JP5318050B2 - 永久磁石型モータの駆動装置及び圧縮機 - Google Patents

永久磁石型モータの駆動装置及び圧縮機 Download PDF

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Description

この発明は、空調用の圧縮機などに用いられる永久磁石型モータの駆動装置及び圧縮機に関する。
エアコン等の圧縮機に用いられるモータには、省エネルギー性の観点からロータに永久磁石を用いた高効率な永久磁石型モータが多く用いられている。永久磁石型モータは、インバータを用いて、モータを低速から高速まで所定の回転速度に制御することで、必要な空調能力(冷房能力、暖房能力及び除湿能力)を得ている。
エアコンの動作としては、立ち上げ時の急速冷房時や急速暖房時には、高速回転で運転することで、室温を短時間で要求温度に到達させ、その後は、回転速度を下げて省エネルギー運転させる。エアコンの基本性能としては、消費電力量の低減と空調能力(冷房能力、暖房能力及び除湿能力)の向上が要求される。消費電力量を低減するためには、運転時間の長い低速回転のモータ・インバータ効率の改善が要求される。また、空調能力向上のためには、モータを高速回転まで運転できることが要求される。
永久磁石型モータ・インバータの効率を向上させる手法として、固定子巻線の巻数を増加する高巻数化が有効である。モータに発生するトルクは、巻線に流れる電流と巻数の積に比例するため、高巻数化することで、小さい電流で運転でき、電流に伴うインバータ損失が減少し、高効率運転ができる。その一方で、高速回転時においては、永久磁石の磁束の時間変化によって発生する誘起電圧が増加し、インバータで出力できる電圧の上限値を超えてしまい、運転できないという不具合が発生していた。
誘起電圧の大きさは固定子巻線の巻数に比例するため、固定子巻線の巻数を減らすことで、誘起電圧を低減し、誘起電圧をインバータで出力できる電圧の上限値以下とすることで、高速回転まで運転可能となる。しかし、巻線に流れる電流の増加により、インバータ損失が増加し、効率の低下を招いていた。
このように低速回転で効率のよい永久磁石型モータは高速回転まで運転できず、高速運転まで運転できる永久磁石型モータは、低速回転での効率を悪化させていた。そのため、従来は、上述したエアコンの消費電力量の低減と空調能力の向上を両立させることが困難であった。
この課題の解決のため、例えば、永久磁石型モータの巻数を増加する代わりに、出力電圧指令値が母線電圧を超え、インバータの電圧が不足する過変調時には、変調率を増加させてインバータの出力電圧を増加させることで、高速運転が可能なモータの制御方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
また、インバータにより巻線電流の位相を誘起電圧の位相よりも進ませることで、永久磁石の磁束量を等価的に低減した弱め界磁制御により、高速運転を可能としたブラシレスDCモータ駆動方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
また、固定子巻線の結線方式に着目し、スター結線はデルタ結線に比べて√3倍誘起電圧定数が大きいという特性を利用して、固定子巻線の結線切替装置を用いて、低速運転時ではスター結線に切替えて大きな誘起電圧定数で高効率運転し、高速運転時ではデルタ結線に切り替えることで誘起電圧の上昇を抑え、高速運転を可能とした電動機駆動方法が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
