JPWO2017047813A1 - 肝硬変患者における肝細胞がん発生リスク及び予後を予測するための方法 - Google Patents

肝硬変患者における肝細胞がん発生リスク及び予後を予測するための方法 Download PDF

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Abstract

本発明は、肝硬変患者の肝細胞がん発症リスク及び予後(生存率)を正確に予測するための方法及びキットを提供する。
本発明により、肝硬変患者の肝細胞がんの発症リスク及び予後を予測するための「肝細胞がん発症リスク判定指数」が、体液(血清)中の全CSF1Rに対するWFA/VVA結合性糖含有CSF1Rの割合(WFA+-CSF1R%)として算出する方法、「予後判定指数」がWFA/VVA結合性糖鎖含有CSF1R量(WFA+-CSF1R ng/ml)として算出する方法を提供した。さらに、両者の最適カットオフ値を決定し、被験者の「肝細胞がん発症リスク判定指数」がその最適カットオフ値以上であると肝細胞がん発症リスクが有意に高く、「予後判定指数」がその最適カットオフ値以上であると予後が有意に悪いことを実証した。
また、体液試料中のWFA/VVA結合性糖鎖含有CSF1RなどCSF1R検出に優れた抗CSF1R抗体(CSR-1〜30)を提供し、WFAレクチン以外のsrWFA及びVVAレクチンが用いられることを見出し、加えて全CSF1R量の測定に代え、CSF1R特異的レクチンと結合するCSF1R量を測定すればよいことも実証した。これらの抗CSF1R抗体及び各レクチンを構成要素として含む肝硬変患者の「肝細胞がんリスク判定指数」及び/又は「予後判定指数」を測定するためのキットなども提供できた。

Description

本願発明は、重篤な肝疾患病態である肝硬変において、肝細胞がんへの進行を正確に把握し、その予後及び治療後の再発を評価するための方法及びキットに関する。より詳しくは、肝硬変(F4)における肝細胞がんの発生と相関性の高い肝細胞がん糖鎖バイオマーカーを利用して肝硬変又は肝細胞がんの重篤度を「肝細胞がんリスク判定指数」及び/又は「肝硬変予後判定指数」として定量化し、肝硬変における肝細胞がん発生リスクの判定、及び治療後の予後(生存率)を正確に判定するための方法及びキットを提供する。
肝臓がんは、肝臓で発生する原発性肝がんと、転移性肝がんに大きく分けることができ、原発性肝がんの90%が肝細胞がん(Hepatocellular carcinoma:HCC)であるといわれている。
肝細胞がん患者は、基礎疾患として、C型肝炎ウイルス、又はB型肝炎ウイルスに感染している場合が多く、ウイルス性肝炎に罹患した後、急性ウイルス性肝炎から、慢性ウイルス性肝炎、肝硬変へと徐々に病態の進行に伴って肝機能が低下し、肝炎病態の進行・持続とともに肝臓の線維化が進み、やがて肝硬変に至る。発がん率も病態の進行に伴い上昇し、慢性肝炎軽度(F1)又は中度(F2)では年率0.8〜0.9%程度であるが、慢性肝炎重度(F3)になると年率3.5%になり、肝硬変(F4)からがんとなる確率は、年率7%にも上昇する。あるいは重篤な場合には肝不全を起こし、死に至ることもある。
肝細胞がんの治療においても、早期のがん発見が治療、術後予後に大きく影響しているため重要であり、肝硬変患者の場合は、3ヶ月に1度程度の肝がん検出の検査を受ける必要がある。この検査をより簡便化するために、血液検査で正確にかつ簡便に発がんの有無が判定できる方法の提供が求められていた。
現在、血清中の肝がんマーカーとしては、AFP(α−フェトプロテイン)(特許文献1)及びPIVKA-II(protein induced by Vitamin K absence or antagonist-II)(特許文献2)などが用いられることがあるが、いずれも特異性、感度とも十分ではなく正確な判定には至っていない。そのため、肝細胞がん早期発見のための検診では、超音波検査、コンピューター断層撮影(CT)、核磁気共鳴画像法(MRI)など画像検査が主であり、肝がんマーカーの使用はあくまで補助的な役割に過ぎない。
本発明者らは、以前から血液など体液の検査でがん化を検出できるような肝疾患病態を区別できる糖鎖マーカー及び肝細胞がんマーカーの提供を目指し、血清中に存在する各種糖タンパク質上の糖鎖構造の変化に着目した研究開発を行ってきた。そして、肝炎患者血清において、従来から肝細胞がんマーカーとして用いられていたCSF1R(非特許文献1など)のタンパク質量はF1からF4とステージが進むにつれ徐々に高くなるが、CSF1R糖タンパク質上の糖鎖構造に着目するとWFAレクチン結合性糖鎖が、F1〜F3ステージではほとんど発現せずF4ステージの肝硬変患者で有意に増大することを見いだした(特許文献3,非特許文献2)。データの一部に肝細胞がんの発生を反映している可能性が示唆された(特許文献3)が、肝硬変患者群では肝がんを患っているか否かでの有意差が見いだせなかった(非特許文献2)。すなわち、血清中のCSF1R上のWFA結合性糖鎖量は、肝臓の病態の重篤度の判別及び肝硬変の検出にはきわめて有効なマーカーとなることが示されたのに対し、期待されていた肝細胞がんの検出についての有効性は実証できなかった。
このように、血清中のCSF1R糖タンパク質量自体がF1からF4へとステージが進展するに従って高くなるため、肝臓の線維化度を示す指標となる可能性があり、血清中のCSF1R上のWFA結合性糖鎖量の数値の増大は、肝硬変発生の検出には有効な指標となるとしても、いずれも正確に肝細胞がん発生を予測しているとはいえない。特に肝硬変患者に対しての早期の肝細胞がんの予測に適用することは困難であった。
したがって、血液試料から測定される数値のみで正確に肝硬変患者にも適用可能な肝細胞がん発生の予測のための技術開発は急務であった。
また、肝疾患の病態が進行して肝硬変(F4)までに線維化が進んだ場合、病変部の切除を行う肝切除治療が一般的であるが、肝切除治療による5年生存率は、F1であれば80%のところ、肝硬変の場合は38%に過ぎない。このことから、肝硬変患者のフォローアップのためには、肝硬変患者の予後を早い段階でできるだけ正確に判定し術後方針を決定する必要がある。現在、血清中のアルブミン値が3.5以上であれば肝臓全体の機能低下がみられないと判定して、予後を予測しているが、この数値は必ずしも肝硬変患者、または肝疾患の病態が高いステージにある(F4)患者の予後を正確に反映するものではなく、最終的には術者(医師)の経験と勘に任されている状況であった。
したがって、肝硬変患者の予後判定のより正確な指標となる糖鎖マーカーや数値など、有効な予後診断につながる判定方法に対しても強い要望があった。
特開平10−26622号 特開平8−184594号 国際公開2011−007764(WO2011/007764) 国際公開2014−098112(WO2014/098112)
Kaji H et al., J Proteome Res. 2013 Jun 7; 12(6):2630-40. Makoto Ocho et al., Journal of Proteome research, 2014, 13, 1428-1437
本発明の課題は、肝硬変患者に対しても、体液(血液)検査で正確かつ簡便にがん化の可能性を予測可能な肝細胞がんリスク判定方法を提供するものであり、また、肝硬変患者の予後を正確かつ簡便に判定するための肝硬変予後判定方法を提供するものである。具体的には、肝硬変患者の体液例えば血清中のCSF1R上の糖鎖構造の変化のうち、肝細胞がんの発生及び/又は肝硬変の予後を直接的に反映するWFA結合性糖鎖への変化の割合を正確に定量化する方法を提供しようとするものである。
上述のように、本発明者らは、体液(血清)中のWFA結合性糖鎖含有CSF1R量の増大が、肝臓の病態の重篤化と高い関連性を有することを見いだしており、さらに肝細胞がんの発生を反映している可能性も想定していた(特許文献3)ので、まずは、抗CSF1R抗体及びWFAレクチンを用いたアッセイ系を構築し、この測定系を用いて、肝炎患者由来および肝がん患者由来の体液(血清)試料のWFA結合性糖鎖含有CSF1R量を測定し、肝細胞がんに罹患しているか否かでWFA結合性糖鎖含有CSF1R量に差異が出るかどうかを検討した。その結果、肝炎患者全体では有意差をもって肝細胞がんの検出に有効であることがわかった。しかし、WFA結合性糖鎖含有CSF1R量の増大は肝炎病態の重篤度、線維化度との関連性も高いことから、本来肝細胞がんリスクが高いために正確な診断が必要なはずの肝硬変患者など重篤患者において、肝細胞がんの発生の正確な予測判定ができないという不備があった。
そこで、本発明者らは、肝硬変には罹患しているが肝細胞がんに罹患していない患者群(LC patients without HCC)に着目し、これら患者をフォローアップすると共に、その後の肝細胞がんの発生率と相関のあるマーカー及び計算式を詳細に検討した。
その結果、体液(血清)中の全CSF1Rに対するWFA結合性糖鎖含有CSF1Rの割合(WFA+-CSF1R%)、同様にCSF1R特異的レクチン結合性糖鎖含有CSF1Rに対するWFA結合性糖鎖含有CSF1Rの割合が、肝硬変患者において、肝細胞がんの発生と高い相関関係にあることを見いだした。なお、ここで、「CSF1R特異的レクチン」とは、健常人と患者の血清など体液中のCSF1R上の糖鎖への反応性において差が無いものをいう。「CSF1R含有糖鎖特異的レクチン」「CSF1R特異的共通糖鎖結合性レクチン」「全CSF1R共通糖鎖結合性レクチン」「CSF1R恒常的糖鎖構造結合性レクチン」ともいう。つまり体液中の全CSF1Rタンパク質上の糖鎖に反応するレクチンを意味するから、体液中の全CSF1R量に対するWFA結合性糖鎖含有CSF1R量を測定する代わりに「CSF1R特異的レクチン結合性糖鎖量」に対する「WFA結合性糖鎖量」の割合と言い換えることもできる。各レクチン結合性糖鎖量は、各レクチンへの反応性の強さに比例するから、結局、肝硬変患者における肝細胞がんの発生率は、被検体液試料中の2種類のレクチンに対する反応性の比率のみで測定することができることを意味する。CSF1R特異的レクチンとしては、典型的には、非特許文献1,Fig3Bに示されたRCA120, DSA, PHA-E4, SNA, SSA, TJA-I, LEL, STL, ConA等のレクチンが相当する。後者は、実質的に前者と同様に体液中の全CSF1Rに対するWFA結合性糖鎖含有CSF1Rの割合を示すものなので、両者を併せて「肝細胞がんリスク判定指数(WFA+-CSF1R%)」と命名した。具体的には、「WFA結合性糖鎖含有CSF1R量/全CSF1R量×100」値又は「WFA結合性糖鎖含有CSF1R量/CSF1R特異的レクチン結合性糖鎖含有CSF1R量×100」値、もしくは「CSF1R分子上のWFA結合性糖鎖量/CSF1R特異的レクチン結合性糖鎖量×100」値である。これらの値と肝硬変患者の肝細胞がんの発がん率をログランク検定で決定した最小P値法により、最適カットオフ値を求めると35%となった。そこで、肝細胞がんを発症していない肝硬変患者を、35%以上の高値群と35%未満の低値群とに分けてカプラン・マイヤー解析を行うと、5年の累積発がん率はWFA+-CSF1R%高値群で有意に高い(P = 0.006又は0.005)という結果を得た。このことは、「WFA+-CSF1R%」の値が、肝硬変患者にとってきわめて有効な「肝細胞がんリスク判定指数」となることを示すものである。
一方、肝硬変患者の治療後の生存率を検討する中で、WFA結合性糖鎖含有CSF1R量(WFA+-CSF1R値)の数値がそのままで肝硬変患者生存率と高い相関関係にあることを見いだした。具体的には、最小P値法でWFA+-CSF1Rの最適カットオフ値310ng/mlを導き出し、時間依存的ROC曲線で生存率を検討したところ、WFA+-CSF1R値310ng/ml以上でHRが3.63(95%CI1.25-10.54,p=0.011)であり、肝硬変患者の累積生存率をカプラン・マイヤー解析で検討すると、WFA+-CSF1R値高値群は低値群に比較して有意に生存率が低かった。このことは、WFA+-CSF1R値が肝硬変患者の予後を予測する有効な指標となること、すなわち「肝硬変の予後判定指数」となることを示している。
さらに、本発明者らは、CSF1R上のWFAレクチン認識糖鎖量及び全CSF1R量の測定値の精度・安定性をあげるため、肝細胞がん発生特異的に増大するCSF1R上のWFAレクチン認識糖鎖構造の解明及び高活性の抗CSF1R検出用抗体の製造を試みた。
まず、CSF1R遺伝子クローニングして組換えCSF1Rを製造し、CSF1R上の糖鎖結合位置及びそれぞれの糖鎖構造を解明し、CSF1R上のWFAレクチン認識糖鎖構造の特定を行った。
本発明者らは、以前に組換えWFA遺伝子をクローニングし、C末端側のS-S結合形成を阻止する改変を行って単量体化した組換えWFA(以下、srWFAともいう。)を製造しており、当該srWFAが、LDN糖鎖(非還元末端に「GalNAcβ1-4GlcNAcβ1-R」を有する糖鎖)に特異的に結合することを見いだしていた(特許文献4)。血清試料の抗CSF1R抗体免疫沈降物に当該単鎖組換えWFA(srWFA)を反応させた結果、CSF1R上のWFAレクチン認識糖鎖構造が、srWFAが特異的に認識するLDN糖鎖である可能性が示唆され、LDN欠損株を用いた実験でLDN糖鎖であることがほぼ実証された。
さらに、組換えCSF1RにGlyco-Ridge法(糖ペプチド・糖鎖構造解析法)を適用して、糖鎖の結合位置を決定した結果、CSF1Rの第1ドメイン(1-87aa)の73位及び第2ドメイン(88-209aa)の153位の少なくとも2箇所に結合していることが解明できた。そして、同時に、市販の組換えCSF1R(Fc融合型(NS0);R&D Systems社)上の糖鎖構造を調べてみると、市販の組換えCSF1R(NS0)の場合は、いずれのLDN糖鎖も失われていることが解明された。
本発明者らの開発したsrWFAレクチンを天然WFAに代えて用いたWFAレクチン−抗CSF1R 抗体ELISAアッセイ系を構築して、天然型WFAレクチンを用いた場合と比較すると感度の良い結果を与えた。また、LDN糖鎖の還元末端側GalNAcを認識するVVAレクチンも、WFAレクチンと同様の結合活性を有することを確認した。つまり、「WFA+-CSF1R量」は、「WFA及び/又はVVA(以下、WFA/VVAと表記することもある。)結合性糖鎖含有CSF1R量」ともいうこともでき、「LDN糖鎖含有CSF1R量」といえる可能性が極めて高い。
次いで、CSF1Rを免疫原として、常法に従い抗CSF1Rモノクローナル抗体を多数作製した。これらの抗CSF1Rモノクローナル抗体のうち、CSF1Rへの親和性の高い33クローンを選択し、直接的ELISAによるCSF1R 結合活性と共に、天然WFAレクチン又は単量体組換えWFA(srWFA)レクチンとのサンドイッチアッセイ系でのCSF1R上のLDN糖鎖の検出性能を検証し、特に検出性能の高い複数の抗CSF1Rモノクローナル抗体をさらに選択した。なお、これら33クローンの抗体産生ハイブリドーマを、それぞれハイブリドーマCSR-1〜CSR-33と呼び、各ハイブリドーマが産生するモノクローナル抗体を、それぞれCSR-1〜CSR-33抗体と呼ぶ。
そして、CSF1R上のLDN糖鎖の検出性能の高い抗体の認識ドメインの多くは第2ドメイン又は第3ドメインに集中していることもわかった。また、レクチン−抗体サンドイッチアッセイ系での検出能については、認識ドメインの位置にかかわらず、(表5)中でWFA-CSF1R抗体サンドイッチELISA系で検出可能なものとして示された抗体、具体的には、CSR-3、CSR-4、CSR-18、CSR-21、CSR-30、CSR-5、CSR-6、CSR-22、CSR-24、CSR-7、CSR-9、CSR-13、CSR-26、CSR-27、CSR-29抗体が優れており、特にCSR-3、CSR-4、CSR-18、CSR-21、CSR-30抗体の検出能が高かった。なお、典型的な抗CSF1Rモノクローナル抗体産生ハイブリドーマについては、すでにNPMDに寄託している(ハイブリドーマCSR-3、CSR-4、CSR-18、CSR-21及びCSR-30を、それぞれ受領番号:NITE AP-02117〜NITE AP-02121として寄託。その後受託番号:NITE P-02117〜NITE P-02121が付与され、2016年9月7日付で国際寄託に移管されて、それぞれNITE BP-02117〜NITE BP-02121が付与された。)。
これらの抗CSF1Rモノクローナル抗体を、CSF1R分子検出用アッセイ系に、及び/又は天然WFAレクチン、リコンビナントWFA、単量体リコンビナントレクチン(srWFA)もしくはVVAレクチンと共にサンドイッチELISAアッセイ系に用いることで、被験者の体液(血清)中のCSF1R量並びにWFA及び/又はVVA(WFA/VVA)結合性糖鎖含有CSF1R量をより正確に測定できることが示唆される。実際に、CSR-3、CSR-4、CSR-18、CSR-21、CSR-30 、CSR-5及びCSR-6抗体では肝硬変を背景とする肝細胞がん患者の体液(血清)試料でも健常人と比較してCSF1Rシグナルの増強が検出できることを確認している。すなわち、WFA/VVA結合性糖鎖結合性レクチンと共にCSR-3もしくはCSR-4、CSR-18、CSR-21、CSR-30抗体などと組み合わせたサンドイッチELISAアッセイ系を用いることで、正確なWFA+-CSF1Rの数値が測定できた。このことは、本発明の肝硬変患者の肝細胞がん発生のリスク予測及び予後の予測が精度良く行うことができるだけでなく、広く肝疾患患者又はその疑いのある患者に対し、肝疾患の有無又は重篤度(線維化度)の判定用に用いることもできることを意味する。
以上の知見が得られたことで、本願発明が完成した。
すなわち、本願発明は、以下の通りである。
〔1〕 肝硬変患者における肝細胞がんの発症リスク値の算出方法であって、(1)〜(4)の工程を含む算出方法;
(1)肝硬変患者の被験者から採取された一定容量の体液試料(以下、単に被検試料ともいう。)中の全CSF1R量(A)を測定する工程、
(2)被検試料中のWFA/VVA結合性糖鎖含有CSF1R量(B)を測定する工程、及び
(3)全CSF1Rに占めるWFA/VVA結合性糖鎖を含有するCSF1R量の比率(C)を、「C(%)=(B)/(A)×100」として算出する工程、
(4)工程(3)で得られたC%の値を被験者の肝細胞がんの発症リスク値と決定する工程。
ここで、肝細胞がん発がんリスク指数値(C%)は(WFA+-CSF1R%)と表記されることもある。
〔2〕 (1)の全CSF1R量を測定する工程が、少なくとも2種類の抗CSF1R抗体を用いるサンドイッチアッセイ系により測定するか、又は被検試料から抗CSF1R抗体を用いてCSF1Rを精製し、精製CSF1R量を測定することを特徴とする、前記〔1〕に記載の方法。
〔3〕 (1)の被検試料中の全CSF1R量(A)を測定する工程が、被検試料中のCSF1R特異的レクチン結合性糖鎖含有CSF1R量を測定するものであり、少なくともCSF1R特異的レクチンと、抗CSF1R抗体とを含むサンドイッチアッセイ系により測定するか、又は被検試料から抗CSF1R抗体を用いてCSF1Rを精製し、CSF1R特異的レクチンと結合する精製CSF1R量を測定することを特徴とする、前記〔1〕に記載の方法。
〔4〕 CSF1R特異的レクチンが、RCA120, DSA, PHA-E4、SNA、SSA、TJA-I、LEL、STL及びConAからなる群から選択される少なくとも1つのレクチンである、前記〔3〕に記載の方法。
〔5〕 (2)のWFA/VVA結合性糖鎖含有CSF1R量(B)を測定する工程が、少なくともWFA/VVA結合性糖鎖特異的レクチンと、抗CSF1R抗体とを含むサンドイッチアッセイ系により測定するか、又は被検試料から抗CSF1R抗体を用いてCSF1Rを精製し、WFA/VVAレクチンと結合する精製CSF1R量を測定することを特徴とする、前記〔1〕〜〔4〕のいずれか一項に記載の方法。
〔6〕 WFA/VVAレクチンが、天然WFA、リコンビナントWFA、単量体リコンビナントWFA、及びVVAのいずれかのレクチンから選択される少なくとも1つのレクチンである、前記〔5〕に記載の方法。
〔7〕 工程(1)及び工程(2)が、少なくともCSF1R特異的レクチン及びWFA/VVAレクチンと抗CSF1R抗体とを用いて同時に行われる工程であって、両レクチン及び抗CSF1R抗体とを含む同一のサンドイッチアッセイ系を用いて測定するか、又は被検試料から抗CSF1R抗体を用いてCSF1Rを精製した後、各レクチンと結合するCSF1R量を同一のアッセイ系で測定することを特徴とする、前記〔3〕〜〔6〕のいずれかに記載の方法。
〔8〕 肝硬変患者における肝細胞がんの発症リスク値を判定する方法であって、(1)〜(3)の工程を含む方法;
(1)肝硬変患者である被験者の肝細胞がんの発症リスク値(C%)を前記〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載の方法に従い算出する工程、
(2)あらかじめ十分な母数の肝細胞がん未罹患肝硬変患者から採取された各体液試料に対し、工程(1)と同じ算出工程により、各々の全CSF1Rに占めるWFA/VVA結合性糖鎖を含有するCSF1R量の比率(Cn)と、各々の患者をフォローアップして得た肝細胞がん発症率データと対比させて肝細胞がん発症の最適カットオフ値(M%)を算出する工程、
