JPWO2018235369A1 - 絶縁電線およびワイヤーハーネス - Google Patents

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Abstract

高い耐摩耗性を有する樹脂組成物よりなる絶縁被覆を備えた絶縁電線、およびそのような絶縁電線を備えたワイヤーハーネスを提供する。電線導体12と、電線導体12の外周を被覆する絶縁被覆14と、を有し、絶縁被覆14が、熱可塑性ポリエステルエラストマーを主成分とする樹脂組成物よりなる絶縁電線10とする。また、そのような絶縁電線10を含むワイヤーハーネスとする。絶縁被覆14の厚さは、0.7mm未満であるとよい。

Description

本発明は、絶縁電線およびワイヤーハーネスに関し、さらに詳しくは、自動車等の電気接続に好適に用いることができる絶縁電線、およびそのような絶縁電線を含むワイヤーハーネスに関する。
絶縁電線においては、配策性を確保する観点から、高い柔軟性を有することが、しばしば求められる。特に、自動車内の電気接続に用いられる絶縁電線においては、近年の自動車の高機能化および高性能化に伴い、限られた空間に配策されることや、複雑な経路で取り回されることも増えており、柔軟性に対する要求が大きくなっている。
絶縁電線の柔軟性を高める手段として、絶縁被覆を薄くするという方法が取られる場合がある。絶縁被覆を薄くすることは、絶縁電線の細径化による省スペース化にも寄与する。しかし、絶縁被覆を薄くすると、絶縁被覆の耐摩耗性を確保することが難しくなる。自動車内のように、頻繁に振動や他の部材との接触に晒される過酷な環境で絶縁電線を使用する際には、絶縁被覆が高い耐摩耗性を有することが特に重要である。
絶縁電線の柔軟性を高める別の手段として、絶縁被覆を構成する樹脂組成物として柔軟性の高いものを選択するという方法も用いられる。しかし、多くの樹脂材料において、柔軟性を高めるべく成分組成を設定すると、十分な耐摩耗性を確保できないことが多い。
従来一般に、自動車用電線の絶縁被覆材としては、ポリ塩化ビニル(PVC)を主成分とするものが多用されているが、PVC自体は耐摩耗性の高い材料ではない。そこで、絶縁被覆において、PVCを主成分とする樹脂組成物の耐摩耗性を改善する方法として、例えば特許文献1においては、PVCに所定量の可塑剤を含有させることで、耐摩耗性と柔軟性の両立を図っている。しかし、可塑剤の含有量の調整によって絶縁被覆の耐摩耗性を大きく改善することは困難である。
また、特許文献2においては、PVCに可塑剤を添加した電線被覆材料に、ポリエステルエラストマーやメチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン樹脂を含有させることで、耐摩耗性等の向上を図っている。しかし、これらの樹脂成分をPVC樹脂に添加することによる耐摩耗性向上の効果は限定的であり、また、耐摩耗性を向上させることができたとしても、絶縁被覆の柔軟性を十分に確保し、耐摩耗性と両立させることは困難である。
特開2014−43508号公報 特開平6−223630号公報
上記のように、絶縁電線の柔軟性を高めるための方法の1つとして、絶縁被覆を薄く形成する薄肉化の手法が用いられており、絶縁被覆の薄肉化は、絶縁電線の細径化の観点からも有用であるが、絶縁被覆を薄肉化すれば、絶縁被覆の耐摩耗性を確保することが難しくなる。そこで、絶縁被覆を薄肉化した際にも、十分な耐摩耗性を確保する観点から、絶縁被覆を構成する樹脂組成物自体の特性として、高い耐摩耗性を有するものが求められる。
本発明の課題は、高い耐摩耗性を有する樹脂組成物よりなる絶縁被覆を備えた絶縁電線、およびそのような絶縁電線を備えたワイヤーハーネスを提供することにある。
上記課題を解決するため、本発明にかかる絶縁電線は、電線導体と、前記電線導体の外周を被覆する絶縁被覆と、を有し、前記絶縁被覆は、熱可塑性ポリエステルエラストマーを主成分とする樹脂組成物よりなる、というものである。
