JP2022157047A - 電線導体および絶縁電線 - Google Patents

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Abstract

Figure 2022157047000001
【課題】導体断面積を0.13mmよりも小さくしても、コネクタ端子に挿入する際に、座屈の影響を小さく抑えることができる電線導体、およびそのような電線導体を備えた絶縁電線を提供する。
【解決手段】ステンレス鋼より構成される単線の芯線11と、銅または銅合金より構成され、前記芯線の外周を被覆する銅被覆層12と、を有し、導体断面積が0.13mm未満であり、ヤング率が1.1×10MPa未満であり、単線の状態で使用される、電線導体10とする。また、前記電線導体10と、前記電線導体1本の外周を被覆する絶縁被覆20と、を有する、絶縁電線1とする。
【選択図】図1

Description

本開示は、電線導体および絶縁電線に関する。
自動車内において、各種通信機器に、コネクタを介して通信用電線が接続されるが、機器の小型化に伴い、コネクタにおいても、小型化、軽量化が進められている。コネクタが小型化すると、そこに接続される通信用電線においても、細径化が求められる。例えば、特許文献1では、Feを含むCu合金の素線を用いた撚線導体として、導体断面積を0.13mmまで小さくしたものが用いられている。
特開2018-085344号公報 特開2018-37324号公報
上記特許文献1で用いられている導体のように、導体断面積0.13mm程度までならば、従来の銅合金撚線を細径化しても、電線強度やコネクタ接続の際の接続強度を十分に確保することができる。しかし、昨今のコネクタの小型化に伴い、導体断面積が0.13mmよりもさらに小さい通信用電線も求められている。導体断面積が0.13mmよりも小さい領域では、撚線導体を細径化することは難しく、導体を単線化することが考えられる。しかし、従来の銅合金線をそのまま単線として用いると、電線強度を十分に確保することが難しくなる。電線強度が低くなると、電線導体が座屈を起こしやすくなる。コネクタ端子に、接続のために電線導体を挿入する際に、電線導体がコネクタ端子の壁面への接触等を起こすと、電線導体に座屈が生じる場合がある。電線導体に座屈が起こると、コネクタ端子への電線導体の挿入を正常に完了することが難しくなる。
そこで、導体断面積を0.13mmよりも小さくしても、コネクタ端子に挿入する際に、座屈の影響を小さく抑えることができる電線導体、およびそのような電線導体を備えた絶縁電線を提供することを課題とする。
本開示の電線導体は、ステンレス鋼より構成される単線の芯線と、銅または銅合金より構成され、前記芯線の外周を被覆する銅被覆層と、を有し、導体断面積が0.13mm未満であり、ヤング率が1.1×10MPa未満であり、単線の状態で使用される。
本開示の絶縁電線は、前記電線導体と、前記電線導体1本の外周を被覆する絶縁被覆と、を有する。
本開示にかかる電線導体および通信用電線は、導体断面積を0.13mmよりも小さくしても、コネクタ端子に挿入する際に、座屈の影響を小さく抑えることができる電線導体、およびそのような電線導体を備えた絶縁電線となる。
図1は、本開示の一実施形態にかかる単線の絶縁電線を示す断面図である。 図2Aおよび図2Bは、フラット電線を示す断面図である。図2Aと図2Bは、それぞれ異なる形態を示している。 図3A,3Bは線材の座屈を説明する側面図であり、図3Aは座屈を起こす前の状態、図3Bは座屈を起こした後の状態を示している。 図4は、3種の電線導体を有する絶縁電線について、座屈力の測定結果を示す図である。 図5A~5Cは3種の電線導体を有する絶縁電線について、座屈後の状態を撮影した写真である。図5Aは軟化後の銅覆SUS線、図5Bは軟化なしの銅覆SUS線、図5CはCu-Sn合金線を示している。いずれも、試験距離2.0mmの場合を示している。 図6は、3種の電線導体を有する絶縁電線について、座屈量の測定結果を示す図である。 図7は、電線導体の引張強さと座屈量の関係についての評価結果を示す図である。 図8A,8Bは、電線導体の引張強さと圧着強度の関係についての評価結果を示す図である。図8Aは低圧縮の場合、図8Bは高圧縮の場合を示している。
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施形態を列記して説明する。
本開示にかかる電線導体は、ステンレス鋼より構成される単線の芯線と、銅または銅合金より構成され、前記芯線の外周を被覆する銅被覆層と、を有し、導体断面積が0.13mm未満であり、ヤング率が1.1×10MPa未満であり、単線の状態で使用される。
上記電線導体は、ステンレス鋼より構成される芯線の外周に銅被覆層を設けた構造を有することにより、導体断面積が0.13mm未満と小さくなっているにも拘らず、高い材料強度を有するとともに、電線導体をコネクタ端子に挿入する際等に、電線導体が座屈を起こしにくい。つまり、剛性の高いステンレス鋼よるなる芯線の外周に、剛性の低い材料よりなる銅被覆層が配置されていることにより、電線導体をコネクタ端子に挿入する際に変形を受けても、その変形が解消されやすく、不可逆的な座屈につながりにくい。低剛性の銅被覆層が存在することにより、電線導体全体としてのヤング率は、1.1×10MPa未満の小さな値となり、ヤング率がさらに高い材料よりは、座屈力が小さくなる。よって、コネクタ端子への挿入時に、小さな力でも座屈を起こしやすいことにはなるが、銅被覆層の寄与によって座屈時の変形の解消が促進されることの効果により、座屈による電線導体の変形量が小さく抑えられる。結果として、コネクタ端子への挿入時の座屈の影響が小さくなる。