(3)工程(1)で算出された肝細胞がんの発症リスク値(C%)を(2)で算出された最適カットオフ値(M%)と比較して上回っている場合に被験者の肝細胞がん発症リスクが有意に高いと判定し、最適カットオフ値未満であれば発症リスクが有意に低いと判定する方法。
ここで、最適カットオフ値は、あらかじめ十分な母数の肝細胞がん未罹患肝硬変患者をフォローアップして得た発がん率データに基づいて算出された値であり、例えば、発がん率データに対し、ログランク検定で決定した最小P値法を適用し、上下10%を除外することで求めることができる。なお、十分な母数とは、10〜6000例、10〜5000例、10〜4000例、10〜3000例、10〜1000例、好ましくは30〜3000例、30〜2000例、30〜1000例、より好ましくは40〜2000例、40〜1000例、50〜2000例、50〜1000例、さらに好ましくは50〜500例、100〜500例を指す。
また、本判定方法は、肝硬変患者における肝細胞がんの発症リスクを予測するための肝細胞がん発症リスク指数(C%)の測定方法、又は肝細胞がんの発症リスクを診断するための資料(情報)を提供する方法などと表現することもできる。
〔9〕 前記最適カットオフ値が35.0±10.0%の値である前記〔8〕に記載の方法。
〔10〕 肝硬変患者における予後判定指数値の算出方法であって、(1)及び(2)の工程を含む方法;
(1)肝硬変患者である被験者から採取された一定容量の体液試料(被検試料)中のWFA/VVA結合性糖鎖を含有するCSF1R量(B)を測定する工程、
(2)工程(1)で得られたBng/mlの値を、被験者の予後判定指数値と決定する工程。
ここで、予後判定指数値(Bng/ml)は、(WFA+-CSF1R ng/ml)と表記されることもある。
〔11〕 (1)のWFA/VVA結合性糖鎖含有CSF1R量(B)を測定する工程が、少なくともWFA/VVAレクチンと、抗CSF1R抗体とを含むサンドイッチアッセイ系により測定するか、又は被検試料から抗CSF1R抗体を用いてCSF1Rを精製し、WFA/VVAレクチンと結合する精製CSF1R量を測定することを特徴とする、前記〔10〕に記載の方法。
〔12〕 WFA/VVAレクチンが、天然WFA、リコンビナントWFA、単量体リコンビナントWFA、及びVVAのいずれかのレクチンから選択される少なくとも1つのレクチンである、前記〔11〕に記載の方法。
〔13〕 肝硬変患者における予後を判定する方法であって、(1)〜(3)の工程を含む方法;
(1)肝硬変患者である被験者の予後判定指数値(Bng/ml)を前記〔10〕〜〔12〕のいずれかに記載の方法に従い算出する工程、
(2)あらかじめ十分な母数の肝細胞がん未罹患肝硬変患者から採取された各体液試料に対し、工程(1)と同じ算出工程により、各々のWFA/VVA結合性糖鎖を含有するCSF1R量(Bn)と、各々の患者をフォローアップして得た累積生存率データと対比させて肝細胞がん患者予後の最適カットオフ値(Nng/ml)を算出する工程、
(3)工程(1)で算出された予後判定指数値(Bng/ml)を(2)で算出された最適カットオフ値(Nng/ml)と比較して上回っている場合に被験者の被験者の予後が有意に悪いと判定し、最適カットオフ値未満であれば被験者の予後が有意に良いと判定する方法。
ここで、最適カットオフ値は、あらかじめ十分な母数の肝細胞がん未罹患肝硬変患者をフォローアップして得た累積生存率に基づいて算出された値であって、例えば、5年累積生存率データに対し、ログランク検定で決定した最小P値法を適用し、上下10%を除外することで求めることができる。なお、十分な母数とは、10〜6000例、10〜5000例、10〜4000例、10〜3000例、10〜1000例、好ましくは30〜3000例、30〜2000例、30〜1000例、より好ましくは40〜2000例、40〜1000例、50〜2000例、50〜1000例、さらに好ましくは50〜500例、100〜500例を指す。また、予後判定指数値(Bng/ml、WFA+-CSF1R ng/ml)の値は、COIとして算出して判定に利用することも出来る。
また、本判定方法は、肝硬変患者の予後を予測するための予後判定指数(Bng/ml)の測定方法、又は肝硬変患者の予後を診断するための資料を提供する方法と表現することもできる。
〔14〕 前記最適カットオフ値が310±100ng/mlの値である前記〔13〕に記載の方法。
〔15〕 WFA/VVA結合性糖鎖含有CSF1Rを検出又は定量するためのレクチン−抗体サンドイッチアッセイであって、
WFA/VVAレクチンと、
CSR-3、CSR-4、CSR-18、CSR-21、CSR-30、CSR-5、CSR-6、CSR-22、CSR-24、CSR-7、CSR-9、CSR-13、CSR-26、CSR-27、及びCSR-29抗体からなる群から選択される少なくとも1つの抗CSF1R抗体とを用い、(1)〜(3)の工程を含むアッセイ;
(1)液相中で前記レクチン又は前記抗CSF1R抗体のいずれかと被検試料を接触させ、被検試料中のCSF1Rとの複合体を形成させる工程、
(2)(1)で得られたレクチン又は抗体とのCSF1R複合体を、分離し、又は分離せずに他方が溶解もしくは分散されている検出用液相中で、他方とCSF1R複合体を結合させ、レクチン及び抗体でサンドイッチされたCSF1R複合体を得る工程、
(3)(2)で得られたレクチン及び抗体サンドイッチCSF1R複合体量を検出又は定量する工程。
ここで、典型的なサンドイッチアッセイは、固相-液相サンドイッチアッセイ、特にサンドイッチELISAであるが、サンドイッチELISAには限られないことはもちろん、固相-液相ではなく液相-液相であってもよい。固相-液相サンドイッチアッセイの場合は、レクチン又は抗体のいずれかが捕捉側に設けられ、他方が検出用液相側に溶解もしくは分散されている。また、サンドイッチELISAの場合は、「捕捉側」は「固相面」となる。
〔16〕 WFA/VVAレクチンが、天然WFA、リコンビナントWFA、単量体リコンビナントWFA、及びVVAからなる群から選択される少なくとも1つのレクチンである、前記〔15〕に記載のアッセイ。
〔17〕 WFA/VVA結合性糖鎖含有CSF1Rを検出又は定量するためのレクチン−抗体サンドイッチアッセイ用キットであって、(1)及び(2)を含む、キット;
(1)WFA/VVAレクチン、
(2)CSR-3、CSR-4、CSR-18、CSR-21、CSR-30、CSR-5、CSR-6、CSR-22、CSR-24、CSR-7、CSR-9、CSR-13、CSR-26、CSR-27、及びCSR-29抗体からなる群から選択される少なくとも1つの抗CSF1R抗体。
〔18〕 さらに、以下の(3)を含む、前記〔17〕に記載のキット;
(3)WFA/VVA結合性糖鎖含有CSF1R及び/又はWFA/VVA結合性糖鎖非含有CSF1Rからなる標準物質。
〔19〕 WFA/VVAレクチンが、天然WFA、リコンビナントWFA、単量体リコンビナントWFA、及びVVAからなる群から選択される少なくとも1つのレクチンである、前記〔18〕又は〔19〕に記載のキット。
〔20〕 レクチン−抗体サンドイッチアッセイが、被験者由来の体液試料に適用し、体液試料中のWFA/VVA結合性糖鎖含有CSF1Rを検出又は定量するためのアッセイである、前記〔17〕〜〔19〕のいずれかに記載のキット。
〔21〕 CSR-3(国際受託番号:NITE BP-02117)、CSR-4(国際受託番号:NITE BP-02118)CSR-18(国際受託番号:NITE BP-02119)、CSR-21(国際受託番号:NITE BP-02120)、CSR-30(国際受託番号:NITE BP-02121)からなる群から選択されるいずれか1つのハイブリドーマから産生される抗CSF1R抗体又はその抗体結合性フラグメント。
〔22〕 肝硬変患者である被験者の肝細胞がん発症リスク値及び/又は予後判定値を算出するためのキットであって、(1)及び(2)のレクチンを含むことを特徴とするキット;
(1)WFA/VVAレクチン、
(2)CSF1R特異的レクチン。
なお、当該キットには、さらにWFA/VVA結合性糖鎖含有CSF1R及び/又はWFA/VVA結合性糖鎖非含有CSF1Rからなる標準物質を含んでもよい。
〔23〕 さらに、(3)を含むことを特徴とする前記〔22〕に記載のキット;
(3)抗CSF1R抗体又はその抗体結合性フラグメント。
〔24〕 (1)のWFA/VVAレクチンが、天然WFA、リコンビナントWFA、単量体リコンビナントWFA、及びVVAからなる群から選択される少なくとも1つのレクチンであり、
(2)のCSF1R特異的レクチンが、RCA120, DSA, PHA-E4、SNA、SSA、TJA-I、LEL、STL及びConAからなる群から選択される少なくとも1つのレクチンである、前記〔22〕又は〔23〕に記載のキット。
〔25〕 (1)又は(2)のレクチンのいずれか一方がWFA/VVA結合性糖鎖含有CSF1Rの捕捉用に設けられた固相に結合されており、かつ他方が検出用の液相に溶解又は分散されている、前記〔22〕〜〔24〕のいずれかに記載のキット。
〔26〕 (1)及び(2)のレクチンの両方が同一もしくは異なるレクチンアレイ上に結合している、前記〔22〕〜〔24〕のいずれかに記載のキット。
〔27〕 肝硬変患者である被験者の肝細胞がん発がんリスク及び/又は予後を判定するためのキットであって、(1)〜(3)を含むことを特徴とする判定用キット;
(1)WFA/VVAレクチン、
(2)CSF1R特異的レクチン。
(3)抗CSF1R抗体又はその抗体結合性フラグメント。
なお、当該キットには、さらにWFA/VVA結合性糖鎖含有CSF1R及び/又はWFA/VVA結合性糖鎖非含有CSF1Rからなる標準物質を含んでもよい。
〔28〕 (1)のWFA/VVAレクチンが、天然WFA、リコンビナントWFA、単量体リコンビナントWFA、及びVVAからなる群から選択される少なくとも1つのレクチンであり、
(2)のCSF1R特異的レクチンが、RCA120, DSA, PHA-E4、SNA、SSA、TJA-I、LEL、STL及びConAからなる群から選択される少なくとも1つのレクチンであり,及び
(3)の抗CSF1R抗体が、CSR-3、CSR-4、CSR-18、CSR-21、CSR-30、CSR-5、CSR-6、CSR-22、CSR-24、CSR-7、CSR-9、CSR-13、CSR-26、CSR-27、及びCSR-29抗体からなる群から選択される少なくとも1つの抗CSF1R抗体である、請求項27に記載の判定用キット。
〔29〕 肝硬変患者である被験者の肝細胞がん発症リスク及び/又は予後を判定するための方法であって、(1)及び(2)の工程を含むことを特徴とする方法;
(1)被験者由来の体液試料から抗CSF1R抗体を用いてCSF1Rタンパク質を分離精製する工程、
(2)(1)で分離精製されたCSF1R上のWFA/VVA結合性糖鎖含有量及びCSF1R特異的糖鎖含有量を、測定する工程。
〔30〕 肝硬変患者である被験者の肝細胞がん発症リスク及び/又は予後を判定するための方法であって、(1)及び(2)の工程を含むことを特徴とする方法;
(1)被験者由来の体液試料から天然WFA、リコンビナントWFA、単量体リコンビナントWFA、及びVVAからなる群から選択される少なくとも1つのレクチンを用いてWFA/VVA結合性糖鎖を含有する糖タンパク質を分離する工程、
(2)(1)で分離精製されたWFA/VVA結合性糖鎖を含有する糖タンパク質から抗CSF1R抗体を用いてCSF1Rタンパク質を検出又は定量する工程、
ここで、抗CSF1R抗体は、CSR-3、CSR-4、CSR-18、CSR-21、CSR-30、CSR-5、CSR-6、CSR-22、CSR-24、CSR-7、CSR-9、CSR-13、CSR-26、CSR-27、及びCSR-29抗体からなる群から選択される少なくとも1つの抗CSF1R抗体である。
〔31〕 肝硬変患者である被験者の肝細胞がん発症リスク及び/又は予後を判定するための方法であって、被験者由来の体液試料に対し、(1)及び(2)を用いたレクチン−抗体サンドイッチアッセイを行う工程を含むことを特徴とする方法;
(1)WFA/VVAレクチン、
(2)CSR-3、CSR-4、CSR-18、CSR-21、CSR-30、CSR-5、CSR-6、CSR-22、CSR-24、CSR-7、CSR-9、CSR-13、CSR-26、CSR-27、及びCSR-29抗体からなる群から選択される少なくとも1つの抗CSF1R抗体。
〔32〕 肝細胞がん未罹患肝硬変患者における肝細胞がん発症リスクを判定するための方法であって、(1)及び(2)の工程を含むことを特徴とする方法;
(1)肝細胞がん未罹患肝硬変患者である被験者から採取された体液試料中のWFA/VVA結合性糖鎖を含有するCSF1R量、及び全CSF1R量を測定する工程、
(2)(1)で得られた測定値をもとに、全CSF1Rに占めるWFA/VVA結合性糖鎖を有するCSF1R量の比率を算出する工程、
(3)あらかじめ十分な母数の肝細胞がん未罹患肝硬変患者から採取された体液試料に対し、前記(1)及び(2)と同じ工程により、全CSF1Rに占めるWFA/VVA結合性糖鎖を有するCSF1R量の比率を全患者についてそれぞれ算出する工程、
(4)(3)で用いた全患者をフォローアップして得た発がん率データに基づいて最適カットオフ値を算出する工程、
(5)(2)で算出された被験者の比率の値を(4)で算出された最適カットオフ値と比較して上回っている場合に肝細胞がん発症リスクが高いと判定する方法。
本発明においては、肝硬変患者の肝細胞がん発生リスクと極めて相関性の高い「肝細胞がんリスク判定指数(WFA+-CSF1R%)」を提供できたことで、当該判定指数に応じた発がんリスク割合を示すことができた。すなわち、血液試料による肝硬変患者の肝細胞がん発生のリスク判定方法を提供できた。当該方法を用いることで、肝硬変患者など重篤な肝疾患患者に対しても、簡便な血液検査によってほぼ正確に発がんリスクが把握できるから、負担の大きな侵襲性の煩雑な検査が不要又は回数を減らすことが可能となった。
また、本発明は、WFA結合性糖鎖含有CSF1R量(WFA+-CSF1R値)が、肝硬変の予後と極めて相関の高い「肝硬変の予後判定指数」となることを初めて見いだしたものであり、当該数値範囲に応じた生存率を示すことができた。すなわち、血液試料による肝硬変患者の予後の正確な判定方法を提供することができた。
同時に、本発明のCSF1R上のWFA結合性糖鎖検出用レクチンとして、単量体リコンビナントWFAレクチン試薬と共に、VVAレクチン試薬が有効であることを見いだした。あわせてWFA及び/又はVVA(WFA/VVA)結合性糖鎖を含有するCSF1R検出用の抗体として高い結合活性を有する複数の抗CSF1Rモノクローナル抗体を提供できた。これら抗体をキットとして組み合わせることで、より正確な「肝細胞がん発症リスク判定指数」または「肝硬変の予後判定指数」を算出することが可能となり、肝硬変患者における肝細胞がん発症リスク判定の精度及び肝硬変の予後判定の精度を高めることができる。
免疫組織化学染色解析:肝細胞がん組織でCSF1RおよびWFAエピトープの発現 免疫組織化学染色解析:HCC組織アレイを用いた組織化学染色解析(抗CSF1R抗体とWFA) 分析プロセスフローチャート 本コホートに参加した214名のHCV由来肝炎患者の内訳を示す。本実施例では、肝細胞がんを発症していない肝硬変患者(非HCC-LC患者、56名)を選択し、さらにバリデーションコホートとして別の無作為に選ばれた45名の非HCC-LC患者群をあわせて評価した。 ログランク検定で求められた最小P値法による累積発がん率予測のためのWFA+-CSF1R%の最適カットオフ値。 (a)WFA+-CSF1R値とWFA+-CSF1R(%)値との相関の二次元scatter plot(散布図)を、101名の肝細胞がん未罹患LC患者由来血清試料に対して実施した。WFA+-CSF1R値とWFA+-CSF1R(%)値との相関は、回帰曲線でY=7.9663X+18.735、R2=0.6488で表される。好ましい相関を示しているものの、大きく逸脱するケースがいくつか見られた。(b)WFA+-CSF1R(%)値と発がん日数についての相関;41名の肝細胞がん未罹患LC患者ログランクに関し、WFA+-CSF1R(%)値と発がんまでの日数の相関は、回帰曲線でY=-0.8618X+59.681、R2=0.1448で表される。 肝細胞がん未罹患の慢性肝炎患者におけるWFA+-CSF1R(%)値は、F1〜F3の肝線維化レベルにかかわらず統計学的に有意な差はなく、肝硬変患者でのWFA+-CSF1R(%)値は慢性肝炎患者と有意な差があった。さらに、肝細胞がんを発症しなかった肝硬変患者と発症した肝硬変患者のWFA+-CSF1R(%)値にも有意な差があった。 非HCC-LC患者におけるWFA+-CSF1R%値による発がん率(a)トレーニングセットでは、高WFA+-CSF1R%値患者のHCC発がん率は低値患者より高かった(P=0.006)。5年累積発がん率は高WFA+-CSF1R%値LC患者で75%、低WFA+-CSF1R%値LC患者の35%であった(p = 0.006)(b)バリデーションセットでは高WFA+-CSF1R%値患者のHCC発がん率は低値患者より高かった(P=0.005)。累積発がん率は高WFA+-CSF1R%値患者で70%、低WFA+-CSF1R%値患者の42%であった。 ログランク検定で求められた最小P値法による予測生存率の値をWFA+-CSF1R%の最適カットオフ値から310ng/mlに決定した。 非HCC-LC患者におけるWFA+-CSF1R値による生存率のカプラン・マイヤー分析(a)トレーニングセットでは、高WFA+-CSF1R値LC患者( 310 ng/ml、8名)の1、3、5年生存率はそれぞれ88%、60%、45%、であり、低WFA+-CSF1R値の患者(< 310 ng/ml、48名)で94%、89%、74%であった(p = 0.010)。(b)バリデーションセットでは高WFA+-CSF1R値LC患者( 310 ng/ml、10名)の1、3、5年生存率はそれぞれ100%、71%、43%、低WFA+-CSF1R値の患者(< 310 ng/ml、35名)100%、100%、100%(p < 0.003)であった。 CSF1Rの糖鎖プロファイリング;各種のレクチンを含むマイクロアレイ上に本発明者らが合成した標準CSF1R(rCSF1R)(LDN+およびLDN-)をそれぞれアプライし,抗CSF1R抗体でアッセイした。LDN(+)rCSF1RはHEK293細胞、LDN(-)rCSF1Rはノックアウト細胞で発現させたrCSF1Rである。 CSF1R糖タンパク質(マウスミエローマNS0細胞由来)においてGlyco-Ridge法で確認された糖ペプチドおよび糖鎖付加位置。IGOT(131120CSF-RTL-Am+GOT-dd10-35g-01)により同定。 CSF1R糖タンパク質(標準CSF1R糖タンパク質)においてGlyco-Ridge法で確認された糖ペプチドおよび糖鎖付加位置。コアペプチド候補は予測されるトリプシン分解配列に、意図しない分解配列が含まれる場合がある。 Glyco-Ridge法による標準CSF1R糖タンパク質の糖鎖構造(主要構造)の解析結果 抗CSF1Rモノクローナル抗体(culture sup)のウェスタンブロットによる生化学的評価 各ドメインを欠損する標準CSF1R糖タンパク質分子 抗CSF1Rモノクローナル抗体のWestern Blotによる抗原認識部位の解析 抗CSF1Rモノクローナル抗体の予想される抗原認識部位 抗体-抗体ELISA測定系による総CSF1R分子(Total CSF1R)の検出 抗体-WFAレクチン サンドイッチELISA測定系によるWFA+-CSF1R分子の検出 WFAレクチン-抗体 サンドイッチELISA測定系によるWFA+-CSF1R分子の検出 抗体CSR-3を用いたWFAレクチン-抗体サンドイッチELISA測定系による、LacdiNAc糖鎖含有CSF1R糖タンパク質分子の検出(図中、LDN(+)rCSF1Rは、標準rCSF1R、LDN(-)rCSF1Rは、LDN欠損株産生rCSF1R、NS0 rCSF1Rは、市販rCSF1R(R&D社)である。) 抗体-WFAレクチン サンドイッチELISA測定系による、LacdiNAc糖鎖含有CSF1R糖タンパク質分子の検出(図中、LDN(+)rCSF1Rは標準rCSF1R、LDN(-)rCSF1RはLDN欠損株産生rCSF1R、NS0 rCSF1Rは市販rCSF1R(R&D社)、NHSは健常人血清試料である。) 抗体CSR-3を用いた抗体-WFAレクチン サンドイッチELISA測定系(上段)および抗体CSR-3を用いた抗体-抗体サンドイッチELISA測定系(下段)(図中、LDN(+)rCSF1Rは、標準rCSF1R、LDN(-)rCSF1Rは、LDN欠損株産生rCSF1R、NHSは健常人血清試料である。) 抗体CSR-3を用いた抗体-VVAレクチン サンドイッチELISA測定系(図中、LDN(+)rCSF1Rは、標準rCSF1R、LDN(-)rCSF1Rは、LDN欠損株産生rCSF1R、NHSは健常人血清試料である。) 実施例8で作製した抗CSF1R抗体(CSR-3、CSR-4、CSR-18、CSR-21及びCSR-30抗体)を用いたELISA系がHCV肝炎由来肝細胞がん患者のpool血清を、健常人のpool血清と識別できたことを示す。 他の抗CSF1R抗体(CSR-3、CSR-4、CSR-5、CSR-6、CSR-18抗体)も肝細胞がん患者血清pool血清と健常人のpool血清とを識別できることを示す。 