以下、本発明を、好ましい実施形態を用いて詳細に説明する。
本発明において「非相同末端結合」とはDNA二重鎖切断の末端同士が結合する機構を指し、例えば末端部位をKU70及びKU80の二量体が認識し、両末端をリガーゼであるDNL4及びLIF1複合体が結合させる機構の事を言う。
非相同末端結合に関わる遺伝子とは上記機構に関わるタンパク質の遺伝子であり、例えばKU70、KU80、DNL4又はLIF1の遺伝子が挙げられる。例えば、コマガタエラ・パストリスATCC76273株であれば、KU70遺伝子はACCESSION No. CCA39840で示されるポリペプチド(KU70)をコードする塩基配列、KU80遺伝子はACCESSION No. CCA40385で示されるポリペプチド(KU80)をコードする塩基配列、DNL4遺伝子はACCESSION No. CCA39424で示されるポリペプチド(DNL4)をコードする塩基配列で表される。
一態様において、本発明は、前記DNL4の遺伝子が以下の(a)〜(d)のいずれかの遺伝子:
(a)配列番号25に示す塩基配列を含む遺伝子、
(b)配列番号25に示す塩基配列に対して相補的な塩基配列からなる核酸にストリンジェントな条件でハイブリダイズする核酸の塩基配列を含む遺伝子、
(c)配列番号25に示す塩基配列と85%以上の配列同一性を有する塩基配列を含む遺伝子、
(d)配列番号24に示すアミノ酸配列と85%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列をコードする遺伝子である。
本発明において、2つの核酸がストリンジェントな条件下でハイブリダイズするとは、例えば以下の意味である。例えば、核酸Xを固定化したフィルターを用いて、0.7〜1.0MのNaCl存在下、65℃で配列同一性が85%以上の核酸Yとハイブリダイゼーションを行った後、2倍濃度のSSC溶液(1倍濃度のSSC溶液の組成は、150mM塩化ナトリウム、15mMクエン酸ナトリウムよりなる)を用い、65℃の条件下でフィルターを洗浄することにより、核酸Yがフィルター上に結合した核酸として取得できる場合に、核酸Yを「核酸Xにストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸」と言うことができ、或いは核酸Xと核酸Yとが「ストリンジェントな条件下で相互にハイブリダイズする」ということができる。SSC溶液の濃度を下げるほど、高い配列同一性を有する核酸がハイブリダイズすることが期待できることから、核酸Yは好ましくは65℃で1倍濃度のSSC溶液で洗浄、より好ましくは65℃で0.5倍濃度のSSC溶液で洗浄、より好ましくは65℃で0.2倍濃度のSSC溶液で洗浄、更に好ましくは65℃で0.1倍濃度のSSC溶液で前記フィルターを洗浄することによりフィルター上に結合した核酸として取得できる核酸である。また、温度を上げるほど高い配列同一性を有する核酸がハイブリダイズすることが期待できることから、核酸Yは好ましくは70℃で2倍濃度のSSC溶液で洗浄、より好ましくは75℃で2倍濃度のSSC溶液で洗浄、より好ましくは80℃で2倍濃度のSSC溶液で洗浄、更に好ましくは85℃で2倍濃度のSSC溶液で前記フィルターを洗浄することによりフィルター上に結合した核酸として取得できる核酸である。基準となる核酸Xは、コロニー又はプラーク由来の核酸Xであってよい。
本発明において塩基配列やアミノ酸配列の配列同一性は、当業者に周知の方法、配列解析ソフトウェア等を使用して求めることができる。例えば、BLASTアルゴリズムのblastnプログラムやblastpプログラム、FASTAアルゴリズムのfastaプログラムが挙げられる。本発明において、ある評価対象塩基配列の、塩基配列Xとの「配列同一性」とは、塩基配列Xと評価対象塩基配列とを整列(アラインメント)させ、必要に応じてギャップを導入して、両者の塩基一致度が最も高くなるようにしたときの、ギャップ部分も含んだ塩基配列において同一部位に同一の塩基が出現する頻度を%で表示した値である。本発明において、ある評価対象アミノ酸配列の、アミノ酸配列Xとの「配列同一性」とは、アミノ酸配列Xと評価対象アミノ酸配列とを整列(アラインメント)させ、必要に応じてギャップを導入して、両者のアミノ酸一致度が最も高くなるようにしたときの、ギャップ部分も含んだアミノ酸配列において同一部位に同一のアミノ酸が出現する頻度を%で表示した値である。
前記遺伝子と配列番号25に示す塩基配列との配列同一性は、85%以上であり、90%以上が好ましく、95%以上がより好ましく、96%以上がさらにより好ましく、97%以上が特に好ましく、98%以上、又は99%以上が最も好ましい。
本発明において「核酸」とは、「ポリヌクレオチド」と呼ぶこともでき、DNA又はRNAを指し、典型的にはDNAを指す。DNAは二本鎖であっても一本鎖であってもよく、所定の塩基配列を含むDNAは、前記所定の塩基配列を一方の鎖に含む二本鎖DNAであってもよいし、前記所定の塩基配列を含む一本鎖DNA(センス鎖)であってもよいし、前記所定の塩基配列の相補配列を含む一本鎖DNA(アンチセンス鎖)であってもよい。
本発明において「アミノ酸配列をコードする塩基配列」とは、アミノ酸配列からなるポリペプチドに対してコドン表に基づいて設計された塩基配列を指し、該塩基配列は、転写及び翻訳によってポリペプチドの生成をもたらす。
本発明において、「ポリペプチド」とは、2個以上のアミノ酸がペプチド結合したものを指し、タンパク質の他、ペプチドやオリゴペプチドと呼ばれる鎖長の短いものが含まれる。
本発明において「遺伝子」とは、特に言及しない限り、DNAや、その転写物であるmRNAを含み、典型的にはDNAであり、特に好ましくは、宿主の染色体に含まれるDNAである。遺伝子がmRNAである実施形態では、所定の塩基配列(配列番号25等)におけるT(チミン)はU(ウラシル)と読み替えて理解すればよい。本明細書で「遺伝子」とは、特に言及しない限り、調節領域、コード領域、エクソン、及びイントロンを区別することなく示すものとする。
本発明において「不活性化」とは、遺伝子の機能が失われている状態、または機能が減少している状態を指し、当該遺伝子の転写産物であるmRNAや翻訳産物であるポリペプチドの発現量が低下している状態やmRNAやタンパク質として正常に機能しない状態も包含する。なお、mRNAの発現量はリアルタイムPCR法、RNA-Seq法、ノーザンハイブリダイゼーション又はDNAアレイを利用したハイブリダイゼーション法等を用いて定量することができ、ポリペプチドの発現量は、ポリペプチドを認識する抗体やポリペプチドと結合性を有する染色化合物等を用いて定量することができる。また、上記に挙げた定量方法以外にも、当業者で用いられている従来法であってもよい。
遺伝子を不活性化させる手段としては、薬剤や紫外線を用いたDNA変異処理、PCRを用いた部分特異的変異導入、RNAi、プロテアーゼ、相同組み換え等を利用することができる。遺伝子を不活性化させる場合は、当該遺伝子のORF内の塩基配列の改変(欠失、置換、付加、挿入)、及び/又はプロモーター領域、エンハンサー領域、ターミネーター領域などの転写開始または停止を制御する領域内の塩基配列の改変(欠失、置換、付加、挿入)により行う。なお、前記欠失、置換、付加、挿入を行う部位や、欠失、置換、付加、挿入される塩基配列は、当該遺伝子の正常な機能が欠損し得る限り、特に限定されない。不活性化させる遺伝子は、メタノール資化性酵母の染色体上の遺伝子であってもよく、メタノール資化性酵母の染色体外の遺伝子であってもよい。このうち、染色体上の遺伝子を不活性化させることが好ましい。典型的には、DNL4の遺伝子の不活性化は、宿主の染色体上の、前記遺伝子のコード領域の少なくとも一部の領域(例えば、コード領域の塩基配列の塩基数に対して50%以上、好ましくは60%以上、好ましくは70%以上、好ましくは80%以上、好ましくは90%以上、好ましくは100%の塩基数からなる塩基配列の領域)が欠失することで実現できる。
本発明における「塩基配列の改変」とは、相同組換えを利用した遺伝子の挿入や部位特異的変異導入の手法を使用して実施することができる。例えば、遺伝子上流プロモーターのより活性の低いプロモーターへの置換や、メタノール資化性酵母に適していないコドンへの改変等、また、欠失させたい遺伝子の上流配列、選択マーカー遺伝子配列及び欠失させたい遺伝子の下流配列を連結させたベクターの導入などが挙げられる。
本発明における不活性化による発現量低下の度合は特に限定されないが、5%以上、10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上低下していることが好ましい。なお、発現量が低下していなくとも、上述のとおり、遺伝子産物の正常な機能が欠損し得る限り、不活性化することができることは、当業者であれば周知であるから、発現量の低下の度合は、あくまで不活性化の判断基準の1つにすぎない。
不活性化されたDNL4の遺伝子の数は特に限定されない。また、本発明のメタノール資化性酵母はその他の非相同末端結合に関わる遺伝子が更に不活性化されていても良く、例えばKU70遺伝子及びDNL4遺伝子、KU80遺伝子及びDNL4遺伝子、DNL4遺伝子及びLIF1遺伝子の二重不活性化、例えばKU70遺伝子及びKU80遺伝子及びDNL4遺伝子、KU70遺伝子及びDNL4遺伝子及びLIF1遺伝子、KU80遺伝子及びDNL4遺伝子及びLIF1遺伝子の三重不活性化、例えばKU70遺伝子及びKU80遺伝子及びDNL4遺伝子及びLIF1遺伝子の四重不活性化でも良い。
「配列番号25に示す塩基配列を含む遺伝子」は、コマガタエラ・パストリスの4本の染色体DNAの塩基配列(ATCC76273株:ACCESSION No. FR839628〜FR839631(J. Biotechnol. 154 (4), 312-320 (2011)、及びGS115株:ACCESSION No. FN392319〜FN392322(Nat. Biotechnol. 27 (6), 561-566 (2009)))の網羅的解析により見出された。具体的には、本発明者らは、不活性化によってベクターの自己環状化が抑えられるポリペプチド、及びそのアミノ酸配列をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを探索した。その結果、ATCC76273株において配列番号24で示されるアミノ酸配列(ACCESSION No. CCA39424)で示されるポリペプチド(DNL4)、及び該ポリペプチドをコードする配列番号25で示される塩基配列を含むポリヌクレオチドを見出した。後述する実施例において、本発明者らは上記の塩基配列からなる遺伝子が不活性化されたメタノール資化性酵母を宿主とし、高効率に酵母内でベクターのアセンブルが可能となる方法を見出した。
配列番号25に示す塩基配列からなる遺伝子(DNL4遺伝子)を不活性化する例として、後述する実施例のように配列番号25に示す塩基配列からなる遺伝子の上流に位置するプロモーターの1000bpと100%の配列同一性を有する塩基配列(例えば、配列番号1の塩基配列)及び、配列番号25に示す塩基配列からなる遺伝子の下流に位置するターミネーターの1007bpと100%の配列同一性を有する塩基配列(例えば、配列番号2の塩基配列)をそれぞれプライマー1〜4を用いてPCR産物として調製し、該PCR産物を含むベクターをコマガタエラ属酵母に形質転換し、選択した株を用いて相同組換えにより該遺伝子を欠損させる方法が挙げられる。