また、モータの巻線温度、回転子磁石温度、雰囲気温度の少なくとも1つの温度を検出する温度検出手段を備え、温度検出手段によって検出された温度検出値が所定値より小さい場合には予め設定された誘起電圧に対するモータ電流の位相差を大きくすることで、モータの過渡特性を向上できる電動機駆動装置が提案されている(例えば、特許文献4参照)。
また、圧縮機に用いる冷媒として、低GWP(GWP:CO2=1とした場合の地球温暖化係数)で、かつ安全性の高いR32冷媒、もしくはR32が50%を超え、吐出温度をR22よりも高いR32リッチ混合冷媒を用い、駆動源としてブラシレスDCモータを用いることで、高効率化及び圧縮機吐出温度上昇の抑制を達成した圧縮機が提案されている(例えば、特許文献5参照)。
特開2002−247876号公報 特許第3183356号公報 特開2006−246674号公報 特開2008−206323号公報 特開2001−115963号公報
しかしながら、インバータ出力電圧を上昇させる上記特許文献1や誘起電圧の位相に対して電流位相を進めて弱め界磁制御する上記特許文献2では、回転速度を大きくするのに限界があり、低速運転時での高効率化のため巻数をより多くした場合に、要求される最大回転数を満足できないという課題があった。
また、上記特許文献3では、低速運転時の効率改善とモータの高速運転化の点では効果が得られるが、巻線の結線を切り替えるための結線切替手段が必要になること、モータの端子を6本引き出す必要があることから、部品点数の増加や組立工程が複雑となり、コストが増加するという課題があった。
また、上記特許文献4では、モータの動作温度が低い場合のモータ過渡特性の改善には効果があるが、低速運転時及び高速運転の効率改善を両立できないという課題があった。
また、上記特許文献5では、圧縮機内部の温度上昇が大きくなり、永久磁石を熱減磁から保護するために、永久磁石の厚みを厚くする、もしくは、保磁力の高い永久磁石を用いるなどの対策を要し、モータのコストが増加するという課題があった。
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、低速運転時及び高速運転の効率改善を両立し、しかも低コストで温度上昇に対しても信頼性の高い永久磁石型モータの駆動装置及び圧縮機を提供する。
この発明に係る永久磁石型モータの駆動装置は、インバータを用いて可変速駆動され、回転子に永久磁石を使用する永久磁石型モータの駆動装置であって,
永久磁石型モータの駆動装置は、インバータ制御装置に、
誘起電圧定数を検出する誘起電圧定数検出部と、
誘起電圧定数に基づき永久磁石の温度を検出する永久磁石温度検出部と、
永久磁石温度検出部より得られた永久磁石の温度に基づき、過電流遮断レベルを選定する過電流遮断レベル選定部と、
過電流遮断レベル選定部で選定した過電流遮断レベルに基づき、電流異常を判定する過電流判定部と、を備え、
過電流判定部は、電流異常時に異常信号を出力し、インバータの動作を停止させることを特徴とする。
この発明に係る永久磁石型モータの駆動装置は、永久磁石型モータの低速運転時及び高速運転の効率改善を両立し、しかも低コストで温度上昇に対しても信頼性の高いという効果が得られる。
実施の形態1を示す図で、永久磁石型モータ3の駆動装置の一例を示す構成図。 実施の形態1を示す図で、永久磁石型モータ3の一例を示す横断面図。 実施の形態1を示す図で、ロータリ圧縮機200の縦断面図。 実施の形態1を示す図で、R410A冷媒を使用したときの回転速度に対する圧縮機内部の温度特性を示す図。 実施の形態1を示す図で、回転速度と無負荷時の誘起電圧の関係を示す図。 実施の形態1を示す図で、直流母線電圧280Vにおいて、トルクをパラメータとした場合の残留磁束密度Brの温度係数とモータ電流の関係を示す図。
実施の形態1.
