まず、構成を説明する。実施例1における変速油圧制御装置及び制御方法は、バリエータと呼ばれるベルト式無段変速機構を搭載したエンジン車に適用したものである。以下、実施例1の構成を、「全体システム構成」、「セカンダリ圧油路構成」、「変速油圧制御処理構成」に分けて説明する。
[全体システム構成]
図1は、実施例1の無段変速機の変速油圧制御装置及び制御方法が適用されたエンジン車の駆動系と制御系を示し、図2は、バリエータ4の変速油圧制御を実行する際に用いられる変速スケジュールの一例を示す。以下、図1及び図2に基づいて、全体システム構成を説明する。
エンジン車の駆動系は、図1に示すように、エンジン1と、トルクコンバータ2と、前後進切替機構3と、バリエータ4(ベルト式無段変速機構)と、終減速機構5と、駆動輪6,6と、を備えている。
エンジン1は、ドライバによるアクセル操作による出力トルクの制御以外に、外部からのエンジン制御信号により出力トルクが制御可能である。このエンジン1には、スロットルバルブ開閉動作や燃料カット動作等により出力トルク制御を行う出力トルク制御アクチュエータ10を有する。
トルクコンバータ2は、トルク増大機能を有する発進要素であり、トルク増大機能を必要としないとき、エンジン出力軸11(=トルクコンバータ入力軸)とトルクコンバータ出力軸21を直結可能なロックアップクラッチ20を有する。このトルクコンバータ2は、エンジン出力軸11にコンバータハウジング22を介して連結されたタービンランナ23と、トルクコンバータ出力軸21に連結されたポンプインペラ24と、ケースにワンウェイクラッチ25を介して設けられたステータ26と、を構成要素とする。
前後進切替機構3は、バリエータ4への入力回転方向を前進走行時の正転方向と後退走行時の逆転方向で切り替える機構である。この前後進切替機構3は、ダブルピニオン式遊星歯車30と、複数枚のクラッチプレートによる前進クラッチ31と、複数枚のブレーキプレートによる後退ブレーキ32と、を有する。前進クラッチ31は、Dレンジ等の前進走行レンジ選択時に前進クラッチ圧Pfcにより油圧締結される。後退ブレーキ32は、Rレンジ等の後退走行レンジ選択時に後退ブレーキ圧Prbにより油圧締結される。なお、前進クラッチ31と後退ブレーキ32は、Nレンジ(ニュートラルレンジ、非走行レンジ)の選択時、前進クラッチ圧Pfcと後退ブレーキ圧Prbをドレーンすることで、いずれも解放される。
バリエータ4は、プライマリプーリ42と、セカンダリプーリ43と、プーリベルト44と、を有し、ベルト接触径の変化により変速比(バリエータ入力回転速度とバリエータ出力回転速度の比)を無段階に変化させる無段変速機能を備える。プライマリプーリ42は、バリエータ入力軸40の同軸上に配された固定プーリ42aとスライドプーリ42bにより構成され、スライドプーリ42bは、プライマリ圧室45に導かれるプライマリ圧Ppriによりスライド動作する。セカンダリプーリ43は、バリエータ出力軸41の同軸上に配された固定プーリ43aとスライドプーリ43bにより構成され、スライドプーリ43bは、セカンダリ圧室46に導かれるセカンダリ圧Psecによりスライド動作する。プーリベルト44は、プライマリプーリ42のV字形状をなすシーブ面と、セカンダリプーリ43のV字形状をなすシーブ面に掛け渡されている。このプーリベルト44は、環状リングを内から外へ多数重ね合わせた2組の積層リングと、打ち抜き板材により形成され、2組の積層リングに沿って挟み込みにより環状に積層して取り付けられた多数のエレメントにより構成されている。なお、プーリベルト44としては、プーリ進行方向に多数配列したチェーンエレメントを、プーリ軸方向に貫通するピンにより結合したチェーンタイプのベルトであっても良い。
終減速機構5は、バリエータ出力軸41からのバリエータ出力回転速度を減速すると共に差動機能を与えて左右の駆動輪6,6に伝達する機構である。この終減速機構5は、減速ギア機構として、バリエータ出力軸41に設けられた第1ギア52と、アイドラ軸50に設けられた第2ギア53及び第3ギア54と、デフケースの外周位置に設けられた第4ギア55と、を有する。そして、差動ギア機構として、左右のドライブ軸51,51に介装されたディファレンシャルギア56を有する。
エンジン車の制御系は、図1に示すように、油圧制御系である油圧制御ユニット7と、電子制御系であるCVTコントロールユニット8と、を備えている。
油圧制御ユニット7は、プライマリ圧室45に導かれるプライマリ圧Ppriと、セカンダリ圧室46に導かれるセカンダリ圧Psecと、前進クラッチ31への前進クラッチ圧Pfcと、後退ブレーキ32への後退ブレーキ圧Prbと、を調圧するユニットである。この油圧制御ユニット7は、走行用駆動源であるエンジン1により回転駆動されるオイルポンプ70と、オイルポンプ70からの吐出圧に基づいて各種の制御圧を調圧する油圧制御回路71と、を備える。油圧制御回路71には、ライン圧ソレノイドバルブ72と、プライマリ圧ソレノイドバルブ73と、セカンダリ圧ソレノイドバルブ74と、前進クラッチ圧ソレノイドバルブ75と、後退ブレーキ圧ソレノイドバルブ76と、を有する。なお、各ソレノイドバルブ72,73,74,75,76は、CVTコントロールユニット8から出力されるデューティ指令値によって、ON/OFF比率(デューティ比)を異ならせることにより各指令圧に調圧する。
ライン圧ソレノイドバルブ72は、CVTコントロールユニット8から出力されるライン圧指令値に応じ、オイルポンプ70からの吐出圧を、指令されたライン圧PLに調圧する。このライン圧PLは、各種の制御圧を調圧する際の元圧であり、駆動系を伝達するトルクに対してベルト滑りやクラッチ滑りを抑える油圧とされる。
プライマリ圧ソレノイドバルブ73は、CVTコントロールユニット8から出力されるプライマリ圧指令値に応じ、ライン圧PLを元圧として指令されたプライマリ圧Ppriに減圧調整する。セカンダリ圧ソレノイドバルブ74は、CVTコントロールユニット8から出力されるセカンダリ圧指令値に応じ、ライン圧PLを元圧として指令されたセカンダリ圧Psecに減圧調整する。
