以下、本発明の印刷物の製造方法、および平版印刷用インキセットについて具体的に説明する。
<印刷物の製造方法>
一般的に、印刷物の色合いは、ブラックインキ、シアンインキ、マゼンタインキ、及びイエローインキを用いて表現される。本発明の印刷物の製造方法は、少なくとも平版印刷用ブラックインキ、平版印刷用シアンインキ、平版印刷用マゼンタインキ、及び平版印刷用イエローインキを、基材上に塗布する工程を含むことを特徴とする。
本発明の平版印刷用インキの表面張力は、自動接触角計の液滴法にて測定された接触角から算出される。まず、ガラス基材上にインキを平滑に塗布する。インキ表面が平滑でない場合、真の接触角よりも小さい角度が測定され、誤差の原因となる。インキ表面をより平滑にするために、ガラス基材上にインキを塗布してから30分暗所で静置した後、接触角測定を行う。インキ上に着滴させる溶液として、表面張力の値が既知である純水、及びエチレングリコールを用いる。シリンジを用いて前記溶液の液滴を作成し、前記ガラス基材に塗布したインキ上に前記液滴を接触させて着滴させる。着滴させてから30秒経過した時の接触角を用いて、インキの表面張力を算出する。一般的に表面張力が近い物質同士ほど濡れ性が良い。
接触角を用いて、インキの表面張力を算出する方法について説明する。一般的に、表面張力は、非極性の分散力成分γdと極性の水素結合性の分散力成分γhに分解される(下記数式(1)参照)。物質A上に溶液Bを着滴させた場合、物質Aと溶液Bには、Youngの式が成立する(物質Aの表面張力をγA、溶液Bの表面張力をγB、物質Aと溶液B間の表面張力をγA−B、物質Aと溶液Bの接触角をθA−Bと記す)(下記数式(2)参照)。また、物質Aと溶液B間の表面張力について、拡張Fowkesモデルが提唱されている(下記数式(3)参照)。物質Aとしてインキを、溶液Bとして純水、及びエチレングリコールを使用する時、数式(1)、数式(2)、及び数式(3)より、下記数式(4)および数式(5)が導出される。
(上記数式(4)、数式(5)において、分散力成分γ
d,γ
hの値はそれぞれ0以上である。)
数式(1)、数式(4)および数式(5)より、インキとエチレングリコールの接触角θインキ−エチレングリコールおよびインキと純水の接触角θインキ−純水の測定値に基づき、前記インキの表面張力が算出される。純水の表面張力γは72.8mN/m、非極性の分散力成分γdは21.8mN/m、極性の水素結合性の分散力成分γhは51.0mN/mであり、エチレングリコールの表面張力γは48.8mN/m、非極性の分散力成分γdは32.8mN/m、極性の水素結合性の分散力成分γhは16.0mN/mである。
平版印刷では、インキ壺に供給されたインキが金属ロール、平版、ブランケットの順に転写され、最終的にブランケットから基材に転写されることで印刷物が得られる。そのため、ブランケットの素材が印刷物の品質に与える影響は大きい。一般的に、ブランケットの素材はエチレン・プロピレン・ジエンゴムもしくはアクリルニトリル・ブタジエンゴムであり、活性エネルギー線硬化型インキに対しては、インキ中のモノマーが浸透しにくいエチレン・プロピレン・ジエンゴムが広く使用される。前述した接触角測定法と物質の表面張力の算出方法を利用すると、エチレン・プロピレン・ジエンゴムの表面張力は25.4mN/m、アクリルニトリル・ブタジエンゴムの表面張力は38.0mN/mと算出される。インキとブランケットの表面張力が近いほど、インキのブランケットに対する濡れ性が良くなり、ブランケットへの転写性は向上するが、逆に、インキがブランケットから剥がれにくくなり、結果として基材に転写したインキ表面に凹凸が生じやすく、印刷物の光沢が低下すると考えられる。インキの表面張力がブランケットの表面張力よりも大きいほど、インキのブランケットへの転写性が悪くなり、結果として基材に転写したインキ表面に凹凸が生じやすく、印刷物の光沢が低下すると考えられる。
本発明の印刷物の製造方法は、基材上に塗布するインキの表面張力の差が、3.5mN/m以内であることを特徴とする。これは基材上に塗布する複数の平版印刷用インキのそれぞれの表面張力について、最大の表面張力と最小の表面張力の差が3.5mN/m以下であることを意味する。前記表面張力の差が3.5mN/m以内であることによって、多色が重なり合う印刷部にて下層インキに対する上層インキの濡れ性が良くなり、上層インキが平滑になりやすく、印刷物の光沢が向上する。インキの表面張力の差は、より好ましくは3.0mN/m以内であり、さらに好ましくは2.5mN/m以内である。各インキの表面張力は、インキに組成する樹脂、多官能(メタ)アクリレート、界面活性剤から選ばれる少なくとも1つの種類および/または含有量により調節することができる。したがって、基材上に塗布するインキの表面張力の差は、各インキを組成する樹脂、多官能(メタ)アクリレートおよび/または界面活性剤の種類を相互に変更したり、これらの含有量を増減することにより調節することができる。
本発明の印刷物の製造方法は、基材上に塗布する平版印刷用インキの表面張力が、45mN/m以上60mN/m以下であることが好ましい。これは基材上に塗布する複数の平版印刷用インキのそれぞれの表面張力が、45mN/m以上60mN/m以下であることを意味する。前記平版印刷用インキの表面張力が45mN/m以上であることによって、インキがブランケットから基材に転写される際に剥がれやすくなり、基材に転写したインキ表面が平滑になることで印刷物の光沢が向上する。より好ましくは、48mN/m以上であり、さらに好ましくは、51mN/m以上である。また、前記平版印刷用インキの表面張力が60mN/m以下であることによって、前記インキのブランケットへの転写性が向上する。より好ましくは58mN/m以下であり、さらに好ましくは56mN/m以下である。
平版印刷では、インキを順々に基材上に転写することで印刷物が得られ、インキを転写する順番によって印刷物の光沢は変化する。
本発明の印刷物の製造方法では、平版印刷用ブラックインキ、平版印刷用シアンインキ、平版印刷用マゼンタインキ、平版印刷用イエローインキの順に、基材上にインキを転写するとよい。
本発明の平版印刷用インキのタック値は、インキピペットで秤量した1.31mlのインキを、インコメーターを用い、回転数400rpm、38℃において測定される。測定開始1分後の測定値を、本発明におけるタック値とする。タック値とはインキの粘着性を表す指標であり、タック値が高いほどインキの粘着性が高いことを示す。
本発明の印刷物の製造方法は、基材上に塗布する平版印刷用ブラックインキのタック値(1分値)が5.0以上8.0以下であることが好ましい。先に基材に転写した下層インキが後刷りインキによって剥がされる現象を逆トラッピングと言う。逆トラッピングが発生すると、目的の絵柄の印刷物が得られず不明瞭な印刷物が形成される、後刷りインキに先刷りインキが混色し印刷物の色合いが印刷開始時と終了時で変化する、といった印刷不良が生じる。一般的にタック値を低下させる方法として、インキ中の樹脂濃度を下げる、もしくはシリコーン液体を添加することなどが知られている。しかし、インキ中の樹脂濃度を下げるとインキの凝集力が低下しインキの耐地汚れ性が低下する、シリコーン液体を添加するとインキ表面にシリコーン液体が膜を形成しインキのローラー間の転移性が低下する、といった印刷不良が生じる。前記印刷不良を防ぐために、平版印刷用ブラックインキのタック値は、より好ましくは5.5以上であり、さらに好ましくは6.0以上である。また、インキのタック値が高いと、基材に転写したインキ表面に凹凸が生じやすく、印刷物の光沢が低下する。特に多色が重なり合う印刷部では、下層インキである平版印刷用ブラックインキの表面に凹凸が形成されると、その影響を受け、光沢はさらに低下する。多色が重なり合う印刷部の光沢を向上させるために、平版印刷用ブラックインキのタック値はより好ましくは7.5以下であり、さらに好ましくは7.0以下である。
また基材上に塗布する平版印刷用シアンインキ、平版印刷用マゼンタインキ、及び平版印刷用イエローインキのタック値(1分値)は、平版印刷用ブラックインキと同様に5.0以上8.0以下であることが好ましく、より好適な範囲も同様である。逆トラッピング防止のため、印刷する順番に従ってインキのタックを下げることが好ましく、ブラックインキ、シアンインキ、マゼンダインキ、イエローインキの順で印刷するとき、各インキのタック値は、タック値が小さい順にブラックインキ、シアンインキ、マゼンダインキ、イエローインキとなるように調整するとよい。
本発明の印刷物の製造方法では、使用する平版印刷用インキが、活性エネルギー線硬化性を有する場合は、活性エネルギー線を照射することで、印刷物上のインキ塗膜を瞬時に硬化させることができる。本発明の印刷物の製造方法は、基材上に転写したインキ塗膜に活性エネルギー線を照射して硬化する工程を含む。前記活性エネルギー線としては、硬化反応に必要な励起エネルギーを有するものであればいずれも用いることができ、例えば紫外線や電子線などが好ましく用いられる。電子線により硬化させる場合は、100eV以上500eV以下のエネルギー線を有する電子線装置が好ましく用いられる。紫外線により硬化させる場合は、高圧水銀灯、キセノンランプ、メタルハライドランプ、LED等の紫外線照射装置が好ましく用いられるが、例えばメタルハライドランプを用いる場合、80W/cm以上150W/cm以下の照度を有するランプによって、コンベアーによる搬送速度を50m/min以上150m/min以下とすると、インキが硬化しやすくなるため、かつ生産性の面から好ましい。ランプの照度について、インキが硬化しやすくなるため90W/cm以上がより好ましく、100W/cm以上がさらに好ましい。また電力消費量低減のため140W/cm以下がより好ましく、130W/cm以下がさらに好ましい。コンベアーの搬送速度について、生産タクト向上のため60m/min以上がより好ましく、70m/min以上がさらに好ましい。またインキが硬化しやすくなるため、かつインキが転写されてから硬化するまでの時間を長くし、より平滑化させることで印刷物の光沢を向上させるため130m/min以下がより好ましく、110m/min以下がさらに好ましい。
活性エネルギー線による硬化を利用した印刷物の製造方法では、従来、基材にインキを転写してから間もなく活性エネルギー線を照射しインキを硬化させるため、インキが十分に平滑になれず、インキ皮膜表面に凹凸が生じ、印刷物の光沢が低下するという課題があった。
本発明の印刷物の製造方法において、平版印刷用インキの粘度を以下のように調節することにより、印刷物の品質をより優れたものにすることができる。平版印刷用インキの粘度は、インキピペットで秤量した0.15mlのインキを、コーンプレート型回転式粘度計を用い、25℃において測定される。
本発明の印刷物の製造方法では、基材上に塗布する平版印刷用インキの、回転数0.5rpmにおける粘度(A)は、5Pa・s以上200Pa・s以下であることが好ましい。前記粘度(A)が5Pa・s以上であることによって、インキのローラー間の転移性が増す。より好ましくは10Pa・s以上であり、さらに好ましくは20Pa・s以上である。また、前記粘度(A)が200Pa・s以下であることによって、インキの流動性が良好となり、基材に転写したインキが平滑になりやすく、印刷物の光沢が向上する。より好ましくは150Pa・s以下であり、さらに好ましくは100Pa・s以下である。
本発明の印刷物の製造方法では、基材上に塗布する平版印刷用インキの、回転数20rpm(ずり速度120s−1に相当)における粘度(B)と、回転数50rpmにおける粘度(C)は、ともに5Pa・s以上200Pa・s以下であることが好ましい。前記粘度(B)、および前記粘度(C)が、ともに5Pa・s以上であることによって、インキの凝集力が高くなり、インキの耐地汚れ性を向上させることが出来る。より好ましくは10Pa・s以上であり、さらに好ましくは15Pa・s以上である。また、前記粘度(B)、および前記粘度(C)が200Pa・s以下であることによって、インキの平版印刷版への着肉性が良好となる。より好ましくは40Pa・s以下であり、さらに好ましくは20Pa・s以下である。
本発明の印刷物の製造方法では、基材上に塗布する平版印刷用インキの前記粘度(B)と前記粘度(C)の比率である、粘度比(C)/(B)は、0.75以上1.00以下であることが好ましい。前記粘度比(C)/(B)が上記範囲内にあることによって、印刷時の高速かつ高剪断下においても、インキの凝集力が十分に保たれるため、インキの耐地汚れ性を向上させることが出来る。より好ましくは0.80以上1.00以下であり、さらに好ましくは0.90以上1.00以下である。
本発明において、基材上に塗布する平版印刷用インキは、上述した粘度比(C)/(B)を調節するため、親水性基を有する樹脂、およびヒドロキシル基を有する多官能(メタ)アクリレートを含むことが好ましい。前記親水性基およびヒドロキシル基は、インキ中の顔料分散性を良好にするため、インキの構造粘性(顔料が凝集構造を作り高粘度化すること)を低減し、低剪断下においてインキを低粘度化すると考えられる。低せん断下におけるインキ粘度が低いことで、平版印刷用インキを用いた印刷物は高い光沢性を示すと考えられる。また、前記親水性基を有する樹脂は、前記ヒドロキシル基を有する多官能(メタ)アクリレートに溶解し、前記親水性基と前記ヒドロキシル基間の水素結合等の相互作用により高粘度化する。前記溶解物は、ニュートニアン性の流体であり、剪断の強さによらず一定の粘度を維持する。本発明の印刷物の製造方法において、構造粘性が崩れた後の高剪断領域(回転数20rpm以上)では、媒体である前記溶解物の粘度が支配的になるため、剪断による粘度低下が小さく、高剪断下において高粘度を維持する。結果として印刷時のような高剪断下において、インキの凝集力が高く、非画線部に対するインキ反発性が向上することから、耐地汚れ性が向上する。