ここで、前記芯線のヤング率は、1.2×10MPa以上であるとよい。すると、芯線が高いヤング率を有することで、電線導体全体として、座屈力の低減と、座屈による電線導体の変形量の低減の効果が高く発揮されることになり、座屈の影響を低減する効果が高くなる。
前記電線導体は、引張強さが950MPa以上であるとよい。すると、電線導体の強度が高くなり、電線導体がコネクタ端子への挿入時に座屈を起こしにくくなることに加え、コネクタ端子を電線導体に挿入して圧着した際に、圧着部において高い強度が得られる。そのような引張強さを有する電線導体は、熱処理を経て、好適に製造することができる。
前記芯線を構成するステンレス鋼は、SUS 304Hであるとよい。SUS 304Hは、高いヤング率と引張強さ、また破断伸びを示す材料であり、芯線の構成材料として好適に用いることができる。
本開示にかかる絶縁電線は、前記電線導体と、前記電線導体1本の外周を被覆する絶縁被覆と、を有する。この絶縁電線は、0.13mm未満の小さい導体断面積を有し、細径性に優れたものでありながら、電線導体として、上記の所定の構造と物性を備えるものを用いることにより、コネクタ端子への電線導体の挿入時に、座屈の影響を受けにくいものとなる。よって、小型のコネクタに接続される通信用電線として、自動車内等で好適に用いることができる。
ここで、前記電線導体が、複数並列に並べられ、前記電線導体のそれぞれの外周が、前記絶縁被覆によって被覆されて、被覆部が構成され、前記被覆部の間が、前記被覆部の前記絶縁被覆と一体となった連結部によって連結されているとよい。複数の電線導体が並列に並べられることで、絶縁電線全体としての強度が向上される。また、複数の電線導体が並列に並べられ、それらの電線導体の間の距離が連結部によって安定に保持されることで、通信特性の安定した通信用電線として利用することができる。電線導体がコネクタ端子に挿入される際に座屈の影響を受けにくくなっているので、複数の端子を備えたコネクタにおいて、それら複数の端子に対する電線導体の挿入を一括して行うことも可能となる。
この場合に、前記電線導体のうち、少なくとも1組の隣接する2本の間の距離が、0.2mm以上、1.2mm以下となっているとよい。すると、導体間の絶縁性を十分に保ちながら、それら2本の電線導体を、差動信号を伝送するためのペア線として、好適に用いることができる。
[本開示の実施形態の詳細]
以下に、本開示の実施形態について、図面を用いて詳細に説明する。本明細書において、「平行」「垂直」等、部材の形状や配置を示す語には、幾何的に厳密な概念のみならず、通信用電線として一般に許容される範囲の誤差も含むものとする。また、本明細書において、各種物性は、大気中、室温(おおむね15~25℃)にて計測される値とする。
<電線導体および通信用電線の概略>
図1に、本開示の一実施形態にかかる電線導体10を含んだ、本開示の一実施形態にかかる絶縁電線1の断面を表示する。
本開示の実施形態にかかる電線導体10は、単線の状態で用いられる。つまり、電線導体10は、1本ずつ個別に絶縁された状態で用いられ、絶縁されていない複数の電線導体10が、撚り合わせや束の形成により、集合されて用いられるものではない。図1に示した絶縁電線1においては、1本の電線導体10の外周を被覆して、絶縁被覆20が形成されている。
電線導体10は、芯線11と、芯線11の外周を被覆する銅被覆層12とを有している。芯線11と銅被覆層12は、一体に接合されている。芯線11は、ステンレス鋼(SUS)より構成されている。SUSの種類は特に限定されるものではないが、オーステナイト系SUS、特にSUS 304HおよびSUS 304Lを好適に用いることができる。銅被覆層12は、銅または銅合金より構成されている。好ましくは、銅被覆層12の剛性を低く保つ観点から、不可避的不純物を除いて添加元素を含まない純銅より構成されているとよい。芯線11と銅被覆層12の間には、芯線11と銅被覆層12の接合性を高める等の目的で、他種の層が配置されてもよいが、芯線11の表面に銅被覆層12が直接接触して形成されている方が好ましい。
ここで、SUS 304HおよびSUS 304Lの成分組成を、下の表1にまとめておく。両者は、CおよびNiの含有量において相互に異なっている。
Figure 2022157047000002
電線導体10は、全体としての導体断面積が、0.13mm未満となっている。電線導体10がこのように小さな導体断面積を有することにより、絶縁電線1を細径化でき、自動車内における小型のコネクタへの接続等に、好適に用いることができる。導体断面積が0.13mm未満である細径の電線導体は、通電用よりも、通信用に好適に用いることができる。細径性を高める観点から、導体断面積は、0.10mm以下であると、さらに好ましい。導体断面積には、特に下限は設けられないが、過度の細径化による強度の低下を抑制する等の観点から、例えば0.02mm以上としておくとよい。0.05mmの導体断面積を、特に好適に採用することができる。