前進クラッチ圧ソレノイドバルブ75は、CVTコントロールユニット8から出力される前進クラッチ圧指令値に応じ、ライン圧PLを元圧として指令された前進クラッチ圧Pfcに減圧調整する。後退ブレーキ圧ソレノイドバルブ76は、CVTコントロールユニット8から出力される後退ブレーキ圧指令値に応じ、ライン圧PLを元圧として指令された後退ブレーキ圧Prbに減圧調整する。
CVTコントロールユニット8は、ライン圧制御や変速油圧制御や前後進切替制御、等を行う。ライン圧制御では、スロットル開度等に応じた目標ライン圧を得る指令値をライン圧ソレノイドバルブ72に出力する。変速油圧制御では、目標変速比(目標プライマリ回転速度Npri*)を決めると、決めた目標変速比(目標プライマリ回転速度Npri*)を得る指令値をプライマリ圧ソレノイドバルブ73及びセカンダリ圧ソレノイドバルブ74に出力する。前後進切替制御では、選択されているレンジ位置に応じて前進クラッチ31と後退ブレーキ32の締結/解放を制御する指令値を前進クラッチ圧ソレノイドバルブ75及び後退ブレーキ圧ソレノイドバルブ76に出力する。
CVTコントロールユニット8には、プライマリプーリ回転速度センサ80、車速センサ81、セカンダリ圧センサ82、油温センサ83、インヒビタースイッチ84、ブレーキスイッチ85、アクセル開度センサ86、プライマリ圧センサ87、前後Gセンサ89、等からのセンサ情報やスイッチ情報が入力される。また、エンジン回転速度センサ12からのセンサ情報が入力されるエンジンコントロールユニット88からは、エンジントルク情報を入力し、エンジンコントロールユニット88へはエンジントルクリクエストを出力する。なお、プライマリプーリ回転速度センサ80は、プライマリプーリ回転速度をパルス波信号のカウント回数であるパルスカウント数により検出するセンサである。車速センサ81も同様に、変速機出力回転速度をパルス波信号のカウント回数であるパルスカウント数により検出するセンサである。インヒビタースイッチ84は、選択されているレンジ位置(Dレンジ,Nレンジ,Rレンジ等)を検出し、レンジ位置に応じたレンジ位置信号を出力する。
ここで、CVTコントロールユニット8で実行される通常の変速油圧制御は、車速センサ81により検出された車速VSPと、アクセル開度センサ86により検出されたアクセル開度APOにより特定される図2の変速スケジュール上での運転点(VSP,APO)により、目標プライマリ回転速度Npri*を決めることで行われる。
変速スケジュールは、図2に示すように、運転点(VSP,APO)に応じて最Low変速比と最High変速比による変速比幅の範囲内で変速比を無段階に変更するように設定されている。例えば、車速VSPが一定のときは、アクセル踏み込み操作を行うと目標プライマリ回転速度Npri*が上昇してダウンシフト方向に変速し、アクセル踏み込み戻し操作を行うと目標プライマリ回転速度Npri*が低下してアップシフト方向に変速する。アクセル開度APOが一定のときは、車速VSPが上昇するとアップシフト方向に変速し、車速VSPが低下するとダウンシフト方向に変速する。
[セカンダリ圧油路構成]
図3は、エンジン車のパワーユニット室に車体への弾性支持により搭載されるベルト式無段変速機ユニット9の外観を示す。以下、図3に基づいて、セカンダリ圧油路構成を説明する。
ベルト式無段変速機ユニット9は、図3に示すように、トランスミッションケース90と、ケース一側面開口に固定されるサイドカバー91と、ケース他側面開口に固定されるコンバータケース92と、ケース底面開口に固定されるオイルパン93と、を有する。そして、トランスミッションケース90とサイドカバー91により形成される空間に、前後進切替機構3とバリエータ4と終減速機構5と油圧制御回路71が内蔵されている。また、コンバータケース92により形成される空間にトルクコンバータ2が内蔵されていて、コンバータケース92は、エンジン1と結合される。
ベルト式無段変速機ユニット9は、エンジン1と結合させることでパワーユニットを構成し、このパワーユニットは、フロント側のパワーユニット室にエンジン横置きにて配置され、複数のパワーユニットマウントを介して車体へ弾性支持される。
サイドカバー91は、バリエータ4のプライマリプーリ42のプーリ軸の軸端部を支持すると共に、セカンダリプーリ43のプーリ軸の軸端部を支持する。そして、サイドカバー91には、図3に示すように、オイルポンプ70から油圧制御回路71を経由し、セカンダリプーリ43のセカンダリ圧室46にセカンダリ圧Psecを導くセカンダリ圧油路94が形成されている。さらに、サイドカバー91には、図3に示すように、ユニット側マウントブラケット95が固定されている。つまり、セカンダリ圧油路94とユニット側マウントブラケット95とは、サイドカバー91において互いに近接する位置に配されている。
[変速油圧制御処理構成]
図4は、実施例1のCVTコントロールユニット8で実行される変速油圧制御処理の流れを示す。以下、変速油圧制御処理構成をあらわす図4の各ステップについて説明する。なお、この変速油圧制御処理は、走行レンジ(Dレンジ又はRレンジ)を選択しているときに実行される。
ステップS1では、アクセルOFF・ブレーキONの状況で車両が停車中であるか否かを判断する。YES(停車中)の場合はステップS2へ進み、NO(走行中)の場合はステップS6へ進む。ここで、アクセルOFFの情報はアクセル開度センサ86から取得し、ブレーキONの情報はブレーキスイッチ85から取得する。停車中であるか否かの判断は、バリエータ4の出力回転速度を検出する車速センサ81からの車速情報を用い、車速センサ値が停車判定値を示すと停車中であると判断する。