図1は実施の形態1を示す図で、永久磁石型モータ3の駆動装置の一例を示す構成図である。
図1に示すように、永久磁石型モータ3の駆動装置100は、以下に示す要素を備える。尚、永久磁石型モータ3を、単にモータ、電動機と呼ぶ場合もある。
(1)図示しない商用電源の交流電圧を整流回路により直流電圧に変換された直流電源部1;
(2)直流電源部1の直流電圧を要求の周波数、電圧の交流電圧に変換するインバータ主回路2;
(3)永久磁石型モータ3(ブラシレスDCモータ);
(4)永久磁石型モータ3の回転軸に接続され、永久磁石型モータ3で駆動される圧縮要素4;
(5)永久磁石型モータ3と圧縮要素4より構成される圧縮機6;
(6)直流母線経路に挿入され、過電流保護及びモータ制御に用いられる母線電流検出部7;
(7)永久磁石型モータ3に流入する電流(二相)を検出する相電流検出部5;
(8)インバータ主回路2のスイッチング素子のオン・オフを制御し、PWM信号を発生させるインバータ制御装置15。
インバータ主回路2は、複数のスイッチング素子群と複数のダイオード群から構成される。即ち、U相上側スイッチング素子UP、V相上側スイッチング素子VP、W相上側スイッチング素子WP、U相下側スイッチング素子UN、V相下側スイッチング素子VN、W相下側スイッチング素子WNと、複数のスイッチング素子の夫々と並列に接続された複数の還流ダイオードとから成る。
インバータ主回路2は3相ブリッジのインバータ回路であり、インバータ主回路2のスイッチング部はインバータ主素子となる6つのIGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ、U相上側スイッチング素子UP、V相上側スイッチング素子VP、W相上側スイッチング素子WP、U相下側スイッチング素子UN、V相下側スイッチング素子VN、W相下側スイッチング素子WN)と、6つのフライホイルダイオード(FRD、還流ダイオード)としてシリコンカーバイド(SiC)を用いたSiC−SBD(ショットキーバリアダイオード)を備えている。FRDであるSiC−SBDはIGBTが電流をONからOFFする時に生じる逆起電力を抑制する逆電流防止手段である。
尚、ここでは、IGBTとSiC−SBDは同一リードフレーム上に各チップが実装されエポキシ樹脂でモールドされてパッケージされたICモジュールとする。IGBTはシリコンを用いたIGBT(Si−IGBT)に代えてSiC、GaN(窒化ガリウム)を用いたIGBTとしてもよく、またIGBTに代えてSiもしくはSiC、GaNを用いたMOSFET(Metal−Oxide−Semiconductor Field−Effect Transistor)などの他のスイッチング素子を使用してもよい。
ここでワイドバンドギャップ半導体について説明する。ワイドバンドギャップ半導体はSiよりもバンドギャップが大きい半導体の総称であって、SiC−SBDに使用しているSiCはワイドバンドギャップ半導体の一つであり、その他には窒化ガリウム(GaN)、ダイヤモンドなどがある。さらにワイドバンドギャップ半導体、特にSiCはSiに比べて耐熱温度や絶縁破壊強度や熱伝導率が大きい。尚、ここでは、SiCをインバータ回路のFRDに用いる構成としているが、SiCに代えてその他のワイドバンドギャップ半導体を用いてもよい。
SiCを用いたスイッチング素子は、簡単な構成で低損失のスイッチング素子が実現され、さらに高温での動作も可能である。そのため、高温となる電動機(もしくは電動機を含む機器)近くで使用することも可能となり、さらに冷却ファンなども不要、もしくは風量の少ないものや、放熱フィン(ヒートシンクなど)の小形化・軽量化も可能となる。
このようなSiC(ワイドバンドギャップ半導体)によって形成されたスイッチング素子やダイオード素子は、耐電圧性が高く、許容電流密度も高いため、スイッチング素子やダイオード素子の小型化が可能であり、これら小型化されたスイッチング素子やダイオード素子を用いることにより、これらの素子を組み込んだ半導体モジュールの小型化が可能となる。