「配列番号24に示すアミノ酸配列と85%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列をコードする遺伝子」とは、配列番号24に示すアミノ酸配列と85%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなるポリペプチドに基づきコドン表を参照して設計される塩基配列からなる遺伝子のことを指し、例えば、配列番号25に示す遺伝子が挙げられる。そして、当該遺伝子を不活性化させることで、ベクターの自己環状化が抑えられ、高効率に酵母内でベクターのアセンブルが可能となる。前記配列同一性は、85%以上であり、90%以上が好ましく、95%以上がより好ましく、96%以上がさらにより好ましく、97%以上が特に好ましく、98%以上、又は99%以上が最も好ましい。
本発明のDNL4の遺伝子が不活性化されたメタノール資化性酵母は、DNL4の遺伝子と相同領域を有する塩基配列、DNL4の遺伝子のプロモーターと相同領域を有する塩基配列、及びDNL4の遺伝子のターミネーターと相同領域を有する塩基配列のいずれかを少なくとも1つ含有するベクターをメタノール資化性酵母に形質転換することにより得られることが好ましい。
本発明のDNL4の遺伝子が不活性化されたメタノール資化性酵母は、例えば前記(a)〜(d)のいずれかの遺伝子と相同領域を有する塩基配列、前記(a)〜(d)のいずれかの遺伝子のプロモーターと相同領域を有する塩基配列、及び前記(a)〜(d)のいずれかの遺伝子のターミネーターと相同領域を有する塩基配列のいずれかを少なくとも1つ含有するベクターをメタノール資化性酵母に形質転換することにより得られることが好ましい。
本発明では、上記形質転換によりメタノール資化性酵母の染色体上におけるDNL4の遺伝子、例えば前記(a)〜(d)のいずれかの遺伝子を不活性化させることができる。
前記(a)〜(d)のいずれかのDNL4の遺伝子を不活性化する特に好適な実施形態としては、宿主の染色体上で前記遺伝子の上流に位置するプロモーターの塩基配列に含まれる部分塩基配列(部分塩基配列1とする)と85%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むDNA断片1と、前記遺伝子の下流に位置するターミネーターの塩基配列に含まれる部分塩基配列(部分塩基配列2とする)と85%以上の配列同一性を有する塩基配列を含むDNA断片2とを、DNA断片1が上流側、DNA断片2が下流側となるように接続して構築したベクターを宿主に形質転換し、相同組換えにより前記遺伝子を欠損させる方法が挙げられる。前記ベクターは、好ましくは、DNA断片1とDNA断片2とを含む環状ベクターを、DNA断片1又はDNA断片2の内部の制限酵素認識部位で切断して直鎖化した直鎖状ベクターである。前記プロモーターの塩基配列としては、配列番号1に示す塩基配列が例示できる。前記ターミネーターの塩基配列としては、配列番号2に示す塩基配列が例示できる。部分塩基配列1及び部分塩基配列2の長さは相同組み換えが可能な長さであれば良く、それそれ、好ましくは100bp以上、好ましくは200bp以上、好ましくは300bp以上、好ましくは400bp以上、好ましくは500bp以上、好ましくは600bp以上、好ましくは700bp以上、好ましくは800bp以上、好ましくは900bp以上、好ましくは1000bp以上である。前記85%以上の配列同一性は、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは96%以上、より好ましくは97%以上、より好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上の配列同一性である。
本発明におけるメタノール資化性酵母とは、唯一の炭素源としてメタノールを利用して培養可能な酵母と定義されるが、本来メタノール資化性酵母であったが、人為的な改変あるいは変異によりメタノール資化性能を喪失した酵母も、本発明におけるメタノール資化性酵母に包含される。
メタノール資化性酵母としては、ピキア(Pichia)属、オガタエア(Ogataea)属、キャンディダ(Candida)属、トルロプシス(Torulopsis)属、コマガタエラ(Komagataella)属等に属する酵母が挙げられる。ピキア(Pichia)属ではピキア・メタノリカ(Pichia methanolica)、オガタエア(Ogataea)属ではオガタエア・アングスタ(Ogataea angusta)、オガタエア・ポリモルファ(Ogataea polymorpha)、オガタエア・パラポリモルファ(Ogataea parapolymorpha)、オガタエア・ミヌータ(Ogataea minuta)、キャンディダ(Candida)属ではキャンディダ・ボイディニ(Candida boidinii)、コマガタエラ(Komagataella)属ではコマガタエラ・パストリス(Komagataella pastoris)、コマガタエラ・ファフィ(Komagataella phaffii)等が好ましい例として挙げられる。
上記のメタノール資化性酵母のなかでも、コマガタエラ属酵母又はオガタエア属酵母が特に好ましい。
コマガタエラ属酵母としては、コマガタエラ・パストリス(Komagataella pastoris)、コマガタエラ・ファフィ(Komagataella phaffii)が好ましい。コマガタエラ・パストリス及びコマガタエラ・ファフィはどちらもピキア・パストリス(Pichia pastoris)の別名を有する。
具体的に宿主として使用できる菌株として、コマガタエラ・パストリスATCC76273(Y-11430、CBS7435)、コマガタエラ・パストリスX-33等の株が挙げられる。これらの菌株は、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションやサーモフィッシャーサイエンティフィック社等から入手することができる。
オガタエア(Ogataea)属酵母としては、オガタエア・アングスタ(Ogataea angusta)、オガタエア・ポリモルファ(Ogataea polymorpha)、オガタエア・パラポリモルファ(Ogataea parapolymorpha)が好ましい。これら3つは近縁種であり、いずれも、別名ハンゼヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)、又は別名ピキア・アングスタ(Pichia angusta)でも表される。
具体的に使用できる菌株として、オガタエア・アングスタNCYC495(ATCC14754)、オガタエア・ポリモルファ8V(ATCC34438)、オガタエア・パラポリモルファDL-1(ATCC26012)等の菌株が挙げられる。これらの菌株は、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション等から入手することができる。
また、本発明においては、これらコマガタエラ属酵母やオガタエア属酵母の菌株からの誘導株も使用でき、例えばヒスチジン要求性であればコマガタエラ・パストリスGS115株(サーモフィッシャーサイエンティフィック社より入手可能)、ロイシン要求性株であれば、NCYC495由来のBY4329、8V由来のBY5242、DL-1由来のBY5243(これらはNational BioResource Projectから分譲可能)等が挙げられる。本発明においては、これらの菌株からの誘導株等も使用できる。
本発明のベクター(本発明で用いる二種類以上のベクターの少なくとも1つ、及び/又は、二種類以上のベクターがアセンブルされて形成されるベクター)は環状ベクター、直鎖状ベクター、プラスミド、人工染色体等であることができる。
本発明において「ベクター」とは人為的に構築された核酸分子である。本発明のベクター(本発明で用いる二種類以上のベクター、及び/又は、二種類以上のベクターがアセンブルされて形成されるベクター)を構成する核酸分子は、通常DNA、好ましくは二本鎖DNAであり、環状であっても、直鎖状であってもよい。本発明で用いる二種類以上のベクターの少なくとも1つ、及び、二種類以上のベクターがアセンブルされて形成されるベクターは、通常は、1つ以上の制限酵素認識部位を含むクローニングサイト、Clontech社のIn-FusionクローニングシステムやNew England Biolabs社のGibson Assemblyシステム等を利用するためのオーバーラップ領域、内在性遺伝子の塩基配列、目的タンパク質のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする塩基配列、選択マーカー遺伝子(栄養要求性相補遺伝子、薬剤耐性遺伝子など)の塩基配列等を含むことができる。直鎖状ベクターの例としては、URA3遺伝子、LEU2遺伝子、ADE1遺伝子、HIS4遺伝子、ARG4遺伝子等の栄養要求性相補遺伝子やG418耐性遺伝子、Zeocin(商標)耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、Clone NAT耐性遺伝子、ブラストサイジンS耐性遺伝子等の薬剤耐性遺伝子の塩基配列を有するPCR産物、または環状ベクターやプラスミドを適当な制限酵素によって切断し、直鎖状としたものなどが挙げられる。プラスミドの例としては、YEpベクター、YRpベクター、YCpベクター、pPICHOLI(http://www.mobitec.com/cms/products/bio/04_vector_sys/p_picholi_shuttle_vector.html)、pHIP(Journal of General Microbioiogy (1992), 138, 2405-2416. Chromosomal targeting of replicating plasmids in the yeast Hansenula polymorpha)、pHRP(pHIPについて挙げた前記文献参照)、pHARS(Molecular and General Genetics MGG February 1986, Volume 202, Issue 2, pp 302-308, Transformation of the methylotrophic yeast Hansenula polymorpha by autonomous replication and integration vectors)、大腸菌由来プラスミドベクター(pUC18、pUC19、pBR322、pBluescript、pQE)、枯草菌由来プラスミドベクター(pHY300PLK、pMTLBS72)等を使用することができる。人工染色体の例としては、一般に、セントロメアDNA配列、テロメアDNA配列、自律複製配列(ARS)を含む人工染色体ベクターを指し、酵母であれば酵母人工染色体(YACベクター)などが挙げられ、Saccharomyces cerevisiaeやSchizosaccharomyces pombeなどにおいて開発されている。コマガタエラ・パストリスにおいては国際公開第2016/088824号に記載されているセントロメアDNA配列を用いることによって人工染色体を構築することができる。
