以下、図面を参照しつつ本発明の好適ないくつかの実施形態を説明する。以下の図面において、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付し、重複する説明は省略又は簡略化することがある。また、各図における寸法関係(長さ、幅、厚みなど)は、実際の寸法関係を必ずしも反映するものではない。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄(例えばパティキュレートフィルタの自動車における配置に関するような一般的事項)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
<排ガス浄化装置>
先ず、本発明の一実施形態に係る排ガス浄化装置の構成について図1を参照しつつ説明する。ここで開示される排ガス浄化装置1は、内燃機関(エンジン)2の排気系に設けられている。図1は、内燃機関2と、該内燃機関2の排気系に設けられた排ガス浄化装置1を模式的に示す図である。
本実施形態に係る内燃機関2には、酸素と燃料ガスとを含む混合気が供給される。内燃機関2は、この混合気を燃焼させ、燃焼エネルギーを運動エネルギーに変換する。このときに燃焼された混合気は排ガスとなって排気系に排出される。図1に示す構成の内燃機関2は、例えば自動車のガソリンエンジンを主体として構成されている。
上記エンジン2の排気系について説明する。上記エンジン2を排気系に連通させる排気ポート(図示せず)には、エキゾーストマニホールド3が接続されている。エキゾーストマニホールド3は、排ガスが流通する排気管4に接続されている。エキゾーストマニホールド3と排気管4とにより本実施形態の排気通路が構成されている。図中の矢印は排ガスの流通方向を示している。なお、本明細書において、排ガスの流れに沿ってエンジン2に近い側を上流側、エンジン2から遠ざかる側を下流側という。
ここで開示される排ガス浄化装置1は、上記エンジン2の排気系に設けられている。この排ガス浄化装置1は、例えば触媒部5とフィルタ部6とエンジンコントロールユニット(Engine control unit:ECU)7とを備えている。この排ガス浄化装置1は、上記排出される排ガスに含まれる有害成分、例えば、一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)、窒素酸化物(NOx)を浄化するとともに、排ガスに含まれる粒子状物質(以下、単に「PM」と称する)を捕集する。
ECU7は、エンジン2と排ガス浄化装置1との間の制御を行う。ECU7は、一般的な制御装置と同様にデジタルコンピュータその他の電子機器を構成要素として含んでいる。典型的には、ECU7には入力ポートが設けられており、エンジン2や排ガス浄化装置1の各部位に設置されているセンサ(例えば圧力センサ8)と電気的に接続されている。これによって、各々のセンサで検知した情報が、入力ポートを経て電気信号としてECU7に伝達される。また、ECU7には出力ポートも設けられている。ECU7は、該出力ポートを介して、エンジン2および排ガス浄化装置1の各部位に電気的に接続されている。ECU7は、制御信号を送信することによって各部材の稼働を制御している。
触媒部5は、排気ガス中に含まれる三元成分(NOx、HC、CO)を浄化可能なものとして構成されている。触媒部5は、上記エンジン2に連通する排気管4に設けられている。具体的には図1に示すように、排気管4の下流側に設けられている。触媒部5の構成は特に限定されない。触媒部5は、例えば、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rd)等の触媒金属が担持された触媒を含んでいてもよい。なお、フィルタ部6の下流側の排気管4に下流側触媒部をさらに配置してもよい。かかる触媒部5の具体的な構成は本発明を特徴付けるものではないため、ここでは詳細な説明は省略する。
フィルタ部6は、触媒部5の下流側に設けられている。フィルタ部6は、排ガス中に含まれるPMを捕集して除去可能なGPFを備えている。このGPFは、後述する触媒金属を含む2つの触媒層を備えており、ここで開示される排ガス浄化用触媒100(図2参照)の一例である。以下、本実施形態に係る排ガス浄化用触媒100を詳細に説明する。
<排ガス浄化用触媒>
図2は、一実施形態に係る排ガス浄化用触媒100の大まかな構成を示す斜視図である。図3は、図2中の矢印の側、すなわち上流側から見た排ガス浄化用触媒100の側面図である。図4は、排ガス浄化用触媒100の要部を模式的に示す拡大断面図である。ここに開示される排ガス浄化用触媒100は、ウォールフロー構造の基材10と、該基材10の隔壁16に設けられた2つの触媒層(第1触媒層20および第2触媒層30)とを備えている。図2中の白抜きの矢印は、排ガス浄化用触媒100に排ガスが導入される向きを示している。図2中の黒矢印は、基材10の長軸方向(延伸方向もいう)を示し、排ガスの導入方向に一致している。
図2〜図4に示すように、ウォールフロー構造の基材10は、排ガス流入側の端部10aのみが開口した入側セル12と、該入側セル12に隣接し排ガス流出側の端部10bのみが開口した出側セル14と、入側セル12と出側セル14とを仕切る多孔質の隔壁16とを有する。ここで、入側セル12および出側セル14は、隔壁16によって区切られることにより形成された空間であり、延伸方向に沿って長尺に形成されている。これらの入側セル12および出側セル14は、それぞれ、排ガス浄化用触媒100における排ガスの流路の一部を構成し、「セル」12、14とは、この隔壁16によって形成された流路を概念的に示す用語である。
そして、排ガス浄化用触媒100は、隔壁16の入側セル12に面する側の表面に形成されている第1触媒層20と、隔壁16の内部であって少なくとも出側セル14に面する領域に形成されている第2触媒層30とを備えることにより特徴づけられる。ここで、第1触媒層20は、隔壁16の入側セル12に面する側の表面に設けられている。第1触媒層20は、排ガス流入側の端部10aから隔壁16の延伸方向に沿って隔壁16の全長Lwよりも短い長さで形成されている。一方の第2触媒層30は、隔壁16の内部に設けられている。第2触媒層30は、出側セル14に面する領域であって、少なくとも排ガス流出側の端部10bを含む領域に、端部10bから隔壁16の延伸方向に沿って設けられている。かかる構成によると、排ガス浄化用触媒の浄化性能(特に暖機性)をより良く向上することができる。