また耐熱性も高いため、ヒートシンクの放熱フィンの小型化や、水冷部の空冷化が可能であるので、半導体モジュールの一層の小型化が可能になる。
更に電力損失が低いため、スイッチング素子やダイオード素子の高効率化が可能であり、延いては半導体モジュールの高効率化が可能になるものである。
スイッチング周波数を高周波にすることにより、インバータ主回路2で生成される交流電圧は、より正弦波に近い、高調波成分の少ない交流電圧を出力することができる。
直流電源部1により供給された直流電圧は、インバータ主回路2により三相の交流電圧に変換され、永久磁石型モータ3へ供給され、永久磁石型モータ3を回転動作させる。
インバータ制御装置15は、電流検出部8、誘起電圧定数検出部9、永久磁石温度検出部10、過電流遮断レベル選定部11、制御部12、PWM発生部13、過電流判定部14より構成される。
電流検出部8は、相電流検出部5により得られた二相の電流値より三相の電流値を求め、制御部12及び誘起電圧定数検出部9へ出力する。
誘起電圧定数検出部9は、電流検出部8により得られた電流情報、制御部12より得られた電圧指令値並びに制御部12より得られた角度推定誤差に基づいて、永久磁石型モータ3が回転駆動した際に発生する永久磁石の時間変化に伴う誘起電圧を演算し、誘起電圧定数(1000rpm(回転毎分(rotation per minute)当たりの誘起電圧値)として、制御部12及び永久磁石温度検出部10へ出力する。
上記誘起電圧については、特許文献4と同様の方法で演算できる。
また、誘起電圧定数は、制御部12より取得した回転数情報と上記演算で得られた誘起電圧より算出できる。回転数をN1[rpm]、取得した誘起電圧をE1とすると、回転数N1[rpm]における誘起電圧定数e1は、式(1)で表わされる。
e1=E1/N1×1000 (1)
永久磁石温度検出部10は、誘起電圧定数検出部9の信号を受け、永久磁石型モータ3の回転子に配置された永久磁石の温度t1を演算する。永久磁石の温度t1の演算は、予め設定した基準温度t0での誘起電圧定数e0と、誘起電圧定数検出部9で得られた誘起電圧定数e1と永久磁石の残留磁束密度の温度係数kより、式(2)で算出できる。
t1=t0+(((e1/e0)−1)×100)/k (2)
過電流遮断レベル選定部11は、永久磁石温度検出部10より得られた温度情報に基づき、永久磁石の減磁保護のための過電流遮断レベルを決定し、過電流遮断レベルを過電流判定部14へ出力する。
過電流遮断レベル選定部11における過電流遮断レベルを決定する方法として、予め実機で測定した永久磁石の温度に対する永久磁石の減磁限界電流特性と、インバータ主回路2のスイッチング素子の電流限界値とをデータベースとして過電流遮断レベル選定部11に保持しておき、永久磁石の減磁限界電流及びインバータ主回路2のスイッチング素子の電流限界値を越えない値を出力することで実現できる。
過電流遮断レベルについては、永久磁石の温度範囲に応じて、無段階に設けても、また、永久磁石の温度範囲に応じて多段階に設けてもよい。
過電流判定部14は、過電流遮断レベル選定部11に基づき決定された過電流遮断レベル選定値と母線電流検出部7より検出された電流値とに基づき、過電流遮断レベル選定値が母線電流検出部7より検出された電流値よりも上回った場合、異常電流と判定し、PWM発生部13及び制御部12に出力され、PWM発生部13及び制御部12の動作を停止させる。
また、過電流判定部14は、コンパレータを多段接続などのハードウェアで構成することで、より瞬時にインバータ(インバータ主回路2)を停止できる。この場合は、多段接続されたコンパレータの数に対応した過電流遮断レベルを段階的に選定できる。
また、マイコン(マイクロコンピュータ)やDSP(Digital Signal Processor)などのソフトウェアを用いて処理することで、過電流遮断レベルを永久磁石の温度に対応して無段階に選定できる。
また、制御部12は、誘起電圧定数検出部9より得られた誘起電圧定数e1に基づき、最大効率となるスイッチング信号を生成しPWM発生部13へ出力する。また、過電流判定部14より、電流異常信号を受けた場合は、動作を停止する。