ここで、前記絶縁被覆の厚さは、0.7mm未満であるとよい。また、前記樹脂組成物の引張破断エネルギーは、200mJ/mm以上であるとよい。前記熱可塑性ポリエステルエラストマーの硬度は、ショアD硬度で、60以下であるとよい。前記熱可塑性ポリエステルエラストマーの融点は、200℃以下であるとよい。前記電線導体の導体断面積は、3mm以上、20mm以下であるとよい。
本発明にかかるワイヤーハーネスは、上記のような絶縁電線を含むものである。
上記発明にかかる絶縁電線においては、絶縁被覆が、熱可塑性ポリエステルエラストマーを主成分とする樹脂組成物より構成されている。これにより、絶縁被覆が、材料特性として、高い耐摩耗性を有する。その結果として、絶縁電線の柔軟性の向上や細径化を目指して絶縁被覆を薄く形成する場合にも、絶縁被覆において、十分な耐摩耗性を確保しやすい。熱可塑性ポリエステルエラストマーは、材料自体としての柔軟性にも優れており、そのことも、絶縁被覆における耐摩耗性と柔軟性の両立に寄与する。
ここで、絶縁被覆の厚さが、0.7mm未満である場合には、絶縁被覆の薄さにより、絶縁電線が高い柔軟性を有するものとなる。また、絶縁電線の細径化を達成しやすい。そして、このように絶縁被覆を薄くしても、絶縁被覆を構成する樹脂組成物が熱可塑性ポリエステルエラストマーを主成分とすることの効果により、十分な耐摩耗性を柔軟性と両立しやすい。
また、樹脂組成物の引張破断エネルギーが、200mJ/mm以上である場合には、引張破断エネルギーの大きさが、樹脂組成物の耐摩耗性の高さを示す良い指標となることから、絶縁被覆において、高い耐摩耗性を達成しやすい。
熱可塑性ポリエステルエラストマーの硬度が、ショアD硬度で、60以下である場合には、絶縁被覆の耐摩耗性を特に高めやすい。また、絶縁被覆の柔軟性も高めやすい。
熱可塑性ポリエステルエラストマーの融点が、200℃以下である場合には、熱可塑性ポリエステルエラストマーが、特に高い耐摩耗性を与えるものとなりやすい。
電線導体の導体断面積が、3mm以上、20mm以下である場合には、樹脂組成物の高い耐摩耗性を利用して絶縁被覆を薄肉化した際に、薄肉化による絶縁電線の細径化の効果と、柔軟性向上の効果を、ともに高く得ることができる。
上記発明にかかるワイヤーハーネスは、上記のような絶縁電線を含むことにより、絶縁電線の絶縁被覆を薄肉化しても、絶縁被覆の耐摩耗性を確保しやすい。絶縁被覆を薄肉化することで、絶縁電線の柔軟性の向上および細径化を行えば、ワイヤーハーネス全体としての柔軟性の向上や省スペース化にもつながる。
本発明の一実施形態にかかる絶縁電線を示す図であり、(a)は斜視図、(b)は周方向断面図である。 引張破断エネルギー測定時のSSカーブの例であり、実施例B3の試料に対して測定したものである。 実施例について、引張破断エネルギーと耐摩耗性評価結果の関係性を示す図である。
以下、図面を用いて本発明の一実施形態にかかる絶縁電線およびワイヤーハーネスについて、詳細に説明する。
[絶縁電線の概略]
まず、本発明の一実施形態にかかる絶縁電線の概略について説明する。なお、本明細書において、材料の各種物性は、特記しない限り、室温、大気中にて測定される値を指すものとする。
図1に、本発明の一実施形態にかかる絶縁電線の概略を示す。図1に示すように、絶縁電線10は、電線導体12と、電線導体12の外周を被覆する絶縁被覆14とを備えている。絶縁電線10は、絶縁被覆14となる樹脂組成物を電線導体12の外周に押出被覆することにより、得ることができる。
絶縁被覆14は、後に詳しく説明するように、熱可塑性ポリエステルエラストマーを主成分とする樹脂組成物よりなっている。絶縁被覆14は、そのような樹脂組成物よりなることにより、高い耐摩耗性を有している。絶縁被覆14が高い耐摩耗性を有する樹脂組成物よりなることで、絶縁電線10の柔軟性の向上および細径化等を目的として絶縁被覆14を薄肉化した際にも、絶縁被覆14の耐摩耗性を確保することができる。
絶縁被覆14の厚さは、0.7mm未満であることが好ましい。それにより、絶縁電線10において、柔軟性の向上と細径化を達成しやすい。絶縁被覆14の厚さは、0.5mm以下であると、さらに好ましい。一方、耐摩耗性をはじめとする絶縁被覆14の機械的特性を確保しやすくする観点から、絶縁被覆14の厚さは、0.3mm以上であることが好ましい。絶縁被覆14の厚さに分布がある場合には、平均の厚さが上記のような範囲となるようにすればよい。