ステップS2では、ステップS1での停車中であるとの判断に続き、車両が停車している路面が平地であるか否かを判断する。YES(平地)の場合はステップS3へ進み、NO(勾配地)の場合はステップS6へ進む。ここで、停車路面が平地であるか否かの判断は、前後Gセンサ89からのセンサ値が、平地判定下限値≦前後Gセンサ値≦平地判定上限値であるとき、停車路面が平地であると判断する。平地判定下限値>前後Gセンサ値、又は、前後Gセンサ値>平地判定上限値であるとき、停車路面が勾配地であると判断する。
ステップS3では、ステップS2での平地であるとの判断に続き、エンジン回転速度がアイドル回転判定値以下であるか否かを判断する。YES(エンジン回転速度≦アイドル回転判定値)の場合はステップS4へ進み、NO(エンジン回転速度>アイドル回転判定値)の場合はステップS6へ進む。ここで、エンジン回転速度の情報は、エンジン回転速度センサ12から取得する。「アイドル回転判定値」は、エンジン1の回転速度がアイドル回転速度域まで低下した状態になったことを示す値に設定される。
ステップS4では、ステップS3でのエンジン回転速度≦アイドル回転判定値であるとの判断に続き、プライマリプーリ回転速度センサ80からのパルス波信号をチェックすることによりプライマリプーリ回転速度が低回転状態になったか否かを判断する。YES(プライマリプーリ回転速度が低回転状態になった)の場合はステップS5へ進み、NO(プライマリプーリ回転速度が低回転状態になっていない)の場合はステップS6へ進む。ここで、プライマリプーリ回転速度の低回転状態判断を行う際は、プライマリプーリ回転速度センサ80からパルス波信号が入力されると、パルス波信号のダウンエッジからタイマー値のカウントを開始する。そして、タイマー値が閾値(例えば、0.5sec)を経過しても次のパルス波信号が入力されないとプライマリプーリ回転速度が低回転状態になったと判断する。つまり、タイマー値が閾値を経過する前に次のパルス波信号が入力されると、プライマリプーリ回転速度は、未だに低回転状態になっていないと判断する。タイマー値の閾値は、セカンダリ圧Psecを低下させてもバリエータ4がアップシフト側に変速比が変化しないプーリ回転停止状態のプーリ回転速度になったことを判断するのに必要な時間に設定される。
ステップS5では、ステップS4でのプライマリプーリ回転速度が低回転状態になったとの判断に続き、セカンダリ圧Psecを低下させる規制が無いか否かを判断する。YES(セカンダリ圧低下規制無し)の場合はステップS6へ進み、NO(セカンダリ圧低下規制有り)の場合はステップS6へ進む。ここで、セカンダリ圧Psecの低下規制判断とは、例えば、実施例1のノイズ低減制御以外の他の変速油圧制御の介入によりセカンダリ圧Psecを上昇させている場合、セカンダリ圧Psecの低下規制有りと判断する。そして、ステップS7以降のノイズ低減制御処理を実行しない。
ステップS6では、ステップS1,S2,S3,S4,S5の何れかのステップでNOであるとの判断に続き、通常の変速油圧制御を実行し、リターンへ進む。ここで、通常の変速油圧制御とは、実プライマリ回転速度Npriが目標プライマリ回転速度Npri*に収束するように、プライマリ圧Ppriとセカンダリ圧Psecの差圧をフィードバック制御することをいう。このとき、プライマリ圧Ppriとセカンダリ圧Psecの片方のみを低下させたり上昇させたりするのではなく、両圧Ppri,Psecを低下させたり上昇させたとすることで、プライマリプーリ42とセカンダリプーリ43とのバランス推力を保つようにしている。
ステップS7では、ステップS5でのセカンダリ圧低下規制無しであるとの判断に続き、プライマリ指令圧の下限圧(PRI下限圧)を、プライマリ下限圧Bまで上昇させ、ステップS8へ進む。なお、ステップS5にてセカンダリ圧低下規制無しと判断されると、ステップS1,S2,S3,S4,S5によるノイズ低減制御の入り条件が成立したと判断され、ノイズ低減制御を開始する制御進入フラグが立てられる。ここで、「プライマリ下限圧B」は、プライマリプーリ42とセカンダリプーリ43とのバランス推力により設定されるプライマリ圧Ppriより高い油圧であり、かつ、アイドル回転状態であるエンジン1から入力されるトルクに対してベルト滑りが発生しない油圧(例えば、0.7MPa)に設定される。
ステップS8では、ステップS7でのPRI下限圧をPRI下限圧Bまで上昇、或いは、ステップS12での抜け条件不成立であるとの判断に続き、実セカンダリ圧Psecが、セカンダリ目標圧Aにヒステリシス分αを加えた値以上であるか否かを判断する。YES(実SEC圧≧A+α)の場合はステップS9へ進み、NO(実SEC圧<A+α)の場合はステップS10へ進む。ここで、「実セカンダリ圧Psec」の情報は、セカンダリ圧センサ82からのセンサ信号により取得される。「セカンダリ目標圧A」は、実験により確認されたオイルポンプノイズが低減されるセカンダリ圧領域の最大圧(例えば、0.8MPa)に設定される。「ヒステリシス分α」は、セカンダリ圧Psecの油圧制御ハンチングを抑える値に設定される。
ステップS9では、ステップS8での実SEC圧≧A+αであるとの判断に続き、セカンダリ圧ソレノイドバルブ74へ出力するセカンダリ圧指令値によるセカンダリ指令圧を下げ、ステップS12へ進む。ここで、実SEC圧が(A+α)から所定圧以上離れている領域においては、セカンダリ指令圧を急勾配の指令圧低下特性にて下げ、実SEC圧が(A+α)から所定圧未満まで近づくと、セカンダリ指令圧の低下特性の勾配を緩やかにする。つまり、実SEC圧の低下制御においては、応答性(急勾配)と収束性(緩勾配)を両立させるようにセカンダリ指令圧の低下勾配を決めている。
ステップS10では、ステップS8での実SEC圧<A+αであるとの判断に続き、実セカンダリ圧Psecがセカンダリ目標圧A以下であるか否かを判断する。YES(実SEC圧≦A)の場合はステップS11へ進み、NO(実SEC圧>A)の場合はステップS12へ進む。なお、「セカンダリ目標圧A」は、ステップS8と同じ値である。
ステップS11では、ステップS6での実SEC圧≦Aであるとの判断に続き、そのときのセカンダリ指令圧(SEC指令圧)をそのまま維持し、ステップS12へ進む。