PWM発生部13は、制御部12の波形信号に基づきインバータ主回路2のスイッチング素子のオン、オフ動作させる。また、過電流判定部14より、電流異常信号を受けた場合は、動作を停止する。
以上のように、永久磁石の温度を検出し、永久磁石の温度に応じて、過電流遮断レベルを選定するため、永久磁石型モータ3に希土類磁石を用いた場合、永久磁石の温度上昇による永久磁石の減磁を防止できる。特に、温度変化の大きい圧縮機6に用いた場合、圧縮機6の異常運転により、圧縮機6内が異常温度上昇した場合であっても確実にインバータ(インバータ主回路2)の動作を停止でき、永久磁石を減磁から保護することができる。
従来の過電流遮断レベルは、温度が最も上昇する条件を想定した1レベルのみであったが、多段階または無段階に過電流遮断レベルを設定できるようになり、保磁力の小さい磁石を用いて低コストな永久磁石型モータ3が得られる。
図2は実施の形態1を示す図で、永久磁石型モータ3の一例を示す横断面図である。図2を参照しながら、永久磁石型モータ3の構成を説明する。固定子20は、主に円筒状の固定子鉄心21と、コイル22とを備える。円筒状の固定子鉄心21は、厚さ0.2〜0.5mm程度の薄い電磁鋼板を一枚一枚打ち抜いて所定の枚数を積層することで構成されている。
固定子鉄心21には、周方向に略等間隔に配置され、内周面付近に軸方向に貫通する9個のスロット23が設けられる。スロット23の数(9個)は、一例であり、これに限定されない。
隣接するスロット23間に、磁極ティース部24が形成されている。磁極ティース部24は、外径側から内径側にかけて略平行の形状を有している。磁極ティース部24は、先端部(内径側)になるにつれ、両サイドが周方向に広がるような凸形状をなしている。磁極ティース部24も、スロット23と同数の9個である。磁極ティース部24に所定の巻数を直接巻き付けてなる三相Y結線の集中巻線が施されて、コイル22が形成される。
磁極ティース部24とコイル22との間の絶縁を確保するために、各磁極ティース部24には、絶縁部(図示せず)が施される。絶縁部は、例えば、PBT(ポリブチレンテレフタレート)等の熱可塑性樹脂を用いて、固定子鉄心21と一体に成形される。但し、別部品として絶縁部を成形後、磁極ティース部24に組付けてもよい。その場合は、絶縁部は結線側と反結線側とに分割され、それぞれを磁極ティース部24の軸方向両端部から挿入して絶縁部を構成する。
図示は省略しているが、三相Y結線に結線されたコイル22の3本の端末にリード線が接続され、リード線はインバータ(インバータ主回路2)の出力端子に接続される。インバータ(インバータ主回路2)からリード線を介してコイル22に三相電力が供給される。
固定子20に対して回転可能な回転軸36を固定子20の軸線上に配置し、回転軸36に、回転子30が軸長手方向に配置される。回転子30は、焼嵌などにより回転軸36に固定される。
回転子30と固定子20との間には、0.3〜1mm程度の空隙が設けられ、回転子30は回転軸36を中心に回転可能な構造となっている。
回転子30の回転子鉄心31は、固定子20と同様に厚さ0.2〜0.5mm程度の薄い電磁鋼板を一枚一枚打ち抜いて積層して構成される。
回転子鉄心31には、磁石挿入孔32が設けられ、その内部には、N極とS極とが交互になるように着磁された永久磁石33が配置される。
回転子鉄心31の長方形の磁石挿入孔32に、高保磁力を有する平板形状の希土類磁石(高保磁力磁石の一例)を挿入することで回転子30を形成している。代表的な希土類磁石としては、ネオジム(Nd)、ジスプロシウム(Dy)、鉄(Fe)、ホウ素(B)を主成分としたものが圧縮機用途としては一般的である。
ここで、保磁力とは、永久磁石の減磁耐力の指標を示すもので、数値が大きいほど逆磁界や熱に対して減磁耐力が大きいという特性を示す。例えば、高保磁力磁石とは、常温(20℃)での保磁力HCJが20kOe以上で温度係数−0.55[%/℃]程度のものをいう。また、温度係数とは、温度によって保磁力の特性が変化する度合いを示すものであり、Nd・Fe・B系希土類磁石の場合、永久磁石の温度が高くなるにしたがい保磁力が低下し、例えば、磁石温度が100℃上昇すると保磁力が55%低下することを意味する。