抗体CSR-18を用いた抗体-VVAレクチン サンドイッチELISA測定系。WFAと同様に、VVAも抗CSF1R抗体と共にELISA系で肝細胞がん患者血清pool血清(K1、K2、K3)と健常人のpool血清とを識別できることを示す。 同じ濃度(の希釈系列)に調製したrCSF1R (LDN+)およびrCSF1R (LDN-)を用いて、抗CSF1R抗体-抗CSF1R抗体でのサンドイッチELISAによる全CSF1R測定を行った。それぞれバッファー系(BSA希釈液:A)あるいは血清系(10%NHS希釈液:B)での検出を行った。その結果、CSF1R (LDN+)およびrCSF1R (LDN-)のいずれも、量(反応性)はほぼ同じように検出されている。 抗体-抗体でのサンドイッチELISAによる全CSF1R測定を行った(Total)。同じ濃度(の希釈系列)に調製したrCSF1R (LDN+)およびrCSF1R (LDN-)を用いて、抗体-各共通糖鎖プローブレクチンでのサンドイッチELISAによる全CSF1R測定を行った(各レクチン名表記)。また、疾患特異的なCSF1R分子を、抗体-WFAレクチンでのサンドイッチELISAあるいは抗体-VVAレクチンでのサンドイッチELISAによって測定した(WFAあるいはVVA表記)。rCSF1R (LDN+)およびrCSF1R (LDN-)に対する、全CSF1R中のWFA陽性分子の相対比率(WFAシグナル値/共通糖鎖結合レクチンシグナル値)を算出してグラフ化した結果を示す。 抗体-抗体でのサンドイッチELISAによる全CSF1R測定を行った(Total)。また、同じ濃度(の希釈系列)に調製したrCSF1R (LDN+)およびrCSF1R (LDN-)を用いて、抗体-各共通糖鎖プローブレクチンでのサンドイッチELISAによる全CSF1R測定を行った(各レクチン名表記)。また、疾患特異的なCSF1R分子を、抗体-WFAレクチンでのサンドイッチELISAあるいは抗体-VVAレクチンでのサンドイッチELISAによって測定した(WFAあるいはVVA表記)。その後、吸光度シグナル値より相対的な濃度値として補正を行った。この補正濃度値を用いて、rCSF1R (LDN+)およびrCSF1R (LDN-)に対する、全CSF1R中のWFA陽性分子の相対比率(WFA-CSF1R濃度/共通糖鎖結合レクチン反応性CSF1R濃度)を算出してグラフ化した結果を示す。 同じ濃度(の希釈系列)に調製したrCSF1R (LDN+)およびrCSF1R (LDN-)を用いて、抗体-VVAレクチンでのサンドイッチELISAによる測定を行った。それぞれバッファー系(BSA希釈液:A)あるいは血清系(10%NHS希釈液:B)での検出を行った。その結果、抗体-WFAレクチンでのサンドイッチELISAの場合(図21)と同じように、rCSF1R(LDN+)が濃度依存に反応性が上昇しているのに比較して、rCSF1R(LDN-)では反応性が殆ど上がらない。また、この結果はバッファー系でも血清系でも変わらないことを示す。 同じ濃度(の希釈系列)に調製したrCSF1R (LDN+)およびrCSF1R (LDN-)を用いて、抗体-各共通糖鎖プローブレクチンでのサンドイッチELISAによる全CSF1R測定を行った。LEL(A,B)、STL(C,D), TJA-I(E,F)での検出を行った。それぞれバッファー系(BSA希釈液:A,C,E)あるいは血清系(10%NHS希釈液:B,D,F)での検出を行った。その結果、全CSF1R量はほぼ同じように検出されている。
1.肝硬変の病態について
我が国における肝硬変の患者数は20〜25万人と推定され、成因としては80%近くが肝炎ウイルスで、特にC型肝炎ウイルス(HCV)(62.3%)によるウイルス性慢性肝炎に起因する場合が多い。慢性肝炎から肝硬変に至る病態は、肝臓のグリソン領域及び肝小葉に出現する線維性変化を病理形態学的に捉えて、軽度(F1)、中度(F2)、重度(F3)、肝硬変期(F4)に分類される(新犬山式分類方法)。
本発明において、「肝硬変」というとき、肝臓の線維化の程度がF4に相当する状態にある場合を指す。病態としては、肝細胞の減少による肝機能不全及び門脈圧の亢進による食道胃静脈瘤の形成などがあげられ、重症化すると黄疸、肝性脳症、腹水貯留、消化管出血などがみられる。そして、年率7%程度の確率で肝細胞がんが出現する。
本発明は,このような重篤な肝疾患である肝硬変患者における体液(血清など)試料を用いて肝細胞がん発症リスクを予測するための「肝細胞がん発症リスク指数」及び肝細胞がんを発症していない肝硬変患者の予後(生存率)を予測するための「肝硬変予後予測指数」を提供することにある。
(定義)
本明細書において「被験者」とは、検査に供される者、すなわち後述する試料を提供する者を指し、肝硬変患者、好ましくは肝細胞がんに罹患していない肝硬変患者である。または、被験者が、肝疾患(急性肝炎、慢性肝炎、肝線維化、肝硬変)に罹患している患者、肝細胞がん患者又は健常者である場合を含む。
「試料」とは、前記被験者から採取され、本実施形態の判定方法に供される体液であって、「体液」とは、被験者から採取された液体状の生体試料をいう。例えば、血液(血清、血漿及び間質液を含む)、胆汁、リンパ液、組織液(組織間液、細胞間液)、体腔液、各組織若しくは細胞の抽出液、胸水、痰、髄液、涙液、鼻汁、唾液、尿、膣液、精液等が挙げられる。好ましくは、より好ましくは血清、血漿、胆汁である。典型的には血清試料であるため、本明細書では主として血清試料について述べる。体液は、被験者から採取したものを必要に応じて希釈若しくは濃縮、又はヘパリンのような血液凝固阻止剤を添加する等の処理を行なった後に使用してもよいし、そのような前処理を行なうことなく、そのまま使用してもよい。体液の採取は、当該分野の公知の方法に基づいて行なえばよい。例えば、血液やリンパ液であれば、公知の採血方法に従えばよい。具体的には、末梢血であれば、末梢部の静脈等に注射をして採取することができる。体液は、採取後直ちに利用してもよいし、冷凍又は冷蔵により一定期間保存した後、必要に応じて解凍等の処理を行ない利用することもできる。本実施形態において、血清を用いる場合には、10μL〜100μL、20μL〜80μL、30μL〜70μL、40μL〜60μL又は45μL〜55μLの容量を用いれば、十分量の肝硬変患者の肝細胞がん発症リスク又は予後を定量的に予測判定するために必要な、WFAに結合性を示すCSF1R分子(WFA+-CSF1R)の値、及び全CSF1R量を測定することができる。
2.肝硬変患者の肝細胞がん発症リスク指数及び予後予測指数について
(2−1)肝硬変患者の肝細胞がん発症リスク指数
本発明の肝硬変患者に対する発がんリスク又は予後予測方法においては、体液(血清)中のWFA及び/又はVVAに結合性を示す糖鎖を含有するCSF1R分子の量(WFA+-CSF1R)の測定が重要である。しかし、(WFA+-CSF1R)の値は、後述のように肝硬変患者の予後予測マーカーと呼ぶことはできるとしても、肝硬変患者の肝細胞がんの発がんリスクを予測する数値とはならない。肝硬変患者の肝細胞がんの発がんリスクを予測するためには、全CSF1R中に占める(WFA+-CSF1R)の割合(WFA+-CSF1R%)を算出する必要がある。
なお、本発明では、肝硬変患者の肝細胞がんの発症リスクを予測するための「全CSF1R中に占める(WFA+-CSF1R)の割合」を、「%」で表記しているが、両者の割合を示す表記法であれば、小数点表記、分数表記などであってもかまわない。例えば、100%を1としたときの小数又は分数での表記(あるいは全CSF1R量を1とした時の、全CSF1R量に対するWFA結合性糖鎖含有CSF1R量を相対比として表した数値の表記)であったり、千分率(‰)で表記した値でも良い。
具体的には、肝硬変患者の発がんリスクの判定には、下記の肝細胞がん発症リスク指数値(WFA+-CSF1R%)を算出して判定する。
肝硬変患者の肝細胞がん発症リスク指数(WFA+-CSF1R%)
=「WFA結合性糖鎖含有CSF1R量/全CSF1R量×100(%)」又は
=「WFA結合性糖鎖含有CSF1R量/CSF1R特異的レクチン結合性糖鎖含有CSF1R量×100(%)」
なお、ここで、「CSF1R特異的レクチン」とは、健常人と肝硬変患者の体液(血清)中のCSF1R上の糖鎖への反応性において差が無いものをいう。つまり体液(血清)中の全CSF1Rタンパク質上の糖鎖に対して反応性を有するレクチンを意味する。典型的には、非特許文献1、Fig3Bに示されたRCA120, DSA, PHA-E4, SNA, SSA, TJA-I, LEL, STL, ConA等のレクチンが相当する。
後述のように、WFA結合性糖鎖含有CSF1R量と言うときの、「WFA結合性糖鎖」を含有するCSF1Rは、WFAのみならずVVAレクチンとも特異的に結合するが、このことは、CSF1Rがこれらのレクチンにそれぞれ認識されうる多くの糖鎖構造群のうち、共通した、あるいは似たようなエプトープ構造部分を有する糖鎖構造を含有する可能性が高い。それはいくつかの構造があると考えられるが、本発明の他の実験結果からも、その一つが「LDN糖鎖」であることが強く示唆される。しかし、 WFAが結合する糖鎖とVVAが結合する糖鎖が、同一CSF1R分子上の別々の部位に結合している可能性もないとは言い切れないことを踏まえて「WFA結合性糖鎖」として着目するCSF1R上の糖鎖を「WFA及び/又はVVA(以下、「WFA/VVA」と表記する。)結合性糖鎖」と称し、「WFA結合性糖鎖含有CSF1R量」を、「WFA/VVA結合性糖鎖含有CSF1R量」とも表す。
そして、本発明の、肝硬変患者の肝細胞がんの発症リスク値の算出方法は、
肝硬変患者由来の被験者から採取された一定容量の体液試料(単に被検試料ともいう。)の全CSF1R量(A)及びWFA/VVA結合性糖鎖含有CSF1R量(B)を測定し、両者の測定値から、全CSF1Rに占めるWFA/VVA結合性糖鎖含有CSF1R量の比率(C)を「C(%)=(B)/(A)×100」として算出する方法である。
本発明の肝細胞がん発症リスク指数(WFA+-CSF1R%)は、あらかじめ十分な母数の肝細胞がん未罹患肝硬変患者のWFA+-CSF1R%を測定しておき、患者をフォローアップして、肝細胞がん発症の有無を、例えばログランク検定で決定した最小P値法に適用し、上下10%を除外し発がん率の最適カットオフ値を求めることで、正確に求めることができる。
なお、十分な母数というとき、統計的には母集団が大きくなるほど正確になるが、母集団を確保するための時間、労力を考えると、一般的には、数十例から数百例である。数百から1000例以上あるとより好ましい。すなわち、本発明で「十分な母数」とは、10〜6000例、10〜5000例、10〜4000例、10〜3000例、10〜1000例、好ましくは30〜3000例、30〜2000例、30〜1000例、より好ましくは40〜2000例、40〜1000例、50〜2000例、50〜1000例、さらに好ましくは50〜500例、100〜500例を指す。
肝硬変患者にとって、発がんリスク指数(WFA+-CSF1R%)の最適カットオフ値以上では発がん率がきわめて高いと予測できる。
本実施例では、Training set及びValidation setあわせて101名の母数団で求めたところ35.0%となり、高値群で5年累積発現率が75%、低値群で30〜42%と有意に高い(P=0.005〜0.006)ことが証明された。
母数がさらに大きくなれば、若干この35.0%の値は変動するかもしれないが、本実施例の結果からみて、肝硬変患者における肝細胞がん発症リスク指数の最適カットオフ値は、30.0〜40.0%、少なくとも25.0〜45.0%の範囲内であるということができる。すなわち、肝硬変患者における肝細胞がん発症リスク指数(WFA+-CSF1R%)が35.0±10.0%以上、好ましくは35.0±5.0%以上である場合に、有意に肝細胞がんを発症すると判定できる。反対に、35.0±10.0%未満、好ましくは35.0±5.0%未満であれば肝細胞がんが発症する確率は有意に低いと判定できる。
なお、定量的検査について、検査の陽性、陰性を分ける値のことをカットオフ値と呼ぶ。カットオフ値は、ある疾患に罹患した患者群(対象群A)と非患者群(対象群B)とを分ける値である。これらは測定対象となる母集団の規模(数)によって多少の変動をすると考えられるが、統計学的に常法とされる計算方法に依れば、自ずと最適なカットオフ値を設定することが出来る。本発明の実施態様では、上述の汎用的な方法として、ログランク検定で決定した最小P値法に適用し、上下10%を除外し発がん率の最適カットオフ値を計算したが、後述の他の方法を用いることもできる。一般に患者群と非患者群の検査値分布が重ならないのであれば、互いの検査値分布の範囲に含まれないような中間値をカットオフ値として設定することも出来る。一方、検査値分布の範囲が重複するのであれば、最適なカットオフ値はROC曲線(Receiver Operator Characteristic Curve)などを用いて設定することも出来る。ROC曲線は縦軸に感度、横軸に偽陽性率(=1-特異度)をとって、カットオフ値を変動させながらプロットしたときに得られる曲線である。ROC曲線におけるカットオフ値の決め方としては、以下が挙げられる。感度と特異度の優れた独立変数のROC曲線は、左上隅に近づいていくという事実から、この左上隅との距離が最小となる点をカットオフ値にすることができる。また、Youden index(「感度+特異度-1」が最大値となるポイントをYouden indexと呼ぶ)を用いた方法でもカットオフ値を算出できる。最も予測能・診断能が低い独立変数のROC曲線、すなわちAUC = 0.500となる斜点線から最も離れたポイントをカットオフ値にする。すなわち、(感度+特異度-1)を計算して、その最大値となるポイントをカットオフ値にすることができる。さらには、Cox回帰法で決定した最小P値法に適用し、上下10%を除外して生存率の最適カットオフ値を求めることもできる。
(2−2)肝硬変患者の予後(生存率)予測指数
本発明においては、WFA結合性糖鎖含有CSF1R量(WFA+-CSF1R値)の数値がそのままで肝細胞がんに罹患していない肝硬変患者の生存率と高い相関関係にあることを見いだし、WFA+-CSF1R値が肝硬変患者の予後因子であることを実証した。
具体的には、肝硬変患者の予後(生存率)の予測は、下記の肝細胞がん予後判定指数(WFA+-CSF1R)を算出して判定することができる。
肝硬変患者の予後判定指数=WFA+-CSF1R ng/ml
また、本発明の肝硬変患者における予後判定指数値の算出方法は、
肝硬変患者である被験者から採取された一定容量の体液試料(被検試料)中のWFA/VVA結合性糖鎖を含有するCSF1R量(B)を測定する工程で得られた「Bng/ml(WFA+-CSF1R ng/ml)」の値を、被験者の予後判定指数値とする方法である。
本発明の予後判定指数(WFA+-CSF1R ng/ml)は、あらかじめ十分な母数の肝細胞がん未罹患肝硬変患者のWFA+-CSF1R ng/mlを測定しておき、患者を最低5年間フォローアップして、その生存の有無データをログランク検定で決定した最小P値法に適用し、上下10%を除外し生存率の最適カットオフ値を求めることで、正確に求めることができる。
なお、本発明では、肝硬変患者の予後を予測するための指数を、「ng/ml」の単位で表記しているが、被験者の体液(血清)試料中に含まれる「WFA結合性糖鎖含有CSF1R量」を表す典型的な数値を示したものであるからmg/ml、w/v%などの他の単位で表記してもよく、また対数表示、あるいは特定の計算式(演算式)や係数によって換算された演算値の値など他の表記であってもかまわない。
また、これらのカットオフ値よりカットオフインデックス(cut off index: C.O.I)を算出することも出来る。C.O.Iはカットオフ値に対する比率で求められ、1.0が判定の陽性と陰性の境界値となる。(一般的に、その基準範囲内に95%の検査結果が含まれると考えられている。)
臨床検査では、むしろ測定値による値のブレを無くすなどのために、実際の値からカットオフインデックスを計算し、これを用いることが多い。
本実施例では、ログランク検定で決定した最小P値法でWFA+-CSF1Rの最適カットオフ値310ng/mlを導き出し、時間依存的ROC曲線で生存率を検討したところ、WFA+-CSF1R値310ng/ml以上でHRが3.63(95%CI1.25-10.54,p=0.011)であり、肝硬変患者の累積生存率をカプラン・マイヤー解析で検討すると、WFA+-CSF1R値高値群は低値群に比較して有意に生存率が低いことが証明された。
母数がさらに大きくなれば、若干310ng/mlの値は変動するかもしれないが、本実施例の結果からみて、肝硬変患者における予後判定指数の最適カットオフ値は、260〜360ng/ml,少なくとも210〜410ng/mlの範囲内であるということができる。すなわち、肝硬変患者における予後判定指数(WFA+-CSF1R ng/ml)が310±100ng/ml以上、好ましくは310±50ng/ml以上である場合に、有意に予後(生存率)が悪いと判定できる。反対に、310±100ng/ml未満、好ましくは310±50ng/ml未満であれば、有意に予後が良いと判定できる。
この最適カットオフ値は、前述した他のカットオフ値の算出方法を用いて決定してもよい。
(2−3)CSF1R及び体液(血清)中の全CSF1R量の測定
CSF1Rとは、単球系の細胞の分化に必須なcolony stimulating factor 1 (CSF1)のレセプター(マクロファージ刺激因子-1受容体)であり、細胞表面に存在する。肝臓では主にKupffer細胞を含む単球系の細胞、肝星細胞、肝実質細胞で発現している事が知られている。CSF1Rは細胞の活性化とともに(活性化する)細胞外メタロプロテアーゼによって細胞外ドメインが切り出される事が知られており、血中CSF1Rは切り出された細胞外ドメインであると考えられる。972アミノ酸からなり(配列番号1,2)、従来から肝細胞がんマーカーとしても用いられていた。
組換えCSF1Rは、例えば、Fc融合型(NS0);R&D Systems社)など複数市販されている。今回CSF1R上のWFA結合性糖鎖の正確な糖鎖構造および糖鎖結合位置を特定するために、既知のCSF1R塩基配列(配列番号1)を利用してプライマーを設計し、ヒト単球性白血病細胞株(THP-1)由来cDNAを鋳型にCSF1R遺伝子をクローニングし、HEK293細胞を宿主として「標準組換えCSF1R」を製造した。標準組換えCSF1R上の糖鎖構造は、下記(2−4)に示す通りである(図13)。
試料中の全CSF1R量を検出するためには、抗CSF1Rモノクローナル抗体を用いることが好ましい(以下、単に「抗CSF1R抗体」ともいう。)。抗CSF1R抗体は、市販されている抗CSF1R抗体,例えば固相化抗体としてanti-CSF1R mAb Cat#MAB3292(R&D Systems社)や検出抗体(Total CSF1R用)としてbiotinylated anti-CSF1R pAb Cat#BAF329(R&D Systems社)などを使用可能であるが、CSF1Rを免疫原として、常法に従えば製造可能である。
本発明では、抗CSF1Rモノクローナル抗体も新たに製造した。CSF1Rを免疫原として、常法に従い抗CSF1Rモノクローナル抗体を多数製造した。これらの抗CSF1Rモノクローナル抗体のうち、CSF1Rへの親和性の高い33クローンを選択し、直接的ELISAによるCSF1R 結合活性と共に、天然WFAレクチン又はsrWFAレクチンとのサンドイッチアッセイ系でのCSF1R上のWFA/VVA結合性糖鎖の検出性能を検証し、特に検出性能の高い複数の抗CSF1Rモノクローナル抗体をさらに選択した。そして、CSF1R上のWFA/VVA結合性糖鎖の検出性能の高い抗体のほとんどの認識ドメインは第2ドメイン又は第3ドメインに集中していることもわかった。なお、典型的な抗CSF1Rモノクローナル抗体産生ハイブリドーマについては、すでにNPMDに寄託している(ハイブリドーマCSR-3、CSR-4、CSR-18、CSR-21及びCSR-30を、それぞれ受領番号:NITE AP-02117〜NITE AP-02121として寄託。その後受託番号:NITE P-02117〜NITE P-02121が付与され、2016年9月7日付で国際寄託に移管されて、それぞれNITE BP-02117〜NITE BP-02121が付与された。)。
下記(表5)に示されるように、WFA/VVA-CSF1R抗体サンドイッチELISA系での検出に優れている抗体は認識ドメインには関係なく、CSR-3、CSR-4、CSR-18、CSR-21、CSR-30、CSR-5、CSR-6、CSR-22、CSR-24、CSR-7、CSR-9、CSR-13、CSR-26、CSR-27、CSR-29の抗体が優れており、特にCSR-3、CSR-4、CSR-18、CSR-21、CSR-30のWFA/VVA-結合性糖鎖含有CSF1R分子の検出能が高かった。
(2−4)「CSF1R分子上のWFA及び/又はVVA(WFA/VVA)結合性糖鎖」
肝硬変患者で検出される体液(血清)中の「CSF1R分子上のWFA結合性糖鎖」は、LacdiNAc構造を含む糖鎖(LDN糖鎖)であることが強く示唆される。当該LDN糖鎖を認識する化合物であれば,レクチン、抗体などどのような化合物であっても、CSF1R分子上のWFA/VVA結合性糖鎖量の測定に用いることができる可能性が高い。好ましくは、LDN糖鎖結合性レクチンであるWFA/VVAレクチンであり、天然のWFAレクチン、組換えWFAレクチン(配列番号4)、単量体組換えWFAレクチン(srWFAともいう。なお、図中では、単にrWFAと表記されている。)、VVAレクチンが好ましく、LDN糖鎖特異的に結合する単量体組換えWFAレクチンが最も好ましい。