本実施形態にかかる電線導体10は、SUSより構成された芯線11を含んでおり、SUSの材料強度の高さにより、電線導体10全体として、高い引張強さを有するものとなる。そのため、単線の状態であっても、また細径化されていても、全体が銅合金より構成される従来一般の電線導体よりも、高い導体強度を有するものとなる。また、剛性の高いSUSよりなる芯線11の外周に、剛性の低い銅被覆層12が配置された構造を有することにより、全体が銅合金より構成される従来一般の電線導体と比較して、大きな座屈を起こしにくいものとなっている。芯線11が有する具体的な特性については後に詳しく説明するが、電線導体10において、十分な強度を発揮する観点から、芯線11の外径は、0.11mm以上、さらに好ましくは0.12mm以上としておくとよい。一方、電線導体10の細径性を保ちながら銅被覆層12の厚さを十分に確保する等の観点から、芯線11の外径は、0.17mm以下に抑えておくとよい。
電線導体10において、銅被覆層12は、上記のように、SUSよりなる高剛性の芯線11の外周に配置されることで、電線導体10の座屈を低減する役割を果たすが、同時に、電気伝導を担うものとなる。芯線11を構成するSUSは、それほど高い導電性を有する金属ではないが、導電性の高い金属である銅または銅合金よりなる銅被覆層12の存在により、電線導体10全体として十分な導電性を確保することができる。銅被覆層12の厚さは、例えば、電線導体10全体としての電気抵抗が、660mΩ/m以下となるように、定められる。電線導体10の電気抵抗が660mΩ/m以下であれば、通信用電線として十分な導電性を有するものとなる。さらに好ましくは、電線導体10の電気抵抗は、600mΩ/m以下であるとよい。電線導体10の電気抵抗に特に下限は設けられないが、銅被覆層12が厚くなりすぎるのを防止する等の観点から、例えば500mΩ/m以上としておくとよい。おおむね、銅被覆層12の厚さを、40μm以上、また70μm以下としておけばよい。
絶縁被覆20は、有機ポリマーをベース材料として構成される。有機ポリマーの種類は特に限定されるものではなく、ポリオレフィンやオレフィン系共重合体等のオレフィン系ポリマー、ポリ塩化ビニル等のハロゲン系ポリマー、各種エラストマーやゴム等を用いることができる。有機ポリマーには、適宜、各種添加剤が添加されてもよい。絶縁被覆20の厚さは特に限定されないが、十分な絶縁性を付与する等の観点から、例えば0.1mm以上としておくとよい。一方、絶縁電線1の細径性を高める観点から、0.25mm以下に抑えておくとよい。
<電線導体の特性>
次に、電線導体10が有する特性について、詳細に説明する。
本実施形態にかかる電線導体10は、上記のように、SUSよりなる芯線11の外周に、銅被覆層12を備えた2層構造を有している(以下、銅覆SUS線と称する場合がある)。芯線11を構成するSUSは、高いヤング率を有する高剛性の金属である。一方、銅被覆層12を構成する銅または銅合金、特に純銅は、SUSよりも低いヤング率を有する低剛性の金属である。銅覆SU線10においては、それらSUS芯線11と銅被覆層12が複合されていることにより、全体としてのヤング率が、1.1×10MPa未満に抑えられている。後の実施例にも示すように、従来一般に電線導体の構成材料として用いられてきた銅合金のうち、比較的高強度を有する銅合金であるCu-Sn合金線のヤング率は、1.1×10MPa程度であり、本実施形態にかかる銅覆SUS線10のヤング率は、Cu-Sn合金線よりも低くなっている。銅覆SUS線10のヤング率は、さらに、熱処理による銅被覆層の軟化を経ることで、1.0×10MPa未満、さらには9.0×10MPa未満、8.0×10MPa未満となる場合もある。銅覆SUS線10のヤング率に特に下限は設けられないが、座屈を効果的に抑制する等の観点から、4.0×104MPa以上であることが好ましい。金属線材のヤング率は、JIS Z 2241に準拠した引張試験によって評価される。
本実施形態にかかる銅覆SUS線10は、Cu-Sn合金線よりも低いヤング率を有していることにより、Cu-Sn合金線よりも座屈力が小さくなっている。座屈力とは、線材に座屈を起こさせるのに必要な力の大きさであり、その値が大きいほど、線材に座屈を生じさせるのに大きな力を印加する必要があることを示す。特に、下のオイラーの式に示されるように、線材の外周部を構成する材料が高いヤング率を有するほど、線材の座屈力が大きくなる。線材の外周部の材料は、大きな断面二次元モーメントIをもって、座屈力Pに寄与するからである。
P=(π×E×I)/(4×L) (1)
ここで、Pは座屈力(N)、Eはヤング率(MPa)、Iは断面二次元モーメント(mm)、Lはサンプル長さ(mm)である。
よって、電線導体の外周部に、ヤング率Eが高いCu-Sn合金が存在している場合よりも、ヤング率Eが低い銅被覆層12が存在している場合の方が、座屈力Pが小さくなりやすい。つまり、従来一般のCu-Sn合金線よりも、本実施形態にかかる銅覆SUS線10の方が、座屈力が小さくなりやすい。このことは、銅覆SUS線10の方が、コネクタ端子に小さな力で挿入しても座屈を起こしやすいことを意味する。実際に、後の実施例でも、銅覆SUS線10の方が、Cu-Sn合金線よりも小さな座屈力を示すことが確認されている。このように、座屈力の大きさの観点では、銅覆SUS線10は、Cu-Sn合金線よりも座屈を起こしやすいと言える。