電線導体12としては、銅を用いることが一般的であるが、銅以外にも、アルミニウム、マグネシウムなどの金属材料を用いることもできる。これらの金属材料は、合金であってもよい。合金とするための他の金属材料としては、鉄、ニッケル、マグネシウム、シリコン、これらの組み合わせなどが挙げられる。
中でも、電線導体12として、アルミニウムまたはアルミニウム合金を用いる場合には、一般的に電線導体に用いられる銅や銅合金よりも導電率が低いため、必要な導電性を確保しようとすれば、電線導体12の外径が大きくなりやすい。よって、耐摩耗性の高い材料を用いて絶縁被覆14を薄く形成できるようにすることで、絶縁電線10全体を細径化することの意義が、特に大きくなる。
電線導体12は、単線から構成されていても、複数本の素線12aを撚り合わせてなる撚線から構成されていてもよい。絶縁電線10の柔軟性を確保する観点からは、電線導体12が撚線よりなることが好ましい。この場合に、撚線を構成する素線12aの外径が、0.45mm以下であると、撚線全体としての柔軟性を特に確保しやすい。
電線導体12の導体断面積は、特に指定されるものではないが、3mm以上であることが好ましい。導体断面積が3mm未満であると、絶縁被覆14を薄肉化したとしても、相対的に、絶縁電線10全体としての細径化の効果が乏しくなるが、導体断面積が3mm以上であれば、絶縁被覆14の薄肉化による細径化が効果的に達成される。電線導体12の導体断面積が3mm以上である絶縁電線は、一般に太物と称されるものであり、従来一般のPVC樹脂を用いて絶縁被覆を構成する場合には、耐摩耗性を確保するために、絶縁被覆の厚さは、通常は0.8mm以上とされる。しかし、上記のように、耐摩耗性の高い樹脂組成物を用いて絶縁被覆14の厚さを0.7mm未満に抑えることで、そのような従来一般のPVC樹脂被覆を有する太物絶縁電線からの細径化を、確実に達成できる。より好ましくは、電線導体12の導体断面積は、8mm以上であるとよい。
一方、電線導体12の導体断面積は、20mm以下であることが好ましい。導体断面積が20mmを超えると、電線導体12自体の柔軟性が低くなりすぎ、薄肉化によって絶縁被覆14の柔軟性を高めたとしても、絶縁電線10全体として十分な柔軟性を確保することが難しくなるが、導体断面積が20mm以下であれば、絶縁被覆14の薄肉化による絶縁電線10の柔軟性の向上を効果的に達成することができる。より好ましくは、電線導体12の導体断面積は、16mm以下であるとよい。絶縁被覆14の厚さと電線導体12の導体断面積としては、任意の組み合わせを選択すればよく、絶縁被覆14を薄くするほど、また電線導体12の導体断面積を小さくするほど、絶縁電線10としての柔軟性を高めることができる。しかし、絶縁被覆14の薄さと導体断面積の小ささを絶縁電線10全体の柔軟性の向上にともに効果的に寄与させる観点から、導体断面積が、3mm等、8mm以下である場合には、絶縁被覆14の厚さを0.4mm以下とすることが好ましい。一方、導体断面積が、20mm等、8mmを超えていれば、絶縁被覆14の厚さを0.7mm未満とすることが好ましい。
本実施形態にかかる絶縁電線10は、用途を特に限定されるものではないが、自動車用、機器用、情報通信用、電力用、船舶用、航空機用など各種電線として利用することができる。特に自動車用電線として好適に利用できる。自動車用電線においては、省スペース化等の観点から取り回しの自由度が必要となり、高い柔軟性が要求される。同じく省スペース化の観点から、電線の細径化も求められる。特に導体断面積の大きい電線では、柔軟性に対する要求が大きい。また、自動車用電線においては、組み立て時の車両本体や他の部品との接触、また使用時の車両本体や他の電線との摩擦が生じやすく、優れた耐摩耗性が必要となる。本実施形態にかかる絶縁電線10においては、絶縁被覆14が高い耐摩耗性を有する樹脂組成物よりなることにより、十分な耐摩耗性を保ったまま絶縁被覆14を薄肉化し、柔軟性と耐摩耗性を両立すること、また絶縁電線10を細径化することが可能である。