このような効果が得られる理由としては、特に限定的に解釈されるものではないが、例えば以下のように考えられる。すなわち、排ガスは、排ガス流入側の端部10aから入側セル12の内部に流入し、いずれかの地点で隔壁16を通過した後、出側セル14の内部を端部10bに向かって直線的に移動することが多い。ここで、第1触媒層20および第2触媒層30の双方を隔壁16の内部に配置した排ガス浄化用触媒では、排ガスの多くは、上流側で隔壁16内に侵入して第1触媒層20と接触した後、そのまま隔壁16を通過し、出側セル14内を端部10bに向かって直進する。そのため、下流側の隔壁16内を通過しにくく、ひいては第2触媒層30と接触し難くなり、浄化効率が低下しがちである。これに対して、第1触媒層20を隔壁16の表面に配置し、かつ、第2触媒層30を隔壁16の内部に配置した排ガス浄化用触媒100は、上流側の隔壁16の表面が第1触媒層20で覆われることで、排ガスが上流側の隔壁16内に侵入しにくい。そのため、入側セル12に流入した排ガスの多くは、第1触媒層20に沿って入側セル12内を端部10bに向かって移動・拡散した後、下流側の隔壁16内を通過して第2触媒層30とより確実に接触する。すなわち、上記構成によると、排ガスは第1触媒層20を通過した後に第2触媒層30を通過するため、排ガスと触媒層20、30との接触頻度が従来に比して増大する。このことが浄化性能、特に暖機性の向上に寄与するものと考えられる。
<基材10>
基材10としては、従来のこの種の用途に用いられる種々の素材及び形態のものが使用可能である。例えば、コージェライト、炭化ケイ素(SiC)等のセラミックスまたは合金(ステンレス等)から形成された基材を好適に採用することができる。図2および図3に示す基材10は、外形が円筒形状の枠部と、この枠部の内側の空間をハニカム状に仕切る隔壁16とが一体的に形成されたハニカム基材(ハニカム構造体)である。ただし、基材全体の外形(換言すれば、枠部の形状)については、円筒形に代えて、楕円筒形、多角筒形を採用してもよい。基材10の容量(セルの総体積)は、通常0.1L以上、好ましくは0.5L以上であり、例えば5L以下、好ましくは3L以下、より好ましくは2L以下であるとよい。基材10の延伸方向の全長(換言すれば隔壁16の延伸方向の全長Lw)は、通常は10mm〜500mm、例えば50mm〜300mm程度であるとよい。かかる基材10は、図4に示すように、排ガス流入側の端部のみが開口した入側セル12と、該入側セル12に隣接し排ガス流出側の端部のみが開口した出側セル14と、入側セル12と出側セル14とを仕切る多孔質の隔壁16とを有している。
<入側セルおよび出側セル>
入側セル12および出側セル14は、基材10の枠部の内側の空間を隔壁16によって区切ることにより形成されている。入側セル12および出側セル14は、典型的には、延伸方向以外を、隔壁16によって取り囲まれている。入側セル12は排ガス流入側の流路であり、出側セル14は排ガス流出側の流路である。入側セル12は、排ガス流入側の端部のみが開口しており、出側セル14は、入側セル12に隣接し排ガス流出側の端部のみが開口している。具体的には、この実施形態では、入側セル12は、排ガス流出側の端部に封止部12aを備えている。入側セル12は、排ガス流出側の端部10bが封止部12aで目封じされている。出側セル14は、排ガス流入側の端部に封止部14aを備えている。出側セル14は、排ガス流入側の端部10aが封止部14aで目封じされている。入側セル12および出側セル14は、排ガス浄化用触媒100に供給される排ガスの流量や成分を考慮して適当な形状および大きさに設定するとよい。例えば入側セル12および出側セル14の延伸方向に直交する断面形状は、正方形、平行四辺形、長方形、台形などの矩形、三角形、その他の多角形(例えば、六角形、八角形)、円形など種々の幾何学形状であってよい。本実施形態におけるセルの断面形状は正方形であり、入側セル12および出側セル14は市松模様の形態で配置されている。
<隔壁16>
隣接する入側セル12と出側セル14との間には、隔壁16が配置されている。この隔壁16によって入側セル12と出側セル14とが仕切られている。本実施形態において、隔壁16はハニカム状であり、上記セル12、14が延伸方向に沿って長尺に形成されるように、延伸方向に延設されている。また、隔壁16は、セル12、14の断面形状が上記正方形となるように、平行かつ離間して配置される複数の壁部と、これら複数の壁部に直交しつつ、平行かつ離間して配置される複数の他の壁部とを含む断面格子状に形成されている。隔壁16は、排ガスが通過可能な多孔質構造を有している。隔壁16の気孔率としては特に限定されず、概ね40%〜70%(例えば50%〜70%)にすることが適当であり、好ましくは55%〜65%である。隔壁16の気孔率が小さすぎると、圧損が高くなりすぎてしまうことがあり、一方、隔壁16の気孔率が大きすぎると、フィルタ100の機械的強度が低下傾向になるため、好ましくない。隔壁16の平均細孔径は、PMの捕集性能の向上や圧損抑制の観点から、通常は1μm〜60μm程度、例えば10μm〜40μmであるとよい。隔壁16の厚み(ここでは上記壁部の平均厚み)TWとしては特に限定されないが、概ね50μm〜2000μm(例えば100μm〜800μm)程度であるとよい。このような隔壁の厚みの範囲内であると、基材10の強度を確保しつつ、触媒と排ガスとの接触効率や浄化効率を高めるための触媒設計に好適である。また、PMの捕集効率を損なうことなく圧損の上昇を抑制する効果が得られる。なお、枠部の構成は特に制限されない。例えば、枠部の厚み、多孔質性状については隔壁16と同様にすることができる。
<第1触媒層>
第1触媒層20は、図4に示すように、隔壁16の入側セル12に面する側の表面に形成されている。第1触媒層20は、排ガス流入側の端部10aから延伸方向に沿って隔壁16の全長Lwよりも短い長さで形成されている。第1触媒層20は、典型的には、気孔率が隔壁16よりも相対的に低いやや緻密な多孔質構造を有している。ここに開示される技術では、上流側の隔壁16の表面が第1触媒層20で覆われることで、排ガスが上流側の隔壁16内に侵入しにくい。そのため、入側セル12に流入した排ガスの多くは、第1触媒層20に沿って、入側セル12内を端部10bに向かって移動・拡散する。このように入側セル12内を第1触媒層20に沿って移動・拡散する排ガスを第1触媒層20によって効率よく浄化することができる。