しかし、本実施形態にかかる銅覆SUS線10は、高剛性のSUS芯線11の外周に、剛性の低い、つまり柔軟性の高い銅被覆層12を有するという構造の効果により、座屈によって変形が加えられたとしても、その変形が解消されやすくなっている。ヤング率の高いSUS芯線11が大きな復元力を示し、ヤング率の低い銅被覆層12が、その復元力によって柔軟に変形を解消できるからである。換言すると、銅覆SUS線10には、座屈を起こす力が加えられても、座屈のない状態、あるいは座屈の小さい状態に復元する力が働きやすくなっている。よって、銅覆SUS線10に座屈させる力が加えられたとしても、その力の印加が、不可逆的で大きな座屈変形には至りにくい。特に、銅覆SUS線10が、後に示すように、熱処理を受け、銅被覆層12が軟化されている場合に、銅覆SUS線10の不可逆的な座屈変形を抑制する効果に優れる。
ここで、図4Aに示すように、線材10’の一端を固定して固定端10aとし、他端を移動端10bとして、固定端10aに近づける方向に力Fを加えて、図4Bに示すように線材10’を座屈させる場合を考える。座屈による縦方向への線材10’の変形量、つまり座屈量Δyが、線材10’が銅覆SUS線10である場合の方が、Cu-Sn合金線である場合よりも、小さく抑えられやすい。ここで、座屈量Δyは、線材10’の両端10a,10bを結ぶ直線と、座屈部10cの頂部との間の距離として定義される。線材10’が銅覆SUS線10である場合の方が、Cu-Sn合金線である場合よりも、座屈部10cの角度θも大きく保たれ、座屈部10cが急峻に折れ曲がりにくい。また、コネクタ端子への挿入時等、力Fを印加している途中に、一時的に座屈量Δyが大きくなる変形が起こっても、力Fの印加をやめると、その変形が可逆的に解消されやすい。つまり、座屈が起こった際の座屈量Δyの大きさの観点では、銅覆SUS線10は、Cu-Sn合金線よりも座屈を起こしにくいと言える。実際に、後の実施例で確認されるように、Cu-Sn合金線では、座屈量Δyが大きくなるうえ、座屈部10cが急峻な折れ曲がり形状を形成しやすいのに対し(図5C参照)、銅覆SUS線10では、座屈量Δyが小さく抑えられるうえ、座屈部10cが急峻に折れ曲がるのではなく、なだらかで曲線的な形状をとりやすい(図5A参照)。
このように、銅覆SUS線10は、Cu-Sn合金線と比較して、座屈力が小さいという点においては座屈を起こしやすいものの、座屈が起きた際の座屈量が小さく抑えられるという点では、座屈の影響が小さくて済むものとなる。つまり、銅覆SUS線10は、コネクタ端子への挿入中等に、小さな力でも座屈を起こしやすいが、座屈を起こした際の座屈量が、小さく抑えられる。また、座屈による変形が不可逆的に保持されにくい。
Cu-Sn合金線の場合のように、座屈力が大きく、大きな力が加わらないと電線導体が座屈を起こさないとしても、ひとたび座屈を起こした際に、座屈量が大きくなり、しかも座屈した状態が不可逆的に維持されるとすれば、座屈の影響が大きくなる。例えば、座屈の影響で電線導体をコネクタ端子に最後まで挿入することができなくなる事態や、コネクタ端子に挿入された電線導体が座屈した状態を保ち続ける事態が生じうる。一方で、本実施形態にかかる銅覆SUS線のように、コネクタ端子に電線導体10を挿入する際に、それほど大きな力を加えなくても座屈が起こるとしても、その際に生じる座屈量が小さければ、座屈が生じたままでも、コネクタ端子に対する電線導体10の挿入を、正常に近い状態で完了することができる。また、コネクタ端子への電線導体10の挿入時の角度や位置のずれ等により、座屈が発生したとしても、電線導体10をいったんコネクタ端子から抜き取ることで、力の印加をやめれば、座屈の少なくとも一部が可逆的に解消される。よって、角度や位置を修正したうえで電線導体10を挿入し直せば、コネクタ端子に対して電線導体10を正常に挿入することが可能となる。このように、本実施形態にかかる銅覆SUS線よりなる電線導体10においては、高剛性のSUS芯線11の外周に低剛性の銅被覆層12が配置されているという構造の効果として、座屈量が小さく抑えられることにより、また座屈が解消されやすいことにより、座屈の影響を小さく抑えることができる。
本実施形態においては、銅覆SUS線10全体として、上記所定のヤング率を示すものであれば、SUS芯線11および銅被覆層12がそれぞれどのような物性を有するものであってもかまわない。SUSが銅および銅合金よりも高いヤング率を有することにより、SUS芯線11単体の状態では、銅覆SUS線10とした状態よりも、高いヤング率を示すが、SUS芯線11のヤング率は、Cu-Sn合金線の値である1.1×10MPaを超えていることが好ましい。さらに、SUS芯線11のヤング率は、1.2×10MPa以上、また1.5×10MPa以上であることが好ましい。SUS芯線11のヤング率が高い方が、銅覆SUS線10全体としての座屈力を高めるとともに、高い復元力を発揮することで、座屈量を小さく抑える効果に優れ、座屈力の向上と座屈量の低減の両方の点から、座屈の影響を低減することができる。
銅覆SUS線10は、SUSよりなる芯線11を有することにより、従来一般のCu-Sn合金線と比較して、高い引張強さを有するものとなる。銅覆SUS線10の引張強さは、熱処理条件によって調整することができるが、後の実施例に示すように、引張強さは、座屈量には大きな影響を与えない。しかし、銅覆SUS線10が高い引張強さを有していれば、コネクタ端子に挿入した銅覆SUS線10を圧着接続した際に、圧着部において、高い圧着強度を得ることができる。つまり、圧着部において圧縮された銅覆SUS線10が、断線を起こしにくくなる。銅覆SUS線10の座屈量の小ささを利用して、座屈の影響を小さく抑えながら銅覆SUS線10をコネクタ端子に挿入したうえで、銅覆SUS線10の高い引張強さを利用して、圧着接続を経て、高い接続強度を有する圧着部を形成することができる。圧着部における圧着強度を効果的に高める観点から、銅覆SUS線10の引張強さは、950MPa以上、さらには970MPa以上であることが好ましい。金属線材の引張強さは、JIS Z 2241に準拠した引張試験により、破断時の引張強さとして評価することができる。