本発明において「形質転換」とは、上記ベクターをメタノール資化性酵母に導入することを指す。ベクターをメタノール資化性酵母へ導入する方法、すなわち形質転換法は公知の方法を適宜用いることができ、例えばエレクトロポレーション法、酢酸リチウム法、スフェロプラスト法等が挙げられるが特にこれらに限定されるものではない。例えば、コマガタエラ・パストリスの形質転換法としては、High efficiency transformation by electroporation of Pichia pastoris pretreated with lithiumacetate and dithiothreitol(Biotechniques. 2004 Jan;36(1):152-4.)に記載されているエレクトロポレーション法が一般的である。
本発明において、ベクターをメタノール資化性酵母に形質転換する場合、栄養要求性相補遺伝子または薬剤耐性遺伝子などの選択マーカー遺伝子を用いることが好ましい。選択マーカーは特に限定されないが、メタノール資化性酵母であれば、URA3遺伝子、LEU2遺伝子、ADE1遺伝子、HIS4遺伝子、ARG4遺伝子などの栄養要求性相補遺伝子であれば、それぞれウラシル、ロイシン、アデニン、ヒスチジン、アルギニンの栄養要求性株において原栄養株表現型の回復により形質転換体を選択することができる。また、G418耐性遺伝子、Zeocin(商標)耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、Clone NAT耐性遺伝子、ブラストサイジンS耐性遺伝子などの薬剤耐性遺伝子であれば、それぞれG418、Zeocin(商標)、ハイグロマイシン、Clone NAT、ブラストサイジンSを含む培地上における耐性により形質転換体を選択することができる。なお、形質転換体を作製するときに用いる栄養要求性選択マーカーは、宿主において該選択マーカーが破壊されていない場合は、用いることができない。この場合、宿主において該選択マーカーを破壊すればよく、方法は当業者には公知の方法を用いることができる。
本発明の形質転換法は、高効率に酵母内でベクターのアセンブルが可能であるため、二種類以上のベクターを導入する工程を含む。二種類以上のベクターを導入する時機は逐次または同時が好ましい。例えば、本実施例のように、形質転換を行う前にコンピテントセルと二種類以上のベクターを予め混合し、形質転換操作を行う方法が挙げられる。
本発明において、二種類以上のベクターで形質転換する場合、後述する実施例のようにベクターは、互いに配列同一性を有する塩基配列を含むベクターとして作製することが好ましい。より好ましくは、二種類以上のベクターの各々は、他の少なくとも1つのベクターと、互いに配列同一性を有する塩基配列を部分塩基配列として含む。該配列同一性を有する塩基配列の箇所は、1箇所でもよいし、2箇所以上でもよい。
本発明の「互いに配列同一性を有する塩基配列」とは、互いの塩基配列の少なくとも一部が同一である塩基配列を有し、好ましくは85%以上の配列同一性を有する塩基配列であればよく、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、最も好ましくは100%の配列同一性を有する塩基配列である。また、該配列同一性を有する塩基配列の長さは、20bp以上の塩基配列であれば、それを含む2つのベクター同士をアセンブルすることができるため特に限定されないが、具体的には20bp以上、30bp以上、40bp以上、50bp以上、60bp以上、70bp以上、80bp以上、90bp以上、100bp以上、200bp以上、300bp以上、400bp以上、500bp以上、1000bp以上が好ましい。
本発明において、二種類以上のベクターで形質転換する場合、そのモル比は特に限定されないが、例えば二種類のベクターであれば1:1、1:1以上、1:2以上、1:3以上、1:4以上、1:5以上、1:10以上、1:20以上、1:30以上、1:40以上、1:50以上が好ましい。
本発明の「アセンブル」とは、酵母に導入された二種類以上のベクターが、配列同一性を有する塩基配列を介して連結する機構のことを指す。
好ましい実施形態では、二種類以上のベクターの各々は、他の少なくとも1つのベクターと、互いに配列同一性を有する塩基配列を部分塩基配列として含み、該部分塩基配列間での相同組み換えを介して前記二種類以上のベクターがアセンブルされることで、1つの直鎖状又は環状のベクターが構築されるように構成されている。前記1つの直鎖状のベクターは、宿主ゲノムDNAに組み込まれたものであってもよく、その場合、前記二種類以上のベクターのうち1つは、更に、宿主ゲノムDNAの挿入箇所の上流側の塩基配列に対して、配列同一性を有する(好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、最も好ましくは100%の配列同一性を有する)塩基配列を部分塩基配列として含み、前記二種類以上のベクターのうち他の1つは、更に、宿主ゲノムDNAの挿入箇所の下流側の塩基配列に対して、配列同一性を有する(好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、最も好ましくは100%の配列同一性を有する)塩基配列を部分塩基配列として含む。
本明細書において「宿主」とは、ベクターが導入され形質転換される細胞を指し、本明細書では形質転換後の宿主を形質転換体と呼ぶ場合がある。宿主として用いる細胞はベクターを導入することの出来るメタノール資化性酵母細胞であれば特に限定されない。
本発明のベクター(本発明で用いる二種類以上のベクターの少なくとも1つ、及び/又は、二種類以上のベクターがアセンブルされて形成されるベクター)は自律複製配列 (ARS)を含むことができる。本発明においてARSとは、原核生物(大腸菌、細菌、放線菌、真正細菌、古細菌、ラン藻等)、ウィルス(DNAウィルス、RNAウィルス等)、真核生物(菌類、藻類、原生動物、酵母、植物、動物、鳥類、家禽、哺乳類、ヒト、マウス等)、好ましくは真核生物、より好ましくは酵母、例えばコマガタエラ・パストリス等のメタノール資化性酵母の複製起点のことであり、複製が開始される塩基配列の領域である。本発明のベクターは、例えば異なる種におけるARSを二以上含んでもよい。本発明のベクターに含まれ得るARSの例として、後述する実施例のように配列番号6に示す塩基配列からなるコマガタエラ・パストリスにおけるARSを含むセントロメアDNA配列が挙げられる。本配列はコマガタエラ・パストリスの染色体DNA2番(ACCESSION No. FR839629)のセントロメアDNA配列である。
本発明のベクター(本発明で用いる二種類以上のベクターの少なくとも1つ、及び/又は、二種類以上のベクターがアセンブルされて形成されるベクター)に含まれ得るARSの別の例として、後述する実施例のように配列番号37に示す塩基配列からなるコマガタエラ・パストリスのARSであるPARS1が挙げられる。本配列はコマガタエラ・パストリスの染色体DNA2番(ACCESSION No. FR839629)の1980709-1980872に位置する164 bpのARSである。
本発明のベクター(本発明で用いる二種類以上のベクターの少なくとも1つ、及び/又は、二種類以上のベクターがアセンブルされて形成されるベクター)は自律複製配列(ARS)を含まなくても良い。例えば酵母内でアセンブルされたベクターが宿主染色体に組み込まれても良い。好ましい実施形態では、本発明で用いる二種類以上のベクターはそれぞれ自律複製能を有さない核酸断片であり、前記二種類以上のベクターがアセンブルされて形成されるベクターが宿主ゲノムDNAに組み込まれる。さらに好ましい実施形態では、本発明で用いる二種類以上のベクターはそれぞれ自律複製能を有さない核酸断片であり、前記二種類以上のベクターがアセンブルされて形成されるベクターの上末端及び/又は下末端と配列同一性を有する宿主ゲノムDNA領域に、相同組換え機構により宿主ゲノムDNAに組み込まれる。
本発明のベクター(本発明で用いる二種類以上のベクターの少なくとも1つ、及び/又は、二種類以上のベクターがアセンブルされて形成されるベクター)は、好ましくは自律複製型ベクターである。本発明のベクターが自律複製型であれば、宿主のゲノム配列やゲノム構造を変化させること無く、宿主改良を行うことが可能である。特に好ましい実施形態では、本発明で用いる二種類以上のベクターの1つが自律複製型ベクターであり、前記二種類以上のベクターの残りは単独では自律複製能を有さない核酸断片であり、前記二種類以上のベクターがアセンブルされて形成されるベクターが自律複製型ベクターである。
本発明において自律複製型ベクターとは宿主の染色体とは独立に複製されるベクターであって、宿主染色体に組み込まれなくとも宿主内で複製されるベクターを指す。
本発明のこの実施形態のベクターは、メタノール資化性酵母、例えばコマガタエラ属酵母又はオガタエア属酵母、好ましくはコマガタエラ・パストリスにおける自律複製型ベクターとして利用することができる。つまり、前記自律複製型ベクターは、メタノール資化性酵母に由来するARS及び/又はセントロメアDNA配列を含むことが好ましく、コマガタエラ属酵母もしくはオガタエア属酵母に由来するARS及び/又はセントロメアDNA配列を含むことがより好ましい。
本発明のベクター(本発明で用いる二種類以上のベクターの少なくとも1つ、及び/又は、二種類以上のベクターがアセンブルされて形成されるベクター)は、好ましくは、複数の生物種の宿主細胞において自律複製可能な自律複製型ベクターである。このような自律複製型ベクターとしては、例えば、前記コマガタエラ属酵母又はオガタエア属酵母に由来するARS及び/又はセントロメアDNA配列を含み、更に、前記ARS及び/又はセントロメアDNA配列が由来する生物種とは異なる生物種に由来するARS及び/又はセントロメアDNA配列を含むベクターが挙げられる。具体的には、本発明のベクターをコマガタエラ・パストリスで自律複製可能であるだけでなく、他の種、或いは他の属を宿主として自律複製可能なベクターとするために考えられる手段としては、例えば配列番号6に示す塩基配列からなるコマガタエラ・パストリスにおけるARSを含むセントロメアDNA配列を含むベクターにヒト染色体のセントロメアDNA配列をクローニングしてヒト人工染色体として利用したり、上記配列番号6に示す塩基配列を含むベクターにオガタエア属酵母のARSやセントロメアDNA配列をクローニングして両属種での自律複製型ベクターとして利用したり、上記配列番号6に示す塩基配列を含むベクターに出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)や分裂酵母(Schizosaccharomyces pombe)のARSやセントロメアDNA配列をクローニングして両属種での自律複製型ベクターとして利用したり、上記配列番号6に示す塩基配列を含むベクターにコマガタエラ・パストリスのセントロメアを構成するタンパク質群をコードする遺伝子群をクローニングして他属種での自律複製型ベクターとして利用したりすることが考えられる。また、本実施例のように大腸菌の自律複製型ベクターと組み合わせることも可能である。
本発明においてセントロメアDNA配列とは、動原体と呼ばれる構造を形成し、紡錘体が結合する塩基配列である。例えばヒトにおいて、染色体の長腕と短腕が交差する領域であり、染色体のほぼ中央に位置することからセントロメア領域とも呼ばれる。
以下、製造例、比較例、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