第1触媒層20の延伸方向の長さ(平均長さ、以下同じ)L1は、隔壁16の全長Lwよりも短ければよく(すなわちL1<Lw)、特に限定されない。浄化性能向上等の観点から、第1触媒層20の長さL1は、好ましくはLwの10%以上(すなわちL1≧0.1Lw)、より好ましくは15%以上、さらに好ましくは20%以上、特に好ましくは25%以上である。また、圧力損失を低減する等の観点から、第1触媒層20の長さL1は、好ましくは上記Lwの60%以下(すなわちL1≦0.6Lw)、より好ましくは55%以下、さらに好ましくは50%以下、特に好ましくは40%以下である。ここに開示される技術は、隔壁16の全長Lwに対する第1触媒層20の長さL1が、0.15Lw≦L1≦0.4Lwである態様で好ましく実施され得る。
第1触媒層20の厚み(平均厚み、以下同じ。)T1は特に限定されないが、通常は、隔壁16の厚みTwの概ね5%以上(すなわちT1≧0.05Tw)にすることが適当である。第1触媒層20の厚みT1は、典型的にはTwの8%以上、例えば10%以上、好ましくは15%以上である。このような第1触媒層20の厚みT1の範囲内であると、上流側の隔壁16内への排ガスの侵入(ひいては第1触媒層20のみを通過する排ガス流れ)を抑制して、上述した性能向上効果(例えば暖機性向上効果)がより好適に発揮され得る。第1触媒層20の厚みT1の上限は特に限定されないが、圧力損失を低減する等の観点からは、好ましくは上記Twの50%以下(すなわちT1≦0.5Tw)、より好ましくは30%以下、さらに好ましくは25%以下、特に好ましくは20%以下であり得る。例えば、第1触媒層20の厚みT1が0.05Tw≦T1≦0.4Twである排ガス浄化用触媒が、良好な浄化性能と圧力損失低減とを高度に両立する観点から好適である。
第1触媒層20は、酸化および/または還元触媒として機能する触媒金属と、該触媒金属を担持する担体とを含有することができる。触媒金属としては、例えば、白金族であるロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)などの貴金属が挙げられる。あるいは、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、銀(Ag)、金(Au)などの金属を使用してもよい。また、これらの金属のうち2種以上が合金化したものを用いてもよい。さらには、アルカリ金属やアルカリ土類金属、遷移金属など、他の金属種であってもよい。触媒金属は、排ガスとの接触面積を高める観点から、十分に小さい粒径の微粒子として使用されることが好ましい。上記触媒金属粒子の平均粒子径(透過型電子顕微鏡観察により求められる粒径の平均値。以下同じ。)は通常は0.1nm〜20nm程度であり、例えば1nm〜10nm、7nm以下、さらには5nm以下であるとよい。
この実施形態では、第1触媒層20は、触媒金属としてPdを含んでいる。第1触媒層20成分としてのPdの含有量は、基材の体積1L当たり、概ね0.05g〜5g、例えば0.1g〜3g、典型的には0.3g〜2gであることが好ましい。上記Pdの含有量が少なすぎると、Pdにより得られる触媒活性が不十分となることがあり、他方、Pdの担持量が多すぎると、Pdが粒成長を起こしやすくなると同時にコスト面でも不利である。
第1触媒層20は、例えば、上記触媒金属を担体に担持させることによって形成されている。第1触媒層20は、典型的には、触媒金属を担持した触媒付担体の多孔質焼結体により構成することができる。かかる担体としては、アルミナ(Al2O3)、ジルコニア(ZrO2)、セリア(CeO2)、シリカ(SiO2)、マグネシア(MgO)、酸化チタン(チタニア:TiO2)等の金属酸化物、若しくはこれらの固溶体(例えばセリア−ジルコニア(CeO2−ZrO2)複合酸化物)が挙げられる。中でもアルミナやセリア−ジルコニア複合酸化物の使用が好ましい。これらの二種以上を併用してもよい。なお、上記担体には、副成分として他の材料(典型的には無機酸化物)が添加されていてもよい。担体に添加し得る物質としては、ランタン(La)、イットリウム(Y)等の希土類元素、カルシウムなどのアルカリ土類元素、その他遷移金属元素などが用いられ得る。上記の中でも、ランタン、イットリウム等の希土類元素は、触媒機能を阻害せずに高温における比表面積を向上できるため、安定化剤として好適に用いられる。
上記担体の形状(外形)は特に制限されないが、より大きい比表面積を確保できるという観点から、粉末状のものが好ましく用いられる。例えば、担体として用いる粉末の平均粒子径(レーザ回折・散乱法により測定される平均粒子径)は、例えば20μm以下、典型的には10μm以下、例えば7μm以下が好ましい。上記担体粉末の平均粒子径が大きすぎる場合は、該担体に担持された貴金属の分散性が低下する傾向があり、触媒の浄化性能が低下するため好ましくない。上記平均粒子径は、例えば5μm以下、典型的には3μm以下であってもよい。一方、担体の平均粒子径が小さすぎると、該担体からなる担体自体の耐熱性が低下するため、触媒の耐熱特性が低下し、好ましくない。したがって、通常は平均粒子径が凡そ0.1μm以上、例えば0.5μm以上の担体を用いることが好ましい。上記担体における触媒金属の担持量は特に制限されないが、第1触媒層20の触媒金属を担持する担体の全質量に対して0.01質量%〜10質量%の範囲(例えば0.1質量%〜8質量%、典型的には0.2質量%〜5質量%)とすることが適当である。上記触媒金属の担持量が少なすぎると、触媒金属により得られる触媒活性が不十分となることがあり、他方、触媒金属の担持量が多すぎると、触媒金属が粒成長を起こしやすくなると同時にコスト面でも不利である。
上記担体に触媒金属粒子を担持させる方法としては特に制限されない。例えば触媒金属塩(例えば硝酸塩)や触媒金属錯体(例えば、テトラアンミン錯体)を含有する水溶液に上記担体を含浸させた後、乾燥させ、焼成することにより調製することができる。