銅覆SUS線10の引張強さの上限は、特に定められるものではないが、引張強さが高すぎても、かえってコネクタ端子との接続部における接続強度が低くなる場合がある。銅覆SUS線10が高強度を有し、硬くなりすぎると、コネクタ端子に圧着接続する際に、コネクタ端子側の材料において強度の低下が起こることや、銅覆SUS線10を十分に変形させられなくなること等により、コネクタ端子によって銅覆SUS線10を強固に保持できなくなり、かえって接続強度が低くなる事態が生じうるからである。それらの事態を避け、高い接続強度を担保する観点から、銅覆SUS線10の引張強さは、1200MPa以下、さらには1080MPa以下に抑えておくことが好ましい。950MPa以上、1200MPa以下の範囲の引張強さを有する銅覆SUS線10は、後に説明する熱処理を経て、好適に製造することができる。
銅覆SUS線10を圧着端子に接続する際に、圧着部における圧着強度は、上記のように、銅覆SUS線10の引張強さの影響を大きく受ける。しかし、銅覆SUS線10の破断伸びも、圧着強度に影響を与える。例えば、銅覆SUS線10全体としての破断伸びが、1.5%以上、さらには1.8%以上、また2.0%以上、2.2%以上であれば、高い圧着強度を得やすい。また、銅覆SUS線10がそのような破断伸びを有していれば、熱処理条件のゆらぎ等に起因して、銅覆SUS線10の引張強さが変動することがあっても、高い圧着強度を、安定して得ることができる。熱処理を経て、高い引張強さと破断伸びを両立するSUS材として、SUS 304Hを好適に用いることができる。金属線材の破断伸びは、JIS Z 2241に準拠した引張試験により評価することができる。
<電線導体の製造方法>
銅覆SUS線として構成される本実施形態にかかる電線導体10を製造する方法としては、例えば、伸線によって所定の径を有するSUSの芯線11を製造したうえで、めっきや蒸着により、銅被覆層12をその芯線11の表面に形成すればよい。あるいは、芯線11となるSUS材の周囲に、銅被覆層12となる環状の銅材を嵌め込み、所定の径まで一体に伸線することでも、銅覆SUS線10を製造することができる。
上記のようにして得られた銅覆SUS線10をそのまま用いて絶縁電線1を構成し、コネクタ端子への接続に用いてもよいが、得られた銅覆SUS線10に対して、熱処理(焼鈍)を行っておくことが好ましい。熱処理を行うことで、銅被覆層12が軟化される。すると、銅被覆層12の柔軟性が向上し、銅覆SUS線10において、剛性の高いSUS芯線11の外周に柔軟性の高い銅被覆層12が設けられることで座屈量を低減する効果が、高くなる。熱処理温度としては、100℃以上、また400℃以下の範囲を例示することができる。さらに好ましくは、250℃以上、また400℃以下で熱処理を行えばよい。熱処理は、銅覆SUS線10を通電加熱する連続軟化の方式で行っても、所定の温度のバッチ炉内で銅覆SUS線10を加熱するバッチ式軟化によって行ってもよい。
熱処理を経て、典型的には、銅覆SUS線10全体としてのヤング率が、9.0×10MPa以上の高い水準から、9.0×10MPa未満に低くなる。熱処理による銅被覆層12の状態の変化は、銅被覆層12の硬度を指標として確認することもできる。銅覆SUS線10の断面における銅被覆層12の硬度が、典型的には、熱処理前には、130Hv以上、さらには150Hv以上であるのに対し、熱処理による軟化を経て、120Hv以下、さらには100Hv以下となる。
<別の形態の絶縁電線-フラット電線>
上記実施形態にかかる銅覆SUS線として構成された電線導体10は、どのような形態で使用されてもよく、図1に示したような1本の電線導体10の全周を絶縁被覆20で被覆した単純な絶縁電線1を構成する形態に限られない。上記実施形態にかかる電線導体10を用いて、他の形態の絶縁電線を構成する場合の例として、フラット電線について、簡単に説明する。
フラット電線2の断面を、図2Aおよび図2Bに示す。図2Aおよび図2Bは、それぞれ異なる形態を示している。フラット電線2は、上記で説明した本開示の実施形態にかかる電線導体10を複数含んでいる。電線導体10の本数は、特に指定されるものではないが、2本以上、8本以下の本数を好適に採用することができる。特に、ペア線を構成できるように、偶数の本数とすればよい。
フラット電線2においては、複数の電線導体10が、軸線方向を平行に揃えて、一方向に並列に並べられている。並べられた各電線導体10の外周が、個別に絶縁被覆20によって被覆され、電線導体10と絶縁被覆20よりなる被覆部30が複数形成されている。そして、各被覆部30の間が、連結部25によって連結されている。被覆部30を構成する絶縁被覆20と、連結部25とは、同じ材料を用いて、一体に成形されている。図2Aに示した形態においては、断面略円形の被覆部30の間を連結して、連結部25が形成されている。一方、図2Bに示した形態においては、隣接する被覆部30が、略円形の断面形状を相互に重ね合わせるようにして、直接接合されており、それら被覆部30を構成する絶縁被覆20の一部が、連結部25として機能している。いずれの形態においてもフラット電線2の可撓性の確保、端末加工時の裂きやすさ等の観点から、連結部25の厚さ(電線導体10の並列方向に直交する寸法)が、被覆部30の直径よりも小さくなっていることが好ましい。