<製造例1:ベクターの調製に用いた各種遺伝子の調製>
以下の実施例において用いた組換えDNA技術に関する詳細な操作方法等は、次の成書に記載されている:Molecular Cloning 2nd Edition(Cold Spring Harbor Laboratory Press,1989)、Current Protocolsin Molecular Biology(Greene Publishing Associates and Wiley-Interscience)。
また、以下の実施例において、酵母の形質転換に用いるプラスミドは、構築したベクターを大腸菌E.coli HST08コンピテントセル(タカラバイオ社製)に導入し、得られた形質転換体を培養して増幅することによって調製した。プラスミド保持株からのプラスミドの調製は、FastGene Plasmid Mini Kit(日本ジェネティクス社製)を用いて行った。
ベクターの構築において利用したDNL4プロモーター(配列番号1)、DNL4ターミネーター(配列番号2)、プロモーターで制御されたADE1遺伝子配列(配列番号3)、GAPプロモーター(配列番号4)、GAP1ターミネーター(配列番号5)、セントロメアDNA配列(配列番号6)、PARS1(配列番号37)はコマガタエラ・パストリスATCC76273株の染色体DNA(塩基配列はEMBL (The European Molecular Biology Laboratory) ACCESSION No. FR839628〜FR839631に記載)混合物をテンプレートにしてPCRで調製した。DNL4プロモーターはプライマー1(配列番号7)及びプライマー2(配列番号8)、DNL4ターミネーターはプライマー3(配列番号9)及びプライマー4(配列番号10)、プロモーターで制御されたADE1遺伝子配列はプライマー5(配列番号11)及びプライマー6(配列番号12)、GAPプロモーターはプライマー7(配列番号13)及びプライマー8(配列番号14)、GAP1ターミネーターはプライマー9(配列番号15)及びプライマー10(配列番号16)、セントロメアDNA配列はプライマー11(配列番号17)及びプライマー12(配列番号18)及びプライマー13(配列番号19)及びプライマー14(配列番号20)、PARS1はプライマー26(配列番号38)及びプライマー27(配列番号39)を用いてPCRで調製した。
ベクターの構築において利用した、プロモーターで制御されたZeocin(商標)耐性遺伝子(配列番号21)は合成DNAをテンプレートにしてPCRで調製した。ベクターの構築において利用した、G418耐性遺伝子(配列番号22)は合成DNAをテンプレートにしてPCRで調製した。ベクターの構築において利用した、緑色蛍光タンパク質遺伝子(配列番号23)は合成DNAをテンプレートにしてPCRで調製した。
PCRにはPrime STAR HS DNA Polymerase(タカラバイオ社製)等を用い、反応条件は添付のマニュアルに記載の方法で行った。染色体DNAの調製は、コマガタエラ・パストリスATCC76273株からカネカ 簡易DNA抽出キット version 2(カネカ社製)等を用いて、これに記載の条件で実施した。
<製造例2:配列番号25に示す塩基配列からなる遺伝子(DNL4遺伝子)の不活性化用ベクターの構築>
DNL4プロモーター(配列番号1)の末端にPstI認識配列及びBamHI認識配列を付加した核酸断片を、プライマー1(配列番号7)及びプライマー2(配列番号8)を用いたPCRにより調製し、DNL4ターミネーター(配列番号2)の末端にBamHI認識配列及びKpnI認識配列を付加した核酸断片を、プライマー3(配列番号9)及びプライマー4(配列番号10)を用いたPCRにより調製し、DNL4プロモーター核酸断片はPstI及びBamHI処理、DNL4ターミネーター核酸断片はBamHI及びKpnI処理後にpUC19(タカラバイオ社製、Code No. 3219)のPstI-KpnIサイト間に挿入して、pUC-Pdnl4Tdnl4を構築した。
次に、プロモーターで制御されたADE1遺伝子配列(配列番号3)の両側にKpnI認識配列を付加した核酸断片を、プライマー5(配列番号11)及びプライマー6(配列番号12)を用いたPCRにより調製し、KpnI処理後にpUC-Pdnl4Tdnl4のKpnIサイトに挿入して、pUC-Pdnl4Tdnl4ADE1を構築した。
本ベクターはコマガタエラ・パストリスATCC76273株のDNL4である配列番号24で示されるアミノ酸配列(ACCESSION No. CCA39424)、をコードする配列番号25に示す塩基配列からなる遺伝子(DNL4遺伝子)のプロモーター1000bp及びターミネーター1007bpを相同領域として、プロモーターで制御されたADE1遺伝子が付加されたベクターであり、後述する実施例のようにメタノール資化性酵母の宿主に形質転換することで配列番号25に示す塩基配列からなる遺伝子(DNL4遺伝子)が不活性化されるように設計されている。
<製造例3:緑色蛍光タンパク質発現自律複製型ベクターの構築>
プロモーターで制御されたZeocin(商標)耐性遺伝子(配列番号21)の末端にHindIII-XbaI-NotI-AscI-SfiI-PacI-AsiSI-SfiI認識配列及びEcoRI認識配列を付加した核酸断片を、プライマー15(配列番号26)及びプライマー16(配列番号27)を用いたPCRにより調製し、HindIII及びEcoRI処理後にpUC19のHindIII-EcoRIサイト間に挿入して、pUC-Zeoを構築した。
次に、GAPプロモーター(配列番号4)の末端にAscI認識配列及びSpeI認識配列を付加した核酸断片をプライマー7(配列番号13)及びプライマー8(配列番号14)を用いたPCRにより調製し、緑色蛍光タンパク質遺伝子(配列番号23)の末端にSpeI認識配列及びXhoI認識配列を付加した核酸断片をプライマー17(配列番号28)及びプライマー18(配列番号29)を用いたPCRにより調製し、GAP1ターミネーター(配列番号5)の末端にXhoI認識配列及びPacI認識配列を付加した核酸断片をプライマー9(配列番号15)及びプライマー10(配列番号16)を用いたPCRにより調製し、GAPプロモーターはAscI及びSpeI処理、緑色蛍光タンパク質遺伝子はSpeI及びXhoI処理、GAP1ターミネーターはXhoI及びPacI処理後にpUC-ZeoのAscI-PacIサイト間に挿入して、pUC-PgapGFPTgap1Zeoを構築した。
次に、セントロメアDNA配列(配列番号6)の約半分の領域(LOR_CC)をプライマー11(配列番号17)及びプライマー12(配列番号18)を用いたPCRにより調製し、残りの約半分の領域(CC_ROR)をプライマー13(配列番号19)及びプライマー14(配列番号20)を用いてPCRで調製し、LOR_CCをNotI及びPstI処理、CC_RORをPstI及びXbaI処理後に、pUC-PgapGFPTgap1ZeoのXbaI-NotIサイト間に挿入して、pUC-Cen2PgapGFPTgap1Zeoを構築した。
本ベクターはコマガタエラ・パストリスにおける自律複製配列 (ARS)を含むセントロメアDNA配列による自律複製型ベクターであり、緑色蛍光タンパク質がGAPプロモーターで制御され、形質転換体はZeocin(商標)耐性を有する。
また、PARS1(配列番号37)をプライマー26(配列番号38)及びプライマー27(配列番号39)を用いたPCRにより調製し、NotI処理後に、pUC-PgapGFPTgap1ZeoのNotIサイトに挿入して、pUC-PARS1PgapGFPTgap1Zeoを構築した。
本ベクターはコマガタエラ・パストリスのARSであるPARS1による自律複製型ベクターであり、緑色蛍光タンパク質がGAPプロモーターで制御され、形質転換体はZeocin(商標)耐性を有する。
<製造例4:G418耐性遺伝子ベクターの構築>
G418耐性遺伝子(配列番号22)の核酸断片をプライマー19(配列番号30)及びプライマー20(配列番号31)を用いたPCRにより調製し、0_G418_0を構築した。
G418耐性遺伝子(配列番号22)の核酸断片をプライマー21(配列番号32)及びプライマー22(配列番号33)を用いたPCRにより調製し、30_G418_30を構築した。本ベクターは末端にGAPプロモーター及びGAP1ターミネーターと100%の配列同一性を有する30bpの塩基配列を含むように設計されている。
G418耐性遺伝子(配列番号22)の核酸断片をプライマー23(配列番号34)及びプライマー24(配列番号35)を用いたPCRにより調製し、60_G418_60を構築した。本ベクターは末端にGAPプロモーター及びGAP1ターミネーターと100%の配列同一性を有する60bpの塩基配列を含むように設計されている。
<製造例5:マルチクローニングサイトを有する自律複製型ベクターの構築>
マルチクローニングサイト(Acc65I-AvrII-EcoRV-MluI-BsrGI)(配列番号40)の末端にAOX1プロモーター(配列番号41)及びGAP1ターミネーター(配列番号5)を付加した核酸断片を、合成DNAをテンプレートにしてプライマー28(配列番号42)及びプライマー29(配列番号43)を用いたPCRにより調製し、AscI及びPacI処理後に製造例3で構築したpUC-Cen2PgapGFPTgap1Zeo のAscI-PacIサイト間に挿入して、pUC-Cen2Paox1MCSTgap1Zeoを構築した。
本ベクターはコマガタエラ・パストリスにおける自律複製配列 (ARS)を含むセントロメアDNA配列による自律複製型ベクターであり、AOX1プロモーターの下流にマルチクローニングサイト(Acc65I-AvrII-EcoRV-MluI-BsrGI)を有し、マルチクローニングサイトの下流にGAP1ターミネーターを有し、形質転換体はZeocin(商標)耐性を有する。
<製造例6:ベクターの構築>
オガタエア・アングスタNCYC495株の染色体DNA(塩基配列はEMBL (The European Molecular Biology Laboratory) ACCESSION No. AECK01000001〜AECK01000007に記載)混合物をテンプレートにして、染色体第6番 (AECK01000006) のPosition 855449-856477を含む核酸断片をプライマー30(配列番号44)及びプライマー31(配列番号45)を用いたPCRにより調製し、Fragment 1(配列番号46)1106bpを構築した。
同様に、染色体第6番 (AECK01000006) のPosition 856357-858859を含む核酸断片をプライマー32(配列番号47)及びプライマー33(配列番号48)を用いたPCRにより調製し、Fragment 2(配列番号49)2503bpを構築した。
同様に、染色体第6番 (AECK01000006) のPosition 858744-861310を含む核酸断片をプライマー34(配列番号50)及びプライマー35(配列番号51)を用いたPCRにより調製し、Fragment 3(配列番号52)2567bpを構築した。
同様に、染色体第6番 (AECK01000006) のPosition 861181-863668を含む核酸断片をプライマー36(配列番号53)及びプライマー37(配列番号54)を用いたPCRにより調製し、Fragment 4(配列番号55)2488bpを構築した。