ステップS12では、ステップS9でのSEC指令圧の下げ、或いは、ステップS10での実SEC圧>Aであるとの判断、或いは、ステップS11でのSEC圧維持に続き、ノイズ低減制御を終了する抜け条件が成立したか否かを判断する。YES(抜け条件成立)の場合はステップS13へ進み、NO(抜け条件不成立)の場合はステップS8へ戻る。ここで、抜け条件の不成立/成立判断は、下記の6つの条件が全て不成立である間は抜け条件不成立と判断し、下記の6つの条件のうち1つの条件が成立すると抜け条件成立と判断する。具体的な6つの条件は、
1.制御開始後のプライマリパルスカウント数≧閾値(例えば、4回)
なお、セカンダリ回転速度センサが設けられている場合には、制御開始後のセカンダリパルスカウント数≧閾値としても良い。
2.ブレーキOFF
3.実SEC圧≦SEC必要圧となってa時間が経過
4.アクセルON
5.走行レンジ以外へのセレクト操作
6.フェイル判定
である。
ここで、「3.実SEC圧≦SEC必要圧となってa時間が経過」とは、図5に示すように、SEC実圧がSEC必要圧(セカンダリ目標圧Aより低い油圧)以下になったままでa時間が経過するタイミングをいう。このタイミングは、SEC実圧がセカンダリ目標圧A以下になった後、F/B後SEC指令圧を上昇させているにもかかわらず、SEC実圧が低下を続けている状況のときであり、何らかの原因によりSEC実圧が容量不足に陥ったと判断されるタイミングである。なお、「SEC必要圧」とは、エンジン1からトルクコンバータ2を経由してバリエータ4へ入力される入力トルクに相当するセカンダリ圧Psecをいう。但し、バリエータ4への入力トルクは、トルクコンバータ2のトルク容量τとエンジン回転速度Neを用いた(入力トルク≒τNe2)の式により計算される。
ステップS13では、ステップS12での抜け条件成立であるとの判断に続き、PRI下限圧Bにより低下を抑えたプライマリ指令圧を低下させて元に戻すと共に、低下させたセカンダリ指令圧を上昇させて元に戻し、リターンへ進む。このステップS13では、ステップS12にてノイズ低減制御の抜け条件が成立したと判断されると、制御中に立てていた制御進入フラグが降ろされる。
次に、作用を説明する。実施例1の作用を、「変速油圧制御処理作用」、「変速油圧制御の背景技術と課題」、「変速油圧制御作用」、「変速油圧制御の特徴作用」に分けて説明する。
[変速油圧制御処理作用]
以下、図4に示すフローチャートに基づいて、変速油圧制御処理作用を説明する。先ず、アクセルON・ブレーキOFFによる走行時、或いは、アクセルOFF・ブレーキONによる減速走行時、或いは、アクセルOFF・ブレーキONであるが停車条件が成立しないときは、ステップS1→ステップS6→リターンへと進む流れが繰り返される。ステップS6では、通常の変速油圧制御が実行される。
停車条件は成立するが、平地条件が成立しないときは、ステップS1→ステップS2→ステップS6→リターンへと進む流れが繰り返される。ステップS6では、通常の変速油圧制御が実行される。
停車条件と平地条件は成立するが、アイドル回転条件が成立しないときは、ステップS1→ステップS2→ステップS3→ステップS6→リターンへと進む流れが繰り返される。ステップS6では、通常の変速油圧制御が実行される。
停車条件と平地条件とアイドル回転条件は成立するが、プーリ低回転条件が成立しないときは、ステップS1→ステップS2→ステップS3→ステップS4→ステップS6→リターンへと進む流れが繰り返される。ステップS6では、通常の変速油圧制御が実行される。
停車条件と平地条件とアイドル回転条件とプーリ低回転条件は成立するが、SEC圧低下規制無し条件が成立しないときは、ステップS1→ステップS2→ステップS3→ステップS4→ステップS5→ステップS6→リターンへと進む流れが繰り返される。ステップS6では、通常の変速油圧制御が実行される。
停車条件と平地条件とアイドル回転条件とプーリ低回転条件とSEC圧低下規制無し条件が成立するときは、ステップS1→ステップS2→ステップS3→ステップS4→ステップS5→ステップS7へと進む。ステップS7では、ノイズ低減制御の入り条件が成立したことで、プライマリ下限圧をプライマリ下限圧Bまで上昇させる制御が行われる。
続いて、ステップS8→ステップS9→ステップS12へと進み、ステップS8では、実セカンダリ圧Psecが、セカンダリ目標圧Aにヒステリシス分αを加えた値以上であるか否かが判断される。そして、実SEC圧≧A+αと判断されている間、ステップS8→ステップS9→ステップS12へと進む流れが繰り返され、ステップS9では、セカンダリ圧ソレノイドバルブ74へ出力するセカンダリ圧指令値によるセカンダリ指令圧を下げる制御が開始される。
セカンダリ指令圧を下げる制御が開始されたことで、実SEC圧<A+αであると判断されると、ステップS8からステップS10へ進み、ステップS10にて実SEC圧>Aと判断されている間は、ステップS8→ステップS10→ステップS12へと進む流れが繰り返される。この間は、それまでの制御を引き継ぎ、セカンダリ指令圧が下げられる。
ステップS10にて実SEC圧≦Aと判断されると、ステップS8からステップS10→ステップS11→ステップS12へと進む流れが繰り返され、ステップS11では、そのときのセカンダリ指令圧がそのまま維持される。セカンダリ指令圧を維持したことで、実SEC圧>Aになると、実SEC圧≧A+αと判断されるまでの間は、ステップS8→ステップS10→ステップS12へと進む流れが繰り返される。この間は、それまでの制御を引き継ぎ、セカンダリ指令圧が維持される。このように、セカンダリ指令圧を下げる制御動作とセカンダリ指令圧を維持する制御動作とを繰り返すことで、実セカンダリ圧Psecがセカンダリ目標圧Aまで下げられる。
その後、ノイズ低減制御を終了する抜け条件が成立すると、ステップS12からステップS13→リターンへ進む。ステップS13では、制御進入フラグが降ろされ、PRI下限圧Bにより低下を抑えたプライマリ指令圧を低下させて元に戻す制御が行われると共に、低下させたセカンダリ指令圧を上昇させて元に戻す制御が行われる。