ここで開示される第1触媒層20には、上述した触媒金属粒子が担持された担体のほか、触媒金属粒子を担持していない助触媒を添加することができる。助触媒としては、粉末状のセリア−ジルコニア(CeO2−ZrO2)複合酸化物やアルミナ(Al2O3)やシリカ(SiO2)が例示される。特にセリア−ジルコニア複合酸化物やアルミナの使用が好ましい。触媒金属粒子と担体と上記助触媒との合計を100質量%としたときの助触媒の含有率は、通常は80質量%以下(例えば30質量%以上80質量%以下)であることが適当であり、例えば70質量%以下(例えば40質量%以上60質量%以下)であることが好ましい。
ここで開示される第1触媒層20は、バリウムが添加されていてもよい。バリウムを添加することにより、触媒金属の被毒が抑えられ、触媒活性の向上が図られる。また触媒金属の分散性が向上し、高温における触媒金属の粒成長にともなうシンタリングがより良く抑えられることで触媒の耐久性を向上させることができる。ここで開示される第1触媒層20としては、上記バリウムの添加量が、該バリウムを除く第1触媒層20の全質量に対して0質量%〜15質量%を満足するものが好ましい。上記バリウムが添加された第1触媒層20は、例えば、水溶性のバリウム塩(例えば硫酸バリウム)を水(典型的にはイオン交換水)に溶かしたバリウム水溶液を調製し、このバリウム水溶液を担体等に添加して焼成することにより作製することができる。
第1触媒層20のコート密度(すなわち、第1触媒層20の質量を基材の長さL1部分の体積(セルの体積も含めた全体の嵩体積)で割った値)は特に限定されず、概ね350g/L以下にすることが適当である。圧力損失低減等の観点から、第1触媒層20のコート密度は、好ましくは300g/L以下、より好ましくは250g/L以下、さらに好ましくは200g/L以下である。第1触媒層20のコート密度は、例えば180g/L以下であってもよく、典型的には160g/L以下であってもよい。また、第1触媒層20のコート密度の下限は特に限定されないが、浄化性能向上等の観点から、好ましくは30g/L以上、より好ましくは50g/L以上、さらに好ましくは75g/L以上である。例えば第1触媒層20のコート密度が90g/L以上、典型的には100g/L以上であってもよい。
<第2触媒層>
第2触媒層30は、隔壁16の内部に形成されている。より具体的には、第2触媒層30は、隔壁16の内部の細孔の全てを閉塞することなく、細孔の表面(内表面)に形成されている。第2触媒層30は、隔壁16内部の少なくとも出側セル14に面する部分を含む領域に、排ガス流出側の端部10bから延伸方向に沿って所定の長さで形成されている。これにより、より高い排ガス浄化性能を実現することができる。すなわち、入側セル12に流入した排ガスの多くは、第1触媒層20に沿って入側セル12内を端部10bに向かって移動・拡散した後、下流側の隔壁16内を通過する。そのため、下流側の隔壁16内に第2触媒層30を設けることによって、排ガスと触媒金属との接触頻度を高めて排ガス中の有害成分を効率よく浄化することができる。
なお、本明細書において、「触媒層が隔壁の内部に配置されている」とは、触媒層が隔壁の外部(典型的には表面)ではなく、隔壁の内部に主として存在することをいう。より具体的には、例えば第2触媒層30の隔壁の断面を電子顕微鏡で観察し、排ガス流出側の端部10bから下流側に向かって基材10の長さLwの1/10の長さ(0.1Lw)の範囲におけるコート量全体を100%とする。このとき、隔壁の内部に存在するコート量分が、典型的には80%以上、例えば85%以上、好ましくは90%以上、さらには95%以上、特には実質的に100%であることをいう。したがって、例えば隔壁の表面に触媒層を配置しようとした際に触媒層の一部が意図せずに隔壁の内部へ浸透するような場合とは明確に区別されるものである。
第2触媒層30の延伸方向の長さ(平均長さ)L2は特に限定されないが、通常は隔壁16の全長Lwよりも短いことが好ましい。浄化性能向上等の観点から、第2触媒層30の長さL2は、好ましくは全長Lwの30%以上(すなわちL2≧0.3Lw)、より好ましくは40%以上、さらに好ましくは50%以上、特に好ましくは60%以上である。また、第2触媒層30の長さL2は、好ましくは全長Lwの95%以下(すなわちL2≦0.95Lw)、より好ましくは90%以下、さらに好ましくは85%以下、特に好ましくは80%以下である。ここに開示される技術は、隔壁16の全長Lwに対する第2触媒層20の長さL2が、0.7Lw≦L2≦0.95Lwである態様で好ましく実施され得る。
延伸方向と直交する厚み方向において、第2触媒層30の厚み(平均厚み)T2は特に限定されないが、通常は、隔壁16の厚みTwの50%以上(すなわちT2≧0.5Tw)、典型的には70%以上、例えば80%以上、好ましくは90%以上であり得る。好ましい一態様では、隔壁16の厚み方向の全域にわたって第2触媒層30が形成されている(すなわちTwの100%、T2=Tw)。このような第2触媒層30の厚みT2の範囲内であると、上述した性能向上効果(例えば暖機性向上効果)がより好適に発揮され得る。
好ましい一態様では、隔壁16の全長Lwと、第1触媒層20の長さL1と、第2触媒層30の長さL2とが、次式:Lw<(L1+L2)<2Lw;を満たしている。換言すれば第1触媒層20および第2触媒層30は、厚み方向から見たときに、延伸方向の配置の一部が重なり合っている。好ましくは、延伸方向において、第1触媒層20および第2触媒層30は一部が接しており、直接重なり合っている。第1触媒層20と第2触媒層30とを延伸方向に敢えて重ねることで、排ガスが触媒層の形成されていない部分を通過して、未浄化のまま排出されることが未然に防止され得る。これにより、排ガス成分がより確実に触媒層と接触することとなり、効果的に浄化効率を向上させることできる。
第1触媒層20と第2触媒層30とが延伸方向に重なり合う長さは、通常は、上記Lwの2%以上、典型的には5%以上、例えば10%以上であって、概ね60%以下、典型的には50%以下、好ましくは40%以下、より好ましくは30%以下、例えば20%以下であるとよい。なかでも、低コストと高性能とを高度に両立する観点からは、上記Lwの10〜30%程度であることが好ましい。