本発明の印刷物の製造方法では、基材上に塗布する平版印刷用インキは、親水性基を有する樹脂、多官能(メタ)アクリレート、顔料、および界面活性剤を含むことができる。
前記親水性基を有する樹脂の親水性基は、インキ中の顔料を分散安定化するため、インキの流動性が向上すると考えられる。インキの流動性が向上することで、基材に転写されたインキが平滑になりやすくなり、印刷物の光沢が向上する。また、前記親水性基は水素結合等の相互作用により、印刷時の高剪断下におけるインキの凝集力を高める。インキの凝集力が高くなると、非画線部に対するインキ反発性が向上することから、結果として耐地汚れ性が向上する。本発明の印刷物の製造方法では、基材上に塗布する平版印刷用インキが、親水性基を有する樹脂を含有することで、水を主成分とする水系洗浄液へ可溶となり、非石油系洗浄剤の適用が可能である。また親水性基を有する樹脂の種類および/または含有量を調節することにより平版印刷用インキの表面張力を増減させ、基材上に塗布する平版印刷用インキの表面張力の差を3.5mN/m以内に調整するのに寄与する。
前記親水性基を有する樹脂の親水性基としては、ヒドロキシル基、アミノ基、メルカプト基、カルボキシル基、スルホ基、リン酸基などが挙げられる。中でも顔料の分散性が良好な、カルボキシル基が特に好ましい。
前記親水性基を有する樹脂の酸価は、30mgKOH/g以上であると、樹脂の水系洗浄液への良好な溶解性、顔料分散性、耐地汚れ性を得られることから好ましい。より好ましくは60mgKOH/g以上、さらに好ましくは75mgKOH/g以上である。また、前記酸価は200mgKOH/g以下であると、水素結合等の相互作用を抑えられ、本発明の平版印刷用インキの流動性が保たれるため、タック(粘着性)が低減でき好ましい。より好ましくは170mgKOH/g以下、さらに好ましくは150mgKOH/g以下である。
酸価は、JIS K 0070:1992の試験方法第3.1項の中和滴定法に準拠して求めることができる。
前記親水性基を有する樹脂の水に対する溶解度は、0.1g/(100g−H2O)以上であることが好ましい。前記溶解度が上記範囲内であることによって、水系洗浄液による洗浄が容易となる。前記親水性基を有する樹脂の水に対する溶解度は、0.3g/(100g−H2O)以上であることがより好ましく、0.5g/(100g−H2O)以上であることがさらに好ましい。水に対する溶解度が高いほど、水洗浄性が良好になるが、溶解度が高過ぎるとインキ硬化膜の耐水性が低下する可能性があることから、前記親水性基を有する樹脂の水に対する溶解度は、100g/(100g−H2O)以下が好ましく、50g/(100g−H2O)以下がより好ましく、10g/(100g−H2O)以下がさらに好ましい。なお、前記溶解度は25℃の水100gに溶解する樹脂の質量(g)である。
前記親水性基を有する樹脂の重量平均分子量は、5,000以上であると、平版印刷用インキの耐地汚れ性が向上するため好ましい。より好ましくは15,000以上、さらに好ましくは20,000以上である。また、重量平均分子量は100,000以下であると、平版印刷用インキの流動性が保たれ、タック(粘着性)が低減できるため好ましい。より好ましくは75,000以下、さらに好ましくは50,000以下である。なお、前記樹脂の重量平均分子量はゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用い、ポリスチレン換算で測定を行い、得ることができる。
前記親水性基を有する樹脂としては、アクリル樹脂、スチレンアクリル樹脂、スチレンマレイン酸樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂、ロジン変性アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂等が挙げられるが、特に限定されるものではない。上記に挙げた樹脂のうち、モノマー入手の容易性、低コスト、合成の容易性、インキ中の他成分との相溶性、顔料の分散性等の点から、アクリル樹脂、スチレンアクリル樹脂、スチレンマレイン酸樹脂が、前記親水性基を有する樹脂として好ましく用いられる。
上記に挙げた樹脂のうち、アクリル樹脂、スチレンアクリル樹脂、スチレンマレイン酸樹脂は、次の方法により作成できる。すなわち、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、酢酸ビニルまたはこれらの酸無水物などのカルボキシル基含有モノマー、2−ヒドロキシエチルアクリレートなどの水酸基含有モノマー、ジメチルアミノエチルメタクリレートなどのアミノ基含有モノマー、アクリル酸2−(メルカプトアセトキシ)エチルなどのメルカプト基含有モノマー、アクリルアミドt−ブチルスルホン酸などのスルホ基含有モノマー、2−メタクロイロキシエチルアシッドホスッフェートなどのリン酸基含有モノマー、メタクリル酸エステル、アクリル酸エステル、スチレン、アクリロニトリル、酢酸ビニル等の中から選択された化合物を、ラジカル重合開始剤を用いて重合または共重合させることで得られる。
前記親水性基を有する樹脂の具体例としては、(メタ)アクリル酸共重合体、(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン−(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−マレイン酸−(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン−マレイン酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合体などが挙げられる。
前記親水性基を有する樹脂は、活性エネルギー線により硬化しやすくなることから、エチレン性不飽和基を有することが好ましい。前記親水性基およびエチレン性不飽和基を有する樹脂中のエチレン性不飽和基におけるヨウ素価は、0.5mol/kg以上3.0mol/kg以下であることが好ましい。ヨウ素価が上記範囲内にあることで、インキは活性エネルギー線により硬化しやすくなり、かつ前記親水性基およびエチレン性不飽和基を有する樹脂の酸価を好適な範囲に調整し易くなる。エチレン性不飽和基のヨウ素価は、インキの硬化を促進するため1.0mol/kg以上がより好ましく、1.5mol/kg以上が更に好ましい。また前記親水性基およびエチレン性不飽和基を有する樹脂の酸価を好適な範囲に調整し易くするため2.7mol/kg以下がより好ましく、2.4mol/kg以下が更に好ましい。
エチレン性不飽和基のヨウ素価はJIS K 0070:1992の試験方法第6.0項に記載の方法により求めることができる。
前記親水性基およびエチレン性不飽和基を有する樹脂は、次の方法により作成できる。すなわち、親水性基を有する樹脂中の活性水素含有基であるメルカプト基、アミノ基、水酸基やカルボキシル基に対して、グリシジル基やイソシアネート基を有するエチレン性不飽和化合物やアクリル酸クロライド、メタクリル酸クロライドまたはアリルクロライドを付加反応させることにより、親水性基およびエチレン性不飽和基を有する樹脂が得られる。ただし、これらの方法に限定されるものではない。
また、グリシジル基を有するエチレン性不飽和化合物の具体例としては、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、アリルグリシジルエーテル、クロトン酸グリシジル、イソクロトン酸グリシジルなどが挙げられる。
また、イソシアネート基を有するエチレン性不飽和化合物の具体例としては、アクリロイルイソシアネート、メタアクリロイルイソシアネート、アクリロイルエチルイソシアネート、メタアクリロイルエチルイソシアネートなどが挙げられる。
本発明の印刷物の製造方法では、基材上に塗布する平版印刷用インキは、前記親水性基を有する樹脂の含有量が、5質量%以上であると、インキの顔料分散性、及び耐地汚れ性が向上するため好ましい。より好ましくは8質量%以上、さらに好ましくは11.5質量%以上である。また、前記親水性基を有する樹脂の含有量が、30質量%以下であると、インキの流動性が保たれるため、タック(粘着性)が低減できるため好ましい。より好ましくは20質量%以下であり、さらに好ましくは14質量%以下である。
本発明の印刷物の製造方法では、基材上に塗布する平版印刷用インキは、多官能(メタ)アクリレートを含むとよい。前記多官能(メタ)アクリレートは、二重結合基を有するため、インキは活性エネルギー線により硬化しやすくなる。また多官能(メタ)アクリレートの種類および/または含有量を調節することにより平版印刷用インキの表面張力を増減させ、基材上に塗布する平版印刷用インキの表面張力の差を3.5mN/m以内に調整するのに寄与する。
前記多官能(メタ)アクリレートとしては、(メタ)アクリレート基を2つ以上有する化合物であれば特に限定されるものでない。(メタ)アクリレート基の数(以下、「官能基数」ということがある。)は好ましくは2以上、より好ましくは3以上、さらに好ましくは4以上である。また多官能(メタ)アクリレートの官能基数は好ましくは8以下、より好ましくは7以下、さらに好ましくは6以下であるとよい。
前記多官能(メタ)アクリレートは、極性基を有することが好ましい。極性基としてはヒドロキシル基、カルボキシ基が例示され、なかでもヒドロキシル基を有することが好ましい。前記ヒドロキシル基のような極性基は、顔料を分散安定化するため、インキの流動性が向上すると考えられる。インキの流動性が向上することで、基材に転写されたインキが平滑になりやすくなり、印刷物の光沢が向上する。また、前記ヒドロキシル基のような極性基は水素結合等の相互作用により、印刷時の高剪断下におけるインキの凝集力を高める。インキの凝集力が高くなると、非画線部に対するインキ反発性が向上することから、結果として耐地汚れ性が向上する。
前記多官能(メタ)アクリレートの水酸基価は、50mgKOH/g以上であると、インキの顔料分散性、かつ耐地汚れ性が向上するため、好ましい。より好ましくは75mgKOH/g以上、さらに好ましくは100mgKOH/g以上である。また、前記水酸基価は、200mgKOH/g以下であることにより、水素結合等の相互作用を抑えられ、インキの流動性を良好に保つことが出来るため、タック(粘着性)が低減できる点で好ましい。より好ましくは180mgKOH/g以下、さらに好ましくは160mgKOH/g以下である。
多官能(メタ)アクリレートの水酸基価は、JIS K 0070:1992の試験方法第7.1項に記載の方法により求めることができる。
前記多官能(メタ)アクリレートの分子量は、100以上であると、インキの耐地汚れ性が向上させられるため、好ましい。より好ましくは200以上、さらに好ましくは250以上である。また、前記分子量は、1,000以下であることにより、インキの流動性を良好に保つことが出来、タック(粘着性)が低減できるため好ましい。より好ましくは700以下、さらに好ましくは500以下である。
前記多官能(メタ)アクリレートの具体例としては、2官能では、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート等が挙げられ、3官能では、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸トリ(メタ)アクリレートや、これらのエチレンオキシド付加物、プロピレンオキシド付加物前記等が挙げられ、4官能ではペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジグリセリンテトラ(メタ)アクリレートや、これらのエチレンオキシド付加物、プロピレンオキシド付加物が挙げられ、5官能以上ではジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、これらのエチレンオキシド付加物、プロピレンオキシド付加物が挙げられる。またヒドロキシル基を有する多官能(メタ)アクリレートの好ましい具体例としては、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール、ジグリセリン、ジトリメチロールプロパン、イソシアヌル酸、およびジペンタエリスリトール等の多価アルコールのポリ(メタ)アクリレート、およびこれらのアルキレンオキシド付加物が挙げられる。より具体的には、トリメチロールプロパンのジ(メタ)アクリレート、グリセリンのジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールのジ又はトリ(メタ)アクリレート、ジグリセリンのジ又はトリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンのジ又はトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールのジ、トリ、テトラ又はペンタ(メタ)アクリレート、およびこれらのエチレンオキシド付加体、プロピレンオキシド付加体、テトラエチレンオキシド付加体等が挙げられる。上記の中でも、本発明の平版印刷用インキが流動性、および顔料分散性に優れ、耐地汚れ性が向上することから、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジグリセリントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートが特に好ましい。
本発明の印刷物の製造方法では、基材上に塗布する平版印刷用インキは、前記多官能(メタ)アクリレートを20質量%以上含むと、インキの顔料分散性、及び耐地汚れ性が向上するため、好ましい。より好ましくは30質量%以上、さらに好ましくは40質量%以上である。また、インキの流動性を良好に保つことが出来るため、75質量%以下が好ましい。より好ましくは70質量%以下、さらに好ましくは65質量%以下である。