なお、肝硬変患者の体液(血清)中で増大するCSF1R上のWFAレクチン認識糖鎖構造が、非還元末端に「GalNAcβ1-4GlcNAcβ1-R」を有する糖鎖(LDN糖鎖)であることを強く示唆する実験として、本発明において製造された標準rCSF1R上の糖鎖構造および糖鎖位置の決定を行い、LDN糖鎖欠損株が産生するrCSF1RがWFAレクチンとの結合性を失う結果を得ている。
<WFAレクチン>
天然WFAは、マメ科のWisteria floribunda(ノダフジ)由来のレクチンであり、糖結合特異性としては、(末端)N-アセチルガラクトサミン(N-acetylgalactosamine:GalNAc)糖鎖を含むもの、特にLacdiNAc(LDN: GalNAc1-3GlcNAc-R)糖鎖構造に結合することが知られている。天然WFAは、配列番号4からなるWFAの全長からC末端側の13アミノ酸が失われたアミノ酸配列が二量体化した構造を有している(特許文献4)。
また、通常の組換えWFA(配列番号4)は、二量体と単量体の混合物として得られ、LDN糖鎖結合性を含め、天然WFAと同一の糖鎖結合活性を有することが知られている(特許文献4)ので、組換えWFAも天然WFAと同様に本発明のWFAレクチンとして用いることができる。また、特許文献4中に記載されたWFA還元体などのWFA誘導体、その他WFA改変体もLDN結合活性を有しているため、同様に用いることができる。
<単量体組換えWFAレクチン(srWFA):LDN特異的結合性レクチン>
本発明者らが、以前に組換えWFA遺伝子(配列番号3)をクローニングし、C末端側のS-S結合形成を阻止する改変を行って単量体化したWFAレクチン(srWFA)であり、非還元末端に「GalNAcβ1-4GlcNAcβ1-R」を有する糖鎖(LDN糖鎖)特異的に結合する(特許文献4)。本実施例で実際に使用した「srWFA」は、そのうち配列番号3の272位の位置のCysをAlaに改変させることで単量体化し、さらに糖鎖結合活性に必要のないN結合型糖鎖付加部位146位のAsnをGlnに変異を導入して、酵母で大量生産したものである。
<VVAレクチン>
VVAレクチンは、マメ科のVicia villosa (Hairy Vetch) seeds (ケヤハズエンドウ,ビロードクサフジ,ヘアリーベッチ)由来のレクチンであり、分子量は102 kDa 〜 144 kDaの糖タンパク質である。糖結合特異性としては、(末端)N-アセチルガラクトサミン(N-acetylgalactosamine:GalNAc)に結合することが知られている。
(2−5)体液中の「全CSF1R量」に代替できる「CSF1R特異的レクチン結合性糖鎖含有CSF1R量」の測定について
前述のように、「CSF1R特異的レクチン」とは、「CSF1R恒常的糖鎖構造結合性レクチン」でもあり、健常人であるか肝硬変患者であるかにはかかわらず、体液(血清)中の全てのCSF1Rが恒常的に含有している糖鎖に対して反応性を有するレクチンである。
したがって、体液試料中の「全CSF1R量」を直接測定する代わりに、体液試料中のCSF1R上の「CSF1R特異的レクチン」反応性糖鎖の量を測定することで、「全CSF1R量」が測定できる。すなわち、体液試料中のCSF1R上の「WFA及び/又はVVA結合性糖鎖」と「CSF1R特異的レクチン結合性糖鎖」との含有量の比率を求めることで、肝硬変患者における肝細胞がん発症リスク(WFA+-CSF1R%)を算出できる。
「CSF1R特異的レクチン」として用いることができる典型的なレクチンは、非特許文献1、Fig3Bにも示されているRCA120, DSA, PHA-E4, SNA, SSA, TJA-I, LEL, STL, ConA等のレクチンである。
RCA120(RCA I;Ricinus communis Agglutinin I;ヒママメ由来)はGal又はGalNAc特異性が、DSA(Datura stramonium;チョウセンアサガオ由来)はGlcNAc又はポリ-N-アセチルラクトサミン(PolyLacNAc)特異性が、PHA-E4(Phaseolus vulgaris;インゲン豆由来)はGal、GalNAc又はbisecting N-glycan特異性が、SNA(EBL;Elderberry Balk(Sambucus nigra)Lectin;セイヨウニワトコ由来)はSialyl-Gal又はSialyl-GalNAc特異性が、SSA(Sambucus sieboldiana;ニホンニワトコ由来)はシアル酸特異性が、TJA-I(Trichosanthes japonica;キカラスウリ由来)はα2-6結合シアル酸(Neu5Acα2-6Galβ1-3/4GlcNAc)又は6位硫酸化糖鎖(HSO3(-)-6Galβ1-3/4GlcNAc)特異性が、LEL(Lycopersicon esculentum(Tomato)Lectin;トマト由来)は(GlcNAc)n又はポリ-N-アセチルラクトサミン(PolyLacNAc)特異性が、STL(Solanum tuberosum;ジャガイモ由来)は(GlcNAc)n特異性あるいはポリ-N-アセチルラクトサミン(PolyLacNAc)特異性が、そしてConA(Conavalia ensiformis;コンカナバリンA;タチナタマメ由来)は、Man、Glc又はtri-mannosyl N-glycan (core)特異性がそれぞれ知られており、いずれもJ-オイルミルズ社、フナコシ社、コスモ・バイオ株式会社(EY-ラボラトリーズ社)、ベクターラボラトリーズ社などから市販されている。
3.本発明において用いる測定方法及びそのためのキット
(3−1)本発明の測定方法及びキットの用途
本発明において新たに提供された抗CSF1R抗体、並びに抗CSF1R抗体と共にWFA及び/又はVVAレクチンを用いたCSF1R分子、WFA+-CSF1R分子の測定方法及びキットは、本発明における、肝硬変患者の肝細胞がんの発症リスク指数(WFA+-CSF1R%)及び予後判定指数(WFA+-CSF1R ng/ml)の測定用に用いて肝硬変の予後や肝細胞がん発症リスクを判定することができる。
また、本発明の各キットの構成要素として、WFA/VVA結合性糖鎖含有CSF1R及び/又はWFA/VVA結合性糖鎖非含有CSF1R標準物質をポジコン又はネガコン用に備えることが好ましい。各キットの構成要素は、粉末などの固体状でも、緩衝液などに溶解又は分散した状態の溶液状でもよく、アッセイ用の基板、ビーズなどに結合させた状態でも良い。さらに、溶解又は分散用の緩衝液などをキットの構成要素に加えることもできる。
そして、WFA+-CSF1R分子、すなわちCSF1R上のWFA/VVA結合性糖鎖は、広く各種肝疾患の重篤度を示すマーカーでもあるため(特許文献1)、本発明のWFA+-CSF1R分子測定方法及びキットは、肝疾患の重篤度判定用などに用いることもできる。
一方、CSF1R分子は、従来から肝疾患マーカー、肝がんマーカーなどとして用いられていたため、本発明のCSF1R分子の測定方法及びキットは、肝疾患診断用又は肝細胞がん診断用などに用いることもできる。
その際、試料中のCSF1R量は、抗CSF1R抗体によるELISAなどで直接測定することもできるが、CSF1R上のCSF1R特異的レクチン結合性糖鎖量を測定することで、間接的に測定できる。例えば、抗CSF1R抗体と「CSF1R特異的レクチン」とを用いた抗体-レクチンサンドイッチアッセイなどにより試料中の「CSF1R特異的レクチン」反応性糖鎖を有するCSF1R量を測定することで、実質的に試料中の「全CSF1R量」が測定できる。
体液試料から抗CSF1R抗体アフィニティカラムなど通常のタンパク質精製法を適用してCSF1Rを分離精製し、当該CSF1Rに対するWFA及び又はVVAレクチンの反応量及びCSF1R特異的レクチン反応量を、同時に又は別々に測定し、両測定値の比率を求めることで、肝硬変患者の肝細胞がんの発症リスク指数(WFA+-CSF1R%)を求めることができる。
(3−2)レクチン−抗体サンドイッチ免疫学的検出法について
基本的には2種の抗体を用いたサンドイッチ検出法に用いられるプロトコルのうち、一方の抗体をレクチンに置き換えるだけで適用できる。したがって、この手法は既存のELISA法などのほか、自動免疫検出装置を用いた自動化にも適用可能である。唯一考慮しなければならない点は、サンドイッチに用いる抗体とレクチン間の反応である。抗体は、少なくとも2本のN-結合型糖鎖を有する。したがって、使用するレクチンが抗体上の糖鎖を認識する場合は、サンドイッチ検出時にその結合反応に起因するバックグランドノイズを生じてしまう。このノイズシグナルの発生を抑制するのに抗体上の糖鎖部分に修飾を導入する方法や、糖鎖部分を含まないFabのみを用いる方法が考えられるが、これらは公知の手法を用いればよい。糖鎖部分への修飾方法としては、例えばChen SらNat Methods. 4, 437-44 (2007)やComunale MAらJ Proteome Res. 8, 595-602 (2009)等があり、Fabを用いる方法としては例えばMatsumoto HらClin Chem Lab Med 48, 505-512 (2010)等がある。
(3−3)CSF1R上のWFA/VVA結合性結合性糖鎖検出用レクチン−抗体サンドイッチELISA測定系
WFA/VVA結合性糖鎖を有するCSF1Rのサンドイッチ系での検出には、主としてレクチン‐抗体サンドイッチELISAや、レクチンアレイを用いた抗体オーバーレイ・レクチンアレイ法が用いられる。
抗CSF1R抗体をELISAプレート固相化側に使用した場合は、レクチンを液相側に検出用として用いる。抗体はELISAプレート固相化側でも検出側(液相側)でも、どちらに使用しても良く、もう一方の側にはレクチンを使用して(つまり抗体が固相側の場合はレクチンを液相側に使用して)、サンドイッチの検出系にて行う。一般的には感度が高く、バックグラウンドとなるノイズが少なくなる組み合わせにて検出系の構築を行う。
WFA/VVAレクチンとしては、市販のWFAレクチン(天然WFA)、組換えWFA、LDN糖鎖特異的な単量体のsrWFA以外に、VVAレクチンを用いることができる。
抗CSF1R抗体は、抗CSF1Rモノクローナル抗体を用いることが好ましく、本発明で取得した30クローンのハイブリドーマから採取されるCSR-1〜30,好ましくはCSR-3、CSR-4、CSR-18、CSR-21及びCSR-30、又は市販の抗CSF1Rモノクローナル抗体を用いることができる。また、抗CSF1Rモノクローナル抗体の全長を用いる必要はなく、抗原認識部位を有してさえいれば、Fab、F(ab’)2などの抗体フラグメントであってもよく、一本鎖抗体や、bi-specific抗体、あるいは抗原認識部位の配列を人工的に組み換えて他種属抗体化(ヒト化抗体など)した抗体、あるいはその抗体フラグメントでも良い。さらに、抗原に対する結合性を有しているものであれば、ファージディスプレイ抗体(phage display)のようなものでも良い。
(3−4)レクチン又は抗体の標識法
マーカー分子であるCSF1R又はCSF1R上の糖鎖を検出する際、レクチンと抗体の組み合わせによるサンドイッチELISA測定系の感度を上げるため、化学発光を用いた検出系(化学発光酵素免疫測定法、Chemiluminescent Enzyme Immunoassay;CLEIA法)を適用することもできる。
サンドイッチアッセイをするために使用する二次抗体として、検出側が抗体の場合は、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)などでラベル化した抗マウスIgG抗体などで検出し、発色させることが一般的であるが、この一次抗体としてビオチン標識された抗体を使用したビオチン−アビジン反応を利用する検出系を利用することも出来る。一方、検出側がWFAレクチン、VVAレクチンなどレクチンの場合、レクチン検出用二次抗体を用いるよりも、ビオチン標識されたレクチンを使用したビオチン−アビジン反応を利用する検出系が簡便であり好ましい。
具体的には、ビオチン標識化したWFAレクチン、VVAレクチンなどを反応させた後、溶液を廃棄して洗浄後、HRP標識ストレプトアビジン溶液を反応させ、反応液を廃棄、洗浄後、TMB基質液による発色を観察すればよい。
また、上記検出用の抗体やレクチンについて、ビオチン標識の代わりに蛍光物質による標識を行うことで、抗体やレクチンが結合していることを直接検出する系(化学発光に依らない系)を構築することも出来る。
(3−5)試料中のCSF1Rの検出系
体液(血清)試料中の全CSF1R量を測定するためには、既知のウェスタンブロッティング法、ELISA法、サンドイッチELISA法、が使用可能であり、他にレクチンアレイを用いた抗体オーバーレイ・レクチンアレイ法、定量的な質量分析法(LC-MS等)、免疫学的測定法、酵素活性測定法、キャピラリー電気泳動法、液体クロマトグラフィー(HPLC)法、薄層クロマトグラフィー法、金コロイド法、放射免疫測定法、ラテックス凝集免疫測定法、蛍光免疫測定法、ウェスタンブロッティング法、免疫組織化学法、表面プラズモン共鳴法(SPR法)又は水晶振動子マイクロバランス(QCM)法等の分離・検出方法の他、マイクロフリュイディクス技術を用いた分離・検出システムが適用できる。抗体−抗体サンドイッチELISA法が好ましい。
その際の抗CSF1R抗体としては、(3−3)で述べた抗CSF1Rモノクローナル抗体を用いることが好ましく、二次抗体についても同様である。
(3−6)全CSF1R量に対応する「CSF1R特異的レクチン結合性糖鎖含有CSF1R量」の検出系
WFA+-CSF1R%を算出するための全CSF1R量に代わる「CSF1R特異的レクチン結合性糖鎖含有CSF1R量」、すなわち体液(血清)中のCSF1R上の「CSF1R特異的レクチン結合性糖鎖」の量は、「CSF1R特異的レクチン」と抗CSF1R抗体を用い、(3−2)で述べたレクチン−抗体サンドイッチELISA測定系により測定した値を用いることができる。その他の検出方法についても、上記と同じような分離・検出方法が適用できる。
ここで、「CSF1R特異的レクチン」としては、RCA120, DSA, PHA-E4, SNA, SSA, TJA-I, LEL, STL, ConA等が候補になる。
例えば「全CSF1R量」を測定するための2種類の抗CSF1R抗体を用いる抗体-抗体サンドイッチアッセイに代えて、RCA120(及び/又はDSA, PHA-E4, SNA, SSA, TJA-I, LEL, STL, ConA)と抗CSF1R抗体とを用いるレクチン-抗体サンドイッチアッセイを用いることができる。WFA(及び/又はVVA)と共にRCA120(及び/又はDSA, PHA-E4, SNA, SSA, TJA-I, LEL, STL, ConA)を含むレクチンアレイを用い、体液試料、好ましくは予め抗CSF1R抗体抗CSF1R抗体をオーバーレイすれば一度の測定で「WFA+-CSF1R%」を求めることができるといえる。
(3−5)レクチンと抗CSF1R抗体とを用いたその他の検出系について
前記(3−2)で述べたように、試料中のWFA及び/又はVVA(WFA/VVA)レクチンと特異的に結合する糖鎖を有するCSF1Rは、レクチン‐抗体サンドイッチELISAや、レクチンアレイを用いた抗体オーバーレイ・レクチンアレイ法で簡便に検出又は定量が可能であるが、他の具体的な方法として、例えば、以下の方法が挙げられる。
(1)被験者から得られた体液(血清)中のCSF1R分子を、WFA及び/又はVVAレクチンを用いて分離する。これによって、WFA/VVAレクチンと特異的に結合する糖鎖を有するタンパク質群が選択される。
(2)続いて、WFA/VVAレクチンと特異的に結合する糖鎖以外の部分を特異的に認識する抗CSF1R抗体を用いて検出する。これによって、目的とするWFA/VVAレクチンと特異的に結合する糖鎖を有するCSF1Rマーカーを検出することができる。
WFA/VVAレクチンと特異的に反応する糖鎖を有するCSF1Rの検出には、例えば、WFA/VVAレクチンに特異的に結合するCSF1Rを測定する方法、具体的には、WFA/VVAレクチンを固定したカラムやアレイによる捕集や分離を行う方法、及びCSF1Rを測定する手段、具体的には、CSF1R糖タンパク質の質量分析などによる直接検出又はそのCSF1R(断片含む)に対する抗体を用いて行なうことができる。先にレクチンと抗体のサンドイッチによる複合体形成を行ってから、後述の方法で分離し、これを検出することもできる。ウェスタンブロット法によってもWFA/VVA結合性糖鎖を有するCSF1R糖タンパク質(糖ペプチド)を検出、定量することができる。
反対に、予め分離精製しておいたCSF1R糖タンパク質をレクチンアレイなどのチップ・装置を用いて、固相化された複数のレクチンに対するCSF1R糖タンパク質の結合量(マルチレクチンアッセイ)を検出することでも、WFA/VVA結合性糖鎖を有するCSF1R分子の測定を行うことが出来る。例えば、以下の手順で行う。
(1)被験者から得られた体液(血清)試料中より、CSF1R(断片含む)に対する抗体を使用してCSF1R糖タンパク質を分離精製する。
(2)続いて、分離精製したCSF1R糖タンパク質をレクチンアレイに供し、蛍光標識された抗CSF1R抗体を添加して複合体を形成させ、アレイスキャナーにて各レクチンスポットの蛍光強度(つまりCSF1R糖タンパク質の各レクチンへの結合量)を測定する。これによって、目的とするWFA/VVAレクチンと特異的に結合する糖鎖を有するCSF1Rマーカー、およびCSF1R特異的レクチンに結合するCSF1Rマーカー、全CSF1Rマーカーを測定することができる。
また、(1)で得られたCSF1R糖タンパク質は、WFA/VVAレクチンを使用したレクチンブロット法によっても検出、定量することができる。
(3−7)その他の検出系
その他の検出系としては、定量的な質量分析法(LC-MS等)、免疫学的測定法、酵素活性測定法、キャピラリー電気泳動法、液体クロマトグラフィー(HPLC)法、薄層クロマトグラフィー等が挙げられる。好適には、LC-MS、WFA(VVA)レクチンと特異的に反応する糖鎖を有するCSF1R糖タンパク質又はその断片に特異的なモノクローナル抗体又はポリクローナル抗体を用いた、酵素免疫測定法、二抗体サンドイッチELISA法、金コロイド法、放射免疫測定法、ラテックス凝集免疫測定法、蛍光免疫測定法、ウェスタンブロッティング法、免疫組織化学法、表面プラズモン共鳴法(SPR法)又は水晶振動子マイクロバランス(QCM)法等による定性的又は定量的手法を用いることができる。
質量分析による検出方法としては以下の通りに実施することができる。マーカー糖ペプチド及び糖タンパク質は、糖鎖に結合するプローブレクチン、あるいは作製された抗CSF1R抗体で捕集した試料について、質量分析計を検出器として使用し、LacdiNAc(LDN)糖鎖を有する糖ペプチドを検出することができる。マーカー糖ペプチドの検出は、好適には捕集した糖ペプチドの糖鎖を切除処理した後、液体クロマトグラフィー(LC)で分離し、溶出したペプチドを順次、直接オンラインで質量分析計(MS)に導入し、検出することができる。質量スペクトルの収集は、単に質量スペクトルを取得することに加え、衝突誘起解離(CID)等の破断法を利用したMS/MSスペクトルの取得、さらには、予め選択したイオンが検出された場合のみCID等で破断し、生じた複数のフラグメントイオンを検出すること(シングルリアクションモニタリング、あるいはマルチリアクションモニタリングと呼ばれる手法)もできる。さらに分析試料に、肝臓がんマーカー糖ペプチドのコアペプチド部分を合成し、その一部に安定同位体を取り込ませて質量差を生じさせた対象ペプチドを加え、それぞれのシグナル強度を比較することで相対的あるいは絶対的定量分析を行うこともできる。簡易的には検出されたイオンのシグナル強度を複数の試料間あるいは標準試料と比較し、簡易定量することもできる。
また、臨床検体試料から抗CSF1R抗体により分離精製したCSF1Rに対し、WFA(VVA)レクチンを作用させてキャピラリー電気泳動法(Kuroda Y.,et al.,Pharm Res.,2001 Mar;18(3):389-93)や、マイクロフリュイディクス技術(横山ら「生物試料分析」Vol.33,No.3(2010)p.201-206)に適用することで、分子量の違いとしてWFA/VVAレクチン反応性CSF1Rタンパク質と、非反応性CSF1Rタンパク質との量比を測定し、全CSF1R中のWFA/VVA結合性CSF1Rの量が算出できる。また、被検体液試料由来精製CSF1Rに対して、WFA/VVAレクチン及びRCA120(又はDSA, PHA-E4, SNA, SSA, TJA-I, LEL, STL, ConA)レクチンをそれぞれ作用させ、2種類のレクチン-CSF1Rタンパク質複合体を形成させて、マイクロフリュイディクス技術を適用することによっても、各レクチンの分子量の差に基づき、被検体液試料中のWFA/VVAレクチンと結合したCSF1R量及びCSF1R特異的レクチンと結合したCSF1R量がそれぞれ測定できる。そして、両者の量比を求めることで、全CSF1R量に対するWFA/VVA結合性糖鎖含有CSF1Rの量比が決定できる。具体的な測定用装置としては、キャピラリー電気泳動装置や、μTASWako i30(和光純薬工業(社))のような、マイクロフリュイディクス技術・分離/検出技術を用いた装置などを使用することができる。