また、永久磁石の磁力の大きさを示す指標である残留磁束密度Brについては、Nd・Fe・B系希土類磁石の場合、常温(20℃)でのBrが1.3T以上で温度係数−0.12[%/℃]程度のものが圧縮機用途では多く用いられている。保磁力と同様に残留磁束密度についても温度依存特性を示し、温度が100℃上昇すると、残留磁束密度が12%低下することを意味する。
ここで、上記永久磁石型モータ3をロータリ圧縮機200(圧縮機の一例)に搭載した場合の構成について述べる。図3は実施の形態1を示す図で、ロータリ圧縮機200の縦断面図である。図3に示すロータリ圧縮機200は、2シリンダロータリ圧縮機である。
ロータリ圧縮機200は、密閉容器50内に永久磁石型モータ3(電動要素)と圧縮要素4とを備えている。図示はしないが、密閉容器50の底部に圧縮要素4の各摺動部を潤滑する冷凍機油が貯留している。
圧縮要素4は、以下に示す要素を備える。
(1)上下積層状態に設けられた上シリンダ41a、下シリンダ41b;
(2)永久磁石型モータ3により回転し回転角に対して互いに180°ずれた2つの偏心軸36a,36bを有する回転軸36;
(3)回転軸36の各々の偏心軸36a,36bに嵌挿されるピストン42a,42b;
(4)シリンダ(上シリンダ41a、下シリンダ41b)内を吸入側と圧縮側に分けるベーン(図示せず);
(5)回転軸36が回転自在に嵌挿され、上シリンダ41a及び下シリンダ41bの一方の軸方向端面を閉塞する上下一対の上部フレーム43a及び下部フレーム43b;
(6)上部フレーム43a及び下部フレーム43bに夫々装着された吐出マフラ44a及び44b;
(7)上シリンダ41a及び下シリンダ41bの他方の軸方向端面を閉塞し、上シリンダ41a、下シリンダ41bに挟まれる中間仕切り板45。
次に動作について説明する。冷媒ガスは吸入マフラ60を通過して密閉容器50に固定された吸入パイプ61a,61bより上シリンダ41a、下シリンダ41b内へ吸入される。インバータによって永久磁石型モータ3が回転すると、回転軸36の180°対称な偏心軸36a,36bに嵌合されたピストン42a,42bが上シリンダ41a、下シリンダ41b内を回転する。それにより、上シリンダ41a、下シリンダ41b内では180°位相がずれて冷媒ガスの圧縮が行われる。圧縮された冷媒ガスは上下の吐出マフラ44a,44bを経て、密閉容器50内へと吐出され、密閉容器50に設けられた吐出パイプ63を通って冷凍サイクルの高圧側へ供給される。
永久磁石型モータ3の固定子20は、密閉容器40に焼嵌または溶接等の方法により直接取り付けられ保持されている。固定子20のコイル22には、密閉容器40に固定されるガラス端子52から電力が供給される。
回転子30は、固定子20の内径側に設けた空隙を介して配置されており、回転子30の中心部の回転軸36を介してロータリ圧縮機200の下部に設けた圧縮要素4の軸受け部(上部フレーム43a及び下部フレーム43b)により回転自在な状態で保持されている。
尚、ロータリ圧縮機200の冷媒には、従来からR410A、R407C、R22等が用いられているが、低GWP(地球温暖化係数)の冷媒等などいかなる冷媒も適用できる。地球温暖化防止の観点からは、低GWP冷媒が望まれている。低GWP冷媒の代表例として、以下の冷媒がある。
(1)組成中に炭素の二重結合を有するハロゲン化炭化水素:例えば、HFO−1234yf(CF3CF=CH2)である。HFOは、Hydro−Fluoro−Olefinの略で、Olefinは、二重結合を一つ持つ不飽和炭化水素のことである。尚、HFO−1234yfのGWPは4である。
(2)組成中に炭素の二重結合を有する炭化水素:例えば、R1270(プロピレン)である。尚、GWPは3で、HFO−1234yfより小さいが、可燃性はHFO−1234yfより大きい。
(3)組成中に炭素の二重結合を有するハロゲン化炭化水素または組成中に炭素の二重結合を有する炭化水素の少なくともいずれかを含む混合物:例えば、HFO−1234yfとR32との混合物等である。HFO−1234yfは、低圧冷媒のため圧損が大きくなり、冷凍サイクル(特に、蒸発器において)の性能が低下しやすい。そのため、HFO−1234yfより高圧冷媒であるR32又はR41等との混合物が実用上は有力になる。