本実施形態にかかる絶縁電線10は、単線の状態で用いても、複数の絶縁電線を含むワイヤーハーネスの形態で用いてもよい。ワイヤーハーネスを構成する全ての絶縁電線が本実施形態にかかる絶縁電線10よりなっても、その一部が本実施形態にかかる絶縁電線10よりなってもよい。本実施形態にかかる絶縁電線10において、耐摩耗性を確保しながら絶縁被覆14を薄肉化して、絶縁電線10の柔軟化および細径化を行うことで、絶縁電線10を含むワイヤーハーネス全体としての柔軟性の向上および省スペース化にも寄与することができる。
[絶縁被覆を構成する樹脂組成物]
次に、本実施形態にかかる絶縁電線10の絶縁被覆14を構成する樹脂組成物について、詳細に説明する。
絶縁被覆14を構成する樹脂組成物は、上記のように、熱可塑性ポリエステルエラストマーを主成分としてなる。ここで、熱可塑性ポリエステルエラストマーを主成分としてなるとは、樹脂組成物を構成する高分子成分のうちで、熱可塑性ポリエステルエラストマーの含有量が最も多いということである。高分子成分のうちの50質量%以上を熱可塑性ポリエステルエラストマーが占めることが好ましく、80質量%以上を占めるとさらに好ましい。高分子成分が熱可塑性ポリエステルエラストマーのみよりなることが、特に好ましい。
熱可塑性ポリエステルエラストマーは、分子構造中にハードセグメントとソフトセグメントを有し、ハードセグメントがポリエステル単位よりなる。ソフトセグメントの種類は特に限定されるものではなく、ポリエーテル系、またはポリエステル系の構造よりなるものを例示することができる。樹脂組成物中に含有される熱可塑性ポリエステルエラストマーは、単一の種類のみよりなっても、複数種が混合されたものであってもよい。
熱可塑性ポリエステルエラストマーは、優れた耐摩耗性を有する材料であり、絶縁被覆14を構成する樹脂組成物が熱可塑性ポリエステルエラストマーを主成分としてなることにより、樹脂組成物が、材料特性として、高い耐摩耗性を有する。その結果、上記のように、絶縁電線10の柔軟性の向上や細径化の観点から絶縁被覆14を薄肉化した場合でも、絶縁被覆14において、高い耐摩耗性を確保することができる。また、熱可塑性ポリエステルエラストマーは、耐摩耗性に加え、柔軟性にも優れるので、材料自体の特性の効果も、絶縁被覆14の薄肉化の効果と併せて、絶縁電線10の柔軟性の向上に寄与しうる。
また、熱可塑性ポリエステルエラストマーの硬度は、ショアD硬度で、60以下であるとよい。熱可塑性ポリエステルエラストマーが、そのような硬度を有することで、絶縁被覆14が特に優れた耐摩耗性を有するものとなる。熱可塑性ポリエステルエラストマーの硬度がショアD硬度で60以下のように低い場合には、絶縁被覆14の摩耗現象において、熱可塑性ポリエステルエラストマーの有する材料特性の寄与が大きくなるためであると推定される。また熱可塑性ポリエステルエラストマーの硬度が低く抑えられていることで、樹脂組成物の材料特性としての柔軟性も向上されやすい。さらに好ましくは、熱可塑性ポリエステルエラストマーの硬度は、ショアD硬度で、40以下であるとよい。熱可塑性ポリエステルエラストマー単独の状態のみならず、絶縁被覆14を構成する樹脂組成物全体としても、ショアD硬度で60以下、また40以下の硬度を有することが好ましい。
さらに、高い耐摩耗性を確保する観点から、熱可塑性ポリエステルエラストマーの融点は、200℃以下であることが好ましい。これは、融点が低いほど、分子の相互作用が弱く、吸収されるエネルギーが大きくなるためであると考えられる。さらに好ましくは、融点は190℃以下であるとよい。
絶縁被覆14を構成する樹脂組成物は、熱可塑性ポリエステルエラストマーが有する耐摩耗性を大きく損なわない限りにおいて、熱可塑性ポリエステルエラストマー以外の成分を適宜含有してもよい。熱可塑性ポリエステルエラストマー以外の成分としては、他の高分子成分および添加剤が挙げられる。
