縮機300を得ることができる。
図11では、遮蔽板穴80aの形状を長穴形状としたが、丸穴形状、台形等の他の形状に構成してもよい。また9個の固定子切欠12cに合わせて9個の遮蔽板穴80aを設けたが、固定子切欠12cと位置が一致していれば、遮蔽板穴80aの個数は、その限りではない。
図12乃至図14は実施の形態1を示す図で、図12は一極当たりの永久磁石の構成図であり、永久磁石13bおよび13cに分割した永久磁石13b、13cの斜視図、図13は一極当たりの永久磁石の構成図であり、永久磁石13dおよび13eに分割した永久磁石13d、13eの斜視図、図14は一極当たりの永久磁石の構成図であり、永久磁石13f、13g、13h、13jに分割した永久磁石13f、13g、13h、13jの斜視図である。
一般的に、永久磁石電動機100は、図19に示す駆動回路であるインバータによって運転される。またインバータは、PWM(Pulse Width Modulation)制御により永久磁石電動機100に印加する電圧および周波数を制御する。
PWM制御を行うことで永久磁石電動機100の回転子11に設けられる永久磁石は導体であるため、渦電流が流れ、渦電流損を発生し、永久磁石の温度が上昇する。
本実施の形態では、図12乃至図14に示すように一極当たりの永久磁石を分割することにより、永久磁石の電気伝導率を低く(抵抗率を高く)することで流れる渦電流を抑制し、永久磁石の温度を低くすることができる。
図12に示す例は、一極当たりの永久磁石を周方向に二分割し、一極当たりの永久磁石を、永久磁石13bと永久磁石13cとに分割している。
図13に示す例は、一極当たりの永久磁石を軸方向に二分割し、一極当たりの永久磁石を、永久磁石13dと永久磁石13eとに分割している。
図14に示す例は、一極当たりの永久磁石を周方向及び軸方向に四分割し、一極当たりの永久磁石を、永久磁石13fと永久磁石13gと永久磁石13hと永久磁石13iとに分割している。
磁石温度を低くすることで、Dy含有率の低い永久磁石を使用することができ、安価で高効率な永久磁石電動機100およびロータリ圧縮機300を得ることができる。
また、永久磁石の表面に断熱性の高い樹脂などでコーティングすることで、回転子鉄心11aの熱が永久磁石に伝達しにくくなり、永久磁石の温度上昇を抑制することができ、安価で高効率なロータリ圧縮機300を得ることができる。
図15は実施の形態1を示す図で、変形例1のロータリ圧縮機301の縦断面図である。図15を用いて、密閉型圧縮機の別の一例について説明する。図15に示す変形例1のロータリ圧縮機301は、図10で示したロータリ圧縮機300の遮蔽板80(略水平)に対して、内周側より外周側が高い、傾斜を設けた遮蔽板81を備えたものである。
遮蔽板81に、内周側より外周側が高い傾斜を設けることにより、吐出マフラ76から吐出された高温・高圧の冷媒ガスの流れがスムーズになり、圧力損失を低減させた高効率なロータリ圧縮機301を得ることができる。
図16は実施の形態1を示す図で、変形例2のロータリ圧縮機302の縦断面図である。図16に示す変形例2のロータリ圧縮機302は、内周側より外周側が低くなるように傾斜を設けた遮蔽板82を備えたものである。
内周側より外周側が低くなるように傾斜を設けた遮蔽板82を設けることで、遮蔽板82の上面に溜まった冷凍機油が、ロータリ圧縮機302が停止した後、すなわち回転子11の回転が停止した後、遮蔽板82の外周側に設けた遮蔽板穴82aを通過して下面に落ちるため、冷凍機油が不足することがなくなり、信頼性の高いロータリ圧縮機302を得ることができる。
図17は実施の形態1を示す図で、変形例3のロータリ圧縮機303の縦断面図である。変形例3のロータリ圧縮機303は、図10で示したロータリ圧縮機300の遮蔽板80の遮蔽板穴80aにパイプ83を通し、そのパイプ83を固定子切欠12cにかかる(届く)長さに設定したものである。
遮蔽板穴80aと固定子切欠12cをパイプ83で直結することで、圧縮要素200で圧縮された高温・高圧の冷媒ガスがより固定子切欠12cに通過しやすくなるため、回転子11、すなわち永久磁石13aの温度を低くすることが可能となり、安価で高効率な永久磁石電動機100およびロータリ圧縮機303を得ることができる。