上記低GWP冷媒の内、R32冷媒については、毒性がなく、強燃性でないことから、特に注目されている。また、圧縮機6にR32冷媒を用いた場合、従来から用いられているR410A、R407C、R22等と比べ、圧縮機6の内部温度が約20℃高くなるという特性を有す。
圧縮機6の内部の温度は、圧縮負荷状態(回転速度、圧縮負荷トルク、冷媒)によって異なり、温度が安定した定常状態においては、特に回転速度に対して依存性が高くなっている。図4は実施の形態1を示す図で、R410A冷媒を使用したときの回転速度に対する圧縮機内部の温度特性を示す図である。低速運転では、50〜60℃に対し、中速運転では70〜80℃、高速運転では90〜110℃となり、圧縮機6の回転速度が大きくなるにしたがい、圧縮機6の内部の温度が上昇するという特性を示す。R32冷媒を用いた場合は、R410A冷媒に対し、圧縮機6内の温度が更に20℃程度上昇することとなる。
上記環境下においては、吸入口(吸入パイプ61a,61b)より吸入された冷媒は圧縮されて密閉容器50内を通り、吐出パイプ63から外部の冷媒回路へ流れるため、圧縮機6の内部の温度は、モータ自体の発熱よりも、冷媒の温度に依存する。
周囲温度が一定の場合は、回転速度Nの上昇とともに誘起電圧Eは上昇し、回転速度Nと誘起電圧Eは比例関係にある。しかし、本実施の形態の場合、永久磁石型モータ3は、圧縮機6の内部に配置されていることと、永久磁石33の保磁力、残留磁束密度は、前述の通り、温度依存性が高いことから、上記圧縮機6内の温度変化により、高速運転時では冷媒による温度上昇が大きくなり、永久磁石33の保磁力の低下及び残留磁束密度が低下するという特性を有す。特に、圧縮機6内では回転速度Nと誘起電圧Eは比例せず、回転速度Nの上昇に伴い、誘起電圧Eの上昇する度合いが小さくなる。
インバータ主回路2が出力できる最大電圧Vmaxには限界があり、直流電源部1の容量やインバータ(インバータ主回路2)の容量で制約される。周囲温度一定条件では、回転速度Nと誘起電圧Eは比例するため、或る回転数N1でインバータ(インバータ主回路2)の出力できる限界電圧を超えてしまう。N1以上の回転速度で駆動する場合は、弱め界磁制御や過変調制御で駆動可能であるが、大きな電流が流れ損失が増加する。
また、永久磁石33の残留磁束密度の温度係数が一般的な−0.11[%/℃]の永久磁石型モータ3の場合は、回転速度Nの上昇に対して、誘起電圧Eの上昇度合いが若干小さくなるため、弱め界磁制御による電流増加が抑制できる。
図5は実施の形態1を示す図で、回転速度と無負荷時の誘起電圧の関係を示す図である。上記の特性を利用し、Nd・Fe・B系希土類永久磁石の常温(20℃)での保磁力HCJが20kOe以上で温度係数−0.55[%/℃]を確保しつつ、残留磁束密度Brの温度係数の絶対値を大きくすることで、永久磁石型モータ3が高速で駆動した場合、低速回転時に比べて永久磁石33の残留磁束密度をさらに低下させ、回転に伴う永久磁石33の磁束の時間変化によって発生する誘起電圧定数(1000rpm当たりの誘起電圧値[V/krpm])を小さくすることができる(図5)。
残留磁束密度の温度係数の絶対値には、適正値があり、小さすぎた場合、低速側では高効率運転が可能であるが、高速運転時において十分な誘起電圧定数の低下が得られず、電流が増加し回路損失及び銅損の低減効果が得られない。また、残留磁束密度の温度係数の絶対値が大きすぎた場合は、誘起電圧定数の低下(永久磁石の磁力の低下)が大きくなりすぎ、必要なトルクを得るための電流が増加する。さらには、必要なトルクが得られず、脱調に至る。
図6は実施の形態1を示す図で、直流母線電圧280Vにおいて、トルクをパラメータとした場合の残留磁束密度Brの温度係数とモータ電流の関係を示す図である。図中、T1〜T4はトルクを示しており、T1<T2<T3<T4の関係となっている。本結果より、残留磁束密度Brの温度係数を−0.6〜−0.2とすることで、電流が低減できることがわかる。また、トルクが小さいほど残留磁束密度の温度係数を大きくすることで、より大きな電流低減の効果が得られる。