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されることはない。
本発明におけるその他の用語や概念は、当該分野において慣用的に使用される用語の意味に基づくものであり、本発明を実施するために使用する技術は、特にその出典を明示した技術を除いては、公知の文献等に基づいて当業者であれば容易かつ確実に実施可能である。また、各種の分析などは、使用した分析機器又は試薬、キットの取り扱い説明書、カタログなどに記載の方法を準用して行った。
なお、本明細書中に引用した技術文献、特許公報及び特許出願明細書中の記載内容は、本発明の記載内容として参照されるものとする。
本実施例で用いた臨床試験方法、測定法、解析方法を以下説明する。
(臨床検査)
本実施例で用いる血清試料は、試験に使用されるまで-80℃で凍結保存され用事解凍された。本実施例で行われた臨床検査は、血小板数、プロトロンビン活性時間(PT)、血清中アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ濃度(AST)、血清アラニン・アミノトランスフェラーゼ濃度(ALT)、血清アルブミン、血清中総ビリルビン(T.bil)について常法で行った。血清中αフェトプロテイン(AFP)、AFP-LCAレクチン分画(AFP-L3、%)、ビタミンK依存性凝固因子前駆体II(PIVKA-II)も初診時に同じ試料で測定をした。血清AFPはHISCL-2000i(シスメックス)、PIVKA-IIはルミパルスPrestoII(富士レビオ)自動化学発光酵素免疫測定装置(CLEIA)を用いて測定した。従来のAFP-L3は自動免疫測定装置 μTASWako i30(和光純薬)を用いてレクチン親和クロマトグラフィーおよび液相結合アッセイ法で測定した。
(抗CSF1R抗体-WFAレクチン サンドイッチELISAおよび総CSF1R-ELISA)
WFA+-CSF1Rおよび総CSF1Rは、本発明者らの既報(非特許文献2)の方法を一部改変して行った。Maxisorp(登録商標)イムノプレート(サーモサイエンティフックNUNC、449824)を4μg/mL抗CSF1R抗体(マウス抗ヒトM-CSFR、MAB3292、R&D Systems社)で6時間コートし、ブロッキングバッファー(3% BSA含有PBSバッファー, pH 7.4)で終夜4℃にてブロッキングした。血清試料はブロッキングバッファーで20倍希釈し、2対をプレートに2時間アプライした。次にプレートをウォッシュバッファーで6回洗浄した。ビオチン結合WFA(ベクターラボラトリ社)が検出プローブとして用いられた。プレートは100μL/well の50,000倍希釈HRP結合ストレプトアビジン溶液とともにインキュベートしウォッシュバッファーで6回洗浄した。各ウェルに基質溶液(100μL、サーモフィッシャーサイエンティフィック)を加え、反応は1M H2SO4で止めた。各ウェルの450nmにおける吸光度を測定した。
(観察期間およびHCCの治療)
患者の経過観察は腫瘍マーカーAFP、PIVKA-II、AFP-L3、および超音波検査、CT、磁気共鳴画像法を用いて少なくとも開始より6か月ごとに行った。HCC治療後最初の一年間の経過観察は3か月ごとに画像診断で行われ、この期間中、肺炎、敗血症、HCCを含む肝臓に関連する死亡、および食道静脈瘤出血を含む肝不全による死亡について分析した。
HCCは日本のガイドラインに従って治療された。まず患者は手術の適応について評価され、外科的治療の拒否もしくは不適格とされた場合、経皮的エタノール注入法による局所凝固療法(LAT)、または近年では高周波アブレーション(RFA)が行われた。肝移植を受けた患者はいなかった。各HCC患者のフォローアップ期間は1998年から2014年のうちに開始され患者の死亡もしくは2014年8月まで続けられた。フォローアップ期間は1か月から195ヶ月(中央値60ヶ月)だった。
(統計学的解析)
本実施例で用いる統計解析は、患者の臨床背景はMann-WhitneyのU検定を使用、累積生存率および発がん率はカプラン・マイヤー(Kaplan-Meier)法で算出,検定はLog rank testで行った。WFA+-CSF1R、WFA+-CSF1R%は最小P値法を用いて最適なカットオフ値を算出した。変数の最適なカットオフ値を決定するため、ログラング検定の10から90パーセンタイル順位間で最小のP値を示すカットオフ値を選択した。危険率(HR)と95%信頼区間(95%CI)も求められた。生存率および累積発がんの予測因子は、年齢、性別、アルブミン値、血小板数、Fib4、APRI、AFP、PIVKA-II、およびAFP-L3を検討した。時間依存性ROC解析にてWFA+-CSF1R、WFA+-CSF1R%の有用性を検討した。連続型変数間の相関はスピアマンの順位相関係数で数量化された。また、P<0.05を統計的有意とした。統計学的分析はSPSS.20, R 2.14.0 (survival ROCパッケージ)およびWindows Excel 2010などの統計解析用ソフトウェアを用いて行った。
(実施例1)免疫組織化学染色法によるCSF1R糖タンパク質の解析
各種肝疾患、特に肝硬変あるいは肝臓がんの患者の組織から薄切された標本(凍結標本あるいはパラフィン包埋標本)を使用して、レクチン或いは抗体による免疫組織化学的染色による発現の検討を行うことができる。そこで、組織アレイスライド(ホルマリン固定パラフィン包埋ブロックより作製されたもの)を使用して、肝臓がん組織におけるWFAならびにCSF1R発現の検討を行った。
組織アレイスライドを脱パラフィンした後、蒸留水にて洗浄し、100 mM クエン酸バッファー(pH 9.0)中で電子レンジ(microwave oven)にて5分間加熱して抗原賦活化を行った。次いで、内因性peroxidaseの阻害処理を行い、ブロッキングバッファー (0.2% Tween-20, 5% glycerol, 3% BSA in PBS)にて、室温で20分ブロッキングを行った。PBS中で3回洗浄した後、ブロッキングバッファーで希釈した1次抗体(抗CSF1R抗体:C20クローン、Santa Cruz Biotechnology社, 1 μg/mLにて使用。またはR&D systems社AF329、抗hMCSFR抗体)あるいは、ビオチン化WFAレクチン:Vector Laboratories社, 20μg/mLにて使用)にて反応させた。一次反応後、PBS中で3回洗浄し、次に2次抗体として、2次抗体(HRP化抗ウサギIgG抗体: Life Technologies社, 10μg/mLにて使用)あるいは、HRPラベル化ストレプトアビジン:Vector Laboratories社, 20μg/mLにて使用)にて反応させた。場合によってVECTASTAIN ABC ELITEキットを使用することも出来る。発色はDAB発色(WAKO社)にて行った。また、haematoxylinにて染色を行った。
その結果、図1に示す通り、肝細胞がん患者組織において、がん組織の辺縁部(浸潤部)にCSF1R分子ならびにWFAエピトープの共発現を認めた。また、図2に示す通り、肝細胞がん患者組織アレイにおいて、CSF1R分子の発現を認めたものは78例/100例中であり、WFAエピトープの発現を認めたものは76例/100例中であった。CSF1R分子ならびにWFAエピトープの共発現を認めたものは、70例/100例中であった。
(実施例2)肝硬変(LC)に罹患し、かつ肝細胞がん(HCC)に罹患していない臨床試験患者(LC(+)HCC(-))の選択
1998年1月から2013年1月にかけて、名古屋市立大学病院通院中のC型慢性肝疾患患者214名から得られた血清を使用した。HBs抗原陽性患者、およびエントリー時から3か月以内に他臓器の悪性疾患を発症した患者は除外した。観察期間中央値は60ヶ月間(1〜195ヶ月間)で、チャイルド・ピュー分類Cの患者は、転院などにより発がん率や予後が正確に評価できないため検討から除外した。肝線維化評価は、肝生検組織または超音波やCTによりおこなった。肝細胞がんは組織学的検査また画像診断により、米国肝臓病学会の基準に基づき診断した。線維化ステージの評価はMETAVIRを用いて2名の病理専門医が個別に判定し、肝硬変をF4とした。本研究は1975年のヘルシンキ宣言をもとに、名古屋市立大学病院倫理委員会で承認され,書面上で同意を得た上で実施した。
患者選択を図3に示す。214名(慢性肝炎[CH]99名、肝硬変[LC]115名)がエントリーされ、LC115名のうち、肝細胞がん合併は59名(HCC-LC)であった。最終的に、肝がんコントロール不良(23名)もしくは3cm・3個以上の肝細胞がんを有する27名が除外された。さらに長崎医療センター、新松戸中央総合病院、および久留米大学から得られた45名の肝細胞がん合併のない肝硬変患者検体をバリデーションコホートとして検討した。バリデーションコホートは年齢中央値62歳、男性20名(44.4%)観察期間中央値は60ヶ月であった(1〜180ヶ月)。これら2グループに年齢とALT値以外の基準特性に著しい違いはなかった(表1)。
Figure 2017047813
そこで、以下の実施例では、これら2つのコホートを合わせて解析することとし、特にエントリー時に肝細胞がんを有さない101名のLC患者(LCHCC)において生存率と累積発がん率を検討した(表2)。
Figure 2017047813
(実施例3)肝硬変患者(LC)の肝細胞がん発症リスクの予測のための指標
本実施例では、肝硬変患者(LC)のうちで肝細胞がん発症リスクを予測のための指標の検討を行う。
(3−1)全患者血清中WFA +-CSF1R 濃度およびWFA+-CSF1R%
肝疾患患者全体(214名)の血清試料を用いてWFA+-CSF1Rおよび総CSF1R濃度を測定したところ、血清WFA +-CSF1R 濃度、総CSF1R濃度ともに、肝硬変患者(LC)(115名)は肝炎患者(CH)(99名)に比べ有意に高値だった[WFA +-CSF1R:208.9 (34.3 - 500.9) ng/ml vs. 82.3 (5.0 - 241.0) ng/ml] 、[総CSF1R:845.3 (431.6 - 1487.5) ng/ml vs. 536.4 (266.3 - 1357.2) ng/ml]。
LC患者115名(HCC 59名、非HCC 56名)において血清WFA +-CSF1R濃度 [208.9 (85.4 - 500.9) ng/ml vs. 213.0 (34.0 - 442.0) ng/ml]および総CSF1R濃度 [820.9 (431.6 - 1415.1) ng/ml vs. 866.0 (516.0 - 1487.6) ng/ml]であった。
WFA +-CSF1R濃度は、LC患者では肝細胞がん(HCC)罹患の有無で有意差は認めなかったが、総CSF1R濃度は肝硬変患者の中で、HCC合併例は非合併例に比べてわずかに高かった(p = 0.035)。
WFA+-CSF1R%(総CSF1RにおけるWFA +-CSF1Rの割合)はHCC群と非HCC群で それぞれ26.9% (11.3- 77.7)及び21.3% (6.3 - 64.1) (p = 0.0018)となり、HCC群は有意に高値であった。
またWFA+-CSF1R%は、LC患者はCH患者に比べ有意に高値であった [23.3 (6.3 - 77.7) vs. 15.6 (0.9 - 55.8)] (p < 0.0001) (表1)。
本発明において対象とするエントリー時にHCCを認めない非HCC肝硬変患者(LCHCC)(56名)について、生存率と累積発がん率を検討した。WFA +-CSF1R 値の中央値は213.0(34.0〜442.0)であり、WFA+-CSF1R%値は21.3 (6.3 〜64.1)であった(表2)。
(3−2)全患者におけるWFA+-CSF1R%による発がん率
まず、WFA+-CSF1Rによる累積発がん率を測定したが有意差がなかった(データ未掲載)。
一方、CSF1Rは悪性疾患と関連すると言われており、WFA+-CSF1R%と発がんとの関連性を検討した。臨床的因子および癌関連因子を、時間依存性ROC解析で求めたAUCとコックスの回帰分析で求めた危険率(HR)で評価した。本コホートではインターフェロン治療歴およびSVR率は、HCCの進展に影響がなかったため考慮しなかった。累積発生率における診断能は、総観察期間における95%信頼区間のROC曲線下面積(AUC)として示した。連続型変数間の相関はスピアマンの順位相関係数で数量化された。P<0.05を統計的有意とした。
肝硬変患者の肝細胞がんの発がん率に対するログランク検定で求められたP値に基づく最小P値法により(上下10%の症例を除外)、発がんを予測するためのWFA+-CSF1R%の最適カットオフ値は35.0%となった(表1)、(図4)。本カットオフ値を用いた生存予測での危険率は1.55(95% CI 1.03-2.34, p = 0.034)だった。さらに別のサンプルセット(バリデーションセット)を用いてWFA+-CSF1R%の有用性を検討した結果、WFA+-CSF1R%は予測因子として有望であった(HR 4.06, 95% CI 1.63-10.13, p < 0.001)。
他のデータと総合してLC患者の累積発がん率に関与する因子を時間依存的ROC分析にて解析したところ、WFA+-CSF1R%はAUC 0.760、HR 1.55(95%CI 1.03-2.34、p = 0.034)であった(表3)。従って、トレーニングセットとバリデーションセットの結果を考慮し、LC患者での累積発がん率との関連を示したWFA+-CSF1R%値35.0%を最適候補とした。さらに、WFA+-CSF1R%と他の連続型変数との相関をスピアマンの順位相関係数検定で分析した結果、相関が認められた(表3)、(図5,6)。
Figure 2017047813
(3−3)肝細胞がんのない肝硬変患者(LC(+)HCC(-))の肝細胞がん(HCC)発生率について
そこで、さらに、上記で検討したWFA+-CSF1R%カットオフ値で層別化された患者での発がん率を求めた。LC患者におけるWFA+-CSF1R%と発がん率を明らかにするためHCC患者を二グループに分けた(高値群35.0%、低値群<35.0%。カプラン・マイヤー解析によると、トレーニングセットにおいて、5年の累積発がん率はWFA+-CSF1R%高値群(35.0%、6名)で75%、低値群 (<35.0%、50名)は30%であり、累積発がん率はWFA+-CSF1R%高値群で有意に高かった(P = 0.006)(図7a)。同様に バリデーションセットにおいて、5年の累積発がん率はWFA+-CSF1R%高値群(10名)で75%であり、低値群(35名)の42%に比べて累積発がん率は有意に高かった(P = 0.005)(図7b)。
これらの結果よりWFA+-CSF1R%はHCCに関連があるだけでなく、LC患者の癌化リスク予測マーカーになりうることが示唆された。そして、最小P値法で算出されたWFA+-CSF1R%の値は、LC患者のHCC発がんリスク指数として機能する。
(実施例4)肝細胞がんのない肝硬変患者(LC(+)HCC(-))の予後(生存率)について
(4−1)全患者におけるWFA+-CSF1R値による生存率
WFA+-CSF1R値は線維化の進展において上昇するため、WFA+-CSF1RをLC患者の予測因子として評価した。臨床的および癌関連因子を時間依存的ROC曲線のAUC(総観察期間における95%信頼区間のROC曲線下面積)およびコックス回帰分析で計算した危険率で評価した。
まずトレーニングコホートにおいて、コックス回帰分析で最少のP値を示す値をWFA+-CSF1Rの最適カットオフ値として求めた(310 ng/ml、図8)。生存を予測するための危険率はWFA+-CSF1R値(310)において3.63 (95% CI 1.25-10.54、 p = 0.011)であった。さらにWFA+-CSF1R値の有効性を独立したサンプルセット(バリデーションセットとする)を用いて検討した結果、WFA+-CSF1R値(310)は予測因子として有望であった(HR 6.07, 95% CI 1.62-22.77, p =0.002)。
トレーニングセットとバリデーションセットを総合すると(Table 2)、継続的因子としてAUCは、WFA+-CSF1Rで0.691(HR 1.80, 95% CI 1.23-2.62, p = 0.002)、アルブミンでは0.719 (HR 0.29, 95% CI 0.18-0.47, p< 0.001)、Fib4では0.706(HR 1.78, 95% CI 1.25-2.52, p = 0.001)であった。したがってWFA+-CSF1Rは最適な候補であることがわかり、トレーニングセットとバリデーションセットのLC患者予後において最も強い相関を示した。WFA+-CSF1RのLC患者の予後への相関はFib4の相関に類似していたが、本コホートではアルブミンも信頼できる予測因子であった。
さらに我々は、WFA+-CSF1R値と他の連続変数との相関をスピアマンの順位相関係数検定を用いて調べた。(表4右)に示すようにWFA+-CSF1R値は他の因子に多重相関を見せた。
Figure 2017047813
(4−2)WFA+-CSF1R値による生存率
WFA+-CSF1R値は線維化の進展につれて上昇するため、WFA+-CSF1RをLC患者の予後予測因子になりうるかを評価した。LC患者の肝細胞がんの累積生存率に対するログランク検定で求められたP値に基づく最小P値法により(上下10%の症例を除外)、予後を予測するためのWFA+-CSF1Rの最適カットオフ値は310 ng/mlであり(表1)、時間依存的ROC曲線で生存率を検討したところ、WFA+-CSF1R値(310)においてHRは3.63 (95% CI 1.25-10.54、p = 0.011)であった。
トレーニングセットとバリデーションセットを合わせた結果、WFA+-CSF1R のAUCは0.691(HR 1.80, 95% CI 1.23-2.62, p = 0.002)であり、WFA+-CSF1RはLC患者における予後予測に良好な結果が得られた(表4)。
LC患者における累積生存率をカプラン・マイヤー解析にて検討すると、WFA+-CSF1R高値群( 310 ng/ml)の1,3,5年生存率はトレーニングセット(8名)でそれぞれ88%、60%、45%であり、バリデーションセット(10名)で100%、71%、43%であった。一方WFA+-CSF1R低値群(< 310 ng/ml)では、トレーニングセット(48名)94%、89%、74%(p= 0.010)、バリデーションセット(35名)で100%、100%、100% (p < 0.003)(図9a,b)であった。WFA+-CSF1R値高値群は低値群に比較し有意に生存率が低かった。
以上の結果から、WFA+-CSF1R値は、LC患者における予後(生存率)因子として優れていることが実証され、最小P値法で算出されたWFA+-CSF1Rの値は、LC患者の予後予測指数として機能する。
(実施例5)標準CSF1R糖タンパク質の作製
(5−1) rCSF1Rの発現系の構築と精製
肝硬変の血清糖タンパク質マーカーとして開発したWFA+-CSF1Rの微量迅速測定キットの開発において、測定のキャリブレーターとなる糖タンパク質標準品の生産系構築の検討を行った。測定キットは抗体−レクチン サンドイッチ検出系であるため、糖タンパク質標準品には、抗体とレクチンのそれぞれに反応するエピトープが必要となる。標準糖タンパク質作製において、目的の糖鎖を有する糖タンパク質を生産する細胞の選択は非常に重要であると考えられる。WFAに結合する糖鎖を持つ糖タンパク質の発現は、すでに肝線維化マーカーWFA+-M2BPの発現において確立しており、今回もそれに倣いHEK293細胞をタンパク質発現のホスト細胞に用いた。
CSF1Rタンパク質は972アミノ酸からなる膜タンパク質であり(配列番号1,2)、1-19アミノ酸がシグナル配列、20-517アミノ酸が細胞外領域、518-538アミノ酸が膜貫通領域、539-972アミノ酸が細胞内領域である。細胞外領域には11箇所のN結合型糖鎖付加のコンセンサス配列が存在し、これらのすべてあるいは一部にN結合型糖鎖が結合していることが考えられる。これらの情報を基に、リコンビナントCSF1R(rCSF1R)は、自身のシグナル配列と細胞外領域である1-489アミノ酸をコードする領域をPCRで増幅し、発現ベクターに導入した。
ヒト単球性白血病細胞株(THP-1)由来cDNAを鋳型に、2本のプライマー、
Fwd: 5’- AGGCCATGGGCCCAGGAGTTCTGCTGCT -3’, (配列番号5)
Rev: 5’- ggaattcGTTGTGGGCCCTGCACTCGTAG -3’(下線はEcoRI部位)(配列番号6)
でPCR反応を行い、増幅した1.5 KbpのDNA断片をpCRII-Bluntベクター(Invitrogen)にサブクローニングし、Genetic Analyzer 3130xl(Applied Biosystems社)で増幅核酸配列を確認した。EcoRIで切断したDNA断片を発現ベクター pcDNA3.1neo(+)DDDDK(Invitrogen社のベクターを改良)のDDDDK tag配列前のEcoRI部位に挿入し、pcDNA3.1-CSF1R-tagを構築した。この結果、このベクターから発現するrCSF1RはC末端にDDDDK tag配列を持つことになる。