インキの表面張力について、基本的には、インキ中の極性基量が多いほど表面張力は高く、インキ中の極性基量が少ないほど表面張力は低くなる。前記親水性基を有する樹脂、および水酸基を有する前記多官能(メタ)アクリレートの含有量を調整することで、インキ中の極性基量を変化させ、基材上に塗布するインキの表面張力の差を3.5mN/m以内に調整し易くなる。基材上に塗布するインキの表面張力の差を、親水性基を有する樹脂、多官能(メタ)アクリレートの種類および/または含有量により調節してもよいし、これらに加え、或いは独立させて、界面活性剤、顔料、希釈剤の種類および/または含有量により基材上に塗布するインキの表面張力の差を調節してもよい。
インキの表面張力について、インキの流動性と耐地汚れ性を担保しつつ、45mN/m以上60mN/m以下に調整し易くするため、好ましくは前記親水性基を有する樹脂の酸価を60mgKOH/g以上200mgKOH/g以下、前記親水性基を有する樹脂の含有量を11.5質量%以上14質量%以下、水酸基を有する前記多官能(メタ)アクリレートの水酸基価を50mgKOH/g以上200mgKOH/g以下、水酸基を有する前記多官能(メタ)アクリレートの含有量を20質量%以上30質量%以下とすると良い。
平版印刷用ブラックインキについて、耐地汚れ性を担保しつつ、タック値を5.0以上8.0以下に調整し易くするため、好ましくは前記親水性基を有する樹脂の酸価を60mgKOH/g以上200mgKOH/g以下、前記親水性基を有する樹脂の重量平均分子量を15,000以上50,000以下、前記親水性基を有する樹脂の含有量を11.5質量%以上14質量%以下、水酸基を有する前記多官能(メタ)アクリレートの水酸基価を50mgKOH/g以上200mgKOH/g以下、水酸基を有する前記多官能(メタ)アクリレートの含有量を20質量%以上30質量%以下とすると良い。
本発明の印刷物の製造方法では、基材上に塗布する平版印刷用インキは、界面活性剤を含むとよい。前記界面活性剤の含有量は、前記平版印刷用インキの流動性が向上することに加え、前記平版印刷用インキの表面張力および基材上に塗布する平版印刷用インキの表面張力の差を調整することができることから、前記顔料に対して、5質量%以上50質量%以下であることが好ましい。
前記界面活性剤の具体例としては、BYK Chemie社製「Anti−Terra−U(ポリアミノアマイド燐酸塩)」、「Anti−Terra−203/204(高分子量ポリカルボン酸塩)」、「Disperbyk−101(ポリアミノアマイド燐酸塩と酸エステル)、102、103、106、107(水酸基含有カルボン酸エステル)、110、111(酸基を含む共重合物)、115、118、130(ポリアマイド)、140、142、145、161、162、163、164、165、166、167、168、170(高分子共重合物)、171、174、180、181、182、184、185、187、190、191、192、193、199、2000、2001、2008、2009、2010、2012、2013、2015、2022、2025、2026、2050、2055、2060、2061、2070、2096、2150、2151、2152、2155、2163、2164、2200、2205、9067、9076」、「Bykumen」(高分子量不飽和酸エステル)、「BYK−P104、P105(高分子量不飽和酸ポリカルボン酸)」、「P104S、240S(高分子量不飽和酸ポリカルボン酸とシリコン系)」、「Lactimon(長鎖アミンと不飽和酸ポリカルボン酸とシリコン)」が挙げられる。
また、Efka CHEMICALS社製「エフカ44、46、47、48、49、54、63、64、65、66、71、701、764、766」、「エフカポリマー100(変性ポリアクリレート)、150(脂肪族系変性ポリマー)、400、401、402、403、450、451、452、453(変性ポリアクリレート)、745(銅フタロシアニン系)」、共栄社化学社製「フローレン TG−710(ウレタンオリゴマー)、「フローノンSH−290、SP−1000」、「ポリフローNo.50E、No.300(アクリル系共重合物)」、楠本化成社製「ディスパロン 325、KS−860、873SN、874(高分子分散剤)、1401、#2150(脂肪族多価カルボン酸)、#7004(ポリエーテルエステル型)」が挙げられる。
さらに、花王社製「デモールRN、N(ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物ナトリウム塩)、MS、C、SN−B(芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物ナトリウム塩)、EP」、「ホモゲノールL−18(ポリカルボン酸型高分子)、「エマルゲン920、930、931、935、950、985(ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル)」、「アセタミン24(ココナッツアミンアセテート)、86(ステアリルアミンアセテート)」、アビシア社製「ソルスパース5000(フタロシアニンアンモニウム塩系)、13940(ポリエステルアミン系)、17000(脂肪酸アミン系)、24000GR、32000、33000、39000、41000、53000」、日光ケミカル社製「ニッコール T106(ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート)、MYS−IEX(ポリオキシエチレンモノステアレート)、Hexagline 4−0(ヘキサグリセリルテトラオレート)」、味の素ファインテクノ社製「アジスパーPB821、822、824」等が挙げられる。
本発明の印刷物の製造方法では、基材上に塗布する平版印刷用インキは、顔料を含むとよい。前記顔料としては、平版印刷用インキ組成物で一般的に用いられる無機顔料と有機顔料から選ばれる1種類以上を用いることができる。
無機顔料の具体例としては、二酸化チタン、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、ベンガラ、カドミウムレッド、黄鉛、亜鉛黄、紺青、群青、有機ベントナイト、アルミナホワイト、酸化鉄、カーボンブラック、グラファイト、アルミニウム等が挙げられる。
有機顔料としては、フタロシアニン系顔料、溶性アゾ系顔料、不溶性アゾ系顔料、レーキ顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリン系顔料、スレン系顔料、金属錯体系顔料等が挙げられ、その具体例としてはフタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、アゾレッド、モノアゾレッド、モノアゾイエロー、ジスアゾレッド、ジスアゾイエロー、キナクリドンレッド、キナクリドンマゼンダ、イソインドリンイエロー等が挙げられる。
前記顔料濃度は、印刷紙面濃度を得るために5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、15質量%以上がさらに好ましい。また、インキの流動性を向上し、良好なローラー間転移性を得るためには40質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、25質量%以下がさらに好ましい。
本発明の印刷物の製造方法では、基材上に塗布する平版印刷用インキは、シリコーン液体、アルキル(メタ)アクリレート、炭化水素系溶媒、植物油、植物油由来の脂肪酸エステル、およびフルオロカーボンから選ばれる成分の1種類以上を含むことが好ましい。
前記成分は、水なし平版印刷版の非画線部であるシリコーンゴムへのインキ付着性を低下させる効果があり、その結果、地汚れなき印刷物が得られる。シリコーンゴムへのインキ付着性を低下させる理由は以下のように推測される。すなわち、インキに含まれる前記成分は、シリコーンゴム表面との接触によりインキ中から拡散し、シリコーンゴム表面を薄膜状に覆う。このようにして形成された薄膜がシリコーンゴム表面へのインキの付着を阻止し、シリコーン表面の地汚れを防止すると推測される。
前記成分のうち、アルキル(メタ)アクリレートは、活性エネルギー線照射時に硬化することから、インキの硬化膜の膜物性を向上させると同時に活性エネルギー線に対する感度が向上するため好ましい。
前記成分の具体的な化合物は次のとおりである。
シリコーン液体としては、ジメチルシリコーン、メチルフェニルシリコーン、アルキル変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン、アラルキル変性シリコーン、脂肪酸アミド変性シリコーン、脂肪酸エステル変性シリコーン、フルオロアルキル変性シリコーン、メチルハイドロジェンシリコーン、シラノール変性シリコーン、アルコール変性シリコーン、アミノ変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、エポキシポリエーテル変性シリコーン、フェノール変性シリコーン、カルボキシ変性シリコーン、メルカプト変性シリコーン等が挙げられる。
アルキル(メタ)アクリレートとしては、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、ペンタデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、ヘプタデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、イソオクタデシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
炭化水素系溶媒としては、ポリオレフィンオイル、ナフテンオイル、パラフィンオイル等が挙げられる。
植物油としては、大豆油、アマニ油、サフラワー油、桐油、トール油、脱水ヒマシ油等が挙げられる。
植物油由来の脂肪酸エステルとしてはステアリン酸、イソステアリン酸、ヒドロキシステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エレオステアリン酸等炭素数15〜20程度のアルキル主鎖を有する脂肪酸の、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、tert−ブチル、2−エチルヘキシル等の炭素数1〜10程度のアルキルエステル等が挙げられる。
フルオロカーボンとしては、1,1,1,2,2−ペンタフルオロエタン、1,1,1,2,2,3,3,4,4−ノナフルオロブタン、1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6−トリデカフルオロヘキサン、1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8−ヘプタデカフルオロオクタン、1,1,1,2,3,3,3−ヘプタフルオロプロパン、1,1,1,2,3,3,4,4−オクタフルオロー2―トリフルオロメチルブタン、1,1,1,2,3,3,4,4,5,5,6,6−ドデカフルオロ−2−トリフルオロメチルヘキサン、1,1,2,2−テトラフルオロエタン、1,1,2,2,3,3,4,4−オクタフルオロブタン、1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6−ドデカフルオロヘキサン等が挙げられる。
本発明の印刷物の製造方法では、基材上に塗布する平版印刷用インキは、前記シリコーン液体、アルキル(メタ)アクリレート、炭化水素系溶媒、植物油、植物油由来の脂肪酸エステル、およびフルオロカーボンから選ばれる成分の1種類以上について、耐地汚れ性を向上させることから、0.5質量%以上含むことが好ましい。より好ましくは、1質量%以上であり、さらに好ましくは、2質量%以上である。また、平版印刷用インキの保存安定性を向上させることができることから、10質量%以下含むことが好ましい。より好ましくは8質量%以下であり、さらに好ましくは5質量%以下である。
本発明の印刷物の製造方法では、基材上に塗布する平版印刷用インキは、油溶性界面活性剤(乳化剤)を含むことが好ましい。ここで言う乳化剤とは、油(水に不溶性の有機化合物)に溶解し、水を取り込みW/O型エマルジョンを形成する界面活性剤を指す。前記平版印刷用インキが乳化剤を含むと適切な量(一般にインキ全量の10〜20質量%と言われる)の湿し水を取り込み乳化することで、非画線部の湿し水に対する反発性が増し、インキの耐地汚れ性が向上する。
前記乳化剤の親水性基と疎水性基の比率はHLB値により表される。ここで言うHLB値とは界面活性剤の水と油への親和性の程度を表す値であり、HLB値は0から20までの値を取り、0に近いほど親油性が高く20に近いほど親水性が高いことを意味する。前記乳化剤のHLB値としては、水を良好に溶解することから10以上であることが好ましい。より好ましくは11以上である。また、前記平版印刷用インキに良好に溶解することから、18以下であることが好ましい。より好ましくは17以下である。