以上のように、モータ磁束密度の温度係数の絶対値を0.2[%/℃]以上、0.6[%/℃]以下とすることで、高速運転時において、電流を低減でき、高効率運転が可能となる。
また、低速運転においては、磁束密度の温度係数の絶対値を0.2[%/℃]以上、0.6[%/℃]以下とすることで、十分な誘起電圧定数が確保でき、高効率運転が可能となる。
また、弱め界磁制御や過変調制御による電流の増加を抑制でき、インバータ損失及びコイルに発生する銅損を低減できる。
これにより、スター・デルタ結線切替や端子の増加を伴わずに、低コストで低速から高速まで高効率運転が可能となる。
なお、本実施の形態では、固定子20に集中巻線を施し、回転子鉄心31に平板形状の希土類磁石の永久磁石33を埋め込んだ永久磁石型モータ3を例に説明したが、これに限定するものではなく、例えば、巻線方式を分布巻としてもよく、また、永久磁石33を回転子鉄心31に埋め込まずに回転子鉄心表面に配置してもよく、また、希土類磁石以外にフェライト磁石を用いてもよい。
また、極数とスロット数についても6極9スロットに限定するものではなく、回転可能な組み合わせであれば任意に選定できる。
また、弱め界磁制御や過変調制御、または、スター・デルタ結線切替方式と組み合わせることにより、更なる巻数の増加して、低速運転時の効率を改善することができる。
1 直流電源部、2 インバータ主回路、3 永久磁石型モータ、4 圧縮要素、5 相電流検出部、6 圧縮機、7 母線電流検出部、8 電流検出部、9 誘起電圧定数検出部、10 永久磁石温度検出部、11 過電流遮断レベル選定部、12 制御部、13 PWM発生部、14 過電流判定部、15 インバータ制御装置、20 固定子、21 固定子鉄心、22 コイル、23 スロット、24 磁極ティース部、30 回転子、31 回転子鉄心、32 磁石挿入孔、33 永久磁石、36 回転軸、36a 偏心軸、36b 偏心軸、41a 上シリンダ、41b 下シリンダ、42a ピストン、42b ピストン、43a 上部フレーム、43b 下部フレーム、44a 吐出マフラ、44b 吐出マフラ、45 中間仕切り板、50 密閉容器、52 ガラス端子、60 吸入マフラ、61a 吸入パイプ、61b 吸入パイプ、63 吐出パイプ、100 駆動装置、200 ロータリ圧縮機。

Claims (3)

  1. 低速運転時に比べて高速運転時における内部の温度が高くなり、前記高速運転時における内部の温度が110〜130℃となる、R32冷媒を圧縮する圧縮機であって、回転子に20℃での保磁力が20kOe以上の希土類磁石を使用する永久磁石型モータが密閉容器内に設置された圧縮機の前記永久磁石型モータを、スイッチング動作により可変速駆動するインバータ回路と
    前記永久磁石型モータの誘起電圧定数を検出する誘起電圧定数検出部と、
    前記誘起電圧定数検出部により検出された誘起電圧定数に基づき前記希土類磁石の温度を検出する永久磁石温度検出部と、
    前記希土類磁石の温度範囲を複数段階に分けて段階ごとに設定された過電流遮断レベルの中から、前記永久磁石温度検出部より検出さた温度に対応する段階の過電流遮断レベルを選定する過電流遮断レベル選定部と、
    前記インバータ回路の電流が前記過電流遮断レベル選定部により選定された過電流遮断レベルを超えているかどうかを判定し、超えていると判定した場合に、前記インバータ回路スイッチング動作を停止させる過電流判定部と
    を備えたことを特徴とする永久磁石型モータの駆動装置。
  2. 前記インバータ回は、SiC(シリコンカーバイド)デバイスを使用してスイッチング動作を行うことを特徴とする請求項1記載の永久磁石型モータの駆動装置。
  3. 請求項1又は請求項2記載の永久磁石型モータの駆動装置により、搭載した前記永久磁石型モータが駆動されることを特徴とする圧縮機。
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