同様に、染色体第6番 (AECK01000006) のPosition 863538-866113を含む核酸断片をプライマー38(配列番号56)及びプライマー39(配列番号57)を用いたPCRにより調製し、Fragment 5(配列番号58)2624bpを構築した。
GAPプロモーター(配列番号4)が連結された緑色蛍光タンパク質遺伝子の1-195番目の塩基配列を含む核酸断片を、合成DNAをテンプレートにしてプライマー40(配列番号59)及びプライマー41(配列番号60)を用いたPCRにより調製し、PgapGFP1(配列番号61)735bpを構築した。
緑色蛍光タンパク質遺伝子の101-720番目の塩基配列を含む核酸断片を、合成DNAをテンプレートにしてプライマー42(配列番号62)及びプライマー43(配列番号63)を用いたPCRにより調製し、GFP2(配列番号64)696bpを構築した。
Fragment 1は上末端にAOX1プロモーター及びマルチクローニングサイトと100%の配列同一性を有する77bpの塩基配列を含み、下末端にFragment 2と100%の配列同一性を有する121bpの塩基配列を含むように設計されている。
Fragment 2は上末端にFragment 1と100%の配列同一性を有する121bpの塩基配列を含み、下末端にFragment 3と100%の配列同一性を有する116bpの塩基配列を含むように設計されている。
Fragment 3は上末端にFragment 2と100%の配列同一性を有する116bpの塩基配列を含み、下末端にFragment 4と100%の配列同一性を有する130bpの塩基配列を含むように設計されている。
Fragment 4は上末端にFragment 3と100%の配列同一性を有する130bpの塩基配列を含み、下末端にFragment 5と100%の配列同一性を有する131bpの塩基配列を含むように設計されている。
Fragment 5は上末端にFragment 4と100%の配列同一性を有する131bpの塩基配列を含み、下末端にPgapGFP1と100%の配列同一性を有する95bpの塩基配列を含むように設計されている。
PgapGFP1は上末端にFragment 5と100%の配列同一性を有する95bpの塩基配列を含み、下末端にGFP2と100%の配列同一性を有する95bpの塩基配列を含むように設計されている。
GFP2は上末端にPgapGFP1と100%の配列同一性を有する95bpの塩基配列を含み、下末端にマルチクローニングサイト及びGAP1ターミネーターと100%の配列同一性を有する76bpの塩基配列を含むように設計されている。
<実施例1:配列番号25に示す塩基配列からなる遺伝子(DNL4遺伝子)が不活性化された形質転換酵母の取得>
製造例2で構築した配列番号25に示す塩基配列からなる遺伝子(DNL4遺伝子)の不活性化用ベクターpUC-Pdnl4Tdnl4ADE1を用いて、以下のようにメタノール資化性酵母宿主を形質転換した。
コマガタエラ・パストリスATCC76273株由来アデニン要求性株を3mlのYPD培地(1% yeast extract bacto(Becton Dickinson社製)、2% hipolypeptone(日本製薬社製)、2% glucose)に接種し、30℃で一晩振盪培養して、前培養液を得た。得られた前培養液500μlを50mlのYPD培地に接種し、OD600が1〜1.5になるまで振盪培養後、集菌(3000×g、10分、20℃)し、250μlの1M DTT(終濃度25mM)を含む10mlの50mMリン酸カリウムバッファー, pH7.5に再懸濁した。
この懸濁液を30℃で15分インキュベート後、集菌(3000×g、10分、20℃)し、予め氷冷した50mlのSTMバッファー(270mMスクロース、10mM Tris-HCl、1mM塩化マグネシウム、pH7.5)で洗浄した。洗浄液を集菌(3000×g、10分、4℃)し、25 mlのSTMバッファーで再度洗浄したのち、集菌(3000×g、10分、4℃)した。最終的に、250μlの氷冷STMバッファーに懸濁し、これをコンピテントセル溶液とした。
製造例2で構築した配列番号25に示す塩基配列からなる遺伝子(DNL4遺伝子)の不活性化用ベクターpUC-Pdnl4Tdnl4ADE1を用いて大腸菌を形質転換し、得られた形質転換体を5mlのアンピシリン含有2YT培地(1.6% tryptone bacto(Becton Dickinson社製)、1% yeast extract bacto(Becton Dickinson社製)、0.5% 塩化ナトリウム、0.01%アンピシリンナトリウム(和光純薬工業社製))で培養し、得られた菌体からFastGene Plasmid Mini Kit(日本ジェネティクス社製)を用いて、pUC-Pdnl4Tdnl4ADE1を取得した。本プラスミドをDNL4ターミネーター内のBglII認識配列を利用して、BglII処理により直鎖状にした。
このコンピテントセル溶液60μlと直鎖状のpUC-Pdnl4Tdnl4ADE1溶液3μlを混合し、エレクトロポレーション用キュベット(ディスポキュベット電極、電極間隔2mm(ビーエム機器社製))に移し入れ、7.5kV/cm、25μF、200Ωに供した後、菌体を1mlのYPD培地で懸濁し、30℃で1時間静置した。1時間静置後、集菌(3000×g、5分、20℃)し、1mlのYNB培地(0.67% yeast nitrogen base Without Amino Acid(Becton Dickinson社製))に懸濁後、再度集菌(3000×g、5分、20℃)した。菌体を適当量のYNB培地で再懸濁後、YNB選択寒天プレート(0.67% yeast nitrogen base Without Amino Acid(Becton Dickinson社製)、1.5%アガロース、2% glucose)に塗布し、30℃、3日間の静置培養で生育する株を選択した。
選択した株を用いて配列番号25に示す塩基配列からなる遺伝子(DNL4遺伝子)及びプロモーターで制御されたADE1遺伝子を脱落させる相同組換えを行い、Δdnl4Δade1株を取得した。
続いて、Δdnl4Δade1株のHIS4遺伝子領域にADE1遺伝子を導入することで、Δdnl4Δhis4株を取得した。本株は配列番号25に示す塩基配列からなる遺伝子(DNL4遺伝子)が不活性化されたヒスチジン要求性形質転換酵母である。
<比較例1:形質転換酵母の取得、形質転換効率の算出、自己環状化の確認>
製造例3で構築した緑色蛍光タンパク質発現自律複製型ベクターpUC-Cen2PgapGFPTgap1Zeoを用いて、以下のようにコマガタエラ・パストリスATCC76273株野生株を形質転換した。
野生株を3mlのYPD培地(1% yeast extract bacto(Becton Dickinson社製)、2% hipolypeptone(日本製薬社製)、2% glucose)に接種し、30℃で一晩振盪培養して、前培養液を得た。得られた前培養液500μlを50mlのYPD培地に接種し、OD600が1〜1.5になるまで振盪培養後、集菌(3000×g、10分、20℃)し、250μlの1M DTT(終濃度25mM)を含む10mlの50mMリン酸カリウムバッファー, pH7.5に再懸濁した。
この懸濁液を30℃で15分インキュベート後、集菌(3000×g、10分、20℃)し、予め氷冷した50mlのSTMバッファー(270mMスクロース、10mM Tris-HCl、1mM塩化マグネシウム、pH7.5)で洗浄した。洗浄液を集菌(3000×g、10分、4℃)し、25 mlのSTMバッファーで再度洗浄したのち、集菌(3000×g、10分、4℃)した。最終的に、250μlの氷冷STMバッファーに懸濁し、これをコンピテントセル溶液とした。
製造例3で構築し緑色蛍光タンパク質発現自律複製型ベクターpUC-Cen2PgapGFPTgap1Zeoを用いて大腸菌を形質転換し、得られた形質転換体を5mlのアンピシリン含有2YT培地(1.6% tryptone bacto(Becton Dickinson社製)、1% yeast extract bacto(Becton Dickinson社製)、0.5% 塩化ナトリウム、0.01%アンピシリンナトリウム(和光純薬工業社製))で培養し、得られた菌体からFastGene Plasmid Mini Kit(日本ジェネティクス社製)を用いて、pUC-Cen2PgapGFPTgap1Zeoを取得した。本プラスミドを緑色蛍光タンパク質遺伝子内のBsrGI認識配列を利用して、BsrGI処理により直鎖状にした。
このコンピテントセル溶液60μlと直鎖状のpUC-Cen2PgapGFPTgap1Zeo溶液3μl、またはこのコンピテントセル溶液60μlとBsrGI未処理のpUC-Cen2PgapGFPTgap1Zeo溶液3μlを混合し、エレクトロポレーション用キュベット(ディスポキュベット電極、電極間隔2mm(ビーエム機器社製))に移し入れ、7.5kV/cm、25μF、200Ωに供した後、菌体を1mlのYPD培地で懸濁し、30℃で1時間静置した。1時間静置後、集菌(3000×g、5分、20℃)し、上清950μlを廃棄した。残った溶液で再懸濁後、YPDZeocin(商標)選択寒天プレート(1% yeast extract(Becton Dickinson社製)、2% hipolypeptone(日本製薬社製)、2% glucose、1.5%アガロース、0.01%Zeocin(商標)(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製))に塗布し、30℃、3日間の静置培養で生育する株を選択し、形質転換効率(ベクター1μgあたりのコロニー数、cfu/μg)を算出した(表2)。
その結果、条件1のBsrGI処理により直鎖状にしたpUC-Cen2PgapGFPTgap1Zeoによる形質転換効率は、条件2のBsrGI未処理のpUC-Cen2PgapGFPTgap1Zeoによる形質転換効率と同等であった。これは、野生株は非相同末端結合活性を有するため、直鎖状にしたpUC-Cen2PgapGFPTgap1Zeoの自己環状化が生じたと考えられる。
条件1によって得られた形質転換酵母10株をYPDZeocin(商標)選択寒天プレートに植菌し、30℃、1日間静置培養した。生育した株からEasy Yeast Plasmid Isolation Kit(クロンテック社製)を用いてプラスミド溶液を取得し、大腸菌E.coli HST08コンピテントセル(タカラバイオ社製)に導入した。得られた大腸菌形質転換体を培養して増幅することによってプラスミドを調製し、本プラスミドを電気泳動やシーケンス解析等で調べた結果、全てのサンプルにおいてBsrGI処理により直鎖状にしたpUC-Cen2PgapGFPTgap1Zeoが自己環状化していることが分かった。
<実施例2:形質転換酵母の取得、形質転換効率の算出>
製造例3で構築した緑色蛍光タンパク質発現自律複製型ベクターpUC-Cen2PgapGFPTgap1Zeoを用いて、以下のように実施例1で構築した配列番号25に示す塩基配列からなる遺伝子(DNL4遺伝子)が不活性化されたヒスチジン要求性形質転換酵母Δdnl4Δhis4株を形質転換した。