第2触媒層30は、酸化および/または還元触媒として機能する触媒金属と、該触媒金属を担持する担体とを含有することができる。触媒金属としては、典型的には、白金族であるロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)などの貴金属が挙げられる。あるいは、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、銀(Ag)、金(Au)などの金属を使用してもよい。また、これらの金属のうち2種以上が合金化したものを用いてもよい。さらには、アルカリ金属やアルカリ土類金属、遷移金属など、他の金属種であってもよい。上記触媒金属粒子の平均粒子径は通常0.1nm〜20nm程度であり、例えば1nm〜10nm、7nm以下、さらには5nm以下であるとよい。
この実施形態では、第2触媒層30は、触媒金属としてRhを含んでいる。このように第2触媒層30にRhを配置し、かつ、第1触媒層20にPdを配置することにより、排ガスの浄化性能がより良く向上する。すなわち、上流側のPdを含む第1触媒層20で炭化水素(HC)や一酸化炭素(CO)と酸素(O2)とを優先的に反応させることで、下流側の第2触媒層30では酸素が欠乏しやすくなる。そのため、Rhを含む第2触媒層30において、還元反応(ひいてはNOxの浄化)が進行しやすくなり、浄化性能がより良く向上する。第2触媒層30成分としてのRhの含有量は、基材の体積1L当たり、概ね0.01g〜2g、例えば0.05g〜1.5g、典型的には0.08g〜1gであることが好ましい。上記Rhの含有量が少なすぎると、Rhにより得られる触媒活性が不十分となることがあり、他方、Rhの担持量が多すぎると、Rhが粒成長を起こしやすくなると同時にコスト面でも不利である。
第2触媒層30は、隔壁16の細孔内において、上記触媒金属を担体に担持させることによって形成されている。第2触媒層30は、典型的には、触媒金属を担持した触媒付担体が隔壁16内に全体として層状に配置することで構成することができる。かかる担体としては、アルミナ(Al2O3)、ジルコニア(ZrO2)、セリア(CeO2)、シリカ(SiO2)、マグネシア(MgO)、酸化チタン(チタニア:TiO2)等の金属酸化物、若しくはこれらの固溶体(例えばセリア−ジルコニア(CeO2−ZrO2)複合酸化物)が挙げられる。中でもアルミナの使用が好ましい。これらの二種以上を併用してもよい。なお、上記担体には、副成分として他の材料(典型的には無機酸化物)が添加されていてもよい。担体に添加し得る物質としては、ランタン(La)、イットリウム(Y)等の希土類元素、カルシウムなどのアルカリ土類元素、その他遷移金属元素などが用いられ得る。上記の中でも、ランタン、イットリウム等の希土類元素は、触媒機能を阻害せずに高温における比表面積を向上できるため、安定化剤として好適に用いられる。
上記担体の形状(外形)は特に制限されないが、より大きい比表面積を確保できるという観点から、粉末状のものが好ましく用いられる。例えば、担体として用いる粉末の平均粒子径は、例えば20μm以下、典型的には10μm以下、例えば7μm以下が好ましい。上記担体の平均粒子径が大きすぎる場合は、該担体に担持された貴金属の分散性が低下する傾向があり、触媒の浄化性能が低下するため好ましくない。上記平均粒子径は、例えば5μm以下、典型的には3μm以下であってもよい。一方、担体の平均粒子径が小さすぎると、該担体からなる担体自体の耐熱性が低下するため、触媒の耐熱特性が低下し、好ましくない。したがって、通常は平均粒子径が凡そ0.1μm以上、例えば0.5μm以上の担体を用いることが好ましい。担体における触媒金属の担持量は特に制限されないが、第2触媒層30の触媒金属を担持する担体の全質量に対して0.01質量%〜10質量%の範囲(例えば0.1質量%〜8質量%、典型的には0.2質量%〜5質量%)とすることが適当である。上記触媒金属の担持量が少なすぎると、触媒金属により得られる触媒活性が不十分となることがあり、他方、触媒金属の担持量が多すぎると、触媒金属が粒成長を起こしやすくなると同時にコスト面でも不利である。
上記担体に触媒金属粒子を担持させる方法としては特に制限されない。例えば触媒金属塩(例えば硝酸塩)や触媒金属錯体(例えば、テトラアンミン錯体)を含有する水溶液に上記担体を含浸させた後、乾燥させ、焼成することにより調製することができる。
ここで開示される第2触媒層30には、上述した触媒金属が担持された担体のほか、触媒金属粒子を担持していない助触媒を添加することができる。助触媒としては、セリア−ジルコニア(CeO2−ZrO2)複合酸化物やアルミナ(Al2O3)やシリカ(SiO2)が例示される。特にセリア−ジルコニア複合酸化物やアルミナの使用が好ましい。触媒金属粒子と担体と上記助触媒との合計を100質量%としたときの助触媒の含有率は、通常は80質量%以下(例えば30質量%以上80質量%以下)であることが適当であり、例えば70質量%以下(例えば40質量%以上60質量%以下)であることが好ましい。
第2触媒層30のコート密度(すなわち、第2触媒層30の質量を基材の長さL2部分の体積(セル通路の体積も含めた全体の嵩体積)で割った値)は特に限定されず、概ね300g/L以下にすることが適当である。圧力損失低減等の観点から、第2触媒層30のコート密度は、好ましくは250g/L以下、より好ましくは200g/L以下、さらに好ましくは180g/L以下である。第2触媒層30のコート密度は、例えば150g/L以下であってもよく、典型的には120g/L以下であってもよい。また、第2触媒層30のコート密度の下限は特に限定されないが、浄化性能向上等の観点から、好ましくは20g/L以上、より好ましくは40g/L以上、さらに好ましくは60g/L以上である。例えば第2触媒層30のコート密度が80g/L以上、典型的には90g/L以上であってもよい。好ましい一態様では、第2触媒層30のコート密度は、第1触媒層20のコート密度よりも小さい。このように第2触媒層30のコート密度を第1触媒層20のコート密度よりも少なくすることにより、隔壁16の下側部分に排ガスが優先的に流れるようになる。これにより、入側セル12から出側セル14に至る排ガスの流れが円滑になり、浄化性能をさらに向上するとともに、圧力損失を低減することができる。