このプラスミドをヒト胎児腎臓由来細胞株HEK293細胞にLipofectamine LTX(Invitrogen)を用いてトランスフェクションし、1 mg/mLのG418(ナカライテスク)を培地に添加して、安定発現株を選別した。構築した安定発現株をDMEM+10%FCS+PS培地でコンフレント状態で48時間培養後の培養上清を3回繰り返し回収し、3100 rpm、10分間の遠心分離の後、上清を回収した。
回収した培養上清から抗DDDDK抗体カラム(MBL社)を用いてrCSF1Rタンパク質を精製した。0.45μmフィルターろ過した培養上清を、DDDDK抗体カラムに供し、素通りした上清を再度カラムに供した。抗体カラム容量の10倍量の0.1%Tween含有PBS緩衝液で洗浄し、さらに、PBS緩衝液で洗浄を行った。抗体カラム容量の5倍量のDDDDKペプチドを含むPBS緩衝液にて、抗体カラムに結合したrCSF1Rの溶出を行い、さらに限外濾過膜(Amicon 10K)を用いて溶出に用いたDDDDK ペプチドの除去とタンパク質の濃縮を行った。(本発明で得られたrCSF1Rタンパク質を、以下「標準CSF1R(タンパク質)」ともいう。)
精製したrCSF1Rは、タンパク質濃度を測定した後、-30℃にて保存した。
(5−2) 標準CSF1R(rCSF1R)の糖鎖プロファイリング
抗体オーバーレイ・レクチンマイクロアレイ法
レクチンマイクロアレイのプラットフォームは基本的に上記の通りとし、検出に際しては上記被験者を直接蛍光等で標識するのではなく、抗体を介して間接的に蛍光基等を被験者に導入することで、一斉に多検体に対する分析を簡便、高速化することができる応用法である(「Kuno A, Kato Y, Matsuda A, Kaneko MK, Ito H, Amano K, Chiba Y, Narimatsu H, Hirabayashi J. Mol Cell Proteomics. 8, 99-108(2009)」、「平林淳、久野敦、内山昇「レクチンマイクロアレイを用いた糖鎖プロファイリング応用技術の開発」、実験医学増刊「分子レベルから迫る癌診断研究〜臨床応用への挑戦〜」、羊土社、Vol25(17)164-171(2007)」、久野敦、平林淳「レクチンマイクロアレイによる糖鎖プロファイリングシステムの糖鎖バイオマーカー探索への活用」、遺伝子医学MOOK11号「臨床糖鎖バイオマーカーの開発と糖鎖機能の解明」、pp.34-39、メディカルドゥ(2008)参照)。
例えば、糖タンパク質が被検物質であれば糖鎖部分はレクチンマイクロアレイ上のレクチンによって認識されるため、コアタンパク質部分に対する抗体をその上から被せる(オーバーレイ)ことによって、被検糖タンパク質を標識したり、あるいは高度に精製したりすることなく、特定的に感度高く検出することができる。
具体的には下記の通り行った。
リコンビナントCSF1R糖タンパク質の糖鎖プロファイルを解析するために、抗体オーバーレイ・レクチンマイクロアレイ法による解析を行った。
レクチンマイクアロアレイは、45種の異なるレクチンが3スポットずつ固定化されているものを使用した(LecChipTM、株式会社グライコテクニカ)。上記アレイに、緩衝液で希釈したLDN陽性とLDN陰性のリコンビナントCSF1Rをそれぞれ200ng/wellアプライし、緩やかに振盪しながら20℃で12時間レクチンへの結合反応を行った。反応後、ヒトIgGを2μg/well添加し30分間ブロッキングを行った。次にアレイ上のブロッキング剤を含む試料溶液を除去し、専用の緩衝液で3回洗浄した後、20ug/mLヒトIgGを含む緩衝液で100倍に希釈したビオチン化抗CSF1Rポリクローナル抗体(R&D Systems)を添加し、緩やかに振盪しながら20℃で1時間抗体の結合反応を行った。反応後、抗体溶液を除去し専用緩衝液で3回洗浄した後、緩衝液で5000倍に希釈したCy3結合ストレプトアビジン(GEヘルスケア)を添加し、緩やかに振盪しながら20℃で1時間二次反応を行った。 反応後、二次反応液を除去し専用緩衝液で3回洗浄した後、株式会社グライコテクニカ製レクチンマイクロアレイ用スキャナー(GlycoStationTM Reader 1200)を用いてシグナル強度を測定した。バックグラウンド値を引いた真値算出後、各レクチン3スポット間の平均値を算出し、全レクチンで最大のシグナル強度を基準値と定めて、相対値を求め、数値化を行った(図10)。
(5−3)rCSF1Rの糖鎖構造解析
上記の精製したrCSF1Rを用いて、IGOT法にてN結合型糖鎖付加部位を決定し、さらにGlycoRidge法によりN結合型糖鎖付加部位ごとに糖鎖構造解析を行った。
ここで、GlycoRidge法は、本発明者らが開発したリコンビナントタンパク質のペプチド配列ならびに糖鎖構造の解析技術(Noro E, et al, J Proteome Res. 2015 Sep 4;14(9):3823-34.)であり、概ね以下の手順で行う。
リコンビナント糖タンパク質をDTTおよびヨードアセトアミドにより還元アルキル化し、トリプシン消化後、回収した糖タンパク質を酸性条件下(pH2以下)で高温加熱(例えば、80℃、2時間加熱)しシアル酸を切除する。この糖ペプチドをLC/MS法で分析し、個々の糖ペプチドシグナルの精密質量をリスト化する。糖鎖付加部位を含むペプチドの計算質量と、観測した糖ペプチドの質量差から、糖鎖部分の単糖組成を推定し、推定された糖鎖モチーフを含むと推定される付加部位を同定する。糖ペプチドから遊離した糖鎖をMALDI-TOF MSで分析し、推定糖鎖モチーフを含有すると思われる組成の糖鎖から、推定糖鎖モチーフに対応する断片イオンが検出されれば推定糖鎖モチーフ及びその付加位置(ペプチド配列)が正しかったことが確認できる。
具体的には以下の手順で行った。
組換え体CSF1Rを還元アルキル化(タンパク質と等重量のDTT、およびヨードアセトアミド (タンパク質×2.5倍重量)で反応させ、その後透析するなどの常法に従う)の後、トリプシン消化し、アミド80カラム(東ソー株式会社: TOSOH)で糖ペプチドを回収した。これを酸性条件下(pH〜2)、80℃、2時間加熱し、シアル酸を切除した。この糖ペプチドをLC/MS法で分析し、個々の糖ペプチドシグナルの精密質量をリスト化した(誤差は2ppm以下:サーモサイエンティフィック社LTQ-Orbitrap Velos)。
糖鎖付加部位を含むペプチドの計算質量と、観測した糖ペプチドの質量差から、糖鎖部分の単糖組成(Hex)*i+(HexNAc)*j+(dHex)*k; Hex=Man/Gal, HexNAc=GlcNAc/GalNAc, dHex=Fucoseを推定した。推定された糖鎖組成(たとえばHex4+HexNAc5+Fuc1)からGalNAc-GlcNAc(=LacDiNAc)モチーフを含むと推定される付加部位を同定した。糖ペプチドから遊離した糖鎖をMALDI-TOF MSで分析し、LacDiNAcを含有すると思われる組成の糖鎖(以下、LDN糖鎖ともいう)から、HexNAc-HexNAc断片イオンが検出され、その存在を確認した。
その結果、市販CSF1Rタンパク質(図11)および標準CSF1R糖タンパク質(図12)における糖ペプチドを同定し、糖鎖の付加位置を明らかにした(図13)。標準CSF1R糖タンパク質では73Asnおよび153Asnの糖鎖にWFA陽性となる(エピトープとなる)LacdiNAc構造(LDN糖鎖)と結合することを確認した。
(実施例6)LDN欠損株を用いた組換えCSF1R上のLDN糖鎖位置の確認
(6−1)LDN欠損株の構築
(実施例5)の(5−1)で得られたrCSF1Rを産生する形質転換HEK293細胞に対してLDN糖鎖特異的な転移活性を有する糖転移酵素であるB4GALNT3及びB4GALNT4をコードする遺伝子に、CRISPR/Cas9システム(Jennifer A. Doudna, et al., Science 28 Nov 2014:Vol. 346, Issue 6213,DOI: 10.1126/science.1258096)で不活性型変異を導入することによりLDN欠損株を作製し、LDN糖鎖(WFAの結合する糖鎖)を欠損した標準CSF1R糖タンパク質を産生させた。
具体的には、LDNが発現しているHEK293細胞において、Invitrogen社のGeneArt CRISPR Nuclease Vector Kitを用いて、B4GALNT3、B4GALNT4遺伝子に連続して変異を導入した。B4GALNT3への変異の導入のために、exon2に設計した(配列番号7)に示される標的配列をGeneArt CRISPR Nuclease CD4 Vectorにクローニングしたプラスミドを構築し、Lipofectamine LTX (Invitrogen) を用いてHEK293細胞にトランスフェクションした。24〜48時間後、CD4 Enrichment Kit (Invitrogen) を用いて、プラスミドが導入された細胞を選別し、限界希釈法により複数のシングルクローンを単離した。単離したシングルクローン株のゲノムDNAから(配列番号8)及び(配列番号9)に示される塩基配列からなるプライマーセットで標的部位周辺の配列をPCRで増幅し、塩基解読して、3000bpからなるB4GALNT3遺伝子のコーディング領域の209番目にアデニン挿入によるフレームシフト変異が導入されていることを確認した。
続いて、B4GALNT4への変異の導入のために、exon2に設計した(配列番号10)に示される標的配列をGeneArt CRISPR Nuclease CD4 Vectorにクローニングしたプラスミドを構築し、Lipofectamine LTX を用いてB4GALNT3変異細胞にトランスフェクションした。同様にCD4陽性のシングルクローンを単離の後、(配列番号11)及び(配列番号12)に示される塩基配列からなるプライマーセットで標的部位周辺の配列をPCRで増幅し、塩基解読して、3120bpからなるB4GALNT4遺伝子のコーディング領域の184番目のシトシン欠失によるフレームシフト変異が導入されていることを確認した。
(6−2)LDN欠損株産生rCSF1R上の糖鎖構造との比較による、LDN結合位置の確認
(実施例3)の(3−3)と同様の手法で、LDN欠損株が産生する変異rCSF1R上の糖鎖構造とその糖鎖位置を決定し(図13)、rCSF1Rの73位及び153位の位置に結合した糖鎖中に、標準CSF1RではLDN糖鎖が含まれるが、市販CSF1R(NS0)では失われていることが確認できた。
(実施例7)抗CSF1R抗体の作製
(7−1)CSF1Rタンパク質のマウスへの免疫
市販のリコンビナントCSF1Rタンパク質(R&D Systems Inc. 329-MR-100)をマウス(Balb/cマウス、8週齢のメス)に免疫した。生理食塩水に溶解したCSF1Rタンパク質を完全フロイント アジュバントと混合し、これを初日(Day 0)に50 μg分、Day 14に25 μg分、Day 29に25 μg分、Day 42に25 μg分、Day 66に10 μg分を腹腔注射して免疫した。マウスの眼窩採血を定期的に行い、血清中の抗原に対する抗体価の上昇をモニタリングしながら免疫を行った。
抗体価が十分に上昇したことを確認した免疫マウスから抗体産生細胞を採取した。採取は、最終免疫の日から2〜5日後が好ましいため、3日後に採取した。抗体産生細胞としては、脾細胞、リンパ節細胞、末梢血細胞等が挙げられるが、脾細胞又は局所リンパ節細胞が好ましい。マウスからの抗体産生細胞の採取方法は、当該分野で公知の技術に従って行えばよい。そこで、脾細胞を採取し、後述の融合作業を行った。
(7−2)ハイブリドーマの作製
続いて、抗体産生細胞と骨髄腫(ミエローマ)細胞との細胞融合を行うことで、抗CSF1Rモノクローナル抗体を生産するハイブリドーマを作製することができる。
免疫マウス由来脾細胞とマウス骨髄腫細胞(P3U1細胞)を使用して、常法(後述)に従い、それぞれの細胞をRPMI培地で洗浄した後に混合し、細胞融合促進剤(PEG1500)による細胞融合作業を行った。脾細胞とマウス骨髄腫細胞(P3U1)の混合比率は8:1にて行った。細胞融合後、選択培地としてHAT培地(RPMI1640培地に100単位/mLペニシリン、100 μg/mLストレプトマイシン及び10% 牛胎児血清(FBS)、10-4Mヒポキサンチン、1.5×10-5Mチミジン及び4×10-7Mアミノプテリンを加えた培地)にて培養を行い、融合細胞のみが生存するように選択的な培養を行った。選択培地で培養開始後約10日以降に生育してくる細胞をハイブリドーマとして選択するため、次に限界希釈法によって、モノクローンの細胞を得た。具体的には、96穴培養プレートに細胞溶液(濃度)を濃いものから薄いものへと希釈系列を作製するようにして播種し、数の限定された細胞由来のハイブリドーマ細胞群を選択するとともに、後述のスクリーニングによってCSF1Rに対する抗体を産生するクローン(を含む96ウェルプレートの陽性ウェル)を選択した。
スクリーニング方法は以下の通りである。
増殖してきたハイブリドーマの培養上清中に、目的とする抗CSF1Rモノクローナル抗体が含まれる否かを酵素免疫測定法(ELISA法)によりスクリーニングした。ハイブリドーマを培養したウェル中に含まれる培養上清の一部を採取し、免疫原として使用したCSF1Rリコンビナントタンパク質に対する結合活性を指標とした。CSF1Rリコンビナントタンパク質を96ウェルプレートに固相化(1 μg/mLで100 μL/well)し、ブロッキング後、培養上清を100 μL入れて37度にて1時間反応させた。ELISAによるスクリーニングと限界希釈法(具体的には、96穴培養プレートに1ウェルあたり0.3個程度の細胞が含まれる濃度にて播種した)にて、陽性のクローンを選択していった。一次スクリーニング時には205ウェルの陽性ウェルがあり、これを展開してさらに絞り込み、二次スクリーニング時は100ウェル、そして最終的に抗CSF1Rモノクローナル抗体産生細胞であるハイブリドーマを33クローン選抜した。
最終的に上記スクリーニング法によって選抜された33クローンの抗CSF1Rモノクローナル抗体産生ハイブリドーマを、それぞれCSR-1〜CSR-33と命名した(表5)。
抗体の精製を行うために、得られたハイブリドーマ細胞の培養上清を100 mL〜1 L程度調整した。これをプロテインGが固相化されたカラムを使用したアフィニティークロマトグラフィー法によって精製を行った。
(7−3)ハイブリドーマの寄託
これらのクローンうち、典型的なタイプの抗CSF1Rモノクローナル抗体CSR-3、CSR-4、CSR-18、CSR-21及びCSR-30を産生するハイブリドーマは、CSR-3(受託番号:NITE BP-02117)、あるいはCSR-4(受託番号:NITE BP -02118)CSR-18(受託番号:NITE BP -02119)CSR-21(受託番号:NITE BP -02120)CSR-30(受託番号:NITE BP -02121)として、2015年9月10日付で独立行政法人 製品評価技術基盤機構(NITE)特許微生物寄託センター(NPMD)に寄託された後、2016年9月7日付で国際寄託に移管された。
これらのハイブリドーマ細胞株は、RPMI1640に10%FBSを添加した培地を用いて37℃で好適に培養することができる。
また、抗CSF1Rモノクローナル抗体は、慣用的技術によって回収可能であり、抗体の精製が必要な場合には、イオン交換クロマトグラフィー法、プロテインA又はプロテインG等によるアフィニティークロマトグラフィー法、ゲルクロマトグラフィー法、硫酸アンモニウム塩析法等公知の方法を用いて精製することができる。
(実施例8)各抗CSF1R抗体の性能評価
(8−1)ウェスタンブロット法による生化学的解析
抗CSF1R抗体を使用して、該分子のウェスタンブロット法による検出を行った。ウェスタンブロット法は一般的な方法に従った。まず、(図14左)に示すように、CSF1R(M-CSFR)ほかサンプルをSDS-PAGE還元条件下で10%ポリアクリルアミドゲルを用いて電気泳動し、PVDF膜に転写した。5%スキムミルク含有PBSでブロッキング後、一次抗体(抗CSF1R抗体の各クローン)と室温にて1時間反応させた。PVDF膜の洗浄後、二次抗体(0.5μg/mLのHRPラベル化抗マウスIgG抗体)と室温で1時間反応させた。これらのPVDF膜を洗浄後ウェスタンブロッティング検出試薬(Perkin Elmer社)により化学発光にて検出した。
(結果)
結果を図14右表に示す。サンプルとしてM-CSFR (CSF1R)および細胞株THP-1の培養上清、そして、陰性コントロールとしてのヒトIgG、His-Tag融合タンパク質、ウシ血清に対する反応性を確認した。その結果、18クローンに反応性が認められ、これらがCSF1Rに対するモノクローナル抗体であることが示された。また、各クローンについて(表5)に結果をまとめたものを示しておく。
(8−2)各抗体クローンの認識する抗原エピトープ領域の解析
性能を評価するのにあたり、標準糖タンパク質としてさらに種類を拡充した。これらの糖タンパク質は、(図15)に示す通り、ドメインを削り込んで短くしたタンパク質として作製した。これらの各標準糖タンパク質に対する反応性をウェスタンブロット法によって検討した。ウェスタンブロット法は一般的な方法に従った。まず、各標準糖タンパク質サンプルをSDS-PAGE還元条件下で10%ポリアクリルアミドゲルを用いて電気泳動し、PVDF膜に転写した。5%スキムミルク含有PBSでブロッキング後、一次抗体(抗CSF1R抗体の各モノクローナル抗体クローン)と室温にて1時間反応させた。PVDF膜の洗浄後、二次抗体(0.5μg/mLのHRPラベル化抗マウスIgG抗体)と室温で1時間反応させた。これらのPVDF膜を洗浄後ウェスタンブロッティング検出試薬(Perkin Elmer社)により化学発光にて検出した(図16)。この解析の結果、(図17)に示す通り、各クローンの産生する抗体がどのタンパク質領域に反応するのかが明らかになった。
(実施例9)本発明で得られた抗CSF1R抗体を用いた抗体-抗体 ELISA測定系
(9−1)抗体-抗体 ELISA測定系による総CSF1R分子の検出
抗CSF1Rモノクローナル抗体を使用して、該分子(総CSF1R分子)の抗体-抗体 ELISA測定系による検出を行った。樹立した抗CSF1Rモノクローナル抗体をそれぞれELISAプレートに固相化し、検出側には市販の抗CSF1Rポリクローナル抗体を用いてELISA測定系への利用の可否についての検討を行った。抗体の組み合わせは一般的にELISAプレート固相化側でも検出側(液相側)でも、どちらに使用しても良く、感度が高くなる抗体の組み合わせにて検出系の構築を行う。一般的には感度が高く、バックグラウンドとなるノイズが少なくなる組み合わせにて検出系の構築を行う。
まず、各抗体をPBSで4μg/mLとなるように希釈し、ELISA用マイクロプレートに100uL/ウェルずつ添加した。4℃で一晩各抗体をプレートに吸着させた後、溶液を廃棄して、ウェルをPBS-T (PBS, 0.05% Tween-20)洗浄した。次に、ブロッキング液(PBS with 3% BSA)を300μL/ウェルで加えて、ブロッキングをした。前記ブロッキング液を廃棄し、洗浄した後、サンプル(CSF1Rタンパク質:R&D Recombinant Human M-CSFR Fc Chimera Cat#329-MR-100)の溶液100μLを各ウェルに添加した。37℃で2時間反応させた後、ウェル中の溶液を廃棄し、PBS-Tにて洗浄した後、ビオチン標識抗CSF1R抗体(R&D biotinylated anti-CSF1R pAb Cat#BAF329)を2μg/mLに調製して、室温で1時間反応させた.その後、溶液を廃棄して洗浄後、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)標識ストレプトアビジン(Jackson社)溶液を1ウェルに100μL加えて1時間室温にて反応させた。反応液を廃棄、洗浄した後、1StepUltra TMB基質液(Pierce社)による発色を450nmの吸光度で測定した。
その結果、(図18)に示すように、多くの陽性クローンを確認出来た。また、これらでは陰性コントロールでは反応性が見られないことも合わせて確認された。モノクローナル抗体-ポリクローナル抗体ELISA系による反応性が確認されたが、他の組み合わせとしてポリクローナル抗体の他にモノクローナル抗体を用いても良い。その場合は、検出が可能な組み合わせにて行い、より感度の高い組み合わせを選択することが望ましい。
(実施例10)本発明で得られた抗CSF1R抗体を用いた抗体-WFAレクチン サンドイッチELISA測定系
(10−1)方法
ここでは、抗CSF1Rモノクローナル抗体を使用して、該分子の抗体-WFAレクチン サンドイッチELISA測定系による検出を行った。抗CSF1Rモノクローナル抗体をそれぞれELISAプレート固相化側に使用し、一方WFAレクチンを検出側に用いた抗体-レクチンサンドイッチELISA測定系での使用の可否について検討した。抗体はELISAプレート固相化側でも検出側(液相側)でも、どちらに使用しても良く、もう一方の側にはレクチンを使用して(つまり抗体が固相側の場合はレクチンを液相側に使用して)、サンドイッチの検出系にて行うものである。一般的には感度が高く、バックグラウンドとなるノイズが少なくなる組み合わせにて検出系の構築を行う。また、WFAレクチンは市販のものを使用しても良いし、リコンビナントWFA、特にLDN特異的な単量体リコンビナントWFA(srWFA)を使用しても良い。