前記乳化剤の具体例としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンパルミチンエーテル、ポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシプロピレンラウリルエーテル、ポリオキシプロピレンオレイルエーテル、ポリオキシプロピレンステアリルエーテル、ポリオキシプロピレンセチルエーテル、ポリオキシプロピレンパルミチンエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンラウリルエーテル、ポリオキシアルキレンオレイルエーテル、ポリオキシアルキレンステアリルエーテル、ポリオキシアルキレンセチルエーテル、ポリオキシアルキレンパルミチンエーテルや、ソルビタン酸のモノ、ジ、トリアルキルエーテル、ソルビタン酸のモノ、ジ、トリラウリルエーテル、ソルビタン酸のモノ、ジ、トリオレイルエーテル、ソルビタン酸のモノ、ジ、トリステアリルエーテル、ソルビタン酸のモノ、ジ、トリセチルエーテル、ソルビタン酸のモノ、ジ、トリパルミチンエーテルや、ポリオキシエチレンソルビタン酸のモノ、ジ、トリアルキルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン酸のモノ、ジ、トリラウリルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン酸のモノ、ジ、トリオレイルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン酸のモノ、ジ、トリステアリルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン酸のモノ、ジ、トリセチルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン酸のモノ、ジ、トリパルミチンエーテルや、ポリエーテル変性シリコーンオイなどが挙げられ、HLB値が10以上18以下にあるものが好ましく用いられる。
本発明の印刷物の製造方法では、基材上に塗布する平版印刷用インキは、印刷中に湿し水を取り込み乳化状態が安定することから、乳化剤を0.01質量%以上含むことが好ましい。より好ましくは0.05質量%以上であり、さらに好ましくは0.10質量%以上である。また、平版印刷用インキが、印刷中に湿し水を過剰に取り込むことがなく、また湿し水と相溶しないことから、乳化剤は5.00質量%以下が好ましい。より好ましくは、3.00質量%以下であり、さらに好ましくは1.00質量%以下である。
本発明の印刷物の製造方法では、基材上に塗布する平版印刷用インキは、光重合開始剤を含み、紫外線硬化性を有することが好ましい。また前記平版印刷用インキは、前記光重合開始剤に加えて、増感剤を含むことが好ましい。
前記光重合開始剤は、活性ラジカル種を発生するものが好ましく、その具体例としては、ベンゾフェノン、o−ベンゾイル安息香酸メチル、4,4−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン(別名:ミヒラーケトン)、4,4−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4’−ジクロロベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4−メチルジフェニルケトン、1−ヒドロキシシクロヘキシル−フェニルケトン、4-フェニルベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、ジベンジルケトン、フルオレノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニル−2−フェニルアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパンー1−オン、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、p−t−ブチルジクロロアセトフェノン、チオキサントン、2−メチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジクロロチオキサントン、ベンジルジメチルケタノール、ベンジルメトキシエチルアセタール、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインブチルエーテル、アントラキノン、2−t−ブチルアントラキノン、2−アミルアントラキノン、β−クロルアントラキノン、アントロン、ベンズアントロン、ジベンゾスベロン、メチレンアントロン、4−アジドベンザルアセトフェノン、2,6−ビス(p−アジドベンジリデン)シクロヘキサノン、2,6−ビス(p−アジドベンジリデン)−4−メチルシクロヘキサノン、2−フェニル−1,2−ブタジオン−2−(o−メトキシカルボニル)オキシム、1−フェニル−1,2−プロパンジオン−2−(o−エトキシカルボニル)オキシム、1,3−ジフェニル−プロパントリオン−2−(o−エトキシカルボニル)オキシム、1−フェニル−3−エトキシ−プロパントリオン−2−(o−ベンゾイル)オキシム、2−メチル−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノ−1−プロパン−1−オン、2−ベンジルー2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタノン、ナフタレンスルホニルクロライド、キノリンスルホニルクロライド、N−フェニルチオアクリドン、4,4−アゾビスイソブチロニトリル、ジフェニルジスルフィド、ベンズチアゾールジスルフィド、トリフェニルホスフィン、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−ホスフィンオキシド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニル−ホスフィンオキシド等が挙げられる。
増感剤の具体例としては、2−メチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジクロロチオキサントン、2,3−ビス(4−ジエチルアミノベンザル)シクロペンタノン、2,6−ビス(4−ジメチルアミノベンザル)シクロヘキサノン、2,6−ビス(4−ジメチルアミノベンザル)−4−メチルシクロヘキサノン、4,4−ビス(ジメチルアミノ)−ベンゾフェノン(別名:ミヒラーケトン)、4,4−ビス(ジエチルアミノ)−ベンゾフェノン、4,4−ビス(ジメチルアミノ)カルコン、4,4−ビス(ジエチルアミノ)カルコン、p−ジメチルアミノシンナミリデンインダノン、p−ジメチルアミノベンジリデンインダノン、2−(p−ジメチルアミノフェニルビニレン)−イソナフトチアゾール、1,3−ビス(4−ジメチルアミノベンザル)アセトン、1,3−カルボニル−ビス(4−ジエチルアミノベンザル)アセトン、3,3−カルボニル−ビス(7−ジエチルアミノクマリン)、N−フェニル−N−エチルエタノールアミン、N−フェニルエタノールアミン、N−トリルジエタノールアミン、ジメチルアミノ安息香酸メチル、ジメチルアミノ安息香酸エチル、ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、ジエチルアミノ安息香酸メチル、ジエチルアミノ安息香酸エチル、ジエチルアミノ安息香酸イソアミル、3−フェニル−5−ベンゾイルチオテトラゾール、1−フェニル−5−エトキシカルボニルチオテトラゾールなどが挙げられる。
本発明の印刷物の製造方法では、基材上に塗布する平版印刷用インキは、これらの光重合開始剤や増感剤を1種以上使用することができる。
前記平版印刷用インキは、前記光重合開始剤を0.1質量%以上含むことで、良好な感度を得られ好ましい。1.0質量%以上含むことがより好ましく、3.0質量%以上含むことがさらに好ましい。また、前記光重合開始剤を20.0質量%以下含むことで、インキの保存安定性が向上することから好ましい。15.0質量%以下がより好ましく、10.0質量%以下がさらに好ましい。
また、増感剤を添加する場合、その含有量は、インキが良好な感度を得られることから、インキに対して0.1質量%以上が好ましく、1.0質量%以上がより好ましく、3.0質量%以上がさらに好ましい。インキの保存安定性が向上することから、インキに対して20.0質量%以下が好ましく、15.0質量%以下がより好ましく、10.0質量%以下がさらに好ましい。
本発明の印刷物の製造方法では、基材上に塗布する平版印刷用インキは、保存時の安定性を向上するために重合禁止剤を添加することが好ましい。重合禁止剤の具体的な例としては、ヒドロキノン、ヒドロキノンのモノエーテル化物、N−ニトロソジフェニルアミン、フェノチアジン、p−t−ブチルカテコール、N−フェニルナフチルアミン、2,6−ジ−t−ブチル−p−メチルフェノール、クロラニール、ピロガロールなどが挙げられる。重合禁止剤の添加量は、良好な保存安定性が得られることから、インキに対し、0.01質量%以上5.00質量%以下が好ましい。
本発明の印刷物の製造方法では、基材上に塗布する平版印刷用インキは、必要に応じてワックス、消泡剤、転移性向上剤等の添加剤を使用することが可能である。
本発明の印刷物の製造方法では、印刷物の基材としては、上質紙もしくは中質紙の表面に、クレーや炭酸カルシウムなどの白色顔料と、デンプンなどの接着剤を混合した塗料を塗工し、表面を平滑処理したグロス系塗工紙を用いることが好ましい。グロス系塗工紙としてアート紙、コート紙、キャスト紙等が挙げられるが、これらに限定されない。グロス系塗工紙を用いることで、基材に転写したインキ表面が平滑になりやすく、印刷物の光沢が向上する。
本発明においてグロス系塗工紙とは、JIS P 8142:2005に記載の75°鏡面光沢度が20%以上の塗工紙であることが好ましい。
本発明の印刷物の製造方法では、基材上へ塗布する方法としては、平版印刷により、基材上に塗布することができる。平版印刷の方式としては水あり、水なしとあるが、どちらの方式も用いることが可能である。
印刷物上のインキ塗膜の厚みは0.1〜50.0μmであることが好ましい。インキ塗膜の厚みが上記範囲であることにより、良好な印刷品質を保ちつつ、インキコストを低減させることが出来る。
<平版印刷用インキセット>
本発明の平版印刷用インキセットは、少なくともブラックインキ、シアンインキ、マゼンタインキ、及びイエローインキを含む平版印刷用インキセットであって、前記平版印刷用インキセットに含まれるインキの表面張力の差が3.5mN/m以内であることを特徴とする。これは平版印刷用インキセットを構成するブラックインキ、シアンインキ、マゼンタインキ、及びイエローインキのそれぞれの表面張力について、最大の表面張力と最小の表面張力の差が3.5mN/m以下であることを意味する。前記表面張力の差が3.5mN/m以内であることによって、多色が重なり合う印刷部にて下層インキに対する上層インキの濡れ性が良くなり、上層インキが平滑になりやすく、印刷物の光沢が向上する。インキの表面張力の差は、より好ましくは3.0mN/m以内であり、さらに好ましくは2.5mN/m以内である。各インキの表面張力は、各インキに組成する樹脂、多官能(メタ)アクリレート、 界面活性剤から選ばれる少なくとも1つの種類および/または含有量により調節することができる。したがって、インキの表面張力の差は、各インキを組成する樹脂、多官能(メタ)アクリレートおよび/または界面活性剤の種類を変更したり、これらの含有量を増減することにより調節することができる。
本発明の平版印刷用インキセットに含まれるインキの表面張力が、45mN/m以上60mN/m以下であることが好ましい。これは平版印刷用インキセットを構成するブラックインキ、シアンインキ、マゼンタインキ、及びイエローインキのそれぞれの表面張力が、45mN/m以上60mN/m以下であることを意味する。<印刷物の製造方法>にて説明した通り、前記平版印刷用インキの表面張力が45mN/m以上であることによって、インキがブランケットから基材に転写される際に剥がれやすくなり、基材に転写したインキ表面が平滑になることで印刷物の光沢が向上する。より好ましくは、48mN/m以上であり、さらに好ましくは、51mN/m以上である。また、前記平版印刷用インキの表面張力が60mN/m以下であることによって、前記インキのブランケットへの転写性が向上する。より好ましくは58mN/m以下であり、さらに好ましくは56mN/m以下である。
平版印刷では、インキを順々に基材上に転写することで印刷物が得られ、インキを転写する順番によって印刷物の光沢は変化する。平版印刷ではブラックインキ、シアンインキ、マゼンタインキ、イエローインキの順に、基材上にインキを転写することが一般的である。
本発明の平版印刷用インキセットに含まれるブラックインキの、38℃、インコメーターで計測した400rpmでのタック値(1分値)が5.0以上8.0以下であることが好ましい。<印刷物の製造方法>にて説明した通り、逆トラッピングや転移性不良などの印刷不良を防ぐために、前記ブラックインキのタック値は、より好ましくは5.5以上であり、さらに好ましくは6.0以上である。また、インキのタック値が高いと、基材に転写したインキ表面に凹凸が生じやすく、印刷物の光沢が低下する。特に多色が重なり合う印刷部では、下層インキ表面に凹凸が形成されると、その影響を受け、光沢はさらに低下する。多色が重なり合う印刷部の光沢を向上させるために、前記ブラックインキのタック値はより好ましくは7.5以下であり、さらに好ましくは7.0以下である。
また基材上に塗布する平版印刷用シアンインキ、平版印刷用マゼンタインキ、及び平版印刷用イエローインキのタック値(1分値)は、平版印刷用ブラックインキと同様に5.0以上8.0以下であることが好ましく、より好適な範囲も同様である。逆トラッピング防止のため、印刷する順番に従ってインキのタックを下げることが好ましく、ブラックインキ、シアンインキ、マゼンダインキ、イエローインキの順で印刷するとき、各インキのタック値は、タック値が小さい順にブラックインキ、シアンインキ、マゼンダインキ、イエローインキとなるように調整するとよい。
本発明の平版印刷用インキセットに含まれるインキの、回転数0.5rpmにおける粘度(A)は、5Pa・s以上200Pa・s以下であることが好ましい。前記粘度(A)が5Pa・s以上であることによって、インキのローラー間の転移性が増す。より好ましくは10Pa・s以上であり、さらに好ましくは20Pa・s以上である。また、前記粘度(A)が200Pa・s以下であることによって、インキの流動性が良好となり、基材に転写したインキが平滑になりやすく、印刷物の光沢が向上する。より好ましくは150Pa・s以下であり、さらに好ましくは100Pa・s以下である。