樹脂組成物に含有させうる他の高分子成分は、特に限定されるものではないが、耐摩耗性改善効果が期待される高分子成分として、以下のようなものを例示することができる。いずれも、含有量は、熱可塑性ポリエステルエラストマー100質量部に対して、5質量部以下であることが好ましい。
・他の熱可塑性エラストマー:特に、マレイン酸変性スチレン・エチレン・ブチレン・スチレンブロック共重合体(SEBS)、アミン変性SEBS等、スチレン系熱可塑性エラストマー
・オキサゾリン変性ポリスチレン(PS)
樹脂組成物に含有させうる添加剤も、特に限定されるものではなく、酸化防止剤、難燃剤など、電線被覆用の樹脂組成物に通常含有されうる添加剤を、適宜含有させることができる。中でも、耐摩耗性改善効果が期待される添加剤として、以下のようなものを例示することができる。
・カルボジイミド基含有化合物(熱可塑性ポリエステルエラストマー100質量部に対して5質量部以下が好ましい)
・炭酸カルシウム、タルク、クレー、シリカ等の無機フィラー
なお、樹脂組成物には可塑剤を添加してもよい。しかし、可塑剤の添加により、熱可塑性ポリエステルエラストマーの柔軟性が多少向上する効果は得られるものの、耐摩耗性が大きく低下しやすいため、耐摩耗性の維持の観点からは、可塑剤は添加しない方が好ましい。
絶縁被覆14を構成する樹脂組成物は、150mJ/mm以上の引張破断エネルギーを有することが好ましい。後述するように、樹脂組成物の引張破断エネルギーは、耐摩耗性を評価する良い指標となり、樹脂組成物が200mJ/mm以上の引張破断エネルギーを有することで、絶縁被覆14を薄肉化した場合にも、高い耐摩耗性を確保しやすい。樹脂組成物の引張破断エネルギーは、200mJ/mm以上、さらには400mJ/mm以上、また500mJ/mm以上であると、より好ましい。また、樹脂組成物全体としてだけでなく、主成分である熱可塑性ポリエステルエラストマー単独でも、150mJ/mm以上、また200mJ/mm以上、400mJ/mm以上、500mJ/mm以上の引張破断エネルギーを有することが好ましい。
[引張破断エネルギーによる耐摩耗性の評価]
樹脂組成物の引張破断エネルギーは、耐摩耗性との間に高い相関性を有しており、引張破断エネルギーの大きい樹脂組成物を、高い耐摩耗性を有するとみなすことができる。
引張破断エネルギーは、直接的には、材料を引張った際に、破断するまでに材料に与えられるエネルギーの大きさを示すものである。樹脂組成物の引張破断エネルギーは、例えば、JIS K 7161に準拠した引張試験によって評価することができる。樹脂組成物よりなる試料の長さ方向に沿った2か所をチャックにて把持し、試料を引張る荷重をチャック間に印加する。この際、試料が破断するまでの単位面積あたりの印加荷重(応力、単位:MPa)と伸び(ひずみ、単位:無次元)の関係を記録する。そして、図2に例示するように、単位面積当たりの印加荷重を縦軸に、伸びを横軸にとって、SSカーブ(応力−ひずみカーブ)を作成する。その上で、破断時までのSSカーブの下側の面積(SSカーブと、横軸と、破断点を通る縦線とに囲まれた領域の面積)を算出し、得られた値を樹脂材料の引張破断エネルギー(単位:mJ/mm)とする。
引張試験を行う際の試料としては、例えば、長さ100mm程度の絶縁電線10から、電線導体12を抜き取ったものを用いればよい。また、試験の条件として、チャック間距離20mm、引張速度200mm/min.を例示することができる。上記で、熱可塑性ポリエステルエラストマーを主成分とする樹脂組成物について好ましい値として挙げた150mJ/mm以上等の引張破断エネルギーも、そのような条件で測定されうるものである。
引張破断エネルギーは、直接的には、引張りに対する材料の強度を示すものであり、一般的に耐摩耗性の指標として用いられるものではない。しかし、後の実施例に示すように、引張破断エネルギーと耐摩耗性の間には、正の相関があり、引張破断エネルギーを耐摩耗性の指標として用いることができる。これは、引張破断エネルギーが、絶縁電線10の表面の樹脂材料を削り取る際に消費されるエネルギーと相間を有することに起因すると考えられる。