第1触媒層20および第2触媒層30は、異なるスラリーを基に形成するとよい。例えば、第1触媒層20を形成するための第1触媒層形成用スラリーと、第2触媒層30を形成するための第2触媒層形成用スラリーとを用意する。第1触媒層形成用スラリーには、第1触媒層20を構成する各成分(例えばPdなどの触媒金属を担持した担体粉末)が含まれる。第2触媒層形成用スラリーには、第2触媒層30を構成する各成分(例えばRhなどの触媒金属を担持した担体粉末)が含まれる。好ましい一態様では、第1触媒層形成用スラリーに含まれる担体粉末の平均粒子径は、第2触媒層形成用スラリーに含まれる担体粉末の平均粒子径よりも大きい。第1触媒層形成用スラリーおよび第2触媒層形成用スラリーには、上記触媒金属および担体粉末に加えて、従来公知のバインダ、酸素吸放出材、添加剤などの任意の添加成分を適宜含ませることができる。酸素吸放出材としては、担体または非担持体としてのセリア−ジルコニア複合酸化物を好適に採用し得る。また、バインダとしては、アルミナゾル、シリカゾルなどを採用し得る。これらは、焼成により上記構成成分となる前駆体の形態で含んでもよい。
上記調製した第1触媒層形成用スラリーを、基材10の排ガス流入側の端部10aから入側セル12内に供給し、隔壁16の入側セル12側の表面であって第1触媒層20が形成される部分に供給する。具体的には、例えば第1触媒層形成用スラリー中にハニカム基材10を排ガス流入側の端部10a側から浸漬し、所定の時間が経過した後、該スラリーから取り出すとよい。このとき、排ガス流出側の端部10bから出側セル14を加圧して出側セル14と入側セル12との間に圧力差を生じさせることにより、上記スラリーが隔壁16内に浸透しないよう調整してもよい。また、上記第1触媒層形成用スラリーの固形分濃度や粘度等の性状は、該スラリーが隔壁16内へ流入しにくいように適宜調整してもよい。そして、所定の温度および時間で乾燥、焼成することにより、隔壁16の入側セル12側の表面に所望の性状の第1触媒層20を形成することができる。なお、第1触媒層20の性状(例えば厚みや気孔率)は、上記スラリーの性状やスラリーの供給量、さらには乾燥、焼成条件などによって調整することができる。
また、上記調製した第2触媒層形成用スラリーを、基材10の排ガス流出側の端部10bから出側セル14内に供給し、隔壁16の細孔内であって第2触媒層30が形成される部分に塗布する。具体的には、例えば第2触媒層形成用スラリー中にハニカム基材10を排ガス流出側の端部10b側から浸漬し、所定の時間経過した後、該スラリーから取り出すとよい。上記第2触媒層形成用スラリーの固形分濃度や粘度等の性状は、該スラリーが隔壁16内へ流入し易いように適宜調整してもよい。そして、所定の温度および時間で乾燥、焼成することにより、隔壁16の内部に所望の性状の第2触媒層30を形成することができる。なお、第2触媒層30の性状(例えば厚みや気孔率)は、上記スラリーの性状やスラリーの供給量、さらには乾燥、焼成条件などによって調整することができる。
上記スラリーを付与した後のハニカム基材10は、所定の温度および時間で乾燥、焼成する。スラリーの乾燥条件は基材または担体の形状及び寸法により左右されるが、典型的には80〜300℃程度(例えば100〜250℃)で1〜10時間程度であり、焼成条件は約400〜1000℃程度(例えば500〜700℃)で約1〜4時間程度である。これにより、排ガス浄化用触媒100を製造することができる。
本実施形態に係る排ガス浄化用触媒100は、図4に示すように、基材10の排ガス流入側の端部10aから入側セル12内に排ガスが流入する。入側セル12に流入した排ガスの多くは、第1触媒層20に沿って入側セル12内を端部10bに向かって移動・拡散した後、下流側の隔壁16内を通過して出側セル14に到達する。図4において、入側セル12に流入した排ガスが隔壁16を通過して出側セル14に到達するルートを矢印で示している。このとき、隔壁16は多孔質構造を有しているので、排ガスがこの隔壁16を通過する間に、PMが隔壁16の表面や隔壁16の内部の細孔内(典型的には、隔壁16の表面)に捕集される。また、上流側の隔壁16の表面には第1触媒層20が設けられ、下流側の隔壁16の内部には第2触媒層30が設けられているので、排ガスが隔壁16の表面および内部を通過する間に、排ガス中の有害成分が浄化され得る。隔壁16を通過して出側セル14に到達した排ガスは、排ガス流出側の開口からフィルタの外部へと排出される。
上述した実施形態では、第1触媒層20は、隔壁16の表面に直接(すなわち第1触媒層20と隔壁16とが接するように)形成されている。第1触媒層20の形成態様は、これに限定されない。例えば、図5に示すように、第1触媒層20は、隔壁16の入側セル12に面する側の表面に、触媒金属を含まない下地コート層40を介して形成されていてもよい。図示した例では、下地コート層40は、第1触媒層20が形成される領域がすべて含まれるように、隔壁16の表面に形成されている。下地コート層40の厚みT3は特に限定されないが、下地コート層40の厚みT3と第1触媒層20の厚みT1との合計厚み(T1+T3)に対して20%以上(すなわちT3≧0.2×(T1+T3))、例えば30%以上、典型的には40%以上であることが好ましい。また、厚みT3は、上記(T1+T3)の80%以下(すなわちT3≦0.8×(T1+T3))、例えば70%以下、典型的には60%以下であることが好ましい。下地コート層40を構成する材料は、触媒金属を含まないことを除いて、第1触媒層20と同じ材料であり得る。このように第1触媒層20と隔壁16との間に下地コート層40を設けることで、上流側の隔壁16内への排ガスの侵入(ひいては第1触媒層20のみを通過する排ガス流れ)を効果的に抑制して、より高い浄化性能を得ることができる。ただし、上述した実施形態の如く、第1触媒層20を隔壁16の表面に直接形成した方が、圧力損失を低減する等の観点からは好ましい。
以下、本発明に関する試験例を説明するが、本発明を以下の試験例に示すものに限定することを意図したものではない。
<試験例1>
(実施例1)
本例では、第1触媒層を隔壁の表面に設け、第2触媒層を隔壁の内部に設けた排ガス浄化用触媒を作製した。
具体的には、第1触媒層形成用の担体としてのアルミナ粉末を用意し、貴金属触媒溶液としての硝酸Rh溶液に含浸させた後、蒸発乾固してRhを0.4質量%担持したRh/アルミナ担体粉末を調製した。このRh/アルミナ担体粉末75質量部と、セリア−ジルコニア複合酸化物粉末75質量部とイオン交換水とを混合してスラリーAを調製した。次いで、このスラリーAを、体積(内部セルの体積も含めた全体の嵩体積をいう)1.2Lのコーディエライト製のハニカム基材の排ガス流入側の端部から入側セル内に供給し、隔壁の入側セルの側の表面であって第1触媒層の形成部分にコートし、乾燥および焼成することにより、隔壁の表面に第1触媒層を形成した。第1触媒層の延伸方向の長さ(コート幅)L1は、隔壁の全長Lwの40%、厚みT1は隔壁の全体厚みTwの20%とした。第1触媒層のコート密度は150g/Lとした。