本発明の平版印刷用インキセットに含まれるインキの、回転数20rpm(ずり速度120s−1に相当)における粘度(B)と、回転数50rpmにおける粘度(C)は、ともに5Pa・s以上200Pa・s以下であることが好ましい。前記粘度(B)、および前記粘度(C)が、ともに5Pa・s以上であることによって、インキの凝集力が高くなり、インキの耐地汚れ性を向上させることが出来る。より好ましくは10Pa・s以上であり、さらに好ましくは15Pa・s以上である。また、前記粘度(B)、および前記粘度(C)が200Pa・s以下であることによって、インキの平版印刷版への着肉性が良好となる。より好ましくは40Pa・s以下であり、さらに好ましくは20Pa・s以下である。
本発明の平版印刷用インキセットに含まれるインキの、前記粘度(B)と前記粘度(C)の比率である、粘度比(C)/(B)は、0.75以上1.00以下であることが好ましい。前記粘度比(C)/(B)が上記範囲内にあることによって、印刷時の高速かつ高剪断下においても、インキの凝集力が十分に保たれるため、インキの耐地汚れ性を向上させることが出来る。より好ましくは0.80以上1.00以下であり、さらに好ましくは0.90以上1.00以下である。
本発明の平版印刷用インキセットに含まれるインキは、上述した粘度比(C)/(B)を所望の範囲内にするため、親水性基を有する樹脂、およびヒドロキシル基を有する多官能(メタ)アクリレートを含むことが好ましい。前記親水性基およびヒドロキシル基は、インキ中の顔料分散性を良好にするため、インキの構造粘性(顔料が凝集構造を作り高粘度化すること)を低減し、低剪断下においてインキを低粘度化すると考えられる。低せん断下におけるインキ粘度が低いことで、本発明の平版印刷用インキセットに含まれるインキを用いた印刷物は高い光沢性を示すと考えられる。また、前記親水性基を有する樹脂は、前記ヒドロキシル基を有する多官能(メタ)アクリレートに溶解し、前記親水性基と前記ヒドロキシル基間の水素結合等の相互作用により高粘度化する。前記溶解物は、ニュートニアン性の流体であり、剪断の強さによらず一定の粘度を維持する。平版印刷用インキにおいて、構造粘性が崩れた後の高剪断領域(回転数20rpm以上)では、媒体である前記溶解物の粘度が支配的になるため、剪断による粘度低下が小さく、高剪断下において高粘度を維持する。結果として印刷時のような高剪断下において、インキの凝集力が高く、非画線部に対するインキ反発性が向上することから、耐地汚れ性が向上する。
本発明の平版印刷用インキセットに含まれるインキが、親水性基を有する樹脂、多官能(メタ)アクリレート、顔料、および界面活性剤を含むことができる。
前記親水性基を有する樹脂の親水性基は、インキ中の顔料を分散安定化するため、インキの流動性が向上すると考えられる。インキの流動性が向上することで、基材に転写されたインキが平滑になりやすくなり、印刷物の光沢が向上する。また、前記親水性基は水素結合等の相互作用により、印刷時の高剪断下におけるインキの凝集力を高める。インキの凝集力が高くなると、非画線部に対するインキ反発性が向上することから、結果として耐地汚れ性が向上する。本発明の平版印刷用インキセットに含まれるインキが、親水性基を有する樹脂を含有することで、水を主成分とする水系洗浄液へ可溶となり、非石油系洗浄剤の適用が可能である。また親水性基を有する樹脂の種類および/または含有量を調節することにより平版印刷用インキの表面張力を増減させ、基材上に塗布する平版印刷用インキの表面張力の差を3.5mN/m以内に調整するのに寄与する。
前記親水性基を有する樹脂の親水性基としては、ヒドロキシル基、アミノ基、メルカプト基、カルボキシル基、スルホ基、リン酸基などが挙げられる。中でも顔料の分散性が良好な、カルボキシル基が特に好ましい。
前記親水性基を有する樹脂の酸価は、30mgKOH/g以上であると、樹脂の水系洗浄液への良好な溶解性、顔料分散性、耐地汚れ性を得られることから好ましい。より好ましくは60mgKOH/g以上、さらに好ましくは75mgKOH/g以上である。また、前記酸価は200mgKOH/g以下であると、水素結合等の相互作用を抑えられるため、本発明の平版印刷用インキの流動性を保つことができ、タック(粘着性)が低減できるため好ましい。より好ましくは170mgKOH/g以下、さらに好ましくは150mgKOH/g以下である。前記酸価が上記範囲内にあることで、インキの顔料分散性、耐地汚れ性、流動性を良好に保つことが出来る。
前記親水性基を有する樹脂の水に対する溶解度は、0.1g/(100g−H2O)以上であることが好ましい。前記溶解度が上記範囲内であることによって、水系洗浄液による洗浄が容易となる。前記親水性基を有する樹脂の水に対する溶解度は、0.3g/(100g−H2O)以上であることがより好ましく、0.5g/(100g−H2O)以上であることがさらに好ましい。水に対する溶解度が高いほど、水洗浄性が良好になるが、溶解度が高過ぎるとインキ硬化膜の耐水性が低下する可能性があることから、前記親水性基を有する樹脂の水に対する溶解度は、100g/(100g−H2O)以下が好ましく、50g/(100g−H2O)以下がより好ましく、10g/(100g−H2O)以下がさらに好ましい。なお、前記溶解度は25℃の水100gに溶解する樹脂の質量(g)である。
前記親水性基を有する樹脂の重量平均分子量は、5,000以上であると、平版印刷用インキの耐地汚れ性が向上するため好ましい。より好ましくは15,000以上、さらに好ましくは20,000以上である。また、重量平均分子量は100,000以下であると、平版印刷用インキの流動性が保たれ、タック(粘着性)が低減できるため好ましい。より好ましくは75,000以下、さらに好ましくは50,000以下である。なお、前記樹脂の重量平均分子量はゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用い、ポリスチレン換算で測定を行い、得ることができる。
前記親水性基を有する樹脂としては、アクリル樹脂、スチレンアクリル樹脂、スチレンマレイン酸樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂、ロジン変性アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂等が挙げられるが、特に限定されるものではない。上記に挙げた樹脂のうち、モノマー入手の容易性、低コスト、合成の容易性、インキ中の他成分との相溶性、顔料の分散性等の点から、アクリル樹脂、スチレンアクリル樹脂、スチレンマレイン酸樹脂が、前記親水性基を有する樹脂として好ましく用いられる。
上記に挙げた樹脂のうち、アクリル樹脂、スチレンアクリル樹脂、スチレンマレイン酸樹脂は、次の方法により作成できる。すなわち、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、酢酸ビニルまたはこれらの酸無水物などのカルボキシル基含有モノマー、2−ヒドロキシエチルアクリレートなどの水酸基含有モノマー、ジメチルアミノエチルメタクリレートなどのアミノ基含有モノマー、アクリル酸2−(メルカプトアセトキシ)エチルなどのメルカプト基含有モノマー、アクリルアミドt−ブチルスルホン酸などのスルホ基含有モノマー、2−メタクロイロキシエチルアシッドホスッフェートなどのリン酸基含有モノマー、メタクリル酸エステル、アクリル酸エステル、スチレン、アクリロニトリル、酢酸ビニル等の中から選択された化合物を、ラジカル重合開始剤を用いて重合または共重合させることで得られる。
前記親水性基を有する樹脂の具体例としては、(メタ)アクリル酸共重合体、(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン−(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−マレイン酸−(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン−マレイン酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合体などが挙げられる。
前記親水性基を有する樹脂は、活性エネルギー線により硬化しやすくなることから、エチレン性不飽和基を有することが好ましい。前記親水性基およびエチレン性不飽和基を有する樹脂中のエチレン性不飽和基におけるヨウ素価は、0.5mol/kg以上3.0mol/kg以下であることが好ましい。ヨウ素価が上記範囲内にあることで、インキは活性エネルギー線により硬化しやすくなり、かつ前記親水性基およびエチレン性不飽和基を有する樹脂の酸価を好適な範囲に調整し易くなる。エチレン性不飽和基のヨウ素価は、インキの硬化を促進するため1.0mol/kg以上がより好ましく、1.5mol/kg以上が更に好ましい。また前記親水性基およびエチレン性不飽和基を有する樹脂の酸価をより好適な範囲に調整し易くなる2.7mol/kg以下がより好ましく、2.4mol/kg以下が更に好ましい。
前記親水性基およびエチレン性不飽和基を有する樹脂は、次の方法により作成できる。すなわち、親水性基を有する樹脂中の活性水素含有基であるメルカプト基、アミノ基、水酸基やカルボキシル基に対して、グリシジル基やイソシアネート基を有するエチレン性不飽和化合物やアクリル酸クロライド、メタクリル酸クロライドまたはアリルクロライドを付加反応させることにより、親水性基およびエチレン性不飽和基を有する樹脂が得られる。ただし、これらの方法に限定されるものではない。
また、グリシジル基を有するエチレン性不飽和化合物の具体例としては、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、アリルグリシジルエーテル、クロトン酸グリシジル、イソクロトン酸グリシジルなどが挙げられる。
また、イソシアネート基を有するエチレン性不飽和化合物の具体例としては、アクリロイルイソシアネート、メタアクリロイルイソシアネート、アクリロイルエチルイソシアネート、メタアクリロイルエチルイソシアネートなどが挙げられる。
本発明の平版印刷用インキセットに含まれるインキは、前記親水性基を有する樹脂の含有量が、5質量%以上であると、インキの顔料分散性、及び耐地汚れ性が向上するため好ましい。より好ましくは8質量%以上、さらに好ましくは11.5質量%以上である。また、前記親水性基を有する樹脂の含有量が、30質量%以下であると、インキの流動性が保たれるため、タック(粘着性)が低減できるため好ましい。より好ましくは20質量%以下であり、さらに好ましくは14質量%以下である。
本発明の平版印刷用インキセットに含まれるインキが、多官能(メタ)アクリレートを含むとよい。前記多官能(メタ)アクリレートは、二重結合基を有するため、インキは活性エネルギー線により硬化しやすくなる。また多官能(メタ)アクリレートの種類および/または含有量を調節することにより平版印刷用インキの表面張力を増減させ、基材上に塗布する平版印刷用インキの表面張力の差を3.5mN/m以内に調整するのに寄与する。
前記多官能(メタ)アクリレートとしては、(メタ)アクリレート基を2つ以上有する化合物であれば特に限定されるものでない。(メタ)アクリレート基の数(以下、「官能基数」ということがある。)は好ましくは2以上、より好ましくは3以上、さらに好ましくは4以上である。また多官能(メタ)アクリレートの官能基数は好ましくは8以下、より好ましくは7以下、さらに好ましくは6以下であるとよい。
前記多官能(メタ)アクリレートは、極性基を有することが好ましい。極性基としてはヒドロキシ基、カルボキシ基が例示され、なかでもヒドロキシル基を有することが好ましい。前記ヒドロキシル基のような極性基は、顔料を分散安定化するため、インキの流動性が向上すると考えられる。インキの流動性が向上することで、基材に転写されたインキが平滑になりやすくなり、印刷物の光沢が向上する。また、前記ヒドロキシル基のような極性基は水素結合等の相互作用により、印刷時の高剪断下におけるインキの凝集力を高める。インキの凝集力が高くなると、非画線部に対するインキ反発性が向上することから、結果として耐地汚れ性が向上する。
前記多官能(メタ)アクリレートの水酸基価は、50mgKOH/g以上であると、インキの顔料分散性、かつ耐地汚れ性が向上するため、好ましい。より好ましくは75mgKOH/g以上、さらに好ましくは100mgKOH/g以上である。また、前記水酸基価は、200mgKOH/g以下であることにより、水素結合等の相互作用を抑えられ、インキの流動性を良好に保つことが出来るため、タック(粘着性)が低減できる点で好ましい。より好ましくは180mgKOH/g以下、さらに好ましくは160mgKOH/g以下である。
前記多官能(メタ)アクリレートの分子量は、100以上であると、インキの耐地汚れ性が向上させられるため、好ましい。より好ましくは200以上、さらに好ましくは250以上である。また、前記分子量は、1,000以下であることにより、インキの流動性を良好に保つことが出来、タック(粘着性)が低減できるため、好ましい。より好ましくは700以下、さらに好ましくは500以下である。