耐摩耗性は、実際の試料に対して摩擦等の刺激を加え、摩耗の程度を観察するという摩耗試験によって直接的に評価することも可能である。しかし、その代わりに、あるいはそれに加えて、引張試験による引張破断エネルギーの測定を行い、耐摩耗性の指標とすることで、より簡便に、また正確に、樹脂材料の耐摩耗性を、評価、予測することができる。なお、引張試験において得られるパラメータである、破断時の伸びの値(引張破断伸び)や印加荷重の値(引張破断強度)、また引張弾性率(SSカーブの立ち上がり部の勾配)は、耐摩耗性との間に、引張破断エネルギーの場合のような相関性を示さず、これらのパラメータは耐摩耗性を評価するための指標とはなりにくい。
引張破断エネルギーと耐摩耗性の間の相関性を利用して、上記のような熱可塑性ポリエステルエラストマーを主成分とする樹脂組成物に限らず、絶縁電線10の絶縁被覆14として、高い耐摩耗性を有する樹脂組成物を見極めることができる。つまり、絶縁電線10における絶縁被覆14の薄肉化等を目的として、高い耐摩耗性を有する材料よりなる絶縁被覆14を得ようとする場合に、所望される耐摩耗性を与えるような引張破断エネルギーの閾値を設定し、その閾値以上の引張破断エネルギーを有する樹脂組成物を用いればよい。後の実施例に示すように、引張破断エネルギーと耐摩耗性の関係性は、樹脂組成物の種類(主成分たる高分子材料の種類)を超えて、単一の相関関数(直線または曲線)に近似することができるので、所定の閾値以上の引張破断エネルギーを有する樹脂組成物を用いれば、樹脂組成物の成分組成の詳細によらず、所望の高い耐摩耗性を有する絶縁被覆14を得ることが可能となる。
具体的な引張破断エネルギーの閾値は、所望される耐摩耗性の程度に応じて適宜選択すればよい。例えば、絶縁電線10の柔軟性の向上や細径化を目的として、従来一般のPVC樹脂よりなる絶縁被覆と比較して、絶縁被覆14全体としての耐摩耗性を同程度に維持しながら、絶縁被覆14の厚さを小さくするという需要が想定される。絶縁被覆14全体としての耐摩耗性は、絶縁被覆14が厚くなるほど高くなるので、従来より厚さの薄い絶縁被覆14において、同程度の耐摩耗性を達成しようとすれば、材料特性(厚さによらない材料自体の特性)としての耐摩耗性を示す引張破断エネルギーを、従来より高くすればよい。
以下に本発明の実施例を示す。なお、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。
[試験A:熱可塑性ポリエステルエラストマーを主成分とする絶縁被覆の特性]
[試験方法]
(1)試料の作製
導体断面積3mm(素線径0.32mm、素線数37)と、導体断面積20mm(素線径0.32mm、素線数19/13)のアルミニウム撚線導体を準備した。それぞれの撚線導体の外周に、表1,2に示す成分よりなる樹脂組成物を所定の厚さで押出成形し、絶縁電線を作製した。
各実施例および比較例において使用した材料は以下のとおりである。各実施例においては、それぞれの熱可塑性ポリエステルエラストマーをそのまま樹脂組成物として用い、各比較例においては、表2のとおり、各成分を混練して樹脂組成物として用いた。表2では、各成分の含有量を、質量部を単位として示している。
(熱可塑性ポリエステルエラストマー)
・TPEE1(ショアD硬度 27;融点 160℃):東レ・デュポン(株)製「ハイトレル3046」
・TPEE2(ショアD硬度 47;融点 200℃):東レ・デュポン(株)製「ハイトレル4777」
・TPEE3(ショアD硬度 53;融点 208℃):東レ・デュポン(株)製「ハイトレル5577」
・TPEE4(ショアD硬度 72;融点 219℃):東レ・デュポン(株)製「ハイトレル7277」
(他の材料)
・ポリ塩化ビニル(PVC):新第一塩ビ(株)製「ZEST1300Z」(重合度1300)
・可塑剤:DIC(株)製「モノサイザーW−700」(トリメリット酸エステル)
・非鉛系熱安定剤:(株)ADEKA製「RUO−110」(Ca−Zn系)
・増量剤:丸尾カルシウム(株)製「スーパー1700」(炭酸カルシウム)
(2)引張破断エネルギーの評価