また、第2触媒層形成用の担体としてのアルミナ粉末を用意し、貴金属触媒溶液としての硝酸Rh溶液に含浸させた後、蒸発乾固してRhを0.4質量%担持したRh/アルミナ担体粉末を調製した。このRh/アルミナ担体粉末50質量部と、セリア−ジルコニア複合酸化物粉末50質量部とイオン交換水とを混合してスラリーBを調製した。次いで、このスラリーBを、上記基材の排ガス流出側の端部から出側セル内に供給し、隔壁の出側セルに面する領域の細孔の内表面にコートし、乾燥および焼成することにより、隔壁の内部に第2触媒層を形成した。第2触媒層の延伸方向の長さ(コート幅)L2は隔壁の全長Lwの70%、厚みT2は隔壁の全体厚みTwの100%とした。第2触媒層のコート密度は100g/Lとした。
(比較例1)
本例では、第1触媒層を隔壁の内部に設けた。具体的には、上記スラリーAを、基材の排ガス流入側の端部から入側セル内に供給し、隔壁の入側セルに面する領域の細孔の内表面にコートし、乾燥および焼成することにより、隔壁の内部に第1触媒層を形成した。第1触媒層の延伸方向の長さは隔壁の全長Lwの40%、厚みは隔壁の全体厚みTwの100%とした。第1触媒層のコート密度は150g/Lとした。第1触媒層を隔壁の内部に設けたこと以外は、実施例1と同じ手順で排ガス浄化用触媒を作製した。
(耐久試験)
各例の排ガス浄化用触媒について、耐久試験を行った。耐久試験は、各例の排ガス浄化用触媒を排気量4.6Lのエンジンの排気系にそれぞれ設置し、エンジンを稼働させることで、排ガスを排ガス流入側から入側セル内に供給することにより実施した。試験時間は、触媒床温度が1000℃となってから46時間が経過するまでとした。
(昇温時の浄化性能評価)
上記耐久試験終了後、各例の排ガス浄化用触媒をエンジンベンチの排気系に設置し、熱交換器を用いて触媒の入りガス温度を150℃から昇温速度50℃/min.で上昇させながら模擬排ガスを流入させ、触媒の出側におけるCO濃度、HC濃度およびNOx濃度を測定した。そして、流入ガスの濃度に対して出側の各ガス濃度が50mol%に到達したときの温度(50%浄化率到達温度)を評価した。結果を表1と図6に示す。図6は各例の50%浄化率到達温度を対比するグラフである。なお、50%浄化率到達温度は低温であるほど浄化性能が優れていることを表している。
(暖機時の浄化性能評価)
上記耐久試験終了後、各例の排ガス浄化用触媒をエンジンベンチの排気系に設置し、熱交換器を用いて触媒の入りガス温度を50℃から500℃まで速やかに上昇させ、模擬排ガスを流入させて触媒の出側におけるCO濃度、HC濃度およびNOx濃度を測定した。そして、流入ガスの濃度に対して出側の各ガス濃度が50mol%に到達したときの時間(50%浄化率到達時間)を評価した。結果を表1と図7に示す。図7は各例の50%浄化率到達時間を対比するグラフである。なお、50%浄化率到達時間が短いほど暖機性能が優れていることを表している。
表1、図6および図7に示すように、第1触媒層を隔壁の表面に形成した実施例1の触媒は、第1触媒層を隔壁の内部に形成した比較例1に比べて、50%浄化率到達温度がより低く、浄化性能が良好であった。また、50%浄化率到達時間についてもより短い値を示しており、暖機性能も良好であった。このことから、第1触媒層を隔壁の表面に配置すると、浄化性能(特に暖機性)の向上に効果的であることが確認できた。
<試験例2>
さらに、第1触媒層および第2触媒層の延伸方向の長さ(コート幅)L1、L2が浄化性能に及ぼす影響を確認するため、以下の試験を行った。
本例では、Pdを含む第1触媒層を隔壁の表面に設け、かつ、Rhを含む第2触媒層を隔壁の内部に設けた排ガス浄化用触媒を作製した。
具体的には、第1触媒層形成用の担体としてのセリア−ジルコニア複合酸化物粉末を用意し、貴金属触媒溶液としての硝酸Pd溶液に含浸させた後、蒸発乾固してPdを担持したPd/セリア−ジルコニア複合酸化物担体粉末を調製した。このPd/セリア−ジルコニア複合酸化物担体粉末60質量部と、アルミナ粉末50質量部と、イオン交換水とを混合してスラリーを調製した。次いで、このスラリーを、体積1.7Lのコーディエライト製のハニカム基材の排ガス流入側の端部から入側セル内に供給し、隔壁の入側セルの側の表面であって第1触媒層の形成部分にコートし、乾燥および焼成することにより、隔壁の表面に第1触媒層を形成した。
また、第2触媒層形成用の担体としてのアルミナ粉末を用意し、貴金属触媒溶液としての硝酸Rh溶液に含浸させた後、蒸発乾固してRhを担持したRh/アルミナ担体粉末を調製した。このRh/アルミナ担体粉末50質量部と、セリア−ジルコニア複合酸化物粉末50質量部とイオン交換水とを混合してスラリーを調製した。次いで、このスラリーを、上記基材の排ガス流出側の端部から出側セル内に供給し、隔壁の出側セルに面する領域の細孔の内表面にコートし、乾燥および焼成することにより、隔壁の内部に第2触媒層を形成した。
(実施例2〜5)
実施例2〜5では、上述した作製過程において、第1触媒層および第2触媒層の延伸方向の長さ(コート幅)L1、L2を異ならせて排ガス浄化用触媒を作製した。第1触媒層の厚みT1は隔壁の全体厚みTwの20%で一定とした。第1触媒層のコート密度は110g/Lで一定とした。第2触媒層の厚みT2は隔壁の全体厚みTwの100%で一定とした。第2触媒層のコート密度は100g/Lで一定とした。また、基材1個当たりの触媒金属(PdおよびRh)の含有量が同じとなるように、担体に対するPdおよびRhの担持量を調整した。
得られた触媒サンプルに対して前記方法により耐久試験および浄化性能評価試験を実施し、耐久後の50%浄化率到達温度および50%浄化率到達時間を測定した。さらに、耐久試験後の各例の排ガス浄化用触媒をブロワ式の圧損測定器に設置し、前後の静圧差から圧力損失(kPa)を測定した。また、同様の圧力損失測定試験を触媒層が形成されていないフィルタ基材(参考例)についても行った。そして、各サンプルの圧損上昇率を、次式:圧損上昇率(%)=[(各サンプルの圧力損失−参考例の圧力損失)/参考例の圧力損失]×100;により算出した。結果を表2、図8〜図10に示す。図8は各例の50%浄化率到達温度を対比するグラフである。図9は各例の50%浄化率到達時間を対比するグラフである。図10は各例の圧損上昇率を対比するグラフである。