図18は実施の形態1を示す図で、変形例4のロータリ圧縮機304の縦断面図である。変形例4のロータリ圧縮機304は、回転子11に直結された回転遮蔽板85を圧縮要素200の側に設けることにより、冷媒ガスを固定子切欠12cに通過するようにしたものである。
回転子11に直結された回転遮蔽板85を設けることで、冷媒ガスに含まれる粘性の高い冷凍機油が吐出管70から吐出することを抑制することができ、信頼性の高いロータリ圧縮機304を得ることができる。
また、一般的にロータリ圧縮機は、一回転中に負荷脈動(回転ムラ)があるため、振動・騒音が大きくなる傾向がある。本実施の形態では、回転遮蔽板85を回転子11に直結させることで、回転子11のイナーシャが大きくなり、一回転中の回転ムラを抑制した低振動・低騒音なロータリ圧縮機304を得ることができる。
次に、永久磁石電動機100の駆動回路1について説明する。図19は実施の形態1を示す図で、永久磁石電動機100の駆動回路1の回路図である。外部に設けられた商用交流電源2から交流の電力が駆動回路1に供給される。商用交流電源2から供給される交流電圧は、整流回路3で直流電圧に変換される。整流回路3で変換された直流電圧は、インバータ主回路4で可変電圧および可変周波数の交流電圧に変換されて永久磁石電動機100に印加される。永久磁石電動機100はインバータ主回路4から供給される可変周波数の交流電力により駆動される。尚、整流回路3には商用交流電源2の電圧を整流するダイオードブリッジ、商用交流電源2から印加される電圧を昇圧するチョッパー回路や整流した直流電圧を平滑にする平滑コンデンサなどを有する。
インバータ主回路4は3相ブリッジのインバータ回路であり、インバータ主回路4のスイッチング部はインバータ主素子となるシリコンカーバイト(SiC)を用いた6つのIGBT6a〜6f(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)と、6つのフライホイルダイオード(FRD)としてSiCを用いたSiC−SBD7a〜7f(ショットキーバリアダイオード)を備えている。FRDであるSiC−SBD7a〜7fはIGBT6a〜6fが電流をONからOFFする時に生じる逆起電力を抑制する逆電流防止手段である。
なおここでは、SiCを用いたIGBT6a〜6fとSiC−SBD7a〜7fは同一リードフレーム上に各チップが実装されエポキシ樹脂でモールドされたICモジュールとする。IGBT6a〜6fはSiCを用いたIGBTに代えてGaN(窒化ガリウム)を用いたIGBTとしてもよく、またIGBTに代えてSiC、GaNを用いたMOSFET(Metal−Oxide−Semiconductor Field−Effect Transistor)などの他のスイッチング素子を使用してもよい。
整流回路3とインバータ主回路4の間には直列に接続された2つの分圧抵抗8a,8bが設けられており、この分圧抵抗8a,8bによる分圧回路にて高圧直流電圧を低圧化した電気信号をサンプリングし保持する直流電圧検出部8が設けられている。
永久磁石電動機100のU相巻線20a及びW相巻線20cに流れる電流を検出する電流検出素子30a,30cが設けられている。電流検出素子30a,30cは直流電流トランス(DCCT)や交流電流トランス(ACCT)などが用いられ、U相巻線20a、W相巻線20cに流れる電流の瞬時値を検出する。
回転子位置検出部10は、電流検出素子30a,30cの出力信号から永久磁石電動機100の回転子11の回転位置を演算し、回転子11の位置情報を出力電圧演算部9に出力する。尚、ここでは、永久磁石電動機100のU相巻線20a及びW相巻線20cの二相分の電流を検出したが、V相巻線20bの電流も加えた三相分の電流を検出しても良いし、他の組合せの二相分の電流を検出しても良い。
尚、回転子位置検出部10は、永久磁石電動機100の端子電圧を検出して、永久磁石電動機100の回転子11の位置を検出するようにしてもよい。