このように、Dレンジ又はRレンジの選択時、セカンダリ圧Psecを低下させてもバリエータ4がアップシフト側に変速しないプーリ回転速度になると、実セカンダリ圧Psecをセカンダリ目標圧Aまで低下させる。この実セカンダリ圧Psecを低下させる制御により、車両状態が停車直前状態又は停車状態において、“オイルポンプノイズ”と呼ばれる騒音を低減し、音振性能を改善するようにしている。
そして、実セカンダリ圧Psecを低下させる制御を行うことにより、プーリベルト44のベルトクランプ力が低下し、実セカンダリ圧Psecの低下を原因とするベルト滑りの発生が懸念される。しかし、このベルト滑りに対しては、実セカンダリ圧Psecを低下に伴って低下しようとする実プライマリ圧Ppriをプライマリ下限圧Bにより持ち上げ、実プライマリ圧Ppriがプライマリ下限圧Bより低下しないようにすることで防止している。
[変速油圧制御の背景技術と課題]
先ず、DレンジやRレンジでの停車中にオイルポンプノイズが発生することがユーザから指摘された。特に、道路ノイズやエンジン音等が走行中に比べて小さい停車直前状態や停車状態において、オイルポンプノイズが発生すると、運転者にとって違和感になりやすく、音振性能を改善してほしいという要求があった。
この音振性能の改善要求に対し、本発明者等がオイルポンプノイズの発生原因を調査したところ、オイルポンプノイズは元々ライン圧に依存性を持っているが、車両共振領域を過ぎてからはライン圧依存性が弱くなり、セカンダリ圧依存性を持つことが分かった。そこで、エンジン1により駆動されるオイルポンプ70からセカンダリプーリ43までのセカンダリ圧油路94に注目した(図3)。このセカンダリ圧油路94に注目すると、セカンダリ圧油路94を通過するセカンダリ圧Psecの変動成分を加振源とし、セカンダリ圧油路94に近接して設けられたユニット側マウントブラケット95との共振により“オイルポンプノイズ”が発生することが判明した。
そして、セカンダリ圧Psecを調圧するセカンダリ圧ソレノイドバルブ74は、ON/OFF動作を繰り返して調圧するため、図7のSEC実圧特性に示すように、油圧が変動する脈動油圧になる。このように、オイルポンプノイズの加振源が、セカンダリ圧Psecの変動成分にあることから、セカンダリ圧Psecを低減すると、オイルポンプノイズが低減され、音振性能が改善することを知見した。なお、セカンダリ圧Psecを低減するとオイルポンプノイズが低減される理由は、セカンダリ圧Psecを低減することにより、加振源になる変動成分(脈動油圧の振幅)も小さく抑えられることによると思われる。
しかし、オイルポンプノイズを低減することだけに着目し、車両状態を考慮することなくセカンダリ圧Psecを低減すると、例えば、走行中においては、ベルト滑りが発生したり、意図しない変速が発生したりする、という課題がある。つまり、走行中にセカンダリ圧Psecを低減すると、セカンダリプーリ43によるプーリベルト44のクランプ力が低下し、ベルト伝達トルクがプーリ挟持トルクを上回り、ベルト滑りが発生する。また、走行中にセカンダリ圧Psecを低減すると、セカンダリプーリ43のプーリ幅が拡大し、プーリベルト44のセカンダリプーリ43に対する巻き付き位置がプーリ回転に伴ってプーリ内径方向に移動し、意図しないアップシフト変速が発生する。
[変速油圧制御作用]
以下、図6に示すタイムチャートに基づいて、変速油圧制御作用を説明する。時刻t1にてアクセル足放し操作を行った後、時刻t2にてブレーキ踏み込み操作を行って車両を停止させるとき、通常の変速油圧制御が実行され、運転点(VSP,APO)が図2のC点→D点→E点→F点→G点へと進み、車速VSPが低下する。
つまり、運転点(VSP,APO)が図2のC点のときにアクセル足放し操作を行うと、図2のD点へ移動し、バリエータ4の変速比はアップシフト方向に変速される。そして、図2のD点に移動した後、ブレーキ踏み込み操作を行って減速すると、コースト変速線に沿って最High変速比を維持したままで運転点(VSP,APO)が図2のD点からE点へ移動する。そして、図2のE点からは、車速VSPの低下に伴ってバリエータ4の変速比は最High変速比からダウンシフト方向に変速しながらF点へ移動する。図2の最Low変速比によるF点に到達すると、最Low変速比を保ったままで目標プライマリ回転速度Npri*が低下し、車速VSPがゼロのG点へと移動する。
その後、時刻t3にて車速センサ値により車両停止が判定され、時刻t4にて前後Gセンサ値により路面勾配が平地であると判定され、時刻t5にてエンジン回転速度センサ値によりアイドル回転域まで低下したと判定される。しかし、これらの条件はノイズ低減制御の入り条件の一部であり、これらの条件が成立したとしてもノイズ低減制御が開始されることはない。
その後、時刻t6にてプライマリプーリ回転速度センサ80からパルス波信号のダウンエッジが検出されると、ダウンエッジからタイマー値のカウントが開始される。そして、タイマー値が閾値(例えば、0.5sec)を経過した時刻t7になっても次のパルス波信号が入力されないとプライマリプーリ回転速度が低回転状態になったと判断され、ノイズ低減制御が開始される。制御開始時刻t7になると、制御進入フラグが、制御進入フラグ=0から制御進入フラグ=1に書き替えられ、セカンダリ指令圧を低下させる制御が開始され、プライマリ下限圧を、プライマリ下限圧Bまで上昇させる制御が行われる。