並列に並べられた電線導体10の間隔は、特に限定されるものではないが、隣接する電線導体10の間の距離d(電線導体10の中心間の距離)が、0.2mm以上、さらには0.4mm以上、0.8mm以上であるとよい。すると、電線導体10の間の絶縁を十分に確保することができる。特に図2Aの形態においては、隣接する電線導体10の間の距離dを、0.4mm以上とするとよい。一方、少なくとも1組の隣接する2本の電線導体10の間の距離dが、1.2mm以下、さらには1.0mm以下となっていることが好ましい。すると、それら2本の電線導体10を、必要な特性インピーダンスを確保しながら、差動信号を伝送するペア線として好適に用いることができる。なお、フラット電線2が3本以上の電線導体10を含む場合に、ペアを構成する2本の電線導体10の間以外の箇所においては、電線導体10の間の距離dは、1.2mmより長くしてもよいし、全電線導体10を、1.2mm以下の等間隔に並べてもよい。
フラット電線2を用いれば、複数の端子を並べて有するコネクタに、一括して複数の電線導体10を接続することが可能となる。上記のように、本開示の実施形態にかかる電線導体10は、座屈量が小さく抑えられることにより、コネクタ端子に挿入する際の座屈の影響を小さく抑えることができるものであり、複数のコネクタ端子に複数の電線導体10を一括して同時に挿入する操作も、行いやすい。本開示の実施形態にかかる電線導体10は、高い強度を有するものであるが、複数を並列に並べることで、フラット電線2全体として、さらに強度を高めることができる。また、電線導体10が高い強度を有することで、図1に示したような独立した絶縁電線1を撚り合わせてツイストペア線を構成するとすれば、電線導体10の高い剛性により、ツイスト構造を安定に保持することが難しいが、複数の電線導体10を横に並べたフラット電線2とし、さらに連結部25によって電線導体10の間の距離dを一定に保持することで、安定して差動信号の伝送を行うことができるようになる。
以下に実施例を示す。なお、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。以下、特記しない限り、試料の作製および評価は、大気中、室温にて行っている。
[1]電線導体の材質と座屈力
まず、電線導体の材質と座屈力の関係について検証した。
<試料の準備>
試料として、3種の電線導体を準備した。まず、SUS 304H材よりなる芯線と、純銅よりなる銅被覆層とを有する銅覆SUS線を作製した。芯線の外径は、φ0.16mmとし、銅被覆層の厚さは45μmとした。銅覆SUS線全体としては、外径がφ0.25mm、導体断面積にして0.05mmとなった。得られた銅覆SUS線を、そのまま「軟化なし」の試料とした。一方、得られた銅覆SUS線に対して連続軟化を施し、「軟化後」の試料とした。別途、φ0.25mmのCu-Sn合金線(Sn含有量:0.3質量%)を準備した。
上記で準備した各電線導体の物性は、以下の表2のとおりであった。表には、銅覆SUS線の原料として用いたSUS芯線単独の状態(φ0.16mm、軟化なし)についても、合わせて物性を表示する。
Figure 2022157047000003
上記で準備した軟化後および軟化なしの銅覆SUS線、またCu-Sn合金線の外周に絶縁被覆を形成し、絶縁電線を作製した。絶縁被覆は、PVCの押出成形により、厚さ0.20mmで形成した。
<評価方法>
上記で作製した各電線導体を有する絶縁電線に対して、座屈力を測定した。各絶縁電線を30mmに切り出し、座屈試験を行った。座屈試験においては、図3Aに示すように、絶縁電線の一端を固定端10a、他端を移動端10bとし、移動端10bに、固定端10aに向かって押し込む力Fを印加した。この際、移動端10bの移動距離を試験距離とし、印加した力Fとの関係を記録した。印加した力Fの最大値が座屈力となる。移動端10bの移動速度は、25mm/minとした。なお、用いた試験機においては、試料の絶縁電線の両端を保持する治具に、試料を固定するための深さ10mmの穴がそれぞれ設けられている。
<評価結果>
図4に、座屈試験で得られた、試験距離と絶縁電線に印加した力との関係を示す。印加した力の最大値として読み取られる座屈力は、下の表3のようになった。
Figure 2022157047000004
図4および表3によると、銅覆SUS線は、軟化を行った場合、軟化を行っていない場合のいずれにおいても、Cu-Sn合金線よりも小さい座屈力を示している。つまり、銅覆SUS線の方が、Cu-Sn合金線よりも、小さい力でも座屈を起こす。特に、軟化を経た銅覆SUS線が小さい座屈力を示している。
上に式(1)として示しているオイラーの式によると、ヤング率の高い材料の方が、座屈力が大きくなる。表2によると、Cu-Sn合金線の方が、銅覆SUS線よりも高いヤング率を有しており、上記座屈力の測定結果は、オイラーの式に示される関係に合致している。また、オイラーの式によると、電線導体の外周部に位置する材料が、断面二次元モーメントの効果によって、座屈力に大きく寄与する。銅覆SUS線は、表面部にヤング率の低い材料よりなる銅被覆層を有しており、そのことに対応して、Cu-Sn合金線との比較において、全体としてのヤング率の差よりも大きな差を、座屈力の差として有するものと解釈できる。また、熱処理によって、銅覆SUS線のヤング率、特に外周部のヤング率が一層低減されることに対応して、軟化後の銅覆SUS線の座屈力が、軟化なしの銅覆SUS線の座屈力よりもさらに小さくなっているものと考えられる。