前記多官能(メタ)アクリレートの具体例としては、2官能では、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート等が挙げられ、3官能では、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸トリ(メタ)アクリレートや、これらのエチレンオキシド付加物、プロピレンオキシド付加物前記等が挙げられ、4官能ではペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジグリセリンテトラ(メタ)アクリレートや、これらのエチレンオキシド付加物、プロピレンオキシド付加物が挙げられ、5官能以上ではジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、これらのエチレンオキシド付加物、プロピレンオキシド付加物が挙げられる。またヒドロキシル基を有する多官能(メタ)アクリレートの好ましい具体例としては、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール、ジグリセリン、ジトリメチロールプロパン、イソシアヌル酸、およびジペンタエリスリトール等の多価アルコールのポリ(メタ)アクリレート、およびこれらのアルキレンオキシド付加物が挙げられる。より具体的には、トリメチロールプロパンのジ(メタ)アクリレート、グリセリンのジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールのジ又はトリ(メタ)アクリレート、ジグリセリンのジ又はトリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンのジ又はトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールのジ、トリ、テトラ又はペンタ(メタ)アクリレート、およびこれらのエチレンオキシド付加体、プロピレンオキシド付加体、テトラエチレンオキシド付加体等が挙げられる。上記の中でも、本発明の平版印刷用インキが流動性、および顔料分散性に優れ、耐地汚れ性が向上することから、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジグリセリントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートが特に好ましい。
本発明の平版印刷用インキセットに含まれるインキが、前記多官能(メタ)アクリレートを20質量%以上含むと、インキの顔料分散性、及び耐地汚れ性が向上するため、好ましい。より好ましくは30質量%以上、さらに好ましくは40質量%以上である。また、インキの流動性を良好に保つことが出来るため、75質量%以下が好ましい。より好ましくは70質量%以下、さらに好ましくは65質量%以下である。
インキの表面張力について、基本的には、インキ中の極性基量が多いほど表面張力は高く、インキ中の極性基量が少ないほど表面張力は低くなる。前記親水性基を有する樹脂、および水酸基を有する前記多官能(メタ)アクリレートの含有量を調整することで、インキ中の極性基量を変化させ、平版印刷用インキセットに含まれるインキの表面張力の差を3.5mN/m以内に調整し易くなる。基材上に塗布するインキの表面張力の差を、親水性基を有する樹脂、多官能(メタ)アクリレートの種類および/または含有量により調節してもよいし、これらに加え、或いは独立させて、界面活性剤、顔料、希釈剤の種類および/または含有量により基材上に塗布するインキの表面張力の差を調節してもよい。
インキの表面張力について、インキの流動性と耐地汚れ性を担保しつつ、45mN/m以上60mN/m以下に調整し易くするため、好ましくは前記親水性基を有する樹脂の酸価を60mgKOH/g以上200mgKOH/g以下、前記親水性基を有する樹脂の含有量を11.5質量%以上14質量%以下、水酸基を有する前記多官能(メタ)アクリレートの水酸基価を50mgKOH/g以上200mgKOH/g以下、水酸基を有する前記多官能(メタ)アクリレートの含有量を20質量%以上30質量%以下とすると良い。
平版印刷用ブラックインキについて、耐地汚れ性を担保しつつ、タック値を5.0以上8.0以下に調整し易くするため、好ましくは前記親水性基を有する樹脂の酸価を60mgKOH/g以上200mgKOH/g以下、前記親水性基を有する樹脂の重量平均分子量を15,000以上50,000以下、前記親水性基を有する樹脂の含有量を11.5質量%以上14質量%以下、水酸基を有する前記多官能(メタ)アクリレートの水酸基価を50mgKOH/g以上200mgKOH/g以下、水酸基を有する前記多官能(メタ)アクリレートの含有量を20質量%以上30質量%以下とすると良い。
本発明の平版印刷用インキセットに含まれるインキが、界面活性剤を含むとよい。前記界面活性剤の含有量は、前記平版印刷用インキの流動性が向上することに加え、前記平版印刷用インキの表面張力および平版印刷用インキセットに含まれるインキの表面張力の差を調整することができることから、前記顔料に対して、5質量%以上50質量%以下であることが好ましい。
前記界面活性剤の具体例としては、BYK Chemie社製「Anti−Terra−U(ポリアミノアマイド燐酸塩)」、「Anti−Terra−203/204(高分子量ポリカルボン酸塩)」、「Disperbyk−101(ポリアミノアマイド燐酸塩と酸エステル)、102、103、106、107(水酸基含有カルボン酸エステル)、110、111(酸基を含む共重合物)、115、118、130(ポリアマイド)、140、142、145、161、162、163、164、165、166、167、168、170(高分子共重合物)、171、174、180、181、182、184、185、187、190、191、192、193、199、2000、2001、2008、2009、2010、2012、2013、2015、2022、2025、2026、2050、2055、2060、2061、2070、2096、2150、2151、2152、2155、2163、2164、2200、2205、9067、9076」、「Bykumen」(高分子量不飽和酸エステル)、「BYK−P104、P105(高分子量不飽和酸ポリカルボン酸)」、「P104S、240S(高分子量不飽和酸ポリカルボン酸とシリコン系)」、「Lactimon(長鎖アミンと不飽和酸ポリカルボン酸とシリコン)」が挙げられる。
また、Efka CHEMICALS社製「エフカ44、46、47、48、49、54、63、64、65、66、71、701、764、766」、「エフカポリマー100(変性ポリアクリレート)、150(脂肪族系変性ポリマー)、400、401、402、403、450、451、452、453(変性ポリアクリレート)、745(銅フタロシアニン系)」、共栄社化学社製「フローレン TG−710(ウレタンオリゴマー)、「フローノンSH−290、SP−1000」、「ポリフローNo.50E、No.300(アクリル系共重合物)」、楠本化成社製「ディスパロン 325、KS−860、873SN、874(高分子分散剤)、1401、#2150(脂肪族多価カルボン酸)、#7004(ポリエーテルエステル型)」が挙げられる。
さらに、花王社製「デモールRN、N(ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物ナトリウム塩)、MS、C、SN−B(芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物ナトリウム塩)、EP」、「ホモゲノールL−18(ポリカルボン酸型高分子)、「エマルゲン920、930、931、935、950、985(ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル)」、「アセタミン24(ココナッツアミンアセテート)、86(ステアリルアミンアセテート)」、アビシア社製「ソルスパース5000(フタロシアニンアンモニウム塩系)、13940(ポリエステルアミン系)、17000(脂肪酸アミン系)、24000GR、32000、33000、39000、41000、53000」、日光ケミカル社製「ニッコール T106(ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート)、MYS−IEX(ポリオキシエチレンモノステアレート)、Hexagline 4−0(ヘキサグリセリルテトラオレート)」、味の素ファインテクノ社製「アジスパーPB821、822、824」等が挙げられる。
本発明の平版印刷用インキセットに含まれるインキが、顔料を含むとよい。前記顔料としては、平版印刷用インキ組成物で一般的に用いられる無機顔料と有機顔料から選ばれる1種類以上を用いることができる。
無機顔料の具体例としては、二酸化チタン、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、ベンガラ、カドミウムレッド、黄鉛、亜鉛黄、紺青、群青、有機ベントナイト、アルミナホワイト、酸化鉄、カーボンブラック、グラファイト、アルミニウム等が挙げられる。
有機顔料としては、フタロシアニン系顔料、溶性アゾ系顔料、不溶性アゾ系顔料、レーキ顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリン系顔料、スレン系顔料、金属錯体系顔料等が挙げられ、その具体例としてはフタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、アゾレッド、モノアゾレッド、モノアゾイエロー、ジスアゾレッド、ジスアゾイエロー、キナクリドンレッド、キナクリドンマゼンダ、イソインドリンイエロー等が挙げられる。
前記顔料濃度は、印刷紙面濃度を得るために5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、15質量%以上がさらに好ましい。また、インキの流動性を向上し、良好なローラー間転移性を得るためには40質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、25質量%以下がさらに好ましい。
本発明の平版印刷用インキセットに含まれるインキが、シリコーン液体、アルキル(メタ)アクリレート、炭化水素系溶媒、植物油、植物油由来の脂肪酸エステル、およびフルオロカーボンから選ばれる成分の1種類以上を含むことが好ましい。
前記成分は、水なし平版印刷版の非画線部であるシリコーンゴムへのインキ付着性を低下させる効果があり、その結果、地汚れなき印刷物が得られる。シリコーンゴムへのインキ付着性を低下させる理由は以下のように推測される。すなわち、インキに含まれる前記成分は、シリコーンゴム表面との接触によりインキ中から拡散し、シリコーンゴム表面を薄膜状に覆う。このようにして形成された薄膜がシリコーンゴム表面へのインキの付着を阻止し、シリコーン表面の地汚れを防止すると推測される。
前記成分のうち、アルキル(メタ)アクリレートは、活性エネルギー線照射時に硬化することから、インキの硬化膜の膜物性を向上させると同時に活性エネルギー線に対する感度が向上するため好ましい。
前記成分の具体的な化合物は次のとおりである。
シリコーン液体としては、ジメチルシリコーン、メチルフェニルシリコーン、アルキル変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン、アラルキル変性シリコーン、脂肪酸アミド変性シリコーン、脂肪酸エステル変性シリコーン、フルオロアルキル変性シリコーン、メチルハイドロジェンシリコーン、シラノール変性シリコーン、アルコール変性シリコーン、アミノ変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、エポキシポリエーテル変性シリコーン、フェノール変性シリコーン、カルボキシ変性シリコーン、メルカプト変性シリコーン等が挙げられる。
アルキル(メタ)アクリレートとしては、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、ペンタデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、ヘプタデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、イソオクタデシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
炭化水素系溶媒としては、ポリオレフィンオイル、ナフテンオイル、パラフィンオイル等が挙げられる。
植物油としては、大豆油、アマニ油、サフラワー油、桐油、トール油、脱水ヒマシ油等が挙げられる。
植物油由来の脂肪酸エステルとしてはステアリン酸、イソステアリン酸、ヒドロキシステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エレオステアリン酸等炭素数15〜20程度のアルキル主鎖を有する脂肪酸の、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、tert−ブチル、2−エチルヘキシル等の炭素数1〜10程度のアルキルエステル等が挙げられる。
フルオロカーボンとしては、1,1,1,2,2−ペンタフルオロエタン、1,1,1,2,2,3,3,4,4−ノナフルオロブタン、1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6−トリデカフルオロヘキサン、1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8−ヘプタデカフルオロオクタン、1,1,1,2,3,3,3−ヘプタフルオロプロパン、1,1,1,2,3,3,4,4−オクタフルオロー2―トリフルオロメチルブタン、1,1,1,2,3,3,4,4,5,5,6,6−ドデカフルオロ−2−トリフルオロメチルヘキサン、1,1,2,2−テトラフルオロエタン、1,1,2,2,3,3,4,4−オクタフルオロブタン、1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6−ドデカフルオロヘキサン等が挙げられる。