ここで、図6の矢印Hで囲まれるセカンダリ指令圧を低下させる制御を、図6の矢印Hで囲まれる領域を拡大した図7に基づいて詳細に説明する。制御開始時刻t7からセカンダリ目標圧Aまで乖離している時刻t8までは、セカンダリ指令圧が急勾配の低下特性により下げられる。時刻t8から実SEC圧≦Aと判断される時刻t9までは、セカンダリ指令圧が緩勾配の低下特性により下げられる。時刻t9から実SEC圧≧A+αと判断される時刻t10までは、時刻t9でのセカンダリ指令圧がそのまま維持される。時刻t10から実SEC圧≦Aと判断される時刻t11までは、セカンダリ指令圧が緩勾配の低下特性により下げられる。時刻t11から実SEC圧≧A+αと判断される時刻t12までは、時刻t11でのセカンダリ指令圧がそのまま維持される。時刻t12から実SEC圧≦Aと判断される時刻t13までは、セカンダリ指令圧が緩勾配の低下特性により下げられる。時刻t13以降は、A<実SEC圧<A+αであるため、時刻t13でのセカンダリ指令圧がそのまま維持される。
実セカンダリ圧Psecがセカンダリ目標圧Aまで下げられた後、時刻t14にてプライマリプーリ回転速度センサ80からパルス波信号のダウンエッジが検出される(n=1)。さらに、時刻t15にてパルス波信号のダウンエッジが検出され(n=1)、時刻t16にてパルス波信号のダウンエッジが検出され(n=3)、時刻t17にてパルス波信号のダウンエッジが検出される(n=4)。この時刻t17にて制御開始後のプライマリパルスカウント数≧閾値というノイズ低減制御の抜け条件が成立し、ノイズ低減制御を終了する。制御終了時刻t17になると、制御進入フラグが、制御進入フラグ=1から制御進入フラグ=0に書き替えられ、セカンダリ指令圧がノイズ低減制御前に戻され、プライマリ下限圧が、プライマリ下限圧Bからノイズ低減制御前のプライマリ下限圧(比較例)に戻される。
ここで、図6に示すタイムチャートは、“バリエータ4の変速比が変化しないプーリ回転速度となった”と判断して、セカンダリ圧低下制御を開始しているが、セカンダリ圧低下制御の開始後もプーリが僅かに回転している状況を描いている。これは、プーリ回転停止を判定しても、運転者が僅かにブレーキペダルを弛め車両がクリープ車速以下で前進するようなシーンがあることによる。又は、車両は前進していなくてプーリ回転停止を判定しても、プーリクランプ力が不足して、エンジンからプーリへの入力トルクに負けてベルトが滑ってプーリが回転するようなシーンがあることによる。従って、ノイズ低減制御の抜け(セカンダリ圧低下制御の終了)は、プライマリパルスカウント数≧閾値となったタイミング(時刻t17)になっている。
一方、ノイズ低減制御開始以降、プーリ回転停止等によりプライマリパルスカウント数≧閾値になる前にブレーキON→OFFの操作がなされたときは、時刻t18にてノイズ低減制御の抜け条件が成立し、ノイズ低減制御を終了する。さらに、ノイズ低減制御開始以降、ブレーキON→OFF操作を確認できないまま、プライマリパルスカウント数≧閾値になる前にアクセルOFF→ONの操作がなされたときは、時刻t19にてノイズ低減制御の抜け条件が成立し、ノイズ低減制御を終了する。
[変速油圧制御の特徴作用]
実施例1では、走行中、バリエータ4の目標変速比が決まると、目標変速比に応じて調圧されたプライマリ圧Priとセカンダリ圧Psecを、プライマリプーリ42とセカンダリプーリ43にそれぞれ供給する。セカンダリ圧Psecを低下させてもバリエータ4の変速比が変化しないプーリ回転速度になると、セカンダリ圧Psecを低下させる制御を開始する。
即ち、“セカンダリ圧Psecを低下させてもバリエータ4の変速比が変化しないプーリ回転速度”とは、停車直前状態又は停車状態である。このような車両状態では、オイルポンプノイズ以外の音(道路ノイズやエンジン音等)が走行中に比べて小さく、運転者にとってオイルポンプノイズが違和感となりやすい。従って、このようにオイルポンプノイズ以外の音が小さい車両状態のときに、セカンダリ圧Psecを低下させる制御を開始することで、オイルポンプノイズを低減し、運転者への違和感を低減することができる。一方、停車直前状態や停車状態でない走行状態では、オイルポンプノイズが他の音に混じり、運転者へ与える違和感は低くなる。このような走行状態では、不必要にセカンダリ圧Psecを低減しないことで、ベルト滑りや意図しない変速が発生するおそれを低減することができる。このように、セカンダリ圧Psecを低下させてもバリエータ4の変速比が変化しないプーリ回転速度になると、セカンダリ圧Psecを低下させる制御を開始することで、オイルポンプノイズを低減することができる。そして、セカンダリ圧Psecを低下させてもバリエータ4の変速比が変化しないプーリ回転速度では、プーリベルト44と両プーリ42,43との間で周方向の相対移動が生じないため、ベルト滑りや意図しない変速が発生することを抑制することができる。さらに、実施例1では、オイルポンプ70を、走行用駆動源であるエンジン1により回転駆動されるポンプとしているため、セカンダリ圧Psecを低減することで、オイルポンプ駆動負荷が低減され、燃費が向上する。
実施例1では、プライマリプーリ42とセカンダリプーリ43のうち、少なくとも一方のプーリ回転速度が停止状態になると、セカンダリ圧Psecを低下させてもバリエータ4の変速比が変化しないプーリ回転速度になったと判断する。
即ち、“プーリ回転速度が停止状態となること”ではなく、“車両の停車判定”に基づきセカンダリ圧低下制御を開始することも考えられる。しかしながら、車両の停車判定は精度が粗く、停車判定が成立したタイミングでは、プーリが僅かに回転している状態であることがある。つまり、“プーリ回転速度が停止状態となること”は、プライマリプーリ回転速度センサ80からのパルス波信号が所定時間(例えば、0.5sec)検知されないことに基づき判定される。“車両の停車判定”も、車速センサ81からのパルス波信号が所定時間検知されないことに基づき判定されるが、停車判定における所定時間は、プーリ回転速度の停止状態を判定する所定時間より短い時間(例えば、0.3sec)に設定されている。従って、ノイズ低減制御は、車両の停車判定ではなく、プーリ回転速度が停止状態となることに基づき開始している。その結果、図6に示すタイムチャートにおいて、制御進入フラグが立つタイミング(時刻t7)は、車両の停車判定タイミング(時刻t3)よりも遅くなっている。このため、プーリ回転速度が停止している状態であると、セカンダリ圧Psecを低下させてもベルト滑りや意図しない変速が発生することがない。よって、プーリ回転速度が停止状態になると、セカンダリ圧Psecを低下する制御を開始することで、ベルト滑りや意図しない変速が発生することを確実に防止することができる。