Δdnl4Δhis4株を3mlのYPD培地(1% yeast extract bacto(Becton Dickinson社製)、2% hipolypeptone(日本製薬社製)、2% glucose)に接種し、30℃で一晩振盪培養して、前培養液を得た。得られた前培養液500μlを50mlのYPD培地に接種し、OD600が1〜1.5になるまで振盪培養後、集菌(3000×g、10分、20℃)し、250μlの1M DTT(終濃度25mM)を含む10mlの50mMリン酸カリウムバッファー, pH7.5に再懸濁した。
この懸濁液を30℃で15分インキュベート後、集菌(3000×g、10分、20℃)し、予め氷冷した50mlのSTMバッファー(270mMスクロース、10mM Tris-HCl、1mM塩化マグネシウム、pH7.5)で洗浄した。洗浄液を集菌(3000×g、10分、4℃)し、25 mlのSTMバッファーで再度洗浄したのち、集菌(3000×g、10分、4℃)した。最終的に、250μlの氷冷STMバッファーに懸濁し、これをコンピテントセル溶液とした。
製造例3で構築し緑色蛍光タンパク質発現自律複製型ベクターpUC-Cen2PgapGFPTgap1Zeoを用いて大腸菌を形質転換し、得られた形質転換体を5mlのアンピシリン含有2YT培地(1.6% tryptone bacto(Becton Dickinson社製)、1% yeast extract bacto(Becton Dickinson社製)、0.5% 塩化ナトリウム、0.01%アンピシリンナトリウム(和光純薬工業社製))で培養し、得られた菌体からFastGene Plasmid Mini Kit(日本ジェネティクス社製)を用いて、pUC-Cen2PgapGFPTgap1Zeoを取得した。本プラスミドを緑色蛍光タンパク質遺伝子内のBsrGI認識配列を利用して、BsrGI処理により直鎖状にした。
このコンピテントセル溶液60μlと直鎖状のpUC-Cen2PgapGFPTgap1Zeo溶液3μl、またはこのコンピテントセル溶液60μlとBsrGI未処理のpUC-Cen2PgapGFPTgap1Zeo溶液3μlを混合し、エレクトロポレーション用キュベット(ディスポキュベット電極、電極間隔2mm(ビーエム機器社製))に移し入れ、7.5kV/cm、25μF、200Ωに供した後、菌体を1mlのYPD培地で懸濁し、30℃で1時間静置した。1時間静置後、集菌(3000×g、5分、20℃)し、上清950μlを廃棄した。残った溶液で再懸濁後、YPDZeocin(商標)選択寒天プレート(1% yeast extract(Becton Dickinson社製)、2% hipolypeptone(日本製薬社製)、2% glucose、1.5%アガロース、0.01%Zeocin(商標)(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製))に塗布し、30℃、3日間の静置培養で生育する株を選択し、形質転換効率(ベクター1μgあたりのコロニー数、cfu/μg)を算出した(表3)。
その結果、条件3のBsrGI処理により直鎖状にしたpUC-Cen2PgapGFPTgap1Zeoによる形質転換効率は、条件4のBsrGI未処理のpUC-Cen2PgapGFPTgap1Zeoによる形質転換効率と比較して大きく減少し、コロニーは全く得られなかった。これは、Δdnl4Δhis4株は配列番号25に示す塩基配列からなる遺伝子(DNL4遺伝子)が不活性化されたことによって非相同末端結合活性を失い、直鎖状にしたpUC-Cen2PgapGFPTgap1Zeoの自己環状化が完全に抑えられたことを示唆している。
<比較例2:形質転換酵母の取得、形質転換効率の算出、アセンブル効率の算出>
ベクターをアセンブルさせるために、製造例3で構築した緑色蛍光タンパク質発現自律複製型ベクターpUC-Cen2PgapGFPTgap1Zeo及び製造例4で構築したG418耐性遺伝子ベクター60_G418_60を用いて、以下のようにコマガタエラ・パストリスATCC76273株野生株を形質転換した。
野生株を3mlのYPD培地(1% yeast extract bacto(Becton Dickinson社製)、2% hipolypeptone(日本製薬社製)、2% glucose)に接種し、30℃で一晩振盪培養して、前培養液を得た。得られた前培養液500μlを50mlのYPD培地に接種し、OD600が1〜1.5になるまで振盪培養後、集菌(3000×g、10分、20℃)し、250μlの1M DTT(終濃度25mM)を含む10mlの50mMリン酸カリウムバッファー, pH7.5に再懸濁した。
この懸濁液を30℃で15分インキュベート後、集菌(3000×g、10分、20℃)し、予め氷冷した50mlのSTMバッファー(270mMスクロース、10mM Tris-HCl、1mM塩化マグネシウム、pH7.5)で洗浄した。洗浄液を集菌(3000×g、10分、4℃)し、25 mlのSTMバッファーで再度洗浄したのち、集菌(3000×g、10分、4℃)した。最終的に、250μlの氷冷STMバッファーに懸濁し、これをコンピテントセル溶液とした。
製造例3で構築し緑色蛍光タンパク質発現自律複製型ベクターpUC-Cen2PgapGFPTgap1Zeoを用いて大腸菌を形質転換し、得られた形質転換体を5mlのアンピシリン含有2YT培地(1.6% tryptone bacto(Becton Dickinson社製)、1% yeast extract bacto(Becton Dickinson社製)、0.5% 塩化ナトリウム、0.01%アンピシリンナトリウム(和光純薬工業社製))で培養し、得られた菌体からFastGene Plasmid Mini Kit(日本ジェネティクス社製)を用いて、pUC-Cen2PgapGFPTgap1Zeoを取得した。本プラスミドを緑色蛍光タンパク質遺伝子内のBsrGI認識配列を利用して、BsrGI処理により直鎖状にした。
このコンピテントセル溶液60μlと直鎖状のpUC-Cen2PgapGFPTgap1Zeo溶液(0.015 pmol)、G418耐性遺伝子ベクター60_G418_60(0.75 pmol)を混合し、エレクトロポレーション用キュベット(ディスポキュベット電極、電極間隔2mm(ビーエム機器社製))に移し入れ、7.5kV/cm、25μF、200Ωに供した後、菌体を1mlのYPD培地で懸濁し、30℃で1時間静置した。1時間静置後、集菌(3000×g、5分、20℃)し、上清950μlを廃棄した。残った溶液で再懸濁後、YPDZeocin(商標)選択寒天プレート(1% yeast extract(Becton Dickinson社製)、2% hipolypeptone(日本製薬社製)、2% glucose、1.5%アガロース、0.01%Zeocin(商標)(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製))に塗布し、30℃、3日間の静置培養で生育する株を選択し、形質転換効率(ベクター1μgあたりのコロニー数、cfu/μg)を算出した(表4、条件5)。
この条件5によって得られた形質転換酵母20株をYPDZeocin(商標)選択寒天プレートに植菌し、30℃、1日間静置培養した。ベクターがアセンブルされているかどうかを確認するため、生育した株からカネカ 簡易DNA抽出キット version 2(カネカ社製)を用いて、染色体DNA及びプラスミド溶液を取得し、これをテンプレートにしてG418耐性遺伝子のフォワードプライマーであるプライマー19(配列番号30)及びGAP1ターミネーターの開始から156bp離れた箇所のリバースプライマーであるプライマー25(配列番号36)を用いてPCRを行った。PCR産物を電気泳動し、所望のサイズ(951bp)にバンドが生じたサンプル数からアセンブル効率を算出した(表4、条件5)。
<実施例3:形質転換酵母の取得、形質転換効率の算出、アセンブル効率の算出>
ベクターをアセンブルさせるために、製造例3で構築した緑色蛍光タンパク質発現自律複製型ベクターpUC-Cen2PgapGFPTgap1Zeo及びpUC-PARS1PgapGFPTgap1Zeo及び製造例4で構築したG418耐性遺伝子ベクター0_G418_0、30_G418_30、60_G418_60を用いて、以下のように実施例1で構築した配列番号25に示す塩基配列からなる遺伝子(DNL4遺伝子)が不活性化されたヒスチジン要求性形質転換酵母Δdnl4Δhis4株を形質転換した。
Δdnl4Δhis4株を3mlのYPD培地(1% yeast extract bacto(Becton Dickinson社製)、2% hipolypeptone(日本製薬社製)、2% glucose)に接種し、30℃で一晩振盪培養して、前培養液を得た。得られた前培養液500μlを50mlのYPD培地に接種し、OD600が1〜1.5になるまで振盪培養後、集菌(3000×g、10分、20℃)し、250μlの1M DTT(終濃度25mM)を含む10mlの50mMリン酸カリウムバッファー, pH7.5に再懸濁した。
この懸濁液を30℃で15分インキュベート後、集菌(3000×g、10分、20℃)し、予め氷冷した50mlのSTMバッファー(270mMスクロース、10mM Tris-HCl、1mM塩化マグネシウム、pH7.5)で洗浄した。洗浄液を集菌(3000×g、10分、4℃)し、25 mlのSTMバッファーで再度洗浄したのち、集菌(3000×g、10分、4℃)した。最終的に、250μlの氷冷STMバッファーに懸濁し、これをコンピテントセル溶液とした。
製造例3で構築した緑色蛍光タンパク質発現自律複製型ベクターpUC-Cen2PgapGFPTgap1Zeo又はpUC-PARS1PgapGFPTgap1Zeoを用いて大腸菌を形質転換し、得られた形質転換体を5mlのアンピシリン含有2YT培地(1.6% tryptone bacto(Becton Dickinson社製)、1% yeast extract bacto(Becton Dickinson社製)、0.5% 塩化ナトリウム、0.01%アンピシリンナトリウム(和光純薬工業社製))で培養し、得られた菌体からFastGene Plasmid Mini Kit(日本ジェネティクス社製)を用いて、pUC-Cen2PgapGFPTgap1Zeo又はpUC-PARS1PgapGFPTgap1Zeoを取得した。本プラスミドを緑色蛍光タンパク質遺伝子内のBsrGI認識配列を利用して、BsrGI処理により直鎖状にした。
このコンピテントセル溶液60μlと直鎖状のpUC-Cen2PgapGFPTgap1Zeo溶液(0.015 pmol)又はpUC-PARS1PgapGFPTgap1Zeo溶液(0.015 pmol)、G418耐性遺伝子ベクター0_G418_0又は30_G418_30又は60_G418_60(0.15 pmol又は0.75 pmol)を混合し、エレクトロポレーション用キュベット(ディスポキュベット電極、電極間隔2mm(ビーエム機器社製))に移し入れ、7.5kV/cm、25μF、200Ωに供した後、菌体を1mlのYPD培地で懸濁し、30℃で1時間静置した。1時間静置後、集菌(3000×g、5分、20℃)し、上清950μlを廃棄した。残った溶液で再懸濁後、YPDZeocin(商標)選択寒天プレート(1% yeast extract(Becton Dickinson社製)、2% hipolypeptone(日本製薬社製)、2% glucose、1.5%アガロース、0.01%Zeocin(商標)(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製))に塗布し、30℃、3日間の静置培養で生育する株を選択し、形質転換効率(ベクター1μgあたりのコロニー数、cfu/μg)を算出した(表4、条件6〜12)。