本発明の平版印刷用インキセットに含まれるインキが、前記シリコーン液体、アルキル(メタ)アクリレート、炭化水素系溶媒、植物油、植物油由来の脂肪酸エステル、およびフルオロカーボンから選ばれる成分の1種類以上について、耐地汚れ性を向上させることから、0.5質量%以上含むことが好ましい。より好ましくは、1質量%以上であり、さらに好ましくは、2質量%以上である。また、平版印刷用インキの保存安定性を向上させることができることから、10質量%以下含むことが好ましい。より好ましくは8質量%以下であり、さらに好ましくは5質量%以下である。
本発明の平版印刷用インキセットに含まれるインキが、油溶性界面活性剤(乳化剤)を含むことが好ましい。ここで言う乳化剤とは、油(水に不溶性の有機化合物)に溶解し、水を取り込みW/O型エマルジョンを形成する界面活性剤を指す。前記平版印刷用インキが乳化剤を含むと適切な量(一般にインキ全量の10〜20質量%と言われる)の湿し水を取り込み乳化することで、非画線部の湿し水に対する反発性が増し、インキの耐地汚れ性が向上する。
前記乳化剤の親水性基と疎水性基の比率はHLB値により表される。ここで言うHLB値とは界面活性剤の水と油への親和性の程度を表す値であり、HLB値は0から20までの値を取り、0に近いほど親油性が高く20に近いほど親水性が高いことを意味する。前記乳化剤のHLB値としては、水を良好に溶解することから10以上であることが好ましい。より好ましくは11以上である。また、前記平版印刷用インキに良好に溶解することから、18以下であることが好ましい。より好ましくは17以下である。
前記乳化剤の具体例としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンパルミチンエーテル、ポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシプロピレンラウリルエーテル、ポリオキシプロピレンオレイルエーテル、ポリオキシプロピレンステアリルエーテル、ポリオキシプロピレンセチルエーテル、ポリオキシプロピレンパルミチンエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンラウリルエーテル、ポリオキシアルキレンオレイルエーテル、ポリオキシアルキレンステアリルエーテル、ポリオキシアルキレンセチルエーテル、ポリオキシアルキレンパルミチンエーテルや、ソルビタン酸のモノ、ジ、トリアルキルエーテル、ソルビタン酸のモノ、ジ、トリラウリルエーテル、ソルビタン酸のモノ、ジ、トリオレイルエーテル、ソルビタン酸のモノ、ジ、トリステアリルエーテル、ソルビタン酸のモノ、ジ、トリセチルエーテル、ソルビタン酸のモノ、ジ、トリパルミチンエーテルや、ポリオキシエチレンソルビタン酸のモノ、ジ、トリアルキルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン酸のモノ、ジ、トリラウリルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン酸のモノ、ジ、トリオレイルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン酸のモノ、ジ、トリステアリルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン酸のモノ、ジ、トリセチルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン酸のモノ、ジ、トリパルミチンエーテルや、ポリエーテル変性シリコーンオイなどが挙げられ、HLB値が10以上18以下にあるものが好ましく用いられる。
本発明の平版印刷用インキセットに含まれるインキが、印刷中に湿し水を取り込み乳化状態が安定することから、乳化剤を0.01質量%以上含むことが好ましい。より好ましくは0.05質量%以上であり、さらに好ましくは0.10質量%以上である。また、平版印刷用インキが、印刷中に湿し水を過剰に取り込むことがなく、また湿し水と相溶しないことから、乳化剤は5.00質量%以下が好ましい。より好ましくは、3.00質量%以下であり、さらに好ましくは1.00質量%以下である。
本発明の平版印刷用インキセットに含まれるインキが、光重合開始剤を含み、紫外線硬化性を有することが好ましい。また前記平版印刷用インキは、前記光重合開始剤に加えて、増感剤を含むことが好ましい。
前記光重合開始剤は、活性ラジカル種を発生するものが好ましく、その具体例としては、ベンゾフェノン、o−ベンゾイル安息香酸メチル、4,4−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン(別名:ミヒラーケトン)、4,4−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4’−ジクロロベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4−メチルジフェニルケトン、1−ヒドロキシシクロヘキシル−フェニルケトン、4-フェニルベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、ジベンジルケトン、フルオレノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニル−2−フェニルアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパンー1−オン、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、p−t−ブチルジクロロアセトフェノン、チオキサントン、2−メチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジクロロチオキサントン、ベンジルジメチルケタノール、ベンジルメトキシエチルアセタール、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインブチルエーテル、アントラキノン、2−t−ブチルアントラキノン、2−アミルアントラキノン、β−クロルアントラキノン、アントロン、ベンズアントロン、ジベンゾスベロン、メチレンアントロン、4−アジドベンザルアセトフェノン、2,6−ビス(p−アジドベンジリデン)シクロヘキサノン、2,6−ビス(p−アジドベンジリデン)−4−メチルシクロヘキサノン、2−フェニル−1,2−ブタジオン−2−(o−メトキシカルボニル)オキシム、1−フェニル−1,2−プロパンジオン−2−(o−エトキシカルボニル)オキシム、1,3−ジフェニル−プロパントリオン−2−(o−エトキシカルボニル)オキシム、1−フェニル−3−エトキシ−プロパントリオン−2−(o−ベンゾイル)オキシム、2−メチル−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノ−1−プロパン−1−オン、2−ベンジルー2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタノン、ナフタレンスルホニルクロライド、キノリンスルホニルクロライド、N−フェニルチオアクリドン、4,4−アゾビスイソブチロニトリル、ジフェニルジスルフィド、ベンズチアゾールジスルフィド、トリフェニルホスフィン、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−ホスフィンオキシド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニル−ホスフィンオキシド等が挙げられる。
増感剤の具体例としては、2−メチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジクロロチオキサントン、2,3−ビス(4−ジエチルアミノベンザル)シクロペンタノン、2,6−ビス(4−ジメチルアミノベンザル)シクロヘキサノン、2,6−ビス(4−ジメチルアミノベンザル)−4−メチルシクロヘキサノン、4,4−ビス(ジメチルアミノ)−ベンゾフェノン(別名:ミヒラーケトン)、4,4−ビス(ジエチルアミノ)−ベンゾフェノン、4,4−ビス(ジメチルアミノ)カルコン、4,4−ビス(ジエチルアミノ)カルコン、p−ジメチルアミノシンナミリデンインダノン、p−ジメチルアミノベンジリデンインダノン、2−(p−ジメチルアミノフェニルビニレン)−イソナフトチアゾール、1,3−ビス(4−ジメチルアミノベンザル)アセトン、1,3−カルボニル−ビス(4−ジエチルアミノベンザル)アセトン、3,3−カルボニル−ビス(7−ジエチルアミノクマリン)、N−フェニル−N−エチルエタノールアミン、N−フェニルエタノールアミン、N−トリルジエタノールアミン、ジメチルアミノ安息香酸メチル、ジメチルアミノ安息香酸エチル、ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、ジエチルアミノ安息香酸メチル、ジエチルアミノ安息香酸エチル、ジエチルアミノ安息香酸イソアミル、3−フェニル−5−ベンゾイルチオテトラゾール、1−フェニル−5−エトキシカルボニルチオテトラゾールなどが挙げられる。
本発明の平版印刷用インキセットに含まれるインキが、これらの光重合開始剤や増感剤を1種以上使用することができる。
前記平版印刷用インキセットに含まれるインキは、前記光重合開始剤を0.1質量%以上含むことで、良好な感度を得られ好ましい。1.0質量%以上含むことがより好ましく、3.0質量%以上含むことがさらに好ましい。また、前記光重合開始剤を20.0質量%以下含むことで、インキの保存安定性が向上することから好ましい。15.0質量%以下がより好ましく、10.0質量%以下がさらに好ましい。
また、増感剤を添加する場合、その含有量は、インキが良好な感度を得られることから、インキに対して0.1質量%以上が好ましく、1.0質量%以上がより好ましく、3.0質量%以上がさらに好ましい。インキの保存安定性が向上することから、インキに対して20.0質量%以下が好ましく、15.0質量%以下がより好ましく、10.0質量%以下がさらに好ましい。
本発明の平版印刷用インキセットに含まれるインキは、その保存時の安定性を向上するために、重合禁止剤を添加することが好ましい。重合禁止剤の具体的な例としては、ヒドロキノン、ヒドロキノンのモノエーテル化物、N−ニトロソジフェニルアミン、フェノチアジン、p−t−ブチルカテコール、N−フェニルナフチルアミン、2,6−ジ−t−ブチル−p−メチルフェノール、クロラニール、ピロガロールなどが挙げられる。重合禁止剤の添加量は、良好な保存安定性が得られることから、インキに対し、0.01質量%以上5.00質量%以下が好ましい。
本発明の平版印刷用インキセットに含まれるインキが、必要に応じてワックス、消泡剤、転移性向上剤等の添加剤を使用することが可能である。
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
<インキ原料>
樹脂1:25質量%のメタクリル酸メチル、25質量%のスチレン、50質量%のメタクリル酸からなる共重合体のカルボキシル基に対して0.55当量のグリシジルメタクリレートを付加反応させて、エチレン性不飽和基と親水性基を有する樹脂1を得た。得られた樹脂1は重量平均分子量34,000、酸価105mgKOH/g、ヨウ素価2.0mol/kgであった。
樹脂2:30質量%のメタクリル酸メチル、25質量%のスチレン、45質量%のメタクリル酸からなる共重合体のカルボキシル基に対して0.7当量のグリシジルメタクリレートを付加反応させて、エチレン性不飽和基と親水性基を有する樹脂2を得た。得られた樹脂2は重量平均分子量27,000、酸価70mgKOH/g、ヨウ素価2.3mol/kgであった。
樹脂3:42質量%のメタクリル酸メチル、25質量%のスチレン、33質量%のメタクリル酸からなる親水性基を有する樹脂3を得た。得られた樹脂3は重量平均分子量13,000、酸価183mgKOH/gであった。
樹脂4:45質量%のメタクリル酸メチル、20質量%のスチレン、35質量%のメタクリル酸からなる親水性基を有する樹脂4を得た。得られた樹脂4は重量平均分子量25,000、酸価232mgKOH/gであった。
樹脂5:イソダップ(ダイソー化学社製、ジアリルフタレート樹脂、親水性基なし、重量平均分子量30,000、酸価0mgKOH/g)
多官能(メタ)アクリレート1:ペンタエリスリトールトリアクリレートとペンタエリスリトールテトラアクリレートの混合物“Miramer”(登録商標)M340(MIWON社製)ヒドロキシル基あり、水酸基価115mgKOH/g
多官能(メタ)アクリレート2:ペンタエリスリトールトリアクリレートとペンタエリスリトールテトラアクリレートの混合物“アロニックス”(登録商標)M−306(東亜合成社製)ヒドロキシル基あり、水酸基価171mgKOH/g
多官能(メタ)アクリレート3: グリセリンジメタクリレート“NKエステル”(登録商標)701(新中村化学社製)ヒドロキシル基あり、水酸基価240mgKOH/g
多官能(メタ)アクリレート4:ジペンタエリスリトールペンタアクリレートとジペンタエリスリトールヘキサアクリレートの混合物“アロニックス”(登録商標)M−402(東亜合成社製)ヒドロキシル基あり、水酸基価28mgKOH/g
多官能(メタ)アクリレート5:ペンタエリスリトールテトラアクリレートエチレンオキシド付加物“Miramer”(登録商標)M4004(MIWON社製)ヒドロキシル基なし
顔料1:カーボンブラック MA8(三菱化学(株)製)
顔料2:セイカシアニンブルー4920(大日精化(株)製)
顔料3:カーミン6B 1483LT(大日精化(株)製)
顔料4:ファストイエロー2300(大日精化(株)製)
界面活性剤1:“Disperbyk”(登録商標)111(ALTANA社製)酸価129mgKOH/g
界面活性剤2:“Disperbyk”(登録商標)2152(ALTANA(株)社製)酸価0mgKOH/g
界面活性剤3:“プライサーフ”(登録商標)A208F(第一工業製薬(株)製)酸価180mgKOH/g
界面活性剤4:“ディスパロン”(登録商標)DA−325(楠本化成(株)製)酸価14mgKOH/g