各実施例および比較例にかかる絶縁電線を、長さ100mmに切り出し、電線導体を抜き取って、絶縁被覆のみの状態とした。そして、その絶縁被覆を試料とし、引張試験により、引張破断エネルギーを見積もった。つまり、試料の長さ方向に沿った2か所をチャックで保持し、チャック間距離20mm、引張速度200mm/minにて、引張試験を行った。そして、SSカーブを作成したうえで、破断時までのSSカーブの下側の面積を算出し、引張破断エネルギーとした。なお、引張破断エネルギーは、絶縁電線の製造条件のばらつき等の要因により、誤差の影響を受けやすく、別に製造した同様の試料において、20%程度の誤差が生じうることを確認している。
(3)耐摩耗性の評価
ISO6722に準拠したテープ摩耗試験により、耐摩耗性の評価を行った。つまり、各実施例および比較例にかかる絶縁電線の外周に、テープ状サンドペーパーを荷重1500gで押し付け、電線導体が露出するまでのテープの移動距離を計測した。移動距離が大きいほど耐摩耗性に優れており、導体断面積が3mmの試料については、移動距離が600mm以上であれば耐摩耗性に優れる「A」とし、200mm以上600mm未満であれば耐摩耗性良好「B」とし、200mm未満であれば耐摩耗性不十分「C」と判定した。また、導体断面積が20mmの試料については、移動距離が2000mm以上であれば耐摩耗性に優れる「A」とし、1000mm以上2000mm未満であれば耐摩耗性良好「B」とし、1000mm未満であれば耐摩耗性不十分「C」と判定した
(4)柔軟性の評価
以下のようにして、各実施例および比較例にかかる絶縁電線の柔軟性を評価した。まず、長さ400mmに切り出した各絶縁電線を、両端から75mmの位置で、曲げ半径が90mmとなるように固定した。そして、それら固定部の中間の位置において、絶縁電線に、50mm/min.の速度で、垂直方向の曲げを加えた。この際、導体断面積が3mmの試料については、曲げ半径を22.5mmとし、導体断面積が20mmの試料については、曲げ半径を45mmとした。そして、曲げを加えた際の反発力をロードセルによって計測した。反発力が小さいほど柔軟性が高く、導体断面積が3mmの試料については、反発力が2N未満であれば柔軟性が高い「A」、2N以上であれば柔軟性が低い「B」と評価した。導体断面積が20mmの試料については、反発力が10N未満であれば柔軟性が高い「A」、10N以上であれば柔軟性が低い「B」と評価した。
[結果]
表1,2に、各実施例および各比較例について、絶縁電線の構成とともに、引張破断エネルギー、耐摩耗性、柔軟性の各評価結果を示す。
Figure 2018235369
Figure 2018235369
まず、表2の比較例A1〜A4においては、いずれも、絶縁被覆の高分子成分がポリ塩化ビニルよりなることにより、耐摩耗性が不十分となってしまっている。50mJ/mm以下と小さい引張破断エネルギーも、耐摩耗性の低さと対応している。可塑剤の配合量の多い比較例A2,A4においては、柔軟性はある程度高くなっているものの、可塑剤の配合量が少ない比較例A1,A3においては、耐摩耗性に加え、柔軟性も低くなってしまっている。
一方、表1の実施例A1〜A8においては、いずれも、絶縁被覆が熱可塑性ポリエステルエラストマーよりなることにより、良好な耐摩耗性が得られている。耐摩耗性の高さは、各比較例と比べて引張破断エネルギーが大きいこととも対応している。さらに、絶縁被覆の厚さが同じである実施例A1〜A4を相互に比較すると、引張破断エネルギーが大きいほど、耐摩耗性が高くなっている。それらの中で、熱可塑性ポリエステルエラストマーの融点が200℃以下である実施例A1,A2では、特に高い耐摩耗性が達成されている。なお、引張弾性率は、耐摩耗性との間に明確な相関性を示していない。
絶縁電線の柔軟性は、絶縁被覆の厚さに依存し、絶縁被覆の厚さが0.7mm未満である実施例A1〜A6おいては、高い柔軟性が達成されている。絶縁電線の柔軟性は、導体断面積には大きな依存性を示していない。
[試験B:絶縁被覆の引張破断エネルギーと耐摩耗性の関係]
[試験方法]
(1)試料の作製
上記試験Aと同様にして、絶縁電線を作製した。ここでは、導体断面積を3mm、絶縁被覆の厚さを0.7mmとした。