実施例1では、セカンダリ圧Psecを低下させる制御を開始した後、プライマリプーリ回転速度センサ80からのパルスカウント数が閾値以上になると、セカンダリ圧Psecを低下させる制御を終了する。
即ち、セカンダリ圧Psecの低下制御中にプライマリプーリ42やセカンダリプーリ43が回転していることが検知されると、プール回転に伴ってプーリベルト44と両プーリ42,43とが周方向に相対移動し、意図しない変速が発生するおそれがある。従って、両プーリ42,43が回転していることをパルスカウント数により検知し、パルスカウント数が閾値以上になると、セカンダリ圧Psecを低下させる制御を終了するようにしている。これにより、セカンダリ圧Psecの低下制御中にプーリ回転状態が検知されたとき、バリエータ4での意図しない変速を防止することができる。ここで、“セカンダリ圧Psecを低下させる制御を終了する”とは、セカンダリ圧Psecの低下制御を開始する前の油圧までセカンダリ圧Psecを増大させることをいう。
実施例1では、セカンダリ圧Psecを低下させる制御を行うとき、油圧低下による到達目標であるセカンダリ目標圧Aを、オイルポンプ70からの油圧系を加振源として発生するオイルポンプノイズが低減される油圧領域の最大圧に設定する。
即ち、セカンダリ圧Psecを低下させることでオイルポンプノイズを低減できるが、セカンダリ圧Psecを低下させ過ぎると、その後の発進・加速に際して、セカンダリ圧Psecが不足し、駆動力不足やラグ(駆動力の発生遅れ)となる。従って、オイルポンプノイズを低減できる範囲内で極力セカンダリ目標圧Aを高くしておくことで、オイルポンプノイズを低減しつつ、その後の発進・加速時の駆動力不足やラグを低減することができる。
ここで、SEC実圧をセカンダリ目標圧Aに向けて低下させるとき、SEC指令圧をどのように制御するかについて説明する(図7)。先ず、SEC指令圧の低下によりSEC実圧がセカンダリ目標圧Aとなった時点で、SEC指令圧をキープ(その時のSEC指令圧を維持)する。即ち、SEC指令圧をセカンダリ目標圧Aとしたいのではなく、SEC実圧をセカンダリ目標圧Aとしたい。従って、SEC指令圧がセカンダリ目標圧Aより高くても低くても、SEC実圧がセカンダリ目標圧Aとなった時点でSEC指令圧はキープする。なお、その後、SEC実圧がセカンダリ目標圧Aより低くなったら、F/B後SEC指令圧は増大させ、SEC実圧がセカンダリ目標圧Aより高くなったらF/B後SEC指令圧は低下させる(SEC実圧がセカンダリ目標圧Aとなるよう、SEC指令圧をF/B制御する)。
実施例1では、セカンダリ圧Psecを低下させる制御を行うとき、プライマリ圧Ppriの油圧低下を抑えるプライマリ下限圧Bを、プライマリプーリ42とセカンダリプーリ43とのバランス推力により設定される油圧より高い油圧に設定する。
例えば、セカンダリ圧Psecのみを低下すると、セカンダリプーリ42とプライマリプーリ43との推力差のバランスが崩れるため変速してしまう。そのため、通常の変速油圧制御では、セカンダリ圧Psecを低下させるとプライマリ圧Ppriも低下させる。しかし、セカンダリ圧Psecの低下制御時には、バランス推力を保つ通常の変速油圧制御でのプライマリ圧Ppriよりも油圧を低下させることとなるため、アイドル回転状態のエンジン1からの入力トルクに対してベルト滑りが発生するおそれがある。これに対し、プライマリ圧Ppriの油圧低下を抑えるプライマリ下限圧Bを、バランス推力に基づき設定される油圧より高い油圧に設定する。従って、アイドル回転状態のエンジン1から入力されるトルクに対してベルト滑りの発生を防止することができる。
実施例1では、セカンダリプーリ42へのセカンダリ指令圧(SEC指令圧)に対しセカンダリ実圧(SEC実圧)が低下し、セカンダリ指令圧とセカンダリ実圧との差分が所定値以上となったら、セカンダリ圧Psecを低下させる制御を終了する。
例えば、コンタミ等の影響によりセカンダリ圧ソレノイドバルブ74がスティックし、SEC指令圧に対してSEC実圧が追従できず大幅に低下してしまう場合は、オイルポンプノイズを低減できるものの、発進・加速時のベルト容量を確保できなくなるおそれがある。これに対し、SEC指令圧とSEC実圧との差分が所定値以上となったら、セカンダリ圧Psecを低下させる制御を終了する(図5)。このため、制御終了後の発進・加速時において、ベルト滑りを抑えるベルト容量を確保することができる。
次に、効果を説明する。実施例1の無段変速機の変速油圧制御装置及び制御方法にあっては、下記に列挙する効果が得られる。
(1)オイルポンプ70と、バリエータ4と、変速油圧制御部(油圧制御ユニット7及びCVTコントロールユニット8)と、を備える。バリエータ4は、プライマリプーリ42と、セカンダリプーリ43と、両プーリ42,43に掛け渡されるプーリベルト44と、を有し、オイルポンプ70からの吐出圧に基づいて調圧された変速油圧によりプーリ幅が変更されることで変速比が制御される。変速油圧制御部(油圧制御ユニット7及びCVTコントロールユニット8)は、走行中、バリエータ4の目標変速比が決まると、目標変速比に応じて調圧されたプライマリ圧Ppriとセカンダリ圧Psecを、プライマリプーリ42とセカンダリプーリ43にそれぞれ供給する。そして、セカンダリ圧Psecを低下させてもバリエータ4の変速比が変化しないプーリ回転速度になると、セカンダリ圧Psecを低下させる制御を開始する。このため、ベルト滑りや意図しない変速が発生することを抑制しつつ、運転者にとって違和感になるオイルポンプノイズの発生を低減する無段変速機の変速油圧制御装置を提供することができる。