添加剤:ラウリルアクリレート(和光純薬工業(株)製)
光重合開始剤:“イルガキュア”(登録商標)907(BASF社製)
重合禁止剤:p−メトキシフェノール(和光純薬工業(株)製)
ワックス:ポリテトラフルオロエチレンの微粉末“KTL−4N”(登録商標)((株)喜多村製)
乳化剤1:ポリオキシエチレンラウリルエーテル“エマルゲン”(登録商標)108(花王(株)社)HLB値12.1
乳化剤2:ポリオキシエチレンラウリルエーテル“EMALEX”(登録商標)505H(花王(株)製)HLB値8.0
<重量平均分子量の測定>
樹脂の重量平均分子量はテトラヒドロフランを移動相としたゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定した値である。GPCはHLC−8220(東ソー(株)製)、カラムはTSKgel SuperHM−H(東ソー(株)製)、TSKgel SuperHM−H(東ソー(株)製)、TSKgel SuperH2000(東ソー(株)製)の順で連結したものを用い、RI検出は前記GPCに内蔵されたRI検出器を用い測定した。検量線はポリスチレン標準物質を用いて作成し、試料の重量平均分子量を計算した。測定試料の作成方法を説明する。濃度が0.25質量%となるように試料をテトラヒドロフランで希釈し、希釈溶液をミックスローター(MIX−ROTAR VMR−5、アズワン(株)社製)にて5分間100rpmで攪拌し溶解させ、0.2μmフィルター(Z227536−100EA、SIGMA社製)でろ過して、ろ液を測定試料とした。測定条件を説明する。打ち込み量は10μL、分析時間は30分、流量は0.4mL/min、カラム温度は40度として、測定した。
<水なし印刷試験>
水なし平版印刷版(TAN−E、東レ(株)製)をオフセット印刷機(オリバー266EPZ、桜井グラフィックシステム社製)に装着し、実施例1〜8、および比較例1〜9の各インキを用いて、コート紙(OKトップコート、王子製紙製)5000枚に印刷、USHIO(株)製紫外線照射装置(120W/cm、超高圧メタハラランプ1灯)を用いて、ベルトコンベアースピードを80m/minにて紫外線を照射し、インキを硬化させ、印刷物を得た。インキをブラックインキ(以下、「墨」と記すことがある。)、シアンインキ(以下、「藍」と記すことがある。)、マゼンタインキ(以下、「紅」と記すことがある。)、イエローインキ(以下、「黄」と記すことがある。)の順で転写することで印刷物を得た。
<水あり印刷試験>
水あり平版印刷版(XP−F、富士フィルム(株)製)をオフセット印刷機(オリバー266EPZ、桜井グラフィックシステム社製)に装着し、湿し水にエッチ液(SOLAIA−505、T&K TOKA社製)を3重量%混合した水道水を用い、実施例9、および比較例10、11の各インキを用いて、コート紙(OKトップコート、王子製紙製)5000枚に印刷、USHIO(株)製紫外線照射装置(120W/cm、超高圧メタハラランプ1灯)を用いて、ベルトコンベアースピードを80m/minにて紫外線を照射し、インキを硬化させ、印刷物を得た。インキを墨、藍、紅、黄の順で転写することで印刷物を得た。
<評価方法>
(1)表面張力
ガラス基材(5cmガラス板(厚さ1mmT×縦50mm×横50mm)、(株)石田理化社製)の表面を洗浄し不純物を除去する処理を行った後、ガラス基材上に塗布したインキについて、自動接触角計(Drop Master DM−501,協和界面科学(株)社製)を用いて液滴法にて接触角を測定し、インキの表面張力を算出した。詳細については前述参照。
(2)粘度
レオメーター(MCR301、アントン・パール(Anton Paar)社製)にコーンプレート(コーン角1°、φ=40mm)を装着し、インキピペットで秤量した0.15mlのインキについて、25℃での、0.5rpm、20rpm、50rpmにおける各粘度を測定し、粘度(A)、粘度(B)、粘度(C)とした。また粘度比(C)/(B)を求めた。
(3)地汚れ濃度
印刷物のベタ部藍色濃度が2.0であるときの、印刷物の非画線部における藍色濃度を反射濃度計(Gretag Macbeth社製、SpectroEye)を用いて評価した。反射濃度が0.15を超えると耐地汚れ性が不良であり、反射濃度が0.10を超え0.15以下であると耐地汚れ性がやや良好であり、反射濃度が0.10以下であると耐地汚れ性が良好であり、反射濃度が0.05以下であると耐地汚れ性が極めて良好である。
(4)光沢値
印刷物上のインキ硬化膜を、精密光沢計GM−26D((株)村上色彩技術研究所製)を用いて測定角度60度で光沢値を測定した。光沢値は25以下では不良であり、光沢値は25を超え30未満であれば使用可能であり、光沢値は30以上あれば良好であり、35以上あれば極めて良好である。
(5)タック値
インキピペットで秤量した1.31mlのインキを、インコメーター(テスター産業(株)社製、INKO−GRAPH TYPE V)を用いて、回転数400rpm、38℃において測定した。測定開始1分後の測定値を、本発明におけるタック値とする。
[実施例1〜3、および比較例1、2]
表1に示す組成で、樹脂、多官能(メタ)アクリレート、顔料、界面活性剤、添加剤、光重合開始剤、重合禁止剤、およびワックスを秤量し、三本ロールミル“EXAKT”(登録商標)M−80S(EXAKT社製)を用いて、ローラーギャップ1で5回500rpmの速度で通すことでブラックインキ、シアンインキ、マゼンタインキ、およびイエローインキを得た。得られた平版印刷用インキについて、上記の通り表面張力測定、粘度測定、タック測定、水なし印刷試験およびその評価を実施し、表面張力、粘度、耐地汚れ性、光沢性およびタック値を評価した。結果を表1に示す。
実施例1〜3について、インキの表面張力の差が3.5mN/m以下であり、さらにブラックインキのタック値が8.0以下であるため、4色重ね部の光沢が良好である。インキの表面張力の差は、実施例1、実施例2、実施例3の順で小さく、4色重ね部の光沢値は、実施例1、実施例2、実施例3の順で高い。また表面張力が45mN/m以上60mN/m以下、粘度(A)が200Pa・s以下であるため、単色部の光沢が良好である。さらに粘度(B)および(C)が5Pa・s以上であり、粘度比(C)/(B)が0.75以上1.00以下であるため、耐地汚れ性が良好である。
比較例1および2について、インキの表面張力の差の最大値が3.5mN/mよりも大きいため、4色重ね部の光沢値が実施例1〜3に比べて低い。インキの表面張力の差の最大値は、比較例2の方が比較例1に比べて高く、4色重ね部の光沢値は、比較例2の方が比較例1に比べて低い。また比較例1および2において、一部を除いてインキの表面張力が45mN/m以上60mN/m以下を満たさず、単色部の光沢が実施例1〜3に比べて低い。比較例1は、実施例1〜3および比較例2に比べて粘度(A)が高いため、実施例1〜3および比較例2に比べて単色部の光沢が低い。比較例2は、実施例1〜3および比較例1に比べて粘度(B)および(C)が低く、実施例1〜3および比較例1に比べて粘度比(C)/(B)が低いため、実施例1〜3および比較例1に比べて耐地汚れ性が不良である。
[実施例1、4、および比較例3、4]
表2の組成とする以外は実施例1と同様の操作を行い、ブラックインキ、シアンインキ、マゼンタインキ、およびイエローインキを得た。得られた平版印刷用インキについて、上記の通り表面張力測定、粘度測定、タック測定、水なし印刷試験およびその評価を実施し、表面張力、粘度、耐地汚れ性、光沢性およびタック値を評価した。結果を表2に示す。
実施例1および4について、インキの表面張力の差が3.5mN/m以内であり、さらにブラックインキのタック値が8.0以下であるため、4色重ね部の光沢が良好である。インキの表面張力の差は、実施例1の方が実施例4に比べて小さく、4色重ね部の光沢値は、実施例1の方が実施例4に比べて高い。また実施例1および4のインキの表面張力が45mN/m以上60mN/m以下であり、粘度(A)が200Pa・s以下であるため、単色部の光沢が良好である。さらに粘度(B)および(C)が5Pa・s以上であり、粘度比(C)/(B)が0.75以上1.00以下であるため、耐地汚れ性が良好である。
比較例3および4において、インキの表面張力の差が3.5mN/mよりも大きいため、4色重ね部の光沢値が実施例1および4に比べて低い。インキの表面張力の差の最大値は、比較例4の方が比較例3に比べて高く、4色重ね部の光沢値は、比較例4の方が比較例3に比べて低い。また比較例3および4について、一部を除いてインキの表面張力が45mN/m以上60mN/m以下を満たさず、単色部の光沢が実施例1および4に比べて低い。比較例3は、実施例1、4および比較例4に比べて粘度(A)が高いため、実施例1、4および比較例4に比べて単色部の光沢が低い。比較例4は、実施例1、4および比較例3に比べて粘度(B)および(C)が低く、実施例1、4および比較例3に比べて粘度比(C)/(B)が低いため、実施例1、4および比較例3に比べて耐地汚れ性が不良である。
[実施例1、5、6および比較例5〜7]
表3の組成とする以外は実施例1と同様の操作を行い、ブラックインキ、シアンインキ、マゼンタインキ、およびイエローインキを得た。得られた平版印刷用インキについて、上記の通り表面張力測定、粘度測定、タック測定、水なし印刷試験およびその評価を実施し、表面張力、粘度、耐地汚れ性、光沢性およびタック値を評価した。結果を表3に示す。
実施例1、5および6について、インキの表面張力の差が3.5mN/m以内であり、さらにブラックインキのタック値が8.0以下であるため、4色重ね部の光沢が良好である。また実施例1、5および6において、粘度(A)が200Pa・s以下であるため、単色部の光沢が良好である。加えて、実施例1はインキの表面張力が45mN/m以上60mN/m以下であり、実施例5および6はインキの表面張力が45mN/m以上60mN/m以下を満たさないため、実施例1は実施例5および6に比べて単色部の光沢が良好である。実施例1、5および6について、粘度(B)および(C)が5Pa・s以上であり、粘度比(C)/(B)が0.75以上1.00以下であるため、耐地汚れ性が良好である。さらに、
比較例5〜7において、インキの表面張力の差が3.5mN/mよりも大きいため、4色重ね部の光沢値が実施例1、5および6に比べて低い。比較例5〜7について、粘度(A)が200Pa・s以下であるため、単色部の光沢が良好である。ただし、比較例5は、インキの表面張力が45mN/m以上60mN/m以下であるが、比較例6および7はインキの表面張力が45mN/m以上60mN/m以下を満たさないため、比較例6および7は比較例5に比べて単色部の光沢値が低い。比較例5〜7について、粘度(B)および(C)が5Pa・s以上であり、粘度比(C)/(B)が0.75以上1.00以下であるため、耐地汚れ性が良好である。
[実施例1、7、8、および比較例1、8、9]
表4の組成とする以外は実施例1と同様の操作を行い、ブラックインキ、シアンインキ、マゼンタインキ、およびイエローインキを得た。得られた平版印刷用インキについて、上記の通り表面張力測定、粘度測定、タック測定、水なし印刷試験およびその評価を実施し、表面張力、粘度、耐地汚れ性、光沢性およびタック値を評価した。結果を表4に示す。
実施例1、7および8について、各実施例におけるインキの表面張力の差が3.5mN/m以内であるため、4色重ね部の光沢が良好である。実施例1、7および8について、インキの表面張力が45mN/m以上60mN/m以下であり、粘度(A)が200Pa・s以下であるため、単色部の光沢が良好である。実施例7は、実施例1に比べてブラックインキのタック値が低いため、ブラック単色部および4色重ね部の光沢値が高いが、実施例1に比べてブラックインキの耐地汚れ性は低い。実施例8は、実施例1に比べてブラックインキのタック値が高いため、ブラック単色部および4色重ね部の光沢値が低いが、実施例1に比べてブラックインキの耐地汚れ性は高い。
比較例1、8および9について、インキの表面張力の差が3.5mN/mより大きいため、4色重ね部の光沢が不良である。また比較例1、8および9について、一部を除いてインキの表面張力が45mN/m以上60mN/m以下を満たさず、一部を除いて粘度(A)が200Pa・s以下を満たさないため、単色部の光沢値が実施例1、7および8に比べて低い。比較例8および9は、比較例1に比べてブラックインキのタック値が低いため、ブラック単色部および4色重ね部の光沢値が高いが、比較例1に比べてブラックインキの耐地汚れ性は低い。
[実施例9および比較例10、11]
表5の組成とする以外は実施例1と同様の操作を行い、ブラックインキ、シアンインキ、マゼンタインキ、およびイエローインキを得た。得られた平版印刷用インキについて、上記の通り表面張力測定、粘度測定、タック測定、水あり印刷試験およびその評価を実施し、表面張力、粘度、耐地汚れ性、光沢性およびタック値を評価した。結果を表5に示す。
実施例9について、インキの表面張力の差が3.5mN/m以内であるため、4色重ね部の光沢が良好である。比較例10、11について、インキの表面張力の差が3.5mN/mより大きいため、4色重ね部の光沢が不良である。実施例9および比較例10、11について、インキの表面張力が45mN/m以上60mN/m以下であり、粘度(A)が200Pa・s以下であるため、単色部の光沢が良好である。
比較例11について、HLB値が8.0の乳化剤を含有しており、印刷中にインキが湿し水を取り込み安定な乳化状態を取ることができないため、インキ供給量を増やさないと適切な濃度の印刷物を得ることができず、その結果、耐地汚れ性が不良である。実施例9および比較例10について、HLB値が12.1の乳化剤を含有しており、印刷中にインキが湿し水を取り込み安定な乳化状態を取ることができるため、インキ供給量を増やさずに適切な濃度の印刷物を得られ、その結果、耐地汚れ性が良好である。