各抗体をPBSで4μg/mLとなるように希釈し、ELISA用マイクロプレートに100uL/ウェルずつ添加した。4℃で一晩各抗体をプレートに吸着させた後、溶液を廃棄して、ウェルをPBS-T (PBS, 0.05% Tween-20)洗浄した。次に、ブロッキング液(PBS with 3% BSA)を300μL/ウェルで加えて、ブロッキングをした。前記ブロッキング液を廃棄し、洗浄した後、サンプル(CSF1Rリコンビナントタンパク質:R&D Recombinant Human M-CSFR Fc Chimera Cat#329-MR-100)の溶液100μLを各ウェルに添加した。37℃で2時間反応させた後、ウェル中の溶液を廃棄し、PBS-Tにて洗浄した後、ビオチン標識化したWFAレクチン(srWFA及びnWFA)をそれぞれ2μg/mLに調製して、室温で1時間反応させた。その後、溶液を廃棄して洗浄後、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)標識ストレプトアビジン(Jackson社)溶液を1ウェルに100μL加えて1時間室温にて反応させた。反応液を廃棄、洗浄した後、1StepUltra TMB基質液(Pierce社)による発色を450nmの吸光度で測定した。
(10−2)結果
抗CSF1Rモノクローナル抗体を固相側にし、検出側にWFAレクチンを使用した検出系での結果について、代表例としてCSR-3、CSR-4、CSR-18、CSR-21、CSR-30クローンの抗体について(図19、上段はsrWFA,下段はnWFA)に示す。逆に、WFAレクチンを固相側にし、検出側に抗CSF1Rモノクローナル抗体を使用した検出系での結果について、代表例としてCSR-3、CSR-4、CSR-18、CSR-21、CSR-30クローンの抗体について(図20、上段はsrWFA,下段はnWFA )に示す。これらの結果から多くのクローンの抗体について、抗原の濃度依存的に反応性が認められた。
図21(左はsrWFA,右はnWFA)は、LDN糖鎖特異的単量体リコンビナントWFA(srWFA)又は市販の天然WFA(nWFA)と、抗CSF1R抗体とを組み合わせたサンドイッチELISA系を構築し、(実施例5)HEK293細胞で作製したLDN糖鎖を有するリコンビナントCSF1Rと、(実施例6)糖鎖遺伝子ノックアウト細胞で作製したLDN糖鎖を持っていないリコンビナントCSF1R、および市販CSF1R(R&D Recombinant Human M-CSFR Fc Chimera Cat#329-MR-100)に対する反応性を比較した。
その結果、単量体リコンビナントWFAを用いた場合が、LDN糖鎖特異的にCSF1R分子を検出できていることが分かる。
(10−3)抗CSF1Rモノクローナル抗体の評価
各クローンが産生する抗CSF1R抗体について下記(表5)に結果をまとめた。
Figure 2017047813
(実施例11)抗体-WFAレクチン サンドイッチELISA測定系によるWFA + -CSF1R分子の検出
(実施例8)で作成した抗CSF1R抗体を使用して、該分子の抗体-WFAレクチンサンドイッチELISA測定系による検出を行った。抗CSF1R抗体をそれぞれELISAプレート固相化側と検出側に用いサンドイッチELISA測定系の検討を行った。抗体はELISAプレート固相化側でも検出側(液相側)でも、どちらに使用しても良く、もう一方の側にはレクチンを使用して(つまり抗体が固相側の場合はレクチンを液相側に使用して)、サンドイッチの検出系にて行った。また、WFAレクチンとしては、市販の天然WFA及び単量体リコンビナントWFA(srWFA)を使用した。
具体的には、各抗体をPBSで4μg/mLとなるように希釈し、ELISA用マイクロプレートに100uL/ウェルずつ添加した。4℃で一晩各抗体をプレートに吸着させた後、溶液を廃棄して、ウェルをPBS-T(PBS, 0.05% Tween-20)洗浄した。次に、ブロッキング液(PBS with 3% BSA)を300μL/ウェルで加えて、ブロッキングをした。前記ブロッキング液を廃棄し、洗浄した後、サンプル(実施例5)HEK293細胞で作製したLDN糖鎖を有するリコンビナントCSF1Rと、(実施例6)糖鎖遺伝子ノックアウト細胞で作製したLDN糖鎖を持っていないリコンビナントCSF1R、市販CSF1R(R&D Recombinant Human M-CSFR Fc Chimera Cat#329-MR-100)、および健常人血清プール(NHS))の溶液100μLを各ウェルに添加した。37℃で2時間反応させた後、ウェル中の溶液を廃棄し、PBS-Tにて洗浄した後、ビオチン標識化したWFAレクチン(あるいは単量体リコンビナントWFA: srWFA)をそれぞれ2μg/mLに調製して、室温で1時間反応させた.その後、溶液を廃棄して洗浄後、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)標識ストレプトアビジン(Jackson社)溶液を1ウェルに100μL加えて1時間室温にて反応させた。反応液を廃棄、洗浄した後、1StepUltra TMB基質液(Pierce社)による発色を450nmの吸光度で測定した。
その結果、(実施例8)で作成した抗CSF1R抗体CSR-3、CSR-4、CSR-18、CSR-21、CSR-30は、単量体srWFA、nWFAのいずれと組み合わせても、CSF1R分子上に存在するWFA/VVA結合性糖鎖を検出できることが示された(図22)。特に、LDN特異的な単量体srWFAはLDN糖鎖の有無を特異的に識別できることが示された(図22上段)。なお、nWFAでは僅かにLDN糖鎖を持たないrCSF1Rに対しても反応性が見られ、LDN以外の糖鎖にも反応していると考えられる。
(実施例12)抗体CRS-3を用いた抗体-WFAレクチンサンドイッチ、および抗体-抗体サンドイッチELISA測定系によるCSF1R分子の検出
(実施例8)で作製した抗CSF1R抗体(CSR-3)、WFAレクチン、および市販抗体(R&D Systems)を使用して、CSR-3-WFAレクチンサンドイッチELISAとCSR-3-市販抗体サンドイッチELISA測定系により、同じ濃度(の希釈系列)に調整したrCSF1R(LDN+)およびrCSF1R(LDN-)の検出を行った。
具体的には、各抗体をPBSで4μg/mLとなるように希釈し、ELISA用マイクロプレートに100uL/ウェルずつ添加した。4℃で一晩各抗体をプレートに吸着させた後、溶液を廃棄して、ウェルをPBS-T (PBS, 0.05% Tween-20)洗浄した。次に、ブロッキング液(PBS with 3% BSA)を300μL/ウェルで加えて、ブロッキングをした。前記ブロッキング液を廃棄し、洗浄した後、同じCSF1R濃度(の希釈系列)になるように調整した(実施例5)HEK293細胞で作製したLDN糖鎖を有するリコンビナントCSF1Rと(実施例6)糖鎖遺伝子ノックアウト細胞で作製したLDN糖鎖を持っていないリコンビナントCSF1R、および健常人血清プール(NHS))の溶液100μLを各ウェルに添加した。37℃で2時間反応させた後、ウェル中の溶液を廃棄し、PBS-Tにて洗浄した後、ビオチン標識化したWFAレクチン(あるいは単量体リコンビナントWFA: srWFA)あるいは市販ビオチン標識抗CSF1R抗体(R&D biotinylated anti-CSF1R pAb Cat#BAF329)をそれぞれ2μg/mLに調製して、室温で1時間反応させた.その後、溶液を廃棄して洗浄後、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)標識ストレプトアビジン(Jackson社)溶液を1ウェルに100μL加えて1時間室温にて反応させた。反応液を廃棄、洗浄した後、1StepUltra TMB基質液(Pierce社)による発色を450nmの吸光度で測定した。
その結果、(実施例8)で作成した抗CSF1R抗体(CSR-3)は、CSF1R (LDN+)およびrCSF1R (LDN-)のいずれも、ほぼ同じように検出できることを確認した(図23下段)。一方WFAレクチンで検出した場合はCSF1R(LDN+)を感度良く検出し、CSF1R(LDN-)の反応性は低い(図23上段)。また、srWFAを使用したときに、よりLDN糖鎖を含有するCSF1R特異的に検出が出来ていることが確認された。
(実施例13)抗体-VVAレクチンサンドイッチELISA測定系によるマーカー分子の検出
WFAレクチンの代わりに、VVAレクチンなどのLacdiNAc / GalNAc結合性レクチンを使用することも出来る。そこで、抗CSF1R抗体を使用して、該分子の抗体-VVAレクチンサンドイッチELISA測定系による検出を行った。抗CSF1R抗体をそれぞれELISAプレート固相化側と検出側に用いサンドイッチELISA測定系の検討を行った。抗体はELISAプレート固相化側でも検出側(液相側)でも、どちらに使用しても良く、もう一方の側にはレクチンを使用して(つまり抗体が固相側の場合はレクチンを液相側に使用して)、サンドイッチの検出系にて行うものである。一般的には感度が高く、バックグラウンドとなるノイズが少なくなる組み合わせにて検出系の構築を行う。
各抗体をPBSで4μg/mLとなるように希釈し、ELISA用マイクロプレートに100uL/ウェルずつ添加した。4℃で一晩各抗体をプレートに吸着させた後、溶液を廃棄して、ウェルをPBS-T (PBS, 0.05% Tween-20)洗浄した。次に、ブロッキング液(PBS with 3% BSA)を300μL/ウェルで加えて、ブロッキングをした。前記ブロッキング液を廃棄し、洗浄した後、サンプル(実施例5)HEK293細胞で作製したLDN糖鎖を有するリコンビナントCSF1Rと、(実施例6)糖鎖遺伝子ノックアウト細胞で作製したLDN糖鎖を持っていないリコンビナントCSF1Rおよび健常人血清プール(NHS))の溶液100μLを各ウェルに添加した。37℃で2時間反応させた後、ウェル中の溶液を廃棄し、PBS-Tにて洗浄した後、ビオチン標識VVAレクチン(Vector Laboratories)を2μg/mLに調製して、室温で1時間反応させた.その後、溶液を廃棄して洗浄後、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)標識ストレプトアビジン(Jackson社)溶液を1ウェルに100μL加えて1時間室温にて反応させた。反応液を廃棄、洗浄した後、1StepUltra TMB基質液(Pierce社)による発色を450nmの吸光度で測定した。
抗CSF1R抗体(CSR-3)を固相側に用いた結果について(図24)に示す。この結果から、VVAレクチンを用いた検出系によってもWFA+-CSF1Rを検出・測定することが出来ることが明らかとなった。
(実施例14)本発明の抗CSF1R抗体によるWFA + -CSF1Rの検出
(14−1)WFAレクチン−抗CSF1R抗体サンドイッチELISA系による検出
本実施例では、(実施例8)で作製した抗CSF1Rモノクローナル抗体が肝疾患マーカー分子WFA+-CSF1Rの検出に使用可能であることを確認するために、非特許文献2に記載の方法に従って、抗CSF1R抗体-WFAレクチンサンドイッチELISA法に適用し、血清中のWFA-CSF1R値を測定した。
具体的には、被検体血清として、健常人血清プール血清(17名分、NHS)、HBV感染肝細胞がん患者プール血清(K1)、HCV感染肝がん患者プール血清(K2)、HCV感染肝細胞がん患者(脾摘済み)プール血清(K3)、を使用した。(実施例8)で作製した抗CSF1R抗体のうちCSR-3、CSR-4、CSR-18、CSR-21、CSR-30を用い、コートしたMaxisorp(登録商標)イムノプレ−ト上に血清試料(遮断緩衝液で1:20に希釈)を37℃にて2時間作用させた。その後、緩衝液で10分洗浄し、ビオチン化WFA(Vector Laboratories)を検出用プローブとして反応させた。次いで、洗浄後にHRP-結合ストレプトアビジンの1/50,000希釈液を100μ/wellで反応させた。反応後、緩衝液で6回洗浄し、基質溶液(100μL、Thermo Fisher Scientific社)を各ウェルに加え、適切な時間反応をさせた後、1M硫酸溶液で反応を終了させた。吸光度系にて450nm波長の吸光度を測定した。
その結果、抗体のクローン毎に差は認められるが、いずれの抗CSF1R抗体クローン(CSR-3、CSR-4、CSR-18、CSR-21、CSR-30)も健常人と比較して肝細胞がん患者でシグナルの増強が認められ、検査系に使用可能であることが確認された(図25)。
なお、(表5)に記載された他の抗CSF1R抗体(CSR-5、CSR-6など)もCSR-3、CSR-4、CSR-18の結果ほどの差ではないが、血清試料中の肝細胞がん検出用ELISAに用いることができることを示している(図26)。
(14−2)VVAレクチン−抗CSF1R抗体サンドイッチELISA系による検出
本実験は、WFA に代えてVVAレクチンを用いても、抗CSF1R抗体とのサンドイッチELISAで、WFAと同様に肝細胞がん患者由来pool血清と健常人由来のpool血清とを識別できることを確認するための実験である。
具体的には、(14−1)と同様に、健常人血清プール血清(17名分、NHS)、HBV感染肝細胞がん患者プール血清(K1)、HCV感染肝がん患者プール血清(K2)、HCV感染肝細胞がん患者(脾摘済み)プール血清(K3)を被検体血清とし、(実施例8)で作製した抗CSF1R抗体のうちCSR-18を用いて、(14−1)の方法にならい、ビオチン化WFA(Vector Laboratories)及びビオチン化VVA(Vector Laboratories)を検出用プローブとして反応させた。
次いで、洗浄後にHRP-結合ストレプトアビジンの1/20,000希釈液を100μ/wellで反応させた。反応後、緩衝液で4回洗浄し、基質溶液(100μL、Thermo Fisher Scientific社)を各ウェルに加え、適切な時間反応をさせた後、1M硫酸溶液で反応を終了させた。吸光度系にて450nm波長の吸光度を測定した。
その結果、抗体CSR-18とVVAレクチンとのサンドイッチELISA測定系においても、WFAレクチンとのサンドイッチELISA測定系の場合と同様に、健常人と比較して肝細胞がん患者でシグナルの増強が認められ、肝細胞がん患者血清pool血清と健常人のpool血清とを識別できることが確認された(図27)。
このことは、VVAレクチンが、実際の臨床体液試料を用いた場合でも、WFAレクチンと遜色なく、肝細胞がん患者で特異的に増大するCSF1R上の糖鎖に対する結合性を発揮すること、すなわちVVAレクチンを抗CSF1R抗体と組み合わせたアッセイ系に使用することで、臨床体液試料中の「WFA/VVAレクチン結合性糖鎖含有CSF1R量」を測定可能であることを意味する。
(実施例15)「全CSF1R量」測定用のELISAとして用いることのできる「CSF1R特異的糖鎖結合性レクチン-抗CSF1R抗体サンドイッチELISA」系の構築
本実施例では、本発明の肝細胞がん発症リスク指数である「WFA+-CSF1R%」の測定、すなわち被検試料中の「全CSF1R量」に対する「WFA/VVA結合性糖鎖を有するCSF1R量」の比率は、「CSF1R特異的レクチン結合性糖鎖を有するCSF1R量」に対する「WFA/VVA結合性糖鎖を有するCSF1R量」を測定すれば良いことを実証する。
具体的には、「CSF1R特異的レクチン」として典型的な「RCA120, DSA, PHA-E4, SNA, SSA, TJA-I, LEL, STL, ConA」を用い、CSF1R特異的レクチン-抗CSF1R抗体サンドイッチ測定系を構築し、当該レクチン-抗体サンドイッチアッセイ系が全CSF1R測定のための2つの抗CSF1R抗体を使用するサンドイッチ測定系に代え使用できることを実証する。
なお、各レクチンによって糖鎖反応性(結合性)がそれぞれ異なるので、本実施例での測定値を比較する判定工程では、WFA(又はVVA)-CSF1R値との相対値での値(比率)として算出されたものを使用した。
(15−1)WFA+-CSF1Rおよび全CSF1R測定における希釈系の検討(BSA希釈液、10%NHS希釈液)
<方法>
WFA+-CSF1Rおよび全CSF1Rは、本発明者らの既報(非特許文献2)の方法を一部改変して行った。Nunc Immobilizer Aminoプレート(サーモサイエンティフック、43613)を4μg/mL(実施例8)で作製した抗CSF1R抗体(CSR-3)で2時間コートし、洗浄バッファー(0.05% Tween20含有PBSバッファー, pH 7.4)で洗浄後、TBS(50mM Tris-pH8.0, 0.15M NaCl)により終夜4℃でブロッキングした。サンプルとして、(実施例5)の組換えCSF1R (LDN+)と(実施例6)の組換えCSF1R (LDN-)をそれぞれ疾患検体、正常検体由来CSF1Rの代替として用いた。希釈バッファーとして3%BSA, 0.1%Tween20含有PBSバッファー, pH7.4(BSA希釈液)または10%NHS含有の上記BSA希釈液(10%NHS希釈液)を用意し、上記組換えCSF1R(rCSF1R)の希釈溶液(1.11〜810 ng/mlの範囲で複数段階を設定)を調製し、100μlをプレートにアプライして室温にて2時間振盪した。洗浄バッファーで4回洗浄後、検出用プローブとして、洗浄バッファーで希釈したビオチン結合の各レクチン(250〜20,000倍希釈)[WFA(Vector Laboratory, B-1355, 5,000倍希釈)、VVA (Vector Laboratory, B-1235, 250倍希釈)、RCA120 (Vector Laboratory, B-1085, 20,000倍希釈)、DSA(Vector Laboratory, B-1185, 10,000倍希釈)、PHA-E4(J-オイルミルズ, J211, 2,000倍希釈)、SNA(Vector Laboratory, B-1305, 10,000倍希釈)、SSA(J-オイルミルズ, J218, 3,000倍希釈)、TJA-1(生化学工業, 300443, 500倍希釈)、LEL(Vector Laboratory, B-1175, 5,000倍希釈)、STL(Vector Laboratory, B-1165, 1,000倍希釈)、Con A(Vector Laboratory, B-1005, 20,000倍希釈)]、または抗CSF1R抗体(R&D Systems, BAF329、2,000倍希釈)を添加し室温にて1時間半振盪した。再び洗浄バッファーで4回洗浄後、20,000倍希釈HRP結合ストレプトアビジン溶液とともに1時間インキュベートし洗浄バッファーで4回洗浄した。各ウェルにTMB基質溶液(1-Step Ultra, サーモサイエンティフィック、34028)を加え反応を1M H2SO4で止めた後、450nmにおける吸光度を測定しELISAシグナル値とした。
<結果>
上記ELISAにおいて検出用プローブとして抗CSF1R抗体を用いた場合のシグナル値を全CSF1R測定値とし、組換えCSF1R [LacdiNAc(LDN)糖鎖(+)]と[LDN糖鎖(-)]の値が一致するよう濃度を調整した。濃度調整後の全CSF1R測定値はBSA希釈液、10%NHS希釈液のどちらを用いた場合もよく一致した(図28A,B)。このことはBSA希釈液系、10%NHS希釈液系のどちらでも、本測定系が問題無く使用可能であることを示している。
(15−2)全CSF1R値の代用としての各種CFS1R特異的レクチンの評価
全CSF1R値の代用としての各種レクチンを評価するために、検出用プローブとしてビオチン標識各レクチンを用いた場合のシグナル値を濃度依存性のある範囲で平均値により標準化したものを相対的シグナル値として用いた。各レクチン-CSF1R相対的シグナル値に対するWFA-CSF1R相対的シグナル値の比を算出し、rCSF1R (LDN+)とrCSF1R (LDN-)それぞれ2点または3点のCSF1R濃度における平均値を、抗CSF1R抗体を用いた場合の全CFS1R値と比較した(図29)。いずれのレクチンも抗CSF1R抗体を用いた場合と同様にrCSF1R (LDN+)の値がrCSF1R (LDN-)に対して高く、rCSF1R (LDN-)に対するrCSF1R (LDN+)の比は抗CSF1R抗体の場合が2.2であったのに対してレクチンの場合は2.0±0.25(1.7〜2.6)であった。このことからRCA120、DSA、PHA-E4、SNA、SSA、TJA-1、LEL、STL、Con Aのいずれのレクチンも抗CSF1R抗体の代用として全CSF1R値の測定に用いることができる。以上より、全CSF1R値の代用として、「CSF1R特異的な共通糖鎖結合性レクチン」である各種レクチンの数値によって評価することが出来ると言える。また、疾患特異的なものとして、WFA-CSF1Rの代わりにVVA-CSF1Rも同様に測定、計算した結果も図29に示している。
また、レクチンはそれぞれが認識する糖鎖に対して異なる結合力を有するので、ELISAシグナル値(450nmにおける吸光度、図29)はレクチンに依って強弱を認めている。そこで、測定対象CSF1R分子の濃度に補正して比較した。補正の方法は以下の通りである。