(2)変速油圧制御部(油圧制御ユニット7及びCVTコントロールユニット8)は、プライマリプーリ42とセカンダリプーリ43のうち、少なくとも一方のプーリ回転速度が停止状態になると、セカンダリ圧Psecを低下させてもバリエータ4の変速比が変化しないプーリ回転速度になったと判断する。このため、(1)の効果に加え、プーリ回転速度が停止状態になると、セカンダリ圧Psecを低下する制御を開始することで、ベルト滑りや意図しない変速が発生することを確実に防止することができる。
(3)プライマリプーリ42とセカンダリプーリ43のうち少なくとも一方のプーリ回転速度を、パルス波信号のカウント回数であるパルスカウント数により検出するプーリ回転速度センサ(プライマリプーリ回転速度センサ80)を設ける。変速油圧制御部(油圧制御ユニット7及びCVTコントロールユニット8)は、セカンダリ圧Psecを低下させる制御を開始した後、プーリ回転速度センサ(プライマリプーリ回転速度センサ80)からのパルスカウント数が閾値以上になると、セカンダリ圧Psecを低下させる制御を終了する。このため、(2)の効果に加え、セカンダリ圧Psecの低下制御中にプーリ回転状態が検知されたとき、バリエータ4での意図しない変速を防止することができる。
(4)変速油圧制御部(油圧制御ユニット7及びCVTコントロールユニット8)は、セカンダリ圧Psecを低下させる制御を行うとき、油圧低下による到達目標であるセカンダリ目標圧Aを、オイルポンプ70からの油圧系を加振源として発生するオイルポンプノイズが低減される油圧領域の最大圧に設定する。このため、(1)〜(3)の効果に加え、オイルポンプノイズを低減できる範囲内で極力セカンダリ目標圧Aを高くしておくことで、オイルポンプノイズを低減しつつ、その後の発進・加速時の駆動力不足やラグを低減することができる。
(5)変速油圧制御部(油圧制御ユニット7及びCVTコントロールユニット8)は、セカンダリ圧Psecを低下させる制御を行うとき、プライマリ圧Ppriの油圧低下を抑えるプライマリ下限圧Bを、プライマリプーリ42とセカンダリプーリ43とのバランス推力により設定される油圧より高い油圧に設定する。このため、(1)〜(4)の効果に加え、アイドル回転状態のエンジン1から入力されるトルクに対してベルト滑りの発生を防止することができる。
(6)変速油圧制御部(油圧制御ユニット7及びCVTコントロールユニット8)は、セカンダリプーリ42へのセカンダリ指令圧に対しセカンダリ実圧が低下し、セカンダリ指令圧とセカンダリ実圧との差分が所定値以上となったら、セカンダリ圧Psecを低下させる制御を終了する。このため、(1)〜(5)の効果に加え、制御終了後の発進・加速時において、ベルト滑りを抑えるベルト容量を確保することができる。
(7)オイルポンプ70と、バリエータ4と、を備える。バリエータ4は、プライマリプーリ42と、セカンダリプーリ43と、両プーリ42,43に掛け渡されるプーリベルト44と、を有し、オイルポンプ70からの吐出圧に基づいて調圧された変速油圧によりプーリ幅が変更されることで変速比が制御される。この車両(エンジン車)において、走行中、バリエータ4の目標変速比が決まると、目標変速比に応じて調圧されたプライマリ圧Priとセカンダリ圧Psecを、プライマリプーリ42とセカンダリプーリ43にそれぞれ供給する。セカンダリ圧Psecを低下させてもバリエータ4の変速比が変化しないプーリ回転速度になると、セカンダリ圧Psecを低下させる制御を開始する。このため、ベルト滑りや意図しない変速が発生することを抑制しつつ、運転者にとって違和感になるオイルポンプノイズの発生を低減する無段変速機の変速油圧制御方法を提供することができる。
以上、本発明の無段変速機の変速油圧制御装置及び制御方法を実施例1に基づき説明してきた。しかし、具体的な構成については、この実施例1に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
実施例1では、セカンダリ圧Psecを低下させてもバリエータ4の変速比が変化しないプーリ回転速度となると、オイルポンプノイズの発生の有無にかかわらず、常にセカンダリ圧Psecの低下制御を実行する例を示した。しかし、オイルポンプノイズの発生の有無を検知するようにし、セカンダリ圧を低下させてもバリエータの変速比が変化しないプーリ回転速度となり、かつ、オイルポンプノイズの発生が検知された場合にのみ、セカンダリ圧の低下制御を実行する例としても良い。
実施例1では、プライマリプーリ回転速度センサ80を備えているため、プライマリプーリ回転速度センサ80からのパルス波信号に基づいて、プライマリプーリ42のプーリ回転速度の停止状態を判断するようにしている。しかし、プーリ回転速度の停止状態を判断する場合、プライマリプーリとセカンダリプーリのいずれの回転速度を検知して判断しても良いし、両プーリの回転速度を検知して判断しても良い。
実施例1では、オイルポンプとして、走行用駆動源であるエンジン1により回転駆動されるオイルポンプ70の例を示した。しかし、オイルポンプとしては、走行用駆動源とは独立であるモータにより回転駆動される電動オイルポンプであっても良いし、走行用駆動源により回転駆動されるメカオイルポンプと電動オイルポンプとの組み合わせポンプであっても良い。
実施例1では、セカンダリ圧Psecを低下させる制御を行うとき、油圧低下による到達目標であるセカンダリ目標圧Aを、ノイズ低減油圧領域の最大圧に予め設定する例を示した。しかし、制御入り条件が成立すると、バリエータに入力されるトルクでベルト滑りが生じないセカンダリ目標圧を決めるような例としても良いし、また、予め設定されているセカンダリ目標圧を、バリエータへの入力トルクで補正するような例としても良い。
実施例1では、本発明の変速油圧制御装置及び制御方法を、バリエータのみによるベルト式無段変速機を搭載したエンジン車に適用する例を示した。しかし、本発明の変速油圧制御装置及び制御方法は、副変速機構とバリエータを組み合わせた副変速機付き無段変速機を搭載した車両に適用しても良い。また、適用される車両としても、エンジン車に限らず、ハイブリッド車や電気自動車などに対しても適用できる。