条件8及び9によって得られた形質転換酵母10株、条件10及び11によって得られた形質転換酵母20株、条件12によって得られた形質転換酵母10株をYPDZeocin(商標)選択寒天プレートに植菌し、30℃、1日間静置培養した。ベクターがアセンブルされているかどうかを確認するため、生育した株からカネカ 簡易DNA抽出キット version 2(カネカ社製)を用いて、染色体DNA及びプラスミド溶液を取得し、これをテンプレートにしてG418耐性遺伝子のフォワードプライマーであるプライマー19(配列番号30)及びGAP1ターミネーターの開始から156bp離れた箇所のリバースプライマーであるプライマー25(配列番号36)を用いてPCRを行った。PCR産物を電気泳動し、所望のサイズ(951bp)にバンドが生じたサンプル数からアセンブル効率を算出した(表4、条件8〜12)。
その結果、条件5のBsrGI処理により直鎖状にしたpUC-Cen2PgapGFPTgap1Zeo及び、GAPプロモーター及びGAP1ターミネーターと100%の配列同一性を有する60bpの塩基配列を含むように設計されているG418耐性遺伝子ベクター60_G418_60によるアセンブル効率は20%と低かった。これは、野生株は非相同末端結合活性を有するため、直鎖状にしたpUC-Cen2PgapGFPTgap1Zeoの自己環状化が生じ、60_G418_60と酵母内でのアセンブルが効率的に行われていないと考えられる。
条件6、7は、Δdnl4Δhis4株を宿主とした、BsrGI処理により直鎖状にしたpUC-Cen2PgapGFPTgap1Zeo及び、GAPプロモーター及びGAP1ターミネーターと配列同一性を有する塩基配列を含まないように設計されているG418耐性遺伝子ベクター0_G418_0の形質転換であるが、実施例3表3の結果と同様に、直鎖状にしたpUC-Cen2PgapGFPTgap1Zeoの自己環状化が抑えられていた。
一方、条件8〜11の直鎖状にしたpUC-Cen2PgapGFPTgap1Zeo及び、G418耐性遺伝子ベクター30_G418_30、60_G418_60によるアセンブル効率は高かった。これは、Δdnl4Δhis4株は配列番号25に示す塩基配列からなる遺伝子(DNL4遺伝子)が不活性化されたことによって非相同末端結合活性を失い、直鎖状にしたpUC-Cen2PgapGFPTgap1Zeoの自己環状化が完全に抑えられ、ベクターとベクターの酵母内でのアセンブルが効率よく行われたことを示唆している。
条件12の直鎖状にしたpUC-PARS1PgapGFPTgap1Zeo及び、G418耐性遺伝子ベクター60_G418_60によるアセンブル効率は高かった。これは、Δdnl4Δhis4株は配列番号25に示す塩基配列からなる遺伝子(DNL4遺伝子)が不活性化されたことによって非相同末端結合活性を失い、直鎖状にしたpUC-PARS1PgapGFPTgap1Zeoの自己環状化が完全に抑えられ、ARSの違いに関わらずベクターとベクターの酵母内でのアセンブルが効率よく行われたことを示唆している。
プライマー19(配列番号30)及びプライマー25(配列番号36)を用いたPCRによってベクターがアセンブルされていることを確認した株からEasy Yeast Plasmid Isolation Kit(クロンテック社製)を用いてプラスミド溶液を取得し、大腸菌E.coli HST08コンピテントセル(タカラバイオ社製)に導入した。得られた大腸菌形質転換体を培養して増幅することによってプラスミドを調製し、本プラスミドをシーケンス解析した結果、全てのサンプルにおいてBsrGI処理により直鎖状にしたpUC-Cen2PgapGFPTgap1Zeoの緑色蛍光タンパク質遺伝子がG418耐性遺伝子に置き換わっていることが分かった。
<比較例3:形質転換酵母の取得、形質転換効率の算出、アセンブル効率の算出>
ベクターをアセンブルさせるために、製造例5で構築したマルチクローニングサイトを有する自律複製型ベクターpUC-Cen2Paox1MCSTgap1Zeo及び製造例6で構築したFragment 1、Fragment 2、Fragment 3、Fragment 4、Fragment 5、PgapGFP1、GFP2を用いて、比較例2と同等の方法でコマガタエラ・パストリスATCC76273株野生株を形質転換した。
製造例5で構築したマルチクローニングサイトを有する自律複製型ベクターpUC-Cen2Paox1MCSTgap1Zeoを用いて大腸菌を形質転換し、得られた形質転換体を5mlのアンピシリン含有2YT培地(1.6% tryptone bacto(Becton Dickinson社製)、1% yeast extract bacto(Becton Dickinson社製)、0.5% 塩化ナトリウム、0.01%アンピシリンナトリウム(和光純薬工業社製))で培養し、得られた菌体からFastGene Plasmid Mini Kit(日本ジェネティクス社製)を用いて、pUC-Cen2Paox1MCSTgap1Zeoを取得した。本プラスミドをマルチクローニングサイト内のMluI認識配列を利用して、MluI処理により直鎖状にした。
比較例2で得たコンピテントセル溶液60μlと直鎖状のpUC-Cen2Paox1MCSTgap1Zeo溶液(0.015 pmol)、製造例6で構築したFragment 1溶液(0.15 pmol)、Fragment 2溶液(0.15 pmol)、Fragment 3溶液(0.15 pmol)、Fragment 4溶液(0.15 pmol)、Fragment 5溶液(0.15 pmol)、PgapGFP1溶液(0.15 pmol)、GFP2溶液(0.15 pmol)を混合し、エレクトロポレーション用キュベット(ディスポキュベット電極、電極間隔2mm(ビーエム機器社製))に移し入れ、7.5kV/cm、25μF、200Ωに供した後、菌体を1mlのYPD培地で懸濁し、30℃で1時間静置した。1時間静置後、集菌(3000×g、5分、20℃)し、上清950μlを廃棄した。残った溶液で再懸濁後、YPDZeocin(商標)選択寒天プレート(1% yeast extract(Becton Dickinson社製)、2% hipolypeptone(日本製薬社製)、2% glucose、1.5%アガロース、0.01%Zeocin(商標)(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製))に塗布し、30℃、3日間の静置培養で生育する株を選択し、形質転換効率(ベクター1μgあたりのコロニー数、cfu/μg)を算出した(表5、条件13)。
条件13によって得られた形質転換酵母10株をYPDZeocin(商標)選択寒天プレートに植菌し、30℃、1日間静置培養した。ベクターがアセンブルされているかどうかを確認するため、生育した株からカネカ 簡易DNA抽出キット version 2(カネカ社製)を用いて、染色体DNA及びプラスミド溶液を取得し、これをテンプレートにしてAOX1プロモーターの開始から920bp離れた箇所のフォワードプライマーであるプライマー44(配列番号65)及びGAP1ターミネーターの開始から156bp離れた箇所のリバースプライマーであるプライマー25(配列番号36)を用いてPCRを行った。PCR産物を電気泳動し、所望のサイズ(約12kbp)にバンドが生じたサンプル数からアセンブル効率を算出した(表5、条件13)。
条件13によって得られた形質転換酵母1123株から蛍光を発する株をカウントし、割合を算出した(表5、条件13)。
<実施例4:形質転換酵母の取得、形質転換効率の算出、アセンブル効率の算出>
ベクターをアセンブルさせるために、製造例5で構築したマルチクローニングサイトを有する自律複製型ベクターpUC-Cen2Paox1MCSTgap1Zeo及び製造例6で構築したFragment 1、Fragment 2、Fragment 3、Fragment 4、Fragment 5、PgapGFP1、GFP2を用いて、実施例3と同等の方法で、実施例1で構築した配列番号25に示す塩基配列からなる遺伝子(DNL4遺伝子)が不活性化されたヒスチジン要求性形質転換酵母Δdnl4Δhis4株を形質転換した。
製造例5で構築したマルチクローニングサイトを有する自律複製型ベクターpUC-Cen2Paox1MCSTgap1Zeoを用いて大腸菌を形質転換し、得られた形質転換体を5mlのアンピシリン含有2YT培地(1.6% tryptone bacto(Becton Dickinson社製)、1% yeast extract bacto(Becton Dickinson社製)、0.5% 塩化ナトリウム、0.01%アンピシリンナトリウム(和光純薬工業社製))で培養し、得られた菌体からFastGene Plasmid Mini Kit(日本ジェネティクス社製)を用いて、pUC-Cen2Paox1MCSTgap1Zeoを取得した。本プラスミドをマルチクローニングサイト内のMluI認識配列を利用して、MluI処理により直鎖状にした。
実施例3で得たコンピテントセル溶液60μlと直鎖状のpUC-Cen2Paox1MCSTgap1Zeo溶液(0.015 pmol)、製造例6で構築したFragment 1溶液(0.15 pmol)、Fragment 2溶液(0.15 pmol)、Fragment 3溶液(0.15 pmol)、Fragment 4溶液(0.15 pmol)、Fragment 5溶液(0.15 pmol)、PgapGFP1溶液(0.15 pmol)、GFP2溶液(0.15 pmol)を混合し、エレクトロポレーション用キュベット(ディスポキュベット電極、電極間隔2mm(ビーエム機器社製))に移し入れ、7.5kV/cm、25μF、200Ωに供した後、菌体を1mlのYPD培地で懸濁し、30℃で1時間静置した。1時間静置後、集菌(3000×g、5分、20℃)し、上清950μlを廃棄した。残った溶液で再懸濁後、YPDZeocin(商標)選択寒天プレート(1% yeast extract(Becton Dickinson社製)、2% hipolypeptone(日本製薬社製)、2% glucose、1.5%アガロース、0.01%Zeocin(商標)(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製))に塗布し、30℃、3日間の静置培養で生育する株を選択し、形質転換効率(ベクター1μgあたりのコロニー数、cfu/μg)を算出した(表5、条件14)。
条件14によって得られた形質転換酵母10株をYPDZeocin(商標)選択寒天プレートに植菌し、30℃、1日間静置培養した。ベクターがアセンブルされているかどうかを確認するため、生育した株からカネカ 簡易DNA抽出キット version 2(カネカ社製)を用いて、染色体DNA及びプラスミド溶液を取得し、これをテンプレートにしてAOX1プロモーターの開始から920bp離れた箇所のフォワードプライマーであるプライマー44(配列番号65)及びGAP1ターミネーターの開始から156bp離れた箇所のリバースプライマーであるプライマー25(配列番号36)を用いてPCRを行った。PCR産物を電気泳動し、所望のサイズ(約12kbp)にバンドが生じたサンプル数からアセンブル効率を算出した(表5、条件14)。