回転子位置検出部10が検出する回転子11の位置情報は、出力電圧演算部9に出力される。この出力電圧演算部9は、駆動回路1の外部から与えられる目標回転数Nの指令もしくは装置の運転条件の情報と回転子11の位置情報に基づいて、永久磁石電動機100に加えられるべき最適なインバータ主回路4の出力電圧を演算する。出力電圧演算部9はその演算した出力電圧をPWM信号生成部31に出力する。PWMは、Pulse Width Modulationの略語である。
PWM信号生成部31は、出力電圧演算部9から与えられた出力電圧となるようなPWM信号をインバータ主回路4のそれぞれのIGBT6a〜6fを駆動する主素子駆動回路4aに出力し、インバータ主回路4のIGBT6a〜6fはそれぞれ主素子駆動回路4aによってスイッチングされる。
ここで固定子12の反磁界を抑制する制御方法について説明する。固定子12の反磁界は誤って巻線20(U相巻線20a、V相巻線20b及びW相巻線20c)に大電流が流れることによって発生する。
本実施の形態では、巻線20に流れる電流の瞬時値を検出しており、検出した瞬時電流値が所定電流値より高くなった場合、出力電圧演算部9はPWM信号生成部31への出力を停止するように制御しているため、巻線20に大電流が流れることがなくなり、固定子12の反磁界による永久磁石13aの減磁を抑制することができ、信頼性の高い永久磁石電動機100を得ることができる。
ここでワイドバンドギャップ半導体について説明する。ワイドバンドギャップ半導体はSiよりもバンドギャップが大きい半導体の総称であって、IGBT6a〜6fおよびSiC−SBD7a〜7fに使用しているSiCはワイドバンドギャップ半導体の一つであり、その他には窒化ガリウム(GaN)、ダイヤモンドなどがある。さらにワイドバンドギャップ半導体、特にSiCはSiに比べて耐熱温度や絶縁破壊強度や熱伝導率が大きい。
SiCを用いたスイッチング素子は、簡単な構成で低損失のスイッチング素子が実現され、さらに高温での動作も可能である。そのため、高温となる電動機(もしくは電動機を含む機器)近くで使用することも可能となり、さらに冷却ファンなども不要、もしくは風量の少ないものや、放熱フィン(ヒートシンクなど)の小形化・軽量化も可能となる。
このようなSiC(ワイドバンドギャップ半導体)によって形成されたスイッチング素子やダイオード素子は、耐電圧性が高く、許容電流密度も高いため、スイッチング素子やダイオード素子の小型化が可能であり、これら小型化されたスイッチング素子やダイオード素子を用いることにより、これらの素子を組み込んだ半導体モジュールの小型化が可能となる。
また耐熱性も高いため、ヒートシンクの放熱フィンの小型化や、水冷部の空冷化が可能であるので、半導体モジュールの一層の小型化が可能になる。
更に電力損失が低いため、スイッチング素子やダイオード素子の高効率化が可能であり、延いては半導体モジュールの高効率化が可能になるものである。
スイッチング周波数を高周波にすることにより、インバータ主回路4で生成される交流電圧は、より正弦波に近い、高調波成分の少ない交流電圧を出力することができる。
永久磁石電動機100に印加される交流電力の高調波成分は、永久磁石電動機100のトルクリプルとなり、振動及び騒音が増加するだけでなく、高調波成分の電流によるモータ損失(銅損及び鉄損)も増加するため、効率が低くなる課題があった。
本実施の形態では、インバータ主回路4にSiCを用いることで、Siを用いたインバータ主回路に対してスイッチング周波数を高速にすることができ、振動及び騒音が低く、かつ高効率な永久磁石電動機100を得ることができる。
またスイッチング周波数を高周波にすることにより、永久磁石13aに発生する渦電流損が増加するため、永久磁石13aの温度が増加して、反磁界に対する減磁特性が悪化してしまう課題があった。
本実施の形態では、前述の通り、一極当たりの永久磁石を分割させることで、永久磁石の固有抵抗値を上げて、渦電流を抑制することができるため、スイッチング周波数を高周波にした場合でも、永久磁石の温度を低下させることが可能である。その結果、Dy含有率の低い永久磁石を用いた安価で高効率な密閉型圧縮機を得ることができる。