ここで、オイラーの式に基づく理論計算により、座屈力への絶縁被覆の寄与と電線導体の寄与を分離したところ、軟化後の銅覆SUS線の場合で、電線導体の寄与が、試験で計測された絶縁電線全体の座屈力の半分以上を占めることが確認された。つまり、試験で得られた各絶縁電線の座屈力の差は、電線導体自体の座屈力の差に起因するものであると言える。
[2]電線導体の材質と座屈量
次に、電線導体の材質と座屈量の関係について検証した。
<試料の作製>
上記試験[1]で用いたのと同じ、軟化後の銅覆SUS線、軟化なしの銅覆SUS線、Cu-Sn合金線の3種の導体を有する絶縁電線を試料として用いた。
<評価方法>
上記試験[1]と同様に座屈試験を行った。この際、0.5mmから2.5mmまでの間で、0.5mmおきに設定した所定の試験距離に達した段階で、座屈試験を中止した。そして、絶縁電線を試験機から取り外し、座屈量Δy、つまり縦方向の寸法の変化量を計測した。各試験距離について、試料を交換して測定を3回行い、座屈量の平均値を記録した。
<評価結果>
図5A~5Cにそれぞれ、試験距離2.0mmで座屈させた場合について、軟化後の銅覆SUS線、軟化なしの銅覆SUS線、Cu-Sn合金線を有する絶縁電線の状態を示す。図5CのCu-Sn合金線の場合には、中央の座屈部が鋭く折れ曲がっており、座屈部の角度θが小さくなっている。座屈量も大きくなっている。一方、図5Aの軟化後の銅覆SUS線の場合には、絶縁電線が緩やかな山なりの形状をとっており、座屈部の角度θが大きくなっている。座屈量も明らかに図5Cの場合よりも小さくなっている。図5Bの軟化なしの銅覆SUS線の場合は、図5Aと図5Cの中間的な状態をとっている。
図5A~5Cの対比において見られた傾向は、図6Cの座屈量を計測した結果に、明確に現れている。全試験距離において、2種の銅覆SUS線が、Cu-Sn合金線よりも、小さな座屈量を示している。この結果は、銅覆SUS線においては、高剛性のSUS芯線の外周に、低剛性の銅被覆層が配置されていることにより、座屈による変形が柔軟に解消されやすくなっているものと解釈される。
さらに、銅覆SUS線について、軟化なしの状態と軟化後の状態の結果を比較すると、わずかではあるが、軟化後の状態の方が、試験距離2.0mmまでの領域で、座屈量が小さくなっている。この結果は、熱処理によって銅被覆層の柔軟性が向上し、座屈による変形を解消する効果がさらに高められるものと解釈される。なお、銅覆SUS線の断面において、銅被覆層の硬度を計測したところ、軟化なしの状態では152Hv、軟化後の状態では93Hvであった。
[3]銅覆SUS線の引張強さと座屈量
次に、銅覆SUS線の引張強さと座屈量の関係について検証した。
<試料の作製>
上記試験[1]で作製した熱処理後の銅覆SUS線を有する絶縁電線と同様の試料を準備した。ただし、ここでは、軟化のための熱処理条件を異ならせることにより、引張強さの異なる複数の銅覆SUS線を作製した。なお、いずれの条件の熱処理を経た場合にも、電線導体の電気抵抗は、660mΩ/m以下であった。
<評価方法>
上記で作製した各銅覆SUS線の破断時の引張強さを、JIS Z 2241に準拠した引張試験によって評価した。また、各銅覆SUS線を有する絶縁電線について、上記試験[2]と同様に、座屈試験を行い、試験距離5.0mmにおける座屈量Δyを計測した。試験に用いる絶縁電線の長さは30mmとした。ここでも、試料を交換して同じ測定を3回行い、座屈量の平均値を記録した。
<評価結果>
図7に、銅覆SUS線の引張強さと座屈量の関係を、棒グラフにて表示する。図7によると、引張強さが変化しても、座屈量は系統的な変化を示しておらず、引張強さの全域で、類似した座屈量を示している。この結果は、銅覆SUS線の引張強さは、座屈量に大きな影響を与えないということを示している。
電線導体の座屈、および座屈変形の解消は、電線導体の弾性域の挙動によるものであり、塑性域、しかも破断時の挙動に対応する引張強さには、ほぼ関係しないものと考えられる。式(1)として示したオイラーの式でも、座屈強度は、弾性域の物性であるヤング率に依存する量となっている。このことは、図7の評価結果と合致している。一般に、SUS線の引張強さは、熱処理条件によって大きく変化しうるが、ヤング率は熱処理条件の影響をあまり受けない。
[4]銅覆SUS線の引張強さと圧着強度
次に、銅覆SUS線の引張強さと、端子接続部における圧着強度との関係について検証した。
<試料の作製>
上記試験[3]と同様に、軟化のための熱処理条件を異ならせることにより、引張強さの異なる複数の銅覆SUS線を作製した。合わせて、参照試料として、導体断面積0.05mmの銅合金導体(引張強さ:740MPa、破断伸び:2.1%)も準備した。
<評価方法>
作製した各電線導体に対して、JIS Z 2241に準拠した引張試験により、破断時の引張強さを評価した。また、作製した電線導体を、長さ104mmに切り出し、圧着端子にて圧着接続して、端子付き導体を得た。圧着端子としては、銅合金製のものを用い、圧着接続に際しては、電線導体の軸線方向に沿って長さ1.6~3.0mmにわたる領域において、電線導体を対向する方向から挟み込んで圧縮した圧着部としては、導体に対する圧縮度を変化させることで、低圧縮と高圧縮の2とおりの圧着部を形成した。低圧縮の状態は、通常のコネクタ端子と電線導体の間の接続部において採用されるものであり、高圧縮の状態は、通常よりも厳しい条件で電線導体を圧縮している状態に相当する。