各試料の絶縁被覆は、表3に示した樹脂材料より構成した。ここで、試料B8で用いているポリ塩化ビニルは、上記試験Aの比較例A2,A4の樹脂組成物と同じものである。また、試料B3で用いているポリエステルエラストマー1は、試験AのTPEE2と同じものであり、試料B4で用いているポリエステルエラストマー2は、試験AのTPEE4と同じものである。その他の試料の詳細は、以下のとおりである。
・ポリウレタンエラストマー(エステル系):大日精化(株)製「レザミンP−1078」
・ポリウレタンエラストマー(エーテル系):大日精化(株)製「レザミンP−2283」
・ポリオレフィンエラストマー:三菱ケミカル(株)製「サーモランQT60MB」
・変性ポリフェニレンエーテル(PPE):旭化成(株)製「ザイロンAF700」
・ポリアセタール(POM):旭化成(株)製「テナックEX352」
(2)特性の評価
各試料について、試験Aと同様にして、SSカーブを作成し、引張破断エネルギーを評価した、また、試験Aと同様にして、耐摩耗性を評価した。また、引張破断エネルギーを求める際の引張試験において、引張弾性率も求めた。図2に、実施例B3の試料に対して得られたSSカーブを例として示す。
[結果]
表3に、各試料について、絶縁被覆の樹脂種とともに、引張弾性率、引張破断エネルギー、耐摩耗性の各評価結果を示す。また、図3に、引張破断エネルギーと耐摩耗性評価の結果との関係性を、プロットして示す。
Figure 2018235369
表3および図3によると、引張破断エネルギーと耐摩耗性の評価結果の間には、引張破断エネルギーが大きくなるほど耐摩耗性が高くなるという傾向が見られている。図3中に点線で示すように、両者の関係は、概ね直線に近似することができる。各試料を構成する樹脂種は多様であり、そのような相関性が樹脂種を超えて成立していると言える。この結果は、樹脂材料の引張破断エネルギーが、耐摩耗性の指標として優れていることを示している。
特に、熱可塑性エラストマーを絶縁被覆に用いた試料B1〜B4においては、引張破断エネルギーが200mJ/mm以上の大きな値を示している。そして、それに対応して、耐摩耗性の評価結果が、1500mmを超える大きな値となっている。
表3には、各樹脂種の引張弾性率も併せて示している。引張破断エネルギーとは異なり、引張弾性率は、耐摩耗性との間に明確な相関性を有していないことが明らかである。
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
10 絶縁電線
12 電線導体
12a 素線
14 絶縁被覆

Claims (7)

  1. 電線導体と、前記電線導体の外周を被覆する絶縁被覆と、を有し、
    前記絶縁被覆は、熱可塑性ポリエステルエラストマーを主成分とする樹脂組成物よりなることを特徴とする絶縁電線。
  2. 前記絶縁被覆の厚さは、0.7mm未満であることを特徴とする請求項1に記載の絶縁電線。
  3. 前記樹脂組成物の引張破断エネルギーは、200mJ/mm以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の絶縁電線。
  4. 前記熱可塑性ポリエステルエラストマーの硬度は、ショアD硬度で、60以下であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の絶縁電線。
  5. 前記熱可塑性ポリエステルエラストマーの融点は、200℃以下であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の絶縁電線。
  6. 前記電線導体の導体断面積は、3mm以上、20mm以下であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の絶縁電線。
  7. 請求項1から6のいずれか1項に記載の絶縁電線を含むことを特徴とするワイヤーハーネス。
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