表2、図8〜図10に示すように、第1触媒層の延伸方向の長さ(コート幅)L1が長いほど、浄化性能で良好な結果が得られた。浄化性能の観点からは、第1触媒層の延伸方向の長さL1は、隔壁の全長Lwの15%以上が好ましく、25%以上がより好ましく、40%以上がさらに好ましい。一方、第1触媒層の延伸方向の長さL1が短いほど、圧力損失は低減傾向を示した。圧力損失を低減する観点からは、第1触媒層の延伸方向の長さL1は、隔壁の全長Lwの55%以下が好ましく、40%以下がより好ましく、25%以下がさらに好ましい。良好な浄化性能と圧力損失の低減とを高度に両立させる観点からは、第1触媒層の延伸方向の長さL1は、隔壁の全長Lwの15%以上45%以下が好ましく、20%以上40%以下がさらに好ましい。
<試験例3>
さらに、第1触媒層と隔壁との間に形成された下地コート層が浄化性能に及ぼす影響を確認するため、以下の試験を行った。
(実施例6)
本例では、第1触媒層と隔壁との間に下地コート層が設けられていない排ガス浄化用触媒を作製した。
具体的には、第1触媒層形成用の担体としてのセリア−ジルコニア複合酸化物粉末を用意し、貴金属触媒溶液としての硝酸Pd溶液に含浸させた後、蒸発乾固してPdを1.5質量%担持したPd/セリア−ジルコニア複合酸化物担体粉末を調製した。このPd/セリア−ジルコニア複合酸化物担体粉末60質量部と、アルミナ粉末50質量部と、イオン交換水とを混合してスラリーCを調製した。次いで、このスラリーCを、体積1.2Lのコーディエライト製のハニカム基材の排ガス流入側の端部から入側セル内に供給し、隔壁の入側セルの側の表面であって第1触媒層の形成部分にコートし、乾燥および焼成することにより、隔壁の表面に第1触媒層を形成した。第1触媒層の延伸方向の長さ(コート幅)L1は、隔壁の全長Lwの40%、厚みT1は隔壁の全体厚みTwの20%とした。第1触媒層のコート密度は110g/Lとした。
また、第2触媒層形成用の担体としてのアルミナ粉末を用意し、貴金属触媒溶液としての硝酸Rh溶液に含浸させた後、蒸発乾固してRhを0.2質量%担持したRh/アルミナ担体粉末を調製した。このRh/アルミナ担体粉末50質量部と、セリア−ジルコニア複合酸化物粉末50質量部とイオン交換水とを混合してスラリーを調製した。次いで、このスラリーを、上記基材の排ガス流出側の端部から出側セル内に供給し、隔壁の出側セルに面する領域の細孔の内表面にコートし、乾燥および焼成することにより、隔壁の内部に第2触媒層を形成した。第2触媒層の延伸方向の長さ(コート幅)L2は隔壁の全長Lwの70%、厚みT2は隔壁の全体厚みTwの100%とした。第2触媒層のコート密度は100g/Lとした。
(実施例7)
第1触媒層と隔壁との間に下地コート層を設けたこと以外は実施例6と同様に、排ガス浄化用触媒を作製した。
具体的には、触媒金属を担持していないセリア−ジルコニア複合酸化物粉末を用いたこと以外はスラリーCと同じ組成のスラリーを用意した。このスラリーを、体積1.2Lのコーディエライト製のハニカム基材の排ガス流入側の端部から入側セル内に供給し、隔壁の入側セルの側の表面であって第1触媒層が形成される部分にコートし、乾燥および焼成することにより、隔壁の表面に下地コート層を形成した。下地コート層の延伸方向の長さ(コート幅)は、隔壁の全長Lwの40%、厚みT3は隔壁の全体厚みTwの10%とした。下地コート層のコート密度は55g/Lとした。
また、Pdの担持率を前記スラリーCの2倍に調整したPd/セリア−ジルコニア複合酸化物担体粉末を用いたこと以外はスラリーCと同じ組成のスラリーを用意した。このスラリーを、基材の排ガス流入側の端部から入側セル内に供給し、隔壁の入側セルと接する側の表面であって下地コート層の上にコートし、乾燥および焼成することにより、下地コート層上に第1触媒層を形成した。第1触媒層の延伸方向の長さ(コート幅)L1は、隔壁の全長Lwの40%、厚みT2は隔壁の全体厚みTwの10%とした。第1触媒層のコート密度は55g/Lとした。
第1触媒層と隔壁との間に下地コート層を設けたこと以外は実施例6と同様の手順で、排ガス浄化用触媒を作製した。
得られた触媒サンプルに対して前記方法により耐久試験および浄化性能評価試験を実施し、耐久後の50%浄化率到達温度および50%浄化率到達時間を測定した。結果を表3、図11および図12に示す。図11は各例の50%浄化率到達温度を対比するグラフである。図12は各例の50%浄化率到達時間を対比するグラフである。
表3、図11および図12に示すように、第1触媒層と隔壁との間に下地コート層を設けた実施例7の触媒は、下地コート層を設けていない実施例6に比べて、浄化性能および暖機性能でより良好な結果が得られた。
以上、排ガス浄化用触媒100について種々の改変例を例示したが、排ガス浄化用触媒100の構造は、上述した何れの実施形態にも限定されない。
例えば、上述した実施形態では、第1触媒層20および第2触媒層30は何れも単層構造であるが、複数(例えば2〜5)の層が積層された積層構造であってもよい。例えば、第1触媒層20は、基材(隔壁)表面に近い方を下層とし相対的に遠い方を上層とする上下層を有する積層構造に形成されていてもよい。また、第2触媒層30は、隔壁内部の細孔表面において、細孔表面に近い方を下層とし相対的に遠い方を上層とする上下層を有する積層構造に形成されていてもよい。
また、排ガス浄化装置1の各部材、部位の形状や構造についても変更してもよい。図1に示した例では、フィルタ部の上流側に触媒部5を設けているが、触媒部5は省略しても構わない。この排ガス浄化装置1および排ガス浄化用触媒100は、例えば、ガソリンエンジンなど、排気温度が比較的高い排ガス中の有害成分を浄化する装置および触媒として特に好適である。ただし、本発明に係る排ガス浄化装置1および排ガス浄化用触媒100は、ガソリンエンジンの排ガス中の有害成分を浄化する用途に限らず、他のエンジン(例えばディーゼルエンジン)から排出された排ガス中の有害成分を浄化する種々の用途にて用いることができる。