得られた端子付き導体に対して、圧着端子を固定して、電線導体の端部を引っ張った。そして、圧着部分において電線導体が破断するまでに印加した力の最大値を、圧着強度として記録した。引張速度は100mm/minとした。なお、いずれの試料においても、圧着部の破断は、圧着端子から電線導体が分離して抜け出るのではなく、圧着端子内部において、電線導体自体が破断することによって起こった。
<試験結果>
図8A,8Bに、銅覆SUS線の引張強さと、圧着強度との関係を示す。図8Aが低圧縮の場合、図8Bが高圧縮の場合を示している。各図では、圧着強度が30Nの水準を、実線で表示している。
図8Aの低圧縮の場合においては、引張強さ950MPa以上の全域において、30N以上の圧着強度が得られている。一方で、高圧縮の場合においては、電線導体の引張強さが950MPa以上1080MPa以下の領域で、30N以上の圧着強度が得られている。1080MPaよりも引張強さが高い領域では、圧着強度が低下している。これは、電線導体の硬さのために、圧着端子の材料強度が低下してしまい、電線導体を圧着端子で強固に保持できなかったことによると考えられる。なお、参照試料の銅合金導体の圧着強度は、低圧縮の場合で23.6N、高圧縮の場合で25.4Nであった。
上の試験[3]で示されたように、銅覆SUS線の引張強さは、座屈量には影響を与えないが、図8A,8Bの結果から、端子接続部の圧着強度には影響を与えることが分かる。つまり、座屈の影響を抑えて銅覆SUS線をコネクタ端子の端子接続部に挿入したとして、圧着接続を行った後に、高い圧着強度を確保するためには、適切に引張強さを設定すればよいことになる。上記のように低圧縮の状態は、通常のコネクタ端子の接続部において採用されるものであり、そのような通常の端子接続部において、30N以上の高い圧着強度を確保するためには、950MPa以上の引張強さが得られるように銅覆SUS線の熱処理条件を選択すればよく、通常よりも厳しい高圧縮の条件での端子接続が想定される場合にはさらに、引張強さを高めすぎないようにすることが好ましいと言える。なお、ここで試験を行った銅覆SUS線の破断伸びは、1.9%から2.2%の範囲であった。
本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
なお、上記で説明したフラット電線の構成は、本開示の実施形態にかかる電線導体以外の任意の電線導体を用いる場合についても、適用することができる。例えば、Cu-Sn合金等の銅合金線を用いる場合についても、導体断面積0.32mm未満の細径の電線導体を並列に並べることによって、電線導体の細径化とともに、強度向上の効果を得ることができる。つまり、複数の電線導体を含む絶縁電線において、電線導体を細径化した際に電線強度を確保することを課題として、以下のように絶縁電線を構成することができる。
導体断面積が0.32mm未満の単線の電線導体が、複数並列に並べられ、
前記電線導体のそれぞれの外周が、絶縁被覆によって被覆されて、被覆部が構成され、
前記被覆部の間が、前記被覆部の前記絶縁被覆と一体となった連結部によって連結されている、絶縁電線。
前記絶縁電線において、前記電線導体のうち、少なくとも1組の隣接する2本の間の距離が、0.2mm以上、1.2mm以下となっていることが好ましい。特に、前記距離が1.0mm以下になっていることが好ましい。その他、フラット電線に関する構成としては、上記で説明した形態を好適に適用することができる。
1 絶縁電線
2 フラット電線
10 電線導体(銅覆SUS線)
10’ 線材
10a 固定端
10b 移動端
10c 座屈部
11 芯線
12 銅被覆層
20 絶縁被覆
25 連結部
30 被覆部
d 電線導体の間の距離
F 線材に印加する力
Δy 座屈量
θ 座屈部の角度

Claims (7)

  1. ステンレス鋼より構成される単線の芯線と、
    銅または銅合金より構成され、前記芯線の外周を被覆する銅被覆層と、を有し、
    導体断面積が0.13mm未満であり、
    ヤング率が1.1×10MPa未満であり、
    単線の状態で使用される、電線導体。
  2. 前記芯線のヤング率は、1.2×10MPa以上である、請求項1に記載の電線導体。
  3. 引張強さが950MPa以上である、請求項1または請求項2に記載の電線導体。
  4. 前記芯線を構成するステンレス鋼は、SUS 304Hである、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の電線導体。
  5. 請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の電線導体と、
    前記電線導体1本の外周を被覆する絶縁被覆と、を有する、絶縁電線。
  6. 前記電線導体が、複数並列に並べられ、
    前記電線導体のそれぞれの外周が、前記絶縁被覆によって被覆されて、被覆部が構成され、
    前記被覆部の間が、前記被覆部の前記絶縁被覆と一体となった連結部によって連結されている、請求項5に記載の絶縁電線。
  7. 前記電線導体のうち、少なくとも1組の隣接する2本の間の距離が、0.2mm以上、1.2mm以下となっている、請求項6に記載の絶縁電線。
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