条件14によって得られた形質転換酵母561株から蛍光を発する株をカウントし、割合を算出した(表5、条件14)。
その結果、条件13のMluI処理により直鎖状にしたpUC-Cen2Paox1MCSTgap1Zeo及び、Fragment 1、Fragment 2、Fragment 3、Fragment 4、Fragment 5、PgapGFP1、GFP2によるアセンブル効率は20%、蛍光割合も13%と低かった。これは、野生株は非相同末端結合活性を有するため、直鎖状にしたpUC-Cen2Paox1MCSTgap1Zeoの自己環状化等が生じ、ベクターの酵母内でのアセンブルが効率的に行われていないと考えられる。
一方、条件14のMluI処理により直鎖状にしたpUC-Cen2Paox1MCSTgap1Zeo及び、Fragment 1、Fragment 2、Fragment 3、Fragment 4、Fragment 5、PgapGFP1、GFP2によるアセンブル効率100%、蛍光割合も95%と高かった。これは、Δdnl4Δhis4株は配列番号25に示す塩基配列からなる遺伝子(DNL4遺伝子)が不活性化されたことによって非相同末端結合活性を失い、直鎖状にしたpUC-Cen2Paox1MCSTgap1Zeoの自己環状化が完全に抑えられ、ベクターとベクターの酵母内でのアセンブルが効率よく行われたことを示唆している。
プライマー44(配列番号65)及びプライマー25(配列番号36)を用いたPCRによってベクターがアセンブルされていることを確認した株からEasy Yeast Plasmid Isolation Kit(クロンテック社製)を用いてプラスミド溶液を取得し、大腸菌E.coli HST08コンピテントセル(タカラバイオ社製)に導入した。得られた大腸菌形質転換体を培養して増幅することによってプラスミドを調製し、本プラスミドをシーケンス解析した結果、全てのサンプルにおいてMluI処理により直鎖状にしたpUC-Cen2Paox1MCSTgap1Zeoのマルチクローニングサイト領域にFragment 1、Fragment 2、Fragment 3、Fragment 4、Fragment 5、PgapGFP1、GFP2の7つの核酸断片が順に挿入されていることが分かった。
以上の結果から、本発明者らは、非相同末端結合に関するタンパク質DNL4をコードする遺伝子を不活性化することで、ベクターの自己環状化が完全に抑えられることを見出した。更に、高効率に酵母内でベクターのアセンブルが可能となることも見出した。すなわち、非相同末端結合に関わるDNL4の遺伝子が不活性化されたメタノール資化性酵母に二種類以上のベクターを導入する工程を含む形質転換法により、高効率に酵母内でベクターをアセンブルさせることに成功した。
<製造例7:ゲノム組込み用ベクターの構築>
GAPプロモーター(配列番号4)が連結された緑色蛍光タンパク質遺伝子(配列番号23)を含む核酸断片を、合成DNAをテンプレートにしてプライマー45(配列番号66)及びプライマー46(配列番号67)を用いたPCRにより調製し、Fragment G1(配列番号68)1309bpを構築した。
AOX1ターミネーターの下流にCCA38473ターミネーターの1-238番目の塩基配列を含む核酸断片を、合成DNAをテンプレートにしてプライマー47(配列番号69)及びプライマー48(配列番号70)を用いたPCRにより調製し、Fragment G2(配列番号71)584bpを構築した。
CCA38473ターミネーターの239-600番目の塩基配列の下流にプロモーターで制御されたG418耐性遺伝子(配列番号22)及びpUC19の塩基配列を含む核酸断片を、合成DNAをテンプレートにしてプライマー49(配列番号72)及びプライマー50(配列番号73)を用いたPCRにより調製し、Fragment G3(配列番号74)4095bpを構築した。
Fragment G1は上末端にFragment G3の下末端と100%の配列同一性を有する50bpの塩基配列を含み、下末端にFragment G2の上末端と100%の配列同一性を有する46bpの塩基配列を含むように設計されている。
Fragment G2は上末端にFragment G1の下末端と100%の配列同一性を有する46bpの塩基配列を含み、下末端にゲノムのCCA38473ターミネーターと100%の配列同一性を有する238bpの塩基配列を含むように設計されている。
Fragment G3は上末端にゲノムのCCA38473ターミネーターと100%の配列同一性を有する362bpの塩基配列を含み、下末端にFragment G1の上末端と100%の配列同一性を有する50bpの塩基配列を含むように設計されている。
各ベクターの関係を図1に示す。
<比較例4:形質転換酵母の取得、形質転換効率の産出、アセンブル効率の算出>
ベクターをアセンブルさせてゲノム組込みさせるために、製造例7で構築したFragment G1、Fragment G2、Fragment G3を用いて、比較例2と同等の方法でコマガタエラ・パストリスATCC76273株野生株を形質転換した。
比較例2で得たコンピテントセル溶液60μlと製造例7で構築したFragment G1溶液(0.3 pmol)、Fragment G2溶液(0.3 pmol)、Fragment G3溶液(0.015 pmol)を混合し、エレクトロポレーション用キュベット(ディスポキュベット電極、電極間隔2mm(ビーエム機器社製))に移し入れ、7.5kV/cm、25μF、200Ωに供した後、菌体を1mlのYPD培地で懸濁し、30℃で1時間静置した。1時間静置後、集菌(3000×g、5分、20℃)し、上清を廃棄した。1 mlのYNB溶液(0.17% Yeast Nitrogen Base without Amino Acids and Ammonium Sulfate(Becton Dickinson社製)、0.1% グルタミン酸ナトリウム(ナカライテスク社製))で再懸濁後、集菌(3000×g、5分、20℃)し、上清950μlを廃棄した。残った溶液で再懸濁後、SDG418選択寒天プレート(0.17% Yeast Nitrogen Base without Amino Acids and Ammonium Sulfate(Becton Dickinson社製)、0.1% グルタミン酸ナトリウム(ナカライテスク社製)、2% glucose、1.5%アガロース、0.05% G418二硫酸塩(ナカライテスク社製))に塗布し、30℃、3日間の静置培養で生育する株を選択し、形質転換効率(ベクター1μgあたりのコロニー数、cfu/μg)を算出した(表6、条件15)。
条件15によって得られた形質転換酵母24株をSDG418選択寒天プレートに植菌し、30℃、1日間静置培養した。ベクターがアセンブルされているかどうかを確認するため、生育した株からカネカ 簡易DNA抽出キット version 2(カネカ社製)を用いて、染色体DNAを取得し、これをテンプレートにしてCCA38473ターミネーターの上流のフォワードプライマーであるプライマー51(配列番号75)及びCCA38473ターミネーターの下流のリバースプライマーであるプライマー52(配列番号76)を用いてPCRを行った(図1)。PCR産物を電気泳動し、所望のサイズ(約7kbp)にバンドが生じたサンプル数からアセンブル効率を算出した(表6、条件15)。
<実施例5:形質転換酵母の取得、形質転換効率の算出、アセンブル効率の算出>
ベクターをアセンブルさせてゲノム組込みさせるために、製造例7で構築したFragment G1、Fragment G2、Fragment G3を用いて、実施例3と同等の方法で、実施例1で構築した配列番号25に示す塩基配列からなる遺伝子(DNL4遺伝子)が不活性化されたヒスチジン要求性形質転換酵母Δdnl4Δhis4株を形質転換した。
実施例3で得たコンピテントセル溶液60μlと製造例7で構築したFragment G1溶液(0.3 pmol)、Fragment G2溶液(0.3 pmol)、Fragment G3溶液(0.015 pmol)を混合し、エレクトロポレーション用キュベット(ディスポキュベット電極、電極間隔2mm(ビーエム機器社製))に移し入れ、7.5kV/cm、25μF、200Ωに供した後、菌体を1mlのYPD培地で懸濁し、30℃で1時間静置した。1時間静置後、集菌(3000×g、5分、20℃)し、上清を廃棄した。1 mlのYNB溶液(0.17% Yeast Nitrogen Base without Amino Acids and Ammonium Sulfate(Becton Dickinson社製)、0.1% グルタミン酸ナトリウム(ナカライテスク社製))で再懸濁後、集菌(3000×g、5分、20℃)し、上清950μlを廃棄した。残った溶液で再懸濁後、SDG418His選択寒天プレート(0.17% Yeast Nitrogen Base without Amino Acids and Ammonium Sulfate(Becton Dickinson社製)、0.1% グルタミン酸ナトリウム(ナカライテスク社製)、2% glucose、1.5%アガロース、0.05% G418二硫酸塩(ナカライテスク社製)、0.004% L-ヒスチジン(和光純薬社製))に塗布し、30℃、3日間の静置培養で生育する株を選択し、形質転換効率(ベクター1μgあたりのコロニー数、cfu/μg)を算出した(表6、条件16)。
条件16によって得られた形質転換酵母24株をSDG418His選択寒天プレートに植菌し、30℃、1日間静置培養した。ベクターがアセンブルされているかどうかを確認するため、生育した株からカネカ 簡易DNA抽出キット version 2(カネカ社製)を用いて、染色体DNAを取得し、これをテンプレートにしてCCA38473ターミネーターの上流のフォワードプライマーであるプライマー51(配列番号75)及びCCA38473ターミネーターの下流のリバースプライマーであるプライマー52(配列番号76)を用いてPCRを行った(図1)。PCR産物を電気泳動し、所望のサイズ(約7kbp)にバンドが生じたサンプル数からアセンブル効率を算出した(表6、条件16)。
その結果、条件15のFragment G1、Fragment G2、Fragment G3によるアセンブル効率は62.5%であった。これは、野生株は非相同末端結合活性を有するため、ベクターの自己環状化等が生じ、ベクターの酵母内でのアセンブルが効率的に行われていないと考えられる。また、ベクターの目的外へのゲノム組込みが起きていると考えられる。
一方、条件16のFragment G1、Fragment G2、Fragment G3によるアセンブル効率は100%と高かった。これは、Δdnl4Δhis4株は配列番号25に示す塩基配列からなる遺伝子(DNL4遺伝子)が不活性化されたことによって非相同末端結合活性を失い、ベクターの自己環状化が完全に抑えられ、ベクターとベクターの酵母内でのアセンブルが効率よく行われ、目的のゲノム箇所に組込まれたことを示唆している。
以上の結果から、本発明者らは、ゲノム組込みを目的とする形質転換法においても、非相同末端結合に関するタンパク質DNL4をコードする遺伝子を不活性化することで、高効率に酵母内でベクターをアセンブルさせることに成功した。
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