rCSF1R(LDN+)タンパク質は、前述の図13にもある通り、LDN糖鎖を有しているが、そのLDN糖鎖の陽性率は全てのタンパク質のうちの約60%である。そこでrCSF1R(LDN+)濃度の補正を係数0.6として計算し補正値とした。このrCSF1R (LDN+)補正値を用いて標準曲線を作成し、これにrCSF1R (LDN-)シグナル値を当てはめて補正値(補正した相対濃度値)を算出し、相互に比較できるrCSF1R (LDN+)補正値、rCSF1R (LDN-)補正値として、これをグラフ化した(図30)。この補正値での結果も同様に、いずれのレクチンも抗CSF1R抗体を用いた場合と同様にrCSF1R (LDN+)の値がrCSF1R (LDN-)に対して高く、WFAと各共通糖鎖プローブレクチンとの比率において、rCSF1R (LDN-)とrCSF1R (LDN+)に対する値の相対比は3.8±0.9(2.7〜5.7)あった。図30のように、平均値ではどのレクチンでもほぼ同じような量、傾向を示しており、このことからRCA120、DSA、PHA-E4、SNA、SSA、TJA-1、LEL、STL、Con Aのいずれのレクチンも抗CSF1R抗体の代用として全CSF1R値の測定に用いることができると考えられる。以上より、全CSF1R値の代用として、「CSF1R特異的な共通糖鎖結合性レクチン」である各種レクチンの数値によって評価することが出来ると言える。
(15−3)VVAを検出用プローブとした場合の希釈系の検討
次に、(15−1)に記載のサンプルを検出用プローブにVVAを用いて測定したところ、組換えCSF1R (LDN+)が濃度依存性にシグナル値が上昇したのに対して、(LDN-)ではシグナル値が殆ど上昇せず、またこの結果は10%NHS希釈液でも変わらなかったことから、VVAは疾患由来CSF1Rと正常CSF1Rを鑑別できるプローブであることが示された(図31A,B)。また、このことはバッファー(BSA希釈液)系、血清(10%NHS希釈液)系のどちらでも、本願の測定系が問題無く使用可能であることを示している。
(15−4)抗体-各CSF1R特異的レクチン測定系における希釈系の検討
また、同じ濃度(の希釈系列)に調整したrCSF1R (LDN+)およびrCSF1R (LDN-)を用いて、抗体-各CSF1R特異的共通糖鎖プローブレクチンでのサンドイッチ(ELISA)検出による全CSF1R測定を行った。ここでは、各共通糖鎖プローブレクチンとして幾つかをランダムに選択(LEL, STL, TJA-I)し、系の確認を行った。その結果、濃度調整後の全CSF1R測定値はBSA希釈液、10%NHS希釈液のどちらを用いた場合もよく一致していた(図32A〜F)。このことはバッファー(BSA希釈液)系、血清(10%NHS希釈液)系のどちらでも、本願の測定系が問題無く使用可能であることを示している。
(15−5)
以上より、前記(15−1)〜(15−4)において構築された検出系(抗体-レクチン サンドイッチELISA系)が血清でも問題無く測定を行うことが出来るものであることが示唆された。
また、これによって、例えばWFAやVVA などの疾患特異的プローブ(レクチン)とCSF1R共通糖鎖に結合性を有するプローブ(レクチン)を組み合わせたマルチレクチンアッセイによって、疾患特異的な糖鎖を有する分子量を測定することによって、その疾患に罹患しているのかどうかを判定することが可能であることが実証された。
液体クロマトグラフィーや、抗体を用いた免疫沈降法・磁気ビーズ分離などの分離精製方法によってサンプルから分離精製されたターゲットとなる分子(CSF1Rタンパク質)の、複数のレクチンに対する結合量を測定することでも同様に疾患を判定することが出来る。このようなマルチレクチンアッセイによる測定方法は、臨床試料から分離精製されたCSF1Rタンパク質を1つないし2つ以上のレクチンでサンドイッチした複合体を形成させ、これを検出(定量)することで行うことが出来る。CSF1Rタンパク質とレクチンとの複合体の検出については、本願で行っているようなサンドイッチELISA系で検出することが出来る。本実施例で用いた「抗体-レクチンサンドイッチELISA」に代えて、疾患特異的プローブ(すなわちWFA又はVVAレクチン)またはCSF1R特異的共通糖鎖に結合性を有するプローブ(RCA120、DSA、PHA-E4、SNA、SSA、TJA-1、LEL、STL又はCon Aレクチン)のいずれか一方を固相化した後、臨床試料から分離精製されたCSF1Rタンパク質を加えて反応させ、さらにもう一方を液相側(検出側)にしてサンドイッチするようなELISA系として、(マルチ)レクチン-タンパク質複合体を形成させ、この複合体の量を検出してもよく、又はレクチン-レクチン サンドイッチ検出系による系でもよい。
他にも、キャピラリー電気泳動法や、マイクロフリュイディクス技術を用いた分離・検出システムによって、CSF1Rタンパク質とレクチンとの複合体を検出することも出来る。さらには、酵素免疫測定法、二抗体サンドイッチELISA法、金コロイド法、放射免疫測定法、ラテックス凝集免疫測定法、蛍光免疫測定法、ウェスタンブロッティング法、免疫組織化学法、表面プラズモン共鳴法(SPR法)又は水晶振動子マイクロバランス(QCM)法等による定性的又は定量的手法などでも同様に測定が出来る。
1.マウス−マウスハイブリドーマ「CSR-3」
受託番号:NITE BP-02117
寄託日:2015年9月10日(2016年9月7日付で国際寄託に移管)
寄託当局:独立行政法人製品評価技術基盤機構、特許微生物寄託センター(NPMD)
2.マウス−マウスハイブリドーマ「CSR-4」
受託番号:NITE BP-02118
寄託日:2015年9月10日(2016年9月7日付で国際寄託に移管)
寄託当局:独立行政法人製品評価技術基盤機構、特許微生物寄託センター(NPMD)
3.マウス−マウスハイブリドーマ「CSR-18」
受託番号:NITE BP-02119
寄託日:2015年9月10日(2016年9月7日付で国際寄託に移管)
寄託当局:独立行政法人製品評価技術基盤機構、特許微生物寄託センター(NPMD)
4.マウス−マウスハイブリドーマ「CSR-21」
受託番号:NITE BP-02120
寄託日:2015年9月10日(2016年9月7日付で国際寄託に移管)
寄託当局:独立行政法人製品評価技術基盤機構、特許微生物寄託センター(NPMD)
5.マウス−マウスハイブリドーマ「CSR-30」
受託番号:NITE BP-02121
寄託日:2015年9月10日(2016年9月7日付で国際寄託に移管)
寄託当局:独立行政法人製品評価技術基盤機構、特許微生物寄託センター(NPMD)

Claims (32)

  1. 肝硬変患者における肝細胞がんの発症リスク値の算出方法であって、(1)〜(4)の工程を含む算出方法;
    (1)肝硬変患者の被験者から採取された一定容量の体液試料(以下、単に被検試料ともいう。)中の全CSF1R量(A)を測定する工程、
    (2)被検試料中のWFA及び/又はVVA(以下、WFA/VVAと表記する。)結合性糖鎖含有CSF1R量(B)を測定する工程、及び
    (3)全CSF1Rに占めるWFA/VVA結合性糖鎖を含有するCSF1R量の比率(C)を、「C(%)=(B)/(A)×100」として算出する工程、
    (4)工程(3)で得られたC%の値を被験者の肝細胞がんの発症リスク値と決定する工程。
  2. (1)の全CSF1R量を測定する工程が、少なくとも2種類の抗CSF1R抗体を用いるサンドイッチアッセイ系により測定するか、又は被検試料から抗CSF1R抗体を用いてCSF1Rを精製し、精製CSF1R量を測定することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
  3. (1)の被検試料中の全CSF1R量(A)を測定する工程が、被検試料中のCSF1R特異的レクチン結合性糖鎖含有CSF1R量を測定するものであり、少なくともCSF1R特異的レクチンと、抗CSF1R抗体とを含むサンドイッチアッセイ系により測定するか、又は被検試料から抗CSF1R抗体を用いてCSF1Rを精製し、CSF1R特異的レクチンと結合する精製CSF1R量を測定することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
  4. CSF1R特異的レクチンが、RCA120, DSA, PHA-E4、SNA、SSA、TJA-I、LEL、STL及びConAからなる群から選択される少なくとも1つのレクチンである、請求項3に記載の方法。
  5. (2)のWFA/VVA結合性糖鎖含有CSF1R量(B)を測定する工程が、少なくともWFA/VVAレクチンと、抗CSF1R抗体とを含むサンドイッチアッセイ系により測定するか、又は被検試料から抗CSF1R抗体を用いてCSF1Rを精製し、LDN特異的レクチンと結合する精製CSF1R量を測定することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
  6. WFA/VVAレクチンが、天然WFA、リコンビナントWFA、単量体リコンビナントWFA、及びVVAのいずれかのレクチンから選択される少なくとも1つのレクチンである、請求項5に記載の方法。
  7. 工程(1)及び工程(2)が、少なくともCSF1R特異的レクチン及びWFA/VVAレクチンと抗CSF1R抗体とを用いて同時に行われる工程であって、両レクチン及び抗CSF1R抗体とを含む同一のサンドイッチアッセイ系を用いて測定するか、又は被検試料から抗CSF1R抗体を用いてCSF1Rを精製した後、各レクチンと結合するCSF1R量を同一のアッセイ系で測定することを特徴とする、請求項3〜6のいずれか一項に記載の方法。
  8. 肝硬変患者における肝細胞がんの発症リスク値を判定する方法であって、(1)〜(3)の工程を含む方法;
    (1)肝硬変患者である被験者の肝細胞がんの発症リスク値(C%)を請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法に従い算出する工程、
    (2)あらかじめ十分な母数の肝細胞がん未罹患肝硬変患者から採取された各体液試料に対し、工程(1)と同じ算出工程により、各々の全CSF1Rに占めるWFA/VVA結合性糖鎖を含有するCSF1R量の比率(Cn)と、各々の患者をフォローアップして得た肝細胞がん発症率データと対比させて肝細胞がん発症の最適カットオフ値(M%)を算出する工程、
    (3)工程(1)で算出された肝細胞がんの発症リスク値(C%)を(2)で算出された最適カットオフ値(M%)と比較して上回っている場合に被験者の肝細胞がん発症リスクが有意に高いと判定し、最適カットオフ値未満であれば発症リスクが有意に低いと判定する方法。
  9. 前記最適カットオフ値が35.0±10.0%の値である請求項8に記載の方法。
  10. 肝硬変患者における予後判定指数値の算出方法であって、(1)及び(2)の工程を含む方法;
    (1)肝硬変患者である被験者から採取された一定容量の体液試料(被検試料)中のWFA/VVA結合性糖鎖を含有するCSF1R量(B)を測定する工程、
    (2)工程(1)で得られたBng/mlの値を、被験者の予後判定指数値と決定する工程。
  11. (1)のWFA/VVA結合性糖鎖含有CSF1R量(B)を測定する工程が、少なくともWFA/VVAレクチンと、抗CSF1R抗体とを含むサンドイッチアッセイ系により測定するか、又は被検試料から抗CSF1R抗体を用いてCSF1Rを精製し、LDN特異的レクチンと結合する精製CSF1R量を測定することを特徴とする、請求項10に記載の方法。
  12. WFA/VVAレクチンが、天然WFA、リコンビナントWFA、単量体リコンビナントWFA、及びVVAのいずれかのレクチンから選択される少なくとも1つのレクチンである、請求項11に記載の方法。
  13. 肝硬変患者における予後を判定する方法であって、(1)〜(3)の工程を含む方法;
    (1)肝硬変患者である被験者の予後判定指数値(Bng/ml)を請求項10〜12のいずれか一項に記載の方法に従い算出する工程、
    (2)あらかじめ十分な母数の肝細胞がん未罹患肝硬変患者から採取された各体液試料に対し、工程(1)と同じ算出工程により、各々のWFA/VVA結合性糖鎖を含有するCSF1R量(Bn)と、各々の患者をフォローアップして得た累積生存率データと対比させて肝細胞がん患者予後の最適カットオフ値(Nng/ml)を算出する工程、
    (3)工程(1)で算出された予後判定指数値(Bng/ml)を(2)で算出された最適カットオフ値(Nng/ml)と比較して上回っている場合に被験者の被験者の予後が有意に悪いと判定し、最適カットオフ値未満であれば被験者の予後が有意に良いと判定する方法。
  14. 前記最適カットオフ値が310±100ng/mlの値である請求項13に記載の方法。
  15. WFA/VVA結合性糖鎖含有CSF1Rを検出又は定量するためのレクチン−抗体サンドイッチアッセイであって、
    WFA/VVAレクチンと、
    CSR-3、CSR-4、CSR-18、CSR-21、CSR-30、CSR-5、CSR-6、CSR-22、CSR-24、CSR-7、CSR-9、CSR-13、CSR-26、CSR-27、及びCSR-29抗体からなる群から選択される少なくとも1つの抗CSF1R抗体とを用い、(1)〜(3)の工程を含むアッセイ;
    (1)液相中で前記レクチン又は前記抗CSF1R抗体のいずれかと被検試料を接触させ、被検試料中のCSF1Rとの複合体を形成させる工程、
    (2)(1)で得られたレクチン又は抗体とのCSF1R複合体を、分離し、又は分離せずに他方が溶解もしくは分散されている検出用液相中で、他方とCSF1R複合体を結合させ、レクチン及び抗体でサンドイッチされたCSF1R複合体を得る工程、
    (3)(2)で得られたレクチン及び抗体サンドイッチCSF1R複合体量を検出又は定量する工程。
  16. WFA/VVAレクチンが、天然WFA、リコンビナントWFA、単量体リコンビナントWFA、及びVVAからなる群から選択される少なくとも1つのレクチンである、請求項15に記載のアッセイ。
  17. WFA/VVA結合性糖鎖含有CSF1Rを検出又は定量するためのレクチン−抗体サンドイッチアッセイ用キットであって、(1)及び(2)を含む、キット;
    (1)WFA/VVAレクチン、
    (2)CSR-3、CSR-4、CSR-18、CSR-21、CSR-30、CSR-5、CSR-6、CSR-22、CSR-24、CSR-7、CSR-9、CSR-13、CSR-26、CSR-27、及びCSR-29抗体からなる群から選択される少なくとも1つの抗CSF1R抗体。
  18. さらに、以下の(3)を含む、請求項17に記載のキット;
    (3)WFA/VVA結合性糖鎖含有CSF1R及び/又はWFA/VVA結合性糖鎖非含有CSF1Rからなる標準物質。
  19. WFA/VVAレクチンが、天然WFA、リコンビナントWFA、単量体リコンビナントWFA、及びVVAからなる群から選択される少なくとも1つのレクチンである、請求項18又は19に記載のキット。
  20. レクチン−抗体サンドイッチアッセイが、被験者由来の体液試料に適用し、体液試料中のWFA/VVA結合性糖鎖含有CSF1Rを検出又は定量するためのアッセイである、請求項17〜19のいずれか一項に記載のキット。
  21. CSR-3(国際受託番号:NITE BP-02117)、CSR-4(国際受託番号:NITE BP-02118)CSR-18(国際受託番号:NITE BP-02119)、CSR-21(国際受託番号:NITE BP-02120)、CSR-30(国際受託番号:NITE BP-02121)からなる群から選択されるいずれか1つのハイブリドーマから産生される抗CSF1R抗体又はその抗体結合性フラグメント。
  22. 肝硬変患者である被験者の肝細胞がん発症リスク値及び/又は予後判定値を算出するためのキットであって、(1)及び(2)のレクチンを含むことを特徴とするキット;
    (1)WFA/VVAレクチン、
    (2)CSF1R特異的レクチン。
  23. さらに、(3)を含むことを特徴とする請求項22に記載のキット;
    (3)抗CSF1R抗体又はその抗体結合性フラグメント。
  24. (1)のWFA/VVAレクチンが、天然WFA、リコンビナントWFA、単量体リコンビナントWFA、及びVVAからなる群から選択される少なくとも1つのレクチンであり、
    (2)のCSF1R特異的レクチンが、RCA120, DSA, PHA-E4、SNA、SSA、TJA-I、LEL、STL及びConAからなる群から選択される少なくとも1つのレクチンである,請求項22又は23に記載のキット。
  25. (1)又は(2)のレクチンのいずれか一方がWFA/VVA結合性糖鎖含有CSF1Rの捕捉用に設けられた固相に結合されており、かつ他方が検出用の液相に溶解又は分散されている、請求項22〜24のいずれか一項に記載のキット。
  26. (1)及び(2)のレクチンの両方が同一もしくは異なるレクチンアレイ上に結合している、請求項22〜24のいずれか一項に記載のキット。
  27. 肝硬変患者である被験者の肝細胞がん発症リスク及び/又は予後を判定するためのキットであって、(1)〜(3)を含むことを特徴とする判定用キット;
    (1)WFA/VVAレクチン、
    (2)CSF1R特異的レクチン。
    (3)抗CSF1R抗体又はその抗体結合性フラグメント。
  28. (1)のWFA/VVAレクチンが、天然WFA、リコンビナントWFA、単量体リコンビナントWFA、及びVVAからなる群から選択される少なくとも1つのレクチンであり、
    (2)のCSF1R特異的レクチンが、RCA120, DSA, PHA-E4、SNA、SSA、TJA-I、LEL、STL及びConAからなる群から選択される少なくとも1つのレクチンであり,及び
    (3)の抗CSF1R抗体が、CSR-3、CSR-4、CSR-18、CSR-21、CSR-30、CSR-5、CSR-6、CSR-22、CSR-24、CSR-7、CSR-9、CSR-13、CSR-26、CSR-27、及びCSR-29抗体からなる群から選択される少なくとも1つの抗CSF1R抗体である、請求項27に記載の判定用キット。
  29. 肝硬変患者である被験者の肝細胞がん発症リスク及び/又は予後を判定するための方法であって、(1)及び(2)の工程を含むことを特徴とする方法;
    (1)被験者由来の体液試料から抗CSF1R抗体を用いてCSF1Rタンパク質を分離精製する工程、
    (2)(1)で分離精製されたCSF1R上のWFA/VVA結合性糖鎖含有量及びCSF1R特異的糖鎖含有量を、測定する工程。
  30. 肝硬変患者である被験者の肝細胞がん発症リスク及び/又は予後を判定するための方法であって、(1)及び(2)の工程を含むことを特徴とする方法;
    (1)被験者由来の体液試料から天然WFA、リコンビナントWFA、単量体リコンビナントWFA、及びVVAからなる群から選択される少なくとも1つのレクチンを用いてWFA/VVA結合性糖鎖を含有する糖タンパク質を分離する工程、
    (2)(1)で分離精製されたWFA/VVA結合性糖鎖を含有する糖タンパク質から抗CSF1R抗体を用いてCSF1Rタンパク質を検出又は定量する工程、
    ここで、抗CSF1R抗体は、CSR-3、CSR-4、CSR-18、CSR-21、CSR-30、CSR-5、CSR-6、CSR-22、CSR-24、CSR-7、CSR-9、CSR-13、CSR-26、CSR-27、及びCSR-29抗体からなる群から選択される少なくとも1つの抗CSF1R抗体である。
  31. 肝硬変患者である被験者の肝細胞がん発症リスク及び/又は予後を判定するための方法であって、被験者由来の体液試料に対し、(1)及び(2)を用いたレクチン−抗体サンドイッチアッセイを行う工程を含むことを特徴とする方法;
    (1)WFA/VVAレクチン、
    (2)CSR-3、CSR-4、CSR-18、CSR-21、CSR-30、CSR-5、CSR-6、CSR-22、CSR-24、CSR-7、CSR-9、CSR-13、CSR-26、CSR-27、及びCSR-29抗体からなる群から選択される少なくとも1つの抗CSF1R抗体。
  32. 肝細胞がん未罹患肝硬変患者における肝細胞がん発症リスクを判定するための方法であって、(1)及び(2)の工程を含むことを特徴とする方法;
    (1)肝細胞がん未罹患肝硬変患者である被験者から採取された体液試料中のWFA/VVA結合性糖鎖を含有するCSF1R量、及び全CSF1R量を測定する工程、
    (2)(1)で得られた測定値をもとに、全CSF1Rに占めるWFA/VVA結合性糖鎖を有するCSF1R量の比率を算出する工程、
    (3)あらかじめ十分な母数の肝細胞がん未罹患肝硬変患者から採取された体液試料に対し、前記(1)及び(2)と同じ工程により、全CSF1Rに占めるWFA/VVA結合性糖鎖を有するCSF1R量の比率を全患者についてそれぞれ算出する工程、
    (4)(3)で用いた全患者をフォローアップして得た発がん率データに基づいて最適カットオフ値を算出する工程、
    (5)(2)で算出された被験者の比率の値を(4)で算出された最適カットオフ値と比較して上回っている場合に肝細胞がん発症リスクが高いと判定する方法。
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